労働契約法の復習 第1条
労働契約法第1条 目的
第1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、または変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
○民法を復習する
①契約とは何か?
契約とは、契約当事者の意思の合致とされています。つまり、AがBに、大根1本を120円で売る旨をもちかけ、Bがこれに同意すれば契約が成立します。この場合の売り買いの意思の合致が契約そのものです。
②契約の成立の要件
契約は、申し込みと承諾により成立します。また、多くの場合契約の効力発生の要件には、書面その他が必要とされていませんので契約当事者の意思表示のみで契約が成立し得るわけです。
Aが君を時給900円で雇うよ・・・とBに持ちかけ
Bが分かりました、その条件で働きます・・・と回答(意思表示)すれば、労働契約が成立します
実は、この辺の法律上のメカニズムは労働基準法や労働契約法には規定がなく、民法にのみ規定があります。ただし、民法に規定があるのは、贈与契約他の典型契約のみであり、契約とは○○である・・・という条文はありません。また、労働契約法には、労使の意思の合致により労働契約が成立する(同法第6条)と規定されています。
民法では、第623条以下に雇用の規定があり、労働契約法においては、この第1条で「労働契約」の文言が条文にでてきます。
ところで、民法第623条には、「雇用は、当事者の一方(労働者)が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方(使用者)がこれ(労務の提供)に対してその報酬を与えることを約すことによって、その効力を生ずる。」と定義されています。 ※カッコ内は私の加筆です。つまり諾成双務有償契約です。
○労働契約法の第1条を詳しくみる
労働契約法第1条においては、上記の民法第623条の規定に基づき、
ア 労働契約(雇用契約)は、使用者及び労働者が自主的な交渉を行い締結すること
イ 労働契約は、使用者及び労働者の合意により成立し又は変更されること ※他の契約と同様に使用者が一方的に契約内容を変更できない・・・
ウ 労働契約法は、労働契約に関する基本的事項を定めている。これにより、労働条件の決定変更が円滑に行われるようにするため・・・※労働基準法、民法、均等法、パートタイム労働法等々も同様
エ 労働契約法は、労働条件の決定及び変更が円滑に行われるようにすることが目的
オ 同じく、労働契約法は「個別の労働契約の安定に資する」ことが目的
と、その目的を規定しています。もちろん、労働基準法をはじめその他の法律により詳細な労働契約の規制を行っています。
○個別的労働関係と集団的労働関係
言わずもがなですが、憲法第28条では、労働者(条文上は「勤労者」)の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しています。もちろん労働組合法によりこれが具現化され、労働条件変更の団体交渉が行われているわけですが、この場合は「労働協約」という形式によって加入している組合員全体と使用者(または使用者の団体)という当事者間の契約関係となります。
ところで、組合員の個別労働条件と労働協約(団体契約条件)の優劣をみると、一般に労働協約の効力が優っているとされていることが特筆すべきかと思います。
○一般的な労働契約成立の経緯
それでは、一般的には労働契約はどのようにして成立しているのでしょうか?
ア 使用者の労働者募集
会社や事業所は、使用者として労働者を採用予定である旨広告します。ハローワークや民間の求人広告会社、新聞社やフリーペパー、自社のホームページ等で公募します。
イ 就業希望労働者の応募
上記の使用者の公募に対し、労働者が応募します。さて、これでめでたく労働契約の成立・・・という訳ではありません。上記アの使用者の労働者公募は、使用者側の労働契約の申し込みにはあたらず、「就労希望の労働者の労働契約申し込みの勧誘」と解されています。従って、一般に労働者の応募によりただちに労働契約が成立する訳ではありません。その後、使用者側が独断で個々の応募者の労働契約申し込みに対する承諾の可否を判断し、それぞれの応募者に「採用(不採用)通知」の名称で意思表示を行います。
このあたりの手続きの慣習のあり方が、使用者と労働者の力関係の不平等の一因かもしれません。前述の様に、「労使の自主的な交渉」とは乖離しています。もちろん「ヘッドハンティング」などの一部の例外はありますが・・・・
それでは、続きはまた次回に・・・
第1条