セクハラ・パワハラの問題

2015年04月30日 09:14

セクハラ・パワハラの考察

◇1 セクシャル・ハラスメント

 ハラスメント:苦しめること、悩ませること、迷惑  転じて、嫌がらせ、いじめの意 

 セクハラが社会問題化して既に久しいですが、今回少しセクハラ(パワハラを含め)考察してみます。ところで、均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律(昭和47年7月1日法律第113号))によるセクハラの規定は、次の様になっています。

○セクハラの定義、事業主の措置義務

均等法第11条第1号 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 この場合、職場におけるセクシャルハラスメントには、同性に対するものも含まれると解されています。

 厚生労働省は、セクハラ防止に関するパンフレットを作成していますので、その内容から上記のセクハラの定義を少し詳しくみてみます。

ア 均等法第11条第1号の「職場」とは

 事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれること

 職場の例として、「取引先の事務所」「取引先と打ち合わせをするための飲食店(接待の席も含む)」「顧客の自宅」「取引先」「出張先」「業務で使用する車中」等が挙げられるとしています。

 なお、勤務時間外の「宴会」などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当するが、その判断に当たっては、職場との関連性、参加者、参加が強制か任意かといったことを考慮して個別に行う、としています。

イ 不利益を受ける「労働者」とは

 正規労働者のみならず。パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規労働者を含む、事業主が雇用する労働者のすべてをいう

 また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同時に、措置を講ずる必要があるとしています。

ウ 「性的な言動」とは

 性的な内容の発言および性的な行動を指す

 事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒などもセクシャルハラスメントの行為者になり得るものであり、女性労働者が女性労働者に対して行う場合や、男性労働者が男性労働者に対して行う場合についても含まれる、とされています。

 性的な言動の例として、a性的な内容の発言「性的な事実関係を尋ねること」「性的な内容の情報(噂)を流布すること」「性的な冗談やからかい」「食事やデートへの執拗な誘い」「個人的な性的体験談を話すこと」など、b性的な行動「性的な関係を強要すること」「必要なく身体へ接触すること」「わいせつ図画を配布・掲示すること」「強制わいせつ行為」「強姦」など

 ※刑事犯と認定されかねない内容を含んでいます。わいせつ図画の配布(刑法第175条)、身体への接触(都道府県迷惑防止条例(チカン行為))、強制わいせつ(刑法第176条)、強姦(刑法第177条、第178条、第178条の2)、性的な関係の強要(刑法第223条)、性的なうわさの流布=名誉毀損(刑法第230条)等

エ 対価型と環境型、セクシャルハラスメント

(ア)対価型

  労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇給の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること

 典型的な例として、

「事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること」※労働契約法第16条、第17条 民法第709条

「出張中の車中において上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をすること」※民法第709条、民法第90条

「営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること」 ※民法第709条、民法第90条、刑法第230条

 等が該当するとしています。

(イ)環境型

  労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること

 典型的な例として、

「事務所内において上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること」民法第709条

「同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと」刑法第230条、民法第709条

「事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと」

オ セクシャルハラスメントの判断基準

 判断に当たり個別の状況を斟酌する必要があること。また、「労働者の意に反する性的な言動」および「就業環境を害される」の判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となると一定の客観性が必要であること

 一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得ること。継続性または繰り返しが要件となるものであっても、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境が害されていると判断し得ること。また、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害をうけた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であること。

 ※上記の判断基準は、判断基準としては具体的な基準を示していないものであり、個別のケースの判決の理由を考察することで、類推して判断する方法が最適かと思います。

○セクハラ裁判の事例

ア 平成6年(ワ)89 前橋地裁判決 労働者一部勝訴

事件の経緯:原告は平成5年7月当事46歳の女性で群馬県A村立幼稚園(以下「本園」という。)の主任教諭であった。被告は当事60歳の男性であり、平成5年4月1日付けで嘱託として本園の園長に就任した。平成5年7月13日、原告が帰宅しようとしたところ、被告が原告に更衣室で抱きついてきたり(以下「本件行為」という。)、その後も勤務中、近づいてきたり一緒に山に行こうなど誘ったりしたため、原告はこのような被告の態度に嫌悪感を強く感じ2人きりにならないよう神経を使わざるを得なくなり、同年11月には不眠症に悩まされるといった健康上の障害は発生するに至った。

 そこで、同年11月26日、原告は教育長に訴え、聞き取り調査が行われたが、被告は原告が嘘をついていると主張、話は平行線を辿った。そのため、原告は被告からその意に反して本件行為がなされたことや上司の地位を利用して不当な要求をされたとして右行為は原告の人格権および労働権を侵害する不法行為に該当するとして、金100万円の慰謝料の支払を求めて、提訴した。

判決理由:本件行為は、その行われた場所・状況・時期等を考慮すると、被告から原告に対する単なる儀礼的若しくは社交的範囲を越えた性的行為と解せられ、両者の年齢、職場における地位、家庭関係(双方とも配偶者を有する。)及び原告の了解がないこと等を勘案すると、原告の人格権を侵害する不法行為に当たると認められる。原告が本件行為によって被った損害について検討する。原告が本件行為後にこれに対する精神的苦痛を明確に意識し、身体の不調を感じるまでの間には約3か月の時間が経過していることが認められ、また、本件全証拠によるも、原告が被告の誘いを拒否したことを理由に、被告がその職務権限を利用して、原告に対し職務遂行上不利益を与えたり、労働環境を悪化させるような具体的な措置を取ったり行動に出たことを認めることはできず、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告に対する慰謝料は、金10万円が相当であると判断する。

※人格権:人が社会生活上有する人格的利益を目的とする利益をいい、財産権と対比される。民法は身体、自由、名誉を侵害したときは不法行為が成立すると規定する(710条)が、このほか生命、貞操、信用、氏名などにも人格権が認められる。(出典ブリタニカ辞典)

民法第710条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

イ 平成2年 静岡地裁判決 原告一部勝訴

事件の経緯:昭和62年11月中の夜、被告(原告の上司)は原告を食事に誘い、原告が被告の要求を拒んだにも関わらず、原告の腰の辺りに手を触れるなどした、そのうえ被告は、キスをさせなければモーテルに行くと原告を脅迫し、ついには原告を屈服させ、執拗にキスを繰り返した。原告は、上記行為の為非常な打撃を受けて身体の不調をきたし、思い切って他の従業員に相談したところ噂が広まり、被告の下で働くことに耐えられなくなり、昭和63年1月末で退職するに至った。原告は、以上のような強制わいせつ行為により性的自由を侵害されたうえ、意に反して退職することを余儀なくされたことにより、性的自由、人格的尊厳及び働き続ける権利を侵害され、回復困難な精神的苦痛を被ったものであるとして、民法第709条を根拠として500万円の慰謝料及び99万円の弁護士費用の支払を求め、静岡地方裁判所沼津支部に提訴した。

判決理由:被告は、一方的に原告の腰の辺りに手を触れるなどしたうえ、原告には被告の要求に応じる意思が全然ないのに、原告にキスをしたもので、この被告の行為は、その性質、態様、手段、方法などからいって、民法709条の不法行為にあたることがあきらかである。原告は、その意に反して被告にキスをされ、生理的不快感、被告の要求に返答のしようがなく黙っていたのにこれを承諾したものととられたくやしさ及び人格を無視された屈辱感を覚えさせられたこと、原告は、これにより精神的衝撃を受け、当日から食欲不振、不眠、口の中の不快感などの身体的変調をきたし、口の中の不快感は現在まで続いていること、本件以後の毎日生理的嫌悪感を感じる被告を上司とする職場で働かなくてはならず、他の従業員にも事件を知られ、中には興味本位な言動をとる者もあり、原告にとって辛い職場環境となってしまったこと、原告は当時の勤務先を退職せざるをえなくなったこと、被告には自己の非を認めて謝罪する態度がまったく見られず、これについても原告は憤りを覚えていること以上の事実が認められるので、原告は被告の前記不法行為により少なからざる精神的損害を蒙(コウム)ったということができる。原告の受けた精神的苦痛の内容、程度につき当時者間に争いのない事実、とりわけ、被告の加害行為の内容、態様、被告が職場の上司であるとの地位を使用して本件の機会を作ったこと、被告の一連の行動は、女性を単なる快楽、遊びの対象としか考えず、人格を持った人間として見ていないことのあらわれであることがうかがわれ、このことが原告にとってみれば日時が経過しても精神的苦痛。憤りが軽減されない原因となっていること並びにその他の本件にあらわれた諸般の事情を総合すれば、原告の精神的損害に対する慰謝料の額は100万円が相当と認める。弁護士費用については、事実の難易、請求権、認容額、その他の諸事情を斟酌して10万円が相当と判断し、その他の請求は棄却する。

主文 一 被告は、原告に対し、金110万円及び、内金100万円に対する昭和62年11月30日から、内金10万円に対する平成2年9月20日からそれぞれ支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   二 原告のその余の請求を棄却する。

   三 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の負担とし、その1を被告の負担とする。

   四 この判決は、第1項にかぎり、仮に執行することができる。

※判決内容は、原告の主張をかなり認めたものと推測しますが、主文をみると原告の落ち度も認定していると想像します。そもそも、二人きりで食事に行けば、被告に誤解を与える可能性がかなり高いと推測します。

 なお、この裁判に被告が出廷しなかったため、原告の主張とおりに認定がされました。

ウ 平成27年2月26日 最高裁第一小法定判決 海遊館事件 

 上告人は水族館 被上告人はセクハラ行為による被処分労働者

事件の概要(原審が確定した事実) 抜粋

a 上告人は、水族館の経営等を目的とする株式会社であり、大阪市が出資するいわゆる第三セクターとして、同市港区に所在する水族館(以下「本件水族館」という。)及びこれに隣接する商業施設の運営を行っている。

b 平成23年当時、上告人の従業員(管理職、正社員、派遣社員等を問わず、上告人の事業所において勤務する者をいう、以下同じ。)の過半数は女性であり、本件水族館の来館者も約6割が女性であった。また、上告人は、職場におけるセクハラの防止を重要課題として位置付け、かねてからセクハラの防止に等に関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし、平成22年11月1日には「セクシャルハラスメントは許しません!!」と題する文書(以下「セクハラ禁止文書」という。)を作成して従業員に配布し、職場にも掲示するなど、セクハラの防止のための種々の取組を行っていた。

c セクハラ禁止文書には、禁止行為として「①性的な冗談、からかい、質問」、「③その他、他人に不快感を与える性的な言動」、「⑤身体への不必要な接触」、「⑥性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ、能力を阻害する行為」等が列挙され、これらの行為が就業規則4条(5)の禁止する「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に含まれることや、セクハラ行為者に対しては、行為の具体的態様(時間、場所(職場か否か)、内容、程度)、当時者同士の関係(職位等)、被害者の対応(告訴等)、心身等を総合的に判断して処分を決定することなどが記載されていた。上告人において、セクハラ禁止文書は、就業規則4条(5)に該当するセクハラ行為の内容を明確にするものと位置付けられていた。

d 前記2(5)のとおり被上告人らは本件各行為を現に行ったものと認められるところ、被上告人らがこれらの行為を行ったことは、セクハラ禁止文書の禁止するセクハラ行為など会社の秩序又は職場規律を乱すもの(就業規則4条(5)に当たり、会社の服務規律にしばしば違反したものとして、出勤停止等の懲戒事由(就業規則46条3)に該当する。

e しかし、被上告人らが、従業員Aから明確な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されると誤認していたことや、被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく、本件行為について上告人から事前に警告や注意等を受けていなかったことなどを考慮すると、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは酷に過ぎるというべきであり、上告人が被上告人らに対してした本件行為を懲戒事由とする各出勤処分は、その対象となる行為の性質、態様等に照らして重きに失し、社会通念上相当とは認められず、権利の濫用として無効であり、上記各処分を受けたことを理由としてされた各降格もまた無効である。

f 本件各行為の内容についてみるに、被上告人X1は、営業部サービスチームの責任者の立場にありながら、別紙1のとおり、従業員Aが精算室において1人で勤務している際に、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等について殊更に具体的な話をするなど、極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり、また、被上告人X2は、前記2(5)のとおり上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず、別紙2にとおり、従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮辱的ないし下品な言辞(ゲンジ)で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように、同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し、被上告人らが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。

g しかも、上告人においては、職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり、被上告人らは、上記の研修を受けていただけでなく、上告人の管理職として上記のような上告人の方針や取組を十分に理解し、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、派遣労働者等の立場にある従業員らに対し、職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返していたものであって、その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。

h そして、従業員Aは、被上告人らのこのような本件各行為が一因となって、本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり、管理職である被上告人らが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等が上告人の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。

i 原告は、被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうしょしたりすることが少なくないと考えられることや、上記(1)のような本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても、そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。

別紙1 被上告人X1の行為一覧表  

 ※被上告人X1 平成3年入社 営業部サービスチーム マネージャー(課長代理)

1 被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している歳、同人に対し、複数回、自らの不貞相手と称する女性(以下、単に「不貞相手」という。)の年齢(20代や30代)や職業(主婦や看護師等)の話をし、不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。

2 被上告人X1は、平成23年秋頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と言った。

3 被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」、「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから、」と言った。

4 被上告人X1は、平成23年12月下旬、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手の話をした後、「こんな話をできるのも、あとちょっとやな。寂しくなるわ。」などと言った。

5 被上告人X1は、平成23年11月頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手が自動車で来ていたという話をする中で、「この前、カー何々してん。」と言い、従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。

6 被上告人X1は、平成23年12月、従業員Aに対し、不貞相手からの「旦那にメールを見られた。」との内容の携帯電話のメールを見せた。

7 被報告人X1は、休憩室において、従業員Aに対し、被上告人X1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。

8 被上告人X1は、従業員Aもいた休憩室において、本件水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ・・・。」、「かがんで中見えたんラッキー。」、「好みの人がいたなあ。」などと言った。

 この表をみると、男女別、年齢により受け止め方が異なると思います。個人的に選別すると、1・2・3・5は不法行為に該当、8は女性蔑視の意識が顕著で、女性にとっては明らかに不快、4・6・7は、さほど問題だとは思えないとなります。もちろん、言動の継続性、加害者の表情・話し方・意図等により、就業業環境が害される可能性は否定できません。

別紙2 被上告人X2の行為一覧表

 ※被上告人X2は、平成4年に入社、営業部課長代理

1 被上告人X2は、平成22年11月、従業員Aに対し、「いくつになったん。」、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの、親泣くで。」と言った。

2 被上告人X2は、平成23年7月頃、従業員Aに対し、「30歳は、二十二、三際の子からみたら、おばさんやで。」、「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」、「精算室に従業員Aさんが来た時は22際やろ。もう30歳になったんやから、あかんな。」などという発言を繰り返した。

3 被上告人X2は、平成23年12月下旬、従業員Aに対し、Cもいた精算室内で、「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ。」と言った。

4 被上告人X2は、平成22年11月以後、従業員Aに対し、「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」、「お給料全部使うんやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで、したらええやねん。」、「実家にすんでるからそんなん言えるねん、独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう。」などと繰り返した。

5 被上告人X2は、平成22年秋ころ、従業員A及び従業員Bに対し、具体的な男性社員の名前を複数挙げて、「この中で誰か一人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ。」、地球に2人しかいなかったらどうする。」と聞いた。

6 被上告人X2は、セクハラに関する研修を受けた後、「あんなん言ってたら女のことしゃべられへんよあ。」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているや。」とう趣旨の発言をした。

 X1と同様にX2の行為を峻別すると、1・2・3・4は不法行為に該当する可能性大、5・6は、状況により職場環境が害される可能性が否定できないと推測します。

従業員A:昭和56年生まれ、売上管理担等担当の女性派遣労働者。なお、精算室は営業部の事務室の一部を壁で仕切ったもの

 本事例が、最高裁判所で改めてセクハラ事案と認定された理由を見ていただく為に、あえて、原文のほとんどを記述しました。最初は、からかい半分で女性の従業員Aに関わっていた、上司のX1及びX2は次第にからかいの度合いがエスカレートして行き、ついには従業員Aの受忍限度を超えてしまい退職に追い込んでしまった経緯がわかります。本件では、会社が行ったX1及びX2に対する処分の正当性が争点でしたが、意に反して職場を退職して行った従業員Aの無念さが伺えると思います。

◇2 パワーハラスメント

○パワーハラスメントの定義、概念

 職場のパワーハラスメントとは、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいうとされています。

 この判断基準として重要なのは、「業務の適正な範囲内」か否かであり、具体的な判断基準は個別に判断せざるを得ませんが、やはり対象者の受忍限度がひとつの目安であると考えます。うつ病の発症や自殺まで追い込まれてしまう場合には、当然に業務の適正な範囲を逸脱していると判断されます。

パワハラは、次の6つの類型に区分されるとのことです。

①身体的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、➃過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)、⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入る) ※以上は、考え方次第では解雇されるよりも酷い扱いと言えます。

○パワハラの裁判事例 

※新入社員へのパワハラ、自殺、遺族の損害賠償訴訟 裁判所及び判決年月日等省略

本事例は、新入社員に不当なかつ執拗な叱責を繰り返し自殺に追い込んだもので、パワハラが最悪の結果を招いた事件です。

・事案の概要

 原告は、亡dの父であり、dは被告会社a(以下「被告会社」という。)に勤務し、被告bはdの上司であった。

 本件は、dが自殺したのは、被告b及び被告cのパワーハラスメント、被告会社による加重な心理的負担を強いる業務体制等によるものであるとして、原告が被告らに対し、被告b及び被告cに対しては不法行為責任、被告会社に対して主位的には不法行為責任、予備的には債務不履行責任に基づき、損害金1億1121万8429円及びこれに対するdが死亡した日である平成22年12月6日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

・主文 1 被告a会社及び被告bは、原告に対し、連帯して7261万2557円及びこれに対する平成22年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

・判決文抜粋

「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」、「詐欺と同じ、3万円を泥棒したのと同じ」、「毎日同じことを言う気分にもなれ」、「わがまま」、「申し訳ない気持ちがあれば変わっているはず」、「待っていた時間が無駄になった」、「聞き間違いが多すぎる」、「耳が遠いんじゃないか」、「嘘をつくような奴に点検をまかせられるわけがない。」、「点検もしていないのに自分をよくみせようとしている」「人の話をきかずに行動、動くのがのろい」「相手するだけ時間の無駄」「指示が全く聞けない、そんなことを直さないで信用できるか。」「何で自分が怒られているのかすらわかっていない」「反省しているふりをしているだけ」、「嘘を平気でつく、そんなやつが会社に要るか」「嘘をついたのに悪気もない。」「根本的に心を入れ替えれば」、「会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキ作れば、店でも出せば、どうせ働きたくないんだろう」「いつまでも甘甘、学生気分はさっさと捨てろ」「死んでしまえばいい」、「辞めればいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」

 これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、dの人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントと言わざるを得ず、不法行為に当たると認められる。なお、被告bがdに対して暴行を振るったことに沿う証拠はない。

 

以上で、セクハラ・パワハラの考察を終了します。

打ち間違いは徐々に訂正するとして、次回は「年休とは何か?」について記述します。

 

セクハラ・パワハラ