賃金、賃金制度に関する考察 4(最賃法9条~14条)
最低賃金法
第9条(地域別最低賃金の原則)
賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障するため、地域別最低賃金(一定の地域ご
との最低賃金をいう。以下同じ。)は、あまねく全国各地域について決定されなければならな
い。
2 地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能
力を考慮して定められなければならない。
3 前項の労働者の生計費を考慮するに当たつては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活
を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする。
第10条(地域別最低賃金の決定)
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最
低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域
別最低賃金の決定をしなければならない。
2 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出が
あつた場合において、その意見により難いと認めるときは、理由を付して、最低賃金審議会に
再審議を求めなければならない。
第11条(最低賃金審議会の意見に関する異議の申出)
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前条第一項の規定による最低賃金審議会の意見の提
出があつたときは、厚生労働省令で定めるところにより、その意見の要旨を公示しなければな
らない。
2 前条第一項の規定による最低賃金審議会の意見に係る地域の労働者又はこれを使用する使
用者は、前項の規定による公示があつた日から十五日以内に、厚生労働大臣又は都道府県労働
局長に、異議を申し出ることができる。
3 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による申出があつたときは、その申出
について、最低賃金審議会に意見を求めなければならない。
4 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、第一項の規定による公示の日から十五日を経過す
るまでは、前条第一項の決定をすることができない。第二項の規定による申出があつた場合に
おいて、前項の規定による最低賃金審議会の意見が提出されるまでも、同様とする。
第12条(地域別最低賃金の改正等)
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して必要があると認めるときは、その決定の例により、その改正又は廃止の決定をしなければならない。
第13条(派遣中の労働者の地域別最低賃金)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第
八十八号)第四十四条第一項に規定する派遣中の労働者(第十八条において「派遣中の労働者」
という。)については、その派遣先の事業(同項に規定する派遣先の事業をいう。第十八条におい
て同じ。)の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低
賃金額により第四条の規定を適用する。
第14条(地域別最低賃金の公示及び発効)
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金に関する決定をしたときは、厚生労
働省令で定めるところにより、決定した事項を公示しなければならない。
2 第十条第一項の規定による地域別最低賃金の決定及び第十二条の規定による地域別最低賃
金の改正の決定は、前項の規定による公示の日から起算して三十日を経過した日(公示の日から
起算して三十日を経過した日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、そ
の日)から、同条の規定による地域別最低賃金の廃止の決定は、同項の規定による公示の日(公
示の日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日)から、その効力を
生ずる。
最低賃金法施行規則
則第7条(最低賃金審議会の意見の要旨の公示)
法第十一条第一項(法第十五条第三項において準用する場合を含む。)の規定による公示は、
厚生労働大臣の職権に係る事案については厚生労働大臣が官報に掲載することにより、都道府
県労働局長の職権に係る事案については当該都道府県労働局長が当該都道府県労働局の掲示場
に掲示することにより行うものとする。
則第8条(最低賃金審議会の意見に関する異議の申出)
法第十一条第二項(法第十五条第三項において準用する場合を含む。)の規定による異議の申
出は、異議の内容及び理由を記載した異議申出書を、当該事案について前条の公示を行つた厚
生労働大臣又は都道府県労働局長に提出することによつて行わなければならない。この場合に
おいて、厚生労働大臣に対する異議の申出は、関係都道府県労働局長を経由してしなければな
らない。
則第9条(最低賃金に関する決定の公示)
法第十四条第一項及び第十九条第一項の規定による公示は、官報に掲載することによつて行
うものとする。
○通達による整理
1.平成19年通達
2 地域別最低賃金
(1) 地域別最低賃金の原則
① 地域別最低賃金は、あまねく全国各地域について決定されなければならないものとしたこと。(第9条第1項関係)
② 地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならないものとしたこと。(第9条第2項関係)
③ ②の労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとしたこと。(第9条第3項関係)
(2) 地域別最低賃金の決定
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金の決定をしなければならないものとしたこと。(第10条第1項関係)
(3) 地域別最低賃金の改正等
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、必要があると認めるときは、その決定の例により、その改正又は廃止の決定をしなければならないものとしたこと。(第12条関係)
(4) 派遣中の労働者の地域別最低賃金
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)に規定する派遣中の労働者(3(2)において「派遣中の労働者」という。)については、その派遣先の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を当該派遣中の労働者に適用される最低賃金額とするものとしたこと。(第13条関係)
2.平成20年通達
第6 地域別最低賃金
1 地域別最低賃金の原則(新法第9条関係)
(1) 地域別最低賃金の理念(新法第9条第1項関係)
最低賃金制度が今後とも賃金の低廉な労働者の労働条件の下支えとして十全に機能するようにする必要があることから、地域別最低賃金をすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として位置付けることとしたため、地域別最低賃金があまねく全国各地域について決定されるべきであるという理念を明確化したものであること。
(2) 地域別最低賃金の考慮要素(新法第9条第2項及び第3項関係)
新法第9条第2項においては、地域別最低賃金に係る決定基準の3つの要素は、いずれも当該地域におけるものであることを明確化したものであること。
新法第9条第3項においては、最低賃金と生活保護との関係について、生活保護が健康で文化的な最低限度の生活を保障するものであるという趣旨から考えると、最低賃金の水準が生活保護の水準より低い場合には、最低生計費の保障という観点から問題であるとともに、就労に対するインセンティブの低下及びモラルハザードの観点からも問題があることから、同条第2項の労働者の生計費を考慮する際の1つの要素として生活保護に係る施策があることを、法律上明確化したものであること。
なお、生活保護に係る施策との整合性は、各地方最低賃金審議会における審議に当たって考慮すべき3つの決定基準のうち生計費に係るものであるから、条文上は、生活保護に係る施策との整合性に配慮すると規定しているところであるが、法律上、特に生活保護に係る施策との整合性だけが明確化された点にかんがみれば、これは、最低賃金は生活保護を下回らない水準となるよう配慮するという趣旨であると解されるものであること。
2 地域別最低賃金の決定の義務付け等(新法第10条から第12条まで関係)
(1) 厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対する地域別最低賃金の決定の義務付け(新法第10条第1項関係)
厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、地域別最低賃金の決定を義務付けるものであること。
(2) 地域別最低賃金の決定手続等(新法第10条第2項、第11条及び第12条関係)
① 決定手続(新法第10条第2項及び第11条関係)
中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の意見の提示があった場合の公示等、最低賃金の具体的な決定手続については、従来と変わるものではないこと。
なお、旧法第16条の2第4項に規定する、一定の事業に対する適用猶予については、地域別最低賃金をすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網と位置づけたことから、削除したものであること。
② 地域別最低賃金の改正又は廃止(新法第12条関係)
地域別最低賃金の決定が行政機関に対して義務付けられたことから、地域別最低賃金については、決定後も常に検討を加え、その決定基準についての事情の変更が認められる場合には、その改正又は廃止を決定権者に対して義務付けるものであること。
○地域別最低賃金の逐条考察
1.第9条(地域別最低賃金の原則)
① (第9条第1項関係)
地域別最低賃金は、あまねく全国各地域について決定されなければならないものとしたこと。
② (第9条第2項関係)
地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならないものとしたこと。
③ (第9条第3項関係)
労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとしたこと。
参考:生活保護法
第一条(この法律の目的)この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
第三条 (最低生活)この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準
を維持することができるものでなければならない。
参考:日本国憲法
- 〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕
-
第25条すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
※最低賃金の水準が生活保護の水準より低い場合には、最低生計費の保障という観点から問題であるとともに、就労に対するインセンティブの低下及びモラルハザードの観点からも問題がある。
2.第10条(地域別最低賃金の決定)
厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、地域別最低賃金の決定を義務付ていること。
また、都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議
会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金
の決定をしなければならないとされていること。
3.第11条、第12条(最低賃金審議会)
平成26年度中央最低賃金審議会答申「地域別最低賃金額改定の目安について」
今日開催された第42回中央最低賃金審議会で、今年度の地域別最低賃金額改定の目安について答申が取りまとめられましたので、公表いたします。
【答申のポイント】
(ランク(注1)ごとの目安)
各都道府県の目安については、下記(1)の金額とする。
(1) ランクごとの引上げ額は、Aランク19円、Bランク15円、Cランク14円、Dランク13円(昨年はAランク19円、Bランク12円、C・Dランク10円)。
(2) 生活保護水準(注2)と最低賃金との乖離額については、参考2のとおりであり、今後の最低賃金と生活保護水準の比較についても、引き続き比較時点における最新のデータに基づいて行うことが適当。
注1.都道府県の経済実態に応じ、全都道府県をABCDの4ランクに分けて、引上げ額の目安を提示している。現在、Aランクで5都府県、Bランクで11府県、Cランクで14道県、Dランクで17県となっている。参考1参照
注2.平成20年度の答申別紙1の公益委員見解に基づき、対象地域の生活扶助基準(1類費+2類費+期末一時扶助費)の人口加重平均に住宅扶助の実績値を加えた額
(参考1)各都道府県に適用される目安のランク
ランク |
都 道 府 県 |
A |
千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 |
B |
茨城、栃木、埼玉、富山、長野、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、広島 |
C |
北海道、宮城、群馬、新潟、石川、福井、山梨、岐阜、奈良、和歌山、岡山、山口、香川、福岡 |
D |
青森、岩手、秋田、山形、福島、鳥取、島根、徳島、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、 宮崎、鹿児島、沖縄 |
この答申は、今年の7月1日に開催された第41回中央最低賃金審議会で、厚生労働大臣から今年度の目安についての諮問を受け、同日に「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会」を設置し、5回にわたる審議を重ねて取りまとめた「目安に関する公益委員見解」等を、地方最低賃金審議会にお示しするものです。
今後は、各地方最低賃金審議会で、この答申を参考にしつつ、地域における賃金実態調査や参考人の意見等も踏まえた調査審議の上、答申を行い、 各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定 することとなります。
なお、 今年度の目安が示した引上げ額の全国加重平均は16円(昨年度は14円) となり、目安額どおりに最低賃金が決定されれば、 生活保護水準と最低賃金との乖離額は全都道府県で解消 されます。
(参考2)最低賃金額が生活保護水準を下回っている地域の乖離額(C欄)
都道府県 |
平成24年度データ に基づく乖離額 (A) |
平成25年度地域別 最低賃金引上げ額 (B) |
残された乖離額 (C) ( =A-B) |
北海道 |
26円 |
15円 |
11円 |
宮城 |
12円 |
11円 |
1円 |
東京 |
20円 |
19円 |
1円 |
兵庫 |
13円 |
12円 |
1円 |
広島 |
18円 |
14円 |
4円 |
1 平成 26 年度地域別最低賃金額改定の目安については、その金額に関し意見の一致をみるに至らなかった。
2 地方最低賃金審議会における審議に資するため、上記目安に関する公益委員見解 (別紙1)及び中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告(別紙2)を地方最低 賃金審議会に提示するものとする。
3 地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることとし、同審議会に おいて、別紙1の2に示されている公益委員の見解を十分参酌され、自主性を発揮され ることを強く期待するものである。
4 政府において「経済財政運営と改革の基本方針 、 2014」(平成 26 年6月 24 日閣議決定)及び「『日本再興戦略』改訂 2014」(同日閣議決定)に掲げられた好循環を生み出す経 済運営のためにも、中小企業・小規模事業者の生産性向上をはじめとする中小企業・小 規模事業者に対する支援等に引き続き取り組むことを強く要望する。
5 行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金額改定によ って当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注 時における特段の配慮を要望する。
参考:東京都最低賃金審議会答申(平成26年8月6日)
東京地方最低賃金審議会は、東京労働局長に対し、東京都最低賃金を19円引上げて、時間額888円に改正するのが適当であるとの答申を行った。
1 東京都最低賃金(地域別最低賃金)の改正については、本年7月2日、東京労働局長(西岸 正人)から東京地方最低賃金審議会(会長 笹島 芳雄)に対し諮問を行った。同審議会は審議の結果、8月5日、現行の最低賃金の時間額869円を19円引上げ(引上率2.19%)て、888円に改正することが適当である旨の答申を行った。これを受けて東京労働局長は、答申内容の公示等所要の手続きを経て、本年度の東京都最低賃金の改正を決定する予定である。
2 今回の答申は、平成26年7月30日に中央最低賃金審議会から示された目安答申を参考にしつつ、諸般の事情を総合的に勘案して慎重に審議を行い、答申として取りまとめたられたものである。
3 東京都最低賃金は、都内で労働者を使用するすべての事業場及び同事業場で働くすべての労働者に適用され、同最低賃金額以上の賃金を支払わない使用者は最低賃金法第4条違反として罰則の対象となる。
4 最低賃金の引上げで影響を受ける中小企業を支援する事業として、さまざまな経営・労務管理に関する課題に対してワン・ストップで無料相談に応じる「東京都最低賃金総合相談支援センター」(電話03-5678-6488)を設けている。
3.第13条(派遣労働者に対する地域別最低賃金の適用)
その派遣先の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において
定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。
4.第14条(地域別最低賃金の公示及び発効)
都道府県労働局長は、地域別最低賃金に関する決定をしたときは、厚生労働省令で定めると
ころにより、決定した事項を公示しなければならないこと。
また、改定した最低賃金額の効力発生日を明示し、その日から効力が発生するものとされて
います。
以上で賃金に関する考察(最賃法9条~14条)を終了します。