2015年05月24日 17:06
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
第9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)
事業主は、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(以下「職務内容同一短時間労働者」という。)であって、当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(以下「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。
2 前項の期間の定めのない労働契約には、反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約を含むものとする。
○パートタイム労働法(この項目では「本法」といいます。)第9条の条文分析
法第9条は、長文のため意味がわかりにくい面があります。そこでまず通達を確認する前に、条文の分解分析を行います。
① 事業主は
法第9条の趣旨は、「事業主は、通常の労働者と同視できる短時間労働者について差別的取扱い」をしてはならないこと
② 事業主が、差別的取扱いをしてはならない前提条件
ア 業務の内容及びその業務に伴う責任の程度が通常の労働者と同一の短時間労働者が対象
イ アの短時間労働者のうち期間の定めがない労働契約を締結している短時間労働者に限られること
ただし、第2項の規定により「反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することができる短時間労働者」が含まれる
ウ アかつイの短時間労働者のうち、その職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれる短時間労働者に限り
エ ア~ウの前提を踏まえ短時間労働者であることを理由として、差別的取扱いをしてはならない。
③ 比較対象となる通常の労働者とは(本法第2条)
「通常の労働者」とは、その業務に従事する者の中にいわゆる正規型の労働者がいる場合は、当該正規型の労働者であるが、当該業務に従事する者の中にいわゆる正規型の労働者がいない場合については、当該業務に基幹的に従事するフルタイム労働者(以下「フルタイムの基幹的労働者」という。)が法の趣旨に鑑みれば通常と考えられることから、この者が「通常の労働者」となる。
➃ 差別的取扱いをしてはならない内容
ア 賃金の決定
イ 教育訓練の実施
ウ 福利厚生施設の利用
エ その他の待遇
以上をまとめると、本法第9条の規定から「事業主が差別的取扱いをしてはならない短時間労働者」とは、いわゆる短時間正社員や人事異動の対象となる準社員、一部の嘱託社員等に限られると思われます。
従って、多くの割合を占める「有期労働契約を締結し、職務の内容及び配置の変更の範囲が明らかに通常の労働者と異なる」いわゆる「パートタイム労働者」は、本条の対象外であると考えられます。また、フルタイムの基幹労働者と短時間労働者(パートタイム労働者)のみの事業場においては、殆どの労働者が低賃金で就労している場合でも、本条の適用を受けないこととなります。※フルタイム基幹労働者を含めすべての労働者が低賃金であれば、「差別的取扱いに該当しない」ため。
景気回復とデフレ解消がなされた現在、この点については最低賃金の順次の上方改訂を待つしか手立てがありません。ただし、業種によっては長時間の待機時間が存在する業種(タクシー業等)があり、最低賃金法の見直しを含めて検討が必要です。言い換えると、労働時間と判断されている待機時間等のすべてについて、通常の最低賃金の適用を受けてしまうと、使用者に対し著しいコスト増を強いる現状があります。実際上は、労働時間と休憩時間の中間の位置付けの拘束時間が存在し、その全てに通常の最低賃金を適用することの方がむしろ不合理だと思料する次第です。もちろん、待機時間等をすべて無給とすることは出来ません。
また、労働契約法第20条・パートタイム労働法の規定の双方とも、同一労働・同一待遇の義務付けを行っているとは言えない点にも留意すべきかと思います。つまり、非正規労働者であっていわゆる正規労働者と同一の業務に従事していたり、同一の責任を有していると判断できる場合(正規労働者と同一視できる場合)でも、その非正規労働者が使用者に対し「正社員に転換を請求できる権利」を有している訳ではありません。
※労働契約法第19条は、継続5年超の有期労働契約労働者の無期労働契約への転換請求権を定めているに過ぎません。
○通達の内容確認(平成26年通達)
・通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止(法第9条関係)
(1) 短時間労働者の職務の内容や人材活用の仕組み、運用等といった就業の実態が通常の労働者と同様であるにもかかわらず賃金などの取扱いが異なるなど、短時間労働者の待遇は就業の実態に見合った公正なものとなっていない場合がある。就業の実態が通常の労働者と同じ短時間労働者については、すべての待遇について通常の労働者と同じ取扱いがなされるべきであり、法第9条において、そのような場合の差別的取扱いの禁止を規定したものであること。
(2) 法第9条は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(以下「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならないものとしたものであること。
(3) 法第9条の判断に当たっては、具体的には、以下のイ及びロの事項について、(4)から(9)により行うこととなること。
イ 職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一であること。
ロ 人材活用の仕組み、運用等が、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、当該事業所に雇用される通常の労働者と同一であること。
(4) (3)イの「職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一であること」とは、その業務の内容や当該業務に伴う責任の程度が同一であるかを判断することとなる。その判断に当たっては、第1の3の(2)ロに従い行うものであること。
(5) (3)ロの「人材活用の仕組み、運用等が、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、当該事業所に雇用される通常の労働者と同一であること」とは、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるものであることであり、職務の内容や配置が将来にわたって通常の労働者と同じように変化するかについて判断することとなるものであること。これは、我が国における雇用管理が長期的な人材育成を前提になされていることが多い現状にかんがみ、差別的取扱いの禁止の規定の適用に当たっては、ある一時点において短時間労働者と通常の労働者が従事する職務が同じかどうかだけでなく、長期的な人材活用の仕組み、運用等についてもその同一性を判断する必要があるためであること。具体的には、第1の3(2)ハで示したとおり同一であるかどうかを判断するものであること。
(6) 「当該事業所における慣行」とは、当該事業所において繰り返し行われることによって定着している人事異動等の態様を指すものであり、「その他の事情」とは、例えば人事規程等により明文化されたものや当該企業において、当該事業所以外に複数事業所がある場合の他の事業所における慣行等が含まれるものであること。
なお、ここでいう「その他の事情」とは、人材活用の仕組み、運用等を判断するに当たって、当該事業所における「慣行」と同じと考えられるべきものを指すものであり、短時間労働者と通常の労働者の待遇の相違の不合理性を判断する考慮要素としての法第8条の「その他の事情」とは異なるものであること。
(7) 「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間」とは、当該短時間労働者が通常の労働者と職務の内容が同一となり、かつ、人材活用の仕組み、運用等が通常の労働者と同一となってから雇用関係が終了するまでの間であること。すなわち、事業所に雇い入れられた後、上記要件を満たすまでの間に通常の労働者と職務の内容が異なり、また、人材活用の仕組み、運用等が通常の労働者と異なっていた期間があっても、その期間まで「全期間」に含めるものではなく、同一となった時点から将来に向かって判断するものであること。
(8) 「見込まれる」とは、将来の見込みも含めて判断されるものであること。したがって、期間の定めのある労働契約を締結している者の場合にあっては、労働契約が更新されることが未定の段階であっても、更新をした場合にはどのような扱いがされるかということを含めて判断されるものであること。
(9) 法第9条の要件を満たした場合については、事業主は短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用のほか、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等労働時間以外のすべての待遇について差別的取扱いをしてはならないものであること。
この場合、待遇の取扱いが同じであっても、個々の労働者について査定や業績評価等を行うに当たり、意欲、能力、経験、成果等を勘案することにより個々の労働者の賃金水準が異なることは、通常の労働者間であっても生じうることであって問題とはならないが、当然、当該査定や業績評価は客観的に行われるべきであること。また、労働時間が短いことに比例した取扱いの差異として、査定や業績評価が同じである場合であっても賃金が時間比例分少ないといった合理的な差異は許容されることは、言うまでもないこと。
なお、経営上の理由により解雇を行う場合には、解雇対象の選定が妥当である必要があるが、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、労働時間が短いことのみをもって通常の労働者より先に解雇する場合には、解雇対象者の選定基準の設定において差別的取扱いがなされていることとなり、法第9条違反となるものであること。
○裁判例による短時間労働者に該当しているか否かの判断例
法第8条で参考にした裁判例の判決理由から、短時間労働者と同一視できる場合の判断例を確認します。
1. 平成18年(ワ)3346 京都地裁判決 判決文抜粋
一般職員については事実上,教員免許,社会教育主事等の資格を有している者を採用していること,一般職員は職務ローテーション(終身雇用を前提とする職場においては,オンザジョブトレーニング[OJT]によって組織全体の職務を把握しながら管理職員として処遇されていくために,職務ローテーションを伴うことが多い。)を実施しており,異なった業務に就くことがあること,被告に対する苦情対応については,嘱託職員が行うのではなく,一般職員が引き継ぎを受けた事後の責任ある処理をすることとされているなど責任の度合いが異なること,一般職員には自らのスキルアップのために一旦退職をして大学等で学んだ後に必ず再雇用するといった保障があるわけではないこと,これに対して,原告の勤務内容は相談員としての相談業務及びこれに関連する業務を中心とするものであり,雇用期間を1年間とする契約を締結し同旨の契約を更新していたのであって,職務ローテーションの対象とはなっておらず,また,本件雇用期間前ではあるが,原告は研究のため一旦退職するなどしていることが認められる。
このような事実を考慮すると,原告は,通常の労働者と同視すべき短時間労働者に該当するとまでは認め難く,原告に形式的に一般職員の給与表を適用して賃金水準の格差ないし適否を論ずることは適切なものとはいえない。
2. 平成24年(ワ)557 大分地裁判決 判決文抜粋(通常の労働者と同一視の判断)
・転勤,役職への任命等の点における正社員と準社員の差の有無について
ア 転勤,役職への任命等
(ア) 転勤・出向
a 正社員就業規則40条1項は「会社は,業務のつごうにより社員に就業の場所または従事する業務の変更を命ずることがある。」と定め,同条2項は「前項の場合,本人の意志を努めて考慮するが,正当な理由がないときはこれを拒むことができない。」と定めている。また,正社員就業規則47条1項は「会社は,業務のつごうにより社員を関連会社に出向させることがある。」と定め,同条2項は「前項の場合,本人の意志を努めて考慮するが,正当な理由がないときは,これを拒むことができない。」と定めている。正社員就業規則3条によれば,正社員就業規則のうち準社員に適用されるのは,第5章(安全および衛生),第6章(災害補償)のみであり,上記の40条,47条が規定されている第4章(人事)は準社員には適用されず,正社員に適用される。
他方,準社員就業規則38条は「会社は,準社員に転居を必要とする就業場所の変更を命ずることはない。」と定め,準社員就業規則39条は「会社は,準社員に転居を必要とする関係会社等への出向を命じることはない。」と定める。
b 正社員ドライバーの転勤・出向の実績は,別紙5のとおりであった。これによれば,全国で,管外転勤は,平成18年2名,平成19年3名,平成20年3名,平成22年2名であり,いずれも九州管外における異動であった。他社出向は,平成21年に5名あった他はなかった。そして,九州管内の異動は,平成10年8名,平成11年11名,平成12年14名,平成13年9名で,これらの理由は,いずれもドライバー余剰のためであり,平成14年以降,九州管内では転勤・出向はなかった。なお,上記の別紙5の記載以外には,北海道で平成24年10月1日付けの転勤(同年9月26日通知)があり,関東支店管内で,出向先から戻る同年2月1日付け(同年1月31日通知),及び同年5月1日付け(同年4月27日通知)の異動があった。別紙1に示された正社員ドライバーの総数と比べると,転勤,出向をした者の数は少なかったものと認められる。
他方,準社員には,転勤・出向した者はいなかった。
(イ) チーフ,グループ長,運行管理者,運行管理補助者への任命
a 被告において,グループ長は,5ないし7名の運転手からなるグループの責任者であり,チーフは,複数のグループ長を監督する立場にある。
運行管理者は,貨物自動車運送事業法に基づき,一般貨物自動車運送事業者が,事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務を行わせるため,選任を義務づけられているものであり,運行管理者の選任,解任は,国土交通大臣に届け出なければならないとされている(貨物自動車運送事業法18条)。
運行管理補助者は,運行管理者の履行補助者であり,点呼に関する業務の一部などを行うことができるが,選任,解任について監督官庁への届出は必要ない。
b (a) 被告の準社員賃金規程には,準社員がチーフ,グループ長になった場合の職務手当,準社員が運行管理者,整備管理者,毒物・劇物取扱主任者,自動車整備主任者等の法規管理者になった場合の法規管理者手当を定めた規定があったが,平成24年7月1日の準社員賃金規程の変更の際に削除された。
(b) 被告においては,平成20年4月1日以前は,準社員の労働条件を定めた準社員就業規則,準社員賃金規程は,各支店で独自に定めて運用管理しており,労働時間や賃金の計算方法等が支店や事業所により異なっていた。そして,1日の所定労働時間が7時間の準社員がおり,準社員がチーフ,グループ長や運行管理者,運行管理補助者(運行管理代務者)に任命されていることもあった。
(c) 平成20年4月1日,準社員就業規則,準社員賃金規程,それらの運用管理を規定上全国統一基準としたが,準社員の就業状況等を考慮し,1日の所定労働時間については当面7時間と8時間を併用するが順次8時間に統一すること,準社員がチーフ,グループ長や運行管理者となっている場合は速やかに解任することとした。その後,多くの支店・事業所では,全国統一基準による運用管理がされたが,一部の支店・営業所では,1日の所定労働時間が7時間の準社員がおり,準社員がチーフ,グループ長や運行管理者,運行管理補助者を務めていた。
(d) チーフ,グループ長に任命されているドライバーは全国で410名余りいるが,平成24年3月の時点で,準社員のチーフは1名,グループ長は4名存在した。この準社員のチーフは,四日市事業所で定年前からチーフに任命されており,平成18年10月の定年後,シニア社員として再雇用され,平成21年10月,準社員として再雇用されたものであり,平成24年6月末にチーフを解任された。また,上記グループ長4名は,隠岐事業所1名,福岡事業所2名,鹿児島事業所1名であったが,平成24年7月1日付けでいずれも正社員に登用された。平成24年3月の時点で,運行管理者に任命されていた準社員はおらず,運行管理補助者に任命されていた準社員は大分事業所に3名存在したが,これらの者は,同年4月7日,同年5月28日,同年6月18日に解任された。平成24年7月1
日に準社員就業規則,準社員賃金規程の変更を行い,準社員の1日の所定労働時間を8時間に統一し,全国統一基準の実施を徹底した。
なお,Eは,その証人尋問において,準社員は運行管理者になれない旨証言するが,被告の準社員賃金規程には,準社員が運行管理者,整備管理者,毒物・劇物取扱主任者,自動車整備主任者等の法規管理者になった場合の法規管理者手当を定めた規定があったことからすると,従前は,準社員が運行管理者を務める場合があったものと推認される。)
イ 転勤等,役職への任命等に関する差の有無
(ア) 就業規則上,転勤・出向は,正社員にはあるが,準社員にはなく,実際にも,正社員には転勤・出向の実績はあるが,準社員には,転勤・出向した者がなかった。しかし,正社員の転勤自体,少なく,九州管内では,平成14年以降,転勤・出向はなかった。被告の準社員賃金規程には,平成24年7月1日の準社員賃金規程の変更の際に削除されるまで,準社員がチーフ,グループ長になった場合の職務手当を定めた規定があった。平成20年3月31日までは,準社員をチーフ,グループ長や運行管理者,運行管理補助者に任命することが行われており,同年4月1日以降,準社員について,チーフ,グループ長や運行管理者から解任することとされたが,依然として準社員がチーフ,グループ長や運行管理者に任命されている例があった。平成24年3月の時点で,運行管理者に任命されていた準社員はいなかったが,運行管理補助者に任命されていた準社員は大分事業所に3名存在した。運行管理補助者は,運行管理者の履行補助者ではあるが,点呼の一部を行うことができるなど,事業用自動車の運行の安全の確保に関して重要な業務を担当しているものということができる。
そうすると,正社員と準社員との間には,転勤・出向の点において,大きな差があったとは認められない。また,正社員と準社員は,チーフ,ループ長,運行管理者,運行管理補助者等への任命の点において,平成20年3月31日までは差はなく,同日の後,準社員のチーフ,グループ長や運行管理者は減少したが,平成24年3月の時点で,運行管理補助者に任命されていた準社員は大分事業所に3名存在したから,チーフ,ループ長,運行管理者,運行管理補助者への任命の有無によって,正社員と準社員の間で,配置の変更の範囲が大きく異なっていたとまではいえない。
(イ) なお,被告は,準社員ドライバーは,正社員ドライバーと異なり,新規業務,事故トラブルへの対応など,緊急の対処が必要な業務,対外的な交渉が必要な業務には従事しないと主張し、その旨証言する。しかし,これらの業務は,その性質に照らすと,営業や庶務を主に担当する支店や事業所の事務職の職責に属するものと解され,正社員ドライバーがそれに関与することがあるとしても,ドライバーという職務上の地位に鑑みれば,責任者を補助する立場で関与するにとどまると解される。また,これらの職務を行うドライバーは,経験が長く交渉等の能力のある者であり,正社員の中でもそのような職務に就く者は少なく,ドライバーがそのような業務に関与する頻度も明らかでないことからすると,仮に,ドライバーのうちでそのような業務にかかわる者が正社員のみであったとしても,それをもって,正社員ドライバーと準社員ドライバーの職務内容の相違点として重視することはできない。
・期間の定めのない労働契約の終了との同一性,更新の合理的期待について
(1) 原被告間の労働契約は,期間の定めのある有期労働契約であったが,平成18年4月1日以降,継続して更新されていた。原告の業務は,正社員の業務と同じであり,原告の労働時間,賃金は,前記第2,2(5)イのとおりであった。そして,準社員就業規則には,準社員の労働契約を更新する際に面談すべきことが記載されていたが,原告の労働契約の更新に際して必ず面接が行われていたとは認められず,また,準社員の労働契約の契約書に,契約更新の有無について考慮すべき事由が記載されており,仮に何らかの形により面接が行われたとしても,労働期間の制限があることについて従業員の理解を得られるような説明をしていたとは認められない。また,準社員の有期労働契約についての更新拒絶の件数は,少なかった。そして,正社員と準社員との間には,転勤・出向の点において,大きな差があったとは認められず,チーフ,グループ長,運行管理者,運行管理補助者への任命の有無によって,正社員と準社員の間で,配置の変更の範囲が大きく異なっていたとまではいえない。さらに,準社員ドライバーが,正社員ドライバーと異なり,緊急の対処が必要な業務,対外的な交渉が必要な業務に従事しないことは,正社員ドライバーと準社員ドライバーの職務内容の相違点として重視することはできず,正社員ドライバーの中には,事務職に職系転換して主任,事業所長又は課長に任命された者があるのに対し,準社員に,そのように事務職に職系転換した者はいないとしても,この点をもって,正社員ドライバーの配置の範囲が準社員ドライバーと異なるとはいえない。
(2) 前記(1)のような原被告間の労働契約の実情に鑑みると,原被告間の有期労働契約は,過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時にその有期労働契約を更新しないことによりその有期労働契約
を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることによりその期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められ(労働契約法19条1号),仮にそうでなくとも,原告において,その有期労働契約の契約期間の満了後にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる(労働契約法19条2号)。
・結論「通常の労働者と同視すべき短時間労働者への該当性」
前記2(1)のような原被告間の労働契約の実情に鑑みると,原被告間の労働契約は,反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約(パート
タイム労働法8条2項)に該当するものと認められる。そして,原告は,「事業の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者であって,当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち,当該事業所における慣行その他の事情からみて,当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において,その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(以下「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)」(パートタイム労働法8条1項)に該当したものと認められる。
○同一性判断のまとめ
平成24年(ワ)557大分地裁判決においては、正社員及び準社員についての就業規則の関連規定、さらに正社員及び準社員の就業の実態を細かく比較分析し、「通常の労働者と短時間労働者との同一性の判断」を行っています。
個人的な印象では、同一視の判断はかなりハードルが高いと感じました。今後、期間の定めがない短時間労働者が増加することを踏まえ、パートタイム労働法第9条違反の裁判が増加することが見込まれます。
以上でパートタイム労働法第9条を終了します。
パート労働法