均等法第5条
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
第5条(性別を理由とする差別禁止)
事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
○通達の確認
1.平成9年通達
・募集及び採用(第五条関係)
これまで事業主の努力義務であった募集及び採用について、女性に対する差別を禁止することとし、事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならないものとしたこと。
2.平成18年通達
性別を理由とする差別の禁止(法第2章第1節)
法第2章第1節は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るために、労働者に対する性別を理由とする差別の禁止、性別以外の事由を要件とする措置、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等を規定したものであること。
法第5条から第7条まで及び第9条の規定の趣旨は、性別にかかわらず、労働者が雇用の分野における均等な機会を得、その意欲と能力に応じて均等な待遇を受けられるようにすること、すなわち、企業の制度や方針において、労働者が性別を理由として差別を受けること、性別以外の事由を理由とするものであっても実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置を合理的な理由のない場合に講ずること、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱をすること等をなくしていくことにあること。
Ⅰ 性別を理由とする差別の禁止(法第5条及び第6条)
(1)総論
イ 近年における差別事案の動向にかんがみ、男性労働者に対する差別を禁止して、男女双方に対する差別を禁止することとしたとともに、差別禁止の対象となる事項に労働者の降格、職種及び雇用の形態の変更、退職の勧奨並びに労働契約の更新を追加し、配置に業務の配分及び権限の付与が含まれることについて明確化を行ったものであること。
ロ 法第5条の「その性別にかかわりなく均等な機会を与え」るとは、男性、女性といった性別にかかわらず、等しい機会を与えることをいい、男性又は女性一般に対する社会通念や平均的な就業形態等を理由に男女異なる取扱をすることはこれに該当しないものであること。
なお、合理的な理由があれば男女異なる取扱をすることも認められるものであり、指針第2の14(2)はこれに当たる場合であること。
ハ 指針第2の1の「企業の雇用管理の実態に即して行う」とは、例えば、職務内容が同じでも転居を伴う転勤の有無によって取扱を区別して配置を行っているような場合には、当該労働者間において客観的・合理的な違いが存在していると判断され、当該労働者の雇用管理は異なるものとみなすことなどが考えられること。
ニ 指針第2の2(2)から第2の13(2)までにおいて「一の雇用管理区分において」とあるとおり、性別を理由とする差別であるか否かについては、一の雇用管理区分内の労働者について判断するものであること。例えば、「総合職」の採用では男女で均等な取扱いをしているが、「一般職」の採用では男女異なる扱いをしている場合は、他の雇用管理区分において男女で均等な機会を与えていたとしても、ある特定の雇用管理区分において均等な機会を与えていないこととなるため、第5条違反となるものであること。
ホ 法第6条における「差別を理由として」とは、例えば、労働者が男性であること又は女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において、男性労働者と女性労働者の間に一般的又は平均的に、能力、勤続年数、主たる生計の維持者である者の割合等に格差があることを理由とすることの意であり、個々の労働者の意欲、能力等を理由とすることはこれに該当しないものであること。
ヘ 法第6条における「差別的取扱い」とは、合理的な理由無く、社会通念上許容される限度を超えて、一方に対し他方と異なる取扱いをするものをいうものであること。
(2)募集及び採用(法第5条)
イ 「募集」には、職業安定法(昭和22年法律代141号)第4条第5項に規定する募集のほかに、公共職業安定所又は第7項に規定する職業紹介事業者への求人の申込みが含まれるものであること。
ロ 指針第2の2(2)イ②の「職種の名称」とは、男性を表すものとしては、例えば、ウエイター、営業マン、カメラマン、ベルボーイ、潜水夫等「マン」、「ボーイ」、「夫」等男性を表す語が職種の名称の一部に含まれているものがこれに当たるものであり、女性を表すものとしては、ウェイトレス、セールスレディ等「レディ」、「ガール」、「婦」等女性を表す語が職種の名称の一部に含まれているものがこれに当たるものであること。
「対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかである場合」とは、例えば、「カメラマン(男女)募集」とする等男性を表す職種の名称に括弧書きで「男女」と付け加える方法や、「ウェイター・ウェイトレス募集」のように男性を表す職種の名称と女性を表す職種の名称を並立させる方法が考えられること。
「『男性歓迎』,『女性向きの職種』等の表示」の「等」には、「男性優先」、「主として男性」、「女性歓迎」、「貴女を歓迎」等が含まれるものであること。
ハ 指針第2の2(2)ロの「自宅から通勤すること等」の「等」には、「容姿端麗」、「語学堪能」等が含まれるものであること。
ニ 指針第2の2(2)ハ④の「結婚の予定の有無」、「子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無」については、男女双方に質問した場合には、法には違反しないものであるが、もとより、応募者の適正・能力を基準とした公正な採用選考を実施するという観点からは、募集・採用に当たってこのような質問をすること自体望ましくないものであること。
ホ 指針第2の2(2)の「募集又は採用に係る情報」とは、求人の内容の説明のほか、労働者を募集又は採用する目的で提供される会社の概要等に関する資料等が含まれること。
なお、ホは男性又は女性が資料の送付や説明会への出席を希望した場合に、事業主がその希望のすべてに対応することを求める趣旨ではなく、先着順に、又は一定の専攻分野を対象として資料を送付する等一定の範囲の者を対象として資料送付又は説明会の開催を行うことは含まれないこと。
①については、内容が異なる複数の資料を提供する場合には、それぞれの資料について、資料を送付する対象を男女いすれかのみとしないこと等が求められるものであること。
②については、複数の説明会を開催するときは、個々の説明会についてその対象を男女のいずれかのみとしないことが求められるものであって、男女別の会社説明会の開催は②に該当するするものであること。
参考:労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)
○労働者に対する性別を理由とする差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(以下「事業主対処指針」) 抜粋
2 募集及び採用(法第5条関係)
(1)法第5条の「募集」とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。(略)法第5条の「採用」とは、労働契約を締結することをいい、応募の受付、採用のための選考等募集を除く労働契約の締結に至る一連の手続を含む。
(2)募集及び採用に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第5条により禁止されるものであること。※ポジティブアクションの場合を除く。
イ 募集又は採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。
(排除していると認められる例)
① 一定の職種(いわゆる「総合職」、「一般職」等を含む。)や一定の雇用形態(いわゆる「正社員」、「パートタイム労働者」等を含む。)について、募集採用の対象を男女のいすれかのみとすること。
② 募集又は採用に当たって、男女のいずれかを表す職種の名称を用い(対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかである場合を除く。)、又は「男性歓迎」、「女性向きの職種」等の表示を行うこと。
③ 男女をともに募集の対象としているにもかかわらず、応募の受付や採用の対象を男女のいずれかのみとすること。
④ 派遣元事業主が、一定の職種について派遣労働者になろうとする者を登録させるに当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること。
ロ 募集又は採用に当たっての条件を男女で異なるものとすること。
(異なるものとしていると認められる例)
募集又は採用に当たって、女性についてのみ、未婚者であること、子を有していないこと、自宅なら通勤すること等を条件とし、又はこれらの条件を満たす者をすること。
ハ 採用選考において、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること。
(異なる取扱いをしていると認められる例)
① 募集又は採用に当たって実施する筆記試験や面接試験の合格基準を男女で異なるものとすること。
② 男女で異なる採用試験を実施すること。
③ 男女のいずれかについてのみ、採用試験を実施すること。
➃ 採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問すること。
ニ 募集又は採用に当たって男女のいずれかを優先すること。
(男女のいずれかを優先していると認められる例)
① 採用選考に当たって、採用の基準を満たす者の中から男女のいずれかを優先して採用すること。
② 男女別の採用予定人数を設定し、これを明示して、募集すること。又は、設定した人数に従って採用すること。
③ 男女のいずれかについて採用する最低の人数を設定して募集すること。
➃ 男女の選考を終了した後で女性を選考すること。
ホ 求人の内容の説明等募集又は採用に係る情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること。
(異なる取扱いをしていると認められる例)
① 会社の概要等に関する資料を送付する対象を男女のいずれかのみとし、又は資料の内容、送付時期を等を男女で異なるものとすること。
② 求人の内容等に関する説明会を実施するに当たって、その対象を男女のいずれかのみとし、又は説明会を実施する時期を男女で異なるものとすること。
○募集及び採用に関する法の規定の趣旨
ア 私的自治の原則
我が国あるいは国際社会の法治主義の原則は、一見相反する概念である「私的自治の原則」によりその基盤が出来ています。つまり、法治はネガティブリストにより行われるべきであり、法によりすべきことを規定することは、もとより想定されていません。つまり、法規制により私的自治の例外として、してはいけないことを例外的に規定し、公共の福祉を個人の自由が阻害しないように、立法化され規制されているわけです。もちろん、このあたりの解説は、法学者にお願いするとして、募集及び採用に関して契約自由の原則と、均等待遇の確保の両立を考えてみます。
参考:昭和48年 三菱樹脂事件判決文抜粋
また、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九十条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、多面で社会的許容性を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれを律することができないことは、論をまたないところである。
イ 採用の自由の原則
一般に、企業その他の労働契約法・均等法でいうところの使用者は、どのような営業を行いどのような組織を構築し、どのような人材をその営業に充てるのか等について、法人としても基本的人権として憲法により保障されていると解されています。従って、企業(使用者)がどのような者(個人)を労働者として採用するのかについては、あくまで企業の経営権の範疇に属しています。この採用の自由は、労働基準法第3条や憲法第14条、均等法第5条によっても制限を受けません。
参考:昭和48年 三菱樹脂事件判決文抜粋
ところで、憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、ニニ条、ニ九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。(略)また、労働基準法三条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない。
ウ 均等法第5条の趣旨
均等法第5条は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく「均等な機会を与えなければならない。」としており、採用の際に採用後の労働者の男女割合が一定の範囲(例えば男女比が6:4~4:6のように)に収まるように義務付けを行っている規定ではありません。もとより、機会の平等こそが自由主義の理念の本質であり、均等法にあっても「結果平等を定めたもの」ではありません。
均等法の趣旨の裏返しは、性別を問わず男女とも不断の努力を求める規定であるとも言えます。
以上で均等法第5条を終了します。
均等法