労働契約法の復習 第12条
労働契約法第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
従来、秋北バス事件の裁判において、「所属する労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていと否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるというべきである。」と判示されているところです。(昭和43年最高裁大法廷判決、昭和40年(オ)145)
○就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約
就業規則と個別の労働契約の優劣の関係(労働契約の労働条件が有利な場合は労働契約の内容を適用する。)は既に記述しました。また、労働協約と就業規則の優劣の関係も同様に記述しました。法令と個別の労働契約、労働協約、就業規則の関係も既に記述しました。ここでは、過半数労働組合が組織されている場合において、実際に就業規則を作成又は変更する際の留意点について考察したいと思います。
就業規則の作成又は変更手順
手順1:労働基準法第89条、その他労働条件を規定した同法の条文を踏まえ、法令違反が無いことを個々の規定ごとにチェックする。
手順2:均等法、パートタイム労働法、最低賃金法、労働安全衛生法等の労働条件を規定した条文に照らし、作成又は変更した就業規則の規定が問題ないかをチェックする。
手順3:作成又は変更した就業規則の規定が、既存の労働協約の同一の規定を下回らない労働条件かどうかを労働組合(複数組合が存する場合にはそれぞれの組合)と協議する。
手順4:労働協約の規定との齟齬がある場合には、労働協約を変更し、又は問題がある就業規則の規定を見直す。
手順5:過半数組合の意見書を添付し所轄の監督署に作成または変更届を行い、同時に労働基準法第106条に従い労働者に周知させるための手続きを行う。
手順6:就業規則の規定に達しない労働条件を定めた個別の労働契約の有無を確認し、もしも存在した場合には、該当する労働者に就業規則の規定が労働条件となる旨説明するか、若しくは、就業規則の規定を下回る部分を修正した新たな労働条件の明示を書面で行う。※この場合、後者を推奨します。
以上は、性善説による就業規則の作成又は変更手順の説明です。
○使用者が就業規則をみせない場合の労働者側の対応策
労働者が就業規則違反の労働条件の存在について使用者に対し主張を試みても、使用者が就業規則をみせてくれないということが起こり得ます。特に、労働者の退職に伴って既に個別労働紛争に発展している場合には、使用者が労働者の主張の根拠を隠すために、その労働者の要求について不作為または拒否の意思を示すことは容易に想像できます。
その場合に労働者は、いったいどのような対応策を講じれば良いのでしょうか?
事業場を管轄する監督署に赴けば、届出てある就業規則がみられると考えがちですが、監督署は届け出られている就業規則を簡単には開示してくれません。※都道府県の労働局に情報開示請求する必要があります。また、就業規則の届出の有無は、その効力と無関係なのは既に記述しました。
そこで、別の方法をとることになりますが、そもそも使用者は労働基準法第106条により就業規則を労働者に周知する義務を負っていますから、事業場を管轄する労働基準監督書に、労働基準法第104条の規定により使用者の法令違反(労働基準法第106条違反)の申告を行います。この、労働基準法による申告は、警察の被害届のように法令違反(事件)の認知という意味がありますから、監督官は事実確認を法令(労働基準法等)に基づいて行うことになります。もちろん、申告の受理にあたっては事前の労働相談が行われ、相談対象の労働者の主張内容が真実かどうか、十分に事実確認が行われることはもちろんです。その結果、監督官から使用者に対し指導や勧告が行われ、使用者は是正報告を行うこととなります。※この方法でも希望通り100%の結果が得られるかどうか疑問が残ります。
以上が性悪説による説明となります。繰り返しになりますが、労働契約(就業規則、労働協約を含め)に関して最も重要なことは、労使双方の「信義誠実の原則と法令等の遵守義務の履行」(労働基準法第2条第2項、民法第2条第2項)です。初めから、労使ともに、法令無視・契約無視の姿勢では、事業経営はうまく行きません。
労働基準法第2条第2項 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
○就業規則に達しない労働条件は就業規則の規定をもって労働条件とする
労働契約法第12条の規定により、個別の労働契約の内容に関わらず、労働条件が下回る部分のみ就業規則の規定が労働条件となります。仮に、使用者が就業規則の規定(一例として時給950円)を下回る賃金の支払いを労働者Aの労働条件(一例として時給900円)としていた場合、労働者Aは「毎回の賃金の支払日の翌日から起算して2年間は、その差額分の支払いを利息(法定利息)を付して請求することが可能」です。
この続きは次回に・・・
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