賃金、賃金制度に関する考察 15(賃金制度)

2015年07月08日 16:43

賃金制度

一般的な賃金は、どの様に構成されているか? 

 固定的賃金   基本給、職務給、職能給、役職手当、危険手当、実務手当 等

 恩恵的賃金   配偶者手当、子供手当、世帯主手当、住宅手当、通勤手当、寒冷地手当、

         単身赴任手当 等

 実費弁済支給  出張交通費、出張手当(休日移動の場合)、出張宿泊費 等

 変動賃金    所定時間外手当、休日出勤手当、深夜手当、宿直手当、皆勤手当 等

 その他の賃金  賞与、退職金、休業手当、慶弔金、休業補償、年休賃金 等

  ※そこで、実際の賃金は、これらの諸給与を組み合わせて支給されます。

・「賃金額=基本給+諸手当+時間外・休日出勤賃金・深夜労働賃金+その他の賃金」で構成されます。

従来から問題視されている賃金格差の問題

 正社員(正規職員)と非正規社員(非誠意職員)の賃金格差は、①基本給の格差、②諸手当の支給か不支給かの格差、③退職金、賞与の支給か不支給(又は支給率)の格差等により生じ、その差額は2倍相当に達しています。

 改正労働契約法の施行により、平成30年4月以降は「期間の定めの無い労働契約」の非正規労働者の割合が徐々に高まってゆくものと考えられます。そうすると、従来の就業規則による労務管理制度のままでは、次第にその合理性を失ってゆく恐れが生じます。

 他方で、同一価値労働=同一賃金の観点からは、役職手当又は職務手当などの職務関連賃金の割合を高めることで、その趣旨が達成できます

 

江戸時代の役職、家柄、禄高(出典が不明のため、情報の信憑性は定かではありません。)

 江戸時代の大名に仕える武士は、各藩により「役職、人数、禄高」が異なっていたものの、家柄=雇用形態(雇用形態別の基本賃金)、役職=職位(役職手当)という特性別に賃金が定まっていたものと思われます。(以下は、盛岡藩とされる事例)

    家柄        禄高       役職

   大身の老臣 上士   千石~一万石  家老、後の加判役

   高知(タカチ)上士   1000石以上   家老、加判役、御席詰

   高家    中士   数百石     御新丸御番頭頭

   本番組   中士   平士100石以上 御用人・花巻城代・寺社奉行など 

   加番組   下士   平士50石以上  御金奉行・御銅山吟味役・御作事奉行など

   新番組   下士   平士50石以下  諸御山奉行・大納戸奉行・新田奉行など  

   御給人   下士   数十石    代官所の下働き(半農、知行地あり)                  

藩主

家老

御近習頭

御留守居

御用人所

 ├

御用人

 └

御側御用人

御目付所

 └

大目付

御勘定所

 └

元締

北地御用所

 └

北地御用大番頭

御中丸御番頭

御新丸御番頭

加番組

新番組

家老には大身の老臣が就いていた。また戦国期の規律を引き継ぎ、大身は陪臣を持っていたり、そ家禄 に応じて役職に任じられたり軍備を担っていた。

高知は、家老(後期に改名して加判役)・御近習頭・北地大番頭・御中丸御番頭などに就任した。

高家は、加番組御番頭・御側御用人・花巻城代・寺社奉行・御勘定所元締・新番組御番頭などに就任した。

本番組は、御用人・花巻城代・寺社奉行・御勘定所元締・新番組御番頭などのほか、御境奉行・代官・御船手頭・町奉行・郡奉行などに就任した。(平士のうち100石以上(天保15年時点)または150石以上(明治元年時点)の者が該当した。)

加番組は、御金奉行・御銅山吟味役・御作事奉行・万所奉行・御勝手方などに就任した。(平士のうち50石以上が該当した。)

新番組は、諸御山奉行・大納戸奉行・新田奉行・御国産方などに就任した。平士のうち50石以下に当たる。

  一藩の事例ですが、江戸時代の身分は、士農工商のみでなく、藩ごとの家柄により異なり、また就いている役職により禄高(知行地の広さや支給米の量など)が格付けされていました。

 現在に置き換えて考えると、家柄=「社内の身分、非常勤社員・正社員・執行役・役員など」、及び役職=「職員、末端の担当者・主任・係長・リーダー・マネージャー・課長・部長・統括職・事業部長など」により賃金(禄高)が決定されるといえます。そして、この身分と役職による禄高の決定は、現在の賃金制度と共通する部分があるといえます。

 

賃金決定のための要素

参考裁判例 昭和37年(オ)1452 最高裁判所第二小法廷判決(高裁判決破棄)

 所論諸項目の給与のうち、勤務手当および交通費補助は、労働の対価として支給 されるものではなくして、職員に対する生活補助費の性質を有することが明らかで あるから、これら項目の給与は、職員が勤務に服さなかつたからといつてその割合に応ずる金額を当然には削減し得るものでないと認むべきである。 次に、給料、出勤手当、功労加俸および地区主任手当についていえば、被上告人会社における勤務 時間拘束の制度は、主として業務管理の手段として設けられたものであつて、そこ に右各項目の給与の額を決定する絶対的基準としての意味は見いだし難く、従つて また、これが設けられたことに対応して固定的給与を加味した給与体系が採られるにいたつたということも、この種職員の所得の安定を図る趣旨に出たものというべ きであり、しかも、右係長、係長補、主任等の資格が純然たる給与の級別に過ぎず、 且つ、該資格の決定がその者の過去における仕事の成績によつて行なわれる以上、 給与の額は、主として、仕事の成果によつて決定されるものであつて、それが一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるのは、過去において完成された仕事の量に対して支払わるべき報酬を給与の平均化を 図る目的で右期間に分割して支給されるというほどの意味を有するに過ぎないものと認めるのが当然であり、また、右期間中の仕事の成果が次期の給与額に直接自動的に影響を及ぼすことも否定し得ないところである。それ故、右各項目の給与は、上告人らが勤務に服した時間の長短を基準として決定された面が全然ないとはいえないにしても、その実質は、むしろ、本件ストライキの行なわれた昭和三二年六月以前における上告人らの募集、集金の成果に比例して決定されたものであつて、純然たる能率給であるかどうかは格別、少なくとも、前記意義における固定給ではない、と認むべきである。もつとも、典型的な固定給の受給者と目されている一般労働者にあつても、日常の仕事の成績を考慮してその者の昇格、格下げが決定され、 これに伴ない給与の増減が招来されることは疑いを容れないところであるが、この場合には、仕事の量によつて決定さるべき資格が給与そのものの級別ではなくして職務の内容に関するものであることを看過してはならないのであつて、単に仕事の 成績が給与の額に影響を及ぼすの一事をもつて、右両者の間に存する給与決定上の 本質的相違を無視することは許されないものといわなければならない。 

       ・属人給 学歴、年齢・勤続年数等が決定の要素となる。

  ・職能給 合理的に職能を考査して決定する。

  ・職務給 業務の内容ごとに決定する。

  ・格付給 基本給の要素、資格等級と賃金額が一致しているもの。

      ※属人・資格給として、両者を関連させて賃金テーブルとする場合もある。

  ・成果給 売上高、契約高、生産高等により、賃金単価×生産高で賃金算定するもの。

       請負形式に近い賃金制度だが、最低賃金法の適用を受ける。

参考:自衛隊員の俸給表(単位円) 2105年4月現在

   将    1号俸、705,000 ~ 8号俸、1,174,000

   将補(一) 1号俸、705,000 ~  4号俸、894,000

   将補(二) 1号俸、511,800 ~ 45号俸、591,200

   一佐(一) 1号俸、460,700 ~ 45号俸、543,500

   一佐(二) 1号俸、448,400 ~ 57号俸、515,300

   一佐(三) 1号俸、393,900 ~ 81号俸、494,800

   二佐   1号俸、341,800 ~ 105号俸、487,000

   三佐   1号俸、314,700 ~ 113号俸、467,300

   一尉   1号俸、272,600 ~ 129号俸、444,200

   二尉   1号俸、246,900 ~ 137号俸、439,400

   三尉   1号俸、238,900 ~ 145号俸、437,700

   准尉   1号俸、230,300 ~ 145号俸、435,200

   曹長   1号俸、223,800 ~ 141号俸、423,400

   一曹   1号俸、223,600 ~ 129号俸、408,600

   二曹   1号俸、215,000 ~ 113号俸、379,000

   三層   1号俸、191,900 ~ 73号俸、308,700

   士長   1号俸、176,500 ~ 33号俸、237,300

   一士   1号俸、176,500 ~ 13号俸、192,300

   二士   1号俸、161,600 ~  9号俸、172,800

賃金制度に関する整理

 賃金の性格は、大まかに次の区分に大別されます。

  ① 属人給  大卒・高卒別、勤続年数別、年齢、保有資格別に決定する。(基本給)

                  また、これらを踏まえ資格等級で格付けする方法も多い。

         広い意味で、賞与・退職金も含む。

  ② 職務給  職務に関する内容や職務遂行能力で決定される。

    職能給  また、危険手当や実働手当等もある。

  ③ 福利給  配偶者手当、子供手当、通勤費、昼食費補助、結婚祝金、葬祭費、

         住宅費補助、休業補償加給費、治療費補助など。

  ④ 弁済給  出張手当、出張宿泊費、出張交通費、自家用車使用手当など。

  ⑤ 割増賃金 所定・法定時間外労働手当、所定・法定休日手当、深夜手当

  ⑥ 歩合給  出来高給、業績手当、売上歩合給など。

 従来は、これらの賃金の組み合わせ及びどの程度の金額とするかなどについて、就業規則(賃金規程)に定めて運用を行ってきたことが一般的です。

 そして、企業が人件費削減のために、非正規労働者として全く異なる賃金体系が適用される労働者と、いわゆる正社員を併せて使用することにより、賃金格差や同一価値労働=同一賃金との乖離が問題となって来ました。

今後の雇用体系の構築の目安について

 改正労働契約法の施行により、今後(平成30年以降)無期労働契約の非常勤労働者が増加して行くことは、すでに述べました。従来、有期雇用なのか無期雇用なのかにより、正規・非正規の労働者の区分を通常行ってきたと考えられます。それは、厚生労働省が短時間正社員という名称の労働者を推進しようとしていることからも伺えます。

 そうすると、今後は正社員と非常勤社員との垣根がますます低くなってゆくことが予想されます。そこで、一定の合理性を確保しようとしたならば、正社員と非正規社員を明確に区分してそれを維持してゆくことは、むしろ不合理と判断されかねないと考えられます。

 解決策としてのひとつの方法論は、統一的総合的な人事制度の構築を行うことが考えられます。

 

事例: 給与・職能資格を「ジュニア」「レギュラー」「シニア」に区分する。

    (役員、執行役は別途)

    職位は、「リーダー」「グループ・リーダー」「マネージャー」

    「シニア・マネージャー」「AGM(アシスタント・ジェネラル・マネージャ-)に区分する。

 ア 入社選考 A     合格者は「レギュラー」に格付けする。

 イ 入社選考 B     合格者は「ジュニア」に格付けする。

 ウ 特別入社選考      合格者は入社選考に応じた職位「レギュラー、シニア」

              に格付けする。

 エ レギュラー昇格試験  合格者はレギュラーに格付けする。

 オ シニア昇格試験    合格者はシニアに格付けする。

  ※ジュニア1級は有期の3ヶ月~1年更新、その他の格付は無期労働契約とする。

  ※ジュニア1級が有期労働契約である理由は、試用期間の意味合いもあります。

  ※スポットHは、業務に必要な期間の有期契約とする。

  ※降格については、基準を規定しておく。

※同一区分内の昇格基準を定めておく。

 

・資格等級と賃金(時給・日給月給・月給・年奉)、職位

  ※事例で英語名表記としたのは、対外的に職位認識を弱めるため。

 資格等級      基本給(賃金)        職種・職位 

スポットH       最低賃金~1200円/時     アルバイト

ジュニア 1級    900円/時~1200円/時     現場担当 

ジュニア 2級     1000円/時~1500円/時     現場担当

ジュニア 3級   8,000円/日~10,000円/日      現場担当・Aリーダー

ジュニア 4級  10,000円/日~13,000円/日     現場担当・Aリーダー

ジュニア 5級  250,000円/月~280,000円/月  現場リーダー 

レギュラー1級  270,000円/月~300,000円/月  現場リーダー、スタッフ職

レギュラー2級  290,000円/月~340,000円/月  現場リーダー、スタッフ職 

レギュラー3級  310,000円/月~370,000円/月  Gリーダー、スタッフ職

レギュラー4級  330,000円/月~390,000円/月  Gリーダー、スタッフ職

レギュラー5級  350,000円/月~400,000円/月  マネージャー、スタッフ職

  シニア  1級  380,000円/月~430,000円/月  マネージャー、統括リ-ダ-  

  シニア  2級  400,000円/月~480,000円/月  スタッフMgr、マネ-ジャ- 

  シニア  3級  450,000円/月~530,000円/月  シニアマネージャー  

  シニア  4級  480,000円/月~570,000円/月   AGM、シニアマネ-ジャ-

  シニア  5級  550,000円/月~600,000円/月   事業部長代行、GM

 

・職位のイメージ

 ・スポットH(ヘルパー)     短期アルバイト

 ・A(アシスタント)リーダー   主任補佐

 ・現場リーダー          現場主任(一次業務管理、人事管理補佐)

 ・GL(グループリーダー)     係長職(二次業務管理、人事管理)

 ・スタッフ職           技術職、事務職、監査職、その他の特別職

 ・統括リーダー          複数係の統括職

 ・マネージャー           課長職

                 (業務管理一次責任者、人事管理一次責任者)

 ・シニアマネージャー       上級課長職、部長補佐職(担当部署決裁) 

 ・AGM(アシスタント・ジェネラル・マネージャー)

                  部長補佐、部長代行

 ・GM(ジェネラル・マネージャー) 部長 

 

 事例の人事制度は、非常に単純化したものですが、このような制度の採用により、同一価値労働=同一賃金に、より近づく制度とすることができ、加えて、下位の格付けの労働者についても生活給の確保(労働者の生活の安定)が可能であると思います。

 さらに、例えば「育児休業からの復帰後であり、なお育児時間が必要な場合」あるいは「家族介護が必要となり、時間外労働はおろか従来の所定労働時間の就労も困難な場合」については、本人の希望を受けて、格付けをジュニア2級に変更することにより、所定労働時間の短縮調整や所定労働日数の調整が可能となり、労働者は会社にとどまりながら育児・介護が可能となります。そして、育児・介護の必要が無くなった時点で、格付け変更前の等級と全く同一か否かは別にして、上位の格付けに再格付けを行う仕組み(試験等も行う規定も考えられる。)とすることで、それらの労働者の長期的な観点からのモラル低下の防止が可能になります。

 また、定年退職後の再雇用の際には、再雇用の該当者を原則的に「ジュニア1級(有期労働契約)」とすることで、有期労働契約への変更ができ、本人にとっても再雇用後の受取り給与の見積もりが可能となります。この場合、5年経過後の無期労働契約転換の問題は生じません。

 

「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」にみる、賃金の名称

 ア 年度更新の際に、算入する賃金

 基本給(固定給等基本賃金)、超過勤務手当、深夜手当、休日手当、扶養手当、子供手当、家族手当、宿直手当、日直手当、役職手当、管理職手当、住宅手当、寒冷地手当、僻地手当、地方手当、教育手当、別居手当(単身赴任手当)、技能手当、危険有害業務手当、臨時緊急業務手当、精勤手当、皆勤手当、生産手当、物価手当、調整手当、配置転換手当、初任給の調整給、賞与、通勤手当、休業手当(労基26条)、定期券(現物)、回数券(現物)、雇用保険料の本人負担分、前払い退職金、社宅等の貸与(社宅に入れない従業員への均衡手当)、

 イ 年度更新の際に算入しない賃金

 休業補償、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、増資記念品代、私傷病見舞金、解雇予告手当、年功慰労金、制服、出張旅費、出張時宿泊費、財形奨励金、創立記念日の祝金、チップ(賃金に該当する場合を除く)、退職金

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 15(賃金制度)を終了します。