パートタイム労働法第10条
2015年05月26日 15:15
短時間労働者の雇用の管理の改善等に関する法律
第10条(賃金)
事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間労働者(通常の労働者と同視すべき短時間労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金(通勤手当、退職手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。
則第3条(法第十条の厚生労働省令で定める賃金)
法第十条の厚生労働省令で定める賃金は、次に掲げるものとする。
一 通勤手当(職務の内容(法第八条に規定する職務の内容をいう。以下同じ。)に密接に関連して支払われるものを除く。)
二 退職手当
三 家族手当
四 住宅手当
五 別居手当
六 子女教育手当
七 前各号に掲げるもののほか、名称の如何を問わず支払われる賃金のうち職務の内容に密接に関連して支払われるもの以外のもの
○通達による確認(平成26年通達)
・賃金(法第10条関係)
(1) 法第10条については、法第9条の対象となる短時間労働者以外のすべての短時間労働者が対象となるものである。これは、短時間労働者が勤続年数を重ねてもほとんど賃金に反映されないことや昇給が最低賃金の改定に応じて決定されるなど、働きや貢献とは関係のない要素で賃金が決定されることが多いことから、職務の内容、成果等に応じて賃金を決定するよう努めることとしたものであること。
その対象となる賃金は、基本給、賞与、役付手当等の勤務手当及び精皆勤手当など職務の内容に密接に関連して支払われる賃金であり、通勤手当(職務の内容に密接に関連して支払われるものを除く。)、退職手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当その他名称の如何を問わず、職務の内容と密接な関連を有する賃金(以下「職務関連賃金」という。)以外の賃金については、本条の対象外となるものであること(則第3条)。
なお、通勤手当について、則第3条第1号括弧書中の「職務の内容に密接に関連して支払われるもの」については、現実に通勤に要する交通費等の費用の有無や金額如何にかかわらず、一律の金額が支払われている場合など、名称は「通勤手当」であるが、実態としては基本給などの職務関連賃金の一部として支払われているものが該当するものであること。
なお、手当について職務関連賃金に該当するかを判断するに当たっては、通勤手当以外についても、名称のみならず、支払い方法、支払いの基準等実態を見て判断する必要があるものであること。例えば、家族手当について家族の有無にかかわらず、一律に支払われている場合については、名称は「家族手当」であっても職務関連賃金の一部となっている可能性があること。
(2) 「短時間労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し」とは、短時間労働者がその働き・貢献に見合った賃金決定がなされるよう、働き・貢献を評価する要素である職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験等を勘案要素の例示として挙げているものであること。これらの要素のうち、どの要素によることとするかは各企業の判断に委ねられるものであるが、その勘案については、法第14条第2項に基づく説明を求められることを念頭に、どの要素によることとしたのか、また、その要素をどのように勘案しているのかについて合理的な説明ができるものとされるべきであること。
「職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等」を勘案した措置の例としては、職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を踏まえた①賃金水準の見直し、②昇給・昇格制度や成績等の考課制度の整備、③職務手当、役職手当、成果手当の支給等が考えられること。例えば、職務の内容を勘案する場合、責任の重さや業務の困難度で賃金等級に差を設けることなどが考えられるが、本条の趣旨は、この措置の結果として短時間労働者の集団の中で賃金の差を生じさせることにあるのではなく、職務の内容、職務の成果等を適切に賃金に反映させることにより、結果として通常の労働者の待遇との均衡を図っていくことにある点に留意すべきであること。
なお、「経験等」の「等」としては、例えば、勤続年数が考えられること。
(3) 「通常の労働者との均衡を考慮しつつ」とは、短時間労働者と職務の内容が同一である通常の労働者だけでなく、職務の内容が異なる通常の労働者との均衡も考慮することを指しているものであること。具体的には、通常の労働者の賃金決定に当たっての勘案要素を踏まえ、例えば職務の内容が同一の通常の労働者の賃金が経験に応じて上昇する決定方法となっているならば、短時間労働者についても経験を考慮して賃金決定を行うこととする等、「職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等」に応じた待遇に係る措置等を講ずることになること。
(4) 法第10条の措置を講ずる時期については、通常の労働者の定期昇給や賃金表の改定に合わせて実施すること等が考えられるが、例えば、期間の定めのある労働契約を締結している場合においては、当該契約を改定する際又は更新する際に、あわせて賃金の決定方法について均衡を考慮したものとなるよう見直すことも考えられるものであること。
(5) 本条に定めるもののほか、指針の定めに従い、退職金その他の手当についても、短時間労働者の就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮した取扱いをするように努める必要があること(11(5)イ(ロ)参照)。
○労働条件のうち、賃金の重要性ほか
平成27年通達により「法第10条については、法第9条の対象となる短時間労働者以外のすべての短時間労働者が対象となるものである。」とされています。
従って、通常の労働者と同視できる場合以外の短時間労働者の賃金を通常の労働者との均衡を考慮して決めなければならいとしています。ただし、通常の労働者と均衡を図るべき賃金の中には、「職務の内容に密接に関連して支払われるもの以外のもの(通勤手当、退職手当、家族手当等)」は除外します。
そして、本法第10条にいう短時間労働者には通常の労働者と同一視できる短時間労働者は含まれないとされます。その理由は、通常の労働者と同一視できる短時間労働者については、賃金を含めた広範囲の労働条件の均衡を図るべき旨を第9条により定められているからです。
そこで、労働条件のうち賃金について考察します。
ア 裁判例による賃金の意義
① 昭和49年 (ワ) 623
歩合給といえども、その実質に鑑み、労働基準法上の賃金に該当するものというべきであり、しかも、それがいわゆる基本給の額との関係において賃金全体に対して影響を有するものと認められる場合には、雇傭契約関係終了の理由如何にかかわらず、その時点において、本来これを調整する余地を残すものとみられるところであるから、かかる給与の構成下にある社員が、売買契約を締結させた後その入金前に退職した場合にあっても、それを基礎として、後、他の社員により登記の完了、代金の入金を了するに至ったような場合には、特段の事情のない限り、退職社員によってなされた顧客の発見、交渉、現地案内、契約締結等のすでになされた労務の提供という事実を、労働の対償としての賃金額に反映、評価するのが公平であり、従って提供された労務が、その契約についての入金完了までに要する全労務に対する割合等に応じて、歩合給を請求することができるものと解するのが相当である。
※民法上の賃金債権の発生時点は、労務の提供が完了した時点で発生します。つまり、労働者が賃金の請求をできる単位は、1日・1週・1月等の決められた単位ではなく、1分・1時間等のごく一部の労務の提供であっても、既にその労務の提供が完了した時点で賃金請求権が発生しています。ただし、実際に賃金を請求できるのは賃金計算期間ごとにその応答する賃金支払日以降(労働基準法第23条及び第25条の場合を除く)に限られます。
② 昭和53年 (ワ) 8938
従業員は、労働契約により従業員としての一般的な地位を取得すると共に所定の労働力を使用者の下に提供して就労することを義務づけられ、これに対し使用者は「労働の対償」としての賃金を支払うこととなる。そして、現実に支払われている賃金をみてみると、日々の労働の提供に対応して交換的に支払われる部分(以下、交換的部分の賃金という)と生活保障的に従業員の地位に対して支払われる部分(以下、生活保障的部分の賃金という)とに大分され、ストライキによって控除し得る賃金は、労働協約等に別段の定めがある場合のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる交換的部分の賃金としての性格を有するものに限られると解されることは、つとに指摘されるところである。
※賃金は、基本給と支給理由別の諸手当に区分されます。そして、本法第10条で均衡を図るべき賃金は、則第3条で規定しているように、職務の内容に密接に関係して支払われる賃金に限られます。
イ まとめ
労働条件のうち、賃金は最も重要なものです。過去にすでに記述していますが、労働とは、労働者が使用者に対し労務を売っていることであり、使用者は労働契約に基づいた単価で個別の労働者が提供する労務(労働)を買取ります。言い換えると、賃金は労働者にとって労働契約の本旨である債権ですから、労働契約上の最も重要な事項です。
そこで、同じ労務の提供であれば、同じ賃金単価であるべきだとする考え方が本法第10条の趣旨ですが、例えば、入社したばかりの正社員とベテラン短時間労働者では、提供する労務の質は後者の方が高いと思われますが、賃金単価はむしろ前者の方が高いと思われます。これは一見不合理ですが、その理由としては、正社員は幹部候補生として将来の期待値の賃金前払い部分が含まれること、正社員は時間外労働が一般的であり、実際には短時間労働者が行っている業務以外の業務を負担していることなどがその理由です。
このように、労働条件のうち最も重要な労働条件である賃金は、短時間労働者と通常の労働者間で一見不合理な格差がある場合であっても、総合的に勘案すれば一定の合理性が認められる場合があります。そのため、本条第10条の短時間労働者と通常の労働者間の賃金格差の是正措置は、事業主の努力義務とされています。日本の雇用慣習から、仮に合理的であるにしても急激な賃金制度の変更は、様々な支障が起きる恐れがあることに配慮したものと思います。
以上でパートタイム労働法第10条を終了します。
パート労働法第10条