労働契約法の復習 第19条

2015年04月24日 14:12

労働契約法第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申し込みをした場合であって、使用者が当該申し込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

○労働契約法第19条の規定の内容

 この条文の内容は、過去の「東芝柳町工場事件」及び「日立メディコ事件」に代表される判例法理を条文として明文化し、更には同判決の法理である「解雇権濫用法理の類推適用」から「無期契約への転化説」へと進化させる趣旨ものですが、原則的に通算の契約期間が5年未満の一定の有期契約の場合には、解雇権濫用法理を用いて「雇止め無効及び労働者の申込みによる更新みなし」の規定を定めたに留まっています。無期転換に関する過去の有識者等の論議内容は、労働契約法第18条第1項の説明の際に、すでに記述しました。

今回も、労働政策審議会の立法過程の法律案に対する審議内容から本条を考察します。

○労働政策審議会労働条件分科会議事録抜粋(第99回)

原文のまま

質問:公益の先生方もおられる中では僭越でございますけれども、通説的な理解では雇い止め法理というのは、東芝柳町工場事件の類型、「有期契約が期間の定めのない労働契約と実質的に同視しうる場合」又は、日立メディコ事件の類型、「雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性がある場合」に、解雇権濫用法理を類推適用するものであり、期間満了に伴う労働契約の終了のためには、相当の理由のある使用者の更新拒絶の意思表示が必要であり、そのときに更新拒絶の意思表示がないか、それがなされても相当の理由がないときには短期契約の更新が行われる、つまり法定更新である、とされています。

 今回、法案要綱の段階で、雇止め法理にも、建議に至るまでの論議でも出ていなかった「労働者の申込み」という新たな要件が課されたことについて、なぜこうなったかということを確認させていただきたいのが1点です。

回答:この雇止め法理を条文化するに当たっての考え方を、今の点に関しまして御説明いたします。

 雇止め法理そのものは、これまでは使用者による更新拒絶、雇止めを労働者が裁判で争った場合に用いられたところであることはおっしゃったとおりでございます。これを立法化する場合には、訴訟提起の有無にかかわらず適用されるルールとして定めることになるところですが、訴訟となっていないケースに対しても条文がどのように影響するのかも踏まえて考えなければいけないということで検討してまいりました。

 すなわち、有期労働契約といいますのは、期間満了時に両当事者が何もしないと契約は終了するのが原則でございます。このため、使用者も労働者も何もせずに、いわゆる円満に退職するという場合があって、そいうときまで更新承諾みなし、本件は使用者が更新申込みを承諾したものとみなすという形に構成してしますけれども、そういうものを発動させることは適当でないと考えられることから、労働者が更新を希望する意思を有する場合に限定する必要があり、その結果、更新または締結の申込みという形で定めたものというものでございます。

 以上の立法作業経過でございますが、「申込み」と法案要綱上ありますけれども、これは承諾みなしによる更新の効果が発生するための、確かに法律上は要件であるんですけれども、事後とありますように、期間満了後でもよろしいということで、要式行為ではなく、口頭でもいいということで、使用者の更新しないという意思、雇止めの意思に対して何らかの反対の意思表示、例えば嫌だとか困るといったことがあればよいと解しております

 これを少し争いにおけるケースで考えますと、「更新の申込み」に関する、主張、立証ということを懸念されるかもしれませんけれども、冒頭の説明でも多少申したかもしれませんが、労働者が雇止めに異議があることは使用者に直接または間接に伝えられたことでよく、それを概括的に主張・立証すればよいと考えておりますことで、つまるところ、現在の判例法利と実質的に同一であると解しております。

 先ほど、間接とか、事後とか申しましたけれども、要は訴訟の提起とか、紛争処理機関、ADRへの申立てとか、団交とかで使用者に異議が伝わるということでもよいという形で解釈することで、現在の判例法理とも実質的同一性を確保したいと考えております。

○有期労働契約の在り方について(建議)平成23年労審発第641号 抜粋

3 「雇止め法理」の法制化

 有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、客観的に合理的な理由を書き社会通念上相当であると認められない雇止めについては、当該契約が更新されたものとして扱うものとした判例法理(いわゆる「雇止め法理」)について、これを、より認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止するため、その内容を制定化し、明確化を図ることが適当である

4 期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消

 有期労働契約労働者の公正な処遇の実現に資するため、有期労働契約の内容である労働条件については、職務の内容や配置の範囲等を考慮して、期間の定めを理由とする不合理なものと認められるものであってはならないこととすることが適当である。※労働契約法第20条関係

○労働契約法第19条の条文の問題点と運用上の問題点の考察

ア 更新申込みの有無の争い

 使用者が雇止めをした際の争点として、雇止めをした労働者から契約更新の申し込みが無かった旨の主張をするケースが想定されます。これは、審議会の議論にあるとおり、紛争処理機関(労働局の窓口、弁護士会の窓口、社会保険労務士会の窓口、都道府県労働局の労働委員会の個別紛争窓口等)に雇止めについての異議を申し立てることで、事後的に「更新の申し込みの存在」を立証可能であるとされています。この点は条文上で担保されており、「当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合」として、直接・間接に使用者に「更新したい旨の意思表示」を行えば良いとなっています。

イ 当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる場合とは何か?

 これは、実際にはケース・バイ・ケースと言えます。ただし、10年以上に渡り、当然のごとく有期契約を更新してきた場合は、ほぼ「無期契約と同視できる」と言えます。一方で、平成25年4月以降に有期労働契約をほぼ自動更新してきた場合には、平成30年4月以降の近い時期に無期労働契約への転換が可能ですから、積極的に活用すべきかと思います。

ウ 当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められるとはどんな場合か?

 労働契約法第18条第1項に基づき、通算契約期間が5年を迎える直前の契約更新で雇い止めされるケースを考えると、当然に同法第19条に該当すると判断できます。今後は、有期労働契約の回数上限を定める就業規則の有効性の判断の争議が起こりえます。例えば、1回の有期労働契約の期間を5ヶ月とし、その更新回数の上限を10回と就業規則に規定した場合、55ヶ月以上は有期労働契約を締結できないこととなります。この場合、無契約期間が無いとすると、就業規則上では5年経過日の5ヶ月前に契約期間満了により退職をすることとなります。これが合法か否か、判断がつかないというところが私の実情です。

 勿論、既に就業規則がある場合には不利益変更の問題が生じますし、同就業規則の変更前に既に雇用していた有期労働契約の従業員にこの規定を適用することは困難に違いありません。また、この規定の合理性の問題も生じそうです。感覚的には訴訟で無効の判断が示されそうですが、今の時点では断定できないのが本当のところです。

エ 民事の限界

 刑事事件であっても、事件の認知がなされ、適正な捜査を経て検察が起訴しなければ、原告・被告間の争いになりません。振り返って民事の場合には、法の保護を受ける意思が債権者にない場合(通常、特に中小零細企業が債務者の場合)、本条が形骸化する恐れがあると考えます。

 たとえば、「うちの会社には有給(年休)はない」と言い切る中小零細企業主が現在でも存在しますが、私疾病の療養でも、欠勤・無給を余儀なくされるケースが現在でも起きている実情に鑑みると、本条が「絵に描いた餅」にならないための施策を講じるべきと考える労働者が数多くいるものと思料します。

それでは、この続きは次回に・・・

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