賃金、賃金制度に関する考察 5(最賃法15条~19条)
最低賃金法
第15条(特定最低賃金の決定等)
労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚
生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される一定の事業
若しくは職業に係る最低賃金(以下「特定最低賃金」という。)の決定又は当該労働者若しくは
使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ること
ができる。
2 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による申出があつた場合において必要
があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、当該申出に係
る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をすること
ができる。
3 第十条第二項及び第十一条の規定は、前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出があ
つた場合について準用する。この場合において、同条第二項中「地域」とあるのは、「事業若
しくは職業」と読み替えるものとする。
4 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、第二項の決定をする場合において、前項において
準用する第十一条第二項の規定による申出があつたときは、前項において準用する同条第三項
の規定による最低賃金審議会の意見に基づき、当該特定最低賃金において、一定の範囲の事業
について、その適用を一定の期間を限つて猶予し、又は最低賃金額について別段の定めをする
ことができる。
5 第十条第二項の規定は、前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出があつた場合につ
いて準用する。
第16条
前条第二項の規定により決定され、又は改正される特定最低賃金において定める最低賃金額は、当該特定最低賃金の適用を受ける使用者の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければならない。
第17条
第十五条第一項及び第二項の規定にかかわらず、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、同
項の規定により決定され、又は改正された特定最低賃金が著しく不適当となつたと認めるとき
は、その決定の例により、その廃止の決定をすることができる。
第18条(派遣中の労働者の特定最低賃金)
派遣中の労働者については、その派遣先の事業と同種の事業又はその派遣先の事業の事業場
で使用される同種の労働者の職業について特定最低賃金が適用されている場合にあつては、当
該特定最低賃金において定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。
第19条(特定最低賃金の公示及び発効)
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、特定最低賃金に関する決定をしたときは、厚生労働
省令で定めるところにより、決定した事項を公示しなければならない。
2 第十五条第二項の規定による特定最低賃金の決定及び特定最低賃金の改正の決定は、前項
の規定による公示の日から起算して三十日を経過した日(公示の日から起算して三十日を経過し
た日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日)から、同条第二項及
び第十七条の規定による特定最低賃金の廃止の決定は、前項の規定による公示の日(公示の日後
の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日)から、その効力を生ずる。
最低賃金法
則第9条
法第十四条第一項及び第十九条第一項の規定による公示は、官報に掲載することによつて行うものとする。
則第10条
法第十五条第一項の規定による申出は、次の各号に掲げる事項を記載した申出書を提出する
ことによつて行なわなければならない。
一 申出をする者が代表する労働者又は使用者の範囲
二 特定最低賃金の決定に関する申出にあつては、当該特定最低賃金の適用を受けるべき
労働者又は使用者の範囲
三 特定最低賃金の改正又は廃止の決定に関する申出にあつては、当該特定最低賃金の件名
四 前二号に掲げるもののほか、申出の内容
五 申出の理由
2 前項の申出書には、申出をする者が同項第一号に掲げる範囲の労働者又は使用者を代表する者で
あることを明らかにすることができる書類を添えなければならない。
3 第一項の申出は、当該事案が二以上の都道府県労働局の管轄区域にわたるものである場合は厚生労働大臣に、当該事案が一の都道府県労働局の管轄区域内のみに係るものである場合は当該都道府県労働局長にしなければならない。この場合において、厚生労働大臣に対する申出は、関係都道府県労働局長を経由してすることができる。
○通達による確認
1.平成19年通達
3 特定最低賃金
(1) 特定最低賃金の決定等
① 労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される一定の事業若しくは職業に係る最低賃金(以下「特定最低賃金」という。)の決定又は当該労働者若しくは使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができるものとしたこと。(第15条第1項関係)
② 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、①の申出があった場合において必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、当該申出に係る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をすることができるものとしたこと。(第15条第2項関係)
(2) 派遣中の労働者の特定最低賃金
派遣中の労働者については、その派遣先の事業と同種の事業又はその派遣先の事業の事業場で使用される同種の労働者の職業について特定最低賃金が適用されている場合にあっては、当該特定最低賃金において定める最低賃金額を当該派遣中の労働者に適用される最低賃金額とするものとしたこと。(第18条関係)
2.平成20年通達
第7 特定最低賃金(新法第15条から第17条まで及び第19条関係)
1 特定最低賃金の趣旨
地域別最低賃金がすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として全国に展開することを前提に、産業別最低賃金が企業内における賃金水準を設定する際の労使の取組みを補完し、公正な賃金決定にも資する面があったことを評価し、安全網とは別の役割を果たすものとして、関係労使の申出を受けた行政機関は、最低賃金審議会の意見を聴いて、特定最低賃金の決定を行うことができることとしたものであること。
2 特定最低賃金の決定手続(新法第15条及び第19条関係)
労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される特定最低賃金の決定又は当該労働者若しくは使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができるものであること。
この申出があった場合において、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、当該申出に係る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をすることができるものであること。
また、一定の事業に対する適用猶予については、特定最低賃金が関係労使の申出を受けて厚生労働大臣又は都道府県労働局長が決定するものであり、その決定に当たっては、十分に関係者の意見を反映させることが必要であるため、新法第15条第4項及び第5項において、旧法同様に規定したものであること。
なお、「今後の最低賃金制度の在り方について」(平成18年12月27日労働政策審議会答申)において、「産業別最低賃金の運用については、これまでの中央最低賃金審議会の答申及び全員協議会報告を踏襲するものとする」とされているものであること。
特定最低賃金と地域別最低賃金の関係(新法第16条関係)
特定最低賃金において定める最低賃金額は、当該特定最低賃金の適用を受ける使用者の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければならないことを明確化したものであること。
4 特定最低賃金の職権による廃止(新法第17条関係)
特定最低賃金が著しく不適当となった場合には、労使からの申出を待つことなく、当該最低賃金の決定権者である厚生労働大臣又は都道府県労働局長自らが職権で廃止できるものであること。「著しく不適当となった場合」とは、例えば、特定最低賃金の対象となる労働者が存在しなくなったにもかかわらず廃止がなされていない場合が考えられるところであるが、特定最低賃金が関係労使のイニシアティブにより決定されるものであることに留意し、慎重な検討を行うこと。
また、特定最低賃金が関係労使のイニシアティブにより決定されるものであることに留意し、職権による改正については規定しないこととしたものであること。
第8 派遣労働者に係る最低賃金の適用(新法第13条及び第18条関係)
従来、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)第44条第1項に規定する派遣中の労働者(以下「派遣労働者」という。)に係る最低賃金については、派遣元の事業場に適用される最低賃金を適用していたところである。しかしながら、派遣労働者については、現に指揮命令を受けて業務に従事しているのが派遣先であり、賃金の決定に際しては、どこでどういう仕事をしているかを重視すべきであることから、派遣労働者については、派遣先の事業場に適用される最低賃金を適用することとしたものであること。
第9 労働協約に基づく地域的最低賃金の廃止(旧法第11条から第13条まで、第15条及び第18条並びに旧則第8条から第11条まで関係)
労働協約に基づく地域的最低賃金を廃止したものであること。
○逐条の考察
1.第15条(特定最低賃金が定められ改廃される手続)
産業別最低賃金が企業内における賃金水準を設定する際の労使の取組みを補完し、公正な賃
金決定にも資する面があったことを評価し、安全網とは別の役割を果たすものとして、関係労
使の申出を受けた行政機関は、最低賃金審議会の意見を聴いて、特定最低賃金の決定を行うこ
とができるとしたもの。
具体的には、労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働大臣又は都道府県
労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される特定最低賃金の決定又は現行の特定
最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができ、その申し出を受けて都道
府県労働局長は、必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を
聴いて、当該申出に係る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは
廃止の決定をすることができるものであること。
2.第16条(特定最低賃金と地域別最低賃金の関係)
特定最低賃金は、地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければならな
いことを明確化した規定である。
3.第17条(特定最低賃金の職権による廃止)
特定最低賃金が著しく不適当となった場合には、厚生労働大臣又は都道府県労働局長自らが
職権で廃止できるものであること。
4.第18条(派遣労働者の特定最低賃金の適用)
特定最低賃金が適用される派遣労働者については、その派遣先事業所の所在地の特定最低賃
金が適用される規定である。
5.第19条(特定最低賃金の公示及び発行)
地域別最低賃金と同様に特定最低賃金についても、その決定・変更・廃止があった場合に
は、官報に掲載することにより公示することとされている。
以上で賃金に関する考察(最賃法15条~19条)を終了します。