過労死、過労自殺の問題に関する考察 1

2015年07月11日 15:49

統計的な実態

厚生労働省の統計

自殺者の年次の推移: 自殺者数には3回の大きなピー クがあります。戦後の1947年より自殺者数の急速な増加が始まり、第1回目のピークの1958年には 男性13,895人、女性9,746人に達しました。その後、徐々に減少し、1967年に男性7,940人、女性6,181 人と最低値を示した後、第2回目のピークである1986年まで増加が続きます。第2回目のピークでは、 女性の増加傾向はそれほど著明でなく、男性が1983年には17,116人と目立っていました。1990年に は男性13,102人と第2回ピーク時の77%まで減少しました。以後増加に転じましたが、1998年から急 激に増加し、1999年には男性23,512人、女性9,536人と過去最大の自殺者数となりました。2000年に は男性22,727人、女性9,230人となり、現在は第3回目のピークを迎えていると考えられます。

自殺と景気動向 : 第1回目の自殺者のピークは1957年のなべ底不況と重なり、岩戸景気(1959-61)の到来とともに自 殺者数は減少しています。更に所得倍増計画(1960)の発表に続くオリンピック景気(1963-64)とい ざなぎ景気(1965-70)という相次ぐ好景気の時期では、 男性の自殺者数は1万人以下となり、第1回ピーク時の 約3分の2まで減少しています。1973年のオイルショッ ク以降10年を超える不況が続き、第2回目のピークは この不況の後半に発生しています。1987年から1991年 のバブル景気の時代は自殺者数は1983年の第2回目ピ ーク時の約4分の3に減少しています。更にバブル崩壊 不況(1991-93)から今日に至るまで、自殺者数は増加 傾向を示しています。このようなことから、自殺者の 増減は景気と密接に関連していると思われます。

自殺死亡の年齢層:  第 1 回目の自殺者のピークまで日本における自殺は青年期型で、総数の40~50%強が20歳代に集 中し、30%前後が壮年期から初老期に相当する50~60歳代に広く分布していました。しかし、それ 以後は状況が変化し、男性に限れば青年期の自殺は次第に高齢側に裾野を広げていき、40歳代後半に 自殺者数が多くなります。第1回目のピークにおいて自殺の中心となった年齢層は21-23歳だったので すが、第2回目のピークにおいて自殺の中心となった年齢層は51-53歳でした。1998年からの第3回目 のピークでは、1923-70年生まれの全ての世代で自殺率が増加傾向を示し、特に50歳代で著明でした。※近時の自殺者数は、年齢が高いほど多く、若年者ほど少なくなっている。

長時間労働と自殺 : 長時間労働に関して「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針2)」には、「極度の長 時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最少限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労 働は、心身の極度の疲弊、消耗をきたし、うつ病等の原因となる場合がある」と記載されているのみで、具体的な指標となる労働時間については記載されていません。過労死の認定基準3)では、「発症 前1ヶ月間に概ね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たり概ね80時間を 超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされています。 すなわち、恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合は、「疲労の蓄積」が生じ、 これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患の発症に影響を 及ぼすとされています。現在、事業者は月100時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が 認められる労働者に対して、医師による面接指導を行わなければならず、また1ヶ月当たり80時間を超える時間外・休日労働を行った労働者に対しても事業者は医師による面接指導等を実施するよう努 めることが求められています。前述した調査で月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以 内の労働者に比較して、原因となる出来事から精神疾患発病までの期間が短く、発病から自死に至る までの期間も短いことが明らかになりました。 職場における過労死・自殺の予防に関する研究(平成15年度)で231名の産業医調査(企業におけ る「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の効果に関する研究4))で、栗原は、172事業 場で過重労働を行っており、過重労働者を医療機関へ紹介した経験のある産業医は66名(37.5%)で、 そのうち過半数39名(59.1%)が抑うつ状態で、以下、心身症23名、不整脈18名という順であると 報告しています。この結果からも過重労働と「抑うつ」、「心身症」とは密接な関連があることは明ら かであると思われます。 また長時間労働と睡眠時間との関係については、次の報告が参考になるものと考えられます。総務 省の「平成13年社会生活基本調査報告5)」及びNHKの「2005年国民生活時間調査報告書6)」によれ ば、標準的な労働者の1日の生活時間では、睡眠時間は7.3時間とされています。そして、過 労死の新認定基準(平成13年12月12日付け基発第1063号通達)3)の根拠となった「脳・心臓疾患の 認定基準に関する専門検討会報告書」は、当時のこの調査結果を用いて、睡眠時間と時間外労働との 関係について次のように算出しています。すなわち、1日の労働時間が8時間を超えて、時間外労働 を2時間程度、4時間程度及び5時間程度行っているとすると、これが1ヶ月継続した状態では、それ ぞれ睡眠時間は平均して7.5時間、6.0時間及び5.0時間となります。この場合、1ヶ月間の時間外労働 時間数は、1日の労働時間に平均勤務日数(休日労働日は含まない。)21.7日を乗じて、概ね45時間、 80時間及び100時間となります

○平成25年の時間外労働の実態(平成25年度労働時間等総合実態調査)

  従業員数(人)   月60時間超 80時間超 100時間超

  1~9        2.7%   1.2%   0.5%        

  10~30        10.9%   4.1%   1.4%   

  31~100       16.7%  8.3%   3.9%

  101~300       24.7%  10.2%   4.5%

  301~         43.9%   15.7%  6.8%

  全体         5.3%    2.2%  0.9%

 ※301人以上の規模が大きい事業所の80時間超の時間外労働が22.5%(15.7+6.8)となっており、潜在的に心神の疾患が発症する恐れが続いている実態があり、上記調査のように「月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以 内の労働者に比較して、原因となる出来事から精神疾患発病までの期間が短く、発病から自死に至る までの期間も短いことが明らか」となっている。

○生産性の向上と長時間労働の削減

 日本の労働生産性が必ずしも高くないことは、過去に記述しました。(パートタイム労働法第1条)

参考(再掲):国別の労働生産性 出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較」
 ◎購買力平均(PPP)換算労働生産性=PPPで評価されGDP÷就業者数
 労働生産性上位10カ国の推移
・1970 1位アメリカ、2位ルクセンブルグ、3位カナダ、4位ドイツ、5位オランダ・・・19位日本
・1980 1位ルクセンブルグ、2位ドイツ、3位アメリカ、4位オランダ、5位ベルギー・・・18位日本
・1990 1位ルクセンブルグ、2位ドイツ、3位アメリカ、4位ベルギー、5位イタリア・・・14位日本
・2000 1位ルクセンブルグ、2位アメリカ、3位ノルウェー、4位イタリア、5位ベルギー・・・20位日本
・2012 1位ルクセンブルグ、2位ノルウェー、3位アメリカ、4位アイルランド、5位ベルギー・・・21位日本
 
 生産高は、「生産高=時間当たりの生産性×労働時間」により表せると考えられます。そして、生産高=売上高で置き換えられると仮定すると、「時間当賃金=賃金総額÷総労働時間=生産高×労働分配率÷総労働時間」となり、他方で「生産高=時間当たりの生産性×総労働時間」ですから、時間当たりの生産性を向上させることで、総労働時間を削減することができます。
 
 
続きは、次回以降で記述します。