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労働契約法の復習 第2条

2015年04月08日 09:39

第2条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

2 この法律において、「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

○労働者及び使用者の定義

 第2条では、労働者及び使用者をそれぞれ定義しています。

ところで、労働基準法に同様の定義がありますので、比較してみます。

労働基準法 

第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事業所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

第10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

ここで、労働者及び使用者の労働契約法の定義と労働基準法の定義を比較してみます。

ア 労働者

  労働契約法の労働者の定義は、「労働基準法第9条の「労働者」と同様の考え方」と解釈されています。これは、基発0810第2号で、再確認されています。ただし、労働契約法の「労働者」には、これから労働契約を締結する予定の労働者が含まれることに留意が必要です。他方、労働基準法の労働者は、現に労働契約されている労働者及び労働契約を締結していた労働者に限られます。

 参考までに、労働組合法の労働者は、第3条に定義が有ります。

労働組合法第3条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。

 とされています。 労働組合法の労働者は、専ら賃金等により生活を営む者のことであり、この場合は失業者を含みます。

 ところで、労働者の呼称は様々であり、正社員、契約社員、嘱託社員、パート社員、アルバイト、準社員、派遣社員等々です。いずれにしても、民法の定義に戻り、「労務に従事することを約し、その対価としての報酬を受け取る者」が労働者といえます。

※参考までに言えば、株式会社の社員とはその会社の株主のことです。同様に、合名会社の社員とは役員のことを言います。そのため、社会保険労務士法人の社員といえば、その社労士法人の無限責任等の役員を指すのはご存知の通りです。また、労働者派遣法では、派遣社員とは言わずに「派遣労働者」と言っていると思います。

 他方で、会社の役員は原則として労働者から除外されますし、事業その他の仕事の完成を自ら約して労務に従事する者(自営の植木屋さん等の請負事業者)は、労働契約法における労働者から除外されます。※もちろん請け負った植木屋さんに雇われる者は労働者です。

イ 使用者

 労働契約法における使用者の定義は、「労働者と相対する労働契約の締結当事者であり、その使用する労働者に対して賃金を支払う者」とされています。つまり、労働契約法における「使用者」とは、株式会社等の法人であれば会社そのものであり、個人事業であれば個人事業主のみが使用者に該当します。この場合、取締役人事部長や上司の課長、所長、工場長等々すべて使用者には該当しません

 他方、労働基準法における「使用者」とは、「労働基準法各条の義務についての履行の責任者」を言いますので、労働契約法とは異なり、取締役人事部長、上司の課長・係長・主任、所長、工場長等、その権限を有する者がすべて使用者に該当します。この点が、労働契約法の使用者と根本的に異なります。

 参考までに、労働組合法における使用者の概念ですが、労働契約法の使用者のそれとほぼ同一であると言えるかと思います。

○労働者と使用者の定義に含まれる問題

 労働者、使用者の判断の実情(裁判例)

 通常、労働者或いは使用者とは何か?という点がそれ程問題になるとは想像しにくいかと思います。会社に勤めている人が労働者ですし、会社(法人)が使用者となるからです。ところが、労働者に該当するか否か、或いは誰がその人の使用者なのかが裁判になっています。そこで、裁判例を簡単に紹介します。

ア 労働者に該当するか否かが争点

(ア) 昭和41年(ヨ)2399 東京地裁判決

事件の概要は、テレビ局の東京12チャンネルがタイトルプロいグラマー、デザイナーを下請け会社を介して使用し、委託の打ち切りを伝えたところ、働いていた者が雇用の打ち切りであるから「解雇権の濫用」に該当し、解雇無効を主張したもの

判決は、申請人(働いていた者)と被申請人(東京12チャンネル)の契約は、請負的性格と共に、雇傭的性格(労働契約)、従って従属労働としての性格をも含んだ一種の混合契約とみうるものであり、その雇傭的性格の範囲内において、なお労働法上の保護をうけうる・・・というものであった

この判決の判断基準は、出退勤管理等はないものの実質的に出社を義務付けられていたこと、早番遅番などテレビ局の事情に合わせた勤務を要求されていたこと、定期健康診断や源泉徴収等他の社員と同一の取扱いをされていたこと、テレビ局から身分証を発行されていたこと・・・等、労働者性を認める点が数多くあったことが挙げられます。このように、指揮命令の存在や就業時間管理の存在は、労働者性を強く認める要因です。

(イ) 平成17年(ワ)14552 東京地裁判決

事件の概要は、朝日新聞社で翻訳等を行っていた人たちが、契約打ち切りを通告され、雇用契約に該当するため労働者としての地位確認と賃金の支払いを求めたもの

判決は、新聞社と原告との間に労働基準法の適用をうける労働契約関係にあったとは認められないとして、請求を棄却した

判決の判断基準は、入社の手続きがない、朝日新聞社の社員が原告労働者が社員として採用されることは無い旨伝えていた、就業管理が厳格にされていなかった、社会保険等の加入がなかったこと、源泉徴収がされていなかったこと、原告は他の依頼先の仕事も自由に行っていたこと、就業規則の適用がなかったこと、報酬が原稿料の名目で労働の対価とは認められないこと(勤務日数等とは無関係)、原告が自由に勤務日数や時間を設定できたこと等です。この様な事実から労働者性が否定されました。

イ 使用者に該当するか否かが争点

(ア) 平成17年(ワ)9048 東京地裁判決

事件の概要は、同一の営業場所で二つの自動車運送取り扱い業(貨物運送)を営み、代表取締役も同一だが、取引先により従業員がどちらの会社に所属するかを定め、一方に所属する運転手が過労のため運転中の事故により死亡した。そのため、遺族が両社及び代表者を相手取り、安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求めたもの

判決は、所属していた会社及び代表者のみに損害賠償責任を認め、他方の法人等宛の請求を棄却した。

判決の判断基準は、二つの会社は同一のグループを形成して営業を行っていたことは認められる。しかし、両者は仕事の受注及び仕事を行う運転手が区別されていた。運転手の所属変更があったこと、会社の営業場所が同一であること、会社の代表者が同一等の事実があっても、二つの会社が一の法人であるとは認められない。従って、所属していた一方の会社とその代表者及び同社の管理責任者のみに賠償責任があるとしたものです。

 

このように、労働者性の有無の問題や誰が使用者かという問題がママ生じます。特に、派遣労働、建設などの数次の請負関係がある職場、JV(ジョイントベンチャー)の場合の法律ごとの労働者性の問題、請負契約か或いは雇用関係に該当かが曖昧な契約の場合、契約打ち切りの際の雇用関係の存在等々、様々な場面で労使すなわち契約当事者間の認識の食い違いが生じます。

それでは、この続きは次回に・・・

第2条

 

 

 

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労働契約法の復習 第1条

2015年04月07日 15:46

労働契約法第1条 目的

第1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、または変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。

○民法を復習する

①契約とは何か?

 契約とは、契約当事者の意思の合致とされています。つまり、AがBに、大根1本を120円で売る旨をもちかけ、Bがこれに同意すれば契約が成立します。この場合の売り買いの意思の合致が契約そのものです。

②契約の成立の要件

 契約は、申し込みと承諾により成立します。また、多くの場合契約の効力発生の要件には、書面その他が必要とされていませんので契約当事者の意思表示のみで契約が成立し得るわけです。

  Aが君を時給900円で雇うよ・・・とBに持ちかけ

  Bが分かりました、その条件で働きます・・・と回答(意思表示)すれば、労働契約が成立します

 実は、この辺の法律上のメカニズムは労働基準法や労働契約法には規定がなく、民法にのみ規定があります。ただし、民法に規定があるのは、贈与契約他の典型契約のみであり、契約とは○○である・・・という条文はありません。また、労働契約法には、労使の意思の合致により労働契約が成立する(同法第6条)と規定されています。

 民法では、第623条以下に雇用の規定があり、労働契約法においては、この第1条で「労働契約」の文言が条文にでてきます。

ところで、民法第623条には、「雇用は、当事者の一方(労働者)が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方(使用者)がこれ(労務の提供)に対してその報酬を与えることを約すことによって、その効力を生ずる。」と定義されています。 ※カッコ内は私の加筆です。つまり諾成双務有償契約です。

○労働契約法の第1条を詳しくみる

労働契約法第1条においては、上記の民法第623条の規定に基づき、

ア 労働契約(雇用契約)は、使用者及び労働者が自主的な交渉を行い締結すること

イ 労働契約は、使用者及び労働者の合意により成立し又は変更されること ※他の契約と同様に使用者が一方的に契約内容を変更できない・・・

ウ 労働契約法は、労働契約に関する基本的事項を定めている。これにより、労働条件の決定変更が円滑に行われるようにするため・・・※労働基準法、民法、均等法、パートタイム労働法等々も同様

エ 労働契約法は、労働条件の決定及び変更が円滑に行われるようにすることが目的

オ 同じく、労働契約法は「個別の労働契約の安定に資する」ことが目的

と、その目的を規定しています。もちろん、労働基準法をはじめその他の法律により詳細な労働契約の規制を行っています。

○個別的労働関係と集団的労働関係

 言わずもがなですが、憲法第28条では、労働者(条文上は「勤労者」)の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しています。もちろん労働組合法によりこれが具現化され、労働条件変更の団体交渉が行われているわけですが、この場合は「労働協約」という形式によって加入している組合員全体と使用者(または使用者の団体)という当事者間の契約関係となります。

 ところで、組合員の個別労働条件と労働協約(団体契約条件)の優劣をみると、一般に労働協約の効力が優っているとされていることが特筆すべきかと思います。

○一般的な労働契約成立の経緯

 それでは、一般的には労働契約はどのようにして成立しているのでしょうか?

ア 使用者の労働者募集

  会社や事業所は、使用者として労働者を採用予定である旨広告します。ハローワークや民間の求人広告会社、新聞社やフリーペパー、自社のホームページ等で公募します。

イ 就業希望労働者の応募

  上記の使用者の公募に対し、労働者が応募します。さて、これでめでたく労働契約の成立・・・という訳ではありません。上記アの使用者の労働者公募は、使用者側の労働契約の申し込みにはあたらず、「就労希望の労働者の労働契約申し込みの勧誘」と解されています。従って、一般に労働者の応募によりただちに労働契約が成立する訳ではありません。その後、使用者側が独断で個々の応募者の労働契約申し込みに対する承諾の可否を判断し、それぞれの応募者に「採用(不採用)通知」の名称で意思表示を行います。

 このあたりの手続きの慣習のあり方が、使用者と労働者の力関係の不平等の一因かもしれません。前述の様に、「労使の自主的な交渉」とは乖離しています。もちろん「ヘッドハンティング」などの一部の例外はありますが・・・・

それでは、続きはまた次回に・・・

第1条

 

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初ブログ

2015年04月07日 06:56

本日よりブログを始めました。

まずは、労働契約法の復習をしてゆきます。

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それでは、よろしくお願いいまします。

 

 

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