賃金、賃金制度に関する考察 8(最賃法31条~34条)
最低賃金法
第31条(労働基準監督署長及び労働基準監督官)
労働基準監督署長及び労働基準監督官は、厚生労働省令で定めるところにより、この法律の施行に関する事務をつかさどる。
第32条(労働基準監督官の権限)
労働基準監督官は、この法律の目的を達成するため必要な限度において、使用者の事業場に
立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問をすることができる。
2 前項の規定により立入検査をする労働基準監督官は、その身分を示す証票を携帯し、関係
者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはな
らない。
第33条
労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第
百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行う。
第34条
労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。
2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
最低賃金法施行規則
則第14条(労働基準監督署長及び労働基準監督官)
労働基準監督署長は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、この省令に規定するもののほか、法の施行に関する事務をつかさどる。
2 労働基準監督官は、上司の命を受けて、法に基く立入検査、司法警察員の職務その他の法の施行に関する事務をつかさどる。
則第15条(証票)
法第三十二条第二項の証票は、労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)様式
第十八号によるものとする。
○最低賃金法違反の申告
労働基準法も同様ですが、最低賃金法にも申告制度が設けられています。
参考:労働基準法第104条(監督機関に対する申告)
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
そこで、労働基準法の申告と最低賃金法の申告の趣旨は同じですから、自著「労働基準法の研究」から引用します。
・申告とはなにか。
「「申告」とは、行政官庁に対する一定の通告であり、本法の場合は、労働者が違反事実を通告して監督機関の行政上の権限の発動を促すことをいう。この点に関し、最高裁は、「申告は、労働者が労働基準監督官に対して事業場における同法違反の事実を通告するものであるが、同法は使用者がその申告をしたことを理由に労働者に不利益な取り扱いをしてはならない旨を定めるのみで、その申告の手続や申告に対応する労働基準監督官の措置について別段の規定を設けていないことからして、労働基準監督官の使用者に対する監督権発動の有力な契機をなすものではあっても、監督官に対してこれに対応して調査などの措置をとるべき職務上の作為行為まで負わせたものと解することはできない。」とした判断がなされています。
このことは、申告に対し、監督機関がそれに基づき監督又は調査を実施することを義務づけてはいないが、監督機関としては、申告を受けた場合、当然これを迅速に処理すべきものと考えられます。
刑事訴訟法第百八十九条第一項および第百九十九条第二項の規定に基づく司法警察員等の指定に関する規則
第一条 警察庁および管区警察局に勤務する警察官のうち、巡査部長以上の階級にある警察官は司法警察員とし、巡査の階級にある警察官は司法巡査とする。(以下略)
※労働基準監督官は、最低賃金法違反の罪に関して刑事訴訟法上の司法警察員の職務を行うとされています。
刑事訴訟法第189条 警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。
2 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
※労働基準監督官は、事業場に臨検(立ち入り検査)を行うことができます。(本法第32条第1項)
ただし、捜査令状なき家宅捜索や差し押さえは不可能なため、「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」とされています。
日本国憲法 第35条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
労働基準監督署長の権限
労働基準法
第99条第3項 労働基準監督署長は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、この法律に基く臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁その他この法律の実施に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する。
※労働基準監督署長は、所属する都道府県労働局長の指揮を受けて、最低賃金法違反等の捜査、逮捕又は捜索差押え令状の請求及び書類等の送検を行うことができます。
以上で賃金に関する考察 8(最賃法31条~34条)を終了します。