労働契約法の復習 第17条

2015年04月21日 13:32

労働契約法第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

 有期労働契約の労働者の解雇の規定です。一方で、解雇の制限ですから、労使間の合意の上の労働契約の解除は可能です。勿論、労働者の意思に反して、使用者が労働者に有形無形の圧力を掛け、労働契約の期間途中の解除を無理強いすることは、違法であり出来ません。

 そこで、労働者側が一方的に退職する場合については民法第628条及び労働基準法第137条の適用を受けます。

民法第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる、この場合においてその事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

労働基準法第137条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

※労働基準法第14条第1項各号に規定する労働者とは、有期労働契約を3年を超えて5年まで締結できる「専門知識等を有する労働者又は60歳以上の労働者」を指します。

 本来、労働契約の期間を定める理由は仕事が一定期間で終了する見込みであり、その期間に限って労働者が必要な場合に、労働基準法の許す範囲内で労働契約の期間を定めるわけです。しかし、従来から労働契約に期間を定め、それを基準なく更新し続け労働力を確保し、業績悪化に伴ってそれらの労働者を雇い止め(使用者側からの労働契約の更新拒否)することで、雇用調整することが行われて来ました。(パートタイム、期間工、契約社員等様々です。)

○労働契約法第17条に規定される「やむを得ない場合の解雇」とは何か?

労働契約法第17条又は民法第628条の有期労働契約(有期雇用)の場合のやむを得ない事由の解雇とは何かについて、裁判例で確認してみます。

ア 平成14年(事件記号不明) 福岡高裁決定 安川電機八幡工場事件 

事件の概要は、3ヶ月の期間を定めて数回更新を行っていた労働者が、会社からパート退職願いを渡され、会社都合という事由で捺印提出するように指示があった。それらの労働者を解雇する旨の意思表示があり、その解雇の有効性を争ったもの

決定は、解雇は無効とした

決定の理由は、次の通り

a 期間の定めのある労働契約は、民法628条により、原則として解除はできず、やむことを得ざる事由がある時に限り、期間内解除(ただし、労働基準法20、21条による予告が必要)が出来るにとどまる。したがって、就業規則9条の解雇事由の解釈にあたっても、当該解雇が、3ヶ月の雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要であるというべきである。

b 会社の業績は、本件解雇の半年ほど前から受注減により急速に悪化しており、景気回復の兆しもなかったものであって、人員削減の必要性が存したことは認められるが、本件解雇により解雇されたパートタイマー従業員は、合計31名であり、残りの雇用期間は約2ヶ月、労働者らの平均給与は、月額12万円から14万5000円程度であったことや会社の企業規模などからすると、どんなに、会社の業績悪化が急激であったとしても、労働契約締結からわずか5日後に、3ヶ月間の契約期間の終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむを得ない事態が発生したと認めるに足りる疎明資料はない。したがって、本件解雇は無効であると言うべきである。

イ 平成15年(事件番号不明)東京地裁判決 モーブッサン・ジャパン事件

事件の概要は、労働者と会社が「本件契約の期間中、いつでも30日前の書面による予告のうえ、本件契約を終了することができる。」「本件契約書に規定されていない一切の事項は、会社の就業規則及び日本の法律に従って決定する。」「本件契約は、平成11年10月16日に発効し、平成12年4月15日に自動終了する。」等が記載された英文の契約書を締結した労働者が契約期間中に解雇され、解雇無効等を訴えたもの

判決は、本件解雇無効とした。

判決理由は、

a (原告の)労働者性を疑わせるいくつかの事情があるが、他方で(会社との間に)指揮監督関係にあり、原告労働者が個々の仕事に対して諾否の自由を有していたとはいえないこと、就業規則や労基法の適用対象とすることが予定されていたこと、専属性の程度が高かったことなどを総合すると、原告労働者は、会社との間の使用従属関係のもとで労務を提供していたと認めるのが相当であり、本件契約は、労働契約としての性質を有するものと認められる。

※請負契約と認定されれば、民法第628条、労働契約法第17条の適用がありません。

b 会社は、原告労働者の在庫管理に誤りがある、会社に(原告所持の)私用電話の料金を支払うよう不正に請求したとして、解雇したとしているが、証拠等によれば、会社は原告労働者が在庫表や販売予算を提出するよりも以前に本件解雇を決定したと疑わざるを得ない。また、原告労働者が会社に精算を求めた私用電話は、金額がさほど多額とはいえないうえ、原告労働者は精算を受けていない。

c そうすると、原告労働者が作成した在庫表と販売予算に多数の誤りがあったことや、通話料金の一部を不正に請求したことは、本件解雇を根拠付けるやむを得ない事由(民法628条)に当たるとは認められないから、本件解雇は無効である。

 一般に、民法第628条に規定される解雇の「やむを得ない事由」は、使用者側に一定の解雇の必要性があり、かつ、労働契約にその様な場合に解雇する旨の規定(途中解雇が可能な旨の契約上の特約)がある場合に、やむを得ない事由があると認められ、有期契約労働者を解雇できると解されています。他方、労働契約法第17条においては、有期契約労働者の解雇の際の「やむを得ない事由」から契約上の特約の有効性を排除し、労働者保護を図るとされています。

ウ 平成17年(事件番号不明)大阪地裁判決 ネスレコンフェクショナリー事件

事件の概要は、契約期間が1年他の労働者が解雇及び雇い止めを受け、その無効を訴えたもの

判決は、解雇、雇い止めとも無効とされた

判決の理由は、

a 本件解約条項が民法628条に反し無効であるか否かについて、民法628条は、一定の期間解約申し入れを排除する旨の定めのある雇用契約においても、「已ムコトヲ得ザル事由」がある場合に当事者間の解除件を保障したものといえるから、解除事由をより厳格にする当事者間の合意は、同条の趣旨に反し無効というべきであり、その点において同条は強行規定というべきであるが、同条は当事者においてより前記事項を緩やかにする合意をすることまで禁じるとは解し難い。したがって、本件解雇条項は、解約事由を「已ムコトヲ得サル事由」よりも緩やかにする合意であるから、民法628条に違反するとはいえない。※この解釈は、私の承知している前記解釈とは、やや異なります。

b この点、原告らは、労働契約の締結ないしその後の展開過程における労働者保護の規定は、強行規定であると解すべきであり、民法第628条は労働者が期間中に解雇されないとの利益を付与したものであると主張するが、それは、むしろ民法626条の趣旨というべきであり、民法628条は合意による解約権の一律排除を緩和するためにおかれた規定と解すべきであるから、原告らの主張は採用することができない。

※民法第628条による場合は、就業規則又は個別労働契約に「一定の場合における有期労働契約の途中解除の規定」があれば、一定の場合に解雇(事実上は、契約に基づく合意解約)ができることは、既に述べました。なお、民法第626条の規定(5年を超える有期契約の解除、労基法上は5年を超える有期労働契約の締結は不可能)の説明は、省略します。

c 雇用期間を信頼した労働者保護の観点については、解除権濫用の法理を適用することにより考慮することができるから、このように解したとしても、不当な結果を招来するわけではない。

d 本件解雇は、客観的に合理的な理由を書き、社会通念上相当と是認することはできない。

○必要以上に短い労働契約の改善

 本来、労働契約にその期間を付す理由は、業務の性質上その期間を以って業務が完成又は終了し、労務の提供を受ける必要がない場合であることは既に述べました。しかし、有期労働契約を無制限に反復継続する実情が法的に又社会的に是認されてきたことも事実です。そのような状況のなかで、有期労働契約を長期間更新継続してきた労働者が雇い止めを受け、期間の定めのない労働契約と同一視されたり、雇い止めは有効とされたり、個々の状況により裁判の結果が異なり、有期契約労働者は就業上不安定な地位に置かれて来たと言えます。

 そこで、本条第2項では、必要もないのに不当に短い労働契約を反復して更新することを改善するように定めています。しかし、個別具体的に契約期間の最短規定があるわけではなく、契約期間の上限(建設業等の仕事の完了が明確な業務を除く)の定めのような強行規定でもありませんから、実質的には、使用者へのお願い規定と言えます。

○雇い止めの裁判事例(13年更新してきた労働者の雇い止めが有効とされた事件)

平成18年(ワ)7863 東京地裁判決(控訴)日立製作所帰化嘱託従業員雇い止め事件

事件の概要は、1年単位の労働契約を13回更新してきた労働者が14回目に雇い止めされ、雇い止め無効等を争ったもの

判決は、雇い止め有効とした(いずれの請求も棄却)

判決の理由は、

a 14年に及んだ原告・被告間の労働関係の中で、これを見直し、期間の定めのない契約に切り替えようという動きのないまま、毎年労働契約が更新されてきたことは事実である。

b 原告は雇用期間1年の従業員として採用され、その後も1年毎に契約書を作成して契約の更新を重ねてきた。(中略)これらのことから、契約の更新が全く形式的なものとは解されない。

c 原告と被告の担当者等は、複数回の面談を経て、その中で、被告は労働契約を更新しない明確な方針を伝え、これに対し原告も、会社の状況を理解しつつも、自己の生活を考えれば当然とも思われる要望を述べているもので、実態をよく理解して任意に意思決定しているといえる。また、複数回の面接が持たれていることから、原告としては納得のいなかい提案が示されたところで、次回までに検討したいと述べて検討したり(原告は法学の大学院修士課程を終えていつもので、法的な事項について十分に判断できる能力がある。)、相談できる者に相談していた様子が認められる。したがって、そこに被告が、契約を締結させるよう脅迫していたとか、欺罔(ギモウ)してそれにより原告が錯誤に陥ったなどの事情は認めることができない。原告は、これ以上契約が更新されないことを理解して16年契約の契約書に署名・捺印しているもので、一種の合意による契約の終了ともいうべきものである。

d 契約を更新しなかった事由は、委嘱する業務の減少と、被告が(中略)主張するような原告の業務態度が芳しくない(中略)というもので、全く理由のない恣意的なものとはいえない。したがって、いずれにせよ原告・被告間の契約は16年契約も期間が満了していることにより終了し、これを妨げるものはないというべきである。

以上、この続きはまた次回に・・・

第17条