年次有給休暇とは何か?
年次有給休暇の考察
年次有給休暇は、労働基準法第39条に規定があります。それでは、年次有給休暇とは何でしょうか?定年後に嘱託で再雇用された場合、退職前に使い切れなかった年休は消えてしまったのでしょうか?飲食店のアルバイトをかれこれ2年近くやっているのですが、風邪をひいたときなどに年休は使えないのでしょうか?
以上について、疑問別に整理して記述します。また、年休についての典型的な裁判例を記述します。
○そもそも年次有給休暇とは何か?
年次有給休暇は、労働者がその有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときには、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によって、年次有給休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅する効果をもたらすものです。※自著「労働基準法の研究p433より引用」
参考:「労働基準法の研究」労働基準法の研究.doc (2405499)
休日と休暇の違いは労働契約法のところで記述しましたが、休日とは「本来就労義務のない日」であり、「休暇とは、手続きを経て「本来の就労日の就労が免除される日」」です。
そして、年次有給休暇の取得要件・効果は次のとおりです。
1 労働者は有する(保有する)年次有給休暇の範囲内で権利行使が可能であること
2 手続きとしては、労働者が始期と終期を特定して休暇の時季指定を行うこと
※時間単位の取得の場合は、開始時刻及び終了時刻を時季指定します。
3 使用者は、2の対抗措置として(適法な)時季変更権を行使することが可能であること
4 3の使用者の時季変更権の行使が無い限り、2の時季指定によって「時季指定に係る労働日(又は労働時間)における『就労義務が消滅する』」という法的な効果があること
5 使用者は、労働者が法(労働基準法)39条の年次有給休暇を取得した場合において、同条に規定される何らかの賃金の支払義務が発生する。
年次有給休暇の時季指定と時季変更権について、一つの判決文を見てみます。
休暇の時季指定の効果は、「使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、年次有給休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はない」※労働基準法の研究p435より
年次有給休暇の定義のまとめ
ア 年次有給休暇は、労働基準法第39条に規定されている法定の有給休暇である
イ 年次有給休暇は保有している日数の範囲内で、労働者の時季指定(使用者に対する取得の請求ではない。単に、いつ取得するのかを特定し、その始期と終期を使用者に申し出ればよい。(半日単位又は時間単位の取得の場合を除く))
ウ 使用者は、労働者が保有する年次有給休暇を取得する旨の時季指定を行った場合には、適法な時季変更権の行使が可能である。これにより、労働者の時季指定が解除されて別の時季に指定をし直すという効果がある
エ 使用者は、労働者が年次有給休暇を取得した場合には、労働基準法の規定に沿って予め就業規則等に定められた賃金を支払わなければならない。
○年次有給休暇をめぐるあれこれ
ア 適法な時季変更権と何か?
時季変更権は、労働者の時季指定によりその労働者の就労義務を免除した場合において「事業の正常な運営を妨げる場合」において、労働者の指定した時季ではなく、将来の特定の日を(労働者が)再度時季指定することにより、結果的に別の日に年休を取得するようにできる(時季を変更できる)使用者の権利のことです。※労働基準法の研究p454より
イ 年休の計画的付与とは何か?
年次有給休暇の労使協定による計画的付与は、労使協定により年次有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、法第39条第4項の定めにかかわらず、その定めにより年次有給休暇を与えることができるものとされています。※労働基準法の研究p448より
ウ 年次有給休暇の比例付与とは何か?
年次有給休暇の比例付与(制度)は、週の所定労働時間が30時間未満であって、週の所定労働日数が4日以下等の労働者について、付与日数を按分して付与するという制度です。※労働基準法の研究p446より
結局、週の所定労働日数が1日未満(隔週出勤など)の場合、且つ1年間の所定労働日数(又は出勤実績)が48日未満の場合には、その労働者についいては、休日がほとんどですから年休は発生しないこととなります。他方で、週の所定労働日数が1日以上又は、過去1年間の所定労働日数(又は出勤実績)が48日以上(6ヶ月換算では24日以上)の場合は、年休が比例付与されることとなります。
エ 年次有給休暇の発生日(6ヶ月経過日、その後1年経過日)の判断の元となる継続勤務とは何か?
年次有給休暇は、入社日(労働契約の開始日、有期労働契約の場合は最初の契約期間の初日)から6ヶ月経過日に所定の日数(週5日の所定労働日数であれば10日)が発生します。
①6ヶ月経過日とはいつか?
そこで、6ヶ月経過日とはいつかについて考えます。1ヶ月は民法の規定に従います。
民法第143条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を計算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応答する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応答する日がないときは、その月の末日に満了する。
例えば、今年の5月7日に正社員として入社する場合には、年休発生日は6ヶ月後の応答日の前日の翌日(6ヵ月後の応答日=今年の11月7日)に年休が10日発生します。そして、次年度から毎年11月7日に所定の日数が発生します。
②継続勤務とは何か?
年休は、入社日から6ヶ月間継続勤務すれば6ヶ月経過日に発生します。この継続勤務の意味を考えてみます。
次の場合には、継続勤務と判断されます。
a 有期労働契約を切れ目なく更新している場合(この場合1~2週間程度の短期間の切れ目は、継続勤務として扱う)
b 定年退職後、引き続き嘱託勤務等として再雇用された場合(通算する)
c 在籍出向
d 休職期間と復職後
e パートが正社員に変わった場合(通算する)
f 会社が新会社に引き継がれた場合(新旧の会社の勤務を通算する)
g 会社の偽装解散の場合(旧解散会社から新設立会社への所属変更の場合通算する)
※労働契約法の研究p442より
オ 年次有給休暇の買い上げの問題
年次有給休暇は、取得可能な日数部分を買い上げることは、その取得を阻害しますので、労働基準法第39条違反とされています。ただし、時効により消滅した日数分、会社が独自に法定以上の日数として上乗せした分、退職に際し退職日までに取得しきれない日数分については、買い上げが違法ではないとされています。
※使用者に、年休買い上げの義務はありません。ただし、前記の違法でない日数分を買い上げると就業規則等に規定があれば労働条件となり、買い上げの義務が生じます。さらに、年休は退職すれば保有している日数が全て消滅します。
カ その他
年次有給休暇の付与条件である8割以上出勤の算定方法、年次有給休暇取得時の支払賃金、消滅時効、時間単位付与の問題等さまざまな問題があります。しかし、今回は記述を省略したいと思います。※代わりに労働基準法の研究をご参照ください。
ただし、次の二つだけ確認のため記述します。
A 日雇い労働者等の年次有給休暇
昭和61年基発1号
継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即して実質的に判断すべきでものあり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤続年数を通算する。
ロ)法第21条各号に該当する者でも、その実態よりみて引き続き使用されていると認められる場合
労働基準法第21条(中略、解雇予告制度除外)
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 試みの試用期間中の者
※従って、日雇い契約であっても実質的に雇用が継続していれば6か月経過日に所定の日数の年次有給休暇が付与される事となります。
B 派遣労働者の年次有給休暇
派遣労働者の場合の年次有給休暇についての使用者は、派遣元事業主が使用者として取り扱われます。従って、労働者は派遣先事業所ではなく、派遣元の派遣会社に時季指定することとなります。※労働時間管理、休憩、休日他は派遣先事業所が使用者として管理します。
○年次有給休暇をめぐる裁判例
ア 平成11年(ネ)5219 東京高裁判決 日本交通事件 時季変更権の濫用、年休の自由利用
判決は、労働者の請求棄却 特定の業務拒否のための時季指定(権利濫用)とそれに対する時季変更(適法)
判決の理由は、
権利濫用の法理は、一般法理であるから、その適用される分野は何ら限定されるものではないと解されるのであって、年次有給休暇の時季指定権についてはその適用がないと解すべき根拠はない。
労基法39条4項は、労働者の時季指定権の行使に対し、使用者が一定の要件のもとに時季変更権を行使することができる旨を定めているが、この規定は、労働者の時季指定権に対抗するための手段として、使用者に時季変更権を付与しているにとどまり、使用者としては、時季指定権の行使に対しては、常に時季変更権によって対抗することができるだけであるという趣旨まで含むものではないことは明らかである。
また、時季指定権についても、これが社会通念上正当とされる範囲を逸脱して行使され、権利の行使として是認することができない場合があり得るのであって、そのような権利の行使が権利の濫用として無効とされることを妨げるべき理由は見いだせない。
したがって、時季指定権についても、権利濫用法理の適用があると解するのが相当である。そして、時間的余裕を置かない時季指定権の行使は、権利の行使が社会的相当性を欠く一つの場合にすぎないのであって、権利濫用の法理が適用される範囲を、このような場合に限定すべき根拠はない。
年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である。しかし、これは、有効な時季指定権の行使がされた場合にいい得ることであって、時季指定権の行使が権利の濫用として無効とされるときには、年次有給休暇の自由利用の原則が問題とされる余地はない。
以上のとおりであるから、年次有給休暇の自由利用の原則を根拠にして、時季変更権の行使については権利濫用の法理を入れる余地がない、ということはできない。
イ 昭和42年(ワ)149 熊本地裁判決 チッソ年休拒否
判決は、労働者の請求棄却、使用者の時季変更権は正当
判決の理由は、
被告水俣工場就業規則第35条3(1)には、「慰休は、従業員が請求した時期に与えることを原則とする。但し、業務の正常な運営を妨げると認めたときは、予定時期を変更し、他の時期に与えることがある。」と規定されている。右の「業務の正常な運営を妨げる」場合とは、従来、三交替職場においては作業定員、その他の職場では特定の作業に必要な人員を割る結果作業の円滑な遂行ができなくなるような場合をいうものとの解釈で運用されて来た。そして、慰休申請が集中して当日のができない場合には、従来ビニレック係では慰休請求者同士で調整を図りそれができない場合には自発的に後で請求した者が時期を変更し、ガス係りにおいては公休者に替わつてもらうかそれができない場合にはビニレック係と同様請求者同士の話合いによるかあるいは後の請求者が時期を変更することとなるのが通常であった。
一般に、作業に必要な人員を欠くということが直ちに時季変更権行使の正当な理由となり得ないことはもとよりである。
したがって、かかる通常の方法をもつて必要人員の確保ができずに定員を割ることとなる場合には被告就業規則第三五条の「業務の正常な運営を妨げる」場合に該る(アタル)というべきであり、前認定のような当日の人員確保の必要ならびに欠員補充の困難な事情に徴する(チョウスル)と、本件の場合はいずれも原告らの慰休請求に対し時季変更権を行使するのもやむを得なかつたものと認められる。
時季変更権行使の要件としての「業務の正常な運営を妨げる」とは、休暇の実現と事業運営との調和を図る制度の趣旨に照らし、現実に業務阻害の結果が発生することまで要するものではなく、その発生のおそれがあれば足りるものと解するのが相当である。
○まとめ
年休について誤解している労働者・使用者が数多くいると考えています。年休、育休、その他取得できる環境にあって始めて、法の趣旨が達成できます。以下に、年休関連のパンフレット等を添付しますので、ご参考にしていただければ幸いです。
年次有給休暇については、以上で終了します。
次回は、休日・休憩とは何か?について記述します。
打ち間違いは徐々に訂正します。
年休