労働契約法の復習 第11条

2015年04月16日 10:13

労働契約法第11条 就業規則の変更の手続きに関しては、労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条及び第90条の定めるところによる。

○労働基準法第89条の確認

労働基準法第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一 始業及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項

三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の時期に関する事項

四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金の定めをする場合においては、これに関する事項

五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

 ここで、上記の第1号から第3号までは、就業規則を作成する場合に必ず記載しなければならない事項(いわゆる絶対的記載事項)であり、第3号の2から第9号までは、定めをする場合に限り記載する事項(相対的記載事項)となっています。また、一部の労働者ごとに適用条件が異なる場合には、その労働条件が異なる労働者ごとに規定を変えて記載するか、労働条件が異なる労働者ごとに別規程として定める必要があります。この場合、例えば正社員用の就業規則のみ作成・届出を行っており、パート労働者の労働条件は個別の労働契約で定めていた場合には、パート労働者にも正社員の労働条件(就業規則による有利な労働条件)が適用されることが起こります。このことは、労働契約法第7条のところで既に確認しました。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場の定義についても既に記述していますが、「一時的に10人を下回っても、通年で10人以上の事業場のこと」であり、この場合には、アルバイト等の臨時労働者や事業場の責任者等の管理監督者もこの人数に加算します。」

○就業規則に記載する事項の号別確認

ア 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項

 始業・終業時刻とは、所定労働時間の開始時刻と終了時刻を定めるということですが、「毎月定める勤務表による」等の定めをすることも可能です。特に、早番、中番、遅番、準夜勤、夜勤等々の勤務シフトにより24時間体制で交替勤務する事業場(病院の看護師等)では、個人ごとに、また特定日ごとに将来の勤務内容が特定されていればよい訳です。また、勤務が日付をまたぐ様な場合には、始業時刻の属する日の一の勤務として取り扱われます。

 休憩時間については、少なくとも労働基準法第34条の実働6時間以上で45分以上、8時間を超える実働で60分以上の規定を設ける必要があります。この休憩は、例えば12:00から12:45を休憩時間とする等の規定が好ましいですが、就労時間中に交替で45分の休憩を与える等の規定でも差し支えありません。また、休憩は勤務時間の途中であれば、分割して与えることも可能ですから、その様な規定もできます。

 休日は、労働基準法第35条により、「毎週1日以上若しくは4週4日以上の休日」を与える旨の規定が必要です。ここで、週とは就業規則に起算曜日を定める場合(毎週月曜から日曜日等)にはその規定に従い、特段の定めをしない場合には、暦週(毎週日曜日から土曜日)をもって1週間とします。また、4週4日以上の休日の定めをする場合にも、その起算日を特定する必要があります。さらに、休日は、土曜日・日曜日・祝祭日とは無関係であり、就業規則で定められる特定日がその事業場の休日となります。

 蛇足ですが、休日とは「労務の提供義務が免除される日」のことです。また、休日とは原則暦日(午前零時から午後24時までの24時間)のことであり、一部の例外を除いて単なる24時間は、休日として取り扱われません。夜勤明けの日などの取り扱いの際に留意が必要です。

 休暇は、労働基準法に規定される、年次有給休暇(労働基準法第39条)や産前産後の休暇(労働基準法第64条第1項)、育児介護休業等の法令の定めによる休暇を含め、忌引きや結婚休暇等の会社独自の慶弔休暇等、事業場の労働者に適用するすべての休暇を定める必要があります。ところで、休暇を有給にするか無給にするかについては、年次有給休暇等の法令に定めがある場合を除き、就業規則に定める規定内容によります。もちろん、従来有給としていた生理休暇を無給とする旨の規定変更を行えば、不利益変更に該当しますので留意が必要です。

 休暇とは、本来労働日である日について、労働者の請求等により労働義務を免除する日のことです。したがって、年次有給休暇を休日に取得することは出来ない訳ですが、この点を誤解している場合もまれに見受けられます。

 就業時転換に関する事項とは、工場などで24時間操業を行う際に、業務に支障が起きないように、手順・引継ぎ等について、定めをするものです。

イ 臨時の賃金を除く賃金の決定、計算、支払いの方法、賃金の締め切り、支払いの方法

 賃金の支払いについては、労働基準法第24条、第25条、第26条、第28条等に規定があります。ここでは、同法第24条を見てみます。

労働基準法第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を決めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。 

a 臨時の賃金とは何か?

 労働基準法施行規則第8条 法第24条第2項但し書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。

一 一箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当

二 一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当

三 一箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当

b 賃金の決定、計算、支払いの方法

 賃金の決定・計算方法は、時給、日給、週給、月給、年俸、歩合等様々あります。いずれの方法をとっても、1時間当たりの賃金単価が最低賃金を下回る定めをすることはできませんし、実際の支払額が最低賃金を下回ってもいけません。賃金の計算方法は、時間外労働分や深夜労働分及び休日出勤分の割り増し賃金、その他法令の規定を最低基準として定める必要があります。年次有給休暇を取得した際の賃金等、賃金の支払いが生じるすべての場合をもれなく規定します。また、賃金の支払いの方法は、原則、通貨で直接労働者にその全額を手渡しで支払う必要があります。しかし、現在は労働者の指定する労働者本人名義の口座に振り込む方法で支払う方法が一般的です。賃金の支払を振込み等の方法で行うことは、労働基準法施行規則第7条の2に規定がありますが、労働者の同意が前提となっています。ところで、賃金を支払う際に、振り込み手数料を控除したり、制服代金、昼食代金その他の費用を当然に賃金から控除することは出来ません。労働基準法第24条に規定する労使協定の締結によって可能となります。この協定は、監督署への届出義務がありませんが労働基準法第106条の規定により労働者に周知することが必要ですし、きちんと保管する義務(同法109条)があります。

 この項目では、家族手当、通勤手当等の支払いをする場合にも規定が必要です。

 ところで、労働基準法第24条但し書の労使協定を締結すれば、制限なく賃金控除が出来る訳ではありません。現物給付の脱法措置としての賃金控除(製品等の労働者への販売代金控除)や一賃金支払い時期の賃金額の75%以上の額の控除はできない(民法第510条及び民事執行法第52条)こととなっています。

c 賃金の締切り、支払いの時期、昇給に関する事項

 賃金の締切りは、労働基準法第24条第2項の毎月払いの規定により、毎週土曜日、毎月20日等少なくとも1ヶ月以内の期間内で定める必要があります。また、支払いの時期についても、締切り時期と関連して、毎月1回以上の特定の日を定める必要があります。この支払い日については、例えば「毎月第3月曜日等」の規定による場合は、その月により支払日が変化するため、同法24条第2項の一定期日に該当しないとされています。一方、昇給に関する規定は、昇給期間、昇給額又は昇給額の決定方法、若しくは昇給なし等の規定をすることとなっています。

ウ 退職に関する事項

 退職に関する事項は、契約期間満了による退職、解雇する場合はその理由手続き、労働者の申請による合意退職の手続き等を定める必要があります。また、定年退職の場合、休職期間満了の場合、その他労働契約が終了する際の全てのケースを想定して規定しておく必要があります。

エ 退職手当の定めをする場合の適用労働者、退職金の額の決定・計算・支払いの時期

 退職金は、法律上当然に使用者に支払い義務があるものではありません。退職金規程等就業規則に定めをした場合にはじめて、それが労働契約の内容となり、使用者に支払い義務が生じます。退職金についても、過去に裁判で数多く争われていますので、退職金を支給する場合には、あいまいな点を排除した規定を設ける必要があります。

オ 臨時の賃金等及び最低賃金額の定め

 臨時の賃金とは、先の精勤手当等(労働基準法施行規則第8条)及び賞与の規定であり、これも退職金と同様に使用者に法令で支払いを義務付けていませんが、支払いをする場合には就業規則に規定する必要があります。他方、最低賃金額の定めはあまり一般的ではありません。

カ 食費、作業用品、その他の実費負担

 会社の制服は、貸し出しの場合と買取の場合がありますが、労働者に負担させる場合には、規定が必要です。ただし、一般に業務に付随して使用する備品、工具、消耗品、設備等については、全額使用者側で負担すべきものと思います。それらは、売り上げ原価に相当する部分ですし、使用者側に報償責任があり危険負担をすべき立場にあるからです。※生産工場等で、不良品を出した労働者に対して、その不良品分の原価分の賃金を控除する等は出来ない訳です。他方で、食事の提供までも使用者に義務付けがありませんから、労働者に会社の用意した食事代金の支払いを求めることは当然のことです。そこで、食事代金分の控除をする場合にも就業規則に規定が必要です。

キ 安全・衛生に関する規定

 危険な機械や特に衛生面で留意が必要な業務(弁当の製造など)は勿論、その他の事業についても作業面でのマニュアルを作成することが一般的です。施設管理、防災、その他の緊急事態、通常の作業時の安産管理等様々な規程類の作成が行われます。

ク 職業訓練に関する規定 

 労働安全衛生法では、雇い入れ時の教育や職長教育(同法第59条、第60条)を義務付けています。また、同法第60条の2には、総合的な安全衛生教育をするように定めています(努力義務)。定期的な職業訓練の実施と就業規則への規定が必要となります。

ケ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定め

 労働者災害保険法の災害補償の規定により、労働基準法の使用者の補償義務の免責については、すでに記述しました。ここでいう、災害補償に関する規定は、労災保険等の規定を上回る補償を定める場合や、休日等に怪我した際の治療費などの支給規定を指しています。

コ 表彰および制裁の定め(種類及び程度)

 表彰の定めは、使用者が労働者の際立った成績、功績、その他の特筆すべき点を処遇するもので、ルールとして決めておく場合には、就業規則に規定します。問題は、制裁の定めです。就業規則の懲戒規定においても刑法の法理が適用され、「罪刑法定主義」「不遡及の原則」「一事不再理」等の原則が重視されます。また、実際の運用に際しては、行為と処分の均衡や他者の類似の行為に対する処分との均衡等が求められます。

サ 労働者のすべてに適用される事項

 旅費に関する事項、休職に関する事項、社内預金規程、保養所の利用に関する規定等の労働者のすべてに関わる可能性がある規定も、本号により定めをすることとなっています。

○労働基準法第90条の確認

労働基準法第90条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。

2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

 就業規則の作成又は変更時の手続きについては、すでに述べた通りです。ここでは、就業規則の届出等に関し過去に争いとなった裁判例をみてみます。

ア 昭和39年(ネ)846 大阪高裁判決 コクヨ事件(ユニオンショップによる解雇)

事件の概要は、ユニオンショップにより解雇された労働者が、就業規則中にユニオンショップによる解雇は就業規則に定めがなく、無効であると主張したもの

判決は、ユニオンショップに基づく解雇が就業規則に定められていない場合においても、就業規則の面でこれを制限したものとみるべきではない

判決の理由は、

a 労働基準法第89条には使用者が就業規則を作成しまたはこれを変更した場合には当該行政官庁に届け出るべき旨が規定せられているけれども、右届出手続の履践は作成または変更にかかる就業規則の効力発生要件をなすものではない

b 使用者においてその事業場の多数の労働者に共通な就業に関する規則を定めこれを就業規則として表示した従業員一般をしてその存在および内容を周知せしめ得るに足る相当な方法を講じた時は、その時において就業規則として妥当し関係当事者を一般的に拘束する効力を生ずるに至るものと解せられる

c 本件解雇基準を定めた現行規定の部分は遅くとも昭和37年2月末日までには就業規則としての効力をもって実施せられていたものと認められる

d ユニオンショップ協定(労働者を採用するに当たっては、労働組合に加入することを条件とし、労働組合を脱退し、若しくは除名された労働者を解雇する旨を定めた過半数労働組合と会社との契約)に基づく解雇基準の設定は、労働組合対使用者という集団的な関係の中において、どちらかといえば組合の組織維持のために結ばれるものであって、本来使用者がその事業経営上だけの立場から一方的に定める就業規則とはおのずから定立の面を異にする

e ユニオンショップ協定と就業規則の両者は直接には相関連するところがなく、いわばユニオンショップ条項は就業規則の規定の枠外で認められる問題であるから、ユニオンショップに基づく解雇が就業規則に定められていない場合においても、就業規則の面でこれを制限したものとみるべきでない

イ 昭和37年(ワ)453 岡山地裁判決 片山工業事件(就業規則の規定に基づく解雇)

事件の概要は、懲戒解雇された労働者が、労働基準法所定の手続の上で不備があるとして就業規則の無効、引いては解雇無効を主張したもの(労働者の時間外労働命令の不服従)

判決は、労働者の請求を容認した

判決の理由は

a 労働基準法第90条第1項の趣旨は、就業規則の制定・変更や内容の決定を使用者の欲するままに放置するときは、劣悪な労働条件と過酷な制裁が課せられる危険があるところから、服務規律その他の労働条件の決定および経営権の行使について労働者に意見を表明する機会を与えて使用者の専恣(センシ、ほしいままにすること)を防止するとともに、労働者の労働条件に対する関心をたかめて組合運動をつうじての労働条件の協約化を指向するにあるものというべきである

b 労働基準法が労働条件の対等決定(同法2条1項)、労使双方による労働条件の向上の努力(第1条第2項)を要望している点をも考え合わせると、就業規則の制定・変更についての労働者の意見の表現はきわめて重要な意味をもつものといわなければならない

c 同法第90条第1項は単なる行政上の取締規定と解すべきではなく、使用者が一方的に制定・変更する就業規則が労働者をも拘束する法的規範としての効力を発生するための有効要件を規定したものと解するのが相当である※就業規則の届けでの有無は、就業規則の規定の合理性判断の一つとされています。

d 労働基準法は使用者が就業規則を作成し、変更したときは、行政官庁に届け出るべきこと(同法第89条第1項)および右届出には、労働者の意見を記した書面を添付すべきこと(同法90条2項)を定めているけれども、就業規則は使用者が労働者の意見を聴いて作成し、後記説示のようにこれを労働者に周知させたときに効力を生ずるものと解すべきである

e 就業規則の届けでは、国の労働問題に対する後見的機能を遂行する必要上要請される性質のものであるから、右届出義務を定めた前記の規定は、取締規定にとどまり、これを欠いても就業規則の効力には影響のないものと解すべきである

f 労働基準法は、就業規則の効力発生の手続(法律でいうと公布にあたるもの)について明文の規定を設けていないが、就業規則が労働者を拘束する法的規範としての効力を持つ以上は、それが労働者に周知されなければならないことは条理上当然のことであって、労働者に周知されなていない就業規則は右の様な効力を発生するに由ない(ヨシナイ)ものといわなければならない

g 就業規則の周知の方法は、労働基準法に定められていない(同法106条の周知義務は、直接これを定めたものと解することはできない)のであるから、実質的に労働者に周知させるに足りるだけの方法をとれば足り、必ずしも労働基準法第106条所定の周知方法によらなければならないものではない

h 懲戒事由および懲戒手続について就業規則に定めるところがある場合にはひとたび定立された就業規則は客観的な法規範として使用者労働者双方を拘束するにいたるものであるから、使用者は自らその有する懲戒権の行使を就業規則所定の範囲に制限したものというべく、したがって就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する事実がなければ有効に解雇することができないというべきである

 労働契約法第16条においては、「解雇が合理的な理由を欠き、社会通念上相当」でなければ無効であるとしています。罪刑法定主義に基づき、就業規則における懲戒解雇事由の規定が合理的であり、又は普通解雇事由の規定が合理的であり、且つ労働者がそれらの解雇事由に相当する行いをした場合には、解雇の理由が合理的であると判断されることとなります。

それでは、続きはまた次回に・・・

第11条