均等法第8条
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
第8条(女性労働者に係る措置に関する特例)
前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。
○通達による確認
平成18年通達
・女性労働者に係る措置に関する特例(法8条)
(1)法第8条は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置、すなわち、過去の女性労働者に対する取扱い等が原因で雇用の場において男性労働者との間に実情上の格差が生じている状況を改善する目的で行う女性のみを対象にした措置や女性を有利に取り扱う措置については、法違反とならないことを定めたものであること。
なお、男性労働者については、一般にこのような状況にはないことから、男性労働者に係る特例は設けられていないものであること。
(2)「支障となっている事情」とは、固定的な男女の役割分担に根ざすこれまでの企業における制度や慣行が原因となって、雇用の場において男女労働者の間に事実上の格差が生じていることをいうものであること。この格差は最終的には男女労働者数の差となって表れるものであることから、事情の存否については、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない状況にあるか否かにより判断することが適当であること。
(3)「女性労働者に関して行う措置」とは、女性のみを対象とした措置又は男性と比較して女性を有利に取り扱う措置をいうものであること。
(4)「妨げるものではない」とは、法に違反することとはならない旨を明らかにしたものであり、事業主に対して支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関する措置を講ずることを義務付けるものではないこと。
(5)本条により特例とされる女性労働者に係る措置は、過去の女性労働者に対する取扱い等により女性労働者に現実に男性労働者との格差が生じている状況を改善するために暫定的、一般的に講ずることが許容されるものであり、指針第2の14の(1)イからヘまでの「相当程度少ない」状況にある限りにおいて、認められるものであること。
(6)指針第2の14の(1)は募集・採用、配置、昇進、教育訓練、職種の変更及び雇用形態の変更に関して本条により違法でないとされる措置を具体的に明らかにしてものであること。イからヘまでにおいて「相当程度少ない」とは、我が国における全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいうものであること。4割を下回っているか否かについては、募集・採用は雇用管理区分ごとに、配置は一の雇用管理区分における職務ごとに、昇進は一の雇用管理区分における役職ごとに、教育訓練は一の雇用管理区分における職務又は役職ごとに、職種の変更は一の雇用管理区分における職種ごとに、判断するものであること。
(7)指針第2の14(1)イにおける「その他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること」とは、具体的には、例示されている「募集又は採用に係る情報の提供について女性に有利な取扱いをすること」、「採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用すること」のほか、募集又は採用の対象を女性のみとすること、募集又は採用に当たって男女と比較して女性に有利な条件を付すこと等男性と比較して女性に有利な取扱いをすること一般が含まれること。ロ、ハ、ホ及びヘにおいて同じであること。
(8)指針第2の14(1)ニの「職務又は役職に従事するに当たって必要とされる能力を付与する教育訓練」とは、現在従事している業務の遂行のために必要な能力を付与する教育訓練ではなく、将来就く可能性のある職務又は役職に必要な能力を付与する教育訓練であり、例えば、女性管理職が少ない場合において、管理職に就くために必要とされる能力を付与する教育訓練をいうものであること。
(9)指針第2の14(1)ニの「その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること」には、例えば、女性労働者に対する教育訓練の期間を男性労働者よりも長くすること等が含まれること。
○均等法第8条の規定により同法違反とならない措置 出典:厚生労働省作成 均等法のあらまし
第8条の規定による措置は、女性に対する措置のみが認められています。
(1)募集及び採用
女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分における募集又は採用に当たって、情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。
(2)配置
一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない職務に新たに労働者を配置する場合に、その配置のために必要な資格試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して配置すること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。
(3)昇進
一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない役職への昇進に当たって、その昇進のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して昇進させること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。
(4)教育訓練
一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない職務又は役職に従事するに当たって必要とされる能力を付与する教育訓練に当たって、その対象を女性労働者のみとすること、女性労働者に有利な条件を付すこと、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。
(5)職種の変更
一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない職種への変更について、その職種の変更のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、変更の基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して職種の変更の対象とすること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。
(6)雇用形態の変更
一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない雇用形態への変更について、その雇用形態の変更のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、変更の基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して雇用形態の変更の対象とすること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。
※1:雇用管理区分
「雇用管理区分」とは職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者についての区分であって、当該区分に属している労働者と区分に属している労働者と異なる雇用管理を行うことを予定して設定しているものをいいます。雇用管理区分が同じかどうかについては、当該区分に属する労働者の従事する職務の内容、転勤を含めた人事異動の幅や頻度等について、同じ区分に属さない労働者との間に客観的・合理的な違いが存在しているかどうかにより判断するものであり、その判断に当たっては形式ではなく、企業の雇用管理の実態に即して行う必要があります。
※2:相当程度少ない
「相当程度少ない」とは、日本の全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいいます。4割を下回っているかについては、雇用管理区分ごとに判断するものです。
○ポジティブ・アクションの推進 (出典:厚生労働省作成リーフレット)
ア ポジティブ・アクションとは?
ポジティブ・アクションとは、固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、性別による仕事上の格差が生じている場合に、この差を解消しようと個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組をいうとされています。
イ ポジティブ・アクションの進め方
ポジティブ・アクション5つの取組
◇女性の採用拡大 ◎女性の勤続年数の伸長(仕事と家庭の両立)
◇女性の職域拡大 ◎職場環境・風土の改善(男女の役割分担意識の解消)
◇女性の管理職の増加
○ポジティブ・アクションは義務か?
均等法第8条は、女性労働者の逆差別を均等法で免責しています。ところで、女性労働者の優遇措置は事業主の義務なのでしょうか?この点を考察してみようと思います。
・均等法の趣旨
均等法の趣旨は、男性労働者に比して差別待遇を受けてきた女性労働者について、その差別を無くして男女の均等な待遇を達成するとともに、女性の有する母性に着目してその保護を確保するものです。それを踏まえ、ポジティブ・アクションについて考察します。
少子高齢化の進行及び人口減少社会を迎えるに当たって将来の日本国を構築するために、大量の外国人労働者(海外の労働者及びその家族の受け入れ)を選択するか又は従来は戦力外とされてきた「短時間労働者」及び「出産・子育て期にある女性」の働く場の確保を行うかの選択を迫られています。そこで、前者は、ヨーロッパ各国の事例を参考にすると、必ずしも良好な結果を得ているとは思われません。後者をみると、パートタイム(短時間)労働者と称して、実は有期労働契約のフルタイム労働者を人件費削減のツールとして多用してきたことが伺えます。特に、小売業・飲食業等の利益率が限られている業種においては、ほぼフルタイムの短時間労働者(有期契約という点のみが本質的に異なります。)が低賃金でその業種を支えて来たと考えられます。真の短時間労働者は、パートタイムではなく「アルバイト」と呼ばれ、学生や時間に余裕がない主婦、就職活動に成功しなかった就職浪人の新卒者(フリーター)等が就労する形態でした。
また、昨今の労働市場を見てみると、海外に製造拠点を設けていた製造業の国内回帰の流れや、いわゆる団塊の世代といわれる方々の大量退職、景気回復の傾向等が相まって、労働力不足の予兆が現れはじめています。そうすると、すぐに顕在化するであろう人手不足への対応としては、①新卒者の採用の拡大、②定年延長による既存の人材の確保、③従来、結婚退職をしていた女性労働者を定年年齢まで長期雇用し、かつ女性が安心して妊娠・出産・子育てできる社会環境を整備する、➃フルタイムであれば就労が難しいが特定の曜日や特定の時間帯であれば、就労が可能な人材の採用や既存の従業員向けの制度づくり等が考えられます。
これらの、①~➃は、厚生労働省がすでに国の施策として法制化を行っており、期が熟するのを待っていた感があります。
①は少子化の中で、新卒の欲しい人材の確保が益々困難になることが近い将来予測されます。
②については、高齢者雇用安定法の施行や改正により、年金制度と関連する形で定年年齢を65歳まで引き上げることが既に義務化されています。(継続雇用制度や再雇用制度を含みます。)
➃は、短時間正社員制度の導入の勧めやワークライフバランス施策により、心身上の制約や家族介護の時間を必要とする労働者の方々への配慮を打ち出しています。
そして、③については、均等法を中心に働く女性の労働条件の均等化や妊娠・出産・子育て期の女性への配慮をした待遇の確保の構築を目指すものです。
このように考察しますと均等法に掲げる女性の待遇の確保は、事業主の義務ではないものの現在の日本においては必要不可欠な社会制度と言えると思われます。
ところで、大量の外国人労働者の受け入れは、それによる国内治安の悪化の危惧や世界で最も素晴らしい日本社会の崩壊の危惧等、個人的にはあまり好ましくないものと考えています。
以上で均等法第8条を終了します。
均等法第8条