管理監督者の拡大解釈

2015年06月02日 16:17

管理監督者の拡大解釈

労働基準法第41条

 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
 一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
 二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
 三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

自著「労働基準法の研究」より

・労働時間、休憩、休日の適用除外の規定です。

 昨今、名ばかり管理監督者の問題で度々話題に上る条文です。そこで、第41条については、少し丁寧に記述したいと考えています。今回も、まず判例から、法第41条第1項第2号に関して、重点的に確認してみたいと思います。

Ⅰ 参考判例・管理監督者
1)バズ(美容室副店長)事件 2008年4月22日 東京地 判決 
 原告は、自らの業務内容について、その内容及び時間を決定する上で裁量があり、副店長兼トップスタイリストとして、被告代表者、店長に継ぐ地位にあり、店舗経営(サロンワーク)に関しては、被告代表者ともに中心的な役割を担っていたといえるけれども、被告の経営、人事、労務管理等へ関与は限定的であり、格別の金銭的処遇を受けていたわけでもなく、自らの労働時間についても被告による出退勤管理を受けていたものであるから、労働条件の決定その他労務管理について経営者である被告と一体的立場にあるとまでいうことはできない
 したがって、原告は、労働基準法41条2号にいう「管理監督者」ではないというのが相当である。

※会社の「経営」「人事」「労務管理」等への関与が著しく、「労働条件の決定その他労務管理について経営者である被告と一体的立場にある」場合であって、相当の賃金(高額なもの)を得ている場合には、法第41条第2号の「監督若しくは管理の地位にある者」とされています。

2)日本ファースト証券事件 2008年2月8日 大阪地 判決 
 原告は、大阪支店の長として、三〇名以上の部下を統括する地位にあり、被告全体から見ても、事業経営上重要な上位の職責にあったこと、大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限を有しており、中途採用者については実質的に採否を決する権限が与えられていたこと、人事考課を行い、係長以下の人事については原告の裁量で決することができ、社員の降格や昇格についても相当な影響力を有していたこと、部下の労務管理を行う一方、原告の出欠勤の有無や労働時間は報告や管理の対象外であったこと、月二五万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と併せると賃金は月八二万円になり、その額は店長以下のそれより格段に高いことが認められる。
 このような原告の職務内容、権限と責任、勤務態様、待遇等の実態に照らしてみれば、原告は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある管理監督者にあたるというべきである。
 これに対し、原告は、大阪支店長とは名ばかりであり、経営方針の設定や社員の採否・昇降格・配置等の労務人事管理は、専ら本社のB副社長の指示によるものであって、原告には何らの権限もなかったと主張し、証拠中にはこれに沿う部分がある。
 しかし、毎朝のミーティングでの話題事項が、本社から逐一指示されてくるとは考え難い上、社員の配置や組織変更は、常に原告が支店経営上の必要性を考えて自ら発案したものであって、大阪支店を担当する副社長の了解を得ているとは言っても、経営方針の設定や社員の配置等についての実質的な決定権限は原告にあったということができる。
 また、本社が試験や面接を実施する新規採用の場合と異なり、中途採用の場合は、支店に直接応募してくるか、社員からの紹介に多くよることが多く、面接結果が唯一の資料となるところ、採否についての実質的な決定権限は面接を実施する原告に委ねられているというべきである。原告は、予め本社から採否が伝えられていた旨供述するが、にわかに信用し難い。

 社員の昇降格についても、原告には自らの人事評価に基づき意見を述べる機会を与えられていた上、原告の意見が容れられなかった例が実際にあるのかについては証拠上明らかでない。なお、原告は、自らも降格処分を受けていることをもって、自身に人事権がなかった証拠であると主張するが、証拠によれば、原告の降格は、部下の営業成績が悪かったことに対する管理者責任を問われた結果であることが認められ、かえって原告に支店の経営責任と労務管理責任があったことを裏付ける。
 さらに、原告は、新聞の購読すら支店長が自由に決定することができないなど、経費についての裁量は著しく乏しかった旨供述するが、証拠(省略)に照らしてにわかに信用し難い。
 また、原告は、外務員日誌の作成を求められるなど労働時間の管理を受けており、欠勤控除されなかったのは欠勤したことがなかったからにすぎず、現に後任のD支店長は欠勤控除されていると主張する。
 しかし、外務員日誌の作成が交通費の実費精算と営業経過の備忘のためであったことは、原告も認めているところであって、これをもって労働時間が管理されていたということはできない。
 また、証拠(省略)によれば、D支店長に対する賃金控除は、部下に対する監督責任を問われたものであると窺われ、少なくとも欠勤に対する控除であった否かは本件全証拠によっても判然としない。
 さらに、原告は、待遇としても、以前勤めていた会社では、被告での給与より、残業手当込みで月額一五万円以上高かったと述べ、被告における待遇は高いものではなかったと主張する。
 しかし、賃金体系も契約内容も異なる会社での給与額だけを単純に比較して、その多寡を決することはできないし、被告における月額八〇万円以上の給与が、原告の職務と権限に見合った待遇と解されないほど低額とも言いがたい。
 ほかに、前記の認定を覆すに足る証拠はない。
以上により、争点四についての被告の主張には理由があり、争点三について判断するまでもなく、原告の時間外割増賃金の請求には理由がない。 

※以下に、事例の2)の判決内容を整理してみます。なお、判決では管理監督者と認定されました。
1.大阪支店の長として、三〇名以上の部下を統括する地位にあった
2.会社全体から見ても、事業経営上重要な上位の職責にあった
3.大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限を有していた
4.中途採用者については実質的に採否を決する権限が与えられていた
5.人事考課を行い、係長以下の人事については原告の裁量で決することができ、社員の降格や昇格についても相当な影響力を有していた
6.部下の労務管理を行う一方、原告の出欠勤の有無や労働時間は報告や管理の対象外であった
7.月二五万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と併せると賃金は月八二万円になり、その額は店長以下のそれより格段に高かった

原告の主張は以下のとおり
1.大阪支店長とは名ばかりであり、経営方針の設定や社員の採否・昇降格・配置等の労務人事管理は、専ら本社の副社長の指示によるものであって、原告には何らの権限もなかった(認定されず)
2.社員の配置や組織変更は、常に原告が支店経営上の必要性を考えて自ら発案したものであって、大阪支店を担当する副社長の了解を得ていた(認定されず)
3.本社が試験や面接を実施する新規採用の場合と同様、中途採用の場合も予め本社から採否が伝えられていた(認定されず)
4.自らも降格処分を受けていることから、自身に人事権がなかった証拠である(認定されず)
5.新聞の購読すら支店長が自由に決定することができないなど、経費についての裁量は著しく乏しかった(認定されず)
6.外務員日誌の作成を求められるなど労働時間の管理を受けており、欠勤控除されなかったのは欠勤したことがなかったからにすぎず、現に後任の支店長は欠勤控除されている(認定されず)
7.待遇としても、以前勤めていた会社では、被告での給与より、残業手当込みで月額一五万円以上高かった(認定されず)

※この判例は、かなり具体的で参考になるかと思います。
 判決内容は、「割増賃金の請求には理由がない」としています。この点で、もう一つの考え方として、「割増賃金ではない通常の賃金はどうか」という点が疑問です。参考までに、通常の賃金の場合には、「労使の定めるところによる」との通達があります。

3)岡部製作所事件 2006年5月26日 東京地 判決 
 被告における原告の地位・立場に照らした実際の就労事情からすると、原告の被告への経営参画状況は極めて限定的であること、常時部下がいて当該部下の人事権なり管理権を掌握しているわけでもなく、人事労務の決定権を有せず、むしろ、量的にはともかく質的には原告の職務は原告が被告社内で養ってきた知識、経験及び人脈等を動員して一人でやり繰りする専門職的な色彩の強い業務であることが窺われること、勤務時間も実際上は一般の従業員に近い勤務をしており、原告が自由に決定できるものではないことなどが認められる。
 確かに、原告は被告の青梅工場の営業開発部(その後は技術開発部)の部長という肩書きを持ち、社内で管理職としての待遇を受け、役付手当として月11万円の支給を受けていることは認められるものの、これらをもってしては、未だ、労基法41条2号のいわゆる管理監督者に該当するとして労働時間に関する規定の適用除外者とまでは認めることができない
 他に本件証拠上、原告につき管理監督者と認めるに足りる有効なものは見当たらない。
 それゆえ、原告につき労基法上の休日割増賃金支給の対象には当たらないとする被告の主張は採用できない。
(原則勝訴)

※1.被告への経営参画状況は極めて限定的
 2.常時部下がいて当該部下の人事権なり管理権を掌握しているわけではない
 3.人事労務の決定権を有しない
 4.量的にはともかく質的には原告の職務は原告が被告社内で養ってきた知識、経験及び人脈等を動員して一人でやり繰りする専門職的な色彩の強い業務である
 5.勤務時間も実際上は一般の従業員に近い勤務をしており、原告が自由に決定できるものではない
 6.部長という肩書きを持ち、社内で管理職としての待遇を受け、役付手当として月11万円の支給を受けていることは認められる
 7.原告につき管理監督者と認めるに足りる有効なものは見当たらない

4)東建ジオテック事件 2002年3月28日 東京地 判決
 管理監督者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤・退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきであり、単に局長、部長、工場長等といった名称にとらわれることなく、その者の労働の実態に即して判断すべきものである。
 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、原告らは、いずれも東京支店又は東北支店の技術部門に所属し、現場に赴いて自ら、あるいは他従業員を現場で指揮監督しつつ地質調査の業務に従事していたほか、原告らは、課長補佐以上の職にあった当時(調査役の職にあった時期を除く。)いずれも、支店の管理職会議に出席して支店の運営方針等について意見を述べる機会が与えられ、原告Cは、次長職にあった当時、週1回開かれる支店の幹部会議に出席し、また、原告D、同Eを除く原告らは、部下の人事評価に関与していたことが認められる。しかしながら、この管理職会議は、支店において開かれるもので、回数も年に2回にすぎず、その実態も、基本的に会社経営側の支店運営方針を下達する場であったと認められるから、上記のような管理職会議の場で意見具申の機会を与えられていたことをもって、被告の経営方針に関する意思決定に直接的に関与していたと評価することはできないし、原告Cが出席していた幹部会議も、被告がその経営方針にかかわることがらを決定する場であったとは認めがたい。また、原告D、同Eを除く原告らが行っていた人事考課についても、係長として部下の評価について意見を述べ、あるいは課長補佐以上の職にある者として自ら部下の評価を行うことはあったが、当該人事考課には上位者による考課がさらに予定され、最終的には支店長の評点が被考課者の総合評価とされていたのであり、労務管理の一端を担っていたことは否定できないものの、経営者と一体的立場にあったことを示す事実とはいいがたい
 その他、前示の本件請求期間中における原告らの職務内容及び勤務実態にもかかわらず、なお、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあると評価しうるような事情を認めるに足りる証拠はなく、したがって、原告らは、いずれも管理監督者と認めることはできない

4)東建ジオテック事件 2002年3月28日 東京地 判決
※1.管理監督者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指す
 2.労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤・退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべき
 3.単に局長、部長、工場長等といった名称にとらわれることなく、その者の労働の実態に即して判断すべき
事例では、
 ア.支店の管理職会議に出席して支店の運営方針等について意見を述べる機会が与えられ
 イ.原告Cは、次長職にあった当時、週1回開かれる支店の幹部会議に出席し
 ウ.原告D、同Eを除く原告らは、部下の人事評価に関与していた
 エ.管理職会議は、支店において開かれるもので、回数も年に2回にすぎず、その実態も、基本的に会社経営側の支店運営方針を下達する場であった
 オ.管理職会議の場で意見具申の機会を与えられていたことをもって、被告の経営方針に関する意思決定に直接的に関与していたと評価することはできない
 カ.原告Cが出席していた幹部会議も、被告がその経営方針にかかわることがらを決定する場であったとは認めがたい
 キ.原告D、同Eを除く原告らが行っていた人事考課についても、係長として部下の評価について意見を述べ、あるいは課長補佐以上の職にある者として自ら部下の評価を行うことはあったが、当該人事考課には上位者による考課がさらに予定され、最終的には支店長の評点が被考課者の総合評価とされていたのであり、労務管理の一端を担っていたことは否定できないものの、経営者と一体的立場にあったことを示す事実とはいいがたい
※名目上の権限も実質的には、さらに上位者の決裁のもとに決定されているような場合には、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場」にあるとは言えないとされました。

5)育英舎事件 2002年4月18日 札幌地 判決
 労働基準法は、管理監督者に対しては、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めている(41条2号)が、その趣旨とするところは、管理監督者は、その職務の性質上、雇用主と一体(ママ)なり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使する関係上、自らの労働時間を中心とした労働条件の決定等について相当な程度の裁量権を認められ、その地位に見合った相当な待遇を受けている者であるため、強行法規としての労働基準法所定の労働時間等に関する厳格な規制を及ぼす必要がなく、かつ、相当でもないとするところにあるものと解される。したがって、管理監督者に当たるかどうかを判断するに当たっては、その従業員が、雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているかどうか、自己の出退勤を始めとする労働時間について一般の従業員と同程度の規制管理を受けているかどうか、賃金体系を中心とした処遇が、一般の従業員と比較して、その地位と職責にふさわしい厚遇といえるかどうかなどの具体的な勤務実態に即して判断すべきものである。
 原告は、第3営業課長として、その課に属する5教室の人事管理を含むその運営に関する管理業務全般の事務を担当していたものであるが、それらの業務全般を通じて、形式的にも実質的にも裁量的な権限は認められておらず、急場の穴埋のような臨時の異動を除いては何の決定権限も有してはいなかった。
 また、原告は、営業課長として、社長及び他の営業課長ら及び事務局とで構成するチーフミーティングに出席し、被告の営業に関する事項についての協議に参加する資格を有していたが、そのミーティング自体が、いわば社長の決定に当たっての諮問機関の域を出ないものであって、それへの参加が何らかの決定権限や経営への参画を示すものではない。

 さらに、原告は、その勤務形態として、本部に詰めるか、あるいはまた、いつどの教室で執務をするかしないかについては、毎週本部で開かれるチーフミーティングに出席する場合を除いてその裁量に委ねられていたけれども、それは、市内に点在する5教室の管理を任されている関係上、いつどこの教室を回って、どのようにその管理業務を行うかについての裁量があるというに過ぎず、本部及び各教室における出退勤についてはタイムカードへの記録が求められていて、その勤怠管理自体は他の従業員と同様にきちんと行われており、各教室の状況について社長に日報で報告することが例とされているというその業務態様に照らしても、事業場に出勤をするかどうかの自由が認められていたなどということはないし、現に原告は、公休日を除いて毎日事業場には出勤をしていた。
 そして、原告が課長に昇進してからは、課長手当が支給されることになり、それまでの手当よりも月額で1万2000円ほど手当が上がったため、月額支給額が上がり、賞与も多少増額となり、接待費及び交通費として年間30万円の支出が認められ、また、業績に応じて平成11年に1度だけとはいえ、課長報奨金として70万円が支給されるなど、給与面等での待遇が上がっていることは確かであるが、賞与の支給率も、他の事務職員や教室長と比べ、総じて高いとはいえ、原告に匹敵する一般従業員もいることからすると、それは、その役職にふさわしい高率のものであるともいえない

※法41条2号の趣旨
 1.管理監督者は、その職務の性質上、雇用主と一体となり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使するものである
 2.自らの労働時間を中心とした労働条件の決定等について相当な程度の裁量権を認められ、その地位に見合った相当な待遇を受けている者である
 3.上記1.及び2.を理由として、(管理監督者には)強行法規としての労働基準法所定の労働時間等に関する厳格な規制を及ぼす必要がなく、かつ、相当でもないとするところにある
 4.管理監督者に当たるかどうかを判断するに当たっては、その従業員が、雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているかどうか
 5.同じく、自己の出退勤を始めとする労働時間について一般の従業員と同程度の規制管理を受けているかどうか
 6.賃金体系を中心とした処遇が、一般の従業員と比較して、その地位と職責にふさわしい厚遇といえるかどうか
 7.上記4.~6.の具体的な勤務実態に即して判断すべきである
※本件事例に関する判断
 1.原告は、第3営業課長として、その課に属する5教室の人事管理を含むその運営に関する管理業務全般の事務を担当していた
 2.原告の担当業務全般を通じて、形式的にも実質的にも裁量的な権限は認められていなかった
 3.急場の穴埋のような臨時の異動を除いては何の決定権限も有してはいなかった
 4.原告は、営業課長として、社長及び他の営業課長ら及び事務局とで構成するチーフミーティングに出席し、被告の営業に関する事項についての協議に参加する資格を有していた
 5.一方で、ミーティング自体が、いわば社長の決定に当たっての諮問機関の域を出ないものであって、それへの参加が何らかの決定権限や経営への参画を示すものではなかった
 6.原告は、その勤務形態として、本部に詰めるか、あるいはまた、いつどの教室で執務をするかしないかについては、毎週本部で開かれるチーフミーティングに出席する場合を除いてその裁量に委ねられていた
 7.しかし、市内に点在する5教室の管理を任されている関係上、いつどこの教室を回って、どのようにその管理業務を行うかについての裁量があるというに過ぎなかった
 8.本部及び各教室における出退勤についてはタイムカードへの記録が求められていて、その勤怠管理自体は他の従業員と同様にきちんと行われていた
 9.各教室の状況について社長に日報で報告することが例とされているというその業務態様に照らしても、事業場に出勤をするかどうかの自由が認められていたなどということはないし、現に原告は、公休日を除いて毎日事業場には出勤をしていた
 10.賞与の支給率も、他の事務職員や教室長と比べ、総じて高いとはいえ、原告に匹敵する一般従業員もいることからすると、それは、その役職にふさわしい高率のものであるともいえない(以上から、原告は管理監督者ではない)

6)風月荘事件 2001年3月26日 大阪地 判決 
 被告は、原告が労働基準法の労働時間等の規制の適用を除外される同法41条2号の管理監督者に該当するものであったと主張するところ、右管理監督者とは同法が規制する労働時間等の枠を超えて活動することが当然とされる程度に企業経営上重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態もその規制に馴染まないような立場にある者をいうと解され、その判断に当たっては、経営方針の決定に参画し、あるいは労務管理上の指揮権限を有するなど経営者と一体的立場にあり、出退勤について厳密な規制を受けずに自己の勤務時間について自由裁量を有する地位にあるか否か等を具体的な勤務実態に即して検討すべきである。
 右認定事実及び前提事実によれば、確かに原告の賃金には住宅手当がないとはいえ、本件店舗の他の従業員の賃金等に比べ、風紀手当が格段に高額に設定されており、これは勤務が不規則になったり、勤務時間が長時間に及ぶことなどへの配慮がなされた結果であると推認できないではないが、原告には、被告の営業方針や重要事項の決定に参画する権限が認められていたわけではないし、タイムカードの打刻や原告の分をも含む日間面着表の提出が義務づけられ、ある時期まで残業手当も支給されており、日常の就労状況も査定対象とされ、出退勤や勤務時間が自由裁量であったとも認められず、本件店舗の人事権も有していなかったのであって、原告は、勤務状況等も含めて被告から管理されていたというべきであり、到底、経営者と一体的立場にあったなどとは認められず、企業経営上重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態が労働時間の規制に馴染まないような立場にあったとはいえないから、労働基準法41条2号の管理監督者に該当するものではない。

※「到底、経営者と一体的立場にあったなどとは認められず、企業経営上重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態が労働時間の規制に馴染まないような立場にあったとはいえない」としています。

7)ザ・スポーツコネクション事件 2000年8月7日 東京地 判決 
 労基法41条2号にいう管理監督者とは、経営方針の決定に参画し又は労務管理上の指揮権限を有する等、その実態から見て経営者と一体的な立場にあり、出勤退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有する者であると解されるが、右に述べた管理監督者の意義に照らせば、課長代理の役職以上の者が労基法41条2号にいう管理監督者に当たるかどうかについては課長代理の役職以上の者の勤務の実態に即して判断されるべきであるところ、課長代理の役職以上の者の出退社時間はタイムレコーダーによって管理されていなかったこと、課長代理の役職以上の者には残業代が支払われていないことは、当事者間に争いはないが、これらの事実だけでは、被告において課長代理の役職以上の者が労基法41条2号にいう管理監督者に当たると認めることはできない。そして、原告が平成8年4月1日以降経理課長の役職にあったことからすれば、原告は経理課に所属する従業員を管理監督する立場にあったといえること、原告は課長という役職に対する手当として1か月当たり約3万円程度の支給を受けていたこと、これらの事実を併せ考えても、原告が労基法41条2号にいう管理監督者に当たることを認めることはできない。

8)日本マクドナルド事件 2008(平成20)年01月28日 東京地裁 判決
争点抜粋:店長である原告は,労働基準法41条2号の「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者(以下「管理監督者」という)」に当たるか。 
☆被告の主張
(1) 管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督する者(監督の地位にある者)又は他の労働者の労務管理を職務とする者(管理の地位にある者)をいい,監督か管理の一方に職務内容を厳密に分類することができない者であっても,その職務の特質から労働時間管理が困難又は不適切であり,その賃金が職務の特質に適応した額,方法により支払われている場合は,管理監督者に当たるといえる。
(2) 被告の店長は,数十名の従業員(クルー,スウィングマネージャー,アシスタントマネージャー等)の勤務シフトを作成し,当該店舗における従業員の勤務の指揮監督を行っているから,監督の地位にある者に当たる。また,店長は,クルーの採用やスウィングマネージャーへの昇格,クルー及びスウィングマネージャーの人事考課,昇給等を決定するほか,社員の人事考課,昇給等の決定などの労務管理も行っているから,管理の地位にある者にも当たる。

(なお,仮に,管理監督者の該当性について,労務管理以外の職責や権限を考慮すべきであるとしても,被告における店長は,店舗の売上計画や予算の立案のほか,店舗における支出の決定,販売促進活動の企画,実施,店舗の衛生等の管理,店長会議等への参加を通じた被告の経営への参画など,重要な職責と権限を有していることは明らかである)
 そして,以上のような店長の職務は,労働時間の管理になじまないものであるし,その賃金についてはアシスタントマネージャーとは異なる報酬体系が採用され,その職務の特質に即した額,方法による賃金が支払われているから,店長が管理監督者に当たることは明らかである。

☆原告の主張
(1) 管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいう。換言すると,管理監督者とは,労働時間や休日,休憩に関する労働基準法の規制を越えて活動することが要請されるほど重要な職務と責任を有し,それにふさわしい待遇を現実に受けており,現実の勤務形態も労働時間等の規制になじまない立場にある者を意味する。管理監督者に当たるか否かは,社内の名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであるが,その判断の基本は,当該労働者の業務の実情に照らし,労働時間等の規制を適用しなくても当該労働者の保護に欠けることがないといえるか否かである。
(2)被告の店長は,店舗のアルバイト従業員を採用する権限はあるものの,何人でも自由に採用できるわけではなく,その時給を自由に決めることもできない。また,社員を採用する権限はなく,第1次評価者として社員の人事考課は行うが,その昇給,昇格を決定する権限はない。また,店長は,店舗従業員の勤務シフト案を作成するが,その最終的な決定はOCが行っている。さらに,店長は,店舗に関する次年度の売上計画や予算を策定するが,その策定に自由な裁量があるわけではないし,店舗の販売促進活動の内容を決定し,これを実行する権限もない。店長会議には参加するものの,店長会議は,被告が既に決定した店舗の業務に関する営業戦略や社員の人事考課に関する基本方針を店長に徹底させるためのものでしかない。
 このように,店長には経営者と一体といえるような権限,責任はなく,また,その職務は,すべて一定の時間内に行うことが可能な性質のものである。また,店長は,店舗責任者として,営業時間中は基本的に在店しなければならず,他のシフトマネージャーが確保されない営業時間帯には,自らシフトマネージャーとして勤務しているのであって,出退勤の自由はない。
 さらに,店長には,管理監督者としてふさわしい処遇がなされているとはいえず,時間外労働等の割増賃金が支払われるファーストアシスタントマネージャーよりも年収が少ないという逆転現象がしばしば起きている。
(3)以上によれば,店長である原告は,管理監督者に当たらない。

◇争点に対する判断(店長である原告は,管理監督者に当たるか)
(1)使用者は,労働者に対し,原則として,1週40時間又は1日8時間を超えて労働させてはならず(労働基準法32条),労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分,8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないし(同法34条1項),毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないが(同法35条1項),労働基準法が規定するこれらの労働条件は,最低基準を定めたものであるから(同法1条2項),この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきことは,すべての労働者に共通する基本原則であるといえる。
 しかるに,管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条2号),これは,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。

 したがって,原告が管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく,実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,

①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか

②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,

③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か

 などの諸点から判断すべきであるといえる。
 この点,被告は,管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい,その職務の内容が監督か管理の一方に分類できない者でも,労働時間の管理が困難で,職務の特質に適応した賃金が支払われていれば,管理監督者に当たると主張するが,当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば,経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは,上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず,これを採用することはできない。
(2)以上を前提に店長である原2 告の管理監督者性について検討するに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告の店長の権限,役割等については,次の事実が認められる(なお,以下の認定事実は,主として,本件で原告が時間外割増賃金等の請求対象としている平成15年12月から平成17年11月までの時期に関するものであり,店長の職務内容や労務管理の方法等に関しては,その後一部変更された部分もある)。
 ア 人事に関する事項
 店長は,前年度の実績を基に作成した店舗の損益計画を考慮しつつ,店舗のアルバイト従業員であるクルーを採用して,その時給額を決定したり,クルーのスウィングマネージャーへの昇格を決定する権限を有している(なお,平成17年ころ,原告が店長を務める店舗では,この昇格に際し,OCがスウィングマネージャー候補者の知識や技能を確認していたが(スウィングチェック),これは被告の当時の運用としては,スウィングマネージャーへの昇格のために不可欠の手続ではなかった)。
 また,店長は,クルーやスウィングマネージャーに対する人事考課を行い,その昇給を決定する権限も有している。
 他方,社員の採用権限は店長にはなく,社員の昇格についても,一定の基準(店舗でのオンザジョブ・トレーニングや被告が設置するハンバーガー大学の受講の有無)を満たす社員を店長が推薦し,OCがこれを決済することで決定されている。
 また,店長は,店舗に勤務するアシスタントマネージャーについて,一次評価者として,その人事考課を行う権限を有しているが,当該アシスタントマネージャーの人事評価は,OCによる2次評価,店長,OC及び評価対象者による三者面談,OMエリアごとに各店長やOC,OMが出席して開催される評価会議を経て最終的に決定され,その過程で,店長の一次評価についてOCが訂正を指示することもあった。
 イ.各店舗の従業員の就業時間等に関する事項
 店長は,毎月,店舗従業員の勤務シフト表(社員とスウィングマネージャーのものと,クルーのもの)を作成して被告に提出し,この作成に併せて店長自身の勤務スケジュールを決定している。
 また,店長は,被告から送付された協定書の雛形に則り,被告を代表して,店舗従業員の代表者との間で,時間外労働等に関する協定を締結したり,就業規則の変更に関する店舗従業員の代表者の意見を受領し,労働基準監督署長に就業規則を変更した旨の届出をしたり,従業員代表との間で,賃金控除に関する協定書を締結する権限を有している。
 ウ.各店舗の営業等に関する事項
 店長は,本社が店舗の前年度実績から作成した売上予想に基づき,次年度の店舗の売上予想や予算等を記載した損益計画を作成し,これを本社に提出する。なお,店長が作成した損益計画は,自ら定めた努力目標という位置付けであって,ノルマというものではなかった。また,店長は,毎月,その時点における店舗の実情に基づき,上記損益計画について月次の修正を行うことがあった。

 店長は,店舗の支出のうち,フードアンドペーパーコスト(食材の仕入れ原価,食材を廃棄した分の費用など),クルーレーバー(アルバイトの人件費),ユーティリティ(電気代,ガス代,水道代)に関し,決裁権限を有している。また,店舗の販売拡大のため,自店舗の商圏や競合データの収集,分析等を行う職責を負い,販売促進のため,20万円未満の範囲で,他社社員向け優待カードの発行,イベントの協賛,クーポンの配布,ポスターの掲示,金券の発行等の販売促進活動を実施する権限も有しているが,その実施に当たっては,予め本社に企画書を提出し,その承認を得る必要がある。
 店長は,形式的には,店舗の営業時間を変更する権限を有し,店長の判断により,開店時間を早めたり,閉店時間を延長するなどの営業時間の変更が行われた例もあった。
 しかし,平成17年1月に本社の営業時間延長プロジェクトチームから各店舗に「「営業時間についてのブランドイメージを再構築し,IEO市場における優位性を確立すること」は日本マクドナルドの重要な戦略であり,その第1段階として,同一時刻での“6:30amオープン”を決定しました」,「2005年2月1日(火)以降6:30am開店(物理的不可能な店舗は除きます)」と記載した通知がされたり,同年10月に被告の上記プロジェクトチームから各店舗に「深夜早朝IEOポテンシャルから更なるセールスを獲得するため,閉店時間の延長を実施致します。」,「”早朝から深夜まで営業しているマクドナルド”というイメージをお客様に浸透させていきます」,「2005年12月1日(木)以降インストア23:00閉店ドライブスルー0:00閉店(物理的不可能な店舗は除きます)」と記載した通知がされたように,本社から営業時間に関する方針が示されると,事実上,各店長は,これに従うことを余儀なくされていた。
 以上のほか,店長は,店舗や商品の衛生管理,店舗の安全管理,店舗の金銭や原材料の管理,近隣の商店街との折衝等を行う職責を負っている。
 なお,店長がシフトマネージャーとして在店したり,商品の調理や販売に従事することは,店長の固有の業務とはされていなかったが,店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーが在店する必要があったため,他の従業員からシフトマネージャーが確保できない場合には,店長がシフトマネージャーとして店舗に勤務しなければならず,勤務するクルーの数が足りない場合には,自ら商品の調理や販売に従事する必要があった。
 エ.被告の会議等への参加
 店長は,OMエリアやOCエリアごとに開催される店長会議に参加するが,これらの会議では,被告の営業方針,営業戦略,人事等に関する情報提供が行われるほか,店長から各店舗の成功事例の説明がされたり,互いの店舗経営について意見交換が行われることもある。
 そのほか,店長は,店長コンベンション(全国の店長が参加して年1回開催され,被告において導入される予定の新しいシステムの紹介や,被告の営業戦略等に関する情報提供などがされるもの)やキックオフミーティング(全国の店長が参加して年1回,通常は1月か2月に開催され,その年の全社的な戦略や目標のほか,店舗の営業のあり方(成功事例等)について,被告から情報提供されるもの)に参加する。
 オ.店長の労働時間の管理
 被告は,出退社時刻・時間外勤務一覧表あるいはパーソナルコンピュータ上の勤務表を用いて店舗従業員の労働時間を管理してきたが,上記出退社時刻・時間外勤務一覧表や勤務表には,店長も自身の出社時刻や退社時刻を記載,入力する運用がされていた
 店長は,前記第3,2( 2)イ(ア)記載のとおり,自身でその勤務スケジュールを決定し,早退や遅刻をした場合に,OCへの届出や承認は必要とされていなかった(なお,就業規則では,従業員の遅刻及び早退に関する手続が規定されているが(同規則12条),この規定の店長への適用は明示的に排除されている(同規則16条))。
 カ.店長に対する処遇
 平成16年4月に導入された被告の報酬制度によれば,管理監督者として扱われている店長には,管理監督者として扱われないファーストアシスタントマネージャー以下の従業員とは異なる勤務体系が適用されている。

 具体的には,①店長は,基準給(月額31万円)は固定されたうえで,それに加えて,S(店長全体の20パーセント),A(30パーセント),B(40パーセント),C(10パーセント)の4段階評価に基づく評価手当(S評価が10万円,A評価が6万,B評価が3万,C評価が0円)が支払われるが,ファーストアシスタントマネージャーは,基準給の最高給(28万円)と最低給(23万円)が定められ,その範囲内で定期昇給し,評価手当は支払われず,②店長の賞与は,上記の4段階の評価結果に基づき,在籍期間にかかわらず金額(半期の賞与として,S評価が125万円,A評価が107万5000円,B評価が95万円,C評価が85万円)が決定されるが,ファーストアシスタントマネージャーは,一定時点の基準給(月額)に業績評価と在籍期間に応じて決定される支給月数を乗じて算定される。
 以上を前提とした場合のS評価の店長の年額賃金(次項に記載するインセンティブは除く。以下同様)は779万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当10万円)×12+賞与125万円×2),A評価の店長の年額賃金は696万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当6万円)×12+賞与107万5000円×2),B評価の店長の年額賃金は635万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当3万円)×12+賞与95万円×2),C評価の店長の年額賃金は579万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円)×12+賞与85万円×2)となる。
 また,被告は,従業員に対するインセンティブプランを設定し,平成16年には,売上に関する指標が一定レベルを上回った店舗の店長に対し,当該指標に応じて30万円から100万円を支給する内容のインセンティブプランが設けられた。また,平成17年にも一定の売上基準を満たした従業員(店長,アシスタントマネージャー等)に対するインセンティブプランが設定された。さらに,平成18年にも,四半期ごとの目標または年間目標を達成した店舗に一定額が支給され,これを店長等の従業員で分配するというインセンティブプランが設定された。
◇判断
①被告における店長は,店舗の責任者として,アルバイト従業員の採用やその育成,従業員の勤務シフトの決定,販売促進活動の企画,実施等に関する権限を行使し,被告の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから,店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの,店長の職務,権限は店舗内の事項に限られるのであって,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。
②店長は,被告の事業全体を経営者と一体的な立場で遂行するような立場にはなく,各種会議で被告から情報提供された営業方針,営業戦略や,被告から配布されたマニュアルに基づき,店舗の責任者として,店舗従業員の労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまるから,かかる立場にある店長が行う上記職務は,特段,労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容,性質であるとはいえない
③被告における店長は,その職務の内容,権限及び責任の観点からしても,その待遇の観点からしても,管理監督者に当たるとは認められない。

※マクドナルド事件裁判の整理
争点
(1原告が,労働契約上,労働1基準法36条に規定する労使協定が締結されるなどするまで,法定労働時間を超えて労働する義務を負っていないことの確認を求める訴え(請求の趣旨第1項)に確認の利益があるか。
(2) 店長である原告は,労働基準法41条2号の「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者(以下「管理監督者」という)」に当たるか。(以下略)
判断
(1)原告は,本件訴訟において,これを前提に(具体的には原告が管理監督者に当たらないことを主張して)時間外割増賃金を請求している以上,これに加えて,上記の確認を求める法的な利益はないというべきである。
(2)被告における店長は,その職務の内容,権限及び責任の観点からしても,その待遇の観点からしても,管理監督者に当たるとは認められない。したがって,原告に対しては,時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである。
※非常に長い引用ですが、ご参考に頂ければ幸いです。

管理監督者のまとめ

労働基準法第41条第2号の管理監督者に該当するか否かの判断基準

① 経営者(役員)と一体的な立場

 労働条件の決定その他労務管理(職務内容、権限と責任、勤務態様、待遇等の実態)について経営者である被告と一体的立場にあること

② 職責・職務権限

 事業経営上重要な上位の職責であるか、部下を指導監督する権限があるか、中途採用者については実質的に採否を決する権限があるか、人事考課を行い、係長以下の人事については原告の裁量で決することができ、社員の降格や昇格についても影響力があるか等

③ 給与

 その地位に見合った相当な待遇(賃金額)を受けているか否か

➃ 労働時間管理

 強行法規としての労働基準法所定の労働時間等に関する厳格な規制を及ぼす必要がなく、かつ、相当でもないか否か

 以上を総合的に勘案して、その役職または地位が労働基準法第41条第2号に該当するか否かを判断することとなります。そこで、一般に定時に出勤しなくて良い労働者(フレックスタイム制度適用者を除きます。)や出勤・休日を自由に判断できる労働者は、殆ど思い当たりませんので、一般には「定額時間外手当制度」を採用することが合理的だと言えます。つまり、月○○時間分の時間外手当(名称は役職手当等でも差し支えありませんが、何時間分の時間外労働に相当する手当かを明確にしておく必要があります。)として支給することが一般的です。この場合には、実際にみなしておく時間外労働を行ったか否かに拘らず同手当を支給する必要がありますし、他方で、実際の法定時間外労働分として算定した賃金が同手当を上回る場合には、その差額を支払う必要があります。

 いすれにしても、労働基準法第41条第2号に該当するとして法定の労働時間管理の対象外とすることには、重大な問題があります。

 

以上で「管理監督者の拡大解釈」を終了します。