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パートタイム労働法第2条

2015年05月22日 14:30

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

第2条(定義)

 この法律において「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者(当該事業所に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業所に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者)の一週間の所定労働時間に比し短い労働者をいう。

則第2条

 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「法」という。)第二条の厚生労働省令で定める場合は、同一の事業所に雇用される通常の労働者の従事する業務が二以上あり、かつ、当該事業所に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する労働者の数が当該通常の労働者の数に比し著しく多い業務(当該業務に従事する通常の労働者の一週間の所定労働時間が他の業務に従事する通常の労働者の一週間の所定労働時間のいずれよりも長い場合に係る業務を除く。)に当該事業所に雇用される労働者が従事する場合とする。


通達による確認 

定義(法第2条関係)

(1) 法第2条は、法の対象となる短時間労働者の定義を定めたものであること。
(2) 短時間労働者であるか否かの判定は、(3)から(7)を踏まえ行うものであること。その際、パートタイマー、アルバイト、契約社員など名称の如何は問わないものであること。したがって、名称が「パートタイマー」であっても、当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の所定労働時間である場合には、法の対象となる短時間労働者には該当しないものであること。しかしながら、短時間労働者については法に基づく雇用管理の改善等に関する措置等が講じられる一方、このような者については法の適用対象とならないために雇用管理の改善等に関する措置等が講じられないというのは均衡を失しており、現実にそのような均衡を失した雇用管理を行うことは事業所における労働者の納得を得がたいものと考えられることから、このような者についても法の趣旨が考慮されるべきであることについて、指針にも定めていることに留意すること(第3の11(3)ハ参照)。
 なお、派遣労働者については、派遣先において法が適用されることはないものの、法とは別途、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)により、就業に関する条件の整備を図っているものであること。
(3) 法第2条の「通常の労働者」とは、社会通念に従い、比較の時点で当該事業所において「通常」と判断される労働者をいうこと。当該「通常」の概念については、就業形態が多様化している中で、いわゆる「正規型」の労働者が事業所や特定の業務には存在しない場合も出てきており、ケースに応じて個別に判断をすべきものである。具体的には、「通常の労働者」とは、その業務に従事する者の中にいわゆる正規型の労働者がいる場合は、当該正規型の労働者であるが、当該業務に従事する者の中にいわゆる正規型の労働者がいない場合については、当該業務に基幹的に従事するフルタイム労働者(以下「フルタイムの基幹的労働者」という。)が法の趣旨に鑑みれば通常と考えられることから、この者が「通常の労働者」となる。また、法が業務の種類ごとに短時間労働者を定義していることから、「通常」の判断についても業務の種類ごとに行うものであること(「業務の種類」については後出(6)を参照。)。この場合において、いわゆる正規型の労働者とは、社会通念に従い、当該労働者の雇用形態、賃金体系等(例えば、労働契約の期間の定めがなく、長期雇用を前提とした待遇を受けるものであるか、賃金の主たる部分の支給形態、賞与、退職金、定期的な昇給又は昇格の有無)を総合的に勘案して判断するものであること。また、フルタイムの基幹的労働者は、当該業務に恒常的に従事する1週間の所定労働時間が最長の、正規型の労働者でない者を指し、一時的な業務のために臨時的に採用されているような者は含まないものであること。また、この者が、当該事業所において異なる業務に従事する正規型の労働者の最長の所定労働時間と比較してその所定労働時間が短い場合には、そのような者は「通常の労働者」にはならないものであること。
(4) 「所定労働時間が短い」とは、わずかでも短ければ該当するものであり、例えば通常の労働者の所定労働時間と比べて1割以上短くなければならないといった基準があるものではないこと。
(5) 短時間労働者であるか否かの判定は、具体的には以下に従い行うこと。
イ  同一の事業所における業務の種類が一の場合
 当該事業所における1週間の所定労働時間が最長である通常の労働者と比較し、1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となること(第2条括弧書以外の部分。図の1-(1)及び1-(2))。
 なお、当該業務にいわゆる正規型の労働者がいない場合は、フルタイムの基幹的労働者との比較となること(図の1-(3))。
ロ  同一の事業所における業務の種類が二以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいない場合当該事業所における1週間の所定労働時間が最長である通常の労働者と比較し、1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となること(第2条括弧書以外の部分。図2-(1)のB業務)。
ハ  同一の事業所における業務の種類が二以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合
(イ) 原則として、同種の業務に従事する1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者と比較して1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となること(第2条括弧書。図の2-(2))。
 なお、フルタイムの基幹的労働者が通常の労働者である業務においては、必然的に、その者より1週間の所定労働時間が短い者が短時間労働者となること(図の2-(3))。
(ロ) 同種の業務に従事する通常の労働者以外の者が当該業務に従事する通常の労働者に比べて著しく多い場合(当該業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間が他の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間のいずれよりも長い場合を除く。)は、当該事業所における1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者と比較して1週間の所定労働時間が短い当該業務に従事する者が短時間労働者となること(第2条括弧書中厚生労働省令で定める場合(則第1条)。図の2-(4)のB業務)。これは、たまたま同種の業務に従事する通常の労働者がごく少数いるために、そのような事情がなければ一般には短時間労働者に該当するような者までもが法の対象外となることを避ける趣旨であるから、適用に当たって同種の業務に従事する通常の労働者と、当該事業所における1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者の数を比較する際には、同種の業務において少数の通常の労働者を配置する必然性等から、事業主に法の適用を逃れる意図がないかどうかを考慮すべきものであること。
(6) 上記(5)は、労働者の管理については、その従事する業務によって異なっていることが通常と考えられることから、短時間労働者であるか否かを判断しようとする者が従事する業務と同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合は、その労働者と比較して判断することとしたものであること。
 なお、同種の業務の範囲を判断するに当たっては、『厚生労働省編職業分類』の細分類の区分等を参考にし、個々の実態に即して判断すること。
(7) 短時間労働者の定義に係る用語の意義はそれぞれ次のとおりであること。
イ 「1週間の所定労働時間」を用いるのは、短時間労働者の定義が、雇用保険法等労働関係法令の用例をみると1週間を単位としていることにならったものであること。この場合の1週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り原則として日曜日から土曜日までの暦週をいうこと。ただし、変形労働時間制が適用されている場合や所定労働時間が1月、数箇月又は1年単位で定められている場合などには、次の式によって当該期間における1週間の所定労働時間として算出すること。
 (当該期間における総労働時間)÷((当該期間の暦日数)/7)
 なお、日雇労働者のように1週間の所定労働時間が算出できないような者は、法の対象とならない。ただし、日雇契約の形式をとっていても、明示又は黙示に同一人を引き続き使用し少なくとも1週間以上にわたる定形化した就業パターンが確立し、上記の方法により1週間の所定労働時間を算出することができる場合には、法の対象となること。
ロ 「事業所」を単位として比較することとしているのは、労働者の管理が、通常、事業所単位で一体的に行われているためであること。「事業所」については、出張所、支所等で規模が小さく組織的関連ないし事務能力を勘案して一の「事業所」というに足りる程度の独立性のないものは、場所的に離れていても直近上位の機構と一括して一の「事業所」と取り扱うこと。
 
第2条の短時間労働者の定義の整理

① 名称

 短時間労働者は、通常の労働者より一週の所定労働時間が短い労働者を指します。従って、アルバイト、パートタイマー等の名称にかかわらず、第2条の定義を満たせば短時間労働者として本法の適用を受けます。

② 派遣労働者

 派遣労働者については、派遣先において本法の適用は受けないこととなります。

③ 通常の所定時間の労働者

 通常の労働者とは、いわゆる正規労働者のことですが、正規労働者がいない事業場では、社会通念上フルタイム労働者等を通常の労働者として、短時間労働者の判断を行ないます。

➃ 所定労働時間が短いとは

 所定労働時間が短いとは、少しでも短かければ短時間労働者に該当するという趣旨ですから、例えば常用雇用労働者との所定労働時間の差が1割未満は該当しないとか、同じくその差が15分未満は該当しないとか、そのような基準はありません。

⑤ 短時間労働者の判断

 ア 業務の種類が一種類で正規労働者がいる場合

   同種業務の正規労働者と比較して週の所定労働者が短い労働者が短時間労働者に該当する

 イ 業務の種類が一種類で正規労働者がおらず、フルタイムの基幹的労働者(フルタイムパート等)がいる場合

   同種業務の基幹的労働者と比較して週の週の所定労働時間が短い労働者が短時間労働者に該当する

 ウ 業務の種類が二種類以上あり正規労働者もフルタイム労働者もいない場合

   担当業務以外の業務の正規労働者等と比較して週の所定労働時間が短い労働者が短時間労働者に該当する

 エ 業務の種類が二種類以上あり正規労働者がいる場合

   同種の業務の正規労働者と比較して週の所定労働時間が短い労働者が短時間労働者に該当する

 オ 業務の種類が二種類以上あり正規労働者がいないがフルタイムの基幹的労働者がいる場合

   同種の業務の基幹的労働者と比較して週の所定労働時間が短い労働者が短時間労働者に該当する

 カ 業務の種類が二種類以上あり同種の業務に正規型の労働者がいるが、通常の労働者以外の者の数が著しく多い場合(則第2条に該当の場合)

   同種の業務の正規労働者ではなく、他の業務の正規労働者等と比較して週の所定労働時間が短い労働者が短時間労働者に該当する

 ※なお、単に週の所定労働時間が40時間未満等であることは、短時間労働者に該当するか否かの判断基準ではありません。

⑥ 短時間労働者の判断に一週間の所定労働時間を用いる理由

 雇用保険等の諸法令が一週間の所定労働時間を用いているためです。なお、週の定義等については、労働契約法の考察の記述を参照して下さい。

⑦ 事業所を単位として短時間労働者の判断を行う理由

 労働基準法が事業場を単位としていることは、ご存知の通りです。パートタイム労働法も労基法にならったものと思います。

⑧ 日雇い労働者について

 日雇い労働者は原則としてパートタイム労働法の適用がありません。ただし、形式上は日雇いでも事実上一週間を超えて長期にその労働者を使用する場合には、短時間労働者に該当するか否かを判断することとなります。

 

短時間労働者と有期契約労働者の混同

  第1条でも同趣旨の内容で記述しましたが、名称はパートタイム労働者でも或いは有期契約労働者であっても、一週間の所定労働時間が通常の労働者と同一であれば短時間労働者に該当しません。第2条では、専ら一週間の所定労働時間の長さにより短時間労働者に該当するか否かを判断しています。労働契約法第20条においても、有期契約か無期契約かの区別のみで、合理性なき労働条件の差別を禁止しています。

  そうすると、無期労働契約であってかつ通常の所定労働時間の労働者については、両法(契約法20条とパート労働法8条)の適用を受けないこととなります。しかし、一般に同一労働であれば所定労働時間が短い労働者の方を所定労働時間が通常の労働者と比して厚遇することは考えにくいため、この両法により正社員と非正規社員の両者の労働条件の格差が縮むことが期待できます。

 

 

以上でパートタイム労働法第2条を終了します。

 

 

パート労働法第2条

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パートタイム労働法第1条

2015年05月22日 10:42

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

第1条(目的)

 この法律は、我が国における少子高齢化の進展、就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴い、短時間労働者の果たす役割の重要性が増大していることにかんがみ、短時間労働者について、その適正な労働条件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もってその福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について(以下「平成26年通達」)

第1 総則(法第1章)
 法第1章は、法の目的、短時間労働者の定義、事業主等の責務、国及び地方公共団体の責務等、法第2章の短時間労働者対策基本方針や法第3章及び第4章に規定する具体的措置に共通する基本的考え方を明らかにしたものであること。
1 目的(法第1条関係)
(1) 法第1条は、法の目的が、我が国における少子高齢化の進展、就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴い、短時間労働者の果たす役割の重要性が増大していることにかんがみ、短時間労働者について、その適正な労働件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もってその福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与することにあることを明らかにしたものであること。
(2) 「職業能力の開発及び向上等」の「等」には職業紹介の充実等(法第21条)が含まれるものであること。
(3) 「措置等を講ずる」の「等」には、事業主等に対する援助(法第19条)、紛争の解決(法第4章)及び雇用管理の改善等の研究等(法第28条)が含まれるものであること。
(4) 「待遇の確保等」の「等」には、・ 短時間労働者であることに起因して、待遇に係る透明性・納得性が欠如していることを解消すること(適正な労働条件の確保に関する措置及び事業主の説明責任により達成される)、・ 通常の労働者として就業することを希望する者について、その就業の可能性をすべての短時間労働者に与えること(通常の労働者への転換の推進に関する措置により達成される)、等が含まれるものであること。
(5) 「あわせて経済及び社会の発展に寄与する」とは、少子高齢化、労働力人口減少社会に入った我が国においては、短時間労働者について、通常の労働者と均衡のとれた待遇の確保や通常の労働者への転換の推進等を図ることは、短時間労働者の福祉の増進を図ることとなるだけでなく、短時間労働者の意欲、能力の向上やその有効な発揮等による労働生産性の向上等を通じて、経済及び社会の発展に寄与することともなることを明らかにしたものであること。
 
パートタイム労働者の就業の実態について
 

 ①パートタイム労働者と有期契約労働者の実態(H24年)

  すでに労働契約法の考察において、パートタイム労働について記述しました。労働契約法第20条では、無期契約労働者と有期契約労働者の労働条件が異なる場合には、一定の合理性を有していなければならない旨を規定しています。そして、本法第9条においては、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、短時間労働者であるが故の賃金差別等を禁止しています。

  また一方では、従来の裁判例において、労働契約が異なれば付随して労働条件が異なることが是認されると判断されてきました。そこで、以下において短時間労働者の就労の実態を確認してみたいと思います。

  出典:「平成24年就業構造基本調査(総務省)」

 ア 短時間労働者の数 

    雇用形態        人数(人)       構成比(%)

    総数          57,008,800           

    役員を除く就労者    53,537,500       100

    正規職員(正社員)   33,110,400       61.8

    非正規就労者計     20,427,100       38.2       

    パート労働者       9,560,800        17.9

    契約社員         2,909,200          5.4

    派遣労働者        1,187,300        2.2

 イ 雇用契約の期間でみるパート労働者

    期間の長さ       パート労働者数(人)    構成比(%)

    期間の定めがある計      4,384,300       45.9

    1か月未満             26,100        0.3

    1か月以上、6か月以下      1,440,200        15.1

    6か月超、1年以下       1,920,800        20.1

    1年超、3年以下          559,900        5.9

    3年超、5年以下          93,600        1.0

    その他             343,700        3.6

    期間の定めなし        3,714,600        38.9

    不明             1,348,000        14.1

 ウ 年間就業日数別のパート労働者数 

     年間就業日数       パート労働者数(人)   構成比(%)

     150日未満         2,131,300        22.3

     150~199日        1,914,500        20.0

     200~249日        3,455,200        36.1

     250日以上         1,908,800        20.0

 エ 収入別にみるパート労働者

     所得階層         パート労働者数(人)   構成比(%)

     50万円未満          865,300        9.1

     50~99万円         3,818,700       39.9

     100~149万円         3,064,600       32.1

     150~199万円          994,400       10.4

     200~249万円          497,600         5.2

     250~299万円          129,700         1.4

     300~399万円          65,100         0.7

     400~499万円          14,700         0.2

     500~599万円            5,400         0.1

     600~699万円            2,100         0.0

     700~799万円          2,300         0.0

     800~899万円           700         0.0

     900~999万円          2,400         0.0

     1,000~1,249万円        1,700         0.0

     1,250~1,499万円         500         0.0

     1,500万円以上           400         0.0

 オ パートタイム労働者の男女割合及び配偶者の有無の実態

       性別        パートタイム労働者数(人)  構成比(%)

      男性労働者          1,014,300       10.6   

      女性労働者          8,546,500       89.4

      未婚労働者          1,168,500       12.2

      既婚労働者          7,099,400       74.3

     ※パートタイム労働者のほとんどは、既婚の女性労働者であることが伺えます。

  ②まとめ

   平成24年のパートタイム労働者の数は約950万人で、そのうち約35%が1年以下の有期労働契約を締結しています。また、パートタイム労働者の約20%が年間250日以上就労し、150日未満は22.3%となっています。さらに、年収が150万円未満のパート労働者が81.1%、同じく200万円未満が91.5%、300万円未満が98.1%となっており、9割を超えるパート労働者の年収が200万円未満という実態となっています。

  平成24年の給与所得者全体の給与実態は以下のようになっています。

   出典:国税庁「民間給与実態統計調査」

  給与所得者数は、4,552 万人(対前年比 1.0%増、46 万人の増加)で、その平均給 与は 412 万円(同 1.5%増、61 千円の増加)となっている。 これを男女別にみると、給与所得者数は男性 2,729 万人(同 0.3%増、9万人の増 加)、女性 1,823 万人(同 2.1%増、37 万人の増加)で、その平均給与は男性 507 万円 (同 1.5%増、77 千円の増加)、女性 269 万円(同 2.4%増、62 千円の増加)となって いる。 

  このように、9割以上の短時間労働者の年間給与所得は、給与所得者全体の半分未満という実態があります。

パートタイム労働者と有期契約労働者の混同

  労働契約には次の種類があります。

   a フルタイムかつ期間の定めがない労働契約       いわゆる正規職員・正社員

   b フルタイムかつ有期契約の労働契約          いわゆる契約社員等

   c 短時間かつ期間の定めのない労働契約         いわゆる短時間正社員等

   d 短時間かつ有期労働契約               いわゆるパート・アルバイト等

  一般に、非正規社員・非正規職員と言われる労働者とは期間の定めがない労働者をいいますが、フルタイムかつ無期契約以外は非正規労働者として扱われ、管理職任用や昇級(昇給)の対象外となる場合がほとんどと思われます。いわゆるパートタイム労働者の通称は、所定労働時間の長さではなく有期労働契約であるか否かで区分されてきた面があります。労働契約法の改正により、5年を超える有期労働契約の無期転換権が労働者に与えられたことで、将来的には有期労働契約の割合が減少することが予見されます。

 

短時間労働者の雇用改善をすべき理由

  短時間労働者の給与水準の実態は、上記のとおりいわゆる正規職員・正社員と明らかに乖離しています。その乖離を解消すべき理由は、基本方針で明らかにされています。

参考:短時間労働者対策基本方針(平成27年3月26日厚生労働省告示第142号)抜粋

  我が国の人口は、少子高齢化の進行に伴い、平成20年をピークに減少傾向にある。経済成長と労働参加が適切に進まず、労働力人口が大幅に減少することとなれば、経済成長の供給側の制約要因となるとともに、需要面でみても経済成長にマイナスの影響を与えるおそれがある。このように、今後、ますます労働力供給が制約される日本では、全員参加の社会の実現に向け、若者、女性、高齢者、障害者を始め就労を希望する者が意欲と能力を生かしてそれぞれのライフスタイルに応じた働き方を通じて能力を発揮できるよう、多様な働き方を実現するための環境整備を進めていくことが重要である。

  短時間労働は、育児や介護等様々な事情により就業時間に制約のある者が従事しやすい働き方であり、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい働き方として位置付けることができる一方で、正社員としての就職機会を得ることができず、非自発的に短時間労働に就く者も一定程度存在する。また、現状においては、必ずしも働き・貢献に見合った待遇が確保されてはいない。
まとめと考察
 我が国の労働生産性は、必ずしも諸外国に比して高くなく、労働生産性の向上が労働力人口の減少への対応の一つの解決策とされています。その中で、出産・育児や家族介護をしなければならない労働者(特に女性労働者)にとっては、所定労働時間の制約や時間外労働が出来ない状況に置かれています。しかし、従来日本国民は労働者として優秀な能力を有している筈であり、事業主が求める規格の外にある就労に時間等の制約がある)労働者であるからといって放置しておくことは、企業にとって引いては日本社会にとって、有過失の不作為だと言えます。
 このような、多様な労働条件(前述a~d等)の労働者を一つの職場で組み合わせて就労してもらい、かつ、全体として高い労働生産性を達成することが、今後のビジネスモデルの中核を占めるべきだと考察いたします。
 
 参考:国別の労働生産性 出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較」
 ◎購買力平均(PPP)換算労働生産性=PPPで評価されGDP÷就業者数
 労働生産性上位10カ国の推移
・1970 1位アメリカ、2位ルクセンブルグ、3位カナダ、4位ドイツ、5位オランダ・・・19位日本
・1980 1位ルクセンブルグ、2位ドイツ、3位アメリカ、4位オランダ、5位ベルギー・・・18位日本
・1990 1位ルクセンブルグ、2位ドイツ、3位アメリカ、4位ベルギー、5位イタリア・・・14位日本
・2000 1位ルクセンブルグ、2位アメリカ、3位ノルウェー、4位イタリア、5位ベルギー・・・20位日本
・2012 1位ルクセンブルグ、2位ノルウェー、3位アメリカ、4位アイルランド、5位ベルギー・・・21位日本
 
 
以上でパートタイム労働法第1条を終了します。
 
 
パート労働法第1条

 

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均等法第30条・第31条・第32条・第33条

2015年05月21日 13:08

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第30条(公表)

 厚生労働大臣は、第5条から第7条まで、第9条第1項から第3項まで、第11条第1項、第12条及び第13条第1項の規定に違反している事業主に対し、前条第1項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第30条

・公表(法第30条)

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確固たるものとし、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進するためには、労働者に対する差別等を禁止し、事業主に一定の措置を義務付けるとともに、法違反の速やかな是正を求める行政指導の効果を高め、法の実効性を確保することが必要である。

 このような観点から、厚生労働大臣は、法第5条から第7条まで、第9条第1項から第3項まで、第11条第1項、第12条及び第13条第1項の規定に違反している事業主に対し自ら勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができることとしたものであること。

厚生労働大臣の公表

 本条による企業名の公表実績を調べましたが、今日現在公表された企業は無い様子です。

第31条(船員に関する特例)

 船員職業安定法(昭和23年法律第130号)第6条第1項に規定する船員及び同項に規定する船員になろうとする者に関しては、第4条第1項並びに同条第4項及び第5項(同条第6項、第10条第2項、第11条第3項及び第13条第3項において準用する場合を含む。)、第10条第1項、第11条第2項、第13条第2項並びに前3条中「厚生労働大臣」とあるのは、「国土交通大臣」と、第4条第4項(同条第6項、第10条第2項、第11条第3項及び第13条第3項において準用する場合を含む。)中「労働政策審議会」とあるのは「交通政策審議会」と、第6条第2号、第7条、第9条第3項、第12条及び第29条第2項中「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省令」と、第9条第3項中「労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業による休業をしたこと」とあるのは「船員法(昭和22年法律第100号)第87条第1項又は第2項の規定によって作業に従事しなかっらこと」と、第17条第1項、第18条第1項及び第29条第2項中「都道府県労働局長」とあるのは「地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)と、第18条第1項中「第6条第1項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)」とあるのは「第21条第3項のあっせん員候補者名簿に記載されている者のうちから指名する調停員」とする。

2 前項の規定により読み替えられた第18条第1項の規定により指名を受けて調停員が行う調停については、第19条から第27条までの規定は、適用しない。

3 前項の調停の事務は、三人の調停員で構成する合議体で取り扱う。

4 調停員は、破産手続開始の決定を受け、又は禁固以上の刑に処せられたときは、その地位を失う。

5 第20条から第27条までの規定は、第2項の調停について準用する。この場合において、第20条から第23条まで及び第26条中「委員会は」とあるのは「調停員は」と、第21条中「当該委員会が置かれる都道府県労働局」とあるのは「当該調停員を指名した地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)が置かれる地方運輸局(運管理部を含む。)」と、第26条中「当該委員会に係属している」とあるのは「当該調停員が取り扱つている」と、第27条中「この節」とあるのは「第31条第3項から第5項まで」と、「調停」とあるのは「合議体及び調停」と、「厚生労働省令」とあるのは「国土交通令」と読み替えるものとする。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第31条

・船員に関する特例(法第31条)

 船員及び船員になろうとする者に係る労働関係については、国土交通省が所管する別の体系となっているため、法中「厚生労働大臣」とあるのを「国土交通大臣」と読み替える等所要の整備を行ったものであること。

※均等法第31条は、船員及び船員になろうとする人が同法の適用があるものの、所管の違いから国土交通省及び同省の機関が担当する旨の読み替えを行っています。法律特有の難解な文章ですが、要約するとその様な趣旨となります。

第32条(適用除外)

 第2章第1節及び第3節、前章、第29条並びに第30条の規定は、国家公務員及び地方公務員に、第2章第2節の規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人の労働関係に関する法律(昭和23年法律第257号)第2条第2号の職員を除く。)、裁判所職員臨時措置法(昭和26年法律第299号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法(昭和22年法律第85号)の適用を受ける国会職員及び自衛隊法(昭和29年法律第165号)第2条第5項に規定する隊員に関しては適用しない。

参考:自衛隊法第2条第5項 この法律(第九十四条の六第三号を除く。)において「隊員」とは、防衛省の職員で、防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官、防衛大臣補佐官、防衛大臣政策参与、防衛大臣秘書官、第一項の政令で定める合議制の機関の委員、同項の政令で定める部局に勤務する職員及び同項の政令で定める職にある職員以外のものをいうものとする。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第32条

・適用除外(法第32条)

(1)法第2章第1節及び第3節、第3章、第29条並びに第30条の規定は、国家公務員及び地方公務員に関しては適用しないこととしたものであること。

 「国家公務員及び地方公務員」とは、一般職又は特別職、常勤又は非常勤の別にかかわりなく、これに該当するものであること。また、国家公務員の身分が与えられている特定独立行政法人の職員、地方公務員の身分が与えられている特定地方独立行政法人もこれに含まれているものであること。

(2)法第2章第2節の規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人等に勤務する者を除く。)、裁判所職員、国会職員及び防衛庁職員に関しては適用しないこととしたものであること。

 なお、地方公務員については、適用することとなること。

均等法第32条のまとめ

職種別のそれぞれ適用がある条文

 a 特別職及び非常勤の国家公務員、国の特定独立行政法人の職員、地方公務員、特定地方独立行政法人の職員

  第1条(目的)、第2条(基本理念)、第3条(啓発活動)、第4条(基本方針)、第11条(セクハラ対処)、第12条(妊産婦への措置)、第13条(産婦の勤務時間の変更等)、第28条(調査研究)、第33条(罰則)

 b 一般職の国家公務員

  第1条(目的)、第2条(基本理念)、第3条(啓発活動)、第4条(基本方針)、第28条(調査研究)、第33条(罰則)

 c 裁判所職員、国会職員、防衛庁(防衛省)隊員

  第1条(目的)、第2条(基本理念)、第3条(啓発活動)、第4条(基本方針)、第5条(採用時性差別禁止)、第6条(労働条件の性差別禁止)、第7条(間接差別禁止)、第8条(ポジティブA)、第9条(妊産婦)、第10条(指針)、以下第14条~第33条 が適用されます。

第33条(罰則)

 第29条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第33条

・罰則(法第5章)

 第29条第1項の助言、指導及び勧告を適切に行うためには、その前提として、同項の報告の聴取を適切に行う必要がある。このため、法第33条は法第29条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者に対して、20万円以下の過料に処することとしたものであること。

 なお、過料については、非訴訟手続法(明示31年法律第14号)第4編の過料事件の規定により、管轄の地方裁判所において過料の裁判の手続を行うものとなること。都道府県労働局長は、法第29条違反があった場合には、管轄の地方裁判所に対し、当該事業主について、法第29条第1項に違反することから、法第33条に基づき過料に処すべき旨の通知を行うこととなること。

第33条の罰則まとめ 

 

  罰則の対象となる行為は、厚生労働大臣から委任を受けた都道府県労働局長が、事業主に対し均等法第29条第1項の規定による「この法律の施行に関し必要があると認める場合の事業主からの報告」について、報告を求められた事業主がその報告をしなかった又は虚偽の報告をした場合に要件を満たします。

 

  また過料とは、一般に金銭を徴収する行政罰のこととされています。従って、刑事罰の科料とは異なります。

  ※罰金は1万円以上、科料は千円以上1万円未満の財産刑です。

 

参考:非訟事件手続法

第百十九条  過料事件(過料についての裁判の手続に係る非訟事件をいう。)は、他の法令に特別の定めがある場合を除き、当事者(過料の裁判がされた場合において、その裁判を受ける者となる者をいう。以下この編において同じ。)の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
 
以上で雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の逐条考察を終了します。
 
 
 
均等法第33条

 

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均等法第25条・第26条・第27条・第28条・第29条

2015年05月21日 10:48

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第25条(訴訟手続の中止)

 第18条第1項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当時者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる掲げる事由があり、かつ、関係当時者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続きを中止する旨の決定をすることができる。

一 当該紛争について、関係当時者間において調停が実施されること。

ニ 前号に規定する場合のほか、関係当時者間に調停によつて当該紛争の解決を図る旨の合意があること。

2 受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。

3 第1項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第1項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第25条

・訴訟手続の中止(法第25条)

 法第25条は、当事者が調停による紛争解決が適当であると考えた場合であって、調停の対象となる紛争のうち民事上の紛争であるものについて訴訟が係属しているとき、当事者が和解交渉に専念する環境を確保することができるよう、受訴裁判所は、訴訟手続を中止することができることとする規定を設けたものであること。

 ※訴訟に関する事項は全くの専門外(弁護士又は一部の司法書士が専門家)ですので、記述を避けます。

第26条(資料提供の要求等)

 委員会は、当該委員会に係属している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第26条

・資料提供の要求等(法第26条)

 法第26条の「関係行政庁」とは、例えば、国の機関の地方支分部局や都道府県等の地方自治体が考えられるものであること。

 「その他必要な協力」とは、情報の提供や便宜の供与等をいうものであること。

 ※紛争調整委員会の規定ですから、記述を割愛します。

第27条(厚生労働省令への委任)

 この節に定めるもののほか、調停の手続に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 ※均等法施行規則第3条~第12条に、紛争調整委員会に関する補足規定が定められています。

第28条(調査等)

 厚生労働大臣は、男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活に関し必要な調査研究を実施するものとする。

2 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、関係行政機関の長に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。

3 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、都道府県知事から必要な調査報告を求めることができる。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第26条


 厚生労働大臣は、男性労働者及び女性労働者それぞれの職業生活に関し必要な調査研究を実施し、その成果を通じて雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等を図るための施策の一層の推進を図ることとしたものであること。

 また、厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、関係行政機関の長に対し、資料の提供その他必要な協力を求め、さらに、都道府県知事から必要な調査報告を求めることができる旨明らかにしたものであること。

女性労働者等に関する調査研究

 中央省庁は、年次の白書等を発行していることはご存知の通りです。厚生労働省においても、「厚生労働白書」「労働経済白書」「海外情勢報告」「働く女性の実情」「ものづくり白書」「児童手当事業年報」「月例労働経済報告」当が発行されています。これらは、厚生労働省のホームページの白書、年次報告書の項目をクリックすれば確認できます。

参考:平成25年度版働く女性の実情 https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/13.html

第29条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)

 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

2 前項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

均等法施行規則第14条(権限の委任)

 法第29条第1項に規定する厚生労働大臣の権限は、厚生労働大臣が全国的に重要であると認めた事案に係るものを除き、事業主の事業場の所在地を管轄する都道府県労働局の長が行うものとする。

○通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)第29条

・報告の聴取並びに助言、指導及び勧告(法第29条)

(1)法の目的を達成するための行政機関固有の権限として、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができることとしたものであること。

(2)本条の厚生労働大臣の権限は、労働者からの申立て、第三者からの情報、職種等その端緒を問わず、必要に応じて行使し得るものであること。

(3)第1項の「この法律の施行に関し必要があると認めるとき」とは、法によって具体的に事業主の責務とされた事項について、当該責務が十分に遂行されていないと考えられる場合において、当該責務の遂行を促すことが法の目的に照らし必要であると認められるとき等をいうものであること。

(4)則第14条の「厚生労働大臣が全国的に重要であると認めた事案」とは、

 イ 広範囲な都道府県にまたがり、その事案の処理に当たって各方面との調整が必要であると考えられる事案

 ロ 当該事案の性質上社会的に広汎な影響力を持つと考えられる事案

 ハ 都道府県労働局長が勧告を行ったにもかかわらず是正されない事案

等をいうものであり、厚生労働大臣が自ら又は都道府県労働局長の上申を受けてその都度判断するものであること。

 「事業場」とは、当該事案に係る事業場であって、本社たる事業場に限られるものではないものであること。

※均等法第29条の厚生労働大臣が行う事業主に報告を求め、事業主に指導・勧告を行うのは、則第14条の規定により専ら委任を受けた都道府県労働局長が行うとされています。

 

以上で、均等法第25条~第29条を終了します。

 

 

第25条、第26条、第27条、第28条、第29条

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均等法第24条

2015年05月20日 16:46

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第24条(時効の中断)

 前条第1項の規定により調停により調停が打ち切られた場合において、当該調停の申請をした者が同条第2項の通知を受けた日から三十日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、調停の申請の時に、訴えの提起があったものとみなす。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)

・時効の中断(法第24条)

 法第24条は、法第23条により調停が打ち切られた場合に当該調停の申請をした者が打ち切りの通知を受けた日から30日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停の申請の時に遡り、時効の中断が生じることを定めるものであること。

 「調停の申請の時」とは、申請書が現実に都道府県労働局に提出された日であって、申請書に記載された申請年月日ではないこと。

 また、調停の過程において申請人が調停を求める時効の内容を変更又は追加した場合にあっては、当該変更又は追加した時が「申請の時」に該当するものと解されること。

 「通知を受けた日から30日以内」とは、民法の原則に従い、文書の到達した日は期間の計算に当り算入されないため、書面による調停打切りの通知が到達した日の翌日から起算して30日以内であること。

 「調停の目的となった請求」とは、当該調停手続において調停の対象とされた具体的な請求(地位確認、損害賠償請求等)を指すこと。本条が適用されるためには、これらと訴えに係る請求とが同一性のあるものでなければならないこと。

時効(消滅時効)・時効の成立とは何か?

 一定の期間、権利の行使がなかった場合に、権利の消滅を認める制度を消滅時効といいます。

参考:民法第166条 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。

2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

民法第174条 次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。

2 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権 ※労基法で2年に修正

3 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権

4 運送賃に係る債権

5 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権

6 動産の損料に係る債権

労働基準法第115条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

 消滅時効の意味は、一定期間権利を行使しなかった場合に、権利そのものが消滅してしまう制度ですから、セクハラによって被った損害の賠償請求件や解雇無効の差し止めの訴えの請求等、消滅時効が成立した場合には、そもそも債権者又は原告として裁判所に訴えを起こすことができる要件を欠いてしまいます。

 時効の中断とは、一般的には「裁判上の請求」「差押・仮差押・仮処分」「債務者が債権の存在を認めた場合(承認)」により時効が中断し、それまで経過した期間(消滅時効の進行)を無にする効果があります。裁判上の請求を行う場合、賃金債権の消滅時効は毎月(又は毎週等)の本来の賃金支払日の翌日から2年ですから、過去の賃金支払日の翌日が裁判所に訴えた日から遡って2年を超える場合には、超えた部分の未払賃金は請求できないこととなります。また、例えば均等法違反により不法行為に該当するとして損害賠償請求を行う場合には、民法第724条により3年で請求権が消滅します。

参考:翌日起算の原則

 通常、期間を計算すべき原因となった事象は、一日の途中に起こります。そこで、民法の規定により初日不算入の原則として期間を数え始める日(起算日)を翌日とすることとなっています。

民法第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

 

以上で均等法第24条を終了します。

 

均等法第24条

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均等法第19条・第20条・第21条・第22条・第23条

2015年05月20日 09:42

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

法第19条

 前条第1項の規定に基づく調停(以下この節において「調停」という。)は、三人の調停委員が行う。

2 調停委員は、委員会の委員のうちから、会長があらかじめ指名する。

均等法施行規則

 則第3条(主任調停委員)

  紛争調整委員会(以下「委員会」という。)の会長は、調停委員のうちから、法第18条第1項の規定により委任を受けて動向に規定する紛争についての調停を行うための会議(以下「機会均等調停会議」という。)を主任となって主宰する調停委員(以下「主任調停委員」という。)を指名する。

 2 主任調停委員に事故があるときは、あらかじめその指名する調停委員が、その職務を代理する。

 則第4条(機会均等調停会議)

  機会均等調停会議は、主任調停委員が招集する。

 2 機会均等調停会議は、調停委員二人以上が出席しなければ、開くことができない。

 3 機会均等調停会議は、公開しない。

 則第5条(機会均等調停会議の庶務)

  機会均等調停会議の庶務は、当該都道府県労働局雇用均等室において処理する。

 則第6条(調停の申請)

  法第18条第1項の調停(以下「調停」という。)の申請をしようとする者は、調停申請書(別記様式)を当該調停に係る紛争の関係当時者(労働者及び事業主をいう。以下同じ。)である労働者に係る事業場の所在地を管轄する都道府県労働局の長に提出しなければならばい。

  調停申請書様式:あっせん申請書.doc (54784)

 則第7条(調停開始の決定)

  都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは、遅滞なく、その旨を会長及び主任調停委員に通知するものをする。

 2 都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは関係当時者の双方に対して、調停を行わせないこととしたときは調停を申請した関係当時者に対して、遅滞なく、その旨を書面によって通知するものとする。

 則第8条(関係当時者等からの事情聴取等)

  法第20条第1項又は第2項の規定により委員会から出頭を求められた者は、機会均等調停会議に出頭しなければならない。この場合において、当該出頭を求められた者は、主任調停委員の許可を得て、補佐人を伴って出頭することができる。

  2 補佐人は、主任調停委員の許可を得て陳述を行うことができる。

  3 法第20条第1項又は第2項の規定により委員会から出頭を求められた者は、主任調停委員の許可を得て当該事件について意見を述べることができる。この場合において、法第20条第1項の規定により委員会から出頭を求められた者は、主任調停委員の許可を得て他人に代理させることができる。

  4 前項の規定により他人に代理させることについて主任調停委員の許可を得ようとする者は、代理人の氏名、住所及び職業を記載した書面に、代理権授与の事実を証明する書面を添付して、主任調停委員に提出しなければならない。

 則第9条(文書等の提出)

  委員会は、当該事件の事実の調査のために必要がある必要があると認めるときは、関係当時者に対し、当該事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができる。

 則第10条(調停手続の実施の委任)

  委員会は、必要があると認めるときは、調停の手続の一部を特定の調停委員に行わせることができる。この場合において、第4条第1項及び第2項の規定は適用せず、第8条の規定の適用については、同条中「主任調停委員」とあるのは、「特定の調停委員」とする。

 2 委員会は、必要があると認めるときは、当該事件の事実の調査を都道府県労働局雇用均等室の職員に委嘱することができる。

 則第11条(関係労使を代表する者の指名)

  委員会は、法第21条の規定により意見を聴く必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体に対して、期限を付して関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の指名を求めるものとする。

 2 前項の求めがあつた場合には、当該労働者団体又は事業主団体は、当該事件につき意見を述べる者の指名及び住所を委員会に通知するものとする。

 則第12条(調停案の受諾の勧告)

  調停案の作成は、調停委員の全員一致をもつて行うものとする。

 2 委員会は、調停案の受諾を勧告する場合には、関係当時者の双方に対し、受諾すべき期限を定めて行うものとする。

 3 関係当時者は、調停案を受諾したときは、その旨を記載し、記名押印した書面を委員会に提出しなければならない。

法第20条

 委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当時者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

2 委員会は、第11条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争に係る調停のために必要があると認め、かつ、関係当時者の双方の同意があるときは、関係当時者のほか、当該事件に係る職場において性的な言動を行ったとされる者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

法第21条

 委員会は、関係当時者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。

法第22条

 委員会は、調停案を作成し、関係当時者に対しその受諾を勧告することができる。

法第23条

 委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。

2 委員会は、前項の規定により調停を打ち切ったときは、その旨を関係当時者に通知しなければならない。

通達による確認(平成18年雇児発第1011002)

・調停(法第19条から第23条)

(1)法第19条第1項では、調停は、3人の調停委員が行うこととされているが、簡易迅速な手続の実施の観点から、則第10条第1項では、調停手続の一部を特定の調停委員に行わせることができることとしたものであること。

 則第10条第1項の「調停の手続の一部」とは、現地調査や、提出された文書等の分析・調査、関係等当時者等からの事情聴取等が該当するするものあること。

 なお、調停案の作成及び受諾の勧告は引き続き調停委員会の全員一致をもって行うものであること。

(2)法第20条第1項の関係当事者の「出頭」及び第2項の職場において性的な言動を行ったとされる者(以下「行為者」という。)の「出頭」は強制的な権限に基づくものではなく、相手の同意によるものであること。これらの出頭については、必ず関係当時者(法人である場合には、委員会が指定する者)又は行為者により行われることが必要であること。

(3)法第20条第2項は、職場におけるセクシャルハラスメントに係る事業主の雇用管理上の措置義務についての紛争に係る調停においては、職場におけるセクシャルハラスメントに係る事実関係の確認に関わる事項が紛争の対象となる場合もあることから、関係当時者に加え、行為者の出頭を求めることができることとしたものであること。

 なお、調停は、本来、事業主と労働者の二者の紛争の解決を主張するため、行為者の出頭を求めるに当たっては、事業主と労働者の二者だけでは紛争を解決するために必要な事実関係の確認が行えない場合に、委員会が調停のために必要があると認め、かつ、関係当時者が同意をした場合においては出頭を求めるものであること。

(4)則第8条第1項「補佐人」は、関係当時者が事情の陳情を行うことを補佐することができるものであること。補佐人の陳述は、関係当時者が直ちに意義を述べ又は訂正しない限り、関係当時者とみなされるものであること。

 なお、補佐人は、意見の陳述はできないものであること。

(5)則第8条第3項の代理人は、意見の陳述のみを行うことができるものであること。

 なお、行為者については、本人の意見を聴くことが出頭の制度を創設した趣旨であることから、代理はみとめないものであること。

(6)法第21条の「主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者」とは、主要な労働関係団体が氏名する関係労働者を代表する者又は主要な事業主団体が指名する関係事業主を代表する者の意であること。

(7)則第11条の関係労使を代表する者の指名は、事案ごとに行うものであること。指名を求めるに際しては、管轄区域内のすべての主要な労働者団体及び事業主団体から指名を求めなければならないものではなく、調停のため必要と認められる範囲で、主要な労働者団体又は事業主団体のうちの一部の団体の指名を求めることで足りるものであること。

(8)法第22条の「受諾を勧告する」とは、両関係当時者に調停案の内容を示し、その受諾を求めるものであり、その受諾を義務付けるものではないこと。

 則第12条第3項の「書面」は、関係当時者が調停案を受諾した事実を委員会に対して示すものであって、それのみをもって関係当時者間において民事的効力をもつものではないこと。

(9)法第23条の「調停による解決の見込みがないと認めるとき」とは、調停により紛争を解決することが期待し難いと認められる場合や調停により紛争を解決することが適当でないと認められる場合がこれに当たるものであり、具体的には、調停開始後長期の時間的経過をみている場合、当時者の一方が調停に非協力的で再三にわたる要請にもかかわらず出頭しない場合のほか、調停が当時者の解決のためでなく労使紛争を有利に導くために利用される場合等が原則としてこれに含まれるものであること。

通達の解釈に関する項目毎のまとめ(第19条~第23条)

(1)3人の調停委員

 紛争調整委員会(個別紛争解決法第6条)の委員の数は、個別紛争解決法規則に規定があり以下の人数を厚生労働大臣が任命することとなっています。※任期は、2年となっています。

個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律施行規則(平成13年厚生労働省令第191号)

 第2条 委員会の委員の数は、東京紛争調整委員会にあっては三十六人、大阪紛争調整委員会にあっては二十一人、愛知紛争調整委員会にあっては十五人、北海道紛争調整委員会、埼玉紛争調整委員会、千葉紛争調整委員会及び神奈川紛争調整委員会にあっては十二人、茨城紛争調整委員会、長野紛争調整委員会、静岡紛争調整委員会、京都紛争調整委員会、兵庫紛争調整委員会、奈良紛争調整委員会及び福岡紛争調整委員会にあっては九人、その他の委員会にあっては六人とする。

 各都道府県の紛争調整委員会の委員から3名が会長に指名され、その内の1名が主任となります。そして、均等法施行規則第10条第1項により、委員の一人が「現地調査」「申請書・答弁書等の分析・調査」「関係当時者等からの事情聴取」等を行うことができるとされています。※一人でできるのは、下調べ等の事前準備のみです。

 また、事実確認等の調査を労働局の雇用均等室の職員に行わせることができるとされています。

(2)出頭の求め

 関係当時者及びセクハラ行為者の出頭の求めに対する応諾は任意となっています。委員の権限は関係当事者の応諾に基づくものに限られます。

(3)セクハラ行為者の出頭

 セクハラ案件については、会社等の担当者及びセクハラの行為者の出頭を求めることが可能であると規定されています。この場合に事業主(会社の代表者や担当者・代理人)と行為者(上司や同僚など)の両者に申請人があっせんを求める内容としては、専ら雇い主の会社に対し原状回復等(雇止め無効及び契約更新、解雇無効、セクハラの排除)や賠償(損害賠償他の金員の請求)の請求を行う事例がほとんどです。この場合の請求の根拠は、会社の使用者責任や均等法の規定に拠る不法行為が理由です。もちろん、行為者が社長等の代表者であれば、社長は事業主とみなせますからこの限りではありません。

 なお、申請者が事業主被申請者が労働者である案件もあります。

(4)補佐人

 補佐人は、事前に主任調停員の許可を得て本人(申請者)に随行して紛争調停会議に出席し、また同じく許可を得てあっせん申請書等の内容である事実関係(あっせんを求める事項やその理由等)を陳述することができます。ただし、意見を述べることは出来ません。また、補佐人の陳述は関係当事者のその場の意義がない限り本人の陳述とみなされます。

(5)代理人

 主任調停委員の許可を得た代理人は、紛争調停会議において、申請者の委任を受けて申請者に代わって意見を述べます。ただし、セクハラ行為者の代理は認められないとされています。代理人には資格は必要ありませんが、報酬を得て代理を行う場合には、弁護士資格又は特定社会保険労務士資格が必要とされています。

参考:代理及び代理人とは何か?

・代理とは、本人に代わって他人(代理人)が法律行為をして、その効果が本人に帰属する制度です。紛争調整会議の場合は、調停の申請書を代理人が代理作成作し紛争調停会議に出席して本人に代わり意見を述べることで、本人の紛争解決を成し遂げます。代理人は、本人から委任された代理権の及ぶ範囲内で本人に代わって法律行為を行います。

(6)労働者団体、事業主団体が指名する者

 法第21条は、都道府県内の労働組合や事業主の所属団体(森林組合、建設業組合、医師会、理容組合など)が想定されると思われます。

(7)関係労使を代表する者の指名

 調停のため必要と認められる範囲で指名を求めることが出来るとされます。

(8)調停案受諾の際の書面提出

 均等法施行規則第12条第3項の書面は、関係当時者が調停案を受諾した事実を委員会に対して報告する意味に限られるとされています。他方、紛争当事者間であっせん案に合意した場合には、受諾されたあっせん案は民法上の和解契約の効力を持つことになります。従って、提示されたあっせん案が記載された文書2通に、それぞれ申請者及び被申請者が記名押印等を行えば和解契約書となります。※参考:民法第695条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。

(9)調停の打切り

 個別紛争解決法による紛争調整委員会が行うあっせんと均等法・育介法・パートタイム労働法による同委員会の調停は取り扱う事案が異なるだけで、手続等はほぼ同一ですから、個別紛争解決法の規定が参考にできると思います。

参考:個別紛争解決法施行規則(あっせんの打切り)

 第十二条 あっせん委員は、次の各号のいずれかに該当するときは、法第十五条の規定に基づき、あっせんを打ち切ることができる。

 一 第六条第二項の通知を受けた被申請人が、あっせんの手続に参加する意思がない旨を表明したとき。

 二 第九条第一項の規定に基づき提示されたあっせん案について、紛争当事者の一方又は双方が受諾しないとき。

 三 紛争当事者の一方又は双方があっせんの打切りを申し出たとき。

 四 法第十四条の規定による意見聴取その他あっせんの手続の進行に関して紛争当事者間で意見が一致しないため、あっせんの手続の進行に支障があると認めるとき。

 五 前各号に掲げるもののほか、あっせんによっては紛争の解決の見込みがないと認めるとき。

 2 あっせん委員は、前項の規定によりあっせんを打ち切ったときは、様式第五号(第七条第一項の規定によりあっせんの手続の一部を特定のあっせん委員に行わせる場合にあっては、様式第五号の二)により、紛争当事者の双方に対し、遅滞なく、その旨を通知するものとする。

◎比較のために、厚生労働省作成パンフレット記載の均等法等の紛争調停会議の打切り事由を再確認します。

 ①本人の死亡、法人の消滅等があった場合 

 ②申立てが取り下げられた場合 

 ③被申立者が非協力的で度重なる要請にもかかわらず事情聴取に応じない場合 

 ④対立が著しく強く、歩み寄りが困難である場合

紛争調停委員会による調停制度のまとめ

 裁判外紛争解決手続(ADR)は、アメリカで発展した制度です。もとより、訴訟は民事であれ刑事であれ相当の費用支出と時間が必要です。また、裁判になじまないとして裁判所が訴えを受け付けないことも想定されます。そこで、政府は平成16年にADR法を制定し、裁判外の紛争解決制度の促進を図りました。併せて都道府県労働局の紛争調整委員会をはじめ都道府県の労働委員会の個別紛争調停機能等様々な取扱機関が創設されました。

 従来から、都道府県労働局や労働基準監督署は戦後の労働行政を所管する国の機関でした。そのため労働局の均等法等の紛争調停会議もそのながれの一環で創設されました。

 また、法律ごとの様々な紛争解決のために、法務省(条文は法務大臣)の認証を受けて様々な民間(準公的機関)のADR機関が生まれました。

 

以上で均等法第19条~第23条を終了します。

 

均等法第19条~第23条

 

 

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均等法第18条

2015年05月19日 14:53

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第18条(調停の委任)

 都道府県労働局長は、第16条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当時者(以下「関係当時者」という。)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)に調停を行わせるものとする。

参考:個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律

第5条(あっせんの委任)

 都道府県労働局長は、前条第一項に規定する個別労働関係紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)について、当該個別労働関係紛争の当事者(以下「紛争当事者」という。)の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において当該個別労働関係紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるものとする。

2 前条第三項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

第6条(委員会の設置)

 都道府県労働局に、紛争調整委員会(以下「委員会」という。)を置く。

2 委員会は、前条第一項のあっせんを行う機関とする。

 ※労働局の紛争調整委員会は両者(あっせん申請者と被申請者)の申し立て及び答弁を聴いた上で、両者にあっせん案(解決案)を提示し、両者がそのあっせん案を承諾すれば、和解契約としての効力が発生し両者を拘束します。だだし、判決と異なる点は、両者にあっせん案の受諾義務がない点です。

参考:あっせん制度①:個別紛争解決法 あっせん①.pdf (2701643)

   あっせん制度②:あっせん②.pdf (3055206)

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)

・調停の委任(法第18条)

(1)紛争の委任(法第18条第1項)

イ 紛争当時者(以下「関係当時者」という。)間の個別具体的な私法上の紛争について、当時者間の自主的な解決、都道府県労働局長による紛争解決の援助に加え、公正、中立な第三者機関の調停による解決を図るため、法第16条の紛争のうち募集及び採用に関する紛争を除いたものについて、関係当時者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせるものとすることとしたものであること。

ロ 「関係当時者」とは、現に紛争の状態にある労働者及び事業主をいうものであること。したがって、労働組合等の第三者は関係当時者にはなりえないものであること。

ハ 「調停」とは、紛争の当時者の間に第三者が関与し、当時者の互譲によって紛争の現実的な解決を図ることを基本とするものであり、行為が法律に抵触するか否か等を判定するものではなく、むしろ行為の結果生じた損害の回復等について現実的な解決策を提示して、当事者の歩み寄りにより当該紛争を解決しようとするものであること。※互譲:互いに譲り合うこと

ニ 次の要件に該当する事案については、「当該紛争のために必要があると認められないものとして、原則として、調停に付すことは適当であるとは認められないものであること。

① 申請が、当該紛争に係る事業主の措置が行われた日(継続する措置の場合にあってはその終了した日)から1年を経過した紛争に係るものであること。

② 申請に係る紛争が既に司法的救済又は他の行政的救済に係属しているときや集団的な労使紛争にからんだものであること。※筆者加筆:都道府県労働委員会に関係する案件である場合

ホ 都道府県労働局長が「紛争の解決のために必要がある」か否かを判断するに当たっては、ニに該当しない場合は、法第15条による自主的解決の努力の状況も考慮の上、原則として調停を行う必要があると判断するものであること。

(2)調整の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第18上第2項)

 法第18条第1項の調停により、関係当時者に生じた個別具体的な私法上の紛争を円滑に解決することの重要性にかんがみれば、事業主に比べ弱い立場にある労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、労働者が調停の申請をしたことを理由とするその他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。

 「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義は、それぞれ第5の3(2)ロ及びハと同じであること。

厚生労働省作成パンフレット抜粋(均等法のあらまし)

 関係当事者間の個別紛争について、均等法第15 条、第17 条に加え、公正、中立な第三者機関の調停による解決を図るために設けられている規定であること。調停は紛争調整委員会の委員のうちから会長が指名する3人の調停委員によって行われ、調停を行うための会議を「機会均等調停会議」と称すること。

 調停の対象となる紛争は、具体的には、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職勧奨・定年・解雇・労働契約の更新、一定範囲の間接差別、婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い等、セクシュアルハラスメント、母性健康管理措置についての紛争であり、募集・採用についての紛争は対象とはならないこと。

 調停申請は関係当事者の一方からの申請でも可能であること。また、労働者が調停の申請をしたことを理由として、事業主は、その労働者に対して解雇その他不利益取扱いをしてはならないこととされていること。

調停の対象にならない紛争

 次のような場合には、紛争の解決のために必要があると認められず、原則として調停は開始されない。

 ・募集・採用に関する紛争

 ・労働組合と事業主の間の紛争や労働者と労働者の間の紛争など

 ・申請に係る紛争に関し、確定判決が出されている場合

 ・申請に係る紛争が既に司法的救済または調停以外の行政的救済に係属している場合(関係当事者双方が調停を優先させる意向がある場合を除く)

 ・申請に係る紛争が集団的な労使紛争にからんだものである場合

 ・ 事業主の措置が行われた日、または措置の内容が終了した日から1年以上経過している場合

あっせんが打ち切りになる場合

 ①本人の死亡、法人の消滅などがあった場合

 ②当事者間で和解が成立した場合

 ③調停が取り下げられた場合

 ④他の関係当事者が調停に非協力的で度重なる説得にもかかわらず出席しない場合

 ⑤対立が著しく強く、歩み寄りが困難である場合

 ⑥調停案を受諾しない場合

他法による調停

 あっせん委員会による調停は個別紛争解決法、均等法のほか、パートタイム労働法及び育児・介護休業法の規定による紛争においても行われます。

参考:紛争解決援助制度のご案内(厚生労働省作成パンフレット):均等法個別紛争.pdf (1471836)

   上記パンフレットには、事例も記載されています。

 

以上で均等法第18条を終了します。

 

均等法第18条

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均等法第15条・第16条・第17条

2015年05月19日 11:22

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第15条(苦情の自主的解決)

 事業主は、第6条、第7条、第9条、第12条及び第13条第1項に定める事項(労働者の募集及び採用に係るものを除く。)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表とする者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。

通達による確認(平成18年雇児発1011002号)

苦情の自主的解決(法第15条)

(1)企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使間で自主的に解決することが望ましいことから、事業主は、法第6条、第7条、第9条、第12条及び第13条第1項に定める事項(労働者の募集及び採用に係るものを除く。)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、労使により構成される苦情処理機関に苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るよう努めなければならないこととしたものであること。

(2)本条は、苦情処理機関に苦情の処理をゆだねることが最も適切な苦情の解決方法の一つであることから、これを例示したものであること。

(3)「苦情の処理をゆだねる等」の「等」には、事業場の人事担当者による相談等労働者の苦情を解決するために有効であると考えられる措置が含まれるものであること。

(4)苦情処理機関においては、労働者に対する差別に関する苦情のみを取り扱うのではなく、その他の事案についても、必要に応じ、関係部署との連携を保ちつつ、適切に対処することが望しいものであること。

(5)法では、労働者と事業主との間の個別紛争の解決を図るため、本条のほか、法第17条第1項において都道府県労働局長による紛争解決の援助を定め、また、法第18条第1項においては紛争調整委員会(以下「委員会」という。)による調停を定めているが、これらはそれぞれ紛争の解決のための独立した手段であり、本条による自主的解決の努力は、都道府県労働局の紛争解決の援助や委員会による調停の開始の要件とされているものではないこと。しかしながら、企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使で自主的に解決の努力を行うことが望しいものであること。

第16条(紛争の解決の促進に関する特例)

 第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第120号)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるとろによる。

※個別紛争の解決の促進に関する法律:第1条 この法律は、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての個々の求職者と事業主との間の紛争を含む。以下「個別労働関係紛争」という。)について、あっせんの制度を設けること等により、その実情に即した迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする。

通達による確認(平成18年雇児発1011002号)

紛争の解決の促進に関する特例(法第16条)

(1)雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に関する事業主の一定の措置につての労働者と事業主との間の紛争については、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)」第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、法第17条から第27条までの規定によるものとしたものであること。

(2)「紛争」とは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に関する事業主の一定の措置に関して労働者と事業主との間で主張が一致せず、対立している状態をいうものであること。

第16条のまとめ

 以下の事項に関する労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進する法律に基づく労働局長の助言・指導及び紛争調整委員会によるあっせんの対象とはならず、均等法に基づく労働局長による紛争解決の援助及び機会均等調停会議による調停の対象となる。

 ① 募集・採用
 ② 配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練
 ③ 一定範囲の福利厚生
 ④ 職種・雇用形態の変更
 ⑤ 退職勧奨・定年・解雇・労働契約の更新
 ⑥ 一定範囲の間接差別
 ⑦ 婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い等
 ⑧ セクシュアルハラスメント
 ⑨ 母性健康管理措置
 ※募集・採用については、調停の対象から除外される。

第17条(紛争の解決の援助)

 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言又は勧告をすることができる。

2 事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

通達による確認(平成18年雇児発1011002号)

・紛争の解決の援助(法第17条)

(1)紛争の解決の援助(法第17条第1項)

 法第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項、第12条及び第13条第1項に定める事項に係る事業主の一定の措置についての労働者と事業主との間の個別具体的な私法上の紛争の迅速かつ円滑な解決を図るため、都道府県労働局長は、当該紛争の当時者の双方又は一方からその解決について援助を求められた場合には、必要な助言、指導又は勧告をすることができることとしたものであること。

イ 「紛争の当時者」とは、現に紛争の状態にある労働者及び事業主をいうものであること。したがって、労働組合等の第三者は関係当時者にはなりえないものであること。

ロ 「助言、指導又は勧告」は、紛争の解決を図るため、当該紛争の当時者に対して具体的な解決策を提示し、これを自発的に受け入れることを促す手段として定められたものであり、紛争の当時者にこれに従うことを強制するものではないこと。

(2)紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第17条第2項)

イ 法第17条第1項の紛争の解決の援助により、紛争の当時者間に生じた個別具体的な私法上の紛争を円滑に解決することの重要性にかんがみれば、事業主に比べ弱い立場にある労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、労働者が紛争の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。

ロ 「理由として」とは、労働者が紛争の解決の援助を求めたことが、事業主が当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことと因果関係があることをいうものであること。

ハ 「不利益な取扱い」とは、配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、雇用契約の更新拒否等がこれに当たるものであること。

 なお、配置転換等が不利益な取扱いに該当するかについては、給与その他の労働条件、職務内容、職制上の地位、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について、旧勤務との総合的に比較考慮の上、判断すべきものであること。

厚生労働省作成パンフレットより抜粋(均等法のあらまし)

 労働局長による紛争解決の援助の対象となる紛争は、具体的には、募集・採用、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職勧奨・定年・解雇・労働契約の更新、一定範囲の間接差別、婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い等、セクシュアルハラスメント、母性健康管理措置についての紛争とされている。

 労働局長は、援助を求められた場合には両当事者から事情を聴取し、必要なときは調査を行い、適切に助言、指導又は勧告をして紛争解決の援助を行うこととされている。この援助は、私法上の紛争である労働者と事業主間の紛争解決を、両当事者の意思を尊重しつつ迅速・簡便に行うことを目的とするものであり、両当事者以外の申立てや職権で行われることはないこと。

 また、労働者が労働局長に紛争解決の援助を求めたことを理由として、事業主は、その労働者に対して解雇その他不利益取扱いをしてはならない旨が規定されている。「不利益取扱い」の内容としては、配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、雇用契約の更新拒否などが挙げられること。

参考:公益通報者保護法(平成十六年六月十八日法律第百二十二号) 内閣府所管

第1条 (目的)

 この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。

第3条(解雇の無効)
  公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。

一  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
二  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
三  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ホ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

第5条(不利益取扱いの禁止)
  第三条に規定するもののほか、第二条第一項第一号に掲げる事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない。
2  前条に規定するもののほか、第二条第一項第二号に掲げる事業者は、その指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、当該公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いをしてはならない。

※公的機関に自己の法益を求める訴えを行うことは、日本の社会では従来忌避されて来た行いに該当します。そのため、実際に労働者が公的機関(均等法の場合は労働局や裁判所の労働審判等)に相談や援助を求めた場合には、事業主や同僚・上司の応対が悪化(ハラスメントの対象者となる等)することが想定されます。均等法による労働局への相談や援助の求めは、公益通報法ほど影響が大きい(均等法事案は自分自身の事柄に限られるため)わけではありませんが、本人にとっては通常それ相当の覚悟が必要となります。※注:ハラスメント=いやがらせ

 そこで、均等法第17条第2項の規定により、労働局(雇用均等室)に相談や援助等を申し出た労働者について、少なくとも法規定上で保護しようとするものです。

 

 

以上で均等法第15条、第16条、第17条を終了します。

 

均等法第15条、第16条、第17条

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均等法第14条

2015年05月18日 15:51

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第14条(国の事業主に対する相談・援助)

 国は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇が確保されることを促進するため、事業主が雇用の分野における均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とする次に掲げる措置を講じ、又は講じようとする場合には、当該事業主に対し、相談その他の援助を行うことができる。

一 その雇用する労働者の配置その他雇用に関する状況の分析

ニ 前号の分析に基づき雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善するに当たって必要となる措置に関する計画の作成

三 前号の計画で定める措置の実施

四 前三号の措置の実施状況の開示

通達による確認(平成18年雇児発第1011002号)

・事業主に対する国の援助(法第2章第3節)

1.雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確保するためには、企業の制度や方針において、労働者に対する性別を理由とする差別の禁止に関する規定を遵守することに加えて、固定的な男女の役割分担意識に根ざす制度や慣行に基づき企業において、男女労働者の間に事実上生じている格差に着目し、このような格差の解消を目指して事業主が積極的かつ自主的に雇用管理の改善に取り組むことが望しい。このため、法第14条は、このような取組を行う事業主に対し、国が相談その他の援助を行うことができる旨を規定し、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の観点から、労働者の能力発揮を促進するための総合的な雇用管理の改善の取組を促すこととしたものであること。

2.本条柱書き及び第2号の「支障となっている事情」の意義は、第2の3(2)と同じであること。

※「支障となっている事情」とは、固定的な男女の役割分担意識に根ざすこれまでの企業における制度や慣行が原因となって、雇用の場において男女労働者の間に事実上の格差が生じていることをいうものであること。この格差は最終的には男女労働者数の差となって表れるものであることから、事情の存否については、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない状況にあるか否かにより判断することが適当であること。

3.「その他の援助」としては、助言、情報提供が考えられるものであること。

4.第1号の「雇用に関する状況の分析」とは、企業において女性労働者(男性労働者)が男性労働者(女性労働者)と比べてどのような現状にあるかを客観的に把握し、その状況にアンバランスがある場合にはその原因を分析し、問題点を発見することをいうものであること。

5.第2号の「必要となる措置に関する計画の作成」とは、第1号の分析結果を踏まえて、男性労働者の間に事実上生じている格差を改善するための措置についての計画を作成することをいうものであること。計画の作成に当たっては、現実に即した具体的な目標及び目標を達成するための具体的取組を実施する目安となる期間を設定し、目標に沿って、発見された問題の解決に効果的な具体的措置を検討・策定することが望ましいものであること。

6.第3号の「計画で定める措置の実施」とは、第2号の計画で定めた具体的措置を実際に実施することをいうものであること。

 すなわち、本号に基づき事業主が実際に実施する措置には、女性のみを対象とした措置又は男性と比較して女性を有利に取り扱う措置と、男女双方を対象とした措置の両方が含まれるものであるが、前者については、法第8条により法に違反しないこととされた措置に限られるものであること。すなわち、法第5条及び第6条に規定する措置であって男性のみを対象とした措置又は女性と比較して男性を有利に取り扱う措置は許容されていないこと。

7.第4号の「必要な体制の整備」とは、第1号から第3号までの一連の取組等を行うために必要な体制を整備していくことをいうものであること。

8.第5号の「実施状況の開示」とは、第1号から第4号までの事業主の措置の実施状況を開示することをいう。

厚生労働省作成パンフレットより(均等法のあらまし)

ア 均等法第14条と第8条の関係

 均等法第14 条の「ポジティブ・アクション」として講じられる具体的措置としては、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置と男女双方を対象として行う措置の両方があるが、このうち、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置については、事業主が講ずることができるのは、第8条により法違反とはならないこととされた措置に限定される。

ロ 国の援助の具体的内容

 厚生労働省は、各地で経営者団体や各種業界団体と連携を図りながら、ポジティブ・アクションの重要性、手法についての事業主の理解を深めるよう周知を図るとともに、企業のポジティブ・アクションの具体的取組を援助するため、次のような事業を実施していること。           

 ① 行政と経営者団体が連携して「女性の活躍推進協議会」を開催。

 参考:女性の活躍推進協議会 https://www.mhlw.go.jp/positive-action.sengen/

 ②  「均等・両立推進企業表彰」を公募により実施し、ポジティブ・アクションを推進する企
業を表彰。

 ③  事業所から選任された機会均等推進責任者の活動を促すために、ポジティブ・アクショ
ンに関する情報提供を実施。

 ④  ポジティブ・アクション情報ポータルサイトにおいて、各企業のポジティブ・アクショ
ンの取組など各種情報を幅広く提供するとともに、企業が自社の女性の活躍推進の状況を自己診断できるシステムの運営。

 ⑤  使用者団体や労働組合などと連携して、男女間格差の「見える化」をするための支援ツールの作成・普及。                     

 ⑥  女性労働者が就業を継続していけるような環境づくりを促進するため、自社の取組を踏まえた企業経営者からのメッセージ集や女性管理職等からの女性社員へのヒント集を作成・普及するとともに、メンター制度の導入及びロールモデルの育成のためのマニュアルを作成・普及。

ポジティブアクションの進め方資料

 厚生労働省は、第14条に基づくポジティブアクションの進め方の資料やHPの作成を行っています。

参考:パンフレット ポジティブアクションの進め方.pdf (2236620)

   応援サイト https://www.positiveaction.jp/pa/   ※厚生労働省委託事業

 このHP(ポジティブアクション応援サイト)では、具体的な企業の取組事例の概略が掲載されています。ご参考にしていただけるかと思います。

ポジティブアクションの取組状況

 産業・規模、ポジティブ・アクションの取組状況別企業割合(H25) 付表67 https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/dl/13e-6.pdf

    企業規模等          取り組んでいる

     10人以上           16.9%

     30人以上           20.8%

    5000人以上           64.0%

 1000人~4999人            41.8%

   300~999人            32.4%

   100~299人            27.4%

    30~99人            17.2%

    10~29人            14.8%

 平成25年度のポジティブアクションに関する取組状況は、以上のような状況となっています。

           

  

以上で均等法第14条を終了します。

 

均等法第14条

 

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均等法第12条、第13条

2015年05月18日 10:50

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第12条(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)

 事業主は、厚生労働者省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和40年法律第141号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

第13条

 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

3 第4条第4項及び第5項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第4項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

※均等法第4条第4項:厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする。第5項:厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めたときは、遅滞なく、その概要を公表するものとする。

均等法施行規則

第2条の3(法第12条の措置)

 事業主は、次に定めるところにより、その雇用する女性労働者が保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

一 当該女性労働者が妊娠中である場合にあつては、次の表の上欄に掲げる妊娠週数の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる期間内ごとに一回、当該必要な時間を確保することができるようにすること。ただし、医師又は助産師がこれと異なる指示をしたときは、その指示するところにより、当該必要な時間を確保することができるようにすること。

  妊娠週数         期間

 妊娠23週まで         4週

 妊娠24週から35週まで    2週

 妊娠36週から出産まで    1週

ニ 当該女性労働者が出産後1年以内である場合にあっては、医師又は助産師が保健指導又は健康診査を受けることを指示したときは、その支持するところにより、当該必要な時間を確保することができるようにすること。

通達による確認 平成18年通達

・妊娠中及び第13条、則第2条の3並びに「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため事業主が講ずべき措置に関する指針(平成9年労働省告示第105号)」の趣旨及びその解釈については、引き続き「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律の一部施行(第二次施行分)について(平成9年11月14日付け基発第695号、女発第36号)」によるものとすること。

参考:平成9年労働省告示第105号 妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために.doc (50688)

   平成9年11月4日付け基発第695号、女発第36号 ○雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律の一部施.doc (141824)

・深夜業に従事する女性労働者に対する措置(則13条)

(1)平成11年4月1日以降女性労働者に対する深夜業の規制が解消されたが、女性が充実した職業生活を送るためには、深夜業に従事する女性労働者の通勤及び業務の遂行の際における防犯面からの安全の確保が必要である。しかしながら、従来女性の深夜業は原則として法律上禁止されていたため、事業主において深夜業に従事する女性労働者の安全の確保に関する取組が十分になされない懸念も存在する。このため、則第13条は、法第2条第2項に規定された事業主の責務の一部を具体化するものとして、事業主は、当分の間、女性労働者を深夜業に従事させる場合には、通勤及び業務の遂行の際における当該女性労働者の安全の確保に必要な措置を講ずるように務めるべきことを明らかにしたものであること。

(2)「当分の間」とは、深夜業に従事する女性労働者に関して通勤及び業務の際における安全の確保に必要な措置が十分に講じられるようになるまでの間をいうものであり、具体的な年限を限ったものではないこと。

(3)「通勤」とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいうものであること。

(4)「業務の遂行」とは、労働者が実際にその業務についている状態をいうものであること。

(5)「安全の確保に必要な措置」の内容は、具体的には「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針(平成10年労働省告示第21号)」2(1)に明らかにされているものであること。この指針の解釈については、「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針について(平成10年6月11日付け女発第170号)」によられたいこと。

参考:平成10年労働省告示第21号 ○深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針.doc (59392)

   平成10年6月11日 女発第170号 ○深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針について.doc (81408)

均等法施行規則第13条(深夜業に従事する女性労働者に対する措置)

 事業主は、女性労働者の職業生活の充実を図るため、当分の間、女性労働者を深夜業に従事させる場合には、通勤及び業務の遂行の際における当該女性労働者の安全の確保に必要な措置を講ずるように務めるものとする。

厚生労働省作成パンフレットによる第12条及び第13条のまとめ

均等法第12条(母性健康管理の措置)

注:妊産婦とは、妊娠中及び産後1年を経過しない女性のこと

イ 対象となる健康診断等

 この法律でいう保健指導又は健康診断とは、妊産婦本人を対象に行われる産科に関する診察や諸検査と、その結果に基づいて行われる個別の保健指導のこと。(以下「健康診査等」という。)

ロ 確保すべき必要な時間

 事業主は、女性労働者からの申出があった場合に、勤務時間の中で、健康診査等を受けるために必要な時間を与えなければならない。

・健康診査等に必要な時間については、

 ① 健康診査の受診時間

 ② 保健指導を直接受けている時間

 ③ 医療機関等での待ち時間

 ➃ 医療期間等への往復時間

をあわせた時間を考慮にいれて、十分な時間を確保できるようにすること。

・なお、女性労働者が自ら希望して、会社の休日等に健康診査等を受けることを妨げるものではない。

(1)健康診査を受けるために必要な時間の確保の回数等

イ 受診のために確保しなければならない回数

(イ)妊娠中

  妊娠23週までは4週間に1回

  妊娠24週から35週までは2週間に1回

  妊娠36週以後出産までは1週間に1回

・ただし、医師または助産師(以下「医師等」という。)がこれと異なる指示をしたときは、その指示に従って、必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

・「妊娠週数」は、最終月経の第1日目を0日にして最初の1週を0週として数える。通常、女性労働者の担当の医師等が示してくれるもの。

・通院のために必要な時間の申請は、原則として医師等により妊娠が確定された後となる。

(ロ)産後(出産後1年以内)

 医師等が健康診査等を受けることを指示したときは、その指示するところにより、必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

・産後の経過が正常な場合は、通常、産後休業期間中である産後4週間後に1回、健康診査等を受けることとなっている。

 しかし、産後の回復不全等の症状で、健康診査等を受診する必要のある女性労働者もいるので、その場合には、必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

ロ 回数の数え方

・「1回」とは、健康診査とその結果に基づく保健指導をあわせたもの。通常、健康診査と保健指導は同一の日に引き続き行われるが、医療期間等によっては健康診査に基づく保健指導を別の日に実施することもある。この場合には、両方で1回とみなすので、事業主は、女性労働者が健康診査を受診した日とは別の日に保健指導のみ受ける場合についても、時間を確保することが必要になる。

・「期間」は、原則として、受診日の翌日から数えて、その週数目の受診日と同じ曜日までとなる。例えば、「4週」の場合は、ある受診日が木曜日である場合、その週から数えて4週目に当たる週の木曜日までの期間をいう。事業主は、その期間内に次回の通院時間を確保できるようにしなければならない。

(2)必要な時間の確保方法

イ 必要な時間の与え方及び付与の単位

 通院休暇制度を設ける場合には、個々の労働者によって、通院する医療機関等と勤務地との距離が異なったり、医師等に指定される診療時間も一定ではないので、個々の事情に配慮し、通院に要する時間の付与単位は、融通をもたせるようにすることが望まれる。

 例えば、半日単位、時間単位等でも取れるようにしておくとよい。

・通院する医療機関等は、原則として、本人が希望する医療機関等とすること。

ロ 業務との調整等

 健康診査等を受けるための通院日は、原則として女性労働者が希望する日(医師等が指定した日)にすること。

・事業主が通院日を会社の休日又は女性労働者の非番日に変更させることや休日以外の申請を拒否することは原則としてできない。

・事業主が業務の都合等により、やむを得ず通院日の変更を行わせる場合には、変更後の通院日には、原則として、女性労働者本人が希望する日とすること。

ハ 通院休暇の申請手続

(イ)申請に必要な事項

 女性労働者が事業主に対して健康診査等に必要な時間を申請するに当たっては、通院の月日、必要な時間、医療機関等の名称及び所在地、妊娠週数等を書面で申請することが望まれる。

(ロ)申請に必要な書類

 事業主は、妊娠週数又は出産予定日を確認する必要がある場合には、女性労働者の了承を得て、出産予定日証明書等の証明書類の提出を求めることができる。

・ただし、証明する書類として母子健康手帳を女性労働者に開示させることは、プライバシー保護の観点から好ましくない。

(ハ)申請時期

 健康検査等に必要な時間の申請は、原則として事前に行う必要がある。ただし、事業主が、事後の申請について、遡って承認することを妨げるものではない。

2 指導事項を守ることができるようにするための事項(法第13条)

・指導事項を守ることができるようにするための措置

 事業主が講じなければならないようにするための措置

 ① 妊娠中の通勤緩和

 ② 妊娠中の休憩に関する措置

 ③ 妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置

 事業主はこれらの措置を決定した場合には、決定後速やかに女性労働者に対してその内容を明示すること。その際は、書面による明示が望しい。

(1)妊娠中の通勤緩和

イ 電車、バス等の公共交通機関の他、自家用車による通勤も通勤緩和の措置の対象となる。

ロ 措置の具体的内容としては、次のようなものが考えられる。

(イ)時差通勤

・始業時間及び週四時間に各々30分~60分程度の時間差を設けること

・労働基準法第32条に規定するフレックスタイムの制度を適用すること

(ロ)勤務時間の短縮

・1日30~60分程度の時間短縮

(ハ)交通手段・通勤経路の変更

・混雑の少ない経路への変更

均等法施行規則第13条(深夜業に従事する女子労働者に対する措置)

(1)通勤及び業務の遂行の際における安全の確保

 送迎バスの運行、公共交通機関の運行時間に配慮した勤務時間の設定、従業員駐車場の防犯灯の整備、防犯ベルの貸与等を行うことにより、深夜業に従事する女性労働者の通勤の際における安全を確保するよう務めること。

 また、防犯上の観点から、深夜業に従事する女性労働者が一人で作業をすることを避けるよう務めること。

(2)子の養育又は家族の介護灯の事情に関する配置

 雇用する女性労働者を新たに深夜業に従事させようとする場合には、子の養育又は家族の介護、健康等に関する事情を聴くこと等について配慮するよう務めること。

 また、子の養育又は家族の介護を行う一定範囲の労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、深夜業をさせてはならないこと。

・深夜業の制限を請求できる労働者

 小学校入学までの子の養育又は要介護状態にある一定範囲の家族の介護を行う労働者

※以下に該当する労働者を除く

  1)日々雇用される労働者

  2)勤続1年未満の労働者

  3)保育・介護ができる同居の家族がいる労働者

   保育・介護ができる同居家族とは、16歳以上であって、以下の全てに該当する者をいう。

  イ 深夜に就業していないこと(深夜の就業日数が1月について3日以下の者を含む。)

  ロ 負傷、疾病又は心身の障害により請求に係る子又は家族を保育・介護することが困難でないこと

  ハ 産前産後でないこと

  4)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

  5)所定労働時間の全部が深夜にある労働者

○その他

 均等法第12条、第13条についての、特段の考察事項はありません。代わりに(財)女性労働協会のホームページのご案内をいたします。

一般財団法人女性労働協会:https://www.bosei-navi.go.jp

 

以上で均等法第12条、第13条を終了します。

 

均等法第12条・第13条

 

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均等法第11条

2015年05月16日 11:34

雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律

第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)

 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

3 第4条第4項及び第5項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第4項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

※均等法第4条第4項:厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする。第5項:厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めたときは、遅滞なく、その概要を公表するものとする。

通達による確認(平成18年通達)

・職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(法第11条)

(1)職場におけるセクシャルハラスメントは、労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけ、能力の有効な発揮を妨げるとともに、企業にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える問題であり、社会的に許されない行為であることは言うまでもない。特に、職場におけるセクシャルハラスメントは、いったん発生すると、被害者に加え行為者も退職に至る場合がある等双方にとって取り返しのつかない損失を被ることが多く、被害者にとって、事故に裁判に訴えることは、躊躇せざるを得ない面があることを考えると、未然の防止対策が重要である。

 また、近年、女性労働者に対するセクシャルハラスメントに加え、男性労働者に対するセクシャルハラスメントの事案も見られるようになってきたところである。

 こうしたことから、法第11条第1項は、職場におけるセクシャルハラスメントの対象を男女労働者とするとともに、その防止のため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務付けることとしたものであること。

 また、第2項は、これらの措置の内容を具体化するために、厚生労働大臣が指針を定め、公表することとしたものであること。

(2)指針は、事業主が防止のため適切な雇用管理上の措置を講ずることができるようにするため、防止の対象とするべき職場におけるセクシャルハラスメントの内容及び事業主が雇用管理上措置すべき事項を定めたものであること。

イ 職場におけるセクシャルハラスメントの内容

 指針2「職場におけるセクシャルハラスメントの内容」においては、事業主が、雇用管理上防止すべき対象としての職場におけるセクシャルハラスメントの内容を明らかにするために、その概念の内容を示すとともに、典型例を挙げたものであること。

 また、実際上、職場におけるセクシャルハラスメントの状況は多様であり、その判断に当たっては、個別の状況を斟酌する必要があることに留意すること。

 なお、法及び指針は、あくまで職場におけるセクシャルハラスメントが発生しないよう防止することを目的とするものであり、個々のケースが厳密に職場におけるセクシャルハラスメントに該当するか否かを問題とするものではないので、この点に注意すること。

 ① 職場

 指針2(2)は「職場」の内容と例示を示したものであること。

 「職場」には、業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外の場所であっても、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店(接待の席も含む)、顧客の自宅(保健外交員等)の他、取材先(記者)、出張及び業務で使用する車中等も含まれるものであること。

 なお、勤務時間外の「宴会」等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当するが、その判断に当たっては、職場との関連性、参加者、参加が強制的か任意かを考慮して個別に行うものであること。

 ② 性的な言動

 指針2(4)は「性的な言動」の内容と例示を示したものであること。「性的な言動」に該当するためには、その言動が性的性質を有することが必要であること。

 したがって、例えば、女性労働者のみに「お茶くみ」等を行わせること自体は性的な言動には該当しないが、固定的な性別役割分担意識に係る問題、あるいは配置に係る女性差別の問題としてとらえることが適当であること。

 「性的な言動」には、(イ)「性的な発言」として、性的な事実関係を尋ねると、性的な内容の情報(噂)を意図的に流布することのほか、性的冗談、からかい、食事・デート等への執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すこと等が、(ニ)「性的な行動」として、性的な関係の強要、必要なく身体に触ること、わいせつな図画(ヌードポスター等)を配布、掲示することのほか、強制わいせつ行為、強姦等が含まれるものであること。

 なお、事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者及び学校における生徒等もセクシャルハラスメントの行為者になり得るものであり、また、女性労働者が女性労働者に対して行う場合や、男性労働者が男性労働者に対して行う場合についても含まれること。

 ③ 対価型セクシャルハラスメント

 指針2(5)は対価型セクシャルハラスメントの内容とその典型例を示したものであること。

 「対応により」とは、例えば、労働者の拒否や抵抗等の対応が、解雇、降格、減給等の不利益を受けることと因果関係があることを意味するものであること。

 「解雇、降格、減給等」とは労働条件上不利益を受けることの例示であり、「等」には、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換等が含まれるものであること。

 なお、指針に掲げる対価型セクシャルハラスメントの典型的な例は限定列挙ではないこと。

 ➃ 環境型セクシャルハラスメント

 指針2(6)は環境型セクシャルハラスメントの内容とその典型例を示したものであること。

 「労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」とは、就業環境が害されることの内容であり、単に性的言動のみでは就業環境が害されたことにはならず、一定の客観的要件が必要であること。

 具体的には個別の判断となるが、一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得るものであること。

 また、継続性又は繰り返しが要件となるものであっても、明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態の場合又は心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合には、就業環境が害されていると解し得るものであること。

 なお、指針に掲げる環境型セクシャルハラスメントの典型的な例は限定列挙ではないこと。

 ⑤ 「性的な言動」及び「就業環境が害される」の判断基準

 「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境を害される」の判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対処となることを考えると一定の客観性が必要である。具体的には、セクシャルハラスメントが、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であること。

 ただし、労働者が明確に意に反することを示しているにも関わらず、さらに行われる性的言動は職場におけるセクシャルハラスメントと解され得るものであること。

ロ 雇用管理上講ずべき事項

 指針3は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として10項目挙げており、これらについては、企業の規模や職場の状況の如何を問わず必ず講じなければならないものであること。

 また、措置の方法については、企業の規模や職場の状況に応じ、適切と考える措置を事業主が選択できるよう具体例を示してあるものであり、限定列挙ではないこと。

 ① 「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」

 指針3(1)は、職場におけるセクシャルハラスメントを防止するためには、まず事業主の方針として職場におけるセクシャルハラスメントを許さないことを明確にするとともに、これを従業員に周知・啓発しなければならないことを明らかにしたものであること。

 「その発生の原因や背景」とは、例えば、企業の雇用管理の問題として労働者の活用や能力発揮を考えていない雇用管理の在り方や労働者の意識の問題として同僚である労働者を職場における対等なパートナーとして見ず、性的な関心の対象として見る意識の在り方が挙げられるものであること。さらに、両者は相互に関連して職場におけるセクシャルハラスメントを起こす職場環境を形成すると考えられること。また、「その発生の原因や背景」には、性別役割分担意識に基づく言動も考えられることを明らかにしたものであり、事業主に対して留意すべき事項を示したものであること。

 イ①並びにロ①及び②の「その他の職場における服務規律等を定めた文書」として、従業員心得や必携、行動マニュアル等、就業規則の本則ではないが就業規則の一部を成すものが考えられるが、これらにおいて懲戒規定を定める場合には、就業規則の本則にその旨の委任規定を定めておくことが労働基準法上必要となるものであること。

 イ③の「研修、講習等」を実施する場合には、調査を行う等職場の実態を踏まえて実施する、管理職層を中心に職階別に分けて実施する等の方法が効果的と考えられること。

 ② 「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」

 指針3(2)は、職場におけるセクシャルハラスメントの未然防止及び再発防止の観点から相談(苦情を含む。以下同じ。)への対応のための窓口を明確にするとともに、相談の対応に当たっては、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制を整備しなければならないことを明らかにしたものであること。

 指針3(2)ロの「窓口をあらかじめ定める」とは、窓口を形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることをいうものであること。この際、労働者が利用しやすい体制を整備しておくこと、労働者に対して周知されていることが必要であり、例えば、労働者に対して窓口の部署又は担当者を周知していることなどが考えること。

 なお、対応に当たっては、公正な立場に立って、真摯に対応すべきことは言うまでもないこと。

 指針3(2)ロの「広く相談に対応し」とは、職場におけるセクシャルハラスメントを未然に防止する観点から、相談の対象として、職場におけるセクシャルハラスメントそのものでなくともその発生のおそれがある場合やセクシャルハラスメントに該当するか否か微妙な場合も幅広く含めることを意味するものであること。例えば、指針3(2)ロで掲げる、放置すれば相談者が業務に専念できないなど就業環境を害するおそれがある場合又は男性若しくは女性に対する差別意識など性別役割分担意識に基づく言動が原因や背景となってセクシャルハラスメントが生じるおそれがある場合のほか、勤務時間後の宴会等においてセクシャルハラスメントが生じた場合等も幅広く相談の対象とすることが必要であること。

 指針3(2)ロ②の「留意点」には、相談者が相談窓口の担当者の言動等によってさらに被害を受けること等(いわゆる「二次セクシャルハラスメント」)を防止するために必要な事項も含まれるものであること。

 ③ 「職場におけるセクシャルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」

 指針3(3)は、職場におけるセクシャルハラスメントが発生した場合は、その事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するとともに、当該事案に適正に対処しなければならないことを明らかにしたものであること。

 指針3(3)ロ①の「事業場内産業保健スタッフ等」とは、事業場内産業保健スタッフ及び事業場内の心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ等をいうものであること。

ハ 併せて講ずべき措置

 指針3(4)は、事業主が(1)から(3)までの措置を講ずるに際して併せて講ずべき措置を明らかにしたものであること。

 指針3(4)イは、労働者の個人情報については、「個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)」及び「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針(平成16年厚生労働省告示第259号)」に基づき、適切に取り扱うことが必要であるが、職場におけるセクシャルハラスメントの事案に係る個人情報は、特に個人のプライバシーを保護する必要がある事項であることから、事業主は、その保護のために必要な措置を講じるとともに、その旨を労働者に周知することにより、労働者が安心して相談できるようにしたものであること。

 指針3(4)ロは、実質的な相談ができるようにし、また、事実関係の確保をすることができるようにするためには、相談者や事実関係の確認に協力した者が不利益な取扱いを受けないことが必要であることから、これらを理由とする不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、さらにその旨を労働者に周知・啓発することとしたものであること。

 また、上記については、事業主の方針の周知・啓発の際や相談窓口の設置にあわせて、周知することが望しいものであること。

事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針:セクハラ対処指針.pdf (291738)

事業主の対処措置

 セクハラについては、「その他の労働条件の考察『セクハラ・パワハラの問題』」の項目で裁判例を含め記述しています。そこで、ここでは事業主の取るべき対処措置に限定して記述します。

・事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号) 抜粋

・事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容

 事業主は、職場におけるセクシャルハラスメントを防止するため、雇用管理上次の措置を講じなければならない

(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

 事業主は、職場におけるセクシャルハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない。

 なお、周知・啓発をするに当たっては、職場におけるセクシャルハラスメントの防止の効果を高めるため、その発生の原因や背景について労働者の理解を深めることが重要である。その際、セクシャルハラスメントの発生の原因や背景には、性別役割分担意識に、基づく言動もあると考えられ、こうした言動をなくしていくことがセクシャルハラスメントの防止の効果を高める上で重要であることに留意することが必要である。

イ 職場におけるセクシャルハラスメントの内容及び職場におけるセクシャルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

(方針を明確化し、労働者に周知。啓発していると認められる例)

① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるセクシャルハラスメントがあってはならない旨の方針を規定し、当該規定と併せて、職場におけるセクシャルハラスメントの内容及び性別役割分担意識に基づく言動がセクシャルハラスメントの発生の原因となり得ることを、労働者に周知・啓発すること。

② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場におけるセクシャルハラスメントの内容及び性別役割分担意識に基づく言動がセクシャルハラスメントの発生の原因や背景となり得ること並びに職場におけるセクシャルハラスメントがあってはならない旨の方針を記載し、配布等すること。

③ 職場におけるセクシャルハラスメントの内容及び性別役割分担意識に基づく言動がセクシャルハラスメントがあってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。

ロ 職場におけるセクシャルハラスメントに係る性的な言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

(方針を定め、労働者に周知・啓発していると認められる例)

① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるセクシャルハラスメントに係る性的な言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること。

② 職場におけるセクシャルハラスメントに係る性的な言動を行った者は、現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること。

(2)相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

 事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない

イ 相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)をあらかじめ定めること。

(相談窓口をあらじめ定めていると認められる例)

① 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。

② 相談に対応するための制度を設けること。

③ 外部の機関に相談への対応を委託すること。

ロ イの相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じた適切に対応できるようにすること。

また、相談窓口においては、職場におけるセクシャルハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるセクシャルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、性別役割分担意識に基づく言動が原因や背景となってセクシャルハラスメントが生じるおそれがある場合等が考えられる。

(相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例)

① 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。

② 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点まどを記載したマニュアル基づき対応すること。

(3) 職場におけるセクシャルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 事業主は、職場におけるセクシャルハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。

イ 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

(事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認していると認められる例)

① 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談を行った労働者(以下「相談者」という。)及び職務におけるセクシャルハラスメントに係る性的な言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)の双方から事実関係を確認すること。

 また、相談者と行為者の間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。

② 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第18条に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。

ロ イにより、職場におけるセクシャルハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者(以下「被害者」という。)に対する配慮のための措置を適性に行うこと。

(措置を適正に行っていると認められる例)

① 事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタル不調への相談対応等の措置を講ずること。

② 法第18条に基づく調停(※労働局の相談対応、あっせん調停のこと)その他中立的な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること。

ハ イにより、職場におけるセクシャルハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。

(措置を適正に行っていると認められる例)

① 就業規則その他の職場における服務規律を定めた文書におけるセクシャルハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。併せて事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復等の措置を講ずること。

② 法第18条に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。

ニ 改めて職場におけるセクシャルハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。

  なお、職場におけるセクシャルハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。

(再発防止に向けた措置を講じていると認められる例)

① 職場におけるセクシャルハラスメントがあってはならない旨の方針及び職場におけるセクシャルハラスメントに係る性的な言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること。

② 労働者に対して職場におけるセクシャルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること。

(4)(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置

  (1)から(3)までの措置と併せて講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。

イ 職場におけるセクシャルハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該セクシャルハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。

(相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていると認められる例)

① 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること。

② 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。

③ 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること。

ロ 労働者が職場におけるセクシャルハラスメントに関し相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

(不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者にその周知・啓発することについて措置を講じていると認められる例)

① 就業規則その他の職場における職務規律等を定めた文書において、労働者が職場におけるセクシャルハラスメントに関し相談をしたこと、又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること。

② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、労働者が職場におけるセクシャルハラスメントに関し相談をしたこと、又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること。

セクハラに関するまとめ

 セクハラに関する雇用管理上の措置は、均等法第11条第1項により、「必要な措置を講じなければならない。」として、措置義務が明確化され不作為が不法行為に該当する規定となっています。

 物事は大きくなってから対処しようとすると、その対処に必要な労力も費用も大きくなってしまいます。しかも、法律で義務付けられているわけですから、なんらかの対応をすべきかと思います。平成25年度の都道府県労働局の均等室に相談があった件数は21,418件(相談者は労使双方、その内労働者の相談件数は11,057件・51.6%)であり、内セクハラに関する相談件数は9,230件✩1(約43.1%)でした。※出典:平成 25 年度 都道府県労働局雇用均等室での法施行状況の公表

 全国の都道府県労働局に相談があった個別労働紛争の平成25年度の相談件数は、1,050,042件✩2でした。セクハラ相談件数と比較すると約2.0%(✩1÷(✩1+✩2)×100)に相当します。※出典:平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況 この件数を多いとみるか少ないとみるかですが、将来的に女性労働者が十分に活躍できる職場環境を構築するためには、無視してはならない数字かと考えます。

 

以上で均等法第11条を終了します。

 

均等法第11条

 

 

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均等法第10条

2015年05月16日 10:05

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第10条(指針)

 厚生労働大臣は、第5条から第7条まで及び前条第1項から第3項までの規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

2 第4条第4項及び第5項の規定は指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第4項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

※均等法第4条第4項:厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする。第5項:厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めたときは、遅滞なく、その概要を公表するものとする。

通達による確認

・指針(法第10条)

(1)法第10条は、法第5条から第7条まで及び第9条第1項から第3項までに定める事項に関し、事業主が適切に対処することができるよう、厚生労働大臣が指針を定め、公表することとしたものであること。

(2)指針は、法により性別を理由とする労働者に対する差別が禁止されることとなった直接差別(募集、採用、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種及び雇用形態の変更、退職の勧奨、定年及び解雇)、間接差別、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い(婚姻・妊娠・出産を理由として予定する定め、婚姻したことを理由とする解雇、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱い)各分野について、禁止される措置として具体的に明らかにする必要があると認められるものについて定めたものであること。指針に定めた例はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の措置についても違法となる場合があること。

 また、指針においては、法第5条から第7条までに関し、男女双方の例を挙げているものと男性又は女性の一方のみの例を挙げているものがあるが、これは、例示という性格にかんがみ、現実に男性及び女性の双方への差別が起こる可能性が高いものについては男女双方の例を、現実には一方の性に対する差別が起こる可能性が低いものについては男性又は女性の一方のみの例を掲げたものであること。したがって、男性又は女性のみの例示であるからといって、他方の性に対する差別を行ってよいというものではないこと。

(3)指針第2の2(2)から13(2)までの「排除」とは、機会を与えないことをいうものであること。

(4)指針第2の3(2)の「一定の職務」とは、特定の部門や特定の地域の職務に限られるものではなく、労働者を配置しようとする職務一般をいうものであること。これは、指針第2の6(2)において同様であること。

(5)指針第2の1の「その他の労働者につての区分」としては、例えば、勤務地の違いによる区分が考えられるものであること。

(6)指針第2の14(2)は、男女異なる取扱いをすることに合理的な理由があると認められることから、法違反とはならないものについて、明らかにしたものであること。

イ 指針第2の14(2)イ①には、俳優、歌手、モデル等が含まれるものであること。

 ①には守衛、警備員であればすべて該当するというものではなく、単なる受付、出入り者のチェックのみを行う等防犯を本来の目的とする職務でないものは含まれないものであること、また、一般的に単なる集金人等は含まれないが、専ら高額の現金を現金輸送車等により輸送する業務に従事する職務は含まれるものであること。

 ②に「宗教上(中略)必要性があると認められる職務」とは、例えば、一定の宗派における神父、巫女等が考えられること。また、「風紀上(中略)必要性があると認められる職務」とは、例えば、女子更衣室の係員が考えられること。

 ①、②及び③はいずれも拡大解釈されるべきではなく、単に社会通念上男性又は女性のいずれか一方の性が就くべきであると考えられている職務は含まれないものであること。

ロ 指針第2の14(2)ロの「通常の業務を遂行するために」には、日常の業務遂行の外、将来確実な人事異動等に対応する場合は含まれるが、突発的な事故の発生等予期せざる事態、不確実な将来の人事異動の可能性等に備える場合等は含まれないものであること。

 労働基準法について「均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合」とは、男女の均等な取扱いが困難であることが、真に労働基準法の規定を遵守するためであることを要するものであり、企業が就業規則、労働協約等において女性労働者について労働基準法を上回る労働条件を設定したことによりこれを遵守するために男女の均等な取扱いをすることが困難である場合は含まれないものであること。

ハ 指針第2の14(2)ハの「風俗、風習等の相違により男女のいずれかが能力を発揮し難い海外での勤務とは、海外のうち治安、男性又は女性の就業に対する考え方の相違等の事情により男性又は女性が就業してもその能力の発揮が期待できない地域での勤務をいい、海外勤務にすべてがこれに該当するものではないこと。

 「特別の事情」には、例えば、勤務地が通勤不可能な山間僻地(サンカンヘキチ)にあり、事業主が提供する宿泊施設以外に宿泊することができず、かつ、その施設を男女共に利用することができない場合など、極めて特別な事情をいい、拡大して解釈されるべきではなく、例示にある海外勤務と同様な事情にあることを理由とした国内での勤務は含まれないものであること。また、これらの場合も、ロと同様、突発的な事故の発生等予期せざる事態、不確実な将来の人事異動の可能性等に備える場合等は含まれないものであること。

基本方針:男女雇用機会均等対策基本方針.pdf (740,8 kB)

指針:差別禁止等の事業主対処指針.pdf (176,5 kB)

指針について

 指針は、過去の女性の労働条件の推移と実情、結婚又は出産退職の実情、その他本来男女がほぼ同数であるべき職場(法令で禁止されている場合を除く)が、男性の職場として継続してきたり、また、低賃金の女性の職場として継続している現状を踏まえ、男女の労働条件の格差の是正を促しています。この格差是正は均等法により、または、「事業主の対処指針」により具体化されていますが、重要なことは「決め事を実際に実施できる社会の実現」であることは誰もが感じていることだと思います。

 

以上で均等法第10条を終了します。

 

均等法第10条

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均等法第9条

2015年05月15日 09:23

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同情第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 ※労基法第65条第1項の休業とは産前休業(労働者の請求が要件)のこと。同条第2項は産後休業のこと(請求がなくても就労させてはならない)。

4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

均等法施行規則

第2条の2(妊娠又は出産に関する事由)

 法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。

一 妊娠したこと

ニ 出産したこと

三 法第12条若しくは第13条第1項の規定による措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと

 ※法第12条の措置とは妊産婦の保健指導又は健康診査を受ける時間を求め、法第13条第1項の措置とは保健指導又は健康診査を受けるために勤務時間の変更又は勤務の軽減措置

四 労働基準法(昭和22年法律第49号)第64条の2第1号若しくは第64条の3第1項の規定により業務に就くことができず、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかったこと又は同法第64条の2第1号若しくは女性労働基準規則(昭和61年労働省令第3号)第2条第2項の規定による申出をし、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと

 ※労基法第64条の2第1号の規定とは妊産婦の坑内労働(禁止、産婦は申し出)、同法第64条の3第1項の規定とは妊産婦の重量物取扱い・有害業務の禁止、女性規則第2条第2項の規定とは一定のボイラー取扱い業務の禁止

五 労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、若しくは同項の規定による休業をしたこと又は同条第2項の規定により就業できず、若しくは同項の規定による休業をしたこと

 ※労基法第65条第1項の休業とは産前の休業(請求が要件)

六 労働基準法第65条第3項の規定による請求をし、又は同項の規定により他の軽易な業務に転換したこと

 ※労基法第65条第3項の規定とは妊産婦の軽易な作業への転換義務(請求が要件)

七 労働基準法第66条第1項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により一週間について同法第32条第1項の労働時間若しくは一日について同条第2項の労働時間を超えて労働しなかったこと、同法第66条第2項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により時間外労働をせず若しくは休日に労働しなかったこと又は同法第66条第3項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により深夜業をしなかったこと

 ※労基法第66条第1項の規定とは変形労働時間性の適用除外および1日8時間・1週40時間を超える時間外労働の禁止(労働者の請求が要件)、同法第66条第2項の規定とは非常時の時間外労働および36協定による時間外労働の除外(請求が要件)、同法第66条第3項の規定とは深夜業の禁止(請求が要件)

八 労働基準法第67条第1項の規定による請求をし、又は同条第2項の規定による育児時間を取得したこと

 ※労基法第67条第1項の請求とは育児時間の請求

九 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと

通達の確認

・婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(法第9条)

(1)第1条の「出産」とは、妊娠4箇月以上は(1箇月は28日といして計算する。したがって、4箇月以上というのは85日以上のことである。)の分娩をいい、生産のみならず死産をも含むものであること。

(2)第3項は、妊娠、出産は女性特有の問題であり、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るためには、妊娠、出産に関連して女性労働者が解雇その他不利益な取扱いを受けないようにすることが必要であることから、事業主がその雇用する女性労働者に対し、則第2条の2に掲げる事由を理由として解雇その他不利益な取扱いを行うことを禁止するものであること。

 なお、本項は、「その雇用する女性労働者」を対象としているものであるので、求職者は対象に含まないものであること。

(3)第3項の適用に当たっては、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)」第47条の2の規定により、派遣先は、派遣労働者を雇用する事業主とみなされること。

(4)第3項は、産前産後の休業をしたことを理由として時期を問わず解雇してはならないことを定めたものであり、労働基準法第19条とは、目的、時期、罰則の有無を異にしているが、重なり合う部分については両規定が適用されるものであること。

(5)指針第4の3(1)なお書きの「妊産婦」とは、労働基準法第64条の3第1項に規定する妊産婦を指すものであること。

(6)指針第4の3(2)のイからルまでに掲げる行為は、法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」の例示であること。したがって、ここに掲げていない行為について個別具体的な事情を勘案すれば不利益取扱いに該当するケースもあり得るものであり、例えば、長期間の昇給停止や昇進停止、期間を定めて雇用される者について更新後の労働契約の期間を短縮することなどは、不利益な取扱いに該当するものと考えられること。

イ 指針第4の3(2)ロの「契約の更新をしないこと」が不利益な取扱いとして禁止されるのは、妊娠・出産等を理由とする場合に限られるものであることから、契約の更新回数が決まっていて妊娠・出産等がなかったとしても契約は更新されなかった場合、経営の合理化のためにすべての有期契約労働者の契約を更新しない場合等はこれに該当しないものであること。

 契約の不更新が不利益な取扱いに該当することになる場合には、休業等により契約期間のすべてにわたり労働者が労務の提供ができない場合であっても、契約を更新しなければならないものであること。

ロ 指針第4の3(2)ホの「降格」とは、指針第2の5(1)と同義であり、同列の職階ではあるが異動前の職務と比較すると権限が少ない職務への異動は、「降格」には当たらないものであること。

(7)指針第4の3(3)は、不利益取扱いに該当するか否かについての勘案事項を示したものであること。

イ 指針第4の3(3)ロの「等」には、例えば、事業主が、労働者の上司等に嫌がらせ的な言動をさせるようし向ける場合が含まれるものであること。

ロ 指針第4の3(3)ハのなお書きについては、あくまでも客観的にみて他に転換すべき軽易な業務がない場合に限られるものであり、事業主が転換すべき軽易な業務を探すことなく、安易に自宅待機を命じる場合等を含むものではないことに留意すること。

ハ 指針第4の3(3)への「通常の人事異動のルール」とは、当該事業所における人事異動に関する内規等の人事異動の基本方針などをいうが、必ずしも書面によるものである必要はなく、当該事業所で行われてきた人事異動慣行も含まれるものであること。「相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせること」とは、配置転換の対象とする労働者が負うことになる経済的又は精神的な不利益が通常甘受すべき程度を著しく越えるものであることの意であること。

 ③の「原職相当職」の範囲は、個々の企業又は事業所における組織の状況、業務配分、その他の雇用管理の状況によって様々であるが、一般的に、(イ)休業後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと、(ロ)休業前と休業後とで職務内容が異なっていないこと及び(ハ)休業前と休業後とで勤務する事業所が同一であることのいずれかにも該当する場合には、「原職相当職」と評価されるものであること。

ニ 指針第4の3(3)ト①の「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められない場合とは、単に、妊娠、出産等により従来よりも労務能率が低下したというだけではなく、それが、派遣契約に定められた役務の提供ができない程度に至ることが必要であること。また、派遣元事業主が、代替要員を追加して派遣する等により、当該派遣労働者の労働能率の低下や休業を補うことができる場合についても、「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められるものであること。②においても同様であること。

(8)指針第4の3(1)ハからチまでに係る休業等については、労働基準法及び法がその権利又は利益を保障した趣旨を実質的に失わせるような取扱いを行うことは、公序良俗に違反し、無効であると判断された判例があることに留意すること。

(9)法第9条第4項は、妊娠中の女性労働者及び出産1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇についての民事的効力を定めたものであること。すなわち、妊娠中及び出産後1年以内に行われた解雇を、裁判で争うまでもなく無効にするとともに、解雇が妊娠、出産等を理由とするものではないことについての証明責任を事業主に負わせる効果があるものであること。

 このような解雇がなされた場合には、事業主が当該解雇が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを証明しない限り無効となり、労働契約が存続することとなるものであること。

事業主の対処指針(平成18年厚生労働省告示614号)

婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(法第9条関係)

1. 婚姻・妊娠・出産を退職理由として予定する定め(法第9条関係)

 女性労働者が婚姻したこと、妊娠したこと、又は出産したことを退職理由として予定する定めをすることは、法第9条第1項により禁止されるものである。

 法第9条第1項の「予定する定め」とは、女性労働者が婚姻、妊娠又は出産した場合には退職する旨をあらかじめ労働協約、就業規則又は労働契約に定めることをいうほか、労働契約の締結に際し労働者がいわゆる念書を提出する場合や、婚姻、妊娠又は出産した場合の退職慣行について、事業主が事実上退職制度として運用しているような実態がある場合も含まれる。

2.婚姻したことを理由とする解雇(法第9条第2項関係)

 女性労働者が婚姻したことを理由として解雇することは、法第9条第2項により禁止されるものである。

3.妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱い(法第9条第3項関係)

(1)その雇用する女性労働者が妊娠したことその他の妊娠又は出産に関する事由であって均等則第2条の2各号で定めるもの(以下「妊娠・出産等」という。)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることは、法第9条第3項(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第47条の規定により適用することとされる場合を含む。)により禁止されるものである。

 法第9条第3項の「理由として」とは、妊娠・出産等と、解雇その他不利益な取扱いとの間に因果関係があることをいう。

 均等則第2条の2各号においては、具体的に次のような事由を定めている。

(均等則第2条の2各号に掲げる事由) (前記のため略)

 なお、「妊娠又は出産に起因する症状(均等則第9号)」とは、つわり、妊娠悪阻(ニンシンオソ)、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいう。

 ※妊娠悪阻:つわりの症状が重篤で生理的な範囲を超えて嘔吐を繰り返し治療が必要な状態のこと

(2)法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは、例えば、次に掲げるものが該当する。

イ 解雇すること。

ロ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。

ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。

ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。

ホ 降格させること。

ヘ 就業環境を害すること。

ト 不利益な自宅待機を命ずること。

チ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

リ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。

ヌ 不利益な配置の変更を行うこと。

ル 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

(3)妊娠・出産等を理由として(2)のイからヘまでに掲げる取扱いを行うことは、直ちに不利益な取扱いに該当すると判断されるものであるが、これらに該当するか否か、また、これ以外の取扱いが(2)のトからルまでに掲げる不利益な取扱いに該当するか否かについては、次の事項を勘案して判断すること。

イ 勧奨退職や正社員をパートタイム労働者等の非正社員とするような労働契約内容の変更は、労働者の表面上の同意を得ていたとしても、これが労働者の真意に基づくものでないと認められる場合には、(2)のニの「退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと」に該当すること。

ロ 業務に従事させない、専ら雑務に従事させる等の行為は、(2)のヘの「就業環境を害すること」に該当すること。

ハ 事業主が、産前産後休業の休業終了予定日を超えて休業すること又は医師の指導に基づく休業の措置の期間を超えて休業することを労働者に強要することは、(2)のトの「不利益な自宅待機を命ずること」に該当すること。

 なお、女性労働者が労働基準法第65条第3項の規定により軽易な業務への転換の請求をした場合において、女性労働者が転換すべき業務を指定せず、かつ、客観的にみても他に転換すべき軽易な業務がない場合、女性労働者がやむを得ず休業する場合には、(2)のトの「不利益な自宅待機を命ずること」には該当しないこと。

ニ 次に掲げる場合には、(2)のチの「減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと」に該当すること。

 ① 実際には労務の不提供や労働能率の低下が生じていないにもかかわらず、女性労働者が、妊娠し、出産し、又は労働基準法に基づく産前産後の請求をしたことのみをもって、賃金又は賞与若しくは退職金を減額すること。

 ② 賃金について、妊娠・出産等に係る就労しなかった又はできなかった期間(以下「不就労期間」という。)分を超えて不支給とすること。

 ③ 賞与又は退職金の支給額の算定に当たり、不就労期間や労働能率の低下を考慮の対象とする場合において、同じ期間休業した疾病等や同程度労働能率が低下した疾病等と比較して、妊娠・出産等による休業や妊娠・出産等による労働能率の低下について不利益に取り扱うこと。

 ➃ 賞与又は退職金の支給額の算定に当たり、不就労期間や労働能率の低下を考慮の対象とする場合において、現に妊娠・出産等により休業した期間や労働能率が低下した場合を超えて、休業した、又は労働能率が低下したものとして取り扱うこと。

ホ 次に掲げる場合には、(2)のリの「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」に該当すること。

 ① 実際には労務の不提供や労働能率の低下が生じていないにもかかわらず、女性労働者が、妊娠し、出産し、又は労働基準法に基づく産前休業の請求等をしたことのみをもって、人事考課において、妊娠をしていない者よりも不利に取り扱うこと。

 ② 人事考課において、不就労期間や労働能率の低下を考慮の対象とする場合において、同じ期間休業した疾病等や同程度労働能率が低下した疾病等と比較して、妊娠・出産等による休業や妊娠・出産等による労働能率の低下について不利に取り扱うこと。

ヘ 配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについては、配置の変更の必要性、配置の変更後の賃金その他の労働条件、通勤事情、労働者の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものであるが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、当該労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせることは、(2)のヌの「不利益な配置の変更を行うこと」に該当すること。

 例えば、次に掲げる場合には、人事ローテーションなどの通常の人事異動のルールからは十分に説明できず、「不利益な配置の変更を行うこと」に該当すること。

 ① 妊娠した女性労働者が、その従事する職務において業務を遂行する能力があるにもかかわらず、賃金その他の労働条件、通勤事情が劣ることとなる配置の変更を行うこと。

 ② 妊娠・出産等に伴いその従事する職務において業務を遂行することが困難であり配置を変更する必要がある場合において、他に当該労働者を従事させることができる適当な職務があるにもかかわらず、特別な理由もなく当該職務と比較して、賃金その他の労働条件、通勤事情等が劣ることとなる配置の変更を行うこと。

 ③ 産前産後休業からの復帰に当たって、原職又は原職相当職に就けないこと。

ト 次に掲げる場合には、(2)のルの「派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る派遣の役務の提供を拒むこと」に該当すること。

 ① 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元事業主に対し、派遣労働者の交替を求めること。

 ② 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定めらられた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元事業主に対し、当該派遣労働者の派遣を拒むこと。

裁判例にみる妊産婦の待遇の実情

ア 昭和47年(ネ)2138 東京高裁判決 判決文抜粋 東洋鋼鈑配転拒否事件(労働者敗訴)

 前記認定事実を総合すれば、控訴会社の本社および綜合研究所においては本件配転当時、女子従業員は結婚したら退職するのが通例とされ、出産後も退職しない者は皆無であつたために、控訴会社が被上告人に対して出産後退職することを期待していたこと、従って依然として退職しようとしない同人に対して好ましく思つていなかったであろうことは推認するに難くないが、さればといつてそれがため同人に退職を余儀なくさしょうと考えていたものとまで推認するのは相当ではない。

 生後一年未満の生児を育てる母親に対しては、労働基準法の定める育児時間は当然の権利として保障されなければならないことはいうまでもないことろであるが、そのほか母性保護の見地からかかる母親である女子従業員の作業等につき配慮を加えることもまた同法の要請するところであるといわなければならない。そして成立に争いのない疎乙第一号証によれば、綜合研究所の就業規則には、育児時間に関する規定(第十七条)のほか、妊産婦を健康要保護者として、集合制限、作業転換、治療その他保健衛生上必要な措置をとることがある旨定められていること(第八八条)が認められる。従って控訴会社としては、労働基準法、就業規則により義務付けられている措置をとらなければならないのであるが、それに伴い当該女子従業員の実質労働能率の低下を予想し、さらに他の従業員と区別して取り扱うことによる職場への影響に対する対応策について考え、措置することも企業運営上当然許されるところといわなければならない。

 控訴会社が被上告人の産休明けの新配置を検討するに当り、本社および綜合研究所には適当な職がなかったこと、そして前記の如き理由により本件配置転換をなしたことは、後期認定のとおりであって、控訴会社が被控訴人を好ましく思っていなかったであらうことを考慮に入れても、なお、本件配転命令が被控訴人の主張するが如き差別的取扱いであると考えることはできない。

 従業員の配置転換は、それが労働契約、労働協約、就業規則その他労働関係法令に反しない限り、人事権の行使として、原則として使用者の裁量に委ねられ、ただそれが、使用者の恣意により合理的必要がなくてされた場合、あるいは他の意図をもつて本来考慮に入れるべきでない事項を考慮してなされた場合には、人事権を濫用したものとして、配置転換は効力を生じないものと考えるのが相当である。

イ 平成24年(受)第2231号 平成26年10月23日 最高裁一小判決 

① 上告人申立て理由

 本件は、被上告人に雇用され副主任の職位にあった理学療法士である上告人が、労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業の終了後も副主任に任じられなかったことから、被上告人に対し、上記の副主任を免じた措置は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して、管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

②判決の理由

 上記のような均等法の規定の文書や趣旨等に鑑みると、同法9条3項の規定は、上記の目的及び基本的理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等への理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、動向に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである。

 一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的に照らせば、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取り扱いに当たるものと解されるが、当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の訂正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置に同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。

 そして、

A 上記の承諾に係る合理的な理由に関しては、

  上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置の前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等を勘案し、当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその許諾を決定し得たか否かという観点から、その存否を判断すべきものと解される。

B また、上記特段の事情に関しては、

  上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって、当該労働者の転換後の業務上の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して、その存否を判断すべきものと解される。

 これを本件についてみるに、(略)上告人が軽易業務への転換及び本絵kん措置により受けた有利な影響の内容や程度が明らかにされているということはできない。

 他方で、本件措置により、上告人は、その職位が勤続10年を経て就任した管理職である副主任から非管理職の職員にされるという処遇上の不利な影響を受けるとともに、管理職手当の支給を受けられなくなるなどの給与等に係る不利益な影響も受けている。

 そして、上告人は、前期2(7)のとおり、育児休業を終えて職場復帰した後も、本件措置後間もなく副主任に昇進した他の職員の下で、副主任に復帰することができずに非管理職の職員としての勤務を余儀なくされ続けているのであって、このような一連の経緯にみると、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間中の一時的な措置ではなく、上記期間の経過後も副主任への復帰を予定していない措置としてされたものとみるのが相当であると言わざるを得ない。

 しかるところ、上告人は、被上告人からリハビリ科の科長等を通じて副主任を免ずる旨を伝えられた際に、育児休業からの職場復帰時に副主人に復帰することの可否等について説明を受けた形跡は記録上うかがわれず、さらに、職場復帰に関する希望聴取の際には職場復帰後も副就任に任じられないことをしらされ、これを不服として強く抗議し、その後に本訴の定期に至っているものである。

 そうすると、本件につては、被上告人において上告人につき降格の措置を執ることなく軽易な業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等はあきらかではなく、前記のとおり、本件措置により上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か等も明らかではない一方で、上告人が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は甘露色の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していなものといわざるを得ず、上告人の意向に反するものであったというべきであるから、本件措置については、被上告人における業務上の必要性の内容や程度、上告人における業務上の負担の軽減の内容や程度を義務付ける事情の有無などの点があきらかにされない限り、前期(1)イにいう均等法9条3条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできないものというべきである。

※本裁判では、育児休業を取得するに際し、労働者は育児休業終了後に休業前の職位に復職できるものと誤認していたところ、使用者が明確な説明をせず、休業に入ってしまった。そこで、職場復帰後に休業前の職位に戻れないことを強く抗議したが聞き入れられず提訴した。育児休業を取得するに際して、労働者が受けた利益と、処遇の変更に伴う労働者の不利益を比較考量すると、明らかに不利益のほうが大きく、均等法第9条第3項に違反するものである、と判断されました。

まとめ

 昨年の最高裁の判例は、個人的には当然の判断と考えます。配転は事業主の経営権の範囲として当然に認められるとして、育児休業取得者の休業開始時に、形式上本人の了承を得たことにして降職処分を行うことは、事実上懲戒処分に等しい行為です。均等法の趣旨に明らかに反しますし、これを認めてしまえば、育児休業の取得を抑制してしまいます。事業主にとっては、業務の中核を担う管理職たる女性労働者が1年以上もの間休業し、その間の業務の質と量の維持を如何に行うか簡単な課題ではないかと思います。しかし、この点をクリアーしない限り女性の家庭(出産や子育て、家事)と仕事の両立は、永遠にかなわない単なる理想論となってしまいます。

 

以上で均等法第9条を終わります。

 

均等法第9条

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均等法第8条

2015年05月14日 09:26

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第8条(女性労働者に係る措置に関する特例)

 前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。

通達による確認

平成18年通達

・女性労働者に係る措置に関する特例(法8条)

(1)法第8条は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置、すなわち、過去の女性労働者に対する取扱い等が原因で雇用の場において男性労働者との間に実情上の格差が生じている状況を改善する目的で行う女性のみを対象にした措置や女性を有利に取り扱う措置については、法違反とならないことを定めたものであること。

 なお、男性労働者については、一般にこのような状況にはないことから、男性労働者に係る特例は設けられていないものであること。

(2)「支障となっている事情」とは、固定的な男女の役割分担に根ざすこれまでの企業における制度や慣行が原因となって、雇用の場において男女労働者の間に事実上の格差が生じていることをいうものであること。この格差は最終的には男女労働者数の差となって表れるものであることから、事情の存否については、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない状況にあるか否かにより判断することが適当であること。

(3)「女性労働者に関して行う措置」とは、女性のみを対象とした措置又は男性と比較して女性を有利に取り扱う措置をいうものであること。

(4)「妨げるものではない」とは、法に違反することとはならない旨を明らかにしたものであり、事業主に対して支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関する措置を講ずることを義務付けるものではないこと。

(5)本条により特例とされる女性労働者に係る措置は、過去の女性労働者に対する取扱い等により女性労働者に現実に男性労働者との格差が生じている状況を改善するために暫定的、一般的に講ずることが許容されるものであり、指針第2の14の(1)イからヘまでの「相当程度少ない」状況にある限りにおいて、認められるものであること。

(6)指針第2の14の(1)は募集・採用、配置、昇進、教育訓練、職種の変更及び雇用形態の変更に関して本条により違法でないとされる措置を具体的に明らかにしてものであること。イからヘまでにおいて「相当程度少ない」とは、我が国における全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいうものであること。4割を下回っているか否かについては、募集・採用は雇用管理区分ごとに、配置は一の雇用管理区分における職務ごとに、昇進は一の雇用管理区分における役職ごとに、教育訓練は一の雇用管理区分における職務又は役職ごとに、職種の変更は一の雇用管理区分における職種ごとに、判断するものであること。

(7)指針第2の14(1)イにおける「その他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること」とは、具体的には、例示されている「募集又は採用に係る情報の提供について女性に有利な取扱いをすること」、「採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用すること」のほか、募集又は採用の対象を女性のみとすること、募集又は採用に当たって男女と比較して女性に有利な条件を付すこと等男性と比較して女性に有利な取扱いをすること一般が含まれること。ロ、ハ、ホ及びヘにおいて同じであること。


(8)指針第2の14(1)ニの「職務又は役職に従事するに当たって必要とされる能力を付与する教育訓練」とは、現在従事している業務の遂行のために必要な能力を付与する教育訓練ではなく、将来就く可能性のある職務又は役職に必要な能力を付与する教育訓練であり、例えば、女性管理職が少ない場合において、管理職に就くために必要とされる能力を付与する教育訓練をいうものであること。

(9)指針第2の14(1)ニの「その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること」には、例えば、女性労働者に対する教育訓練の期間を男性労働者よりも長くすること等が含まれること。

均等法第8条の規定により同法違反とならない措置 出典:厚生労働省作成 均等法のあらまし

 第8条の規定による措置は、女性に対する措置のみが認められています

(1)募集及び採用

 女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分における募集又は採用に当たって、情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。

(2)配置

 一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない職務に新たに労働者を配置する場合に、その配置のために必要な資格試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して配置すること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

(3)昇進

 一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない役職への昇進に当たって、その昇進のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して昇進させること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

(4)教育訓練

 一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない職務又は役職に従事するに当たって必要とされる能力を付与する教育訓練に当たって、その対象を女性労働者のみとすること、女性労働者に有利な条件を付すこと、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

(5)職種の変更

 一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない職種への変更について、その職種の変更のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、変更の基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して職種の変更の対象とすること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

(6)雇用形態の変更

 一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない雇用形態への変更について、その雇用形態の変更のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、変更の基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して雇用形態の変更の対象とすること、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

※1:雇用管理区分

 「雇用管理区分」とは職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者についての区分であって、当該区分に属している労働者と区分に属している労働者と異なる雇用管理を行うことを予定して設定しているものをいいます。雇用管理区分が同じかどうかについては、当該区分に属する労働者の従事する職務の内容、転勤を含めた人事異動の幅や頻度等について、同じ区分に属さない労働者との間に客観的・合理的な違いが存在しているかどうかにより判断するものであり、その判断に当たっては形式ではなく、企業の雇用管理の実態に即して行う必要があります。

※2:相当程度少ない

 「相当程度少ない」とは、日本の全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいいます。4割を下回っているかについては、雇用管理区分ごとに判断するものです。

ポジティブ・アクションの推進 (出典:厚生労働省作成リーフレット)

ア ポジティブ・アクションとは?

 ポジティブ・アクションとは、固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、性別による仕事上の格差が生じている場合に、この差を解消しようと個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組をいうとされています。

イ ポジティブ・アクションの進め方

 ポジティブ・アクション5つの取組

  ◇女性の採用拡大          ◎女性の勤続年数の伸長(仕事と家庭の両立)

  ◇女性の職域拡大          ◎職場環境・風土の改善(男女の役割分担意識の解消)

  ◇女性の管理職の増加

○ポジティブ・アクションは義務か?

 均等法第8条は、女性労働者の逆差別を均等法で免責しています。ところで、女性労働者の優遇措置は事業主の義務なのでしょうか?この点を考察してみようと思います。

・均等法の趣旨

 均等法の趣旨は、男性労働者に比して差別待遇を受けてきた女性労働者について、その差別を無くして男女の均等な待遇を達成するとともに、女性の有する母性に着目してその保護を確保するものです。それを踏まえ、ポジティブ・アクションについて考察します。

 少子高齢化の進行及び人口減少社会を迎えるに当たって将来の日本国を構築するために、大量の外国人労働者(海外の労働者及びその家族の受け入れ)を選択するか又は従来は戦力外とされてきた「短時間労働者」及び「出産・子育て期にある女性」の働く場の確保を行うかの選択を迫られています。そこで、前者は、ヨーロッパ各国の事例を参考にすると、必ずしも良好な結果を得ているとは思われません。後者をみると、パートタイム(短時間)労働者と称して、実は有期労働契約のフルタイム労働者を人件費削減のツールとして多用してきたことが伺えます。特に、小売業・飲食業等の利益率が限られている業種においては、ほぼフルタイムの短時間労働者(有期契約という点のみが本質的に異なります。)が低賃金でその業種を支えて来たと考えられます。真の短時間労働者は、パートタイムではなく「アルバイト」と呼ばれ、学生や時間に余裕がない主婦、就職活動に成功しなかった就職浪人の新卒者(フリーター)等が就労する形態でした。

 また、昨今の労働市場を見てみると、海外に製造拠点を設けていた製造業の国内回帰の流れや、いわゆる団塊の世代といわれる方々の大量退職、景気回復の傾向等が相まって、労働力不足の予兆が現れはじめています。そうすると、すぐに顕在化するであろう人手不足への対応としては、①新卒者の採用の拡大、②定年延長による既存の人材の確保、③従来、結婚退職をしていた女性労働者を定年年齢まで長期雇用し、かつ女性が安心して妊娠・出産・子育てできる社会環境を整備する、➃フルタイムであれば就労が難しいが特定の曜日や特定の時間帯であれば、就労が可能な人材の採用や既存の従業員向けの制度づくり等が考えられます。

 これらの、①~➃は、厚生労働省がすでに国の施策として法制化を行っており、期が熟するのを待っていた感があります。

①は少子化の中で、新卒の欲しい人材の確保が益々困難になることが近い将来予測されます。

②については、高齢者雇用安定法の施行や改正により、年金制度と関連する形で定年年齢を65歳まで引き上げることが既に義務化されています。(継続雇用制度や再雇用制度を含みます。)

➃は、短時間正社員制度の導入の勧めやワークライフバランス施策により、心身上の制約や家族介護の時間を必要とする労働者の方々への配慮を打ち出しています。

そして、③については、均等法を中心に働く女性の労働条件の均等化や妊娠・出産・子育て期の女性への配慮をした待遇の確保の構築を目指すものです。

 このように考察しますと均等法に掲げる女性の待遇の確保は、事業主の義務ではないものの現在の日本においては必要不可欠な社会制度と言えると思われます。

 ところで、大量の外国人労働者の受け入れは、それによる国内治安の悪化の危惧や世界で最も素晴らしい日本社会の崩壊の危惧等、個人的にはあまり好ましくないものと考えています。

 

以上で均等法第8条を終了します。

 

均等法第8条

 

 

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均等法第7条

2015年05月13日 12:39

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第7条(性別以外の事由を要件とする措置)

 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事情に関する措置であって労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。

均等法施行規則

第2条(実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置)

 法第7条の厚生労働省令で定める措置は、次のとおりとする。

一 労働者の募集又は採用に関する措置であって、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの

ニ 労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に関する措置であつて、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの

三 労働者の昇進に関する措置であつて、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの

○通達による確認

・平成18年通達 性別以外の事由を要件とする措置(法第7条)

(1)法第7条は、諸外国で広く性差別に含むとされている間接差別について規定したものであること。

(2)間接差別は、直接差別となる性別要件を別とすれば、およそどのような要件でも俎上(ソジョウ)に載り得る広がりのある概念であるが、我が国においては、現時点では、どのようなものを間接差別として違法とすべきかについて十分な社会的合意が形成されているとはいえない状況にあることをかんがみると、本法に間接差別を規定し、これを違法とし、指導等の対象にするに当たっては、対象となる範囲を明確にする必要がある。このため、本条では、対象となる性以外の事由を要件とする措置を厚生労働省令で定めることとたものであること。

 したがって、則第2条に定められる措置は、あくまでも本法の間接差別の対象とすべきものを定めたものであって、これら以外の措置が一般法理としての間接差別法理の対象にならないとしたものではなく、司法判断において、民法等の適用に当たり間接差別法理に照らして違法とされることはあり得るものであること。

(3)則第2条に定める措置の実施について「合理的な理由」があるか否かについては、当該措置の要件が適用される労働者の範囲を特定した上で判断するものであること。

(4)則第2条に定める措置は、間接差別についての判例の動向、都道府県労働局への相談等の状況、関係審議会における審議の状況等を踏まえ、機動的に対象事項の追加、見直しを図るものであること。

(5)「特に必要である場合」とは、当該措置を講じなければ業務上、又は企業の雇用管理上不都合が生じる場合であり、単にあった方が望しいという程度のものではなく、客観的にみて真に必要である場合をいうものであること。

(6)指針第3の2(2)ロの「通常の作業において筋力を要さない場合」とは、日常の業務遂行において筋力を要しない場合をいい、突発的な事故の発生等予期せざる事態が生じた場合に筋力を要する場合は、通常の作業において筋力を要するとは認められないものであること。

(7)指針第3の3(2)イの「計画等」とは、必ずしも書面になっている必要はなく、取締役会での決定や、企業の代表が定めた方針等も含むが、ある程度の具体性があることが必要であり、不確実な将来の予測などは含まれないものであること。

 ハの「組織運営上」とは、処遇のためのポストの確保をする必要性がある場合や、不正行為の防止のために異動を行う必要性がある場合などが含まれるものであること。

○事業主対処指針(平成18年告示第614号)

第3 間接差別(法第7条関係)

1.雇用の分野における性別に関する間接差別

(1)雇用の分野における性別に関する間接差別とは、①性別以外の事由を要件とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、③合理的な理由がないときに講ずることをいう。

(2)(1)の①の「性別以外の事由を要件とする措置」とは、男性、女性という性別に基づく措置ではなく、外見上は性中立的な規定、基準、慣行等(以下第3において「基準等」という。)に基づく措置をいうものである。

  (1)の②の「他の性の構成員と比較して、一方の構成員に相当程度の不利益を与えるもの」とは、当該基準等を満たすことができる者の比率が男女で相当程度異なるものをいう。

  (1)の③の「合理的な理由」とは、具体的には、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務び遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上に特に必要であること等をいうものである。

(3)法第7条は、募集、採用、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種及び雇用形態の変更、退職の勧奨、定年、解雇並びに労働契約の更新に関する措置であって、(1)の①及び②に該当するものを厚生労働省令で定め、(1)の③の合意的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならないこととするものである。

 厚生労働省令で定めている措置は、具体的には、次のとおりである。

(均等則第2条各号に掲げる措置)

イ 労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とすること(均等則第2条第1条関係)

ロ コース別雇用管理における「総合職」の労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること(均等則第2条第2号関係)

ハ 労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること(均等則第2条第3号関係)

2.労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とすること(法第7条・均等則第2条第1号関係)

(1)均等則第2条第1号の「労働者の募集又は採用に関する措置であって、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの」とは、募集又は採用に当たって、身長若しくは体重が一定以上若しくは一定以下であること又は一定以上の筋力や運動能力があることなど一定以上の体力を有すること(以下「身長・体重・体力要件」という。)を選考基準とするすべての場合をいい、例えば、次に掲げるものが該当する。

(身長・体重・体力要件を選考基準としていると認められる例)

イ 募集又は採用に当たって、身長・体重・体力要件を満たしている者のみを対象とすること。

ロ 複数ある採用の基準の中に、身長・体重・体力要件が含まれていること。

ハ 身長・体重・体力要件を満たしている場合については、採用選考において平均的な評価がなされている場合に採用するが、身長・体重・体力要件を満たしていない者については、特に優秀という評価がなされている場合にのみその対象とすること。

(2)合理的な理由の有無については、個別具体的な事業ごとに、総合的に判断が行われているものであるが、合理的な理由がない場合としては、例えば、次のようなものが考えられる。

(合理的な理由がないと認められる例)

イ 荷物を運搬する業務を内容とする職務について、当該業務を行うために必要な筋力より強い筋力があることを要件とする場合

ロ 荷物を運搬する業務を内容とする職務ではあるが、運搬等するための設備、機会等が導入されており、通常の作業において筋力を要さない場合に、一定以上の筋力があることを要件とする場合

ハ 単なる受付、出入者のチェックのみを行う等防犯を本来の目的としていない警備員の職務について、身長又は体重が一定以上であることを要件とする場合。

3.コース別雇用管理における総合職の労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること(法第7条・均等則第2条第2号関係)

(1)均等則第2条第2号の「当該事業主の運営の基幹となる事項に関する企画立案、営業、研究開発等を行う労働者が属するコース」(以下「総合職」という。)に該当するか否かの判断に当たっては、単なるコースの名称などの形式ではなく、業務の内容等の実態に即して行う必要がある。

(2)均等則第2条第2号の「労働者の募集又は採用に関する措置(事業主が、その雇用する労働者について、労働者の職種、資格等に基づき複数のコースを設定し、コースごとに異なる雇用管理を行う場合において、当該複数のコースのうち当該事業主の運営の基幹となる事項に関する企画立案、営業、研究開発等を行う労働者が属するコースについて行うものに限る。)であって、労働者が住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの」とは、コース別雇用管理を行う場合において、総合職の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができること(以下「転勤要件」という。)を選考基準とするすべての場合をいい、例えば、次に掲げるものが該当する。

(転勤要件を選考基準としていると認められる例)

イ 総合職の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができる者のみを対象とすること。

ロ 複数ある総合職の採用の基準の中に、転勤要件が含まれていること。

(3)合理的な理由の有無については、個別具体的な事案ごとに、総合的に判断が行われるものであるが、合理的な理由がない場合としては、例えば、次のようなものが考えられる。

(合理的な理由がないと認められる例)

イ 広域にわたり展開する支店、支社等はあるが、長期間にわたり、家庭の事情その他の特別な事情により本人が転勤を希望した場合を除き、転居を伴う転勤の実態がほとんどない場合

ロ 広域にわたり展開する支店、支社等はあるが、異なる地域の支店、支社等で管理者としての経験を積むこと、生産現場の業務を経験すること、地域の特殊性を経験すること等が幹部として能力の育成・確保に特に必要であるとは認められず、かつ、組織運営上、転居を伴う転勤を含む人事ローテーションを行うことが特に必要であるとは認められない場合

4.労働者の昇進にあたり、転勤の経験があることを要件とすること(法第7条・均等則第2条第3条号関係)

(1)均等則第2条第3号の「労働者の昇進に関する措置であって、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの」とは、一定の役職への昇進に当たり、労働者に転勤の経験があること(以下「転勤経験要件」という。)を選考基準とするすべての場合をいい、例えば、次に掲げるものが該当する。

(転勤経験要件を選考基準としていると認められる例)

イ 一定の役職への昇進に当たって、転勤の経験がある者のみを対象とすること。

ロ 複数ある昇進の基準の中に、転勤経験要件が含まれていること。

ハ 転勤の経験がある者については、一定の役職への昇進の選考において平均的な評価がなされている場合に昇進の対象とするが、転勤の経験がない者については、特に優秀という評価がなされている場合にのみその対象とすること。

ニ 転勤の経験がある者についてのみ、昇進のための試験を全部又は一部免除すること。

(2)合理的な理由の有無については、個別具体的な事案ごとに、総合的に判断が行われるものであるが、合理的な理由がない場合としては、例えば、次のようなものが考えられる。

(合理的な理由がないと認められる例)

イ 広域にわたり展開する支店、支社がある企業において、本社の課長に昇進するに当たって、本社の課長の業務を遂行する上で、異なる地域の支店、支社における勤務経験が特に必要であるとは認められず、かつ、転居を伴う転勤を含む人事ローテーションを行うことが特に必要であるとは認められない場合に、転居を伴う転勤の経験があることを要件とする場合

ロ 特定支店の管理職としての職務を遂行する上で、異なる支店での経験が特に必要とは認められない場合において、当該支店の管理職に昇進するに際し、異なる支店における勤務経験を要件とする場合

○まとめ

 間接差別が争点の裁判は、今日現在ほとんどありません。均等法の目的としては、まずは第6条の社会的な浸透が優先されるべきものと思います。

 

以上で均等法第7条を終了します。

 

均等法第7条

 

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均等法第6条

2015年05月12日 09:46

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第6条(性別を理由とする差別の禁止②)

 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。

一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練

二 住宅資金の貸付けその他これに準じる福利厚生の措置であって厚生労働省令で定めるもの

三 労働者の職種及び雇用形態の変更

四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

均等法施行規則(福利厚生)

第1条 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「法」という。)第6条第2号の厚生労働省令で定める福利厚生の措置は、次のとおりとする。

一 生活資金、教育資金その他労働者の福祉の増進のために行われる資金の貸付け

二 労働者の福祉の増進のために定期的に行われる金銭の給付

三 労働者の資産形成のために行われる金銭の給付

四 住宅の貸与

通達による確認

1.平成9年通達

配置、昇進及び教育訓練(第6条関係)

 これまで事業主の努力義務であった配置及び昇進について、女性労働者に対する差別を禁止することとするとともに、教育訓練については差別的取扱いが禁止される対象の範囲を限定しないこととし、事業主は、労働者の配置、昇進及び教育訓練について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱をしてはならないものとしたこと。

2.平成18年通達

・配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)(法第6条第1号)

イ 「配置」には、採用に引き続いて行う場合と配置転換によりある職務へと変える場合のいずれも含まれるものであること。

ロ いわゆる出向も配置に含まれるものであること。

ハ 派遣元事業主が派遣先からの男女と指定した労働者派遣の要請に応じることは、紹介予定派遣に係る女性派遣労働者の特定等に係る措置に関する特例について定めた「派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号」第2の18(4)②において行って差し支えないこととされている場合を除き、法第6条違反となるものであり、派遣先のかかる要請は、本条の趣旨に照らして好ましくないものであること。

・昇進(法第6条第1号)

「昇進」には、いわゆる定期昇給やベース・アップは含まれないこと。

・降格(法第6条第1号)

 同格の役職間の異動であれば異動先の役職の権限等が異動前の役職の権限等よりも少ないものであったとしても、「降格」には含まれないものであること。

・教育訓練(法第6条第1号)

イ 「教育訓練」には、業務の遂行に関連する知識、技術、技能を付与するもののみならず、社会人としての心構えや一般教養等の付与を目的とするものも含まれるものであること。

ロ 「教育訓練」には、事業主が自ら行うもののほか、外部の教育訓練機関等に委託して実施するものも含まれるものであること。

ハ 業務の遂行の過程内において行う教育訓練については、明確な訓練目標が立てられ、担当する者が定められている等計画性を有するものが該当するものであり、単に見よう見まねの訓練や個々の業務指示は含まれないものであること。

二 指針第2の6(2)ロ①の「将来従事する可能性のある職務に必要な知識を身につけるための教育訓練」とは、例えば、管理職に就くために必要とされる能力、知識を付与する教育訓練が考えられるものであること。

・福利厚生(法第6条第2号)

イ 法第6条第2号及び則第1条は、福利厚生の措置のうち、住宅資金の貸付け等供与の条件が明確でかつ経済的価値の高いものについて、事業主は、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならないこととしたものであること。

ロ 事業主が行う種々の給付や利益の供与のうち「賃金」と認められるものについては、そもそも本号の「福利厚生の措置」には当たらないものであること。すなわち、扶養手当、家族手当、配偶者手当等はもとより、適格退職年金、自社年金等のいわゆる企業年金や中小企業退職金共済制度による退職金も、支給条件が明確にされていれば賃金と解されるので、いずれも本条にいう福利厚生の措置には当たらないものであること。

ハ 福利厚生の措置を共済会等事業主とは別の主体が行う場合であっても、事業主による資金の負担の割合、運営の方法等の実態を考慮し、実質的には事業主が行うものとみることができる場合には本条の対象となるものであること。

ニ 「住宅資金」には、住宅の建設又は購入のための資金のほか、住宅の用に供する宅地又はこれに係る借地権の取得のために資金、住宅の改良のための資金を含むものであること。

ホ 則第1条第1号の「労働者の福祉の増進のため」とは、広い概念であり、本号は、転勤、物資購入、子弟の入学、冠婚葬祭、災害、傷病等労働者の生活全般にわたって経済的支出を伴う事象に対し行われる資金の貸付け一般を含むものであること。

ヘ 則第1条第2号の「定期的に」とは、給付の行われる時期及びその間隔があらかじめ定められていることをいうものであること。

 「金銭」には、通貨のほか、金券、施設利用券等これに準ずるものも含むものとして同様に取り扱うこととし、また、「給付」には、直接支給する場合のほか労働者に代わって保険会社等に支払う場合等も含まれるものであること。

 本号には、具体的には、私的保険制度の補助、奨学金の支給、自己啓発セミナーの受講料の補助等が含まれるものであること。

 労働災害が発生した場合には労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づく保険給付に上積みして給付を行ういわゆる企業内積補償制度は、損失補償的性格のものであることから、本号には含まれないものであること。

ト 則第1条第3号の「資産形成」には、預貯金の預入、金銭の信託、有価証券の購入その他貯金をすること及び持家・土地の取得又は家屋の改良等が含まれるものであること。

  本号には、具体的には、勤労者財産形成促進法(昭和46年法律第92号)に基づく勤労者財産形成貯蓄に対する奨励金の支給、住宅ローンの利子補給、社内預金に対する利子、持株援助制度における奨励金の支給等が含まれるものであること。

 なお、本号は、一時金であるか定期金であるかを問わないものであること。

チ 則第1条第4号の「住宅」とは、居住の用に供する家屋又は家屋の一部をいうものであること。

 独身者に対する住宅の貸与が男性のみに限られるものとされている場合には差別解消のための措置が必要であり、具体的には、男子寮や世帯用住宅に女性独身者を入居させるようにすること、女子寮の建設又は住宅の借上げにより、女性独身者にも住宅を貸与することができるようにすること等が考えられるものであること。独身者に対する住宅の貸与が女性のみに限られている場合についても同様であること。

  住宅手当の支給は、則第1条第4号の住宅の貸与の措置には当たらないものであり、住宅の貸与の代替措置として認められるものではないこと。

 住宅の貸与に関し、例えば、女性について男性と異なる年齢、勤続年数等の入居条件を設定することは、「性別」を理由とした差別的取扱いに該当するものであること。

 労働基準法(昭和22年法律第49号)上の「事業附属寄宿舎」とは、本来事業運営の必要性から設置されているものであるが、寝室が個室になっていること、入居費は低廉であること等の状況にあり、福利厚生施設の性格を有するものであれば、本号に該当するものであること。

・定年(法第6条第4号)

 定年についての差別的取扱いとは、差別的な定年制度をとっていること又は当該制度に基づき労働者を退職させることをいうものであること。

・解雇(法第6条第4号)

 形式的には勧奨退職であっても、事業主の有形無形の圧力により、労働者がやむを得ず応ずることとなり、労働者の真意に基づくものでないと認められる場合は、「解雇」に含まれるものであること。

 また、形式的には雇用期間を定めた契約であっても、それが反復更新され、実質においては期間の定めのない雇用契約と認められる場合には、その期間の満了を理由として雇止めをすることは「解雇」に当たるものであること。

事業主の対処指針(平成18年、告示第614号)

・配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)(法第6条第1号関係)

(1)法第6条第1号の「配置」とは、労働者を一定の職務に就けること又は就いている状態をいい、従事すべき職務における業務の内容及び就業の場所を主要な要素とするものである。

 なお、配置には、業務の配分及び権限の付与が含まれる、また、派遣元事業主が、労働者派遣契約に基づき、その雇用する派遣労働者に係る労働者派遣をすることも、配置に該当する。

 法第6条第1号の「業務の配分」とは、特定の労働者に対し、ある部門、ラインなどが所管している複数の業務のうち一定の業務を割り当てることをいい、日常的な業務指示は含まれない。

 また、法第6条第1号の「権限の付与」とは、労働者に対し、一定の業務を遂行するに当たって必要な権限を委任することをいう。

・配置に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第1号により禁止されるものである。ただし、14の(1)のポジティブ・アクションを講ずる場合についてはこの限りではない。

イ 一定の職務への配置に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

① 営業の職務、秘書の職務、企画立案業務を内容とする職務、定型的な事務処理業務を内容とする職務、海外で勤務する職務等一定の職務への配置に当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること。

② 時間外労働や深夜の多い職務への配置に当たって、その対象を男性労働者のみとすること。

③ 派遣元事業主が、一定の労働者派遣契約に基づく労働者派遣について、その対象を男女のいずれかのみとすること。

④ 一定の職務への配置の資格についての試験について、その受験資格を男女のいずれかに対してのみ与えること。

ロ 一定の職務への配置に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

① 女性労働者についてのみ、婚姻したこと、一定の年齢に達したこと又は子を有していることを理由として、企画立案業務を内容とする職務への配置の対称から排除すること。

② 男性労働者については、一定数の支店の勤務を経た場合に本社の経営企画部門に配置するが、女性労働者については、当該一定数を上回る数の支店の勤務を経なければ配置しないこと。

③ 一定の職務への配置に当たって、女性労働者についてのみ、一定の国家資格の取得や研修の実績を条件とすること。

④ 営業部門について、男性労働者については全員配置の対象とするが、女性労働者については希望者のみを配置の対称とすること。

ハ 一定の職務への配置に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について異なる取扱をすること。

(異なる取扱いをいていると認められる例)

① 一定の職務への配置に当たり、人事考課を配慮する場合において、男性労働者は平均的な評価がなされている場合にはその対象とするが、女性労働者は特に優秀という評価がなされている場合にのみその対象とすること。

② 一定の職務への配置の資格についての試験の合格基準を、男女で異なるものとすること。

③ 一定の職務への配置の資格についての試験の受験を男女のいずれかに対してのみ奨励すること。

ニ 一定の職務への配置に当たって、男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

 営業部門への配置の基準を満たす労働者が複数いる場合に、男性労働者を優先して配置すること。

ホ 配置における業務の配分に当たって、男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をしていると認められる例)

① 営業部門において、男性労働者には外勤業務に従事させるが、女性労働者については当該業務から排除し、内勤業務のみに従事させること。

② 男性労働者には通常の業務のみに従事させるが、女性労働者については通常の業務に加え、会議の庶務、お茶くみ、そうじ当番等の雑務を行わせること。

ヘ 配置における権限の付与に当たって、男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をしていると認められる例)

① 男性労働者には一定金額まで自己の責任で買い付けできる権限を与えるが、女性労働者には当該金額よりも低い金額までの権限しか与えないこと。

② 営業部門において、男性労働者には新規に顧客の開拓や商品の提案をする権限を与えるが、女性労働者にはこれらの権限を与えず、既存の顧客や商品の販売をする権限しか与えないこと。

ト 配置転換に当たって、男女で異なる取扱いをすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

① 経営の合理化に際し、女性労働者についてのみ出向の対象とすること。

② 一定の年齢以上の女性労働者のみを出向の対象とすること。

③ 女性労働者についてのみ、婚姻又は子を有していることを理由として、通勤が不便な事業場に配置転換すること。

➃ 工場を閉鎖する場合において、男性労働者については近隣の工場に配置するが、女性労働者については通勤が不便な遠隔地の工場に配置すること。

⑤ 男性労働者については、複数の部門に配置するが、女性労働者については当初に配置した部門から他部門に配置転換しないこと。

・昇進(法第6条第1号関係)

(1)法第6条第1号の「昇進」とは、企業内での労働者の位置付けについて下位の職階から上位の職階への移動を行うことをいう。昇進には、職制上の地位の上方移動を伴わないいわゆる「昇格」も含まれる。

(2)昇進に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第1号により禁止されるものである。ただし、14の(1)のポジティブ・アクションを講ずる場合については、この限りではない。

イ 一定の役職への昇進に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

① 女性労働者についてのみ、役職への昇進の機会を与えない、又は一定の役職までしか昇進できないものとすること。

② 一定の役職に昇進するための試験について、その受験資格を男女のいずれかに対してのみ与えること。

ロ 一定の役職への昇進に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

① 女性労働者についてのみ、婚姻したこと、一定の年齢に達したこと又は子を有していることを理由として、降格できない、又は一定の役職までしか昇進できないものとすること。

② 課長への昇進にあたり、女性労働者については課長補佐を経ることを要するものとする一方、男性労働者については課長補佐を経ることなく課長に昇進できるものとすること。

③ 男性労働者については出勤率が一定の率以上である場合又は一定の勤続年数を経た場合に昇格させるが、女性労働者についてはこれらを超える出勤率又は勤続年数がなければ昇格できないものとすること。

➃ 一定の役職に昇進するための試験について、女性労働者についてのみ上司の推薦を受けることを受験の条件とすること。

ハ 一定の役職への昇進に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をしていると認められる例)

① 課長に昇進するための合格基準を、男女で異なるものとすること。

② 男性労働者については人事考課において平均的な評価がなされている場合には昇進させるが、女性労働者については特に優秀という評価がなされている場合にのみその対象とすること。

③ AからEまでの5段階の人事考課を設けている場合において、男性労働者については最低の評価であってもCランクとする一方、女性労働者については最高の評価であってもCランクとする運用を行うこと。

➃ 一定年齢に達した男性労働者については全員役職に昇進できるように人事考課を行うものとするが、女性労働者についてはそのような取扱をしないこと。

⑤ 一定の役職に昇進するための試験について、男女のいずれかについてのみその一部を免除すること。

⑥ 一定の役職に昇進するための試験の受験を男女のいずれかに対してのみ奨励すること。

ニ 一定の役職への昇進に当たり男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

 一定の役職への昇進基準を満たす労働者が複数いる場合に、男性労働者を優先して昇進させること。

・降格(法第6条第1号関係)

(1)法第6条第1号の「降格」とは、企業内での労働者の位置付けについて上位の職階から下位の職階の移動を行うことをいい、昇進の反対の措置である場合と、昇格の反対の措置である場合の双方が含まれる。

(2)降格に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第1号により禁止されるものである。

イ 降格に当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること。

(男女のいずれかのみとしていると認められる例)

 一定の役職を廃止するに際して、当該役職に就いていた男性労働者については同格の役職に配置転換するが、女性労働者については降格させること。

ロ 降格に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとして認められる例)

 女性労働者についてのみ、婚姻又は子を有していることを理由として、降格の対象とすること。

ハ 降格に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

① 営業成績が悪いものについて降格の対象とする旨の方針を定めている場合に、男性労働者については営業成績が最低の者のみを降格の対象とするが、女性労働者については営業成績が平均以下の者は降格の対象とすること。

② 一定の役職を廃止するに際して、降格の対象となる労働者を選定するに当たり、人事考課を考慮する場合に、男性労働者については最低の評価がなされている者のみ対象とするが、女性労働者については特に優秀という評価がなされている者以外は降格の対象とすること。

ニ 降格に当たって、男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

 一定の役職を廃止するに際して、降格の対象とする労働者を選定するに当たって、男性労働者よりも優先して、女性労働者を降格の対象とすること。

・教育訓練(法第6条第1号関係)

(1)法第6条第1号の「教育訓練」とは、事業主が、その雇用する労働者に対して、その労働者の業務の遂行の過程外(いわゆる「オフ・ザ・ジョブ・トレーニング」)において又は当該業務の遂行の過程内(いわゆる「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」)において、現在及び将来の業務の遂行に必要な能力を付与するために行うものをいう。

(2)教育訓練に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第1号により禁止されるものである。ただし、14の(1)のポジティブ・アクションを講ずる場合については、この限りではない。

イ 教育訓練に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

① 一定の職務に従事する者を対象とする教育訓練を行うに当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること。

② 工場実習や海外留学による研修を行うに当たって、その対象を男性労働者のみとすること。

③ 接遇訓練を行うに当たって、その対象を女性労働者のみとすること。

ロ 教育訓練を行うに当たって、その対象を女性労働者のみとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

① 女性労働者についてのみ、婚姻したこと、一定の年齢に達したこと又は子を有していることを理由として、将来従事する可能性のある職務に必要な知識を身につけるための教育訓練の対象から排除すること。

② 教育訓練の対象者について、男女で異なる勤続年数を条件とすること。

③ 女性労働者についてのみ、上司の推薦がなければ教育訓練の対象としないこと。

➃ 男性労働者については全員を教育訓練の対象とするが、女性労働者については希望者のみを対象とすること。

ハ 教育訓練の内容について、男女で異なる取扱いをすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

 教育訓練の期間や過程を男女で異なるものとすること。

・福利厚生(法第6条第2号・均等則第1条第2号各号関係)

(1)(2)において、「福利厚生措置」とは、法第6条第2号の規定及び雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則(昭和61年労働省令第2号。以下「均等則」という。)第1条各号に掲げる以下のものをいう。

(法第6条第2号及び均等則第1条に掲げる措置)

イ 住宅資金の貸付け(法第6条第2号)

ロ 生活資金、教育資金その他労働者の福祉の増進のために行われる資金の貸付け(均等則第1条第1号)

ハ 労働者の福祉の増進のために定期的に行われる金銭の給付(均等則第1条第2号)

ニ 労働者の資産形成のために行われる金銭の給付(均等則第1条第3号)

ホ 住宅の貸与(均等則第1条第4号)

(2)福祉厚生の措置に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6号第2号により禁止されるものである。

イ 福利厚生の措置の実施に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

 男性労働者についてのみ、社宅を貸与すること。

ロ 福利厚生の措置の実施に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

① 女性労働者についてのみ、婚姻を理由として、社宅の貸与の対象から排除すること。

② 住宅資金の貸付けに当たって、女性労働者に対してのみ、配偶者の所得額に関する資料の提出を求めること。

③ 社宅の貸与に当たり、世帯主であることを条件とする場合において、男性労働者については本人の申請のみで貸与するが、女性労働者に対しては本人の申請に加え、住民票の提出を求め、又は配偶者に一定以上の所得がないことを条件とすること。

・職種の変更(法第6条第3号関係)

(1)法第6条第3号の「職種」とは、職務や職責の類似性に着目して分類されるものであり、「営業職」・「技術職」の別や、「総合職」・「一般職」の別などがある。

(2)職種の変更に関し、一の雇用管理区分(職種の変更によって雇用管理区分が異なることとなる場合には、変更前の一の雇用管理区分をいう。)において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第3号により禁止されるものである。ただし、14の(1)のポジティブ・アクションを講ずる場合には、この限りではない。

イ 職種の変更に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

① 「一般職」から「総合職」への職種の変更について、その対象を男女のいずれかのみとすること。

② 「総合職」から「一般職」への職種の変更について、制度上は男女双方を対象とするが、男性労働者については職種の変更を認めない運用を行うこと。

③ 「一般職」から「総合職」への職種の変更のための試験について、その受験資格を男女のいずれかに対してのみ与えること。

➃ 「一般職」の男性労働者については、いわゆる「準総合職」及び「総合職」への職種の変更の対象とするが、「一般職」の女性労働者については、「準総合職」のみを職種の変更の対象とすること。

ロ 職種の変更に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとして認められる例)

① 女性労働者についてのみ、子を有していることを理由として、「一般職」から「総合職」への職種の変更を対象から排除すること。

② 「一般職」から「総合職」への職種の変更について、男女で異なる勤務年数を条件とすること。

③ 「一般職」から「総合職:への職種の変更について、男女のいずれかのみ、一定の国家資格の取得、研修の実績又は一定の試験に合格することを条件とすること。

➃ 「一般職」から「総合職」への職種変更のための試験について、女性労働者についてのみ上司の推薦を受けることを受験の条件とすること。

ハ 一定の職種への変更に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をしていると認められる例)

① 「一般職」から「総合職」への職種の変更のための試験の合格基準を男女で異なるものとすること。

② 男性労働者については人事考課において平均的な評価がなされている場合には「一般職」から「総合職」への職種の変更の対象とするが、女性労働者については特に優秀という評価がなされている場合にのみその対象とすること。

③ 「一般職」から「総合職」への職種の変更のための試験について、その受験を男女のいずれかに対してのみ奨励すること。

➃ 「一般職」から「総合職」への職種の変更のための試験について、男女のいずれかについてのみその一部を免除すること。

ニ 職種の変更に当たって、男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

 「一般職」から「総合職」への職種の変更の基準を満たす労働者の中から男女のいずれかを優先して職種の変更の対象とすること。

ホ 職種の変更について男女で異なる取扱いをすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

① 経営の合理化に際して、女性労働者のみを、研究職から賃金その他の労働条件が劣る一般事務職への職種の変更の対象とすること。

② 女性労働者についてのみ、年齢を理由として、アナウンサー等の専門職から事務職への変更の対象とすること。

・雇用形態の変更(法第6条第3号関係)

(1)法第6条第3号の「雇用形態」とは、労働契約の期間の定めの有無、所定労働時間の長さ等により分類されるものであり、いわゆる「正社員」、「パートタイム労働者」、「契約社員」などがある。

(2)雇用形態の変更に関し、一の雇用管理区分(雇用形態の変更によって雇用管理区分がことなることとなっている場合には、変更前の一の雇用管理区分をいう。)において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第3号により禁止されるものである。ただし、14の(1)のポジティブ・アクションを講ずる場合には、この限りではない。

イ 雇用形態の変更に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

① 有期契約労働者から正社員への雇用形態の変更の対象を男性労働者のみとすること。

② パートタイム労働者から正社員への雇用形態の変更のための試験について、その受験資格を男女のいずれかに対してのみ与えること。

ロ 雇用形態の変更に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

① 女性労働者についてのみ、婚姻又は子を有していることを理由として、有期契約労働者から正社員への雇用形態の変更の対象から排除すること。

② 有期契約労働者から正社員への雇用形態の変更について、男女で異なる勤続年数とすること。

③ パートタイム労働者から正社員への雇用形態の変更について、男女のいずれかについてのみ、一定の国家資格の取得や研修の実績を条件とすること。

➃ パートタイム労働者から正社員への雇用形態の変更のための試験について、女性労働者についてのみ上司の推薦を受けることを受験の条件とすること。

ハ 一定の雇用形態への変更に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をしていると認められる例)

① 有期契約労働者から正社員への雇用形態の変更のための試験の合格基準を男女で異なるものとすること。

② 契約社員から正社員への雇用形態の変更について、男性労働者については、人事考課において平均的な評価がなされている場合には変更の対象とするが、女性労働者については、特に優秀という評価がなされている場合にのみその対象とすること。

③ パートタイム労働者から正社員への雇用形態の変更のための試験の受験について、男女のいずれかに対してのみ推奨すること。

➃ 有期契約労働者から正社員への雇用形態の変更のための試験の受験について、男女のいずれかについてのみその一部を免除すること。

ニ 雇用形態の変更に当たって、男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

 パートタイム労働者から正社員への雇用形態の変更の基準を満たす労働者の中から、男女のいずれかを優先して雇用形態の変更の対象とすること。

ホ 雇用形態の変更について、男女で異なる取扱いをすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

① 経営の合理化に際して、女性労働者のみを、正社員から賃金その他の労働条件は劣る有期契約労働者への雇用形態の変更の勧奨の対象とすること。

② 女性労働者についてのみ、一定の年齢に達したこと、婚姻又は子を有していることを理由として、正社員から賃金その他の労働条件が劣るパートタイム労働者への雇用形態の変更の勧奨の対象とすること。

③ 経営の合理化に当たり、正社員の一部をパート労働者とする場合において、正社員である男性労働者は、正社員としてとどまるか、又はパートタイム労働者に雇用形態を変更するかについて選択できるものとするが、正社員である女性労働者については、一律パートタイム労働者への雇用形態の変更を強要すること。

・退職の勧奨(法第6条第4号関係)

(1)法第6条第4号の「退職の勧奨」とは、雇用する労働者に対し退職を促すことをいう。

(2)退職の勧奨に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第4号により禁止されるものである。

イ 退職の勧奨にあたって、その対象を男女のいずれかのみとすること。

(男女のいずれかのみとしていると認められる例)

 女性労働者に対してのみ、経営の合理化のための早期退職制度の利用を働きかけること。

ロ 退職の勧奨に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

① 女性労働者に対してのみ、子を有していることを理由として、退職の勧奨をすること。

② 経営の合理化に際して、既婚の女性労働者に対してのみ、退職の勧奨をすること。

ハ 退職の勧奨にあたって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をしていると認められる例)

 経営合理化に伴い退職勧奨を実施するにあたり、人事考課を考慮する場合において、男性労働者については最低の評価がなされている者のみ退職の対象とするが、女性労働者については特に優秀とする評価がなされている者以外は退職の対象とすること。

ニ 退職の勧奨に当たって、男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

① 男性よりも優先して、女性労働者に対して退職の勧奨をすること。

② 退職の勧奨の対象とする年齢を女性労働者については45歳、男性労働者については50歳とするなど男女で差を設けること。

・定年(法第6条第4号関係)

(1)法第6条第4号の「定年」とは、労働者が一定年齢に達したことを雇用関係の終了とする制度をいう。

(2)定年に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第4号により禁止されるものである。

 定年の定めについて、男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をしていると認められる例)

 定年年齢の引き上げを行うに際して、厚生年金の支給開始年齢に合わせて男女で異なる定年を定めること。

・解雇(法第6条第4号関係)

(1)法第6条第4号の「解雇」とは、労働契約を将来に向かって解約する事業主の一方的な意思表示をいい、労使の合意による退職は含まない。

(2)解雇に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第4号により禁止されるものである。

イ 解雇に当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること。

(男女のいずれかのみとしていると認められる例)

 経営の合理化に際して、女性のみを解雇の対象とすること。

ロ 解雇の対象を一定の条件に該当する者とする場合において、当該条件を男女で異なるものとすること。

(異なる条件としていると認められる例)

① 経営の合理化に際して、既婚の女性労働者のみを解雇の対象とすること。

② 一定年齢以上の女性労働者のみを解雇の対象とすること。

ハ 解雇に当たって、能力及び資質の有無を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱をいていると認められる例)

 経営合理化に伴う解雇に当たり、人事考課を考慮する場合において、男性労働者については特に優秀という評価がなされている者以外は解雇の対象とすること。

ニ 解雇に当たって、男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

 解雇の基準を満たす労働者の中で、男性労働者よりも優先して女性労働者を解雇の対象とすること。

・労働契約の更新(法第6条第4号関係)

(1)法第6条愛4号の「労働契約の更新」とは、期間の定めのある労働契約について、期間の満了に際して、従前の契約と基本的な内容が同一である労働契約を締結することをいう。

(2)労働契約の更新に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第4号により禁止されるものである。

イ 労働契約の更新に当たって、その対象からいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

 経営の合理化に際して、男性労働者のみを、労働契約の更新の対象とし、女性労働者については、労働契約の更新をしない(いわゆる「雇止め」をする)こと。

ロ 労働契約の更新に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

① 経営の合理化に際して、既婚の女性労働者についてのみ、労働契約の更新をしない(いわゆる「雇止め」をする)こと。

② 女性労働者についてのみ、子を有していることを理由として、労働契約の更新をしない(いわゆる「雇止め」をする)こと。

③ 男女のいずれかについてのみ、労働契約の更新回数の上限を設けること。

ハ 労働契約の更新に当たって、能力及び資質の有無を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱をすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

 労働契約の更新に当たって、男性労働者については平均的な営業成績である場合には労働契約の更新の対象とするが、女性労働者については、特に営業成績が良い場合にのみその対象とすること。

ニ 労働契約の更新に当たって男女のいずれかを優先すること。

(優先していると認められる例)

 労働契約の更新の基準を満たす労働者の中から、男女のいずれかを優先して労働契約の更新の対象とすること。

 

法違反とならない場合

(1)(略)次に掲げる措置を講ずることは、法第8条に定める雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とする措置(ポジティブ・アクション)として、法第5条及び第6条の規定に違反することとならない

イ 女性労働者が男性労働と比較して相当程度少ない雇用管理区分における募集又は採用に当たって、当該募集又は採用に係る情報の提供について女性に有利な取扱をすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。

ロ 一の雇用管理区分における女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない職務に新たに労働者を配置する場合に、当該配置の資格についての試験の受験を女性労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して配置することその他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

ハ 一の雇用管理区分における女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない役職への昇進に当たって、当該昇進のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、当該昇進の基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者を優先して昇進させることその他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

ニ 一の雇用管理区分における女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない職務又は役職に従事するに当たって必要とされる能力を付与する教育訓練に当たって、その対象を女性労働者のみとすること、女性労働者に有利な条件を付すことその男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱をすること。

ホ 一の雇用管理区分における女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない職種への変更について、当該職種の変更のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、当該職種の変更の基準を満たす労働者の中から男性労働より女性労働者を優先して職種の変更の対象とすることその他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

ヘ 一の雇用管理区分における女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用形態への変更について、当該雇用形態の変更のための試験の受験を女性労働者のみに奨励すること、当該雇用形態の変更の基準を満たす労働者の中から男性労働者より女性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

(2)次に掲げる場合において、2から4までにおいて掲げる措置を講ずることは、性別にかかわりなく均等な機会を与えていない、又は性別を理由とする差別的取扱いをしているとは解されず、法第5条及び第6条の規定に違反することとはならない。

イ 次に掲げる職務に従事する労働者に係る場合

① 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務 

② 守衛、警備員等のうち防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職務

③ ①及び②に掲げるもののほか、宗教上、風紀上、スポーツにおける競技の性質上その他の業務の性質上男女のいずれかのみに従事させることについてこれらと同程度の必要性があると認められる職務

ロ 労働基準法(昭和22年法律第49号)第61条第1条、第64条の2若しくは第64条の3第2項の規定により女性を就業させることができず、又は保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第3条の規定により男性を就業させることができないことから、通常の業務を遂行するために、労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合

ハ 風俗、風習等の相違により男女のいずれかが能力を発揮し難しい海外での勤務が必要な場合その他特別の事情により労働者の性別にかかわりなく均等が機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合

均等法第6条の趣旨

 均等法の均等機会及び均等待遇の具体的内容については、ほとんど第6条に集約されています。以下に、まとめてみます。※出典:厚生労働省作成 均等法のあらまし

1.配置に関し禁止される措置の例

 ① 一定の職務への配置に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること

 ② 一定の職務への配置に当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 一定の職務への配置に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること

 ➃ 一定の職務への配置に当たって、男女のいずれかを優先すること

 ⑤ 配置における業務の配分に当たって、男女で異なる取扱いをすること

 ⑥ 配置における権限の付与に当たって、男女で異なる取扱いをすること

 ⑦ 配置転換に当たって、男女で異なる取扱いをすること

2.昇進に関し禁止される措置の例

 ① 一定の役職への昇進に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること

 ② 一定の役職の昇進に当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 一定の役職への昇進に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること

 ➃ 一定の役職への昇進に当たり男女のいずれかを優先すること

3.降格に関し禁止される措置の例

 ① 降格に当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること

 ② 降格に当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 降格に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること

 ➃ 降格に当たって、男女のいずれかを優先すること

4.教育訓練に関し禁止される措置の例

 ① 教育訓練に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること

 ② 教育訓練を行うに当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 教育訓練の内容について、男女で異なる取扱いをすること

5.福利厚生に関し禁止される措置の例

 ① 福利厚生の措置の実施に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること

 ② 福利厚生の措置の実施に当たっての条件を男女で異なるものとすること

6.職種の変更に関し禁止される措置の例

 ① 職種の変更に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること

 ② 職種の変更に当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 一定の職種への変更に当たって、能力及び資質の変更の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること

 ➃ 職種の変更に当たって、男女のいすれかを選択すること

 ⑤ 職種の変更について男女で異なる取扱いをすること

7.雇用形態の変更に関し禁止される措置の例

 ① 雇用形態の変更に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること

 ② 雇用形態の変更に当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 一定の雇用形態への変更に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること

 ➃ 雇用形態の変更に当たって、男女のいずれかを優先すること

 ⑤ 雇用形態の変更について、男女で異なる取扱いをすること

8.退職の勧奨に関し禁止される措置の例

 ① 退職の勧奨に当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること

 ② 退職の勧奨に当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 退職の勧奨に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について異なる取扱いをすること

 ➃ 退職の勧奨に当たって、男女のいずれかを優先すること

9.定年に関し禁止される措置の例

 ① 定年の定めについて、男女で異なる取扱いをすること

10.解雇に関し禁止される措置の例

 ① 解雇に当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること

 ② 解雇の対象を一定の条件に該当する者とする場合において、当該条件を男女で異なるものとすること

 ③ 解雇に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること

 ➃ 解雇に当たって、男女のいずれかを優先すること

11.労働契約の更新(雇止め)に関し禁止される措置の例

 ① 労働契約の更新に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること

 ② 労働契約の更新に当たっての条件を男女で異なるものとすること

 ③ 労働契約の更新に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること

 ➃ 労働契約の更新に当たって男女のいずれかを優先すること

まとめ

 均等待遇の義務付けは、「配置」「昇進」「降格」「教育訓練」「住宅資金の貸付け」「その他の福利厚生」「職種の変更」「雇用形態の変更」「退職の勧奨」「定年」「解雇」「労働契約の更新」について事業主に課されてます。均等法の事業主の措置義務には罰則規定が設けられていませんが、民事的には不法行為(民法第709条)に該当しますので、労働者側に損害賠償の訴えを提起される可能性があります。

 

以上で均等法第6条を終わります。均等法6条については、考察するというよりも規定内容の確認を重視しました。

 

均等法第6条

 

 

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均等法第5条

2015年05月10日 09:15

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第5条(性別を理由とする差別禁止)

 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

通達の確認

1.平成9年通達

・募集及び採用(第五条関係)

 これまで事業主の努力義務であった募集及び採用について、女性に対する差別を禁止することとし、事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならないものとしたこと。

2.平成18年通達

 性別を理由とする差別の禁止(法第2章第1節)

 法第2章第1節は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るために、労働者に対する性別を理由とする差別の禁止、性別以外の事由を要件とする措置、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等を規定したものであること。

 法第5条から第7条まで及び第9条の規定の趣旨は、性別にかかわらず、労働者が雇用の分野における均等な機会を得、その意欲と能力に応じて均等な待遇を受けられるようにすること、すなわち、企業の制度や方針において、労働者が性別を理由として差別を受けること、性別以外の事由を理由とするものであっても実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置を合理的な理由のない場合に講ずること、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱をすること等をなくしていくことにあること。

Ⅰ 性別を理由とする差別の禁止(法第5条及び第6条)

(1)総論

イ 近年における差別事案の動向にかんがみ、男性労働者に対する差別を禁止して、男女双方に対する差別を禁止することとしたとともに、差別禁止の対象となる事項に労働者の降格、職種及び雇用の形態の変更、退職の勧奨並びに労働契約の更新を追加し、配置に業務の配分及び権限の付与が含まれることについて明確化を行ったものであること。

ロ 法第5条の「その性別にかかわりなく均等な機会を与え」るとは、男性、女性といった性別にかかわらず、等しい機会を与えることをいい、男性又は女性一般に対する社会通念や平均的な就業形態等を理由に男女異なる取扱をすることはこれに該当しないものであること。

 なお、合理的な理由があれば男女異なる取扱をすることも認められるものであり、指針第2の14(2)はこれに当たる場合であること。

ハ 指針第2の1の「企業の雇用管理の実態に即して行う」とは、例えば、職務内容が同じでも転居を伴う転勤の有無によって取扱を区別して配置を行っているような場合には、当該労働者間において客観的・合理的な違いが存在していると判断され、当該労働者の雇用管理は異なるものとみなすことなどが考えられること。

ニ 指針第2の2(2)から第2の13(2)までにおいて「一の雇用管理区分において」とあるとおり、性別を理由とする差別であるか否かについては、一の雇用管理区分内の労働者について判断するものであること。例えば、「総合職」の採用では男女で均等な取扱いをしているが、「一般職」の採用では男女異なる扱いをしている場合は、他の雇用管理区分において男女で均等な機会を与えていたとしても、ある特定の雇用管理区分において均等な機会を与えていないこととなるため、第5条違反となるものであること。

ホ 法第6条における「差別を理由として」とは、例えば、労働者が男性であること又は女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において、男性労働者と女性労働者の間に一般的又は平均的に、能力、勤続年数、主たる生計の維持者である者の割合等に格差があることを理由とすることの意であり、個々の労働者の意欲、能力等を理由とすることはこれに該当しないものであること。

ヘ 法第6条における「差別的取扱い」とは、合理的な理由無く、社会通念上許容される限度を超えて、一方に対し他方と異なる取扱いをするものをいうものであること。 

(2)募集及び採用(法第5条)

イ 「募集」には、職業安定法(昭和22年法律代141号)第4条第5項に規定する募集のほかに、公共職業安定所又は第7項に規定する職業紹介事業者への求人の申込みが含まれるものであること。

ロ 指針第2の2(2)イ②の「職種の名称」とは、男性を表すものとしては、例えば、ウエイター、営業マン、カメラマン、ベルボーイ、潜水夫等「マン」、「ボーイ」、「夫」等男性を表す語が職種の名称の一部に含まれているものがこれに当たるものであり、女性を表すものとしては、ウェイトレス、セールスレディ等「レディ」、「ガール」、「婦」等女性を表す語が職種の名称の一部に含まれているものがこれに当たるものであること。

 「対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかである場合」とは、例えば、「カメラマン(男女)募集」とする等男性を表す職種の名称に括弧書きで「男女」と付け加える方法や、「ウェイター・ウェイトレス募集」のように男性を表す職種の名称と女性を表す職種の名称を並立させる方法が考えられること。

 「『男性歓迎』,『女性向きの職種』等の表示」の「等」には、「男性優先」、「主として男性」、「女性歓迎」、「貴女を歓迎」等が含まれるものであること。

ハ 指針第2の2(2)ロの「自宅から通勤すること等」の「等」には、「容姿端麗」、「語学堪能」等が含まれるものであること。

ニ 指針第2の2(2)ハ④の「結婚の予定の有無」、「子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無」については、男女双方に質問した場合には、法には違反しないものであるが、もとより、応募者の適正・能力を基準とした公正な採用選考を実施するという観点からは、募集・採用に当たってこのような質問をすること自体望ましくないものであること。

ホ 指針第2の2(2)の「募集又は採用に係る情報」とは、求人の内容の説明のほか、労働者を募集又は採用する目的で提供される会社の概要等に関する資料等が含まれること。

 なお、ホは男性又は女性が資料の送付や説明会への出席を希望した場合に、事業主がその希望のすべてに対応することを求める趣旨ではなく、先着順に、又は一定の専攻分野を対象として資料を送付する等一定の範囲の者を対象として資料送付又は説明会の開催を行うことは含まれないこと。

 ①については、内容が異なる複数の資料を提供する場合には、それぞれの資料について、資料を送付する対象を男女いすれかのみとしないこと等が求められるものであること。

 ②については、複数の説明会を開催するときは、個々の説明会についてその対象を男女のいずれかのみとしないことが求められるものであって、男女別の会社説明会の開催は②に該当するするものであること。

参考:労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)

差別禁止等の事業主対処指針.pdf (180722)

労働者に対する性別を理由とする差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(以下「事業主対処指針」) 抜粋

2 募集及び採用(法第5条関係)

(1)法第5条の「募集」とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。(略)法第5条の「採用」とは、労働契約を締結することをいい、応募の受付、採用のための選考等募集を除く労働契約の締結に至る一連の手続を含む。

(2)募集及び採用に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第5条により禁止されるものであること。※ポジティブアクションの場合を除く。

イ 募集又は採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。

(排除していると認められる例)

① 一定の職種(いわゆる「総合職」、「一般職」等を含む。)や一定の雇用形態(いわゆる「正社員」、「パートタイム労働者」等を含む。)について、募集採用の対象を男女のいすれかのみとすること。

② 募集又は採用に当たって、男女のいずれかを表す職種の名称を用い(対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかである場合を除く。)、又は「男性歓迎」、「女性向きの職種」等の表示を行うこと。

③ 男女をともに募集の対象としているにもかかわらず、応募の受付や採用の対象を男女のいずれかのみとすること。

④ 派遣元事業主が、一定の職種について派遣労働者になろうとする者を登録させるに当たって、その対象を男女のいずれかのみとすること。

ロ 募集又は採用に当たっての条件を男女で異なるものとすること。

(異なるものとしていると認められる例)

 募集又は採用に当たって、女性についてのみ、未婚者であること、子を有していないこと、自宅なら通勤すること等を条件とし、又はこれらの条件を満たす者をすること。

ハ 採用選考において、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

① 募集又は採用に当たって実施する筆記試験や面接試験の合格基準を男女で異なるものとすること。

② 男女で異なる採用試験を実施すること。

③ 男女のいずれかについてのみ、採用試験を実施すること。

➃ 採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問すること。

ニ 募集又は採用に当たって男女のいずれかを優先すること。

(男女のいずれかを優先していると認められる例)

① 採用選考に当たって、採用の基準を満たす者の中から男女のいずれかを優先して採用すること。

② 男女別の採用予定人数を設定し、これを明示して、募集すること。又は、設定した人数に従って採用すること。

③ 男女のいずれかについて採用する最低の人数を設定して募集すること。

➃ 男女の選考を終了した後で女性を選考すること。

ホ 求人の内容の説明等募集又は採用に係る情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること。

(異なる取扱いをしていると認められる例)

① 会社の概要等に関する資料を送付する対象を男女のいずれかのみとし、又は資料の内容、送付時期を等を男女で異なるものとすること。

② 求人の内容等に関する説明会を実施するに当たって、その対象を男女のいずれかのみとし、又は説明会を実施する時期を男女で異なるものとすること。

募集及び採用に関する法の規定の趣旨

ア 私的自治の原則

  我が国あるいは国際社会の法治主義の原則は、一見相反する概念である「私的自治の原則」によりその基盤が出来ています。つまり、法治はネガティブリストにより行われるべきであり、法によりすべきことを規定することは、もとより想定されていません。つまり、法規制により私的自治の例外として、してはいけないことを例外的に規定し、公共の福祉を個人の自由が阻害しないように、立法化され規制されているわけです。もちろん、このあたりの解説は、法学者にお願いするとして、募集及び採用に関して契約自由の原則と、均等待遇の確保の両立を考えてみます。

参考:昭和48年 三菱樹脂事件判決文抜粋

 また、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九十条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、多面で社会的許容性を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれを律することができないことは、論をまたないところである。

イ 採用の自由の原則

  一般に、企業その他の労働契約法・均等法でいうところの使用者は、どのような営業を行いどのような組織を構築し、どのような人材をその営業に充てるのか等について、法人としても基本的人権として憲法により保障されていると解されています。従って、企業(使用者)がどのような者(個人)を労働者として採用するのかについては、あくまで企業の経営権の範疇に属しています。この採用の自由は、労働基準法第3条や憲法第14条、均等法第5条によっても制限を受けません。

参考:昭和48年 三菱樹脂事件判決文抜粋

 ところで、憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、ニニ条、ニ九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。(略)また、労働基準法三条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない。 

ウ 均等法第5条の趣旨

 均等法第5条は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく「均等な機会を与えなければならない。」としており、採用の際に採用後の労働者の男女割合が一定の範囲(例えば男女比が6:4~4:6のように)に収まるように義務付けを行っている規定ではありません。もとより、機会の平等こそが自由主義の理念の本質であり、均等法にあっても「結果平等を定めたもの」ではありません。

 均等法の趣旨の裏返しは、性別を問わず男女とも不断の努力を求める規定であるとも言えます。

 

以上で均等法第5条を終了します。

 

均等法

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均等法第4条

2015年05月09日 11:08

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第4条(男女雇用機会均等対策基本方針)

 厚生労働大臣は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策の基本となるべき方針(以下「男女雇用機会均等対策基本方針」という。)を定めるものとする。

2 男女雇用機会均等等対策基本方針に定める事項は、次のとおりとする。

一 男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活の動向に関する事項

二 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項

3 男女雇用機会均等対策基本方針は、男性労働者及び女性労働者のそれぞれの労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定められなければならない。

4 厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする。

5 厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めたときは、遅滞なく、その概要を公表するものとする。

6 前二項の規定は、男女雇用機会均等対策基本方針の変更につき準用する。

行政通達の内容を確認します。

1.平成9年通達

 男女雇用機会均等対策基本方針の策定

イ 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」ことをこの法律の主たる目的としたことに伴い、これまでの「女子労働者福祉対策基本方針」に代わり、新たに、労働大臣は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策の基本となる方針(以下「男女雇用機会均等対策基本方針」という。)を定めるものとしたこと。

ロ 男女雇用機会均等対策基本方針に定める事項は、次のとおりとするものとしたこと。

 (イ)女性労働者の職業生活の動向に関する事項

 (ロ)雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項

ハ 男女雇用機会均等対策基本方針は、女性労働者の労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定められなければならないものとしたこと。

ニ 労働大臣は、男女雇用均等対策基本方針の策定及び変更に当たっては、あらかじめ、政令で定める審議会の意見を聴くほか、都道府県の意見を求めるものとしたこと。

2.平成18年通達

 (1)法第4条は、厚生労働大臣が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策の基本となるべき方針を定めることとし、これに定める事項、定めるに当たっての考慮事項、定める手続等について規定したものであること。

 (2)第3項の「就業の実態等」の「等」には、例えば、企業の雇用管理の実態、男性及び女性の就業に対する社会一般の意識が含まれるものであること。

「男女雇用機会均等対策基本方針」の項目別 ポイント抜粋

はじめに

 我が国は、急速な少子化と高齢化の進行により人口減少社会の到来という事態に直面している。そうした中にあって、以前にも増して、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、その能力を十分発揮することができる雇用環境を整備することが重要な課題となっている。

第1 男女労働者 それぞれの職業生活の動向

1.男女労働者を取り巻く経済社会の動向

 また、企業経営の動向は、グローバルな国際経済競争の強まり、技術革新等の進展等に伴い収益力を重視する傾向が強まってきている。(略)また、いわゆる「団塊の世代」が定年退職を迎え始める中、少子化も伴って、長期的に労働力人口が減少することが見込まれるなど、我が国の経済社会は大きな転換点を迎えている。こうした中、我が国経済が持続的に発展し、ひいては国民全体が豊かで質の高い生活を享受するために、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、能力を発揮しながら充実した職業生活を送ることができるような環境を早急に整備することが求められている。

2.男女労働者の職業生活の動向

(1)雇用の動向

ア 労働力の量的変化

 雇用者数は男性では減少傾向にあるが、女性では増加傾向にあり、雇用者総数に占める女性の割合は上昇を続けている。女性の雇用者数の増分により、雇用者数は全体としては増加傾向にある。

イ 労働力の質的変化

 均等法が施行されてから20年が経過し、女性の勤続年数は長期的には伸長してきているが、近年はほぼ横ばいで推移しており、男性の勤続年数との差も縮小していない。また、進学率の高まりに伴い、男女ともに雇用者の高学歴化が進んでいる。特に新規学卒就職者では女性の大卒者の割合が大幅に上昇しており、半数を超える者が大学卒となっている。

ウ 失業の状況

 完全失業率の水準は昭和60年以降概ね女性が男性を上回って推移していたが、平成9年以降は女性の水準が男性を下回っている。

エ 労働力需給の見通し

 このうち2030年時点では、性・年齢階級別の労働力率が平成16年の実績と同じ水準で推移する場合と比較し、女性について約270万人の増加が見込まれている。

オ 労働条件

 男女の平均賃金の格差は、(略)依然として欧米諸国と比較すると大きな差がある。労働時間について見ると(略)、特に子育ての時期に当たる30歳代及び40歳代前半の男性では、週60時間以上就業している者の割合が20%を超えている。

(2)企業の雇用管理

ア 均等法の定着状況等

 均等法が昭和61年に施行されて20年が経過し、企業において法律の内容に対する認識が広がったことから、企業内の雇用管理において制度面での男女の均等な取扱いは徐々に浸透しており、女性の職域も拡大しつつある。また、管理職に占める女性の割合についても、大企業を中心に上昇している。

 一方、近年、採用を行った企業について、各職種・コースにおいて男女とも採用したとする割合が減少し、ポジティブ・アクションについても取り組んでいるとする企業が減少するなど、男女の均等な取扱いのための取組に一部停滞が見られる。

イ 育児・介護休業制度の定着状況等

 育児・介護制度が義務化されてから10年を超える中、(略)制度の定着が進んでいる。しかしながら、事業所規模が小さくなるほどその割合は低くなっている。

ウ パートタイム労働者の雇用管理改善等の状況

 パートタイム労働者は年々増加し全雇用者数の2割強を占めており、このうち約7割が女性であるが、近年、男性も大きく増加している。

 勤続年数については、女性は横ばいで推移しているが、男性では平均で女性よりも短いもの長期化の傾向が見られる。

エ 企業の雇用管理の変化

 企業の非正規雇用の活用が進む中、パートタイム労働者、契約社員、派遣社員等の雇用形態別に雇用理由には差異が見られる。また、非正規雇用の中でも、契約社員・嘱託では男性が多く、パートタイム労働者や派遣社員では女性が多いという傾向がある。

(3)男女労働者の意識の変化と就業パターン

 女性が職業を持つことについての意見を見ると、男女ともに「子どもができても、ずっと職業を続けるほうがよい」とする割合が最も高く、かつ、近年上昇傾向にある。しかしながら、実際には第1子の出産を契機に約7割の女性が離職しており、女性労働者が就業を継続していくために必要な事項としては、「子育てしながらでも働きるづけられる制度や職場環境」と、「やりがいが感じられる仕事の内容」が最も多く指摘されている。

参考(加筆):厚生労働省作成 待機児童数集約表

都道府県     定員    利用児童数   待機児童数  

埼玉県     68,899人   67,765人     974人

千葉県     54,427人   51,518人     776人

東京都    181,390人   178,956人    7,855人

神奈川県    30,786人   30,830人     778人

山梨県     21,359人   19,493人      0人

長野県     51,149人   43,103人      0人

大阪府     67,521人   69,140人     557人

都道府県計  1,549,341人  1,459,975人   15,866人

政令指定都市計 367,651人   376,975人   7,932人

中核市計   2,204,393人  2,122,951人    25,556人

 ※市の合計と都道府県の合計が異なっていますが、詳細は https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001q77g.html で確認できます。

3.まとめ

 均等法が昭和60年に公布、翌61年に施行されて以降、平成9年、平成18年と2度の改正を経て、法制度上は男女の均等な機会及び待遇の確保は大きな進展を見た。この間企業の雇用管理の男女均等な取扱いは改善されつつあるが、依然として、男性と比べて女性の勤続年数は短く、管理職比率も低い水準にとどまっている。また、出産を気に多くの女性が退職し、その中には就業継続を希望しながら離職を余儀なくされている者もいる。一方、男性労働者には、長時間労働のように職業人生を通じて企業からの拘束が強い働き方がみられ、実質的な機会均等が確保された状況とはなっていないといえる。また、少子高齢化が進展する中で、人生の各段階における生活の変化が職業生活に影響を与え、仕事と生活の関係に対する考え方も多様化している。

第2 講じようとする施策の基本となるべき事項

1.施策についての基本的な考え方

 過去2度の法改正を経て、努力義務規定から禁止規定への強化、男女双方に対する差別の禁止など均等法制定当時に指摘されていた法制上の課題についてはほぼ解決し、法制度の整備は大きく進展した。しかしながら、第1で見たように、均等法施行後20年を経てもなお実質的な機会均等が確保されたとは言い難い状況がみられ、特に近年均等確保に向けた改善の動きには鈍化が見られる。

 一方、今後の少子化の進展に伴う労働力人口の減少が見込まれる中、女性の就業率の向上や個人の職業生活期間の長期化は喫緊の課題である。また、仕事と生活の関係の有様やこれらに対する考え方が多様化している中、男女労働者が共に性別にかかわらず主体的に働き方やキャリアを選択することができることが考えられている。

2.具体的施策

(1)就業意欲を失うことなくその能力を伸長・発揮できるための環境整備

ア 公平な処遇の確保

(ア)均等法の履行確保

  改正均等法により、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いについては解雇以外のものも禁止されたところであるが、従来より当該不利益取扱いに係る相談は多く、またその内容も多種多様の把握を通じて事例収集に努め、不利益取扱いの判断基準の明確化を図る。

(イ)男女間賃金格差の縮小

 賃金は職務や職能等を公正に評価し決定されるべきものであるが、平均賃金の格差には性差別のみならず職種、職階、勤続年数等様々な要因が含まれており、それぞれの要因に応じた対策を講じるためにはその詳細な分析が必要である。

(ウ)コース別雇用管理の適正な運用の促進

  また、コース別雇用管理については、導入企業が増加傾向にあるとともに、コースの種類等も多様化が進んでいることから、コース別雇用管理の実態把握を行い、その適正な運用のための効果的な方策を検討する。

(エ)妊娠、出産、育児等による休業期間等に対する公平性及び納得性の高い評価及び処遇の推進

  産前産後休業、育児休業等を取得した場合に、これらを取得していない者に比して処遇上長期的に見ても取り返しが付かない差が付いてしまうことは、休業取得の阻害要因となり得るとともに、継続就業の意欲の喪失につながる。こうしたことから、休業取得を抑制することとならないような公平性・納得性の高い人事管理制度や能力評価制度等の在り方について調査研究し、企業における雇用管理の見直しに際して自主的な取組が促進されるよう支援を行う。

イ セクシャルハラスメント防止対策の推進

  企業におけるセクシャルハラスメントの防止対策については、指針に即して窓口の設置などの制度的な体制を整えることのみならず、それらが適切に機能することが重要である。こうした観点から、企業の対応の実情を把握しきめ細やかな情報提供を行っていく。

ウ 女性の能力発揮のための支援

(ア)女子学生に対する支援

 女子学生について、固定的な男女の役割分担意識に捕らわれることなく、個人の適性及び能力にあった進路選択・職業選択が適切になされるとともに、人生における職業生活のビジョンの形成に資するよう、就職活動を始める前の自己分析、職業生活と私的生活の将来設計、適切な進路選択等を始め、就職・就業に関する様々な情報提供を行う等の支援を行う。

(イ)在職中の女性に対する能力開発等の支援

  相談体制の整備などを行うとともに、キャリアアップのための能力開発機会の付与を引き続き行っていく。また、地方公共団体の女性関連施設職員等を対象としたセミナーを開催し、地域においてより充実した女性の能力発揮支援事業の実施を促進する。

エ 母性健康管理対策の推進

 改正均等法により、母性健康管理措置の請求等を理由とする不利益取扱いについても均等法違反とされたことから、これまでの母性健康管理措置の義務違反のみならず、不利益取扱いの禁止違反の可能性も視野に入れながら行政指導を行う。

(2)仕事と生活の調和の実現に向けた取組

ア 仕事と生活の調和の実現に向けた取組

  社会的気運の醸成を図る。

イ 育児休業や短時間勤務制度等、仕事と子育ての両立を図るための制度の一層の普及・定着

  特に、取組が進んでいない中小企業における行動計画策定の取組を促進・支援するとともに、企業の認定に向けた取組を支援する。

ウ 介護休業その他の仕事と介護の両立のための制度の定着促進等

  制度の在り方等について検討を行う。

エ 両立が容易になるような職場環境づくりの促進

  仕事と育児・介護の両立に向けた労使の取組を支援する。また、両立がしやすい企業文化をもつファミリー・フレンドリー企業を目指す企業の取組を支援する。

オ 地域等における支援サービスの充実

  育児に関する臨時的、突発的、専門的なニーズに対応する緊急サポートネットーワーク事業を推進する。

(3)ポジティブ・アクションの推進

  ポジティブ・アクションは女性のみを対象とする又は女性を有利に取り扱う取組のみを言うものではないという認識も含め、上記のようなポジティブ・アクションの趣旨及び内容の正しい理解が促進されるよう、一層の周知徹底をを図る。(略)さらに、業種及び地域別の均等実施を把握・分析し。それぞれの業種・地域の実情に応じたポジティブ・アクションの実施について効果的な支援を行う。

(4)多様な就業パターンの選択が可能となるような条件整備

ア パートタイム労働対策

  パートタイム労働者について、通常の労働者との均等待遇等が確保されるよう行政指導を行っていく。(略)さらに、短時間正社員制度が一層普及・定着するよう務める。

イ 在宅就業対策

  在宅就業の実態把握を行い、必要な施策の検討を行う。

ウ 再就職支援

  特に、母子家庭の母については、その就業による自立と生活の向上が図られるよう、福祉事務所とハローワーク等の連携の下、就業相談、職業能力開発、常用雇用の促進等個々の母子家庭の実情に応じたきめ細やかな就業支援を行う。

エ 起業支援

  企業は、労働時間が柔軟であったり、家事や育児等の経験を生かしやすい等のメリットから、女性の働き方の選択肢の一つとして近年注目されているところである。(略)女性起業者等に対し、起業に係る情報提供、メンターからの助言、相談等の支援を引き続き行っていく。※メンター:助言者、指導者

(5)関係者・関係機関との連携

  地方公共団体の労働担当部局、男女共同参画担当部局、福祉担当部局等との協力関係を深め、地方公共団体が行う関係施策との連携を図りつつ、雇用均等行政をより効果的に推進する。

(6)行政推進体制の充実、強化

  行政サービスの質的向上に務めるとともに、業務効率化を図る。

※男女雇用機会均等対策基本方針の全文は次でご確認ください。

男女雇用機会均等対策基本方針.pdf (758590)

施策に関する考察と企業の労務管理のあり方の考察

ア 均等法の施策に関する考察

  労働契約法の改正により、通算5年を超える有期契約の更新時には、無期の労働契約に転換する仕組みが立法化されました。他方で、企業の業績が不振に陥った際にも、希望退職を募る以外の方法はなかなか採れない法体系になりました。そうすると、法令を遵守して労働条件の不利益変更や解雇を行わなかった場合には、最後は倒産寸前まで追い込まれることも想定されます。結局のところ出来る時には出来るし出来る会社は出来るという実情に陥り易いと思われます。

 均等法に立ち返ってみると、均等法や育介法の規定を100%実施することの困難さはそれぞれの会社の実情に応じて、或いはその時の会社の実情に応じて、その程度が異なることとなります。そういった、事情の変化に応じた柔軟な制度設計がそもそも根本にあり、「できない約束はしないことだな・・・(書家、相田みつお)」という思想が大事なことかと思います。※現実に運用可能な法整備や会社の労務管理の制度設計が重要です。

イ 企業の労務管理のあり方について

 視点を変えると、育児休業や子の養育時間を与えられた労働者とそうでない労働者の処遇が全く同一であれば、未婚の労働者を始め制度の恩恵を受けない労働者にとっては理不尽な制度となりかねません。他方で、育休他を取得した労働者に対し非常に冷たい処遇であれば、休暇取得等に抑制的な現実となりますし、それらの労働者の勤労意欲が著しく低下してしまいます。言うまでもなく、誰にとっても合理的だと感じる制度設計が重要で、法制度の趣旨や理念を達成するための不可欠な前提だと思料します。

ウ 出産後に70%の女性が離職する現状について

  例えば、看護職の例で言えば、結婚・妊娠・出産後に子が手が離れる年齢(例えば、小学校入学)まで、職を離れてしまえば、高度な内容の業務(職務)であるがゆえに、看護職としての職場復帰は非常に困難かと思います。そうすると、10代から苦労して取得した看護資格が生かせる期間は、人生のほんの一部に過ぎないことになります。まして、第2子、第3子を出産・養育しようと思えば、その困難さは増すばかりです。そこで、完全に離職せずに、言ってみれば不合理を避けて出産前の業務に近い仕事に関わり続けることが、誰にとっても好ましいと言えます。制度が無いために離職を余儀なくされているのであれば、制度さえ整えば良いことになります。もっとも、看護職の出産を理由とする離職率は30%程度(看護協会調べ)とされていますが、大変な勤務がゆえに新卒者の就労開始直後の離職率も10%をはるかに超えていますから、医療現場の人手不足解消には離職防止がもっとも重要な課題となっています。※看護協会も同じ問題意識を持っている旨の広報がされています。

 昨今、男女を問わず、仕事の困難さではなく職場の人間関係により離職するケースが多いと推察します。長引いたデフレ不況により、人あまりの時代が長く続きました。辞めさせても、すぐに別の労働者の補充が可能であると、企業(雇用主)も考えて来たと思います。過去、高度成長期においては、人・物・金として、経営資源の最も重要な位置づけであった「人=労働者」も不況の時代、言い換えると「人あまりの時代」がここ数十年続いたが故に、職場のパワハラなどという風潮が生まれ、職場に大切な原点を忘れてしまったものと思います。いずれにしても、労・使・顧客・地域社会、誰にとっても良い職場環境をこれから構築してゆくことが必要かと思います。

 

以上で均等法第4条を終了します。

 

均等法第4条

 

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均等法第3条

2015年05月08日 12:36

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第3条(啓発活動)

 国及び地方公共団体は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を妨げている要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。

○行政通達で第3条の趣旨等の確認を行います。

1.平成9年通達

 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」ことをこの法律の主たる目的としたことに伴い、国及び地方公共団体は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとしたこと。

2.平成18年通達

(1)法第3条は、国及び地方公共団体は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等についての関心と理解を広く国民の間に深めるとともに、特に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を妨げている要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うべきことを明らかにしたものであること。

(2)「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等」の「等」は、法第2章のほか、法第3章の紛争の解決も含まれること。

(3)「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を妨げている諸要因」とは、主として、社会に根ざす固定的な男女の役割分担意識及びこの意識を背景にした職場環境や風土をいうものであり、「必要な啓発活動」は事業主、男女労働者その他広く国民を対象とするものであること。

○均等法の啓発活動について

 均等法の啓発活動は、都道府県各労働局を中心にPR活動が行われていると思います。そこで、平成18年通達にある、「主として社会に根ざす固定的な男女の役割分担及びこの意識を背景にした職場環境や風土」について、過去の統計情報で確認してみます。

平成7年版 働く女性の実情より抜粋

均等法施行10年にみる女性雇用における状況の変化と今後の課題

1.女性の働き方として望ましい形態

 女性がどのような働き方が望ましいと思っているかを総理府「男女共同参画に関する世論調査」(平成7年)によりみてみましょう。

 この調査は、全国20歳以上の男女5,000人を対象に実施されたものであるが、それによると、女性では、

  ①「子供ができたら職業をやめ、、大きくなったら再び職業をもつ方がよい」とするものが最も多いが、

   S59年45.3% H7年39.8% H19年33.0% H24年30.8% 

  ②次いで「子供ができてもずっと職業を続ける方がよい」とするものも32.5%となっている。

   S59年20.1% H7年32.5% H19年43.4% H24年47.5%

 ただし、職業の有無別にみると、有識者では「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」とするものが最も多くなっており、無職者に比較してその割合が高くなっている。

 さらに、前出の「勤労意識調査に関する世論調査」において、女性の就業のあり方について「できるだけ長く働くのが最も望ましい」と答えた女性に対し、「女性の進むコース」として、どのようなコースが最も望しいと思うかとたずねた結果をみると、「専門家になる」のが望しいとする女性が43.0%と最も多く、次いで「管理職になる」のが望しいとする女性が38.4%となっている。

2.企業の雇用管理の変化(定年退職及び解雇)

 定年、退職及び解雇については、男女別定年制が民法の公序良俗に反し無効となることが判例によって確立していたことから、昭和61年度の「女子労働者の雇用管理に関する調査」でも、ほとんどの企業(97.1%)で男女別定年制は解消されていた。

 また、結婚・妊娠・出産退職についても、「法施行以前から、結婚・妊娠・出産退職制はなく、対応する必要はなかった」とする企業が92.7%に達しており、これに法施行を契機として「改善した」企業(3.8%)を加えると、制度上はほとんどの企業で解消したという結果となっている。

 しかしながら、女性労働者に対する調査(平成2年度「女子労働者労働実態調査」)では、職場において、女性が定年前に退職する慣行が「ある」と答えた者が46.4%にも達しており、制度としてなくなっても、慣行としては残っていることがうかがえる。その内訳としては、「社内結婚した(する)とき」「社外の人と結婚した(する)とき」「出産した(する)とき」がいずれも5割近くに達しているほか、「いわゆる結婚適齢期に達したとき」等もみられた。産業別では、女性が定年前に退職する慣行が「ある」としたのは、金融・保険業、卸売・小売業・飲食店、、鉱業及び不動産業の順で割合が高く、また、規模別には規模が大きいほどその割合が高くなっている。

3.均等法施行10年にみる女性雇用における状況の変化と今後の課題まとめ

 「均等法施行10年にみる女性雇用における状況の変化と今後の課題」と題し、(以下で)様々な角度からの分析を行った。

 このうち1の「女性の職業構造の推移」では、女性の職業選択を始めとする職業に対する意識や職業間の人材の過不足、さらには高学歴化の進展等を中心にみてきたところであるが、その結果を要約すると、以下の3点にまとめることができよう。

 第1に、女性の職業に対する意識が大きく変化し、結婚及び妊娠、出産後も継続して働き続けることを望む者が増加しており、特に有職女性では「子どもができても、ずっと職業を続ける方がよい」が望しい就職(業)形態のトップにあげられているということである。

第Ⅰ部(省略)で示した女性の平均勤務年数の長期化、有配偶者の増加等は、これらの女性の意識を反映した結果ともみられるが、企業においては今後、このことを前提とした募集・採用計画や配置・昇進のあり方、さらには教育訓練の実施等、雇用管理の見直しを求められることとなろう。

 第2に、女性が職業を選択するに当たっては、企業規模や職種について、従来の枠にとらわれない柔軟な発想及び幅広い視点からの選択を行っていくことが求められるであろうということである。

すなわち、職業意識の高まり等を反映して、継続就業を望む女性が増加するということは、逆の見方からすると退職者、特に若年時における結婚・妊娠・出産等を理由として退職する者が減少し、また、退職した後においても非労働力化せずに、引き続き労働市場にとどまる女性が増加することにつながっていく。したがって、女性の職域の拡大等が図られない限り、単なる退職者の補充という形での新規参入は、今後厳しくなることが予想される。

現在、女性、特に新規学卒者には、事務職意識が根強く存在し、このことが希望する職業と企業が求める人材とのギャップを生じさせる一因となっていると考えられるが、以上の状況と今後の労働者の過不足の状況等とを併せて考えるならば、女性、特に新規学卒女子が、これまでどおり大量に事務職として採用され続けることは難しくなっているといえよう。

 第3は、女性の高学歴化の進展との関係である。

女性の進学率は年々上昇し、特に大学への進学率は大きく伸びており、その内訳としては、人文科学専攻の占める割合が最も高く、次いで社会科学専攻となっている。理学、工学、農学専攻は低いという状況が続いているが、女性が幅広い職種を視野に入れて職業を選択するという観点からは、進学時の専攻分野の決定に当たっても従来の固定的な考えにとらわれることなく、個性と能力を十分発揮できるような選択を行うことが必要であると思われる。そのためには、幼少時からの家庭や学校における、固定的な考え方にとらわれない発想の醸成や、学校教育における職業ガイダンスの実施等職域拡大のための支援を行っていくことも求められよう。

 

次に、2の「企業の雇用管理の変化」では、募集・採用から、定年・退職及び解雇の状況まで、均等法の各ステージに沿いつつ、均等法施行10年の変化をみてきたところである。

各ステージごとの状況は、末尾の別表「女子雇用管理基本調査等からみた均等法施行10年の企業の雇用管理の変化と今後の課題」で示しているところであるが、ここでは全体を統括して、以下の4点にまとめてみたい。

 第1に、均等法施行の効果は極めて大きいものがあり、女性の雇用における状況の変化は均等法の施行を景気とした企業の雇用管理の変化によりもたらされた面を持っているものと考えられることである。

例えば、女性の活用について、「補助的な業務で活用を図る」とするものが減少し、「能力や適性に応じてすべての職務に配置」するという流れに変わってきたとみられること、また、現実に「いずれの職場にも男女とも配置」している企業割合が高まっていることなどは、均等法施行の効果といえよう

 第2に、しかしながら、それでもなお、均等法本来の趣旨及び目的からみて、いまなお改善されるべき様々な課題が残されているということである。

例えば、均等法の施行を契機として最も改善が図られたとみられている女性の募集・採用についても、依然として企業の対応に問題のあることや、制度上はほとんどの企業で解消している女性の結婚・妊娠・出産等を理由とする定年前の退職慣行(あるいはそのような企業風土)が、いまだに一部に残っているとみられることなどが、その例としてあげられるであろう。

これらのことは、たとえ企業において、雇用管理全般について均等法に沿った制度の改善を行っても、運用する意識、運用の方法によってはそれがなお問題が残るということであり、制度と運用との間の乖離を解消する必要があるといえよう。

 

それでは、このような乖離はどこから生ずるのであろうか。まとめの第3として、ここでは企業(実際には企業の方針を決定する経営者及び管理職)と、女性労働者との間の意識のギャップに注目してみたい。

それが顕著にみられるのは、女性の活用のあり方及び女性の活用を妨げる要因についての考え方の相違であり、まず、企業では、女性の活用を阻害しているのは、一般的に勤続年数が短いことや女性が家事・育児などの負担をより多くになっており家庭責任を考慮する必要があること、さらには労働基準法上の保護規定等、企業の雇用管理のあり方よりはむしろ、女性労働者及び女性労働者を取り巻く社会的な環境に求める傾向にある

これに対し女性労働者は、「男性中心の業界慣行」や企業の「育成方針」、さらには「上司が女性社員にチャンスを与えたがらない」こと等、企業社会のあり方や企業の姿勢を問題としているかのように思える。

これらの意識の相違は、その背景として、長年にわたる女性の職業意識や職業構造及び企業の雇用管理の実態等、様々な要因があるとみられるだけに、一朝一夕に埋められないとも考えられるが、企業においては女性労働者の積極的な活用を図る中で、また、女性労働者においては明確な職業意識をもって様々な可能性にチャレンジしていくことによって解消されるべきものであろう。

なお、これに関連して3の「女性管理職の変化」で明らかになった女性管理職の増加を第4のまとめとしてあげておきたい。

ここで明らかとなったのは、女性の活用を図ることにより、結果として管理職への登用を図っていくという流れが緩やかではあるが着実に進みつつあるといえることである。もっともその内容については程度の違いがあり、要約すれば大企業よりもむしろ中堅、中小規模の企業において、係長職の伸びが著しくなっている。

したがって、今後は均等法の一層の定着とともに、これらがどのような広がりをみせるのか、また、より上位の課長職以上及び部長職等への昇進にどのように影響していくかをみていく必要があろう。

4.役職者に占める女性割合の推移(企業規模100人以上)

S60年  部長級 1.0%  課長級 1.6%  係長級 3.9%

H7年   部長級 1.3%  課長級 2.8%  係長級 7.3%

H12年  部長級 2.2%  課長級 2.8%  係長級 7.3%

H18年  部長級 3.7%  課長級 5.8%  係長級 10.8%

H25年  部長級 5.1%  課長級 8.5%  係長級 15.4%   

 

○まとめ

 均等法第3条は、上記のような社会状況、企業や女性労働者の意識状況を踏まえ、女性の女性としての特質(特に母性や家庭内の家事・育児等の負担)をふまえつつ、社会全般への啓発を行う旨の規定です。言い換えると、両立支援やワークライフバランスの用語に代表される「仕事も家庭・家族どちらも大切」という観点からの国民の意識改革を進めるための施策の実施の必要性を定めています。  

 

以上で均等法第3条の記述を終了します。

 

均等法3条 

 

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均等法第2条

2015年05月07日 13:25

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第2条(基本理念)

 この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本理念とする。

2 事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本理念に従って、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない。

○行政通達による解説

1.平成9年通達

イ 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」ことをこの法律の主たる目的としたことに伴い、この法律においては、女性労働者が性別により差別されることなく、かつ、母性を尊重されつつ充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とするものとしたこと。

ロ 事業主並びに国及び地方公共団体は、基本的理念に従って、女性労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならないものとしたこと。

ハ 女性労働者の自助努力に関する規定を削除するものとしたこと。

2.平成18年通達

(1)法第2条第1項は、法の基本的理念が、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることにあることを明らかにしたものであること。

(2)「労働者」とは、雇用されて働く者をいい、求職者を含むものであること。

(3)第2項は、事業主並びに国及び地方公共団体に対して、(1)の基本的理念に従って、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならないことを明らかにしたものであること。

  本項に関する事業主の具体的業務の内容としては、法第2章に規定されているが、事業主は、それ以外の事項についても(1)の基本的理念に従い、労働者の職業生活の充実のために努力することが求められるものであること。

(4)「事業主」とは、事業の経営の主体をいい、個人企業にあってはその企業が、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものが事業主であること。また、事業主以外の従事者が自らの裁量で行った行為についても、事業主から委任された権限の範囲内で行ったものであれば事業主のために行った行為と考えられるので、事業主はその行為につき法に基づく責任を有するものであること。

○均等法の理念

過去の裁判例の中に、均等法の規定に沿った争点を争ったものがあります。その裁判例の判決文から、均等法の理念を考察します。

a 昭和53年(ワ)587 東京地裁判決 判決文抜粋 (日本鉄鋼連盟、差額賃金請求事件)

・被告の抗弁に対する原告の反論(抜粋)

二本立処遇の違憲、違法性

 しかし、被告の事務局の業務は流動的であり誠に多種多様であって、その業務の評価も画然と割り切れるものではないし、また、その業務に従事する者に要求される能力についても被告の主張する「基幹職員」には高卒男子がいる一方で「その余の職員」には大学卒女子がいるというように学歴差とも無関係であるのに、基幹的業務と補助的業務と画然と区別され、かつ、これが固定されているというのであるから、結局、被告は、男子がしている業務は男子がしているが故に基幹的業務、女子がしている業務は女子がしているが故に補助的業務であると評価し、このように男女によって業務を画然と分けたが故に男女の担当業務は性差が転換不能であるように移動が不能であって、その結果として二つの処遇体系ができあがるということを主張していることになる。これは正に男女別の処遇体系をとっているとの主張にほかならないのであって、結局二本立処遇なるものは、男女の職務差別、賃金差別、昇給昇格差別の総称にほかならない。

・裁判所の二本立処遇についての判断

 しかし、他方、右に述べたように被告の事務局の業務には様々なものがあるけれども、その中には困難性の程度の高いものから低いものに至るまで様々のものが存在することは明らかである。そして、被告は事務局の職員について男子職員は、主として重要な仕事を担当し、将来幹部職員へ昇進することを期待されたものとして処遇し、一方女子職員は、主として定型的、補助的な職務を担当するものとして処遇し、職員の採用に当たっても、右のように異なった処遇を予定していることから、それぞれ異なった採用方法をとっているというのが、その実態であるということができ、いわば「男女別コース制」とでも呼ぶのが相当である。

 次に、折衝の相手方である外部機関の担当者が男子であることが多いこと、女子の勤務年数が一般的に男子より短いこと、及び母性保護規定が存在することを理由として、女子について一律に男子と異なる取扱いをすることも、仮に社会的にそのような実態が存在するとしても、男女両性に差異が存することを前提としてその本質的平等を図るべきものとする男女平等の法的原理に背馳(ハイチ)するというべきである。昭和61年4月1日から施行された雇用機会均等法7条が、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない。」と定めているのもこの理を明らかにしたものであり、この理は、同法の施行前においても同様に妥当するものというべきである。

 このように、被告がその従業員につき前記のような「男女別コース制」を採用していることは、合理的な理由を欠くのであつて、法の下の平等を定め、性別による差別を禁止した憲法14条の趣旨に合致しないものというべきである。※しかし、そうであるとしても、ただちに過去の男女差額賃金の請求権があるとも言えないとしています。なお、現行の均等法は努力義務規定ではなく、多くの規定は義務規定または禁止規定に変更されています。

b 平成7年(ワ)8009 大阪地裁判決 判決文抜粋 住友電工男女差額賃金請求事件

 企業は、いかなる労働者をいかなる条件で雇用するかについて広範な採用の自由を有するから、あらかじめ、募集する労働者の社内での位置付けを行い、社員間に区分を設けて、採用の当初からその区分に応じた異なる処遇を行うことは企業が自由に行いうることであるが、かかる採用の自由も、法律上の制限がある場合はもちろんのこと、そうでない場合でも基本的人権の諸原理や公共の福祉、公序良俗による制約をうけることは当然であり、不合理な採用区分の設定は違法になることもあるというべきである。

 被告会社が、一方で幹部社員候補要員である前者採用から高卒女子を閉め出し、他方で事業所採用の事務職を定型的補助的に従事する職種と位置付けこの職種をもっぱら高卒女子を配置する職種と位置づけたこと、その理由も結局は、高卒女子一般の非効率、非能率ということによるものであるから、これは男女差別以外のなにものでもなく、性別による差別を禁じた憲法14条の趣旨に反する。

 昭和40年代ころは、未だ、男子は経済的に家庭を支え、女子は結婚して家庭に入り、家事育児に専念するという役割分担意識が強かったこと、女子が企業に雇用されて労働に従事する場合でも、働くのは結婚又は出産までと考えて短期間で退職する傾向にあったこと、このような役割分担意識や女子の勤務年数の短さなどから、わが国の企業の多くにおいては、男子に対しては定年までの長期雇用を前提に、雇用後、企業内での訓練などを通じて能力を向上させ、労働生産性を高めようとするが、短期間で退職する可能性の高い女子に対しては、コストをかけて訓練の機会を与えることをせず、定型的な単純労働に従事する要員としてのみ雇用することが少なくなかったこと、女子に深夜労働などの制限があることや出産に伴う休業の可能性があることなども、女子を単純労働の要員としてのみ雇用する一要因ともなっていたことなどが考慮されなければならない。

 右のような男女の役割分担意識は現在では克服されつつあり、もはや一般化できなくなってきており、また、女子の労働に対する考え方も多様化して女子の勤務年数も次第に長期化してきているから、現時点では、被告会社が採用していたような女子事務職の位置付けや男女別の採用方法が受け入れられる余地はないが、原告らが採用された昭和40年代ころの時点でみると、被告会社としては、その当時の社会意識や女子の一般的な勤務年数等を前提にして最も効率のよい労務管理をおこなわざるをえないのであるから、前記認定のような判断から高卒女子を定型的補助的業務にのみ従事する社員として位置付けたことをもって、公序良俗違反であるとすることはできない。

 

以上で均等法第2条を終了します。均等法は時代の要請があって制定(昭和47年施行、その後数度改正)されましたが、戦後しばらく、増して戦前においては、男女の労働条件が異なることが通常であったものと思います。例えば、平成9年の労基法の改正前は女子(18歳以上の女性)の深夜業が原則禁止されていましたし、以前は定年年齢も男女で異なっていました。労基法上の女性保護規定の中で、妊産婦等以外の女性については、現在ではほとんどの規制が撤廃されています。

 

均等法第2条

 

 

 

 

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均等法第1条

2015年05月07日 09:51

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第1条(目的)

 この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのつとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。

○通達で趣旨・解釈を確認してみます。

1.平成9年労働省発婦第16号(以下、「平成9年通達」)労働基準局、県、知事宛

 募集・採用・配置・昇進について女性労働者に対する差別を禁止するとともに、職業能力の開発及び向上の促進等に係る女性労働者の就業援助規定を削除したこと等に伴い、この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を促進することを目的とするものとしたこと。

2.平成18年雇児発第1011002号(以下、「平成18年通達」)労働局宛

(1)法第1条は、法の目的が、第一に雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図ること、第二に女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康を図る等の措置を推進することにあることを明らかにしたものであること。

(2)「法の下の平等等を保障する日本国憲法の理念」とは、国民の国に対する権利として「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定した日本国憲法第14条の考え方をいい、同規定自体は私人間に直接適用されるものではないものの、その理念は一般的な平等原則として法の基礎となる考え方であること。

(3)「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」には、企業の制度や方針における労働者に対する性別を理由とする差別を禁止することにより、制度上の均等を確保することのみならず。法第2章第3節に定める援助により実質的な均等の実現を図ることも含まれるものであること。

(4)「妊娠中及び出産後の健康の確保を図る」措置とは、具体的には、保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間の確保(法第12条)及び当該保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするための措置(法第13条)をいうものであること。

(5)「健康の確保を図る等」の「等」は、職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(法第11条)を指すものであること。

○均等法制定の背景・趣旨

1.女性労働者の人口及び労働力人口、被用者人口等の推移 (出典:厚生労働省「働く女性の実情」より)

(1)女性の労働力人口の推移

    女性の労働力人口   労働力率    女性の構成比

S35     1,838万人    54.5%     40.7%

S55     2,185万人    47.6%     38.7%

H12     2,753万人    49.3%     40.7%

H17     2,750万人    48.4%     41.4%

H22     2,768万人    48.5%     42.0%

H25     2,804万人    48.9%     42.6% 

※人口減少が続いている日本で、女性の労働力人口が増加し続けていることがわかります。

(2)配偶者の有無別被用者数の推移(非農林業)

       女性総被用者数     既婚女性の被用者数    構成比

S55      1,345万人        772万人       57.4%

H12      2,125万人       1,210万人       56.9%

H17      2,213万人       1,258万人       56.8%

H22      2,305万人       1,319万人       57.2%

H25      2,384万人       1,372万人       57.6%

※配偶者を有する女性の被用者の人口と女性被用者内の構成比が増え続けていることがわかります。

(3)子供のいる世帯における母の労働状況

  子供のいる世帯総数 母親の労働力人口 労働力率 就業者人口  率

H12  1,791万人    985万人   55.0%   962万人 53.7% 

H22  1,687万人    966万人   57.3%     939万人 55.7%

H25  1,660万人    979万人   59.0%    958万人 57.7%

※少子化が進んでいる中で、母である女性の「労働力人口及び就労者人口と両者の比率」が増加していることがわかります。

 平成25年版働く女性の状況(厚生労働省作成)によれば、平成25年の女性の労働力人口は2,804万人と増加し、男性は3,773万人と、16万人減少したとされ、この結果、労働力人口総数は前年より22万人増加し6,577万人となり、労働力人口に占める女性の割合は42.6%(前年比0.4ポイント上昇)となった、としています。 

2.均等法立法の趣旨と目的

 まとめると、統計情報でも明らかなように、女性の労働力により日本の産業の多くの部分は支えられており、年々この女性に支えられている傾向が顕著となっています。そして、女性は婚姻、妊娠、出産、子育て等の役割を専ら担っており、将来の日本を創る人材の育成も、初期(将来成人となる国民が乳幼児の時期)においては女性に背負っていただいているわけです。従って、多くの女性を雇用する企業(規模の大小に拘らず)においては、将来の日本社会を構成する根源(人材)の殆どをその雇用する女性たちが背負っていることを十分に考慮し、同時に女性が短期的に出産及び子育て等に一定の時間を割かなければならない(夫も多少参画するにしても)点を十分に配慮し、かつ均等法等の趣旨を損なわないような企業経営をする責務があると考察する次第です。

以上で、均等法第1条を終了します。次回は、第2条(基本理念)を記述します。

 

均等法第1条

    

 

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女性に関する労働条件 

2015年05月06日 09:29

女性に関する労働条件のまとめ

○法令の女性に関する規定

1.日本国憲法  第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

2.民 法 第2条 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。

3.ILO条約 産前産後に於ける婦人使用に関する条約(3号) 批准なし

      夜業に於ける婦人使用に関する条約(4号) 批准なし

        すべての種類の鉱山の坑内作業における女子の使用に関する条約(45号)批准

        同一価値の労働についての男女労働者の同一報酬に関する条約(100号)批准

      母性保護に関する条約(103号)批准なし

      1952年の母性保護条約(改正)に関する改正条約(183号)批准なし  他

4.労働基準法 第4条 使用者は、労働者が女性であることを理由として

           賃金について、男性と差別的取使いをしてはならない。

       第64条の2 妊産婦の坑内労働の制限

       第64条の3 妊産婦他の危険有害業務の制限

       第65条   産前産後の休業

       第66条   妊産婦の労働時間の制限

       第67条   乳児の育児時間の付与

       第68条   生理休暇

5.女性労働基準規則(昭和61年1月27日労働省令第3号)

 第1条 (女性の坑内労働の制限)

  労働基準法(以下「法」という。)第64条の2第2号の厚生労働省令で定める業務は、次のとおりとする。(以下略)

 第2条 (妊産婦の危険有害業の制限)

  法第64条の3第1項の規定により妊娠中の女性を就かせてはならない業務は、次のとおりとする。(以下略)

 第3条 (妊産婦以外の女性の有害業務の制限)

  法第64条の3第2項の規定により同条第一項の規定を準用する者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性以外の女性とし、これらの者を就かせてはならない業務は、前条第1項第1号及び第18号に掲げる業務とする。

※女性労働基準規則の内容は次をご参照ください。 女性労働基準規則.doc (129360) 

6.雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律

       第2条 性別均等待遇、母性保護の基本理念  第5条 募集、採用時の性差別の禁止

       第6条 配置,昇進,降格,教育訓練等の差別禁止 第7条 間接差別(身長,体重,体力等)

       第8条 女性労働者の特例容認        第9条 婚姻,妊娠,出産時の差別禁止

       第11条 セクハラ防止措置          第11条、第12条 妊産婦の健康管理

・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律施行規則

       第13条 深夜業に従事する女性労働者への配慮(使用者の措置努力義務)

※均等法の規定の詳細は、別の機会に記述するとしまして、次の厚生労働省作成のパンフレットをご参照ください。 

  均等法.pdf (1131024)  

 また、均等法の趣旨は、母性保護及び性差別の禁止ですから、男性を差別する場合も法の趣旨に含まれます。

7.労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

       第47条の2 均等法の派遣先事業主への適用

 

○裁判例でみる性差別関連の事案

ア 平成13年(受)1066 最高裁第一小法廷判決 判決文抜粋 東朋学園事件

 上告申立て理由:本件は、上告人の従業員である被上告人が、産後8週間休業し、これに引き続き子が1歳になるまでの間、1日につき1時間15分の勤務時間短縮を受けたところ、出勤率が90%以上であることを必要とする旨を定めた就業規則所定の賞与支給要件を満たさないとして、平成6年度年末賞与及び平成7年度夏期賞与(以下「本件賞与」という。)が支給されなかったため、上記取扱いの根拠となった就業規則の定めは、労働基準法(平成9年法律第92号による改正前のもの。以下同じ。)65条、67条、育児休業等に関する法律(平成7年法律第107号による改正前のもの。以下「育児休業法」という。)10条の趣旨に反し、公序に反する、あるいは就業規則を不利益に変更するもので被上告人に対して効力を生じないなどと主張して、上告人に対し、本件各賞与並びに債務不履行による損害賠償として上記と同額の支払いを請求している事案である。なお、上告人は、第1審判決に基づく仮執行の原状回復を申し立てている。

 労働基準法65条は、産前産後休業を定めているが、産前産後休業中の賃金については何らの定めを置いていないから、産前産後休業が有給であることまでも保障したものではないと解するのが相当である。そして、同法39条7項は、年次有給休暇請求権の発生要件である8割出勤の算定に当たっては産前産後休業期間は出勤したものとみなす旨を、同法12条3項2号は、平均賃金の算定に当たっては、算定期間から産前産後休業期間の日数を、賃金の総額からその期間中の賃金をそれぞれ控除する旨を規定しているが、これらの規定は、産前産後休業期間は本来欠勤ではあるものの、年次有給休暇の付与に際しては出勤したものとみなすことによりこれを有利に取り扱うこととし、また、産前産後休業期間及びその期間中の賃金を控除しない場合には平均賃金が不当に低くなることがあり得ることを考慮して定められていたものであって、産前産後休業期間を一般に出勤として取り扱うべきことまでも使用者に義務付けるものではない。また、育児休業法10条は、事業主は1歳に満たない子を養育する労働者で育児休業をしないものに関して、労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく勤務時間の短縮等の措置を講じなければならない旨を規定してしるが、上記措置が講じられた場合に、短縮された勤務時間を有給とし、出勤として取り扱うべきことまでも義務付けているわけではない。したがって、、産前産後休業を取得し、又は勤務時間の短縮措置を受けた労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しておらず、当該不就労期間を出勤として取り扱うかどうかは原則として労使間の合意にゆだねられるというべきである。

 ところで、従業員の出勤率の低下防止の観点から、出勤率の低い者につきある種の経済的利益を得られないこととする措置ないし制度を設けることは、一応の経済的利益を有するものである。上告人の給与規程は、賞与の支給の詳細についてはその都度回覧にて知らせるものとし、回覧に具体的な賞与支給の詳細を定めることを委任しているから、本件各回覧文書は、給与規程と一体となり、本件90%条項等の内容を具体的に定めたものと解される。本件各回覧文書によって具現化された90%条項は、労働基準法65条で認められた産前産後休暇を取る権利及び育児休業法10条を受けて育児休職規程で定められた勤務時間の短縮措置を請求し得る法的利益を含めて出勤率を算定するものであるが、上述のような労働基準法65条及び育児休業法10条の趣旨に照らすと、これにより上記権利等の行使を抑制し、ひいては労働基準法等が上記権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合に限り、公序に反するものとして無効となると解するのが相当である 

※上告人就業規則規定、備考⑤:育児休業規程第13条の勤務時間の短縮を受けた場合には、短縮した分の総労働時間数を7時間45分(7.75)で除した勤務日数に加算する(ただし、0.5未満の端数日については切り捨てる。)

 そうすると、本件90%条項のうち、出勤すべき日数に産前産後の日数を算入し、出勤した日数に産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による短縮時間分を含めないものとしている部分は上記権利等の行使をを抑制し、労働基準法等が上記権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから、公序に反し無効であるというべきである。そして、本件90%条項は、賞与支給対象者から例外的に出勤率の低い者を除外する旨を定めるのであって、賞与支給の根拠条項と不可分一体のものであるとは認められず、出勤率の算定にあたり欠勤扱いとする不就労の範囲も可分であると解される。また、産前産後休業を取得し、又は勤務時間短縮措置を受けたことによる不就労を出勤率算定の基礎としている点が無効とされた場合に、その残余において本件90%条項に効力を認めたとしても、労使双方に反するものではないというべきであるから、本件90%条項の上記一部無効は、賞与支給の根拠条項の効力に影響をおよぼさないものと解される。

※上記の出勤率の算定の歳に、例えば所定労働時間の一部が未就労で(遅刻、早退等の際)足りない場合に、その日の出勤を1.0を欠けるものとして取り扱うことは解釈の誤りです。少なくとも、年次有給休暇の出勤率の算定の際には、所定の労働日を分母とし、例えば1時間のみ就労した場合であっても出勤日数1(出勤とみなす日を含む)として分子に積算します。注:ただし、法定休日労働は前記の分子分母から控除します(カウントしない)

 備考⑤は、上記のとおり、欠勤とは区別される育児短時間勤務による短縮時間を、賞与の支給に関しては欠勤扱いするという規程である。欠勤扱いの結果、育児短時間勤務をすれば、その期間により賞与の支給を受けられない場合が生じる。被上告人のような女性従業員の場合、賞与の額が年間総収入額の中で占める割合は、前述のとおり高率である。育児短時間勤務をする従業員は、ほとんどが女性と考えられる。備考⑤は、被上告人が上告人の女性従業員として初めて育児短時間勤務をしたという事態に対応するため、平成7年度回覧文書から挿入された。したがって、備考⑤も、その挿入時期、趣旨、内容からして、実質的に女性のみを対象とし、育児短時間勤務の短縮時間を労働者の責めに帰すべき欠勤と同視して、これを取得した女性従業員に欠勤同様の不利益を被らせ、その不利益も効率の賃金減額であって、女性従業員がこのような不利益を受けることをおもんばかって権利の行使を控えるという事態を生じさせる規定であり、育児休業法10条が労働者に勤務時間短縮の措置を受ける権利を実質的に失わせるものである。

 しかも、備考⑤は、被上告人が育児短時間勤務をした賞与の対象期間(平成6年11月16日から平成7年5月15日まで)後の同年6月8日になって挿入されたものであって、実際上は、被上告人1人を対象とした一種の遡及適用規定である。このような遡及適用は、法規不遡及の法理、就業規則の周知義務(労働基準法106条参照)に違反する。したがって、備考⑤は、公序良俗違反により無効というほかない。

イ 平成18年(ワ)1955 名古屋地裁判決 判決文抜粋 協立総合病院(育児休業復職)

 また、原告(労働者)は、復職時に師長に復職させなかったことは旧育児休業法9条に反し違法である、また、裁量権を逸脱した行為であると主張する。しかし、同法が事業主に現職復帰の義務を課していないことは明らかである。また、仮に、短期間に復職した者が引き続き師長職にありつづけたとしても、前記認定の事実、特に原告が外来勤務の平看護師として復職しながら勤務を継続できなかったこと、原告が師長就任直後に妊娠し、病休し、その後1年以上職場を離れたこと、師長のポストはかぎられていること等に照らし、原告を師長に復帰させなかったことが裁量権を逸脱した行為であることも認められない。

 また、原告は、被告に旧育児休業法10条及び11条違反の行為があったと主張するが、原告が旧育児休業法10条の定める「一歳に満たない子を養育する労働者で育児休業をしない者」に該当した期間は1か月足らずしかなく、かつ、原告が勤務時間の短縮等の措置を申し出たという事情は窺えず、11条については、事業主に努力義務を負わせるに過ぎない。さらに、原告は、職場の人員配置が十分ではなく、被告が24時間保育や病児保育の態様もとられないため、他の職員に負担をかけることから、思うように休みが取れないなどと被告の育児支援策の乏しさにつき種々指摘するが、そのような措置を講じなければ、旧育児休業法が労働者に権利を保障した趣旨を実質的に失わせて、違法な状態となるとまでは解されない。

 これによれば、自宅待機命令は、上記のような業務上の必要から発令されたものであると認められ、原告が深夜業の制限を請求したこと自体を理由としたものであるとは認め難い。また、このような賃金を支払う旨の自宅待機命令は使用者が労働者に対し労務提供義務を免除したにすぎず、直ちに不利益な取扱いであるとはいい難い。

※労働契約の性質から、労働者には明示・默示の使用者の指示に基づき労務の提供義務を有しています。これは、労働者の債務であり使用者の債権であると言えます。一方、使用者は、労働者に提供を受ける労務の内容を指揮命令し、代償として労働者に決められた賃金を支払う義務があります。賃金の支払いは使用者の債務であり、労務の受領が使用者の債権であると言えます。

筆者注:ところで、上記から、使用者には「労務の受領義務」がないこと及び労働者には「賃金の受領義務がないこと」がよみとれます。従って、使用者が決められた賃金を支払った上で労働者に労務の提供の免除(自宅待機)を命じても、直ちに労働契約上及び法令上の違反であるとは言えないこととなります。勿論、例えばある労働者を特定の部屋に閉じ込めて(その部屋の中に始業から就業まで居ることを命じ)何日間も終日何も行うべき業務を与えずに時間を消費させるがごとき取り扱いは「人間の尊厳や人格の否定」に該当しますから使用者の不法行為が成立します。

 既に病棟に配置された原告を病棟に配置し続けることが違法であるというには、被告に原告を他の部署に異動させる作為義務があることが前提となり、上記合理的必要性がないというだけでは、被告にそのような作為義務があると解することはできない。また、原告の能力・経験からして、3交代勤務ができないからといって、原告を病棟に配置する合理的必要性がないとまでは認め難い。さらに、6西病棟への職場復帰が不利益取扱いであるとも指摘するが、自宅待機命令を取り消せば、さらに異動を命じない限り、6西病棟へ職場復帰することになるのであって、そのような作為義務がないことは上記のとおりである。

ウ 平成5年(ワ)53 盛岡地裁一関支部判決 判決文抜粋 岩手県交通事件(生理休暇の不正取得)

 原告の主張するとおり、何人とうえども趣味を持ち、人間らしく生きる権利を有することは近代ないし現代社会においては当然のこととして承認されているが、他方において、人は労働すべき契約上、社会生活上の義務も負っており、これとの調和も計られなければならないことも当然であって、年休請求者の担当する業務の性質、その繁閑及び人員配備の難易とうを考慮して時季変更権の行使を認めることは右幸福追求権に対する不当な制限とはいえない。

 もっとも、生理日の就業が著しく困難であるか否かは業務によって差異があり、バスガイドの業務は生理日の女子にとっては比較的心身の負担を伴うものであると考えられ、また、その困難性につきその都度厳格に証明することを要するとすれば正当に休暇を取得する権利が抑制されかねない反面、請求すれば必ず取得を認め、取得した以上は何の目的にこれを使用しようと干渉し得ないものとすれば、事実上休暇の不正取得に対する抑制が困難となり、これが横行すれば、使用者に対する労働義務の不履行あるいはこれを取得しない従業員との関係において不公正を生じることとなり(本件のように2日間は有給休暇とされ、処遇上出勤扱いされている場合は特にそのことが顕著となる。)、ひいては女子労働に対する社会の信頼ないし評価が損なわれるおそれがあるので、生理休暇制度の運用は難しい面が存する。しかしながら、少なくとも、取得者が月経困難症であるとの証拠もなく、生理休暇を取得した経緯、右休暇中の取得者の行動及び休暇を取得しなければ就業したであろう業務の苦痛の程度等から、就業が著しく困難でない明らかに認められる場合などは、当該生理休暇の取得は不正取得として許されないというべきである。

 そこで、本件について検討すると、原告は、前示のとおり、民謡大会に出場する目的で年休取得を請求してしたが、貸切バス運行業務が数口入っていたため同日は就労要請を受けていたところ、たまたま生理となったので自己の判断で生理休暇を取得する旨連絡をし、そして、夫の運転する自動車に乗車しながらとはいえ、深夜遠隔地へ長時間をかけて旅行し、翌日の民謡大会に出場したというものである一方、原告が月経困難症であったとの証拠もないうえ、同日入っていた業務にはそれほど苦痛でないことは明らかである。

 

以上で、女性に関する労働条件を終了します。

次回から「パートタイム労働法」について、逐条分析を致します。

 

 

女性

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年少者等と労働基準法

2015年05月05日 10:20

○年少者とは何か?

 労働基準法は、未成年者に関する規定を置いています。未成年者は、20歳未満~18歳、18歳未満~15歳に達した後最初の3月31日後、15歳に達した後最初の3月31日以前~13歳、13歳未満など、その者の年齢ごとに区分けして、就業制限を設けています。労基法上の区分では、15歳に達した後最初の3月31日後から18歳に達する前の間にある者を年少者と言っています。※年少者の定義規定はありませんが、中学生以下を児童といっているため、そのように読めます。

○労働基準法の年少者の就業制限

 労働基準法の年少者の就業制限を表にすると次の1~4のようになります。なお、労基法第56条の規定の中の「使用する」とは、「労働契約を締結することはもちろん、実際に労働させること」と解されています。さらに、児童の使用許可を得るべき行政官庁とは、使用者(事業場)の所在地を管轄する労働基準監督署です。

※罰則:労基法第56条違反(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金、労基法第118条)

1、満13歳未満(小学生以下に相当)

 映画の製作・演劇の事業に限り、13歳未満の者を許可を得て使用できる。(労基法第56条第2項)

 ※戸籍証明書の備え付け、学校長の証明書、親権者等の同意書の備え付けが必要。(労基法第57条)また、労働時間・休日の制限がある。(労基法第60条)

2、満13歳以上15歳に達した後最初の3月31日が終了するまでの間(中学生に相当)

 別表第一から第五号までに掲げる事業以外の事業の仕事で、児童の健康・福祉に有害でなく、軽易な労働に限り許可を得て使用できる。(労基法第56条第2項)

 ※戸籍証明書の備え付け、学校長の証明書、親権者等の同意書の備え付けが必要。また、労働時間・休日の制限がある。

3、満15歳に達した後最初の3月31日が終了後から満18歳に達する前の間にある者(高校生に相当)

 ※許可は不要だが、年齢証明書の備え付けが必要。また、深夜業の制限(労基法第61条)及び危険有害業務の就労制限(労基法第62条)、さらに坑内労働の制限(労基法第63条)がある。さらに、労働時間及び休日の制限がある。(労基法第60条)

4、未成年者全般

 ※18歳以上20歳未満の労働者については、就業制限等はないが一定の条件がある

 ア 親権者等の代理労働契約締結の禁止(労基法第58条) ※親権者等とは、親権者又は後見人を指します。

 イ 親権者等又は監督署の労働契約の解除権の行使規定(労基法第58条)

 ウ 親権者等の賃金の受け取りの禁止、未成年者の独立した賃金請求権(労基法第59条)

  ※親権者等の事実上の賃金の横取りを禁止している(未成年者本人の同意があっても不可)。使者として、親権者等が賃金を受け取りその後全額が本人に渡れば問題がない。ただし、本人名義の預金口座等の管理を親権者等が行うことまで禁止されているものとは考えられない。

 エ 18歳未満の者に限って14日以内の解雇後、その労働者の帰郷旅費の使用者の負担義務規定(労基法第64条)

○年少者規則(年少者労働基準規則、昭和29年6月19日労働省令第13号、改正平成19年厚生労働省令第86号)

労働基準法第62条(危険有害業務の就業制限)

 使用者は、満十八歳に満たない者に、運転中の機械若しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査若しくは修繕をさせ、運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせ、その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ、又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない。

2 使用者は、満十八歳に満たない者を、毒劇薬、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない。

3 前項に規定する業務の範囲は、厚生労働省令で定める。

第63条(坑内労働の制限)

 使用者は、満十八歳に満たない者を坑内で労働させてはならない。

※罰則:労基法第62条(危険有害労働禁止)違反(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金、労基法第119条)

    労基法第63条(坑内労働禁止)違反(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金、労基法第118条

年少者の就業制限は、「年少者労働基準規則」として独立規定を設けています。

同規則の概要は次の通りです。

第1条 児童の使用許可申請の方法

第2条 児童の使用許可にかかる監督署長の措置

第3条 監督署長の未成年者の労働契約の解除              第4条 削除

第5条 交替制によって使用する満16歳以上18歳未満の男性の深夜業許可  第6条 削除

第7条 満18歳未満の重量物を取り扱う業務の制限(表の重量以上の重量物を取り扱う業務の就労禁止)

    満16歳未満          女性  断続作業 12kg 継続作業 8kg

                    男性  断続作業 15kg 継続作業 10kg

    満18歳未満(16歳以上に限る) 女性  断続作業 25kg 継続作業 15kg

                    男性  断続作業 30kg 継続作業 20kg 

第8条 18歳未満の労働者の危険有害業務の就労禁止規定。ただし、第41号に限り、保健師、助産師、看護師、准看護師の有資格者又は養成中の者を除く

1、ボイラーの取扱業務(小型ボイラーを除く)

2、ボイラーの溶接業務

3、クレーン、デリック又は揚貨装置の運転の業務

4、緩熱性(カンネツセイ)でないフィルムの上映操作

5、一定のエレベータの運転(積載2トン以上等)

6、軌条運輸機関、バス、トラック(最大積載2トン以上)の運転

7、動力巻上げ機、運搬機、索道の運転

8、高電圧の充電路、支持物の点検、修理、操作(750v(交流300v))

9、動力伝動装置の掃除、給油、検査、修理、ベルトの取替え

10、玉掛け(クレーン、デリック)

 ※クレーン等のフックにワイヤー等で吊り上げる重量物を取り付ける作業、非常に難しく危険で資格が必要

11、液体燃料器(ガスタービン、ロケットエンジン等)の点火

12、土木建築用機械(パワーショベル、バックホー等)又は船舶荷扱用機械の運転

13、ゴム、ゴム化合物又は合成樹脂のロール練り

14、一定のご盤、ご車に木材を供給する業務(製材機を使った作業)

15、プレス機械の金型又はシャーシの刃部(ジンブ)の調整又は掃除

16、機動車両の入換え、連結又は解放(操車場構内)

17、軌道内のずい道内の場所、見通し距離が400m以内の場所、車両の通行が頻繁な場所での単独業務

18、プレス機、鍛造機械を使う金属加工

19、プレス機械、シャー等(せん断機)を使った鋼板加工(厚さ8mm以上) 20、削除

21、手押しかんな盤、単軸面取り盤

22、破砕機、粉砕機への材料供給

23、土砂が崩壊するおそれがある場所、深さ5m以上の穴

24、高さ5m以上の現場

25、足場の組立、解体、変更(高所に限り禁止)

26、立木の伐採(直径35cm以上)

27、機会を使った木材の搬出(高校生のアルバイトの死亡事故事例有り)

28、火薬、爆薬、火工品の製造、又は取扱い

29、爆発性の者、発火性の物、酸化性の物、引火性の物、可燃性の物の製造、取扱い(労働安全施行令別表第一)

30、削除

31、圧縮ガス、液化ガスの製造、取扱

32、水銀、砒素、黄りん、弗化水素、塩酸、硫酸、シアン化水素、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、石灰酸等の取扱い

33、鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、シアン化水素、アニリン等のガス、蒸気、粉じんを発散する場所

34、土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所

35、ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務

  ※福島の除染作業は、18歳未満の者は出来ないことになっています。

36、多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱(ショネツ)な場所

37、多量の低音物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所

38、異常低温下における業務

39、さく岩機、鋲打機等の振動が著しい機械を使う業務

40、強烈な騒音を発する場所

41、病原体によって著しく汚染のおそれが業務

42、焼却、清掃又はと殺

43、留置施設、精神病院

44、酒席に侍する(近くに仕える、はべる)業務

45、特殊の遊興的接客業

46、厚生労働大臣が別に定める事業

第9条 児童の禁止業務

 監督署長の児童の使用許可の対象から除外

1、公衆の娯楽を目的として曲馬又は軽業を行う業務(サーカス)

2、戸々、又は道路等において、歌謡、遊芸その他の演技を行う業務(流し、路上芸人、路上曲芸)

3、旅館、料理店、飲食店、娯楽場

4、エレベータの運転(デパート等のエレベータ係)

5、その他厚生労働大臣が定める業務

第10条 旅費除外認定

○年少者の労働時間・休日の制限

労働基準法第六十条 

第三十条のニから第三十条の五まで、第三十六条及び第四十条の規定は、満十八才に満たない者については、これを適用しない。

2 第五十六条第ニ項の規定によつて使用する児童についての第三十二条の規定の適用については、同条第一項中「一週間について四十時間:とあるのは「、修学時間を通算して一週間について四十時間」と、同条第二項中「一日について八時間」とあるのは「、修学時間を通算して一日について七時間」とする。

3 使用者は、第三十二条の規定にかかわらず、満十五歳以上で満十八歳に満たない者については、満十八歳に達するまでの間(満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日までの間を除く。)、次に定めるところにより、労働させることができる。

一 一週間の労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を十時間まで延長すること。

二 一週間について四十八時間以下の範囲内で厚生労働省令で定める時間、一日について八時間を超えない範囲内において、第三十二条の二又は第三十二条の四及び第三十二条の四の二の規定の例により労働させること。

ア 第1項の意味

 満18歳未満は、第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)、第32条の3(フレックスタイム制)、第32条の4(1年単位の変形労働時間制)、第32条の5(1週間単位の変形労働時間制)、第36条(労使協定による法定労働時間を超える労働)、第40条(1週44時間の法定労働時間の特例)の規定は、適用しないとしています。まとめると、本条第2項及び第3項の場合を除き、満18歳未満の労働者は労基法第32条の1日8時間及び1週40時間を超えて労働させることが出来ないとされています。※ただし、非常災害時の労働時間の延長は可能です。(労基法第33条)

※罰則:労基法第60条違反(第60条違反は、労基法第32条違反と解されています。6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)

イ 第2項の意味 「中学生以下の労働時間」

 修学時間とは、授業開始時刻から最終授業終了時刻までの時間から、休憩時間を除いた時間(賞味の授業時間の合計)のことです。例えば、1時限が50分で1日6科目であれば、6分の5×6=5時間、「朝礼+終礼=30分」とすれば、その日の修学時間は5時間30分です。この日については、7時間ー5時間30分=1時間30分が就労時間の限度となります。もちろん、午後8時以降は、労基法第61条第5項の規定により児童(中学生以下)を使用できません。

 そして、夏休み期間等であっても1週40時間を超えて児童を使用することはできません。


ウ 第3項の意味 「高校生以上(中学卒業後18歳になる前まで)の労働時間」

a 1号 

1週40時間の範囲内であれば、1日10時間まで延長しても、労基法第32条違反(法定時間外労働)とはならない。(※手続き不要)

事例:1週=歴週、定時制高校の17歳男子生徒(無期雇用、正社員見習い)

 (日)休み(月)休み(火)10h(水)10h(木)10h(金)10h(土)休み 計40時間

※第3項第1号の解釈上、「一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合」には休日も含まれること、又「10時間まで延長する他の日」は1日とは限らないとされています。従って、上記の事例は労基法第60条第3項第1号の要件を満たします。

 なお、この労基法第60条第3項第1号による労働時間規制は、裁判例により同規定による一つの変形労働時間制であると判断されています。

b 第2号

 高校生以上(中学卒業後満18歳になるまでの間)は、1年単位の変形労働時間制を適用し、1日の労働時間を8時間以下に限定することで1週の労働時間を48時間まで延長できる。

 18歳以上の場合の1年単位の変形労働時間制では、1日最大10時間、1週52時間、連続勤務日数6日(特定期間は連続12日)となっています。なお、1年単位の変形労働時間制においては、対象期間の総労働時間が1週40時間換算で算出した総労働時間を超えることができません。※対象期間別の総労働時間枠、3か月(92日)525.71時間、4ヶ月(122日)697.14時間、6か月(183日)1045.71時間、1年(365日)2085.71時間となっています。

  対象期間における所定労働時間の総枠=(40時間×(対象期間の日数÷7))により算出します。

※実際の1年単位の変形労働時間制の運用に於いては、対象期間における所定労働時間の総枠は、計算結果の1時間未満を切り捨てて運用します。また、多くの場合、1日の所定労働時間を8時間で固定し、繁忙期の休日数を週休1日等に減らす一方で暇な時季の休日を増やして運用します。季節的な繁閑が明確な製造業等では、非常に合理的な制度であると言えます。

○年少者の深夜業の制限

労働基準法第61条

 使用者は、満十八歳に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。

2 厚生労働大臣は、必要であると認める場合においては、前項の時刻を、地域又は期間を限って、午後十一時及び午前六時とすることができる。

3 交替制によつて労働させる事業については、行政官庁の許可を受けて、第一項の規定にかかわらず午後十時三十分まで労働させ、又は前項の規定にかかわらず午前五時三十分から労働させることができる。

4 前三項の規定は、第三十三条第一項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させる場合又は別表第一第六号、第七号若しくは第十三号に掲げる事業若しくは電話交換の業務については、適用しない。

5 第一項及び第二項の時刻は、第五十六条第二項の規定によつて使用する児童については、第一項の時刻は、午後八時及び午前五時とし、第二項の時刻は、午後九時及び午前六時とする。

罰則:労基法第61条違反(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金、労基法第119条)

以下に項別の考察を致します。

a 第1項 満18歳未満の深夜業の禁止(交替制の満16歳以上の男性を除く)

 三交替勤務等の場合の満16歳以上の男性については、深夜業の制限がありません。ただし、労基法第60条の制限は受けますので、1日の労働時間及び1週の労働時間の制限があります。

b 第2項 子役タレントの例外

 第56条第2項の規定によって演劇の事業に使用される児童(いわゆる演劇子役)が演劇の事業に従事する場合には、当分の間、法第61条第2項の時間は、午後9時及び午前6時となるとされています。

c 第3項

 満16歳以上の男性は、基本的に第1項の適用を受けます。第5項の規定がありますから、中学卒業後の男女で満18歳になるまでは、交替制勤務の場合に、許可を受けて午後10時30分まで又は朝5時30分から使用できるとしています。ただし、飲食店等のいわゆるホステス・ホスト等は第62条の規定により年少者を使用できませんし、危険有害業務及び福祉に有害な場所における業務に就かせることはできません。

d 第4項 適用除外業務

 年少者の深夜業の禁止の除外は、労基法第33条により非常時に労働時間を延長する場合や法定休日労働をさせる場合、労基法別表第一の6号(土地の耕作若しくは開梱又は植物の裁植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業)、7号(動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業)13号(病者又は弱者の治療、看護その他保健衛生の事業)、電話交換の業務、です。これらの事業は、年少者の深夜業の業務に就かせることができることとなっています。ただし、労基法のその他の年少者の就業制限に当たらないかどうかについて十分留意が必要です。

e 第5項 児童(満15歳に達した後最初の3月31日までの間にある者)の深夜業の制限

 中学生以下の夜間使用は、第1項に拘らず、夜は午後8時まで及び朝は午前5時以降に限り可能です。通常深夜業は、午後10時から午前5時となっています。第2項に拘らず、中学生以下の子役タレントの場合は、夜は午後9時まで及び朝は午前6時からに限り使用することができます。

 

以上で年少者の規定の記述を終了します。未成年者は、労働者として使用する場合において法の不知や民法上の制約(第5条、第6条の規定)もあり、十分にその福祉や安全衛生及び教育の観点から使用者側の配慮が必要です。

次回は、労働基準法他の女性に関する規定について記述します。

 

年少者

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労働時間とは何か?

2015年05月04日 10:14

労働時間についての考察

労働基準法第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

○特例措置対象事業場

 労働基準法第32条の例外規定は変形労働時間制等を含め数多く存在しますが、1週44時間の特例事業はその中の一つです。

労働基準法第40条 別表第一第一号から第三号まで、第六号及び第七号に掲げる事業以外の事業で、公衆の不便を避けるために必要なものでその他特殊の必要あるものについては、その必要避くべからざる限度で、第三十二条から三十二条の五までの労働時間及び第三十四条の休憩に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる。

2 前項の規定による別段の定めは、この法律で定める基準に近いものであって、労働者の健康及び福祉を害しないものでなければならない。

労働基準法施行規則第25条の2 使用者は、法別表第一第八号、第十号(映画の制作の事業を除く。)、第十三号及び第十四号に掲げる事業のうち常時十人未満の労働者を使用する者については、法第三十ニ条の規定にかかわらず、一週間について四十四時間、一日について八時間まで労働させることができる。

労働基準法別表第一

 第八号  物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業

 第十号  (映画の製作=除外)又は映写、演劇その他の興業の事業

 第十三号 病者又は虚弱者の治療、看護その他の保険衛生の事業

 第十四号 旅館、料理店、飲食店、接客又は娯楽場の事業

以上の様に、現在も常時10人未満の労働者を使用する比較的小規模の事業場については、1週44時間を法定労働時間とする特例事業が存在します。

○労働時間とは何か?

 戦前の労働基準法施行前においては、商店他の丁稚奉公(小僧奉公)が存在しました。この丁稚奉公においては、ほぼ無給(無賃金)の報償が薄い条件で労働義務が課され、代わりに仕事の伝授及び現物給付としての食事の提供・衣住の提供があるのみであり、身柄拘束の性格が強かったとされています。この丁稚奉公においても丁稚は労働者であり労務の提供がその債務でした。ただし、丁稚は24時間・365日丁稚であり、いつでも主人や先輩(上司)の手代・番頭の指示で労務の提供義務を負っていたと言えます。民法の規定には、現在でもこの丁稚奉公を想定したものが存在します。

民法第626条 雇用の期間が5年を超え、又は雇用の期間が当事者の一方又は第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習いを目的とする雇用については、10年とする。※現行民法の規定です。この規定は、特別法の労働基準法の規定(第14条)により打ち消されますので、採用できないこととなります。

 現在の労働者に立ち返ってみると、労働者は労働契約の範囲内で使用者の指揮命令に従った労務の提供義務が課され、その意味でのみ身体(労務の提供としての思考を含めると心身と言えます。)を拘束されています。そうすると、労働時間とは「労働者が、労働契約の定めるところにより使用者の明示・黙示の指揮命令に従い労務の提供を行っている時間のこと」と定義できます。

○労働時間をめぐる問題 

 今回も「労働基準法の研究」を元に、労働時間をめぐる問題点を考察します。

1.労働基準法第32条の解釈

ア 一週40時間(又は44時間)の労働時間の限度とは何か?

 1週間の定義は、何度か述べているとおり、就業規則に規定があればその7日間(毎週月曜日から土曜日までの7日間等)、就業規則に規定が無ければ暦週(毎週日曜日から土曜日までの7日間)を言います。そして、日付をまたぐ労働の場合には、始業時刻が属する日の一の労働時間とされますから、夜勤等の場合には前日の労働日の継続する一の労働時間とされます。そこで、例えば暦週を1週間としている事業場では、土曜日の夜勤者の勤務は勤務開始日の属する週の労働として算定されます。法定時間外労働の有無の判断についてはここでは避けますが、簡単に言えば1週40時間(又は44時間)を超えた場合に法定時間外労働と判断されます。この場合、1週間の各日の実労働時間が8時間以下であっても、1週の実労働時間が40時間(又は44時間)を超えた場合に法定時間外労働として取り扱われることに留意が必要です。ただし、法定休日労働に法定時間外労働の概念はありませんから、法定休日に労働した場合にはすべて法定休日労働(又は法定休日深夜労働)として取り扱われます。

イ 1日8時間の法定労働時間の限度とは何か?

 1日の労働時間は、「実労働時間主義」により判断されます。従って、労働契約上(就業規則上)で休憩時間等とされていても、事実上労働していれば「労働時間として取扱い」その日の労働時間を算定する必要があります。そして、1日の実労働時間を積算した結果が本条第2項においては8時間を超えてはならないとされています。

ウ 賃金計算期間と労働基準法第32条の規定との関係

 労働基準法第15条及び第89条に規定される賃金計算期間は、月給制であれば「毎月初日から月末まで」又は「前月の21日から当月の20まで」若しくは「前月16日から当月15日まで」などと通常規定されています。そこで、両者の関係上、この賃金計算期間は労基法第32条でいう1週の概念と一致していません。

 そのため、その両者の関係をどのように考えるかといいますと、1日の労働時間をどの期間に含めるのかを判断する場合には始業日が属する日の賃金計算期間に算入しますし、1週の時間外労働時間をどの賃金計算期間に含めるのかについては、1週の末日が属する賃金計算期間に1週の法定時間外労働時間分を算入すればよいこととなります。

 これは、非常に難解ですが例えば次のように考えることになっています。

事例:賃金計算期間=暦月、1週=暦週、特例に非該当事業場、変形労働時間制等の導入なしの場合

  平成27年 4月                    5月

   日付  26(日)27(月)28(火)29(水)30(木)1(金)2(土)

労働時間   休日   8h  9h   8h   9h        8h        8h     1週計(50h)

8時間超  4/26 0h ,  4/27 0h,  4/28 1h, 4/29 0h, 4/30 1h,  5/1  0h ,  5/2 0h

 ここで、法定時間外労働は①「1日8時間を超える労働時間」及び②「1週40時間を超える労働時間」が法定時間外労働時間(①と②で重複する部分を除く)ですから、上記の場合は、

 4月28日分の1時間及び4月30日分の1時間=合計2時間の法定時間外労働として、4月1日~4月25日の法定時間外労働分に加算します。そして、1週40時間を超える労働時間分として8時間(=※(50時間ー40時間)-2時間)を5月分の法定時間外労働として算入します。

 ※1週間の総労働時間50時間から1週の法定労働時間40時間を差し引き、既に法定時間外労働として4月分に算入している2時間(4月28日分と4月30日分の合計2時間)を差し引いて算定します。

 変形労働時間制等を採用していない事業場の場合、以上が労働基準法第32条の正しい解釈となります。これを例えば1ヶ月単位の変形労働時間制の様に、月を跨いだ分の法定時間外労働分(5月2日(土)の就労分8時間)を法定時間外労働ではなく法定内労働時間として扱い、無視してしまうケースが殆どかと思います。繰り返しになりますが、フレックスタイム制や1ヶ月単位の変形労働時間制等でない限り、事例の5月2日労働時間分(8時間)を法定時間外労働分として5月分に必ず算入する必要があります。一般的になじみが薄い解釈ですが、この点も「労働時間」の考察として何度でも記述すべきと考えていたため、今般項目に加えました。

※フレックスタイム制においては精算期間内で又1ヶ月変形においては1ヶ月以内の特定の期間内で、それぞれ1日及び1週の法定時間外労働分をその都度その期間内で精算する仕組みになっています。ただし、事務を簡単にするために賃金計算期間の起算日と期間、精算期間等の起算日と期間の両者を一致させておくほうが好ましいです。

エ 労働基準法第32条と第36条の関係

 労働基準法第32条は、第1項第2項とも「(法定労働時間を)超えて、労働させてはならない」としています。労働させてはならないのですから、労働させた場合には罰則が設けられています。勿論、36条等の手続きを経た場合には、免責されます。

罰則は、労働基準法第119条に規定があり、第32条違反は「六箇月以下の懲役または三十万円以下の罰金」に処するとされています。

 そして、一般的には労働基準法第36条に規定がある協定(いわゆる36協定)を締結し、かつ協定届に記入して、労働基準監督署に届出を行います。この36協定届は、法定の様式を使用する必要があり、かつ労働基準法第36条の効力発生要件になります。この36協定の届出により、労基法第32条、第32条の2、第32条の3、第32条の4、第32条の5、第40条の免責効果が生じます。ただし、労働者に法定時間外労働(所定時間外労働を含め)を命じて応諾義務を課す為には、就業規則他にその旨を規定しておく必要があります。この点は、法定休日労働(法定外休日労働を含む)の場合の手続きと同様です。

オ 労働基準法第32条の例外

 特例措置対象事業場が第32条の例外として1週44時間を法定労働時間とされていることは既に述べました。そこで、その他の1日8時間及び1週40時間の法定労働時間の例外を記述します。

 労基法第32条の2(1ヶ月単位の変形労働時間制※厳密には1ヶ月以内の一定の期間)、第32条の3(フレックスタイム制※1ヶ月以内の期間に限る)、第32条の4(1年単位の変形労働時間制※厳密には1ヶ月を超え1年未満の期間)、第32条の5(1週間単位の変形労働時間制)、第38条の2(事業場外みなし労働時間)、第38条の3(専門業務型裁量労働制)、第38条の4(企画業務型裁量労働制)、第60条(年少者の労働時間)、第33条(臨時の時間外労働)、第41条(農業・管理監督者・監視断続労働の労働時間・休憩・休日の適用除外)他については、労働基準法第32条の1日8時間及び1週40時間の法定労働時間の例外となります。

○使用者の労働時間の把握義務

 使用者は、適正な賃金を支払う義務があり、また長時間労働を防止し労働者の安全衛生管理を行う観点から、個々の労働者の日々の労働時間を適正に把握・管理する義務を負っていると解されています。労働時間の適正な把握についての厚生労働省作成のリーフレットがありますので、ご参考にして頂ければ幸いです。

適正な労働時間の把握.pdf (1701396) 

○労働時間に関する争議の実情(裁判例)

 労働時間に該当しない時間は、毎回、前回の終業後から始業前まで(形式的な始業時刻前ではなく、事実上の労働開始時刻前のこと。終業後も同様。休日・休暇日を含む。)及び労働日の休憩時間が労働時間に当たらない時間です。従って、それ以外はすべて労働時間となります。

ア 昭和63年(ワ)2520 大阪地裁判決 判決文抜粋 タイムカード記載の時刻による労働時間の把握

 一般に、会社においては従業員の出社・退社時刻と就労開始、終了時刻は峻別され、タイムカードの記載は出社・退社時刻を明らかにするにすぎないため、会社は会社はタイムカードを従業員の遅刻・欠勤等をチェックする趣旨で設置していると考えられる。

 前記認定のとおり、原告らは出社・退社時にタイムカードに時刻を打刻・記載しており、上司のチェックも形式的なものにすぎないのであって、被告におけるタイムカードも従業員の遅刻・欠勤を知る趣旨で設置されているものであり、従業員の労働時間を算定するために設置されたものではないと認められる。

 さらに前記認定事実によれば、原告らの業務は外勤が主であり、いわゆる直行・直帰を約4.6日に1日の割合で行っており、旧規則22条所定の「労働時間を算定し難い場合」に該当するか否かはさておき、そもそも労働時間を算定しにくい業務であると認められるうえ、原告らの直行・直帰の場合のタイム・カードの記載方法は統一されていなかったことが認められるから、特に直行・直帰の場合、同カードに打刻・記載された時刻をもって原告らの就労の始期・終期と認めることは、およそできないというべきである。以上によれば、原告らの労働時間はタイムカードに打刻・記載された時刻によって確定できないと判断される。

イ 平成19(ネ)5220 東京高裁判決 判決文抜粋 住み込みの労働時間

 1審原告らのうち1名は、日曜日及び祝日については、管理員室の証明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉その他本件会社が明示又は黙示に指示したと認められる業務に従事した時間に限り、休日労働又は時間外労働をしたものというべきところ、前記認定事実及び弁論の全趣旨によると、1審原告らは、日曜日及び祝日においても、管理室に居住していることから、管理員室の証明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉以外にも、受付業務等による住民との対応、宅配物の受取り、交付、駐車の指示、自転車置き場の整理等をすることが多く(ただし、休日に行われたリサイクル用ごみの整理については、前示のとおり、これを休日の時間外労働と評価することはできない。)、これについては、管理日報を作成して本件会社に報告していたが、本件会社から制止されることはなかったのであり、かつ、これらの業務の遂行が本件マンションの住民の利益にもなっていたものと認められるから、これらの業務の遂行についても、本件会社からの黙示の指示があったものとして1審原告からは時間外労働をしたものというべきである。

 労働時間に該当するか否かについては、使用者の指揮命令に基づいた労務の提供か否か等を根拠に個別具体的に判断されています。労働時間の把握が困難な業務や労働時間に該当するか否か判別し難い時間帯があり得るかと思います。固定時間外手当制の賃金制度(1日2時間時間外労働を行っているとみなして固定手当を支給する賃金制度です。ただし、実労働時間がその2時間を超えた場合には、法定以上の割り増し賃金の支払義務が生じます。)等を導入することで、実態との整合性を図ることを推奨いたします。

以上で、労働時間の問題を終了します。法定時間外労働の計算や変形労働時間制等及び時間外労働分の代替休暇の制度など、難解な問題が数多くありますが、今回は記述を省略します。

次回は、年少者等の問題について記述します。

 

労働時間

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休日・休憩とは何か?

2015年05月03日 10:35

休日・休憩とは何か?

 「休日とは休みの日であり、休憩とは休み時間である」当たり前ですが、実は難しい問題を含んでいます。今回も、自著「労働基準法の研究」を引用しつつ記述します。

 

1 休日とは何か?

労働基準法

   第35条 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。

     2 前項の規定は、四週間を通じ四回以上の休日を与える使用者については適用しない。

○休日の定義

ア 休日とは何か?

 休日とは、労働契約上「就労義務のない日」とされており、使用者から特別の要請(就業規則に休日労働のを命じることがある旨、また必要に応じ休日の振替を行う旨が規定されていれば、その指示に従う義務があります。)が無い限り、労働者は休日に就労する義務がありません。※労働基準法の研究p293

 また、休日は原則として歴日とされており、午前0時から午後12時までの24時間が原則の休日とされています。従って、法定休日の前日の時間外労働が長引いて午後24時を超えた場合は、労働時間帯が休日に食い込んでいますから、日付を超えた時点で単なる時間外深夜労働ではなく休日深夜労働となります。

イ 法定休日と法定外休日(私定休日)

 法定休日とは、労働基準法第35条に規定されている通り、毎週1回の休日(同条第1項、少なくとも1日)又は4週を通じて4日の休日(同条第2項、4週間に4日以上)のことを法定休日と言います。

 一方、法定外 休日(私定休日)とは、毎週1回の休日若しくは4週4日を超える休日のことを意味しています。両者の違いは、割増賃金の支払義務の有無及び、そもそも、法定外休日労働の場合は法的な制限はありませんが、法定休日の場合には、労働基準法第35条により法定休日労働をさせることが禁止されているという点と法定の割増賃金の支払義務が生じる点が根本的に異なります。

 ※法定休日労働を命じるための手続きとして、36協定(いうまでもなく、労働基準法第36条に規定される労使協定のことを指します。)の締結と労働基準監督署への届出(刑事免責)と就業規則への休日労働命令への応諾義務の規定(民事効力の根拠)が必要です。

ウ 毎週1回の休日の意味は何か?

 「毎週」とは、歴週又は就業規則等で定められた週のことを言います。歴週とは、毎週日曜日から土曜日までの7日間のことを言います。また、就業規則で週の定義を「毎週月曜日から土曜日」等と定めれば、その7日間が「毎週」となります。その、毎週の7日間にかならず少なくとも1日(原則歴日)休日があれば、労基法第35条第1項の要件を満たします。

 具体的には、今月(平成27年5月)の例で言いますと、週を歴週、休日を○印とすると、次の暦の通りであれば法定休日の要件を満たします。

                          1 2

               3 4  5 6  ⑦  8 9

              10 11 ⑫ 13 14 15 16

              17 18 19 20 21 22 ㉓

              ㉔ 25 26 27 28 29 30

              31 1 2  3  4 5  ⑥

エ 4週4日の休日(労基法第35条第2項)とは何か?

 就業規則で4週4日の休日制をとる旨及び4週の起算日を定めることで、毎週1日の休日を与えなくとも良いことになっています。1か月単位の変形労働時間制を採用している場合などに、多くみられます。具体的には、次のような場合です。※平成27年5月の例、起算日は5月1日で休日は○印です。

                          1 2

               3 4  5 6  7  8 9

              10 11 12 13 14 15 16

              17 18 19 20 22 22 ㉓

              ㉔  ㉕  ㉖ 27 28 29 30

 上記の場合、4週とは5月1日を起算日とする5月1日から5月28日までの28日間です。その間に、23日、24日、25日の4日間を休日としていますので、労基法第35条第2項の規定を満たします。

○休日の歴日原則の例外は何か?

ア 三交替制の場合

 三交替制の勤務の場合は、三交替制が就業規則で定められており、かつ制度として運用されていれば、「継続する24時間」を休日として取り扱ってよいとされています。(昭和63年基発150号)

イ 旅館業の場合の例外

 原則は、歴日を以って休日とすべきであるが、「フロント係、調理係、仲番及び客室係」に限り、次の①及び②の要件を満たす場合には、ニ歴日にまたがる休日を例外として認めるとされています。(昭和57年基発446号他)

①正午から翌日の正午までの24時間を含む継続30時間の休憩時間が確保されていること。ただし、この休憩時間は、当分の間に限り、正午から翌日の正午までの24時間を含む継続27時間以上であっても差し支えないものとすること。

②休日をニ歴日にまたがる休日という形で与えることがある旨およびその時間帯があらかじめ労働者に明示されていること。

ウ 休日の歴日原則の例外、職業運転手の場合

 トラック、バス、タクシー運転手の労働時間に関する基準は、それぞれ告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準、平成元年2月9日労働省告示第7号)の形で示されています。

 同改善告示によれば、職業運転手の休日は原則として連続する32時間以上(少なくとも30時間以上)が必要とされています。

○振替休日とは何か?

 就業規則にあらかじめ規定しておくことで、休日の振替をすることができます。休日の振替を行うと、本来、休日の予定とされた日は労働日に変わり、事前に指定された別の労働日が休日となります。この場合、法定休日労働が生じる恐れや一週の総労働時間が40時間を超えてしまう恐れが生じますので、労働時間管理を含めた休日の振替をする必要があります。ただし、休日の度々の変更は労働者にとって生活の予定が立たず好ましくありませんので、休日の予定はあくまで事前の勤務表等で確実に確定しておくべきものです。

 ところで、毎週1回の休日又は4週4日の法定休日は別の期間(週又は4週)に振替できませんので、法定休日に当たる日の労働はあくまで「法定休日労働」となります。逆に言えば、振替休日はあくまで法定外休日又は同じ週内或いは4週内に止め、毎週1回以上または4週4回以上の休日は必ず確保しておく必要があります。※確保できない場合には、36協定の手続き及び休日割増賃金の支払いが必須となります。

○代休とは何か?

 労基法第35条の解釈上、法定休日出勤を命じたのちに他の日を代わりに休日とする場合は「代休」といわれ、元々の休日出勤の性質はあくまで休日労働のままで変わりません。

○休日の出張(移動や宿泊)、国民の祝日・日曜日と労基法の休日

 休日の出張(電車等での移動や宿泊)はあくまで休日であり、休日労働ではないとされています。(昭和23年基発461号)ただし、労災上の取り扱いは異なります。

 一方、国民の祝日(「国民の祝日に関する法律」、昭和23年7月20日法律第178号)や日曜日は労基法第35条の休日とは無関係となります。(昭和41年基発739号)

○法定休日1週1日以上と1週40時間の法定労働時間の整合性について(労働基準法の研究p300より)

 ところで、1週の法定労働時間は40時間(又は44時間)ですので、1日の法定労働時間8時間とを考え合わせると、8時間×6日(7日ー1日)=48時間となります。

 つまり、1日8時間労働にこだわれば週休2日制をとらなければなりませんし、週6日勤務にこだわれば1日の労働時間は40時間÷6日=6.66・・・時間(6時間40分)以内としなければなりません。これは、戦後すぐの労基法制定時に、「1日8時間、1週48時間労働制」が法に規定されたことに由来します。つまり、労基法制定時には1日8週間1週48時間として、週休1日制と整合性がとれていたわけです。その後。昭和63年に1週46時間、平成3年から1週44時間制となり、平成5年に1週40時間制が実施されました。

 その結果特例措置対象事業(1週44時間)を除き、1週40時間の法定労働時間を1日8時間の法定の範囲内で、各日の所定労働時間として割り振るという考え方が現行労基法の考え方です。

○休日に30分のみ労働したらどうなるか?

 休日に30分労働したら、その日はもはや休日ではなくなります。ただし、法定休日に30分労働した場合は、あくまで法定休日労働です。休日とは、歴日の全部が「完全に労働義務が免除されている」のであり、一部でも労働すれば休日の要件を満たしません。

 ところで、休日は歴日(午前0時から午後12時までの24時間)といっても、実際は日付が変わって通勤のため家を出るまでの時間及び通勤を終わって帰宅してから午後12時までの間は、就労が免除されています。実労働時間が概ね8時間から10時間とすれば休憩時間1時間から1時間半、通勤時間往復1時間とすると、家を出てから帰宅まで概ね10時間(労働時間8時間、休憩1時間、通勤1時間)から12.5時間(実働10時間、休憩1.5時間、通勤1時間)となります。そうすると、休日には概ね38時間(=24時間+(24時間ー10時間))から35.5時間(24時間+(24時間ー12.5時間))の自由時間があることとなります。もちろん、睡眠時間(2回)食事時間(5回)入浴時間(2回)等の生活に不可欠な時間をその「35.5時間~38時間」から割かなくてはなりません。

 そうすると、休日に充当すべき時間は、単なる連続した24時間では足りないと思われます。

2 休憩とは何か? 

労働基準法

 第34条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少なくとも四十五分、八時間を超える場合においては少なくとも一時間の休憩時間を労働時間の途中にければならない。

   2 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。

   3 使用者は、第一項の休憩時間を事由に利用させなければならない。

○休憩時間とは何か?

 「「休憩時間」とは、単に作業に従事しないいわゆる手待時間は含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう。すなわち、現実に作業はしていないが、使用者から就労の要求があるかもしれない状態で待機しているいわゆる「手待時間」は、就労しないことが使用者から保障されていないため休憩時間ではない。」

 そして、「休憩時間とは単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取り扱うこと。(昭和22年基発17号)」とされています。

○休憩の原則のまとめ  ※労働基準法の研究p285より引用

1. 休憩は、労働者が自由に利用できる時間であり、例えば電話番などで必要時に対応が要求されている場合には、完全な休憩時間とはならない。また、作業と作業の合間のいわゆる「手待時間」は、原則労働時間である。

2.始業から終業までの労働時間が6時間を超える場合には45分以上、同じく8時間を超える場合には60分以上の休憩を与えなければならない。また、休憩時間は分割して与えてもよいし、更に休憩時間を与える位置(労働時間の途中に限る)に制限はない。なお、8時間を超える場合には、たとえ16時間の労働であっても60分の休憩を与えれば法違反とはならない。

3.休憩時間は、始業から終業までの間の途中に与えなければならない。休憩時間相当分を(始業前に充当し)始業時刻を遅らせることや終業時刻を繰り上げることで代えることはできない。

4.労働時間は、実労働時間主義であるから、例えば12:00~13:00の時間帯が休憩時間と定められている場合であっても、実際にはその時間帯の一部を就労した場合には、実際に休憩した時間帯のみが休憩時間とされる。一方、労働時間帯と定められている時間帯に休憩をとった場合には、その時間帯は休憩時間となる。

○休憩時間の自由利用

 「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を害(ソコナ)わない限り差し支えないこと。(昭和22年基発17号)」

 休憩を会社所定の休憩場所でとることを義務付けても、労基法第34条違反とはならないとされています。

○休憩の一斉付与

 休憩の一斉付与の原則は、労使協定(届出不要)で排除できます。また、労基法第34条第2項は、次の業種については適用除外とされています。

 運送の事業、販売、理容、金融、保険、映画、演劇、通信、病院、診療所、保育所、料理、飲食、官公署他

○休憩についての裁判例

ア 昭和54年(ワ)1596 大阪地裁判決 判決文抜粋  立正運輸事件 労働者の請求を一部認容

 右勤務内容に照らすと、原告らは、右長距離勤務で社外にあっては、常に、右運転車両及び積荷の管理保管の責任を負っていた、というべきであり、右責任を免除されたとみられる特段の事情を負っていた、というべきであり、右責任を免除されたとみられる特段の事情のない限り、右食事休憩時間であっても、右管理保管上必要な監視等を免れえなかったもの、と解される。 

 そうでれば、本件では、後記フェリー乗船中の場合を除き、右食事休憩時間中右管理保管の責任を免除された(或いは自ら放棄した)といえる特段の事情についての主張立証はないから、社外における右食事休憩時間については、原告らは、その間も、車両についての一定の監視等の休憩時間については、原告らは、その間も、車両についての一定の監視業務に従事していたとみるべきである(なお、二人乗務のときには、一方が右責任を免除されていた可能性は存するが、二人の勤務分担等勤務の実情が不詳である以上、当然に交互に実質的な食事休憩時間を取っていた、とまでいうことはできない)。

 従って、右食事休憩時間を勤務時間から控除すべき休憩時間と認めることはできない。

イ 昭和47年(ワ)1789 名古屋地裁判決 判決文抜粋 住友化学工業事件(一部認容)

 労働者は、労働契約に基づいて労働力を一定の条件に従って使用者に提供することを義務づけられ、その限りにおいて拘束されるのにすぎず、したがって、右契約により定められた範囲内の時間だけ労働力を使用者に提供数するのが労働者の義務であって、それ以外の拘束時間、即ち休憩時間は使用者の指揮命令から解放されたまったく自由な時間であり、この時間をいかに利用するかは使用者の施設管理権等による合理的制限を受けるほかは労働者の自由な意思に委ねられているのである。この自由利用を担保するためには、休憩時間の始期、終期が定まっていなければならず、特に終期が定かになっていなければ、労働者は到底安心して自由な休息をとりえないことは明らかというべきである。  

 本件操炉現場が高温の職場であり、班員の休憩の必要性は特に高かったと考えられ、しかも相当長期間会社の右債務不履行が継続したこと、他面操炉班では比較的待機時間が長く昼休み時間帯などにバトミントンを楽しむこともあった等の事情を考慮すると、原告の蒙った精神的な損害を金銭に換算すればその額は20万円をもって相当とする。

 

以上で休日・休憩についての記述を終了します。

次回は、労働時間とは何か?を記述します。

 

休日・休憩

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年次有給休暇とは何か?

2015年05月01日 09:59

年次有給休暇の考察

 年次有給休暇は、労働基準法第39条に規定があります。それでは、年次有給休暇とは何でしょうか?定年後に嘱託で再雇用された場合、退職前に使い切れなかった年休は消えてしまったのでしょうか?飲食店のアルバイトをかれこれ2年近くやっているのですが、風邪をひいたときなどに年休は使えないのでしょうか?

 以上について、疑問別に整理して記述します。また、年休についての典型的な裁判例を記述します。

○そもそも年次有給休暇とは何か?

 年次有給休暇は、労働者がその有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときには、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によって、年次有給休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅する効果をもたらすものです。※自著「労働基準法の研究p433より引用」

参考:「労働基準法の研究」労働基準法の研究.doc (2405499)

休日と休暇の違いは労働契約法のところで記述しましたが、休日とは「本来就労義務のない日」であり、「休暇とは、手続きを経て「本来の就労日の就労が免除される日」」です。

そして、年次有給休暇の取得要件・効果は次のとおりです。

1 労働者は有する(保有する)年次有給休暇の範囲内で権利行使が可能であること

2 手続きとしては、労働者が始期と終期を特定して休暇の時季指定を行うこと

  ※時間単位の取得の場合は、開始時刻及び終了時刻を時季指定します。

3 使用者は、2の対抗措置として(適法な)時季変更権を行使することが可能であること

4 3の使用者の時季変更権の行使が無い限り、2の時季指定によって「時季指定に係る労働日(又は労働時間)における『就労義務が消滅する』」という法的な効果があること

5 使用者は、労働者が法(労働基準法)39条の年次有給休暇を取得した場合において、同条に規定される何らかの賃金の支払義務が発生する。

 年次有給休暇の時季指定と時季変更権について、一つの判決文を見てみます。

 休暇の時季指定の効果は、「使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、年次有給休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はない」※労働基準法の研究p435より

年次有給休暇の定義のまとめ

ア 年次有給休暇は、労働基準法第39条に規定されている法定の有給休暇である

イ 年次有給休暇は保有している日数の範囲内で、労働者の時季指定(使用者に対する取得の請求ではない。単に、いつ取得するのかを特定し、その始期と終期を使用者に申し出ればよい。(半日単位又は時間単位の取得の場合を除く))

ウ 使用者は、労働者が保有する年次有給休暇を取得する旨の時季指定を行った場合には、適法な時季変更権の行使が可能である。これにより、労働者の時季指定が解除されて別の時季に指定をし直すという効果がある

エ 使用者は、労働者が年次有給休暇を取得した場合には、労働基準法の規定に沿って予め就業規則等に定められた賃金を支払わなければならない。

○年次有給休暇をめぐるあれこれ

ア 適法な時季変更権と何か?

 時季変更権は、労働者の時季指定によりその労働者の就労義務を免除した場合において「事業の正常な運営を妨げる場合」において、労働者の指定した時季ではなく、将来の特定の日を(労働者が)再度時季指定することにより、結果的に別の日に年休を取得するようにできる(時季を変更できる)使用者の権利のことです。※労働基準法の研究p454より

イ 年休の計画的付与とは何か?

 年次有給休暇の労使協定による計画的付与は、労使協定により年次有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、法第39条第4項の定めにかかわらず、その定めにより年次有給休暇を与えることができるものとされています。※労働基準法の研究p448より

ウ 年次有給休暇の比例付与とは何か?

 年次有給休暇の比例付与(制度)は、週の所定労働時間が30時間未満であって、週の所定労働日数が4日以下等の労働者について、付与日数を按分して付与するという制度です。※労働基準法の研究p446より

 結局、週の所定労働日数が1日未満(隔週出勤など)の場合、且つ1年間の所定労働日数(又は出勤実績)が48日未満の場合には、その労働者についいては、休日がほとんどですから年休は発生しないこととなります。他方で、週の所定労働日数が1日以上又は、過去1年間の所定労働日数(又は出勤実績)が48日以上(6ヶ月換算では24日以上)の場合は、年休が比例付与されることとなります。

エ 年次有給休暇の発生日(6ヶ月経過日、その後1年経過日)の判断の元となる継続勤務とは何か?

 年次有給休暇は、入社日(労働契約の開始日、有期労働契約の場合は最初の契約期間の初日)から6ヶ月経過日に所定の日数(週5日の所定労働日数であれば10日)が発生します。

①6ヶ月経過日とはいつか?

 そこで、6ヶ月経過日とはいつかについて考えます。1ヶ月は民法の規定に従います。

民法第143条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。

2 週、月又は年の初めから期間を計算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応答する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応答する日がないときは、その月の末日に満了する。

 例えば、今年の5月7日に正社員として入社する場合には、年休発生日は6ヶ月後の応答日の前日の翌日(6ヵ月後の応答日=今年の11月7日)に年休が10日発生します。そして、次年度から毎年11月7日に所定の日数が発生します。

②継続勤務とは何か?

 年休は、入社日から6ヶ月間継続勤務すれば6ヶ月経過日に発生します。この継続勤務の意味を考えてみます。

次の場合には、継続勤務と判断されます。

a 有期労働契約を切れ目なく更新している場合(この場合1~2週間程度の短期間の切れ目は、継続勤務として扱う)

b 定年退職後、引き続き嘱託勤務等として再雇用された場合(通算する)

c 在籍出向

d 休職期間と復職後

e パートが正社員に変わった場合(通算する)

f 会社が新会社に引き継がれた場合(新旧の会社の勤務を通算する)

g 会社の偽装解散の場合(旧解散会社から新設立会社への所属変更の場合通算する)

※労働契約法の研究p442より

オ 年次有給休暇の買い上げの問題

 年次有給休暇は、取得可能な日数部分を買い上げることは、その取得を阻害しますので、労働基準法第39条違反とされています。ただし、時効により消滅した日数分、会社が独自に法定以上の日数として上乗せした分、退職に際し退職日までに取得しきれない日数分については、買い上げが違法ではないとされています。

※使用者に、年休買い上げの義務はありません。ただし、前記の違法でない日数分を買い上げると就業規則等に規定があれば労働条件となり、買い上げの義務が生じます。さらに、年休は退職すれば保有している日数が全て消滅します。

カ その他

 年次有給休暇の付与条件である8割以上出勤の算定方法、年次有給休暇取得時の支払賃金、消滅時効、時間単位付与の問題等さまざまな問題があります。しかし、今回は記述を省略したいと思います。※代わりに労働基準法の研究をご参照ください。

 ただし、次の二つだけ確認のため記述します。

A 日雇い労働者等の年次有給休暇

昭和61年基発1号

継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即して実質的に判断すべきでものあり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤続年数を通算する。

ロ)法第21条各号に該当する者でも、その実態よりみて引き続き使用されていると認められる場合

労働基準法第21条(中略、解雇予告制度除外)

一 日日雇い入れられる者

二 二箇月以内の期間を定めて使用される者

三 試みの試用期間中の者

※従って、日雇い契約であっても実質的に雇用が継続していれば6か月経過日に所定の日数の年次有給休暇が付与される事となります。

B 派遣労働者の年次有給休暇

 派遣労働者の場合の年次有給休暇についての使用者は、派遣元事業主が使用者として取り扱われます。従って、労働者は派遣先事業所ではなく、派遣元の派遣会社に時季指定することとなります。※労働時間管理、休憩、休日他は派遣先事業所が使用者として管理します。

○年次有給休暇をめぐる裁判例

ア  平成11年(ネ)5219 東京高裁判決 日本交通事件  時季変更権の濫用、年休の自由利用 

判決は、労働者の請求棄却 特定の業務拒否のための時季指定(権利濫用)とそれに対する時季変更(適法)

判決の理由は、

 権利濫用の法理は、一般法理であるから、その適用される分野は何ら限定されるものではないと解されるのであって、年次有給休暇の時季指定権についてはその適用がないと解すべき根拠はない。

 労基法39条4項は、労働者の時季指定権の行使に対し、使用者が一定の要件のもとに時季変更権を行使することができる旨を定めているが、この規定は、労働者の時季指定権に対抗するための手段として、使用者に時季変更権を付与しているにとどまり、使用者としては、時季指定権の行使に対しては、常に時季変更権によって対抗することができるだけであるという趣旨まで含むものではないことは明らかである。

 また、時季指定権についても、これが社会通念上正当とされる範囲を逸脱して行使され、権利の行使として是認することができない場合があり得るのであって、そのような権利の行使が権利の濫用として無効とされることを妨げるべき理由は見いだせない。

 したがって、時季指定権についても、権利濫用法理の適用があると解するのが相当である。そして、時間的余裕を置かない時季指定権の行使は、権利の行使が社会的相当性を欠く一つの場合にすぎないのであって、権利濫用の法理が適用される範囲を、このような場合に限定すべき根拠はない。

 年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である。しかし、これは、有効な時季指定権の行使がされた場合にいい得ることであって、時季指定権の行使が権利の濫用として無効とされるときには、年次有給休暇の自由利用の原則が問題とされる余地はない。

 以上のとおりであるから、年次有給休暇の自由利用の原則を根拠にして、時季変更権の行使については権利濫用の法理を入れる余地がない、ということはできない。

イ 昭和42年(ワ)149 熊本地裁判決 チッソ年休拒否 

判決は、労働者の請求棄却、使用者の時季変更権は正当

判決の理由は、

 被告水俣工場就業規則第35条3(1)には、「慰休は、従業員が請求した時期に与えることを原則とする。但し、業務の正常な運営を妨げると認めたときは、予定時期を変更し、他の時期に与えることがある。」と規定されている。右の「業務の正常な運営を妨げる」場合とは、従来、三交替職場においては作業定員、その他の職場では特定の作業に必要な人員を割る結果作業の円滑な遂行ができなくなるような場合をいうものとの解釈で運用されて来た。そして、慰休申請が集中して当日のができない場合には、従来ビニレック係では慰休請求者同士で調整を図りそれができない場合には自発的に後で請求した者が時期を変更し、ガス係りにおいては公休者に替わつてもらうかそれができない場合にはビニレック係と同様請求者同士の話合いによるかあるいは後の請求者が時期を変更することとなるのが通常であった。

 一般に、作業に必要な人員を欠くということが直ちに時季変更権行使の正当な理由となり得ないことはもとよりである。

 したがって、かかる通常の方法をもつて必要人員の確保ができずに定員を割ることとなる場合には被告就業規則第三五条の「業務の正常な運営を妨げる」場合に該る(アタル)というべきであり、前認定のような当日の人員確保の必要ならびに欠員補充の困難な事情に徴する(チョウスル)と、本件の場合はいずれも原告らの慰休請求に対し時季変更権を行使するのもやむを得なかつたものと認められる。

 時季変更権行使の要件としての「業務の正常な運営を妨げる」とは、休暇の実現と事業運営との調和を図る制度の趣旨に照らし、現実に業務阻害の結果が発生することまで要するものではなく、その発生のおそれがあれば足りるものと解するのが相当である。

○まとめ

 年休について誤解している労働者・使用者が数多くいると考えています。年休、育休、その他取得できる環境にあって始めて、法の趣旨が達成できます。以下に、年休関連のパンフレット等を添付しますので、ご参考にしていただければ幸いです。

労働基準法の研究.doc (2405499)

年次有給休暇のポイント.pdf (577261)

年休の時間単位付与.pdf (556380)

年次有給休暇.pdf (1373611)

有給休暇ハンドブック①.pdf (5931419)

有給休暇ハンドブック②.pdf (5111046)

改正労働基準法のあらまし.pdf (1194931)

 

年次有給休暇については、以上で終了します。

次回は、休日・休憩とは何か?について記述します。

 

打ち間違いは徐々に訂正します。

年休

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セクハラ・パワハラの問題

2015年04月30日 09:14

セクハラ・パワハラの考察

◇1 セクシャル・ハラスメント

 ハラスメント:苦しめること、悩ませること、迷惑  転じて、嫌がらせ、いじめの意 

 セクハラが社会問題化して既に久しいですが、今回少しセクハラ(パワハラを含め)考察してみます。ところで、均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律(昭和47年7月1日法律第113号))によるセクハラの規定は、次の様になっています。

○セクハラの定義、事業主の措置義務

均等法第11条第1号 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 この場合、職場におけるセクシャルハラスメントには、同性に対するものも含まれると解されています。

 厚生労働省は、セクハラ防止に関するパンフレットを作成していますので、その内容から上記のセクハラの定義を少し詳しくみてみます。

ア 均等法第11条第1号の「職場」とは

 事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれること

 職場の例として、「取引先の事務所」「取引先と打ち合わせをするための飲食店(接待の席も含む)」「顧客の自宅」「取引先」「出張先」「業務で使用する車中」等が挙げられるとしています。

 なお、勤務時間外の「宴会」などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当するが、その判断に当たっては、職場との関連性、参加者、参加が強制か任意かといったことを考慮して個別に行う、としています。

イ 不利益を受ける「労働者」とは

 正規労働者のみならず。パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規労働者を含む、事業主が雇用する労働者のすべてをいう

 また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同時に、措置を講ずる必要があるとしています。

ウ 「性的な言動」とは

 性的な内容の発言および性的な行動を指す

 事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒などもセクシャルハラスメントの行為者になり得るものであり、女性労働者が女性労働者に対して行う場合や、男性労働者が男性労働者に対して行う場合についても含まれる、とされています。

 性的な言動の例として、a性的な内容の発言「性的な事実関係を尋ねること」「性的な内容の情報(噂)を流布すること」「性的な冗談やからかい」「食事やデートへの執拗な誘い」「個人的な性的体験談を話すこと」など、b性的な行動「性的な関係を強要すること」「必要なく身体へ接触すること」「わいせつ図画を配布・掲示すること」「強制わいせつ行為」「強姦」など

 ※刑事犯と認定されかねない内容を含んでいます。わいせつ図画の配布(刑法第175条)、身体への接触(都道府県迷惑防止条例(チカン行為))、強制わいせつ(刑法第176条)、強姦(刑法第177条、第178条、第178条の2)、性的な関係の強要(刑法第223条)、性的なうわさの流布=名誉毀損(刑法第230条)等

エ 対価型と環境型、セクシャルハラスメント

(ア)対価型

  労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇給の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること

 典型的な例として、

「事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること」※労働契約法第16条、第17条 民法第709条

「出張中の車中において上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をすること」※民法第709条、民法第90条

「営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること」 ※民法第709条、民法第90条、刑法第230条

 等が該当するとしています。

(イ)環境型

  労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること

 典型的な例として、

「事務所内において上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること」民法第709条

「同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと」刑法第230条、民法第709条

「事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと」

オ セクシャルハラスメントの判断基準

 判断に当たり個別の状況を斟酌する必要があること。また、「労働者の意に反する性的な言動」および「就業環境を害される」の判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となると一定の客観性が必要であること

 一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得ること。継続性または繰り返しが要件となるものであっても、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境が害されていると判断し得ること。また、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害をうけた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であること。

 ※上記の判断基準は、判断基準としては具体的な基準を示していないものであり、個別のケースの判決の理由を考察することで、類推して判断する方法が最適かと思います。

○セクハラ裁判の事例

ア 平成6年(ワ)89 前橋地裁判決 労働者一部勝訴

事件の経緯:原告は平成5年7月当事46歳の女性で群馬県A村立幼稚園(以下「本園」という。)の主任教諭であった。被告は当事60歳の男性であり、平成5年4月1日付けで嘱託として本園の園長に就任した。平成5年7月13日、原告が帰宅しようとしたところ、被告が原告に更衣室で抱きついてきたり(以下「本件行為」という。)、その後も勤務中、近づいてきたり一緒に山に行こうなど誘ったりしたため、原告はこのような被告の態度に嫌悪感を強く感じ2人きりにならないよう神経を使わざるを得なくなり、同年11月には不眠症に悩まされるといった健康上の障害は発生するに至った。

 そこで、同年11月26日、原告は教育長に訴え、聞き取り調査が行われたが、被告は原告が嘘をついていると主張、話は平行線を辿った。そのため、原告は被告からその意に反して本件行為がなされたことや上司の地位を利用して不当な要求をされたとして右行為は原告の人格権および労働権を侵害する不法行為に該当するとして、金100万円の慰謝料の支払を求めて、提訴した。

判決理由:本件行為は、その行われた場所・状況・時期等を考慮すると、被告から原告に対する単なる儀礼的若しくは社交的範囲を越えた性的行為と解せられ、両者の年齢、職場における地位、家庭関係(双方とも配偶者を有する。)及び原告の了解がないこと等を勘案すると、原告の人格権を侵害する不法行為に当たると認められる。原告が本件行為によって被った損害について検討する。原告が本件行為後にこれに対する精神的苦痛を明確に意識し、身体の不調を感じるまでの間には約3か月の時間が経過していることが認められ、また、本件全証拠によるも、原告が被告の誘いを拒否したことを理由に、被告がその職務権限を利用して、原告に対し職務遂行上不利益を与えたり、労働環境を悪化させるような具体的な措置を取ったり行動に出たことを認めることはできず、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告に対する慰謝料は、金10万円が相当であると判断する。

※人格権:人が社会生活上有する人格的利益を目的とする利益をいい、財産権と対比される。民法は身体、自由、名誉を侵害したときは不法行為が成立すると規定する(710条)が、このほか生命、貞操、信用、氏名などにも人格権が認められる。(出典ブリタニカ辞典)

民法第710条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

イ 平成2年 静岡地裁判決 原告一部勝訴

事件の経緯:昭和62年11月中の夜、被告(原告の上司)は原告を食事に誘い、原告が被告の要求を拒んだにも関わらず、原告の腰の辺りに手を触れるなどした、そのうえ被告は、キスをさせなければモーテルに行くと原告を脅迫し、ついには原告を屈服させ、執拗にキスを繰り返した。原告は、上記行為の為非常な打撃を受けて身体の不調をきたし、思い切って他の従業員に相談したところ噂が広まり、被告の下で働くことに耐えられなくなり、昭和63年1月末で退職するに至った。原告は、以上のような強制わいせつ行為により性的自由を侵害されたうえ、意に反して退職することを余儀なくされたことにより、性的自由、人格的尊厳及び働き続ける権利を侵害され、回復困難な精神的苦痛を被ったものであるとして、民法第709条を根拠として500万円の慰謝料及び99万円の弁護士費用の支払を求め、静岡地方裁判所沼津支部に提訴した。

判決理由:被告は、一方的に原告の腰の辺りに手を触れるなどしたうえ、原告には被告の要求に応じる意思が全然ないのに、原告にキスをしたもので、この被告の行為は、その性質、態様、手段、方法などからいって、民法709条の不法行為にあたることがあきらかである。原告は、その意に反して被告にキスをされ、生理的不快感、被告の要求に返答のしようがなく黙っていたのにこれを承諾したものととられたくやしさ及び人格を無視された屈辱感を覚えさせられたこと、原告は、これにより精神的衝撃を受け、当日から食欲不振、不眠、口の中の不快感などの身体的変調をきたし、口の中の不快感は現在まで続いていること、本件以後の毎日生理的嫌悪感を感じる被告を上司とする職場で働かなくてはならず、他の従業員にも事件を知られ、中には興味本位な言動をとる者もあり、原告にとって辛い職場環境となってしまったこと、原告は当時の勤務先を退職せざるをえなくなったこと、被告には自己の非を認めて謝罪する態度がまったく見られず、これについても原告は憤りを覚えていること以上の事実が認められるので、原告は被告の前記不法行為により少なからざる精神的損害を蒙(コウム)ったということができる。原告の受けた精神的苦痛の内容、程度につき当時者間に争いのない事実、とりわけ、被告の加害行為の内容、態様、被告が職場の上司であるとの地位を使用して本件の機会を作ったこと、被告の一連の行動は、女性を単なる快楽、遊びの対象としか考えず、人格を持った人間として見ていないことのあらわれであることがうかがわれ、このことが原告にとってみれば日時が経過しても精神的苦痛。憤りが軽減されない原因となっていること並びにその他の本件にあらわれた諸般の事情を総合すれば、原告の精神的損害に対する慰謝料の額は100万円が相当と認める。弁護士費用については、事実の難易、請求権、認容額、その他の諸事情を斟酌して10万円が相当と判断し、その他の請求は棄却する。

主文 一 被告は、原告に対し、金110万円及び、内金100万円に対する昭和62年11月30日から、内金10万円に対する平成2年9月20日からそれぞれ支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   二 原告のその余の請求を棄却する。

   三 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の負担とし、その1を被告の負担とする。

   四 この判決は、第1項にかぎり、仮に執行することができる。

※判決内容は、原告の主張をかなり認めたものと推測しますが、主文をみると原告の落ち度も認定していると想像します。そもそも、二人きりで食事に行けば、被告に誤解を与える可能性がかなり高いと推測します。

 なお、この裁判に被告が出廷しなかったため、原告の主張とおりに認定がされました。

ウ 平成27年2月26日 最高裁第一小法定判決 海遊館事件 

 上告人は水族館 被上告人はセクハラ行為による被処分労働者

事件の概要(原審が確定した事実) 抜粋

a 上告人は、水族館の経営等を目的とする株式会社であり、大阪市が出資するいわゆる第三セクターとして、同市港区に所在する水族館(以下「本件水族館」という。)及びこれに隣接する商業施設の運営を行っている。

b 平成23年当時、上告人の従業員(管理職、正社員、派遣社員等を問わず、上告人の事業所において勤務する者をいう、以下同じ。)の過半数は女性であり、本件水族館の来館者も約6割が女性であった。また、上告人は、職場におけるセクハラの防止を重要課題として位置付け、かねてからセクハラの防止に等に関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし、平成22年11月1日には「セクシャルハラスメントは許しません!!」と題する文書(以下「セクハラ禁止文書」という。)を作成して従業員に配布し、職場にも掲示するなど、セクハラの防止のための種々の取組を行っていた。

c セクハラ禁止文書には、禁止行為として「①性的な冗談、からかい、質問」、「③その他、他人に不快感を与える性的な言動」、「⑤身体への不必要な接触」、「⑥性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ、能力を阻害する行為」等が列挙され、これらの行為が就業規則4条(5)の禁止する「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に含まれることや、セクハラ行為者に対しては、行為の具体的態様(時間、場所(職場か否か)、内容、程度)、当時者同士の関係(職位等)、被害者の対応(告訴等)、心身等を総合的に判断して処分を決定することなどが記載されていた。上告人において、セクハラ禁止文書は、就業規則4条(5)に該当するセクハラ行為の内容を明確にするものと位置付けられていた。

d 前記2(5)のとおり被上告人らは本件各行為を現に行ったものと認められるところ、被上告人らがこれらの行為を行ったことは、セクハラ禁止文書の禁止するセクハラ行為など会社の秩序又は職場規律を乱すもの(就業規則4条(5)に当たり、会社の服務規律にしばしば違反したものとして、出勤停止等の懲戒事由(就業規則46条3)に該当する。

e しかし、被上告人らが、従業員Aから明確な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されると誤認していたことや、被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく、本件行為について上告人から事前に警告や注意等を受けていなかったことなどを考慮すると、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは酷に過ぎるというべきであり、上告人が被上告人らに対してした本件行為を懲戒事由とする各出勤処分は、その対象となる行為の性質、態様等に照らして重きに失し、社会通念上相当とは認められず、権利の濫用として無効であり、上記各処分を受けたことを理由としてされた各降格もまた無効である。

f 本件各行為の内容についてみるに、被上告人X1は、営業部サービスチームの責任者の立場にありながら、別紙1のとおり、従業員Aが精算室において1人で勤務している際に、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等について殊更に具体的な話をするなど、極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり、また、被上告人X2は、前記2(5)のとおり上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず、別紙2にとおり、従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮辱的ないし下品な言辞(ゲンジ)で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように、同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し、被上告人らが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。

g しかも、上告人においては、職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり、被上告人らは、上記の研修を受けていただけでなく、上告人の管理職として上記のような上告人の方針や取組を十分に理解し、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、派遣労働者等の立場にある従業員らに対し、職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返していたものであって、その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。

h そして、従業員Aは、被上告人らのこのような本件各行為が一因となって、本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり、管理職である被上告人らが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等が上告人の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。

i 原告は、被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうしょしたりすることが少なくないと考えられることや、上記(1)のような本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても、そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。

別紙1 被上告人X1の行為一覧表  

 ※被上告人X1 平成3年入社 営業部サービスチーム マネージャー(課長代理)

1 被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している歳、同人に対し、複数回、自らの不貞相手と称する女性(以下、単に「不貞相手」という。)の年齢(20代や30代)や職業(主婦や看護師等)の話をし、不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。

2 被上告人X1は、平成23年秋頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と言った。

3 被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」、「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから、」と言った。

4 被上告人X1は、平成23年12月下旬、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手の話をした後、「こんな話をできるのも、あとちょっとやな。寂しくなるわ。」などと言った。

5 被上告人X1は、平成23年11月頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手が自動車で来ていたという話をする中で、「この前、カー何々してん。」と言い、従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。

6 被上告人X1は、平成23年12月、従業員Aに対し、不貞相手からの「旦那にメールを見られた。」との内容の携帯電話のメールを見せた。

7 被報告人X1は、休憩室において、従業員Aに対し、被上告人X1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。

8 被上告人X1は、従業員Aもいた休憩室において、本件水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ・・・。」、「かがんで中見えたんラッキー。」、「好みの人がいたなあ。」などと言った。

 この表をみると、男女別、年齢により受け止め方が異なると思います。個人的に選別すると、1・2・3・5は不法行為に該当、8は女性蔑視の意識が顕著で、女性にとっては明らかに不快、4・6・7は、さほど問題だとは思えないとなります。もちろん、言動の継続性、加害者の表情・話し方・意図等により、就業業環境が害される可能性は否定できません。

別紙2 被上告人X2の行為一覧表

 ※被上告人X2は、平成4年に入社、営業部課長代理

1 被上告人X2は、平成22年11月、従業員Aに対し、「いくつになったん。」、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの、親泣くで。」と言った。

2 被上告人X2は、平成23年7月頃、従業員Aに対し、「30歳は、二十二、三際の子からみたら、おばさんやで。」、「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」、「精算室に従業員Aさんが来た時は22際やろ。もう30歳になったんやから、あかんな。」などという発言を繰り返した。

3 被上告人X2は、平成23年12月下旬、従業員Aに対し、Cもいた精算室内で、「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ。」と言った。

4 被上告人X2は、平成22年11月以後、従業員Aに対し、「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」、「お給料全部使うんやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで、したらええやねん。」、「実家にすんでるからそんなん言えるねん、独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう。」などと繰り返した。

5 被上告人X2は、平成22年秋ころ、従業員A及び従業員Bに対し、具体的な男性社員の名前を複数挙げて、「この中で誰か一人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ。」、地球に2人しかいなかったらどうする。」と聞いた。

6 被上告人X2は、セクハラに関する研修を受けた後、「あんなん言ってたら女のことしゃべられへんよあ。」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているや。」とう趣旨の発言をした。

 X1と同様にX2の行為を峻別すると、1・2・3・4は不法行為に該当する可能性大、5・6は、状況により職場環境が害される可能性が否定できないと推測します。

従業員A:昭和56年生まれ、売上管理担等担当の女性派遣労働者。なお、精算室は営業部の事務室の一部を壁で仕切ったもの

 本事例が、最高裁判所で改めてセクハラ事案と認定された理由を見ていただく為に、あえて、原文のほとんどを記述しました。最初は、からかい半分で女性の従業員Aに関わっていた、上司のX1及びX2は次第にからかいの度合いがエスカレートして行き、ついには従業員Aの受忍限度を超えてしまい退職に追い込んでしまった経緯がわかります。本件では、会社が行ったX1及びX2に対する処分の正当性が争点でしたが、意に反して職場を退職して行った従業員Aの無念さが伺えると思います。

◇2 パワーハラスメント

○パワーハラスメントの定義、概念

 職場のパワーハラスメントとは、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいうとされています。

 この判断基準として重要なのは、「業務の適正な範囲内」か否かであり、具体的な判断基準は個別に判断せざるを得ませんが、やはり対象者の受忍限度がひとつの目安であると考えます。うつ病の発症や自殺まで追い込まれてしまう場合には、当然に業務の適正な範囲を逸脱していると判断されます。

パワハラは、次の6つの類型に区分されるとのことです。

①身体的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、➃過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)、⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入る) ※以上は、考え方次第では解雇されるよりも酷い扱いと言えます。

○パワハラの裁判事例 

※新入社員へのパワハラ、自殺、遺族の損害賠償訴訟 裁判所及び判決年月日等省略

本事例は、新入社員に不当なかつ執拗な叱責を繰り返し自殺に追い込んだもので、パワハラが最悪の結果を招いた事件です。

・事案の概要

 原告は、亡dの父であり、dは被告会社a(以下「被告会社」という。)に勤務し、被告bはdの上司であった。

 本件は、dが自殺したのは、被告b及び被告cのパワーハラスメント、被告会社による加重な心理的負担を強いる業務体制等によるものであるとして、原告が被告らに対し、被告b及び被告cに対しては不法行為責任、被告会社に対して主位的には不法行為責任、予備的には債務不履行責任に基づき、損害金1億1121万8429円及びこれに対するdが死亡した日である平成22年12月6日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

・主文 1 被告a会社及び被告bは、原告に対し、連帯して7261万2557円及びこれに対する平成22年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

・判決文抜粋

「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」、「詐欺と同じ、3万円を泥棒したのと同じ」、「毎日同じことを言う気分にもなれ」、「わがまま」、「申し訳ない気持ちがあれば変わっているはず」、「待っていた時間が無駄になった」、「聞き間違いが多すぎる」、「耳が遠いんじゃないか」、「嘘をつくような奴に点検をまかせられるわけがない。」、「点検もしていないのに自分をよくみせようとしている」「人の話をきかずに行動、動くのがのろい」「相手するだけ時間の無駄」「指示が全く聞けない、そんなことを直さないで信用できるか。」「何で自分が怒られているのかすらわかっていない」「反省しているふりをしているだけ」、「嘘を平気でつく、そんなやつが会社に要るか」「嘘をついたのに悪気もない。」「根本的に心を入れ替えれば」、「会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキ作れば、店でも出せば、どうせ働きたくないんだろう」「いつまでも甘甘、学生気分はさっさと捨てろ」「死んでしまえばいい」、「辞めればいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」

 これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、dの人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントと言わざるを得ず、不法行為に当たると認められる。なお、被告bがdに対して暴行を振るったことに沿う証拠はない。

 

以上で、セクハラ・パワハラの考察を終了します。

打ち間違いは徐々に訂正するとして、次回は「年休とは何か?」について記述します。

 

セクハラ・パワハラ

 

 

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退職金とは何か?

2015年04月29日 09:58

退職金についての考察

○退職金は賃金か?

 賃金の定義については、労働基準法第11条に規定があります。

労働基準法第11条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

昭和22年9月13日基発17号 法第11条関係

(一)労働者に支給される物又は利益にして、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなすこと。

 (1)所定貨幣賃金の代わりに支給するもの、即ちその支給により貨幣賃金の減額を伴うもの。

   ※労働基準法第24条の全額払いに抵触する場合は、貨幣(労働者の金融機関の口座への振込みを含む)以外の支払いは出来ません。ただし、労働基準法施行規則第7条の2に規定された方法をとる場合を除きます。

 (2)労働契約において、予め貨幣賃金の外にその支給が約束されてゐるもの。

(二)右に掲げるものであっても、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなさないこと。

 (1)代金を徴収するもの、但しその代金が甚だしく低額なものはこの限りでない。

 (2)労働者の厚生福利施設とみなされるもの。

(三)退職金、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさないこと。但し退職金、結婚手当等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものはこの限りでないこと。

 上記通達によれば、退職金は賃金ではないが、就業規則等(通常は退職金規程等と呼称)によって、あらかじめ支給条件の明確なものはこの限りでない(賃金に該当)とされています。

○退職金の法的性質は、裁判でどのように定義されているか?

ア 昭和46年(ワ)8738 東京地裁判決判決文抜粋 退職金不支給

 退職金の法的性格については、賃金の後払い説、功労報酬説、退職後の生活保障説等に分かれているが、被用者が使用者に対し、退職金として請求するには、当該企業における労働協約、就業規則、退職金規定等に明示の規定があるか、それがなくても慣行により、賃金の後払的部分が特定しえて、かつ、支給条件が明確になり、それが当該雇用契約の内容となったと認定しうることが必要である。

※退職金の請求(受給)には、必ずしも明示規定は必要がないこと。退職金は「賃金後払い説」「功労報酬説」「退職後の生活保障説」などがあること。

イ 昭和63年(ワ)55 神戸地裁判決 判決文抜粋  退職金規程と労働協約の不利益変更の齟齬

 労働協約ないし就業規則等に基づく退職金は、使用者に支払義務があり、賃金の後払的性格を有するものであるが、他方、報償的性格をも有しており、かつその支払額は退職事由、勤務年数などの諸条件に照して退職時においてはじめて確定するものであるから、退職時までは具体的な債権として成立しているとはいえないものである。

※退職金は、①賃金の後払い的性格を有する、②同時に、報償的性格も有している、②退職金の支払額は、退職事由・勤務年数などの諸条件に照らして、退職時にはじめて確定する、としています。

ウ 平成9年(ワ)8371 大阪地裁判決 判決文抜粋 退職金の規定内容の有効性

 このように、被告の退職年金(ただし、規定額の範囲内に限る。)は、退職金規定に根拠を有し、労働契約上その支払が義務づけられるものではあるが、被告においては、退職年金と併せて退職一時金も支給され、その額は、他の同業、同規模の会社と比較して特に定額ではなかったこと、退職年金の支給期間が終身とされているうえに、年金受給中に死亡した退職者の配偶者にもその半額が支給されるものとされていること等を勘案すれば、被告の退職年金は、賃金の後払い的性格は希薄であって、主として功労報償的性格の強いものであるというべきである。

 しかしながら、退職金の受給権を有する退職者に対し、一貫して交付されてきた年金通知書には、本件訂正変更条項が明記されてきたのであるから、右労使慣行においても、退職金の支給開始後に、社会情勢や社会保障制度の著しい変動や被告銀行の都合により、被告においてそのその支給額を改定し得ることが当然の前提とされていたものと認められる。

※退職金は、退職金規定に根拠を有し、労働契約上その支払いが義務づけられる。被告の退職年金は、賃金の後払い的性格は希薄であって、主として功労報償的性格の強いものである。

エ 平成11年(ワ)3491 東京地裁判決 判決文抜粋 退職金差し押さえ

 退職金請求権は、退職に伴って当然に発生するものではなく、使用者が就業規則、労働協約等により、その支給の条件を明確にして支払を約した場合に、その支給の条件に即した法的な権利として、初めて発生するものと解される。退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項について就業規則を作成すべきことを定める労働基準法89条3号の2の規定もまた、退職金請求権が上記のような性質・内容のものであることを前提として設けられているものと考えられる。

※労働基準法第89条3号の2 退職手当の定めをする場合には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

○退職金をめぐる問題

 退職金は、原則として就業規則等(通常は退職金規程として別規程を設けます。ただし、退職金規程も就業規則の一部となります。)に明文として規定されることで、労働条件の一つとして、初めて請求の権利及び支払義務が生じます。従って、退職金の支払義務が法律上存在する訳ではありません。

 次に、過去に退職金をめぐり裁判で争われた事例をみてみます。

ア 退職事由と退職金の支給制限

平成13年(ワ)8964 大阪地裁判決 退職事由と退職金支給制限、労働者の債務と退職金の相殺

事件の概要は、一身上の都合により会社を退職した者が円満退職でないとして退職金不支給となり請求を求めたもの

判決は、退職金の支払い義務がある

判決の理由は、

a 被告は退職金規程を含む社則を就業規則として労働基準監督署に届け出ており、被告は、退職金規程において退職金の支給条件を明確に定め、これに基づいて退職金を退職者に対して支給しているのであって、退職金規程に基づく退職金は、被告と従業員との労働契約の内容として労働の対価として被告が支払義務を負担する賃金に該当するものである。そして、退職金規程では「円満退職」の場合に限って退職金を支給し、懲戒その他本人の不都合により退職する場合には支給しないとの規定を設けているが、退職金規程に基づく退職金が上記のような性質を有するものである以上、これは労働基準法所定の賃金に該当するというべきで、いわゆる賃金の後払いとしての性質を有することになるし、さらに退職金規程が一条二項に「懲戒その他本人の不都合により退職の場合」には退職金を支給しないと規定して退職金不支給事由として懲戒の場合を挙げ、退職金不支給事由を限定していることからすれば、退職金規程一条二項の「円満退職」とは、退職者に懲戒解雇事由があるなど当該退職者の長年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為がある場合以外をいうと解すべきである。

b 原告は、本件貸付の残金と退職金とを相殺する旨主張する。賃金全額払の原則によれば、本来賃金との相殺は認められないが、労働者側からの相殺についてはこれをこれを認めても特段問題はない。

 そうすると、本件貸付の残金は503,600円と認められ、原告の意思を合理的に解釈すれば、原告は認容された本件貸付の残金と退職金を相殺する意思であるといえるから、被告は、原告に対し、本件貸付の残金控除後の退職金残金2,159,750円を支払う義務がある。

イ 経営状況の悪化と退職金の支払いの変更

平成12年(ワ)1951 札幌地裁判決 

事件の概要は、被告の元従業員であり平成12年3月20日付けで被告を退職した原告が、被告に対し、退職金請求権に基づき、退職金として3,784,000円の支払を求めるとともに、不当利得、債務不履行又は不法行為に基づき、被告従業員持株会社の退会に伴う原告の持株の精算金相当額から既払額を控除した11,105,782円の支払を求めた事案である。

判決は、原告に対し、10,797,873円及び平成12年8月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

判決の理由は、

しかし、上記精算金額の決定について、持株会理事会に全く自由な裁量があると解すると、理事会による恣意的な決定を許し、ひいては会員の利益を著しく損なうことになりかねないが、同条は、上記精算金額決定の基礎となる株価の算定につき、株式公開までの間、合理的な算定方法に基づく合理的な金額と認められる範囲において持株会社の裁量を認めたものであって、その限度において有効な規定であると解するのが相当である。

さらに、本件理事会決定は、①第三者割当増資により1株当たり550円で被告の株式を取得した株主に対し、1株当たり152円での払戻しを強制することになり、その投下資本回収を不当に妨げる結果になること、②持株会の設立以来維持されてきた退会精算金の金額を突如3分の1以下に減らすことになり、持株会会員の既得権を侵害する結果になることを考えれば、本件決定は、合理的な株価算定を基礎とするものとはにわかに認め難い。以上の検討によれば、本件理事会決定は、合理的な算定方法に合理的な金額を定めたものと認めることはできないから、持株会理事会の裁量の範囲を逸脱しているというほかなく、無効であるというべきである。

○退職金についてのまとめ

 以上のとおり、退職金は会社の規定次第であり、そしてその規定内容に従って運用され、結果の判断がなされることとなります。また、退職金規程の不利益変更は、個別的及び集団的に争議の種となっています。また、中退共や建退共などの準公的な退職金制度も設置され、さらには確定拠出年金や確定給付年金が国の制度として設置され(他方で適格退職年金制度は廃止されました)、国策としても施策がなされています。

 リタイア後の生活原資としての退職金は、公的年金制度と相まって非常に重要なものであると言えます。

 

退職金については、少し一貫性が欠けた内容となりましたが、次は「セクハラ・パワハラ問題」について記述します。

 

なお、打ち間違いは徐々に訂正いたします。

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休職制度についての考察

2015年04月28日 11:16

休職制度とは何か?

○休職制度の定義

 労働基準法及び労働契約法の双方とも、「休職」に関する規定はありません。従って、休職制度は個別の労働条件の一つでしかないと言えます。また、休職は就業規則に定めることとされている「前各号に掲げるもののほか、当該事業場のすべての労働者に適用される定めをする場合においては、これに関する事項(労働基準法第89条第1項第10号)」に基本的に該当すると解されていますので、就業規則に規定し運用することとなります。さらに、必要に応じ労働協約によって細部の確認をしておく場合もあります。

そこで、モデル就業規則(私が作成した規定です。)をみることで典型的な休職の規定内容を確認してみます。

就業規則第○○条 社員が次のいずれかに該当したときは休職を命ずる。ただし、試用期間中の者、パートタイマー社員、嘱託社員には本条の休職制度を適用しない。

1 業務外(通勤災害による場合を含む)の傷病により、その傷病の療養の為に欠勤の必要があり、かつ、療養のための欠勤が1か月程度以上続いたとき(その欠勤が1か月程度以上続くと見込まれる場合を含む)

2 心身の健康上の理由のため1か月以上欠勤する必要があり、そのため本人から書面により休職の申し出があったとき(会社所定の手続きを経た場合かつ会社が必要と認めた場合に限る)

3 逮捕・勾留、起訴され、そのため出勤することがかなわず、業務に従事できないとき

4 在籍のまま出向協定に基づき、関連会社等に出向するとき

5 海外留学制度により海外に勉学に赴くことを会社が承認したとき

6 その他前各号に準じる理由により、会社が休職を命ずる必要があると認めたとき

第○△条 休職に関する取扱いは次の各号に定める通りとする。

1 前条1号から3号に該当する場合の休職期間は、3ヶ月とする。ただし、勤続年数に応じ1休職期間の3か月間を次の表のとおり延長することがある。また、前条4号から6号に該当する場合は、休職を命ずる際に必要な期間を休職期間として定める。

    勤続年数        延長回数     通算休職期間の限度

     1年未満         1回         6か月

    1年以上3年未満     最大2回        9か月

    3年以上10年未満    最大3回        12か月

    10年以上        最大5回         18か月  

2 前条第1号から第3号の規定により休職を命じた場合にその後休職の理由がやみ本人の申請があった場合には、会社は確認の上で原則として元の業務に復職を命ずる。ただし、休職前の業務への復職が困難又は不適切と判断される場合は、別の業務に就かせることがある。

3 前条第1号から第3号の規定により休職を命じた場合、休職期間は無給とする。ただし、社会保険の本人負担分及び会社負担分については、その必要な額を会社が負担する。また、前条第4号から第6号に該当し休職を命じた場合の給与は、それぞれ別段の定めによる。

4 前条条第1号および第2号の規定により休職を命じた場合、本条第1号に規定する休職期間の限度を過ぎてもなお求職の事由がやまず、復職がかなわないときは休職期間の最終日に退職とする。また、前条第4号から第6号の規定により休職を命じ、その後休職事由が終了して復職を命じたにも拘らずそれに応じない場合には、その者を普通解雇する。

5 前条第3号に該当し休職を命じた場合に、その社員が起訴され、かつその社員の違法行為が明らかな場合には、懲罰委員会の決定を経て、休職期間中又は休職期間満了後にその社員を懲戒解雇する。

6 前条第1号から第3号に該当し休職を命じた場合には、その休職期間は勤続年数に算入しない。また、前条第4号および第5号に該当し休職を命ずる場合は、その休職期間の全てを勤続年数に算入する。さらに、前条第6号に該当し休職を命ずる場合には、勤続年数の通算について休職を命ずる際に合わせて申し渡す。

7 その他、休職に関し本条および前条に定めがない事項は、会社が必要に応じ判断し決定する。 

 以上は休職に関する就業規則の規定例です。問題となるのは、「休職後の復職業務や待遇の問題」「本人が復職を申し出たにも関わらず、会社がそれを拒否した場合」「休職期間が満了しても休職事由が止まず、退職扱いとする場合」「いわゆる起訴休職の場合に、懲戒解雇を行った場合」等です。 

○休職の定義、法的な意味

 休職は、労働基準法の条文に規定がないことは既に述べました。そのため、休職の定義や、運用方法は全て就業規則の定め方による事となります。そこで、過去の裁判から休職の定義に関する判断を確認したいと思います。

1 休職の定義に関する裁判例

ア 昭和38年(ワ)190 仙台地裁判決 振興相互銀行事件  判決文抜粋

 さて休職制度は、所定の事由が発生した場合、被雇傭者を雇傭者との関係でその身分を保持したまま、右事由の存続する間労務の提供をなす権利義務を有しない状態に置くものであるから、特段の定めがない限り右所定の事由が消滅すれば、休職の効果も当然消滅すべきこととなると解すべきである。 

※休職とは、「社員の身分はそのままに、労働者の労務提供義務を免除するもの」としています。

イ 昭和43年(ワ)54 熊本地裁八代支部判決 学校法人白百合学園事件 判決文抜粋

 休職処分は、従業員を職務に従事させることが不能であるか若しくは適当でないなどの事由が生じた場合、その障害の継続する期間その従業員の地位を維持させながら職務従事を禁止し、その障害事由が消滅した場合は右従業員を復職させることができる処分であって(以下略)

※アとほぼ同趣旨ですが、休職は会社の処分であるとする点が異なります。

ウ 昭和43年(ネ)1117 東京高裁判決 三豊製作所事件 判決文抜粋

 けだし、休職を命ずるということは従業員に従事させることが不能であるか若しくは適当でない事由が生じた場合に、従業員の地位を保持させながら勤務のみを禁ずるものであるから、その事由の消滅によって当然復職すべきことが予定されているものというべく、また休職を命ずる場合に定められる休職期間も一応の休職の最大限度を定めるものにほかならないから、休職期間の満了前に休職の事由となった障害が消滅したときは、性質上休職は当然終了し復職せしむべきものであり、他方休職期間が満了しても休職の事由となった障害が消滅しない場合に休職期間が満了したとの一事を以って当然復職するという考え方は(中略)就業規則第91条第6号のような定めがある場合には採りえない。

※休職は、業務に従事させることが不能であるか不適切である場合に、従業員の地位を保持しながら勤務のみを禁ずるものとしています。

2 休職の定義のまとめ

 休職の定義は、前記のア~ウの判決文で確認出来ると思います。そこで、以下に休職の意味について整理してみます。

ア 休職は労働条件であること

 休職は、労働者の求めに応じて必ず適用しなければならない制度ではありません。もしも、休職制度が就業規則に規定していない会社(事業場)の場合には、私傷病の治療のため出勤できない状況が発生した場合、会社に申し出てまず、会社の特別休暇が取得できればそれを使い、次に保有する限りの年次有給休暇を取得し、その後も治療のために出勤が不能であれば、会社の承諾を得て欠勤をすることになります。そして、その欠勤期間が長引けば、解雇される又は諭旨退職となります。

 休職制度は、その様な性急な解雇は忍びないとして、会社に在籍のまま一定期間労務の提供を免除する制度です。もう少し厳密に言えば、休職とは「労務の提供が不能あるいは不適切とする就業規則所定の事由が生じた場合に、会社が労働者の就労を禁止する事」です。

 会社が仕事の提供をしなければならないのは、就業規則や労働契約に所定労働時間、休憩、休日等の定めがあるためです。この定めに反して会社が労働者を就労させず、ノーワーク・ノーペイとして所定の賃金を支払わないことは法律上出来ないこととなっています。※厳密に言えば、労働者には通常した場合に得られる賃金額(平均賃金の6割ではありません。)と同一額の請求権があるとされています。一方で、使用者の労働契約上の義務は「所定の賃金の支払い」に限られますから、労務の受領の義務はないと解されます。

 例えば重篤な私傷病により治療が必要な場合は、労働者は少なくとも完全な労務の提供ができないわけですから、使用者が就業規則所定の規定に従い、労働者に休職を命じ休職の事由がなくなるまでの間、出勤を禁止することとなります。他方、休職を命じた後に、労働者が復職の希望を申し出た場合には、元の業務に就くことが困難である場合でも、可能な限り配置転換により他の業務に就かせる必要があります。

イ 休職は就業規則の規定内容に左右されること

 そもそも会社に休職を設ける義務はありませんし、休職の定めをする場合でも、その内容を会社の必要に応じて定めればよいわけです。そして、休職は労働者の権利に属すると規定する必要はありませんが、一方で就業規則の所定の休職事由に該当すれば、会社は休職命令を出す必要があります。また、休職期間や休職期間中の賃金の支払いの有無、休職後の復職先等々、休職に付随する労働条件も就業規則への定め方次第と言えます。

○休職に関する裁判例

ア いわゆる起訴休職

(ア)昭和45年(ヨ)2403 東京地裁決定 石川島播磨重工業事件 地位保全仮処分申請事件

事件の概要は、逮捕勾留され起訴された者に対して会社が休職処分を行い、満了時に自然退職扱いとしたため、地位保全の仮処分申請を行った

決定は、本件休職処分は就業規則の解釈を誤ったものとして、無効とした

決定の理由は、

a 前示就業規則、休職規程および労働協約の休職に関する規定によれば、事故欠勤休職は、業務外傷病を除く、従業員の自己都合による長期欠勤という事態について、使用者が企業経営上雇用契約を維持しえず、解雇すべき場合(通常解雇相当な場合)に、なお一ケ月の休職期間を限って雇用契約の終了を猶予し、右期間内に休職事由(長期欠勤)が消滅すれば復職させるが、右期間満了までに休職事由が消滅しないときは、当然に雇用契約を終了させる制度であり、このような事故欠勤休職の趣旨、目的や効果からみると、規定上休職期間満了の効果として自然退職とされ、解雇とは異なるものとされているとはいえ、事故欠勤休職が事実上解雇猶予処分の機能をもつことは否定できない。

b 傷病欠勤による休職については休職期間が6ケ年とされ、1年の延長も可能とされているのに対比し、事故欠勤休職は、その休職期間が、解雇予告期間にも対応している、1ケ月というきわめて短期間であり、解雇猶予処分の性格を明瞭に示しているといえる。

c そうであれば、この種休職処分に付する時点においても、当該欠勤によって雇用関係を終了させることが妥当と認められる場合、あるいは通常解雇相当な場合であることを要すると解すべきである。さもないと、この種休職処分に付することにより、事実上解雇の制約を免れることになるからである。而して(シカシテ)、一般に労働者の自己都合による長期欠勤で、将来の就労の見通しもたたないようなときは、通常解雇を相当とする場合ということができる(現に債権者会社において、過去に事故欠勤休職に付し、退職した事例はいずれも通常解雇相当な事案と認めらる。)。

d 本件のような刑事事件による起訴、長期勾留という事態に対処するため、起訴休職制度を設けている企業も多いが、有罪判決あるまで労務の正常な提供の確保、職場秩序維持の見地から、雇用契約は存続させながら、労働者を就業から排除するというこの制度自体の合理性は一般に肯定することができる(起訴休職の休職期間について一定期間を定め、その期間満了と同時に退職とする規定をおくことは合理性を欠く)。

e 債権者会社のようにかかる起訴休職制度が設けられていない場合において、事故欠勤休職に付し、その効果として有罪判決前に短期間で雇用契約を当然終了させてしまうことは、起訴休職制度が存し、その適用がなされる場合と対比しても不均衡を免れえない。

f 以上の考察からすれば、本件のような刑事事件による逮捕・勾留のための長期にわたる就労不能について、形式的に「事故欠勤」に該当するものとしてした債務者の本件休職処分は就業規則の解釈、適用を誤ったものとして無効といわざるをえない。

(イ)昭和41年(ヨ)16 山口地裁判決 電電公社下関電報局事件 起訴休職無効

事件の概要は、職務外で起訴され休職処分に処されたが、その休職処分の無効を訴えたもの

判決は、本件休職処分は裁量権の濫用であり無効とした

判決の理由は、

a 休職処分が、事実上被休職者に休職期間中の就業を拒み、ひいてはその生活上に、相当の不利益を与えることが否めない以上、右裁量権の行使に当つては、休職制度の趣旨を逸脱しない相当性の限界を守るべきものであり、その裁量権の範囲には、自ら以上のような客観的制約が存するというべきである。

b 従って同条項にいわゆる事案軽微にして情状特に軽いものという意味は、単純に社会観念ないし公訴事実に科せられる法定刑の軽重のよつて解すべきものではなく、前記のような休職処分の本質ならびにその必要性に則し、判断するのが相当であつて、このような客観的基準に照らし、明らかに右例外条項に該当するとみられる事案について休職処分に付されたときは、右処分は裁量権の濫用として無効というべきである。

(ウ)平成9年(ワ)16844 東京地裁判決 判決文抜粋 全日本空輸事件(起訴休職規定の合理性)

 被告の就業規則37条5号及び39条2項は、従業員が起訴されたときは休職させる場合があり、賃金はその都度決定する旨を定めている。このような起訴休職の趣旨は、刑事事件で起訴された従業員をそのまま就業させると、職務内容又は公訴事実の内容によっては、職場秩序が乱されたり、企業の社会的信用が害され、また、当該従業員の労務の継続的な給付やき企業活動の円滑な遂行に障害が生ずることを避けることにあると認められる。

 したがって、従業員が起訴された事実のみで、形式的に起訴休職の規定の適用が認められるものではなく、職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無などの諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、被告の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあるか、あるいは当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、また、休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないことを要するというべきである。

イ 病気休職満了による自然退職

(ア)昭和58年(ワ)596 広島地裁判決 東洋シート事件 休職満了退職

事件の概要は、休職期間満了時に復職を申し出た者が復職を拒否し退職とされた事案

判決は、本件については自然退職の効果を主張することはできないとした

判決の理由は、

a 被告会社の就業規則上、業務外の傷病により欠勤し、3か月を経過しても治癒しないときは休職となり、右の場合における休職期間は6か月であること、休職期間満了前に休職理由が消滅したときには直ちに復職させること、復職することなく休職期間が満了となった場合は自然退職となる扱いであることが認められる。

b ところで、右のような自然退職の扱いは、休業期間満了時になお休職事由が消滅していない場合に、期間満了によって当然に復職したと解したうえで改めて使用者が当該従業員を解雇するとう迂遠な手続きを回避するものとして合理性を有するものではあるが、一方、休業期間満了前に従業員が自己の傷病が治癒したとして復職を申し出たのに対し、使用者側ではその治癒がいまだ十分でないとして復職を拒否し、結局旧表記感満了による自然退職に従業員を追い込むことになる恐れをなしとせず、したがって、自然退職扱いの合理性範囲を逸脱し、使用者の有する解雇権の行使を実質的に容易にする結果を招来することのないように配慮することが必要であり、このことは、本来病気の解雇権の行使を一定期間制限して、労働者の権利を保護しようとする制度であることを考えると、けだし当然であるというべきである。

c したがって、当該従業員が前職場に復帰できると使用者において判断しない限り、復帰させる義務を使用者が負担するものではなく、休業期間の満了により自動的に退職の効果が発生すると解することは、復職を申し出る従業員に対し、客観的に前職場に復帰できるまでに傷病が治癒したことの立証責任を負担させる結果になり、休職中の従業員の復職を実際上困難にする恐れが多分にあって相当でなく、使用者において当該従業員が復職することを認めることができない理由を具体的に主張立証する必要があるものと解するのが相当である。

 (なお、被告Yを除くその余の被告らは、使用者の労働者に対する安全配慮義務を理由に、被告会社には復職の判断を慎重にすべき義務があるとも主張するようであるが、本来右安全配慮義務とは、就労の提供が可能である労働者が労務に服する過程で生命及び健康等を害しないよう労務場所・機械その他の環境につき配慮すべき義務をいうのであって、安全配慮義務の名のもとに復職の機会を事実上制限することは許されないものというほかなく、右主張は失当である。

ウ 留学休職

昭和53年(ヨ)5305 東京地裁決定 決定理由抜粋 日本アジア航空事件

 就業規則45条によれば、同条に定める休職事由が発生した場合、被申請会社が従業員に対し休職処分を命じ得ることは明白である、そして同条6号にいう従業員の自己都合による休職申請については、同号が休職事由として「やむを得ない事情」と包括的に表現していることから明らかなごとく、その性質上種々の事由があり得るから、被申請会社が従業員の自己都合を理由とする休職申請につき承認すべき義務を負っているものとはいえず、休職申請を承認すべきか否かの裁量は被申請会社に許されているものと解される。

 ところで、従業員の自己都合による休職事由の一つである留学休職については特に運用基準45条中に承認基準が列挙されているが、これはあくまでも承認のための一応の方針を定めたものにすぎず、これをもって留学休職につき承認基準に合致した場合被申請会社は必ず承認すべき義務を負うものとは解されない。 

 

 

以上で休職に関する記述を終了します。

打ち間違いは、順次訂正するとして

次回は、「退職金」について記述します。

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採用内定、始期付労働契約

2015年04月27日 14:21

採用内定とは何か?

○労働契約の成立の時期と採用内定

 労働契約法第3条では、「労働者が使用者に使用されて労働すること」「使用者が労働者の労働に対して賃金を支払うこと」について、労働者と使用者が合意した時点で労働契約が成立すると定義されていることを労働契約法の説明のところで記述しました。また、民法第623条の雇用契約の定義も同趣旨であることも記述しました。ところで、実際には、採用内定という言葉で採用通知がされていますし、採用の内々定という言葉も用いられています。そこで、採用時に紛争になった事例を裁判例で確認することで、採用の事実認定の実情を確認・考察したいと思います。

 また、採用決定ではなく採用内定という言葉を多く使っているのは、「採用取り消しの可能性を含ませている」からにほかなりません。

○採用内定に関する裁判例

ア 昭和43年(ワ)4046 東京地裁判決 森尾電器事件 採用内定取り消し

事件の概要、高校未卒業を解除条件とする解雇権保留の労働契約が成立したケースで、別事由で採用内定取り消しをされ、その無効を争ったもの

判決は、解雇権の濫用であり解雇無効

判決の理由は、

a 被告会社が原告に発した「採用内定のお知らせ」は、その記載内容からして直ちに原告主張の如く原告の右申込に対する承諾の意思表示と認めることはできないが、被告会社は原告に対し採用試験の上、「採用決定のお知らせ」を発し、その後、原告が被告会社の求めに応じて所定の手続きに従い昭和42年2月2日日頃誓約書および身元保証書を被告会社に提出し、被告会社において異議なくこれを受領したことにより、被告会社の従業員の雇入れに関する就業規則所定の手続きは殆ど完了していること、被告会社の新規学卒者の採用に当つては、従来から前期のような手続が採られるだけであつて、その後に改めて契約書の作成もしくは採用辞令の交付などの手続が採られた慣例はないばかりか、就業規則上にもそのような手続の定がないこと、およびその後被告会社が原告の足立工高卒業直後から原告を実習生として被告会社の作業に従事せしめていることなどの事実に鑑みれば、被告会社が原告に対し誓約書および身元保証書の提出を求め、これを受領したことをもって、前示原告の申込に対する黙示の承諾の意思表示をなしたものと認めるのが相当である。したがつて、昭和42年2月2日頃、原被告間に労働契約が成立したものというべきである。

b ただ、前記誓約書の内容および右労働契約書提出当事原告がいまだ足立工高三年在学中であつた事実に照らせば、右労働契約は原告が同年三月に足立工高を卒業できないことを解除条件とするものと解すべきところ、原告が同年三月一一日足立工高を卒業したことは、前示のとおりである。

※卒業できないことを解除条件とする採用内定(解雇権留保付労働契約)が確定していたと認定しています。

c 以上の事実によれば、原告についてさしあたり配属が予定されていた組立職場の作業に関しては、小児麻痺後遺症の為作業能力が劣り又は将来発展の見込みがないものとはとうてい認めがたく、又被告会社の他の職場に関しても、その各作業内容を原告の前記身体の状況に照らして検討すると、未だ現場で作業者として不適格とはなし得ないものと認めることができうる。そうとすれば、仮に被告会社が昭和四二年三月二五当事その主張の如き事情から、その主張のような基準による人員整理をしなければならないような状況にあつたとしても、原告が右整理基準に該当するものとは即断しがたく、他に原告が右整理基準に該当するものであつたことを認めるに足る証拠はない。

d したがつて、被告会社がなした前記解雇の意思表示は、爾余(ジヨ)の点につき判断するまでもなく、解雇事由はなくしてされたものであつて解雇権の濫用として無効といわなければならない。

イ 昭和52年(オ)94 最高裁第二小法廷判決 大日本印刷事件

事件の概要は、グルーミーな印象であることを理由とする採用内定取消は、すでに解雇権を留保した労働契約が成立しているとして、解雇権濫用に該当を指摘した事件

※グルーミーとは、陰鬱なさま、陰気なさまのこと

判決は、解雇権の濫用に該当

判決の理由は、

a 本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮するとき、上告人からの募集(申込みの誘引)に対し、被上告人が応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する上告人からの採用内定通知は、申込みに対する承諾であって、被上告人の本件誓約書の提出とあいまって、これにより、被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和44年大学卒業後とし、それまでの間、本件誓約書記載の5項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解する。

※事前に、会社送付の労働契約書に署名・捺印をして返送することが手続き上のルールとされている場合には、その手続きの瑕疵(労働者の未提出)により、労働契約が不成立と判断される場合もありえます。しかし、署名捺印した労働契約書の提出を求めることは、労働契約の効力の発生要件ではありませんから、通常は採用通知書とともに送付した誓約書等に署名・捺印をしたうえで提出を求め、それに従って労働者が返送することが多いと思います。

 本件では、採用を内定した労働者に採用通知書又は採用内定書を送付することで、労働者の労働契約の申込みに対する使用者側の労働契約締結の承諾と判断されるとしています。

 また、採用内定とは「一定の要件に該当した場合に、労働契約を解除する旨の解除権を保留した労働契約の成立」と判断しています。

b 採用内定の取消事由は、採用内定当事知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。

c これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件採用内定取消事由の中心をなすものは、「被上告人はグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった。」というのであるが、グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、上告人としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかったので内定を取り消すということは、解雇権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきであり、右のような事由をもって、本件誓約書の確認事項二、(5)所定の解約事由にあたるとすることはできないものというべきである。

ウ 昭和54年(オ)580 最高裁第二小法廷判決 電電公社近畿電通局採用内定取消事件

事件の概要は、採用取り消しを受けた求職者がその無効と地位確認を求めたもの

判決は、解約権の行使は有効とした 

判決の理由は、

a 被上告人から上告人に交付された本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったと解することができるから、上告人が被上告人からの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する被上告人からの右採用通知は、右申込みに対する承諾であって、これにより、上告人と被上告人との間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された昭和45年4月1日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。

※採用内定について、以下に整理します。

・採用内定とは、解約権留保付の労働契約の成立であること。また、解約権行使の要件には、一般に「卒業できなかったこと」「労働者が提出した履歴書の記載内容及び面接等における経歴の詐称その他採用決定を左右する重大な虚偽の記載等があったこと」「労働契約の始期までの間に重大な非違行為があったこと」等であること。

・採用内定があったと認定される事実としては、労働者の応募に対し選考試験、面接等の手続きを経て、郵送などで「採用内定(決定)通知」を労働者に交付し、所定の誓約書の提出を求め、その誓約書を受領した(返送を受けた)こと。 

b 被上告人において本件採用の取消しをしたのは、上告人が反戦青年委員会に所属し、その指導的地位にある者の行動として、大阪市公安委員会条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したためであって、被上告人において右のような違法行為を積極的に敢行した上告人を見習社員として雇用することは相当でなく、被上告人が上告人を見習社員の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができるから、解約権の行使は有効と解すべきである。

○始期付労働契約の意味と内容

 始期付労働契約とは、契約締結日から契約の効力が発生する日までの間に一定の期間がある契約を言います。上記の裁判例で考えると、採用内定(決定)通知が労働者の手元に到着した日が契約締結日であり、例えば採用日として「定期採用であれば会社の新年度開始日」、「中途採用であれば、出社日等の将来の特定の日」が記載されている筈ですから、その日が契約の効力発生日(始期)となります。別の契約の例では、アパートを借りる際には仲介の不動産会社に赴いて事前に契約書を取り交し、敷金等を支払って契約をしますが、実際に契約の効力が発生するのは、契約書に契約期間として記載されている、翌月の初日から1年間(具体的には、平成27年5月1日から平成28年4月30日等と記載)が契約の効力が発生する日(期間)です。そこで何らの特約もない場合、平成27年5月1日までは、契約者の借り手には契約上の権利が発生しないこととなります。

 これを、労働契約についてみると、契約の始期の到来まで(入社日前)は、採用された労働者は労務の提供義務はなく、使用者は賃金の支払い義務がなく、労働者は労働基準法の保護を原則受ける立場になく、労働者は社員食堂の利用その他会社の福利厚生を利用する立場になく、使用者も労働者の安全配慮等をする義務はなく、労働者は唯一入社日までにしなければならないと会社から指示があった事項(誓約書の提出や必要な書類の用意など)を履行する義務があるのみです。ただし、解雇予告制度については、労働契約の始期前であっても適用を受ける(裁判事例)とされています。さらに、使用者の理由無き労働契約の解除は無効とされますし、リーマンショック直後においては、理由無き内定取消により労働者が損害賠償請求を行う事案も発生しています。

 使用者が、採用内定を「単なる採用の仮決定」と認識している恐れもありますが、以上のとおり採用内定の通知により既に労働契約が成立したと解することが通常です。

○入社日前研修の問題

 入社予定日の前に、事前に一定の研修を行うことがママあります。この入社前研修をそのまま本来の労働契約の始期の前倒しとみることは、ただちにできません。あくまで、ケース・バイ・ケースとしか言いようがありませんが、入社前研修開始日が本来の労働契約の始期とされる場合もありますし、入社前研修は別の労働条件の有期労働契約と判断される場合もあると思われます。

 いずれにしても、入社前研修期間を無給とするなどは論外であり、本契約の前倒しであっても或いは別の有期労働契約であっても、研修の受講が義務付けられたり、又は研修不参加の場合に待遇面で不利益を受ける場合には、その研修時間は労働時間すなわち労働契約が成立している期間です。

 なお、入社日後の試用期間について言えば、「試用期間満了後本採用までは、解雇権留保付の期間」とされています。

 

それでは、次回は「休職」について記述します。

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労働契約法の復習 第21条、第22条

2015年04月25日 14:25

労働契約法第21条 第12条及び前章の規定は、船員法(昭和22年法律第100号)の適用を受ける船員(次項において「船員」という。)に関しては、適用しない。

2 船員に関しては、第7条中「第12条とあるのは、「船員法(昭和22年法律第100号)第100条」と、第10条中「第12条」とあるのは「船員法第100条」と、第11条中「労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条及び第90条」とあるのは「船員法第97条及び第98条」と、第13条中「前条」とあるのは「船員法第100条」とする。

 船員の一部適用除外規定です。本条の特別な記述は不要かと思いますが、参考までに余談を2、3記述します。

○労働基準法における船員の適用除外

労働基準法第116条 第一条から第十一条まで、次条、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条第一項に規定する船員については適用しない。

 船員は、海上の閉鎖した区域(船内)に職場が限定されることや国際法の適用を受けるという事情その他の理由により、労働基準法の適用が一部を除き除外されています。ところで、船員法よりも船員保険法の方が歴史が古く、同法は昭和14年4月6日に制定されています。これは、戦時中は船員のなり手が少なく(乗っている船が敵国に撃沈される恐れが大きかったため)、船員の確保のために国が手厚い補償を設けることで、戦時の海上輸送等を確保しようとしたことが理由です。

 船員保険は、過去においては「健康保険」「年金」「雇用保険」など、幅広くカバーしていましたが、現在は財政面の問題からほとんど厚生年金他に移管されています。

引き続き第22条を記述します。

 

労働契約法第22条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。

2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

 労働契約法第22条についても、労働基準法の適用除外規定と類似しています。

労働基準法第116条第2項 この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

 参考:家事使用人とは、「家事一般に従事する者」のことで、俗にお手伝いさんと言われる人です。この場合、個人に雇われているか法人に雇われているかを問いません。ただし、他の業務を兼業している場合には、原則として家事使用人に該当しないとされています。※家事使用人は、労働契約法では適用を除外されていません。

○同居の親族のみを使用するとは

 親族とは、民法第725条に規定される、6親等以内の血族(1号)、配偶者(2号)、3親等以内の姻族(3号)をいうとされています。ここで、血族とは文字通り血のつながりがある親類縁者であり、姻族は配偶者の血族及び血族の配偶者のことを言います。

※配偶者の血族の配偶者(例、妻の兄の妻)は親族に含まれませんし、血族の配偶者の血族(例、叔母の夫の父)は親族に含まれません。また、親等とは親子関係の数であり、例えば「叔父(伯父)又は叔母(伯母)」は、自身①⇒父母②⇒祖父母③⇒叔父・叔母となり、叔父叔母は3親等です。さらに、自身及びその者の配偶者は0親等です。例えば、叔父の配偶者は3親等(叔父とその配偶者間が0親等)です。

 そこで、本条により世帯を同じくして常時生活を共にしている親族のみを使用している場合に労働契約法の適用が除外され、他方で同居以外の者(別居の親族を含めて)を同時に使用している場合には、適用があると見るべきです。

○国家公務員及び地方公務員

 公務員にも有期任用の非正規公務員がいます。厳密な服務規律は調査していませんが、本条の適用はこれらの非常勤職員等についてもあるものと考えられます。

なお、地方公務員の非常勤職員等の任用に関する資料の一つとして、次をご参照ください。

非常勤職員任用についての通達 総務省.pdf (261839)

以下、労働契約法の附則については、今回は記述を省略します。

第21条、第22条

 

皆さん、「労働契約法の復習」をご高欄頂きまして有難うございました。

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労働契約法の復習 第20条

2015年04月25日 09:09

労働契約法第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者との期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 この均衡考慮の原則は、特に「同一労働同一賃金の原則」に触れた労働契約法第3条第2項の規定を、有期契約労働者と無期契約労働者間に特化して規定したものです。解釈上で民事規定とされている本条は、強行規定として使用者に両者(有期契約労働者と無期契約労働者)の労働条件の平準化を予定しているものの、罰則をもって直接的に修正を義務付けているわけでもありません。※もちろん、任意規定ではありませんから個別契約(就業規則等)で排除はできません。

 しかし、今後は本条を根拠に両者の労働条件の相違が不合理であると労働者が思えば、民法第709条の不法行為に当たる恐れがあり、損害賠償及び待遇改善の訴えが提起されることが想定されます。結局本条により、順次就業規則の見直しや、有期契約労働者と無期契約労働者の双方の業務の見直しを迫られます。

○過去の裁判例による同一労働同一賃金に対する判断

ア 平成18年(ワ)3346 京都地裁判決(労働者敗訴)京都市同一労働同一賃金、男女差別事件

事件の概要は、嘱託職員として相談業務に当たり退職した労働者が、労働は一般職員と同一であるのに低い嘱託職員の賃金を支給したことは憲法13条、14条、労働基準法3条、4条、同一価値労働同一賃金の原則並びに民法90条に違反したとして損害賠償の支払いを求めたもの

判決は、労働者の請求を棄却

参考1:日本国憲法第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、事由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。(以下略)

参考2:労働基準法第3条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取り扱いをしてはならない。

第4条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

判決の理由は、

a 憲法の規定は国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的にでたもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない

b 被告は京都市が全額出資して設立された財団法人であり、被告の行為に憲法13条及び14条が直接適用されるかには疑義があり、実体法規の解釈にあたって憲法の規定を考慮要素とすることによってその趣旨を適用するのが相当である

c そして、憲法14条は機会の平等を規定しているところ、労働基準法3条及び4条の解釈・適用を通じて私人関係を規律することとなる。しかし、憲法13条はその文言自体抽象的であり、それ自体から賃金処遇についてどうあるべきかを具体的に明らかにしておらず、仮に同条が直接に適用されるとしても、具体的にな法規性を見いだすことは困難であり、実体法規の解釈にあたって考慮要素としてどのように参酌すればよいのかも明らかでない。また、憲法13条は自由権であって、現に存在する差別を積極的に是正するという積極的な効果をもたらすような人権規定ではない

d 労働基準法3条が憲法14条の趣旨を受けて社会的身分による差別を絶対的に禁止したことからすると、同法同条の「社会的身分」の意義は厳格に解するべきであり、事故の意思によっては逃れることのできない社会的な身分を意味すると解するのが相当である。また、同条の解釈は民事上の損害賠償請求の場面においても特定の行為が違法か否かの基準となるのであるから、上記場面においても同様に解釈するのが相当である。

e そして、嘱託職員という地位は自己の意思によって逃れることのできない身分ではないから同条の「社会的身分」には含まれないというべきである。よって、本件賃金処遇が労働基準法3条に違反し違法であるとはいえず、これに反する争点についての原告の主張は採用できない。

f 短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律8条、10条の趣旨を、私人間の雇用関係を律するにあたって参酌するすることは許されるものと解される。

g 憲法14条及び労働基準法4条の根底にある均等待遇の理念、上記各条約等が締約されている下での国際情勢及び日本において労働契約法等が制定されたことを考慮すると、(公序というか否かはともかく)証拠から短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条に反していることないし同一価値労働であることが明らかに認められるのに、給与を含む待遇については使用者と労働者の交渉結果・業績等に左右される側面があること及び年功的要素を考慮した賃金配分方法が違法視されているとまではいい難いことなどを考慮してもなお、当該労働に対する賃金が相応の水準に達していないことが明らかであり、かつ、その差額を具体的に認定し得るような特段の事情がある場合には、当該賃金処遇は均衡処遇の原則に照らして不法行為を構成する余地があるというべきである。

h 原告は本件雇用期間中、被告の主要事業の1つである相談業務を高い質を維持して遂行し、一定の責任をもって企画業務を行い、外部との会議にも単独で出席するなどしていることから、原告は一般職員の補助としてではなく主体的に相談業務及びこれに関連する業務につき一定の責任をもって遂行していたといえ、他の相談員と比べても質の高い労務を提供していたといえる。

i 被告の職員給与規定は原告の提供した労務の内容に対して、適切な対応をし得るような内容になっていなかったといえる。原告は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者に該当するとまでは認め難く、原告に形式的に一般職員の給与表を適用して賃金水準の格差ないし適否を論ずることは適切なものとはいえない。また、本件全証拠をもってしても、原告が従事していたのと同様の相談業務を実施している他の法人等における給与水準がどの程度か、その中でも原告のように質の高い労務を提供した場合にどのような処遇が通常なされているのかという点や、被告において原則図書館司書資格を要するものとされている図書館情報室勤務の嘱託職員と比べ、原告については具体的にどの程度賃金額を区別すれば適当なのか、被告の他の相談業務に従事する嘱託職員と比べた場合、どの程度賃金額を区別すれば適当なのかという点について具体的な事実を認めるに足りず、したがって、原告に支給されていた給与を含む待遇について、一般職員との格差ないしその適否を判断することは困難である。

イ 平成12年(ワ)14386 日本郵便逓送、臨時社員損害賠償事件

事件の概要は、「被告の期間臨時社員である原告らが、正社員と同一の労働をいているにもかかわらず、被告が、原告らに正社員と同一の賃金を支払わないのは、同一労働同一賃金の原則に反し公序良俗違反であり、不法行為に該当するとして、正社員との賃金差額相当額の損害賠償金の支払いを求める事案である。」※原文のまま

   参考:公序良俗=民法第90条、不法行為=民法第709条

判決は、「原告らの請求をいずれも棄却する。」というもの

判決の理由は、

a 確かに、郵便物の収集という業務をとらえてみれば、本務者と臨時社員運転士で異なることろはなく、本務者は原則として既定便というあらかじめ定められた便にしか乗務していないのに対して、臨時社員運転士は、臨時便を中心に乗務し、ときには、本務者と同じローテーションに組み込まれて乗務することもあり、臨時社員運転士の労働が本務者のそれに比して軽度ということはなかったし、被告は、臨時社員運転士が本務者に比して、賃金その他の労働条件が被告に有利なこともあって、臨時社員を多用してきたということができる。

b しかしながら、原告らが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたい。すなわち、賃金などの労働者の労働条件については、労働基準法などによる規制があるものの、これらの法規に反しない限りは、当事者間の合意によって定まるのである。

c 我が国の多くの企業においては、賃金は、年功序列による賃金体系を基本として、企業によってその内容は異なるもの、学歴、年齢、勤務年数、職能資格、業務内容、責任、成果、扶養家族等々の様々な要素により定められてきた。労働の価値が同一か否かは、職種が異なる場合はもちろん、同様の職種においても、雇用形態が異なれば、これを客観的に判断することは困難であるうえ、賃金が労働の対価であるといっても、必ずしも一定の賃金支払期間だけの労働の量に応じてこれが支払われるものではなく、年齢、学歴、勤務年数、企業貢献度、勤労意欲を期待する企業側の思惑などが考慮され、純粋に労働の価値のみによって決定されるものではない。

d このように、長期雇用制度の下では、労働者に対する将来の期待を含めて年功型賃金体系がとられてきたのであり、年功によって賃金の増加が保障される一方でそれに相応し資質の向上が期待され、かつ、将来の管理者的立場に立つことも期待されるとともに、他方で、これに対応した服務や責任が求められ、研鑽努力も要求され、配転、降級、降格等の負担も負うことになる。これに対して、期間雇用労働者の賃金は、それが原則的には短期的な需要に基づくものであるから、そのときどきの労働市場の相場によって定まるという傾向をもち、将来に対する期待がないから、一般に年功的考慮はされず、賃金制度には、長期雇用の労働者と差異が設けられるのが通常である。

 そこで、長期雇用労働者と短期雇用労働者とでは、雇用形態が異なり、かつ賃金制度も異なることになるが、これを必ずしも不合理ということはできない。

e 労働基準法3条及び4条も、雇用形態の差異に基づく賃金格差までを否定する趣旨ではないと解される。

f これらから、原告らが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたいのであって、一般に、期間雇用の臨時従業員について、これを正社員と異なる賃金体系によって雇用することは、正社員と同様の労働を求める場合であっても、契約の範疇であり、何ら違法ではないといわなければならない。

g 結局のところ、被告においては臨時社員運転士を採用する必要性があり、原告らはいずれも被告との間で、臨時社員運転士として3か月の雇用期間の定めのある労働契約を締結しており、労働契約上、賃金を含む労働契約の内容は、明らかに本務者とは異なることは契約当初から予定されていたのであるから、被告が、賃金について、期間臨時運転士と本務者とを別個の賃金体系を設けて異なる取扱をし、それによって賃金の格差が生じることは、労働契約の相違から生じる必然的結果であって、それ自体不合理なものとして違法となるものではない。

h そして、雇用期間3か月の臨時社員と言いながら、事実上は、更新を重ねて4年以上の期間雇用されており、他方、臨時便とはいいながら多くの便が恒常的に運行されており、これを本務者に乗務させられない理由は少ないのに、賃金等の労働条件において被告に有利な臨時社員運転士で本務者に代替している面があるともいえなくはない。しかも、臨時社員は、本務者より賃金は低く、その格差は大きいといえる。原告らの不満はこの点にあることは理解できるが、臨時社員制度自体を違法ということはできず、その臨時社員としての雇用契約を締結した以上、更新を繰り返して、これが長期間となったとしても、これによって直ちに長期雇用労働者に転化するものでもないから、結局のところ、その労働条件の格差は労使間における労働条件に関する合意によって解決する問題である。

i 原告らは、仮に、同一労働同一賃金の原則に未だ公序性が認められないとしても、憲法14条、労働基準法3条、4条の公序性に基づけば、同一企業内において同一労働に従事している労働者らは、賃金について平等に取り扱われる利益があり、これは法的に保護される利益であると主張する。しかしながら、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、これは契約の自由の範疇の問題であって、これを憲法14条、労働基準法3条、4条違反ということはできない。

 以上のとおり、原告らの正社員との賃金格差はその雇用形態の差に基づくものであって、これを違法とする事由はない。

※本判決は、改正労働契約法施行前のものですから、労働契約法第20条の規定は判断の根拠になっていません。

 また、本条でいう「労働条件の相違」は賃金の格差に限られませんが、最も不利益と感じるのは「賃金の相違」であり、まずは賃金から始めるべきと言えます。

それでは、この続きは次回に・・・

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労働契約法の復習 第19条

2015年04月24日 14:12

労働契約法第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申し込みをした場合であって、使用者が当該申し込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

○労働契約法第19条の規定の内容

 この条文の内容は、過去の「東芝柳町工場事件」及び「日立メディコ事件」に代表される判例法理を条文として明文化し、更には同判決の法理である「解雇権濫用法理の類推適用」から「無期契約への転化説」へと進化させる趣旨ものですが、原則的に通算の契約期間が5年未満の一定の有期契約の場合には、解雇権濫用法理を用いて「雇止め無効及び労働者の申込みによる更新みなし」の規定を定めたに留まっています。無期転換に関する過去の有識者等の論議内容は、労働契約法第18条第1項の説明の際に、すでに記述しました。

今回も、労働政策審議会の立法過程の法律案に対する審議内容から本条を考察します。

○労働政策審議会労働条件分科会議事録抜粋(第99回)

原文のまま

質問:公益の先生方もおられる中では僭越でございますけれども、通説的な理解では雇い止め法理というのは、東芝柳町工場事件の類型、「有期契約が期間の定めのない労働契約と実質的に同視しうる場合」又は、日立メディコ事件の類型、「雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性がある場合」に、解雇権濫用法理を類推適用するものであり、期間満了に伴う労働契約の終了のためには、相当の理由のある使用者の更新拒絶の意思表示が必要であり、そのときに更新拒絶の意思表示がないか、それがなされても相当の理由がないときには短期契約の更新が行われる、つまり法定更新である、とされています。

 今回、法案要綱の段階で、雇止め法理にも、建議に至るまでの論議でも出ていなかった「労働者の申込み」という新たな要件が課されたことについて、なぜこうなったかということを確認させていただきたいのが1点です。

回答:この雇止め法理を条文化するに当たっての考え方を、今の点に関しまして御説明いたします。

 雇止め法理そのものは、これまでは使用者による更新拒絶、雇止めを労働者が裁判で争った場合に用いられたところであることはおっしゃったとおりでございます。これを立法化する場合には、訴訟提起の有無にかかわらず適用されるルールとして定めることになるところですが、訴訟となっていないケースに対しても条文がどのように影響するのかも踏まえて考えなければいけないということで検討してまいりました。

 すなわち、有期労働契約といいますのは、期間満了時に両当事者が何もしないと契約は終了するのが原則でございます。このため、使用者も労働者も何もせずに、いわゆる円満に退職するという場合があって、そいうときまで更新承諾みなし、本件は使用者が更新申込みを承諾したものとみなすという形に構成してしますけれども、そういうものを発動させることは適当でないと考えられることから、労働者が更新を希望する意思を有する場合に限定する必要があり、その結果、更新または締結の申込みという形で定めたものというものでございます。

 以上の立法作業経過でございますが、「申込み」と法案要綱上ありますけれども、これは承諾みなしによる更新の効果が発生するための、確かに法律上は要件であるんですけれども、事後とありますように、期間満了後でもよろしいということで、要式行為ではなく、口頭でもいいということで、使用者の更新しないという意思、雇止めの意思に対して何らかの反対の意思表示、例えば嫌だとか困るといったことがあればよいと解しております

 これを少し争いにおけるケースで考えますと、「更新の申込み」に関する、主張、立証ということを懸念されるかもしれませんけれども、冒頭の説明でも多少申したかもしれませんが、労働者が雇止めに異議があることは使用者に直接または間接に伝えられたことでよく、それを概括的に主張・立証すればよいと考えておりますことで、つまるところ、現在の判例法利と実質的に同一であると解しております。

 先ほど、間接とか、事後とか申しましたけれども、要は訴訟の提起とか、紛争処理機関、ADRへの申立てとか、団交とかで使用者に異議が伝わるということでもよいという形で解釈することで、現在の判例法理とも実質的同一性を確保したいと考えております。

○有期労働契約の在り方について(建議)平成23年労審発第641号 抜粋

3 「雇止め法理」の法制化

 有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、客観的に合理的な理由を書き社会通念上相当であると認められない雇止めについては、当該契約が更新されたものとして扱うものとした判例法理(いわゆる「雇止め法理」)について、これを、より認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止するため、その内容を制定化し、明確化を図ることが適当である

4 期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消

 有期労働契約労働者の公正な処遇の実現に資するため、有期労働契約の内容である労働条件については、職務の内容や配置の範囲等を考慮して、期間の定めを理由とする不合理なものと認められるものであってはならないこととすることが適当である。※労働契約法第20条関係

○労働契約法第19条の条文の問題点と運用上の問題点の考察

ア 更新申込みの有無の争い

 使用者が雇止めをした際の争点として、雇止めをした労働者から契約更新の申し込みが無かった旨の主張をするケースが想定されます。これは、審議会の議論にあるとおり、紛争処理機関(労働局の窓口、弁護士会の窓口、社会保険労務士会の窓口、都道府県労働局の労働委員会の個別紛争窓口等)に雇止めについての異議を申し立てることで、事後的に「更新の申し込みの存在」を立証可能であるとされています。この点は条文上で担保されており、「当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合」として、直接・間接に使用者に「更新したい旨の意思表示」を行えば良いとなっています。

イ 当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる場合とは何か?

 これは、実際にはケース・バイ・ケースと言えます。ただし、10年以上に渡り、当然のごとく有期契約を更新してきた場合は、ほぼ「無期契約と同視できる」と言えます。一方で、平成25年4月以降に有期労働契約をほぼ自動更新してきた場合には、平成30年4月以降の近い時期に無期労働契約への転換が可能ですから、積極的に活用すべきかと思います。

ウ 当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められるとはどんな場合か?

 労働契約法第18条第1項に基づき、通算契約期間が5年を迎える直前の契約更新で雇い止めされるケースを考えると、当然に同法第19条に該当すると判断できます。今後は、有期労働契約の回数上限を定める就業規則の有効性の判断の争議が起こりえます。例えば、1回の有期労働契約の期間を5ヶ月とし、その更新回数の上限を10回と就業規則に規定した場合、55ヶ月以上は有期労働契約を締結できないこととなります。この場合、無契約期間が無いとすると、就業規則上では5年経過日の5ヶ月前に契約期間満了により退職をすることとなります。これが合法か否か、判断がつかないというところが私の実情です。

 勿論、既に就業規則がある場合には不利益変更の問題が生じますし、同就業規則の変更前に既に雇用していた有期労働契約の従業員にこの規定を適用することは困難に違いありません。また、この規定の合理性の問題も生じそうです。感覚的には訴訟で無効の判断が示されそうですが、今の時点では断定できないのが本当のところです。

エ 民事の限界

 刑事事件であっても、事件の認知がなされ、適正な捜査を経て検察が起訴しなければ、原告・被告間の争いになりません。振り返って民事の場合には、法の保護を受ける意思が債権者にない場合(通常、特に中小零細企業が債務者の場合)、本条が形骸化する恐れがあると考えます。

 たとえば、「うちの会社には有給(年休)はない」と言い切る中小零細企業主が現在でも存在しますが、私疾病の療養でも、欠勤・無給を余儀なくされるケースが現在でも起きている実情に鑑みると、本条が「絵に描いた餅」にならないための施策を講じるべきと考える労働者が数多くいるものと思料します。

それでは、この続きは次回に・・・

第19条

 

 

 

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労働契約法の復習 第18条第2項

2015年04月23日 16:48

労働契約法第18条第2項 当該使用者との間で締結された1の有期労働契約の期間満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が6月(当該空白期間の直前に満了した1の有期労働契約の契約期間(当該1の有期契約を含む2以上の有期労働契約の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が1年に満たない場合にあっては、当該1の有期労働契約の契約期間に2分の1を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算期間に算入しない。

労働契約法第18条第1項の通算契約期間に関する基準を定める省令(厚生労働省令第148号)

第1条 労働契約法(以下「法」という。)第18条第2項の厚生労働省令で定める基準は、次の各号に掲げる無契約期間(1の有期労働契約の契約期間が満了した日とその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間がある場合の当該期間をいう。以下この条において同じ。)に応じ、それぞれ当該各号に定めるものであることとする。

一 最初の雇入れの日後最初に到来する無契約期間(以下この項において「第一無契約期間」という。)

第一無契約期間の期間が、第一無契約期間の前にある有期労働契約の契約期間(2以上の有期労働契約がある場合は、その全ての契約期間を通算した期間)に2分の一を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。

二 第一無契約期間の次に到来する無契約期間(以下この項において「第二無契約期間」という。)次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に定めるものであること。

イ 第一無契約期間が前号に定めるものである場合

 第二無契約期間の期間が、第二無契約期間の前にある全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。

ロ イに掲げる場合以外の場合

 第二無契約期間の期間が、第一無契約期間と第二無契約期間の間にある有期労働契約の契約期間(2以上の有期労働契約がある場合は、その全ての契約期間を通算した期間)に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。

三 第二無契約期間の次に到来する無契約期間(以下この項において「第三無契約期間」という。)

 次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に定めるものであるきこと。

イ 第二無契約期間が前号イに定めるものである場合

 第三無契約期間の期間が、第三無契約期間の前にある全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。

ロ 第二無契約期間が前号ロに定めるものである場合

 第三無契約期間の期間が、第一無契約期間と第三契約期間の間にある全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。

ハ イ又はロに掲げる場合以外の場合

 第三無契約期間の期間が、第二無契約期間と第三無契約期間の間にある有期労働契約の契約期間(2以上の有期労働契約がある場合は、その全ての契約期間を通算した期間)に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。

四 第三無契約期間後に到来する無契約期間 

 当該無契約期間が、前3号の例により計算して得た期間未満であること。

2 前項の規定により通算の対象となるそれぞれの有期労働契約の契約期間に1月に満たない端数がある場合は、これらの端数の合算については、30日をもって1月とする。

第2条 法第18条第2項の厚生労働省で定める期間は、同項の当該1の有期労働契約の契約期間に2分の1を乗じて得た期間(1月に満たない端数を生じたときは、これを1月として計算した期間とする。)とする。

附則

1 この省令は、労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)附則第1項ただし書に規定する規定の施行の日(平成25年4月1日)から施行する。

2 第1条第1項の規定は、この省令の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用する。

 無期転換権を行使できる要件としての5年経過日を特定するための告示です。法律特有の難解な文章ですが、この告示の内容は通達で確認することにします。

労働契約法の施行について(平成24年基発0810第2号)

4 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換(法第18条関係)

(2)内容

ケ 法第18条第2項は、同条第1項の通算契約期間の計算に当たり、有期労働契約が不存在の期間(以下「無契約期間」という。)が一定以上続いた場合には、当該通算契約期間の計算がリセットされること(いわゆる「クーリング」)について規定したものであること。

 法及び「労働契約法第18条第1項の通算期間に関する基準を定める省令」(平成24年厚生労働省令第148号。以下「基準省令」という。)の規定により、同一の有期契約労働者と使用者との間で、1か月以上の無期契約期間を置いて有期労働契約が再度締結された場合であって、当該無契約期間の長さが次の①、②のいずれかに該当するときは、当該無契約期間は法第18条第2項の空白期間に該当し、当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は、同条第1項の通算契約期間に参入されない(クーリングされる)こととなること。

 なお、無契約期間の長さが1か月に満たない場合は、法第18条第2項の空白期間に該当することはなく、クーリングされないこと。

① 6か月以上である場合

② その直前の有期労働契約の契約期間(複数の有期労働契約が間を置かずに連続している場合又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続するものと認められる場合にあっては、それらの有期労働契約の契約期間の合計)が1年未満の場合にあっては、その期間に2分の1を乗じて得た期間(1か月未満の端数は1か月に切り上げて計算する。)以上である場合

コ 基準省令第1条第1項は、法第18条第2項の「契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準」を規定したものであること。具体的には、次の①から③までのとおりであること。

 なお、ケ①のとおり、6か月以上の空白期間がある場合には当該空白期間に終了している全ての有期労働契約の期間は通算契約期間に参入されない。このため、通算契約期間の算定に当たり、基準省令第1条第1項で定める基準に照らし連続すると認められるかどうかの確認が必要となるのは、労働者が無期転換の申込みをしようとする日から遡って直近の空白期間後の有期契約についてであること。

① 最初の雇入れの日後最初に到来する無期契約期間から順次、無契約期間とその前にある有期労働契約の契約期間の長さを比較し、当該契約期間に2分の1を乗じて得た期間よりも無契約期間の方が短い場合には、無契約期間の前後の有期労働契約が「連続するとみとめられるもの」となり、前後の有期労働契約の契約期間を通算すること。

② ①において、無契約期間の前にある有期労働契約が他の有期労働契約と間を置かずに連続している場合、又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続すると認められるものである場合については、これら連続している又は連続すると認められる全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間と、無契約期間の長さとを比較すること。

③ 基準省令第1条第1項の「二分の一を乗じて得た期間」の計算において、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とすること。また、「二分の一を乗じて得た期間」が6か月を超える場合は、無契約期間が6か月未満のときに前後の有期労働契約が連続するものとして取り扱うこと。

 すなわち、次の表の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間(②に該当する場合は通算後の期間)の区分に応じ、無契約期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該無期契約期間の前後の有期労働契約が連続すると認められるものとなること。

左欄(有期労働契約の契約期間)※②に該当する場合は通算した期間  右欄(無契約期間)☆1

2か月以下                            1か月未満

2か月超~4か月以下                       2か月未満

4か月超~6か月以下                        3か月未満

6か月超~8か月以下                       4か月未満

8か月超~10か月以下                       5か月未満

10か月超                             6か月未満

サ 基準省令第1条第2項は、同条第1項で定める基準に該当し無契約期間の前後の有期労働契約を通算する際に、1か月に満たない端数がある場合には、30日をもって1か月とすることを規定したものであること。

 また、1か月の計算は、暦に従い、契約期間の初日から起算し、翌月の応答日の前日をもって1か月とすること。具体例を示すと次のとおりであること。

 前の契約 平成25年4月5日~同年7月15日(3か月+11日)     ☆表2

 次の契約 平成25年8月3日~同年10月1日(1か月+29日)の場合

      (3か月+11日)+(1か月+29日)

      =4か月+40日

      =5か月+10日 ※40日の内、30日を1か月と換算する。加筆

      =5か月+10日として、コ③の表に当てはめ、無期契約期間が3か月未満であるきは前後の有期労働契約が連続すると認められる。

 なお、法第18条第1項の通算契約期間の計算においても、これと同様に計算すべきものと解されること。

シ 基準省令第2条は、法第18条第2項の「二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間」を規定したものであること。

 具体的には、コ③と同様、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とすること。すなわち、次の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間の区分に応じ、空白期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない(クーリングされる)こととなること。

左欄(有期労働契約の契約期間=空白期間直前のもの)   右欄(空白期間) ☆表3

2か月以下                       1か月以上

2か月超~4か月以下                  2か月以上

4か月超~6か月以下                  3か月以上

6か月超~8か月以下                  4か月以上

8か月超~10か月以下                  5か月以上

10か月超~1年未満                    6か月以上

1年以上                          6か月以上 ※加筆

○通達の意味すなわち労働契約法第18条の意味

ア 用語の確認

・通算契約期間:無期転換の申し込みが可能となる「2以上の有期契約のそれぞれの期間を合算して5年となる日の翌日を特定するためのその契約期間の合計」のこと

 ※この場合、同一事業者及び同一事業者と解される事業者と同一労働者間の有期労働契約に限り、当然に5年を超える有期労働契約が単独で5年経過日を含む場合を除きます

・空白期間:通算契約期間を合算する際に、前後の有期労働契約を合算できないものとして区切ることとされる無契約期間のこと

 ※空白期間は原則6か月以上の無契約期間ですが、直前の有期労働契約の長さ(複数の有期労働契約を合算する場合を含む。)により、空白期間に該当するか否かを判断します。ただし、無契約期間が6か月以上の場合には、すべて空白期間(クーリングされる)に該当し、無契約期間が1か月未満の場合には、すべて空白期間に該当しません。なお、空白期間の算定方法は、上記☆表2、☆表3の通りです。

・無契約期間:1の有期労働契約の契約期間が満了した日とその次の有期労働契約の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間がある場合の当該期間

 ※無契約期間とは、具体的には他社に勤務していた期間、就職のため求職中の期間、自営業を営んでいた期間、その他の不就労期間などです。無契約期間は、状況により空白期間に該当する場合としない場合がありますが、6か月以上はすべて空白期間に該当1か月未満はすべて空白期間に非該当は先に述べました。

・クーリング:空白期間が存在することにより、通算契約期間を算定する際にその前後の有期契約の長さを合算できずにリセットされること

○通算契約期間の計算方法のまとめ 

 通算計算期間を算定する際は、平成25年4月1日以降に締結又は更新した有期労働契約が対象ですから、現在の有期労働契約から順に遡り、かつ、空白期間を考慮して、通算契約期間を算定することとなります。現在の勤務先に最初に勤務し始めた日(平成25年4月1日以降に限ります。)又は勤務を始めて平成25年4月1日以降に契約を更新した日から、空白期間を考慮しつつ、通算契約期間を計算することになります。※通常は切れ目なく勤務していると思いますが、季節労働や会社に仕事があるときだけの勤務の場合は、空白期間の有無の検討が必要です。

なお、通算契約期間の参考資料として、以下をご参照ください。※厚生労働省作成資料

通算契約期間の算定.pdf (276,9 kB)

○空白期間があるために、通算契約期間が5年以下の場合は、どうなるか?

 労働契約法第18条は、有期労働契約を一定期間繰り返した場合の無期労働契約への転換ルールを定めています。この場合、法律の要件を満たさない場合であっても、労働者の無期労働契約への転換の申し入れに対し、使用者がそれを承諾して無期労働契約に変更することは全く差し支えありません。法律に基づき、柔軟な運用ルールを定めることを推奨いたします。

それでは、この続きは次回に・・・

第18条第2項

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労働契約法の復習 第18条第1項

2015年04月23日 09:07

労働契約法第18条第1項 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結してい有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承認したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

 改正労働契約法に新たに盛り込まれた規定です。この第18条は非常に重要な規定であるため、項別に考察をしてみようと思います。

 ところで前条の記述の際に、有期労働契約を強いられる事により、労働者が雇い止めの不安を抱きつつ就労し続けなければならない状況を述べました。従来、裁判例においては、労働者の雇い止めに際して「有期契約の更新手続きが単なる形式に過ぎず、また長期間更新されて継続され、その労働契約が既に期間の定めがない労働契約と同一視できる状況にある」と認定された事件がいくつかあります。

○労働契約法第18条第1項はどんな規定か?(趣旨・規定内容)

ア 本条第1項の導入趣旨

 既に記述しましたが、使用者にとっては、正社員以外の人員について「経営の状況その他の事由」により、比較的容易に労働契約を解除する仕組みが必要でした。そこで、一定期間の有期労働契約を反復継続することで、「契約期間満了を理由に、比較的容易に事実上労働契約を解除する」仕組みが用いられて来ました。この仕組みは、「非正規雇用」或いは「非常勤雇用」等と呼ばれ、法的にも社会的にも容認されて来ました。しかし、これらの有期労働契約の反復更新は、労働者の地位を不安定な状況に置き、また、使用者が濫用する恐れがありました。

 このような、不安定な立場から労働者を解放し、雇用の安定、引いては労働者の生活の安定を図る目的で本条が導入されました。

イ 本条第1項の内容

 「時系列的に更新・継続された同一使用者と労働者間の2以上の有期労働契約について、『最初の労働契約において契約期間開始日とされた日を起算日として、その後5年を経過した日が属する有期契約期間中』において、事前に労働者が『無期労働契約の申し込み(契約期間以外の労働条件について従前と同一の契約)』を行った場合には、同日において使用者の承諾があり、かつ申し込み日が属する有期契約期間の満了日の翌日に、当該無期労働契約が成立したものとみなす。」という規定になっています。

 上記を更にまとめると、5年間有期契約労働者として同じ会社に勤務して来た場合には、会社に申し出れば次回の契約締結時に無期労働契約に転換することができ(法律上労働者の申し出のみで足り、会社の判断に左右されません)、それ以降は会社の意向に沿って労働契約を更新し続ける必要がありません。これにより、少なくとも失業のリスクから非正規労働者が解放されることとなります。

 ただし、この規定によって正社員と言われる立場に自動的になる(正規雇用される)わけではなく、労働契約の期間のみが有期から無期に転換されるに留まります。

○労働契約法第18条制定の経緯

ア 厚生労働省の有期契約の更新・雇止め基準(平成20年1月23日厚生労働省告示第12号・改善告示)による雇止めの濫用防止

(ア)有期契約締結時の労働条件の明示事項

a 更新の有無の明示

  使用者は、有期契約労働者に対し更新の有無の明示(例えば「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」「契約の更新はしない」等)をしなければなりません。

b 更新判断基準の明示

 使用者は、aで労働契約を更新する場合があると明示した場合には、合わせてその更新基準を明示しなければなりません。一例として、次のような基準があります。

・契約満了時の業務量により判断する ・労働者の勤務成績、態度により判断する ・労働者の能力により判断する等です。

c 雇い止めの予告

 使用者が有期契約労働者(3回以上更新しているか、1年を超えて継続して雇用されいる労働者に限る。)を雇い止めする場合には、少なくとも契約期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。また、それ以外の手続きとしては、最後の労働契約の締結の際に「次回の契約更新をしない。」と明示及び説明をする方法もあります。

d 雇止め理由の明示

 使用者は、雇止めの予告後又は雇止め後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。また、この雇止め理由として、「契約期間満了のため」とすることは出来ず、例えば「前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため」或いは「担当していた業務が終了・中止したため」等の理由を記載する必要があります。

イ 過去の裁判で無期労働契約と同一であると判断された事例

(ア)実質的に無期契約であると判断されたケース

・東芝柳町工場事件:本件各労働契約は、契約当初及びその後しばしば形式的に取交された契約書に記載された2か月の期間の満了することはなく、当然更新を重ねて、恰も(アタカモ)期間の定めなき契約と実質的に異ならない状態で存続していたものといわなければならない

(イ)労働者に契約更新の期待があり、信義則上雇い止め無効とされた事件

・龍神タクシー事件:その雇用期間についての実質は期間の定めのない雇用契約に類似するものであって、抗告人において、右契約期間満了後も相手方会社が抗告人の雇用を継続するものと期待することに合理性を肯認(コウニン)することができるものというべきであり、このような本件雇用契約の実質に鑑みれば、前示の臨時運転手制度の趣旨、目的に照らして、従前の取扱いを変更して契約の更新を拒絶することが相当と認められるような特段の事情が存しないかぎり、相手方において、期間満了を理由として本件雇用契約の更新を拒絶することは、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である

ウ 状況から無期労働契約への転化があったとの主張

・旭ガラス事件:本件労働契約が右のとおり結果的に反復更新されたとしても、そのことにより、本件労働契約が期間の定めのないものに当然に転化するいわれはなく、また、1回目の更新以後の時点において、本件労働契約を期間の定めのないものとする旨の当事者間の明示又は黙示の合意がなされたことについては何らの疏明(ソメイ)がないから、本件労働契約が本件雇止め当時、期間の定めのないものに転化していたとの第一審債権者らの主張は理由がない

※過去の裁判では、有期労働契約が状況に従い「自動的に無期労働契約に転換した」との判断はされていません。やはり労使当事者の明示・黙示の無期契約転換への合意が必要とされています。

エ 労働政策審議会労働条件分科会の議論抜粋

・学説では、反復継続された有期契約は無期に転化するとする説と無期には転化しないけれども、解雇権濫用法理を類推適用するという類推適用説の2つが対立していた。最高裁は転化説をとらずに解雇権濫用法理類推適用説をとった、つまり、現在の法理では転化説は認めないという判断をした

・最高裁が無期説(無期転化説)をとらなかった大きな理由

これはそもそも立法がないので、諸外国でも上限規制等は立法によって一定回数以上更新したり、一定期間以上使った場合には無期契約に転化したものとみなす、立法措置をとって初めて導かれる効果だが、日本にはそのような立法がないので、その中の解釈でいくと、解雇権濫用法理の類推適用、実態として期間の定めのない契約と事実上変わらないような状況にある場合には類推適用というアプローチが法解釈としては無理がなかったということだと思う

○無期労働契約転換権の法的根拠の整理

ア 有期労働契約の解雇権濫用法理の類推適用

 東芝柳町工場事件においては、使用者が契約更新手続きをいい加減に行っており、そもそも使用者が労働契約に期間を設定する意図があったかどうか疑わしい、であれば、雇い止めは解雇に等しいから、解雇権濫用法理を類推適用し、雇い止め時点で既に無期労働契約が締結されていたと同等に取り扱って、その類推された解雇の合理性や社会通念上の相当性を判断しています。一方、日立メディコ事件では、事実上で無期労働契約が締結されていたとは取り扱えないが、使用者が次回の契約更新を期待させる意思表示を労働者にしており、その期待を裏切るように雇い止めをすることは信義則上許されず、同様に解雇権濫用法理を類推適用し、雇い止めは無効であるとしています。

イ 法令の規定があれば、無期労働契約への転化説を採用できる

 有期契約を数多くの回数、または長期間に渡り契約当事者が継続する場合には、契約当事者が計約期間を定める意思があるか否か疑いが残ります。労働契約の場面では、労働条件(契約条件)を使用者が一方的に設定し、労働者がそれを承諾すれば契約が成立します。そこで、一定期間又は、一定回数以上労働契約を更新してきた場合は、労使で更に同一の契約を更新するについて、労働条件を設定している側の使用者が「本当に期間の定めをする意思があるのか」が疑問です。そうであれば、労働者が期間の定めがない労働契約に転換する意思がある事を示すことで、使用者の意思にかかわらず無期労働契約への転換を法律上認めようというものです。

 改正労働契約法第18条第1項により、5年を経過してさらに同一の有期労働契約を更新する場合には、労働者は無期労働契約に転換するように使用者に申し出ることができ、この申し出により法律上自動的に無期労働契約が成立します。

○無期労働契約転換権行使のルール

ア 無期転換の申し出の時期

最初の有期労働契約の開始日を起算日として、通算で5年を経過する日が属する契約期間中に申し出るか、通算5年を経過する日が属する契約の次回以降の契約期間中いつでも、無期転換を申し出ることが出来ます。

ところで、5年を超える有期労働契約は原則出来ないことになっていますが、大規模な工事で工期が5年を超える場合や、5年を超える長期の催事・行事等で、その5年を超える一定の期間で事業が終了する場合には、5年を超える有期労働契約も可能です。具体的には、例えば東京オリンピックに関連する事業で、「今年から東京オリンピック終了後6ヶ月間」に限り行われる事業などがあり得るものと思います。その場合は、契約1回目の5年経過日については、本条第1項の要件を満たさず、無期転換の申し出が出来ないこととなります。※この場合、そもそも事業が終了し仕事がありません。

イ 無期転換申し出の方法

無期転換の申し出は、口頭でも可能です。しかし、後の争いを防止する観点からも、日付を入れた文書(正副2通)を以って、使用者に申し出ることが重要です。

ウ 労働者が無期転換の申し出を行わなかった場合

労働者が、5年を経過する日が属する契約期間中に無期転換を申し出なかった場合には、その無期転換権は保留され、次期の契約期間以降に、いつでも無期転換を申し出ることができます。なお、契約満了日から次の契約発効日までの間が一定の期間がある場合の取扱いは、同条第2項の規定によりす。

オ 契約の特約として、「無期転換件を行使しないこと」の規定がある場合

無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、要件を満たした際に無期転換権を行使させない定めをすることは出来ません。

カ 本条第1項が発行し、無期転換権が行使できる対象となる有期労働契約

本条第1項のいわゆる無期転換ルールが適用される有期労働契約は、平成25年4月1日以降に締結又は更新された有期労働契約であり、従って、無期転換権を行使できる要件が整うのは、早くても平成30年4月1日以降の有期労働契約の期間中となります。

※例えば平成25年4月1日から毎回1年単位で契約を更新した場合、5年経過日は平成30年4月1日です。そこで、同年3月以前にすでに同一の労働契約の更新に合意している場合には、平成30年4月1日から平成31年3月31日までの労働契約が成立しており、無期転換の申し出はその期間に行い、無期労働契約に転換されるのは平成31年4月1日(申し出を行った日が属する契約期間の満了日の翌日)となります。

キ 労働者に無期労働契約転換の意思がない場合はどうなるか?

労働契約法第18条第1項の規定は、無期転換ルールの前提として「労働者の無期転換の申し込み」が前提条件となっています。従って、労働者が自身の意思として無期労働契約に転換したくなければ、本条の適用はありません。

○無期転換ルールの参考資料

次の資料が無期転換ルールをまとめたものです。ご参考にどうぞ。

無期転換ルール.pdf (1508436)

○過去の雇い止め裁判例

ア 平成11年(ワ)24 京都地裁福知山支部判決 三井輸送機事件

事件の概要は、「常用」と呼ばれ正社員とほぼ同様の勤務日及び勤務時間の指定・管理を受けて工場内で製品の仕上げ組み立て作業等に専属的に約20数年従事してきた者2名が、その後会社から「常用」と会社との契約が完全な請負契約であることを明確化する新規請負契約書の締結を拒否したことを理由に、会社から契約解除を通告されたため、会社との契約が労働契約であると主張して労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払いを請求したもの

判決は、労働契約であり、かつ事実上期間の定めがない労働契約と類似、契約解除は無効

判決の理由は、

a 原告らと被告間の各労務供給に請負契約と見られうる側面があるにしても、その労務提供が指揮監督下に行われ、その報酬が労務提供の対償であるならば、原告らは、労働者性を満たし、その契約は労働契約であることになる。

b 原告らにおいて本件協定書に記載された期間満了後もこの契約関係が継続されるものと期待することに合理性があるから、従前の取扱いを変更して契約更新を拒絶することが相当と認められる特段の事情が被告に存しない限り、被告において、原告らとの間の労働契約を期間満了により一方的に終了させることは許されない。

 

それでは、この続きは次回に・・・

第18条第1項

 

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労働契約法の復習 第17条

2015年04月21日 13:32

労働契約法第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

 有期労働契約の労働者の解雇の規定です。一方で、解雇の制限ですから、労使間の合意の上の労働契約の解除は可能です。勿論、労働者の意思に反して、使用者が労働者に有形無形の圧力を掛け、労働契約の期間途中の解除を無理強いすることは、違法であり出来ません。

 そこで、労働者側が一方的に退職する場合については民法第628条及び労働基準法第137条の適用を受けます。

民法第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる、この場合においてその事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

労働基準法第137条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

※労働基準法第14条第1項各号に規定する労働者とは、有期労働契約を3年を超えて5年まで締結できる「専門知識等を有する労働者又は60歳以上の労働者」を指します。

 本来、労働契約の期間を定める理由は仕事が一定期間で終了する見込みであり、その期間に限って労働者が必要な場合に、労働基準法の許す範囲内で労働契約の期間を定めるわけです。しかし、従来から労働契約に期間を定め、それを基準なく更新し続け労働力を確保し、業績悪化に伴ってそれらの労働者を雇い止め(使用者側からの労働契約の更新拒否)することで、雇用調整することが行われて来ました。(パートタイム、期間工、契約社員等様々です。)

○労働契約法第17条に規定される「やむを得ない場合の解雇」とは何か?

労働契約法第17条又は民法第628条の有期労働契約(有期雇用)の場合のやむを得ない事由の解雇とは何かについて、裁判例で確認してみます。

ア 平成14年(事件記号不明) 福岡高裁決定 安川電機八幡工場事件 

事件の概要は、3ヶ月の期間を定めて数回更新を行っていた労働者が、会社からパート退職願いを渡され、会社都合という事由で捺印提出するように指示があった。それらの労働者を解雇する旨の意思表示があり、その解雇の有効性を争ったもの

決定は、解雇は無効とした

決定の理由は、次の通り

a 期間の定めのある労働契約は、民法628条により、原則として解除はできず、やむことを得ざる事由がある時に限り、期間内解除(ただし、労働基準法20、21条による予告が必要)が出来るにとどまる。したがって、就業規則9条の解雇事由の解釈にあたっても、当該解雇が、3ヶ月の雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要であるというべきである。

b 会社の業績は、本件解雇の半年ほど前から受注減により急速に悪化しており、景気回復の兆しもなかったものであって、人員削減の必要性が存したことは認められるが、本件解雇により解雇されたパートタイマー従業員は、合計31名であり、残りの雇用期間は約2ヶ月、労働者らの平均給与は、月額12万円から14万5000円程度であったことや会社の企業規模などからすると、どんなに、会社の業績悪化が急激であったとしても、労働契約締結からわずか5日後に、3ヶ月間の契約期間の終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむを得ない事態が発生したと認めるに足りる疎明資料はない。したがって、本件解雇は無効であると言うべきである。

イ 平成15年(事件番号不明)東京地裁判決 モーブッサン・ジャパン事件

事件の概要は、労働者と会社が「本件契約の期間中、いつでも30日前の書面による予告のうえ、本件契約を終了することができる。」「本件契約書に規定されていない一切の事項は、会社の就業規則及び日本の法律に従って決定する。」「本件契約は、平成11年10月16日に発効し、平成12年4月15日に自動終了する。」等が記載された英文の契約書を締結した労働者が契約期間中に解雇され、解雇無効等を訴えたもの

判決は、本件解雇無効とした。

判決理由は、

a (原告の)労働者性を疑わせるいくつかの事情があるが、他方で(会社との間に)指揮監督関係にあり、原告労働者が個々の仕事に対して諾否の自由を有していたとはいえないこと、就業規則や労基法の適用対象とすることが予定されていたこと、専属性の程度が高かったことなどを総合すると、原告労働者は、会社との間の使用従属関係のもとで労務を提供していたと認めるのが相当であり、本件契約は、労働契約としての性質を有するものと認められる。

※請負契約と認定されれば、民法第628条、労働契約法第17条の適用がありません。

b 会社は、原告労働者の在庫管理に誤りがある、会社に(原告所持の)私用電話の料金を支払うよう不正に請求したとして、解雇したとしているが、証拠等によれば、会社は原告労働者が在庫表や販売予算を提出するよりも以前に本件解雇を決定したと疑わざるを得ない。また、原告労働者が会社に精算を求めた私用電話は、金額がさほど多額とはいえないうえ、原告労働者は精算を受けていない。

c そうすると、原告労働者が作成した在庫表と販売予算に多数の誤りがあったことや、通話料金の一部を不正に請求したことは、本件解雇を根拠付けるやむを得ない事由(民法628条)に当たるとは認められないから、本件解雇は無効である。

 一般に、民法第628条に規定される解雇の「やむを得ない事由」は、使用者側に一定の解雇の必要性があり、かつ、労働契約にその様な場合に解雇する旨の規定(途中解雇が可能な旨の契約上の特約)がある場合に、やむを得ない事由があると認められ、有期契約労働者を解雇できると解されています。他方、労働契約法第17条においては、有期契約労働者の解雇の際の「やむを得ない事由」から契約上の特約の有効性を排除し、労働者保護を図るとされています。

ウ 平成17年(事件番号不明)大阪地裁判決 ネスレコンフェクショナリー事件

事件の概要は、契約期間が1年他の労働者が解雇及び雇い止めを受け、その無効を訴えたもの

判決は、解雇、雇い止めとも無効とされた

判決の理由は、

a 本件解約条項が民法628条に反し無効であるか否かについて、民法628条は、一定の期間解約申し入れを排除する旨の定めのある雇用契約においても、「已ムコトヲ得ザル事由」がある場合に当事者間の解除件を保障したものといえるから、解除事由をより厳格にする当事者間の合意は、同条の趣旨に反し無効というべきであり、その点において同条は強行規定というべきであるが、同条は当事者においてより前記事項を緩やかにする合意をすることまで禁じるとは解し難い。したがって、本件解雇条項は、解約事由を「已ムコトヲ得サル事由」よりも緩やかにする合意であるから、民法628条に違反するとはいえない。※この解釈は、私の承知している前記解釈とは、やや異なります。

b この点、原告らは、労働契約の締結ないしその後の展開過程における労働者保護の規定は、強行規定であると解すべきであり、民法第628条は労働者が期間中に解雇されないとの利益を付与したものであると主張するが、それは、むしろ民法626条の趣旨というべきであり、民法628条は合意による解約権の一律排除を緩和するためにおかれた規定と解すべきであるから、原告らの主張は採用することができない。

※民法第628条による場合は、就業規則又は個別労働契約に「一定の場合における有期労働契約の途中解除の規定」があれば、一定の場合に解雇(事実上は、契約に基づく合意解約)ができることは、既に述べました。なお、民法第626条の規定(5年を超える有期契約の解除、労基法上は5年を超える有期労働契約の締結は不可能)の説明は、省略します。

c 雇用期間を信頼した労働者保護の観点については、解除権濫用の法理を適用することにより考慮することができるから、このように解したとしても、不当な結果を招来するわけではない。

d 本件解雇は、客観的に合理的な理由を書き、社会通念上相当と是認することはできない。

○必要以上に短い労働契約の改善

 本来、労働契約にその期間を付す理由は、業務の性質上その期間を以って業務が完成又は終了し、労務の提供を受ける必要がない場合であることは既に述べました。しかし、有期労働契約を無制限に反復継続する実情が法的に又社会的に是認されてきたことも事実です。そのような状況のなかで、有期労働契約を長期間更新継続してきた労働者が雇い止めを受け、期間の定めのない労働契約と同一視されたり、雇い止めは有効とされたり、個々の状況により裁判の結果が異なり、有期契約労働者は就業上不安定な地位に置かれて来たと言えます。

 そこで、本条第2項では、必要もないのに不当に短い労働契約を反復して更新することを改善するように定めています。しかし、個別具体的に契約期間の最短規定があるわけではなく、契約期間の上限(建設業等の仕事の完了が明確な業務を除く)の定めのような強行規定でもありませんから、実質的には、使用者へのお願い規定と言えます。

○雇い止めの裁判事例(13年更新してきた労働者の雇い止めが有効とされた事件)

平成18年(ワ)7863 東京地裁判決(控訴)日立製作所帰化嘱託従業員雇い止め事件

事件の概要は、1年単位の労働契約を13回更新してきた労働者が14回目に雇い止めされ、雇い止め無効等を争ったもの

判決は、雇い止め有効とした(いずれの請求も棄却)

判決の理由は、

a 14年に及んだ原告・被告間の労働関係の中で、これを見直し、期間の定めのない契約に切り替えようという動きのないまま、毎年労働契約が更新されてきたことは事実である。

b 原告は雇用期間1年の従業員として採用され、その後も1年毎に契約書を作成して契約の更新を重ねてきた。(中略)これらのことから、契約の更新が全く形式的なものとは解されない。

c 原告と被告の担当者等は、複数回の面談を経て、その中で、被告は労働契約を更新しない明確な方針を伝え、これに対し原告も、会社の状況を理解しつつも、自己の生活を考えれば当然とも思われる要望を述べているもので、実態をよく理解して任意に意思決定しているといえる。また、複数回の面接が持たれていることから、原告としては納得のいなかい提案が示されたところで、次回までに検討したいと述べて検討したり(原告は法学の大学院修士課程を終えていつもので、法的な事項について十分に判断できる能力がある。)、相談できる者に相談していた様子が認められる。したがって、そこに被告が、契約を締結させるよう脅迫していたとか、欺罔(ギモウ)してそれにより原告が錯誤に陥ったなどの事情は認めることができない。原告は、これ以上契約が更新されないことを理解して16年契約の契約書に署名・捺印しているもので、一種の合意による契約の終了ともいうべきものである。

d 契約を更新しなかった事由は、委嘱する業務の減少と、被告が(中略)主張するような原告の業務態度が芳しくない(中略)というもので、全く理由のない恣意的なものとはいえない。したがって、いずれにせよ原告・被告間の契約は16年契約も期間が満了していることにより終了し、これを妨げるものはないというべきである。

以上、この続きはまた次回に・・・

第17条

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労働契約法の復習 第16条

2015年04月20日 13:46

労働契約法第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

○解雇とは何か?

 一般に、労働契約を解除するケースは次の3種類があります。

ア 労働者及び使用者間で合意により労働契約を解除する場合

労働者及び使用者が合意により労働契約を解除する場合は、労働基準法の解雇予告制度の適用がありませんし、労働契約法第16条(本条)の適用もありません。ところで、就業規則に規定すべき事項として、労働基準法第89条第1項第3号に「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」として、労働者が退職する場合の手続き等を規定すべしと定められています。

この場合の規定例として。「退職する場合には、所定の退職願いに記入し、所属長経由で本社人事部に送付しなければならい。この場合には、退職を希望する日の少なくとも1ヶ月前に当該退職願いを送付すること。」等の退職に必要な手続きを定めておきます。また、合意による労働契約の解除には、労働者が希望して退職願いを提出する場合の他、使用者が退職希望者を募り労働者が応募する場合、使用者が個々の労働者に退職を勧奨し労働者が応じる場合等もあります。

イ 労働者が退職を一方的に宣言し、労働契約を解除する場合(辞職)

 民法第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 期間の定めがある労働契約の解除に関しては、労働契約法第17条(次条)で記述します。そこで、期間の定めがない場合ですが、通常、労働基準法の規定により、1ヶ月以内の期間を定めて定期的に賃金を支払う必要がありますから、民法第627条第2項の規定が適用されます。同項の規定は、例えば賃金計算期間が毎月21日から翌月20までとすると、退職(辞職)の申し出を明日(4月21日)に申し入れると、5月21以降の退職について労働契約の解除を使用者に告知することができ、そして5月21日に労働契約が終了するとしています。実際には、退職の申し出を就業規則において少なくとも1ヶ月前に申し出なければならないと規定している場合には、通常その規定に従って退職を申し出ることとなります。この場合、「会社の許可なく退職できない。」或いは、「退職する場合には、1年以前に申し出なければならない。」といった規定は、無効と解されています。

ウ 使用者が一方的に労働契約を解除する場合(解雇)

解雇は、使用者が労働契約を一方的に解除することであり、労働基準法の解雇予告制度の制限を受けます。従って、労働者を即時解雇することはできず、解雇を予告してから30日後に解雇することができます。(ただし、解雇予告手当を短縮日分支払えば可能です。)

○裁判例による希望退職の事例確認

ア 昭和46年(ワ)9309 ファースト商事事件

 被告会社の就業規則第35条に、依願退職の場合には、15日以上以前に届出なければならない旨の規定があることは、当事者間に争いない。しかし、右規定は、その文言からみて、従業員から依願退職の意思表示がなされたときは、被告の承諾がなくても、15日後にはその効力を発生する旨の依願退職の効力発生要件を定めたものと解することはできない。むしろ右規定は、従業員から依願退職の申し出がなされた場合には、被告は申し出の日から15日間は承諾を拒むことができることを定めたものと解するのが相当である。そうすると、原告の右依願退職の申し出の効果が発生する日は、民法の原則によって解決しなければならない。

被告会社の給料が前月21日から当月20日までの1ヶ月分を毎月25日に支払う約であることは、当事者間に争いない。これによれば、原告の右依願退職の申出に対し、被告の承諾のない限り、原則の退職の効果が発生する日は、7月21日ということになる(民法第627条第2項)。

イ 昭和50年(ワ)9187 東京地裁判決 高野メリヤス事件

事件の概要は、係長以上の役付者は6ヶ月以前の退職願いの届出、会社の許可を必要とする旨の就業規則を有する会社の企画係長が、退職届出を提出後3ヶ月後に退職し、退職金を請求したもの

判決は、退職に会社の許可を要するとする部分は効力を有しないとした

判決の理由は、

a 民法第627条は、期間の定めのない雇用契約について、労働者が突然解雇されることによってその生活の安定が脅かされることを防止し、合わせて使用者が労働者に突然辞職されることによってその業務に支障を来す結果が生じることを避ける趣旨の規定であるところ、労働基準法は、前者(解雇)については、予告期間を延長している(解雇予告制度、労働基準法第20条。民法の2週間を30日に延長している。)が、後者(辞職)については何ら規定を設けていない。

b 法(労働基準法)は、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排除して労働者の解約の自由を保障しようしているものとみられ、このような観点からみるときは、民法第627条の予告期間は、使用者のためにこれを延長できないものと解するのが相当である。

従って、変更された就業規則第30条の規定は、予告期間の点につき、民法第627条に抵触しない範囲でのみ(たとえば、前記の例の場合)有効だと解すべく、その限りでは、同条項は合理的なものとして、個々の労働者の同意の有無にかかわらず、適用を妨げられないというべきである。

c 同規定によれば、退職には会社の許可を得なければならないことになっているが(この点は旧規定でも同じ。)、このように解約申入れの効力発生を使用者の許可ない承認にかからせることを許容すると、労働者は使用者の許可ないし承認がないかぎり退職できないことになり、労働者の解約の事由を制約する結果となること、前記の予告期間の延長の場合よりも顕著であるから、とくに法令上許容されているとみられる場合を除いては、退職には会社の許可を要するとする部分は効力を有しないと解すべきである。

○労働契約法第16条の解雇の有効性の判断

解雇は、懲戒処分の延長上にあるとも言えます。つまり、企業秩序を乱した労働者に対し、企業は経営権や契約内容を根拠として、最も重い懲戒処分として労働者を解雇することができます。このことは、すでに懲戒権のところで確認しました。そこで、解雇が有効であるとされる「客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当である認められる場合」について、裁判例で確認したいと思います。

解雇の有効性の裁判事例

ア 普通解雇

平成23年(ワ)12595 東京地裁判決

事件の概要は、説明と異なる労働契約書への署名を拒否した教員が試用期間中に解雇され、損害賠償を求めたもの

判決は、解雇無効、学校の損害賠償責任を認めた

判決の理由は、

a 被告は、採用面接を経て原告を採用することとし、平成22年10月25日以降、原告を視能訓練士科教員として実際に稼働させてその労務提供を受け、かつ、平成23年1月分に至るまで、その間の労務提供に対する賃金を支払っている。そして、被告作成に係る採用証明書においても原告を平成22年10月25日雇い入れたとする記載があるほか、被告は、原告について、雇用関係のあるものについてされるべき解雇をしている。

b 被告は、労働契約書が作成されていないことを指摘して労働契約は結ばれていない旨主張するが、上記判示の点に照らすと、上記限度では労働契約は成立していたものと認めるのが相当であり、これに反する被告の主張は採用することができない。

c 被告の就業規則には本件規定(試用期間の規定と試用期間中の解雇の規定)があるところ、被告の上記所為は、試用期間中、使用者たる被告が本件規定に基づき留保していた解約権を行使する趣旨に出たものとみることができ、かかる認定を左右するに足りる証拠はない。もっとも、留保解約権の行使も、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解される。

d 上記解雇予告通知書に基づく解雇は、上記認定の経緯に照らし、早急に過ぎたものと評価せざるを得ないところであって、かつまた、原告が署名を拒んだのは、原告被告間の賃金という労働契約の基本的要素に係る問題に出たものであったことにも照らすと、上記解雇が、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得るものとみることは困難というべきである。

e 他に的確な指摘のない本件においては、被告は、不法行為に基づき、これによって原告に生じた損害をすべき責があると認めるのが相当である。

イ 懲戒解雇

平成16年受918 最高裁第二小法廷判決

事件の概要は、暴行事件から7年以上経過後の諭旨退職、その後の懲戒解雇につき、無効と訴えたもの

判決は、諭旨退職・懲戒解雇処分とも無効とされた

判決の理由は、

a 使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

b 本件諭旨退職処分は本件各事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ、被上告人においては、A課長代理が10月26日事件及び2月10日事件についての警察及び検察庁に被害届や告訴状を提出していたことからこれらの捜査の結果を待って処分を検討することとしたというのである。しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴力事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずとも被上告人において上告人らに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。

c しかも、使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合において捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、上記の捜査の結果は不起訴処分となったにもかかわらず、被上告人が上告人に対し実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

d 本件諭旨退職処分は本件各事件以外の事実も処分理由とされているが、本件各事件以外の事実は、平成11年10月12日のA課長代理に対する暴言、業務妨害等の行為を除き、いずれも同7年7月24日以前の行為であり、仮にこれらの事実が存在するとしても、その事実があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでに長期間が経過していることは本件各事件の場合と同様である。同11年10月12日のA課長代理に対する暴言、業務妨害等の行為については、被上告人の主張によれば、同日、A課長代理がE社からの来訪者2名を案内し、霞ヶ浦の工場設備を説明していたところ、上告人の一人が「こら、A、おい、でたらめA、あほんだらA。」などと大声で暴言を浴びせてA課長代理の業務を妨害し、上告人の別の一人もA課長代理に対し同様の暴言を浴びせるなどしてその業務を妨害したというものであって、仮にそのような事実が存在するとしても、その一事をもって諭旨退職処分に値する行為とは直ちにいい難いものであるだけではなく、その暴言、業務妨害等の行為があった日から本件諭旨退職処分がされるまでには18か月以上が経過しているのである。

e 本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序の観点から上告人らに対し懲戒解雇処分ないし諭旨解雇処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったものということができる、

f 以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由について被上告人が主張するとおりの事実が仮に存在すると仮定しても、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くのもといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない。そうすると、本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効というべきであり、本件諭旨退職処分による懲戒解雇(諭旨退職処分に応じず退職届未提出による処分)はその効力を生じないというべきである。

それでは、この続きは次回に・・・

第16条

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労働契約法の復習 第15条

2015年04月18日 12:37

労働契約法第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。

○企業の懲戒権について

 一般に、企業は経営上必要な組織内の秩序維持のために規則を定め、あるいは従業員が企業秩序に反する行為を行った場合には、懲戒処分に処することが出来るとされています。ただし、理由なく行った懲戒処分は、権利の濫用に当たることは勿論です。また、懲戒処分の内容は、訓告(戒告)、譴責、減給、出勤停止、休職、降格(降職)、諭旨解雇、懲戒解雇等様々ですが、一般にあらかじめ就業規則に規定しておく必要があります。

懲戒処分とその内容は、次の通りです。

訓告(戒告):一般に、口頭で注意を与える処分のことです。人事考課に記録されるかどうか、始末書の必要を含め、就業規則の定め方に左右されます。

譴責:口頭で非違行為を戒め、場合により始末書の提出を課すもの。就業規則への定め方次第です。

減給:労働基準法第91条の範囲内で、賃金の一定額を控除する処分のこと。ただし、遅刻・早退・欠勤による不就労部分相当の賃金控除は、懲戒処分というよりも働いていない部分の賃金を当然に支払わないもの(ノーワーク・ノーペイの原則)であり、通常の減給処分とは趣が異なります。

出勤停止:非違行為等により使用者が一定期間労務の受領を拒否し、通常はその間無給とする処分のこと。非常に重い処分と言えます。

休職:通常の休職処分は、労働者の申請による会社の承諾、或いは労働者の健康状態等に配慮して会社が命ずる出勤免除処分のこと。これも、休職期間を無休とする場合が多いですが、一定の手当を支給することも出来ますし、出勤とみなして通常の賃金を支払うことも可能です。疾病等にかかると心身ともに通常の業務が出来なくなることが考えられますので、配置転換や健康状態が重篤な場合には、休職命令を発します。※債務の不完全履行の問題となります。

降格(降職):給与の格付けや職位を下げるもの。通常は、労働者が受け取る賃金額が下がります。

諭旨解雇:非違行為により該当労働者に退職を勧奨し、合意により労働契約を解除するもの。解雇と名前は付いていますが労働者に労働契約解除の同意を求める前提ですから、法律上は解雇に当たりません。ただし、実質的に労働者の意思に関わりなく退職させる場合には、普通解雇または懲戒解雇に当たります。懲戒解雇と諭旨解雇では、退職金の支給内容が異なる場合が通常です。

懲戒解雇:非違行為が悪質な場合等に、労働者の雇用を使用者が一方的に解除するもの。最も重い処分とされています。

その他、必要に応じて「処分に該当する行為」と「その処分内容」を就業規則にそれぞれ規定することとなります。それでは、裁判例を参考に使用者の懲戒処分について考察します。

○懲戒処分の裁判例(懲戒権の根拠)

ア 昭和48年(ヨ)2405 大阪地裁判決 松下電器産業事件

事件の概要は、公務執行妨害で逮捕され実刑判決を受けた労働者が懲戒解雇され、その無効を訴えたもの

判決は、懲戒解雇は有効であるとした

判決の理由は、

a 企業が従業員に対し懲戒権を有することの根拠如何については諸説の存するところであるが、少なくとも就業規則を有する場合にあっては、これを根拠として企業序の維持という点からその合理性を根拠付けうるものであるから、企業秩序と無関係な従業員の私的行為に対してまで企業の支配力はおよび得ないところであり、就業規則によっても、右のような私的行為に対してまで無制限に懲戒の対象となすことは許されないものといわなければならない。そして、従業員の企業外における私的行為は、一般的にみて企業と無関係のものということができる。

b しかしながら、従業員の企業外における私的行為であっても当該従業員の企業における地位、当該私的行為の内容如何によっては、企業に影響を及ぼすことのあることも否定できないから、それが企業に悪影響を及ぼす場合をあらかじめ就業規則に規定し、これを懲戒処分とすることは許されると解せられる。

c 申請人らが行った右闘争行為はその政治的意図はともかくとして、極めて違法性の強い犯罪行為とされ、社会的に厳しい責任を問われたものということができる。

d 申請人らの前記犯行に対する他の従業員の批判、反発の声が強く、申請人らがこれらの従業員と強調して職務に従事することには相当の支障があることが窺えるところ、前記有罪判決により申請人らの職場内における人間関係に一層の悪影響を及ぼすことが推認される。

d 被申請人会社は申請人らが前記闘争に参加することにより不祥事の生ずることを防止すべく、上司において年休の時季変更権を行使したり或いは上京しないように説得したりしたものの、結局申請人らは敢えて右闘争に参加し、前期のとおり逮捕、拘留され、半年ないし一年近くの間就業不能の状況となり、被申請人会社の作業計画に影響を及ぼし、労務の提供につき他の従業員に迷惑を及ぼしたと認められる。

e 有罪判決が前記のとおりの相当厳しい実刑判決(懲役1年3ヶ月、懲役2年)であることの各事情に照らすと、申請人らは右有罪判決を受けたことにより被申請人会社の職場秩序に相当の悪影響を及ぼしたものというべきであり、申請人らの職場復帰を認めることはさらに職場秩序の悪影響を増巾せしめるものと認められる。

f (以上から)被申請人会社が前記有罪判決を理由としてなした申請人らに対する本件懲戒解雇は有効というべきであって、懲戒権の濫用とか懲戒処分を逸脱したものとはいまだ認めることはできない。

イ 昭和50年(モ)16 福島地裁判決 笹谷タクシー事件

事件の概要は、職場の後輩に職場外で飲酒をすすめ、酒気帯び人身事故を起こさせたとして懲戒解雇された運転手が、その無効を訴えたもの

判決は、本件懲戒解雇は、裁量の範囲内で有効とした

判決の理由は、

a (同社)規則第48条第10号は、単に「酒気をおびて自動車を運転したとき」と定めているが、右事由は、職務遂行に関係のある場合だけではなく、職場外の職務遂行に関係のない酒気帯び運転にあっても、それが企業秩序に影響するとか、企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがると客観的に認められる場合には、これをを含む趣旨と解すべきある。

b 思うに、使用者が従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰であるから、使用者が就業規則に懲戒事由を規定するのは、右固有の懲戒権の行使を自律的に制約することにほかならない。

c 就業規則に懲戒事由を規定すれば、恣意的な懲戒権の行使が妨げられ、従業員の地位を保障する機能を果たすものである。したがって、右懲戒事由の規定については、それが使用者の自己抑制であることに鑑み、従業員の保護をも考慮して、合理的に解釈すべきものと考える。

d 限定列挙規定:本件において、規則中に第48条に掲げる事由が限定列挙である旨・つまり右事由による場合のほか懲戒を受けることはない旨を明示した規定はない。

 ちなみに、譴責・減給・乗務停止・出勤停止については、その内容に関する規定があるのみで、それに応じた懲戒事由を明示した規定がなく、規則第48条に誤植等の存することは、別紙のとおりである。

e 概括的規定:就業規則においては、懲戒事由を列挙した末尾に「その他前各号に準ずる事由」のごとき概括的規定をおいているのが通例であるが、このような概括的規定は、従業員の保護を考慮し、違反の類型および程度において列挙事由と客観的に相応するものでなければならないものと考えられる。(本件就業規則には、概括規定はない。)

f 債権者の本件所為は、その態様において、長時間にわたりA(後輩運転手)と多量の飲酒をし、終始Aと行動を共にして、先輩でありながらその飲酒および運転に積極的に加担し、ひいては人身事故を誘発したものであり、事故後の措置もよろしきをえたものではない。とくに、債権者は、タクシー営業に従事する運転手であったから、右所為が職場外でなされた職務遂行に関係ないものであったことを勘案しても、その情状は、決して軽いものではないというべく、右債権者の所為が同僚に与えたであろうショックの程も、前記で疎明の経緯から窺い知ることができ、無視することはできない。

g 以上の事情を考慮するならば、本件懲戒解雇は、(使用者の)裁量の範囲を超えるものではないというべきである。

○懲戒処分の裁判例(懲戒権の濫用)

ア 昭和62年(ヨ)55 長野地裁松本支部決定

事件の概要は、労働者に対する研修を理由とする出向命令が拒否され、使用者に懲戒解雇された労働者が解雇無効を争ったもの

決定は、本件懲戒解雇は無効とした(一部認容)

決定の内容は、

a 会社において本件出向命令を債権者(労働者)に対し発することにつき、特段の根拠がある(就業規則に出向規定がある)としても、もとよりその権利の行使は信義誠実の原則に従ってなされるべきであり、当該具体的事情のもとにおいて、出向を命ずることが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、右命令は、信義則違反ないし権利の濫用に当たるものとして、無効となることはいうまでもない。

b 本件出向命令は、本件配紙ミス(業務上のミス)を契機として債権者の再教育の必要性からなされたものではあるが、その再教育のために、松本工場を離れて遠隔の地の東日本ハイパックにおいてこれをなさざるを得ない合理的理由が見当たらないばかりか、本件出向命令は債権者にとって家庭生活上重大な支障を来たし、極めて過酷なものであるにも拘らず、その点につき会社はなんら配慮した形跡がなく、さらに前記認定の債権者のみならず、他の従業員らの作業ミスに対する会社の従前の対応の仕方、会社から系列会社への出向事例にみられるその目的と人選の内容等を総合考慮すれば、本件出向命令は、その余の点につき判断するまでもなく、会社及び債権者間の労使の関係において遵守されるべき信義則に違反した不当な人事であり、権利の濫用に当たり無効のものと云わざるを得ない。

c 本件懲戒解雇は、本件出向命令が権利の濫用に当たり無効のものであって、債権者がこれを拒否したことには、正当の理由があるから、右拒否をもって(就業規則所定の)解雇事由に該当するものと認めることができない以上、本件懲戒解雇は、右就業規則の規定の解釈ないし適用を誤ったものとして無効のものと云うべきであり、かつ就業規則所定の懲戒手続においても、重大な瑕疵(カシ)があって、著しく信義則に反し、この点からも無効のものと云うべきである。

※懲戒手続きが就業規則に規定されている場合、その手続きを正しく経ない懲戒処分は、無効とされる可能性があります。

イ 昭和60年(ワ)153 高松地裁判決 学校法人倉田学園事件

事件の概要は、教諭が業務命令違反等により降職処分をうけ、その無効を訴えたもの

判決は、正規教諭から非常勤講師への降職処分は許されないとした(一部認容控訴)

判決の理由は、

a 懲戒の意味

一般に、使用者がその雇用する従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰であると解される

b 使用者の懲戒処分の根拠

使用者のその従業員である労働者との法的な関係は、対等な当事者としての両者が労働契約を締結することによって初めて成立するのであるから、使用者の労働者に対する権限も、労働契約上の両者の合意にその根拠を持つものでなければならない。(=契約説)使用者の経営権は、労働者に対する人的支配権をも内容とするものではないし、従業員に対する指揮命令権も、労働契約に基づいて許される範囲でしか行使し得ないはずのものである。

c 懲戒権の限界

したがって、使用者の懲戒権の行使は、労働者が労働契約において具体的に同意を与えている限りでのみ可能であると解するのが相当である。

d 事実たる慣習と懲戒権の根拠

懲戒について労働契約上の合意や労働協約がなくても、懲戒の事由と内容が就業規則に定められている場合には、使用者と労働者との労働条件は就業規則によるという事実たる慣習を媒介として、それが労働契約を規律すると解される。ただし、就業規則に定めさえすれば、どのような事項であれ、使用者と労働者の間はこれによって規律されるというような事実たる慣習は存在しないから、就業規則に定められた事項のうち事実たる慣習を媒介として労働契約を規律する事項に限られるというべきである。

※事実たる慣習の法規範の根拠

法の適用に関する通則法(旧法例:明治31年法律第10号)第3条 公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。

e 正規教諭から非常勤講師への降職

使用者が一定の場合(懲戒権の行使の場合も含む。)に雇用としての同一性を失わない範囲内で労働者の職務内容を一方的に変更し得ることを就業規則に規定することはできるとしても、社会通念上全く別個の契約に労働契約を変更することは、もはや従来の労働契約の変更とはいえず、従来の労働契約の終了と新たな労働契約の締結とみるほかはないから、このような事項は、労働契約の内容とはなり得ない事項であると考えられる。したがって、就業規則にそのような事項が定められていても、それは労働契約を規律するものとはなり得ないというべきである。

f 本件懲戒処分の効力

教諭から常勤又は非常勤の講師への降職は、終身雇用が予定されていた契約からこれを予定しない契約に変更するものであって、社会通念上教諭としての労働契約の内容の変更とみることはとうていできないから、高松校の前記就業規則を根拠に、教諭を常勤又は非常勤の講師に降職する懲戒処分をすることは許されないものというべきである。

※この点は、転籍出向(移籍)の場合も同様です。就業規則の規定を根拠に労働者の同意なく他社に移籍させることはできません。

それでは、この続きは次回に・・・

第15条

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労働契約法の復習 第14条

2015年04月17日 13:45

労働契約法第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

○出向を含む人事異動の意味は何か?

ア 人事異動の意味

 人事異動(配置転換)は労働契約の内容であり、就業規則に規定されていれば、原則的に個別の労働者の同意がなく異動を命ずることが出来ると解されています。

 この人事異動(配転)には、勤務場所の観点で見た場合の、同一事業場内の配置転換、勤務場所の変更を伴う配置転換、また、業務内容の観点からは、職位や職種の変更を伴う配置転換、企業別の観点からは、在籍のまま別法人に配置転換する在籍出向、別法人に移籍してしまう移籍出向(転籍)等があります。

 この労働契約法第14条でいうところの出向とは、いわゆる「在籍出向」を指しています。

イ この配置転換(人事異動)に関する法的な根拠を裁判例で確認してみます。

(ア)裁判例の確認 昭和58年(ワ)1404 神戸地裁判決 川崎重工事件

裁判の概要は、配転を拒否して通常解雇された労働者が解雇無効を訴えたもの

判決は、解雇権の濫用には当たらないとした

判決の理由は、

a 労働者の職務内容(職種)及び勤務場所は労働条件の内容をなすものであるから、当該労働契約で合意した範囲を超えてこれを一方的に変更することはできないが、(就業規則に規定するなどして)労働契約における合意の範囲内と認められる限り、個別的、具体的な同意がなくても配転を命じ得るというべきである

b 会社における従業員の採用方法、原告(労働者)の職種、会社の配転の実情及び就業規則の内容等に前記争いのない会社の規模等を併せ考えると、原告は労働契約において、勤務場所の指定変更について会社に委ねられる旨の合意をしたものというべく、被告は原告の個別的な同意がなくても勤務場所の変更を命じることができるものというべきである

c このことは、住居の移動を伴う遠隔地配転の場合であっても異ならない

もっとも、このような遠隔地配転は、労働者の生活に少なからぬ影響を及ぼすものであるから無制約なものではなく、それが通常受忍すべき範囲を著しく超えるときは信義則違反ないしは人事権の濫用として配転命令が無効となるものと解される

d 被告は原告に、対し個別的同意がなくても配転を命じることができるのであるが、本件配転のように住居の移動を伴う配転は労働者の生活関係に少なからぬ影響を及ぼすから、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合、または業務上の必要が存する場合であっても、当該命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、もしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情のある場合には、人事権の濫用として配転命令が無効となる

(イ)昭和59年(オ)1318 最高裁第二小法定判決 東亜ペイント事件

事件の概要は、神戸から名古屋に転勤を命じられた労働者が転勤命令を拒否し、それを理由として懲戒解雇されたが、転勤命令が権利濫用と訴えたもの

判決は、本件転勤命令は権利濫用にあたらないとした

判決理由は、

a 上告会社の労働協約及び就業規則には、上告会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に上告会社では、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、被上告人は大学卒業資格の営業担当者として上告会社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされてなかったという前記事情の下においては、上告会社は個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである

b 使用者は業務上の必要に応じて、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもない

c 転勤の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に変え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適性配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務力の適性配置、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである

○在籍出向とは何か?

 在籍出向とは、企業間の出向契約に基づき、自社に在籍しながら他社の従業員としての地位も取得し、他社の指揮命令に従って労務の提供を行うものです。在籍出向の場合においても、就業規則等の規定によって、あらかじめ労働者が包括的に承諾している場合には、出向命令に応じる義務があると解されています。実際には、出向契約の内容は様々であり一律に論ずることは難しい面があります。

それでは、通常の配転の場合と同様に、裁判例でその定義や効力の根拠などをみてみます。

ア 裁判例でみる在籍出向

(ア)平成12年(ネ)796 大阪高裁判決 川崎製鉄出向事件

事件の概要は、製鉄会社に勤務していた労働者が出向命令を拒否し、その無効を訴えたもの

判決は、出向命令は有効であるとした

判決理由は、

a 本件出向のように、就業規則や労働協約において、業務上の必要があるときには出向を命ずることができる旨の規定があり、それらを受けて細則を定めた出向協定が存在し、しかも過去十数年にわたって相当数の被控訴人従業員らが出向命令に服しており、さらに控訴人らの属する労働組合による出向了承の機関決定もが存在する場合には、出向を命ずることが当該労働組合との関係において、次のような人事権の濫用に当たると見うる事情がない限り、当該出向は法律上の正当性を具備する有効なものというべきである

b 使用者が出向を命ずる場合は、出向について相当の業務上の必要性がなければならないのはもちろん、出向先の労働条件が通勤事情等をも付随的に考慮して出向先のそれに比べて著しく劣悪なものとなるか否か、対象者の人選が合理性を有し妥当なものであるか否か、出向の際の手続きに関する労使間の協定が遵守されているか否か等の諸点を総合考慮して、出向命令が人事権の濫用に当たると解されるときには、当該出向命令は無効というべきである

(イ)昭和61年(ヨ)2246 東京地裁決定 ダウ・ケミカル日本事件

事件の概要は、同一資本系列の別会社に譲渡された工場への転勤(事実上の出向)命令を拒否し、懲戒解雇された労働者が地位保全の仮処分申請を行ったもの

決定は、労働者の請求を認め「依然として、従業員としての地位がある」とした

決定の理由は、

a 使用者が従業員に対して出向を命ずるには当該従業員の承諾その他これを法律上正当付ける特段の根拠が必要であると解すべきところ、被申請人の就業規則の規定(疎乙第三号証)には出向に関しては何らの定めもしておらず、また、申請人の陳述書(である疎甲第四号)によれば、被申請人の従業員で衣浦工場に勤務変更となった者はいるが、これは採用に際して同工場で勤務することが条件となっていたり、あるいは本人の同意を得た上でのことであって、被申請人の女子従業員で衣浦工場に勤務変更となった先例はなく、申請人が初めてであること、本件配転命令(である疎乙第三二号証)によると、本件配転命令の内容は「本日付をもって。衣浦工場・管理部門(経理・総務)において、秘書として勤務することを命じます。遅くとも、本日24日迄に上記勤務場所に赴任することを命じます。」と記載されているのみで、その他の労働条件については何らの記載がなく、また、本件疎明資料によれば、被申請人から申請人に対し、これら労働条件について書面または口頭によって何らの説明もされていないこと、以上の事実を一応認めることができ、この認定を左右するに足りる疎明はない

b 本件全疎明資料によっても、本件配転命令を他に法律上根拠付ける事実を見出すこともできない

c してみると、本件配転命令はその根拠なくしてなされたものである点において、また、その権利を濫用してなされたものである点においても無効であるというべきであり、これを前提としてなされた本件懲戒解雇は無効というべきである

労働契約法第14条は、過去の裁判で示された、出向命令の根拠やその有効性の判断を明文化したものです。

それでは、この続きは次回に・・・

第14条

 

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労働契約法の復習 第13条

2015年04月17日 13:01

労働契約法第13条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第7条、第10条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

この労働契約法第13条の規定は、既に何度か記述して来ました。ただ、「第7条、第10条及び前条の規定」及び「当該法令又は労働協約の提供を受ける労働者との間の労働契約」については・・・と言い回しが慎重です。この点を以下で考察します。

○第7条、第10条及び前条(第12条)の規定

ア 第7条

  合理的な労働条件を規定する就業規則を周知させていた場合は、労働条件は就業規則の規定による。※ただし、個別の労働契約の労働条件が有利な場合を除く。

イ 第10条

  就業規則を不利益変更する場合において、十分な手続きを経て変更し、変更後の規定が合理的な場合には、変更後の規定を労働条件とする。※ただし、労使間で就業規則の変更によっては、労働条件を変更しないとしていた部分を除く。

ウ 前条(第12条)

 個別の労働契約の労働条件が就業規則の労働条件を下回る場合には、就業規則の規定を労働条件とする。

○当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者

ア 当該法令の適用を受ける労働者

 例えば、パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)はパートタイム労働者以外の労働者には適用されませんし、労働基準法の妊産婦の規定や年少者の規定等は、それ以外の労働者には適用されません。従って、関係法令の規定が必ずしもすべての労働者に適用されるとは限りません。

イ 労働協約の適用を受ける労働者

 労働協約は、非組合員には適用されません。また、複数組合が存在する事業場においては、加入組合ではない労働組合が会社と締結した労働協約の適用はありません。他方で、就業規則は事業場に所属するすべての労働者に適用がありますし、同様に労働基準法に規定がある労使協定は、非加入の過半数組合が協定締結の当事者であっても協定の効力を受けます。そのため、労働契約法第13条の条文は「労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約」についてのみ適用しないとしています。

それでは、続きは次回に・・・

第13条

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労働契約法の復習 第12条

2015年04月17日 10:57

労働契約法第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

 従来、秋北バス事件の裁判において、「所属する労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていと否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるというべきである。」と判示されているところです。(昭和43年最高裁大法廷判決、昭和40年(オ)145)

○就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約

 就業規則と個別の労働契約の優劣の関係(労働契約の労働条件が有利な場合は労働契約の内容を適用する。)は既に記述しました。また、労働協約と就業規則の優劣の関係も同様に記述しました。法令と個別の労働契約、労働協約、就業規則の関係も既に記述しました。ここでは、過半数労働組合が組織されている場合において、実際に就業規則を作成又は変更する際の留意点について考察したいと思います。

就業規則の作成又は変更手順

手順1:労働基準法第89条、その他労働条件を規定した同法の条文を踏まえ、法令違反が無いことを個々の規定ごとにチェックする。

手順2:均等法、パートタイム労働法、最低賃金法、労働安全衛生法等の労働条件を規定した条文に照らし、作成又は変更した就業規則の規定が問題ないかをチェックする。

手順3:作成又は変更した就業規則の規定が、既存の労働協約の同一の規定を下回らない労働条件かどうかを労働組合(複数組合が存する場合にはそれぞれの組合)と協議する。

手順4:労働協約の規定との齟齬がある場合には、労働協約を変更し、又は問題がある就業規則の規定を見直す。

手順5:過半数組合の意見書を添付し所轄の監督署に作成または変更届を行い、同時に労働基準法第106条に従い労働者に周知させるための手続きを行う。

手順6:就業規則の規定に達しない労働条件を定めた個別の労働契約の有無を確認し、もしも存在した場合には、該当する労働者に就業規則の規定が労働条件となる旨説明するか、若しくは、就業規則の規定を下回る部分を修正した新たな労働条件の明示を書面で行う。※この場合、後者を推奨します。

以上は、性善説による就業規則の作成又は変更手順の説明です。

○使用者が就業規則をみせない場合の労働者側の対応策

 労働者が就業規則違反の労働条件の存在について使用者に対し主張を試みても、使用者が就業規則をみせてくれないということが起こり得ます。特に、労働者の退職に伴って既に個別労働紛争に発展している場合には、使用者が労働者の主張の根拠を隠すために、その労働者の要求について不作為または拒否の意思を示すことは容易に想像できます。

 その場合に労働者は、いったいどのような対応策を講じれば良いのでしょうか?

 事業場を管轄する監督署に赴けば、届出てある就業規則がみられると考えがちですが、監督署は届け出られている就業規則を簡単には開示してくれません。※都道府県の労働局に情報開示請求する必要があります。また、就業規則の届出の有無は、その効力と無関係なのは既に記述しました。

 そこで、別の方法をとることになりますが、そもそも使用者は労働基準法第106条により就業規則を労働者に周知する義務を負っていますから、事業場を管轄する労働基準監督書に、労働基準法第104条の規定により使用者の法令違反(労働基準法第106条違反)の申告を行います。この、労働基準法による申告は、警察の被害届のように法令違反(事件)の認知という意味がありますから、監督官は事実確認を法令(労働基準法等)に基づいて行うことになります。もちろん、申告の受理にあたっては事前の労働相談が行われ、相談対象の労働者の主張内容が真実かどうか、十分に事実確認が行われることはもちろんです。その結果、監督官から使用者に対し指導や勧告が行われ、使用者は是正報告を行うこととなります。※この方法でも希望通り100%の結果が得られるかどうか疑問が残ります。

以上が性悪説による説明となります。繰り返しになりますが、労働契約(就業規則、労働協約を含め)に関して最も重要なことは、労使双方の「信義誠実の原則と法令等の遵守義務の履行」(労働基準法第2条第2項、民法第2条第2項)です。初めから、労使ともに、法令無視・契約無視の姿勢では、事業経営はうまく行きません。

労働基準法第2条第2項 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

○就業規則に達しない労働条件は就業規則の規定をもって労働条件とする

 労働契約法第12条の規定により、個別の労働契約の内容に関わらず、労働条件が下回る部分のみ就業規則の規定が労働条件となります。仮に、使用者が就業規則の規定(一例として時給950円)を下回る賃金の支払いを労働者Aの労働条件(一例として時給900円)としていた場合、労働者Aは「毎回の賃金の支払日の翌日から起算して2年間は、その差額分の支払いを利息(法定利息)を付して請求することが可能」です。

この続きは次回に・・・

第12条

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労働契約法の復習 第11条

2015年04月16日 10:13

労働契約法第11条 就業規則の変更の手続きに関しては、労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条及び第90条の定めるところによる。

○労働基準法第89条の確認

労働基準法第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一 始業及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項

三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の時期に関する事項

四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金の定めをする場合においては、これに関する事項

五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

 ここで、上記の第1号から第3号までは、就業規則を作成する場合に必ず記載しなければならない事項(いわゆる絶対的記載事項)であり、第3号の2から第9号までは、定めをする場合に限り記載する事項(相対的記載事項)となっています。また、一部の労働者ごとに適用条件が異なる場合には、その労働条件が異なる労働者ごとに規定を変えて記載するか、労働条件が異なる労働者ごとに別規程として定める必要があります。この場合、例えば正社員用の就業規則のみ作成・届出を行っており、パート労働者の労働条件は個別の労働契約で定めていた場合には、パート労働者にも正社員の労働条件(就業規則による有利な労働条件)が適用されることが起こります。このことは、労働契約法第7条のところで既に確認しました。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場の定義についても既に記述していますが、「一時的に10人を下回っても、通年で10人以上の事業場のこと」であり、この場合には、アルバイト等の臨時労働者や事業場の責任者等の管理監督者もこの人数に加算します。」

○就業規則に記載する事項の号別確認

ア 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項

 始業・終業時刻とは、所定労働時間の開始時刻と終了時刻を定めるということですが、「毎月定める勤務表による」等の定めをすることも可能です。特に、早番、中番、遅番、準夜勤、夜勤等々の勤務シフトにより24時間体制で交替勤務する事業場(病院の看護師等)では、個人ごとに、また特定日ごとに将来の勤務内容が特定されていればよい訳です。また、勤務が日付をまたぐ様な場合には、始業時刻の属する日の一の勤務として取り扱われます。

 休憩時間については、少なくとも労働基準法第34条の実働6時間以上で45分以上、8時間を超える実働で60分以上の規定を設ける必要があります。この休憩は、例えば12:00から12:45を休憩時間とする等の規定が好ましいですが、就労時間中に交替で45分の休憩を与える等の規定でも差し支えありません。また、休憩は勤務時間の途中であれば、分割して与えることも可能ですから、その様な規定もできます。

 休日は、労働基準法第35条により、「毎週1日以上若しくは4週4日以上の休日」を与える旨の規定が必要です。ここで、週とは就業規則に起算曜日を定める場合(毎週月曜から日曜日等)にはその規定に従い、特段の定めをしない場合には、暦週(毎週日曜日から土曜日)をもって1週間とします。また、4週4日以上の休日の定めをする場合にも、その起算日を特定する必要があります。さらに、休日は、土曜日・日曜日・祝祭日とは無関係であり、就業規則で定められる特定日がその事業場の休日となります。

 蛇足ですが、休日とは「労務の提供義務が免除される日」のことです。また、休日とは原則暦日(午前零時から午後24時までの24時間)のことであり、一部の例外を除いて単なる24時間は、休日として取り扱われません。夜勤明けの日などの取り扱いの際に留意が必要です。

 休暇は、労働基準法に規定される、年次有給休暇(労働基準法第39条)や産前産後の休暇(労働基準法第64条第1項)、育児介護休業等の法令の定めによる休暇を含め、忌引きや結婚休暇等の会社独自の慶弔休暇等、事業場の労働者に適用するすべての休暇を定める必要があります。ところで、休暇を有給にするか無給にするかについては、年次有給休暇等の法令に定めがある場合を除き、就業規則に定める規定内容によります。もちろん、従来有給としていた生理休暇を無給とする旨の規定変更を行えば、不利益変更に該当しますので留意が必要です。

 休暇とは、本来労働日である日について、労働者の請求等により労働義務を免除する日のことです。したがって、年次有給休暇を休日に取得することは出来ない訳ですが、この点を誤解している場合もまれに見受けられます。

 就業時転換に関する事項とは、工場などで24時間操業を行う際に、業務に支障が起きないように、手順・引継ぎ等について、定めをするものです。

イ 臨時の賃金を除く賃金の決定、計算、支払いの方法、賃金の締め切り、支払いの方法

 賃金の支払いについては、労働基準法第24条、第25条、第26条、第28条等に規定があります。ここでは、同法第24条を見てみます。

労働基準法第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を決めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。 

a 臨時の賃金とは何か?

 労働基準法施行規則第8条 法第24条第2項但し書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。

一 一箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当

二 一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当

三 一箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当

b 賃金の決定、計算、支払いの方法

 賃金の決定・計算方法は、時給、日給、週給、月給、年俸、歩合等様々あります。いずれの方法をとっても、1時間当たりの賃金単価が最低賃金を下回る定めをすることはできませんし、実際の支払額が最低賃金を下回ってもいけません。賃金の計算方法は、時間外労働分や深夜労働分及び休日出勤分の割り増し賃金、その他法令の規定を最低基準として定める必要があります。年次有給休暇を取得した際の賃金等、賃金の支払いが生じるすべての場合をもれなく規定します。また、賃金の支払いの方法は、原則、通貨で直接労働者にその全額を手渡しで支払う必要があります。しかし、現在は労働者の指定する労働者本人名義の口座に振り込む方法で支払う方法が一般的です。賃金の支払を振込み等の方法で行うことは、労働基準法施行規則第7条の2に規定がありますが、労働者の同意が前提となっています。ところで、賃金を支払う際に、振り込み手数料を控除したり、制服代金、昼食代金その他の費用を当然に賃金から控除することは出来ません。労働基準法第24条に規定する労使協定の締結によって可能となります。この協定は、監督署への届出義務がありませんが労働基準法第106条の規定により労働者に周知することが必要ですし、きちんと保管する義務(同法109条)があります。

 この項目では、家族手当、通勤手当等の支払いをする場合にも規定が必要です。

 ところで、労働基準法第24条但し書の労使協定を締結すれば、制限なく賃金控除が出来る訳ではありません。現物給付の脱法措置としての賃金控除(製品等の労働者への販売代金控除)や一賃金支払い時期の賃金額の75%以上の額の控除はできない(民法第510条及び民事執行法第52条)こととなっています。

c 賃金の締切り、支払いの時期、昇給に関する事項

 賃金の締切りは、労働基準法第24条第2項の毎月払いの規定により、毎週土曜日、毎月20日等少なくとも1ヶ月以内の期間内で定める必要があります。また、支払いの時期についても、締切り時期と関連して、毎月1回以上の特定の日を定める必要があります。この支払い日については、例えば「毎月第3月曜日等」の規定による場合は、その月により支払日が変化するため、同法24条第2項の一定期日に該当しないとされています。一方、昇給に関する規定は、昇給期間、昇給額又は昇給額の決定方法、若しくは昇給なし等の規定をすることとなっています。

ウ 退職に関する事項

 退職に関する事項は、契約期間満了による退職、解雇する場合はその理由手続き、労働者の申請による合意退職の手続き等を定める必要があります。また、定年退職の場合、休職期間満了の場合、その他労働契約が終了する際の全てのケースを想定して規定しておく必要があります。

エ 退職手当の定めをする場合の適用労働者、退職金の額の決定・計算・支払いの時期

 退職金は、法律上当然に使用者に支払い義務があるものではありません。退職金規程等就業規則に定めをした場合にはじめて、それが労働契約の内容となり、使用者に支払い義務が生じます。退職金についても、過去に裁判で数多く争われていますので、退職金を支給する場合には、あいまいな点を排除した規定を設ける必要があります。

オ 臨時の賃金等及び最低賃金額の定め

 臨時の賃金とは、先の精勤手当等(労働基準法施行規則第8条)及び賞与の規定であり、これも退職金と同様に使用者に法令で支払いを義務付けていませんが、支払いをする場合には就業規則に規定する必要があります。他方、最低賃金額の定めはあまり一般的ではありません。

カ 食費、作業用品、その他の実費負担

 会社の制服は、貸し出しの場合と買取の場合がありますが、労働者に負担させる場合には、規定が必要です。ただし、一般に業務に付随して使用する備品、工具、消耗品、設備等については、全額使用者側で負担すべきものと思います。それらは、売り上げ原価に相当する部分ですし、使用者側に報償責任があり危険負担をすべき立場にあるからです。※生産工場等で、不良品を出した労働者に対して、その不良品分の原価分の賃金を控除する等は出来ない訳です。他方で、食事の提供までも使用者に義務付けがありませんから、労働者に会社の用意した食事代金の支払いを求めることは当然のことです。そこで、食事代金分の控除をする場合にも就業規則に規定が必要です。

キ 安全・衛生に関する規定

 危険な機械や特に衛生面で留意が必要な業務(弁当の製造など)は勿論、その他の事業についても作業面でのマニュアルを作成することが一般的です。施設管理、防災、その他の緊急事態、通常の作業時の安産管理等様々な規程類の作成が行われます。

ク 職業訓練に関する規定 

 労働安全衛生法では、雇い入れ時の教育や職長教育(同法第59条、第60条)を義務付けています。また、同法第60条の2には、総合的な安全衛生教育をするように定めています(努力義務)。定期的な職業訓練の実施と就業規則への規定が必要となります。

ケ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定め

 労働者災害保険法の災害補償の規定により、労働基準法の使用者の補償義務の免責については、すでに記述しました。ここでいう、災害補償に関する規定は、労災保険等の規定を上回る補償を定める場合や、休日等に怪我した際の治療費などの支給規定を指しています。

コ 表彰および制裁の定め(種類及び程度)

 表彰の定めは、使用者が労働者の際立った成績、功績、その他の特筆すべき点を処遇するもので、ルールとして決めておく場合には、就業規則に規定します。問題は、制裁の定めです。就業規則の懲戒規定においても刑法の法理が適用され、「罪刑法定主義」「不遡及の原則」「一事不再理」等の原則が重視されます。また、実際の運用に際しては、行為と処分の均衡や他者の類似の行為に対する処分との均衡等が求められます。

サ 労働者のすべてに適用される事項

 旅費に関する事項、休職に関する事項、社内預金規程、保養所の利用に関する規定等の労働者のすべてに関わる可能性がある規定も、本号により定めをすることとなっています。

○労働基準法第90条の確認

労働基準法第90条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。

2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

 就業規則の作成又は変更時の手続きについては、すでに述べた通りです。ここでは、就業規則の届出等に関し過去に争いとなった裁判例をみてみます。

ア 昭和39年(ネ)846 大阪高裁判決 コクヨ事件(ユニオンショップによる解雇)

事件の概要は、ユニオンショップにより解雇された労働者が、就業規則中にユニオンショップによる解雇は就業規則に定めがなく、無効であると主張したもの

判決は、ユニオンショップに基づく解雇が就業規則に定められていない場合においても、就業規則の面でこれを制限したものとみるべきではない

判決の理由は、

a 労働基準法第89条には使用者が就業規則を作成しまたはこれを変更した場合には当該行政官庁に届け出るべき旨が規定せられているけれども、右届出手続の履践は作成または変更にかかる就業規則の効力発生要件をなすものではない

b 使用者においてその事業場の多数の労働者に共通な就業に関する規則を定めこれを就業規則として表示した従業員一般をしてその存在および内容を周知せしめ得るに足る相当な方法を講じた時は、その時において就業規則として妥当し関係当事者を一般的に拘束する効力を生ずるに至るものと解せられる

c 本件解雇基準を定めた現行規定の部分は遅くとも昭和37年2月末日までには就業規則としての効力をもって実施せられていたものと認められる

d ユニオンショップ協定(労働者を採用するに当たっては、労働組合に加入することを条件とし、労働組合を脱退し、若しくは除名された労働者を解雇する旨を定めた過半数労働組合と会社との契約)に基づく解雇基準の設定は、労働組合対使用者という集団的な関係の中において、どちらかといえば組合の組織維持のために結ばれるものであって、本来使用者がその事業経営上だけの立場から一方的に定める就業規則とはおのずから定立の面を異にする

e ユニオンショップ協定と就業規則の両者は直接には相関連するところがなく、いわばユニオンショップ条項は就業規則の規定の枠外で認められる問題であるから、ユニオンショップに基づく解雇が就業規則に定められていない場合においても、就業規則の面でこれを制限したものとみるべきでない

イ 昭和37年(ワ)453 岡山地裁判決 片山工業事件(就業規則の規定に基づく解雇)

事件の概要は、懲戒解雇された労働者が、労働基準法所定の手続の上で不備があるとして就業規則の無効、引いては解雇無効を主張したもの(労働者の時間外労働命令の不服従)

判決は、労働者の請求を容認した

判決の理由は

a 労働基準法第90条第1項の趣旨は、就業規則の制定・変更や内容の決定を使用者の欲するままに放置するときは、劣悪な労働条件と過酷な制裁が課せられる危険があるところから、服務規律その他の労働条件の決定および経営権の行使について労働者に意見を表明する機会を与えて使用者の専恣(センシ、ほしいままにすること)を防止するとともに、労働者の労働条件に対する関心をたかめて組合運動をつうじての労働条件の協約化を指向するにあるものというべきである

b 労働基準法が労働条件の対等決定(同法2条1項)、労使双方による労働条件の向上の努力(第1条第2項)を要望している点をも考え合わせると、就業規則の制定・変更についての労働者の意見の表現はきわめて重要な意味をもつものといわなければならない

c 同法第90条第1項は単なる行政上の取締規定と解すべきではなく、使用者が一方的に制定・変更する就業規則が労働者をも拘束する法的規範としての効力を発生するための有効要件を規定したものと解するのが相当である※就業規則の届けでの有無は、就業規則の規定の合理性判断の一つとされています。

d 労働基準法は使用者が就業規則を作成し、変更したときは、行政官庁に届け出るべきこと(同法第89条第1項)および右届出には、労働者の意見を記した書面を添付すべきこと(同法90条2項)を定めているけれども、就業規則は使用者が労働者の意見を聴いて作成し、後記説示のようにこれを労働者に周知させたときに効力を生ずるものと解すべきである

e 就業規則の届けでは、国の労働問題に対する後見的機能を遂行する必要上要請される性質のものであるから、右届出義務を定めた前記の規定は、取締規定にとどまり、これを欠いても就業規則の効力には影響のないものと解すべきである

f 労働基準法は、就業規則の効力発生の手続(法律でいうと公布にあたるもの)について明文の規定を設けていないが、就業規則が労働者を拘束する法的規範としての効力を持つ以上は、それが労働者に周知されなければならないことは条理上当然のことであって、労働者に周知されなていない就業規則は右の様な効力を発生するに由ない(ヨシナイ)ものといわなければならない

g 就業規則の周知の方法は、労働基準法に定められていない(同法106条の周知義務は、直接これを定めたものと解することはできない)のであるから、実質的に労働者に周知させるに足りるだけの方法をとれば足り、必ずしも労働基準法第106条所定の周知方法によらなければならないものではない

h 懲戒事由および懲戒手続について就業規則に定めるところがある場合にはひとたび定立された就業規則は客観的な法規範として使用者労働者双方を拘束するにいたるものであるから、使用者は自らその有する懲戒権の行使を就業規則所定の範囲に制限したものというべく、したがって就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する事実がなければ有効に解雇することができないというべきである

 労働契約法第16条においては、「解雇が合理的な理由を欠き、社会通念上相当」でなければ無効であるとしています。罪刑法定主義に基づき、就業規則における懲戒解雇事由の規定が合理的であり、又は普通解雇事由の規定が合理的であり、且つ労働者がそれらの解雇事由に相当する行いをした場合には、解雇の理由が合理的であると判断されることとなります。

それでは、続きはまた次回に・・・

第11条

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労働契約法の復習 第10条

2015年04月15日 15:14

労働契約法第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

○就業規則の変更により労働条件を包括的・一括的に変更する場合の要件

 就業規則の変更により労働条件を変更する場合の考え方は、既に記述したとおりですが、特に不利益に変更する場合には、幾つもの要件が必要とされます。そこで、労働契約法第10条の内容を厚生労働省の通達により、詳しくみてみたいと思います。

平成19年12月5日 発基第1205001号 抜粋

法第10条の内容

ア 法第10条は、「就業規則の変更」という方法によって「労働条件を変更する場合」において、使用者が「変更後の就業規則を労働者に周知させ」たこと及び「就業規則の変更」が「合理的なものである」ことという要件を満たした場合に、労働契約の変更についての「合意の原則」の例外として、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる」という法的効果が生じることを規定したものであること。

イ 法第10条は、就業規則の変更による労働条件の変更が労働者の不利益となる場合に適用されるものであること。

 なお、就業規則に定められている事項であっても、労働条件でないものについては、法第10条は適用されないものであること。

ウ 法第10条の「就業規則の変更」には、就業規則の中にある現に存在する条項を改廃することのほか、条項を新設することも含まれるものであること。

エ 法第10条の「就業規則」及び「周知」については、2(2)イ(エ)及び(オ)と同様であること。

オ 法第10条本文の合理性判断の考慮要素 (一部省略)

 第四銀行裁判(最高裁判決)の合理性判断の基準

①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度

②使用者側の変更の必要性の内容・程度

③変更後の就業規則の内容自体の相当性

➃代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況

⑤労働組合等との交渉の経緯

⑥他の労働組合又は他の従業員の対応

⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況

という7つの考慮要素が列挙されているが、これらの中には内容的に互いに関連し合うものもあるため、法第10条本文では、関連するものについては統合して列挙しているものであること。 (一部略)

カ 就業規則の変更が法第10条本文の「合理的」なものであるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、従来どおり、使用者側が負うものであること。

キ 法第10条本文の「当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」という法的効果が生じるのは、同条本文の要件を満たした時点であり、通常は就業規則の変更が合理的なものであることを前提に、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたことが客観的に認められる時点であること。

ク 法第10条ただし書の「就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、同条ただし書により、法第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものであること。

ケ なお、法第7条ただし書の「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」については、将来的な労働条件について

①就業規則の変更により変更することを許容するもの

②就業規則の変更ではなく個別の合意により変更することとするもの

のいずれもがあり得るものあり、①の場合には法第10条本文が適用され、②の場合には同条ただし書が適用されるものであること。

 ここで、留意すべき点としては、ある就業規則の変更規定が労働者Aについては有利に改正されており、他方で労働者Bに関しては不利益に変更されているケースが起こり得ることです。いずれにしても、上記オの7つの要件を満たすことで、変更後の就業規則の合理性を証明できる訳です。

それでは、この続きは次回に・・・

第10条

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労働契約法の復習 第9条

2015年04月15日 11:11

労働契約法第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りではない。

○就業規則の性質について

 就業規則の定義及び就業規則が労働者の認知及び承認なく、事業場に所属する労働者、ひいては企業全体の労働者に適用される労働条件となるのかどうかについては、すでに記述しました。また、就業規則を変更する場合に、所属する労働者の一定の同意を得て、不利益変更を行う必要があることも、前条の説明で記述しました。

 そこで、就業規則に対する基本的な考え方を示した、有名な「秋北バス事件」裁判例(昭和40年(オ)145)から判決文を拾ってみます。

a 多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定される

b 労働者は、経営主体が定める契約内容の定型(就業規則)に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情である

c この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている

d 就業規則は、当該事業場内での社会規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的の同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用をうける

e 新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきである

f 就業規則の不利益変更は原則許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質かからいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない

g 就業規則の新設および変更に対する不服は、団体交渉等の正当な手続きによる改善にまつほかはない

 このように、就業規則の性質として、法規範を有すること、労働条件を統一的かつ画一的に集合処理したものであること、個々の労働者がその内容に同意するか否かを問わず、その規定が合理的なものであるかぎり、すべての労働者に適用されること等が挙げられます。

○就業規則の周知について

労働基準法第106条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第18条第2項、第24条第1項ただし書、第32条の2第1項、第32条の3、第32条の4第1項、第32条の5第1項、、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第37条第3項、第38条の2第2項、第38条の3第1項並びに第39条第4項、第6項及び第7項ただし書に規定する協定並びに第38条の4第1項及び第5項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知さなければならない。

※就業規則は、労働基準法第106条の規定により、使用者に周知義務があり、違反した場合には30万円以下の罰金に処せられる(労働基準法第120条)場合があります。

就業規則の新規作成又は変更時の規定の効力発生要件は、労働者に周知することとされています。これは、過去の裁判例で確認できますが、すでに記述したとおり労働契約法第7条でも規定されています。

○就業規則の効力発生に関する裁判例

ア 平成9年(ワ)6244 大阪地裁判決 関西定温運輸事件

事件の概要は、定年制の新設(変更)を新たに、設けた就業規則の変更の効力が争われたもの

判決は、旧就業規則の50歳定年制は、従業員になにも周知していなかったため無効であり、また新たに55歳の定年制を定めた就業規則も規定に合理性がないから無効であるとされた

判決理由は、旧定年制は、従業員に対して全く周知がされなかったものであり、かつ、実際にも定められた定年制を前提とする運用は行われていなかったというべきであるから、旧規則による定年の定めはその効力を認めることができないとされました。

イ 昭和29年(ヨ)4033 東京地裁決定 三田精機事件

事件の概要は、変更が届けられた就業規則の定年制によって退職扱いとされた女子従業員が、就業規則の周知性を欠くから無効である旨主張したもの

判断は、周知を欠くため当該就業規則が有効に存在しなかったとされたもの

判断理由は、元来就業規則は従業員に周知させ又は公示等の手段により従業員の周知し得る状態におかれることによって始めてその効力を発生するものと解するのが相当である、としています。

○就業規則作成及び変更時の手続き、その他の問題点について

ア 意見書を書いてもらう当事者

 意見書を書いてもらう当事者は、①その事業場に所属する労働者の過半数が加入する労働組合がある場合には、その労働組合、②前記①の労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者を正当な方法で選定し、意見を書いてもらうこととなります。

 そこで、意見書を書いてもらう当事者として要件を書く場合として次のようなケースが考えられます。

a 会社全体としては、過半数が加入しているが、その事業場については、過半数に満たない労働者が加入している労働組合は当事者の要件を欠きます

b パート労働者対象の就業規則を作成又は変更する場合で、パート労働者の代表者の意見を聞いたが、パート以外の労働者を加えるとパート労働者が半数以下の場合は、その要件を欠きます※ただし、パートタイム労働法では、労働基準法の要件を満たすか否かにかかわらず、パートタイム労働者の代表者の意見を聞くように、促しています。

c 過半数労働者の代表者が労働基準法に規定する監督又は管理の地位にある場合は要件を欠きます※ただし、事業場全体が監督又は管理の地位にある者のみで構成される場合を除きます

d 過半数労働者の代表者を選出する場合には、上記cの監督又は管理の地位にある者を含めた総労働者数の過半数を代表する者である必要があります

e 過半数労働者の代表者を選出する際には、就業規則の意見書を作成する旨を明らかにして実施される投票、挙手等の方法による必要があり、使用者が指名した者は不適格となります

イ 就業規則の遡及適用は可能か?

 もちろん、遡及適用はできません。刑罰の不遡及適用の原則は、不利益不遡及の原則としてすべての規範について妥当する原則(採用から退職までの法律知識、安西愈先生著から引用)です。

それでは、続きは次回に・・・

第9条

 

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労働契約法の復習 第8条

2015年04月14日 10:40

労働契約法第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

○契約変更とは何か?

 一般に、契約の変更とは、従前の契約を解除するとともに契約条件の異なる新たな契約を締結することに他なりません。売買契約の様に、契約当事者が債務履行を同時に行えば直ちに契約が履行されて完了する場合を除き、契約の効力が継続する場合においては、契約の解除または満了までの間は、同一の契約条件を契約当事者が遵守すべきことは当然です。一例では、不動産の賃貸契約があります。駐車場を月額7000円で地主から借りている場合に、地主が契約途中において月々の賃料を一方的に8500円に変更することは、もちろん出来ない訳です。ただし、月額7000円の賃料を地主が一方的に6500円に変更することは、借主の黙示の同意や追認を得られやすいものと思いますが、この場合でも借主が明確に契約変更に不同意の意思表示を貸主に行えば、契約変更は出来ません。

○労働条件の変更について

 契約の一般論は、前述の通りですが、労働契約の成立要件を振り返ってみると、労働契約法第6条で「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意すること」のみによって成立しますから、賃金が時給950円から930円に使用者の一方的な宣言により変更されても、労働契約自体の効力を左右しません。しかし、過去においては、使用者側の労働条件の一方的な不利益変更について数多くの裁判で争われており、不利益変更が無効である若しくは、一定の手続きを経れば有効である等の判断がなされています。

 就業規則は、使用者が一方的に変更し得るものであり、その変更の届出の際に添付される労働者代表者等の意見は、就業規則の変更の効力を左右しません。

 もとより、労働契約は短期の臨時的な有期契約の場合を除き、労使ともに長期に渡り契約を継続することを前提にしています。ただ、労働基準法の有期契約の期間の上限(原則3年以下、例外5年以下)の設定は、むしろ、「長期労働契約による人身拘束弊害を排除するため(労働基準法上より引用)」に、上限が設定されているものです。

 労働契約法においては、労働基準法の概念とは逆に、使用者は「必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。」として、細切れの労働契約の反復継続をすべきないとしています。必要がないのに「雇い止めにより事実上の解雇を行える契約条件」を設定し、いざとなれば契約更新を行わない状況を排除すべきものとしています。これは、とりもなおさず、労働者の生活の安定を損なうからです。

○労働契約の変更時の裁判例

 それでは、労働条件の変更に際して、過去にどのような労使間の争いがあったのかを裁判例でみてみます。実は、過去のいくつかの裁判例が改正後の新労働契約法に反映されていますので、今後の条文解説の際に再度記述することになるかと思います。ところで、一般に労働条件の変更は就業規則の変更により、事業場全体(引いては企業全体)に適用する集団的労働条件の変更という形で行われます。法改正に伴い、若しくは経営状況の悪化に伴い、就業規則を変更することで適正な経営状況に変更しようと試みる事例が多く、理由を問わず不利益を被った労働者側の訴えで裁判が多く行われて来ました。

1 使用者の就業規則の変更が認められたケース

ア 大曲市農協事件 昭和60年(オ)104 最高裁小法廷判決

事件の概要は、農協の合併に伴い、退職金規程が変更され受け取る退職金が減額されたため、退職労働者が退職金規程変更の無効を訴え、退職金の差額支給を求めたもの

判決は、新規程への変更によって被上告人(退職労働者)らが被った不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、本件における新規程への変更は、それによって被上告人らが被った不利益を考慮しても、なお上告組合の労働関係においてその法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものといわなければならないとしています。

判決理由は、

a 新たな就業規則の作成又は変更によって、既存の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきである

b 労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画期的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない

c 就業規則が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される

d 特に、賃金、退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである

e 本件では、新規程への変更によって被上告人(退職労働者)らの退職金の支給倍率自体は低減されているものの、反面、被上告人らの給与額は、本件合併に伴う給与調整等により、合併の際延長された定年退職時までに通常の昇給分を超えて相当程度増額されているのであるから、実際の退職時の基本俸額に所定の支給率を乗じて算定される退職金額としては、支給倍率の減額による見かけほど低下しておらず、金銭的に評価しうる不利益は、本訴における被上告人らの前記各請求額よりもはるかに低額のものであることは明らかであり、新規程への変更によって被上告人らが被った実質的な不利益は、仮にあるとしても、決して原判決がいうほど大きなものではない

f 一般に、従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合併した場合に、労働条件の統一的画的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高いことはいうまでもない

g 本件合併に際しても、右のような労働条件の格差是正措置をとることが不可欠の急務となり、その調整について折衝を重ねてきたにもかかわらず、合併期日までにそれを実現することができなかった事実がある

h 本件合併に際してその格差を是正しないまま放置するならば、合併後の上告組合に人事管理等の面で著しい支障が生ずることは見やすい道理である

以上のように、本件では、就業規則(退職金規程)の不利益変更を認め、労働者側の請求を認めませんでした。

イ 第四銀行事件 平成4年(オ)2122 最高裁第二小法廷判決

事件の概要は、法改正により定年延長(55歳から60歳)を行うにともない、従来58歳まで勤務すれば得られた筈の賃金を60歳まで勤務しなければ得られなくなる等の不利益を被ったとして、就業規則の不利益変更の効力を争ったもの

判決は、本件定年制導入に伴う就業規則の変更は、上告人(労働者)に対しても効力を生ずるとした

判決の理由は、

a 就業規則の不利益変更が合理的で有効とされる要件は、上記アのa~dの通り

b 加えて、合理性の判断基準としては、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである

c 定年延長に伴う人件費の増大、人事の停滞等を抑えることは経営上必要なことと言わざるを得ず、特に被上告人においては、中高年齢層行員の比率が地方銀行の平均よりも高く、今後更に高齢化が進み、役職不足も拡大する見通しである反面、経営効率及び収益力が十分とはいえない状況にあったというのであるから、従前の定年である55歳以降の賃金水準等を見直し、これを変更する必要性も高度なものであったということができる

d 円滑な定年延長の導入を抜本的に改めることとせず、従前の定年である55歳以降の労働条件のみを修正したことも、やむを得ないところといえる

e 従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえない上、変更後の就業規則に基づく55歳以降の労働条件の内容は、55歳定年を60歳に延長した多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様であって、その賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高いものである

f 定年が55歳から60歳まで延長されたことは、女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては、明らかな労働条件の改善であり、健康上支障のない男子行員にとっても、58歳よりも2年定年が延長され、健康上多少問題が生じても、60歳まで安定した雇用が確保されるという利益は、決して小さいものではない

g 本件就業規則の変更は、行員の約90パーセントで組織されている組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであるあら、変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができ、また、その内容が統一的かつ画一的に処理すべき労働条件に係るものであるこを考え合わせると、被上告人において就業規則による一体的な変更を図ることの必要性及び相当性を肯定することができる

2 就業規則の不利益変更が認められなかったケース

ア キョーイクソフト事件 平成14年(ネ)3909 東京高裁判決

事件の概要は、就業規則の変更に伴い、変更に同意しない労働者らが、賃金の差額分の支払いを求めたもの

判決は、代替措置が不十分であること、組合及び労働者(被控訴人)らとの交渉の経緯も会社が変更後の賃金規程を一方的に説明したものであること、本件の不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであると認められないこと、以上から会社の控訴を退けたもの

判決の理由は、

a 本件就業規則(賃金規程)改定は、賃金制度を年功序列型から業績重視型に改め、従業員間の賃金格差を是正することを目的としたものであり、その経営上の必要性があったことを否定することまではできない

b 本件改定の内容は、賃金を高年齢層から低年齢層に再配分するものであり、被上告人らを含む高年齢層にのみ不利益を強いるものとなっており、総賃金コストの削減を図ったものではない上、これにより被控訴人らの被る賃金面における不利益の程度は重大である

c 控訴人会社の未集金は回収不能であり、控訴人会社は経営危機にあったと主張するが、本件就業規則改定の内容は、いわば高年齢層の犠牲において賃金を高年齢層から低年齢層に再配分するものであり、総賃金コストの削減を図ったものではないこと

以上により、賃金規程の変更に合理性がないと判断され、会社側が敗訴した事件です。

イ 岡部製作所事件 平成17年(ワ)7960 東京地裁判決

事件の概要は、営業開発部長に対する賃金減額の正当性他が争われた事件

判決は、会社が賃金減額について問責に対する法的あるいは就業規則等の規定上の根拠を示してしないこと、経営状況を理由とする場合も、経営上必要であったこと及び原告を除く他の従業員全員が同意・了承してたとするのみで、その同意・了承も証拠上確認のすべが示されていないことから、減額前賃金との差額の支払いを命じた

判決の理由は、

a 平成14年10月25日支給分である同年10月分の給与以降、被告が減額支給した原告の給与は、いずれも原告の同意なしに減額支給されていることが認められる

b 減額理由としては、業務上の問責を理由とするが被告による原告の給与に対する減額の法的あるいは就業規則などの規定上の根拠が示されていないものといわなければならない

c 被告の青梅工場の経営状況を理由とした場合にも、原告の給与減額は会社である被告との労働契約内容の変更であるから被告が一方的に労働条件を変更することのできる根拠が示されなければらないこと

※労働者の明確な承諾があれば、就業規則や労働協約の規定の範囲内で個別労働者の賃金の減額が可能です。また、この点は十分に注意深く判断する必要がありますが、労働者の明白な意思表示(賃金の受領放棄)があれば、民事上の賃金不払いは免責されます。

d 原告以外の全員が減額について同意・了承していたとするが、その点の証拠上の確認のすべが示されておらず、仮にそうだとしても、原告以外の全員が同意・了承することで、法的に有効な原告の賃金減額ができる訳ではないこと

 ※就業規則の合理的な変更や過半数労働者との労使協定、若しくは労働協約といった、集団的な労働条件変更法理による一般的拘束力には当たらないと判断しています。

ウ みちのく銀行事件 平成8年(オ)1677 最高裁第一小法廷判決

事件の概要は、就業規則(給与規定及び役職制度運用規程)の変更により、55歳以上の管理職及監督職階にあった労働者が、新設の専任職への辞令の無効と、従前の地位で計算した賃金額との差額の支払いを求めたもの

判決は、諸事情を勘案しても、就業規則の変更に同意しない上告人ら(労働者)に対し、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な理由がなく、本件就業規則の変更の内、賃金減額の効果を有する部分は、上告人らにその効力を及ぼすことができないとしています

判決の理由は、

a 変更後の就業規則により、行員の分類に専任職行員を、職階に専任職階を加え、専任職階の役職として参事、副参事及び主査を新設する、55歳以上の行員の基本給を55歳到達直前の額で凍結する、55歳に到達した管理職階の者は、原則として専任職階とする、専任職階の賃金は発令直前の基本給に諸手当(管理職手当及び役職手当を除き、専任職手当を加える。)を加えたものとするなどという専任職制度の創設を提案し、従組に対しても同様の提案をした

b 労組は前記提案を応諾し、従組は反対の立場を維持したままで、銀行は従組の同意がないまま、本件就業規則の変更を行ったが、変更後の役職制度運用規程によれば、専任職階とは、「所属長が指示する特定の業務又は専任的業務を遂行することを主要業務内容とする職位」とされていた

c 企業においては、社会情勢や当該企業を取り巻く経営環境等の変化に伴い、企業体質の改善や経営の一層の効率化、合理化をする必要に迫られ、その結果、賃金の低下を含む労働条件の変更をせざるを得ない事態となることがあることはいうまでもなく、そのような就業規則の変更も、やむを得ない合理的なものとしてその効力を認めるべきときもあり得るところである

d 特に、当該企業の存在自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況にあるときは、労働条件の変更による人件費抑制の要請が極度に高いうえ、労働者の被る不利益という観点からみても、失業したときのことを思えばなお受忍すべきものと判断せざるを得ないことがある

e 本件では、本件就業規則等変更を行う経営上の高度の必要性が認められるとはいっても、賃金体系の変更は、中堅層の労働条件の改善をする代わり55歳以降の賃金水準を大幅に引き下げたものであって、差し迫った必要性に基づく総賃金コストの大幅な削減を図ったものなどではない

f 本件就業規則等変更は、それによる賃金に対する影響の面からみれば、上告人ら(労働者)のような高年齢の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、変更に同意しない上告人らに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない

g 従って、本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、上告人らにその効力を及ぼすことができない

※就業規則の改定規定は有効であるが、改定部分のうち上告人らの賃金減額の部分のみ、無効であるとしています。つまり、就業規則改定が有利にはたらく行員も存在するため、このような判断となったと思われます。

それでは、続きはまた次回に・・・

第8条

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労働契約法の復習 第7条

2015年04月13日 14:36

労働契約法第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

参考:労働契約法第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

○就業規則とは何か?

 ア 就業規則の定義 

 就業規則とは、「労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称」であるとされています。※株式会社労働行政発行、労働基準法下より引用

 そして、労働基準法第89条の規定により、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則の作成及び届出義務」を負っています。国民や国内の法人、その他国内の基本ルールを定めたものが、憲法、法令、条例等となりますが、事業所単位のルールを法令等に反しない範囲で定めたものが就業規則です。また、賃金規程、安全規程、施設内規則その他、名称の如何を問わず「労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目」が定められていれば、労働基準法上の就業規則に該当します。なお、労働契約法の就業規則には、労働契約法第89条の場合に限らず、常時10人未満の事業所が作成する就業規則に準ずるものを含みます。

イ 就業規則と個別の労働契約、労働協約、法令の関係

 まず、法令に反する、労働契約、就業規則、労働協約は、その反する部分は無効となり、法令の規定に従うこととなります。このことは、例えば労働基準法第1条、第13条において、明文化されています。

 労働基準法第1条第2項 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 労働基準法第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。

参考:最低賃金法第4条第2項 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者の間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。

 ※労働契約、就業規則、労働協約の規定が法令の規定を下回ってはならないことは当然のことかと思います

次に、就業規則と労働契約、労働協約の関係をみてみます。

 就業規則の規定は、個別の労働契約の規定に優先します。従って、就業規則に短期アルバイトの時給が850円と規定されているにもかかわらず、労働者Aと時給800円の労働契約を締結しても、労働契約法第12条の規定により就業規則の規定(時給850円)が労働者Aの労働条件となります。ただし、労働者Bと時給900円の労働契約を締結した場合には、労働契約法第7条の規定により、就業規則の規定にかかわらず時給900円が労働者Bの労働条件となります。

 就業規則の規定と労働協約の関係をみてみますと、この場合は労働協約の規定が優先して適用されます。そして、労働協約の規定よりも就業規則の規定が労働者に有利である場合についても労働協約の規定が優先されます。

この点は、労働基準法第92条に規定されています。

労働基準法第92条 就業規則は法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。行政官庁は、法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる。

以下に、この点の裁判例をみてみます。

平成13年(ワ)439 神戸地裁判決

事件の概要は、運送会社に勤務している労働者及び退職労働者が、計5回の一時金支給につき、格差支給を受けたことにより損害を被ったと主張して損害賠償を請求するとともに、賃金協定違反だとして就業規則の規定を無効だと主張したもの

判決は、労使間の賃金協定が存在することから、会社が給与支給の根拠とした就業規則は労働基準法第92条に違反し、無効であるとして、労働者側の請求を容認した

判決の理由は、労働基準法第92条第1項が、就業規則は労働協約に反してはならないとしているのは、就業規則の内容が、労働協約中の労働条件その他労働者待遇に関する基準、すなわちいわゆる労働協約の規範的部分に反してはならないとの趣旨であり、かつ、有利にも不利にも異なる定めをしてはならない趣旨と解される。したがって、就業規則の内容が労働協約の基準を下回る場合はもとより、就業規則の内容が労働協約の基準を上回る場合であっても、当該労働協約が就業規則によってより有利な定めをすることを許容する趣旨でない限りは許されず、それら労働協約に抵触する就業規則の規定は無効である・・・としています。

※労使協定は、事業場の過半数労働者が加入する労働組合又は事業場の過半数労働者の代表者と契約を締結したものです。この場合に、過半数組合と締結した労使協定は、対象となる所属組合員にとっては労働協約でもあります。労使協定と労働協約の違いは契約当事者が異なるだけでなく、労働基準法に規定がある労使協定は、契約当事者が過半数労働組合にもかかわらず、その労働組合に加入していない労働者も含めすべての労働者にその労使協定の効力が及ぶ点にあります。一方で、労働協約の効力が及ぶのは、あくまで加入している組合員に限られます。尚、労使協定の労働者側の契約当事者としては、過半数組合が過半数労働者の代表者よりもその地位が優先されると解されています。

○就業規則の効力の根拠は何か?(労働基準法下より引用)

ア 法規範説

 労働者が就業規則に従わなければならないのは、雇入れに当たりその規則に同意を与えてそこに契約が成立したからではなく、当該労働者がその内容を知り、又は継承したか否かに関係なく、労働者が当該事業場において労働関係に入るとともに当該事業場の法規範である就業規則の適用を受けるとするもの

イ 事実規範説

 就業規則は、労働者が一方的に決めた労働条件の事実上の基準にほかならないから、社会規範として効力を持つにとどまるとするもの※社会規範とは、社会や集団のなかで、ある事項に関して成員たちに期待される、意見、態度、行動の型のこと。その社会に広がる価値体系が成員に内在化されたもので、成員の遵守行為により顕在化するものとされます、

ウ 契約説 

 労働者が就業規則の定めるところにより法的に従わなければならないのは、雇入れに当たり、その規則に同意を与え、そこに契約が成立したからであるとするもの

裁判例(昭和29年(ネ)第198号 東京高裁判決)では、「労働者は、使用者側で定めるとおりの賃金その他の労働条件を以て労働力を売り渡す旨を、明示もしくは黙示的に合意するのが一般の事例であって、その結果就業規則に定める労働条件は労働契約の内容をなし、就業規則をして変更されるときは労働契約の内容も亦従って当然に変更を受けることになる。」としています。

※就業規則の効力の根拠は、諸説があり確定していません。裁判例も、その根拠としてケースバイケースの説をとっています。

○就業規則で規定すべき内容

 就業規則で規定すべき内容は、労働基準法第89条に定められています。ここでは、詳細は省きますが、同条第1項第10号に「前各号に掲げるもののほか、当該事業場のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」と規定されています。そこで、同条同項第1号から第9号以外の「この当該事業場のすべてに適用される就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目」を定める場合には、就業規則に規定する必要があります。他方、同法同条同項第1号から第9号までの規定について、雇用形態別に定めが異なる場合には、雇用形態別に規程を設けるか或いは雇用形態別に規定を変えて定める必要があります。※その一例としては、パート社員就業規則と正社員就業規則などです。

○就業規則作成の方法と届出

 就業規則は、常時10人以上を使用する事業場別に作成する必要があります。この、常時使用する労働者に加えるのは、一時的に10人未満になる場合があっても、常態として10人以上の労働者を使用する事業場のことであり、アルバイトを含みます。つまり、正社員2名、常用パート6名、臨時パート若干名、アルバイト若干名を合算して、一時的に10人を下回っても、通年では概ね10人以上になる場合には、就業規則の作成義務があります。また、就業規則の作成・変更の届出は、事業場単位で管轄の監督署に行いますが、本社で一括して届け出ることも可能です。さらに、就業規則の届出の際には、過半数労働組合又は過半数労働者の代表者の意見を添付して提出します。

○就業規則の周知

 就業規則は、労働者に周知された時に効力を発生します。この周知とは、「常時各事業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること」「書面を労働者に交付すること」「パソコン等でいつでも就業規則をみられる環境を整えること」などです。また、この周知とは、各労働者が就業規則の内容の詳細を熟知している状態にあることまで、求められていません。

 一方で、就業規則の届出は就業規則の効力に無関係です。ただし、届出義務があるため監督署に届けなければ罰則が適用される恐れがあります。

それでは、続きはまた次回に・・・

第7条

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労働契約法の復習 第6条

2015年04月12日 10:44

労働契約法第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

○労働契約の成立メカニズムと問題点

 労働契約(雇用契約)の成立にまつわる問題

労働契約はどの時点で成立するか?労働契約の効力はいつ発生するか?については、以前の記事ですでに記述しました。そこで、労働契約の成立時点の様々な態様について、記述してみます。

ア 錯誤がある意思表示

 錯誤についての学説は、民法学の先生にお願いして、一般的に契約無効の主張ができることになっています。つまり、誤解して契約を締結した場合には、契約無効を主張できます。ただし、一旦契約して契約内容が一部でも行われてしまうと、「契約が初めから無かったことにしてくれ・・・」とは言いづらいものです。労働契約以外の契約場面でみてみると、個別の契約の種類ごとに、特定商取引に関する法律等により訪問販売等のクーリングオフ制度が設けられています。ただし、クーリングオフ制度については、消費者が契約内容を誤解していた場合に限らず、気が変わって契約する意志がなくなった場合も、契約後一定期間内であれば過去に遡って無効にできます。一方でこの点を労働契約についてみると、一旦始まった労働契約を無効にする(契約の始期前では、あり得ます。)ことは、困難ですから、契約を解除することとなります。※労働者は、使用者に提供し終わっている労務を返還してもらうことがで出来ませんし、労働保険や社会保険の被保険者としての地位の取り消し等についても困難です。また、労働契約の始期前であっても、裁判例は一般に労働者保護の観点から解雇(労働契約の解除)と判断しています。

 労働契約法第15条第2項において、「前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。」と規定されており、労働者は無条件で辞職(労働者の一方的な意思表示で労働契約を解除すること)ができます。

 使用者側からみれば、例えば経歴を詐称して労働者が入社した場合に、使用者がその労働者を解雇することができることは、一般的に認められている労働契約の解除です。

 このように、労働契約について労働者及び使用者の合意時点で問題がある場合には、労働契約の有効性や契約の継続困難という問題を生じます。

イ 黙示の意思表示

 契約は、契約当事者の意思の合致で成立します。Aが大根を120円でBに売る旨をBに告げ、Bがその値段で買う旨をAに告げれば契約が成立しますが、この場合のA、B両者の売り買いの意思の相手への伝達を「意思表示」といいます。通常意思表示は、「言葉」や「文書の提示・交付・送付」等により明示することによって行われます。意思表示には、黙示の意思表示というものがあり、この場合には、契約締結の事実の有無が問題となります。大根の売買の例で言えば、Aが無人販売の小屋に大根を並べて「大根1本120円」と表示し、Bが通りかかって120円分の硬貨を所定の場所に入れて大根1本を持ち帰った場合には、Bは黙示的に売買契約に同意して大根を購入したことになります。

労働契約においても、黙示の契約締結が起こりえますので、あとあと契約の有効性の問題が生じることがまれにあります。この点を裁判例で確認してみます。

昭和54年(オ)580 最高裁第二小法廷判決 電電公社採用内定取り消し事件

裁判の概要は、採用通知書を送付した労働者からその承諾がなかったとして、採用を取り消したケースで、労働者が取り消し無効を求めたもの

判決の要旨は、採用通知書には具体的な採用日、配属先、採用職種等が記載されていたこと、採用通知の他には労働契約締結のために特段の意思表示をすることが予定されていなかったこと、上告人(労働者)が社員公募に応募したのは労働契約の申し込みであること、などから始期が昭和45年4月1日とする労働契約が成立したと解するのが相当である

判決の理由は、上告人労働者の正社員公募に対する応募は、労働契約の申し込みである、それに対する被上告人の採用通知の送付は、労働契約の申し込みに対する承諾に該当する、そのため採用通知書の送付時点(労働者に到着時点)で、労働契約が成立しているとしています。

ウ 募集時の労働条件と採用時の労働条件の相違(契約条件の変更)

 一般に、契約条件が折り合わず、契約の受諾予定者が別の契約条件を提示した場合には、契約上のメカニズムはどうなるでしょうか。Aが大根1本を120円で売る旨をBに提示し、Bが税込み100円ならばその大根を買おうとAに告げた場合です。この場合には、売買契約は未だ成立してないのは当然です。BがAに異なった契約条件を提示した場合、逆向きの契約申し込みということになります。つまり、Bがその大根を税込み100円ならば買うが、売りますか?とAに売買契約を申し込んでいます。この場合は、当然ですが、Aが承諾すれば売買契約が成立します。

 労働契約の場面では、労働者の募集はあくまで、「労働契約の申込者の勧誘」ですから、仮に入社(採用)が決まった場合でも、その内容は直ちに労働契約の内容とならないということが、過去の裁判例の内容です。問題は、労働条件(労働契約の内容)を求職労働者が認識していない場合でも、「労働者が使用者に使用されて労働し」「使用者が賃金を支払うこと」が合意されれば、労働契約が成立することです。そのため、労働基準法では一定の労働条件の明示を使用者に義務付け、労働者はその条件と異なる労働条件であった場合には、即時退職することを認めています。しかしながら、たとえば新卒者の例でいえば、次年度の他社の採用に応募しても既に新卒者として扱われず、使用者側は別の労働者を採用しなおせば済むわけですから、労働者が違う労働条件を受け入れてしまうケースも起こりえます。また、労働者からすれば、別の就職先に就職するまでの間の収入のすべてを、やめた職場で保障してくれるわけでもありません。

労働市場と言われて久しいですが、労働者は確かに市場に流通する商品かも知れませんが、せめて新卒者の若者に対しては、使用者(企業等)は誠実に対応して頂きたいと思います。それが、日本社会の美点であると思いますので・・・。


それでは、続きは次回に・・・

第6条

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労働契約法の復習 第5条

2015年04月11日 11:14

労働契約法第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

○まず、労働安全衛生法の規定を考察します。

労働安全衛生法第1条 この法律は、労働基準法(昭和22年法律第49号)と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を促進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。

 労働安全衛生法は、元来労働基準法に規定されていた労働者の安全衛生に関する規定を独立させて立法したものです。労働者を使用し、就労させるからには、使用者側で労働者の就労時の安全衛生を確保すべきことは、労働契約(雇用契約)の中に当然に含まれると解されてきました。極端に言えば、就労に伴って重大な負傷や死亡の危険が明白に存するにも関わらず、使用者がその業務に労働者を就かせることはできませんし、その様な場合には労働者が就労を拒否しても、債務不履行には当たらないということです。

 同法において、具体的には労働災害防止に関し、使用者に「責任体制の確立」「労働災害防止に関する総合的計画的な対策を促進する」ことを義務付け、さらには同法第4章(第20条~第36条)において、使用者が労働災害防止に関し具体的に取るべき措置を規定しています。また、規定別に罰則が設けられており、労働災害発生時に同法違反で書類送検された事件が数多く存在します。

○労働災害発生時の労働者への補償

 労働災害発生時(業務災害及び通勤災害発生時)には、労働者災害補償保険法が適用され、被災労働者の請求により、療養や休業時の収入補償等を受けられることになっています。そこで、法体系別に労働者への補償を整理してみます。

①労働基準法 第8章(第75条~88条)

 労働基準法には、労働者の災害補償を使用者に義務付ける規定があります。具体的な補償としては、「療養補償(治療費)第75条」「休業補償(収入補償)第76条」「障害補償(後遺障害手当)第77条」「遺族補償(死亡時の遺族への支払い)第79条」「葬祭料(労働者死亡時の葬儀費用)第80条」となっています。使用者の補償義務が免責されるのは、「労働者が重大な過失によって労働災害を発生させ且つ監督署の認定を受けた場合(第78条)」及び「同一の災害に関し、労災の給付があるときにはその限度において(第84条)労働基準法の補償が免除される場合」です。

②民法上の使用者の補償義務

 労働災害が発生し、労働者が「負傷又は疾病に罹患若しくは死亡した場合」には、使用者は民法上の債務不履行または不法行為に該当することがあります。特に、労働災害が発生し、使用者に労働安全衛生法違反の事実があった場合には、使用者の不法行為は明らかとなります。この際の、労働基準法又は労働者災害補償保険法の給付と民法上の損害賠償請求の関係ですが、労働基準法第84条第2項に、労働基準法の補償を行った使用者は、その限りで民法上の損害賠償責任が免責される旨規定されています。従って、使用者が任意で支払わない限り、被災労働者が労働基準法上と民法上の補償が重複する部分を両方とも受けることはできません。

③労働契約法第5条の安全配慮義務規定の趣旨

 前述の通り、労働災害発生時の被災労働者への補償は、労働基準法、労働者災害補償保険法、民法等により、従来から使用者にその賠償責任がある旨が明確にされて来ました。その上で、殊更使用者の安全配慮義務を労働契約法で規定した理由を考察してみると、使用者の労働者に対する「安全配慮義務」は、従前から契約上当然に存在する付帯事項と解されて来ましたから、それを同法でさらに明確にしたものです。

○労働契約法第5条の安全配慮義務違反による使用者の賠償

 この使用者の安全配慮義務は、「陸上自衛隊事件」「川義事件」が有名ですが、その他にいくつかの裁判例で確認してみます。

ア 昭和55年(ワ)562 京都地裁判決 京和タクシー事件

 事件の概要は、タクシー会社が雇入時の健康診断(労働安全衛生法施行規則第43条)を行ったところ、要精密検査の診断が出ていた労働者にその結果を伝えず、その結果入院を要する病状まで悪化したため使用者の責任をもとめたもの

 判決は、使用者の責任を一部認め、使用者は採用後遅滞なく労働者に健康診断の結果を告知すべきであったとした

 判決の理由は、被告会社(使用者)は労働安全衛生法、同規則により労働者に対する健康診断の実施が義務付けられており右健康診断の結果は、事業者が労働者を採用するかどうかを判断するうえの資料となるばかりでなく、採用後の労働者の健康を管理するための指針となり労働者自身もまた自己の健康管理を行ううえで重要な資料となるものであること、殊に労働者の健康状態が不良かまたはその疑いがある場合は採用後遅滞なく労働者に健康診断の結果を告知すべき義務があるとしています。

イ 昭和55年(ワ)667 神戸地裁判決 川西港運事件

 事件の概要は、高血圧症の持病があるフォークリフトの運転手が作業中に脳内出血により死亡した事故で、使用者の安全配慮義務違反が争われたもの

 判決は、会社は死亡した労働者が高血圧症で要治療状態であることを知っており、その症状を増悪させないよう、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講じ、節酒を勧告するなど生活指導上の配慮をもすべきであった

 判決理由は、一般に使用者は労働者に対して、報酬支払いの義務を負う他に、労働の場所・手段等を提供するに伴い、その一般的前提として労働が安全及び衛生の保自された状況の下で行われるように配慮する義務を負い、更には労働者の生命・健康を危険から保護すべき義務を負う。この安全配慮義務は、「労働安全衛生法等の法令に根拠を有する場合に限定されない」し、その具体的内容は当該労働環境や労働者個々の事情に応じて決せられるべきである・・・としています。

※この裁判(控訴)では、労働契約に付随する使用者の労働者に対する安全配慮義務は、労働安全衛生法や労働基準法等の法令に規定されている内容に限定されず、労働環境や労働者個々の事情に応じて、総合的に決まるものであるとしています。

ウ 昭和54年(ワ)683 神戸地裁判決 三菱造船事件

 事件の概要は、造船所の元従業員、下請け従業員らが罹患した難聴は工場内の騒音によるものであるとして、会社に安全配慮義務の責任を求めたもの

 判決は、請求の一部を認容し、会社に安全配慮義務があるとした

 判決理由は、

 a 労働契約又は雇傭契約において、使用者は労働者に対し、労務供給に伴って生ずる可能性のある危険から労働者の生命、健康を保護するよう配慮する一般的な義務を負うものと解されること

 b 安全配慮義務は、使用者が労働者に労務提供を命ずる過程において、その供給場所、利用設備、労務内容等から労働者の生命、健康に対して危険が生ずる恐れのある場合には、労働者の生命、健康を保護するために、信義則上当然に発生する義務であること

 c 安全配慮義務の根拠となる契約ないし法律関係は、労働契約又は雇傭契約に限られるものではなく、広く一般的に、一方当事者が労務を提供し、他方当事者が労務提供を受けるべき場所、施設もしくは使用器具等の設置管理を行い、あるいは直接指揮命令を与える等の方法により、当該労務を支配管理するような関係ある場合には、そのような法律関係にもとづき安全配慮が発生すること

 d 安全配慮義務の内容は、一律に画定されるものではく、労務供給関係における労務の内容、就労場所、利用設備、利用器具及びそれらから生ずる危険の内容・程度によって具体的に決せられるべきものであること

 e 労働契約では、労働者が自己の生命、身体の危険まで使用者に提供しているものではないこと

 f 労働者は、自己の意思によって使用者と労働契約を締結した以上、使用者に対してみだりに損害をかけないという災害防止の第二次責任があり、自己に労災事故が生じた場合、第二次責任を問われてその損害につき過失相殺されるときもあるけれども、元来労働契約は継続して互いに遵守すべきものである関係上、労働者は、就労中にその職場にとどまっておれば事故にあるかもしれないことをうすうす予知し得ても、労働組合による団結権行使以外に個人的にはその職場から勝手に離脱したり、就労を拒否することができないから、危険への接近という法理によってはその損害を軽減されることがないものというべきである

 g 以上の理論は、元請会社が下請け会社の従業員に対して直接に使用者責任を負う場合にも適うものである

※このように、元請会社の安全配慮義務を下請け会社の労働者へも拡大しています。

○安全配慮義務を有する使用者とは誰か?

 労働保険の保険料の徴収等に関する法律第8条 厚生労働省令で定める事業(=建設業)が数次の請負によって行われる場合には、この法律の規定の適用については、その事業を一の事業とみなし、元請人のみを当該事業の事業主とする。

 これは、労働保険(=労働者災害補償保険及び雇用保険)の適用関係の規定です。労働者災害補償保険の適用関係においては、数次の請負関係(建設事業)にある事業の場合は、元請人のみを事業主とみなしています。

 労働安全衛生法第5条 二以上の建設業に属する事業の事業者が、一の場所において行われる当該事業の仕事を共同連帯して請け負った場合においては、厚生労働省令で定めるところにより。そのうちの一人を代表者として定め、これを都道府県労働局長に届け出なければならない。(中略)

第4項 第1項に規定する場合においては、当該事業を同項又は第二項の代表者のみの事業と、当該代表者のみを当該事業の事業者と、当該事業の仕事に従事する労働者を当該代表者のみが使用する労働者とそれぞれみなして、この法律を適用する。

 建設業に限り、元請事業者のみを労働安全衛生法上の事業者とみなして、法を適用するとしています。従って、建設業では労働安全衛生法上の事業者としての義務は、元請事業者のみが負います。

 まとめてみますと、労働契約法の安全配慮義務を負う使用者とは誰か?ですが、原則的には、会社等の雇い主が安全配慮義務を負います。ただし、個別の裁判例では、元請事業者(造船業)や施主まで安全配慮義務があるとしたものがあります。

○労働契約法の安全配慮義務違反の賠償範囲

 労働災害が発生しても、過失がある加害者が居て且つ使用者に法令違反等や善管注意義務の欠如がなければ、被災労働者に対し、使用者が賠償義務を負わないと考えられます。または、被災労働者が単独で業務を行っており、安全管理等も会社の適切な安全管理規程に基づき、その労働者に任されている場合において、被災労働者の過失で労働災害が起きた際も同様です。しかし、労働契約法においては、「労務供給関係における労務の内容、就労場所、利用設備、利用器具及びそれらから生ずる危険の内容・程度」により使用者の安全配慮義務が生じる場合もあり得るとなっています。

 労働契約法の安全配慮義務を踏まえ、可能な限りその対策を講じることが求められますが、これは使用者の無過失責任に近い概念であるとも言えるため、経営コストの高騰を招く恐れもあります。もっとも、合理的で効果的な安全配慮の方法は、教育訓練であると言えます。労働者個々の危険予知や危険防止の意識は、言うまでなく、適切な教育訓練によって造成されると考えます。

それでは、この続きは次回に・・・

第5条

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労働契約法の復習 第4条

2015年04月10日 09:54

労働契約法第4条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。

2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

○労働契約(雇用契約)の効力発生要件

 物事の効力の発生要件や効力の発生時期は、非常に重要な問題です。昨今、架空請求詐欺や送りつけ詐欺が横行していますが、前者は被害者に加害者の契約に申し込んだと思い込ませ、後者は送られた物品等の代金を支払わばければならないと被害者に誤認させるものです。当然、両者とも契約成立(締結)の事実はありませんから、そのまま放っておけばよいわけです。

 そこで、労働契約の成立要件と成立時期を考えてみます。以前に記述した通りに、労働契約は諾成契約ですから、契約当事者の意思の合致、すなわち一方の契約申し込みと相手方の承諾のみで契約が成立します。つまり、労働契約は口約束のみで成立し、契約の効力発生要件には書面での契約締結等は含まれていません。そのため、労働条件の内容について、後々労使間で認識の違いや争いが生じる原因となっています。また、労働契約の効力発生時期ですが、通常は労働契約の内容に効力発生時期を含めることとなります。つまり、社長:「そうか、仕事を探していて、うちで働きたいのか?」、求職労働者:「はい、是非よろしくお願いします。」、社長:「じゃあ、来週の月曜日から来てくれ。仕事は朝8時から夕方5時までだ。」、求職労働者:「はいわかりました。どうぞよろしくお願いします。」・・・このように、労働契約の始期を使用者側が指定します。

○法令上の書面作成及び提示の義務又は要請

ア 職業安定法の規定

  職業安定法は、公共職業安定所(ハローワーク)の設置や有料・無料職業紹介事業、公共職業訓練、労働者を募集する者に関する規制、労働力の需給調整に関する事等を定めています。

 そこで、同法第5条の3に規定されている、労働条件の明示義務者は、「公共職業安定所」「職業紹介事業者」「労働者の募集を行う者(個人と法人)「求職者募集受託者」「労働者供給事業者(労働組合等)」とされています。また、明示する対象者は、「求職者」「募集に応じて労働者になろうとする者」「供給される労働者」となっています。※労働者供給事業は、同法で禁止されています(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)。ただし、労働組合が厚生労働大臣の許可を受けた場合には、無料の労働者供給事業を行えます。また、労働者派遣業も労働者供給事業の一つですが、労働者派遣法の規定に従って行うことができます。

 さらに、明示すべき労働条件としては、「従事すべき業務の内容」「賃金」「労働時間その他の労働条件」を明示しなければならないと規定されています。職業安定法施行規則第4条の2には、この労働条件の明示に関して、さらに詳細に規定しています。

 第4条の2 法第5条の3第3項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項

二 労働契約の期間に関する事項

三 就業の場所に関する事項

四 始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間に関する事項

五 賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第8条各号に掲げる賃金を除く。)の額に関する事項

六 健康保険法(大正11年法律第70号)による健康保険、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)による厚生年金、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による労働者災害補償保険及び雇用保険法(昭和49年法律第116号)による雇用保険の適用に関する事項

2 法第5条の3第3項の厚生労働省令で定める方法は、前項各号に掲げる事項(以下この項及び事項において「明示事項」という。)が明らかとなる次のいずれかの方法とする。ただし、職業紹介の実施について緊急の必要があるためあらかじめこれらの方法によることができない場合において、明示事項をあらかじめこれらの方法以外の方法により明示したときは、この限りでない。

一 書面の交付の方法

二 電子情報処理組織(書面交付者(明示事項を前項の方法により明示する場合において、書面の交付を行うべきものをいう。以下のこ号において同じ。)の使用に係る電子計算機と、書面被交付者(明示事項を前号の方法により明示する場合において、書面の交付をうけるべき者をいう。以下この号および次項において同じ。)の使用に係る電子計算機とを電気通信回路で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用する方法のうち書面交付者の使用に係る電子計算機と書面被交付者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、書面被交付者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法(書面被交付者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものに限る。)によることを書面被交付者が希望した場合における当該方法

3 前項第2号の方法により行われた明示事項の明示は、書面交付者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されたときに当該書面交付者に到達したものとみなす。

4 求人者は、公共職業安定所から求職者の紹介を受けたときは、当該公共職業安定所に、その者を採用したかどうかを及び採用しないときはその理由を、速やかに、通知するものとする。

※上記第2項の規定は、求人者等は原則労働条件を書面で求職労働者に交付すること(第1号)、また求職労働者が希望しかつプリントアウトできる環境であれば、求職労働者宛の電子メールでも明示できる(第2号)旨規定しています。

イ 労働基準法の労働条件明示規定

 労働基準法では、採用する労働者に採用時(労働契約締結時)に労働条件の明示を義務付けています。では、労働契約法第4条第2項は、書面による明示をなぜ努力義務としているのかが疑問です。それは、労働基準法の明示義務が労働契約の締結時に限られていて、求職者(求人への応募者で採用未決者)や採用後の労働者向けの労働条件の明示が労働基準法の対象外のため、パートタイム労働法の規定も踏まえつつ、労働契約法でこのように定めたものです。

さて、労働基準法の第15条を確認します。

労働基準法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

労働基準法施行規則第5条 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする、ただし、第1号の2に掲げる事項については期間の定めがある労働契約であって当該労働契約の期間終了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第4号の2から第11号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りではない。

一 労働契約の期間に関する事項

一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて終業させる場合における就業転換に関する事項

三 賃金(退職手当及び第5号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切及び支払いの時期並びに昇給に関する事項

四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定。計算及び支払の方法並びに支払いの時期に関する事項

五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項

六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

七 安全及び衛生に関する事項 

八 職業訓練に関する事項

九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

十 表彰及び制裁に関する事項

十一 休職に関する事項

2 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、前段第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

3 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

 さて、労働基準法で義務付けられている労働者の採用時(労働契約の締結時)の書面の交付は、労働契約の効力に影響しません。従って、労働条件の明示を行っていない使用者もママ見受けられます。ただし、労働条件の明示義務違反は、30万円以下の罰金刑が規定(労働基準法第120条)されています。労働条件を書面で交付する場合に、その様式は自由であり、また、就業規則の関係規定を明示してそれを交付する方法でも差し支えありません。なお、就業規則の法定された記載事項(絶対・相対記載事項)は、上記の明示事項と内容が似ています。

ウ パートタイム労働法における労働条件の明示

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第6条 事業主は、短時間労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定る方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。

2 事業主は、前項の規定に基づき特定事項を明示するときは、労働条件に関する事項のうち特定事項及び労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように努めるものとする。

 パートタイム労働者に関しては、就業規則を別途作成すること、短時間労働管理者を設置すること、労基法の明示項目の規定に加え「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」について書面で明示する義務(罰則有り)があり、その他の労働条件についても書面で明示するように努めなければならないことになっています。

○労働条件の明示に関する問題点

ア 法の不知

 使用者が、労働者の採用時に労働基準法等の規定に従い、労働条件の明示を行うべきことは、大部分の事業主は承知していると思います。しかしながら、アルバイト等の労働者への文書の不交付や知っていてあえて文書交付を行わない場合もあるかと思います。そもそも、求職労働者側からすれば、採用決定時に会社から労働契約書(又は労働条件通知書)や就業規則等の交付、或いは提示がない場合には、その会社の就業管理他の管理状況に不安を持つかと思います。たかが文書、されど文書です。同じ会社で、何十年も勤務していれば労働条件が度々変更されることが通常かと思います。どうせ変わるものなら、労働条件の書面交付は「無駄」という観点もありますが、そこは、まずもって法令遵守です。一時が万事、几帳面に法令を守ろうとする態度こそが、企業の社会的信用を構築します。更には、法令遵守により、リスク管理の観点からも会社の大怪我防止につながります。

イ 募集時の労働条件(職業安定法)と採用時の労働条件(労働基準法)

 募集時の労働条件に虚偽の内容を書き込み、採用時には別の労働条件を提示し、または求職者に承諾させるケースがあります。また、募集時の労働条件と全く異なる労働条件で就労させるケースがあります。裁判になる場合もありますが、判決はケース・バイ・ケースです。会社の信用で求職者は判断せざるを得ないわけですが、募集時と異なる労働条件で働かされては、すぐに辞めざるを得ない場合も起こります。求職者としては、一般的に募集時と採用時の労働条件は、別物であると考えておく必要があります。他方、求人者側は、良い人材が応募してくれば労働条件の詳細の説明は後回しにして、まずは応募者の入社の意思確認を行うべきと考えるかと思います。昨今、離職率の問題が社会問題化していますが、新卒者であろうが中高年の再就職者であろうが、会社との信頼関係がその会社で長く勤務するための必要条件です。決して、雇ってやってる、置いてやっている訳ではなく、双務契約たる労働契約関係に基づいて、互いに債務の履行(労働者は使用者の定める合理的な規則や指揮命令に従って労務を提供し、使用者は契約内容以上の賃金を支払います。)を行っているということが本質です。繰り返しですが、契約である上は「信義則が根本原理」である旨が労働契約法第3条に規定されています。

ウ 労働条件の明示に関する裁判事例

平成11年(ネ)1239 東京高裁 判決

事件の概要は、保険会社に中途入社した労働者が、求人広告の内容や会社説明会の内容等により、説明された給与の格付けより低い格付けであるとして、未払差額賃金、不法行為に基づく慰謝料、時間外手当の未払金等を請求したもの

判決の内容は、求人広告は直ちに労働条件の内容にならないとして請求を棄却、面接及び社内説明会において新卒同年次平均的給与と同等の待遇を受けることができるものと信じかねない説明をしたとして労働基準法第15条第1項違反を認定し、不法行為に基づく慰謝料等の支払いを命じたもの

 判決の理由は、内部的に既決の運用基準(中途採用者の格付け基準)を説明せず、新卒同年次定期採用者と同等の給与待遇を受けることができるものと信じさせかねない説明を行ったこと、控訴人(労働者)は入社時にその様に信じたものと認められること、ただし、新卒同年次採用者と同等の労働契約が成立したとは認められないこと、従って、労働契約上の債務不履行は使用者に発生せず、労働基準法第15条に規定される正しい労働条件の明示義務違反が認められるとしています。

 上記裁判例のポイントは、労働者が信じた条件の労働契約が成立したとは言えないとしていることです。また、入社時の労働条件が、不利益な労働条件に変更されて労働者が就労してしまい、そのまま数年以上経過してしまった場合には、その労働者がその労働条件を追認していたと判断されかねません。いずれにしても、労使ともに「信頼関係を重要視すべき」だと思います。

それでは、この続きは次回に・・・

第4条

 

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労働契約法の復習 第3条

2015年04月09日 10:24

労働契約法第3条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

2 労働契約は労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義の従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

○第3条の趣旨

 従来、民法上の概念が社会一般常識として認知されており、雇用或いは雇入れという言葉が用いられてきました。すなわち、雇うとは「賃金を払って人や車馬を使う」という意味です。このことから、本来契約であるにも関わらず、雇用契約の申し込みは一方的に使用者側が行い、被雇用者側は常にその申し込みに対して、盲目的に承諾する立場に置かれていました。また場合によっては、雇用者の知人等を介して被用者側が雇用契約の申し込みを行い、雇用者に「使ってやる」旨の承諾を得る場合もあります。この場合は、雇用者が設定した労働条件を無条件に受け入れることが被用者側の前提条件となります。

上記の雇用の一般常識を現在の状況に置き換えて考察しますと、次のようになります。

①労働契約の申し込み希望者を公募する。その際には、一定の労働条件を提示することが必要となる。※職業安定法第5条の3において、一定の求人者に労働条件の明示を義務付けています。この場合の「労働条件の明示」は、労働基準法第15条の労働条件の明示とは、趣旨が異なります。

②労働契約の締結希望労働者が募集している使用者に対し、規定の書面を添付して申し込みを行う。

③応募を受けた使用者は、その労働者の労働契約の申し込みの承諾を行うか否かを審査し、申し込んだ労働者にその可否を意思表示する。契約の承諾の際には、書類選考・入社試験・1次面接・2次面接等の手続きを経て、結果を決定する。

➃契約申し込みの承諾(採用通知等の送付)の連絡を受けた労働者は、採用した使用者の指示に従い将来、指定された事業所に指定日時に出勤することとなる。締結された労働契約は通常「始期」及び「終期」付きの労働契約となるが、この始期とは入社日のことであり、終期とは定年退職日のことである。他方、有期労働契約場合には、契約開始日及び契約満了日が労働契約の条件に含まれることとなる。※実際に採用する場合には、使用者は労働基準法第15条に規定される労働条件の明示を書面の交付を以て行う義務があります。

 現在では、一般に①~➃の手続きを経て労働契約の締結と契約の履行がなされています。この場合、契約途中の契約条件(労働条件)の変更や使用者側の一方的な契約の打ち切り(解雇)や労働者の契約不履行(債務不履行)等にも法律等の制限が存在します。

 つまり、労働契約の締結に当たっては、労働条件の労使相互の十分な理解・納得の上に契約を締結することが、あるべき姿とされています。

○雇用契約の時代から労働契約の時代へ

 さて、今現在も少なからずそのような認識が存在しますが、雇用契約の時代(私の造語です。)においては、採用の決定は一方的に雇用者が判断すること(雇ってやる)、個々の被用者の労働条件の決定及び変更は使用者が一方的に行うこと、雇用関係の終了も雇用者が一方的に決定すること(暇を出す、首にする、やめさせる、解雇する等)等が特徴として挙げられます。

 労働契約法第3条は、あるべき労働契約の締結の姿及びあるべき労働条件の変更時の姿、さらには労使双方のあるべき労働契約の履行の姿の原則を規定しています。

○労働契約法第3条の項別考察

ア 第1項 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

 さて、前述の通りに使用者(雇用者)と労働者(被用者)の間には、今現在も大きな力の差が存在します。これは、経済原理と大きく関係があります。よく例えられますが、使用者(企業等)は買い手、労働者(求職者)は売り手であり、通常は買い手の要望人数よりも売り手の総数が上回ります。そのため、売り手の労働者は何とか買ってもらおうと努力し、買い手の使用者(企業・求人者)は、より厳選して良い人材のみを採用しようと努力します。従って、そもそも対等な立場には契約当事者である使用者と労働者はないわけです。また、契約の一般原則である合意の原則は、労働契約においても契約の効力発生の前提条件ですが、問題は「合意の中身」にあると思います。入ってみたら、採用面接時の話と全然違っていた・・・といった事例はママあり得ることと思います。

 ところで、使用者側の一方的な労働契約の不利益変更は、法令の規定により無効となることが原則ですが、場合により労働条件の不利益変更をなかば強制的に追認させられたり、退職を選択せざるを得ない状況に追い込まれることも、しばしば起こり得ます。

 本条第1項は、労働市場の実情と民法の一般原則の乖離に鑑み、労働契約の締結とその変更に当たっては、契約当事者たる労使の合意がその効力発生の要件であることを再確認した条文です。

イ 第2項 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

 第2項は、いわゆる「均衡考慮の原則」の規定です。さて、ここでいう「均衡とは何か」が重大な問題となります。まずは、ILO条約第100号における、男女間の同一労働同一賃金の原則が一般に知られています。これは、労働基準法第4条で具現化され、厳しい罰則の規定も設けられています。次に、同法第3条においては、「国籍、信条、社会的身分」により、労働条件を差別することを禁止しています。以上の二点は、労働基準法に以前から規定されており、一般常識として知られていると思いますので、本項でわざわざ規定したとは考えにくいと思います。

 それでは、ここでいう「均衡考慮」は、主に何を意味しているのかと言いますと、もちろん「同一労働同一賃金の原則」を指しています。欧米では、以前からこの原則が用いられてきましたが、国内では「雇用形態により賃金が異なる」ことがむしろ一般的でした。そのため、同じ仕事をしているのに、正社員とパート・アルバイト・契約社員等とでは賃金単価が大きく異なっていることが通常です。

 平成5年施行のパートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第8条において、正社員とパート労働者等の差別扱い禁止規定が設けられました。さて、この規定の実質的な意味合いですが、同法の第8条には罰則規定が設けられておらず、使用者に刑事罰を科すことはできません。ただし、この規定に従わない使用者は、民法上の不法行為(同法第709条)に該当しますから、労働者の訴えにより損害賠償請求の対象となります。

ウ 第3項 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

 本条第3項は、いわゆるワークライフバランスの規定です。このワークライフバランスは、内閣府が推し進めている施策であり、両立支援や男性の育児休業取得の推進等々、かなりハードルが高い内容となっています。

 日本の高度成長期には、労働者は仕事中心であり、家庭は専業主婦の配偶者に任せきりの状況が多くみられました。ところが、近時生活コストの上昇により、共働きでなければ「子育て」「持ち家の購入やローンの支払い」「両親の介護」等々に対応できない時代となりました。つまり、夫婦の片方が熱心に仕事に集中し、他方が家庭を維持する家族モデルは崩壊し、すでに過去のものとなっています。従って、ワークライフバランスへの配慮とは、企業等(使用者、雇用主)が最も重要視すべき項目となっています。この視点が欠けてしまうと、離職率の高騰を招き、常に新規採用と新規従業員の教育コストを掛け続けることになりますし、企業等の社会的信用も定着・向上しません。

エ 第4項 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

 いわゆる「信義則」の規定です。信義則は、契約の前提条件となる大原則であり、民法に規定があります。具体的には、民法第1条第2項「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」とされています。この民法の信義則は、もともとは金の貸し借りの際に、借りた側が約束通りに返さない場合について規定されましたが、初めから約束(契約)を守るつもりがないような人が数多く存在すれば、契約そのものが社会的に成り立たなくなってしまいます。そのため改正民法第1条に規定されています。労働契約法においても、使用者が就業規則や労働契約の内容を無視して労働者を働かせたり、労働契約上の労務の提供義務を無視して遅刻・欠勤等を繰り返す労働者は、労働契約の維持の問題を生じさせます。

 労働基準法の第2条第2項においても、「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。」と規定されています。

ウ 第5項 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

 権利濫用禁止の規定です。これも民法第1条第3項に規定があり、「権利の濫用は、これを許さない。」としています。労働契約の場面では、とくに「解雇権濫用法理」が有名です。以前も裁判例を紹介しましたが、今回も簡単に裁判例を記載します。

①解雇権の濫用裁判例

平成14年(ヨ)469 名古屋地裁判決

 裁判の概要は、化粧品や医薬品、医薬部外品等の製造、販売等を行っている日本オリーブが、従業員を成績不良等を理由として解雇したところ、解雇権の濫用による解雇無効として労働契約上の権利を求めたもの

 判決は、営業努力の不足とは言えないこと、就業規則の解雇自由に該当しているとは言えないこと等を挙げて、会社の解雇権の濫用を認め債権者(労働者)の主張を一部認めた

さて、法律上の解説は、就業規則や労働契約法の解雇の項目で詳細に行うとしまして、今回は解雇の簡単な仕組みを記述します。

a 使用者は労働者を解雇できるのか?

 結論は、無期労働契約の場合は条件が整えば解雇できます(民法627条)が、有期労働契約の途中解雇(民法628条、労働契約法第17条)は原則できません。有期労働契約の場合の途中解雇は「やむを得ない場合に限り」できるとされていますが、このやむを得ない事由は会社の解散等の極めて限定的な事由に限られるとされています。ただし、無期労働契約であっても労働基準法に解雇制限の規定(同法第19条第1項)がありますので、該当すれば解雇できません。

b それでは、解雇できる場合はどんな場合か?

 労働契約法をみますと、「客観的に合理的な理由があり」「社会通念上相当であると認められる場合」に解雇できるとされています。具体的には、犯罪を犯した等の理由で就業規則の懲戒解雇事由に相当する場合、病気療養のため就労することが出来ずに所定の休職期間も終了した場合(※ただし就業規則の規定内容に左右されます。)、業務災害で長期療養していたが打切解雇する場合、会社の業績不振により事業所を閉鎖する場合で整理解雇の4要件を満たしている場合等です。これらの場合には、解雇権濫用には当たりません。

 c 懲戒解雇と解雇予告

 懲戒解雇の場合であっても、当然には解雇予告制度の除外とはなりません。労働基準法第20条第3項の規定により、管轄の労働基準監督署の解雇予告除外認定(2週間程度)が必要になります。

 

それでは、続きはまた次回に・・・

第3条

 

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