労働契約法の復習 第16条

2015年04月20日 13:46

労働契約法第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

○解雇とは何か?

 一般に、労働契約を解除するケースは次の3種類があります。

ア 労働者及び使用者間で合意により労働契約を解除する場合

労働者及び使用者が合意により労働契約を解除する場合は、労働基準法の解雇予告制度の適用がありませんし、労働契約法第16条(本条)の適用もありません。ところで、就業規則に規定すべき事項として、労働基準法第89条第1項第3号に「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」として、労働者が退職する場合の手続き等を規定すべしと定められています。

この場合の規定例として。「退職する場合には、所定の退職願いに記入し、所属長経由で本社人事部に送付しなければならい。この場合には、退職を希望する日の少なくとも1ヶ月前に当該退職願いを送付すること。」等の退職に必要な手続きを定めておきます。また、合意による労働契約の解除には、労働者が希望して退職願いを提出する場合の他、使用者が退職希望者を募り労働者が応募する場合、使用者が個々の労働者に退職を勧奨し労働者が応じる場合等もあります。

イ 労働者が退職を一方的に宣言し、労働契約を解除する場合(辞職)

 民法第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 期間の定めがある労働契約の解除に関しては、労働契約法第17条(次条)で記述します。そこで、期間の定めがない場合ですが、通常、労働基準法の規定により、1ヶ月以内の期間を定めて定期的に賃金を支払う必要がありますから、民法第627条第2項の規定が適用されます。同項の規定は、例えば賃金計算期間が毎月21日から翌月20までとすると、退職(辞職)の申し出を明日(4月21日)に申し入れると、5月21以降の退職について労働契約の解除を使用者に告知することができ、そして5月21日に労働契約が終了するとしています。実際には、退職の申し出を就業規則において少なくとも1ヶ月前に申し出なければならないと規定している場合には、通常その規定に従って退職を申し出ることとなります。この場合、「会社の許可なく退職できない。」或いは、「退職する場合には、1年以前に申し出なければならない。」といった規定は、無効と解されています。

ウ 使用者が一方的に労働契約を解除する場合(解雇)

解雇は、使用者が労働契約を一方的に解除することであり、労働基準法の解雇予告制度の制限を受けます。従って、労働者を即時解雇することはできず、解雇を予告してから30日後に解雇することができます。(ただし、解雇予告手当を短縮日分支払えば可能です。)

○裁判例による希望退職の事例確認

ア 昭和46年(ワ)9309 ファースト商事事件

 被告会社の就業規則第35条に、依願退職の場合には、15日以上以前に届出なければならない旨の規定があることは、当事者間に争いない。しかし、右規定は、その文言からみて、従業員から依願退職の意思表示がなされたときは、被告の承諾がなくても、15日後にはその効力を発生する旨の依願退職の効力発生要件を定めたものと解することはできない。むしろ右規定は、従業員から依願退職の申し出がなされた場合には、被告は申し出の日から15日間は承諾を拒むことができることを定めたものと解するのが相当である。そうすると、原告の右依願退職の申し出の効果が発生する日は、民法の原則によって解決しなければならない。

被告会社の給料が前月21日から当月20日までの1ヶ月分を毎月25日に支払う約であることは、当事者間に争いない。これによれば、原告の右依願退職の申出に対し、被告の承諾のない限り、原則の退職の効果が発生する日は、7月21日ということになる(民法第627条第2項)。

イ 昭和50年(ワ)9187 東京地裁判決 高野メリヤス事件

事件の概要は、係長以上の役付者は6ヶ月以前の退職願いの届出、会社の許可を必要とする旨の就業規則を有する会社の企画係長が、退職届出を提出後3ヶ月後に退職し、退職金を請求したもの

判決は、退職に会社の許可を要するとする部分は効力を有しないとした

判決の理由は、

a 民法第627条は、期間の定めのない雇用契約について、労働者が突然解雇されることによってその生活の安定が脅かされることを防止し、合わせて使用者が労働者に突然辞職されることによってその業務に支障を来す結果が生じることを避ける趣旨の規定であるところ、労働基準法は、前者(解雇)については、予告期間を延長している(解雇予告制度、労働基準法第20条。民法の2週間を30日に延長している。)が、後者(辞職)については何ら規定を設けていない。

b 法(労働基準法)は、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排除して労働者の解約の自由を保障しようしているものとみられ、このような観点からみるときは、民法第627条の予告期間は、使用者のためにこれを延長できないものと解するのが相当である。

従って、変更された就業規則第30条の規定は、予告期間の点につき、民法第627条に抵触しない範囲でのみ(たとえば、前記の例の場合)有効だと解すべく、その限りでは、同条項は合理的なものとして、個々の労働者の同意の有無にかかわらず、適用を妨げられないというべきである。

c 同規定によれば、退職には会社の許可を得なければならないことになっているが(この点は旧規定でも同じ。)、このように解約申入れの効力発生を使用者の許可ない承認にかからせることを許容すると、労働者は使用者の許可ないし承認がないかぎり退職できないことになり、労働者の解約の事由を制約する結果となること、前記の予告期間の延長の場合よりも顕著であるから、とくに法令上許容されているとみられる場合を除いては、退職には会社の許可を要するとする部分は効力を有しないと解すべきである。

○労働契約法第16条の解雇の有効性の判断

解雇は、懲戒処分の延長上にあるとも言えます。つまり、企業秩序を乱した労働者に対し、企業は経営権や契約内容を根拠として、最も重い懲戒処分として労働者を解雇することができます。このことは、すでに懲戒権のところで確認しました。そこで、解雇が有効であるとされる「客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当である認められる場合」について、裁判例で確認したいと思います。

解雇の有効性の裁判事例

ア 普通解雇

平成23年(ワ)12595 東京地裁判決

事件の概要は、説明と異なる労働契約書への署名を拒否した教員が試用期間中に解雇され、損害賠償を求めたもの

判決は、解雇無効、学校の損害賠償責任を認めた

判決の理由は、

a 被告は、採用面接を経て原告を採用することとし、平成22年10月25日以降、原告を視能訓練士科教員として実際に稼働させてその労務提供を受け、かつ、平成23年1月分に至るまで、その間の労務提供に対する賃金を支払っている。そして、被告作成に係る採用証明書においても原告を平成22年10月25日雇い入れたとする記載があるほか、被告は、原告について、雇用関係のあるものについてされるべき解雇をしている。

b 被告は、労働契約書が作成されていないことを指摘して労働契約は結ばれていない旨主張するが、上記判示の点に照らすと、上記限度では労働契約は成立していたものと認めるのが相当であり、これに反する被告の主張は採用することができない。

c 被告の就業規則には本件規定(試用期間の規定と試用期間中の解雇の規定)があるところ、被告の上記所為は、試用期間中、使用者たる被告が本件規定に基づき留保していた解約権を行使する趣旨に出たものとみることができ、かかる認定を左右するに足りる証拠はない。もっとも、留保解約権の行使も、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解される。

d 上記解雇予告通知書に基づく解雇は、上記認定の経緯に照らし、早急に過ぎたものと評価せざるを得ないところであって、かつまた、原告が署名を拒んだのは、原告被告間の賃金という労働契約の基本的要素に係る問題に出たものであったことにも照らすと、上記解雇が、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得るものとみることは困難というべきである。

e 他に的確な指摘のない本件においては、被告は、不法行為に基づき、これによって原告に生じた損害をすべき責があると認めるのが相当である。

イ 懲戒解雇

平成16年受918 最高裁第二小法廷判決

事件の概要は、暴行事件から7年以上経過後の諭旨退職、その後の懲戒解雇につき、無効と訴えたもの

判決は、諭旨退職・懲戒解雇処分とも無効とされた

判決の理由は、

a 使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

b 本件諭旨退職処分は本件各事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ、被上告人においては、A課長代理が10月26日事件及び2月10日事件についての警察及び検察庁に被害届や告訴状を提出していたことからこれらの捜査の結果を待って処分を検討することとしたというのである。しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴力事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずとも被上告人において上告人らに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。

c しかも、使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合において捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、上記の捜査の結果は不起訴処分となったにもかかわらず、被上告人が上告人に対し実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

d 本件諭旨退職処分は本件各事件以外の事実も処分理由とされているが、本件各事件以外の事実は、平成11年10月12日のA課長代理に対する暴言、業務妨害等の行為を除き、いずれも同7年7月24日以前の行為であり、仮にこれらの事実が存在するとしても、その事実があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでに長期間が経過していることは本件各事件の場合と同様である。同11年10月12日のA課長代理に対する暴言、業務妨害等の行為については、被上告人の主張によれば、同日、A課長代理がE社からの来訪者2名を案内し、霞ヶ浦の工場設備を説明していたところ、上告人の一人が「こら、A、おい、でたらめA、あほんだらA。」などと大声で暴言を浴びせてA課長代理の業務を妨害し、上告人の別の一人もA課長代理に対し同様の暴言を浴びせるなどしてその業務を妨害したというものであって、仮にそのような事実が存在するとしても、その一事をもって諭旨退職処分に値する行為とは直ちにいい難いものであるだけではなく、その暴言、業務妨害等の行為があった日から本件諭旨退職処分がされるまでには18か月以上が経過しているのである。

e 本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序の観点から上告人らに対し懲戒解雇処分ないし諭旨解雇処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったものということができる、

f 以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由について被上告人が主張するとおりの事実が仮に存在すると仮定しても、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くのもといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない。そうすると、本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効というべきであり、本件諭旨退職処分による懲戒解雇(諭旨退職処分に応じず退職届未提出による処分)はその効力を生じないというべきである。

それでは、この続きは次回に・・・

第16条