賃金、賃金制度に関する考察 16 (賃確法の概要)

2015年07月10日 11:30

賃金の支払の確保等に関する法律

法律の概要

賃金の支払の確保等に関する法律の施行について(昭和五一年六月二八日)(労働省発基第九二号)抜粋

賃金は、労働契約の基本的な要素であり、また、労働者とその家族の生活の源資であることから、賃金未払という事態は本来起こつてはならないものである。そのため、労働基準法において、使用者の賃金支払について各種の規制を加え、その履行について、労働基準監督機関が監督・指導を行つてきたところであり、現に、それによつて解決された賃金未払事案も少くない。しかしながら、これまでは、賃金の支払を実質的に確保する手段に欠ける面があり、企業の倒産により、事業主に支払能力がない場合については、どうしても解決できなかつたのが従来の実情であり、これに対する具体的な救済措置の創設が必要であるとされていた。

本法は、以上のような実情に対処するため、本来事業主の基本的な責務である賃金支払についての規制を民事的にも刑事的にも強化するとともに、事業主の責任で退職手当の未払、貯蓄金の未返還を予防するための措置を講じさせ、併せて、企業の倒産に伴い賃金の支払を受けることが困難になつた労働者に対する保護措置を講じ、もつて、労働者の生活の安定に資することを目的として制定されたものである。

 すなわち、本法は、貯蓄金及び退職手当に関する保全措置、退職労働者の賃金に係る高率の遅延利息並びに企業倒産に伴う未払賃金の立替払事業について規定するとともに、附則において労働基準法の一部を改正することにより、賃金に関する労働条件の明示義務の拡充及び賃金未払等に対する罰則の強化について規定しているものである。

なお、本法は、未払賃金の立替払事業の創設によつて賃金の支払に関する事業主の責任を軽減し、免除するものではなく、かえつて事業主への規制を強化することとしているものであり、労働基準法、最低賃金法、建設業法等関係法律と相まつて施行されることにより所期の目的を達成することができるものであることはいうまでもない。

 

独立行政法人労働者健康福祉機構作成 リーフレット
1 要件
(1)事業主に係る要件
   ① 労災保険の適用事業の事業主、かつ、1年以上事業を実施
   ② 倒産したこと
  ア 法律上の倒産
  破産手続開始の決定(破産法)、特別清算手続開始の命令(会社法)、
  再生手続開始の決定(民事再生法)、更生手続開始の決定(会社更生法)
  イ 事実上の倒産(中小企業事業主のみ)
  事業活動停止、再開見込みなし、賃金支払能力なし(労働基準監督署長の認定)
※ 中小企業事業主とは、以下のいずれかに該当する事業主をいう
  ・資本金の額等が3億円以下又は労働者数が300 人以下で、以下の業種以外の業種
  ・資本金の額等が1億円以下又は労働者数が100 人以下の卸売業
  ・資本金の額等が5千万円以下又は労働者数が100 人以下のサービス業
  ・資本金の額等が5千万円以下又は労働者数が50 人以下の小売業
(2)労働者に係る要件
  ① 破産手続開始等の申立て(事実上の倒産の認定申請)の6か月前の日から2年間に退職
  ② 未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には、破産管財人等が証明
   (事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長が確認)
  ③ 破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払請求
2 立替払の対象となる賃金
 退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金
(定期給与と退職金(ボーナスは含まず。)。ただし、総額2万円未満のときは対象外。)
3 立替払の額
未払賃金総額の8割(限度あり)
 退職日における年齢 未払賃金総額の限度額 立替払の上限額
  45 歳以上        370 万円  296 万円 (370 万円×0.8)
  30 歳以上45 歳未満    220 万円  176 万円 (220 万円×0.8)  
  30 歳未満        110 万円  88 万円 (110 万円×0.8)         
 例)退職日に35 歳で未払賃金が200 万円の場合は、立替払額160 万円
   退職日に35 歳で未払賃金が300 万円の場合は、立替払額176 万円
4 実施機関
 独立行政法人労働者健康福祉機構
※ 立替払の支払事務とともに、倒産した企業(破産管財人等)に対して、立替払した金銭を求
償する事務も行っている。
 
立替払いの対象となる賃金(出典:厚生労働省HP)
〔参考〕立替払いを受けることができる人
立替払を受けることができる人
〔参考〕立替払いの対象となる未払い賃金の例
    定期賃金締切日  毎月20日
        支払日  毎月26日
立替払の対象となる「未払賃金」の例
まとめ(未払い賃金がある場合)
1.要件
 会社が、 労災保険の適用事業の事業主で、1年以上事業を実施しており、かつ、法律上の
 倒産又は中小企業の事実上の倒産(管轄労働基準監督署長の認定)をしていること。
2.立替払い請求ができる労働者
  破産手続開始等の申立て(事実上の倒産の認定申請)の6か月前の日から2年間に退職しており、破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払請求が必要。
 ※この場合、未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には、破産管財人等が証明(事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長が確認)
3.立替払いの対象となる賃金
 退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金
(定期給与と退職金(ボーナスは含まず。)。ただし、総額2万円未満のときは対象外。)
4.立替払いの額
 未払賃金総額の8割(限度あり。45歳以上で、最高296万円。)
5.立替払いの申し込み先
 未払い賃金の立替払いの請求は、「独立行政法人労働者健康福祉機構」に行います。
 機構HP:https://www.rofuku.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/418/Default.aspx 
6.立替払いされなかった未払い賃金の部分
 独立行政法人労働者健康福祉機構から、立替払いされなかった未払い賃金については、なお、従前の事業主や破産管財人に対する債権として、労働者が権利を有しています。支払われる可能性があるのであれば、債務者に請求することをおすすめします。
 そして、同機構は、労働者から賃金債権の一部を譲渡されたかたちとなり、のちに債務者に求償することとなります。
 
 
 
 
以上で賃金に関する考察 16(賃確法の概要)を終了します。