パートタイム労働法第3条

2015年05月22日 16:43

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

第3条(事業主の責務)

 事業主は、その雇用する短時間労働者について、その就業の実態等を考慮して、適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善及び通常の労働者への転換(短時間労働者が雇用される事業所において通常の労働者として雇い入れられることをいう。以下同じ。)の推進(以下「雇用管理の改善等」という。)に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとする。

2  事業主の団体は、その構成員である事業主の雇用する短時間労働者の雇用管理の改善等に関し、必要な助言、協力その他の援助を行うように努めるものとする。

 

通達による確認

事業主等の責務(法第3条関係)
(1) 事業主の責務(法第3条第1項関係)
イ  基本的考え方
 労働者の待遇をどのように設定するかについては、基本的には契約自由の原則にのっとり、個々の契約関係において当事者の合意により決すべきものであるが、現状では、短時間労働者の待遇は必ずしもその働き・貢献に見合ったものとなっていないほか、他の就業形態への移動が困難であるといった状況も見られる。このような中では、短時間労働者の待遇の決定を当事者間の合意のみに委ねていたのでは短時間労働者は「低廉な労働力」という位置付けから脱することができないと考えられるところ、それでは、少子高齢化、労働力人口減少社会において期待されている短時間労働者の意欲や能力の有効な発揮がもたらされるような公正な就業環境を実現することは難しい。
 そこで、法は、第1条に定める法の目的である「通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間労働者がその有する能力を有効に発揮することができる」ことを実現するために、短時間労働者の適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善及び通常の労働者への転換の推進(以下「雇用管理の改善等」という。)について、事業主が適切に措置を講じていく必要があることを明らかにするため、法第3条において、短時間労働者について、その就業の実態等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとすることを事業主の責務としたものであること。
 法第3章以下の事業主の講ずべき措置等に関する規定は、この法第3条の事業主の責務の内容として、法の目的を達成するために特に重要なものを明確化したものであること。また、法第15条に基づく指針については、当該責務に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要なものを具体的に記述したものであること。
ロ  短時間労働者の就業の実態等
 法第3条において考慮することとされている「その就業の実態等」の具体的な内容としては、短時間労働者の「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」、経験、能力、成果、意欲等をいい、「等」の内容には、それらだけでは十分でない場合に、必要に応じて同業他社の状況も考慮することを含むものであること。
 なお、責務を具体化した法第3章以下及び指針の措置規定のいくつかにおいては、就業の実態等を特に考慮すべき場合やその考慮方法について、待遇の種類ごとに明らかにされていること。
ハ  雇用管理の改善等に関する措置等
 「雇用管理の改善等に関する措置等」とは、法第3章第1節に規定する「雇用管理の改善等に関する措置」と、法第22条に規定する苦情の自主的解決に努める措置をいうものであること。
ニ  通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等
 法は、短時間労働者について、就業の実態等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇を確保することを目指しているが、これは、一般に短時間労働者の待遇が通常の労働者と比較して働きや貢献に見合ったものとなっておらず低くなりがちであるという状況を前提として、通常の労働者との均衡(バランス)をとることを目指した雇用管理の改善を進めていくという考え方であること。
 通常の労働者と短時間労働者の「均衡のとれた待遇」は、就業の実態に応じたものとなるが、その就業の実態が同じ場合には、「均等な待遇」を意味する。
 他方、通常の労働者と短時間労働者との間で、就業の実態が異なる場合、その「均衡のとれた待遇」とはどのようなものであるかについては、一義的に決まりにくい上、待遇と言ってもその種類(賃金の決定、教育訓練の実施及び福利厚生施設の利用)、性格(職務との関連性、実施に当たっての事業主の裁量の程度等)は一様でない。
 そのような中で、事業主が雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保を図っていくため、法第3章第1節においては、講ずべき措置を定めたものであること。
 具体的には、法第8条において、すべての短時間労働者を対象に、法第9条から第12条までに規定される事業主が講ずべき措置の前提となる考え方として、「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」及び「その他の事情」を考慮して、不合理なものであってはならないとする短時間労働者の待遇の原則を明らかにしている。その上で、法第9条から第12条までにおいては、短時間労働者の態様を就業の実態から見て3つに分類し、待遇を賃金の決定、教育訓練の実施及び福利厚生施設の利用の3つについて、どのような者のどのような待遇について、どのような措置をもって均衡とするのかを個々具体的に明らかにしているものであること。具体的には、法第11条第1項は、職務の内容が同一であるという就業の実態が通常の労働者に近く、また、職務との関連性が高い待遇であること、といった事情を踏まえて具体的な措置の内容を明らかにしたものであり、法第12条は、すべての通常の労働者との関係で普遍的に講じられるべき措置の内容について明らかにしたものであること。他方、法第10条、法第11条第2項については、就業の実態が多様な短時間労働者全体にかかる措置として、具体的に勘案すべき就業の実態の内容を明記(職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験等)したものであること。これらの勘案すべき就業の実態の内容を明記しているのは、これらの要素が通常の労働者の待遇の決定に当たって考慮される傾向にあるのとは対照的に、短時間労働者について十分に考慮されている現状にあるとは言い難く、短時間労働者についても、これらに基づく待遇の決定を進めていくことが公正であると考えられることによること。
 「通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等」の「等」としては、・ 短時間労働者であることに起因して、待遇に係る透明性・納得性が欠如していることを解消すること(適正な労働条件の確保に関する措置及び事業主の説明責任により達成される)、・ 通常の労働者として就業することを希望する者について、その就業の可能性をすべての短時間労働者に与えること(通常の労働者への転換の推進に関する措置により達成される)、等が含まれるものであること。
(2) 均衡のとれた待遇の確保の図り方について
イ  基本的考え方
 短時間労働者についての、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保に当たっては、短時間労働者の就業の実態等を考慮して措置を講じていくこととなるが、法第3章第1節においては、「就業の実態」を表す要素のうちから「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」の2つを具体の措置が求められる法の適用要件としている。これは、現在の我が国の雇用システムにおいては、一般に、通常の労働者の賃金をはじめとする待遇の多くがこれらの要素に基づいて決定されることが合理的であると考えられている一方で、短時間労働者については、これらが通常の労働者と全く同じ、又は一部同じであっても、所定労働時間が短い労働者であるということのみを理由として待遇が低く抑えられている場合があることから、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保を図る際に、短時間労働者の就業の実態をとらえるメルクマールとして、これらの要素を特に取り上げるものであること。
 なお、法第9条から第12条までに規定される事業主が講ずべき措置の前提となる考え方として、すべての短時間労働者を対象とする短時間労働者の待遇の原則として規定された法第8条においては、労働契約法にならい、短時間労働者と通常の労働者の待遇の相違の不合理性を判断する際の考慮要素として、「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」のほかに、「その他の事情」を規定しているが、「その他の事情」については、合理的な労使慣行など考慮すべきその他の事情があるときに考慮すべきものであること(第3の3(3)参照)。
ロ 「職務の内容」について
(イ) 定義
 「職務の内容」とは、「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」をいい、労働者の就業の実態を表す要素のうちの最も重要なものであること。
「業務」とは、職業上継続して行う仕事であること。
「責任の程度」とは、業務に伴って行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等をいうこと。具体的には、授権されている権限の範囲(単独で契約締結可能な金額の範囲、管理する部下の数、決裁権限の範囲等)、業務の成果について求められる役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度、ノルマ等の成果への期待の程度等を指す。責任は、外形的にはとらえにくい概念であるが、実際に判断する際には、責任の違いを表象的に表す業務を特定して比較することが有効であること。
 また、責任の程度を比較する際には、所定外労働も考慮すべき要素の一つであるが、これについては、例えば、通常の労働者には所定外労働を命ずる可能性があり、短時間労働者にはない、といった形式的な判断ではなく、実態として業務に伴う所定外労働が必要となっているかどうか等を見て、判断することとなること。例えば、トラブル発生時、臨時・緊急時の対応として、また、納期までに製品を完成させるなど成果を達成するために所定外労働が求められるのかどうかを実態として判断すること。なお、ワークライフバランスの観点からは、基本的に所定外労働のない働き方が望ましく、働き方の見直しにより通常の労働者も含めてそのような働き方が広まれば、待遇の決定要因として所定外労働の実態が考慮されること自体が少なくなっていくものと考えられるところであること。
(ロ) 職務の内容が同一であることの判断手順
 「職務の内容」については、法第9条等の適用に当たって、通常の労働者と短時間労働者との間で比較して同一性を検証しなければならないため、その判断のための手順が必要となる。具体的には以下の手順で比較していくこととなるが、「職務の内容が同一である」とは、個々の作業まで完全に一致していることを求めるものではなく、それぞれの労働者の職務の内容が「実質的に同一」であることを意味するものであること。
 したがって、具体的には、「業務の内容」が「実質的に同一」であるかどうかを判断し、次いで「責任の程度」が「著しく異なって」いないかを判断するものであること。
 まず、第一に、業務の内容が「実質的に同一」であることの判断に先立って、「業務の種類」が同一であるかどうかをチェックする。
 これは、『厚生労働省編職業分類』の細分類を目安として比較し、この時点で異なっていれば、「職務内容が同一でない」と判断することとなること。
 他方、業務の種類が同一であると判断された場合には、次に、比較対象となる通常の労働者及び短時間労働者の職務を業務分担表、職務記述書等により個々の業務に分割し、その中から「中核的業務」と言えるものをそれぞれ抽出すること。
 「中核的業務」とは、ある労働者に与えられた職務に伴う個々の業務のうち、当該職務を代表する中核的なものを指し、以下の基準に従って総合的に判断すること。
① 与えられた職務に本質的又は不可欠な要素である業務
② その成果が事業に対して大きな影響を与える業務
③ 労働者本人の職務全体に占める時間的割合・頻度が大きい業務
 通常の労働者と短時間労働者について、抽出した「中核的業務」を比較し、同じであれば、業務の内容は「実質的に同一」と判断し、明らかに異なっていれば、業務の内容は「異なる」と判断することとなること。なお、抽出した「中核的業務」が一見すると異なっている場合は、当該業務に必要とされる知識や技能の水準等も含めて比較した上で、「実質的に同一」と言えるかどうかを判断するものであること。
 ここまで比較した上で業務の内容が「実質的に同一である」と判断された場合には、最後に、両者の職務に伴う責任の程度が「著しく異なって」いないかどうかをチェックすること。そのチェックに当たっては、「責任の程度」の内容に当たる以下のような事項について比較を行うこと。
① 授権されている権限の範囲(単独で契約締結可能な金額の範囲、管理する部下の数、決裁権限の範囲等)
② 業務の成果について求められる役割
③ トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度
④ ノルマ等の成果への期待の程度
⑤ 上記の事項の補助的指標として所定外労働の有無及び頻度
 この比較においては、例えば管理する部下の数が一人でも違えば、責任の程度が異なる、といった判断をするのではなく、責任の程度の差異が「著しい」といえるものであるかどうかを見るものであること。
 なお、いずれも役職名等外見的なものだけで判断せず、実態を見て比較することが必要である。
以上の判断手順を経て、「業務の内容」及び「責任の程度」の双方について、通常の労働者と短時間労働者とが同一であると判断された場合が、「職務の内容が同一である」こととなること。
ハ 「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されると見込まれる」ことについて
(イ) 定義
① 「職務の内容及び配置の変更の範囲」
現在の我が国の雇用システムにおいては、長期的な人材育成を前提として待遇に係る制度が構築されていることが多く、このような人材活用の仕組み、運用等に応じて待遇の違いが生じることも合理的であると考えられている。法は、このような実態を前提として、人材活用の仕組み、運用等を均衡待遇を推進する上での考慮要素又は適用要件の一つとして位置付けている。人材活用の仕組み、運用等については、ある労働者が、ある事業主に雇用されている間にどのような職務経験を積むこととなっているかを見るものであり、転勤、昇進を含むいわゆる人事異動や本人の役割の変化等(以下「人事異動等」という。)の有無や範囲を総合判断するものであるが、これを法律上の要件としては「職務の内容及び配置の変更の範囲」と規定したものであること。
 「職務の内容の変更」と「配置の変更」は、現実にそれらが生じる際には重複が生じ得るものであること。つまり、「職務の内容の変更」とは、配置の変更によるものであるか、そうでなく業務命令によるものであるかを問わず、職務の内容が変更される場合を指すこと。他方、「配置の変更」とは、人事異動等によるポスト間の移動を指し、結果として職務の内容の変更を伴う場合もあれば、伴わない場合もあるものであること。
 それらの変更の「範囲」とは、変更により経験する職務の内容又は配置の広がりを指すものであること。
② 同一の範囲
 職務の内容及び配置の変更が「同一の範囲」であるとの判断に当たっては、一つ一つの職務の内容及び配置の変更の態様が同様であることを求めるものではなく、それらの変更が及びうると予定されている範囲を画した上で、その同一性を判断するものであること。
 例えば、ある事業所において、一部の部門に限っての人事異動等の可能性がある者と、全部門にわたっての人事異動等の可能性がある者とでは、「配置の変更の範囲」が異なることとなり、人材活用の仕組み、運用等が同一であるとは言えないこと。
 ただし、この同一性の判断は、「範囲」が完全に一致することまでを求めるものではなく、「実質的に同一」と考えられるかどうかという観点から判断すること。
③ 「変更されると見込まれる」
 職務の内容及び配置の変更の範囲の同一性を判断することについては、将来にわたる可能性についてもみるものであるため、変更が「見込まれる」と規定したものであること。ただし、この見込みについては、事業主の主観によるものではなく、文書や慣行によって確立されているものなど客観的な事情によって判断されるものであること。また、例えば、通常の労働者の集団は定期的に転勤等があることが予定されているが、ある職務に従事している特定の短時間労働者についてはこれまで転勤等がなかったという場合にも、そのような形式的な判断だけでなく、例えば、同じ職務に従事している他の短時間労働者の集団には転勤等があるといった「可能性」についての実態を考慮して具体的な見込みがあるかどうかで判断するものであること。
 なお、育児又は家族介護などの家族的責任を有する労働者については、その事情を配慮した結果として、その労働者の人事異動等の有無や範囲が他と異なることがあるが、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を比較するに当たって、そのような事情を考慮すること。考慮の仕方としては、例えば、通常の労働者や短時間労働者のうち、人事異動等があり得る人材活用の仕組み、運用等である者が、育児又は家族介護に関する一定の事由(短時間労働者についても通常の労働者と同じ範囲)で配慮がなされ、その配慮によって異なる取扱いを受けた場合、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を比較するに際しては、その取扱いについては除いて比較することが考えられること。
(ロ) 「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されると見込まれる」ことの判断手順
 「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されると見込まれる」ことについては、法第9条の適用に当たって、通常の労働者と短時間労働者との間で比較して同一性を検証しなければならないため、その判断のための手順が必要となる。この検証は(2)ロ(ロ)において示した手順により、職務の内容が同一であると判断された通常の労働者と短時間労働者について行うものであること。
 まず、通常の労働者と短時間労働者について、配置の変更に関して、転勤の有無が同じかどうかを比較すること。この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されると見込まれない」と判断することとなること。
 次に、転勤が双方ともあると判断された場合には、全国転勤の可能性があるのか、エリア限定なのかといった転勤により移動が予定されている範囲を比較すること。この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されると見込まれない」と判断することとなること。
 転勤が双方ともない場合及び、双方ともあってその範囲が「実質的に」同一であると判断された場合には、事業所内における職務の内容の変更の態様について比較すること。まずは、職務の内容の変更(事業所内における配置の変更の有無を問わない。)の有無を比較し、この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されると見込まれない」と判断することとなること。同じであれば、職務の内容の変更により経験する可能性のある範囲も比較し、異同を判断するものであること。
(3) 事業主の団体の責務(法第3条第2項関係)
 短時間労働者の労働条件等については、事業主間の横並び意識が強い場合が多く、事業主の団体を構成している事業にあっては、事業主の団体の援助を得ながら構成員である複数の事業主が同一歩調で短時間労働者の雇用管理の改善等を進めることが効果的である。そこで、事業主の団体の責務として、その構成員である事業主の雇用する短時間労働者の雇用管理の改善等に関し必要な助言、協力その他の援助を行うように努めることを明らかにしたものであること。
(4) なお、これら事業主及び事業主の団体の責務を前提に、国は必要な指導援助を行うこととされ(法第4条)、短時間労働者を雇用する事業主、事業主の団体等に対して、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての相談及び助言その他の必要な援助を行うことができることとされている(法第19条)こと。
 
第3条の趣旨とまとめ
 第3条の趣旨は、通達に記載されているとおりですが、第3条の趣旨の概略をまとめてみます。
1. パートタイム労働者の実態
 ア パートタイム労働者が正規雇用に転換されることは少ない
 企業の労務体制の構築は、もとより事業主の経営権の範囲で任意に行うことができます。従って、どのような体系の社員構成にするか、どのような役職を設けて個々に権限移譲を行うか、さらにはそれぞれの役職にどのような労働条件の労働者を配置するか、職場の教育をどのように行いそれぞれの労働者を将来的にどのように育成するか等については、事業主が自由に設計できるわけです。
 そのため、採用から教育育成、人事異動、職務管掌、組織の創設や廃止、だれがどのような責任の上でどのような業務を行うか、その業務(労務の提供)の対価として、いくらの賃金を支払うかについて、組織づくりに経営者は腐心するわけですが、法令等による一定の規制の範囲内で行う必要があります。
 一般に、企業は労働契約別に従業員の呼称を設け、異なる労働条件の労働者のグループにより業務を行わせています。以下に事例を記述します。
ア 正社員(管理職及び管理職候補)
 入社選考の上、一般職又は総合職別に採用し格付けを行うことがある。原則的にすべての事業所に異動させることが前提となる。通常、賞与や退職金の支給対象となり、非正規労働者の管理を行う。
イ 契約社員(準社員)
 有期労働契約の従業員であり、入社選考は一般に正社員よりも簡易な手続きで採用する。また、賃金体系は正社員と別の体系が適用され、正社員よりも一般的に賃金額が少ない。また、一定以上の管理職には就けない場合が多い。所定労働時間はフルタイムである場合が多い。
ウ パートタイム社員
 有期労働契約の従業員であり、時給の場合が多い。また、一定以上の管理職には就けない場合が多い。さらに、担当業務は定型的なものが多く、賞与や退職金の対象外の場合が多い。従来は、有期労働契約を反復継続して長期間就労している場合が多い。短時間労働の場合もフルタイムの労働の場合も両方ある。
エ アルバイト
 臨時的な有期労働契約の従業員であり、繁忙期をすぎれば契約満了で退社することが多い。ただし、継続的に就労する場合もある。他方で、主たる職業をもつ労働者や学生が副業的に従事するためにアルバイトと呼称することが一般的である。短時間労働である場合が多い。賃金形態は時給が一般的である。
 
2. 通達の冒頭文のまとめ
ア 契約自由の原則
 労働者の待遇をどのように設定するかについては、基本的には契約自由の原則にのっとり、個々の契約関係において当事者の合意により決すべきものである
イ 短時間労働者の労働条件の実情
 短時間労働者の待遇は必ずしもその働き・貢献に見合ったものとなっていない
ウ 短時間労働者の就業転換
 他の就業形態への移動が困難であるといった状況
エ 短時間労働者の事業主の捉え方
 短時間労働者は「低廉な労働力」という位置付け
オ 短時間労働者の待遇の改善の必要性
 現状では、少子高齢化、労働力人口減少社会において期待されている短時間労働者の意欲や能力の有効な発揮がもたらされるような公正な就業環境を実現することは難しい
 
3. 基本指針にみる短時間労働者の待遇の状況(平成27年告示第147号)
(1) 短時間労働者の役職
 短時間労働者の職場における役割をみると、定型的で軽易な職務に従事する短時間労働者だけでなく基幹的役割を担う短時間労働者も長期的には増加している。例えば、実態調査において「同じ内容の業務を行っている正社員がいる」と回答している「パート」は48.9%であり、そのうちの36.0%の「パート」が「責任の重さが同じである正社員がいる」と回答している。また、「パートの役職者がいる」と回答している事業所は、「正社員とパートの両方を雇用している事業所」の6.5%を占めており、そのうち25.4%の事業所が「所属組織の責任者等ハイレベルの役職(店長、工場長等)まで」の役職者がいると回答している。
(2)短時間労働者の賃金
 賃金についてみると、「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)により、平成26年における短時間労働者の1時間当たり所定内給与額を一般労働者(短時間労働者以外の者)と比較すると、56.6%となっている。また、短時間労働者の1時間当たり所定内給与額は、年齢や勤続年数によって大きくは変わらない
 ※短時間労働者の賃金は、長期間勤務してスキルアップしても伸びないことが伺えます。
(3)短時間労働者の手当、賞与、退職金
 ア 通勤手当の支給割合は、65.1%の事業所が支給している
 イ 精勤手当、役職手当、家族手当、住宅手当の支給事業所の割合は、10%未満である
 ウ 賞与の支給事業所の割合は、37.3%である
 エ 退職金の支給事業所の割合は、13.0%である
※通勤手当は、就業規則等において支給する旨の規定がない場合は、事業主に支給義務がありません。賞与・退職金・諸手当も同様です。
(4)短時間労働者の教育訓練
 実態調査において、「正社員とパートの両方を雇用している事業所」のうち「パート」に対し、「日常的な業務を通じた計画的な教育訓練(OJT)」を実施する事業所は54.4%(「正社員」に対しては67.1%)、「入職時のガイダンス(OFF-JT)」を実施する事業所は32.1%(同46.2%)となっている。また、「職務の遂行に必要な能力を付与する教育訓練(OFF-JT)」を実施する事業所は26.5%(同51.5%)、「将来のためのキャリアアップのための教育訓練(OFF-JT)」を実施する事業所は9.2%(同35.3%)となっている。
 
4.短時間労働者の待遇改善に向けての課題(基本指針の抜粋)
 第1でみたような動向の中で、賃金を始めとする均等・均衡待遇の確保や通常の労働者への転換等、次の六つの課題に取り組み、短時間労働者が公正な待遇を受けるとともに能力を十分に発揮できるような条件を整備することが必要である。
(1) 働き・貢献に見合った公正な待遇の確保
 短時間労働は、事業主及び労働者のニーズに応じて、労働時間や職務の内容等が様々であるが、必ずしも待遇が働き・貢献に見合ったものになっていない場合があるため、均等・均衡待遇のより一層の確保が必要である。
(2) 明確な労働条件等の設定・提示
 短時間労働者の労働条件は個々の事情に応じて多様に設定されることが多いため、不明確になりやすく、労働条件等を短時間労働者が雇入れ時から正確に把握できるようにすることが必要である。
(3) 納得性の向上
 短時間労働者の働き方は多様であり、通常の労働者と待遇が異なる理由が分からない場合もあると考えられる。短時間労働者の納得性が高まるよう、雇用管理の改善等について講ずる措置について、短時間労働者が事業主から適切に説明を受けられるようにするとともに、短時間労働者が待遇に係る疑問等について相談できる体制が事業所で整備されることが必要である。
(4) 通常の労働者への転換を始めとするキャリアアップ
 通常の労働者としての就職機会を得ることができず、非自発的に短時間労働者となる者も一定割合存在しており、通常の労働者への転換を希望する者については、転換の機会が与えられることが必要である。また、短時間労働者が職業生活を通じて職業能力の開発及び向上を図ることを促進する等により、希望に応じてキャリアアップが図られることが必要である。
(5) 法の履行確保
 法違反を把握した場合については、都道府県労働局雇用均等室で、報告徴収並びに助言、指導及び勧告により是正を図る必要がある。短時間労働者の均等・均衡待遇が確保され、短時間労働を選択することによって不合理な取扱いを受けることのないよう、法の実効性をより一層確保することが必要である。
(6) その他労働関係法令の遵守
 短時間労働者に特有の課題だけでなく、労働基準法(昭和22年法律第49号)等の基本的な労働に関する法令が遵守されていない場合も依然としてみられるため、それらの法令遵守の徹底が必要である。
なお、(1)から(6)までの課題のほか、税制や社会保障制度については、働き方の選択に対して中立的な制度にしていくよう検討が進められている。 
 
 パートタイム労働法第3条は、短時間労働者の就労実態実情を踏まえ就労条件の改善に向けた措置を講ずるように事業主は努めなければならず、その結果いわゆる正社員(正規職員)と均衡がとれた待遇の確保を図り、短時間労働者が有する能力を有効に発揮することが出来るように努力すべきとしています。
 
 
以上でパートタイム労働法第3条を終了します。
 
 
パート労働法第3条