均等法第9条

2015年05月15日 09:23

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同情第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 ※労基法第65条第1項の休業とは産前休業(労働者の請求が要件)のこと。同条第2項は産後休業のこと(請求がなくても就労させてはならない)。

4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

均等法施行規則

第2条の2(妊娠又は出産に関する事由)

 法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。

一 妊娠したこと

ニ 出産したこと

三 法第12条若しくは第13条第1項の規定による措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと

 ※法第12条の措置とは妊産婦の保健指導又は健康診査を受ける時間を求め、法第13条第1項の措置とは保健指導又は健康診査を受けるために勤務時間の変更又は勤務の軽減措置

四 労働基準法(昭和22年法律第49号)第64条の2第1号若しくは第64条の3第1項の規定により業務に就くことができず、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかったこと又は同法第64条の2第1号若しくは女性労働基準規則(昭和61年労働省令第3号)第2条第2項の規定による申出をし、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと

 ※労基法第64条の2第1号の規定とは妊産婦の坑内労働(禁止、産婦は申し出)、同法第64条の3第1項の規定とは妊産婦の重量物取扱い・有害業務の禁止、女性規則第2条第2項の規定とは一定のボイラー取扱い業務の禁止

五 労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、若しくは同項の規定による休業をしたこと又は同条第2項の規定により就業できず、若しくは同項の規定による休業をしたこと

 ※労基法第65条第1項の休業とは産前の休業(請求が要件)

六 労働基準法第65条第3項の規定による請求をし、又は同項の規定により他の軽易な業務に転換したこと

 ※労基法第65条第3項の規定とは妊産婦の軽易な作業への転換義務(請求が要件)

七 労働基準法第66条第1項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により一週間について同法第32条第1項の労働時間若しくは一日について同条第2項の労働時間を超えて労働しなかったこと、同法第66条第2項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により時間外労働をせず若しくは休日に労働しなかったこと又は同法第66条第3項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により深夜業をしなかったこと

 ※労基法第66条第1項の規定とは変形労働時間性の適用除外および1日8時間・1週40時間を超える時間外労働の禁止(労働者の請求が要件)、同法第66条第2項の規定とは非常時の時間外労働および36協定による時間外労働の除外(請求が要件)、同法第66条第3項の規定とは深夜業の禁止(請求が要件)

八 労働基準法第67条第1項の規定による請求をし、又は同条第2項の規定による育児時間を取得したこと

 ※労基法第67条第1項の請求とは育児時間の請求

九 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと

通達の確認

・婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(法第9条)

(1)第1条の「出産」とは、妊娠4箇月以上は(1箇月は28日といして計算する。したがって、4箇月以上というのは85日以上のことである。)の分娩をいい、生産のみならず死産をも含むものであること。

(2)第3項は、妊娠、出産は女性特有の問題であり、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るためには、妊娠、出産に関連して女性労働者が解雇その他不利益な取扱いを受けないようにすることが必要であることから、事業主がその雇用する女性労働者に対し、則第2条の2に掲げる事由を理由として解雇その他不利益な取扱いを行うことを禁止するものであること。

 なお、本項は、「その雇用する女性労働者」を対象としているものであるので、求職者は対象に含まないものであること。

(3)第3項の適用に当たっては、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)」第47条の2の規定により、派遣先は、派遣労働者を雇用する事業主とみなされること。

(4)第3項は、産前産後の休業をしたことを理由として時期を問わず解雇してはならないことを定めたものであり、労働基準法第19条とは、目的、時期、罰則の有無を異にしているが、重なり合う部分については両規定が適用されるものであること。

(5)指針第4の3(1)なお書きの「妊産婦」とは、労働基準法第64条の3第1項に規定する妊産婦を指すものであること。

(6)指針第4の3(2)のイからルまでに掲げる行為は、法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」の例示であること。したがって、ここに掲げていない行為について個別具体的な事情を勘案すれば不利益取扱いに該当するケースもあり得るものであり、例えば、長期間の昇給停止や昇進停止、期間を定めて雇用される者について更新後の労働契約の期間を短縮することなどは、不利益な取扱いに該当するものと考えられること。

イ 指針第4の3(2)ロの「契約の更新をしないこと」が不利益な取扱いとして禁止されるのは、妊娠・出産等を理由とする場合に限られるものであることから、契約の更新回数が決まっていて妊娠・出産等がなかったとしても契約は更新されなかった場合、経営の合理化のためにすべての有期契約労働者の契約を更新しない場合等はこれに該当しないものであること。

 契約の不更新が不利益な取扱いに該当することになる場合には、休業等により契約期間のすべてにわたり労働者が労務の提供ができない場合であっても、契約を更新しなければならないものであること。

ロ 指針第4の3(2)ホの「降格」とは、指針第2の5(1)と同義であり、同列の職階ではあるが異動前の職務と比較すると権限が少ない職務への異動は、「降格」には当たらないものであること。

(7)指針第4の3(3)は、不利益取扱いに該当するか否かについての勘案事項を示したものであること。

イ 指針第4の3(3)ロの「等」には、例えば、事業主が、労働者の上司等に嫌がらせ的な言動をさせるようし向ける場合が含まれるものであること。

ロ 指針第4の3(3)ハのなお書きについては、あくまでも客観的にみて他に転換すべき軽易な業務がない場合に限られるものであり、事業主が転換すべき軽易な業務を探すことなく、安易に自宅待機を命じる場合等を含むものではないことに留意すること。

ハ 指針第4の3(3)への「通常の人事異動のルール」とは、当該事業所における人事異動に関する内規等の人事異動の基本方針などをいうが、必ずしも書面によるものである必要はなく、当該事業所で行われてきた人事異動慣行も含まれるものであること。「相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせること」とは、配置転換の対象とする労働者が負うことになる経済的又は精神的な不利益が通常甘受すべき程度を著しく越えるものであることの意であること。

 ③の「原職相当職」の範囲は、個々の企業又は事業所における組織の状況、業務配分、その他の雇用管理の状況によって様々であるが、一般的に、(イ)休業後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと、(ロ)休業前と休業後とで職務内容が異なっていないこと及び(ハ)休業前と休業後とで勤務する事業所が同一であることのいずれかにも該当する場合には、「原職相当職」と評価されるものであること。

ニ 指針第4の3(3)ト①の「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められない場合とは、単に、妊娠、出産等により従来よりも労務能率が低下したというだけではなく、それが、派遣契約に定められた役務の提供ができない程度に至ることが必要であること。また、派遣元事業主が、代替要員を追加して派遣する等により、当該派遣労働者の労働能率の低下や休業を補うことができる場合についても、「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められるものであること。②においても同様であること。

(8)指針第4の3(1)ハからチまでに係る休業等については、労働基準法及び法がその権利又は利益を保障した趣旨を実質的に失わせるような取扱いを行うことは、公序良俗に違反し、無効であると判断された判例があることに留意すること。

(9)法第9条第4項は、妊娠中の女性労働者及び出産1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇についての民事的効力を定めたものであること。すなわち、妊娠中及び出産後1年以内に行われた解雇を、裁判で争うまでもなく無効にするとともに、解雇が妊娠、出産等を理由とするものではないことについての証明責任を事業主に負わせる効果があるものであること。

 このような解雇がなされた場合には、事業主が当該解雇が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを証明しない限り無効となり、労働契約が存続することとなるものであること。

事業主の対処指針(平成18年厚生労働省告示614号)

婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(法第9条関係)

1. 婚姻・妊娠・出産を退職理由として予定する定め(法第9条関係)

 女性労働者が婚姻したこと、妊娠したこと、又は出産したことを退職理由として予定する定めをすることは、法第9条第1項により禁止されるものである。

 法第9条第1項の「予定する定め」とは、女性労働者が婚姻、妊娠又は出産した場合には退職する旨をあらかじめ労働協約、就業規則又は労働契約に定めることをいうほか、労働契約の締結に際し労働者がいわゆる念書を提出する場合や、婚姻、妊娠又は出産した場合の退職慣行について、事業主が事実上退職制度として運用しているような実態がある場合も含まれる。

2.婚姻したことを理由とする解雇(法第9条第2項関係)

 女性労働者が婚姻したことを理由として解雇することは、法第9条第2項により禁止されるものである。

3.妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱い(法第9条第3項関係)

(1)その雇用する女性労働者が妊娠したことその他の妊娠又は出産に関する事由であって均等則第2条の2各号で定めるもの(以下「妊娠・出産等」という。)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることは、法第9条第3項(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第47条の規定により適用することとされる場合を含む。)により禁止されるものである。

 法第9条第3項の「理由として」とは、妊娠・出産等と、解雇その他不利益な取扱いとの間に因果関係があることをいう。

 均等則第2条の2各号においては、具体的に次のような事由を定めている。

(均等則第2条の2各号に掲げる事由) (前記のため略)

 なお、「妊娠又は出産に起因する症状(均等則第9号)」とは、つわり、妊娠悪阻(ニンシンオソ)、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいう。

 ※妊娠悪阻:つわりの症状が重篤で生理的な範囲を超えて嘔吐を繰り返し治療が必要な状態のこと

(2)法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは、例えば、次に掲げるものが該当する。

イ 解雇すること。

ロ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。

ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。

ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。

ホ 降格させること。

ヘ 就業環境を害すること。

ト 不利益な自宅待機を命ずること。

チ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

リ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。

ヌ 不利益な配置の変更を行うこと。

ル 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

(3)妊娠・出産等を理由として(2)のイからヘまでに掲げる取扱いを行うことは、直ちに不利益な取扱いに該当すると判断されるものであるが、これらに該当するか否か、また、これ以外の取扱いが(2)のトからルまでに掲げる不利益な取扱いに該当するか否かについては、次の事項を勘案して判断すること。

イ 勧奨退職や正社員をパートタイム労働者等の非正社員とするような労働契約内容の変更は、労働者の表面上の同意を得ていたとしても、これが労働者の真意に基づくものでないと認められる場合には、(2)のニの「退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと」に該当すること。

ロ 業務に従事させない、専ら雑務に従事させる等の行為は、(2)のヘの「就業環境を害すること」に該当すること。

ハ 事業主が、産前産後休業の休業終了予定日を超えて休業すること又は医師の指導に基づく休業の措置の期間を超えて休業することを労働者に強要することは、(2)のトの「不利益な自宅待機を命ずること」に該当すること。

 なお、女性労働者が労働基準法第65条第3項の規定により軽易な業務への転換の請求をした場合において、女性労働者が転換すべき業務を指定せず、かつ、客観的にみても他に転換すべき軽易な業務がない場合、女性労働者がやむを得ず休業する場合には、(2)のトの「不利益な自宅待機を命ずること」には該当しないこと。

ニ 次に掲げる場合には、(2)のチの「減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと」に該当すること。

 ① 実際には労務の不提供や労働能率の低下が生じていないにもかかわらず、女性労働者が、妊娠し、出産し、又は労働基準法に基づく産前産後の請求をしたことのみをもって、賃金又は賞与若しくは退職金を減額すること。

 ② 賃金について、妊娠・出産等に係る就労しなかった又はできなかった期間(以下「不就労期間」という。)分を超えて不支給とすること。

 ③ 賞与又は退職金の支給額の算定に当たり、不就労期間や労働能率の低下を考慮の対象とする場合において、同じ期間休業した疾病等や同程度労働能率が低下した疾病等と比較して、妊娠・出産等による休業や妊娠・出産等による労働能率の低下について不利益に取り扱うこと。

 ➃ 賞与又は退職金の支給額の算定に当たり、不就労期間や労働能率の低下を考慮の対象とする場合において、現に妊娠・出産等により休業した期間や労働能率が低下した場合を超えて、休業した、又は労働能率が低下したものとして取り扱うこと。

ホ 次に掲げる場合には、(2)のリの「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」に該当すること。

 ① 実際には労務の不提供や労働能率の低下が生じていないにもかかわらず、女性労働者が、妊娠し、出産し、又は労働基準法に基づく産前休業の請求等をしたことのみをもって、人事考課において、妊娠をしていない者よりも不利に取り扱うこと。

 ② 人事考課において、不就労期間や労働能率の低下を考慮の対象とする場合において、同じ期間休業した疾病等や同程度労働能率が低下した疾病等と比較して、妊娠・出産等による休業や妊娠・出産等による労働能率の低下について不利に取り扱うこと。

ヘ 配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについては、配置の変更の必要性、配置の変更後の賃金その他の労働条件、通勤事情、労働者の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものであるが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、当該労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせることは、(2)のヌの「不利益な配置の変更を行うこと」に該当すること。

 例えば、次に掲げる場合には、人事ローテーションなどの通常の人事異動のルールからは十分に説明できず、「不利益な配置の変更を行うこと」に該当すること。

 ① 妊娠した女性労働者が、その従事する職務において業務を遂行する能力があるにもかかわらず、賃金その他の労働条件、通勤事情が劣ることとなる配置の変更を行うこと。

 ② 妊娠・出産等に伴いその従事する職務において業務を遂行することが困難であり配置を変更する必要がある場合において、他に当該労働者を従事させることができる適当な職務があるにもかかわらず、特別な理由もなく当該職務と比較して、賃金その他の労働条件、通勤事情等が劣ることとなる配置の変更を行うこと。

 ③ 産前産後休業からの復帰に当たって、原職又は原職相当職に就けないこと。

ト 次に掲げる場合には、(2)のルの「派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る派遣の役務の提供を拒むこと」に該当すること。

 ① 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元事業主に対し、派遣労働者の交替を求めること。

 ② 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定めらられた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元事業主に対し、当該派遣労働者の派遣を拒むこと。

裁判例にみる妊産婦の待遇の実情

ア 昭和47年(ネ)2138 東京高裁判決 判決文抜粋 東洋鋼鈑配転拒否事件(労働者敗訴)

 前記認定事実を総合すれば、控訴会社の本社および綜合研究所においては本件配転当時、女子従業員は結婚したら退職するのが通例とされ、出産後も退職しない者は皆無であつたために、控訴会社が被上告人に対して出産後退職することを期待していたこと、従って依然として退職しようとしない同人に対して好ましく思つていなかったであろうことは推認するに難くないが、さればといつてそれがため同人に退職を余儀なくさしょうと考えていたものとまで推認するのは相当ではない。

 生後一年未満の生児を育てる母親に対しては、労働基準法の定める育児時間は当然の権利として保障されなければならないことはいうまでもないことろであるが、そのほか母性保護の見地からかかる母親である女子従業員の作業等につき配慮を加えることもまた同法の要請するところであるといわなければならない。そして成立に争いのない疎乙第一号証によれば、綜合研究所の就業規則には、育児時間に関する規定(第十七条)のほか、妊産婦を健康要保護者として、集合制限、作業転換、治療その他保健衛生上必要な措置をとることがある旨定められていること(第八八条)が認められる。従って控訴会社としては、労働基準法、就業規則により義務付けられている措置をとらなければならないのであるが、それに伴い当該女子従業員の実質労働能率の低下を予想し、さらに他の従業員と区別して取り扱うことによる職場への影響に対する対応策について考え、措置することも企業運営上当然許されるところといわなければならない。

 控訴会社が被上告人の産休明けの新配置を検討するに当り、本社および綜合研究所には適当な職がなかったこと、そして前記の如き理由により本件配置転換をなしたことは、後期認定のとおりであって、控訴会社が被控訴人を好ましく思っていなかったであらうことを考慮に入れても、なお、本件配転命令が被控訴人の主張するが如き差別的取扱いであると考えることはできない。

 従業員の配置転換は、それが労働契約、労働協約、就業規則その他労働関係法令に反しない限り、人事権の行使として、原則として使用者の裁量に委ねられ、ただそれが、使用者の恣意により合理的必要がなくてされた場合、あるいは他の意図をもつて本来考慮に入れるべきでない事項を考慮してなされた場合には、人事権を濫用したものとして、配置転換は効力を生じないものと考えるのが相当である。

イ 平成24年(受)第2231号 平成26年10月23日 最高裁一小判決 

① 上告人申立て理由

 本件は、被上告人に雇用され副主任の職位にあった理学療法士である上告人が、労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業の終了後も副主任に任じられなかったことから、被上告人に対し、上記の副主任を免じた措置は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して、管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

②判決の理由

 上記のような均等法の規定の文書や趣旨等に鑑みると、同法9条3項の規定は、上記の目的及び基本的理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等への理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、動向に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである。

 一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的に照らせば、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取り扱いに当たるものと解されるが、当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の訂正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置に同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。

 そして、

A 上記の承諾に係る合理的な理由に関しては、

  上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置の前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等を勘案し、当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその許諾を決定し得たか否かという観点から、その存否を判断すべきものと解される。

B また、上記特段の事情に関しては、

  上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって、当該労働者の転換後の業務上の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して、その存否を判断すべきものと解される。

 これを本件についてみるに、(略)上告人が軽易業務への転換及び本絵kん措置により受けた有利な影響の内容や程度が明らかにされているということはできない。

 他方で、本件措置により、上告人は、その職位が勤続10年を経て就任した管理職である副主任から非管理職の職員にされるという処遇上の不利な影響を受けるとともに、管理職手当の支給を受けられなくなるなどの給与等に係る不利益な影響も受けている。

 そして、上告人は、前期2(7)のとおり、育児休業を終えて職場復帰した後も、本件措置後間もなく副主任に昇進した他の職員の下で、副主任に復帰することができずに非管理職の職員としての勤務を余儀なくされ続けているのであって、このような一連の経緯にみると、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間中の一時的な措置ではなく、上記期間の経過後も副主任への復帰を予定していない措置としてされたものとみるのが相当であると言わざるを得ない。

 しかるところ、上告人は、被上告人からリハビリ科の科長等を通じて副主任を免ずる旨を伝えられた際に、育児休業からの職場復帰時に副主人に復帰することの可否等について説明を受けた形跡は記録上うかがわれず、さらに、職場復帰に関する希望聴取の際には職場復帰後も副就任に任じられないことをしらされ、これを不服として強く抗議し、その後に本訴の定期に至っているものである。

 そうすると、本件につては、被上告人において上告人につき降格の措置を執ることなく軽易な業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等はあきらかではなく、前記のとおり、本件措置により上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か等も明らかではない一方で、上告人が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は甘露色の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していなものといわざるを得ず、上告人の意向に反するものであったというべきであるから、本件措置については、被上告人における業務上の必要性の内容や程度、上告人における業務上の負担の軽減の内容や程度を義務付ける事情の有無などの点があきらかにされない限り、前期(1)イにいう均等法9条3条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできないものというべきである。

※本裁判では、育児休業を取得するに際し、労働者は育児休業終了後に休業前の職位に復職できるものと誤認していたところ、使用者が明確な説明をせず、休業に入ってしまった。そこで、職場復帰後に休業前の職位に戻れないことを強く抗議したが聞き入れられず提訴した。育児休業を取得するに際して、労働者が受けた利益と、処遇の変更に伴う労働者の不利益を比較考量すると、明らかに不利益のほうが大きく、均等法第9条第3項に違反するものである、と判断されました。

まとめ

 昨年の最高裁の判例は、個人的には当然の判断と考えます。配転は事業主の経営権の範囲として当然に認められるとして、育児休業取得者の休業開始時に、形式上本人の了承を得たことにして降職処分を行うことは、事実上懲戒処分に等しい行為です。均等法の趣旨に明らかに反しますし、これを認めてしまえば、育児休業の取得を抑制してしまいます。事業主にとっては、業務の中核を担う管理職たる女性労働者が1年以上もの間休業し、その間の業務の質と量の維持を如何に行うか簡単な課題ではないかと思います。しかし、この点をクリアーしない限り女性の家庭(出産や子育て、家事)と仕事の両立は、永遠にかなわない単なる理想論となってしまいます。

 

以上で均等法第9条を終わります。

 

均等法第9条