労働契約法の復習 第14条

2015年04月17日 13:45

労働契約法第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

○出向を含む人事異動の意味は何か?

ア 人事異動の意味

 人事異動(配置転換)は労働契約の内容であり、就業規則に規定されていれば、原則的に個別の労働者の同意がなく異動を命ずることが出来ると解されています。

 この人事異動(配転)には、勤務場所の観点で見た場合の、同一事業場内の配置転換、勤務場所の変更を伴う配置転換、また、業務内容の観点からは、職位や職種の変更を伴う配置転換、企業別の観点からは、在籍のまま別法人に配置転換する在籍出向、別法人に移籍してしまう移籍出向(転籍)等があります。

 この労働契約法第14条でいうところの出向とは、いわゆる「在籍出向」を指しています。

イ この配置転換(人事異動)に関する法的な根拠を裁判例で確認してみます。

(ア)裁判例の確認 昭和58年(ワ)1404 神戸地裁判決 川崎重工事件

裁判の概要は、配転を拒否して通常解雇された労働者が解雇無効を訴えたもの

判決は、解雇権の濫用には当たらないとした

判決の理由は、

a 労働者の職務内容(職種)及び勤務場所は労働条件の内容をなすものであるから、当該労働契約で合意した範囲を超えてこれを一方的に変更することはできないが、(就業規則に規定するなどして)労働契約における合意の範囲内と認められる限り、個別的、具体的な同意がなくても配転を命じ得るというべきである

b 会社における従業員の採用方法、原告(労働者)の職種、会社の配転の実情及び就業規則の内容等に前記争いのない会社の規模等を併せ考えると、原告は労働契約において、勤務場所の指定変更について会社に委ねられる旨の合意をしたものというべく、被告は原告の個別的な同意がなくても勤務場所の変更を命じることができるものというべきである

c このことは、住居の移動を伴う遠隔地配転の場合であっても異ならない

もっとも、このような遠隔地配転は、労働者の生活に少なからぬ影響を及ぼすものであるから無制約なものではなく、それが通常受忍すべき範囲を著しく超えるときは信義則違反ないしは人事権の濫用として配転命令が無効となるものと解される

d 被告は原告に、対し個別的同意がなくても配転を命じることができるのであるが、本件配転のように住居の移動を伴う配転は労働者の生活関係に少なからぬ影響を及ぼすから、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合、または業務上の必要が存する場合であっても、当該命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、もしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情のある場合には、人事権の濫用として配転命令が無効となる

(イ)昭和59年(オ)1318 最高裁第二小法定判決 東亜ペイント事件

事件の概要は、神戸から名古屋に転勤を命じられた労働者が転勤命令を拒否し、それを理由として懲戒解雇されたが、転勤命令が権利濫用と訴えたもの

判決は、本件転勤命令は権利濫用にあたらないとした

判決理由は、

a 上告会社の労働協約及び就業規則には、上告会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に上告会社では、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、被上告人は大学卒業資格の営業担当者として上告会社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされてなかったという前記事情の下においては、上告会社は個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである

b 使用者は業務上の必要に応じて、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもない

c 転勤の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に変え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適性配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務力の適性配置、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである

○在籍出向とは何か?

 在籍出向とは、企業間の出向契約に基づき、自社に在籍しながら他社の従業員としての地位も取得し、他社の指揮命令に従って労務の提供を行うものです。在籍出向の場合においても、就業規則等の規定によって、あらかじめ労働者が包括的に承諾している場合には、出向命令に応じる義務があると解されています。実際には、出向契約の内容は様々であり一律に論ずることは難しい面があります。

それでは、通常の配転の場合と同様に、裁判例でその定義や効力の根拠などをみてみます。

ア 裁判例でみる在籍出向

(ア)平成12年(ネ)796 大阪高裁判決 川崎製鉄出向事件

事件の概要は、製鉄会社に勤務していた労働者が出向命令を拒否し、その無効を訴えたもの

判決は、出向命令は有効であるとした

判決理由は、

a 本件出向のように、就業規則や労働協約において、業務上の必要があるときには出向を命ずることができる旨の規定があり、それらを受けて細則を定めた出向協定が存在し、しかも過去十数年にわたって相当数の被控訴人従業員らが出向命令に服しており、さらに控訴人らの属する労働組合による出向了承の機関決定もが存在する場合には、出向を命ずることが当該労働組合との関係において、次のような人事権の濫用に当たると見うる事情がない限り、当該出向は法律上の正当性を具備する有効なものというべきである

b 使用者が出向を命ずる場合は、出向について相当の業務上の必要性がなければならないのはもちろん、出向先の労働条件が通勤事情等をも付随的に考慮して出向先のそれに比べて著しく劣悪なものとなるか否か、対象者の人選が合理性を有し妥当なものであるか否か、出向の際の手続きに関する労使間の協定が遵守されているか否か等の諸点を総合考慮して、出向命令が人事権の濫用に当たると解されるときには、当該出向命令は無効というべきである

(イ)昭和61年(ヨ)2246 東京地裁決定 ダウ・ケミカル日本事件

事件の概要は、同一資本系列の別会社に譲渡された工場への転勤(事実上の出向)命令を拒否し、懲戒解雇された労働者が地位保全の仮処分申請を行ったもの

決定は、労働者の請求を認め「依然として、従業員としての地位がある」とした

決定の理由は、

a 使用者が従業員に対して出向を命ずるには当該従業員の承諾その他これを法律上正当付ける特段の根拠が必要であると解すべきところ、被申請人の就業規則の規定(疎乙第三号証)には出向に関しては何らの定めもしておらず、また、申請人の陳述書(である疎甲第四号)によれば、被申請人の従業員で衣浦工場に勤務変更となった者はいるが、これは採用に際して同工場で勤務することが条件となっていたり、あるいは本人の同意を得た上でのことであって、被申請人の女子従業員で衣浦工場に勤務変更となった先例はなく、申請人が初めてであること、本件配転命令(である疎乙第三二号証)によると、本件配転命令の内容は「本日付をもって。衣浦工場・管理部門(経理・総務)において、秘書として勤務することを命じます。遅くとも、本日24日迄に上記勤務場所に赴任することを命じます。」と記載されているのみで、その他の労働条件については何らの記載がなく、また、本件疎明資料によれば、被申請人から申請人に対し、これら労働条件について書面または口頭によって何らの説明もされていないこと、以上の事実を一応認めることができ、この認定を左右するに足りる疎明はない

b 本件全疎明資料によっても、本件配転命令を他に法律上根拠付ける事実を見出すこともできない

c してみると、本件配転命令はその根拠なくしてなされたものである点において、また、その権利を濫用してなされたものである点においても無効であるというべきであり、これを前提としてなされた本件懲戒解雇は無効というべきである

労働契約法第14条は、過去の裁判で示された、出向命令の根拠やその有効性の判断を明文化したものです。

それでは、この続きは次回に・・・

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