雇用保険とは何か? 7
逐条考察
第十条の三 (未支給の失業等給付)
失業等給付の支給を受けることができる者が死亡した場合において、その者に支給されるべ
き失業等給付でまだ支給されていないものがあるときは、その者の配偶者(婚姻の届出をし
ていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)、子、父母、孫、祖父
母又は兄弟姉妹であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの
は、自己の名で、その未支給の失業等給付の支給を請求することができる。
2 前項の規定による未支給の失業等給付の支給を受けるべき者の順位は、同項
に規定する順序による。
3 第一項の規定による未支給の失業等給付の支給を受けるべき同順位者が二人
以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものと
みなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
第十条の四 (返還命令等)
偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合には、政府
は、その者に対して、支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ず
ることができ、また、厚生労働大臣の定める基準により、当該偽りその他不正の
行為により支給を受けた失業等給付の額の二倍に相当する額以下の金額を納付す
ることを命ずることができる。
2 前項の場合において、事業主、職業紹介事業者等(職業安定法(昭和二十二年法
律第百四十一号)第四条第七項に規定する職業紹介事業者又は業として同条第四項に
規定する職業指導(職業に就こうとする者の適性、職業経験その他の実情に応じて行
うものに限る。)を行う者(公共職業安定所その他の職業安定機関を除く。)をいう。
以下同じ。)又は指定教育訓練実施者(第六十条の二第一項に規定する厚生労働大臣
が指定する教育訓練を行う者をいう。以下同じ。)が偽りの届出、報告又は証明をし
たためその失業等給付が支給されたものであるときは、政府は、その事業主、職業
紹介事業者等又は指定教育訓練実施者に対し、その失業等給付の支給を受けた者と
連帯して、前項の規定による失業等給付の返還又は納付を命ぜられた金額の納付を
することを命ずることができる。
3 徴収法第二十七条及び第四十一条第二項の規定は、前二項の規定により返還又
は納付を命ぜられた金額の納付を怠つた場合に準用する。
第十一条 (受給権の保護)
失業等給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができ
ない。
第十二条 (公課の禁止)
租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として課するこ
とができない。
則第十七条の二 (未支給失業等給付の請求手続)
法第十条の三第一項の規定による失業等給付の支給を請求しようとする者(以下「未支給給
付請求者」とい う。)は、死亡した受給資格者、高年齢受給資格者、特例受給資格
者、日雇受給資格者又は就職促進給付、教育訓練給付金若しくは雇用継続給付の支給を
受けることができる者(以下この節において「受給資格者等」という。)が死亡した日の
翌日から起算して六箇月以内に、未支給失業等給付請求書(様式第十号の四)に当該受給
資格者等の死亡の事実及び死亡の年月日を証明することができる書類、未支給給付請求者と死
亡した受給資格者等との続柄を証明することができる書類並びに未支給給付請求者が死亡した
受給資格者等と生計を同じくしていたことを証明することができる書類を添えて死亡者に係る
公共職業安定所の長に提出しなければならない。この場合において、当該失業等給付が次の各
号に該当するときは、当該各号に掲げる失業等給付の区分に応じ、当該各号に定める書類を添
えなければならない。
一 基本手当 死亡した受給資格者の雇用保険受給資格者証(様式第十一号。以下「受給資格者証」という。)
二 高年齢求職者給付金 死亡した高年齢受給資格者の雇用保険高年齢受給資格者証(様式第十一号の二。以下「高年齢受給資格者証」という。)
三 特例一時金 死亡した特例受給資格者の雇用保険特例受給資格者証(様式第十一号の三。以下「特例受給資格者証」という。)
四 日雇労働求職者給付金 死亡した日雇受給資格者の日雇労働被保険者手帳(様式第十一号の四。以下「被保険者手帳」という。)
五 教育訓練給付金 死亡した教育訓練給付金の支給を受けることができる者の被保険者証
六 就職促進給付 死亡した受給資格者等の受給資格者証、高年齢受給資格者証、特例受給資格者証又は被保険者手帳
2 前項後段の場合において、前項各号に定める書類を提出することができないことについて正当な理由があるときは、当該書類を添えないことができる。
3 未支給給付請求者は、未支給失業等給付請求書を提出するときは、死亡した受給資格者等が失業等給付の支給を受けることとした場合に行うべき届出又は書類の提出を行わなければならない。
4 未支給給付請求者は、この条の規定による請求(第四十七条第一項(第六十五条、第六十五条の五、第六十九条及び第七十七条において準用する場合を含む。)に該当する場合を除く。)を、代理人に行わせることができる。この場合において、代理人は、その資格を証明する書類に第一項及び前項に規定する書類を添えて第一項の公共職業安定所の長に提出しなければならない。
則第十七条の三 (未支給失業等給付の支給手続)
死亡者に係る公共職業安定所の長は、未支給給付請求者に対する失業等給付の支給を決定し
たときは、その日の翌日から起算して七日以内に当該失業等給付を支給するものとする。
則第十七条の四 (未支給失業等給付に関する事務の委嘱)
死亡者に係る公共職業安定所の長は、未支給給付請求者の申出によつて必要があると認めるときは、その者について行う失業等給付の支給に関する事務を他の公共職業安定所長に委嘱することができる。
2 前項の規定による委嘱が行われた場合は、当該委嘱に係る未支給給付請求者について行う失業等給付に関する事務は、第一条第五項第五号の規定にかかわらず、当該委嘱を受けた公共職業安定所長が行う。
3 前項の場合における前二条の規定の適用については、これらの規定中「死亡者に係る公共職業安定所」とあるのは、「委嘱を受けた公共職業安定所」とする。
則第十七条の五 (失業等給付の返還等)
法第十条の四第一項又は第二項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額を徴収する場合には、都道府県労働局労働保険特別会計歳入徴収官(次条において「歳入徴収官」という。)は、納期限を指定して納入の告知をしなければならない。
2 前項の規定による納入の告知を受けた者は、その指定された納期限までに、当該納入の告知に係る金額を日本銀行(本店、支店、代理店及び歳入代理店をいう。)又は都道府県労働局労働保険特別会計収入官吏(第十七条の七において「収入官吏」という。)に納入しなければならない。
則第十七条の六
歳入徴収官は、法第十条の四第三項において準用する労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号。以下「徴収法」という。)第二十七条第二項の規定により督促状を発するときは、同条第一項の規定により十四日以内の期限を指定しなければならない。
則第十七条の七
法第十条の四第三項において準用する徴収法第二十七条第三項の規定により滞納処分のため財産差押えをする収入官吏は、その身分を示す証明書(様式第十一号の五)を携帯し、関係者に提示しなければならない。
○未支給の失業等給付
参考資料(厚生労働省):URL https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000042483.pdf
1.未支給の失業等給付(例えば基本手当)とは、何か?
未支給の失業等給付とは、法第十条の三に規定されているとおり、「失業等給付の支給を受
けることができる者が死亡した場合において、その者に支給されるべき失業等給付でまだ支給
されていないもの」を言います。ところで、なぜ未支給の給付が起きるのかというと、例えば
前回の失業認定日から次回の失業認定日の間に受給権者が死亡すると、次の認定日に失業の認
定を受けることが出来ません。そして、失業認定日と次回の失業認定日の間は、4週間ありま
す。そのため、前回の失業認定日から、次回の失業認定日の間に受給資格者が死亡し、かつ、
基本手当等を受給することができる失業日がある場合には、本人が失業認定や失業等給付を受
けることができません。そこで、一定の遺族の中の一人が、本人に代わって本人がまだ受給し
ていない部分の失業等給付相当額を受けとることができます。
2.未支給の失業等給付を請求できる遺族
未支給の失業等給付を請求できる遺族は、死亡した受給権者と死亡当事に生計を同じくして
いた、配偶者(事実婚を含む)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹のうち、優先順位の高い
者が未支給保険給付の受給権者となり、自分の名前(自己の権利として)で請求することがで
きます。
ところで、事実婚とは、「同居している者(現行法では、死亡した者の異性に限られる。)
であって、当事者間に社会通念上夫婦としての共同生活と認められる事実関係が存在する」状
態であると通達されています。そして、この法第十条の三に規定された、「生計同一の遺族」
は民法の相続の規定とは、別の概念です。具体的には、「生計を同じくする」とは、「 生 計
の 全 部 又 は 一 部 を 共 同 計 算 す る こ と に よ っ て 日 常 生 活 を 営 む グ ル ー プ
の 構 成 員 で あ っ た と いう こ と で あ る 。 し た が っ て 、 生 計 を 維 持 さ れ て
い た こ と を 要 せ ず 、 ま た 、 必 ず し も 同 居 し て い た こ と を 要 し な い 。 生
計 を 維 持 さ せ て い た 場 合 に は 生 計 を 同 じ く し て い た も の と 推 定 し て 差
し 支 え な い 。(厚生労働省業務取扱要領より引用)」とされています。
※具体的には、大学の近くのアパートに暮らして受給資格者の父と別居していた子が、アルバイト
及び父からの仕送りで生活していた場合の子などが別居の生計維持に相当する、すなわち生計を同
じくしていたと考えられます。また別のケースとして、死亡した夫と同居していたパート勤務の妻
は、同様に生計を同じくしていたと考えられます。
また、同順位者(子や兄弟など)が複数いる場合には、その内の一人がした未支給給付の請
求は、全員のために全額を行ったものとみなすとしています。
3. 未支給失業等給付の請求手続の詳細
未支給失業等給付の手続の詳細は、則第十七条の二及び同第十七条の三、第十七条の四に詳細に
規定されています。ここでは、その詳細は割愛します。
参考:厚生労働省業務取扱要領(抜粋)
URL https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000044461.pdf
○不正受給
不正受給は、雇用保険の管掌者である国から、保険給付金等を騙し取る行為です。場合に
より、刑法第246条の詐欺罪の構成要件を満たすことも考えられます。そして、既遂の場合
には受け取った給付の返還命令を政府の名で(実際には、「都道府県労働局労働保険特別会
計歳入徴収官」が行う。)行うことが出来ます。そして、最大で不正受給額の二倍の額以下
の金額以下の額の金員を納付すべきことを命ずることができます。
また、事業主、職業紹介事業者等又は指定教育訓練実施者が偽りの届出、報告又は証明を
したために不正受給が行われた場合には、そのその事業主、職業紹介事業者等又は指定教育
訓練実施者に対し、その失業等給付の支給を受けた者と連帯して、不正受給をした金額およ
び納付を命じた金額を合わせて納付すべきことを命ずることができるとされています。
徴収法の規定の準用により、歳入徴収官は督促、差し押さえ(国税にならって)の執行を
行うことができます。
※これらの不正受給額の二倍以下の賦課金の納付命令は、いわゆる行政罰に相当すると考え
られます。
参考:労働保険の保険料の徴収等に関する法律
○受給権の保護
雇用保険の受給権は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができないとされてい
ます。
○課税の禁止
雇用保険の給付は、非課税とされています。蛇足ですが、公的年金給付(老齢厚生(共済)
年金等)は、一定額を超えた場合、雑所得に該当し課税される場合があります。
以上で、雇用保険法第十条の三~第十二条を終了します。