均等法第2条

2015年05月07日 13:25

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第2条(基本理念)

 この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本理念とする。

2 事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本理念に従って、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない。

○行政通達による解説

1.平成9年通達

イ 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」ことをこの法律の主たる目的としたことに伴い、この法律においては、女性労働者が性別により差別されることなく、かつ、母性を尊重されつつ充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とするものとしたこと。

ロ 事業主並びに国及び地方公共団体は、基本的理念に従って、女性労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならないものとしたこと。

ハ 女性労働者の自助努力に関する規定を削除するものとしたこと。

2.平成18年通達

(1)法第2条第1項は、法の基本的理念が、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることにあることを明らかにしたものであること。

(2)「労働者」とは、雇用されて働く者をいい、求職者を含むものであること。

(3)第2項は、事業主並びに国及び地方公共団体に対して、(1)の基本的理念に従って、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならないことを明らかにしたものであること。

  本項に関する事業主の具体的業務の内容としては、法第2章に規定されているが、事業主は、それ以外の事項についても(1)の基本的理念に従い、労働者の職業生活の充実のために努力することが求められるものであること。

(4)「事業主」とは、事業の経営の主体をいい、個人企業にあってはその企業が、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものが事業主であること。また、事業主以外の従事者が自らの裁量で行った行為についても、事業主から委任された権限の範囲内で行ったものであれば事業主のために行った行為と考えられるので、事業主はその行為につき法に基づく責任を有するものであること。

○均等法の理念

過去の裁判例の中に、均等法の規定に沿った争点を争ったものがあります。その裁判例の判決文から、均等法の理念を考察します。

a 昭和53年(ワ)587 東京地裁判決 判決文抜粋 (日本鉄鋼連盟、差額賃金請求事件)

・被告の抗弁に対する原告の反論(抜粋)

二本立処遇の違憲、違法性

 しかし、被告の事務局の業務は流動的であり誠に多種多様であって、その業務の評価も画然と割り切れるものではないし、また、その業務に従事する者に要求される能力についても被告の主張する「基幹職員」には高卒男子がいる一方で「その余の職員」には大学卒女子がいるというように学歴差とも無関係であるのに、基幹的業務と補助的業務と画然と区別され、かつ、これが固定されているというのであるから、結局、被告は、男子がしている業務は男子がしているが故に基幹的業務、女子がしている業務は女子がしているが故に補助的業務であると評価し、このように男女によって業務を画然と分けたが故に男女の担当業務は性差が転換不能であるように移動が不能であって、その結果として二つの処遇体系ができあがるということを主張していることになる。これは正に男女別の処遇体系をとっているとの主張にほかならないのであって、結局二本立処遇なるものは、男女の職務差別、賃金差別、昇給昇格差別の総称にほかならない。

・裁判所の二本立処遇についての判断

 しかし、他方、右に述べたように被告の事務局の業務には様々なものがあるけれども、その中には困難性の程度の高いものから低いものに至るまで様々のものが存在することは明らかである。そして、被告は事務局の職員について男子職員は、主として重要な仕事を担当し、将来幹部職員へ昇進することを期待されたものとして処遇し、一方女子職員は、主として定型的、補助的な職務を担当するものとして処遇し、職員の採用に当たっても、右のように異なった処遇を予定していることから、それぞれ異なった採用方法をとっているというのが、その実態であるということができ、いわば「男女別コース制」とでも呼ぶのが相当である。

 次に、折衝の相手方である外部機関の担当者が男子であることが多いこと、女子の勤務年数が一般的に男子より短いこと、及び母性保護規定が存在することを理由として、女子について一律に男子と異なる取扱いをすることも、仮に社会的にそのような実態が存在するとしても、男女両性に差異が存することを前提としてその本質的平等を図るべきものとする男女平等の法的原理に背馳(ハイチ)するというべきである。昭和61年4月1日から施行された雇用機会均等法7条が、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない。」と定めているのもこの理を明らかにしたものであり、この理は、同法の施行前においても同様に妥当するものというべきである。

 このように、被告がその従業員につき前記のような「男女別コース制」を採用していることは、合理的な理由を欠くのであつて、法の下の平等を定め、性別による差別を禁止した憲法14条の趣旨に合致しないものというべきである。※しかし、そうであるとしても、ただちに過去の男女差額賃金の請求権があるとも言えないとしています。なお、現行の均等法は努力義務規定ではなく、多くの規定は義務規定または禁止規定に変更されています。

b 平成7年(ワ)8009 大阪地裁判決 判決文抜粋 住友電工男女差額賃金請求事件

 企業は、いかなる労働者をいかなる条件で雇用するかについて広範な採用の自由を有するから、あらかじめ、募集する労働者の社内での位置付けを行い、社員間に区分を設けて、採用の当初からその区分に応じた異なる処遇を行うことは企業が自由に行いうることであるが、かかる採用の自由も、法律上の制限がある場合はもちろんのこと、そうでない場合でも基本的人権の諸原理や公共の福祉、公序良俗による制約をうけることは当然であり、不合理な採用区分の設定は違法になることもあるというべきである。

 被告会社が、一方で幹部社員候補要員である前者採用から高卒女子を閉め出し、他方で事業所採用の事務職を定型的補助的に従事する職種と位置付けこの職種をもっぱら高卒女子を配置する職種と位置づけたこと、その理由も結局は、高卒女子一般の非効率、非能率ということによるものであるから、これは男女差別以外のなにものでもなく、性別による差別を禁じた憲法14条の趣旨に反する。

 昭和40年代ころは、未だ、男子は経済的に家庭を支え、女子は結婚して家庭に入り、家事育児に専念するという役割分担意識が強かったこと、女子が企業に雇用されて労働に従事する場合でも、働くのは結婚又は出産までと考えて短期間で退職する傾向にあったこと、このような役割分担意識や女子の勤務年数の短さなどから、わが国の企業の多くにおいては、男子に対しては定年までの長期雇用を前提に、雇用後、企業内での訓練などを通じて能力を向上させ、労働生産性を高めようとするが、短期間で退職する可能性の高い女子に対しては、コストをかけて訓練の機会を与えることをせず、定型的な単純労働に従事する要員としてのみ雇用することが少なくなかったこと、女子に深夜労働などの制限があることや出産に伴う休業の可能性があることなども、女子を単純労働の要員としてのみ雇用する一要因ともなっていたことなどが考慮されなければならない。

 右のような男女の役割分担意識は現在では克服されつつあり、もはや一般化できなくなってきており、また、女子の労働に対する考え方も多様化して女子の勤務年数も次第に長期化してきているから、現時点では、被告会社が採用していたような女子事務職の位置付けや男女別の採用方法が受け入れられる余地はないが、原告らが採用された昭和40年代ころの時点でみると、被告会社としては、その当時の社会意識や女子の一般的な勤務年数等を前提にして最も効率のよい労務管理をおこなわざるをえないのであるから、前記認定のような判断から高卒女子を定型的補助的業務にのみ従事する社員として位置付けたことをもって、公序良俗違反であるとすることはできない。

 

以上で均等法第2条を終了します。均等法は時代の要請があって制定(昭和47年施行、その後数度改正)されましたが、戦後しばらく、増して戦前においては、男女の労働条件が異なることが通常であったものと思います。例えば、平成9年の労基法の改正前は女子(18歳以上の女性)の深夜業が原則禁止されていましたし、以前は定年年齢も男女で異なっていました。労基法上の女性保護規定の中で、妊産婦等以外の女性については、現在ではほとんどの規制が撤廃されています。

 

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