今般の安保法制に関する考察 2
そもそも日米安保条約の内容はどうなっているのか?をみてみたいと思います。
日米安保条約は、たとえそれが片務的であれ、不完全な双務であれ、明確にいわゆる集団的自衛権を定めた条約です。日本国内の議論は、憲法上の要請もあり、自衛隊が集団的自衛権を行使できるか否かに関する机上論に終始していますが、安保条約の条約上は明らかに集団的自衛権を定めています。以下で条約の内容を詳しくみていきます。
ところで、民主党を始めとする今般の法案に反対する野党は、本日(平成27年9月17日)の参議院特別委員会での審議を実力(理事会終了後に委員長を理事会室から出さない、委員会室で着席せずに委員長を取り囲む、委員長の不信任動議を突然手渡す、委員長の着席の指示に全く従わない等)をもって阻止しました。国会の審議を実力を使って阻止することは、民主主義の原則に明らかに反していると言えます。仮に、特定の思想を持った政党が複数の議席を占め、自党の反対する法案に対し今般と同様の行動をとるならば、議会制民主主義の崩壊と言えます。他方で、デモ行進により国の政策を決定できるのであれば、国会は不要ということになってしまいます。こういった正論をマスコミは報道しませんが、明らかに議会制民主主義の否定であると考えます。野党は、今般の安保法案(関係既存法の改正及び新法)の成立に反対するのであれば、次回の国政選挙でその点を主権者である日本国民に訴え、その結果多数の議席を確保し、もって国会審議ののち同法の廃止法案を可決すべきものと考えます。他方で、今般の安保法案が成立した後、裁判に訴えることで法律の無効を主張すべきものと考えます。
日本とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(条文)
前文 日本国及びアメリカ合衆国は、 両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁 護することを希望し、 また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長する ことを希望し、 国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとす る願望を再確認し、 両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、 両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、 相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、 よつて、次のとおり協定する。
○安保条約の前文では、平和主義・民主主義の堅守、国連憲章に定める個別的又は集団的自衛権の固有の権利を有していることの確認、日米の極東における国際平和及び安全の維持に留意すること等が述べられています。
参考:国連憲章
第51条〔自衛権〕
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国が措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
第一条 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつ て国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による 威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しな い他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行さ れるように国際連合を強化することに努力する。
○第一条では、国際的な平和及び安全・正義の棄損を解決し、国連の目的を尊重する等が書かれています。
第二条 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することに より、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。 締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
○第二条では、締結国(日米)が平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献することおよび経済協力について記述しています。
第三条 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗する それぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
○両国がそれぞれの国の憲法の規定に従って、武力攻撃に抵抗する能力を維持発展させると規定しています。
第四条 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に 対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
○安保関連協議を必要に応じ随時協議することとしています。
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全 を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する ことを宣言する。 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国 際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及 び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
○第五条は、日本国の施政の下にある領域における 「いずれか一方に対する武力攻撃」が自国への武力攻撃とみなして共通の危険に対処するものとしています。地域的な要件がかかっていますが、この規定は明らかに集団的自衛権を規定したものであり、60年安保でも集団的自衛権が規定されています。
参考:改定前の安保条約(60年安保)前文
平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。
これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。
第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、 その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で 署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の 協定及び合意される他の取極により規律される。
○第六条は、在日米軍基地の根拠条文および地位協定の根拠条文です。
第七条 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任 に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
○第七条は、国連加盟国の権利及び義務は、安保条約によって影響されないと規定しています。
第八条 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。
○第八条は、安保条約の効力の発生のための手続を定めています。
第九条 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約 は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
○第九条は、旧安保条約が本条約の発効により失効すると記述しています。
第十条 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生 じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了さ せる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。
○第十条は、日本についての武力攻撃等の危機が、国連の措置により安全の維持のため十分に効力を生じたと日米政府が認めたときまでこの安保条約が効力を有するとしています。
以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。 千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国のために 岸 信介 藤山愛一郎 石井光次郎 足立 正 朝海浩一郎
アメリカ合衆国のために
クリスチャン・A・ハーター
ダグラス・マックアーサー二世
J・グレイアム・パースンズ
参考:安保条約 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/pdfs/jyoyaku.pdf
参考2:国連憲章 https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/unch.htm
○まとめ 日米安保条約は、明らかに集団的自衛権を規定した条約です。和訳では、国連憲章及び安保条約ともに集団的自衛権を定めています。ただし、日本国内の政治的な配慮により、安保条約の第五条から「集団的自衛権」の文言を削除しています。もとより、日米安保条約は集団的自衛権を規定したものであり、集団的自衛権が違憲であるとの憲法解釈は、すなわち「日米安保条約が違憲無効である」との解釈であり、昭和47年の政府解釈(集団的自衛権は権利として有しているが行使できない。)を含め、それが不合理であることを示しています。具体的には、敵対国からの武力攻撃があった場合において、相手国(同盟国等)を自国が守ることに限らず、相手国に自国を守ってもらうことも、国際的には明らかに集団的自衛権に含まれると解することが合理的であるからです。
この点で、野党の議員(民主党の小西参議院議員)が「集団的自衛権とは、他国を侵略することだ・・・」と堂々とテレビで発言していましたが、いかにデタラメな主張であるかが判断できると思います。
○日本国憲法と集団的自衛権
ところで、今般の安保法案に反対の議員の論拠は、
①「集団的自衛権は、憲法違反である。」「限定的であれ、憲法違反の集団的自衛権を規定した今般の安保法案は、違憲無効である。」「従って、今般の安保関連法案は廃案にすべきである。」とするものです。
そのほか、②「審議時間が不足しており、政府の説明も不十分である。そのため国民の理解が不十分であるから、継続して審議すべきであり、審議を打ち切って採決すべきではない。」というものです。
反対野党の主張する①と②は、あきらかに矛盾する主張です。そもそも違憲無効な法案であるならば、『国民の理解が進んでいない』であるとか、『審議が不十分である』とか、『政府の説明が不十分・不合理である』といった野党の主張は、不必要です。この点でも、反対野党の主張に矛盾があり、法案に反対の根拠が希薄であると言えます。
また、集団的自衛権の違憲性の問題ですが、砂川事件判決においてもこの点に直接言及していません。しかし、安保条約は「合憲である」との判断を示しており、先に記述したように「日米安保条約とは、集団的自衛権の行使を日米で確約した条約」ですから、安保条約の合憲性の判断は、すなわち集団的自衛権の合憲性の判断にほかなりません。この点の異なる解釈(従来の政府解釈を含む。)により、長年PKO、在日米軍、沖縄の基地問題その他、国の最も重要な安全保障に関する国会内等の議論において、いわゆる「神学論争」に類似する議論が続いて来たわけです。
もちろん、最も合理的な方法は、日本国憲法を改正し、第九条二項において、国際的にも憲法上(砂川事件判決において明示されている)も認められている自国防衛権について規定し、さらにその方法として国防軍である自衛隊の存在を明記することと思います。
そもそも、他国を侵略する行為(戦争)及び武力による他国の威嚇は、国際法違反(国連憲章第二条第四号)となります。従って、一部の野党が言うように、今般の安保関連法案が「戦争法案である」と決め付けることは、すなわち国際法違反の法案を政府が提示していると断じていることとなります。他方、それら(主に社民党、共産党)の反対野党は国会審議の上で、国際法違反に該当するとの主張を全く行っていません。もっとも、法改正により他国(他国の領土・領海)に武力侵攻できるのかとの質問を繰り返し、その都度侵攻しないと答弁され、さらに同じ質問を繰り返しています。
いずれにしても、野党の主張は根拠が乏しく、まして日本国の安全保障を真剣に熟慮した上での法案反対とは、到底信じられないわけです。さらにまた、防衛力の法的な整備が、敵対国のさらなる防衛力の整備や他国からの先制攻撃を呼ぶこととなり、あるいは自衛隊による米軍等の防護により戦争に巻き込まれるとの議論があります。この点に関しては、無防備なチベットがどうなったか?或いは永世中立国のスイスが国民皆兵政策をとっており、スイス国民の自宅にはどの家にも「武器やシェルターが設置されてる」事実等をみても、非武装安全論(憲法九条絶対論)や防衛体制整備による戦争巻き込まれ論が空理空論であるといえます。
今般の安保法案に賛成の議員・国民を含め、誰しも戦争は嫌だし戦争反対だと思っています。その上で、国防の備えがなければ、まして無抵抗主義では、チベットのように、他国に「自国の主権・自国の領土領海・自国民の生命財産、国民の幸福追求の権利、憲法で保障された表現の自由、報道の自由等々」が脅かされ、侵害される事態が起きてしまいます。日本国だから、今般の安保関連法案の反対デモが自由にできます。チベットや内モンゴルで反政府デモを行えば、武装警官隊に実弾で射撃されてしまいます。
多くの良識ある日本国民のみなさん及び報道機関の皆さまには、今般の安保関連法案に関し、十分な冷静さかつ慎重さをもって、ご判断いただけますように願うばかりです。
以上で安保法制に関する考察を終了します。改めて、民主党の暴力的な国会内での手段には、憤りを覚えます。