休職制度についての考察

2015年04月28日 11:16

休職制度とは何か?

○休職制度の定義

 労働基準法及び労働契約法の双方とも、「休職」に関する規定はありません。従って、休職制度は個別の労働条件の一つでしかないと言えます。また、休職は就業規則に定めることとされている「前各号に掲げるもののほか、当該事業場のすべての労働者に適用される定めをする場合においては、これに関する事項(労働基準法第89条第1項第10号)」に基本的に該当すると解されていますので、就業規則に規定し運用することとなります。さらに、必要に応じ労働協約によって細部の確認をしておく場合もあります。

そこで、モデル就業規則(私が作成した規定です。)をみることで典型的な休職の規定内容を確認してみます。

就業規則第○○条 社員が次のいずれかに該当したときは休職を命ずる。ただし、試用期間中の者、パートタイマー社員、嘱託社員には本条の休職制度を適用しない。

1 業務外(通勤災害による場合を含む)の傷病により、その傷病の療養の為に欠勤の必要があり、かつ、療養のための欠勤が1か月程度以上続いたとき(その欠勤が1か月程度以上続くと見込まれる場合を含む)

2 心身の健康上の理由のため1か月以上欠勤する必要があり、そのため本人から書面により休職の申し出があったとき(会社所定の手続きを経た場合かつ会社が必要と認めた場合に限る)

3 逮捕・勾留、起訴され、そのため出勤することがかなわず、業務に従事できないとき

4 在籍のまま出向協定に基づき、関連会社等に出向するとき

5 海外留学制度により海外に勉学に赴くことを会社が承認したとき

6 その他前各号に準じる理由により、会社が休職を命ずる必要があると認めたとき

第○△条 休職に関する取扱いは次の各号に定める通りとする。

1 前条1号から3号に該当する場合の休職期間は、3ヶ月とする。ただし、勤続年数に応じ1休職期間の3か月間を次の表のとおり延長することがある。また、前条4号から6号に該当する場合は、休職を命ずる際に必要な期間を休職期間として定める。

    勤続年数        延長回数     通算休職期間の限度

     1年未満         1回         6か月

    1年以上3年未満     最大2回        9か月

    3年以上10年未満    最大3回        12か月

    10年以上        最大5回         18か月  

2 前条第1号から第3号の規定により休職を命じた場合にその後休職の理由がやみ本人の申請があった場合には、会社は確認の上で原則として元の業務に復職を命ずる。ただし、休職前の業務への復職が困難又は不適切と判断される場合は、別の業務に就かせることがある。

3 前条第1号から第3号の規定により休職を命じた場合、休職期間は無給とする。ただし、社会保険の本人負担分及び会社負担分については、その必要な額を会社が負担する。また、前条第4号から第6号に該当し休職を命じた場合の給与は、それぞれ別段の定めによる。

4 前条条第1号および第2号の規定により休職を命じた場合、本条第1号に規定する休職期間の限度を過ぎてもなお求職の事由がやまず、復職がかなわないときは休職期間の最終日に退職とする。また、前条第4号から第6号の規定により休職を命じ、その後休職事由が終了して復職を命じたにも拘らずそれに応じない場合には、その者を普通解雇する。

5 前条第3号に該当し休職を命じた場合に、その社員が起訴され、かつその社員の違法行為が明らかな場合には、懲罰委員会の決定を経て、休職期間中又は休職期間満了後にその社員を懲戒解雇する。

6 前条第1号から第3号に該当し休職を命じた場合には、その休職期間は勤続年数に算入しない。また、前条第4号および第5号に該当し休職を命ずる場合は、その休職期間の全てを勤続年数に算入する。さらに、前条第6号に該当し休職を命ずる場合には、勤続年数の通算について休職を命ずる際に合わせて申し渡す。

7 その他、休職に関し本条および前条に定めがない事項は、会社が必要に応じ判断し決定する。 

 以上は休職に関する就業規則の規定例です。問題となるのは、「休職後の復職業務や待遇の問題」「本人が復職を申し出たにも関わらず、会社がそれを拒否した場合」「休職期間が満了しても休職事由が止まず、退職扱いとする場合」「いわゆる起訴休職の場合に、懲戒解雇を行った場合」等です。 

○休職の定義、法的な意味

 休職は、労働基準法の条文に規定がないことは既に述べました。そのため、休職の定義や、運用方法は全て就業規則の定め方による事となります。そこで、過去の裁判から休職の定義に関する判断を確認したいと思います。

1 休職の定義に関する裁判例

ア 昭和38年(ワ)190 仙台地裁判決 振興相互銀行事件  判決文抜粋

 さて休職制度は、所定の事由が発生した場合、被雇傭者を雇傭者との関係でその身分を保持したまま、右事由の存続する間労務の提供をなす権利義務を有しない状態に置くものであるから、特段の定めがない限り右所定の事由が消滅すれば、休職の効果も当然消滅すべきこととなると解すべきである。 

※休職とは、「社員の身分はそのままに、労働者の労務提供義務を免除するもの」としています。

イ 昭和43年(ワ)54 熊本地裁八代支部判決 学校法人白百合学園事件 判決文抜粋

 休職処分は、従業員を職務に従事させることが不能であるか若しくは適当でないなどの事由が生じた場合、その障害の継続する期間その従業員の地位を維持させながら職務従事を禁止し、その障害事由が消滅した場合は右従業員を復職させることができる処分であって(以下略)

※アとほぼ同趣旨ですが、休職は会社の処分であるとする点が異なります。

ウ 昭和43年(ネ)1117 東京高裁判決 三豊製作所事件 判決文抜粋

 けだし、休職を命ずるということは従業員に従事させることが不能であるか若しくは適当でない事由が生じた場合に、従業員の地位を保持させながら勤務のみを禁ずるものであるから、その事由の消滅によって当然復職すべきことが予定されているものというべく、また休職を命ずる場合に定められる休職期間も一応の休職の最大限度を定めるものにほかならないから、休職期間の満了前に休職の事由となった障害が消滅したときは、性質上休職は当然終了し復職せしむべきものであり、他方休職期間が満了しても休職の事由となった障害が消滅しない場合に休職期間が満了したとの一事を以って当然復職するという考え方は(中略)就業規則第91条第6号のような定めがある場合には採りえない。

※休職は、業務に従事させることが不能であるか不適切である場合に、従業員の地位を保持しながら勤務のみを禁ずるものとしています。

2 休職の定義のまとめ

 休職の定義は、前記のア~ウの判決文で確認出来ると思います。そこで、以下に休職の意味について整理してみます。

ア 休職は労働条件であること

 休職は、労働者の求めに応じて必ず適用しなければならない制度ではありません。もしも、休職制度が就業規則に規定していない会社(事業場)の場合には、私傷病の治療のため出勤できない状況が発生した場合、会社に申し出てまず、会社の特別休暇が取得できればそれを使い、次に保有する限りの年次有給休暇を取得し、その後も治療のために出勤が不能であれば、会社の承諾を得て欠勤をすることになります。そして、その欠勤期間が長引けば、解雇される又は諭旨退職となります。

 休職制度は、その様な性急な解雇は忍びないとして、会社に在籍のまま一定期間労務の提供を免除する制度です。もう少し厳密に言えば、休職とは「労務の提供が不能あるいは不適切とする就業規則所定の事由が生じた場合に、会社が労働者の就労を禁止する事」です。

 会社が仕事の提供をしなければならないのは、就業規則や労働契約に所定労働時間、休憩、休日等の定めがあるためです。この定めに反して会社が労働者を就労させず、ノーワーク・ノーペイとして所定の賃金を支払わないことは法律上出来ないこととなっています。※厳密に言えば、労働者には通常した場合に得られる賃金額(平均賃金の6割ではありません。)と同一額の請求権があるとされています。一方で、使用者の労働契約上の義務は「所定の賃金の支払い」に限られますから、労務の受領の義務はないと解されます。

 例えば重篤な私傷病により治療が必要な場合は、労働者は少なくとも完全な労務の提供ができないわけですから、使用者が就業規則所定の規定に従い、労働者に休職を命じ休職の事由がなくなるまでの間、出勤を禁止することとなります。他方、休職を命じた後に、労働者が復職の希望を申し出た場合には、元の業務に就くことが困難である場合でも、可能な限り配置転換により他の業務に就かせる必要があります。

イ 休職は就業規則の規定内容に左右されること

 そもそも会社に休職を設ける義務はありませんし、休職の定めをする場合でも、その内容を会社の必要に応じて定めればよいわけです。そして、休職は労働者の権利に属すると規定する必要はありませんが、一方で就業規則の所定の休職事由に該当すれば、会社は休職命令を出す必要があります。また、休職期間や休職期間中の賃金の支払いの有無、休職後の復職先等々、休職に付随する労働条件も就業規則への定め方次第と言えます。

○休職に関する裁判例

ア いわゆる起訴休職

(ア)昭和45年(ヨ)2403 東京地裁決定 石川島播磨重工業事件 地位保全仮処分申請事件

事件の概要は、逮捕勾留され起訴された者に対して会社が休職処分を行い、満了時に自然退職扱いとしたため、地位保全の仮処分申請を行った

決定は、本件休職処分は就業規則の解釈を誤ったものとして、無効とした

決定の理由は、

a 前示就業規則、休職規程および労働協約の休職に関する規定によれば、事故欠勤休職は、業務外傷病を除く、従業員の自己都合による長期欠勤という事態について、使用者が企業経営上雇用契約を維持しえず、解雇すべき場合(通常解雇相当な場合)に、なお一ケ月の休職期間を限って雇用契約の終了を猶予し、右期間内に休職事由(長期欠勤)が消滅すれば復職させるが、右期間満了までに休職事由が消滅しないときは、当然に雇用契約を終了させる制度であり、このような事故欠勤休職の趣旨、目的や効果からみると、規定上休職期間満了の効果として自然退職とされ、解雇とは異なるものとされているとはいえ、事故欠勤休職が事実上解雇猶予処分の機能をもつことは否定できない。

b 傷病欠勤による休職については休職期間が6ケ年とされ、1年の延長も可能とされているのに対比し、事故欠勤休職は、その休職期間が、解雇予告期間にも対応している、1ケ月というきわめて短期間であり、解雇猶予処分の性格を明瞭に示しているといえる。

c そうであれば、この種休職処分に付する時点においても、当該欠勤によって雇用関係を終了させることが妥当と認められる場合、あるいは通常解雇相当な場合であることを要すると解すべきである。さもないと、この種休職処分に付することにより、事実上解雇の制約を免れることになるからである。而して(シカシテ)、一般に労働者の自己都合による長期欠勤で、将来の就労の見通しもたたないようなときは、通常解雇を相当とする場合ということができる(現に債権者会社において、過去に事故欠勤休職に付し、退職した事例はいずれも通常解雇相当な事案と認めらる。)。

d 本件のような刑事事件による起訴、長期勾留という事態に対処するため、起訴休職制度を設けている企業も多いが、有罪判決あるまで労務の正常な提供の確保、職場秩序維持の見地から、雇用契約は存続させながら、労働者を就業から排除するというこの制度自体の合理性は一般に肯定することができる(起訴休職の休職期間について一定期間を定め、その期間満了と同時に退職とする規定をおくことは合理性を欠く)。

e 債権者会社のようにかかる起訴休職制度が設けられていない場合において、事故欠勤休職に付し、その効果として有罪判決前に短期間で雇用契約を当然終了させてしまうことは、起訴休職制度が存し、その適用がなされる場合と対比しても不均衡を免れえない。

f 以上の考察からすれば、本件のような刑事事件による逮捕・勾留のための長期にわたる就労不能について、形式的に「事故欠勤」に該当するものとしてした債務者の本件休職処分は就業規則の解釈、適用を誤ったものとして無効といわざるをえない。

(イ)昭和41年(ヨ)16 山口地裁判決 電電公社下関電報局事件 起訴休職無効

事件の概要は、職務外で起訴され休職処分に処されたが、その休職処分の無効を訴えたもの

判決は、本件休職処分は裁量権の濫用であり無効とした

判決の理由は、

a 休職処分が、事実上被休職者に休職期間中の就業を拒み、ひいてはその生活上に、相当の不利益を与えることが否めない以上、右裁量権の行使に当つては、休職制度の趣旨を逸脱しない相当性の限界を守るべきものであり、その裁量権の範囲には、自ら以上のような客観的制約が存するというべきである。

b 従って同条項にいわゆる事案軽微にして情状特に軽いものという意味は、単純に社会観念ないし公訴事実に科せられる法定刑の軽重のよつて解すべきものではなく、前記のような休職処分の本質ならびにその必要性に則し、判断するのが相当であつて、このような客観的基準に照らし、明らかに右例外条項に該当するとみられる事案について休職処分に付されたときは、右処分は裁量権の濫用として無効というべきである。

(ウ)平成9年(ワ)16844 東京地裁判決 判決文抜粋 全日本空輸事件(起訴休職規定の合理性)

 被告の就業規則37条5号及び39条2項は、従業員が起訴されたときは休職させる場合があり、賃金はその都度決定する旨を定めている。このような起訴休職の趣旨は、刑事事件で起訴された従業員をそのまま就業させると、職務内容又は公訴事実の内容によっては、職場秩序が乱されたり、企業の社会的信用が害され、また、当該従業員の労務の継続的な給付やき企業活動の円滑な遂行に障害が生ずることを避けることにあると認められる。

 したがって、従業員が起訴された事実のみで、形式的に起訴休職の規定の適用が認められるものではなく、職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無などの諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、被告の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあるか、あるいは当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、また、休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないことを要するというべきである。

イ 病気休職満了による自然退職

(ア)昭和58年(ワ)596 広島地裁判決 東洋シート事件 休職満了退職

事件の概要は、休職期間満了時に復職を申し出た者が復職を拒否し退職とされた事案

判決は、本件については自然退職の効果を主張することはできないとした

判決の理由は、

a 被告会社の就業規則上、業務外の傷病により欠勤し、3か月を経過しても治癒しないときは休職となり、右の場合における休職期間は6か月であること、休職期間満了前に休職理由が消滅したときには直ちに復職させること、復職することなく休職期間が満了となった場合は自然退職となる扱いであることが認められる。

b ところで、右のような自然退職の扱いは、休業期間満了時になお休職事由が消滅していない場合に、期間満了によって当然に復職したと解したうえで改めて使用者が当該従業員を解雇するとう迂遠な手続きを回避するものとして合理性を有するものではあるが、一方、休業期間満了前に従業員が自己の傷病が治癒したとして復職を申し出たのに対し、使用者側ではその治癒がいまだ十分でないとして復職を拒否し、結局旧表記感満了による自然退職に従業員を追い込むことになる恐れをなしとせず、したがって、自然退職扱いの合理性範囲を逸脱し、使用者の有する解雇権の行使を実質的に容易にする結果を招来することのないように配慮することが必要であり、このことは、本来病気の解雇権の行使を一定期間制限して、労働者の権利を保護しようとする制度であることを考えると、けだし当然であるというべきである。

c したがって、当該従業員が前職場に復帰できると使用者において判断しない限り、復帰させる義務を使用者が負担するものではなく、休業期間の満了により自動的に退職の効果が発生すると解することは、復職を申し出る従業員に対し、客観的に前職場に復帰できるまでに傷病が治癒したことの立証責任を負担させる結果になり、休職中の従業員の復職を実際上困難にする恐れが多分にあって相当でなく、使用者において当該従業員が復職することを認めることができない理由を具体的に主張立証する必要があるものと解するのが相当である。

 (なお、被告Yを除くその余の被告らは、使用者の労働者に対する安全配慮義務を理由に、被告会社には復職の判断を慎重にすべき義務があるとも主張するようであるが、本来右安全配慮義務とは、就労の提供が可能である労働者が労務に服する過程で生命及び健康等を害しないよう労務場所・機械その他の環境につき配慮すべき義務をいうのであって、安全配慮義務の名のもとに復職の機会を事実上制限することは許されないものというほかなく、右主張は失当である。

ウ 留学休職

昭和53年(ヨ)5305 東京地裁決定 決定理由抜粋 日本アジア航空事件

 就業規則45条によれば、同条に定める休職事由が発生した場合、被申請会社が従業員に対し休職処分を命じ得ることは明白である、そして同条6号にいう従業員の自己都合による休職申請については、同号が休職事由として「やむを得ない事情」と包括的に表現していることから明らかなごとく、その性質上種々の事由があり得るから、被申請会社が従業員の自己都合を理由とする休職申請につき承認すべき義務を負っているものとはいえず、休職申請を承認すべきか否かの裁量は被申請会社に許されているものと解される。

 ところで、従業員の自己都合による休職事由の一つである留学休職については特に運用基準45条中に承認基準が列挙されているが、これはあくまでも承認のための一応の方針を定めたものにすぎず、これをもって留学休職につき承認基準に合致した場合被申請会社は必ず承認すべき義務を負うものとは解されない。 

 

 

以上で休職に関する記述を終了します。

打ち間違いは、順次訂正するとして

次回は、「退職金」について記述します。