今般の安保関連法案に関する考察 3

2015年09月18日 11:07

今般の安保法制成立後に日本国が出来ること(従来から出来ることを含め)について、シナリオを想定して考察してみます。

もとより、軍事面の素人ですが、資料をもとに記述します。素人故に誤った解釈による事実誤認が生じる恐れもありますが、ご容赦ください。

参考資料:https://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/ch_d-act_20150529.pdf

参考資料2:https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/housei_seibi.html

1.シナリオ①(中国の内戦により、漁船などに乗った中国国民が日本に数百万人を超えて押し寄せてきた場合)

 現在、ヨーロッパにおいては、シリアを中心とするアラブ難民がドイツに向かって押し寄せている。それらの人々は、厳密に難民なのか移民希望者なのかの区別は困難であり、パキスタン人などの明らかに難民以外も混じっている様子である。ところで、ドイツ連邦共和国の人口は、現在約8千万人だが、アラブ移民(戦争難民を含め)が数百万人に上れば、国内の治安や失業者への対応から政情不安定となり、国の形が変わってしまう恐れがある。移民受け入れに関しては、人口減少や高齢化もあって、GBやフランスも従来から積極的であったが、移民労働者二世がきちんとした仕事につけないなどの問題があり、いわゆる移民問題を潜在的に抱えている。そして、旧ソ連側であった東ヨーロッパ諸国は、経済的な脆弱性から難民・移民の受け入れには極めて消極的である。

 そこで、中国の政情不安が勃発し、その結果数百万人を超える中国人が日本に押し寄せてきた場合に、どの様な対応が可能であろうか。小笠原諸島近海の数百隻の中国漁船による国際的な赤サンゴの強盗事件(違法操業)とも言える状況は、記憶に新しいが、海上保安庁の特殊部隊による一部の船長の検挙により、ようやく中国漁船が帰国した状況であった。ところで、それらの漁船にはそれぞれ10名程度乗船していたとのことであるが、同程度の漁船に30名以上乗船し、1000隻が日本に向かって押し寄せてきた場合、その人数は3万人超に達し、仮に沖縄本島に3万人以上の中国人が上陸した場合には、沖縄県は相当の混乱が予測される。まして、中国政府の大型船(500トンから大型の1万トン超の船舶)を総動員して、中国人が日本に押し寄せてきた場合には、前記の100倍以上(数百万人)の中国人が日本のいずれかに上陸してしまう恐れがある。幸い中国本土と日本は海により隔たれているが、間接的(いったん台湾や朝鮮半島に押し寄せ、その後日本に押し寄せてくる場合など)に日本に移ってくる可能性もあり得る。そして、前述の内戦に限らず、武装漁民が無人島及び島民がほとんどいない日本国の島に、台風などからの避難を口実に上陸しそのまま居住し続け、さらには同島が中国領土である旨主張し始めることさえ想定できる。

 今日現在、前述のような内容を記述していると、ほとんどフィクションの様に感じるが、ヨーロッパの現状を鑑みるに、全く起こりえないこととは言い切れないのである。

 さて、この様なシナリオ①の状況において、海上保安庁や海上自衛隊はどのような対応ができるであろうか。もちろん、あくまで違法な上陸を阻止することが主眼であるが、海上保安庁の沖縄に配備される巡視船は、最新型の1000トン型が10隻程度(尖閣対応のため、平成28年3月までに配備予定)他管区の応援を加えても、中型以上の巡視船は30隻程度が限度であると思われる。そして、海上自衛隊の護衛艦は、小型から大型まで含め全ての船は50隻程度に過ぎない。ただし、哨戒用の航空機は100機を超えて保有しているため、海上の監視活動は十分に可能である。

○具体的な対応

(1)船舶検査

 今般の改正により、船長の同意を得て、公海上で船舶検査が実施できることとなった。もちろん上記のシナリオ①におけるこの規定による船舶検査の実施は、不可能かつ無意味である。

(2)海上保安庁の対応

 現在の尖閣列島付近の日本の領海侵犯に対する対応は、拡声器等により領海からで出るように警告するに留まる。ベトナム沖では、過去に中国公船とベトナム公船との戦闘が発生し、相互に死傷者を出している。その後、ベトナムが武力による対応を中止したため、西サ諸島は中国に占領されてしまった。海上保安庁は、尖閣諸島付近で中国漁船に巡視船が体当たりされても公式に公表しなかった。当事の日本政府が中国政府に恫喝されていたためである。そして、その後当該の中国漁船の船長を逮捕したものの、沖縄地検の担当検事の職権(当然当事の日本政府の指示によるもの)で釈放してしまった。

 このように、従前の領海侵犯の対応事例からみても、大量の中国漁船(武装漁船を含め)等が日本の領海に侵入した場合には、海上保安庁にどのような有効な対応ができるのか、疑問があると言わざるを得ない。もちろん、新型巡視船には高性能の機関砲が装備されているが、それを使用して日本領土に接岸しようとしている中国漁船等を阻止するとは考えにくい。

2.シナリオ②(南シナ海を中国の領海だと中国が主張し始めたケース)

 中東からインド洋を通りマラッカ海峡・南シナ海を経て日本に続く海路は、原油を始めとする多くの貨物の日本につながる重要な海上輸送路となっている。これは、シーレーンという名称でかねてから呼ばれてきた。シナリオ②の様に、中国が滑走路などを建設した島々を拠点として、他国の船舶の南シナ海の航行を実力で阻止し始めた場合、自衛隊はどのような対処が可能であろうか。これに関しては、直接的には、対処することは不可能と思われる。これらの西サ・南サ諸島の中国の軍事拠点について、自衛隊が実力で無力化(武力攻撃)することは、その理由はともかく日本国憲法第九条第二項の禁じている対処行為(中国の領土領海であるのかはともかく、他国の侵略)であり、今般の安保関連法案成立後も変わらない。従って、このようなシナリオへの対処は、ベトナム・フィリピン・ブルネイ・マレーシア等の周辺諸国及びアメリカ軍の対処に頼る他無い。ただし、従来公海とされて来た海域に自衛隊を派遣し、間接的に自国側の同盟諸国を支援することは、多少の可能性がある。

3.シナリオ③(北朝鮮が韓国に侵攻した場合)

 北朝鮮が自国の国内事情のため韓国に武力侵攻し始めた場合には、どの様な対処が可能であろうか。この事態は、実際に日本の戦後に起こった事態である。その際には、アメリカを中心とする連合軍が北緯38度付近で赤軍の侵攻を食い止め、今現在も休戦状態のままである。敵側の赤軍を援助したのは、他ならぬ中国人民解放軍である。この朝鮮戦争の際には、日本は戦後まもない時期という事情もあって、自国の防衛力をほとんど有しておらず、専ら補給基地としてアメリカ軍を支援した。この構図は、ベトナム戦争(中ソ対アメリカの代理戦争)の際も同様であった。

 さて、今般の安保関連法案の国会審議においても、朝鮮半島有事の際に、自衛隊が韓国に進出して間接的に日本の防衛に当たるのかという質疑がなされた。政府の答弁は、「朝鮮半島有事の場合であっても、他国の領土である韓国の領海・領土に自衛隊を派遣することはない。」というものであった。これは、今般の安保関連法成立後においても同様である。当然の答弁であると考える。朝鮮半島有事の際に実際に想定される対処は、日本国政府の同意を得て、アメリカ軍等の連合軍(国連決議を根拠)が応戦する場合に、公海上等において間接支援を行うというものである。

 ここで、このシナリオ③で従来できた米軍支援は、日本国内で政治的な援助等(従来の周辺事態法では、自衛隊にできることはほとんどない。)に限られるものであった。改正法成立後は、新三要件をみたす場合に限り、北朝鮮軍に対処する米艦や米軍機等(米軍以外の連合国軍を含む)の警護・防護、必要に応じた燃料補給や弾薬補給、物資の輸送等の後方支援が可能になった。これは、明らかに集団的自衛権の行使にあたり、多くの憲法学者や野党が違憲でできないとしている自衛隊の対処行動である。(憲法学者や野党の主張に合理性がないことがわかる。)また、状況が進んで北朝鮮軍が日本国に向けた弾道ミサイルの発射準備を行っていることが明らかになった(宣言した等)場合には、自衛隊に防衛出動が下令され、安保条約所定の米軍との共同対処を始めることとなる。

 ここで、新三要件を具体的にみてみると。

(1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は 我が国と密接な関係にある他国に対する武力 攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅か され、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が 根底から覆される明白な危険があること 

(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を 守るために他に適当な手段がないこと

(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

以上の通りであるが、北朝鮮と韓国軍の小競り合いで韓国軍に犠牲者が出た程度であれば、上記の新三要件を満たさないことは、明らかである。※自衛隊の対処行動開始の要件としては、上記の新三要件のすべてを満たす必要がある。

 また、今般の安保関連法案の成立後には、従来できなかった「日本に向かってくる弾道ミサイルの迎撃に当たる米国のイージス駆逐艦」を海上自衛隊の護衛艦等が防護できるようになったこと等、さらにアメリカ軍が保有する海空のレーダー情報や衛星情報を日本の護衛艦等が共有できることとなり、平時から訓練を行えるようになったこと。その結果、日本に武力攻撃の恐れが生じた場合においては、より効果的な自衛隊の対処が可能になったことが意義深いと言える。

4.シナリオ④(南スーダンの国連事務所勤務の日本人が襲われたケース)

 南スーダンでは、陸上自衛隊の施設部隊が、今日現在も国連PKO任務に従事している。この派遣された陸自PKO部隊の宿営地の付近には、国連の事務所が存在する。国連事務所の警備は、中国軍が従事しているようである。この国連事務所勤務の邦人(外務省、NGOなど)がイスラム過激派に襲われた場合、従来は陸自のPKO隊員は手が出せなかった。これは、このようなケースの場合、他国における武力行使に該当するから違憲であるとされてきたためである。考えるまでもなく、不合理である。今般の改正により、この様な場合の邦人警護等が可能になった。

 

まとめ 野党は、今般の安保関連法案が「戦争法案」であるとして、反対している。いったい、どこが戦争法案なのか理解不能である。またTBSテレビの昨夜の報道によれば、「法案が成立すれば、ますます戦争ができる国に近づく」とコメントしている。法案の内容をみれば、「国防の強化に資する法改正等」であり、「憲法、国際法が禁ずる他国侵略(=戦争)を可能にする趣旨の法案」ではないことは、考えるまでもなく明々白々である。本日、これらの法案が成立する見込みであるが、この様な誤報道は、国益を損なうばかりでなく、中国等を利する報道に他ならない。

今般の法案に関する諸外国の賛否をみると次のようになっている。

CKCGvtnUwAAFdD2

つまり、反対国は中韓のみである。今般の安保法案が真に「戦争法案」であるならは、諸外国はすべて反対を表明する筈である。法案の内容は、インターネットで世界中でみることができる。国会議事堂周辺や全国で反対運動を行っている人々は、この事実(中韓を除く諸外国が法案を支持していること)をどの様に考えているのであろうか?

そして、新三要件を満たす場合であっても、自衛隊が実施する対処行動を命ずる場合においては、事前であれ事後であれ、必ず国会の承認を必要とする。時の政府が日本国憲法の禁ずる他国の侵略(=戦争)を始めてしまうなど、およそ考えられないのである。

以上のような理由により、私は、今般の安保関連法案に反対する野党や同じく反対する団体等の主張に首をかしげるばかりである。

 

○おわりに

昨日で、終了しようと思っていた記事ですが、昨夜の報道や今朝の報道をみるにつけ、今般の安保関連法案に関して正しい認識を良識ある国民のみなさまに持っていただきたいと再度思い、本日も追記しました。私は、多くの国民の皆様には、今般の騒動について良識を持って正しくご判断ただけることを重ねて切に願うばかりです。

 

PS

法案に反対する野党は、戦争という言葉を防衛力の行使を含めて使用している様子です。戦争という言葉の定義は、宣戦布告の後他国に武力の行使を行うことを過去には意味していました。しかし、現在ではその定義は使われなくなり、「国による侵略の意図をもった他国への武力行使」を戦争と定義しています。今日では、戦争とは、自衛権の行使の根拠となる国連憲章第51条に規定される「(国連加盟)国に対して武力攻撃を行うこと」すなわち、侵略目的の武力行使を指します。※原則的に、侵略目的の先制攻撃(戦争)は国際法違反です。他方で、軍事的には防衛力の行使も戦争という用語を使用するようすですが、反対野党はその意味で「戦争法案」と呼んでいることが伺えます。日本国民は、先の第二次対戦の敗戦の記憶が薄れておらず、先の戦争がトラウマとなっています。当然戦争という用語を用いれば、先の第二次世界大戦が頭によぎります。反対野党は、その効果を悪意をもって活用し、戦争法案だと言い募っています。ある意味、正義を欠く所業ですが、それが反対野党の正体だと断じることができます。

私は、その点においても、反対野党(特に民主党)のやり方が非常に残念無念で仕方ありません。