過労死、過労自殺の問題に関する考察 2

2015年09月07日 10:32

○近年の自殺者数の年次推移(再掲):平成27年8月25日 内閣府自殺対策推進室作成(警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等)https://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/pdf/tsukibetsu_zanteichi.pdf

平成27年の自殺者数(単位人)

    1月  2月  3月  4月   5月   6月   7月    合計 

合計  2,041  1,760  2,284  2,079  2,218  1,992  2,031   14,405 △452

H26年 2,079  1,878  2,317  2,229  2,262  2,068  2,024  14,857

男性  1,426  1,225  1,605  1,468  1,574  1,407  1,345   10,050△203 

H26年 1,480  1,332  1,572  1,503  1,570  1,392  1,404   10,253

女性  615   535   679   611   644   585   686   4,355△269

H26年 599    546   745   726   692   676   620  4,604

※累計数の合計に差違があるが理由不明

○自殺理由の分析

 前回に、自殺者数と経済状況に相関関係があることはすでに述べました。すなわち、経済状況が良好な年(景気が良い時)には自殺者数が比較的少なく、他方経済状況が悪化した年(景気が悪い年)に自殺者数が増加する傾向があります。今回は、公開されている資料から自殺の理由を考察します。

1.自殺者数の各国比較:出典 グローバルノート(https://www.globalnote.jp/post-10209.html)

2013年  単位/10万人あたりの人数 自殺率

  国     自殺者数(人)

リトアニア   29.5

韓国      29.1

ロシア     29.0

ラトビア    20.4

ハンガリー   19.4

日本      19.1

スロベニア   18.6

ベルギー    17.4

エストニア   16.6

フランス    15.8

ポーランド   15.3

チェコ     14.2

オーストリア  13.6

アメリカ    12.5

2.日本に於ける自殺理由の分析:出典 平成22年厚生労働省作成資料https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/dl/torimatome_2.pdf

無職男性の自殺死亡率は極めて高く、35歳から54歳までの年齢階 級では、有職者の約5倍となっており、無職者対策、とりわけ支援につ ながるためのゲートキーパー機能(自殺のサインに気付き、見守りや助 言を行い、相談支援につなぐ役割)の充実が必要である。

配偶者と離別した無職者の自殺死亡率は多くの年齢階級で最も高く、 35歳から54歳までの年齢階級では、離別した男性無職者の自殺死亡 率は有配偶の男性有職者の約20倍となっており、地域から孤立してい る方へのアプローチ手段の充実が必要である。

生活保護受給者の自殺死亡率は全体の自殺死亡率よりも高く(※)、被 保護者数に占める精神疾患及び精神障害を有する方の割合は全人口に 占める精神疾患患者の割合よりも高い。生活保護受給者に対する精神面 での支援体制の強化が必要であることが分かる。

職業等の属性によって、自殺に至る経路や要因は異なる。例えば「被 雇用者・勤め人」は、配置転換や転職等による「職場環境の変化」がき っかけとなって自殺に追い込まれるケースが多い。失業者は、「失業 → 生活苦 → 多重債務 → うつ → 自殺」といった経路をたどるケ ースが多い。各地域で対策に取り組む際は、そうした実態を踏まえて必 要な連携を図っていく必要がある。

3.自殺の原因別にみる分析(平成21年) 単位(人)出典:警察庁自殺の概要

自殺者数 原因特定件数 健康問題(うつ  統合失調症 アルコール 薬物)   

32,845   24,434   15,867  6,949  1,394     336    63
 
     経済問題  家庭問題  勤務先  男女問題  学校問題  その他
    
     8,377    4,117    2,528    1,121     364   1,613
 
4.過労自殺のメカニズム
 過労死が社会問題化して久しいですが、過労が何故自殺に繋がるかについては、医学的に明確な知見が乏しく、社会的にあまり認知されていない現状があります。もっとも、月間の時間外労働時間と健康障害の相関関係については、おおまかな数値が厚生労働省から次のように示されています。
 月 100時間超 または、2~6ヶ月平均の時間外労働時間が80時間超の場合、健康障害のリスクが高まるとされています。(月の時間外労働時間=一週あたりの40時間超の労働時間の合計、(≒「対象月の実労働時間数ーその月の暦日数÷7×40」))※労働基準法第37条の法定時間外労働時間とは異なる定義です。
 長時間労働により、ストレスが増加することはもちろんですが、最も問題となる点は睡眠時間の減少です。睡眠時間が短くなることにより「うつ病」を発症することが医学的に知られています。そして、認知されただけでも自殺原因の約28.4%(平成21年うつ病による自殺者数(6,949人)÷自殺率理由判明数(24,434人)×100)がうつ病であるとの統計があります。また、仕事等によるストレスにより「アルコール依存症」に罹患することがありますが、過度のアルコール摂取は睡眠障害を引き起こすことが知られています。
※参考:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-006.html
 アルコール依存症とうつ病の合併は頻度が高く、アルコール依存症にうつ症状が見られる場合やうつ病が先で後から依存症になる場合などいくつかのパターンに分かれます。アルコールと自殺も強い関係があり、自殺した人のうち1/3の割合で直前の飲酒が認められます。
 
このように、長時間労働によるストレス⇒アルコール依存や睡眠障害⇒うつ病に罹患⇒自殺 という流れが見られることが高い確からしさで推定されます。
 
 長時間労働の弊害は、長時間労働により健康障害のリスクが認定されているほか、自殺にまで本人を追い込んでしまう恐れが指摘できます。個人的には、「命がけで取り組む仕事はない」もしくは「健康を害してまで行うべき仕事は、通常無い」という価値観を持っています。余談ですが、陸上自衛隊のレンジャー訓練などは、自分にはとても耐えられないと思っています。
 
○まとめ
 もとより、精神的な強靭さや肉体的な強靭さは個人差があります。組織として、従業員等にそれらの個人的な強靭さを求めることはもちろん可能かと思いますが、中にはそれらの心身の基準に達しない従業員も存在することも当然であり、それらの者の地位や人格まで否定して排除してしまうことは、違法・不法に当たる恐れが十分にあります。
 組織構築や制度設計に当たっては、様々な個別の要素(知識、性格、心身の強靭さ、将来性等々)をもった組織の所属員に、総合的に合致する柔軟さを加味させることが非常に重要であると言えます。そうでないと、金太郎飴のように、同質の人間ばかり集める必要がありますし、仮に同質の人間のみを集めることが出来ても、それゆえに生じる問題によってかえって円滑な組織運営を阻害することも推測されます。
 労働契約法第4条により、使用者には使用する労働者に対して「安全配慮義務」が存在することが明確にされています。従って、労働安全衛生法等に具体的に規定されていない項目であっても、労働者に健康障害などが生じた場合には、民事的な債務不履行責任不法行為責任を問われる可能性が十分に存在します。
 
 昨今は、人材という呼び方をしなくなりましたが、使用する労働者が重要な経営資源であることは、昔も今もかわらないと考えています。
 
以上で「過労死、過労自殺の問題に関する考察」を終了します。