労働契約法の復習 第20条

2015年04月25日 09:09

労働契約法第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者との期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 この均衡考慮の原則は、特に「同一労働同一賃金の原則」に触れた労働契約法第3条第2項の規定を、有期契約労働者と無期契約労働者間に特化して規定したものです。解釈上で民事規定とされている本条は、強行規定として使用者に両者(有期契約労働者と無期契約労働者)の労働条件の平準化を予定しているものの、罰則をもって直接的に修正を義務付けているわけでもありません。※もちろん、任意規定ではありませんから個別契約(就業規則等)で排除はできません。

 しかし、今後は本条を根拠に両者の労働条件の相違が不合理であると労働者が思えば、民法第709条の不法行為に当たる恐れがあり、損害賠償及び待遇改善の訴えが提起されることが想定されます。結局本条により、順次就業規則の見直しや、有期契約労働者と無期契約労働者の双方の業務の見直しを迫られます。

○過去の裁判例による同一労働同一賃金に対する判断

ア 平成18年(ワ)3346 京都地裁判決(労働者敗訴)京都市同一労働同一賃金、男女差別事件

事件の概要は、嘱託職員として相談業務に当たり退職した労働者が、労働は一般職員と同一であるのに低い嘱託職員の賃金を支給したことは憲法13条、14条、労働基準法3条、4条、同一価値労働同一賃金の原則並びに民法90条に違反したとして損害賠償の支払いを求めたもの

判決は、労働者の請求を棄却

参考1:日本国憲法第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、事由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。(以下略)

参考2:労働基準法第3条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取り扱いをしてはならない。

第4条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

判決の理由は、

a 憲法の規定は国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的にでたもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない

b 被告は京都市が全額出資して設立された財団法人であり、被告の行為に憲法13条及び14条が直接適用されるかには疑義があり、実体法規の解釈にあたって憲法の規定を考慮要素とすることによってその趣旨を適用するのが相当である

c そして、憲法14条は機会の平等を規定しているところ、労働基準法3条及び4条の解釈・適用を通じて私人関係を規律することとなる。しかし、憲法13条はその文言自体抽象的であり、それ自体から賃金処遇についてどうあるべきかを具体的に明らかにしておらず、仮に同条が直接に適用されるとしても、具体的にな法規性を見いだすことは困難であり、実体法規の解釈にあたって考慮要素としてどのように参酌すればよいのかも明らかでない。また、憲法13条は自由権であって、現に存在する差別を積極的に是正するという積極的な効果をもたらすような人権規定ではない

d 労働基準法3条が憲法14条の趣旨を受けて社会的身分による差別を絶対的に禁止したことからすると、同法同条の「社会的身分」の意義は厳格に解するべきであり、事故の意思によっては逃れることのできない社会的な身分を意味すると解するのが相当である。また、同条の解釈は民事上の損害賠償請求の場面においても特定の行為が違法か否かの基準となるのであるから、上記場面においても同様に解釈するのが相当である。

e そして、嘱託職員という地位は自己の意思によって逃れることのできない身分ではないから同条の「社会的身分」には含まれないというべきである。よって、本件賃金処遇が労働基準法3条に違反し違法であるとはいえず、これに反する争点についての原告の主張は採用できない。

f 短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律8条、10条の趣旨を、私人間の雇用関係を律するにあたって参酌するすることは許されるものと解される。

g 憲法14条及び労働基準法4条の根底にある均等待遇の理念、上記各条約等が締約されている下での国際情勢及び日本において労働契約法等が制定されたことを考慮すると、(公序というか否かはともかく)証拠から短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条に反していることないし同一価値労働であることが明らかに認められるのに、給与を含む待遇については使用者と労働者の交渉結果・業績等に左右される側面があること及び年功的要素を考慮した賃金配分方法が違法視されているとまではいい難いことなどを考慮してもなお、当該労働に対する賃金が相応の水準に達していないことが明らかであり、かつ、その差額を具体的に認定し得るような特段の事情がある場合には、当該賃金処遇は均衡処遇の原則に照らして不法行為を構成する余地があるというべきである。

h 原告は本件雇用期間中、被告の主要事業の1つである相談業務を高い質を維持して遂行し、一定の責任をもって企画業務を行い、外部との会議にも単独で出席するなどしていることから、原告は一般職員の補助としてではなく主体的に相談業務及びこれに関連する業務につき一定の責任をもって遂行していたといえ、他の相談員と比べても質の高い労務を提供していたといえる。

i 被告の職員給与規定は原告の提供した労務の内容に対して、適切な対応をし得るような内容になっていなかったといえる。原告は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者に該当するとまでは認め難く、原告に形式的に一般職員の給与表を適用して賃金水準の格差ないし適否を論ずることは適切なものとはいえない。また、本件全証拠をもってしても、原告が従事していたのと同様の相談業務を実施している他の法人等における給与水準がどの程度か、その中でも原告のように質の高い労務を提供した場合にどのような処遇が通常なされているのかという点や、被告において原則図書館司書資格を要するものとされている図書館情報室勤務の嘱託職員と比べ、原告については具体的にどの程度賃金額を区別すれば適当なのか、被告の他の相談業務に従事する嘱託職員と比べた場合、どの程度賃金額を区別すれば適当なのかという点について具体的な事実を認めるに足りず、したがって、原告に支給されていた給与を含む待遇について、一般職員との格差ないしその適否を判断することは困難である。

イ 平成12年(ワ)14386 日本郵便逓送、臨時社員損害賠償事件

事件の概要は、「被告の期間臨時社員である原告らが、正社員と同一の労働をいているにもかかわらず、被告が、原告らに正社員と同一の賃金を支払わないのは、同一労働同一賃金の原則に反し公序良俗違反であり、不法行為に該当するとして、正社員との賃金差額相当額の損害賠償金の支払いを求める事案である。」※原文のまま

   参考:公序良俗=民法第90条、不法行為=民法第709条

判決は、「原告らの請求をいずれも棄却する。」というもの

判決の理由は、

a 確かに、郵便物の収集という業務をとらえてみれば、本務者と臨時社員運転士で異なることろはなく、本務者は原則として既定便というあらかじめ定められた便にしか乗務していないのに対して、臨時社員運転士は、臨時便を中心に乗務し、ときには、本務者と同じローテーションに組み込まれて乗務することもあり、臨時社員運転士の労働が本務者のそれに比して軽度ということはなかったし、被告は、臨時社員運転士が本務者に比して、賃金その他の労働条件が被告に有利なこともあって、臨時社員を多用してきたということができる。

b しかしながら、原告らが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたい。すなわち、賃金などの労働者の労働条件については、労働基準法などによる規制があるものの、これらの法規に反しない限りは、当事者間の合意によって定まるのである。

c 我が国の多くの企業においては、賃金は、年功序列による賃金体系を基本として、企業によってその内容は異なるもの、学歴、年齢、勤務年数、職能資格、業務内容、責任、成果、扶養家族等々の様々な要素により定められてきた。労働の価値が同一か否かは、職種が異なる場合はもちろん、同様の職種においても、雇用形態が異なれば、これを客観的に判断することは困難であるうえ、賃金が労働の対価であるといっても、必ずしも一定の賃金支払期間だけの労働の量に応じてこれが支払われるものではなく、年齢、学歴、勤務年数、企業貢献度、勤労意欲を期待する企業側の思惑などが考慮され、純粋に労働の価値のみによって決定されるものではない。

d このように、長期雇用制度の下では、労働者に対する将来の期待を含めて年功型賃金体系がとられてきたのであり、年功によって賃金の増加が保障される一方でそれに相応し資質の向上が期待され、かつ、将来の管理者的立場に立つことも期待されるとともに、他方で、これに対応した服務や責任が求められ、研鑽努力も要求され、配転、降級、降格等の負担も負うことになる。これに対して、期間雇用労働者の賃金は、それが原則的には短期的な需要に基づくものであるから、そのときどきの労働市場の相場によって定まるという傾向をもち、将来に対する期待がないから、一般に年功的考慮はされず、賃金制度には、長期雇用の労働者と差異が設けられるのが通常である。

 そこで、長期雇用労働者と短期雇用労働者とでは、雇用形態が異なり、かつ賃金制度も異なることになるが、これを必ずしも不合理ということはできない。

e 労働基準法3条及び4条も、雇用形態の差異に基づく賃金格差までを否定する趣旨ではないと解される。

f これらから、原告らが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたいのであって、一般に、期間雇用の臨時従業員について、これを正社員と異なる賃金体系によって雇用することは、正社員と同様の労働を求める場合であっても、契約の範疇であり、何ら違法ではないといわなければならない。

g 結局のところ、被告においては臨時社員運転士を採用する必要性があり、原告らはいずれも被告との間で、臨時社員運転士として3か月の雇用期間の定めのある労働契約を締結しており、労働契約上、賃金を含む労働契約の内容は、明らかに本務者とは異なることは契約当初から予定されていたのであるから、被告が、賃金について、期間臨時運転士と本務者とを別個の賃金体系を設けて異なる取扱をし、それによって賃金の格差が生じることは、労働契約の相違から生じる必然的結果であって、それ自体不合理なものとして違法となるものではない。

h そして、雇用期間3か月の臨時社員と言いながら、事実上は、更新を重ねて4年以上の期間雇用されており、他方、臨時便とはいいながら多くの便が恒常的に運行されており、これを本務者に乗務させられない理由は少ないのに、賃金等の労働条件において被告に有利な臨時社員運転士で本務者に代替している面があるともいえなくはない。しかも、臨時社員は、本務者より賃金は低く、その格差は大きいといえる。原告らの不満はこの点にあることは理解できるが、臨時社員制度自体を違法ということはできず、その臨時社員としての雇用契約を締結した以上、更新を繰り返して、これが長期間となったとしても、これによって直ちに長期雇用労働者に転化するものでもないから、結局のところ、その労働条件の格差は労使間における労働条件に関する合意によって解決する問題である。

i 原告らは、仮に、同一労働同一賃金の原則に未だ公序性が認められないとしても、憲法14条、労働基準法3条、4条の公序性に基づけば、同一企業内において同一労働に従事している労働者らは、賃金について平等に取り扱われる利益があり、これは法的に保護される利益であると主張する。しかしながら、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、これは契約の自由の範疇の問題であって、これを憲法14条、労働基準法3条、4条違反ということはできない。

 以上のとおり、原告らの正社員との賃金格差はその雇用形態の差に基づくものであって、これを違法とする事由はない。

※本判決は、改正労働契約法施行前のものですから、労働契約法第20条の規定は判断の根拠になっていません。

 また、本条でいう「労働条件の相違」は賃金の格差に限られませんが、最も不利益と感じるのは「賃金の相違」であり、まずは賃金から始めるべきと言えます。

それでは、この続きは次回に・・・