パートタイム労働法第13条
2015年05月28日 13:00
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
第13条(通常の労働者への転換)
事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
一 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間労働者に周知すること。
二 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間労働者に対して与えること
三 一定の資格を有する短時間労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること
○通達による確認
・通常の労働者への転換(法第13条関係)
(1) 短時間労働者の中には、通常の労働者として働くことを希望していても、その雇用の機会がないためにやむを得ず短時間労働者として働いている者もいるほか、現状では一度短時間労働者になると通常の労働者としての就業に移ることが困難な状況にある。そのような状況は、労働者個人の働く意欲の維持、キャリア形成の観点から問題であるだけでなく、社会の活力・公正の観点からみても問題であるため、法第13条は通常の労働者への転換を推進する措置を事業主に義務付けたものであること。
(2) 具体的には以下に例示された措置のいずれかを講ずることが求められるものであること。
イ 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に関する事項を当該事業所において雇用する短時間労働者に周知すること。
ロ 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間労働者に対して与えること。
ハ 一定の資格を有する短時間労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けること。
ニ イからハまでに掲げるもののほか、通常の労働者として必要な能力を取得するための教育訓練を受ける機会を確保するための必要な援助を行う等、通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。
(3) (2)イは、事業主は、通常の労働者を募集しようとするときに、企業外からの募集と併せて、その雇用する短時間労働者に対しても募集情報を周知することにより、通常の労働者への応募の機会を付与するものとしたものであること。最終的に採用するかどうかは、公正な採用選考である限り事業主の判断に委ねられるが、周知したのみで、応募を受け付けないなど実際に応募の機会を付与しない場合は、本条を満たしたものとはいえないこと。「その他の当該募集に係る事項」とは、求人者が求人の申込みに当たり明示することとされている労働契約期間や就業の場所等の事項を指すものであること。例えば、事業主は公共職業安定所に求人票を出す場合、併せてその募集案内を社内掲示板に掲示することにより、当該事業所で雇用する短時間労働者にも応募の機会を与えることなどが考えられること。また、周知の方法としては、事業所内の短時間労働者が通常目にすることができる場所に設置されている掲示板への掲示のほか、回覧による方法や電子メールによる一斉送信等が考えられるが、募集期間終了までに希望者が見ることのできる状態にあることが必要であること。また、募集する求人の業務内容が専門的資格を必要とするものであって当該事業所に有資格である短時間労働者が存在しないことが明らかである場合については、募集に係る事項を周知しなくても、本条違反とはならないものであること(そのような事情がなければ周知することとされていることが前提である)。なお、他の企業で実績を有する者等をヘッドハンティングする場合など、個人的資質に着目して特定の個人を通常の労働者として採用するものは、(2)イの「通常の労働者の募集を行う場合」には該当しないものであること。
(4) (2)ロは、企業外に通常の労働者に係る募集を出す前に、企業内の短時間労働者に配置の希望を申し出る機会を与えるものであり、いわゆる優先的な応募機会の付与をいうものであること。また、社内から通常の労働者のポストへの応募を積極的に受け付ける「社内公募」制度のようなものも(2)ロに該当するものであること。なお、この優先的な応募機会の付与は、優先的な採用まで義務付けるものではないことは言うまでもないこと。
(5) (2)イ及びロについては、通常の労働者の募集の必要がないときにまで募集を行うことを求めるものではないが、(10)にあるとおり、そのような措置を講ずる予定であるとしてあらかじめ周知することが求められるものであること。
(6) (2)ハは、その雇用する短時間労働者を通常の労働者へ登用するための制度として、一定の資格を有する短時間労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を事業所内に設けることとしたものであること。「一定の資格」としては、例えば勤続年数やその職務に必要な資格等があり得るものであること。ただし、当該「一定の資格」として著しく長い勤続期間を要することとするなど、当該事業所の雇用管理の実態から見ても制限的なものと考えられ、対象者がほとんど存在しないようなものは、この(2)ハの措置を行ったとは言えないものであること。
(7) (2)ニは、通常の労働者への転換を推進するための措置としては、(2)イからハまでに掲げる措置以外のものでも差し支えない旨を明らかにしたものであり、一例として、通常の労働者として必要な能力を取得するための教育訓練を受ける機会を確保するための必要な援助を行うことを挙げたものであること。この「必要な援助」としては、自ら教育訓練プログラムを提供することのほか、他で提供される教育訓練プログラムの費用の経済的な援助や当該訓練に参加するための時間的な配慮を行うこと等も考えられるものであること。
(8) 本条の措置としては、短時間労働者から通常の労働者への転換を直接図ることが可能となる措置が望ましいことは言うまでもないが、例えば、短時間労働者からいわゆる契約社員など、通常の労働者以外のフルタイム労働者への転換制度を設け、さらに契約社員には通常の労働者への転換制度が設けられているような、複数の措置の組み合わせにより通常の労働者への転換の道が確保されている場合も本条の義務の履行と考えられること。
なお、本条は、多様な就業形態間の移動の障壁を除去する政策をとるものであることから、当該事業所においていわゆる正規型の労働者とフルタイムの基幹的労働者が通常の労働者として存在する場合に、事業主が講ずる措置がフルタイムの基幹的労働者への転換を推進するものにとどまる場合は、就業形態間の障壁が残ることになることから、本条の義務の履行とはいえないこと。他方、いわゆる「短時間正社員」(他の正規型のフルタイムの労働者と比較しその所定労働時間が短い、正規型の労働者をいう。)については、一般的に、時間の制約が比較的大きい短時間労働者であっても就業しやすい形態であることから、例えば通常の労働者への転換を推進するに当たっての一つの経由点として設定することは、望ましいと考えられること。
(9) 本条の措置は、制度として行うことを求めているものであり、合理的な理由なく事業主の恣意により通常の労働者の募集情報を周知するときとしないときがあるような場合や、転換制度を規程にするなど客観的な制度とはせずに事業主の気に入った人物を通常の労働者に転換するような場合は、本条の義務の履行とはいえないこと。
(10) 本条の趣旨を踏まえると、当該事業所において講じられている通常の労働者への転換を推進するための措置が短時間労働者に対して周知されていることが求められ、(2)イやロの措置のように、一定の機会が到来したときに初めて措置を講ずることとなるものについても、そのような措置を講ずる予定であるとしてあらかじめ周知することが求められるものであること。
(11) 本条においては、通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずることが求められているのであって、その結果として短時間労働者を通常の労働者に転換することまで求められるものではないが、長期間にわたって通常の労働者に転換された実績がない場合については、転換を推進するための措置を講じたとはいえない可能性があり、周知のみで応募はしにくい環境になっているなど、措置が形骸化していないか検証すべきものであること。
○通達のまとめ
ア 法第13条は通常の労働者への転換を推進する措置を事業主に義務付けたもの
イ 次のいずれかを講ずることが求められる
(ア)従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に関する事項を当該事業所において雇用する短時間労働者に周知する
(イ)当該配置の希望を申し出る機会を与える
(ウ)通常の労働者の配置を新たに行う場合において、通常の労働者への転換のための試験制度を設ける
(エ)試験制度その他通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること
ウ 事業主は、通常の労働者を募集しようとするときに、企業外からの募集と併せて、その雇用する短時間労働者に対しても募集情報を周知することにより、通常の労働者への応募の機会を付与するものとしたものであること
エ 他の企業で実績を有する者等をヘッドハンティングする場合など、個人的資質に着目して特定の個人を通常の労働者として採用するものは、上記ウの「通常の労働者の募集を行う場合」には該当しない
オ 上記ウは、すでに雇用している短時間労働に優先的な応募機会の付与をいうものであること
カ その雇用する短時間労働者を通常の労働者へ登用するための制度として、一定の資格を有する短時間労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を事業所内に設けることとしたものである
キ その他教育訓練を受ける機会を確保するための必要な援助を行うこと
ク 本条の措置は、制度として行うことを求めているものであり、合理的な理由なく事業主の恣意により通常の労働者の募集情報を周知するときとしないときがあるような場合や、転換制度を規程にするなど客観的な制度とはせずに事業主の気に入った人物を通常の労働者に転換するような場合は、本条の義務の履行とはいえない
ケ 本条の措置は、結果として短時間労働者を通常の労働者に転換することまで求められるものではない
○本法第11条で記述した「総合人事制度」の構築と本法第13条
そもそも、本法でいう「通常の労働者」と「短時間労働者等の非正規労働者」との間の雇用契約が全く別の雇用管理制度となっていることが、問題の本質です。本法第11条で例示しましたように、雇用する労働者については、A分類、B分類、C分類のように区分することなく、一貫した人事制度内の格付けにより運用することで、本法第13条の趣旨に沿った問題解消ができます。
現在の雇用制度でいわゆる非正規雇用(短時間労働者、有期雇用労働者、フルタイム無期雇用であっても正社員等のプロパー以外の労働者等)の処遇は、多くの企業では将来性を否定されている労働者群です。ここでいう、将来性とは、必ずしも経営担当にまで上り詰めることではなく、少しづつでも昇格・昇給(=昇給)が望める制度のことです。
正規労働者は、定期採用を中心に長期育成し、幹部従業員として重用する制度はもはや過去のものであると考えます。一貫した総合的な人事制度の構築は、労働者の労働市場における自由な流通という観点においても意義があります。これにより、ある会社で将来の希望を絶たれた労働者も、多くの企業がこの一貫した総合的な人事制度の採用することにより、他の企業で再チャレンジの機会が与えられるものと思料いたします。
※軍隊においても、下士官を士官に任用する制度が存在します。
以上でパートタイム労働法第13条を終了します。
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