賃金、賃金制度に関する考察 12(労働基準法37条 ①)
労働基準法(割増賃金)
第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
労働基準法施行規則
則第十九条 法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。
一 時間によつて定められた賃金については、その金額
二 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額
三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額
四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額
五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額
② 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす
則第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
(平成六年一月四日)(政令第五号)
労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令をここに公布する。
労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
○法定時間外労働を行える場合(労働基準法第33条又は第36条の手続が必要)
変形労働時間制を採用している場合を除き、一週40時間(又は44時間)及び一日8時間を超えて労働させることができません。
参考:労働基準法第32条(労働時間)
労働基準法第32条は、1日実働8時間を超えて及び1週実働40時間(又は44時間)を超えて、使用者は労働者を就労させることができないという趣旨です。ところで、法定休日は少なくとも毎週(暦週又は就業規則で定める週)1日(又は4週4日以上)与えることとなっていますから、ある週に1日8時間・6日出勤すると、その週の労働時間は48時間となります。この場合、同法第32条の規定により、1日の労働時間が8時間以下にもかかわらず、40時間(又は44時間)を超える8時間(又は4時間)が法定時間外労働となり、手続(同法第33条・第36条による手続)なく就労させることができません。
※年少者の場合の例外あり(法60条第3項)
参考:労働基準法(休日)
そこで、法定時間外労働を可能にするためには、法第33条(非常時)の許可又は届出、あるいは法第36条による労使協定及び届出(監督署への届出が法第36条による免責効力の発生要件です。)が必須となります。
○法定時間外労働と所定時間外労働
法定時間外労働は、前記のとおり(変形労働時間制等を採用している場合の法定時間外労働の解釈は、後に記述します。)ですが、所定労働時間が法定労働時間に満たない場合には、法定時間外労働の前に所定時間外労働が生じる場合があります。具体的には、次の通りです。
事例:1日の所定労働時間が7時間30分、休日は土曜日及び日曜日(月~金の祝祭日は出勤)
の場合
賃金の規定、1週40時間分の週給(4,5000円)ただし、1週40時間に満たない週でも45,000円
を支給する。
また、実働が1週37時間30分に満たない場合には、1時間あたり1,125円を控除する。
1週は暦週と就業規則に定められている。36協定手続ずみ。
特例非該当事業所(40時間適用)。
A従業員の勤務実績(深夜労働なし。)
7/5(日) 7/6(月) 7/7(火) 7/8(水) 7/9(木) 7/10 (金)7/11(土) 計
休み 7.5h 8.0h 8.0h 7.5h 8.0h 5.0h 44時間
この事例では、 7/11(土)に休日出勤を5時間(法定休日労働には該当しない。)行っている
ので、1週の実労働時間が40時間を超えているため、4時間(44-40)が法定時間外労働に該当
します。
そこで、賃金についてみてみると、7/7(火)7/8(水)7/10(金)は、所定労働時間の7.5時間
を超えて就労していますので、それぞれ30分づつ所定時間外労働となります。
また、この週は所定労働時間の37.5時間を超えて就労しているので、37.5時間を超えて40時
間までの部分は、所定時間外労働(ただし、7/7(火)7/8(水)7/10(金)の合計1.5時間分は重
複するため除外)となります。ただし、1日8時間、1週40時間までは、所定賃金に含まれてい
るため、所定時間外労働分の賃金は加算されません。
この事例では、1日8時間又は1週40時間を超えた労働分につき、法定時間外労働分の割増賃金
を算定し、そして週の基本給の45,000円に法定時間外労働分の割増賃金を加算してその週の賃
金総額を算定します。
1.法定時間外労働の算定基礎賃金
則第19条の規定により、週給の場合の算定基礎賃金は次の方法で計算します。
週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額
従って 算定基礎賃金=45,000円÷37.5時間=1,200円 となります。
2.この週の賃金総額
この週の割増賃金額=1,200円×4時間×1.25=6,000円
この週の支払賃金額=45,000円+6,000円=51,000円 となります。
3.所定時間外労働分の賃金(深夜労働がない場合に限る。)
所定時間外労働分の賃金は、割増賃金を支給しなければならないわけではありません。ただし、通常の賃金以上の賃金を支払う必要があります。簡単のために時給の例で考えると、時給1,000円で1日の所定労働時間が7時間の場合、ある日に7時間30分したとすれば、その日は少なくとも7,500円以上の賃金を支払う必要があります。もちろん、労働契約や就業規則で「所定労働時間外就労については、25%割増の賃金とする。」等と定めることもできます。
この場合の支払賃金は、
賃金額=1,000円/時×7時間+1,000円/時×0.5時間×1.25=7,625円 となります。
○法定の割増賃金率
法定の割増賃金率は、労働基準法施行令(平成六年一月四日)(政令第五号)等により、次の割増賃金以上の賃金を支払う必要があります。
① 法定時間外労働 二割五分(25%) 以上 (政令)
② 深夜労働 二割五分(25%) 以上 (法37条4項)
③ 法令休日労働 三割五分(35%) 以上 (政令)
④ 時間外深夜労働 五割 (50%) 以上
⑤ 休日深夜労働 六割 (60%) 以上
⑥ 1ヶ月累計60時間超 五割 (50%) 以上 (法37条1項)
⑦ 1ヶ月累計60時間超
かつ深夜労働 7割五分(75%) 以上
※ ⑥及び⑦は、中小企業は当面除外、また代替休暇付与(有給)の場合は25%増以上
※ 時間外法定休日労働の概念はないため、法定休日労働は深夜業にならない限り
35%増以上
なお、代替休暇・中小企業の範囲等については、次回に記述します。
○変形労働時間制等を採用した場合の法定時間外労働の判断
ア 1ヶ月単位の変形労働時間制(法第三十二条の二)
1ヶ月単位の変形労働時間制を採用している場合の時間外労働時間となる時間は次の通りです
が、ポイントは、1日⇒1週⇒変形期間の総枠 の順に法定時間外労働時間を算定し、順次加算
して行くこととなります。
1.1日については、労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより、1日の法定労働時間(8時間)を超える時間を定めた日はその時間(所定労働時間)、それ以外の日は1日の法定労働時間(8時間)を超えて労働した時間
2.1週間については、労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより、週法定労働時間(40時間又は44時間)を超える時間を定めた週はその時間(週の所定労働時間)、それ以外の週は週法定労働時間(40時間又は44時間)を超えて労働した時間(1.で時間外労働となる時間を除く)
3.変形期間(1ヶ月以内の期間)については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1.又は2.で時間外労働となる時間を除く)
なお変形期間の法定労働時間は、
法定労働時間=40時間(又は44時間)×(変形期間の暦日数÷7) で算定します。
変形期間をまたいで賃金精算を行うことはありませんから、変形期間の当初及び末尾の端日数の週あたりの法定時間外労働の精算は、
端日数週の時間枠=40時間(又は44時間)÷(端日数÷7) でみることとなっています。
イ フレックスタイム制(法第三十二条の三)
清算期間の総労働時間を超える部分が法定時間外労働となります。
清算期間における総労働時間は、次の式で算定します。
総労働時間=40時間(又は44時間)÷(清算期間の日数÷7)
※フレックスタイム制の場合には、1日及び1週の法定時間外労働は生じません。従って、フレックスタイム制が適用される労働者の36協定の締結の際には、「清算期間の延長できる労働時間及び1年で延長できる労働時間」を協定することとなります。
ウ 1年単位の変形労働時間制(法第三十二条の四)
1年単位の変形労働時間制の法定時間外労働時間は、以下により判断します。
1.1日の法定時間外労働時間は、所定労働時間が8時間を超える日については、その所定労働時間を超えた時間、所定労働時間が8時間以内とされる日については8時間を超えた時間が法定時間外労働時間となる。
2.1週の法定時間外労働時間は、所定労働時間が40時間を超える場合には、その所定労働時間を超えた時間、所定労働時間が40時間以内とされる週については、40時間を超えた時間。(1.で算定した時間を除く。)
3.対象期間(1年以内)の法定時間外労働時間は、対象期間の法定労働時間の総枠を超えた時間が法定総労働時間となる。(1.又は、2.で算定した時間を除く。)
対象期間の法定労働時間の総枠は次の計算式で算定する。
対象期間における法定労働時間の総枠=40時間×(対象期間の暦日数÷7)
※1年単位の変形労働時間制は、特例事業(44時間)の適用がない。
エ 1週単位の非定型的変形労働時間制(法第三十二条の五)
1週間単位の非定型的変形労働時間制の法定時間外労働時間は、以下により判断します。
1.1日の法定時間外労働は、所定労働時間が8時間を超える日(10時間以内)については、所定労働時間を超えた時間、所定労働時間が8時間以内の日については、8時間を超えた時間
2.1週の法定時間外労働時間は、40時間を超えた時間(1.で法定時間外労働時間と算定した時間を除く。)
※なお、1週間単位の非定型的変形労働時間制についても、特例事業(44時間)の適用がありません。
オ 事業場外みなし労働時間制(法第三十八条の二)
事業場外みなし労働時間制については、「事業場外の就労について、事業場内の就労分を含めて所定労働時間労働したものとみなす。」ため、所定労働時間が8時間以下の場合には、少なくとも1日の就労分については、法定時間外労働が生じません。他方、通常10時間必要な業務の場合には、10時間労働したものとみなすとしています。
従って、事業場外みなし労働時間制に法定時間外労働が生じないわけではなく、実態に即した正しい運用が望まれます。
そこで、通常所定労働時間を超えてその事業場外業務に時間が必要な場合には、労使協定により所定労働時間を超えて必要となる時間(9時間など)を協定し届出を行うように指導されます。そして、届出を行った場合には、協定した時間を労働時間としてみなすという制度です。なお、この協定する時間(所定労働時間を超えてその業務の遂行に通常必要とされる時間)は、1日について協定することとなっています。
○1日の法定時間外労働と1週の法定時間外労働の双方の算定方法
変形労働時間制等を使用していない場合においては、1日8時間及び1週40時間(又は44時間)を超える部分の労働が法定時間外労働となります。これは、一見判断に迷う規定のため、以下に簡単な算定方法を記述します。
事例1:週は暦週。特例非該当。変形労働時間制等の適用なし。
所定労働時間は、1日8時間・1週40時間。深夜労働なし。
日 月 火 水 木 金 土 計
実働 9時間 8.5時間 10時間 9時間 休日 11時間 9時間 56.5時間
時間外 1時間 0.5時間 2時間 1時間 0時間 3時間 1時間 8.5時間
A:日々の法定時間外労働時間の合計 8.5時間
B:1週間の総労働時間が40時間を超える部分 16.5時間
従って、事例1では、16.5時間を法定時間外労働時間として賃金計算を行います。
※AとBを比較して、多いほうの時間をその週のすべての法定時間外労働として
取り扱います。
ただし、週の途中に賃金計算期間の末日がある場合には、留意が必要です。
その場合には、当月分の日々の8時間超の合計時間を当月分(①)とし、1週の合計の
40時間超の時間から①を差し引いた時間(②)を翌月分に算入します。
事例2:週は暦週。特例非該当。変形労働時間制等の適用なし。
所定労働時間は、1日8時間・1週40時間。深夜労働なし。土曜日が法定休日労働。
日 月 火 水 木 金 土 計
実働 9時間 8.5時間 10時間 9時間 10時間 11時間 9時間 57.5時間(66.5時間)
時間外 1時間 0.5時間 2時間 1時間 2時間 3時間 0時間 9.5時間
A:日々の法定時間外労働時間の合計 9.5時間
B:1週間の総労働時間が40時間を超える部分 17.5時間
C:法定休日労働の時間 9時間
※事例2の場合には、土曜日分(法定休日労働分)は、法定時間外労働として
取り扱いません。
※事例1と同様に、17.5時間がこの週のすべての法定時間外労働となります。
以上で、賃金に関する考察 12(労働基準法37条① 時間外労働前半)を終了します。