労働契約法の復習 第7条
労働契約法第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
参考:労働契約法第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
○就業規則とは何か?
ア 就業規則の定義
就業規則とは、「労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称」であるとされています。※株式会社労働行政発行、労働基準法下より引用
そして、労働基準法第89条の規定により、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則の作成及び届出義務」を負っています。国民や国内の法人、その他国内の基本ルールを定めたものが、憲法、法令、条例等となりますが、事業所単位のルールを法令等に反しない範囲で定めたものが就業規則です。また、賃金規程、安全規程、施設内規則その他、名称の如何を問わず「労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目」が定められていれば、労働基準法上の就業規則に該当します。なお、労働契約法の就業規則には、労働契約法第89条の場合に限らず、常時10人未満の事業所が作成する就業規則に準ずるものを含みます。
イ 就業規則と個別の労働契約、労働協約、法令の関係
まず、法令に反する、労働契約、就業規則、労働協約は、その反する部分は無効となり、法令の規定に従うこととなります。このことは、例えば労働基準法第1条、第13条において、明文化されています。
労働基準法第1条第2項 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
労働基準法第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。
参考:最低賃金法第4条第2項 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者の間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
※労働契約、就業規則、労働協約の規定が法令の規定を下回ってはならないことは当然のことかと思います
次に、就業規則と労働契約、労働協約の関係をみてみます。
就業規則の規定は、個別の労働契約の規定に優先します。従って、就業規則に短期アルバイトの時給が850円と規定されているにもかかわらず、労働者Aと時給800円の労働契約を締結しても、労働契約法第12条の規定により就業規則の規定(時給850円)が労働者Aの労働条件となります。ただし、労働者Bと時給900円の労働契約を締結した場合には、労働契約法第7条の規定により、就業規則の規定にかかわらず時給900円が労働者Bの労働条件となります。
就業規則の規定と労働協約の関係をみてみますと、この場合は労働協約の規定が優先して適用されます。そして、労働協約の規定よりも就業規則の規定が労働者に有利である場合についても労働協約の規定が優先されます。
この点は、労働基準法第92条に規定されています。
労働基準法第92条 就業規則は法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。行政官庁は、法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる。
以下に、この点の裁判例をみてみます。
平成13年(ワ)439 神戸地裁判決
事件の概要は、運送会社に勤務している労働者及び退職労働者が、計5回の一時金支給につき、格差支給を受けたことにより損害を被ったと主張して損害賠償を請求するとともに、賃金協定違反だとして就業規則の規定を無効だと主張したもの
判決は、労使間の賃金協定が存在することから、会社が給与支給の根拠とした就業規則は労働基準法第92条に違反し、無効であるとして、労働者側の請求を容認した
判決の理由は、労働基準法第92条第1項が、就業規則は労働協約に反してはならないとしているのは、就業規則の内容が、労働協約中の労働条件その他労働者待遇に関する基準、すなわちいわゆる労働協約の規範的部分に反してはならないとの趣旨であり、かつ、有利にも不利にも異なる定めをしてはならない趣旨と解される。したがって、就業規則の内容が労働協約の基準を下回る場合はもとより、就業規則の内容が労働協約の基準を上回る場合であっても、当該労働協約が就業規則によってより有利な定めをすることを許容する趣旨でない限りは許されず、それら労働協約に抵触する就業規則の規定は無効である・・・としています。
※労使協定は、事業場の過半数労働者が加入する労働組合又は事業場の過半数労働者の代表者と契約を締結したものです。この場合に、過半数組合と締結した労使協定は、対象となる所属組合員にとっては労働協約でもあります。労使協定と労働協約の違いは契約当事者が異なるだけでなく、労働基準法に規定がある労使協定は、契約当事者が過半数労働組合にもかかわらず、その労働組合に加入していない労働者も含めすべての労働者にその労使協定の効力が及ぶ点にあります。一方で、労働協約の効力が及ぶのは、あくまで加入している組合員に限られます。尚、労使協定の労働者側の契約当事者としては、過半数組合が過半数労働者の代表者よりもその地位が優先されると解されています。
○就業規則の効力の根拠は何か?(労働基準法下より引用)
ア 法規範説
労働者が就業規則に従わなければならないのは、雇入れに当たりその規則に同意を与えてそこに契約が成立したからではなく、当該労働者がその内容を知り、又は継承したか否かに関係なく、労働者が当該事業場において労働関係に入るとともに当該事業場の法規範である就業規則の適用を受けるとするもの
イ 事実規範説
就業規則は、労働者が一方的に決めた労働条件の事実上の基準にほかならないから、社会規範として効力を持つにとどまるとするもの※社会規範とは、社会や集団のなかで、ある事項に関して成員たちに期待される、意見、態度、行動の型のこと。その社会に広がる価値体系が成員に内在化されたもので、成員の遵守行為により顕在化するものとされます、
ウ 契約説
労働者が就業規則の定めるところにより法的に従わなければならないのは、雇入れに当たり、その規則に同意を与え、そこに契約が成立したからであるとするもの
裁判例(昭和29年(ネ)第198号 東京高裁判決)では、「労働者は、使用者側で定めるとおりの賃金その他の労働条件を以て労働力を売り渡す旨を、明示もしくは黙示的に合意するのが一般の事例であって、その結果就業規則に定める労働条件は労働契約の内容をなし、就業規則をして変更されるときは労働契約の内容も亦従って当然に変更を受けることになる。」としています。
※就業規則の効力の根拠は、諸説があり確定していません。裁判例も、その根拠としてケースバイケースの説をとっています。
○就業規則で規定すべき内容
就業規則で規定すべき内容は、労働基準法第89条に定められています。ここでは、詳細は省きますが、同条第1項第10号に「前各号に掲げるもののほか、当該事業場のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」と規定されています。そこで、同条同項第1号から第9号以外の「この当該事業場のすべてに適用される就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目」を定める場合には、就業規則に規定する必要があります。他方、同法同条同項第1号から第9号までの規定について、雇用形態別に定めが異なる場合には、雇用形態別に規程を設けるか或いは雇用形態別に規定を変えて定める必要があります。※その一例としては、パート社員就業規則と正社員就業規則などです。
○就業規則作成の方法と届出
就業規則は、常時10人以上を使用する事業場別に作成する必要があります。この、常時使用する労働者に加えるのは、一時的に10人未満になる場合があっても、常態として10人以上の労働者を使用する事業場のことであり、アルバイトを含みます。つまり、正社員2名、常用パート6名、臨時パート若干名、アルバイト若干名を合算して、一時的に10人を下回っても、通年では概ね10人以上になる場合には、就業規則の作成義務があります。また、就業規則の作成・変更の届出は、事業場単位で管轄の監督署に行いますが、本社で一括して届け出ることも可能です。さらに、就業規則の届出の際には、過半数労働組合又は過半数労働者の代表者の意見を添付して提出します。
○就業規則の周知
就業規則は、労働者に周知された時に効力を発生します。この周知とは、「常時各事業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること」「書面を労働者に交付すること」「パソコン等でいつでも就業規則をみられる環境を整えること」などです。また、この周知とは、各労働者が就業規則の内容の詳細を熟知している状態にあることまで、求められていません。
一方で、就業規則の届出は就業規則の効力に無関係です。ただし、届出義務があるため監督署に届けなければ罰則が適用される恐れがあります。
それでは、続きはまた次回に・・・
第7条