賃金、賃金制度に関する考察 14(賃金に関するその他の項目)

2015年07月07日 16:44

平均賃金、金員の返還、非常時払、休業手当、労働時間の通算、年休取得時の賃金、時効

(平均賃金)

第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。

一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十

二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

② 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

③ 前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。

一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間

二 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間

三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間

四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第八項において同じ。)をした期間

五 試みの使用期間

④ 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。

⑤ 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

⑥ 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。

⑦ 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。

⑧ 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。

 

(金品の返還)

第二十三条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合に

おいては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労

働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

② 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、

項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

 

(非常時払)

第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

 

(休業手当)

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

(時間計算)

第三十八条  労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。(以下略)

 

(年次有給休暇)

第三十九条第七項

 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給

休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、

平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準と

して厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただ

し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、

労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書

面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法

律第七十号)第九十九条第一項に定める標準報酬日額に相当する金額又は当該金額を基準とし

て厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらな

ければならない。

 

(時効)

第百十五条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年

間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて

消滅する。

 

労働基準法施行規則

第二条 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号。以下「法」という。)第十二条第五項

規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第二十四条第一項ただし書の規定による法令

又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

② 前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めな

ればならない。

③ 前項の規定により労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は前項の評

額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第一項

の通貨以外のものの評価額を定めることができる。

 

第三条 試の使用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合においては、法第十二条第三項の規定にかかわらず、その期間中の日数及びその期間中の賃金は、同条第一項及び第二項の期間並びに賃金の総額に算入する。

 

第四条 法第十二条第三項第一号から第四号までの期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前三箇月以上にわたる場合又は雇入れの日に平均賃金を算定すべき事由の発生した場合の平均賃金は、都道府県労働局長の定めるところによる。

 

第九条 法第二十五条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。

一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合

二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合

三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合

 

第二十五条 法第三十九条第七項の規定による所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金は、次の各号に定める方法によつて算定した金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額をその週の所定労働日数で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額をその月の所定労働日数で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

② 法第三十九条第七項本文の厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金は、平均賃金若しくは前項の規定により算定した金額をその日の所定労働時間数で除して得た額の賃金とする。

③ 法第三十九条第七項ただし書の厚生労働省令で定めるところにより算定した金額は、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第九十九条第一項に定める標準報酬日額に相当する金額をその日の所定労働時間数で除して得た金額とする。

 

平均賃金

1.平均賃金の趣旨
 「平均賃金は、本法において、労働者を解雇する場合の予告手当に代わる手当、使用者の責に帰すべき休業の場合に支払われる休業手当、年次有給休暇の日について支払われる賃金、労働者が業務上負傷し若しくは疾病にかかり、又は死亡した場合の災害補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、打切補償及び分割補償、並びに減給の制裁の制限を算定するときのそれぞれの尺度として用いられている。」とされます。しかし、事実上は「解雇予告手当」「使用者責の休業手当」「年休取得時を平均賃金額を支払うとしている場合」の三つのケースについて、算定が必要となるケースが殆と思います。

2.平均賃金の算定期間

賃金締切日がある場合の起算日
問】賃金毎に賃金締切日が異なる場合、例えば団体業績組合を除いた他の賃金は毎月15日及び月末の二回が賃金締切日で、団体業績給のみは毎月月末一回のみの場合、平均賃金算定の事由がある月の20日に発生したとき、何れを直前の賃金締切日とするか。
答】設問の場合、直前の賃金締切日は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日である。
※これは、たとえば基本給と時間外労働手当(残業代)の締切日が異なる場合には、それぞれ計算して合算するという趣旨です。参考:基本給「毎月、前月21日~当月20日が賃金計算期間」、「時間外労働分の賃金、毎月1日~末日」、支払日は基本給「締切日の当月25日」、時間外賃金「賃金締切日の翌月25日」などの規定が可能です。このような場合、平均賃金の算定が必要となった日のそれぞれの直近の賃金締切日から3ヶ月遡って、平均賃金を算定します。  ※ なお、所定内賃金(基本給)と時間外労働分賃金(休日出勤分等を含む)の支払を別々の支払日とすることも可能ですが、振込み手数料が二倍になってしまいます。

3.平均賃金の算定

 原則の計算式(これを算定すべき事由の発生した日(の直近の賃金締切日)以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額)と日給・時間給・出来高払・請負の場合の計算式は、その方法が異なっています。ただし、原則の計算式で計算したほうが平均賃金の額が高い場合には、やはり、原則の計算式によって平均賃金を算定します。

(1)日給・時間給・出来高払・請負の場合の計算式
 例外の計算式は以下のように定められています。
労働基準法 第12条第1項 (ただし書)
ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
 ① 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
 ② 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
  日給制、時給制、出来高払い制、請負制の場合
 平均賃金額=算定期間の賃金総額÷算定期間中に実際に労働した日数×100分の60 (原則の計算式で算定した額がこの計算結果より高い場合には、原則の計算によります。)
 ※第2項の規定により、原則の計算式と同様に賃金締切日がある場合には、直前の賃金締切日より算定します。
  賃金の一部が、月・週・その他一定の期間によって定められた場合於いては、その部分の総額をその期間の日数で除した金額と①で計算した平均賃金額の和

 平均賃金額=(月給などの部分の総額÷算定期間の総暦日数)+(算定期間の賃金総額÷算定期間中に実際に労働した日数×100分の60)
※この場合も賃金締切日がある場合には、直前の賃金締切日より算定します。

(2)いわゆる日給月給制の場合
 法第12条第8項 第1項乃至第6項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。
 以下のように通達されていますので、そのまま記述します。
 ⇒賃金の一部もしくは全部が、月、週その他一定の期間によって定められ、且つ、その一定の期間中の欠勤日数若しくは欠勤時間数に応じて減額された場合の平均賃金(算定期間が4週間に満たないものを除く。)が左の各号(注:下記の各号)の一によってそれぞれ計算した金額の合計額に満たない場合にはこれを昭和二十年労働省告示第五号第二条に該当するものとし、自今、かかる場合については、同条の規定に基き都道府県労働基準局長が左の各号(注:下記の各号)の一によってそれぞれ計算した金額の合計を以つてその平均賃金とする。
  賃金の一部が、労働した日もしくは時間によって算定され、又は出来高払制によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
  賃金の一部もしくは全部が、月、週その他一定の期間によって定められ、且つ、その一定の期間中の欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額された場合においては、欠勤しなかった場合に受けるべき賃金の総額をその期間中の所定労働日数で除した金額の百分の六十
  賃金のの一部が月、週その他一定の期間によって定められ、且つ、その一定期間によって定められ、且つ、その一定期間中の欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額されなかった場合においては、その部分の総額をその期間の総数で除した金額  (※昭和30年5月24日基収1619号)

(3)日雇労働者の平均賃金の算定
労働基準法 第12条第7項
 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
 日雇労働者の平均賃金については、昭和38年労働省告示第52号により定められています。以下にその概略を記述します。
①原則的な計算方法
 「(前略)それぞれ当該日雇労働者又は同種日雇労働者の当該事業場における実労働日当り賃金額を算定し、その百分の七十三を平均賃金とするものであるから、算定理由発生日以前1箇月間における当該事業場における実労働日数の多少は問わないものであり、また、これらの者の実際の稼働率は考慮せず一律百分の七十三を乗ずるものであること。」とされています。

◇日雇い労働者の平均賃金の原則の計算式
 平均賃金=算定事由発生日前1カ月間に当該事業場で当該日雇労働者に支払われた賃金総額÷1カ月間の労働日数×0.73

金員の返還

 ア 労基法第23条の趣旨
 「労働者が退職した場合において、賃金、積立金その他労働者の権利に属する金品を迅速に返還させないと、労働者の足留策に使用されることもあり、また、退職労働者又は死亡労働者の遺族の生活を窮迫させることとなり、さらに時がたつに従って賃金の支払や金品の返還に不便と危険をともなうこととなるので、これらの関係を早く清算させるため、退職労働者の権利者の請求のあった日から7日以内に賃金その他の金品を返還すべきことを規定した。」としています。

イ 権利者について

 本条に基き賃金の支払又は金品の返還を請求することができる権利者とは、一般には、労働者が退職した場合にはその労働者本人であり、労働者が死亡した場合にはその労働者の遺産相続人であって一般債権者は含まれない。ここにいう労働者の退職とは、労働者の自己退職のみでなく、契約期間の満了等による自然退職及び使用者の都合による解雇等労働関係が終了した場合のすべてをいい(ただし、死亡の場合は退職には含まれない。)その原因を問わない。」としています。「労働者が死亡した場合の権利者たる遺産相続人については、正当な相続人であるか否か判定が困難であるが、請求不注意により正当な相続人であることを証明しない限り、使用者は支払又は返還を拒否することができると解される。」としています。

 労働者の権利に属する金品

 これは、積立金、保証金、貯蓄金のほか、労働者の所有権に属する金銭及び物品であって、労働関係に関連して使用者に預入れ又は保管を依頼したものと解される。」とされています。

エ 賃金又は金品に関して争いがある場合

 この条でいう「賃金又は金品」について、「その有無、種類、賃金、金銭の額等について労使間に争いがある場合には、使用者は労働者の請求に対して異議のない部分のみを請求されてから7日以内に支払い、又は返還すればよいこととされている。」とした上で、「使用者に意義があるものであっても、それが労働者に支払われるべき賃金ないし金品であった場合には、その履行期到来以後は、使用者は履行遅滞に伴う民事上の責任を負わなければならないことになる。」としています。

非常時払い

1.非常時払いの趣旨

 労基法第24条によって、「賃金の支払時期が定められた場合に、使用者は、その期日に賃金を支払わなければならないが、反面、労働者も特約がある場合以外は、支払時期が到来するまでは賃金の支払を請求することはできない。」

2.非常時(出産、疾病、災害の場合)

 これらは、労働者本人の「出産、疾病、災害」に限らず、その「労働者の収入によって生計を維持する者」の出産、疾病、災害も含まれる」としています。
労働基準法施行規則
第九条 法第二十五条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。
 一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合
 二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合
 三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合

3.既往の労働に対する賃金

 既往の労働に対する賃金の「既往」とは、「通常は請求の時以前を指すが、労働者から特に請求があれば、支払の時以前と解すべきであろう。」とされています。月給、週給等で賃金が定められている場合には、「既往の労働に対する賃金」は、施行規則第19条に規定する方法によって、これを日割計算して算定すべきである。」とされています。また、賃金締切日に計算が困難であるものについては、非常時払いの趣旨からいって、緊急を必要とするから、使用者が善意に概算した金額を支払えば足りると解されています。さらに、労働者の請求が既往の労働に対する賃金の一部である場合には、請求があった金額のみ支払えばよいとされます。なお、本条による賃金の支払についても、前条第1項の規定(通貨で、直接労働者に、その全額を支払うこと)が適用されます。

参考:賃金の支払時期

 民法⇒仕事が終わった後

  第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。 2 期間によって定められた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。  

 労働基準法⇒毎月1回以上定期に支払う(定められた支払日前に支払義務がない)

  第二十四条第二項 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければ

  ならない。(ただし書以下略)

  労働基準法第二十四条第二項及び民法の例外

  労働基準法第23条(退職時等の支払・返還)、同法第25条(非常時払い)の規定。

 ※ なお、労働者の賃金債権は業務が終わった時点で発生しているが、通常は賃金支払日前には、終わった部分(既往の労働部分)の賃金請求権がない。

 

休業手当

1.労働基準法第26条の休業手当の趣旨

問】本条は使用者の責に帰すべき事由による休業の場合平均賃金の100分の60以上としており、債権者の責に帰すべき事由に因って債務を履行することができない場合は、債務者は反対給付を受ける権利を失わないとるする民法第536条の規定より不利な規定であると考えるが如何。
答】本条は民法の一般原則が労働者の最低生活保障について不十分である事実に鑑み、強行法規で平均賃金の100分の60までを保障せんとする趣旨の規定であって、民法第536条第2項の規定を排除するものではないから、民法の規定に比して不利ではない。

参考:民法第536条第2項

(使用者責の休業の場合には、不就労部分の100%の請求(通常行っている時間外労働部分を除く)が可能)

第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

2.使用者の責に帰すべき事由

使用者の責に帰すべき事由とは、「第一に使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものよりも広く、第二に不可抗力によるものは、含まれない」。
 判例では、「労働基準法第26条が、特約のない限り、平均賃金の100分の60の休業手当の支払を要求するにとどめている点に徴〈チョウ〉すれば、同条は使用者の立場を考慮しつつ、右民法の規定の要件を緩和して、適用範囲を拡張することにより、一定の限度において、労働者の地位を保護しようとするものであると解することができる。すなわち民法にいう『債権者の責に帰すべき事由』とは、これよりもひろく、企業の経営者として不可抗力を主張し得ないすべての場合(たとえば、経営上の理由により休業する場合)も含むものと解すべきである」(国際産業事件 昭和25年 東京地裁決定)。
 また、「休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保証をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法第26条の『使用者の責に帰すべき事由』の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度(平均賃金の6割以上)での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とすると言わなければならない。このようにみると、右の『使用者の責に帰すべき事由』とは、取引における一般原則たる過失責任相殺とは異なる観点も踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の『債権者ノ責ニ帰スヘキ事由』よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。」(ノース・ウエスト航空事件 昭和62年 最高裁第二)。

 次に、使用者の責に帰すべき事由として「不可抗力によるものは含まれない」という点については、「本条は『使用者の責に帰すべき事由』と明文で規定している以上、何らかのかたちで使用者の帰責事由に該当するものでばければならないことは文理上あきらかであり、したがって、ここにいう不可効力はこれに含まれないものと解する。」としています。
 また、不可抗力であるのかないのかの判断については、「不可抗力とは、第一に、その原因が事業の外部より発生した事故であること(性質的要素につき客観的)、第二に、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避けることのできない事故であること(量的要素につき主観説を加味)の二要素を備えたものでなければならないと解する。」とされています。
 さらには、前述の「原因の発生が事業の内か外か」の区別の基準ですが、「最も広義における営業設備の範囲の内外を指すものと解する。すなわち、事業主の監督又は干渉の可能なる範囲における人的・物的のすべての設備は、事業の内部に属するものであり、換言すれば、一個の企業を形成するために協同して作用している人又は物の総括体が、取引社会に対して事実上の統一体として現れ、したがって法律的にも例えば発生し得る可能性のある損害賠償義務の主体たる組織体として考えられるときは、この組織体内にその原因を有しかつ発生した事故は、事業内部の事故とされて不可抗力を形成し得ない。」としています。

3.使用者の故意、過失による休業

「使用者の故意、過失による休業は、本条の使用者の責に帰すべき事由に該当する。この場合は、民法第536条第2項の適用と競合する。ただし、本法においては、労務の履行の提供は要しない。」とされています。
 最高裁は、「基準法第26条の規定は、労働者が民法第536条第2項にいう『使用者ノ責ニ帰スベキ事由』によって解雇された場合にもその適用があるものというべきである。」と判示しています。(山田部隊事件 昭和36年 最高裁第二)
 したがって、「使用者の故意、過失による休業の場合は、民法により全額の賃金請求権が労働者にあるが、このうち、本条所定の範囲において本条の適用があり(実益は本法第114条の付加金にある。)、賃金の支払その他の賃金に関する本法の他の保護規定は、全額に対して適用されると解される。もっとも、休業手当は就業規則で定めることが本法において義務づけられており(第89条)、その定められた労働契約の内容となっているとみられるから、現実には平均賃金の6割又は6割を超えて就業規則に定められた額がその保護を受けることになる。

4.労働基準法第26条の休業とは何か?

 休業とは何かですが、「労働者が労働契約に従って労働の用意をなし、しかも労働の意思をもっているにもかかわらず、その給付の実現が拒否され、又は不可能となった場合をいう。したがって、事業の全部又は一部が停止される場合に止まらず、特定の労働者に対して、その意思に反して、就業を拒否するような場合も含まれる。なお、休業は全一日の休業であることは必要でなく、一日の一部を休業した場合を含む。」とされています。

5.休業手当の支払時期

「休業手当は第11条の賃金であるから、その支払については第24条の規定が適用され、休業期間の属する賃金算定期間について定められた支払日に支払わなければならない。」とされています。

6.派遣労働者の26条の休業手当

「派遣中の労働者の休業手当について、労働基準法第26条の使用者の責に帰すべき事由があるかどうかの判断は、派遣先の事業場が、天災地変の不可抗力によって操業できないために、派遣されている労働者を当該派遣先の事業場で操業させることができない場合であっても、それが使用者について、当該労働者を他の事業場に派遣する可能性等を含めて判断し、その責に帰するべき事由に該当しないかどうかを判断することになること。」として、派遣労働者の労基法26条の「使用者責」を判断するに当たって、あくまでも派遣元の事情により判断されるとしています。これは、派遣労働者の年次有給休暇の「時季変更」の判断も同様に解されています。

 なお、労働基準法には、「26条による休業手当」と「76条による休業補償」の両規定がありますので、区別して整理する必要があります。また、76条の休業補償は労災の補償が行われて併給されないことが通常ですから、今回は記述を省略しました。

同じ日に二以上の事業場に勤務した場合の労働時間の通算

1.事業場を異にする場合

「「事業場を異にする」とは、労働者が一日のうち、甲事業場で労働した後に乙事業場で労働することをいう。この場合、同一事業主に属する異なった事業場において労働する場合のみでなく、事業主を異にする事業場において労働する場合も含まれる。」とされます。

※ 例えば、A事業主の事業場で6時間就労し、その後B事業主の事業場で4時間就労する場合には、通算の労働時間が10時間となりますから、B事業主は8時間を超える部分(2時間分)について、法定以上の割増賃金の支払義務を負います。また、B事業主は36協定を締結・届出は勿論、協定届の所定労働時間については、A事業主の事業場の就労時間を含めて記述する必要があります。

法36条の年休取得時の賃金

 年休所得時には、次のいずれかの賃金を支払う必要があります。

 ① 平均賃金相当額を支払う
 ② 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金
 ③ 健康保険法(大正十一年法律第七十号)第九十九条第一項に定める標準報酬日額に相当する金額又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額

 ※この場合に、3.の標準報酬日額を採用する場合には、労使協定が必要です。(届出義務はありません。)

賃金請求権の消滅時効

1.労働基準法第115条の趣旨

「本条の適用を受ける請求権は、本条の規定による賃金、災害補償その他の請求権であるが、「その他の請求権」のなかには、債権的性格をもつ金銭給付請求権を含むことはもちろんであるから、休業手当請求権(第26条)、年次有給休暇の賃金請求権(第39条)及び帰郷旅費請求権(第66条)が含まれることは、問題がない。」としています。
 一方、年次有給休暇の請求権(時季指定権)も本条の規定により2年間行使しない場合には、消滅すると解されています。
 ところで、「解雇予告手当」については、時効の問題は生じないとされており、付加金については「時効」ではなく2年の「除斥期間」とされています。

2.賃金債権の消滅時効の起算日

 月例賃金は、毎月の支払日が25日であれば、毎月の賃金支払日ごとにその翌日から起算して2年間で請求権が消滅します。一方、退職金は月例賃金とは別に支払日が定められていると思いますから、その所定の支払い日の翌日から5年経過すると、請求権が消滅します。なお、1年とは民法の原則により「起算日の翌年の応答日の前日までの間」をいいますから、通常の賃金等は起算日から数えて2回目の応答日、退職金は起算日から5回目の応答日に本条の規定による期間が経過します。

3.消滅時効の援用

 たとえば月例賃金の請求権につき、時効に関係する長期の未払いが生じている場合に、使用者の援用の有無が問題となります。法解釈上や裁判例では、援用の問題が論点となっているものがあまりありませんが、一般に本条の規定も援用が必要と思われます。

4.消滅時効の中断

 一般的に、裁判上の請求、支払督促、和解及び調停の申立て、破産手続き参加などで時効が中断します。また、裁判外の請求(催告)は、それのみでは時効の中断の効力を認められないが、6ヶ月以内に裁判上の請求を行えば、催告のときに遡及して中断するとされています。

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 14(賃金に関するその他の項目)を終了します。