賃金、賃金制度に関する考察 13(労働基準法第37条 ②)

2015年07月07日 08:55

労働基準法(割増賃金の2)

第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(中略)

③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。(中略)

⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

労働基準法施行規則

第十九条 法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす

 

第十九条の二 使用者は、法第三十七条第三項の協定をする場合には、次の各号に掲げる事項について、協定しなければならない。

一 法第三十七条第三項の休暇(以下「代替休暇」という。)として与えることができる時間の時間数の算定方法
二 代替休暇の単位(一日又は半日(代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合においては、当該休暇と合わせた一日又は半日を含む。)とする。)
三 代替休暇を与えることができる期間(法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によつて延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた当該一箇月の末日の翌日から二箇月以内とする。)
② 前項第一号の算定方法は、法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によつて一箇月について六十時間を超えて延長して労働させた時間の時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかつた場合に当該時間の労働について法第三十七条第一項ただし書の規定により支払うこととされている割増賃金の率と、労働者が代替休暇を取得した場合に当該時間の労働について同項本文の規定により支払うこととされている割増賃金の率との差に相当する率(次項において「換算率」という。)を乗じるものとする。
③ 法第三十七条第三項の厚生労働省令で定める時間は、取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間とする。
 
第二十条 法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間が午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、第十九条第一項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の五割以上(その時間の労働のうち、一箇月について六十時間を超える労働時間の延長に係るものについては、七割五分以上)の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
② 法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定による休日の労働時間が午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、前条第一項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の六割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

算定の基礎となる賃金(法定割増賃金の基礎となる時間単価)

 割増賃金の算定は、

  割増賃金=賃金計算期間の総時間外労働時間(a)×算定の基礎となる賃金(b)×割増率(c)

                                  で算定されます。

 そして、賃金計算期間の総時間外労働時間は、割増率ごとに区分して算定します。つまり、

(a)は、(c)ごとに区分して、毎回賃金計算期間ごとに算定します。

 具体的には、以下のとおりです。

 ① 法定時間外労働時間   × 算定基礎賃金 × 1.25(25%以上) 

 ② 深夜労働時間      × 算定基礎賃金 × 1.25(25%以上)

 又は深夜労働時間      × 算定基礎賃金 × 0.25(25%以上)+ 所定内賃金 

 ③ 法定休日労働時間    × 算定基礎賃金 × 1.35(35%以上) 

 ④ 時間外深夜労働時間   × 算定基礎賃金 × 1.5 (50%以上)

 ⑤ 休日深夜労働時間    × 算定基礎賃金 × 1.6 (60%以上)

 ⑥ 1ヶ月累計60時間超時間 × 算定基礎賃金 × 1.5 (50%以上)    

 ⑦ 1ヶ月累計60時間超かつ深夜労働時間 × 算定基礎賃金 × 1.75(75%以上) 

 

1.割増賃金の算定の基礎となる賃金

 割増賃金の算定の基礎となる賃金は、

   割増賃金の算定の基礎となる賃金=算定の対象となる賃金÷所定労働時間

 で算出します。したがって、以下のような算定の対象外の賃金があります。

法第三十七条第五項 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

一 別居手当

二 子女教育手当

三 住宅手当

四 臨時に支払われた賃金

 五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 この7種類の賃金は、割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外しますが、上記の賃金は限定列挙のため、これら以外の賃金を割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外することは出来ませ

 また、それぞれの賃金の解釈は次の通りです。

(イ)「家族手当とは、「扶養家族又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」をいい、たとえその名称が物価手当、清算手当等であっても、右に該当する手当であるか又は扶養家族若しくは家族手当額を基礎として算定した部分を含む場合には、その手当又はその部分は、家族手当として取り扱われる。
 しかしながら、家族手当と称していても、扶養家族数に関係なく一律に支給される手当や一家を扶養する者に対し基本給に応じて支払われる手当は、本条でいう家族手当ではなく、また、扶養家族ある者に対し本人分何円、扶養家族一人につき何円という条件で支払われるとともに、均衡上独身者に対しても一定の手当が支払われている場合には、これらの手当のうち「独身者に対して支払われている部分及び扶養家族のあるものにして本人に対して支給されている部分は家族手当ではない。」
(ロ)「通勤手当」とは、労働者の通勤距離又は通勤に要する実際費用に応じて算定される手当と解されるから、通勤手当は原則として実際距離に応じて算定するが、一定額までは距離にかかわらず一律に支給する場合には、実際距離によらない一定額の部分は本条の通勤手当ではないから、割増賃金の基礎に算入しなければならない。
 法37条第5項及び施行規則第21条で定める7種類の「賃金が、割増賃金の基礎から除外される賃金であるが、もとより本法に定める基準は最低のものであるから、これら「家族手当、通勤手当等、割増賃金の基礎より除外し得るものを算入することは使用者の自由である。」

2.割増賃金の算定基礎となる賃金の計算

 割増賃金の算定の基礎となる賃金は、所定賃金(労働契約上の賃金)から除外賃金(上記1)を控除した額を所定労働時間で除して算定します。

 具体的には、賃金形態別に以下のとおりに計算します。

① 時間によつて定められた賃金については、その金額

② 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数で除した金額

 (日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)

③ 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数で除した金額

 (週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)

④ 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数で除した金額

 (月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)

⑤ 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

⑥ 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

⑦ 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

 ⑧ 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、月によつて定められた賃金とみなして

  計算する

 

1ヶ月の累計の時間外労働時間が60時間を超えた場合の50%増しの割増賃金について

1.1ヶ月の累計の法定時間外労働

 まず、労働基準法第37条第1項の但し書きの「一箇月」の意味ですが、文字通り民法第140条に規定されている月によりますが、起算日を定めておく必要があります。

※1ヶ月とは、起算日から翌月の起算日の応答日の前日までをいいます。

 この場合、翌月に応答日がないときは、翌月の末日までを1ヶ月とします。

 例:1月30日が起算日の場合、1ヶ月は「1月30日~2月28日(又は29日)」となります。

※1ヶ月の起算日は、賃金計算期間の初日・毎月1日・36協定の期間の初日などが考えられます。

 そして、1ヶ月の累計の時間外労働時間が60時間を超えた時点で、その超えた部分から割増率

が、50%以上の賃金を支払う必要があります。

(1ヶ月の起算日を就業規則に規定する必要あります。) 

 また、中小企業は当分の間、この規定(60時間超50%割増)の適用が除外されます。

 

労働基準法附則

第百三十八条  中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。

 

 この場合の中小事業主とは、以下のいずれかに該当する事業主を言います。

 1.常時雇用する労働者の数

   一般の事業      300人以下

   小売業          50人以下

   サービス業・卸売業  100人以下

 2.資本金の額又は出資の総額

   一般の事業        3億円以下

   小売業・サービス業  5,000万円以下

   卸売業          1億円以下

 ※この場合、常用雇用者数又は資本金等のいずれかに該当すれば、法第37条第1項の中小企業

  となります。

 ※上記の業種の区分は、日本産業分類に従って判断されます。

  URL:https://www.stat.go.jp/index/seido/sangyo/19-3.htm

 ①小売業

 大分類I(卸売業、小売業)のうち
  中分類56(各種商品小売業)
  中分類57(織物・衣服・身の回り品小売業)
  中分類58(飲食料品小売業)
  中分類59(機械器具小売業)
  中分類60(その他の小売業)
  中分類61(無店舗小売業)
 大分類M(宿泊業、飲食サービス業)のうち
  中分類76(飲食店)
  中分類77(持ち帰り・配達飲食サービス業)

 ②サービス業

 大分類G(情報通信業)のうち
  中分類38(放送業)
  中分類39(情報サービス業)
   小分類411(映像情報制作・配給業)
   小分類412(音声情報制作業)
   小分類415(広告制作業)
   小分類416(映像・音声・文字情報制作に附帯するサービス業)
 大分類K(不動産業、物品賃貸業)のうち
   小分類693(駐車場業)
  中分類70(物品賃貸業)
 大分類L(学術研究、専門・技術サービス業)
 大分類M(宿泊業、飲食サービス業)のうち
  中分類75(宿泊業)
 大分類N(生活関連サービス業、娯楽業)ただし、小分類791(旅行業)は除く
 大分類O(教育、学習支援業)
 大分類P(医療、福祉)
 大分類Q(複合サービス業)
 大分類R(サービス業<他に分類されないもの>)

 ③卸売業

 大分類I(卸売業、小売業)のうち
  中分類50(各種商品卸売業)
  中分類51(繊維、衣服等卸売業)
  中分類52(飲食料品卸売業)
  中分類53(建築材料、鉱物・金属材料等卸売業)
  中分類54(機械器具卸売業)
  中分類55(その他の卸売業)

 

○代替休暇とは何か?(労働基準法第37条第3項)

 1ヶ月60時間超の法定時間外労働を行った場合に、60時間超の時間外労働分も50%未満の割増率に留めるかわりに、一定の換算方法により、本人の希望により有給の代替休暇を与えることができる制度です。 

 ただし、従来の25%割増の賃金は支払う必要があり、割増賃金のすべての部分を代替休暇に振り替えることはできません。この、代替休暇の制度は、文章で記述しても難解で理解しがたいため、図を使用したパンフレットをご参照ください。

 改正労働基準法のあらまし:https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/12/dl/tp1216-1l.pdf

 

なお、改正に伴う行政通達の関連箇所は、以下のとおりです。

 

労働基準法の一部を改正する法律の施行について

 (平成21年5月29日基発第0529001号)

対象となる時間外労働
 法第37条第1項ただし書において、使用者が一箇月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないこととしたものであること。
「一箇月」とは、暦による一箇月をいうものであり、その起算日を法第89条第2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」として就業規則に記載する必要があること。
 一箇月の起算日については、毎月1日、賃金計算期間の初日、時間外労働協定における一定期間の起算日等とすることが考えられるが、就業規則等において起算日の定めがない場合には、労使慣行等から別意に解されない限り、賃金計算期間の初日を起算日とするものとして取り扱うこと。
「その超えた時間の労働」として五割以上の率で計算した割増賃金の支払が義務付けられるのは、一箇月の起算日から時間外労働時間を累計して60時間に達した時点より後に行われた時間外労働であること。
 なお、法の施行日である平成22年4月1日を含む一箇月については、施行日から時間外労働時間を累計して60時間に達した時点より後に行われた時間外労働について、五割以上の率で計算した割増賃金の支払が必要となること。
 
休日労働との関係
 法第35条に規定する週一回又は四週間四日の休日(以下「法定休日」という。)以外の休日(以下「所定休日」という。)における労働は、それが法第32条から第32条の5まで又は第40条の労働時間を超えるものである場合には、時間外労働に該当するため、法第37条第1項ただし書の「一箇月について60時間」の算定の対象に含めなければならないものであること。
 なお、労働条件を明示する観点及び割増賃金の計算を簡便にする観点から、就業規則その他これに準ずるものにより、事業場の休日について法定休日と所定休日の別を明確にしておくことが望ましいものであること。
 
深夜労働との関係(則第20条第1項及び第68条関係)
 則第20条第1項の「(その時間の労働のうち、(中略)七割五分以上)」とは、深夜労働のうち、一箇月について60時間に達した時点より後に行われた時間外労働であるものについては、深夜労働の法定割増賃金率と一箇月について60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率とが合算され、七割五分以上の率で計算した割増賃金の支払が必要となることを明らかにしたものであること。
 なお、法第138条に規定する中小事業主の事業については、当分の間、一箇月について60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率の引上げの適用が猶予されていることから、則第68条において、則第20条第1項の規定を読み替え、現行どおりの割増賃金率であることを明らかにしたこと。
 
代替休暇(法第37条第3項関係)
1 趣旨
 特に長い時間外労働を抑制することを目的として、一箇月について60時間を超える時間外労働について、法定割増賃金率を引き上げることとされているが、臨時的な特別の事情等によってやむを得ずこれを超える時間外労働を行わざるを得ない場合も考えられる。
 このため、そのような労働者の健康を確保する観点から、特に長い時間外労働をさせた労働者に休息の機会を与えることを目的として、一箇月について60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、労使協定により、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を与えることができることとしたものであること。
 なお、法第138条に規定する中小事業主の事業については、当分の間、法定割増賃金率の引上げは適用しないこととされていることに伴い、法第37条第3項の規定による代替休暇も適用されないこととなること。
2 代替休暇に係る労使協定の締結
 法第37条第3項の休暇(以下「代替休暇」という。)を実施する場合には、事業場において労使協定を締結する必要があること。
 この労使協定は、当該事業場において、法第37条第1項ただし書の規定による割増賃金の支払による金銭補償に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇の付与による補償を行うことができることとするものであり、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務付けるものではないこと。労使協定が締結されている事業場において、個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは、労働者の意思によるものであること。
 法第37条第3項の「労働者の過半数を代表する者」については、則第6条の2第1項において、①法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと及び②法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であることのいずれにも該当する者とされていること。
 なお、労使協定の締結によって代替休暇を実施する場合には、代替休暇に関する事項を法第89条第1号の「休暇」として就業規則に記載する必要があること。
3代替休暇に係る労使協定で定める事項
⑴代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法(則第19条の2第1項第1号関係)
 則第19条の2第1項第1号の代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法については、同条第2項において、一箇月について60時間を超えて時間外労働をさせた時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率と、労働者が代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率との差に相当する率(以下「換算率」という。)を乗じるものとされており、労使協定では、この算定方法にしたがって具体的に定める必要があること。
 労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率は、法第37条第1項ただし書の規定により五割以上の率とする必要があり、労働者が代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率は、同項本文の規定により二割五分以上の率とする必要があり、いずれも法第89条第2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」として就業規則に記載する必要があること。
⑵代替休暇の単位(則第19条の2第1項第2号関係)
 代替休暇の単位については、まとまった単位で与えられることによって労働者の休息の機会とする観点から、則第19条の2第1項第2号において、一日又は半日とされており、労使協定では、その一方又は両方を代替休暇の単位として定める必要があること。
 「一日」とは労働者の一日の所定労働時間をいい、「半日」とはその二分の一をいうものであること。「半日」については、必ずしも厳密に一日の所定労働時間の二分の一とする必要はないが、その場合には労使協定で当該事業場における「半日」の定義を定めておくこと。
 また、代替休暇として与えることができる時間の時間数が労使協定で定めた代替休暇の単位(一日又は半日)に達しない場合であっても、則第19条の2第1項第2号において、「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」と合わせて与えることができる旨を労使協定で定めたときは、当該休暇と代替休暇とを合わせて一日又は半日の休暇を与えることができることとされていること。「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」としては、代替休暇の実施に伴って任意に創設される休暇を想定しているものであるが、事業場の既存の休暇制度や、法第39条第4項の労使協定が締結されている事業場において労働者が請求した場合に同項の時間単位年休を活用することも差し支えないこと。
 なお、「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」と代替休暇とを合わせて与えた場合においても、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えることができるのは、代替休暇の部分に限られるものであること。
⑶代替休暇を与えることができる期間(則第19条の2第1項第3号関係)
 代替休暇を与えることができる期間については、特に長い時間外労働が行われた月から一定の近接した期間に与えられることによって労働者の休息の機会とする観点から、則第19条の2第1項第3号において、時間外労働が一箇月について60時間を超えた当該一箇月の末日の翌日から二箇月以内とされており、労使協定では、この範囲内で定める必要があること。
 なお、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で一箇月を超える期間が定められている場合には、前々月の時間外労働に対応する代替休暇と前月の時間外労働に対応する代替休暇とを合わせて一日又は半日の代替休暇として取得することも可能であること。
⑷代替休暇の取得日及び割増賃金の支払日
 代替休暇については、賃金の支払額を早期に確定させる観点から、⑴から⑶までの事項以外の事項として労使協定で定められるべきものとして、次のものが考えられるものであること。
  労働者の意向を踏まえた代替休暇の取得日の決定方法
 労働者の代替休暇取得の意向については、一箇月について60時間を超えて時間外労働をさせた当該一箇月の末日からできる限り短い期間内において、確認されるものとすること。代替休暇を取得するかどうかは、労働者の判断による(法第37条第3項)ため、代替休暇が実際に与えられる日は、当然、労働者の意向を踏まえたものとなること。
  一箇月について60時間を超える時間外労働に係る割増賃金の支払日
 一箇月について60時間を超える時間外労働に係る割増賃金の支払日については、労働者の代替休暇取得の意向に応じて、次のようになるものであること。
  労働者に代替休暇取得の意向がある場合には、現行でも支払義務がある割増賃金(法第37条第1項本文の規定により二割五分以上の率で計算した割増賃金)について、当該割増賃金が発生した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うこと。
 なお、代替休暇取得の意向があった労働者が実際には代替休暇を取得できなかったときには、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について、労働者が代替休暇を取得できないことが確定した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払う必要があること。(下記4参照)
  a以外の場合(労働者に代替休暇取得の意向がない場合、労働者の意向が確認できない場合等)には、法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金(法第37条第1項ただし書の規定により五割以上の率で計算した割増賃金)について、当該割増賃金が発生した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うこと。
 なお、法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に、労働者から代替休暇取得の意向があった場合には、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であっても、労働者は代替休暇を取得できないこととすることを労使協定で定めても差し支えないものであること。
 このような、法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に労働者から代替休暇取得の意向があった場合について、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であれば労働者は代替休暇を取得できることとし、労働者が実際に代替休暇を取得したときは既に支払われた法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について精算することとすることを労使協定で定めることも妨げられるものではないこと。
4法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が不要となる時間
 (則第19条の2第3項関係)
 代替休暇は、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて与えられるものであることから、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が不要となる時間は、法第37条第3項において、一箇月について60時間を超える時間外労働のうち労働者が取得した代替休暇に対応する時間の労働とされており、具体的には、則第19条の2第3項において、労働者が取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間とされているものであること。したがって、代替休暇取得の意向があった労働者が実際には代替休暇を取得できなかったときには、取得できなかった代替休暇に対応する時間の労働については、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が必要となること。
 なお、労働者が実際に代替休暇を取得した場合であっても、現行でも支払義務がある割増賃金(第37条第1項本文の規定により二割五分以上の率で計算した割増賃金)の支払が必要であることは、いうまでもないこと。
5 代替休暇と年次有給休暇との関係
 代替休暇は、法第37条第3項において「(第39条の規定による有給休暇を除く。)」と確認的に規定されており、年次有給休暇とは異なるものであること。
 なお、法第39条第1項は、六箇月継続勤務に対する年次有給休暇の付与を規定し、その際の当該期間における全労働日の八割出勤を要件としているが、労働者が代替休暇を取得して終日出勤しなかった日については、正当な手続により労働者が労働義務を免除された日であることから、年次有給休暇の算定基礎となる全労働日に含まないものとして取り扱うこと。

 

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 13(労働基準法第37条② 時間外労働後半)を終了します。