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雇用保険とは何か? 9

2015年09月29日 10:39

逐条考察

第十五条 (失業の認定) 

  基本手当は、受給資格を有する者(次節から第四節までを除き、以下「受給資格者」という。)が失業している日(失業していることについての認定を受けた日に限る。以下この款において同じ。)について支給する。

2 前項の失業していることについての認定(以下この款において「失業の認定」という。)を受けようとする受給資格者は、離職後、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをしなければならない。

3 失業の認定は、求職の申込みを受けた公共職業安定所において、受給資格者が離職後最初に出頭した日から起算して四週間に一回ずつ直前の二十八日の各日について行うものとする。ただし、厚生労働大臣は、公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等(国、都道府県及び市町村並びに独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が設置する公共職業能力開発施設の行う職業訓練(職業能力開発総合大学校の行うものを含む。)その他法令の規定に基づき失業者に対して作業環境に適応することを容易にさせ、又は就職に必要な知識及び技能を習得させるために行われる訓練又は講習であつて、政令で定めるものをいう。以下同じ。)を受ける受給資格者その他厚生労働省令で定める受給資格者に係る失業の認定について別段の定めをすることができる。

4 受給資格者は、次の各号のいずれかに該当するときは、前二項の規定にかかわらず、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所に出頭することができなかつた理由を記載した証明書を提出することによつて、失業の認定を受けることができる。

一 疾病又は負傷のために公共職業安定所に出頭することができなかつた場合において、その期間が継続して十五日未満であるとき。

二 公共職業安定所の紹介に応じて求人者に面接するために公共職業安定所に出頭することができなかつたとき。

三 公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受けるために公共職業安定所に出頭することができなかつたとき。

四 天災その他やむを得ない理由のために公共職業安定所に出頭することができなかつたとき。

5 失業の認定は、厚生労働省令で定めるところにより、受給資格者が求人者に面接したこと、公共職業安定所その他の職業安定機関若しくは職業紹介事業者等から職業を紹介され、又は職業指導を受けたことその他求職活動を行つたことを確認して行うものとする。

 

令第三条 (法第十五条第三項の政令で定める訓練又は講習)

法第十五条第三項(法第七十九条の二の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の政令で定める訓練又は講習は、国、都道府県及び市町村並びに独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が設置する公共職業能力開発施設の行う職業訓練(職業能力開発総合大学校の行うものを含む。)のほか、次のとおりとする。

一 法第六十三条第一項第三号の講習及び訓練

二 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)第十三条の適応訓練

三 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和四十六年法律第六十八号)第二十三条第一項の計画に準拠した同項第三号に掲げる訓練

四 法第六条第三号に規定する船員の職業能力の開発及び向上に資する訓練又は講習として厚生労働大臣が定めるもの

 
則第二十一条 (公共職業訓練等を受講する場合における届出)

  受給資格者は、公共職業安定所長の指示により法第十五条第三項に規定する公共職業訓練等(以下「公共職業訓練等」という。)を受けることとなつたときは、速やかに、公共職業訓練等受講届(様式第十二号。以下「受講届」という。)及び公共職業訓練等通所届(様式第十二号。以下「通所届」という。)に受給資格者証(当該受給資格者が法第三十六条第二項の同居の親族と別居して寄宿する場合にあつては、当該親族の有無についての市町村の長の証明書及び受給資格者証)を添えて管轄公共職業安定所の長に提出しなければならない。ただし、受給資格者証を添えて提出することができないことについて正当な理由があるときは、受給資格者証を添えないことができる。

2 受給資格者は、前項本文の規定にかかわらず、同項ただし書に規定するときのほか、職業安定局長が定めるところにより、受給資格者証を添えないことができる。

3 管轄公共職業安定所の長は受講届及び通所届の提出を受けたとき(第一項ただし書又は前項の規定により受給資格者証を添えないでこれらの届の提出を受けたときを除く。)は、受給資格者証に必要な事項を記載した上、返付しなければならない。

4 受給資格者は、受講届又は通所届の記載事項に変更があつたときは、速やかに、その旨を記載した届書に変更の事実を証明することができる書類及び受給資格者証を添えて管轄公共職業安定所の長に提出しなければならない。

5 受給資格者は、前項の規定にかかわらず、第七項の規定により準用する第一項ただし書に規定するときのほか、職業安定局長が定めるところにより、受給資格者証を添えないことができる。

6 管轄公共職業安定所の長は、第四項の届書の提出を受けたとき(前項又は次項の規定により準用する第一項ただし書の規定により受給資格者証を添えないで当該届書の提出を受けたときを除く。)は、受給資格者証に必要な改定をした上、返付しなければならない。

7 第十七条の二第四項の規定は第一項及び第四項の場合に、第一項ただし書の規定は第四項の場合に準用する。

 

則第二十二条 (失業の認定)

  受給資格者は、失業の認定を受けようとするときは、失業の認定日に、管轄公共職業安定所に出頭し、失業認定申告書(様式第十四号)に受給資格者証を添えて提出した上、職業の紹介を求めなければならない。

2 管轄公共職業安定所の長は、受給資格者に対して失業の認定を行つたときは、その処分に関する事項を受給資格者証に記載した上、返付しなければならない。

3 前条第一項ただし書の規定は、第一項の場合に準用する。

 

則第二十三条 (法第十五条第三項の厚生労働省令で定める受給資格者)

 法第十五条第三項の厚生労働省令で定める受給資格者は、次のとおりとする。

一 職業に就くためその他やむを得ない理由のため失業の認定日に管轄公共職業安定所に出頭することができない者であつて、その旨を管轄公共職業安定所の長に申し出たもの

二 管轄公共職業安定所の長が、行政機関の休日に関する法律(昭和六十三年法律第九十一号)第一条第一項に規定する行政機関の休日、労働市場の状況その他の事情を勘案して、失業の認定日を変更することが適当であると認める者

2 管轄公共職業安定所の長は、必要があると認めるときは、前項第一号の申出をしようとする者に対し、職業に就くためその他やむを得ない理由を証明することができる書類の提出を命ずることができる。

 

則第二十四条 (失業の認定日の特例等)

  公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受ける受給資格者に係る失業の認定は、一月に一回、直前の月に属する各日(既に失業の認定の対象となつた日を除く。)について行うものとする。

2 前条に規定する者に係る失業の認定は、同条の申出を受けた日に次の各号に掲げる日について行うものとする。

一 当該申出を受けた日が前条に規定する失業の認定日前の日であるときは、当該失業の認定日における失業の認定の対象となる日のうち、当該申出を受けた日前の各日

二 当該申出を受けた日が前条に規定する失業の認定日後の日であるときは、当該失業の認定日における失業の認定の対象となる日及び当該失業の認定日から当該申出を受けた日の前日までの各日

3 前項の規定により失業の認定が行われたときは、その後における最初の失業の認定日における失業の認定は、前条の申出を受けた日から当該失業の認定日の前日までの各日について行うものとする。

 

則第二十五条 (証明書による失業の認定)

  法第十五条第四項第一号に該当する受給資格者が証明書を提出することによつて失業の認定を受けようとするときは、その理由がやんだ後における最初の失業の認定日に管轄公共職業安定所に出頭し、次の各号に掲げる事項を記載した医師その他診療を担当した者の証明書を受給資格者証に添えて提出しなければならない。

一 受給資格者の氏名及び年齢

二 傷病の状態又は名称及びその程度

三 初診の年月日

四 治ゆの年月日

2 第二十一条第一項ただし書の規定は、前項の場合に準用する。

 

則第二十六条  

  法第十五条第四項第二号に該当する受給資格者が証明書を提出することによつて失業の認定を受けようとするときは、求人者に面接した後における最初の失業の認定日に管轄公共職業安定所に出頭し、次の各号に掲げる事項を記載したその求人者の証明書を受給資格者証に添えて提出しなければならない。

一 受給資格者の氏名及び年齢

二 求人者の氏名及び住所(法人の場合は、名称及び事務所の所在地)

三 面接した日時

2 第二十一条第一項ただし書の規定は、前項の場合に準用する。

 

則第二十七条 

  法第十五条第四項第三号に該当する受給資格者が証明書を提出することによつて失業の認定を受けようとするときは、公共職業訓練等受講証明書(様式第十五号。以下「受講証明書」という。)を管轄公共職業安定所の長に提出しなければならない。

2 第十七条の二第四項の規定は、前項の場合に準用する。

 

則第二十八条

  法第十五条第四項第四号に該当する受給資格者が証明書を提出することによつて失業の認定を受けようとするときは、その理由がやんだ後における最初の失業の認定日に管轄公共職業安定所に出頭し、次の各号に掲げる事項を記載した官公署の証明書又は管轄公共職業安定所の長が適当と認める者の証明書を受給資格者証に添えて提出しなければならない。

一 受給資格者の氏名及び住所又は居所

二 天災その他やむを得ない理由の内容及びその理由が継続した期間

三 失業の認定を受けるため管轄公共職業安定所に出頭することができなかつた期間

2 第二十一条第一項ただし書の規定は、前項の場合に準用する。

 

則第二十八条の二 (失業の認定の方法等)

  管轄公共職業安定所の長は、失業の認定に当たつては、第二十二条第一項の規定により提出された失業認定申告書に記載された求職活動の内容を確認するものとする。

2 管轄公共職業安定所の長は、前項の認定に関して必要があると認めるときは、受給資格者に対し、運転免許証その他の基本手当の支給を受けようとする者が本人であることを確認することができる書類の提出を命ずることができる。

3 管轄公共職業安定所の長は、第一項の確認の際に、受給資格者に対し、職業紹介又は職業指導を行うものとする。 

 

○条文の内容の整理

 基本手当の受給のための手続の概要は、前回に記述しましたが、今回は条文の内容に沿って

少し詳細にかつ、整理して記述します。 

1.第15条第1項(基本手当の支給対象者)

 基本手当は、受給資格者に対し、失業の認定を受けた日につき支給するとしています。

 

2.第15条第2項(失業の認定の手続)

 基本手当の前提となる失業の認定(日)を受けようとする受給資格者は、「離職後、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをしなければならない。」とされています。

則第19条 則第十九条 (受給資格の決定)

  基本手当の支給を受けようとする者(未支給給付請求者を除く。) は、管轄公共職業安定所に出

頭し、離職票に運転免許証その他の基本手当の支給を受けようとする者が本人であることを確

認することができる書類(当該基本手当の支給を受けようとする者が離職票に記載された離職の

理由に関し異議がある場合にあつては、当該書類及び離職の理由を証明することができる書類)

を添えて提出しなければならない。この場合において、その者が二枚以上の離職票を保管する

とき、又は第三十一条第三項若しくは第三十一条の三第三項の規定により受給期間延長通知書

の交付を受けているときは、併せて提出しなければならない。

 

3.第15条第3項(失業の認定)

 失業の認定は、求職の申し込みをした日から起算して、4週間に一度づつ行われます。また、

失業認定日には職業の紹介を求めなければならないとされています。

 ところで、最初に離職票を提出した日から失業認定を受けた合計7日間は待機期間とされ、

基本手当の受給対象日から除外されます。また、給付制限を受ける場合にも、その間は基本手

当が支給されません。

 例えば、自己都合離職の場合には、最初に離職票を提出し、受給資格の確認を受けた日から7

日間、さらにその翌日から3ヶ月間は、失業していても基本手当の支給対象外の日となります。

また、待機期間及び給付制限期間も失業の認定が行われ、待機期間中の7日間の失業認定が行わ

れなければ、待機が満了しません。

 公共職業訓練を行う場合の失業認定は、月に一度、認定日の属する月の前月の各日につい

て、失業認定が行われることとされています。(則第二十四条)

 

4.第15条第4項(失業認定の特例)

 失業の認定は、例外を除き、最初に安定所に行った日から4週間ごとに一回、受給資格者が当

該の安定所に出向いて行われます。だだし、失業認定日に出頭できない次の理由がある場合に

は、必要書類の提出により、失業認定を受けることができます。

一 疾病又は負傷のために公共職業安定所に出頭することができなかつた場合において、その

  期間が継続して十五日未満であるとき。

 ・必要な書類:その理由がやんだ後における最初の失業の認定日に管轄公共職業安定所に出頭し、次の各号に掲げる事項を記載した医師その他診療を担当した者の証明書を受給資格者証に添えて提出しなければならない。(則第二十四条)

  (一) 受給資格者の氏名及び年齢

  (二) 傷病の状態又は名称及びその程度

  (三) 初診の年月日

  (四) 治ゆの年月日

二 公共職業安定所の紹介に応じて求人者に面接するために公共職業安定所に出頭すること

  ができなかつたとき。

・必要な書類:求人者に面接した後における最初の失業の認定日に管轄公共職業安定所に出頭し、次の各号に掲げる事項を記載したその求人者の証明書を受給資格者証に添えて提出しなければならない。(則第二十五条)

 (一) 受給資格者の氏名及び年齢

 (二) 求人者の氏名及び住所(法人の場合は、名称及び事務所の所在地)

 (三) 面接した日時 

三 公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受けるために公共職業安定所に出頭する

  ことができなかつたとき。

・必要な書類:公共職業訓練等受講証明書(様式第十五号。以下「受講証明書」という。)を管轄公共職業安定所の長に提出しなければならない。(則第二十七条)

四 天災その他やむを得ない理由のために公共職業安定所に出頭することができなかつたとき。

・必要な書類:その理由がやんだ後における最初の失業の認定日に管轄公共職業安定所に出頭し、次の各号に掲げる事項を記載した官公署の証明書又は管轄公共職業安定所の長が適当と認める者の証明書を受給資格者証に添えて提出しなければならない。

 (一) 受給資格者の氏名及び住所又は居所

 (二) 天災その他やむを得ない理由の内容及びその理由が継続した期間

 (三) 失業の認定を受けるため管轄公共職業安定所に出頭することができなかつた期間

 

5.第15条5項(失業の認定の方法)

 失業の認定は、求職活動を行ったことを確認して行うものとされています。

 則第28条の2

  (一)失業の認定に当たつては、第二十二条第一項の規定により提出された失業認定

     申告書に記載された求職活動の内容を確認するものとする。

  (二)必要があると認めるときは、受給資格者に対し、運転免許証その他の基本手当の支

     給を受けようとする者が本人であることを確認することができる書類の提出を命

     ずることがある。

  (三)(一)の確認の際に、受給資格者に対し、職業紹介又は職業指導を行う。

 

○失業認定手続の詳細(出典:業務取扱要領)

失業の認定日の決定
(1)認定日の決定
イ  認定日は、受給資格者が離職後最初にその居住地の安定所に出頭した日に、その日以後の
期間について出頭した日から起算して4週間のうちに原則として1回あるように特定の曜日、
例えば火曜日というように具体的に指定するものである。この場合、安定所は、求人、求職の
状況(例えば同一の職種を適職とする者を同一日に指定するなど。)、事務量等を勘案して各
受給資格者についてはこれを指定しなければならない(則第19 条第3項)。再離職の場合も
同様である(則第20 条第2項)。
  認定日の変更は51351~51400 のほか、安定所長が行政機関の休日に関する法律第1 条第
1 項に規定する行政機関の休日、労働市場の状況等からみて適当と認める場合に行う(例えば、
祝日のため、所定の認定日に失業の認定を行うことができないときは、適宜その前後の日を指
定して認定日とする。)(則第23 条第1項第2号)。
  則第24 条第1項の規定により、失業の認定回数が1か月に1回となる場合における認定日
は、毎月の上旬の日(毎月○日、ただし、その日が日曜日、閉庁土曜日又は祝日であるときは
その前(後)の日というように)を適宜指定する(50951 参照)。
ロの場合のうち、年末年始における認定日(公共職業訓練等を受講している者に係る認定日
を除く。)については、次により取り扱う。
(イ) 12 月29 日から31 日までの日(以下「年末の休暇日」という。)が所定の認定日となる者
については、同月28 日以前1週間において失業の認定を行うこととしている日に、1月1日か
ら1月3日までの日(以下「年始の休暇日」という。)が所定の認定日となる者については、
同月4日以降1週間において失業の認定を行うこととしている日に、それぞれ認定日を適宜配
分し、失業の認定を行う。
(ロ) (イ)にかかわらず、aの基準に達する安定所にあっては、bの方法によって取り扱って差し
支えない。
a 取扱い基準
(イ)の取扱いによる場合に、最大限の努力をしても休暇期間の前後の日において、受給資格
者が失業の認定事務担当者1人当り1日平均200 人以上出頭することとなる場合
 この場合の計算は次の算式による。ただし、例年年末直前に受給資格者が激増する場合は、
 年末における受給資格者数により計算して差し支えない。
 『最近において1週間に出頭する受給資格者数×1.55』 ÷
  『5(=失業の認定事務が行われるとみなされる日数)×認定事務担当者数』
b 取扱い方法
 年末年始の休暇中の所定の失業の認定日及び年末年始の休暇日に引き続く3週間のうち
にある所定の認定日をそれぞれ1週間後の日に変更し、以後当該変更された認定日を基準と
して所定の認定日を定める。
 
失業の認定
1.  失業の認定の意義
( 1) 概要
 受給資格者が基本手当の支給を受けるには、安定所に出頭し求職の申込みをした上、
失業の認定を受けなければならない( 法第1 5 条第1 項及び第2 項)。受給資格者がこ
の失業の認定を受けようとするときには、失業の認定日に、受給資格者の住所又は居
所を管轄する安定所( 以下「住居所管轄安定所」という。) に出頭し、失業認定申告
書( 則様式第1 4 号)に受給資格者証を添えて提出した上、職業の紹介を求めなければ
ならない( 則第2 2 条第1 項、5 1 3 0 1 参照) 。
 この失業の認定とは、安定所が受給資格の決定を行った者について、失業の認定日
において、原則として前回の認定日から今回の認定日の前日までの期間( 以下「認定
対象期間」という。) に属する各日について、その者が失業していたか否かを確認す
る行為であり、当該受給資格者が求人に面接したこと、安定所その他の職業安定機関
( 船員を希望する者については、地方運輸局、船員雇用促進センターを加える。) 若
しくは職業紹介事業者等( 職業安定法第4 条第7 項に規定する職業紹介事業者又は業
として同条第4 項に規定する職業指導( 職業に就こうとする者の適性、職業経験その
他の実情に応じて行うものに限る。)を行う者( 安定所その他の職業安定機関を除く。)
をいう。以下同じ。5 3 2 0 6 ホ参照) から職業を紹介され、又は職業指導を受けたこと
その他求職活動を行ったことを確認して行う( 法第1 5 条第5 項) 。
 また、その具体的な認定方法については、受給資格者の住居所管轄安定所の長は、
提出された失業認定申告書に記載された求職活動の内容を確認して行う( 則第2 8 条の
2 ) 。認定対象期間中の全部又は一部の日について失業していなかったと確認するこ
とを失業の不認定という。
 この場合の失業とは、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くこ
とができない状態にあることをいう( 法第4 条第3 項) 。( なお、求職者給付の支給
を受ける者は、必要に応じ職業能力の開発及び向上を図りつつ、誠実かつ熱心に求職
活動を行うことにより、職業に就くように努めなければならない( 法第1 0 条の2 )と
されているところである。)
 なお、失業の認定は、住居所管轄安定所において行われるものであるが、住居所管
轄安定所が他の安定所に求職者給付及び就職促進給付に関する事務を委嘱した( 則第
5 4 条) ときは、委嘱を受けた安定所において行われる。
( 2) 労働の意思
 労働の意思とは、就職しようとする積極的な意思をいう
すなわち、安定所に出頭して求職の申込みを行うのはもちろんのこと、受給資格者
自らも積極的に求職活動を行っている場合に労働の意思ありとするものである。
( 3) 労働の能力
 労働の能力とは、労働( 雇用労働) に従事し、その対価を得て自己の生活に資し得
る精神的・肉体的及び環境上の能力をいうのであり、受給資格者の労働能力は、安定
所において本人の体力、知力、技能、経歴、生活環境等を総合してその有無を判断す
るものである。
( 4) 職業に就くことができない状態
 職業に就くことができない状態とは、安定所が受給資格者の求職の申込みに応じて
最大の努力をしたが就職させることができず、また、本人の努力によっても就職でき
ない状態をいうのである。この場合、安定所は、その者の職歴、技能、希望等を配慮
した上で、職業紹介を行う。
 
2  失業の認定要領
( 1) 概要
イ 失業の認定は、求職の申込みを受けた安定所において、受給資格者が離職後最初
に出頭した日から起算して4 週間に1 回ずつ直前の2 8 日の各日について行う( 法第
1 5 条第3 項) 。
ロ 失業の認定は、原則として前回の認定日以後、当該認定日の前日までの期間につ
いて行うものであるが、認定日が、就職日の前日である場合、受給期間の最終日で
ある場合又は支給終了日である場合は、当該認定日を含めた期間( 前回の認定日か
ら当該認定日までの期間) について失業の認定をすることもできる。
 ただし、この場合、当該認定日に就労することも考えられるから、当日就労する
予定がないことを確認し、かつ、当日就労した場合には直ちに届け出て基本手当を
返還しなければならない旨を告げておく。
ハ 安定所が、失業の認定日に失業の認定を行うに当たっては、次の事項について確
かめる。
(イ) 当該安定所において受給資格者証を交付した受給資格者であるかどうか、又は
委嘱若しくは移管の手続を経た受給資格者であるかどうか。
(ロ) 受給資格者本人であるかどうか。
(ハ) 所定の失業の認定日であるかどうか、及び前回の失業の認定日に出頭したかど
うか。
(ニ) 労働の意思及び能力があるかどうか。
(ホ) 就職した日又は自己の労働による収入があったかどうか。
( 2) 受給資格者本人であるかどうかの確認
 失業の認定は、受給資格者本人の求職の申込みによって行われるものであるから、
代理人による失業の認定はできない( 未支給失業等給付に係る失業の認定については、
5 3 1 0 4 参照) 。
 本人であることの確認は、受給資格者証に貼付された本人の写真によって行う。こ
の確認で必要があると認めるときは、更に受給資格者に対して5 0 0 0 3 ( 3 )ハに掲げる書
類及び当該書類に記載されている住所に受給資格者が実際に居住していることが確認
できる公共料金の領収書等( この確認の際、5 0 0 0 3 ( 3 )ハ( イ)又は( ロ)の書類を提示する
ことができず、やむを得ず5 0 0 0 3 ( 3 )ハ( ハ)の書類として公共料金の領収書等を提示し
場合を除く。) の提示を命じることができること( 則第2 8 条の2 第2 項) 。
 なお、受給資格者証を提出できない場合でも、それが紛失したものであることが明
らかであり、本人であることの証拠があるような場合には受給資格者証を再交付する
こともできる( 則第5 0 条、5 1 0 5 4 参照)。また、受給資格者証を提出することができ
ないことについて正当な理由がある場合には、次回の認定日に必ず提出すべく指示し
て受給資格者証の提出のないまま失業の認定を行い得る( 則第2 2 条第3 項) 。
( 3) 所定の認定日であるかどうかの確認
 失業の認定は、原則として、受給資格者について、あらかじめ定められた認定日に
行うものであるから、所定の認定日に出頭しないときは、認定対象期間全部について
認定しないこととなる。このため、受給資格者が失業の認定を受けるため安定所に出
頭したときは、提出された受給資格者証の記録により、その日が当該受給資格者につ
いて定められた認定日であるかどうかを確認する。
 なお、5 1 2 5 2 のなお書により受給資格者証を提出しない場合については、システム
を活用して当該者の支給台帳を確認する。
( 4) 労働の意思及び能力があるかどうかの確認
イ 概要
 受給資格者について労働の意思及び能力があると確認されるためには、単に安定
所に出頭して求職の申込みをしているだけではなく、真に就職への意欲をもち、か
つ、精神的、肉体的、環境的に労働の能力を有していることが必要である。
 失業の認定はロにより求職活動実績に基づいて行う。
 失業の認定日には、認定対象期間の2 8 日の各日について失業の認定を行うもので
あり、当該認定日以後の日については認定を行うことはできない。
 しかしながら、当該認定日において認定対象期間の全部又は一部の日について失
業の認定を行わなかった場合であって、その判断の基礎となった事情がその後も継
続するであろうと認められるときは、受給資格者に対し、その事情が継続する限り
失業の認定はできないが、その事情がやめば認定を行い得るのでその事情がやみ、
労働の意思及び能力が復活したときに安定所へ出頭するよう指導を行う。
 失業の認定を行わなかったときは、受給資格者証の「( 処理状況) 」欄及び失業
認定申告書の「※ 連絡事項」欄に、その旨を記載し、その期間及び理由も記載して
おく。
 失業の要件である労働の意思及び能力の有無の判定は一律に機械的に行うことな
く個々の事案について具体的な事情を考慮に入れて行うよう配慮しなければならな
い。
 また、この際紹介担当部門からの連絡を待って判定すべき場合は、当該連絡に基
づき認定係において判定するものであるが、この連絡方法等についてはあらかじめ
定められた簡易な方法によることとし、紹介担当部門及び認定係の業務の運営に支
障のないよう配慮しなければならない。
 なお、自己の都合により退職し、短時間労働者に該当する被保険者となるような求職
条件のみを希望する受給資格者については、妊娠、出産、育児、老病者の看護
その他家事又は家業の手伝い、加齢等による当人の肉体的能力の減退等が退職の原
因となっていることも考えられるので、失業の認定に当たっては、このことに十分
留意のうえ、ハにより慎重な判断を行う。
ロ 求職活動実績に基づく失業の認定
(イ) 失業の認定の対象となる求職活動実績の基準
a 求職活動の回数
(a) 基本手当に係る失業の認定日において、原則として前回の認定日から今回
の認定日の前日までの期間( 法第3 2 条の給付制限の対象となっている期間を
含む。以下「認定対象期間」という。)に、求職活動を行った実績( 以下「求
職活動実績」という。) が原則2 回以上あることを確認できた場合に、当該
認定対象期間に属する、他に不認定となる事由がある日以外の各日について
失業の認定を行う。
(b) ただし、次のいずれかに該当する場合には、上記(a)にかかわらず認定対象
期間中に行った求職活動実績は1 回以上あれば足りるものとする。
i 法第2 2 条第2 項に規定する厚生労働省令で定める理由により就職が困
難な( 5 0 3 0 4 参照) である場合
ⅱ 基本手当の支給に係る最初の失業の認定日( 以下「初回支給認定日」と
いう。) における認定対象期間( 待期期間を除く。) である場合
ⅲ 認定対象期間の日数が1 4 日未満となる場合
ⅳ 求人への応募を行った場合( 当該応募を当該認定対象期間における求職
活動実績とする。)
ⅴ 巡回職業相談所における失業の認定( 5 1 9 0 1~ 5 1 9 5 0 参照)及び市町村長
の取次ぎによる失業の認定( 5 1 9 5 1~ 5 2 0 0 0 参照) を行う場合
b 法第3 3 条の給付制限を行う場合の取扱い
(a) 法第3 3 条の給付制限( 給付制限期間が1 か月となる場合を除く。)満了後
の初回支給認定日については、当該給付制限期間と初回支給認定日に係る給
付制限満了後の認定対象期間をあわせた期間に求職活動を原則3 回以上行っ
た実績を確認できた場合に、他に不認定となる事由がある日以外の各日につ
いて失業の認定を行う。
(b) (a)の給付制限期間中の求職活動実績の要件は、初回支給認定日に係る認定
対象期間のみを対象とするものであり、それ以外の認定日については、a の
基準によって判断する。
c 求職活動実績の確認時等における積極的な職業紹介、職業相談の実施
(a) 認定時間の分散化等により、失業の認定日における受給資格者の職業紹介、
職業相談が確実に行えるよう必要な配慮を行い、認定日における積極的な職
業紹介に努める( 則第2 8 条の2 第2 項) 。
(b) 離職理由に基づく給付制限を受けている者については、初回講習等の実施
後できる限り早期に働きかけを行い、積極的な職業紹介、職業相談に努める
( 則第4 8 条) 。
(c) その他受給資格者の再就職意欲を常に喚起しつつ、ニーズに的確に対応し
た職業紹介、職業相談を行うよう努める。
(ロ) 求職活動の範囲
 求職活動実績として認められる求職活動は、就職しようとする積極的な意思を
具体的かつ客観的に確認し得る活動であることを要し、受給資格者と再就職の援
助者との間に、次のような就職の可能性を高める相互の働きかけがある活動及び
求人への応募等がこれに該当するものである。
このため、単なる、職業紹介機関への登録、知人への紹介依頼、安定所・新聞
・インターネット等での求人情報の閲覧等だけでは求職活動実績には該当しない。
a 安定所、( 船員を希望する者については、地方運輸局、船員雇用促進センタ
ー) 、許可・届出のある民間需給調整機関( 民間職業紹介機関、労働者派遣機
関をいう。以下同じ。) が行う職業相談、職業紹介等が該当するほか、公的機
関等( 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構、地方自治体、求人情報
提供会社、新聞社等) が行う求職活動に関する指導、個別相談が可能な企業説
明会等を含める。なお、受給資格者の住居所を管轄する安定所以外の安定所が
行う職業相談、職業紹介等を受けたことも当然に該当する。
b 求人への応募には、実際に面接を受けた場合だけではなく、応募書類の郵送、
筆記試験の受験等も含まれる。
ただし、書類選考、筆記試験、採用面接等が一の求人に係る一連の選考過程
である場合には、そのいずれまでを受けたかにかかわらず、一の応募として取
り扱う。
(ハ) 求職活動実績の基準を適用しない場合
a 次の場合は、(イ)の基準を適用せず、他に不認定となる事由がある場合を除き、
労働の意思及び能力があるものとして取り扱う。
(a) 安定所長の指示・推薦により公共職業訓練等を受講する場合、就職支援計
画に基づき求職者支援訓練を受講する場合、安定所の指導により各種養成施
設に入校する場合、公共職業訓練等や教育訓練給付の対象訓練等を受講して
いる場合及び則第1 1 5 条第4 号に基づく出向・移籍支援業務として実施され
る委託訓練・講習等を受講する場合であって、下記ニに照らし、労働の意思
及び能力があると認められる場合。
 ただし、当該訓練等を受け終わる日( 中途で取りやめる日を含む。) が含
まれる認定対象期間を除く。
 なお、当該訓練等を受け終わったことを1 回の求職活動実績とし、一の認
定対象期間から当該訓練等を受け終わる日を除いた期間が1 4 日未満の場合
は、当該1 回の求職活動実績で上記(イ)の基準を満たしたものとする。
 また、ここでいう「安定所長の指示・推薦により公共職業訓練等を受講し
ている場合」には、受講のために待期している期間( 5 2 3 5 3 ( 3 )参照) 及び変
更指示により前後の訓練等の間に生じる訓練等を受けない日( 5 2 3 5 4 ( 4 )参照)
を含む。
(b) 求人への応募に係る採否結果を得るまでに、一の認定対象期間の全期間を超えて
時間を要する場合の当該一の認定対象期間。
 なお、求人への応募に係る採否結果通知を受けたことを1 回の求職活動実
績とし、一の認定対象期間から採否結果通知を待っている期間( 採否結果通
知を得た日の前日まで)を除いた期間が1 4 日未満の場合は、当該1 回の求職
活動実績で(イ)の基準を満たしたものとする。
 また、本来、職業紹介と求人への応募は一体的なものであることから、以
上のような応募に係る採否結果を得るまでに期間を要する場合の取扱い及び
(イ)のa の(b)のⅳ については、安定所等から職業紹介を受けて応募した場合に
も同様とする。
b 次の場合は(イ)の基準を適用せず、失業の認定に係る手続きについてはそれぞ
れの取扱いに従って処理する。
(a) 審査若しくは訴訟の結果により、安定所の処分を変更し、遡及して一括認
定を行う場合( 5 1 4 5 1~ 5 1 5 0 0 参照)及び受給資格決定時に就職困難者である
か否か判明していない場合であって当該一括認定の取扱いに準じて取り扱う
場合( 5 0 3 0 4 ロ参照)
(b) 受給資格者が死亡により失業の認定を受けることができなかった期間に係
る基本手当の支給について、遺族の申請により失業の認定を行う場合( 5 3 1 0 1
~ 5 3 1 5 0 参照)
(c) 激甚災害時における求職者給付の支給の特例、災害時における求職者給付
の支給に関する特別措置に係る失業の認定を行う場合( 5 1 7 0 1~ 5 1 8 0 0 参照)
(d) 解雇の効力等について争いがある場合の失業の認定の場合( 5 3 3 0 2 参照。
 なお、5 3 3 0 5 に規定する本人の申出により条件付給付の取扱いから本給付の
取扱いへの変更を行った場合を除く。)
(e) 法第1 5 条第4 項第1 号又は第4 号に規定する理由により安定所に出頭す
ることができず失業の認定を証明書により行う場合( 当該理由により安定所
に出頭できなかった期間に限る。) ( 5 1 4 0 1 イ及びニ参照)
(ニ) 求職活動実績の確認方法等
a 自己申告に基づく判断
 求職活動実績については、失業認定申告書( 則様式第1 4 号)に記載された受
給資格者の自己申告に基づいて判断することを原則とし、求職活動に利用した
機関や応募先事業所の証明等( 確認印等) は求めない。
b サンプリングによる事実確認の調査
 各安定所ごとに、業務量等の実情を勘案して、サンプリング率( 1 % 程度を
目途) を設定し、利用した機関や応募先の事業所に問い合わせを行う等により
求職活動実績の確認を行う。
 この際、企業説明会など利用機関側で参加者個人を特定できないような場合
は、実施日・内容が一致していることの確認で足りる。また、応募先の事業所
で書類の廃棄等により応募した個人を特定できない場合等は、原則として受給
資格者の申告に基づき判断する。
 また、例えば、求職活動について虚偽の申告がなされている旨の通報があった場合
には、原則として確認を行うとともに、求職条件と申告された求職活動
内容に矛盾が見られる場合、記載漏れや誤記等が多い場合など、失業認定申告
書の記載内容に疑義がある場合にも必要に応じ同様の確認を行う。
 これらの確認の結果が受給資格者の申告と一致しないときは、受給資格者に
事実関係を確認し、申告が事実に反することが確認された場合は、失業の認定
の際の虚偽の申告として処理する。
c 求職活動実績に係る事実確認を行う旨の周知徹底
 失業認定申告書により申告のあった求職活動実績については、安定所から利
用した機関や応募先事業所への問い合わせ等により事実確認を行うことがあ
り、事実と相違する場合は不正受給として取り扱う旨、あらゆる機会を通じ、
受給資格者に対し周知徹底を図ること。
ハ 労働の意思又は能力があるかどうかの確認については、慎重に取り扱うべきもの
(イ) 妊娠、出産、育児、老病者の看護その他家事、家業手伝いのため退職した者
 この者は、離職理由そのものから一応労働の意思を失ったもの( 又は環境上職
業に就き得ない状態にあるもの) と推定される。
 ただし、短時間労働者に該当する被保険者となるような求職条件であればなお
就職可能である場合、当該退職が、母体保護、育児、看護その他家事、家業手伝
いに専念するためではなく、労働の意思能力とは関係がないと認められる他のや
むを得ない理由( 例えば通勤可能地域外への住居移転の必要) に基づくこと、又
は退職後( 通常相当期間を経過して) 退職の原因となった理由に変化のあったこ
とが確認された場合等であって、真に労働の意思又は能力があると認められる場
合はこの限りではない。
(ロ) 求職条件として短時間就労を希望する者
 雇用保険の被保険者となり得る求職条件( 2 0 3 0 3 ロ及びハに留意) を希望する
者に限り労働の意思を有する者と推定される。
(ハ) 内職、自営及び任意的な就労等の非雇用労働へ就くことのみを希望している者
 労働の意思を有する者として扱うことはできない。
ただし、求職活動と並行して創業の準備・検討を行う場合にあっては、その者
が自営の準備に専念するものではなく、安定所の職業紹介に応じられる場合には、
労働の意思を有する者と扱うことが可能であるので慎重に取り扱うこと。自営の
準備に専念するものか否かの判断については、5 0 1 0 2 ( 2 )ロ( 2 )参照。
(ニ) 職業指導を行ったにもかかわらず、特別の理由がないのに安定所が不適当と認
める職業又は不当と認める労働条件その他の求職条件の希望を固執する者
 この者は、一応労働の意思がないものと推定される。
これには次のような2 つの場合が考えられる。
a 安定所が適職又は適当な労働条件( 離職前の賃金より低い賃金の場合も含
む。) と認めるものを忌避し、未経験の職業又は不当に高い労働条件、その者
の学歴、経歴、経験その他の条件からみて無理な職業又は労働条件の希望を固
執する者
b 当該労働市場又は近隣の労働市場( 当該労働市場又は近隣の労働市場において、
就職が困難と認められる職種を希望する場合には、本人が具体的に移転就
職を希望する地域を含む。) においては、就職することがほとんど不可能と認
められる職種、労働条件その他の求職条件の希望を固執する者
(ホ) 循環的離職者は、離職前事業所以外の事業所への就職を希望していない場合に
は労働の意思があるものとは認められないものとし、ロの(イ)の求職活動の回数に
ついては、離職前事業所への求職活動を除いて2 回以上あることを確認する。
(へ) 老衰、疾病、負傷又は産前産後等本人に固有な精神的、肉体的諸原因により通
常のいかなる職業にも就くことができない( 適職なし)と認められる者であって、
公共職業訓練等を行う施設( 以下「訓練施設」という。) にも入校( 所) させる
ことができない者( 判定の困難な場合は、当該労働市場又は近隣の労働市場にお
いて、雇用されることの可能性の有無を考慮する。)
例えば、次のような者で医師の証明等により労働の能力のあることが立証でき
ない者であり、この者は、一応労働の能力がないものと推定される。
a 老衰の著しい者
b 高度又は悪質伝染性の疾病、負傷中の者
c 高度の身体障害により常に介護を要する者、労務に服することができない者、
又は特殊の技能を有するものでなければ、通常のいかなる職業にも就く能力が
ない( 適職なし) と認められる者であって、訓練施設にも入校( 所) させるこ
とのできない者
d 産前6 週間以内の女子及び産後8 週間以内の女子( 産後の場合は、医師の証
明のあるときは6 週間以内)
産前6 週間に至らない妊娠女子であっても、本人の身体の状況、当該労働市
場又は近隣の労働市場の通常の求人状況その他の事情を総合的に判断して、雇
用の可能性がないと認められる者は、労働の能力がないものとして取り扱う。
なお、妊娠の状況の確認は、主として母子健康手帳( いわゆる母子手帳) の提
示を求めること等によって行うこととし、確認に際しては、受給資格者の心証
を害さないよう十分慎重に注意することが必要である。
(ト) 労働者災害補償保険法の規定による休業補償給付その他これに相当する給付
( 5 3 0 0 3 ロ(ニ)に掲げるもの) の支給を受けている者
 この者については、一般に労働の能力がないものと判断されるが、一日のうち
一部の時間労働不能であることにより、労働基準法第7 6 条の規定による休業補
償、労働者災害補償保険法の規定による休業補償給付又は休業給付の支給を受け
ている者であって医師の証明等により被保険者となりうる条件での労働の能力の
あることが立証できる者はこの限りでない。
 なお、療養の状態が継続した期間が1 4 日以内の場合には、証明認定を行うこと
ができるので留意する。
(チ) 家事、家業又は学業等の都合により他の職業に就き得ない状態に在る者
例えば次のような者である。
a 乳幼児の保育、老病者の看護等のため、本人が家庭から離れられない事情に
ある者( ただし、乳幼児保育中の者については、その者の住所若しくは希望する求職
条件の職場の近隣又は通勤経路上の適当な場所に保育所等保育のための
施設又は親族等があり、その施設を利用し又は親族等に保育を依頼することが
でき、通勤も可能であると認められる場合を除く。)
b 結婚準備のため又は結婚生活のため他に就職し得ない事情にある者
c 農業、商業等家業の繁忙期に手伝いをする必要があるため、他に就職し得な
い事情にある者( 常時この状態にある者は、職業を有する者と認めるべきであ
る。)
d 昼間学生( 2 0 3 0 3 ホ(イ)から(ニ)に該当する者を除く。)
 この者は、一応労働の能力がないものと推定される
(リ) 所定の認定日に不出頭の者( 5 1 4 0 1~ 5 1 4 5 0 の証明認定による者を除く。)及び
職業紹介又は職業指導を受けるために安定所に出頭すべき呼出日等に不出頭の者
前回認定日不出頭の者及び呼出日等に不出頭の者( 以下「前回認定日等不出頭
者」という。) は今回の認定日に係る認定対象期間中は、一応労働の意思又は能
力がないものと推定される。
ただし、当該認定対象期間中に次のa からe までに該当する事実がある場合は
この限りではない。
a 就職( 安定所の紹介によると否とを問わない。)
b 求人者への応募
c 各種国家試験、検定等の資格試験の受験
d 安定所の指導による各種養成施設への入所又は各種講習の受講
e 安定所への出頭
 したがって、失業認定申告書の記載等によりこれらの事実が確認される場合に
は、今回の認定日に係る認定対象期間については、原則どおり当該認定対象期間
に属するそれぞれの日について、失業の状態にあったかどうかを確認し、失業の
認定又は不認定を行うものとする。
 また、これらの場合であっても、不出頭であった前回認定日又は呼出日の当日
については、原則として失業の不認定を行う。
 ただし、当該日について求人者との面接若しくは採用試験の受験の事実又は上
記c 若しくはd に該当する事実があることが明確に確認される場合はこの限りで
はない。
 なお、認定日における失業の認定は、当該認定日に係る認定対象期間について
のみ行い得るのであり、他の認定日に係る認定対象期間については行い得ないの
であるから、受給資格者が前回の認定日に出頭しなかった場合には、当該前回の
認定日に係る認定対象期間については、今回の認定日において、認定し得ない。
 また、前回認定日又は呼出日等に出頭できなかった状態が継続する場合の当該継
続する期間の失業の認定の取扱いについては、さらに(ヌ)参照。
(ヌ) 安定所に出頭することができない状態が継続する者
 次のa 又はb の場合以外の場合であって、安定所に出頭することができない状
態が継続した場合は、その期間が1 5 日以上であるときは、その期間のすべての日
について、労働の能力がないものとして失業の不認定を行う。
なお、出頭することができなかった期間に失業の認定日又は呼出日等が含まれ
る場合の失業の認定の取扱いについては、さらに(リ)参照。
a (リ)のa の理由により安定所に出頭することができない場合
就職している期間のすべての日について失業の不認定を行う。
b (リ)のb ~ d の理由及び法第1 5 条第4 項各号に該当する理由により安定所に
出頭することができない場合
その期間のすべての日について失業の認定を行い得る。
(ル) 妊娠、出産、育児等の理由により、受給期間が延長された者
受給期間が延長された者( 受給資格の決定を受けていた者に限る。) について
は、延長事由がやんだ後の最初の所定認定日において、延長事由がやんだ日の翌
日以後の失業の認定を行い得る。
 なお、延長事由の生じた日の直前の期間については、当該期間の所定認定日又
は認定日の変更により変更された認定日に本人が出頭した場合にのみ、失業の認
定を行い得る。
ニ 公共職業訓練等を行う施設等への入校( 所) 者等の取扱い
(イ) 安定所長の指示を受けずに公共職業訓練等を行う施設へ入校( 所) している者
は、原則として労働の意思及び能力があるものとして取り扱う。
(ロ) 各種養成施設へ入校( 所) した者については、その者が常に安定所の職業紹介
に応じられる状態であり、また自らも積極的に求職活動をしている場合には、失
業の認定を行うことができる。
(ハ) (イ)及び(ロ)における訓練等が長期にわたる場合には、その者の労働の意思及び能
力の有無の確認については慎重に行う。
ただし、受給資格者である身体障害者が、あん摩マッサージ指圧師、はり師、き
ゅう師等に関する法律第2 条第1 項にいう文部科学大臣の認定した学校又は厚生
労働大臣の認定した養成施設に入校( 所)した場合( 盲学校の本科を除く。)は、
当該養成訓練の期間が長期にわたる場合であっても、失業の認定を行って差し支
えない。
 なお、これらの者については、安定所長の指示により公共職業訓練等を受講す
る場合と異なり、法第1 5 条第4 項第3 号及び法第2 4 条の各規定は適用されない
ものであるので、留意する。
(ニ) 雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練として
厚生労働大臣が指定した教育訓練の受講は、就職の促進を図るために必要な職業
に関する教育訓練を受講するものであるので、原則として労働の意思及び能力が
あるものと取り扱うことができる。
 昼間通学制の場合等の対象教育訓練を受講する離職者に対する受給資格決定及び
失業の認定に当たっては、本人が常に安定所の職業紹介に応じられる状態であり、
また自らも積極的に求職活動をする意思があり、積極的に求職活動を行っている
ことが必要である。
 

 

 

 

以上で、雇用保険法第十五条を終了します。

 

 

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雇用保険とは何か? 8

2015年09月28日 10:32

逐条考察

第二節 一般被保険者の求職者給付

第一款 基本手当 

第十三条 (基本手当の受給資格)

 基本手当は、被保険者が失業した場合において、離職の日以前二年間(当該期間に疾病、負傷

その他厚生労働省令で定める理由により引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができな

つた被保険者については、当該理由により賃金の支払を受けることができなかつた日数を二

年に加算した期間(その期間が四年を超えるときは、四年間)。第十七条第一項において「算定対

象期間」という。)に、次条の規定による被保険者期間が通算して十二箇月以上であつたとき

に、の款の定めるところにより、支給する。

2 特定理由離職者及び第二十三条第二項各号のいずれかに該当する者(前項の規定により基本

手当の支給を受けることができる資格を有することとなる者を除く。)に対する前項の規定の適

用については、同項中「二年間」とあるのは「一年間」と、「二年に」とあるのは「一年に」

と、「十二箇月」とあるのは「六箇月」とする。

3 前項の特定理由離職者とは、離職した者のうち、第二十三条第二項各号のいずれかに該当

する者以外の者であつて、期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の

更新がないこと(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立

するに至らなかつた場合に限る。)その他のやむを得ない理由により離職したものとして厚生労

働省令で定める者をいう。

 

第十四条 (被保険者期間)

 被保険者期間は、被保険者であつた期間のうち、当該被保険者でなくなつた日又は各月にお

いてその日に応当し、かつ、当該被保険者であつた期間内にある日(その日に応当する日がな

い月においては、その月の末日。以下この項において「喪失応当日」という。)の各前日から各

前月の喪失応当日までさかのぼつた各期間(賃金の支払の基礎となつた日数が十一日以上である

ものに限る。)を一箇月として計算し、その他の期間は、被保険者期間に算入しない。ただし、

当該被保険者となつた日からその日後における最初の喪失応当日の前日までの期間の日数が十

五日以上であり、かつ、当該期間内における賃金の支払の基礎となつた日数が十一日以上であ

るときは、当該期間を二分の一箇月の被保険者期間として計算する。

2 前項の規定により被保険者期間を計算する場合において、次に掲げる期間は、同項に規定

する被保険者であつた期間に含めない。

一 最後に被保険者となつた日前に、当該被保険者が受給資格(前条第一項(同条第二項にお

いて読み替えて適用する場合を含む。)の規定により基本手当の支給を受けることができる資

格をいう。次節から第四節までを除き、以下同じ。)、第三十七条の三第二項に規定する高年

齢受給資格又は第三十九条第二項に規定する特例受給資格を取得したことがある場合には、

当該受給資格、高年齢受給資格又は特例受給資格に係る離職の日以前における被保険者であ

つた期間

二 第九条の規定による被保険者となつたことの確認があつた日の二年前の日(第二十二条第

五項に規定する者にあつては、同項第二号に規定する被保険者の負担すべき額に相当する額

その者に支払われた賃金から控除されていたことが明らかである時期のうち最も古い時期

として厚生労働省令で定める日)前における被保険者であつた期間

 

第一款 基本手当

 

則第十八条(法第十三条第一項の厚生労働省令で定める理由) 

 法第十三条第一項の厚生労働省令で定める理由は、次のとおりとする。

一 事業所の休業

二 出産

三 事業主の命による外国における勤務

四 国と民間企業との間の人事交流に関する法律第二条第四項第二号に該当する交流採用

五 前各号に掲げる理由に準ずる理由であつて、管轄公共職業安定所の長がやむを得ないと認めるもの

 

則第十九条 (受給資格の決定)

 基本手当の支給を受けようとする者(未支給給付請求者を除く。)は、管轄公共職業安定所に出

頭し、離職票に運転免許証その他の基本手当の支給を受けようとする者が本人であることを確

認することができる書類(当該基本手当の支給を受けようとする者が離職票に記載された離職の

由に関し異議がある場合にあつては、当該書類及び離職の理由を証明することができる書類)

添えて提出しなければならない。この場合において、その者が二枚以上の離職票を保管する

とき、又は第三十一条第三項若しくは第三十一条の三第三項の規定により受給期間延長通知書

の交付を受けているときは、併せて提出しなければならない。

2 管轄公共職業安定所の長は、前項の基本手当の支給を受けようとする者が第三十二条各号

に該当する場合において、必要があると認めるときは、その者に対し、その者が同号に該当す

る者であることの事実を証明する書類の提出を命ずることができる。

3 管轄公共職業安定所の長は、離職票を提出した者が、法第十三条第一項(同条第二項におい

て読み替えて適用する場合を含む。次項において同じ。)の規定に該当すると認めたときは、法

第十五条第三項の規定によりその者が失業の認定を受けるべき日(以下この節において失業の

認定日」という。)を定め、その者に知らせるとともに、受給資格者証に必要な事項を記載し

上、交付しなければならない。

4 管轄公共職業安定所の長は、離職票を提出した者が法第十三条第一項の規定に該当しない

と認めたときは、離職票にその旨を記載し、返付しなければならない。

 

第十九条の二 (法第十三条第三項の厚生労働省令で定める者)

 法第十三条第三項の厚生労働省令で定める者は、次のいずれかの理由により離職した者とする。

一 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないこと(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかつた場合に限る。)

二 法第三十三条第一項の正当な理由

 

則第二十条 (受給期間内に再就職した場合の受給手続)

 受給資格者は、法第二十四条第二項に規定する受給期間(以下「受給期間」という。)内に就職し

たときは、その期間内に再び離職し、当該受給資格に基づき基本手当の支給を受ける場合のた

めに、受給資格者証を保管しなければならない。

2 受給資格者は、受給期間内に就職し、その期間内に再び離職し、当該受給期間内に係る受

給資格に基づき基本手当の支給を受けようとするときは、管轄公共職業安定所に出頭し、その

保管する受給資格者証を離職票又は雇用保険被保険者資格喪失確認通知書に添えて提出しなけ

ればならない。この場合において、管轄公共職業安定所の長は、その者について新たに失業の

認定日を定め、受給資格者証に必要な改定をした上、返付しなければならない。

 

○基本手当とは何か。

 そもそも、基本手当とは何か考えてみます。雇用保険も「保険」ですから、保険契約(任意

か法による強制かは別にして)の存在、保険料の支払、保険事故、保険(金)の支払、特約等

が存在します。そして、法に定める「被保険者の失業」が主たる保険事故であることは間違い

ありませんし、基本手当とは、法の目的である「労働者が失業した場合に政府が行う必要な給

付」のなかの一つです。また、その給付目的は、労働者の失業中(一定期間に限る)の生活保

障に他なりません。 

 次に、基本手当の具体的な内容ですが、失業日あたりの日額という形式で事後に支払が行わ

れ、その額は、原則的に失業日前の直近の賃金締切日から6ヶ月間遡って支払われた賃金の平

均日額に給付率を乗じて得た額が支給されますが、最低保障日額及び限度額が設定されていま

す。

 参考までに言えば、平成27年8月1日現在の基本手当日額の限度額は次の通りです。

30歳未満 6,395円
30歳以上45歳未満 7,105円
45歳以上60歳未満 7,810円
60歳以上65歳未満 6,714円

出典:厚生労働省HP

 また、基本手当の最低保障額は、1840円です。

 

基本手当の給付率

60歳未満の受給資格者の給付率 H27.8.1からの賃金日額の範囲 60歳以上65歳未満の受給資格者の給付率 H27.8.1からの賃金日額の範囲
80% 2,300円以上4,600円未満 80% 2,300円以上4,600円未満
50~80% 4,600円以上11,660円以下 45~80% 4,600円以上10,500円以下
50% 11,660円超 45% 10,500円超

参考:リーフレット https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000091783.pdf

 

○基本手当の受給要件

 公的年金も同様ですが、被保険者であった者のすべてが基本手当を受給できるわけではな

く、その建付けは、他の公的制度と同様に非常に複雑なものとなっています。原則的に被保

険者であった者が公共職業安定所に出頭し、受給資格の認定を受けた後、待機期間及び給付

制限期間を経過した後の失業認定日に過去の失業日として認定を受けた日をまとめた合計額

が、事後的に支給されることとなります。

 

 基本手当の受給要件の詳細は、業務取扱要領の内容を引用します。

1 受給資格の決定及び被保険者期間
(1)受給資格及び受給資格者の意義
受給資格とは、法第13 条第1 項の規定により基本手当の支給を受けることができる資格をい
い、この受給資格を有する者を受給資格者という。
即ち、一般被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことの
できない状態にある場合で、算定対象期間に被保険者期間(50103 参照)が通算して12 か月
以上であったときに基本手当の支給を受けることができる。
この算定対象期間は、原則として、離職の日以前2 年間である(50151~50200 参照)。
なお、受給資格に係る離職理由が特定理由離職者又は特定受給資格者に該当する場合は、離職
の日以前の2 年間に被保険者期間が12 か月以上ないときは、離職の日以前1 年間に被保険者
期間が6か月以上であれば基本手当の支給を受けることができる(特定理由離職者の範囲につ
いては50305-2、特定受給資格者の範囲については50305 参照)。
この場合における算定対象期間は、原則として離職の日以前1 年間である。
高年齢継続被保険者、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者のそれぞれの給付を受ける
ことができる資格を有する者は、受給資格者と呼ばない。
また、基本手当の受給を終了し、支給残日数がなくなった者は、受給資格者ではない。
2)受給資格の決定
イ 受給資格の決定とは、安定所長が離職票を提出した者について、基本手当の支給を受けるこ
とができる資格を有する者であると認定することをいう。
すなわち、次の3 つの要件を満たしている者であると認定することである。
(イ) 離職による資格喪失の確認を受けたこと
(ロ) 労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあること
(ハ) 算定対象期間(原則として離職の日以前2 年間(受給資格に係る離職理由が特定理由離職者
又は特定受給資格者に該当する場合は2 年間又は1 年間)。疾病、負傷等による受給要件の緩
和について、50151~50200 参照)に、被保険者期間が通算して12 か月(受給資格に係る離職
理由が特定理由離職者又は特定受給資格者に該当する場合は12 か月又は6 か月)以上あること
なお、2 枚以上の離職票を提出すべき者に係るこの要件の判断については、50104 を参照する
こと。
受給資格者が受給資格の決定を受けるには、安定所に出頭し、求職の申込みをしなければなら
ない(法第15 条第2 項、則第19 条第1 項)。
なお、受給期間(50251 参照)を経過した者については、受給資格の決定を行うことはできな
い(50205 参照)。
ロ 受給資格の決定に当たっては、次の点に留意する。
(イ) 特別の理由がないのに本人に不適当な労働条件その他の不適当な求職条件の希望を固執す
る者については、労働の意思及び能力の有無の判定を慎重に行う。
(ロ) 妊娠、出産、育児、老病者の看護その他家事家業の手伝いのために退職した者について
は、労働の意思及び能力の有無の判定を慎重に行って、受給資格の決定を行う
なお、妊娠、出産、育児等の理由で退職した者で、労働の意思又は能力がないと判定した者
については、受給期間の延長(50261 参照)の制度がある旨の説明を行い、希望する場合は所
要の申請手続をとるよう指導する。
(ハ) 求職条件として短時間就労のみを希望する者については、雇用保険の被保険者となり得る
求職条件(20303 ロ及びハに留意)を希望する者に限り労働の意思を有するものとして扱う。
なお、自己の都合により退職し、短時間労働者に該当する被保険者となるような求職条件の
みを希望する受給資格者については、妊娠、出産、育児、老病者の看護その他家事又は家業の
手伝い、加齢等による当人の肉体的能力の減退等が退職の原因となっていることが比較的多い
ので、このことに十分留意の上、51254 のハにより慎重な判断を行う。
(ニ) 内職、自営及び任意的な就労等の非雇用労働へ就くことのみを希望している者について
は、労働の意思を有するものとして扱うことはできない。
ただし、求職活動と並行して創業の準備・検討を行う場合にあっては、その者が自営の準備
に専念するものではなく、安定所の職業紹介に応じられる場合には、受給資格決定を行うこと
が可能となるので留意すること。
ここで、自営業の開業に先行する準備行為であって事務所の設営等開業に向けた継続的性質
を有するものを開始した場合は、原則として、自営の準備に専念しているものと取り扱うこと。
一方で、事業許可取得のための申請手続、事務所賃借のための契約手続等の諸手続(当該諸手
続のための書類の作成等の事実行為を含む。)を行っているに過ぎないような場合は、その行
為が求職活動の継続と両立しないようなものでないかどうかについて、個別具体的な事情を勘
案して判断すること。
(ホ) 離職し、被保険者資格を喪失した者であっても、当該離職前からの雇用関係、委任関係又
は自営業を継続すること等により受給資格の決定の際に就職状態(51255 参照)にある場合
には、受給資格の決定を行うことはできない。
また、求職申込み前の契約等に基づき求職申込み後にも就労する予定がある者については、
受給資格の決定の際に就職状態(51255 参照)にない場合であっても、労働の意思及び能力を
慎重に確認しなければ受給資格の決定は行えない。
(ヘ) 受給資格の決定を受けようとする精神障害者については、障害者担当の職業相談部門と十
分に連携した上で、週平均で20 時間以上の就労を希望し、実際に就労が可能と総合的に判断
できる場合には、受給資格の決定を行って差し支えない。
(ト) 労働の意思又は能力がないと認めて受給資格の否認を行う場合(50203 参照)には、雇用
保険審査官に対して審査請求をすることができる旨を教示する。教示を行うに当たっては、あ
らかじめその旨を記載したゴム印を作成して、これによることとしても差し支えない。
(チ) 船員であった者については、船員以外の求人を希望している受給資格者であっても地方運
輸局は拒否することなく、受給資格の決定を行った上で原則として受給資格者の住所を管轄す
る安定所に委嘱(51501 参照)を行い、船員の求人を希望している受給資格者であっても安定所
は拒否することなく、受給資格の決定を行った上で原則として受給資格者の住所を管轄する地
方運輸局に委嘱を行うこと。
(リ) 地方運輸局については、受給資格の確認に疑義が生じた場合は即座の判断ができず、労働
局を介して過去の被保険者であった期間等の確認を行うことから、当該本人に対して、労働局
への照会の結果によっては受給できない場合もあり得ることから、次回来所日までに決定内容
を通知する旨を伝える必要がある。
50103(3)被保険者期間
イ 被保険者期間の計算方法
(イ) 被保険者期間は、被保険者が離職した日の翌日又は各月においてその日に応当し、かつ、
当該被保険者であった期間内にある日(その日に応当する日がない月においては、その月の末
日。以下「喪失応当日」という。)の各前日から各前月の喪失応当日までさかのぼった各期間
(賃金の支払の基礎となった日数が11 日以上あるものに限る。)を1 か月として計算する
(法第14 条第1 項)。
すなわち、被保険者として雇用された期間を、資格の喪失の日の前日からさかのぼって1 か
月毎に区切って行き、このように区切られた1 か月の期間に賃金支払基礎日数が11 日以上あ
る場合に、その1 か月の期間を被保険者期間の1 か月として計算する。また、このように区切
ることにより1 か月未満の期間が生ずることがあるが、その1 か月未満の期間の日数が15 日
以上あり、かつ、その期間内に賃金支払基礎日数が11 日以上あるときに、その期間を被保険
者期間の2 分の1 か月として計算する。

※なお、具体的な被保険者期間の認定の事例については、業務取扱要領を参照

(4)2枚以上の離職票の提出があった場合の受給資格決定の要領
離職票を提出した者が、2 枚以上の離職票を提出すべき者である場合は、当該離職票の他に何枚
の離職票を所持(離職票の交付を受けていない場合を含む。)しているかについて、センター
はその枚数を通知する。安定所は通知された枚数と提出された枚数が一致しない場合は、残り
の提出すべき離職票を提出するよう指導し、次の要領により受給資格の決定を行う(50103 イ
(ロ)参照)(法第13 条第1 項、同第14 条第2 項、同第20 条第3 項)。
イ 2 枚の離職票を提出して求職の申込みを行った者については、前後の離職票が単独で受給資
格を満たしているか否かにかかわらず、後の離職票の離職理由を判定した上で、原則として離
職の日以前2 年間(受給資格に係る離職理由が特定理由離職者又は特定受給資格者に該当する
場合は2年間又は1 年間)について、順次遡って被保険者期間が12 か月(受給資格に係る離職
理由が特定理由離職者又は特定受給資格者に該当する場合は12 か月又は6 か月)となるまで通
算することとする。
ロ 3 枚以上の離職票を提出した者についても、上記イと同様、最後の離職票に係る離職理由を
判定した上で順次遡って通算する。
(5) 船員であった者が陸上勤務者(陸上勤務者であった者が船員)になった後に離職
した場合の被保険者期間の算定方法
雇用保険の被保険者であった期間のうち、喪失日(離職日の翌日)又は各月においてその日に
応当し、かつ、当該被保険者であった期間内にある日(応答する日がない場合はその月の末
日)の各前日から各前月の喪失応当日までさかのぼった期間を1 か月として計算することにな
るが、雇用形態が船員であった被保険者であった者が、同一事業主のもとで1 日の空白もなく
陸上勤務者となった場合における被保険者期間の算定ついては、取得時より陸上勤務者であっ
たものとみなした上で(雇用形態が陸上勤務者であった者が、同一の事業主のもとで1 日の空
白もなく船員となった場合における被保険者期間の算定については、取得時より船員であった
ものとみなした上で)、さかのぼって被保険者期間を算定する。
(7)日雇の受給資格調整を受けた者の受給資格の決定
法第56 条第1 項又は法第56 条の2 第1 項の規定による受給資格の調整の措置の適用を受けた旨
の申出のあった者について、受給資格の決定を行う場合は、次に留意する(90804 参照)。
イ その者が所持している受給資格の調整を受けた旨の記録のある日雇労働被保険者手帳の提出
を求め、受給資格の調整を受けた結果、法第56 条第1 項の規定により被保険者期間として計算
できる年月又は法第56 条の2 第1 項の規定により被保険者であった期間とみなせる期間につい
て確認する。
ロ 提出された日雇労働被保険者手帳の記録事項について不審のあった場合又は手帳を紛失した
ため提出できない等受給資格の調整を行うため、その事実の確認ができない場合は、受給資格
の調整の申出をした者に、氏名、生年月日、受給資格の調整を受けた年月日、安定所名、受給
資格の調整措置を受ける年月及び当該措置を受けるに至った事業所の所在地、名称を聴取し、
速やかに当該措置の確認を行った安定所に対し、必要事項の確認を文書により求める。
ハ 受給資格の調整を行い得ると確認できるときは、適宜の用紙に次の事項を記載して離職票の
裏面に貼付しておく。
(イ) 受給資格の調整を受け得る旨の確認を行った年月日及び安定所名並びに提出された手帳の
交付番号及び交付安定所名
(ロ) 法第56 条第1 項によって被保険者期間として計算できる年月又は法第56 条の2 第1 項に
よって被保険者であった期間とみなした期間
(ハ) 法第56 条第1 項によって被保険者期間として計算できる年月別に貼付された雇用保険印紙
の種類別枚数、又は法第56 条の2 第1 項によって被保険者であった期間とみなした期間につい
て、賃金月(50601 イ参照)別に貼付された雇用保険印紙の種類別枚数
(ニ) 50701 によって計算して得た当該月又は当該賃金月に支払われたとする賃金額
(8)船員に係る被保険者期間の通算(船員保険制度の雇用保険への統合に伴う経過措置)
イ 平成22 年1月1日より船員保険制度(失業部門)が雇用保険制度に統合されることに伴い、
経過措置として、施行日(平成22 年1月1日)の前日において「旧船員保険法の規定による被
保険者であった者」については、施行日に雇用保険の被保険者資格を取得するとされており
(19年改正法附則第35 条及び第36 条)、これにより雇用保険の被保険者資格を取得した者
については、施行日前の「船員保険の被保険者であった期間」は「雇用保険の被保険者であっ
た期間」とみなすこととされている(19 年改正法附則第37 条)。
また、施行日前に船員保険の被保険者であったことがある者が、施行日以後に雇用保険の被保
険者資格を取得した場合において、当該雇用保険被保険者資格を取得した日の直前の「船員保
険の被保険者資格を喪失した日(離職日の翌日)」が「当該雇用保険被保険者資格を取得した
日」前1年の期間内にあるときは、施行日前の「船員保険の被保険者であった期間」は「雇用
保険の被保険者であった期間」とみなすこととされている(雇用保険法等の一部を改正する法
律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令(平成21 年政令第296 号。以下
「21 年政令」という。)附則第60 条)。
ただし、上記の場合(19 年改正法附則第37 条、または21 年政令附則第60 条により「雇用保険
の被保険者であった期間」とみなす場合)において、以下に該当する「船員保険の被保険者で
あった期間」については、「雇用保険の被保険者であった期間」とはみなさないので留意する
こと
(21 年政令附則第46 条第1号から第3号及び附則第60 条第1号から第3号)。
(イ) 船員保険において被保険者である期間(旧船員保険法における「被保険者タリシ期間」)と
されない期間(旧船員保険法第33 条の3第4項各号に該当するもの)
(ロ) 「施行日前の船員保険の被保険者であった期間」に係る被保険者資格を取得した日の直前の
「船員保険の被保険者の資格を喪失した日」が当該船員保険の被保険者資格を取得した日前1
年の期間内にないときは、当該直前の船員保険の被保険者資格を喪失した日前の船員保険の被
保険者であった期間
(ハ) 船員保険における失業保険金の支給を受けたことがある者については、当該失業保険金を
受けることができる資格に係る離職の日以前の被保険者であった期間
なお、歴月の12 月をもって1年、暦日の30 日をもって1月とする。
上記のとおり、「雇用保険の被保険者であった期間」とみなされる「船員保険の被保険者であ
った期間」については、以下の例示1~3を参照すること。
また、船員についての被保険者であった期間については、取得日、離職日も含め、システムに
より、船員保険被保険者台帳照会(ハローワークシステム業務処理要領(以下「センター要
領」という。)第12「船員被保険者台帳関係」参照)を行い確認すること。
 
○まとめ
 雇用保険の受給手続については、本人が離職者の住所地を管轄する公共職業安定所に出向い
て、離職票を提出し、担当官から説明を受けることが最も適切ですが、ここでは概略を記述し
ます。
 
1.受給資格の決定を受け、受給資格者証の交付を受ける。
 安定所に出向いた後は、「受給資格の決定のための受給要件及び労働の意思能力の確認、失
業の認定」を担当者にしてもらいます。ところで、民間の保険では、保険会社の担当者に電話
して以後は、その担当者が手続を行ってくれますが、雇用保険では「管轄公共職業安定所に出
頭し、離職票に運転免許証その他の基本手当の支給を受けようとする者が本人であることを確
認することができる書類(当該基本手当の支給を受けようとする者が離職票に記載された
離職の理由に関し異議がある場合にあつては、当該書類及び離職の理由を証明するこ
とができる書類)を添えて提出しなければならない。(則第十九条)」とされているとおり、
安定所に出頭せよと規定されています。労働者(被保険者)も保険料を支払っている筈です
が、随分民間と違うものだと思います。
 そして、受給資格があること及び「労働の意思及び能力があるにも拘わらず職業に就けない
状態にあること」の確認がされれば、受給資格証(何種類かある)が交付されます。
 なお、「高年齢受給資格者及び特例受給資格者」は、ここで言う受給資格者ではありません。
 
2.一般被保険者の受給資格の内容
 「離職の日以前2年間に、被保険者期間(※補足2)が通算して12か月以上あること。

 ただし、特定受給資格者又は特定理由離職者については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可。」とされています。

※補足2 被保険者期間とは、雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1か月ごとに区切っていた期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1か月と計算します。

※出典:ハローワーク・インターネットサービス

 https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html

 

受給資格の概要

 a 離職の日以前2年間に「被保険者期間」が通算して12ヶ月以上あること。

   ただし、受給資格に係る離職理由が特定理由離職者又は特定受給資格者に該当する場合

  は、離職の日以前の2 年間に被保険者期間が12 か月以上ないときは、離職の日以前1 年

  間に被保険者期間が6か月以上であれば基本手当の支給を受けることができる(特定理由

  離職者の範囲については業務取扱要領を参照)。

 (1)被保険者期間

   イ 被保険者期間の計算方法

     被保険者期間は、被保険者が離職した日の翌日又は各月においてその日に応当し、
   かつ、当該被保険者であった期間内にある日(その日に応当する日がない月において
   は、その月の末日。以下「喪失応当日」という。)の各前日から各前月の喪失応当日
   までさかのぼった各期間(賃金の支払の基礎となった日数が11 日以上あるものに限
   る。)を1 か月として計算する(法第14 条第1 項)。
   すなわち、被保険者として雇用された期間を、資格の喪失の日の前日からさかのぼって
   1 か月毎に区切って行き、このように区切られた1 か月の期間に賃金支払基礎日数が11
    日以上ある場合に、その1 か月の期間を被保険者期間の1 か月として計算する。また、
   このように区切ることにより1 か月未満の期間が生ずることがあるが、その1 か月未満
   の期間の日数が15 日以上あり、かつ、その期間内に賃金支払基礎日数が11 日以上ある
   ときに、その期間を被保険者期間の2 分の1 か月として計算する。 

※詳細は、業務取扱要領を参照。

 

(2)算定対象期間

    上記の(1)の被保険者期間(1ヶ月単位)の存在をみる期間を言います。

   なお一~五の期間がある場合は、その期間を除外して算定対象期間が延長されます。

   「当該期間に疾病、負傷その他厚生労働省令で定める理由により引き続き三十日

    以上賃金の支払を受けることができなかつた被保険者については、当該理由により

    賃金の支払を受けることができなかつた日数を二年に加算した期間」(最長4年) 

   一 事業所の休業

  二 出産 

  三 事業主の命による外国における勤務 

  四 国と民間企業との間の人事交流に関する法律第二条第四項第二号に該当する

    交流採用 

  五 前各号に掲げる理由に準ずる理由であつて、管轄公共職業安定所の長がやむを得な

    いと認めるもの

    (則第十八条)

  (3)基本手当の受給資格確認の際、被保険者期間に算入しない期間

    ア 受給資格を得た場合のそれ前の被保険者期間

    (前回の受給資格、高年齢受給資格又は特例受給資格を得た時点前の被保険者であつ

     た期間)  

    イ 被保険者資格確認のあった日前2年間を超える期間

     ※事業主が被保険者の資格取得届を出していなかった場合で、離職後に基本手当の

      受給申請を行うと、離職日から遡り2年を超える期間は、被保険者期間に算入し

      てくれません。

 

 

 

 

以上で雇用保険法第十三条、第十四条を終わります。   

 

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雇用保険とは何か? 7

2015年09月23日 11:07

逐条考察

第十条の三 (未支給の失業等給付)

 失業等給付の支給を受けることができる者が死亡した場合において、その者に支給されるべ

失業等給付でまだ支給されていないものがあるときは、その者の配偶者(婚姻の届出をし

ていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)、子、父母、孫、祖父

母又は兄弟姉妹であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの

は、自己の名で、その未支給の失業等給付の支給を請求することができる。

2 前項の規定による未支給の失業等給付の支給を受けるべき者の順位は、同項

に規定する順序による。

3 第一項の規定による未支給の失業等給付の支給を受けるべき同順位者が二人

以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものと

みなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。

 

第十条の四 (返還命令等)

 偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合には、政

は、その者に対して、支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ず

ることができ、また、厚生労働大臣の定める基準により、当該偽りその他不正の

行為により支給を受けた失業等給付の額の二倍に相当する額以下の金額を納付す

ることを命ずることができる。

2 前項の場合において、事業主、職業紹介事業者等(職業安定法(昭和二十二年法

第百四十一号)四条第七項に規定する職業紹介事業者又は業として同条第四項に

規定する職業指導(職業に就こうとする者の適性、職業経験その他の実情に応じて行

うものに限る。)を行う者(公共職業安定所その他の職安定機関を除く。)をいう。

以下同じ。)又は指定教育訓練実施者(第六十条の二第一項に規定する厚生労働大臣

指定する教育訓練を行う者をいう。以下同じ。)が偽りの届出、報告又は証明をし

めその失業等付が支給されたものであるときは、政府は、その事業主、職業

紹介業者等又は指定教訓練実施者に対し、その失業等給付の支給を受けた者と

連帯して、前項の規定による失業等給付の返還又は納付を命ぜられた金額の納付を

することを命ずることができる。

3 徴収法第二十七条及び第四十一条第二項の規定は、前二項の規定により返還又

付を命ぜられた金額の納付を怠つた場合に準用する。

 

第十一条 (受給権の保護)

 失業等給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができ

い。

 

第十二条 (公課の禁止)

 租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として課するこ

できない。

 

則第十七条の二 (未支給失業等給付の請求手続)

 法第十条の三第一項の規定による失業等給付の支給を請求しようとする者(以下「未支給給

付請求者」とい う。)は、死亡した受給資格者、高年齢受給資格者、特例受給資格

者、日雇受給資格者又は就職促進給付、教育訓練給付金若しくは雇用継続給付の支給を

受けることができる者(以下この節において「受給資格者等」という。)が死亡した日の

翌日から起算して六箇月以内に、未支給失業等給付請求書(様式第十号の四)に当該受給

資格者等の死亡の事実及び死亡の年月日を証明することができる書類、未支給給付請求者と死

した受給資格者等との続柄を証明することができる書類並びに未支給給付請求者が死亡した

受給資格者等と生計を同じくしていたことを証明することができる書類を添えて死亡者に係る

公共職業安定所の長に提出しなければならない。この場合において、当該失業等給付が次の各

号に該当するときは、当該各号に掲げる失業等給付の区分に応じ、当該各号に定める書類を添

えなければならない。

一 基本手当 死亡した受給資格者の雇用保険受給資格者証(様式第十一号。以下「受給資格者証」という。)

二 高年齢求職者給付金 死亡した高年齢受給資格者の雇用保険高年齢受給資格者証(様式第十一号の二。以下「高年齢受給資格者証」という。)

三 特例一時金 死亡した特例受給資格者の雇用保険特例受給資格者証(様式第十一号の三。以下「特例受給資格者証」という。)

四 日雇労働求職者給付金 死亡した日雇受給資格者の日雇労働被保険者手帳(様式第十一号の四。以下「被保険者手帳」という。)

五 教育訓練給付金 死亡した教育訓練給付金の支給を受けることができる者の被保険者証

六 就職促進給付 死亡した受給資格者等の受給資格者証、高年齢受給資格者証、特例受給資格者証又は被保険者手帳

2 前項後段の場合において、前項各号に定める書類を提出することができないことについて正当な理由があるときは、当該書類を添えないことができる。

3 未支給給付請求者は、未支給失業等給付請求書を提出するときは、死亡した受給資格者等が失業等給付の支給を受けることとした場合に行うべき届出又は書類の提出を行わなければならない。

4 未支給給付請求者は、この条の規定による請求(第四十七条第一項(第六十五条、第六十五条の五、第六十九条及び第七十七条において準用する場合を含む。)に該当する場合を除く。)を、代理人に行わせることができる。この場合において、代理人は、その資格を証明する書類に第一項及び前項に規定する書類を添えて第一項の公共職業安定所の長に提出しなければならない。

 

則第十七条の三 (未支給失業等給付の支給手続)

 死亡者に係る公共職業安定所の長は、未支給給付請求者に対する失業等給付の支給を決定し

たときは、その日の翌日から起算して七日以内に当該失業等給付を支給するものとする。

 

則第十七条の四 (未支給失業等給付に関する事務の委嘱)

 死亡者に係る公共職業安定所の長は、未支給給付請求者の申出によつて必要があると認めるときは、その者について行う失業等給付の支給に関する事務を他の公共職業安定所長に委嘱することができる。

2 前項の規定による委嘱が行われた場合は、当該委嘱に係る未支給給付請求者について行う失業等給付に関する事務は、第一条第五項第五号の規定にかかわらず、当該委嘱を受けた公共職業安定所長が行う。

3 前項の場合における前二条の規定の適用については、これらの規定中「死亡者に係る公共職業安定所」とあるのは、「委嘱を受けた公共職業安定所」とする。

 

則第十七条の五 (失業等給付の返還等)

  法第十条の四第一項又は第二項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額を徴収する場合には、都道府県労働局労働保険特別会計歳入徴収官(次条において「歳入徴収官」という。)は、納期限を指定して納入の告知をしなければならない。

2 前項の規定による納入の告知を受けた者は、その指定された納期限までに、当該納入の告知に係る金額を日本銀行(本店、支店、代理店及び歳入代理店をいう。)又は都道府県労働局労働保険特別会計収入官吏(第十七条の七において「収入官吏」という。)に納入しなければならない。

 

 

則第十七条の六 

 歳入徴収官は、法第十条の四第三項において準用する労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号。以下「徴収法」という。)第二十七条第二項の規定により督促状を発するときは、同条第一項の規定により十四日以内の期限を指定しなければならない。

 

 

則第十七条の七 

 法第十条の四第三項において準用する徴収法第二十七条第三項の規定により滞納処分のため財産差押えをする収入官吏は、その身分を示す証明書(様式第十一号の五)を携帯し、関係者に提示しなければならない。

 

○未支給の失業等給付

参考資料(厚生労働省):URL https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000042483.pdf

 

1.未支給の失業等給付(例えば基本手当)とは、何か?

 未支給の失業等給付とは、法第十条の三に規定されているとおり、「失業等給付の支給を受

けることができる者が死亡した場合において、その者に支給されるべき失業等給付でまだ支給

されていないもの」を言います。ところで、なぜ未支給の給付が起きるのかというと、例えば

前回の失業認定日から次回の失業認定日の間に受給権者が死亡すると、次の認定日に失業の認

定を受けることが出来ません。そして、失業認定日と次回の失業認定日の間は、4週間ありま

す。そのため、前回の失業認定日から、次回の失業認定日の間に受給資格者が死亡し、かつ、

基本手当等を受給することができる失業日がある場合には、本人が失業認定や失業等給付を受

けることができません。そこで、一定の遺族の中の一人が、本人に代わって本人がまだ受給し

ていない部分の失業等給付相当額を受けとることができます。

 

2.未支給の失業等給付を請求できる遺族

 未支給の失業等給付を請求できる遺族は、死亡した受給権者と死亡当事に生計を同じくして

いた、配偶者(事実婚を含む)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹のうち、優先順位の高い

者が未支給保険給付の受給権者となり、自分の名前(自己の権利として)で請求することがで

きます。

 ところで、事実婚とは、「同居している者(現行法では、死亡した者の異性に限られる。)

であって、当事者間に社会通念上夫婦としての共同生活と認められる事実関係が存在する」状

態であると通達されています。そして、この法第十条の三に規定された、「生計同一の遺族」

は民法の相続の規定とは、別の概念です。具体的には、「生計を同じくする」とは、「 生 計

 の 全 部 又 は 一 部 を 共 同 計 算 す る こ と に よ っ て 日 常 生 活 を 営 む グ ル ー プ

 の 構 成 員 で あ っ た と いう こ と で あ る 。 し た が っ て 、 生 計 を 維 持 さ れ て 

い た こ と を 要 せ ず 、 ま た 、 必 ず し も 同 居 し て い た こ と を 要 し な い 。 生 

計 を 維 持 さ せ て い た 場 合 に は 生 計 を 同 じ く し て い た も の と 推 定 し て 差 

し 支 え な い 。(厚生労働省業務取扱要領より引用)」とされています。

 ※具体的には、大学の近くのアパートに暮らして受給資格者の父と別居していた子が、アルバイト

 及び父からの仕送りで生活していた場合の子などが別居の生計維持に相当する、すなわち生計を同

 じくしていたと考えられます。また別のケースとして、死亡した夫と同居していたパート勤務の妻

 は、同様に生計を同じくしていたと考えられます。

 また、同順位者(子や兄弟など)が複数いる場合には、その内の一人がした未支給給付の請

求は、全員のために全額を行ったものとみなすとしています。

 

3. 未支給失業等給付の請求手続の詳細

 未支給失業等給付の手続の詳細は、則第十七条の二及び同第十七条の三、第十七条の四に詳細に

規定されています。ここでは、その詳細は割愛します。

 

参考:厚生労働省業務取扱要領(抜粋)

URL https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000044461.pdf

 

○不正受給

 不正受給は、雇用保険の管掌者である国から、保険給付金等を騙し取る行為です。場合に

より、刑法第246条の詐欺罪の構成要件を満たすことも考えられます。そして、既遂の場合

には受け取った給付の返還命令を政府の名で(実際には、「都道府県労働局労働保険特別会

計歳入徴収官」が行う。)行うことが出来ます。そして、最大で不正受給額の二倍の額以下

の金額以下の額の金員を納付すべきことを命ずることができます。

 また、事業主、職業紹介事業者等又は指定教育訓練実施者が偽りの届出、報告又は証明

したために不正受給が行われた場合には、そのその事業主、職業紹介事業者等又は指定教育

訓練実施者に対し、その失業等給付の支給を受けた者と連帯して、不正受給をした金額およ

び納付を命じた金額を合わせて納付すべきことを命ずることができるとされています。

 徴収法の規定の準用により、歳入徴収官は督促、差し押さえ(国税にならって)の執行を

行うことができます。

※これらの不正受給額の二倍以下の賦課金の納付命令は、いわゆる行政罰に相当すると考え

られます。

 

参考:労働保険の保険料の徴収等に関する法律

第二十七条 (督促及び滞納処分)
  労働保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しない者があるときは、政府は、期限を指定して督促しなければならない。
2 前項の規定によつて督促するときは、政府は、納付義務者に対して督促状を発する。この場合において、督促状により指定すべき期限は、督促状を発する日から起算して十日以上経過した日でなければならない。
3 第一項の規定による督促を受けた者が、その指定の期限までに、労働保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、政府は、国税滞納処分の例によつて、これを処分する。
 
第四十一条(時効)
  労働保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
2 政府が行なう労働保険料その他この法律の規定による徴収金の徴収の告知又は督促は、民法(明治二十九年法律第八十九号)第百五十三条の規定にかかわらず、時効中断の効力を生ずる。
 

○受給権の保護

 雇用保険の受給権は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができないとされてい

ます。

 

○課税の禁止

 雇用保険の給付は、非課税とされています。蛇足ですが、公的年金給付(老齢厚生(共済)

年金等)は、一定額を超えた場合、雑所得に該当し課税される場合があります。

 

 

 

以上で、雇用保険法第十条の三~第十二条を終了します。

 

 

 

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NHKの番組で、今般の安保法案に関する番組を放送していました。

2015年09月21日 12:09

NHKの番組で、安全保障に関する番組を行っていました。

内容     ※⇒以下は、自著です。私が、正論を記述しています。

1.日本を取り巻く安全保障環境が変化して、今般の関連法案の成立が必要であった。

(政府の立法事実の説明と同趣旨)。

2.立憲主義についての国民の関心が高まった。

⇒立憲主義とは、国民個々(元最高裁長官や憲法学者や元内閣法制局長官を含め)の各々の憲法に関する解釈で、他者(例えば現政府や与党)の行為を違憲無効と主張することではない。また、政府の憲法の規定に関する見解の変更を以って、立憲主義の否定であると批判することでもない。立憲主義とは、唯一憲法に関する適合性を決定する権限を有する裁判所(最高裁判所)の憲法に関する判断を尊重し、以って憲法を擁護することをいう。また、憲法を改正すべきという主張を持った者(公務員等)が憲法第九十九条の憲法擁護の規定に反するわけでもない。すなわち、「護憲」とは憲法の改正を一切しないということではなく、最終的に裁判所が示した憲法の趣旨(解釈)を犯さないということである。なぜなら、そもそも憲法第九十六条において、憲法の改正に関する規定がおかれ、その制定時からすでに将来の憲法改正を予定しているからである。

3.立法事実の説明で、政府はホルムズ海峡の機雷掃海や邦人を輸送する米艦警備の必要性を当初訴えたが、のちに答弁が変わった。従って、立法事実の存在が曖昧である。

⇒これは、誤報道である。立法事実は、日本を取り巻く安全保障環境の変化、切れ目のない国防体制の構築の必要性、PKO任務に付随するPKO実施地域近隣での邦人警護の必要性等である。米艦警護の必要性は、邦人輸送時に限らないと答弁を変更したが、その必要性はすでにミサイル防衛の事例でも記述した。

4.法案成立前後の国会議事堂周辺等の法案反対デモ等について、その意義や民意について、政府や与党はそれらの法案反対者の意見を斟酌したか否か。

⇒過日記述したが、デモや実力行使(もしくは軍事力)で国の政策を決定する方法は、一般に「革命」と呼ばれる政治手法で、議会制民主主義の手法をまっこうから否定する政治手法と言える。

5.違憲裁判については、最高裁は統治論や原告の利益の有無により、判断をしない可能性がある。

⇒今般の法律に反対する立場の者は、裁判所に提訴の上、集団的自衛権が違憲である旨の理由を明確に示し、また、原告の利益を本法(自衛隊関連の既存法の改正及び新法)により侵害され、法益の保護の必要があることをきちんと裁判で主張し、「集団的自衛権が違憲であり、本法が無効であるという」裁判所の判断を示してもらう必要がある。そして、最終的には最高裁判所の集団的自衛権違憲の判断を勝ち取る必要がある。立憲主義の立場上、憲法適合判断権が最終的に最高裁判所にあると規定されていることを踏まえ、憲法学者、元最高裁判所、元内閣法制局長官らが、違憲であるという主張を行っていることを本法が違憲無効であるとの主張の根拠にすべきでない。なぜなら、それは憲法の規定を軽視している主張であるからである。 

6.今般の法案は多くの法の改正と新法という構成になっており、国民の理解がすすまない要因となっている。

⇒軍隊のルールは、一般にネガティブリストと呼ばれ、禁止される行為を規定している。従って、必要があれば、司令官等の命令により禁止行為以外のあらゆる措置をとれることとなる。他方、自衛隊のルール(ポジティブ・リスト)は、その生い立ちが警察に準じる組織であったため、行える行動を原則的に法律で決めてある。つまり、自衛隊の対処行動の理由となる事態や総理大臣が対処行動を命ずるための要件、その他国会の承認等、自衛隊の行動を縛る内容となっている。そのため、その原因となる事態の定義や対処行動の開始までの手続、対処行動中に出来ることを法律で定める必要があるため、その対処の趣旨・用語の定義を含め非常に難解・複雑なものとなっている。従って、防衛省・外務省の担当者や自衛隊の担当者、法案を仕上げた与党の担当者などの一部の専門家以外の者は、国会議員であっても本法律を深く理解するには相当の時間が必要となる。つまり、TV・新聞などの断片的な報道では、一般国民が本法の内容を熟知することは、非常に困難であるといえる。マスコミや野党はそれを以って、本法の成立は更に審議を経てた上でなければならないと主張するが、南極が半永久的に寒いように、本法が難解であることは今後も変わらないのである。

 以上、放送内容の一部とその説明を記述しました。

 

砂川事件判決後に、長沼ナイキ訴訟という事件があり、札幌高裁で憲法判断を行っています。

長沼ナイキ訴訟:長沼ナイキ訴訟 札幌高裁.pdf (673182)

その判決の趣旨を以下に記述します。砂川事件判決の判旨を踏襲していることがわかります。

1.平和的生存権と法律上の利益

 憲法前文は、その形式上憲法典の一部であつて、その内容は主権の所在、政体の形態並びに国政の運用に関する平和主義、自由主義、人権尊重主義等を定めているのであるから、法的性質を有するものといわなければならない。ところで、前文第一項は、憲法制定の目的が平和主義の達成と自由の確保にあることを表明し、わが国の主権の所在が国民にあり、主権を有する日本国民が日本国憲法を確定するものであること及びわが国が国政の基本型態として代表制民主制をとることを規定しているところ、国民主権主義を基礎づける右民主権の存在の宣明は同時に憲法制定の根拠が国民の意思に依拠するものであることを具体的に確定し、また、国政の基本原理である民主主義から基礎づけられた統治組織に関する型態としての代表民主制度については同項でこれに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する旨規定しているところから、右はいずれも一定の制度として確定され、その法的拘束力は絶対的なものであるといわなければならないものであるが、国政の運用に関する主義原則は、規定の内容たる事項の性質として、また規定の形式の相違において、その法的性質には右と異なるものがあるといわなければならない。前文第二項は、平和主義の原則について、第一項において憲法制定の動機として表明した、諸国民との協和による成果と自由のもたらす恵沢の確保及び戦争の惨禍の積極的回避の決意を、総じて日本国民の平和への希求であると観念し、これを第一段では日本国民の安全と生存の保持、第二段では専制と隷従、圧迫と偏狭の除去、第三段では恐怖と欠乏からの解放という各視点から、より多角的にとらえて平和の実現を志向することを明らかにし、更に前文第三項は、日本国民としての右平和への希求を政治道徳の面から国の対外的施策にも生かすべきことを規定しているもので、これにより憲法は、自由、基本的人権尊重、国際協調を含む平和をわが国の政治における指導理念とし、国政の方針としているものということができる。したがつて、右第二、第三項の規定は、これら政治方針がわが国の政治の運営を目的的に規制するという意味では法的効力を有するといい得るにしても、国民主権代表制民主制と異なり、理念としての平和の内容については、これを具体的かつ特定的に規定しているわけではなく、前記第二、第三項を受けるとみられる第四項の規定に照しても、右平和は崇高な理念ないし目的としての概念にとどまるものであることが明らかであつて、前文中に定める「平和のうちに生存する権利」も裁判規範として、なんら現実的、個別的内容をもつものとして具体化されているものではないというほかないものである。また、被控訴人は、右のいわゆる平和的生存権は、憲法第九条及び同法第三章の規定に具体化されているとも主張するのであるが、同法第九条は前文における平和主義の原則を受けて規定されたものであるとはいえ、同条第一項は国際紛争解決手段としての戦争、武力による威嚇、武力行使を国家の権能のうちからこれを除外すると定め、国家機関に対し、間接的に当該行為の禁止を命じた規定であり、同条第二項はわが国の交戦権に関する権利主張を自ら否定するとともに、陸海空軍その他の戦力を保持しないと宣言して、国家機関に対し、かかる戦力の保持禁止を命じているものと解すべきである。しかりとすれば、憲法第九条は、前文における平和原則に比し平和達成のためより具体的に禁止事項を列挙してはいるが、なお、国家機関に対する行為の一般禁止命令であり、その保護法益は一般国民に対する公益というほかなく、同条規により特定の国民の特定利益保護が具体的に配慮されているものとは解し難いところである。したがつて仮に具体的な立法又は行政処分による事実上の影響として、個人に対し、何らかの不利益が生じたとしても、それは、右条規により個々人に与えられた利益の喪失とはいい得ないものといわなければならない。また、憲法第三章各条には国民の権利義務につき、とくに平和主義の原則を具体化したと解すべき条規はないから、被控訴人らの主張はこの点においても理由がない。
 
※防衛力の強化により、ナイキ・ミサイルが設置され、他国の攻撃目標になることで「憲法に規定される平和のうちに生存する権利」が侵害されるというが、憲法前文には裁判規範がなく、また、政府の措置(用地を転用して航空自衛隊がナイキ・ミサイルを配備すること)により、国民の公益が生まれるから、その一般国民の公益が優先される。
 今般の安保関連法案の成立により、「多くの国民の安全な暮らしが、より一層堅固に守られることが予測される」とすれば、複数の国民がアメリカの戦争に巻き込まれるとして不安を覚えるとしても、他の多くの国民の公益が優先されると示唆しているものと判断できる。
 
2.自衛隊違憲の主張について
  本件における憲法上の争点
 被控訴人らは、本件訴訟において、本件保安林指定解除処分は自衛隊ミサイル基地設置を目的としてなされたものであるところ、右基地、自衛隊並びにその根拠法規である自衛隊法は、憲法第九条第二項、憲法前文、なかでもその平和のうちに生存する権利、その他憲法第三章の人権保障規定ないし憲法全体を貫ぬく精神に違反する違憲の存在であるから、右解除処分は、その目的上、憲法に直接違反する無効のものであり、また違憲の存在である以上ミサイル基地設置は森林法第二六条第二項に解除要件として定めた「公益上の理由」に当らず、違法であり、取消しを免れないものと主張している。
 ちなみに、自衛隊法は、第三条により自衛隊の主任務がわが国の独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することにあるとし、右目的のもとに、第二章では自衛隊の指揮監督を、第三章ではその部隊の組織、編成を定めているほか、第七六条、第八七条、第八八条では自衛隊が、その任務の遂行に必要な武器を保有し、外部からの武力攻撃に際しわが国を防衛するため必要があると認められる場合には、出動して武力を行使することができることを規定している。そして右自衛隊法に基づき現に自衛隊が、国家機関の組織として編成され、前示の目的のため武器を保有しているものであり、本件ミサイル基地設置はその運営の一環として計画されたものであること、並びに本件解除処分が右基地設置の目的でなされたものであることは当事者間に争いがない。
 憲法第八一条の解釈
 憲法第八一条は、一切の法律、命令、規則、処分につき、裁判所が違憲審査権を有する旨規定している。したがつて、右規定をみる限り、裁判所は具体的事件において、これら法令、処分の憲法適合性が争われる場合には、これを判断する権限があると同時に、判断する義務もあるというべきである。ところで、わが憲法における三権分立の原則は、国権の三作用のうち、立法はこれを国会に、行政はこれを内閣に、司法はこれを裁判所に、それぞれ分属行使せしめ、国権が単一の機関によつて専断行使される弊害を避け、各機関における国家意思がそれぞれの機関において独立に決定されるものとしつつ、他方、三機関の相互の抑制のもとに一機関における権力行使の逸脱を防ぎ、調和ある国政の統一を図る政治組織を構成しているものというべきである。しかして右のうち立法権及び行政権は、本来的にはそれぞれその固有の権能を通じてわが国の政治的運営方針を、その実現のための方策を含めて選択し、これを国家意思として定立もしくは実現する作用を営むものであるから、右各機関の行為は、本質的には、妥当性を指向した合目的的裁量行為たる性質を有する政治行為であるといわなければならず、わが憲法下においては、行政府の長たる内閣総理大臣は国会議員たる資格のもとに国会によつて指名され、内閣はその行政機能につき国民の代表者をもつて構成する国会に対し連帯してその責任を負い、立法府たる国会は、立法機能を含め、直接国民に対しその政治責任を負い、選挙を通じて国民の批判を受けるものである。これに対し司法権は、各個独立して国家作用を行う個々の裁判所が、立法府、行政府によつて選択された法、具体化された処分、その他生活事実等に所与のものとし、その法適合性の判断を高権的になす機能を果すものであつて、本質的には個別的確認的判断作用を行うにとどまるものであり、これを超え、国民に対し政治責任を負う各機関に代つて、より妥当性ある結果を実現する国の統一的政策決定をなす作用を営むものではないといわなければならない。そうすると、司法部門と他の二機関の機能の本質的相違からして、司法権の他機関の機能に対する介入、抑制も、右機関鼎立の趣旨を実質的に否定するものであつてはならず、また事項によつては、司法的抑制に親しまず、これを行うべき本来の機関の専属的判断を尊重すべき場合を生ずることを承認しなければならない。特に、立法、行政にかかる国家行為の中には、国の機構、組織、並びに対外関係を含む国の運営の基本に属する国政上の本質的事項に関する行為もあるのであつて、この種の行為は、国の存立維持に直接影響を生じ、最も妥当な政策を採用するには高度の政治封断を要するもので、その政策は統一的意思として単一に確定さるべき性質のものである。したがつてかかる本質的国家行為は、司法部門における個々的法判断をなすに適せず、当該行為を選択することをその政治責任として負わされている所管の機関にこれを専決行使せしめ、その当否については終局的には主権を有する国民の政治的判断に問うことが、三権分立の原則及びこれを支える憲法上の原理である国民主権主義に副うものであると考えられる。すなわち、憲法は、一方において裁判所に違憲審査権を与え、立法、行政に対する司法の優位を認めるが、同時に三権分立を国家作用に関する国の制度としているものであるから、この両者を統一的に考えるとすれば、司法の優位は三権分立の基本原理を侵さない限度において認められる相対的優位のものと理解するほかなく、前示のような高度の政治性を有する国家行為については、統治行為として第一次的には本来その選択行使を信託されている立法部門ないし行政部門の判断に従い終局的には主権者である国民自らの政治的批判に委ねらるべく、この種の行為については、たとえ司法部門の本来的職責である法的判断が可能なものであり、かつてれが前提問題であつても、司法審査権の範囲外にあることが予定されているものというべきである(最高裁昭和三五年六月八日大法廷判決参照)。
 ところで司法判断は、法令を大前提とし、一定の対象事項を小前提としてその適合性の判断をなすものであるが、統治行為が司法審査権の範囲外にあるという場合、一般的には小前提たる対象事項がいわゆる統治事項に当るものとして考えられていると解されるのであつて、大前提たる法規解釈の問題としてとらえられているのではない。しかし、小前提に適用さるべき大前提たる憲法その他の法令の解釈行為についても、なお右と同様の問題が考慮されなければならないはずである。けだし、裁判所は、大前提たるべき法規については、自らこれを解釈適用する本来の職責を有するものではあるが、当該法規が統治事項を規定しながら、その規定の意味内容が客観的には必ずしも一義的に明瞭でなく、一応合理的反対解釈が成立し得る余地のある場合において、各裁判所がそれぞれこれに解釈を与えるということは、その選択そのものが、事柄の性質上、政治部門が行うべき高度に政治的な裁量的判断と表裏する判断をなすこととなるのみならず、その解釈の相違の結果生ずる対社会的、政治的混乱の影響は広範かつ重大であることが避けられず、これを解釈する場合の問題は、小前提たる統治行為が司法判断の対象となり得るか否かを検討した場合の問題と本質的には異なるところはないと解されるからである。もつとも、純粋な意味で統治行為の理論を徹底させ、これについてはおよそ司法審査の対象にならないとするときは、立法、行政機関の専権行為については、明白に憲法その他の法令に違反するものであつても、裁判所がこれを抑制できないことになるが、それはまた、他面において三権分立の原理に反することになるといわなければならず、憲法第九八条の規定からも、右結論を是認することはできない。したがつて、立法、行政機関の行為が一見極めて明白に違憲、違法の場合には、右行為の属性を問わず、裁判所の司法審査権が排除されているものではないと解すべきである。けだし、大前提たるべき条規の定めるところが客観的、一義的に明確である場合には、それが統治事項に関する規定であつても、その一義性、明確性にかんがみ、たとえこれにより如何に国民に対し政治的、社会的に重大な結果を招来することがあろうとも、他の政治的、社会的意義に優先して当該事項の選択を是とする見地から、規範として定立されたものと考えることができるのであり、したがつてこの場合には、右条規を大前提たる判断基準となし得るものと解するのが相当であり、もし小前提たる法規ないし処分が一義的に明確なものである場合には、それが統治事項に関するものであつてもなおこれを司法判断の対象になし得るものと解すべきであるからである。結局憲法第八一条は、前記統治行為の属性を有する国家行為については原則として司法審査権の範囲外にあるが、前記の如く大前提、小前提ともに一義的なものと評価され得て一見極めて明白に違憲、違法と認められる場合には、裁判所はこの旨の判断をなし得るものであることを制度として認める規定であると解するのが相当である。
 
※砂川事件判決でも、判決文に同旨の記述がある。
 
3.自衛隊の設置等と統治行為
 防衛庁設置法並びに自衛隊法第三条、第八七条、第八八条等の規定を含む同法の制定は国会の立法行為によるものであり、これに基づく自衛隊の設置、運営は内閣の行政行為によるものである。したがつて右自衛隊法及び自衛隊の存在の憲法第九条適合性を判断するに当つては、その立法行為及び行政行為が右に検討した司法審査の対象となる国家行為であるか否かがここで検討されなければならない。ところで、防衛庁設置法、自衛隊法の各規定及び上段判示の諸事実に照せば、右立法行為及び行政行為はいずれも、他国からの直接、間接の武力攻撃に際し、わが国を防衛するため、国の組織として自衛隊を設け、武力を保持し、これを対外的に行使することを認める内容をもつ国防に関する国家政策の実現行為であり、自衛隊は通常の概念によれば軍隊ということができるが、仮に、いつたん他国からの侵略行為が生じた場合は、事柄の性質上、直ちに、国家、国民の存亡にかかわる事態の惹起されることが十分予想され、わが国が他国の武力侵略に対し如何なる防衛姿勢をとるかは極めて緊要な問題であるのみならず、その政策の採否及び効果は、平時、緊急時を問わず、国内における政治、経済、文化、思想、外交その他諸般の事情に深くかかわり合いを持ち、かつその選択は、高度の専門技術的判断とともに、高度の政治判断を要する最も基本的な国の政策決定にほかならない。したがつて、右政策決定を組成する前記立法行為及び行政行為は、正に統治事項に関する行為であつて、一見極めて明白に違憲、違法と認められるものでない限り、司法審査の対象ではないといわなければならないものである。
 
※自衛隊の設置は、行政府の行為であり、またその根拠法を定めた国会の行為である。従って、「一見極めて明白に違憲、違法と認められるものでない限り」司法審査の対象外である。
 
4.憲法第九条の解釈
 わが憲法は、第九条第一項において国際紛争解決の手段としての戦争、武力による威嚇、武力の行使を放棄し、同条第二項において右目的を達成するため陸海空軍その他の戦力を保持しないと定めたことにより、侵略のための陸海空軍その他の戦力の保持を禁じていることは一見明白である。しかし、憲法第九条第二項の解釈については、自衛のための軍隊その他の戦力の保持が禁じられているか否かにつき積極、消極の両説がある。
 まず、積極説の論旨を要約すれば、次のとおりである。すなわち、憲法第九条は、その文言の形式的な表現にとどまらず、前文を含む憲法全体に貫ぬかれている平和主義国際協調主義の理想追求の精神、憲法制定当時における事情、憲法提案者たる政府当局者の立法趣旨説明、政府の行為により戦争の惨禍を避けるための現実的方策等を十分に考慮して検討すれば、第一項において自衛のための戦争等を放棄していないとしても、第二項は、憲法前文の精神を受けて「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求する」目的を達成するため、およそ「陸、海、空軍その他の戦力」の不保持を規定したものと解すべきで、この規定は、憲法前文第一項において「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることがないように決意」し、第二項において日本国民は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を維持しようと決意した」ことに照応するものである。まして同条第二項後段が「交戦権一を否認している以上、自衛のための戦争も遂行することは不可能であり、自衛戦争のための軍備も不要で、自衛権の存在は戦力保持を根拠づけない。したがつて、右戦力不保持の規定は、例外を許さない絶対的禁止規定と解するほか他に解する余地のたいことは明白であるというのである。しかして、被控訴人らの主張する憲法第九条第二項の解釈も、要するに右のような積極説の立場に立つものである。
 これに対し、消極説の論旨は、要約すれば次のとおりである。すなわち、憲法第九条第一項は、国権の発動たる戦争、武力による威嚇、武力の行使を、文言上明らかに国際紛争解決手段として行われる場合に限定して放棄しているもので、他国から急迫不正の攻撃や侵入を受ける場合に自国を防衛する自衛権行使の場合についてまで右戦争等を放棄しているものとは解されない。なるほどわが憲法は、国の在り方として平和主義、国際協調主義をその原則としていることは明らかである。しかしわが憲法は、主権を有する日本国民が、その意思によつて形成する国の組織形態及びその基本的運営の在り方を確定した国の最高法規であつて、国としての理想を掲げ、国民の権利を保障し、その実現に努力すべきことを定めているものであるから、わが国の存在基盤をなす領土等が保全され、主権が侵害されることなく維持されることをその前提としているものといわなければならない。したがつて、もし国の存在が失われるならば、主権は否定され、憲法はその理想を実現することはもちろん、国民の人権保障さえ不可能となるのであるから、国の存立維持を図ることは憲法の基本的立場である。憲法の平和主義、国際協調主義も、わが国が戦争等を開始し自ら平和を破ることはないとする生存の姿勢を示したものであり、わが国が他国から武力侵略を受け、滅亡の危機に際してまで無抵抗を貫ぬくものとして平和主義を定めたものと解することはできず、したがつて、実力による抵抗は当然予想されているもので、憲法第九条第一項において他国からの急迫不正な攻撃や侵入に抵抗する自衛のための戦争等は放棄されていないと解することは、むしろ憲法の精神に副うものである。ところで同条第二項前段は、戦争等の不保持については、「前項の目的を達するため」と規定している。そして右の文言は、憲法制定議会における審議中、同条第一項における戦争等の放棄条項中に「国際紛争を解決するための手段としては」という限定文言の存在することを前提に挿入された経緯があり、これを考慮しつつ同条第一項、第二項を比照すれば、「前項の目的」とは、第一項全体の趣旨を受けるものと解するのが相当であつて、第二項において不保持を定めた陸、海、空軍その他の戦力は、国際紛争を解決する手段として行われる戦争遂行戦力のみと解すべきであつて、かく解することが、同法第六六条第二項において国務大臣を文民に限定した規定の趣旨に照応するものである。また同条第二項後段において否認されている「交戦権」の解釈については、これを「戦争をなす権利」と解するものと、「国際法上認められている交戦国の権利」と解する説があるが、前者と解するならば第一項において規定した戦争等の放棄と同一事項に関する規定を第二項の後段に位置せしめて反覆したことになり不自然であつて、むしろ第二項前段において戦闘手段たる戦力等の不保持を定めたことに続けて位置せしめていることからすれば戦争の過程における戦闘に伴う個別的加害行為を認容される国際法上の交戦国の権利を定めたものと解することが規定の位置からも素直な解釈というべきである。そして証、同条第二項後段において否認した「交戦権」が前示の国際人上の権利であり「戦争をなす権利」の否認でないとすれば戦争の本質的現象である相手国兵力に対する戦闘行為そのものは否認の対象とはならず、第一項において自衛のための戦争が放棄されていない以上、前示交戦権が否認されたからといつて自衛のための戦闘遂行が不可能になるものではない。したがつて、自衛のための必要最小限度のものについては、憲法第九条第二項前段における「陸、海、空軍その他の戦力」には当らないというのである。しかして控訴人の憲法第九条第二項の解釈も、要するに右のような消極説の立場に立つものである。
 ところで、双方の各論旨をみると、積極説はその解釈において、わが憲法は、採用した平和主義、国際協調主義による平和を生存をかけて実現すべき理想とし、かつ現在の国際社会の情勢上もそれが可能であるとの見解を基盤とするものであり、消極説は、わが憲法は平和主義の理想を尊重すべきことを命じてはいるが、現実の国際社会において、急迫不正の侵害の危険性は現存し、その際における自救行為はこれを当然の前提としているとの見解を基盤として立論するものである。そして、わが憲法が右のいずれの見解に立脚して設けられているものであるかは、必ずしも明瞭とはいえず、各論旨はいずれもそれなりに一応の合理性を有するものといわなければならないから、結局自衛のための戦力の保持に関する憲法第九条第二項前段は、一義的に明確な規定と解することができないものといわなければならない。
 
※憲法第九条第二項前段(前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。)は、不明確な規定であり、自衛隊の存在が合憲とも違憲ともよめる。しかし、砂川事件判決で、日本国が自衛権を有することが明確にされており、2015年の今日、憲法学者等はともかく、多くの一般の国民は「自衛隊の存在」を認知しているところである。言い換えると、今日多くの日本国民は、自衛隊を合憲であると判断していると考えることができる。
 つまり、自衛隊の存在が違憲であるか否かは裁判所の司法審査の対象外であるが、今日主権者である多くの日本国民が自衛隊を合憲であると判断しており、裁判所もその国民の判断に従うことが正しいと考える。
そして、最高裁判所が自衛隊の違憲判決を出せば、自衛隊の装備の無効性、自衛官の身分の消滅、自衛官への給与支払の根拠の消滅等々、といった効果が生じることは、言うまでもない。
 
5.自衛隊の存在等と司法判断
 そこで右の点を検討してみると、自衛隊法が自衛隊の主たる任務をわが国の防衛に置き、このために自衛隊としての一定の組織、編成を定め、かつ武器を保有し、これらを対外的に行使することを予定し、また現実に自衛隊が右自衛隊法に基づき同法所定の組織、編成のもとに武器を保有しているものであること前記一のとおりであるから、その設定された目的の限りではもつぱら自衛のためであることが明らかである。そして自衛隊法で予定された自衛隊の組織、編成、装備、あるいは現実にある自衛隊の組織、編成、装備が、侵略戦争のためのものであるか否かは、掲げられた右目的だけから判断すべきものではなく、客観的にわが国の戦争遂行能力が他の諸国との対比において明らかに侵略に足る程度に至つているものであるか否かによつて判断すべきであるところ、戦争遂行能力の比較は、その国の軍備ないし戦力を構成する個々の組織、編成、装備のみならず、その経済力、地理的条件、他の諸国の戦争遂行能力等各種要素を将来の展望を含め、広く、高度の専門技術的見地から相関的に検討評価しなければならないものであり、右評価は現状において客観的、一義的に確定しているものとはいえないから、一見極めて明白に侵略的なものであるとはいい得ないといわなければならない。
 
※自衛隊の存在は、裁判所の審査の対象にならないけれども、自衛隊の装備・能力等は「一見極めて明白に侵略的なものであるとはいい得ない」から、すくなくとも、自衛隊が違憲であるとは言えない。

 

 

 

以上です。また、今般の安保関連法に関して追記してしまいました。

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今般の平和安全関連法に関する考察 4

2015年09月19日 10:49

雇用保険法の記述の続きを考えていましたが、戦後の安保の歩みをもう少し知りたいと考え、サンフランシスコ講和条約について記述したいと思います。日本は、昭和20年にポツダム宣言を受け入れ、降伏・敗戦が決まったわけですが、その後のGHQ(アメリカ占領軍)の政策のち、外形的にはこのいわゆる「サンフランシスコ講和条約」で連合国(事実上はUSAのみ)からの独立を果たしました。従って、日本は実質的には、ポツダム宣言に関与した、アメリカ・ソ連・中華民国(台湾)・イギリスから独立をしました。言い換えると先の大戦の対日戦における戦勝国は、「アメリカ合衆国、旧ソ連、UK、旧中華民国(現台湾政府)」となります。韓国と中華人民共和国が先の対日戦戦勝記念日を設定して行事を行うことは、それらの国の自由です。日本は、第一次大戦時の対ドイツ戦戦勝記念日を設けていませんが、連合国側(戦勝国側)であった当事の日本(旧大日本帝国)であっても、日本国政府は戦っていない国の戦勝記念日を設けるような不合理なことを行わないわけです。

まず、当事の年表を以下で確認してみます。

1945(昭和20)年8月:日本が連合軍に無条件降伏し、天皇自ら終戦の詔勅を放送する。

1947(昭和22)年5月:日本国憲法が施行される。

   1948年:大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国が成立

   1949年:中華人民共和国が成立

   1950(昭和25)年6月:朝鮮戦争が始まる。

   1950(昭和25)年8月:警察予備隊ができる。

   1951(昭和26)年9月:サンフランシスコ講和会議、対日平和条約・日米安全保障条約締結

   1956(昭和31)年12月:日本が国際連合に加盟する。

   1959(昭和34)年12月:最高裁判所が伊達判決を破棄する。

    ※最高裁判所は、在日米軍が合憲である(下級審の違憲判決を破棄)と判断した。

   1960(昭和35)年5月:自民党が日米安保条約を単独で強行採決。安保反対の大衆運動が高まる。

   

 

さて、本題のサンフランシスコ講和条約を逐条で考察してみます。

※原文は英文ですから、和訳の正確さの問題があります。

 なお、太字は私の加筆です。

日本国との平和条約(Treaty of Peace with Japan) 1951.9.8

前文 連合国及び日本国は、両者の関係が、今後、共通の福祉を増進し且つ国際の平和及び安全を維持するために主権を有する対等のものとして友好的な連携の下に協力する国家の間の関係でなければならないことを決意し、よつて、両者の間の戦争状態の存在の結果として今なお未決である問題を解決する平和条約を締結することを希望するので、

 日本国としては、国際連合への加盟を申請し且つあらゆる場合に国際連合憲章の原則を遵守し、世界人権宣言の目的を実現するために努力し、国際連合憲章第五十五条及び第五十六条に定められ且つ既に降伏後の日本国の法制によつて作られはじめた安定及び福祉の条件を日本国内に創造するために努力し、並びに公私の貿易及び通商において国際的に承認された公正な慣行に従う意思を宣言するので、

 連合国は、前項に掲げた日本国の意思を歓迎するので、

 よつて、連合国及び日本国は、この平和条約を締結することに決定し、これに応じて下名の全権委員を任命した。これらの全権委員は、その全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次の規定を協定した。

第一章 平和

第一条

(a) 日本国と各連合国との間の戦争状態は、第二十三条の定めるところによりこの条約が日本国と当該連合国との間に効力を生ずる日に終了する。

※戦争状態の終結

(b) 連合国は、日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権を承認する。

※本条約による日本国民の主権の回復

第二章 領域

第二条

(a) 日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

※韓国政府は、竹島を本項に加えるように求めたが、アメリカに却下される。

(b) 日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

※澎湖諸島(ほうこしょとう):台湾島の西方約50kmに位置する台湾海峡上の島嶼群

(c) 日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

※いわゆる北方領土は、すべて日本に帰属する内容となっている。千島列島、樺太及び樺太近接の諸島の放棄

(d) 日本国は、国際連盟の委任統治制度に関連するすべての権利、権原及び請求権を放棄し、且つ、以前に日本国の委任統治の下にあつた太平洋の諸島に信託統治制度を及ぼす千九百四十七年四月二日の国際連合安全保障理事会の行動を受諾する。

(e) 日本国は、日本国民の活動に由来するか又は他に由来するかを問わず、南極地域のいずれの部分に対する権利若しくは権原又はいずれの部分に関する利益についても、すべての請求権を放棄する。

※南極における権利の放棄

(f) 日本国は、新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

※新南群島(南サ諸島又はスプラトリー諸島):現在、中国の実効支配により問題となっている群島。西サ諸島も同様。

第三条

 日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。

南西諸島(現沖縄県)、小笠原諸島(現東京都)等の返還の保留。1972年沖縄返還。1953年奄美群島、1968年小笠原諸島返還

第四条

(a) この条の(b)の規定を留保して、日本国及びその国民の財産で第二条に掲げる地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で現にこれらの地域の施政を行つている当局及びそこの住民(法人を含む。)に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とする。第二条に掲げる地域にある連合国又はその国民の財産は、まだ返還されていない限り、施政を行つている当局が現状で返還しなければならない。(国民という語は、この条約で用いるときはいつでも、法人を含む。)

(b) 日本国は、第二条及び第三条に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその指令に従つて行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する。

(c) 日本国とこの条約に従つて日本国の支配から除かれる領域とを結ぶ日本所有の海底電線は、二等分され、日本国は、日本の終点施設及びこれに連なる電線の半分を保有し、分離される領域は、残りの電線及びその終点施設を保有する。

※戦前から海底ケーブルが敷設されていたことがわかる。

第三章 安全

第五条

(a) 日本国は、国際連合憲章第二条に掲げる義務、特に次の義務を受諾する。

  (i)その国際紛争を、平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決すること。

※憲法前文および第九条(日本国憲法はすでに施行されている。)

  (ii)その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使は、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むこと。

※同じく憲法第九条、国連憲章にも規定がある。

  (iii)国際連合が憲章に従つてとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合が防止行動又は強制行動をとるいかなる国に対しても援助の供与を慎むこと。

(b) 連合国は、日本国との関係において国際連合憲章第二条の原則を指針とすべきことを確認する。

(c) 連合国としては、日本国が主権国として国際連合憲章第五十一条に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有すること及び日本国が集団的安全保障取極を自発的に締結することができることを承認する。

※日本が国連憲章に規定される「個別的及び集団的自衛権」を保有していること、集団安全保障条約を締結できることを承認する。

第六条

(a) 連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない。但し、この規定は、一又は二以上の連合国を一方とし、日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しくは多数国間の協定に基く、又はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん{前2文字強調}又は駐留を妨げるものではない。

※個別の条約に規定がある場合を除き、サンフランシスコ講和条約発効後は、外国軍は日本から撤退しなければならない。注:旧ソ連は撤退しなかった。

(b) 日本国軍隊の各自の家庭への復帰に関する千九百四十五年七月二十六日のポツダム宣言の第九項の規定は、まだその実施が完了されていない限り、実行されるものとする。

※ポツダム宣言第九項:日本国軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復帰シ平和的且生産的ノ生活ヲ営ムノ機会ヲ得シメラルヘシ(日本軍は、完全に武装解除された後、各自の家庭に復帰し、平和的かつ生産的な生活を営む機会を得ることができるようにすること)

(c) まだ代価が支払われていないすべての日本財産で、占領軍の使用に供され、且つ、この条約の効力発生の時に占領軍が占有しているものは、相互の合意によつて別段の取極が行われない限り、前期の九十日以内に日本国政府に返還しなければならない。

※日本国の財産の返還

第四章 政治及び経済条項

第七条

(a) 各連合国は、自国と日本国との間にこの条約が効力を生じた後一年以内に、日本国との戦前のいずれの二国間の条約又は協約を引き続いて有効とし又は復活させることを希望するかを日本国に通告するものとする。こうして通告された条約又は協約は、この条約に適合することを確保するための必要な修正を受けるだけで、引き続いて有効とされ、又は復活される。こうして通告された条約及び協約は、通告の日の後三箇月で、引き続いて有効なものとみなされ、又は復活され、且つ、国際連合事務局に登録されなければならない。日本国にこうして通告されないすべての条約及び協約は、廃棄されたものとみなす。

※戦前の大日本帝国時代の締結条約の原則みなし破棄

(b) この条の(a)に基いて行う通告においては、条約又は協約の実施又は復活に関し、国際関係について通告国が責任をもつ地域を除外することができる。この除外は、除外の適用を終止することが日本国の通告される日の三箇月後まで行われるものとする。

第八条

(a) 日本国は、連合国が千九百三十九年九月一日に開始された戦争状態を終了するために現に締結し又は今後締結するすべての条約及び連合国が平和の回復のため又はこれに関連して行う他の取極の完全な効力を承認する。日本国は、また、従前の国際連盟及び常設国際司法裁判所を終止するために行われた取極を受諾する。

(b) 日本国は、千九百十九年九月十日のサン・ジェルマン=アン=レイの諸条約及び千九百三十六年七月二十日のモントルーの海峡条約の署名国であることに由来し、並びに千九百二十三年七月二十四日にローザンヌで署名されたトルコとの平和条約の第十六条に由来するすべての権利及び利益を放棄する。

(c) 日本国は、千九百三十年一月二十日のドイツと債権国との間の協定及び千九百三十年五月十七日の信託協定を含むその附属書並びに千九百三十年一月二十日の国際決済銀行に関する条約及び国際決済銀行の定款に基いて得たすべての権利、権原及び利益を放棄し、且つ、それらから生ずるすべての義務を免かれる。日本国は、この条約の最初の効力発生の後六箇月以内に、この項に掲げる権利、権原及び利益の放棄をパリの外務省に通告するものとする。

第九条

 日本国は、公海における漁猟の規制又は制限並びに漁業の保存及び発展を規定する二国間及び多数国間の協定を締結するために、希望する連合国とすみやかに交渉を開始するものとする。

※周辺諸国等との漁業協定等の交渉開始

第十条

 日本国は、千九百一年九月七日に北京で署名された最終議定書並びにこれを補足するすべての附属書、書簡及び文書の規定から生ずるすべての利得及び特権を含む中国におけるすべての特殊の権利及び利益を放棄し、且つ、前期の議定書、附属書、書簡及び文書を日本国に関して廃棄することに同意する。

※中国国内での権益の放棄

第十一条

 日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている物を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。

※東京裁判の受諾

第十二条

(a) 日本国は、各連合国と、貿易、海運その他の通商の関係を安定した且つ友交的な基礎の上におくために、条約又は協定を締結するための交渉をすみやかに開始する用意があることを宣言する。

※通商条約の締結

(b) 該当する条約又は協定が締結されるまで、日本国は、この条約の最初の効力発生の後四年間、

  (1)各連合国並びにその国民、産品及び船舶に次の待遇を与える。

    (i)貨物の輸出入に対する、又はこれに関連する関税、課金、制限その他の規制に関する最恵国待遇

    (ii)海運、航海及び輸入貨物に関する内国民待遇並びに自然人、法人及びその利益に関する内国民待遇。この待遇は、税金の賦課及び徴収、裁判を受けること、契約の締結及び履行、財産権(有体財産及び無体財産に関するもの)、日本国の法律に基いて組織された法人への参加並びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動の遂行に関するすべての事項を含むものとする。

※貿易関係の暫定措置等

  (2)日本国の国営商企業の国外における売買が商業的考慮にのみ基くことを確保する。

(c) もつとも、いずれの事項に関しても、日本国は、連合国が当該事項についてそれぞれ内国民待遇又は最恵国待遇を日本国に与える限定においてのみ、当該連合国に内国民待遇又は最恵国待遇を与える義務を負うものとする。前段に定める相互主義は、連合国の非本土地域の産品、船舶、法人及びそこに住所を有する人の場合並びに連邦政府をもつ連合国の邦又は州の法人及びそこに住所を有する人の場合には、その地域、邦又は州において日本国に与えられる待遇に照らして決定される。

※最恵国待遇:通商条約、商航海条約において、ある国が対象となる国に対して、関税などについて別の第三国に対する優遇処置と同様の処置を供することを、現在及び将来において約束すること。

(d) この条の適用上、差別的措置であつて、それを適用する当事国の通商条約に通常規定されている例外に基くもの、その当事国の対外的財政状態若しくは国際収支を保護する必要に基くもの(海運及び航海に関するものを除く。)又は重大な安全上の利益を維持する必要に基くものは、事態に相応しており、且つ、ほしいままな又は不合理な方法で適用されない限り、それぞれ内国民待遇又は最恵国待遇の許与を害するものと認めてはならない。

(e) この条に基く日本国の義務は、この条約の第十四条に基く連合国の権利の行使によつて影響されるものではない。また、この条の規定は、この条約の第十五条によつて日本国が引き受ける約束を制限するものと了解してはならない。

第十三条

(a) 日本国は、国際民間航空運送に関する二国間又は多数国間の協定を締結するため、一又は二以上の連合国の要請があつたときはすみやかに、当該連合国と交渉を開始するものとする。

(b) 一又は二以上の前期の協定が締結されるまで、日本国は、この条約の最初の効力発生の時から四年間、この効力発生の日にいずれかの連合国が行使しているところよりも不利でない航空交通の権利及び特権に関する待遇を当該連合国に与え、且つ、航空業務の運営及び発達に関する完全な機会均等を与えるものとする。

(c) 日本国は、国際民間航空条約第九十三条に従つて同条約の当事国となるまで、航空機の国際航空に適用すべきこの条約の規定を実施し、且つ、同条約の条項に従つて同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続を実施するものとする。

第五章 請求権及び財産

第十四条 ※戦後賠償

(a) 日本国は、戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承認される。しかし、また、存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本国の資源は、日本国がすべての前記の損害又は苦痛に対して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。

 よつて、

1 日本国は、現在の領域が日本国軍隊によつて占領され、且つ、日本国によつて損害を与えられた連合国が希望するときは、生産、沈船引揚げその他の作業における日本人の役務を当該連合国の利用に供することによつて、与えた損害を修復する費用をこれらの国に補償することに資するために、当該連合国とすみやかに交渉を開始するものとする。その取極は、他の連合国に追加負担を課することを避けなければならない。また、原材料からの製造が必要とされる場合には、外国為替上の負担を日本国に課さないために、原材料は、当該連合国が供給しなければならない。

2(I) 次の(II)の規定を留保して、各連合国は、次に掲げるもののすべての財産、権利及び利益でこの条約の最初の効力発生の時にその管轄の下にあるものを差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する。

  (a)日本国及び日本国民

  (b)日本国又は日本国民の代理者又は代行者

並びに

  (c)日本国又は日本国民が所有し、又は支配した団体

  この(I)に明記する財産、権利及び利益は、現に、封鎖され、若しくは所属を変じており、又は連合国の敵産管理当局の占有若しくは管理に係るもので、これらの資産が当該当局の管理の下におかれた時に前記の(a)、(b)又は(c)に掲げるいずれかの人又は団体に属し、又はこれらのために保有され、若しくは管理されていたものを含む。

 (II)次のものは、前記の(I)に明記する権利から除く。

 (i)日本国が占領した領域以外の連合国の一国の領域に当該政府の許可を得て戦争中に居住した日本の自然人の財産。但し、戦争中に制限を課され、且つ、この条約の最初の効力発生の日にこの制限を解除されない財産を除く。

 (ii)日本国政府が所有し、且つ、外交目的又は領事目的に使用されたすべての不動産、家具及び備品並びに日本国の外交職員又は領事職員が所有したすべての個人の家具及び用具類その他の投資的性質をもたない私有財産で外交機能又は領事機能の遂行に通常必要であつたもの

 (iii)宗教団体又は私的慈善団体に属し、且つ、もつぱら宗教又は慈善の目的に使用した財産

 (iv)関係国と日本国との間における千九百四十五年九月二日後の貿易及び金融の関係の再開の結果として日本国の管轄内にはいつた財産、権利及び利益。但し、当該連合国の法律に反する取引から生じたものを除く。

 (v)日本国若しくは日本国民の債務、日本国に所在する有体財産に関する権利、権原若しくは利益、日本国の法律に基いて組織された企業に関する利益又はこれらについての証書。但し、この例外は、日本国の通貨で表示された日本国及びその国民の債務にのみ適用する。

(III)前記の例外から(i)から(v)までに掲げる財産は、その保存及び管理のために要した合理的な費用が支払われることを条件として、返還されなければならない。これらの財産が清算されているときは、代りに売得金を返還しなければならない。

(IV)前記の(I)に規定する日本財産を差し押え、留置し、清算し、その他何らの方法で処分する権利は、当該連合国の法律に従つて行使され、所有者は、これらの法律によつて与えられる権利のみを有する。

(V)連合国は、日本の商標並びに文学的及び美術的著作権を各国の一般的事情が許す限り日本国に有利に取り扱うことに同意する。

(b)この条約に別段の定がある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとつた行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。

第十五条

(a) この条約が日本国と当該連合国との間に効力を生じた後九箇月以内に申請があつたときは、日本国は、申請の日から六箇月以内に、日本国にある各連合国及びその国民の有体財産及び無体財産並びに種類のいかんを問わずすべての権利又は利益で、千九百四十一年十二月七日から千九百四十五年九月二日までの間のいずれかの時に日本国内にあつたものを返還する。但し、所有者が強迫又は詐欺によることなく自由にこれらを処分した場合は、この限りではない。この財産は、戦争があつたために課せられたすべての負担及び課金を免除して、その返還のための課金を課さずに返還しなければならない。所有者により若しくは所有者のために又は所有者の政府により所定の期間内に返還が申請されない財産は、日本国政府がその定めるところに従つて処分することができる。この財産が千九百四十一年十二月七日に日本国に所在し、且つ、返還することができず、又は戦争の結果として損傷若しくは損害を受けている場合には、日本国内閣が千九百五十一年七月十三日に決定した連合国財産補償法案の定める条件よりも不利でない条件で補償される。

(b) 戦争中に侵害された工業所有権については、日本国は、千九百四十九年九月一日施行の政令第三百九号、千九百五十年一月二十八日施行の政令第十二号及び千九百五十年二月一日施行の政令第九号(いずれも改正された現行のものとする。)によりこれまで与えられたところよりも不利でない利益を引き続いて連合国及びその国民に与えるものとする。但し、前記の国民がこれらの政令に定められた期限までにこの利益の許与を申請した場合に限る。

(c)(i)日本国は、公にされ及び公にされなかつた連合国及びその国民の著作物に関して千九百四十一年十二月六日に日本国に存在した文学的及び美術的著作権がその日以後引き続いて効力を有することを認め、且つ、その日に日本国が当事国であつた条約又は協定が戦争の発生の時又はその時以後日本国又は当該連合国の国内法によつて廃棄され又は停止されたかどうかを問わず、これらの条約及び協定の実施によりその日以後日本国において生じ、又は戦争がなかつたならば生ずるはずであつた権利を承認する。

 (ii)権利者による申請を必要とすることなく、且つ、いかなる手数料の支払又は他のいかなる手続もすることなく、千九百四十一年十二月七日から日本国と当該連合国との間にこの条約が効力を生ずるまでの期間は、これらの権利の通常期間から除算し、また、日本国において翻訳権を取得するために文学的著作物が日本語に翻訳されるべき期間からは、六箇月の期間を追加して除算しなければならない。

第十六条

 日本国の捕虜であつた間に不当な苦難を被つた連合国軍隊の構成員に償いをする願望の表現として、日本国は、戦争中中立であつた国にある又は連合国のいずれかと戦争していた国にある日本国及びその国民の資産又は、日本国が選択するときは、これらの資産と等価のものを赤十字国際委員会に引き渡すものとし、同委員会は、これらの資産を清算し、且つ、その結果生ずる資金を、同委員会が衡平であると決定する基礎において、捕虜であつた者及びその家族のために、適当な国内機関に対して分配しなければならない。この条約の第十四条(a)2(II)の(ii)から(v)までに掲げる種類の資産は、条約の最初の効力発生の時に日本国に居住しない日本の自然人の資産とともに、引渡しから除外する。またこの条の引渡規定は、日本国の金融機関が現に所有する一万九千七百七十株の国際決済銀行の株式には適用がないものと了解する。

※日本の捕虜となった米軍その他の軍の兵士への補償

第十七条

(a) いずれかの連合国の要請があつたときは、日本国政府は、当該連合国の国民の所有権に関係のある事件に関する日本国の捕獲審検所の決定又は命令を国際法に従い再審査して修正し、且つ、行われた決定及び発せられた命令を含めて、これらの事件の記録を構成するすべての文書の写を提供しなければならない。この再審査又は修正の結果、返還すべきことが明らかになつた場合には、第十五条の規定を当該財産に適用する。

(b) 日本国政府は、いずれかの連合国の国民が原告又は被告として事件について充分な陳述ができなかつた訴訟手続において、千九百四十一年十二月七日から日本国と当該連合国との間にこの条約が効力を生ずるまでの期間に日本国の裁判所が行なつた裁判を、当該国民が前記の効力発生の後一年以内にいつでも適当な日本国の機関に再審査のため提出することができるようにするために、必要な措置をとらなければならない。日本国政府は、当該国民が前記の裁判の結果損害を受けた場合には、その者をその裁判が行われる前の地位に回復するようにし、又はその者にそれぞれの事情の下において公平且つ衡平な救済が与えられるようにしなければならない。

第十八条

(a) 戦争状態の介在は、戦争状態の存在前に存在した債務及び契約(債券に関するものを含む。)並びに戦争状態の存在前に取得された権利から生ずる金銭債務で、日本国の政府若しくは国民が連合国の一国の政府若しくは国民に対して、又は連合国の一国の政府若しくは国民が日本国の政府若しくは国民に対して負つているものを支払う義務に影響を及ぼさなかつたものと認める。戦争状態の介在は、また、戦争状態の存在前に財産の滅失若しくは損害又は身体損害若しくは死亡に関して生じた請求権で、連合国の一国の政府が日本国政府に対して、又は日本国政府が連合国政府のいずれかに対して提起し又は再提起するものの当否を審議する義務に影響を及ぼすものとみなしてはならない。この頃の規定は第十四条によつて与えられる権利を害するものではない。

※戦争前の財産等の取扱

(b) 日本国は、日本国の戦前の対外債務に関する責任と日本国が責任を負うと後に宣言された団体の債務に関する責任とを確認する。また、日本国は、これらの債務の支払再開に関して債権者とすみやかに交渉を開始し、他の戦前の請求権及び債務に関する交渉を促進し、且つ、これに応じて金額の支払を容易にする意図を表明する。

※戦前の対外債務等の取扱

第十九条

(a) 日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したためにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄し、且つ、この条約の効力発生の前に日本国領域におけるいずれかの連合国の軍隊又は当局の存在、職務遂行又は行動から生じたすべての請求権を放棄する。

※日本が占領した地域での権利等の放棄

(b) 前記の放棄には、千九百三十九年九月一日からこの条約の効力発生までの間に日本国の船舶に関していずれかの連合国がとつた行動から生じた請求権並びに連合国の手中にある日本人捕虜及び非拘留者に関して生じた請求権及び債権が含まれる。但し、千九百四十五年九月二日以後いずれかの連合国が制定した法律で特に認められた日本人の請求権を含まない。

(c) 相互放棄を条件として、日本国政府は、また、政府間の請求権及び戦争中に受けた滅失又は損害に関する請求権を含むドイツ及びドイツ国民に対するすべての請求権(債権を含む。)を日本国政府及び日本国民のために放棄する。但し、(a)千九百三十九年九月一日前に締結された契約及び取得された権利に関する請求権並びに(b)千九百四十五年九月二日後に日本国とドイツとの間の貿易及び金融の関係から生じた請求権を除く。この放棄は、この条約の第十六条及び第二十条に従つてとられる行動を害するものではない。

(d) 日本国は、占領期間中に占領当局の指令に基づいて若しくはその結果として行われ、又は当時の日本国の法律によつて許可されたすべての作為又は不作為の効力を承認し、連合国民をこの作為又は不作為から生ずる民事又は刑事の責任に問ういかなる行動もとらないものとする。

※連合国の、日本国内法に規定される、行為または不作為による犯罪等の免責

第二十条

 日本国は、千九百四十五年のベルリン会議の議事の議定書に基いてドイツ財産を処分する権利を有する諸国が決定した又は決定する日本国にあるドイツ財産の処分を確実にするために、すべての必要な措置をとり、これらの財産の最終的処分が行なわれるまで、その保存及び管理について責任を負うものとする。

第二十一条

 この条約の第二十五条の規定にかかわらず、中国は、第十条及び第十四条(a)2の利益を受ける権利を有し、朝鮮は、この条約の第二条、第四条、第九条及び第十二条の利益を受ける権利を有する。

※中国、朝鮮の権利の保障(批准の有無を問わない)

第六章 紛争の解決

第二十二条

 この条約のいずれかの当事国が特別請求権裁判所への付託又は他の合意された方法で解決されない条約の解釈又は実施に関する紛争が生じたと認めるときは、紛争は、いずれかの紛争当事国の要請により、国際司法裁判所に決定のため付託しなければならない。日本国及びまだ国際司法裁判所規程の当事国でない連合国は、それぞれがこの条約を批准する時に、且つ、千九百四十六年十月十五日の国際連合安全保障理事会の決議に従つて、この条に掲げた性質をもつすべての紛争に関して一般的に同裁判所の管轄権を特別の合意なしに受諾する一般的宣言書を同裁判所書記に寄託するものとする。

第七章 最終条項

第二十三条

(a) この条約は、日本国を含めて、これに署名する国によつて批准されなければならない。この条約は、批准書が日本国により、且つ、主たる占領国としてのアメリカ合衆国を含めて、次の諸国、すなわちオーストラリア、カナダ、セイロン、フランス、インドネシア、オランダ、ニュー・ジーランド、パキスタン、フィリピン、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国の過半数により寄託された時に、その時に批准しているすべての国に関して効力を生ずる。この条約は、その後これを批准する各国に関しては、その批准書の寄託の日に効力を生ずる。

※条約の効力発生要件

(b) この条約が日本国の批准書の寄託の日の後九箇月以内に効力を生じなかつたときは、これを批准した国は、日本国の批准書の寄託の日の後三年以内に日本国政府及びアメリカ合衆国政府にその旨を通告して、自国と日本国との間にこの条約の効力を生じさせることができる。

第二十四条

 すべての批准書は、アメリカ合衆国政府に寄託しなければならない。同政府は、この寄託、第二十三条(a)に基くこの条約の効力発生の日及びこの条約の第二十三条(b)に基いて行われる通告をすべての署名国に通告する。

※各国の批准書の米国への寄託

第二十五条

 この条約の適用上、連合国とは、日本国と戦争していた国又は以前に第二十三条に列記する国の領域の一部をなしていたものをいう。但し、各場合に当該国がこの条約に署名し且つこれを批准したことを条件とする。第二十一条の規定を留保して、この条約は、ここに定義された連合国の一国でないいずれの国に対しても、いかなる権利、権原又は利益も与えるものではない。また、日本国のいかなる権利、権原又は利益も、この条約のいかなる規定によつても前記のとおり定義された連合国の一国でない国のために減損され、又は害されるものとみなしてはならない。

※連合国の定義:連合国とは、大日本帝国と戦争をしていた国又は、アメリカ若しくは以前にオーストラリア、カナダ、セイロン、フランス、インドネシア、オランダ、ニュー・ジーランド、パキスタン、フィリピン、イギリスの一部をなしていた現在(条約締結当事)の国をいう。注:連合国には、終戦間際に参戦したソ連と、中華民国が含まれる。

第二十六条

 日本国は、千九百四十二年一月一日の連合国宣言に署名し若しくは加入しており且つ日本国に対して戦争状態にある国又は以前に第二十三条に列記する国の領域の一部をなしていた国で、この条約の署名国でないものと、この条約に定めるところと同一の又は実質的に同一の条件で二国間の平和条約を締結する用意を有すべきものとする。但し、この日本国の義務は、この条約の最初の効力発生の後三年で満了する。日本国が、いずれかの国との間で、この条約で定めるところよりも大きな利益をその国に与える平和処理又は戦争請求権処理を行つたときは、これと同一の利益は、この条約の当事国にも及ぼさなければならない。

※ソ連、中国:ソ連参戦は、1945年(昭和20年)。1956年(昭和31年)ソ連と国交回復。1972年(昭和47年)日中国交回復。

第二十七条

 この条約は、アメリカ合衆国政府の記録に寄託する。同政府は、その認証謄本を各署名国に交付する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で、ひとしく正文である英語、フランス語及びスペイン語により、並びに日本語により作成した。

本条約の批准国は、現在次の46国である。

アルゼンティン、オーストラリア、ベルギー、ボリヴィア、ブラジル、カンボディア、カナダ、チリ、コスタ・リカ、キューバ、ドミニカ共和国、エクアドル、エジプト、エル・サルヴァドル、エティオピア、フランス、ギリシャ、グァテマラ、ハイティ、ホンデュラス、イラン、イラク、ラオス、レバノン、リベリア、メキシコ、オランダ、ニュー・ジーランド、ニカラグァ、ノールウェー、パキスタン、パナマ、パラグァイ、ペルー、フィリピン、サウディ・アラビア、南アフリカ連邦、スリ・ランカ、シリア、トルコ、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国(イギリス)、アメリカ合衆国、ウルグァイ、ヴェネズエラ、ヴィエトナム、日本国

※サンフランシスコ講和条約を「韓国、中国、ロシア(旧ソ連)」は批准していない。

 

 

参考:ポツダム宣言(全文)※原文は、外国語であり、和訳との相違が指摘されている部分も存在する。

千九百四十五年七月二十六日
米、英、支三国宣言
(千九百四十五年七月二十六日「ポツダム」ニ於テ)

※ポツダム宣言は、1945年7月26日「アメリカ合衆国、グレートブリテン島及び北部アイルランド連合王国(イギリス)、中華民国(現台湾)」の三国により発出されています。

 

一 吾等合衆国大統領、中華民国政府主席及「グレート・ブリテン」国総理大臣ハ吾等ノ数億ノ国民ヲ代表シ協議ノ上日本国ニ対シ今次ノ戦争ヲ終結スルノ機会ヲ与フルコトニ意見一致セリ

二 合衆国、英帝国及中華民国ノ巨大ナル陸、海、空軍ハ西方ヨリ自国ノ陸軍及空軍ニ依ル数倍ノ増強ヲ受ケ日本国ニ対シ最後的打撃ヲ加フルノ態勢ヲ整ヘタリ右軍事力ハ日本国カ抵抗ヲ終止スルニ至ル迄同国ニ対シ戦争ヲ遂行スルノ一切ノ連合国ノ決意ニ依リ支持セラレ且鼓舞セラレ居ルモノナリ

三 蹶起セル世界ノ自由ナル人民ノ力ニ対スル「ドイツ」国ノ無益且無意義ナル抵抗ノ結果ハ日本国国民ニ対スル先例ヲ極メテ明白ニ示スモノナリ現在日本国ニ対シ集結シツツアル力ハ抵抗スル「ナチス」ニ対シ適用セラレタル場合ニ於テ全「ドイツ」国人民ノ土地、産業及生活様式ヲ必然的ニ荒廃ニ帰セシメタル力ニ比シ測リ知レサル程更ニ強大ナルモノナリ吾等ノ決意ニ支持セラルル吾等ノ軍事力ノ最高度ノ使用ハ日本国軍隊ノ不可避且完全ナル壊滅ヲ意味スヘク又同様必然的ニ日本国本土ノ完全ナル破壊ヲ意味スヘシ

四 無分別ナル打算ニ依リ日本帝国ヲ滅亡ノ淵ニ陥レタル我儘ナル軍国主義的助言者ニ依リ日本国カ引続キ統御セラルヘキカ又ハ理性ノ経路ヲ日本国カ履ムヘキカヲ日本国カ決意スヘキ時期ハ到来セリ

五 吾等ノ条件ハ左ノ如シ
吾等ハ右条件ヨリ離脱スルコトナカルヘシ右ニ代ル条件存在セス吾等ハ遅延ヲ認ムルヲ得ス

六 吾等ハ無責任ナル軍国主義カ世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序カ生シ得サルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本国国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙ニ出ツルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレサルヘカラス

七 右ノ如キ新秩序カ建設セラレ且日本国ノ戦争遂行能力カ破砕セラレタルコトノ確証アルニ至ルマテハ聯合国ノ指定スヘキ日本国領域内ノ諸地点ハ吾等ノ茲ニ指示スル基本的目的ノ達成ヲ確保スルタメ占領セラルヘシ

八 「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ

九 日本国軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復帰シ平和的且生産的ノ生活ヲ営ムノ機会ヲ得シメラルヘシ

十 吾等ハ日本人ヲ民族トシテ奴隷化セントシ又ハ国民トシテ滅亡セシメントスルノ意図ヲ有スルモノニ非サルモ吾等ノ俘虜ヲ虐待セル者ヲ含ム一切ノ戦争犯罪人ニ対シテハ厳重ナル処罰加ヘラルヘシ日本国政府ハ日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除去スヘシ言論、宗教及思想ノ自由並ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルヘシ

十一 日本国ハ其ノ経済ヲ支持シ且公正ナル実物賠償ノ取立ヲ可能ナラシムルカ如キ産業ヲ維持スルコトヲ許サルヘシ但シ日本国ヲシテ戦争ノ為再軍備ヲ為スコトヲ得シムルカ如キ産業ハ此ノ限ニ在ラス右目的ノ為原料ノ入手(其ノ支配トハ之ヲ区別ス)ヲ許可サルヘシ日本国ハ将来世界貿易関係ヘノ参加ヲ許サルヘシ

十二 前記諸目的カ達成セラレ且日本国国民ノ自由ニ表明セル意思ニ従ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府カ樹立セラルルニ於テハ聯合国ノ占領軍ハ直ニ日本国ヨリ撤収セラルヘシ

十三 吾等ハ日本国政府カ直ニ全日本国軍隊ノ無条件降伏ヲ宣言シ且右行動ニ於ケル同政府ノ誠意ニ付適当且充分ナル保障ヲ提供センコトヲ同政府ニ対シ要求ス右以外ノ日本国ノ選択ハ迅速且完全ナル壊滅アルノミトス

 

おわりに 集団的自衛権の違憲説の根拠の典型例

 いままでの記述で、集団的自衛権の定義及び集団的自衛権を日本国憲法は禁止していないと解釈される理由を説明して来ました。そこで、以下で集団的自衛権の違憲論の論拠の典型例を拾ってみます。

 日本国憲法では、憲法9条1項で戦争・武力行使が禁じられ、9条2項では「軍」の編成と「戦力」不保持が規定される。このため、外国政府への武力行使は原則として違憲であり、例外的に外国政府への武力行使をしようとするなら、9条の例外を認めるための根拠となる規定を示す必要がある。

 「9条の例外を認めた規定はない」と考えるなら、個別的自衛権違憲説になる。改憲論者の多くは、この見解を前提に、日本防衛のために改憲が必要だと言う。

※そもそも、国際的に認められた「自然権」である自国防衛権すらも、憲法改正が必要であると解釈する学説がある。しかし、砂川事件判決は、自国防衛の権利をわが憲法は否定していないと判示している。この点を否定する憲法学者は少ないと思われる。しかし、憲法学者の多くは自衛隊の存在を九条二項違反だとしているため、自衛権も憲法に書かなければならないとする立場だと推定できる。

参考 自然権:法的規定以前に人間が本性上もっている権利をいう。伝統的「自然法」を社会形成の積極的な構成原理に援用した際に生れた近代的な観念。そのため、憲法に自国防衛をわざわざ規定している国はむしろ少ない。

 また、外国の防衛を援助するための武力行使は、「防衛行政」や「外交協力」の範囲には含まれず、「軍事」活動になるだろう。ところが、政府の権限を列挙した憲法73条には、「行政」と「外交」の権限があるだけで「軍事」の規定がない。政府が集団的自衛権を行使するのは、憲法で附与されていない軍事権の行使となり、越権行為になるだろう。

※この論理では、なぜ個別的自衛権が合憲で、集団的自衛権が違憲なのか論拠がはっきりしない。

※今般問題となった憲法審査会における憲法学者の「集団的自衛権が違憲である根拠」は、「従来の政府解釈と異なるから違憲である。」という理由であった。

 

○結論

 従来の政府見解(政府の立場)は、「自国が攻撃されてはじめて自国の敵対国に対する武力攻撃が可能となる。」というものであった。これは、個別的自衛権の行使の際の根拠である。そのため、たとえ同盟国であっても、自国が攻撃されていない時点での日本の敵対国への武力行使は許されないというものであった。

 さて、結論として、憲法上の条文解釈ではなく、「政府の方針が変わったから違憲である」というものが、集団的自違権が違憲だとする根拠に使われている。そして、自然権である自国防衛権をみても、「集団的自衛はだめで、個別的には許される。」という解釈も存在しない。第二次大戦後、国連憲章において国連の対処が規定され、紛争に国連として即ち集団的に対処する旨が規定された。従って、PKO(国連平和維持活動)もPKF(国連平和維持軍)も複数の国の軍が共同してあたることが常識となっている。その中で、近時中立性の問題等が提起されて、性格がかわりつつあるが、複数の国で共同対処する仕組みは変わっていない。すなわち、すくなくとも国際平和維持においては、集団的に実施することが常識である。※2015.9.20 9:56一部訂正

 以上のとおりであるから、今般の安保法制の整備に反対する野党に「集団的自衛権が違憲である根拠」を一度伺ってみたいものである。

 

 はからずも、長期の記述となってしまいました。また、今回はサンフランシスコとポツダムの全条文を記述したため、よけいに長くなってしまいました。集団的であれ個別的であれ、自衛隊の主任務は専ら国防ですから、国際的に認められ、かつ砂川事件最高裁判決で言うようにわが国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができる」と考えることは至極当然だといえます。もちろん、今般の限定的な集団的自衛権の行使がこの「ふさわしい方式又は手段」に該当することは、論を待たないと言えます。

 

本日で、安保法制に関する記述はおわりに致します。

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今般の安保関連法案に関する考察 3

2015年09月18日 11:07

今般の安保法制成立後に日本国が出来ること(従来から出来ることを含め)について、シナリオを想定して考察してみます。

もとより、軍事面の素人ですが、資料をもとに記述します。素人故に誤った解釈による事実誤認が生じる恐れもありますが、ご容赦ください。

参考資料:https://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/ch_d-act_20150529.pdf

参考資料2:https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/housei_seibi.html

1.シナリオ①(中国の内戦により、漁船などに乗った中国国民が日本に数百万人を超えて押し寄せてきた場合)

 現在、ヨーロッパにおいては、シリアを中心とするアラブ難民がドイツに向かって押し寄せている。それらの人々は、厳密に難民なのか移民希望者なのかの区別は困難であり、パキスタン人などの明らかに難民以外も混じっている様子である。ところで、ドイツ連邦共和国の人口は、現在約8千万人だが、アラブ移民(戦争難民を含め)が数百万人に上れば、国内の治安や失業者への対応から政情不安定となり、国の形が変わってしまう恐れがある。移民受け入れに関しては、人口減少や高齢化もあって、GBやフランスも従来から積極的であったが、移民労働者二世がきちんとした仕事につけないなどの問題があり、いわゆる移民問題を潜在的に抱えている。そして、旧ソ連側であった東ヨーロッパ諸国は、経済的な脆弱性から難民・移民の受け入れには極めて消極的である。

 そこで、中国の政情不安が勃発し、その結果数百万人を超える中国人が日本に押し寄せてきた場合に、どの様な対応が可能であろうか。小笠原諸島近海の数百隻の中国漁船による国際的な赤サンゴの強盗事件(違法操業)とも言える状況は、記憶に新しいが、海上保安庁の特殊部隊による一部の船長の検挙により、ようやく中国漁船が帰国した状況であった。ところで、それらの漁船にはそれぞれ10名程度乗船していたとのことであるが、同程度の漁船に30名以上乗船し、1000隻が日本に向かって押し寄せてきた場合、その人数は3万人超に達し、仮に沖縄本島に3万人以上の中国人が上陸した場合には、沖縄県は相当の混乱が予測される。まして、中国政府の大型船(500トンから大型の1万トン超の船舶)を総動員して、中国人が日本に押し寄せてきた場合には、前記の100倍以上(数百万人)の中国人が日本のいずれかに上陸してしまう恐れがある。幸い中国本土と日本は海により隔たれているが、間接的(いったん台湾や朝鮮半島に押し寄せ、その後日本に押し寄せてくる場合など)に日本に移ってくる可能性もあり得る。そして、前述の内戦に限らず、武装漁民が無人島及び島民がほとんどいない日本国の島に、台風などからの避難を口実に上陸しそのまま居住し続け、さらには同島が中国領土である旨主張し始めることさえ想定できる。

 今日現在、前述のような内容を記述していると、ほとんどフィクションの様に感じるが、ヨーロッパの現状を鑑みるに、全く起こりえないこととは言い切れないのである。

 さて、この様なシナリオ①の状況において、海上保安庁や海上自衛隊はどのような対応ができるであろうか。もちろん、あくまで違法な上陸を阻止することが主眼であるが、海上保安庁の沖縄に配備される巡視船は、最新型の1000トン型が10隻程度(尖閣対応のため、平成28年3月までに配備予定)他管区の応援を加えても、中型以上の巡視船は30隻程度が限度であると思われる。そして、海上自衛隊の護衛艦は、小型から大型まで含め全ての船は50隻程度に過ぎない。ただし、哨戒用の航空機は100機を超えて保有しているため、海上の監視活動は十分に可能である。

○具体的な対応

(1)船舶検査

 今般の改正により、船長の同意を得て、公海上で船舶検査が実施できることとなった。もちろん上記のシナリオ①におけるこの規定による船舶検査の実施は、不可能かつ無意味である。

(2)海上保安庁の対応

 現在の尖閣列島付近の日本の領海侵犯に対する対応は、拡声器等により領海からで出るように警告するに留まる。ベトナム沖では、過去に中国公船とベトナム公船との戦闘が発生し、相互に死傷者を出している。その後、ベトナムが武力による対応を中止したため、西サ諸島は中国に占領されてしまった。海上保安庁は、尖閣諸島付近で中国漁船に巡視船が体当たりされても公式に公表しなかった。当事の日本政府が中国政府に恫喝されていたためである。そして、その後当該の中国漁船の船長を逮捕したものの、沖縄地検の担当検事の職権(当然当事の日本政府の指示によるもの)で釈放してしまった。

 このように、従前の領海侵犯の対応事例からみても、大量の中国漁船(武装漁船を含め)等が日本の領海に侵入した場合には、海上保安庁にどのような有効な対応ができるのか、疑問があると言わざるを得ない。もちろん、新型巡視船には高性能の機関砲が装備されているが、それを使用して日本領土に接岸しようとしている中国漁船等を阻止するとは考えにくい。

2.シナリオ②(南シナ海を中国の領海だと中国が主張し始めたケース)

 中東からインド洋を通りマラッカ海峡・南シナ海を経て日本に続く海路は、原油を始めとする多くの貨物の日本につながる重要な海上輸送路となっている。これは、シーレーンという名称でかねてから呼ばれてきた。シナリオ②の様に、中国が滑走路などを建設した島々を拠点として、他国の船舶の南シナ海の航行を実力で阻止し始めた場合、自衛隊はどのような対処が可能であろうか。これに関しては、直接的には、対処することは不可能と思われる。これらの西サ・南サ諸島の中国の軍事拠点について、自衛隊が実力で無力化(武力攻撃)することは、その理由はともかく日本国憲法第九条第二項の禁じている対処行為(中国の領土領海であるのかはともかく、他国の侵略)であり、今般の安保関連法案成立後も変わらない。従って、このようなシナリオへの対処は、ベトナム・フィリピン・ブルネイ・マレーシア等の周辺諸国及びアメリカ軍の対処に頼る他無い。ただし、従来公海とされて来た海域に自衛隊を派遣し、間接的に自国側の同盟諸国を支援することは、多少の可能性がある。

3.シナリオ③(北朝鮮が韓国に侵攻した場合)

 北朝鮮が自国の国内事情のため韓国に武力侵攻し始めた場合には、どの様な対処が可能であろうか。この事態は、実際に日本の戦後に起こった事態である。その際には、アメリカを中心とする連合軍が北緯38度付近で赤軍の侵攻を食い止め、今現在も休戦状態のままである。敵側の赤軍を援助したのは、他ならぬ中国人民解放軍である。この朝鮮戦争の際には、日本は戦後まもない時期という事情もあって、自国の防衛力をほとんど有しておらず、専ら補給基地としてアメリカ軍を支援した。この構図は、ベトナム戦争(中ソ対アメリカの代理戦争)の際も同様であった。

 さて、今般の安保関連法案の国会審議においても、朝鮮半島有事の際に、自衛隊が韓国に進出して間接的に日本の防衛に当たるのかという質疑がなされた。政府の答弁は、「朝鮮半島有事の場合であっても、他国の領土である韓国の領海・領土に自衛隊を派遣することはない。」というものであった。これは、今般の安保関連法成立後においても同様である。当然の答弁であると考える。朝鮮半島有事の際に実際に想定される対処は、日本国政府の同意を得て、アメリカ軍等の連合軍(国連決議を根拠)が応戦する場合に、公海上等において間接支援を行うというものである。

 ここで、このシナリオ③で従来できた米軍支援は、日本国内で政治的な援助等(従来の周辺事態法では、自衛隊にできることはほとんどない。)に限られるものであった。改正法成立後は、新三要件をみたす場合に限り、北朝鮮軍に対処する米艦や米軍機等(米軍以外の連合国軍を含む)の警護・防護、必要に応じた燃料補給や弾薬補給、物資の輸送等の後方支援が可能になった。これは、明らかに集団的自衛権の行使にあたり、多くの憲法学者や野党が違憲でできないとしている自衛隊の対処行動である。(憲法学者や野党の主張に合理性がないことがわかる。)また、状況が進んで北朝鮮軍が日本国に向けた弾道ミサイルの発射準備を行っていることが明らかになった(宣言した等)場合には、自衛隊に防衛出動が下令され、安保条約所定の米軍との共同対処を始めることとなる。

 ここで、新三要件を具体的にみてみると。

(1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は 我が国と密接な関係にある他国に対する武力 攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅か され、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が 根底から覆される明白な危険があること 

(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を 守るために他に適当な手段がないこと

(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

以上の通りであるが、北朝鮮と韓国軍の小競り合いで韓国軍に犠牲者が出た程度であれば、上記の新三要件を満たさないことは、明らかである。※自衛隊の対処行動開始の要件としては、上記の新三要件のすべてを満たす必要がある。

 また、今般の安保関連法案の成立後には、従来できなかった「日本に向かってくる弾道ミサイルの迎撃に当たる米国のイージス駆逐艦」を海上自衛隊の護衛艦等が防護できるようになったこと等、さらにアメリカ軍が保有する海空のレーダー情報や衛星情報を日本の護衛艦等が共有できることとなり、平時から訓練を行えるようになったこと。その結果、日本に武力攻撃の恐れが生じた場合においては、より効果的な自衛隊の対処が可能になったことが意義深いと言える。

4.シナリオ④(南スーダンの国連事務所勤務の日本人が襲われたケース)

 南スーダンでは、陸上自衛隊の施設部隊が、今日現在も国連PKO任務に従事している。この派遣された陸自PKO部隊の宿営地の付近には、国連の事務所が存在する。国連事務所の警備は、中国軍が従事しているようである。この国連事務所勤務の邦人(外務省、NGOなど)がイスラム過激派に襲われた場合、従来は陸自のPKO隊員は手が出せなかった。これは、このようなケースの場合、他国における武力行使に該当するから違憲であるとされてきたためである。考えるまでもなく、不合理である。今般の改正により、この様な場合の邦人警護等が可能になった。

 

まとめ 野党は、今般の安保関連法案が「戦争法案」であるとして、反対している。いったい、どこが戦争法案なのか理解不能である。またTBSテレビの昨夜の報道によれば、「法案が成立すれば、ますます戦争ができる国に近づく」とコメントしている。法案の内容をみれば、「国防の強化に資する法改正等」であり、「憲法、国際法が禁ずる他国侵略(=戦争)を可能にする趣旨の法案」ではないことは、考えるまでもなく明々白々である。本日、これらの法案が成立する見込みであるが、この様な誤報道は、国益を損なうばかりでなく、中国等を利する報道に他ならない。

今般の法案に関する諸外国の賛否をみると次のようになっている。

CKCGvtnUwAAFdD2

つまり、反対国は中韓のみである。今般の安保法案が真に「戦争法案」であるならは、諸外国はすべて反対を表明する筈である。法案の内容は、インターネットで世界中でみることができる。国会議事堂周辺や全国で反対運動を行っている人々は、この事実(中韓を除く諸外国が法案を支持していること)をどの様に考えているのであろうか?

そして、新三要件を満たす場合であっても、自衛隊が実施する対処行動を命ずる場合においては、事前であれ事後であれ、必ず国会の承認を必要とする。時の政府が日本国憲法の禁ずる他国の侵略(=戦争)を始めてしまうなど、およそ考えられないのである。

以上のような理由により、私は、今般の安保関連法案に反対する野党や同じく反対する団体等の主張に首をかしげるばかりである。

 

○おわりに

昨日で、終了しようと思っていた記事ですが、昨夜の報道や今朝の報道をみるにつけ、今般の安保関連法案に関して正しい認識を良識ある国民のみなさまに持っていただきたいと再度思い、本日も追記しました。私は、多くの国民の皆様には、今般の騒動について良識を持って正しくご判断ただけることを重ねて切に願うばかりです。

 

PS

法案に反対する野党は、戦争という言葉を防衛力の行使を含めて使用している様子です。戦争という言葉の定義は、宣戦布告の後他国に武力の行使を行うことを過去には意味していました。しかし、現在ではその定義は使われなくなり、「国による侵略の意図をもった他国への武力行使」を戦争と定義しています。今日では、戦争とは、自衛権の行使の根拠となる国連憲章第51条に規定される「(国連加盟)国に対して武力攻撃を行うこと」すなわち、侵略目的の武力行使を指します。※原則的に、侵略目的の先制攻撃(戦争)は国際法違反です。他方で、軍事的には防衛力の行使も戦争という用語を使用するようすですが、反対野党はその意味で「戦争法案」と呼んでいることが伺えます。日本国民は、先の第二次対戦の敗戦の記憶が薄れておらず、先の戦争がトラウマとなっています。当然戦争という用語を用いれば、先の第二次世界大戦が頭によぎります。反対野党は、その効果を悪意をもって活用し、戦争法案だと言い募っています。ある意味、正義を欠く所業ですが、それが反対野党の正体だと断じることができます。

私は、その点においても、反対野党(特に民主党)のやり方が非常に残念無念で仕方ありません。

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今般の安保法制に関する考察 2

2015年09月17日 10:16

そもそも日米安保条約の内容はどうなっているのか?をみてみたいと思います。

 日米安保条約は、たとえそれが片務的であれ、不完全な双務であれ、明確にいわゆる集団的自衛権を定めた条約です。日本国内の議論は、憲法上の要請もあり、自衛隊が集団的自衛権を行使できるか否かに関する机上論に終始していますが、安保条約の条約上は明らかに集団的自衛権を定めています。以下で条約の内容を詳しくみていきます。

 ところで、民主党を始めとする今般の法案に反対する野党は、本日(平成27年9月17日)の参議院特別委員会での審議を実力(理事会終了後に委員長を理事会室から出さない、委員会室で着席せずに委員長を取り囲む、委員長の不信任動議を突然手渡す、委員長の着席の指示に全く従わない等)をもって阻止しました。国会の審議を実力を使って阻止することは、民主主義の原則に明らかに反していると言えます。仮に、特定の思想を持った政党が複数の議席を占め、自党の反対する法案に対し今般と同様の行動をとるならば、議会制民主主義の崩壊と言えます。他方で、デモ行進により国の政策を決定できるのであれば、国会は不要ということになってしまいます。こういった正論をマスコミは報道しませんが、明らかに議会制民主主義の否定であると考えます。野党は、今般の安保法案(関係既存法の改正及び新法)の成立に反対するのであれば、次回の国政選挙でその点を主権者である日本国民に訴え、その結果多数の議席を確保し、もって国会審議ののち同法の廃止法案を可決すべきものと考えます。他方で、今般の安保法案が成立した後、裁判に訴えることで法律の無効を主張すべきものと考えます。

 

日本とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(条文)

前文 日本国及びアメリカ合衆国は、 両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁 護することを希望し、 また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長する ことを希望し、 国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとす る願望を再確認し、 両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、 両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、 相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、 よつて、次のとおり協定する。 

○安保条約の前文では、平和主義・民主主義の堅守、国連憲章に定める個別的又は集団的自衛権の固有の権利を有していることの確認、日米の極東における国際平和及び安全の維持に留意すること等が述べられています。

参考:国連憲章

第51条自衛権〕 
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国が措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

第一条 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつ て国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による 威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しな い他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行さ れるように国際連合を強化することに努力する。 

○第一条では、国際的な平和及び安全・正義の棄損を解決し、国連の目的を尊重する等が書かれています。

第二条 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することに より、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。 締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。 

○第二条では、締結国(日米)が平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献することおよび経済協力について記述しています。

第三条 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗する それぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。

○両国がそれぞれの国の憲法の規定に従って、武力攻撃に抵抗する能力を維持発展させると規定しています。

第四条 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に 対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。

○安保関連協議を必要に応じ随時協議することとしています。 

第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全 を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する ことを宣言する。 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国 際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及 び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

○第五条は、日本国の施政の下にある領域における 「いずれか一方に対する武力攻撃」が自国への武力攻撃とみなして共通の危険に対処するものとしています。地域的な要件がかかっていますが、この規定は明らかに集団的自衛権を規定したものであり、60年安保でも集団的自衛権が規定されています。

参考:改定前の安保条約(60年安保)前文

平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。

 これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。

第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、 その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で 署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の 協定及び合意される他の取極により規律される。 

○第六条は、在日米軍基地の根拠条文および地位協定の根拠条文です。

第七条 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任 に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。

○第七条は、国連加盟国の権利及び義務は、安保条約によって影響されないと規定しています。

第八条 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。

○第八条は、安保条約の効力の発生のための手続を定めています。

第九条 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約 は、この条約の効力発生の時に効力を失う。 

○第九条は、旧安保条約が本条約の発効により失効すると記述しています。

第十条  この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生 じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了さ せる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。 

○第十条は、日本についての武力攻撃等の危機が、国連の措置により安全の維持のため十分に効力を生じたと日米政府が認めたときまでこの安保条約が効力を有するとしています。

以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。 千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

日本国のために  岸 信介  藤山愛一郎  石井光次郎  足立 正  朝海浩一郎  

アメリカ合衆国のために 

   クリスチャン・A・ハーター 

   ダグラス・マックアーサー二世 

   J・グレイアム・パースンズ 

 

参考:安保条約 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/pdfs/jyoyaku.pdf

参考2:国連憲章 https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/unch.htm

 

○まとめ 日米安保条約は、明らかに集団的自衛権を規定した条約です。和訳では、国連憲章及び安保条約ともに集団的自衛権を定めています。ただし、日本国内の政治的な配慮により、安保条約の第五条から「集団的自衛権」の文言を削除しています。もとより、日米安保条約は集団的自衛権を規定したものであり、集団的自衛権が違憲であるとの憲法解釈は、すなわち「日米安保条約が違憲無効である」との解釈であり、昭和47年の政府解釈(集団的自衛権は権利として有しているが行使できない。)を含め、それが不合理であることを示しています。具体的には、敵対国からの武力攻撃があった場合において、相手国(同盟国等)を自国が守ることに限らず、相手国に自国を守ってもらうことも、国際的には明らかに集団的自衛権に含まれると解することが合理的であるからです。

 この点で、野党の議員(民主党の小西参議院議員)が「集団的自衛権とは、他国を侵略することだ・・・」と堂々とテレビで発言していましたが、いかにデタラメな主張であるかが判断できると思います。

○日本国憲法と集団的自衛権

 ところで、今般の安保法案に反対の議員の論拠は、

①「集団的自衛権は、憲法違反である。」「限定的であれ、憲法違反の集団的自衛権を規定した今般の安保法案は、違憲無効である。」「従って、今般の安保関連法案は廃案にすべきである。」とするものです。

そのほか、②「審議時間が不足しており、政府の説明も不十分である。そのため国民の理解が不十分であるから、継続して審議すべきであり、審議を打ち切って採決すべきではない。」というものです。

反対野党の主張する①と②は、あきらかに矛盾する主張です。そもそも違憲無効な法案であるならば、『国民の理解が進んでいない』であるとか、『審議が不十分である』とか、『政府の説明が不十分・不合理である』といった野党の主張は、不必要です。この点でも、反対野党の主張に矛盾があり、法案に反対の根拠が希薄であると言えます。

 また、集団的自衛権の違憲性の問題ですが、砂川事件判決においてもこの点に直接言及していません。しかし、安保条約は「合憲である」との判断を示しており、先に記述したように「日米安保条約とは、集団的自衛権の行使を日米で確約した条約」ですから、安保条約の合憲性の判断は、すなわち集団的自衛権の合憲性の判断にほかなりません。この点の異なる解釈(従来の政府解釈を含む。)により、長年PKO、在日米軍、沖縄の基地問題その他、国の最も重要な安全保障に関する国会内等の議論において、いわゆる「神学論争」に類似する議論が続いて来たわけです。

 もちろん、最も合理的な方法は、日本国憲法を改正し、第九条二項において、国際的にも憲法上(砂川事件判決において明示されている)も認められている自国防衛権について規定し、さらにその方法として国防軍である自衛隊の存在を明記することと思います。

 そもそも、他国を侵略する行為(戦争)及び武力による他国の威嚇は、国際法違反(国連憲章第二条第四号)となります。従って、一部の野党が言うように、今般の安保関連法案が「戦争法案である」と決め付けることは、すなわち国際法違反の法案を政府が提示していると断じていることとなります。他方、それら(主に社民党、共産党)の反対野党は国会審議の上で、国際法違反に該当するとの主張を全く行っていません。もっとも、法改正により他国(他国の領土・領海)に武力侵攻できるのかとの質問を繰り返し、その都度侵攻しないと答弁され、さらに同じ質問を繰り返しています。

 いずれにしても、野党の主張は根拠が乏しく、まして日本国の安全保障を真剣に熟慮した上での法案反対とは、到底信じられないわけです。さらにまた、防衛力の法的な整備が、敵対国のさらなる防衛力の整備や他国からの先制攻撃を呼ぶこととなり、あるいは自衛隊による米軍等の防護により戦争に巻き込まれるとの議論があります。この点に関しては、無防備なチベットがどうなったか?或いは永世中立国のスイスが国民皆兵政策をとっており、スイス国民の自宅にはどの家にも「武器やシェルターが設置されてる」事実等をみても、非武装安全論(憲法九条絶対論)や防衛体制整備による戦争巻き込まれ論が空理空論であるといえます。

 今般の安保法案に賛成の議員・国民を含め、誰しも戦争は嫌だし戦争反対だと思っています。その上で、国防の備えがなければ、まして無抵抗主義では、チベットのように、他国に「自国の主権・自国の領土領海・自国民の生命財産、国民の幸福追求の権利、憲法で保障された表現の自由、報道の自由等々」が脅かされ、侵害される事態が起きてしまいます。日本国だから、今般の安保関連法案の反対デモが自由にできます。チベットや内モンゴルで反政府デモを行えば、武装警官隊に実弾で射撃されてしまいます。

 多くの良識ある日本国民のみなさん及び報道機関の皆さまには、今般の安保関連法案に関し、十分な冷静さかつ慎重さをもって、ご判断いただけますように願うばかりです。

 

以上で安保法制に関する考察を終了します。改めて、民主党の暴力的な国会内での手段には、憤りを覚えます。

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今般の安保法制に関する考察

2015年09月16日 10:10

私は、特段の政治思想や宗教上の信仰を有する人間ではありませんが、今般の本法案に反対の野党や団体の主張があまりにも「不合理」「的外れ」であると判断しますので、以下に本法案について記述します。

なお、あえて述べれば、政治的にはリベラル(自由主義)であり、宗教的にはスピノザの神(自然そのものが神であるという信仰・思想)を持っています。ここでいう、リベラルとは日本で考えられている「左翼主義」的な思想とは異なります。

労働法とは、全く無関係の記述ですがご容赦ください。

 

砂川事件判決が日本国の最高裁判所が日本国憲法第九条について唯一判断した判例である。

そこで、砂川事件判決の判決文について、考察したいと考えたので以下に記述する。

判決文の出典は、最高裁判所HPの裁判例情報

「砂川事件」https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/816/055816_hanrei.pdf

 

  主    文

原判決を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

  理    由(抜粋)

一、先ず憲法九条二項前段の規定の意義につき判断する。そもそも憲法九条は、わ

が国が敗戦の結果、ポツダム宣言を受諾したことに伴い、日本国民が過去における

わが国の誤つて犯すに至つた軍国主義的行動を反省し、政府の行為によつて再び戦

争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、深く恒久の平和を念願して制

定したものであつて、前文および九八条二項の国際協調の精神と相まつて、わが憲

法の特色である平和主義を具体化した規定である。すなわち、九条一項においては

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」することを宣言し、

また「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決

する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定し、さらに同条二項においては、

「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦

権は、これを認めない」と規定した。かくのごとく、同条は、同条にいわゆる戦争

を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているのであるが、

 しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定さ

れたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものでは

ないのである。

※自衛隊の合憲性の判断「日本国憲法第九条第二項は 『無防備、無抵抗』を

 定めたものではない。自衛隊による国防は、憲法九条に反しない。」

 憲法前文にも明らかなように、われら日本国民は、平和を維持し、専制と隷従、

圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとつとめている国際社会において、名誉あ

る地位を占めることを願い、全世界の国民と共にひとしく恐怖と欠乏から免かれ、

平和のうちに生存する権利を有することを確認するのである。

 しからば、わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要

な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことと

いわなければならない。すなわち、われら日本国民は、憲法九条二項により、同条

項にいわゆる戦力は保持しないけれども、これによつて生ずるわが国の防衛力の不

足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼するこ

とによつて補ない、もつてわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。

そしてそれは、必ずしも原判決のいうように、国際連合の機関である安全保障理

事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではなく、わが国の平和と安全を

維持するための安全保障であれば、

 「その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即

応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりであつて、憲法九

条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、

何ら禁ずるものではないのである。」※安保条約の合憲性

 そこで、右のような憲法九条の趣旨に即して同条二項の法意を考えてみるに、同

条項において戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持し、自ら

その主体となつてこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条一項において

永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすがごときことのないよ

うにするためであると解するを相当とする。

 ※日本国憲法第九条第二項は、我が国がいわゆる『侵略戦争』を行うことを禁じ

たものであると解するのが相当

 従つて同条二項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否

かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となつ

てこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の

戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにい

う戦力には該当しないと解すべきである。

※在日米軍は、日本国憲法第九条第二項の「陸海空軍その他の戦力」にあたらない

 ところで、本件安全保障条約は、前述のごとく、主権国としてのわが国の存立の

基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、

 その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを

承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。

それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判

所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白

に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであ

つて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認

権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に

委ねらるべきものであると解するを相当とする

※最終的には国政選挙又は法に基づく国民投票等により判断されるべきである。

 そして、このことは、本件安全保障条約またはこれに基く政府の行為の違憲なり

や否やが、本件のように前提問題となつている場合であると否とにかかわらないの

である。」

※集団的であれ、個別的であれ、「憲法の禁ずる侵略戦争以外の目的」たる自衛

(国防)という目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実

情に即応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりである。

(判決文を抜粋、加筆)

 

以下、自著

1.最高裁判所の本法に関する違憲審査について(本法成立後の裁判)

日本国憲法 第八十一条

最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

 最高裁判所の判例は、憲法・法令・条例等と同様に裁判規範をなすとされてい

るため、今般の安保関連法案の成立後、仮に反対する人々が裁判を起こしても砂

川事件判決の判旨が踏襲されると見込まれ、

 ア 原審は、「裁判所の司法審査権の範囲を逸脱し同条項および憲法前文の解釈

  を誤つた」ものであり無効(本判決の抜粋)

 イ (国防)という目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情

   勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができる為、(安保条約

   は)合憲である。※本法に関する違憲裁判も同様の判決が予測される。

 ウ 最高裁の合憲違反の判断は、これを承認した国会の高度の政治的ないし自由

   裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。(安保条約の合憲性判断について)

   それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする

   法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり従つて、一見

   極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の

   範囲外のものであるから、最高裁判所は違憲審査をしない。

   ※ここで、「一見極めて明白に違憲無効であると認められる」とは、上記の

   判決文の抜粋に記述があるように、日本国政府が他国の侵略戦争を行う意図

  (現在の中国のような意図を言います。)を持って自衛隊を国外に派遣するこ

   とを指します。

2.中国脅威論の信憑性について

 現在中国は、戦後すぐに行った「チベット、ウイグル、朝鮮半島北部(現在の北朝)

鮮」の侵略に加えて、南サ諸島及び西サ諸島(尖閣諸島をはじめとする沖縄県全体を

中国の領土とする意図を含む)について侵略の意思をもって軍事行動を始めています。

もちろん、彼らの言い分は「人民の解放」及び「歴史的に中国の領土・領海」ですが、

チベットやウイグルの人々の弾圧や人権無視は、多くの日本国民が知るところです。

そして場合によっては、本来の中国人も弾圧・粛清されています。

 他方で、韓国人の一部も対馬(長崎県対馬市)が韓国の領土であると主張してい

る事実があります。これを放置すれば竹島と同様の状況になる恐れすらあります。

 それらの事実を踏まえ、日本国の国防に反対し、またアメリカ海兵隊部隊の駐留

等に反対する一部の沖縄県民に、『本気で「チベット」になりたいのか』を一度聞

いてみたいと思っています。

 蛇足ですが、長距離の展開能力を有するチルドローター機の配備に最も反対して

いるのは中国政府です。

参考 南シナ海の状況(防衛省HP)

https://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/ch_d-act_20150529.pdf

参考2:安保関連法案の新旧対照表等 出典:「日本国内閣官房HP」

https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/housei_seibi.html

3.憲法学者の意見について

ある統計によれば、自衛隊の存在自体が違憲であると憲法学者の約六割が

主張していると言われています。本法案に反対する野党等の論拠として、

憲法学者の多数が本法案が違憲であると主張しているというものがありま

すが、そもそも自衛隊そのものが違憲であるとの見解を持っている憲法

学者も多く、本法の審査の前提を欠くと言わなくてはなりません。

さらに、今般の法案に反対する集団の反対デモ行進においては、日本国

の国旗を掲げている団体は皆無であり、真に日本国の将来を憂いて反対

運動を行っている人々であるとは、到底信じられません。

 

 

今週中(平成27年9月19日まで)の本法の成立を祈願いたします。

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雇用保険とは何か? 6

2015年09月13日 16:23

逐条解説

第三章 失業等給付 

第一節 通則(第十条第十二条)

第十条 (失業等給付)

 失業等給付は、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付及び雇用継続給付とする。

2 求職者給付は、次のとおりとする。

一 基本手当

二 技能習得手当

三 寄宿手当

四 傷病手当

3 前項の規定にかかわらず、第三十七条の二第一項に規定する高年齢継続被保険者に係る求職者給付は、高年齢求職者給付金とし、第三十八条第一項に規定する短期雇用特例被保険者に係る求職者給付は、特例一時金とし、第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者に係る求職者給付は、日雇労働求職者給付金とする。

4 就職促進給付は、次のとおりとする。

一 就業促進手当

二 移転費

三 広域求職活動費

5 教育訓練給付は、教育訓練給付金とする。

6 雇用継続給付は、次のとおりとする。

一 高年齢雇用継続基本給付金及び高年齢再就職給付金(第六節第一款において「高年齢雇用継続給付」という。)

二 育児休業給付金

三 介護休業給付金

 

第十条の二 (就職への努力)

 求職者給付の支給を受ける者は、必要に応じ職業能力の開発及び向上を図りつつ、誠実かつ熱心に求職活動を行うことにより、職業に就くように努めなければならない。

 

○雇用保険の給付の体系

失業等給付

 ・求職者給付

  基本手当

 技能習得手当

 寄宿手当

 傷病手当

 ※高年齢求職者給付金

 ※日雇労働求職者給付金

・就職促進給付

 就業促進手当

 移転費

 広域求職活動費

・教育訓練給付  

 教育訓練給付金

・雇用継続給付

 高年齢雇用継続基本給付金及び高年齢再就職給付金

 育児休業給付金

 介護休業給付金

 

○失業等給付の支給要件

 まず、失業者の定義として、法第4条第3号にあるように「被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある」ことが要件です。そして、待機期間や給付制限期間の経過後に受給要件を満たす者につき、一定期間ごと(4週間ごとの失業認定日)にその間の過去の日々ごとに失業状態を認定し、基本手当の支給決定を行います。詳細は、各給付ごとに規定されている条文のところで記述します。また、受給者は「職業能力の開発及び向上を図りつつ、誠実かつ熱心に求職活動を行うことにより、職業に就くように努めなければならない(法第十条の二)。」とされており、自己研鑽、誠実熱心に求職活動を行うこと、就職の努力を継続することが規定されています。

 

以上で、雇用保険法第十条、第十条の二を終了します。

 

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雇用保険とは何か? 5

2015年09月13日 12:29

逐条考察

第八条(確認の請求)

 被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも、次条の規定による確認を請求することができる。

第九条 (確認)

  厚生労働大臣は、第七条の規定による届出若しくは前条の規定による請求により、又は職権で、労働者が被保険者となつたこと又は被保険者でなくなつたことの確認を行うものとする。

2 前項の確認については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。

 

則第八条 (確認の請求)

  法第八条の規定による被保険者となつたこと又は被保険者でなくなつたことの確認の請求は、文書又は口頭で行うものとする。

2 前項の規定により文書で確認の請求をしようとする者は、次の各号に掲げる事項を記載し

  て署名又は記名押印した請求書を、その者を雇用し又は雇用していた事業主の事業所の所在

  地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。この場合において、証拠があ

  るときは、これを添えなければならない。

一 請求者の氏名、住所及び生年月日

二 請求の趣旨

三 事業主の氏名並びに事業所の名称及び所在地

四 被保険者となつたこと又は被保険者でなくなつたことの事実、

  その事実のあつた年月日及びその原因

五 請求の理由

3 第一項の規定により口頭で確認の請求をしようとする者は、前項各号に掲げる事項を同項の公共職業安定所長に陳述し、証拠があるときはこれを提出しなければならない。

4 前項の規定による陳述を受けた公共職業安定所長は、聴取書を作成し、請求者に読み聞かせた上、署名又は記名押印させなければならない。

5 法第二十二条第五項に規定する者であつて、被保険者となつた日が法第九条第一項の規定による被保険者となつたことの確認があつた日の二年前の日より前にあるものが被保険者となつたことの確認の請求を文書で行う場合は、その者は、第二項の規定にかかわらず、第二項に規定する請求書に第三十三条の二各号に定めるいずれかの書類を添えて、その者を雇用し又は雇用していた事業主の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。

6 法第二十二条第五項に規定する者であつて、被保険者でなくなつた日が法第九条第一項の規定による被保険者となつたことの確認があつた日の二年前の日より前にあるものが被保険者でなくなつたことの確認の請求を文書で行う場合は、その者は、第二項の規定にかかわらず、第二項に規定する請求書に第三十三条の二各号に定めるいずれかの書類を添えて、その者を雇用し又は雇用していた事業主の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。

7 法第二十二条第五項に規定する者であつて、被保険者となつた日が法第九条第一項の規定による被保険者となつたことの確認があつた日の二年前の日より前にあるものが被保険者となつたことの確認の請求を口頭で行う場合は、その者は、第三項の規定にかかわらず、第二項各号に掲げる事項を同項の公共職業安定所長に陳述し、第三十三条の二各号に定めるいずれかの書類を提出しなければならない。

8 法第二十二条第五項に規定する者であつて、被保険者でなくなつた日が法第九条第一項の規定による被保険者となつたことの確認があつた日の二年前の日より前にあるものが被保険者でなくなつたことの確認の請求を口頭で行う場合は、その者は、第三項の規定にかかわらず、第二項各号に掲げる事項を同項の公共職業安定所長に陳述し、第三十三条の二各号に定めるいずれかの書類を提出しなければならない。

9 前二項の規定による陳述を受けた公共職業安定所長は、聴取書を作成し、請求者に読み聞かせた上、署名又は記名押印させなければならない。

10 第二項、第三項、第五項及び第七項の場合において、被保険者となつたことの確認の請求をしようとする者が、被保険者証の交付を受けた者であるときは、その被保険者証を提出しなければならない。

 

第九条 (確認の通知)

  公共職業安定所長は、法第九条第一項の規定による労働者が被保険者となつたこと又は被保険者でなくなつたことの確認をしたときは、それぞれ、雇用保険被保険者資格取得確認通知書(様式第六号の二)又は雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(様式第六号の三)により、その旨を当該確認に係る者及びその者を雇用し、又は雇用していた事業主に通知しなければならない。この場合において、当該確認に係る者に対する通知は、当該事業主を通じて行うことができる。

2 公共職業安定所長は、当該確認に係る者又は当該事業主の所在が明らかでないために前項の規定による通知をすることができない場合においては、当該公共職業安定所の掲示場に、その通知すべき事項を記載した文書を掲示しなければならない。

3 前項の規定による掲示があつた日の翌日から起算して七日を経過したときは、第一項の規定による通知があつたものとみなす。

 

則第十条 (被保険者証の交付)

  公共職業安定所長は、法第九条の規定により被保険者となつたことの確認をしたときは、その確認に係る者に雇用保険被保険者証(様式第七号)を交付しなければならない。

2 前項の規定による被保険者証の交付は、当該被保険者を雇用する事業主を通じて行うことができる。

3 被保険者証の交付を受けた者は、当該被保険者証を滅失し、又は損傷したときは、雇用保険被保険者証再交付申請書(様式第八号)に運転免許証、健康保険の被保険者証その他の被保険者証の再交付の申請をしようとする者が本人であることの事実を証明することができる書類を添えて公共職業安定所長に提出し、被保険者証の再交付を受けなければならない。

 

○雇用保険の被保険者の仕組み

 雇用保険においては、適用事業所に使用されている一定の労働者(適用を除外されて

いる労働者以外の労働者)が被保険者として保険料の一部を負担し(本体部分の半分の額の

保険料)、失業等の保険事故が発生した場合に、所定の保険給付を受給できます。そこで、雇

用保険においても健康保険や厚生年金又は国民年金と同様に、政府(公共職業安定所)に被保

険者の資格をし得した(被保険者に該当した)旨の届出をする必要があり、事業者に義務付け

られているこの手続を行わなかった場合には、保険事故発生時に雇用保険の保険給付を受けら

れなくなってしまいます。(資格取得届提出後に交付される被保険者証が保険給付手続に必要

となります。)

 そこで、雇用保険の被保険者に該当する(または該当した)労働者は、法第八条により被保

険者に該当したこと、または該当しなくなったことの確認の請求を行うことができます。法文

上は厚生労働大臣が行うとされていますが(法第九条)、則第一条及び法第八十一条第二項の

規定により最終的に公共職業安定所の所長に委任されています。

 

○遡及適用

 雇用保険の被保険者に該当したにもかかわらず、会社が被保険者資格取得届及び保険料の支

払を行っていなかった場合には、労働者が法第八条の確認請求を行った日の前日等までの過去

二年間について被保険者期間に算入することとなっています(法第十四条第二項第二号)。

 また、事業主が保険関係成立届等や適用事業所設置届等を提出を怠った場合には、2年間遡

って保険料負担を行うことを求められる場合があります。

 

○マイナンバー制度の導入と雇用保険等について

 平成29年7月より、雇用保険業務において、他の行政機関(税務署を含む)との情報連携が開

始される予定となっています。そして、事前に会社等の事業者に、例えば「従業員の個人番号

を記載した雇用保 険被保険者資格取得届を作成し、 ハローワークに提出する等」の事務が義務

付けられます。そうすると、当然に所得税等との関連から、保険関係成立届や被保険者資格取

得届等の手続の不備が行政機関の視点から顕在化します。

 従来から、税制面での法人登録数と社会保険上の法人登録数の不一致(社会保険等の登録法

人数が少ない)が指摘されており、保険料の徴収漏れ、引いては労働者の保護の網に穴があい

ていることが指摘されて来ました。社会保険料負担や労働保険料負担の増により、会社の経営

状況が悪化するなどの懸念がありますが、それは本末転倒だと言えます。

 法に加入を規定された法人等が正しく社会保険料・労働保険料を納付することで、結果的に

全体の保険料の軽減や複数の減税につながることが想定されますし、それこそがあるべき姿だ

と考えます。

 

参考資料 マイナンバー制度の導入に向けて(雇用保険業務)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000093030.pdf

 

 

 

以上で雇用保険法第八条・第九条を終了します。

 

 

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雇用保険とは何か? 4

2015年09月12日 10:16

逐条考察

第七条 (被保険者に関する届出)

 事業主(徴収法第八条第一項又は第二項の規定により元請負人が事業主とされる場合にあつては、当

該事業に係る労働者のうち元請負人が雇用する労働者以外の労働者については、当該労働者を雇用す

下請負人。以下同じ。)は、厚生労働省令で定めるところにより、の雇用する労働者に関し、当

該事業主の行う適用事業(同条第一項又は第二項の規定により数次の請負によつて行われる事業

の事業とみなされる場合にあつては、当該事業に係る労働者のうち元請負人が雇用する労働者以外の

労働者については、当該請負に係るそれぞれの事業。以下同じ。)に係る被保険者となつたこ

と、当該事業主の行う適用事業に係る被保険者でなくなつたことその他厚生労働省令で定める

事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。当該事業主から徴収法第三十三条第一項

の委託を受けて同項に規定する労働保険事務の一部として前段の届出に関する事務を処理する同条

第三項に規定する労働保険事務組合(以下「労働保険事務組合」という。)についても、同

とする。

 

第六条(被保険者となつたことの届出)

 事業主は、法第七条の規定により、その雇用する労働者が当該事業主の行う適用事業に

係る被保険者となつたことにいて、当該事実のあつた日の属する月の翌月十日までに、

雇用保険被保険者資格取得届(様式第二号。以下「資格取得届」という。)をその事業所

の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。

2 事業主は、次の各号のいずれかに該当する場合には、前項の規定により提出する資格取得届に労

働契約に係る契約書、労働者名簿、賃金台帳その他の当該適用事業に係る被保険者となつ

たことの事実及びその事実のあつた年月日を証明することができる書類を添えなければな

らない。

一 その事業主において初めて資格取得届を提出する場合

二 前項に規定する期限を超えて資格取得届を提出する場合

三 前項に規定する期限から起算して過去三年間に法第十条の四第二項に規定する同条第一項の規定による失業等給付の返還又は納付を命ぜられた金額の納付をすることを命ぜられたことその他これに準ずる事情があつたと認められる場合

四 前各号に定める場合のほか、資格取得届の記載事項に疑義がある場合その他の当該届出のみでは被保険者となつたことの判断ができない場合として職業安定局長が定める場合

3 事業主は、その同居の親族(婚姻の届出をしていないが、事実上その者と婚姻関係と

同様の事情にある者を含む。)その他特に確認を要する者として職業安定局長が定める者

に係る資格取得届を提出する場合には、第一項の規定により提出する資格取得届に、労

働契約に係る契約書、労働者名簿、賃金台帳その他の当該適用事業に係る被保険者とな

つたことの事実及びその事実のあつた年月日を証明することができる書類並びに職業安

定局長が定める書類を添えなければならない。

4 事業主は、前二項の規定にかかわらず、職業安定局長が定めるところにより、これ

らの規定に定める書類を添えないことができる。

5 第十条第一項の雇用保険被保険者証(同項を除き、以下「被保険者証」という。)の交付

を受けた者は、被保険者となつたときは、速やかに、その被保険者証をその者を雇用す

る事業主に提示しなければならない。

6 事業主は、法第二十二条第五項に規定する者であつて、被保険者となつた日が法第

九条第一項の規定による被保険者となつたことの確認があつた日の二年前の日より前に

あるものに係る被保険者となつたことの届出については、第一項の規定にかかわらず、

資格取得届に第三十三条の二各号に定めるいずれかの書類を添えてその事業所の所在地

を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。

 

第七条 (被保険者でなくなつたことの届出)

 事業主は、法第七条の規定により、その雇用する労働者が当該事業主の行う適用事業に

係る被保険者でなくなつたことについて、当該事実のあつた日の翌日から起算して十日以

内に、雇用保険被保険者資格喪失届(様式第四号。以下 「資格喪失届」という。)に労働契約に

る契約書、労働者名簿、賃金台帳その他の当該適用事業に係る被保険者でなくなつたことの事実及び

の事実のあつた年月日を証明することができる書類を添えてその事業所の所在地を管す

公共職業安定所の長に提出しなければならない。この場合において、当該適用事業に

係る被保険者でなくなつたことの原因が離職であるときは、当該資格喪失届に、次の各号

に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める書類を添えなければならない。

一 次号に該当する者以外の者 雇用保険被保険者離職証明書(様式第五号。以下「離職証明書」という。)及び賃金台帳その他の離職の日前の賃金の額を証明することができる書類

二 第三十五条各号に掲げる者又は第三十六条各号に掲げる理由により離職した者 前号に定める書類及び第三十五条各号に掲げる者であること又は第三十六条各号に掲げる理由により離職したことを証明することができる書類

2 事業主は、前項の規定により当該資格喪失届を提出する際に当該被保険者が雇用保険被保険者

離職票(様式第六号。以下「離職票」という。)の交付を希望しないときは、同項後段の

規定にかかわらず、離職証明書を添えないことができる。ただし、離職の日において五

十九歳以上である被保険者については、この限りでない。

3 公共職業安定所長は、離職したことにより被保険者でなくなつた者が、離職の日以前二年間(法

第十三条第三項に規定する特定理由離職者及び法第二十三条第二項各号のいずれかに該当する者

(法第十三条第一項の規定により基本手当の支給を受けることができる資格を有することとなる者

除く。)にあつては一年間)に法第十三条第一項に規定する理由により引き続き三十日以上

賃金の支払を受けることができなかつた場合において、必要があると認めるときは、そ

の者に対し、医師の証明書その他当該理由を証明することができる書類の提出を命ずる

ことができる。

4 事業主は、法第二十二条第五項に規定する者であつて、被保険者でなくなつた日が法第九条第一

項の規定による被保険者となつたことの確認があつた日の二年前の日より前にあるもの

に係る被保険者でなくなつたことの届出については、前三項の規定にかかわらず、資格

喪失届に第三十三条の二各号に定めるいずれかの書類を添えてその事業所の所在地を管

轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。

5 事業主は、第一項の規定にかかわらず、職業安定局長が定めるところにより、同項

に定める書類を添えないことができる。

 

雇用保険の資格取得届(則第六条)

 雇用保険においては、労働者が雇用保険の被保険者になったことについて、事業主が事業所の所轄の公共職業安定所に所定の書面及び添付書類と一緒に届け出ることとなっています。参考までに言えば、労災では被保険者という概念を採用していないため、資格取得に関する手続はありません。具体的には、新たに被保険者に該当する労働者を採用したとき、適用が除外されている労働者が雇用形態の変更等により、被保険者に該当することとなったときなどに資格取得届を提出する必要があります。

 

1.雇用保険被保険者資格取得届(出典:愛知労働局作成「雇用保険のしおり」)

 ・ 提出書類……「雇用保険被保険者資格取得届

      または「雇用保険被保険者資格 取得届(連記式)

    (新規に同一日で被保険者番号を複数取得し、 

          かつ一定規模の被保険者資格を取得する場合)

  ・ 提出期限……雇用した日の属する月の翌月 10 日まで 

  ・ 提出先……事業所の所在地を管轄する公共職業安定所

 

 ※次の場合を除き、添付書類は不要。

 ① 事業主として初めての被保険者資格取得届を行う場合。

 ② 被保険者資格取得届の提出期限(上記参照)を過ぎて提出される場合

 ③ 過去 3 年間に事業主の届出に起因する不正受給があった場合 

 ④ 労働保険料を滞納している場合。 ⑤ 著しい不整合がある届出の場合

 ⑥ 雇用保険法その他労働関係法令に係る著しい違反があった事業主による届出 の場合

 ※添付書類

 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカード等)、 その他社会保険の資格取得関係書類等その労働者を雇用したこと及びその年月 日が明らかなもの、有期契約労働者である場合には、書面により労働条件を確 認できる就業規則、雇用契約書等の添付が必要。

 ※役員等の被保険者資格取得届

 株式会社等の取締役等であって従業員としての身分を有する者、事業主と同居している親族、在宅勤務者についての届出である場合には、雇用関係を確認 するための書類の提出が必要。

 ※社会保険労務士、労働保険事務組合が提出する場合

 社会保険労務士、労働保険事務組合を通じて提出される場合には、次のいず れかに該当する場合のみ、添付書類が必要。  

 ① 届出期限を著しく(原則として6か月)徒過した場合  

 ② 公共職業安定所において、届出内容を確認する必要がある場合

 

なお、添付書類の内容は提出先の安定所により内容が異なる場合もあるため、事前に確認することをおすすめします。

また、会社に就職した労働者は以前に渡された雇用保険被保険者証(年金手帳も併せて)を会社の担当者に提出します。

 

雇用保険被保険者資格喪失届(則第七条)

(1)離職票の交付を希望しないとき 

 ・ 提出書類……「雇用保険被保険者資格喪失届」 

 ・ 提出期日……被保険者でなくなった日の翌日から 10 日以内 

 ・ 提出先……事業所の所在地を管轄する公共職業安定所 

 ・ 持参するもの……労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、

  雇用契約 書など 

(2)離職票の交付を希望するとき

 (※ 59 歳以上の離職者は本人が希望するしない にかかわらず必ず離職票の交付が必要。)

   ・ 提出書類……「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」(3枚1組) 

   ・ 提出期日……被保険者でなくなった日の翌日から 10 日以内  

 ・ 提出先……事業所の所在地を管轄する公共職業安定所 

 ・ 持参するもの……労働者名簿、出勤簿(タイムカード)、賃金台帳、

  辞令及び 他の社会保険の届出(控)、離職理由の確認できる書類(就 業規則、役員会議事録など)

 

※雇用保険被保険者資格喪失届は以下の場合にも提出します。

 ① 被保険者資格の要件を満たさなくなったとき。

   ② 被保険者が法人の役員に就任したとき。

 (ただし、公共職業安定所において兼務役員 として認められた場合を除く。) 

 ③ 被保険者として取り扱われた兼務役員が、従業員としての身分を失ったとき。

   ④ 他の事業所へ出向したとき。 

 ⑤ 被保険者が死亡したとき。

 

○二重雇用の問題について

 例えば在籍出向の場合など、その者の生計 を維持するのに必要な主たる賃金を受ける事業所において被保険者となります。従って、雇用保険では、従たる賃金を受ける事業所においては被保険者となりません。(二重の資格取得はできない。)。

 一方、労災の場合には被保険者の概念がないため、同時に複数の事業主に雇用されている場合であっても、それぞれの賃金支払状況に応じて事業主は保険料を負担します。また、健康保険・厚生年金の場合、このようなケースでは、被保険者に該当すればそれぞれの事業において保険料負担(合算して標準報酬を決定する。事業主負担分は按分して負担。)が生じます。

 

上記のように、在籍出向の場合には雇用保険保険料の二重払いをしてしまうリスクがあります。

 

 

 

 

以上で雇用保険法第七条を終了します。

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雇用保険とは何か? 3

2015年09月10日 13:41

逐条考察

被保険者にならない労働者

 

第六条 (適用除外

 次に掲げる者については、この法律は、適用しない。

一 六十五歳に達した日以後に雇用される者(同一の事業主の適用事業に同日の前日から引き続いて六十五歳に達した日以後の日において雇用されている者及びこの法律を適用することとした場合において第三十八条第一項に規定する短期雇用特例被保険者又は第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者に該当することとなる者を除く。)

二 一週間の所定労働時間が二十時間未満である者(この法律を適用することとした場合において第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者に該当することとなる者を除く。)

三 同一の事業主の適用事業に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者(前二月の各月において十八日以上同一の事業主の適用事業に雇用された者及びこの法律を適用することとした場合において第四十二条に規定する日雇労働者であつて第四十三条第一項各号のいずれかに該当するものに該当することとなる者を除く。)

四 季節的に雇用される者であつて、第三十八条第一項各号のいずれかに該当するもの

五 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条、第百二十四条又は第百三十四条第一項の学校の学生又は生徒であつて、前各号に掲げる者に準ずるものとして厚生労働省令で定める者

六 船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条に規定する船員(船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第九十二条第一項の規定により船員法第二条第二項に規定する予備船員とみなされる者及び船員の雇用の促進に関する特別措置法(昭和五十二年法律第九十六号)第十四条第一項の規定により船員法第二条第二項に規定する予備船員とみなされる者を含む。以下「船員」という。)であつて、漁船(政令で定めるものに限る。)に乗り組むため雇用される者(一年を通じて船員として適用事業に雇用される場合を除く。)

七 国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの

 

雇用保険法施行令

第二条 (法第六条第三号の政令で定める漁船)

法第六条第三号の政令で定める漁船は、次に掲げる漁船以外の漁船とする。

 一 漁業法第五十二条第一項の指定漁業を定める政令(昭和三十八年政令第六号)第一項

   第二号に掲げる以西底びき網漁業、同項第三号に掲げる遠洋底びき網漁業又は同項

   第六号に掲げる小型捕鯨業に従事する漁船

二 専ら漁猟場から漁獲物又はその化製品を運搬する業務に従事する漁船

三 漁業に関する試験、調査、指導、練習又は取締業務に従事する漁船

 

雇用保険法施行規則

第三条の二 (法第六条第五号に規定する厚生労働省令で定める者)

法第六条第五号に規定する厚生労働省令で定める者は、次の各号に掲げる者以外の者とする。

一 卒業を予定している者であつて、適用事業に雇用され、卒業した後も引き続き当該事業に雇用されることとなつているもの

二 休学中の者

三 定時制の課程に在学する者

四 前三号に準ずる者として職業安定局長が定めるもの

 

第四条 (法第六条第七号の厚生労働省令で定める者)

 法第六条第七号の厚生労働省令で定める者は、次のとおりとする。

一 国又は独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行

  法人(以下「行政執行法人」という。)の事業に雇用される者(国家公務員退職手当法

  (昭和二十八年法律第百八十二号)第二条第一項に規定する常時勤務に服すること

  を要する国家公務員以外の者であつて、同条第二項の規定により職員とみなされ

  ないものを除く)

二 都道府県、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百八十四条第二項の規定によ

  る方公共団体の組合で都道府県が加入するもの又は地方独立行政法人法(平成十

  五年法律第百十八)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人(以下「特定地

  方独立行政法人」という。)であつて設立に当たり総務大臣の認可を受けたものその他都

  道府県に準ずるもの(以下この号及び次条第一項において「都道府県等」という。)

  の事業に雇用される者であつて、当該都道府県等の長が法を適用しないことについて、

  厚生労働大臣に申請し、その承認を受けたもの

三 市町村又は地方自治法第二百八十四条第二項、第三項、第五項及び第六項の規定による

  地方公共団体の組合で都道府県が加入しないもの、特定地方独立行政法人であつて設立

  に当たり都道府県知事の認可を受けたもの若しくは国、地方公共団体若しくは特定地方

  独立行政法人以外の者で学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条の学校、

  同法第百三十四条第一項の各種学校若しくは就学前の子どもに関する教育、保育等の

  総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号。第百一条の十一の二

  第一号において「認定こども園法」という。)第二条第七項に規定する幼保連携型認

  定こども園における教育、研究若しくは調査の事業を行うもの(以下この号において「学

  校等」という。)その他市町村に準ずるもの(以下この号及び次条第一項において

 「市町村等」という。)の事業(学校等が法人である場合には、その事務所を除く。)

  に雇用される者であつて、当該市町村等の長が法を適用しないことについて、都道府県

  労働局長に申請し、厚生労働大臣の定める基準によつて、その承認を受けたもの

2 前項第二号又は第三号の承認の申請がなされたときは、その承認の申請に係る被保険者に

  ついては、その承認の申請がなされた日から法を適用しない。ただし、法を適用しないこ

  とについて承認をしない旨の決定があつたときは、その承認の申請がなされた日にさかの

  ぼつて法を適用する。

 

 

○雇用保険の被保険者とならない労働者

 次の1.~7.に該当する労働者は、被保険者になりません。

1.65歳以降に新たに雇用された労働者

 ただし、次の場合には被保険者となる。

 ①同じ会社等に65歳以前から引き続き雇用されている者が65歳に達した場合は、被保険者となる。

 ②短期雇用特例被保険者

  短期雇用特例被保険者とは、※1季節的に雇用される者又は※2短期(1年未満)の雇用につくことを常態とする者を言う。

 

 ※1季節的に雇用される者(昭和50年発労徴第一七号・基発第一六六号・婦発第八二号・職発第九七号・訓発第五五号)

  「季節的に雇用される者」とは、季節的業務に期間を定めて雇用される者又は季節的に入離職する者をいう。この場合において、季節的業務とは、その業務が季節、天候その他自然現象の影響によって一定の時季に偏して行われるものをいう。

  また、期間を定めないで雇用される者であっても、季節の影響を受けることにより、雇用された日から一年未満の間に離職することが明らかであるものは、季節的に雇用される者に該当するものである。

  なお、「季節的業務に期間を定めて雇用される者」と「季節的に入離職する者」のいずれに属するかを厳格に区別する必要はなく、雇用期間が一年未満であるかどうか及び季節の影響を強く受けるかどうかをは握すれば足りるものである。

 

 ※2短期の雇用に就くことを常態とする者

  「短期の雇用に就くことを常態とする者」とは、過去の相当期間において、一年未満の雇用に就くことを繰り返し、かつ、新たな雇用も一年未満の雇用であるものをいう。

 

  次のすべてに該当する者は、「短期の雇用に就くことを常態とする者」である。

  () 対象期間において二回以上短期の雇用に係る離職をしたこと。

   ここで、対象期間とは、被保険者となった場合に当該被保険者となった日前三年間(当該期間内に、同一の事業主に引き続いて一年以上被保険者として雇用された後離職したことがある者にあっては、当該雇用に係る被保険者でなくなった日以後最初に被保険者となった日前の期間、また、引き続いて一年以上被保険者でない期間があり、当該期間の後に被保険者となったことがある者にあっては、当該被保険者となった日前の期間を除いた期間)をいう。

  () 対象期間が二年以上であること。

  () 新たな雇用が一年以上継続して雇用される見込みのあるものでないこと。

  なお、新たな雇用がたまたま一年未満の期間とされる場合であっても、当該事業が期間を限って行われるものではなく、かつ、当該地域において同種の業務に従事する労働者が年間を通じて雇用されることが一般的である場合において、当該労働者が一年未満の期間を限って雇用される事情が特にあると認められないときは、()に該当する者として取り扱わないものとする。 

 

法第三十八条(短期雇用特例被保険者)

 被保険者であつて、季節的に雇用されるもののう次の各号のいずれにも該当しない者

(第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者を除く。以下「短期雇用特例被保険者」とい

う。)が失業した場合には、この節の定めるところにより、特例一時金を支給する。

一 四箇月以内の期間を定めて雇用される者

二 一週間の所定労働時間が二十時間以上であつて厚生労働大臣の定める時間数未満である者

2 被保険者が前項各号に掲げる者に該当するかどうかの確認は、厚生労働大臣が行う。

3 短期雇用特例被保険者に関しては、第二節(第十四条を除く。)、前節及び次節の規定は、適用しない。

 

2.一週間の所定労働時間が20時間未満の者

 「1週間の所定労働時間」とは、就業規則、雇用契約書等により、その者が通 常の週に勤務すべきこととされている時間のことをいいます。この場合の通常の 週とは、祝祭日及びその振替休日、年末年始の休日、夏季休暇などの特別休日を 含まない週をいいます。 なお、1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合には、当該1 周期における所定労働時間の平均を1週間の所定労働時間とする。 また、所定労働時間が複数の週で定められている場合は、各週の平均労働時間 を、1か月単位で定められている場合は、1か月の所定労働時間を 12 分の 52 で 除して得た時間を、1年単位で定められている場合は、1 年の所定労働時間を 52 で除して得た時間を、それぞれ1週間の所定労働時間とする。

 

3.同一の事業主の適用事業に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者

 例えば、二週間の有期雇用であっても、契約の更新が予定されていて31日以上雇用されることが明らかな場合、若しくは予定が変わって実際に31日以上雇用される事となった日に被保険者となる。

 

4.季節的に雇用される者で次のいずれかに該当するもの

 一 四箇月以内の期間を定めて雇用される者

二 一週間の所定労働時間が二十時間以上であつて厚生労働大臣の定める時間数未満である者

 

  この場合の「季節的に雇用される者」とは、季節的業務に期間を定めて雇用さ れる者または季節的に入・離職する者のことをいう。 なお、短期雇用特例被保険者(以下「特例被保険者」という。)が同一の事業 主に引き続き雇用された期間が1年以上となるに至ったときは、その1年以上雇 用されるに至った日以後は、特例被保険者でなくなり、一般被保険者(65 歳未 満)または高年齢継続被保険者(65 歳以上)となります。なお、その場合であっ ても事業主に雇用されたときに 65 歳以上であった者については、被保険者とならない。 また、同一事業所に連続して1年未満の雇用期間で雇用され、極めて短期間の 離職期間で入離職を繰り返し、その都度特例一時金を受給しているような労働者 については、原則として、以後は、一般被保険者として取り扱うこととなる。 

 

5.学校の学生又は生徒であって以下に該当しない者(則第三条の二)

 一 卒業を予定している者であつて、適用事業に雇用され、卒業した後も引き続き当該事業
   に雇用されることとなつているもの

二 休学中の者

三 定時制の課程に在学する者

四 前三号に準ずる者として職業安定局長が定めるもの

 

  昼間学生であっても、次に掲げる方は被保険者となる

  ① 卒業見込証明書を有する者であって、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一事業 所

   に勤務する予定の者。 

  ② 休学中の者(この場合、その事実を証明 する文書が必要となる) 

  ③ 事業主の命により又は、事業主の承認を受け ( 雇用関係を存続したまま ) 大学院等に

   在学する者。

  ④ 一定の出席日数を課程終了の要件としない学校に在学する者であって、当該事業に おい

   て、同種の業務に従事する他の労働者と同様に勤務し得ると認められる者。(この場

   合、その事実を証明する文書が必要となる)

 

6.一定の船員

  船員であって、特定漁船以外の漁船に乗 り組むために雇用される者(1年を通じて 雇用される場合を除く)は、被保険者とならない。

  他方、船舶所有者に雇用されている間は、乗船し ている船舶が航行する領域にかかわりなく被 保険者となる。 船員法に規定する特定の船舶に乗り組んで 労務を提供することを内容とする「雇入契約」 (乗船契約)の間のみならず、船内で使用さ れることを内容としない「雇用契約」(予備船 員としての契約)が締結される場合にも、そ の間において継続して被保険者となる。

 

7.国家公務員、地方公務員、またはみなし公務員のうち次の者は被保険者とならない

  国、県、市町村その他これに準ずる事業 に雇用されている者で、離職時に受ける諸給与が失業等給付の内容を超える者は被保険者とならない。(則第四条)

 

○被保険者に関するまとめ

 次の愛知労働局作成の資料が参考になります。(一部を記述に引用しています。)

 

 URL:https://aichi-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0112/1682/201410115342.pdf

 

 

 

以上で、雇用保険法第六条(適用除外労働者)を終了します。

 

 

 

 

 

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雇用保険とは何か? 2

2015年09月09日 16:20

逐条考察

第二章 適用事業等(第五条第九条)

第五条 この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする。

2 適用事業についての保険関係の成立及び消滅については、労働保険の保険料の徴収等に関する

法律(昭和四十四年法律第八十四号。下「徴収法」という。)の定めるところによる。

 

労働保険徴収法

第四条 雇用保険法第五条第一項の適用事業の事業主については、その事業が開始された日に、

その事業につき雇用保険に係る保険関係が成立する。

 

○雇用保険の適用事業

 雇用保険は、労働者を使用する事業につき事業単位でその事業が開始された日に成立します。とこ

ろが、この労働保険徴収法においては、一元適用事業と二元適用事業(農林水産業、建設業、都道府県

・市町村の事業、地方の独法等が行う事業、港湾運送の事業)が存在し、非常にわかりにくい運用が

なされています。そしてこの事業とは、「経営上一体をなす本店、支店、工場等を総合した企業その

ものを指すのではなく、個々の本店、支店、工場、鉱山、事務所のように、一つの経営組織として独

立性をもった経営体をいう。」とされています。

 ここで、一元適用事業とは、労災保険と雇用保険を保険関係上一の事業として取り扱うものをい

い、一方の二元適用事業とは、労災保険の保険関係と雇用保険の保険会計を別々に取り扱うものをい

います。ただし、継続事業においては、通常は手続を行うことにより、「本店等が行う一の事業」と

して取扱をすることが可能です。通常問題となるのは、毎年の労働保険料の支払でありこの本社等に

一括する手続を行うことにより、本社で保険料に関する手続をすべて行うことができます。二元適用

事業の場合や有期事業の場合は少し複雑になりますので、ここでは省略します。※継続事業の反対の

有期事業とは、たとえば、建設現場のように工期の満了や建設物の完成に伴い終了する事業を言いま

す。

 参考までに、労働基準法においても、適用単位は「事業場」すなわち、地理的に同一であり、かつ

事業内容が同一の事業場(支店、店舗、工場、営業所等の単位)という概念を用いています。

 

○労働者とは

 労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」を言います。

ただし、労災保険法及び雇用保険法の適用が除外される労働者(被保険者から除外される労働者)

は、徴収法の労働者から除外されます。雇用保険の保険関係の成立及び消滅に関しては、徴収法の

規定に従いますから、被保険者に該当する労働者がいない事業の場合には、労災のみが適用される

事業となります。

 

 

第六条以降は、あす以降に記述します。

 

 

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雇用保険とは何か? 1

2015年09月08日 09:33

逐条考察

第一章 総則(第一条第四条)

第一条 (目的)

 雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じ

た場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給

付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等

その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是

正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを

目的とする。 

 

○目的条文

 法律の趣旨は、通常第一条に規定されています。雇用保険法第一条を分解してみます。

1.雇用保険の対象者は誰か

  雇用保険は、「失業した労働者」及び「雇用の継続が困難である事由が生じた場合における対象となる労働者」としています。従って、雇用保険法でいう「労働者」とは誰か?或いは、「労働者が失業した」とはどういう状態か?もしくは「雇用の継続が困難である事由が生じた場合」とはどういう場合か?が問題となります。

2.雇用保険で何をするのか

 ①労働者の生活及び雇用の安定を図る

 ②求職活動を容易にする等、就職を促進する

 ③上記にあわせて、「失業の予防」、「雇用状態の是正」及び「雇用機会の増大」、「労働者の能力の開発及び向上」「その他労働者の福祉の増進を図る」ことにより、労働者の職業の安定に資する

 以上の3点が法の目的だとしています。

  ここで、労働者の生活及び雇用の安定を促進するということは容易に理解できます。ただし、雇用するのは本来使用者(事業主)ですから、用語の意味の置き換えがみられます。求職活動を容易にする等就職を促進するこれは、失業者対策です。しかし、失業者を減らすことは、残念ながら政府等の経済対策によるところがより効果が大きく、厚生労働省や都道府県労働局あるいは都道府県の労政部局の政策では、出来ることや効果に限度があります。

  次に、失業の予防については、雇用調整等に対する助成金等の施策などがとられています。また、雇用状態の是正については他法によるところが大きく、雇用機会の増大とは何を意味するのかがわかりにくく、労働者の能力の開発及び向上については、雇用保険の給付の中に位置づけられています。その他労働者の福祉の増進を図るとは何かについてもわかりにくくなっています。

 

第二条 (管掌)

 雇用保険は、政府が管掌する。

2 雇用保険の事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととすることができる。

 

雇用保険施行令

第一条 (都道府県が処理する事務)

 雇用保険法(以下「法」という。)第二条第二項の規定により、法第六十三条第一項第一号に

掲げる事業のうち職業能力開発促進法(昭和十四年法律第六十四号)第十一条第一項に規定す

る計画に基づく職業訓練を行う事業主及び職業訓練の推進のための活動を行う同法第三条に

規定する事業主等(中央職業能力開発協会を除く。)に対する助成の事業の実施に関する事務

は、都道府県知事が行うこととする。

 

2 前項の規定により都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

 

1.管掌

 雇用保険は政府が管掌するとされています。この管掌とは、「役目の権限によってつかさどること」とされています。つまり、雇用保険の管理・運営は「政府」が行うと規定しています。政府とは、具体的に言えば、「公共職業安定所」「都道府県労働局担当課、部、局長」「厚生労働省雇用保険課」「厚生労働省雇用安定局」「厚生労働大臣官房」「厚生労働大臣、副大臣、政務官、補佐官、事務次官」「日本国内閣」の順に責任部局が縦に並んでいます。

2.都道府県への一部事務(助成の事業に関する事務)移管

 法第六十三条第一項第一号に掲げる事業のうち職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第十一条第一項に規定する計画に基づく職業訓練を行う事業主及び職業訓練の推進のための活動を行う同法第十三条に規定する事業主等(中央職業能力開発協会を除く。)に対する助成の事業の実施に関する事務(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務)を都道府県知事に委託することとしています(施行令第一条)。

参考:第六十三条 政府は、被保険者等に関し、職業生活の全期間を通じて、これらの者の能力を開発し、及び向上させることを促進するため、能力開発事業として、次の事業を行うことができる。

 一 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第十三条に規定する事業主等及び職業訓練の推進のための活動を行う者に対して、同法第十一条に規定する計画に基づく職業訓練、同法第二十四条第三項(同法第二十七条の二第二項において準用する場合を含む。)に規定する認定職業訓練(第五号において「認定職業訓練」という。)その他当該事業主等の行う職業訓練を振興するために必要な助成及び援助を行うこと並びに当該職業訓練を振興するために必要な助成及び援助を行う都道府県に対して、これらに要する経費の全部又は一部の補助を行うこと。(以下略)

 

職業能力開発促進法

第十一条 
 事業主は、その雇用する労働者に係る職業能力の開発及び向上が段階的かつ体系的に
行われることを促進するため、第九条から第十条の四までに定める措置に関する計画を
作成するように努めなければならない。
2 事業主は、前項の計画を作成したときは、その計画の内容をその雇用する労働者に
周知させるために必要な措置を講ずることによりその労働者の職業生活設計に即した自
発的な職業能力の開発及び向上を促進するように努めるとともに、次条の規定により選
任した職業能力開発推進者を有効に活用することによりその計画の円滑な実施に努めな
ければならない。 
 
第十三条(認定職業訓練の実施)
 事業主、事業主の団体若しくはその連合団体、職業訓練法人若しくは中央職業能力開
発協会若しくは都道府県職業能力開発協会又は一般社団法人若しくは一般財団法人、法
人である労働組合その他の営利を目的としない法人で、職業訓練を行い、若しくは行お
うとするもの(以下「事業主等」と総称する。)は、第四節及び第七節に定めるところに
より、当該事業主等の行う職業訓練が職業訓練の水準の維持向上のための基準に適合す
るものであることの認定を受けて、当該職業訓練を実施することができる。
 

地方自治法

第二条 地方公共団体は、法人とする。(中略)

第九項 この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。

一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。)

○第二条のまとめ

 雇用保険制度は、政府が管掌すること。また、職業能力開発法の規定に基づく認定職業訓練を実施する事業主等に対する必要な助成及び援助の事業について、都道府県知事に委託することができるとしています。また、都道府県知事が受託したこの事務は、第一号法定受託事務とされています。※第一号法定受託事務『国⇒都道府県』、第二号法定受託事務『都道府県⇒市町村特別区』

第三条 (雇用保険事業)

 雇用保険は、第一条の目的を達成するため、失業等給付を行うほか、雇用安定事業及び能力開発事業を行うことができる。

1.失業等給付(雇用保険法(以下法といいます。)第十条)

 失業等給付は、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付及び雇用継続給付とする。

 

 2 求職者給付は、次のとおりとする。

一 基本手当

二 技能習得手当

三 寄宿手当

 四 傷病手当

 3 前項の規定にかかわらず、第三十七条の二第一項に規定する高年齢継続被保険者に係る求職者給付は、高年齢求職者給付金とし、第三十八条第一項に規定する短期雇用特例被保険者に係る求職者給付は、特例一時金とし、第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者に係る求職者給付は、日雇労働求職者給付金とする。

 4 就職促進給付は、次のとおりとする。

一 就業促進手当

二 移転費

三 広域求職活動費

 5 教育訓練給付は、教育訓練給付金とする。

 6 雇用継続給付は、次のとおりとする。

一 高年齢雇用継続基本給付金及び高年齢再就職給付金(第六節第一款において「高年齢雇用継続給付」という。)

二 育児休業給付金

三 介護休業給付金

 

2.雇用安定事業(法第六十二条)

 政府は、被保険者、被保険者であつた者及び被保険者になろうとする者(以下この章において「被保険者等」という。)に関し、失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定を図るため、雇用安定事業として、次の事業を行うことができる。(以下略)

 

3.能力開発事業(法第六十三条)

 政府は、被保険者等に関し、職業生活の全期間を通じて、これらの者の能力を開発し、及び向上させることを促進するため、能力開発

事業として、次の事業を行うことができる。(以下略)

 

なお詳細は、該当条文のところで記述します。

 

第四条(定義)

 この法律において「被保険者」とは、適用事業に雇用される労働者であつて、第六条各号に掲げる者以外のものをいう。

2 この法律において「離職」とは、被保険者について、事業主との雇用関係が終了することをいう。

3 この法律において「失業」とは、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいう。

4 この法律において「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うもの(通貨以外のもので支払われるものであつて、厚生労働省令で定める範囲外のものを除く。)をいう。

5 賃金のうち通貨以外のもので支払われるものの評価に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 

 

1.被保険者

 適用事業に雇用される者で、適用が除外されていない者を被保険者としています。そこで、適用事業とは「この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする。(法第五条)」。また、適用除外者は「65歳以降にあらたに雇用される者、所定労働時間が20時間未満(週当たり)の者、短期雇用であって21日以内に雇用期間が終了することが明らかな者、一定の季節労働者、勤労学生、一定の船員、地方公務員(非常勤職員等を除く)」とされています。被保険者の詳細は、第六条で記述します。

2.離職

 離職とは、解雇、退職、辞職、雇止め、所定の契約期間の満了等により被保険者である労働者が事業主との労働契約関係を解消したことを言います。

3.失業

 被保険者が離職し、「労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある」ことをいいます。したがって、離職した被保険者が就職の意思を持たない場合や起業のために離職した場合若しくは転職先が既に決定している場合には、失業状態にあるとは認めてもらえません。

4.賃金

 雇用保険法でいう賃金とは、労働基準法で定める賃金とは差違があります。詳細は、法第十七条で記述しますが簡単に説明しますと、労働の対象となる賃金が保険料の算定の基礎賃金となります。他方で、基本手当の算定の基となる賃金日額は「原則として離職した日の直前の6か月に毎月きまって支払われた賃金(つまり、賞与等は除きます。)の合計を180で割って算出した金額(これを「賃金日額」といいます。)」とされているとおり、賞与等の臨時に支払われた賃金は除外されます。

参考1:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/hoken/h23/dl/koyou-05.pdf#search='%E9%9B%87%E7%94%A8%E4%BF%9D%E9%99%BA+%E8%B3%83%E9%87%91%E3%81%AE%E8%A9%B3%E7%B4%B0'(保険料の算定基礎賃金)

参考2:法第十七条 賃金日額は、算定対象期間において第十四条(第一項ただし書を除く。)の規定により被保険者期間として計算された最後の六箇月間に支払われた賃金(臨時に支払われる賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く。次項及び第六節において同じ。)の総額を百八十で除して得た額とする。

5.通貨以外で支払われる賃金の評価

雇用保険法施行規則

第二条 (通貨以外のもので支払われる賃金の範囲及び評価)

 法第四条第四項の賃金に算入すべき通貨以外のもので支払われる賃金の範囲は、食事、被服及び住居の利益のほか、公共職業安定所長が定めるところによる。

 2 前項の通貨以外のもので支払われる賃金の評価額は、公共職業安定所長が定める。

 

※通貨以外で支払われる賃金の評価も、上記の参考1をご参照ください。

 

○まとめ

 民間の生命保険等と雇用保険の契約関係等を比較してみます。もちろん批判は覚悟しています。

 

      民間の保険              雇用保険

契約意思   任意              法に該当すれば事業主に対し加入強制

契約当事者  保険会社⇔契約者(個人、法人) 国⇔事業主

保険料支払  契約者             本体部分は労働者(被保険者)と事業主折半

保険対象者  契約で定める者         労働者(被保険者)

保険期間   契約で定める期間        労働者(被保険者)を使用している期間

保険事故   保険対象者の死亡等       労働者(被保険者)の失業等

保険金等支払 契約で定める者に支払う     労働者(被保険者)に支払う等

 

※このように、雇用保険はあくまで保険であるため、基本部分は民間の生命保険等と類似の構造となっています。  

 

以上で雇用保険法第一条~第四条を終了します。続きは次回に記述します。

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過労死、過労自殺の問題に関する考察 2

2015年09月07日 10:32

○近年の自殺者数の年次推移(再掲):平成27年8月25日 内閣府自殺対策推進室作成(警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等)https://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/pdf/tsukibetsu_zanteichi.pdf

平成27年の自殺者数(単位人)

    1月  2月  3月  4月   5月   6月   7月    合計 

合計  2,041  1,760  2,284  2,079  2,218  1,992  2,031   14,405 △452

H26年 2,079  1,878  2,317  2,229  2,262  2,068  2,024  14,857

男性  1,426  1,225  1,605  1,468  1,574  1,407  1,345   10,050△203 

H26年 1,480  1,332  1,572  1,503  1,570  1,392  1,404   10,253

女性  615   535   679   611   644   585   686   4,355△269

H26年 599    546   745   726   692   676   620  4,604

※累計数の合計に差違があるが理由不明

○自殺理由の分析

 前回に、自殺者数と経済状況に相関関係があることはすでに述べました。すなわち、経済状況が良好な年(景気が良い時)には自殺者数が比較的少なく、他方経済状況が悪化した年(景気が悪い年)に自殺者数が増加する傾向があります。今回は、公開されている資料から自殺の理由を考察します。

1.自殺者数の各国比較:出典 グローバルノート(https://www.globalnote.jp/post-10209.html)

2013年  単位/10万人あたりの人数 自殺率

  国     自殺者数(人)

リトアニア   29.5

韓国      29.1

ロシア     29.0

ラトビア    20.4

ハンガリー   19.4

日本      19.1

スロベニア   18.6

ベルギー    17.4

エストニア   16.6

フランス    15.8

ポーランド   15.3

チェコ     14.2

オーストリア  13.6

アメリカ    12.5

2.日本に於ける自殺理由の分析:出典 平成22年厚生労働省作成資料https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/dl/torimatome_2.pdf

無職男性の自殺死亡率は極めて高く、35歳から54歳までの年齢階 級では、有職者の約5倍となっており、無職者対策、とりわけ支援につ ながるためのゲートキーパー機能(自殺のサインに気付き、見守りや助 言を行い、相談支援につなぐ役割)の充実が必要である。

配偶者と離別した無職者の自殺死亡率は多くの年齢階級で最も高く、 35歳から54歳までの年齢階級では、離別した男性無職者の自殺死亡 率は有配偶の男性有職者の約20倍となっており、地域から孤立してい る方へのアプローチ手段の充実が必要である。

生活保護受給者の自殺死亡率は全体の自殺死亡率よりも高く(※)、被 保護者数に占める精神疾患及び精神障害を有する方の割合は全人口に 占める精神疾患患者の割合よりも高い。生活保護受給者に対する精神面 での支援体制の強化が必要であることが分かる。

職業等の属性によって、自殺に至る経路や要因は異なる。例えば「被 雇用者・勤め人」は、配置転換や転職等による「職場環境の変化」がき っかけとなって自殺に追い込まれるケースが多い。失業者は、「失業 → 生活苦 → 多重債務 → うつ → 自殺」といった経路をたどるケ ースが多い。各地域で対策に取り組む際は、そうした実態を踏まえて必 要な連携を図っていく必要がある。

3.自殺の原因別にみる分析(平成21年) 単位(人)出典:警察庁自殺の概要

自殺者数 原因特定件数 健康問題(うつ  統合失調症 アルコール 薬物)   

32,845   24,434   15,867  6,949  1,394     336    63
 
     経済問題  家庭問題  勤務先  男女問題  学校問題  その他
    
     8,377    4,117    2,528    1,121     364   1,613
 
4.過労自殺のメカニズム
 過労死が社会問題化して久しいですが、過労が何故自殺に繋がるかについては、医学的に明確な知見が乏しく、社会的にあまり認知されていない現状があります。もっとも、月間の時間外労働時間と健康障害の相関関係については、おおまかな数値が厚生労働省から次のように示されています。
 月 100時間超 または、2~6ヶ月平均の時間外労働時間が80時間超の場合、健康障害のリスクが高まるとされています。(月の時間外労働時間=一週あたりの40時間超の労働時間の合計、(≒「対象月の実労働時間数ーその月の暦日数÷7×40」))※労働基準法第37条の法定時間外労働時間とは異なる定義です。
 長時間労働により、ストレスが増加することはもちろんですが、最も問題となる点は睡眠時間の減少です。睡眠時間が短くなることにより「うつ病」を発症することが医学的に知られています。そして、認知されただけでも自殺原因の約28.4%(平成21年うつ病による自殺者数(6,949人)÷自殺率理由判明数(24,434人)×100)がうつ病であるとの統計があります。また、仕事等によるストレスにより「アルコール依存症」に罹患することがありますが、過度のアルコール摂取は睡眠障害を引き起こすことが知られています。
※参考:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-006.html
 アルコール依存症とうつ病の合併は頻度が高く、アルコール依存症にうつ症状が見られる場合やうつ病が先で後から依存症になる場合などいくつかのパターンに分かれます。アルコールと自殺も強い関係があり、自殺した人のうち1/3の割合で直前の飲酒が認められます。
 
このように、長時間労働によるストレス⇒アルコール依存や睡眠障害⇒うつ病に罹患⇒自殺 という流れが見られることが高い確からしさで推定されます。
 
 長時間労働の弊害は、長時間労働により健康障害のリスクが認定されているほか、自殺にまで本人を追い込んでしまう恐れが指摘できます。個人的には、「命がけで取り組む仕事はない」もしくは「健康を害してまで行うべき仕事は、通常無い」という価値観を持っています。余談ですが、陸上自衛隊のレンジャー訓練などは、自分にはとても耐えられないと思っています。
 
○まとめ
 もとより、精神的な強靭さや肉体的な強靭さは個人差があります。組織として、従業員等にそれらの個人的な強靭さを求めることはもちろん可能かと思いますが、中にはそれらの心身の基準に達しない従業員も存在することも当然であり、それらの者の地位や人格まで否定して排除してしまうことは、違法・不法に当たる恐れが十分にあります。
 組織構築や制度設計に当たっては、様々な個別の要素(知識、性格、心身の強靭さ、将来性等々)をもった組織の所属員に、総合的に合致する柔軟さを加味させることが非常に重要であると言えます。そうでないと、金太郎飴のように、同質の人間ばかり集める必要がありますし、仮に同質の人間のみを集めることが出来ても、それゆえに生じる問題によってかえって円滑な組織運営を阻害することも推測されます。
 労働契約法第4条により、使用者には使用する労働者に対して「安全配慮義務」が存在することが明確にされています。従って、労働安全衛生法等に具体的に規定されていない項目であっても、労働者に健康障害などが生じた場合には、民事的な債務不履行責任不法行為責任を問われる可能性が十分に存在します。
 
 昨今は、人材という呼び方をしなくなりましたが、使用する労働者が重要な経営資源であることは、昔も今もかわらないと考えています。
 
以上で「過労死、過労自殺の問題に関する考察」を終了します。
 
 
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過労死、過労自殺の問題に関する考察 1

2015年07月11日 15:49

統計的な実態

厚生労働省の統計

自殺者の年次の推移: 自殺者数には3回の大きなピー クがあります。戦後の1947年より自殺者数の急速な増加が始まり、第1回目のピークの1958年には 男性13,895人、女性9,746人に達しました。その後、徐々に減少し、1967年に男性7,940人、女性6,181 人と最低値を示した後、第2回目のピークである1986年まで増加が続きます。第2回目のピークでは、 女性の増加傾向はそれほど著明でなく、男性が1983年には17,116人と目立っていました。1990年に は男性13,102人と第2回ピーク時の77%まで減少しました。以後増加に転じましたが、1998年から急 激に増加し、1999年には男性23,512人、女性9,536人と過去最大の自殺者数となりました。2000年に は男性22,727人、女性9,230人となり、現在は第3回目のピークを迎えていると考えられます。

自殺と景気動向 : 第1回目の自殺者のピークは1957年のなべ底不況と重なり、岩戸景気(1959-61)の到来とともに自 殺者数は減少しています。更に所得倍増計画(1960)の発表に続くオリンピック景気(1963-64)とい ざなぎ景気(1965-70)という相次ぐ好景気の時期では、 男性の自殺者数は1万人以下となり、第1回ピーク時の 約3分の2まで減少しています。1973年のオイルショッ ク以降10年を超える不況が続き、第2回目のピークは この不況の後半に発生しています。1987年から1991年 のバブル景気の時代は自殺者数は1983年の第2回目ピ ーク時の約4分の3に減少しています。更にバブル崩壊 不況(1991-93)から今日に至るまで、自殺者数は増加 傾向を示しています。このようなことから、自殺者の 増減は景気と密接に関連していると思われます。

自殺死亡の年齢層:  第 1 回目の自殺者のピークまで日本における自殺は青年期型で、総数の40~50%強が20歳代に集 中し、30%前後が壮年期から初老期に相当する50~60歳代に広く分布していました。しかし、それ 以後は状況が変化し、男性に限れば青年期の自殺は次第に高齢側に裾野を広げていき、40歳代後半に 自殺者数が多くなります。第1回目のピークにおいて自殺の中心となった年齢層は21-23歳だったので すが、第2回目のピークにおいて自殺の中心となった年齢層は51-53歳でした。1998年からの第3回目 のピークでは、1923-70年生まれの全ての世代で自殺率が増加傾向を示し、特に50歳代で著明でした。※近時の自殺者数は、年齢が高いほど多く、若年者ほど少なくなっている。

長時間労働と自殺 : 長時間労働に関して「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針2)」には、「極度の長 時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最少限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労 働は、心身の極度の疲弊、消耗をきたし、うつ病等の原因となる場合がある」と記載されているのみで、具体的な指標となる労働時間については記載されていません。過労死の認定基準3)では、「発症 前1ヶ月間に概ね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たり概ね80時間を 超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされています。 すなわち、恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合は、「疲労の蓄積」が生じ、 これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患の発症に影響を 及ぼすとされています。現在、事業者は月100時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が 認められる労働者に対して、医師による面接指導を行わなければならず、また1ヶ月当たり80時間を超える時間外・休日労働を行った労働者に対しても事業者は医師による面接指導等を実施するよう努 めることが求められています。前述した調査で月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以 内の労働者に比較して、原因となる出来事から精神疾患発病までの期間が短く、発病から自死に至る までの期間も短いことが明らかになりました。 職場における過労死・自殺の予防に関する研究(平成15年度)で231名の産業医調査(企業におけ る「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の効果に関する研究4))で、栗原は、172事業 場で過重労働を行っており、過重労働者を医療機関へ紹介した経験のある産業医は66名(37.5%)で、 そのうち過半数39名(59.1%)が抑うつ状態で、以下、心身症23名、不整脈18名という順であると 報告しています。この結果からも過重労働と「抑うつ」、「心身症」とは密接な関連があることは明ら かであると思われます。 また長時間労働と睡眠時間との関係については、次の報告が参考になるものと考えられます。総務 省の「平成13年社会生活基本調査報告5)」及びNHKの「2005年国民生活時間調査報告書6)」によれ ば、標準的な労働者の1日の生活時間では、睡眠時間は7.3時間とされています。そして、過 労死の新認定基準(平成13年12月12日付け基発第1063号通達)3)の根拠となった「脳・心臓疾患の 認定基準に関する専門検討会報告書」は、当時のこの調査結果を用いて、睡眠時間と時間外労働との 関係について次のように算出しています。すなわち、1日の労働時間が8時間を超えて、時間外労働 を2時間程度、4時間程度及び5時間程度行っているとすると、これが1ヶ月継続した状態では、それ ぞれ睡眠時間は平均して7.5時間、6.0時間及び5.0時間となります。この場合、1ヶ月間の時間外労働 時間数は、1日の労働時間に平均勤務日数(休日労働日は含まない。)21.7日を乗じて、概ね45時間、 80時間及び100時間となります

○平成25年の時間外労働の実態(平成25年度労働時間等総合実態調査)

  従業員数(人)   月60時間超 80時間超 100時間超

  1~9        2.7%   1.2%   0.5%        

  10~30        10.9%   4.1%   1.4%   

  31~100       16.7%  8.3%   3.9%

  101~300       24.7%  10.2%   4.5%

  301~         43.9%   15.7%  6.8%

  全体         5.3%    2.2%  0.9%

 ※301人以上の規模が大きい事業所の80時間超の時間外労働が22.5%(15.7+6.8)となっており、潜在的に心神の疾患が発症する恐れが続いている実態があり、上記調査のように「月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以 内の労働者に比較して、原因となる出来事から精神疾患発病までの期間が短く、発病から自死に至る までの期間も短いことが明らか」となっている。

○生産性の向上と長時間労働の削減

 日本の労働生産性が必ずしも高くないことは、過去に記述しました。(パートタイム労働法第1条)

参考(再掲):国別の労働生産性 出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較」
 ◎購買力平均(PPP)換算労働生産性=PPPで評価されGDP÷就業者数
 労働生産性上位10カ国の推移
・1970 1位アメリカ、2位ルクセンブルグ、3位カナダ、4位ドイツ、5位オランダ・・・19位日本
・1980 1位ルクセンブルグ、2位ドイツ、3位アメリカ、4位オランダ、5位ベルギー・・・18位日本
・1990 1位ルクセンブルグ、2位ドイツ、3位アメリカ、4位ベルギー、5位イタリア・・・14位日本
・2000 1位ルクセンブルグ、2位アメリカ、3位ノルウェー、4位イタリア、5位ベルギー・・・20位日本
・2012 1位ルクセンブルグ、2位ノルウェー、3位アメリカ、4位アイルランド、5位ベルギー・・・21位日本
 
 生産高は、「生産高=時間当たりの生産性×労働時間」により表せると考えられます。そして、生産高=売上高で置き換えられると仮定すると、「時間当賃金=賃金総額÷総労働時間=生産高×労働分配率÷総労働時間」となり、他方で「生産高=時間当たりの生産性×総労働時間」ですから、時間当たりの生産性を向上させることで、総労働時間を削減することができます。
 
 
続きは、次回以降で記述します。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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賃金、賃金制度に関する考察 16 (賃確法の概要)

2015年07月10日 11:30

賃金の支払の確保等に関する法律

法律の概要

賃金の支払の確保等に関する法律の施行について(昭和五一年六月二八日)(労働省発基第九二号)抜粋

賃金は、労働契約の基本的な要素であり、また、労働者とその家族の生活の源資であることから、賃金未払という事態は本来起こつてはならないものである。そのため、労働基準法において、使用者の賃金支払について各種の規制を加え、その履行について、労働基準監督機関が監督・指導を行つてきたところであり、現に、それによつて解決された賃金未払事案も少くない。しかしながら、これまでは、賃金の支払を実質的に確保する手段に欠ける面があり、企業の倒産により、事業主に支払能力がない場合については、どうしても解決できなかつたのが従来の実情であり、これに対する具体的な救済措置の創設が必要であるとされていた。

本法は、以上のような実情に対処するため、本来事業主の基本的な責務である賃金支払についての規制を民事的にも刑事的にも強化するとともに、事業主の責任で退職手当の未払、貯蓄金の未返還を予防するための措置を講じさせ、併せて、企業の倒産に伴い賃金の支払を受けることが困難になつた労働者に対する保護措置を講じ、もつて、労働者の生活の安定に資することを目的として制定されたものである。

 すなわち、本法は、貯蓄金及び退職手当に関する保全措置、退職労働者の賃金に係る高率の遅延利息並びに企業倒産に伴う未払賃金の立替払事業について規定するとともに、附則において労働基準法の一部を改正することにより、賃金に関する労働条件の明示義務の拡充及び賃金未払等に対する罰則の強化について規定しているものである。

なお、本法は、未払賃金の立替払事業の創設によつて賃金の支払に関する事業主の責任を軽減し、免除するものではなく、かえつて事業主への規制を強化することとしているものであり、労働基準法、最低賃金法、建設業法等関係法律と相まつて施行されることにより所期の目的を達成することができるものであることはいうまでもない。

 

独立行政法人労働者健康福祉機構作成 リーフレット
1 要件
(1)事業主に係る要件
   ① 労災保険の適用事業の事業主、かつ、1年以上事業を実施
   ② 倒産したこと
  ア 法律上の倒産
  破産手続開始の決定(破産法)、特別清算手続開始の命令(会社法)、
  再生手続開始の決定(民事再生法)、更生手続開始の決定(会社更生法)
  イ 事実上の倒産(中小企業事業主のみ)
  事業活動停止、再開見込みなし、賃金支払能力なし(労働基準監督署長の認定)
※ 中小企業事業主とは、以下のいずれかに該当する事業主をいう
  ・資本金の額等が3億円以下又は労働者数が300 人以下で、以下の業種以外の業種
  ・資本金の額等が1億円以下又は労働者数が100 人以下の卸売業
  ・資本金の額等が5千万円以下又は労働者数が100 人以下のサービス業
  ・資本金の額等が5千万円以下又は労働者数が50 人以下の小売業
(2)労働者に係る要件
  ① 破産手続開始等の申立て(事実上の倒産の認定申請)の6か月前の日から2年間に退職
  ② 未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には、破産管財人等が証明
   (事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長が確認)
  ③ 破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払請求
2 立替払の対象となる賃金
 退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金
(定期給与と退職金(ボーナスは含まず。)。ただし、総額2万円未満のときは対象外。)
3 立替払の額
未払賃金総額の8割(限度あり)
 退職日における年齢 未払賃金総額の限度額 立替払の上限額
  45 歳以上        370 万円  296 万円 (370 万円×0.8)
  30 歳以上45 歳未満    220 万円  176 万円 (220 万円×0.8)  
  30 歳未満        110 万円  88 万円 (110 万円×0.8)         
 例)退職日に35 歳で未払賃金が200 万円の場合は、立替払額160 万円
   退職日に35 歳で未払賃金が300 万円の場合は、立替払額176 万円
4 実施機関
 独立行政法人労働者健康福祉機構
※ 立替払の支払事務とともに、倒産した企業(破産管財人等)に対して、立替払した金銭を求
償する事務も行っている。
 
立替払いの対象となる賃金(出典:厚生労働省HP)
〔参考〕立替払いを受けることができる人
立替払を受けることができる人
〔参考〕立替払いの対象となる未払い賃金の例
    定期賃金締切日  毎月20日
        支払日  毎月26日
立替払の対象となる「未払賃金」の例
まとめ(未払い賃金がある場合)
1.要件
 会社が、 労災保険の適用事業の事業主で、1年以上事業を実施しており、かつ、法律上の
 倒産又は中小企業の事実上の倒産(管轄労働基準監督署長の認定)をしていること。
2.立替払い請求ができる労働者
  破産手続開始等の申立て(事実上の倒産の認定申請)の6か月前の日から2年間に退職しており、破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払請求が必要。
 ※この場合、未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には、破産管財人等が証明(事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長が確認)
3.立替払いの対象となる賃金
 退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金
(定期給与と退職金(ボーナスは含まず。)。ただし、総額2万円未満のときは対象外。)
4.立替払いの額
 未払賃金総額の8割(限度あり。45歳以上で、最高296万円。)
5.立替払いの申し込み先
 未払い賃金の立替払いの請求は、「独立行政法人労働者健康福祉機構」に行います。
 機構HP:https://www.rofuku.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/418/Default.aspx 
6.立替払いされなかった未払い賃金の部分
 独立行政法人労働者健康福祉機構から、立替払いされなかった未払い賃金については、なお、従前の事業主や破産管財人に対する債権として、労働者が権利を有しています。支払われる可能性があるのであれば、債務者に請求することをおすすめします。
 そして、同機構は、労働者から賃金債権の一部を譲渡されたかたちとなり、のちに債務者に求償することとなります。
 
 
 
 
以上で賃金に関する考察 16(賃確法の概要)を終了します。
 
 
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賃金、賃金制度に関する考察 15(賃金制度)

2015年07月08日 16:43

賃金制度

一般的な賃金は、どの様に構成されているか? 

 固定的賃金   基本給、職務給、職能給、役職手当、危険手当、実務手当 等

 恩恵的賃金   配偶者手当、子供手当、世帯主手当、住宅手当、通勤手当、寒冷地手当、

         単身赴任手当 等

 実費弁済支給  出張交通費、出張手当(休日移動の場合)、出張宿泊費 等

 変動賃金    所定時間外手当、休日出勤手当、深夜手当、宿直手当、皆勤手当 等

 その他の賃金  賞与、退職金、休業手当、慶弔金、休業補償、年休賃金 等

  ※そこで、実際の賃金は、これらの諸給与を組み合わせて支給されます。

・「賃金額=基本給+諸手当+時間外・休日出勤賃金・深夜労働賃金+その他の賃金」で構成されます。

従来から問題視されている賃金格差の問題

 正社員(正規職員)と非正規社員(非誠意職員)の賃金格差は、①基本給の格差、②諸手当の支給か不支給かの格差、③退職金、賞与の支給か不支給(又は支給率)の格差等により生じ、その差額は2倍相当に達しています。

 改正労働契約法の施行により、平成30年4月以降は「期間の定めの無い労働契約」の非正規労働者の割合が徐々に高まってゆくものと考えられます。そうすると、従来の就業規則による労務管理制度のままでは、次第にその合理性を失ってゆく恐れが生じます。

 他方で、同一価値労働=同一賃金の観点からは、役職手当又は職務手当などの職務関連賃金の割合を高めることで、その趣旨が達成できます

 

江戸時代の役職、家柄、禄高(出典が不明のため、情報の信憑性は定かではありません。)

 江戸時代の大名に仕える武士は、各藩により「役職、人数、禄高」が異なっていたものの、家柄=雇用形態(雇用形態別の基本賃金)、役職=職位(役職手当)という特性別に賃金が定まっていたものと思われます。(以下は、盛岡藩とされる事例)

    家柄        禄高       役職

   大身の老臣 上士   千石~一万石  家老、後の加判役

   高知(タカチ)上士   1000石以上   家老、加判役、御席詰

   高家    中士   数百石     御新丸御番頭頭

   本番組   中士   平士100石以上 御用人・花巻城代・寺社奉行など 

   加番組   下士   平士50石以上  御金奉行・御銅山吟味役・御作事奉行など

   新番組   下士   平士50石以下  諸御山奉行・大納戸奉行・新田奉行など  

   御給人   下士   数十石    代官所の下働き(半農、知行地あり)                  

藩主

家老

御近習頭

御留守居

御用人所

 ├

御用人

 └

御側御用人

御目付所

 └

大目付

御勘定所

 └

元締

北地御用所

 └

北地御用大番頭

御中丸御番頭

御新丸御番頭

加番組

新番組

家老には大身の老臣が就いていた。また戦国期の規律を引き継ぎ、大身は陪臣を持っていたり、そ家禄 に応じて役職に任じられたり軍備を担っていた。

高知は、家老(後期に改名して加判役)・御近習頭・北地大番頭・御中丸御番頭などに就任した。

高家は、加番組御番頭・御側御用人・花巻城代・寺社奉行・御勘定所元締・新番組御番頭などに就任した。

本番組は、御用人・花巻城代・寺社奉行・御勘定所元締・新番組御番頭などのほか、御境奉行・代官・御船手頭・町奉行・郡奉行などに就任した。(平士のうち100石以上(天保15年時点)または150石以上(明治元年時点)の者が該当した。)

加番組は、御金奉行・御銅山吟味役・御作事奉行・万所奉行・御勝手方などに就任した。(平士のうち50石以上が該当した。)

新番組は、諸御山奉行・大納戸奉行・新田奉行・御国産方などに就任した。平士のうち50石以下に当たる。

  一藩の事例ですが、江戸時代の身分は、士農工商のみでなく、藩ごとの家柄により異なり、また就いている役職により禄高(知行地の広さや支給米の量など)が格付けされていました。

 現在に置き換えて考えると、家柄=「社内の身分、非常勤社員・正社員・執行役・役員など」、及び役職=「職員、末端の担当者・主任・係長・リーダー・マネージャー・課長・部長・統括職・事業部長など」により賃金(禄高)が決定されるといえます。そして、この身分と役職による禄高の決定は、現在の賃金制度と共通する部分があるといえます。

 

賃金決定のための要素

参考裁判例 昭和37年(オ)1452 最高裁判所第二小法廷判決(高裁判決破棄)

 所論諸項目の給与のうち、勤務手当および交通費補助は、労働の対価として支給 されるものではなくして、職員に対する生活補助費の性質を有することが明らかで あるから、これら項目の給与は、職員が勤務に服さなかつたからといつてその割合に応ずる金額を当然には削減し得るものでないと認むべきである。 次に、給料、出勤手当、功労加俸および地区主任手当についていえば、被上告人会社における勤務 時間拘束の制度は、主として業務管理の手段として設けられたものであつて、そこ に右各項目の給与の額を決定する絶対的基準としての意味は見いだし難く、従つて また、これが設けられたことに対応して固定的給与を加味した給与体系が採られるにいたつたということも、この種職員の所得の安定を図る趣旨に出たものというべ きであり、しかも、右係長、係長補、主任等の資格が純然たる給与の級別に過ぎず、 且つ、該資格の決定がその者の過去における仕事の成績によつて行なわれる以上、 給与の額は、主として、仕事の成果によつて決定されるものであつて、それが一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるのは、過去において完成された仕事の量に対して支払わるべき報酬を給与の平均化を 図る目的で右期間に分割して支給されるというほどの意味を有するに過ぎないものと認めるのが当然であり、また、右期間中の仕事の成果が次期の給与額に直接自動的に影響を及ぼすことも否定し得ないところである。それ故、右各項目の給与は、上告人らが勤務に服した時間の長短を基準として決定された面が全然ないとはいえないにしても、その実質は、むしろ、本件ストライキの行なわれた昭和三二年六月以前における上告人らの募集、集金の成果に比例して決定されたものであつて、純然たる能率給であるかどうかは格別、少なくとも、前記意義における固定給ではない、と認むべきである。もつとも、典型的な固定給の受給者と目されている一般労働者にあつても、日常の仕事の成績を考慮してその者の昇格、格下げが決定され、 これに伴ない給与の増減が招来されることは疑いを容れないところであるが、この場合には、仕事の量によつて決定さるべき資格が給与そのものの級別ではなくして職務の内容に関するものであることを看過してはならないのであつて、単に仕事の 成績が給与の額に影響を及ぼすの一事をもつて、右両者の間に存する給与決定上の 本質的相違を無視することは許されないものといわなければならない。 

       ・属人給 学歴、年齢・勤続年数等が決定の要素となる。

  ・職能給 合理的に職能を考査して決定する。

  ・職務給 業務の内容ごとに決定する。

  ・格付給 基本給の要素、資格等級と賃金額が一致しているもの。

      ※属人・資格給として、両者を関連させて賃金テーブルとする場合もある。

  ・成果給 売上高、契約高、生産高等により、賃金単価×生産高で賃金算定するもの。

       請負形式に近い賃金制度だが、最低賃金法の適用を受ける。

参考:自衛隊員の俸給表(単位円) 2105年4月現在

   将    1号俸、705,000 ~ 8号俸、1,174,000

   将補(一) 1号俸、705,000 ~  4号俸、894,000

   将補(二) 1号俸、511,800 ~ 45号俸、591,200

   一佐(一) 1号俸、460,700 ~ 45号俸、543,500

   一佐(二) 1号俸、448,400 ~ 57号俸、515,300

   一佐(三) 1号俸、393,900 ~ 81号俸、494,800

   二佐   1号俸、341,800 ~ 105号俸、487,000

   三佐   1号俸、314,700 ~ 113号俸、467,300

   一尉   1号俸、272,600 ~ 129号俸、444,200

   二尉   1号俸、246,900 ~ 137号俸、439,400

   三尉   1号俸、238,900 ~ 145号俸、437,700

   准尉   1号俸、230,300 ~ 145号俸、435,200

   曹長   1号俸、223,800 ~ 141号俸、423,400

   一曹   1号俸、223,600 ~ 129号俸、408,600

   二曹   1号俸、215,000 ~ 113号俸、379,000

   三層   1号俸、191,900 ~ 73号俸、308,700

   士長   1号俸、176,500 ~ 33号俸、237,300

   一士   1号俸、176,500 ~ 13号俸、192,300

   二士   1号俸、161,600 ~  9号俸、172,800

賃金制度に関する整理

 賃金の性格は、大まかに次の区分に大別されます。

  ① 属人給  大卒・高卒別、勤続年数別、年齢、保有資格別に決定する。(基本給)

                  また、これらを踏まえ資格等級で格付けする方法も多い。

         広い意味で、賞与・退職金も含む。

  ② 職務給  職務に関する内容や職務遂行能力で決定される。

    職能給  また、危険手当や実働手当等もある。

  ③ 福利給  配偶者手当、子供手当、通勤費、昼食費補助、結婚祝金、葬祭費、

         住宅費補助、休業補償加給費、治療費補助など。

  ④ 弁済給  出張手当、出張宿泊費、出張交通費、自家用車使用手当など。

  ⑤ 割増賃金 所定・法定時間外労働手当、所定・法定休日手当、深夜手当

  ⑥ 歩合給  出来高給、業績手当、売上歩合給など。

 従来は、これらの賃金の組み合わせ及びどの程度の金額とするかなどについて、就業規則(賃金規程)に定めて運用を行ってきたことが一般的です。

 そして、企業が人件費削減のために、非正規労働者として全く異なる賃金体系が適用される労働者と、いわゆる正社員を併せて使用することにより、賃金格差や同一価値労働=同一賃金との乖離が問題となって来ました。

今後の雇用体系の構築の目安について

 改正労働契約法の施行により、今後(平成30年以降)無期労働契約の非常勤労働者が増加して行くことは、すでに述べました。従来、有期雇用なのか無期雇用なのかにより、正規・非正規の労働者の区分を通常行ってきたと考えられます。それは、厚生労働省が短時間正社員という名称の労働者を推進しようとしていることからも伺えます。

 そうすると、今後は正社員と非常勤社員との垣根がますます低くなってゆくことが予想されます。そこで、一定の合理性を確保しようとしたならば、正社員と非正規社員を明確に区分してそれを維持してゆくことは、むしろ不合理と判断されかねないと考えられます。

 解決策としてのひとつの方法論は、統一的総合的な人事制度の構築を行うことが考えられます。

 

事例: 給与・職能資格を「ジュニア」「レギュラー」「シニア」に区分する。

    (役員、執行役は別途)

    職位は、「リーダー」「グループ・リーダー」「マネージャー」

    「シニア・マネージャー」「AGM(アシスタント・ジェネラル・マネージャ-)に区分する。

 ア 入社選考 A     合格者は「レギュラー」に格付けする。

 イ 入社選考 B     合格者は「ジュニア」に格付けする。

 ウ 特別入社選考      合格者は入社選考に応じた職位「レギュラー、シニア」

              に格付けする。

 エ レギュラー昇格試験  合格者はレギュラーに格付けする。

 オ シニア昇格試験    合格者はシニアに格付けする。

  ※ジュニア1級は有期の3ヶ月~1年更新、その他の格付は無期労働契約とする。

  ※ジュニア1級が有期労働契約である理由は、試用期間の意味合いもあります。

  ※スポットHは、業務に必要な期間の有期契約とする。

  ※降格については、基準を規定しておく。

※同一区分内の昇格基準を定めておく。

 

・資格等級と賃金(時給・日給月給・月給・年奉)、職位

  ※事例で英語名表記としたのは、対外的に職位認識を弱めるため。

 資格等級      基本給(賃金)        職種・職位 

スポットH       最低賃金~1200円/時     アルバイト

ジュニア 1級    900円/時~1200円/時     現場担当 

ジュニア 2級     1000円/時~1500円/時     現場担当

ジュニア 3級   8,000円/日~10,000円/日      現場担当・Aリーダー

ジュニア 4級  10,000円/日~13,000円/日     現場担当・Aリーダー

ジュニア 5級  250,000円/月~280,000円/月  現場リーダー 

レギュラー1級  270,000円/月~300,000円/月  現場リーダー、スタッフ職

レギュラー2級  290,000円/月~340,000円/月  現場リーダー、スタッフ職 

レギュラー3級  310,000円/月~370,000円/月  Gリーダー、スタッフ職

レギュラー4級  330,000円/月~390,000円/月  Gリーダー、スタッフ職

レギュラー5級  350,000円/月~400,000円/月  マネージャー、スタッフ職

  シニア  1級  380,000円/月~430,000円/月  マネージャー、統括リ-ダ-  

  シニア  2級  400,000円/月~480,000円/月  スタッフMgr、マネ-ジャ- 

  シニア  3級  450,000円/月~530,000円/月  シニアマネージャー  

  シニア  4級  480,000円/月~570,000円/月   AGM、シニアマネ-ジャ-

  シニア  5級  550,000円/月~600,000円/月   事業部長代行、GM

 

・職位のイメージ

 ・スポットH(ヘルパー)     短期アルバイト

 ・A(アシスタント)リーダー   主任補佐

 ・現場リーダー          現場主任(一次業務管理、人事管理補佐)

 ・GL(グループリーダー)     係長職(二次業務管理、人事管理)

 ・スタッフ職           技術職、事務職、監査職、その他の特別職

 ・統括リーダー          複数係の統括職

 ・マネージャー           課長職

                 (業務管理一次責任者、人事管理一次責任者)

 ・シニアマネージャー       上級課長職、部長補佐職(担当部署決裁) 

 ・AGM(アシスタント・ジェネラル・マネージャー)

                  部長補佐、部長代行

 ・GM(ジェネラル・マネージャー) 部長 

 

 事例の人事制度は、非常に単純化したものですが、このような制度の採用により、同一価値労働=同一賃金に、より近づく制度とすることができ、加えて、下位の格付けの労働者についても生活給の確保(労働者の生活の安定)が可能であると思います。

 さらに、例えば「育児休業からの復帰後であり、なお育児時間が必要な場合」あるいは「家族介護が必要となり、時間外労働はおろか従来の所定労働時間の就労も困難な場合」については、本人の希望を受けて、格付けをジュニア2級に変更することにより、所定労働時間の短縮調整や所定労働日数の調整が可能となり、労働者は会社にとどまりながら育児・介護が可能となります。そして、育児・介護の必要が無くなった時点で、格付け変更前の等級と全く同一か否かは別にして、上位の格付けに再格付けを行う仕組み(試験等も行う規定も考えられる。)とすることで、それらの労働者の長期的な観点からのモラル低下の防止が可能になります。

 また、定年退職後の再雇用の際には、再雇用の該当者を原則的に「ジュニア1級(有期労働契約)」とすることで、有期労働契約への変更ができ、本人にとっても再雇用後の受取り給与の見積もりが可能となります。この場合、5年経過後の無期労働契約転換の問題は生じません。

 

「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」にみる、賃金の名称

 ア 年度更新の際に、算入する賃金

 基本給(固定給等基本賃金)、超過勤務手当、深夜手当、休日手当、扶養手当、子供手当、家族手当、宿直手当、日直手当、役職手当、管理職手当、住宅手当、寒冷地手当、僻地手当、地方手当、教育手当、別居手当(単身赴任手当)、技能手当、危険有害業務手当、臨時緊急業務手当、精勤手当、皆勤手当、生産手当、物価手当、調整手当、配置転換手当、初任給の調整給、賞与、通勤手当、休業手当(労基26条)、定期券(現物)、回数券(現物)、雇用保険料の本人負担分、前払い退職金、社宅等の貸与(社宅に入れない従業員への均衡手当)、

 イ 年度更新の際に算入しない賃金

 休業補償、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、増資記念品代、私傷病見舞金、解雇予告手当、年功慰労金、制服、出張旅費、出張時宿泊費、財形奨励金、創立記念日の祝金、チップ(賃金に該当する場合を除く)、退職金

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 15(賃金制度)を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 14(賃金に関するその他の項目)

2015年07月07日 16:44

平均賃金、金員の返還、非常時払、休業手当、労働時間の通算、年休取得時の賃金、時効

(平均賃金)

第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。

一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十

二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

② 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

③ 前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。

一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間

二 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間

三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間

四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第八項において同じ。)をした期間

五 試みの使用期間

④ 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。

⑤ 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

⑥ 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。

⑦ 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。

⑧ 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。

 

(金品の返還)

第二十三条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合に

おいては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労

働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

② 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、

項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

 

(非常時払)

第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

 

(休業手当)

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

(時間計算)

第三十八条  労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。(以下略)

 

(年次有給休暇)

第三十九条第七項

 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給

休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、

平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準と

して厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただ

し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、

労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書

面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法

律第七十号)第九十九条第一項に定める標準報酬日額に相当する金額又は当該金額を基準とし

て厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらな

ければならない。

 

(時効)

第百十五条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年

間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて

消滅する。

 

労働基準法施行規則

第二条 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号。以下「法」という。)第十二条第五項

規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第二十四条第一項ただし書の規定による法令

又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

② 前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めな

ればならない。

③ 前項の規定により労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は前項の評

額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第一項

の通貨以外のものの評価額を定めることができる。

 

第三条 試の使用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合においては、法第十二条第三項の規定にかかわらず、その期間中の日数及びその期間中の賃金は、同条第一項及び第二項の期間並びに賃金の総額に算入する。

 

第四条 法第十二条第三項第一号から第四号までの期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前三箇月以上にわたる場合又は雇入れの日に平均賃金を算定すべき事由の発生した場合の平均賃金は、都道府県労働局長の定めるところによる。

 

第九条 法第二十五条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。

一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合

二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合

三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合

 

第二十五条 法第三十九条第七項の規定による所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金は、次の各号に定める方法によつて算定した金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額をその週の所定労働日数で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額をその月の所定労働日数で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

② 法第三十九条第七項本文の厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金は、平均賃金若しくは前項の規定により算定した金額をその日の所定労働時間数で除して得た額の賃金とする。

③ 法第三十九条第七項ただし書の厚生労働省令で定めるところにより算定した金額は、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第九十九条第一項に定める標準報酬日額に相当する金額をその日の所定労働時間数で除して得た金額とする。

 

平均賃金

1.平均賃金の趣旨
 「平均賃金は、本法において、労働者を解雇する場合の予告手当に代わる手当、使用者の責に帰すべき休業の場合に支払われる休業手当、年次有給休暇の日について支払われる賃金、労働者が業務上負傷し若しくは疾病にかかり、又は死亡した場合の災害補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、打切補償及び分割補償、並びに減給の制裁の制限を算定するときのそれぞれの尺度として用いられている。」とされます。しかし、事実上は「解雇予告手当」「使用者責の休業手当」「年休取得時を平均賃金額を支払うとしている場合」の三つのケースについて、算定が必要となるケースが殆と思います。

2.平均賃金の算定期間

賃金締切日がある場合の起算日
問】賃金毎に賃金締切日が異なる場合、例えば団体業績組合を除いた他の賃金は毎月15日及び月末の二回が賃金締切日で、団体業績給のみは毎月月末一回のみの場合、平均賃金算定の事由がある月の20日に発生したとき、何れを直前の賃金締切日とするか。
答】設問の場合、直前の賃金締切日は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日である。
※これは、たとえば基本給と時間外労働手当(残業代)の締切日が異なる場合には、それぞれ計算して合算するという趣旨です。参考:基本給「毎月、前月21日~当月20日が賃金計算期間」、「時間外労働分の賃金、毎月1日~末日」、支払日は基本給「締切日の当月25日」、時間外賃金「賃金締切日の翌月25日」などの規定が可能です。このような場合、平均賃金の算定が必要となった日のそれぞれの直近の賃金締切日から3ヶ月遡って、平均賃金を算定します。  ※ なお、所定内賃金(基本給)と時間外労働分賃金(休日出勤分等を含む)の支払を別々の支払日とすることも可能ですが、振込み手数料が二倍になってしまいます。

3.平均賃金の算定

 原則の計算式(これを算定すべき事由の発生した日(の直近の賃金締切日)以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額)と日給・時間給・出来高払・請負の場合の計算式は、その方法が異なっています。ただし、原則の計算式で計算したほうが平均賃金の額が高い場合には、やはり、原則の計算式によって平均賃金を算定します。

(1)日給・時間給・出来高払・請負の場合の計算式
 例外の計算式は以下のように定められています。
労働基準法 第12条第1項 (ただし書)
ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
 ① 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
 ② 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
  日給制、時給制、出来高払い制、請負制の場合
 平均賃金額=算定期間の賃金総額÷算定期間中に実際に労働した日数×100分の60 (原則の計算式で算定した額がこの計算結果より高い場合には、原則の計算によります。)
 ※第2項の規定により、原則の計算式と同様に賃金締切日がある場合には、直前の賃金締切日より算定します。
  賃金の一部が、月・週・その他一定の期間によって定められた場合於いては、その部分の総額をその期間の日数で除した金額と①で計算した平均賃金額の和

 平均賃金額=(月給などの部分の総額÷算定期間の総暦日数)+(算定期間の賃金総額÷算定期間中に実際に労働した日数×100分の60)
※この場合も賃金締切日がある場合には、直前の賃金締切日より算定します。

(2)いわゆる日給月給制の場合
 法第12条第8項 第1項乃至第6項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。
 以下のように通達されていますので、そのまま記述します。
 ⇒賃金の一部もしくは全部が、月、週その他一定の期間によって定められ、且つ、その一定の期間中の欠勤日数若しくは欠勤時間数に応じて減額された場合の平均賃金(算定期間が4週間に満たないものを除く。)が左の各号(注:下記の各号)の一によってそれぞれ計算した金額の合計額に満たない場合にはこれを昭和二十年労働省告示第五号第二条に該当するものとし、自今、かかる場合については、同条の規定に基き都道府県労働基準局長が左の各号(注:下記の各号)の一によってそれぞれ計算した金額の合計を以つてその平均賃金とする。
  賃金の一部が、労働した日もしくは時間によって算定され、又は出来高払制によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
  賃金の一部もしくは全部が、月、週その他一定の期間によって定められ、且つ、その一定の期間中の欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額された場合においては、欠勤しなかった場合に受けるべき賃金の総額をその期間中の所定労働日数で除した金額の百分の六十
  賃金のの一部が月、週その他一定の期間によって定められ、且つ、その一定期間によって定められ、且つ、その一定期間中の欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額されなかった場合においては、その部分の総額をその期間の総数で除した金額  (※昭和30年5月24日基収1619号)

(3)日雇労働者の平均賃金の算定
労働基準法 第12条第7項
 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
 日雇労働者の平均賃金については、昭和38年労働省告示第52号により定められています。以下にその概略を記述します。
①原則的な計算方法
 「(前略)それぞれ当該日雇労働者又は同種日雇労働者の当該事業場における実労働日当り賃金額を算定し、その百分の七十三を平均賃金とするものであるから、算定理由発生日以前1箇月間における当該事業場における実労働日数の多少は問わないものであり、また、これらの者の実際の稼働率は考慮せず一律百分の七十三を乗ずるものであること。」とされています。

◇日雇い労働者の平均賃金の原則の計算式
 平均賃金=算定事由発生日前1カ月間に当該事業場で当該日雇労働者に支払われた賃金総額÷1カ月間の労働日数×0.73

金員の返還

 ア 労基法第23条の趣旨
 「労働者が退職した場合において、賃金、積立金その他労働者の権利に属する金品を迅速に返還させないと、労働者の足留策に使用されることもあり、また、退職労働者又は死亡労働者の遺族の生活を窮迫させることとなり、さらに時がたつに従って賃金の支払や金品の返還に不便と危険をともなうこととなるので、これらの関係を早く清算させるため、退職労働者の権利者の請求のあった日から7日以内に賃金その他の金品を返還すべきことを規定した。」としています。

イ 権利者について

 本条に基き賃金の支払又は金品の返還を請求することができる権利者とは、一般には、労働者が退職した場合にはその労働者本人であり、労働者が死亡した場合にはその労働者の遺産相続人であって一般債権者は含まれない。ここにいう労働者の退職とは、労働者の自己退職のみでなく、契約期間の満了等による自然退職及び使用者の都合による解雇等労働関係が終了した場合のすべてをいい(ただし、死亡の場合は退職には含まれない。)その原因を問わない。」としています。「労働者が死亡した場合の権利者たる遺産相続人については、正当な相続人であるか否か判定が困難であるが、請求不注意により正当な相続人であることを証明しない限り、使用者は支払又は返還を拒否することができると解される。」としています。

 労働者の権利に属する金品

 これは、積立金、保証金、貯蓄金のほか、労働者の所有権に属する金銭及び物品であって、労働関係に関連して使用者に預入れ又は保管を依頼したものと解される。」とされています。

エ 賃金又は金品に関して争いがある場合

 この条でいう「賃金又は金品」について、「その有無、種類、賃金、金銭の額等について労使間に争いがある場合には、使用者は労働者の請求に対して異議のない部分のみを請求されてから7日以内に支払い、又は返還すればよいこととされている。」とした上で、「使用者に意義があるものであっても、それが労働者に支払われるべき賃金ないし金品であった場合には、その履行期到来以後は、使用者は履行遅滞に伴う民事上の責任を負わなければならないことになる。」としています。

非常時払い

1.非常時払いの趣旨

 労基法第24条によって、「賃金の支払時期が定められた場合に、使用者は、その期日に賃金を支払わなければならないが、反面、労働者も特約がある場合以外は、支払時期が到来するまでは賃金の支払を請求することはできない。」

2.非常時(出産、疾病、災害の場合)

 これらは、労働者本人の「出産、疾病、災害」に限らず、その「労働者の収入によって生計を維持する者」の出産、疾病、災害も含まれる」としています。
労働基準法施行規則
第九条 法第二十五条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。
 一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合
 二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合
 三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合

3.既往の労働に対する賃金

 既往の労働に対する賃金の「既往」とは、「通常は請求の時以前を指すが、労働者から特に請求があれば、支払の時以前と解すべきであろう。」とされています。月給、週給等で賃金が定められている場合には、「既往の労働に対する賃金」は、施行規則第19条に規定する方法によって、これを日割計算して算定すべきである。」とされています。また、賃金締切日に計算が困難であるものについては、非常時払いの趣旨からいって、緊急を必要とするから、使用者が善意に概算した金額を支払えば足りると解されています。さらに、労働者の請求が既往の労働に対する賃金の一部である場合には、請求があった金額のみ支払えばよいとされます。なお、本条による賃金の支払についても、前条第1項の規定(通貨で、直接労働者に、その全額を支払うこと)が適用されます。

参考:賃金の支払時期

 民法⇒仕事が終わった後

  第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。 2 期間によって定められた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。  

 労働基準法⇒毎月1回以上定期に支払う(定められた支払日前に支払義務がない)

  第二十四条第二項 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければ

  ならない。(ただし書以下略)

  労働基準法第二十四条第二項及び民法の例外

  労働基準法第23条(退職時等の支払・返還)、同法第25条(非常時払い)の規定。

 ※ なお、労働者の賃金債権は業務が終わった時点で発生しているが、通常は賃金支払日前には、終わった部分(既往の労働部分)の賃金請求権がない。

 

休業手当

1.労働基準法第26条の休業手当の趣旨

問】本条は使用者の責に帰すべき事由による休業の場合平均賃金の100分の60以上としており、債権者の責に帰すべき事由に因って債務を履行することができない場合は、債務者は反対給付を受ける権利を失わないとるする民法第536条の規定より不利な規定であると考えるが如何。
答】本条は民法の一般原則が労働者の最低生活保障について不十分である事実に鑑み、強行法規で平均賃金の100分の60までを保障せんとする趣旨の規定であって、民法第536条第2項の規定を排除するものではないから、民法の規定に比して不利ではない。

参考:民法第536条第2項

(使用者責の休業の場合には、不就労部分の100%の請求(通常行っている時間外労働部分を除く)が可能)

第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

2.使用者の責に帰すべき事由

使用者の責に帰すべき事由とは、「第一に使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものよりも広く、第二に不可抗力によるものは、含まれない」。
 判例では、「労働基準法第26条が、特約のない限り、平均賃金の100分の60の休業手当の支払を要求するにとどめている点に徴〈チョウ〉すれば、同条は使用者の立場を考慮しつつ、右民法の規定の要件を緩和して、適用範囲を拡張することにより、一定の限度において、労働者の地位を保護しようとするものであると解することができる。すなわち民法にいう『債権者の責に帰すべき事由』とは、これよりもひろく、企業の経営者として不可抗力を主張し得ないすべての場合(たとえば、経営上の理由により休業する場合)も含むものと解すべきである」(国際産業事件 昭和25年 東京地裁決定)。
 また、「休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保証をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法第26条の『使用者の責に帰すべき事由』の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度(平均賃金の6割以上)での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とすると言わなければならない。このようにみると、右の『使用者の責に帰すべき事由』とは、取引における一般原則たる過失責任相殺とは異なる観点も踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の『債権者ノ責ニ帰スヘキ事由』よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。」(ノース・ウエスト航空事件 昭和62年 最高裁第二)。

 次に、使用者の責に帰すべき事由として「不可抗力によるものは含まれない」という点については、「本条は『使用者の責に帰すべき事由』と明文で規定している以上、何らかのかたちで使用者の帰責事由に該当するものでばければならないことは文理上あきらかであり、したがって、ここにいう不可効力はこれに含まれないものと解する。」としています。
 また、不可抗力であるのかないのかの判断については、「不可抗力とは、第一に、その原因が事業の外部より発生した事故であること(性質的要素につき客観的)、第二に、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避けることのできない事故であること(量的要素につき主観説を加味)の二要素を備えたものでなければならないと解する。」とされています。
 さらには、前述の「原因の発生が事業の内か外か」の区別の基準ですが、「最も広義における営業設備の範囲の内外を指すものと解する。すなわち、事業主の監督又は干渉の可能なる範囲における人的・物的のすべての設備は、事業の内部に属するものであり、換言すれば、一個の企業を形成するために協同して作用している人又は物の総括体が、取引社会に対して事実上の統一体として現れ、したがって法律的にも例えば発生し得る可能性のある損害賠償義務の主体たる組織体として考えられるときは、この組織体内にその原因を有しかつ発生した事故は、事業内部の事故とされて不可抗力を形成し得ない。」としています。

3.使用者の故意、過失による休業

「使用者の故意、過失による休業は、本条の使用者の責に帰すべき事由に該当する。この場合は、民法第536条第2項の適用と競合する。ただし、本法においては、労務の履行の提供は要しない。」とされています。
 最高裁は、「基準法第26条の規定は、労働者が民法第536条第2項にいう『使用者ノ責ニ帰スベキ事由』によって解雇された場合にもその適用があるものというべきである。」と判示しています。(山田部隊事件 昭和36年 最高裁第二)
 したがって、「使用者の故意、過失による休業の場合は、民法により全額の賃金請求権が労働者にあるが、このうち、本条所定の範囲において本条の適用があり(実益は本法第114条の付加金にある。)、賃金の支払その他の賃金に関する本法の他の保護規定は、全額に対して適用されると解される。もっとも、休業手当は就業規則で定めることが本法において義務づけられており(第89条)、その定められた労働契約の内容となっているとみられるから、現実には平均賃金の6割又は6割を超えて就業規則に定められた額がその保護を受けることになる。

4.労働基準法第26条の休業とは何か?

 休業とは何かですが、「労働者が労働契約に従って労働の用意をなし、しかも労働の意思をもっているにもかかわらず、その給付の実現が拒否され、又は不可能となった場合をいう。したがって、事業の全部又は一部が停止される場合に止まらず、特定の労働者に対して、その意思に反して、就業を拒否するような場合も含まれる。なお、休業は全一日の休業であることは必要でなく、一日の一部を休業した場合を含む。」とされています。

5.休業手当の支払時期

「休業手当は第11条の賃金であるから、その支払については第24条の規定が適用され、休業期間の属する賃金算定期間について定められた支払日に支払わなければならない。」とされています。

6.派遣労働者の26条の休業手当

「派遣中の労働者の休業手当について、労働基準法第26条の使用者の責に帰すべき事由があるかどうかの判断は、派遣先の事業場が、天災地変の不可抗力によって操業できないために、派遣されている労働者を当該派遣先の事業場で操業させることができない場合であっても、それが使用者について、当該労働者を他の事業場に派遣する可能性等を含めて判断し、その責に帰するべき事由に該当しないかどうかを判断することになること。」として、派遣労働者の労基法26条の「使用者責」を判断するに当たって、あくまでも派遣元の事情により判断されるとしています。これは、派遣労働者の年次有給休暇の「時季変更」の判断も同様に解されています。

 なお、労働基準法には、「26条による休業手当」と「76条による休業補償」の両規定がありますので、区別して整理する必要があります。また、76条の休業補償は労災の補償が行われて併給されないことが通常ですから、今回は記述を省略しました。

同じ日に二以上の事業場に勤務した場合の労働時間の通算

1.事業場を異にする場合

「「事業場を異にする」とは、労働者が一日のうち、甲事業場で労働した後に乙事業場で労働することをいう。この場合、同一事業主に属する異なった事業場において労働する場合のみでなく、事業主を異にする事業場において労働する場合も含まれる。」とされます。

※ 例えば、A事業主の事業場で6時間就労し、その後B事業主の事業場で4時間就労する場合には、通算の労働時間が10時間となりますから、B事業主は8時間を超える部分(2時間分)について、法定以上の割増賃金の支払義務を負います。また、B事業主は36協定を締結・届出は勿論、協定届の所定労働時間については、A事業主の事業場の就労時間を含めて記述する必要があります。

法36条の年休取得時の賃金

 年休所得時には、次のいずれかの賃金を支払う必要があります。

 ① 平均賃金相当額を支払う
 ② 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金
 ③ 健康保険法(大正十一年法律第七十号)第九十九条第一項に定める標準報酬日額に相当する金額又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額

 ※この場合に、3.の標準報酬日額を採用する場合には、労使協定が必要です。(届出義務はありません。)

賃金請求権の消滅時効

1.労働基準法第115条の趣旨

「本条の適用を受ける請求権は、本条の規定による賃金、災害補償その他の請求権であるが、「その他の請求権」のなかには、債権的性格をもつ金銭給付請求権を含むことはもちろんであるから、休業手当請求権(第26条)、年次有給休暇の賃金請求権(第39条)及び帰郷旅費請求権(第66条)が含まれることは、問題がない。」としています。
 一方、年次有給休暇の請求権(時季指定権)も本条の規定により2年間行使しない場合には、消滅すると解されています。
 ところで、「解雇予告手当」については、時効の問題は生じないとされており、付加金については「時効」ではなく2年の「除斥期間」とされています。

2.賃金債権の消滅時効の起算日

 月例賃金は、毎月の支払日が25日であれば、毎月の賃金支払日ごとにその翌日から起算して2年間で請求権が消滅します。一方、退職金は月例賃金とは別に支払日が定められていると思いますから、その所定の支払い日の翌日から5年経過すると、請求権が消滅します。なお、1年とは民法の原則により「起算日の翌年の応答日の前日までの間」をいいますから、通常の賃金等は起算日から数えて2回目の応答日、退職金は起算日から5回目の応答日に本条の規定による期間が経過します。

3.消滅時効の援用

 たとえば月例賃金の請求権につき、時効に関係する長期の未払いが生じている場合に、使用者の援用の有無が問題となります。法解釈上や裁判例では、援用の問題が論点となっているものがあまりありませんが、一般に本条の規定も援用が必要と思われます。

4.消滅時効の中断

 一般的に、裁判上の請求、支払督促、和解及び調停の申立て、破産手続き参加などで時効が中断します。また、裁判外の請求(催告)は、それのみでは時効の中断の効力を認められないが、6ヶ月以内に裁判上の請求を行えば、催告のときに遡及して中断するとされています。

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 14(賃金に関するその他の項目)を終了します。

 
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賃金、賃金制度に関する考察 13(労働基準法第37条 ②)

2015年07月07日 08:55

労働基準法(割増賃金の2)

第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(中略)

③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。(中略)

⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

労働基準法施行規則

第十九条 法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす

 

第十九条の二 使用者は、法第三十七条第三項の協定をする場合には、次の各号に掲げる事項について、協定しなければならない。

一 法第三十七条第三項の休暇(以下「代替休暇」という。)として与えることができる時間の時間数の算定方法
二 代替休暇の単位(一日又は半日(代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合においては、当該休暇と合わせた一日又は半日を含む。)とする。)
三 代替休暇を与えることができる期間(法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によつて延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた当該一箇月の末日の翌日から二箇月以内とする。)
② 前項第一号の算定方法は、法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によつて一箇月について六十時間を超えて延長して労働させた時間の時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかつた場合に当該時間の労働について法第三十七条第一項ただし書の規定により支払うこととされている割増賃金の率と、労働者が代替休暇を取得した場合に当該時間の労働について同項本文の規定により支払うこととされている割増賃金の率との差に相当する率(次項において「換算率」という。)を乗じるものとする。
③ 法第三十七条第三項の厚生労働省令で定める時間は、取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間とする。
 
第二十条 法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間が午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、第十九条第一項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の五割以上(その時間の労働のうち、一箇月について六十時間を超える労働時間の延長に係るものについては、七割五分以上)の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
② 法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定による休日の労働時間が午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、前条第一項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の六割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

算定の基礎となる賃金(法定割増賃金の基礎となる時間単価)

 割増賃金の算定は、

  割増賃金=賃金計算期間の総時間外労働時間(a)×算定の基礎となる賃金(b)×割増率(c)

                                  で算定されます。

 そして、賃金計算期間の総時間外労働時間は、割増率ごとに区分して算定します。つまり、

(a)は、(c)ごとに区分して、毎回賃金計算期間ごとに算定します。

 具体的には、以下のとおりです。

 ① 法定時間外労働時間   × 算定基礎賃金 × 1.25(25%以上) 

 ② 深夜労働時間      × 算定基礎賃金 × 1.25(25%以上)

 又は深夜労働時間      × 算定基礎賃金 × 0.25(25%以上)+ 所定内賃金 

 ③ 法定休日労働時間    × 算定基礎賃金 × 1.35(35%以上) 

 ④ 時間外深夜労働時間   × 算定基礎賃金 × 1.5 (50%以上)

 ⑤ 休日深夜労働時間    × 算定基礎賃金 × 1.6 (60%以上)

 ⑥ 1ヶ月累計60時間超時間 × 算定基礎賃金 × 1.5 (50%以上)    

 ⑦ 1ヶ月累計60時間超かつ深夜労働時間 × 算定基礎賃金 × 1.75(75%以上) 

 

1.割増賃金の算定の基礎となる賃金

 割増賃金の算定の基礎となる賃金は、

   割増賃金の算定の基礎となる賃金=算定の対象となる賃金÷所定労働時間

 で算出します。したがって、以下のような算定の対象外の賃金があります。

法第三十七条第五項 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

一 別居手当

二 子女教育手当

三 住宅手当

四 臨時に支払われた賃金

 五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 この7種類の賃金は、割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外しますが、上記の賃金は限定列挙のため、これら以外の賃金を割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外することは出来ませ

 また、それぞれの賃金の解釈は次の通りです。

(イ)「家族手当とは、「扶養家族又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」をいい、たとえその名称が物価手当、清算手当等であっても、右に該当する手当であるか又は扶養家族若しくは家族手当額を基礎として算定した部分を含む場合には、その手当又はその部分は、家族手当として取り扱われる。
 しかしながら、家族手当と称していても、扶養家族数に関係なく一律に支給される手当や一家を扶養する者に対し基本給に応じて支払われる手当は、本条でいう家族手当ではなく、また、扶養家族ある者に対し本人分何円、扶養家族一人につき何円という条件で支払われるとともに、均衡上独身者に対しても一定の手当が支払われている場合には、これらの手当のうち「独身者に対して支払われている部分及び扶養家族のあるものにして本人に対して支給されている部分は家族手当ではない。」
(ロ)「通勤手当」とは、労働者の通勤距離又は通勤に要する実際費用に応じて算定される手当と解されるから、通勤手当は原則として実際距離に応じて算定するが、一定額までは距離にかかわらず一律に支給する場合には、実際距離によらない一定額の部分は本条の通勤手当ではないから、割増賃金の基礎に算入しなければならない。
 法37条第5項及び施行規則第21条で定める7種類の「賃金が、割増賃金の基礎から除外される賃金であるが、もとより本法に定める基準は最低のものであるから、これら「家族手当、通勤手当等、割増賃金の基礎より除外し得るものを算入することは使用者の自由である。」

2.割増賃金の算定基礎となる賃金の計算

 割増賃金の算定の基礎となる賃金は、所定賃金(労働契約上の賃金)から除外賃金(上記1)を控除した額を所定労働時間で除して算定します。

 具体的には、賃金形態別に以下のとおりに計算します。

① 時間によつて定められた賃金については、その金額

② 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数で除した金額

 (日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)

③ 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数で除した金額

 (週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)

④ 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数で除した金額

 (月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)

⑤ 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

⑥ 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

⑦ 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

 ⑧ 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、月によつて定められた賃金とみなして

  計算する

 

1ヶ月の累計の時間外労働時間が60時間を超えた場合の50%増しの割増賃金について

1.1ヶ月の累計の法定時間外労働

 まず、労働基準法第37条第1項の但し書きの「一箇月」の意味ですが、文字通り民法第140条に規定されている月によりますが、起算日を定めておく必要があります。

※1ヶ月とは、起算日から翌月の起算日の応答日の前日までをいいます。

 この場合、翌月に応答日がないときは、翌月の末日までを1ヶ月とします。

 例:1月30日が起算日の場合、1ヶ月は「1月30日~2月28日(又は29日)」となります。

※1ヶ月の起算日は、賃金計算期間の初日・毎月1日・36協定の期間の初日などが考えられます。

 そして、1ヶ月の累計の時間外労働時間が60時間を超えた時点で、その超えた部分から割増率

が、50%以上の賃金を支払う必要があります。

(1ヶ月の起算日を就業規則に規定する必要あります。) 

 また、中小企業は当分の間、この規定(60時間超50%割増)の適用が除外されます。

 

労働基準法附則

第百三十八条  中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。

 

 この場合の中小事業主とは、以下のいずれかに該当する事業主を言います。

 1.常時雇用する労働者の数

   一般の事業      300人以下

   小売業          50人以下

   サービス業・卸売業  100人以下

 2.資本金の額又は出資の総額

   一般の事業        3億円以下

   小売業・サービス業  5,000万円以下

   卸売業          1億円以下

 ※この場合、常用雇用者数又は資本金等のいずれかに該当すれば、法第37条第1項の中小企業

  となります。

 ※上記の業種の区分は、日本産業分類に従って判断されます。

  URL:https://www.stat.go.jp/index/seido/sangyo/19-3.htm

 ①小売業

 大分類I(卸売業、小売業)のうち
  中分類56(各種商品小売業)
  中分類57(織物・衣服・身の回り品小売業)
  中分類58(飲食料品小売業)
  中分類59(機械器具小売業)
  中分類60(その他の小売業)
  中分類61(無店舗小売業)
 大分類M(宿泊業、飲食サービス業)のうち
  中分類76(飲食店)
  中分類77(持ち帰り・配達飲食サービス業)

 ②サービス業

 大分類G(情報通信業)のうち
  中分類38(放送業)
  中分類39(情報サービス業)
   小分類411(映像情報制作・配給業)
   小分類412(音声情報制作業)
   小分類415(広告制作業)
   小分類416(映像・音声・文字情報制作に附帯するサービス業)
 大分類K(不動産業、物品賃貸業)のうち
   小分類693(駐車場業)
  中分類70(物品賃貸業)
 大分類L(学術研究、専門・技術サービス業)
 大分類M(宿泊業、飲食サービス業)のうち
  中分類75(宿泊業)
 大分類N(生活関連サービス業、娯楽業)ただし、小分類791(旅行業)は除く
 大分類O(教育、学習支援業)
 大分類P(医療、福祉)
 大分類Q(複合サービス業)
 大分類R(サービス業<他に分類されないもの>)

 ③卸売業

 大分類I(卸売業、小売業)のうち
  中分類50(各種商品卸売業)
  中分類51(繊維、衣服等卸売業)
  中分類52(飲食料品卸売業)
  中分類53(建築材料、鉱物・金属材料等卸売業)
  中分類54(機械器具卸売業)
  中分類55(その他の卸売業)

 

○代替休暇とは何か?(労働基準法第37条第3項)

 1ヶ月60時間超の法定時間外労働を行った場合に、60時間超の時間外労働分も50%未満の割増率に留めるかわりに、一定の換算方法により、本人の希望により有給の代替休暇を与えることができる制度です。 

 ただし、従来の25%割増の賃金は支払う必要があり、割増賃金のすべての部分を代替休暇に振り替えることはできません。この、代替休暇の制度は、文章で記述しても難解で理解しがたいため、図を使用したパンフレットをご参照ください。

 改正労働基準法のあらまし:https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/12/dl/tp1216-1l.pdf

 

なお、改正に伴う行政通達の関連箇所は、以下のとおりです。

 

労働基準法の一部を改正する法律の施行について

 (平成21年5月29日基発第0529001号)

対象となる時間外労働
 法第37条第1項ただし書において、使用者が一箇月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないこととしたものであること。
「一箇月」とは、暦による一箇月をいうものであり、その起算日を法第89条第2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」として就業規則に記載する必要があること。
 一箇月の起算日については、毎月1日、賃金計算期間の初日、時間外労働協定における一定期間の起算日等とすることが考えられるが、就業規則等において起算日の定めがない場合には、労使慣行等から別意に解されない限り、賃金計算期間の初日を起算日とするものとして取り扱うこと。
「その超えた時間の労働」として五割以上の率で計算した割増賃金の支払が義務付けられるのは、一箇月の起算日から時間外労働時間を累計して60時間に達した時点より後に行われた時間外労働であること。
 なお、法の施行日である平成22年4月1日を含む一箇月については、施行日から時間外労働時間を累計して60時間に達した時点より後に行われた時間外労働について、五割以上の率で計算した割増賃金の支払が必要となること。
 
休日労働との関係
 法第35条に規定する週一回又は四週間四日の休日(以下「法定休日」という。)以外の休日(以下「所定休日」という。)における労働は、それが法第32条から第32条の5まで又は第40条の労働時間を超えるものである場合には、時間外労働に該当するため、法第37条第1項ただし書の「一箇月について60時間」の算定の対象に含めなければならないものであること。
 なお、労働条件を明示する観点及び割増賃金の計算を簡便にする観点から、就業規則その他これに準ずるものにより、事業場の休日について法定休日と所定休日の別を明確にしておくことが望ましいものであること。
 
深夜労働との関係(則第20条第1項及び第68条関係)
 則第20条第1項の「(その時間の労働のうち、(中略)七割五分以上)」とは、深夜労働のうち、一箇月について60時間に達した時点より後に行われた時間外労働であるものについては、深夜労働の法定割増賃金率と一箇月について60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率とが合算され、七割五分以上の率で計算した割増賃金の支払が必要となることを明らかにしたものであること。
 なお、法第138条に規定する中小事業主の事業については、当分の間、一箇月について60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率の引上げの適用が猶予されていることから、則第68条において、則第20条第1項の規定を読み替え、現行どおりの割増賃金率であることを明らかにしたこと。
 
代替休暇(法第37条第3項関係)
1 趣旨
 特に長い時間外労働を抑制することを目的として、一箇月について60時間を超える時間外労働について、法定割増賃金率を引き上げることとされているが、臨時的な特別の事情等によってやむを得ずこれを超える時間外労働を行わざるを得ない場合も考えられる。
 このため、そのような労働者の健康を確保する観点から、特に長い時間外労働をさせた労働者に休息の機会を与えることを目的として、一箇月について60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、労使協定により、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を与えることができることとしたものであること。
 なお、法第138条に規定する中小事業主の事業については、当分の間、法定割増賃金率の引上げは適用しないこととされていることに伴い、法第37条第3項の規定による代替休暇も適用されないこととなること。
2 代替休暇に係る労使協定の締結
 法第37条第3項の休暇(以下「代替休暇」という。)を実施する場合には、事業場において労使協定を締結する必要があること。
 この労使協定は、当該事業場において、法第37条第1項ただし書の規定による割増賃金の支払による金銭補償に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇の付与による補償を行うことができることとするものであり、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務付けるものではないこと。労使協定が締結されている事業場において、個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは、労働者の意思によるものであること。
 法第37条第3項の「労働者の過半数を代表する者」については、則第6条の2第1項において、①法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと及び②法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であることのいずれにも該当する者とされていること。
 なお、労使協定の締結によって代替休暇を実施する場合には、代替休暇に関する事項を法第89条第1号の「休暇」として就業規則に記載する必要があること。
3代替休暇に係る労使協定で定める事項
⑴代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法(則第19条の2第1項第1号関係)
 則第19条の2第1項第1号の代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法については、同条第2項において、一箇月について60時間を超えて時間外労働をさせた時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率と、労働者が代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率との差に相当する率(以下「換算率」という。)を乗じるものとされており、労使協定では、この算定方法にしたがって具体的に定める必要があること。
 労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率は、法第37条第1項ただし書の規定により五割以上の率とする必要があり、労働者が代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率は、同項本文の規定により二割五分以上の率とする必要があり、いずれも法第89条第2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」として就業規則に記載する必要があること。
⑵代替休暇の単位(則第19条の2第1項第2号関係)
 代替休暇の単位については、まとまった単位で与えられることによって労働者の休息の機会とする観点から、則第19条の2第1項第2号において、一日又は半日とされており、労使協定では、その一方又は両方を代替休暇の単位として定める必要があること。
 「一日」とは労働者の一日の所定労働時間をいい、「半日」とはその二分の一をいうものであること。「半日」については、必ずしも厳密に一日の所定労働時間の二分の一とする必要はないが、その場合には労使協定で当該事業場における「半日」の定義を定めておくこと。
 また、代替休暇として与えることができる時間の時間数が労使協定で定めた代替休暇の単位(一日又は半日)に達しない場合であっても、則第19条の2第1項第2号において、「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」と合わせて与えることができる旨を労使協定で定めたときは、当該休暇と代替休暇とを合わせて一日又は半日の休暇を与えることができることとされていること。「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」としては、代替休暇の実施に伴って任意に創設される休暇を想定しているものであるが、事業場の既存の休暇制度や、法第39条第4項の労使協定が締結されている事業場において労働者が請求した場合に同項の時間単位年休を活用することも差し支えないこと。
 なお、「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」と代替休暇とを合わせて与えた場合においても、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えることができるのは、代替休暇の部分に限られるものであること。
⑶代替休暇を与えることができる期間(則第19条の2第1項第3号関係)
 代替休暇を与えることができる期間については、特に長い時間外労働が行われた月から一定の近接した期間に与えられることによって労働者の休息の機会とする観点から、則第19条の2第1項第3号において、時間外労働が一箇月について60時間を超えた当該一箇月の末日の翌日から二箇月以内とされており、労使協定では、この範囲内で定める必要があること。
 なお、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で一箇月を超える期間が定められている場合には、前々月の時間外労働に対応する代替休暇と前月の時間外労働に対応する代替休暇とを合わせて一日又は半日の代替休暇として取得することも可能であること。
⑷代替休暇の取得日及び割増賃金の支払日
 代替休暇については、賃金の支払額を早期に確定させる観点から、⑴から⑶までの事項以外の事項として労使協定で定められるべきものとして、次のものが考えられるものであること。
  労働者の意向を踏まえた代替休暇の取得日の決定方法
 労働者の代替休暇取得の意向については、一箇月について60時間を超えて時間外労働をさせた当該一箇月の末日からできる限り短い期間内において、確認されるものとすること。代替休暇を取得するかどうかは、労働者の判断による(法第37条第3項)ため、代替休暇が実際に与えられる日は、当然、労働者の意向を踏まえたものとなること。
  一箇月について60時間を超える時間外労働に係る割増賃金の支払日
 一箇月について60時間を超える時間外労働に係る割増賃金の支払日については、労働者の代替休暇取得の意向に応じて、次のようになるものであること。
  労働者に代替休暇取得の意向がある場合には、現行でも支払義務がある割増賃金(法第37条第1項本文の規定により二割五分以上の率で計算した割増賃金)について、当該割増賃金が発生した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うこと。
 なお、代替休暇取得の意向があった労働者が実際には代替休暇を取得できなかったときには、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について、労働者が代替休暇を取得できないことが確定した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払う必要があること。(下記4参照)
  a以外の場合(労働者に代替休暇取得の意向がない場合、労働者の意向が確認できない場合等)には、法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金(法第37条第1項ただし書の規定により五割以上の率で計算した割増賃金)について、当該割増賃金が発生した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うこと。
 なお、法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に、労働者から代替休暇取得の意向があった場合には、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であっても、労働者は代替休暇を取得できないこととすることを労使協定で定めても差し支えないものであること。
 このような、法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に労働者から代替休暇取得の意向があった場合について、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であれば労働者は代替休暇を取得できることとし、労働者が実際に代替休暇を取得したときは既に支払われた法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について精算することとすることを労使協定で定めることも妨げられるものではないこと。
4法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が不要となる時間
 (則第19条の2第3項関係)
 代替休暇は、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて与えられるものであることから、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が不要となる時間は、法第37条第3項において、一箇月について60時間を超える時間外労働のうち労働者が取得した代替休暇に対応する時間の労働とされており、具体的には、則第19条の2第3項において、労働者が取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間とされているものであること。したがって、代替休暇取得の意向があった労働者が実際には代替休暇を取得できなかったときには、取得できなかった代替休暇に対応する時間の労働については、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が必要となること。
 なお、労働者が実際に代替休暇を取得した場合であっても、現行でも支払義務がある割増賃金(第37条第1項本文の規定により二割五分以上の率で計算した割増賃金)の支払が必要であることは、いうまでもないこと。
5 代替休暇と年次有給休暇との関係
 代替休暇は、法第37条第3項において「(第39条の規定による有給休暇を除く。)」と確認的に規定されており、年次有給休暇とは異なるものであること。
 なお、法第39条第1項は、六箇月継続勤務に対する年次有給休暇の付与を規定し、その際の当該期間における全労働日の八割出勤を要件としているが、労働者が代替休暇を取得して終日出勤しなかった日については、正当な手続により労働者が労働義務を免除された日であることから、年次有給休暇の算定基礎となる全労働日に含まないものとして取り扱うこと。

 

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 13(労働基準法第37条② 時間外労働後半)を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 12(労働基準法37条 ①)

2015年07月06日 11:21

労働基準法(割増賃金)

第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。

③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

 

労働基準法施行規則

第十九条 法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす

 

第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

一 別居手当

二 子女教育手当

三 住宅手当

四 臨時に支払われた賃金

 五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令

(平成六年一月四日)(政令第五号)

労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令をここに公布する。

労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令

内閣は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十七条第一項の規定に基づき、この政令を制定する。
労働基準法第三十七条第一項の政令で定める率は、同法第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。

 

法定時間外労働を行える場合(労働基準法第33条又は第36条の手続が必要)

 変形労働時間制を採用している場合を除き、一週40時間(又は44時間)及び一日8時間を超えて労働させることができません。

参考:労働基準法第32条(労働時間)

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 

 労働基準法第32条は、1日実働8時間を超えて及び1週実働40時間(又は44時間)を超えて、使用者は労働者を就労させることができないという趣旨です。ところで、法定休日は少なくとも毎週(暦週又は就業規則で定める週)1日(又は4週4日以上)与えることとなっていますから、ある週に1日8時間・6日出勤すると、その週の労働時間は48時間となります。この場合、同法第32条の規定により、1日の労働時間が8時間以下にもかかわらず、40時間(又は44時間)を超える8時間(又は4時間)が法定時間外労働となり、手続(同法第33条・第36条による手続)なく就労させることができません。

※年少者の場合の例外あり(法60条第3項)

 

参考:労働基準法(休日)

第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
② 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

 

 そこで、法定時間外労働を可能にするためには、法第33条(非常時)の許可又は届出、あるいは法第36条による労使協定及び届出(監督署への届出が法第36条による免責効力の発生要件です。)が必須となります。

 

法定時間外労働と所定時間外労働

 法定時間外労働は、前記のとおり(変形労働時間制等を採用している場合の法定時間外労働の解釈は、後に記述します。)ですが、所定労働時間が法定労働時間に満たない場合には、法定時間外労働の前に所定時間外労働が生じる場合があります。具体的には、次の通りです。

事例:1日の所定労働時間が7時間30分、休日は土曜日及び日曜日(月~金の祝祭日は出勤)

   の場合

 賃金の規定、1週40時間分の週給(4,5000円)ただし、1週40時間に満たない週でも45,000円

 を支給する。

 また、実働が1週37時間30分に満たない場合には、1時間あたり1,125円を控除する。

 1週は暦週と就業規則に定められている。36協定手続ずみ。

 特例非該当事業所(40時間適用)。

 

A従業員の勤務実績(深夜労働なし。)

 7/5(日)    7/6(月)    7/7(火)    7/8(水)    7/9(木)  7/10 (金)7/11(土)   計  

  休み  7.5h        8.0h   8.0h        7.5h        8.0h        5.0h         44時間

 この事例では、    7/11(土)に休日出勤を5時間(法定休日労働には該当しない。)行っている

ので、1週の実労働時間が40時間を超えているため、4時間(44-40)が法定時間外労働に該当

します。

 そこで、賃金についてみてみると、7/7(火)7/8(水)7/10(金)は、所定労働時間の7.5時間

を超えて就労していますので、それぞれ30分づつ所定時間外労働となります。

 また、この週は所定労働時間の37.5時間を超えて就労しているので、37.5時間を超えて40時

間までの部分は、所定時間外労働(ただし、7/7(火)7/8(水)7/10(金)の合計1.5時間分は重

複するため除外)となります。ただし、1日8時間、1週40時間までは、所定賃金に含まれてい

るため、所定時間外労働分の賃金は加算されません。

 この事例では、1日8時間又は1週40時間を超えた労働分につき、法定時間外労働分の割増賃金

を算定し、そして週の基本給の45,000円に法定時間外労働分の割増賃金を加算してその週の賃

金総額を算定します。

 

1.法定時間外労働の算定基礎賃金

 則第19条の規定により、週給の場合の算定基礎賃金は次の方法で計算します。

 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

 従って 算定基礎賃金=45,000円÷37.5時間=1,200円 となります。

 

2.この週の賃金総額

     この週の割増賃金額=1,200円×4時間×1.25=6,000円

     この週の支払賃金額=45,000円+6,000円=51,000円  となります。

 

3.所定時間外労働分の賃金(深夜労働がない場合に限る。)

 所定時間外労働分の賃金は、割増賃金を支給しなければならないわけではありません。ただし、通常の賃金以上の賃金を支払う必要があります。簡単のために時給の例で考えると、時給1,000円で1日の所定労働時間が7時間の場合、ある日に7時間30分したとすれば、その日は少なくとも7,500円以上の賃金を支払う必要があります。もちろん、労働契約や就業規則で「所定労働時間外就労については、25%割増の賃金とする。」等と定めることもできます。

 この場合の支払賃金は、

  賃金額=1,000円/時×7時間+1,000円/時×0.5時間×1.25=7,625円  となります。

 

法定の割増賃金率

 法定の割増賃金率は、労働基準法施行令(平成六年一月四日)(政令第五号)等により、次の割増賃金以上の賃金を支払う必要があります。

 ① 法定時間外労働   二割五分(25%) 以上 (政令)

 ② 深夜労働      二割五分(25%) 以上 (法37条4項)

 ③ 法令休日労働    三割五分(35%) 以上 (政令)

 ④ 時間外深夜労働   五割  (50%)  以上

 ⑤ 休日深夜労働    六割  (60%) 以上

 ⑥ 1ヶ月累計60時間超 五割  (50%) 以上 (法37条1項)   

 ⑦ 1ヶ月累計60時間超

   かつ深夜労働    7割五分(75%)  以上 

 ※ ⑥及び⑦は、中小企業は当面除外、また代替休暇付与(有給)の場合は25%増以上

 ※ 時間外法定休日労働の概念はないため、法定休日労働は深夜業にならない限り

   35%増以上

   なお、代替休暇・中小企業の範囲等については、次回に記述します。

 

変形労働時間制等を採用した場合の法定時間外労働の判断

 1ヶ月単位の変形労働時間制(法第三十二条の二)

 1ヶ月単位の変形労働時間制を採用している場合の時間外労働時間となる時間は次の通りです

が、ポイントは、1日⇒1週⇒変形期間の総枠 の順に法定時間外労働時間を算定し、順次加算

して行くこととなります。

 1.1日については、労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより、1日の法定労働時間(8時間)を超える時間を定めた日はその時間(所定労働時間)、それ以外の日は1日の法定労働時間(8時間)を超えて労働した時間

 2.1週間については、労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより、週法定労働時間(40時間又は44時間)を超える時間を定めた週はその時間(週の所定労働時間)、それ以外の週は週法定労働時間(40時間又は44時間)を超えて労働した時間(1.で時間外労働となる時間を除く)

 3.変形期間(1ヶ月以内の期間)については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1.又は2.で時間外労働となる時間を除く)

 なお変形期間の法定労働時間は、

  法定労働時間=40時間(又は44時間)×(変形期間の暦日数÷7) で算定します。

 変形期間をまたいで賃金精算を行うことはありませんから、変形期間の当初及び末尾の端日数の週あたりの法定時間外労働の精算は、 

 端日数週の時間枠=40時間(又は44時間)÷(端日数÷7) でみることとなっています。

 フレックスタイム制(法第三十二条の三)

 清算期間の総労働時間を超える部分が法定時間外労働となります。

 清算期間における総労働時間は、次の式で算定します。

     総労働時間=40時間(又は44時間)÷(清算期間の日数÷7)

 ※フレックスタイム制の場合には、1日及び1週の法定時間外労働は生じません。従って、フレックスタイム制が適用される労働者の36協定の締結の際には、「清算期間の延長できる労働時間及び1年で延長できる労働時間」を協定することとなります。

 

ウ 1年単位の変形労働時間制(法第三十二条の四)

 1年単位の変形労働時間制の法定時間外労働時間は、以下により判断します。

 1.1日の法定時間外労働時間は、所定労働時間が8時間を超える日については、その所定労働時間を超えた時間、所定労働時間が8時間以内とされる日については8時間を超えた時間が法定時間外労働時間となる。

 

 2.1週の法定時間外労働時間は、所定労働時間が40時間を超える場合には、その所定労働時間を超えた時間、所定労働時間が40時間以内とされる週については、40時間を超えた時間。(1.で算定した時間を除く。)

 

 3.対象期間(1年以内)の法定時間外労働時間は、対象期間の法定労働時間の総枠を超えた時間が法定総労働時間となる。(1.又は、2.で算定した時間を除く。)

  対象期間の法定労働時間の総枠は次の計算式で算定する。

   対象期間における法定労働時間の総枠=40時間×(対象期間の暦日数÷7)

 ※1年単位の変形労働時間制は、特例事業(44時間)の適用がない。

 

 1週単位の非定型的変形労働時間制(法第三十二条の五)

 1週間単位の非定型的変形労働時間制の法定時間外労働時間は、以下により判断します。

 1.1日の法定時間外労働は、所定労働時間が8時間を超える日(10時間以内)については、所定労働時間を超えた時間、所定労働時間が8時間以内の日については、8時間を超えた時間

 

 2.1週の法定時間外労働時間は、40時間を超えた時間(1.で法定時間外労働時間と算定した時間を除く。)

 ※なお、1週間単位の非定型的変形労働時間制についても、特例事業(44時間)の適用がありません。

 

 事業場外みなし労働時間制(法第三十八条の二)

 事業場外みなし労働時間制については、「事業場外の就労について、事業場内の就労分を含めて所定労働時間労働したものとみなす。」ため、所定労働時間が8時間以下の場合には、少なくとも1日の就労分については、法定時間外労働が生じません。他方、通常10時間必要な業務の場合には、10時間労働したものとみなすとしています。

 従って、事業場外みなし労働時間制に法定時間外労働が生じないわけではなく、実態に即した正しい運用が望まれます。

 そこで、通常所定労働時間を超えてその事業場外業務に時間が必要な場合には、労使協定により所定労働時間を超えて必要となる時間(9時間など)を協定し届出を行うように指導されます。そして、届出を行った場合には、協定した時間を労働時間としてみなすという制度です。なお、この協定する時間(所定労働時間を超えてその業務の遂行に通常必要とされる時間)は、1日について協定することとなっています。

 

○1日の法定時間外労働と1週の法定時間外労働の双方の算定方法

 変形労働時間制等を使用していない場合においては、1日8時間及び1週40時間(又は44時間)を超える部分の労働が法定時間外労働となります。これは、一見判断に迷う規定のため、以下に簡単な算定方法を記述します。

 

事例1:週は暦週。特例非該当。変形労働時間制等の適用なし。

    所定労働時間は、1日8時間・1週40時間。深夜労働なし。

      日    月   火  水  木   金   土   計

実働  9時間 8.5時間 10時間 9時間 休日  11時間 9時間 56.5時間

時間外 1時間 0.5時間 2時間   1時間 0時間 3時間 1時間  8.5時間

 

    A:日々の法定時間外労働時間の合計        8.5時間

    B:1週間の総労働時間が40時間を超える部分    16.5時間

 従って、事例1では、16.5時間を法定時間外労働時間として賃金計算を行います。

 ※AとBを比較して、多いほうの時間をその週のすべての法定時間外労働として

  取り扱います。

  ただし、週の途中に賃金計算期間の末日がある場合には、留意が必要です。

  その場合には、当月分の日々の8時間超の合計時間を当月分(①)とし、1週の合計の

  40時間超の時間から①を差し引いた時間(②)を翌月分に算入します。

 

事例2週は暦週。特例非該当。変形労働時間制等の適用なし。

    所定労働時間は、1日8時間・1週40時間。深夜労働なし。土曜日が法定休日労働。

     日    月  火   水   木    金      計

実働  9時間 8.5時間 10時間 9時間 10時間  11時間 9時間 57.5時間(66.5時間)

時間外 1時間 0.5時間 2時間   1時間 2時間  3時間   0時間  9.5時間

   

    A:日々の法定時間外労働時間の合計        9.5時間

    B:1週間の総労働時間が40時間を超える部分     17.5時間

    C:法定休日労働の時間               9時間

 ※事例2の場合には、土曜日分(法定休日労働分)は、法定時間外労働として

  取り扱いません。

 ※事例1と同様に、17.5時間がこの週のすべての法定時間外労働となります。

 

 

 

 

以上で、賃金に関する考察 12(労働基準法37条① 時間外労働前半)を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 11(労働基準法24条)

2015年07月05日 09:41

労働基準法第24条

 労働基準法の賃金に関する規定は、①賃金支払の原則、②割増賃金の支払、③非常時払い、年休取得時の賃金、時効などのその他の事項に大別されます。また、賃金の支払は、労働時間(時間外労働の解釈)と労働契約の内容に密接に関係しますが、今回は専ら「賃金の支払いに関する項目」に絞り込んで詳細に記述します。

第24条(賃金の支払)

 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支

払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において

「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

 

労働基準法施行規則

(現物給付)

則第二条 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号。以下「法」という。)第十二条第五項の

規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第二十四条第一項ただし書の規定による法令

又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

2 前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなけ

ればならない。

3 前項の規定により労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は前項の評価

額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第一項

の通貨以外のものの評価額を定めることができる。

 

(通貨払の例外)

則第七条の二 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法による

ことができる。

一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み

二 当該労働者が指定する金融商品取引業者(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号。以下「金商法」という。)第二条第九項に規定する金融商品取引業者(金商法第二十八条第一項に規定する第一種金融商品取引業を行う者に限る。)をいう。以下この号において同じ。)に対する当該労働者の預り金(次の要件を満たすものに限る。)への払込み

イ 当該預り金により投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第四項の証券投資信託(以下この号において「証券投資信託」という。)の受益証券以外のものを購入しないこと。

ロ 当該預り金により購入する受益証券に係る投資信託及び投資法人に関する法律第四条第一項の投資信託約款に次の事項が記載されていること。

(1) 信託財産の運用の対象は、次に掲げる有価証券((2)において「有価証券」という。)、預金、手形、指定金銭信託及びコールローンに限られること。

(i) 金商法第二条第一項第一号に掲げる有価証券

(ii) 金商法第二条第一項第二号に掲げる有価証券

(iii) 金商法第二条第一項第三号に掲げる有価証券

(iv) 金商法第二条第一項第四号に掲げる有価証券(資産流動化計画に新優先出資の引受権のみを譲渡することができる旨の定めがない場合における新優先出資引受権付特定社債券を除く。)

(v) 金商法第二条第一項第五号に掲げる有価証券(新株予約権付社債券を除く。)

(vi) 金商法第二条第一項第十四号に規定する有価証券(銀行、協同組織金融機関の優先出資に関する法律(平成五年法律第四十四号)第二条第一項に規定する協同組織金融機関及び金融商品取引法施行令(昭和四十年政令第三百二十一号)第一条の九各号に掲げる金融機関又は信託会社の貸付債権を信託する信託(当該信託に係る契約の際における受益者が委託者であるものに限る。)又は指定金銭信託に係るものに限る。)

(vii) 金商法第二条第一項第十五号に掲げる有価証券

(viii) 金商法第二条第一項第十七号に掲げる有価証券((i)から(vii)までに掲げる証券又は証書の性質を有するものに限る。)

(ix) 金商法第二条第一項第十八号に掲げる有価証券

(x) 金商法第二条第一項第二十一号に掲げる有価証券

(xi) 金商法第二条第二項の規定により有価証券とみなされる権利((i)から(ix)までに掲げる有価証券に表示されるべき権利に限る。)

(xii) 銀行、協同組織金融機関の優先出資に関する法律第二条第一項に規定する協同組織金融機関及び金融商品取引法施行令第一条の九各号に掲げる金融機関又は信託会社の貸付債権を信託する信託(当該信託に係る契約の際における受益者が委託者であるものに限る。)の受益権

(xiii) 外国の者に対する権利で(xii)に掲げるものの性質を有するもの

(2) 信託財産の運用の対象となる有価証券、預金、手形、指定金銭信託及びコールローン((3)及び(4)において「有価証券等」という。)は、償還又は満期までの期間((3)において「残存期間」という。)が一年を超えないものであること。

(3) 信託財産に組み入れる有価証券等の平均残存期間(一の有価証券等の残存期間に当該有価証券等の組入れ額を乗じて得た合計額を、当該有価証券等の組入れ額の合計額で除した期間をいう。)が九十日を超えないこと。

(4) 信託財産の総額のうちに一の法人その他の団体((5)において「法人等」という。)が発行し、又は取り扱う有価証券等(国債証券、政府保証債(その元本の償還及び利息の支払について政府が保証する債券をいう。)及び返済までの期間(貸付けを行う当該証券投資信託の受託者である会社が休業している日を除く。)が五日以内のコールローン((5)において「特定コールローン」という。)を除く。)の当該信託財産の総額の計算の基礎となつた価額の占める割合が、百分の五以下であること。

(5) 信託財産の総額のうちに一の法人等が取り扱う特定コールローンの当該信託財産の総額の計算の基礎となつた価額の占める割合が、百分の二十五以下であること。

ハ 当該預り金に係る投資約款(労働者と金融商品取引業者の間の預り金の取扱い及び受益証券の購入等に関する約款をいう。)に次の事項が記載されていること。

(1) 当該預り金への払込みが一円単位でできること。

(2) 預り金及び証券投資信託の受益権に相当する金額の払戻しが、その申出があつた日に、一円単位でできること。

2 使用者は、労働者の同意を得た場合には、退職手当の支払について前項に規定する方法に

よるほか、次の方法によることができる。

一 銀行その他の金融機関によつて振り出された当該銀行その他の金融機関を支払人とする小切手を当該労働者に交付すること。

二 銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手を当該労働者に交付すること。

三 郵政民営化法(平成十七年法律第九十七号)第九十四条に規定する郵便貯金銀行がその行う為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書を当該労働者に交付すること。

3 地方公務員に関して法第二十四条第一項の規定が適用される場合における前項の規定の

用については、同項第一号中「小切手」とあるのは、「小切手又は地方公共団体によつて振り

出された小切手」とする。

 

第八条 法第二十四条第二項但書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。

一 一箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当

二 一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当

三 一箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当

 

賃金支払の原則

・賃金支払の5原則の規定です。自著「労働基準法の研究」より引用します。

 

1)通貨払いの原則
「この原則は、労働者に不利益な実物給与を禁止するもが本音であるから、公益上の必要がある場合又は労働者に不利益になるおそれが少ない場合には、例外を認めることが実情に沿うので、退職手当について銀行振出し小切手等の交付によることのほか、法令又は労働協約に定めのある場合には実物給与を認めている。

2)直接払いの原則
 これは、「親方や職業仲介人が代理受領によって中間搾取をし、又は年少工の賃金を親権者が奪い去る等の旧来の弊害を除去し、労務の提供をした労働者本人の手に賃金全額を帰属させるため、第59条(親権者の代理受領の禁止)とともに、民法の委任、代理等の規定の特例を設けたものである。」としています。

3)全額払いの原則
 これは、「賃金の一部を支払留保することによる労働者の足留めを封ずるとともに、直接払いの原則と相まって、労働の対価を残りなく労働者に帰属させるため、控除を禁止したものである。しかし、所得税の源泉徴収、社会保険料の控除のように公益上の必要があるもの及び社宅料、購入物品の代金等事理明白なものについては例外を認めることが手続の簡素化に質し、実情にも沿うので、法令に別段の定めがある場合又は労使の自主的協定がある場合には一部控除を認めている。」としています。

4)毎月払いの原則
 この毎月払いの原則は、「賃金支払期の間隔が開きすぎることによる労働者の生活上の不安を除くことを目的とし」としています。

5)一定期日払いの原則
 「一定期日払いの原則は、支払日が不安定で間隔が一定しないことによる労働者の計画的生活の困難を防ぐことを意図し、毎月払いと相まって労働者の定期的収入の確保を図っている。」としています。

 

○賃金支払の5原則の考察

1.通貨払いの原則

 労働基準法第24条には、使用者は労働者に対し賃金を通貨(日本国の通貨に限る。)で支払

うと規定されています。

 すなわち、労働基準法の規定による賃金支払方法の原則は、現金(原則的に円に限られる)

で支給することとなっています。従って、労働者本人の銀行口座等への振込みによる賃金の支

払は、本人の同意を得た場合の例外的な措置となります。もっとも、現在では本人の指定する

口座(本人名義のものに限られます。)に会社が振り込む方法により賃金を支払うことが通常

です。この場合の労働者本人の同意は、黙示的なものでも許容されると解されますので、振込

み先の口座に関する文書の提出を労働者にもとめ労働者がその文書(通帳の写しの提出を含

め)を提出した場合には、当然に振込みによる賃金の支払に同意したものと判断することがで

きます。

 そこで、通常の賃金や賞与及び退職金等の支払に関し、本人の同意により通貨以外のもので

支払う際の方法は、則第7条の2に規定されていますので、その規定に従うこととなります。

 ところで、日本の会社の国外に勤務する労働者に対する賃金の支払については、どのように

なるのでしょうか。一般に法律は、属地主義といって原則的に国内の法律が海外に適用される

ことはありません。従って、国内事業所の労働者が一時的な海外出張等で海外に仕事に行く場

合を除き、海外の事業所に労働基準法が適用されることはありません。これは、当然の原則で

あり、中国国内の会社を日本の労働基準法違反の容疑で行政指導等を行うことはできないこと

は当然です。他方、中国国籍企業の日本国内所在の事業所について、労働基準法他の法令で指

導等を行うことは当然のことと言えます。

 従って、海外の事業所については、賃金を円で支払わなければならないということはなく、

その国の法令等に従って支払をすることになります。

 余談ですが、我が国の刑法には国外犯規定があり、例えば日本人を国外で殺した者(ISI

Lの戦闘員など)についても、刑法の適用があり、実際に摘発が可能か否かは別にして、事件

の捜査を行うことができます。

 

参考:刑法の規定

第二条 (すべての者の国外犯)この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。
一 削除
二 第七十七条から第七十九条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪
三 第八十一条(外患誘致)、第八十二条(外患援助)、第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪
四 第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪
五 第百五十四条(詔書偽造等)、第百五十五条(公文書偽造等)、第百五十七条(公正証書原本不実記載等)、第百五十八条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪
六 第百六十二条(有価証券偽造等)及び第百六十三条(偽造有価証券行使等)の罪
七 第百六十三条の二から第百六十三条の五まで(支払用カード電磁的記録不正作出等、不正電磁的記録カード所持、支払用カード電磁的記録不正作出準備、未遂罪)の罪
八 第百六十四条から第百六十六条まで(御璽偽造及び不正使用等、公印偽造及び不正使用等、公記号偽造及び不正使用等)の罪並びに第百六十四条第二項、第百六十五条第二項及び第百六十六条第二項の罪の未遂罪
第三条 (国民の国外犯) この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
一 第百八条(現住建造物等放火)及び第百九条第一項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪
二 第百十九条(現住建造物等浸害)の罪
三 第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪
四 第百六十七条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第二項の罪の未遂罪
五 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)、第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪
六 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪
七 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
八 第二百十四条から第二百十六条まで(業務上堕胎及び同致死傷、不同意堕胎、不同意堕胎致死傷)の罪
九 第二百十八条(保護責任者遺棄等)の罪及び同条の罪に係る第二百十九条(遺棄等致死傷)の罪
十 第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
十一 第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
十二 第二百三十条(名誉毀損)の罪
十三 第二百三十五条から第二百三十六条まで(窃盗、不動産侵奪、強盗)、第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷、強盗強姦及び同致死)及び第二百四十三条(未遂罪)の罪
十四 第二百四十六条から第二百五十条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪
十五 第二百五十三条(業務上横領)の罪
十六 第二百五十六条第二項(盗品譲受け等)の罪
第三条の二 (国民以外の国外犯)この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。
一 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)及び第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)の罪
二 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪
三 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
四 第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
五 第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
六 第二百三十六条(強盗)及び第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷、強盗強姦及び同致死)の罪並びにこれらの罪の未遂罪

 

2.賃金の直接払いの原則(同様に「労働法の研究」の抜粋)

 賃金は、「労働者の親権者その他の法定代理人に支払うこと、労働者の委任を受けた任意代理人に支払うこと、また労働者が金銭の借入を行っている場合に、その債権者に賃金を渡すこと等を含め、第三者に賃金受領権限を与えようとする委任、代理等の法律行為は無効である。」とされています。
 ただし、例えば入院中の労働者に代わって、配偶者が使者として賃金を受領する場合には、あくまで本人の使いにすぎないので、差支えないものとされています。
 昨今は、労働者本人の承諾の上で「労働者名義の金融機関等の口座に振り込む」方法が一般的です。この場合で問題となるのは、たとえ本人の要望であっても他者名義(配偶者、親、子等であっても不可)の口座に振り込むことです。例外は、労働者が死亡した場合において、相続人に未払いの賃金を支払う場合です。

・債権と賃金の相殺

 ここで、使用者・労働者以外の第三者が労働者に金銭債権を持っている場合が問題となりま

す。つまり、労働者の求めに応じて、使用者が賃金額の一部を直接その債権者に支払うことが

可能かという点です。この点は、以下のように解釈されています。

 労働者が他者に賃金債権を譲渡する契約を締結した場合であっても、その契約に基づく他者に賃金を支払い、直接労働者に支払わなかった場合には、本条違反になるとされます。

 この点は判例によって確認されており、「その譲渡を禁止する規定がないから、退職者またはその予定者が右退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合に譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども、同法(労基法)24条1項が『賃金は直接労働者に支払わなければならない。』旨を定めて、使用者に賃金支払義務者に対して罰則をもってその履行を強制している趣旨に徹すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがって、右賃金債権の譲受け人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当である。」と判示しています。
 ただし、個別事例ながら「妻から賃金債権を譲り受けた夫にその賃金を支払っても、夫婦が生計を一にしないとの特別の事情でもない限り夫に支払われた妻の賃金は結局妻の自由な使用に委ねられたことに帰するから、直接払違反にはならない」とした裁判例があります。

・派遣労働者と使用者たる派遣元管理者からの直接払いの問題

 派遣労働者については、「派遣中の労働者の賃金を派遣先の使用者を通じて支払うことについては、派遣先の使用者が派遣中の労働者本人に対して派遣先の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、直接払の原則には違反しない。」と解されています。しかし、これも銀行振り込みであれば問題となりません。

・直接払いの例外(差し押さえ処分の場合)

 全額払いに抵触しない例として、1)「行政庁が国税徴収法の規定に基づいて行った差し押

さえ処に従って、使用者が労働者の賃金を控除のうえ当該行政官庁に納付すること。」、

2)「民事執行法に基づく差し押さえ。」以上の2つが、本条に違反しないものと解されてい

ます。

 

3.全額払いの原則

 賃金は、賃金計算期間に計算された金額の全額を定められた支払日に支払わなければなりま

せん。従って、支払うべき賃金の一部を控除して、6ヶ月ごとに賞与として後払いするといっ

たことは出来ません。

 ただし、事業場ごとに労働基準法第24条第1項に定められた労使協定を締結することにより、

賃金の一部を控除することができます。ところで、この控除は、正当な理由による正当な価額

の控除に限られることは、当然のことです。つまり、使用者が立場を利用して「理由無き賃金

控除協定」を締結し、事実上の賃金減額措置をとるといったことは出来ないことになります。

  これは、事実上法第24条の全額払いの規定に違反しますし、民法の規定にも反すると思われ

ます。

 

・「労働法の研究」より抜粋

 この「全額を支払う」の趣旨は、「賃金はその全額を支払わなければならないとするのは、賃金の一部を控除して支払うことを禁止するものである。」とされます。
 ここで「控除」とは、「履行期の到来している賃金債権についてその一部を差し引いて支払わないことをいう。また、それが事実行為によると法律行為によるとを問わない。」とされています。
 判例でも、「民法509条の法意に照らせば、労働者に使用者に対する明白かつ重大な不法行為であって、労働者の経済生活の保護の必要を最大限に考慮しても、なお使用者に生じた損害のてん補〈テンポ〉の必要を優越させるのでなければ権衡〈ケンコウ〉を失し、使用者にその不法行為債権による相殺を許さないで賃金全額の支払を命じることが社会通念上著しく不当であると認められるような特段の事情がある場合には、この相殺が許容されなければならないものと考えられる。」としたものがありますが、結局、「賃金控除によらなければ社会通念上著しく不当である場合」は、一般には存在せず(国税法、民事執行法の例外のみ)、債務を賃金から控除出来ないこととなります。

 ただし、月例賃金、賞与、退職金であるとを問わず「労働者の完全な自由意思に基づく場合」には、労働者が有する債務を賃金から控除できると解されています。この場合であっても、民事執行法第152条第1項により、賃金の4分の3までは「差し押さえが禁止」されているため、賃金から控除できる額の上限は支払額の4分の1(33万円が上限)までとされています。 

参考:民事執行法
第百五十二条  次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。 
一  債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権 
二  給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権 
2  退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。 
3  債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。

民事執行法施行令
第二条  法第百五十二条第一項 各号に掲げる債権(次項の債権を除く。)に係る同条第一項 (法第百六十七条の十四 及び第百九十三条第二項 において準用する場合を含む。以下同じ。)の政令で定める額は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める額とする。 
一  支払期が毎月と定められている場合 三十三万円 
二  支払期が毎半月と定められている場合 十六万五千円 
三  支払期が毎旬と定められている場合 十一万円 
四  支払期が月の整数倍の期間ごとに定められている場合 三十三万円に当該倍数を乗じて得た金額に相当する額 
五  支払期が毎日と定められている場合 一万千円 
六  支払期がその他の期間をもつて定められている場合 一万千円に当該期間に係る日数を乗じて得た金額に相当する額 
2  賞与及びその性質を有する給与に係る債権に係る法第百五十二条第一項 の政令で定める額は、三十三万円とする。

・ノーワーク・ノーペイの原則

これは、「労働者の自己都合による欠勤、遅刻、早退があった場合に、債務の本旨に従った労働の提供がなかった限度で賃金を支払わないときは、その部分については賃金債権は発生しないものであるし、また、賃金の一部を非常時払いその他により前払いした場合に、残部の賃金を支払期日に支給するときは、前払分は既に履行済みであるのであり、いずれも賃金債権そのものが縮減されるもであるから、控除ではなく、本条には違反しない。」とされています。
 つまり、通常は「働いていない時間分の賃金は、支払う義務もないし、受け取る権利(請求権)もありません。」しかし、完全月給制の場合には、この限りではなく、労働時間がその月の所定労働時間よりも少なくなった場合でも、減額せずに通常の月給を支払う必要があります。

・月給制等の場合の賃金控除の方法

 月給制の場合等の労働者の不就労部分の賃金控除を行う場合に、どの様に算定するかが問題

となります。

 実は、この場合の減額する賃金額の算定方法は、法令に規定が無く、欠勤や早退の際に不就

労分の賃金を控除するとしている場合には、その合理的な算定方法を就業規則等に規定してお

く必要があります。もちろん、あきらかに不就労時間よりも過大に賃金控除した場合には、全

額払いの原則に反し、違法無効となります。

 一般的には、法定時間外労働の際の割増賃金の基礎となる賃金の計算方法が参考になりま

す。

労働基準法施行規則

第十九条 法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

② 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす

 

・ストライキの場合の賃金減額、賃金の計算ミスによる賃金支払額の不足

 通達では、「ストライキ等のため過払いとなった前月分の賃金を当月分の賃金で清算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであるから、本条違反とはならない。」とされています。
 ここで、賃金の計算ミス等の場合の翌月分での調整については、最高裁の判例があり「適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定と関係上不当と認められないものであれば同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この見地からすれば、許されざるべき相殺は、過払いのあった時期と賃金の精算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活に安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解される。」としています。
 いすれにしても、「計算ミス等の場合の過払い分の相殺」や逆に計算ミスにより過小額を支払った場合に「翌月に不足額を支払う場合」等については、労基法第24条に触れないと解されています。

・割増賃金の計算の際の端数処理

割増賃金計算における端数処理
(ⅰ)1ヵ月における時間外労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
(ⅱ)1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
(ⅲ)1ヵ月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、(ⅱ)と同様に処理すること。
b)1ヶ月の賃金支払額における端数処理
(ⅰ)1ヶ月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額。以下同じ。)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払うこと。
(ⅱ)1ヶ月の賃金支払額に応じた1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り返して支払うこと。

・法令の規定による賃金控除

一部控除を認めた法令には、
・所得税法、・地方税法、・健康保険法、・厚生年金保険法、・労働保険徴収法(雇用保険保険料(一般保険料)の本人負担分)、・労働基準法第91条等があります。

4.毎月払いの原則

 この「毎月」とは、暦に従うものと解されるから、毎月1日から月末までの期間に少なくとも1回は賃金を支払わなければならないとされています。これは、年俸制についても同様です。
 また、支払期限については、必ずしもある月の労働に対する賃金をその月中に支払うことを要せず、不当に長い期間でない限り、締切後ある程度の期間を経てから支払う定めをすることも差支えないとされています。
 賃金の支払方法については労基法に規定があり、「就業規則に必ず定めなければならない項目」とされています。また、常時10人未満の労働者を使用する事業所であり、就業規則の作成義務がない事業場であっても、労働基準法第15条により、労働条件として「賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を書面で明示しなければならないこととなっています。

5.一定期日払い

「「一定期日」は、期日が特定されるとともに、その期日が周期的に到来するものでなければならない。必ずしも、月の「15日」あるいは「10日及び20日」等と暦日を指定する必要はないから、月給について「月の末日」、週休について「土曜日」等とすることは差支えないが、「毎月15日から20までの間」等のように日が特定しない定めをすること、あるいは、「毎月第2土曜日」のように月7日の範囲で変動するような期日の定めをすることは許されない。」としています。
 また、「ただし、所定支払日が休日に当たる場合には、その支払日を繰り上げる(又は繰り下げる)ことを定めるのは、一定期日払いには違反しない。」とされています。
 さらに、「賃金の支払日は、本条第2項の毎月払いの原則又は労働協約に反しない限り、労働協約又は就業規則によって事由に定め、又は変更し得るものであるから、使用者が事前に第90条の手続きに従って就業規則を変更する限り支払期日が変更されても本条違反とはならない。」とされています。

時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省で定める賃金

 毎月一回以上、一定期日払いの例外となる賃金は、次のものが該当します。

 

イ)臨時に支払われる賃金
「「臨時に支払われる賃金」とは、「臨時的、突発的にもとづいて支払われるもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの」をいう。」とされています。
 「就業規則の定めによって支給される私傷病手当、病気欠勤又は病気休職中の月給者に支給される加療見舞金、退職金等が臨時に支払われる賃金である。」とされています。

ロ)賞与
「「賞与」とは、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」をいい、「定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何に拘わらず」賞与とはみなされない。」とされています。

ハ)厚生労働省で定める賃金
これに関しては、「臨時に支払われる賃金及び賞与以外で毎月1回以上一定の期日を決めて支払うことを要しない賃金として、施行規則第8条は、次の3種の賃金を定めている。

 1.1カ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当  
2.1カ月を超える一定期間の継続勤務によって算定される勤続手当

 3.1カ月を超える期間にわたる事由に準ずる事由によって算定される奨励過給又は能率手当

「上記の各賃金は、賞与に準じる性格を有し、1ヶ月以内の期間では支給額の決定基礎となるべき労働者の勤務成績等を判定するのに短期にすぎる事情もあり得ると認められるため、毎月払及び一定期日払の原則の適用を除外しているのであるから、これらの事情がなく、単に毎月払を回避する目的で「精勤手当」と名づけているもの等はこれに該当しないとはもちろんである。」としています。

賃金の支払に関するその他の問題点

1.賃金の遡及支払

問】9月3日に本年に本年1月からの新給与を決定し、遡及支払を行う場合、1月以降9月2日迄の退職者については支給しないと規定するのは違法か。
 遡及扱いは、各月賃金の後払と観念されるので退職者と雖も〈イエト゛モ〉当然当該在職期間中の賃金差額の追給を受給する権利があり、使用者は支払義務を負うものと解されるが如何。
答】新給与決定後過去に遡及して賃金を支払うことを取決める場合に、その支払対象者を在職者のみとするかもしくは退職者をも含めるかは当事者の事由であるから、設問の如き規定は違法ではない。

2.完全月給制の途中退社等の際の取扱

 月の中途に入社又は退社した従業員について一か月分の賃金の全額が支給されるべきであるとすると、その従業員は入社又は退社した月の所定労働日の全部について労務を提供しなかったにもかかわらず一か月分の賃金が支払われることになるが、それはいわゆるノーワーク・ノーペイの原則(労働者が労働をしなかった場合にはその労働しなかった時間に対応する賃金は支払われないという原則)の例外をなすことになるから、月の中途に入社又は退社した従業員について一か月分の賃金の全額が支給されるべきであるといえるのは、労働者が使用者との間で月の中途に入社又は退社した場合でも一か月分の賃金の全額を支払うことを合意した場合に限られると解するのが相当である。

3.賃金債権の放棄

参考判例:総合労働研究所事件 2002年9月11日 東京地裁判決
 本件規定に基づく退職金は、就業規則に基づいてその支給条件が明確に規定されていて、使用者がその支払義務を負担するものであるから、労働基準法一一条にいう「賃金」に該当し、同法二四条一項本文の賃金全額払原則の適用がある。そして、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の生活を保護する同条項の趣旨によれば、本件規定に基づく退職金を免除する旨の意思表示は、労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同条項に違反するとはいえないというべきであり、このことは、労働者が使用者に対し退職金を免除する旨の意思表示が、労使間の合意においてなされた場合についても妥当するというべきである(最高裁昭和四八年一月一九日第二小法廷判決)。

 

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 11(労働基準法24条)を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 10(最賃法の実際)

2015年07月04日 15:32

最低賃金法

最低賃金額以上であるかどうかを確認する方法(厚生労働省のHPより引用)※加筆あり

HPのURL:https://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-13.htm

 支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で確認します。

(1)時間給の場合

   時間給≧地域別(特定)最低賃金 により判断する。

 ※注:深夜業の場合  時間給×(100÷125)≧地域別(特定)最低賃金

    例えば、所定労働時間の全部が22:00~5:00の時間帯にある場合には、

    適用される最低賃金が仮に800円とした場合に、1,000円以上の支払がないときに、

    最低賃金法第4条第1項違反となります。(罰則は、50万円以下の罰金)

   そのほか、所定時間外労働をおこなった場合には、所定外労働の賃金部分を控除して

  判断します。

 ※所定時間外労働と法定時間外労働は、異なる概念であることに留意が必要です。

  また、最低賃金割れの差額を賞与等で補填することは、本法第4条の趣旨からできないこと

     となります。

     加えて、労働基準法第24条の全額払いの規定にも違反します。

 

最低賃金法施行規

最低賃金以上の賃金として判断する際に、算入しない賃金

第一条 (算入しない賃金)

 最低賃金法(以下「法」という。)第四条第三項第一号の厚生労働省令で定める賃金は、臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金とする。

2 法第四条第三項第二号の厚生労働省令で定める賃金は、次のとおりとする。

一 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金

二 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金

三 午後十時から午前五時まで(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十七条第四項の規定により厚生労働大臣が定める地域又は期間については、午後十一時から午前六時まで)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分

 
 最低賃金の対象となる賃金
 最低賃金の対象となる賃金は、最低賃金の実質的な効果を確保するために、毎月支払われる基本的な賃金に限定されており、具体的には、以下の賃金は最低賃金の対象外とされている(法第5条第3項、最低賃金法施行規則(以下「則」という。)第2条)。
  (1)  臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  (2)  1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  (3)  所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
  (4)  所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
  (5)  深夜(午後10時から午前5時までの間の)労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
  (6)  当該最低賃金において算入しないことを定める賃金(現行最低賃金はいずれも精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を算入しないことと定めている。)

(2)日給制の場合

   日給額÷一日の所定労働時間≧地域別(特定)最低賃金 により判断します。

  ※日によつて所定労働時間数が異なる場合には、一週間における一日平均所定労働時間数

        を使用   

  ※変形労働時間制を採用してない場合には、一日の所定労働時間は8時間以下ですから、

   例えば、一日の所定労働時間が7時間30分で、適用される最低賃金額が800円の場合に、

   日給額が6,000円のときの判断

     ¥6,000÷7.5時間=¥800 となり、この事例は最低賃金額以上だと確認できます。

 

(3)週給の場合

   週給額÷一週間の所定労働時間≧最低賃金額

  ※週によつて所定労働時間数が異なる場合には、四週間における一週平均所定労働時間数

 

(4)月給の場合

   月給額÷1ヶ月平均の所定労働時間(1年間の総所定労働時間÷12ヶ月)≧最低賃金額

  ※この場合、職能手当・職務手当・役職手当等も基本給に加算して判断することと

        なります。

   ただし、通勤手当、家族手当、3ヶ月等ごとに支払われる精勤手当、6ヶ月ごと等に支払

        われる賞与、結婚手当等は除外します。

  事例:

   給与額 基本給 150,000円、職能手当 9,000円、 職務手当 5,000円、

       所定時間外労働手当 25,000円  計 164,000円(時間外手当を除く)

   年間労働日数 245日 1日の所定労働時間 8時間 最低賃金額 750円

   月平均の所定労働時間=8h×245日÷12ヶ月=163.33・・・

   164,000円÷(8×245÷12)≒1004.82円 ≧750円 となり最低賃金を上回ります。  

 

(5)タクシー業の場合(歩合給) 厚生労働省作成パンフレット引用

1.賃金が固定給と歩合給の合計額の場合

    固定給         85,000円(通勤手当、精勤手当、家族手当を除く)

    歩合給         56,000円

    固定給の割増手当    20,625円(時間外+深夜割増)

    歩合給の割増手当      3,150円(時間外+深夜割増)

    賃金計         164,775円

    月平均所定労働時間 170時間 その月の総労働時間 200時間

    地域別最低賃金額  764円

     固定給部分  85,000円÷170時間=500円 注:所定労働時間を使用

     歩合給部分  56,000円÷200時間=280円 注:総労働時間を使用

     時間単価計     500円+280円=780円 ≧764円  

2.賃金がすべて歩合給の場合

    歩合給        144,000円

    割増賃金         8,100円

    賃金計        152,100円

    総労働時間        200時間

    給与時間単価  144,000円÷200時間=720円 <764円 

    この場合は、最低賃金額を割っていますので違法となり、適用される最低賃金額が

    みなし賃金単価となります。 

    :賃金のすべてが歩合給の場合、所定労働時間は使用しません。

 

以下参考資料

 

タクシー運転手の最低賃金に関するパンフレットのURLは以下の通りです。

URL:https://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/minimum/dl/01b.pdf

 

地域別最低賃金一覧

URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

 

特定最低賃金一覧

URL:https://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-19.htm

 

 

 

 

 

 

以上で最低賃金と支給賃金の比較方法の実際を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 9(最賃法35条~42条)

2015年07月04日 14:41

最低賃金法

第35条(船員に関する特例

 第六条第二項、第二章第二節、第十六条及び第十七条の規定は、船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員(以下「船員」という。)に関しては、適用しない。

2船員に関しては、この法律に規定する厚生労働大臣、都道府県労働局長若しくは労働基準監

督署長又は労働基準監督官の権限に属する事項は、国土交通大臣、地方運輸局長(運輸監理部長

を含む。)又は船員労務官が行うものとし、この法律中「厚生労働省令」とあるのは「国土交通

省令」と、第三条中「時間」とあるのは「時間、日、週又は月」と、第七条第四号中「軽易

な」とあるのは「所定労働時間の特に短い者、軽易な」と、第十九条第二項中「第十五条第二

項」あるのは「第十五条第二項並びに第三十五条第三項及び第七項」と、「同条第二項及び

条」とあるのは「第十五条第二項及び第三十五条第七項」と、第三十条第一項中「第十

条第一項、第十二条、第十五条第二項及び第十七条」とあるのは「第十五条第二項並びに第三

十五条第三項及び第七項」と、「都道府県労働局の管轄区域」とあるのは「地方運輸局又は運

輸監理部の管轄区域(政令で定める地方運輸局にあつては、運輸監理部の管轄区域を除く。)」

と読み替えるものとする。

3 国土交通大臣又は地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)は、賃金の低廉な船員の労働条件

の改善を図るため、船員の生計費、類似の船員の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を考慮し

て必要があると認めるときは、交通政策審議会又は地方運輸局に置かれる政令で定める審議会

(以下「交通政策審議会等」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、船員に適用され

る特定最低賃金の決定をすることができる。

4 第十条第二項及び第十一条の規定は、前項の規定による交通政策審議会等の意見の提出が

あつた場合について準用する。この場合において、同条第二項中「地域」とあるのは、「事業

若しくは職業」と読み替えるものとする。

5 国土交通大臣又は地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)は、第三項の決定をする場合にお

いて、前項において準用する第十一条第二項の規定による申出があつたときは、前項において

準用する同条第三項の規定による交通政策審議会等の意見に基づき、当該特定最低賃金におい

て、一定の範囲の事業について、その適用を一定の期間を限つて猶予し、又は最低賃金額につ

いて別段の定めをすることができる。

6 第十条第二項の規定は、前項の規定による交通政策審議会等の意見の提出があつた場合に

ついて準用する。

7 国土交通大臣又は地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)は、第十五条第二項又はこの条第

三項の規定により決定された船員に適用される特定最低賃金について、船員の生計費、類似の

船員の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を考慮して必要があると認めるときは、その決定の

例により、その改正又は廃止の決定をすることができる。

8 船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第八十九条第一項に規定する乗組み派遣

員については、その船員派遣の役務の提供を受ける者の事業又はその船員派遣の役務の提供を

受ける者に使用される同種の船員の職業について特定最低賃金が適用されている場合にあつて

は、当該特定最低賃金において定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。

 

第36条

 

 船員に関しては、この法律に規定する最低賃金審議会の権限に属する事項は、交通政策審議

会等が行う。

 

第37条

 

 交通政策審議会等に、必要に応じ、一定の事業又は職業について専門の事項を調査審議させ

るため、最低賃金専門部会を置くことができる。

2 交通政策審議会等は、最低賃金の決定又はその改正の決定について調査審議を求められた

ときは、最低賃金専門部会を置かなければならない。

3 第二十五条第五項及び第六項の規定は、交通政策審議会等について準用する。

 

第38条(省令への委任

 

 この法律に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 

第39条(罰則)

 

 第三十四条第二項の規定に違反した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

第40条

 

 第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係る

ものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。

 

第41条

 

 次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

一 第八条の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)

二 第二十九条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

三 第三十二条第一項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者

 

第42条(両罰規定)

 

 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても各本条の罰金刑を科する。

 

最低賃金法施行規則

則第16条(公示事項の周知)

 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、法又はこの省令の規定により公示した事項につい

て、適当な方法により関係者に周知させるように努めるものとする。

 

則第17条(提出すべき申請書等の数

 第四条の許可申請書、第八条の異議申出書及び第十条第一項の申出書は二通提出しなければならない。

 

則第18条(様式の任意性

 この省令に定める申請書の様式は、必要な事項の最少限度を記載すべきことを定めるもので

あつて、これと異なる様式を用いることを妨げるものではない。

 

○船員の一部適用除外

 船員に関する特例について所要の整備を行うものとしたこと。(35条から第37条まで関係)

 

○罰則(平成20年通達)

罰則(新法第40条から第42条まで関係)

(1) 地域別最低賃金等に係る不払い(新法第40条)

地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係る不払いについては、最低賃金制度の実効性を確保するため、労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条(賃金の全額払い)の違反に係る同法第120条の罰金額の上限が30万円となっていることとの均衡を考慮し、罰金額の上限を50万円に引き上げたものであること。

(2) 特定最低賃金に係る不払い(新法第40条)

特定最低賃金については、最低賃金法の罰則の適用はないこととしたものであること。ただし、特定最低賃金が適用される場合においても、支払賃金額が当該使用者の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額未満であるときは、新法第6条第2項の規定により、罰則の適用があるものであること。

(3) その他(新法第41条及び第42条関係)

① 下記②、③等に係る罰金額の上限について、労働基準法第101条(労働基準監督官の権限)、第106条(法令等の周知義務)等の違反に係る同法第120条の罰金額の上限が30万円となっていることとの均衡を考慮し、30万円に引き上げたものであること。(新法第41条関係)

② 特定最低賃金に係る新法第8条に規定する周知義務違反については、すべての労働者の賃金に関する安全網として厚生労働大臣又は都道府県労働局長が決定義務を負う地域別最低賃金に係る周知義務違反に比して、使用者にとって非難されるべき程度が小さいと考えられることから、新法の罰則は適用しないこととしたものであること。(新法第41条第1号関係)

③ 新法第32条の規定による立入りの拒否及び質問への不陳述についても処罰の対象とすることとしたものであること。(新法第41条第3号関係)

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察(最賃法35条~42条)の逐条部分を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 8(最賃法31条~34条)

2015年07月04日 12:32

最低賃金法

第31条(労働基準監督署長及び労働基準監督官

 労働基準監督署長及び労働基準監督官は、厚生労働省令で定めるところにより、この法律の施行に関する事務をつかさどる。

 

第32条(労働基準監督官の権限

 

 労働基準監督官は、この法律の目的を達成するため必要な限度において、使用者の事業場に

ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問をすることができる。

2 前項の規定により立入検査をする労働基準監督官は、その身分を示す証票を携帯し、関係

者に提示しなければならない。

3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはな

らない。

 

第33条

 

 労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第

百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行う。

 

第34条

 

 労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。 

2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

最低賃金法施行規則

則第14条(労働基準監督署長及び労働基準監督官

 労働基準監督署長は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、この省令に規定するもののほか、法の施行に関する事務をつかさどる。

2 労働基準監督官は、上司の命を受けて、法に基く立入検査、司法警察員の職務その他の法の施行に関する事務をつかさどる。

 

則第15条(証票

 法第三十二条第二項の証票は、労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)様式

第十八によるものとする。

 

最低賃金法違反の申告

 労働基準法も同様ですが、最低賃金法にも申告制度が設けられています。

参考:労働基準法第104条(監督機関に対する申告)

 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

 

 そこで、労働基準法の申告と最低賃金法の申告の趣旨は同じですから、自著「労働基準法の研究」から引用します。

申告とはなにか。

「「申告」とは、行政官庁に対する一定の通告であり、本法の場合は、労働者が違反事実を通告して監督機関の行政上の権限の発動を促すことをいう。この点に関し、最高裁は、「申告は、労働者が労働基準監督官に対して事業場における同法違反の事実を通告するものであるが、同法は使用者がその申告をしたことを理由に労働者に不利益な取り扱いをしてはならない旨を定めるのみで、その申告の手続や申告に対応する労働基準監督官の措置について別段の規定を設けていないことからして、労働基準監督官の使用者に対する監督権発動の有力な契機をなすものではあっても、監督官に対してこれに対応して調査などの措置をとるべき職務上の作為行為まで負わせたものと解することはできない。」とした判断がなされています。
 このことは、申告に対し、監督機関がそれに基づき監督又は調査を実施することを義務づけてはいないが、監督機関としては、申告を受けた場合、当然これを迅速に処理すべきものと考えられます。

○司法警察員

刑事訴訟法第百八十九条第一項および第百九十九条第二項の規定に基づく司法警察員等の指定に関する規則

 第一条 警察庁および管区警察局に勤務する警察官のうち、巡査部長以上の階級にある警察官は司法警察員とし、巡査の階級にある警察官は司法巡査とする。(以下略)

※労働基準監督官は、最低賃金法違反の罪に関して刑事訴訟法上の司法警察員の職務を行うとされています。

刑事訴訟法第189条 警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。

2 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。

※労働基準監督官は、事業場に臨検(立ち入り検査)を行うことができます。(本法第32条第1項)

 ただし、捜査令状なき家宅捜索や差し押さえは不可能なため、「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」とされています。

日本国憲法 第35条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 

労働基準監督署長の権限

労働基準法

第99条第3項 労働基準監督署長は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、この法律に基く臨検尋問許可認定審査、仲裁その他この法律の実施に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する。

 

※労働基準監督署長は、所属する都道府県労働局長の指揮を受けて、最低賃金法違反等の捜査、逮捕又は捜索差押え令状の請求及び書類等の送検を行うことができます。

 

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察 8(最賃法31条~34条)を終了します。

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賃金、賃金制度に関する考察 7 (最賃法27条~30条)

2015年07月04日 10:20

最低賃金法

第27条(援助) 

 政府は、使用者及び労働者に対し、関係資料の提供その他最低賃金制度の円滑な実施に必要な援助に努めなければならない。

第28条(調査)

 厚生労働大臣は、賃金その他労働者の実情について必要な調査を行い、最低賃金制度が円滑

に実施されるように努めなければならない。

 

第29条(報告)

 

 厚生労働大臣及び都道府県労働局長は、この法律の目的を達成するため必要な限度において、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、賃金に関する事項の報告をさせることができる。

 

第30条(職権等)

 

 第十条第一項、第十二条、第十五条第二項及び第十七条に規定する厚生労働大臣又は都道府県労働局長の職権は、二以上の都道府県労働局の管轄区域にわたる事案及び一の都道府県労働局の管轄区域内のみに係る事案で厚生労働大臣が全国的に関連があると認めて厚生労働省令で定めるところにより指定するものについては、厚生労働大臣が行い、一の都道府県労働局の管轄区域内のみに係る事案(厚生労働大臣の職権に属する事案を除く。)については、当該都道府県労働局長が行う。

2 厚生労働大臣は、都道府県労働局長が決定した最低賃金が著しく不適当であると認めるときは、その改正又は廃止の決定をなすべきことを都道府県労働局長に命ずることができる。

3 厚生労働大臣は、前項の規定による命令をしようとするときは、あらかじめ中央最低賃金審議会の意見を聴かなければならない。

4 第十条第二項の規定は、前項の規定による中央最低賃金審議会の意見の提出があつた場合について準用する。

 

最低賃金法施行規則

則第12条(報告)

 使用者又は労働者は、最低賃金に関する決定又はその実施について必要な事項に関し厚生労働大臣又は都道府県労働局長から要求があつたときは、当該事項について報告しなければならない。

 

則第13条(職権)

 都道府県労働局長は、当該都道府県労働局の管轄区域内のみに係る事案について、法第十条

第一項、法第十二条、法第十五条第二項又は法第十七条の規定により地方最低賃金審議会の調

査審議を求めようとする場合において、当該事案が全国的に関連があると認めるとき、又は全

国的に関連があるかどうか判断し難いときは、遅滞なく、意見を付してその旨を厚生労働大臣

に報告しなければならない。

2 厚生労働大臣は、法第三十条第一項の指定をしたときは、遅滞なく、その旨を当該都道府

県労働局長に通知するものとする。前項の報告があつた事案について法第三十条第一項の指定

をしないことを決定したときも、同様とする。

3 都道府県労働局長は、第一項の報告をした事案については、前項の通知があるまでは、法

第十条第一項、法第十二条、法第十五条第二項又は法第十七条の規定による調査審議を求めて

はならない。

4 都道府県労働局長は、第二項前段の通知を受けたときは、遅滞なく、申出書その他の関係

書類を厚生労働大臣に送付しなければならない。

5 都道府県労働局長は、法第十五条第一項の申出に係る事案について第二項前段の通知を受

けた場合においては、遅滞なく、当該申出をした者にその旨を通知しなければならない。

6 第十条第三項の規定により都道府県労働局長に対してなされた申出に係る事案について、

厚生労働大臣が法第三十条第一項の指定をしたときは、当該申出は、厚生労働大臣に対してな

されたものとみなす。

 

逐条まとめ

 第27条から第30条までの条文は専ら、行政の事務に関する規定ですので大まかな記述に留め

ます。

1.第27条(労働者及び使用者への情報の提供等)

 都道府県労働局には、労働基準部内に「賃金課」又は「賃金室」が設けられており、賃金に

関する行政事務を担当しています。そして、最低賃金法制の告知及び関係資料の提供等を行っ

ています。

 また、「賃金構造基本統計調査」等の統計調査を毎年実施しており、地域別及び特定最低賃

金の改定に事務局として直接かかわっています。

 

2.第28条(賃金に関する調査)

 国が行う統計調査は、総務省所管の「統計法」等により実施されています。

参考:統計法

基本理念)
 第三条 公的統計は、行政機関等における相互の協力及び適切な役割分担の下に、体系的に
        整備されなければならない。
 2 公的統計は、適切かつ合理的な方法により、かつ、中立性及び信頼性が確保されるよう
   に作成されなければならない。
 3 公的統計は、広く国民が容易に入手し、効果的に利用できるものとして提供されなければ
   ならない。
 4 公的統計の作成に用いられた個人又は法人その他の団体に関する秘密は、保護されなけれ
   ばならない。 

 厚生労働大臣が実施する統計調査例は次の通りです。

   ・人口移動調査(5年毎) ・出生動向基本調査(5年毎) ・世帯動態調査(5年毎)

   ・全国家庭動向調査(5年毎) ・人口動態調査(毎年) 

    他多数の統計調査を実施しています。

 

 また、賃金に関する統計調査は次の通りです。

   ・毎月勤労統計調査(毎月) ・賃金構造基本統計調査(毎年) 

   ・労働基準監督年報(毎年) ・月例労働経済報告(毎月) 

   ・賃金引上げ等に関する実態調査(毎年)・最低賃金に関する実態調査(毎年)

   ・民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況(毎年)

   ・民間主要企業夏季一時金妥結状況(毎年)

   ・民間主要企業年末一時金妥結状況(毎年)

   ・就労条件総合調査(毎年) ・労務率調査(3年毎)

 

3.第29条(報告)

 都道府県労働局長が、労働者又は使用者に報告の要求を行うことができる。

罰則:法第41条(三十万円以下の罰金に処する。)

   二 第二十九条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

 

参考:賃金台帳の提出を求めた際に、虚偽の記載をした賃金台帳を監督官に提出した事件。

 被疑会社は,東京都羽村市内で,婦人服等の販売業を営む事業主,被疑者は同会社の代表取締役であるが,労働者Aに対し,平成25年3月18日から平成26年6月30日までの賃金をその所定支払日に,東京都最低賃金(平成25年3月18日から平成25年10月18日までは1時間あたり850円,平成25年10月19日から平成26年6月30日までは1時間あたり869円)以上の賃金を支払わなかったもの。

 また,同会社は,平成26年1月21日,労働基準監督官が賃金台帳の提出を求めたことに対し,虚偽の記載をした賃金台帳を提出し,最低賃金法違反の事実を隠蔽したもの。

4.第30条(職権)

ア 厚生労働大臣と都道府県労働局長の分担(第1項)

  厚生労働大臣:二以上の都道府県労働局の管轄区域にわたる事案及び一の都道府県労働局

         の管轄区域内のみに係る事案で厚生労働大臣が全国的に関連があると認め

         て厚生労働省令で定めにより大臣が指定したもの         

  労働局長  :一の都道府県労働局の管轄区域内のみに係る事案については、原則都道府

         県労働局長が行う         

イ 最低賃金の改定命令(第2項)

  厚生労働大臣は、都道府県労働局長が決定した最低賃金が著しく不適当であると認めると

  きは、その改正又は廃止を命ずることができる。

ウ 中央最低賃金審議会への諮問

  厚生労働大臣が都道府県労働局長に最低賃金の改正又は廃止を命ずる際には、事前に審議

  会に諮問する必要がある。

エ 再審議の求め

  労働局長が決定した最低賃金の改定又は廃止の際に、事前に中央最低賃金審議会に諮問し

  た際、その答申が不適切な場合には、再審議を求めなければならないとされている。

  (法第10条第2項の準用)

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察7(最賃法27条~30条)を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 6(最賃法20条~26条)

2015年07月03日 16:07

最低賃金法

第20条(最低賃金審議会の設置)

 厚生労働省に中央最低賃金審議会を、都道府県労働局に地方最低賃金審議会を置く。

 

第21条(権限

 

 最低賃金審議会は、この法律の規定によりその権限に属させられた事項をつかさどるほか、地方最低賃金審議会にあつては、都道府県労働局長の諮問に応じて、最低賃金に関する重要事項を調査審議し、及びこれに関し必要と認める事項を都道府県労働局長に建議することができる。

 

第22条(組織

 

 最低賃金審議会は、政令で定めるところにより、労働者を代表する委員、使用者を代表する

委員及び公益を代表する委員各同数をもつて組織する。

 

 

第23条(委員)

 

 委員は、政令で定めるところにより、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が任命する。

2 委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。

3 委員の任期が満了したときは、当該委員は、後任者が任命されるまでその職務を行うものとする。

4 委員は、非常勤とする。

 

第24条(会長)

 

 最低賃金審議会に会長を置く。

2 会長は、公益を代表する委員のうちから、委員が選挙する。

3 会長は、会務を総理する。

4 会長に事故があるときは、あらかじめ第二項の規定の例により選挙された者が会長の職務を代理する。

 

第25条(専門部会等)

 

 最低賃金審議会に、必要に応じ、一定の事業又は職業について専門の事項を調査審議させる

ため、専門部会を置くことができる。

2 最低賃金審議会は、最低賃金の決定又はその改正の決定について調査審議を求められたと

きは、専門部会を置かなければならない。

3 専門部会は、政令で定めるところにより、関係労働者を代表する委員、関係使用者を代表

する委員及び公益を代表する委員各同数をもつて組織する。

4 第二十三条第一項及び第四項並びに前条の規定は、専門部会について準用する。

5 最低賃金審議会は、最低賃金の決定又はその改正若しくは廃止の決定について調査審議を

行う場合においては、厚生労働省令で定めるところにより、関係労働者及び関係使用者の意見

を聴くものとする。

6 最低賃金審議会は、前項の規定によるほか、審議に際し必要と認める場合においては、関

係労働者、関係使用者その他の関係者の意見をきくものとする。

 

第26条(政府への委任)

 

 この法律に規定するもののほか、最低賃金審議会に関し必要な事項は、政令で定める。

 

通達による確認

1.昭和34年通達

・法第二六条(法附則第二条及び第七条)関係

本条は中央及び地方に最低賃金審議会を設置し、これに伴い従来の労働基準法第二九条の規定に基く賃金審議会を廃止したものであること。

・法第二七条関係

法第一五条、法第一六条又は法第二〇条の規定によるものを除き、法第二七条の規定により最低賃金又は最低工賃に関する重要事項について労働大臣又は都道府県労働基準局長の諮問に応じて最低賃金審議会が調査審議した結果提出した意見及び最低賃金審議会の建議については、法第一五条第二項の規定の適用はないが、本法の趣旨から十分尊重すべきものであること。

・法第三一条関係

第六項の意見聴取は、最低賃金審議会が必要と認めた場合に行うものであるが、これは必ずしも審議会に出席を求めて行う必要はなく、文書で提出させ、職員をして関係者のもとに出向いて聴取せしめること等もできるものであること。

 

2.平成19年通達

第10 その他

1 最低賃金審議会の委員の任期(新法第23条第2項関係)

 最低賃金審議会の委員の任期を2年としたものであること。

 

最低賃金審議会の議事録 

 最低賃金審議会では、何を議論しているのかについて、議事録を抜粋して考察します。

1.東京都最低賃金審議会 (平成26年7月30日開催議事録抜粋)

東京労働局賃金課長

 「しかしながら」以降になりますが、賃金改定状況調査が重視され、その賃金 上昇率での引上げ議論が中心となっている。賃金上昇率を重視すること は、「生活できる賃金」「ナショナルミニマムとしての水準」議論を深化 させることにはつながらない。これまでの「成長力底上げ戦略推進円卓 会議合意」や「雇用戦略対話合意」を踏まえつつ、審議会として最低賃 金の適切な水準や、それへの実現に向けた目安審議のあり方について、 議論を深化させるべきであると主張したという記載をされています。 続いて次の 3 番は使用者側の見解です。最初の段落ですが、中小企業・ 小規模事業者では、円安による原材料価格や燃料費の高騰などによるコ スト増や、人手不足による人件費の増大への対応に苦慮していることに 加えて、取引先企業の海外進出による受注の減少や、地域における人口 減少などのマイナス要因もあり、景況感に大きな改善が見られるまでに は至っていないとしています。 さらにその下になりますが、このページの下から 5 行目になります。 最低賃金引上げが企業経営に与えるインパクトが従来以上に高まってい るという主張をされました。引き続きその次ですが、賃金水準の引上げ は生産性向上に裏付けられた付加価値の増加を伴うものでなければなら ない。ベアに相当する最低賃金の引上げは、生産性向上とセットで考え るべきである。したがって、中小企業・小規模事業者に対する生産性向 上のための政府の支援策の成果や生産性の上昇という明確な形で認めら れることが大変重要であり、十分な生産性の上昇が確認できないまま、 最低賃金の大幅な引き上げだけが求められることになれば、引上げの具 体的な根拠が説明できない目安を地方最低賃金審議会に示すことになる。 そうなれば、地方での審議において大きな混乱を招くことになり、ひい ては目安そのものに対する信頼が失われることになりかねないという主 張をされました。 さらにその 3 行ほど下ですが、消費税の引上げについては、規模が小 さい事業所ほど価格転嫁が出来ておらず、経営を圧迫しているという実 態があるということです。さらにその下ですが、自社の支払い能力を超 える引上げの目安を示すことは、雇用への悪影響だけではなく、事業の 存続をも危うくするという主張です。 今年度のランク別の目安につきましては、「法の原則」である、地域に おける労働者の生計費、賃金、および通常の事業の賃金支払い能力の 3 要素を総合的に表している「賃金改定状況調査結果」の特に第 4 表のデ ータを重視した審議を行うとともに、最低賃金の張り付き状況などを踏 まえたランクごとの実態を反映した目安とすべきである。なお、第 4 表

 は消費税率の引き上げに伴う物価上昇分も踏まえ、個々の中小企業・小 規模事業者が決定した賃上げ結果を集約したものである。よって第 4 表 の数値に基づいた審議を行うことが何よりも重要であると主張したとい うことです。 以上労働側、使用者側の見解を記載で、さらに 4 番としてその結果と して意見の不一致ということで、労使の意見の隔たりが大きく、遺憾な がら目安を定めるには至らなかったということです。 最後に公益見解及びその取扱いですが、公益委員としましてはそこに ありますように、目安審議のあり方等を踏まえて、公益委員の見解を取 りまとめたという内容になっています。 以上、内容を読み上げたところもありますが、中賃の目安に関する答 申内容についてのご説明をしました。

課長補 佐 

 資料 No.2(2)の 9 ページから 21 ページまでが意見書です。申出受付 けの日付順で綴らせていただいています。また資料 8 ページに意見書提 出者一覧表を載せています。意見を集約しますと、大きく分けて次の 5 7 点です。 

 1 点目は最低賃金額等に関して、早急に時間額 1,000 円以上とすること。 時間額 1,200 円とすること。

   2 点目は厚生労働省の生活保護値の算定基準が低すぎること。

   3 点目は全国一律最低賃金制の実現に向けて最大限の努力を行い、国に 働きかけること。全国一律賃金1,000円の早期実現を図ること。 

   4 点目は、最低賃金審議会に関して、労働者代表委員は特定系統の労働 組合候補のみに独占的に任命されている現状を改善すること。意見書を 提出した者、および関係労働者に審議会での意見陳述を行わせること。 専門部会の審議の公開をはじめ、審議の完全公開を行うこと。 

 5 点目は中小企業への支援策の拡充を政府に要望すること、です。 それぞれの意見書としましては、いずれも地域別の東京都最低賃金の 改正に関するものとして、 自交総連東京地連から、東京の最低賃金を 1,000 円以上とすること。 東京春闘共闘会議が推薦する者を招き、意見陳述の場を保障すること。 世界では常識となっている全国一律の制度の必要性を国に要望すること。 公立大学法人首都大学東京労働組合からは、経済の好循環実現のため にも、広範な非正規労働者の生活に大きな影響を持つ東京の最低賃金を 時給 1,000 円以上に速やかに引き上げること。多くの労働組合が結集す る東京春闘共闘会議が推薦する者を招き、意見陳述の場を保障すること。 世界では常識となっている全国一律の最低賃金制度の必要性を国に要望 すること。 東京春闘共闘会議からは、貴審議会において、中央最低賃金審議会で 示された政府メッセージに応えるべく時給 1,000 円以上の答申を行うよ う要望する。審議会において私たちが推薦する参考人による意見聴取の 場を設けること。陳述に当たっては、公開の場とすることを強く希望す る。 全日本家内労働者組合総連合東京靴工組合からは、家内労働者をはじ め、広範な非正規労働者の生活に影響を与える東京の最低賃金について 大幅な引き上げを図るとともに、少なくとも時間あたり 1,000 円以上と すること。東京春闘共闘会議が推薦する関係労働者から審議会・専門部 会での意見陳述の場を保障すること。地域別格差解消を図るためにも、 全国一律最低賃金制の導入について政府に強く要望すること。 東京自治労連からは、全国一律制の早期実現を小見出しに、一刻も早 く全国一律最低賃金制度の確立と、当面全国一律の最低賃金 1000 円の実 現を求めます。東京における最低賃金 1,000 円をただちにを小見出しに、早急に東京の最低賃金 1,000 円以上とすることを求めます。東京春闘共 闘が推薦する者を招いた意見陳述の場を保障すること。 民放労連関東地方連合会からは、非正規労働者が 4 割に近づき、年収 200 万円以下の労働者が 1,000 万人を超えるなど、雇用環境は悪化して います。東京の最低賃金を時給 1,000 円以上にしていただきたい。最低 賃金審議会の委員には、連合推薦の委員で独占するのではなく、当面、 東京春闘共闘委員会が推薦している労働者の意見陳述の場所を設けてい ただきたい。最低賃金を引き上げるために、中小企業への支援策の拡充 と全国一律最低賃金制度の確立を政府に強く要望することを求めます。 全国一般労働組合全国協議会東京協議会から、東京都の最低賃金を時 給 1,200 円とすること。厚労省の生活保護基準の算定は低すぎる。以下 の点を踏まえること。実質的な審議がおこなわれる専門部会の審議の公 開をはじめ、審議の完全公開をおこなうこと。意見書による意見聴取だ けではなく、非正規雇用労働者、中小零細企業の労働者を組織し、彼ら の賃金・労働条件の改善に取り組んでいる全国一般労働組合全国協議会 東京協議会より、審議会で直接意見表明を行わせること。との意見です。 以上です。 

賃金課 長 

 意見書とは別になりますが、平成 26 年 7 月 23 日に日本共産党東京都 都議会議員団から「最低賃金の時間給 1,000 円以上へのすみやかな引き 上げを求める申し入れ」が、東京労働局長および東京地方最低賃金審議会 会長宛てに通知されていますので、参考 1 として本日お配りしている資料の最後になりますが、こちらのほうに写しを添付しています。 また同じく 26 年 7 月 23 日、東京春闘共闘会議より内閣総理大臣、厚 生労働大臣、中央最低賃金審議会会長、東京地方最低賃金審議会会長、 東京労働局長にあてた「全国一律時間額 1,000 円以上の最低賃金の実現 を求める要請」として、個人署名 9,818 筆分が提出されていますので、 本日会場中央に置いています。 これは 7 月 2 日に開催した 376 回の本審においてご紹介した東京春闘 共闘会議からの要請の追加分です。累計の個人署名は 3 万 7,330 筆に上 るということです。 

賃金課長

  今年度に実施しました最低賃金に関する実態調査等の報告結果の内容 がまとまっていますので、本日お配りしている資料 3 の 22 ページ以降に なりますが、こちらについてご説明したいと思います。 まず資料 No.3、平成 26 年度の最低賃金に関する基礎調査結果です。 これは毎年、私ども東京労働局として実施しているものです。調査産業 はアからクにありますように、製造業 100 人未満、卸・小売 30 人未満、 以下クまでの業種について調査を実施しています。調査事業所ですが、 26 年 6 月 1 日現在の民営事業所で総数が 6,625 事業所です。その内容に ついて、そこの調査対象項目は 5 にありますが、その事項について 6 月 分の賃金の調査ということで実施しています。その結果を取りまとめた のが 23 ページ以降ということになります。この表の見方ですが、一番左 側が時間額当たりに賃金を直した金額です。月給者で、あるいは月の所 定労働時間で割り込んで時間給に直したものです。 ここで例えば一番上から 2 つ目に 861~861 という欄がありますが、こ の欄で説明しますと、時間額 861 円相当の方、これは 1 円刻みで出して いますので 861 円以下の方が合計で、その右側ですが、4 万 1,861 名い るということです。そしてその下の(1.7)ですが、これはこの表の一番 上の合計のところに 246 万という数字がありますが、ここに占める割合 が 1.7%ということです。従いまして 861 円以下の方が 1.7%いらっしゃ るということになります。実際にはすぐ上に 860 円というものがありま す。これは 860 円以下の方が 4 万 1,258 人ということになります。従い まして、この上と下の差は 4 万 1,861 と 4 万 1,258、この差が 861 円で 払われている方の人数という形になります。 この下の以下はすべて累計という数字になっています。この数字で申 し上げますと、現在東京都の最低賃金は 869 円ですので、この下段のち ょうど真ん中辺りの 869 というところをご覧いただきますと、ここまで の数字で 5 万 8,088 人の方ということになります。869 円は最低賃金額 になりますので、最低賃金を下回る方は 868 円以下ということになりま す。従いまして、その上の数字をご覧いただくと、4 万 2,697 名の方が現在最低賃金を下回る金額の支払いをされています。この数字はカッコ内 が 1.7 となっていますので、全体の 1.7%の方が最低賃金額未満で支払い を受けているという数字です。なおこの数字は先ほど申し上げた対象業 種につきまして抽出調査をしていますので、それを基に復元した数字を こちらの数字として計上しています。このページがいわゆる全労働者で す。右側に見ていただきますと、規模別、年齢別という形で分けて、そ れぞれ給料、時間額当たりの労働者の分布状況を示しています。 続いて 26 ページをご覧いただきたいと思います。こちらは同じ調査で すが、このうちパートタイム労働者の方、このページは通常より労働時 間が短い方をパートタイムと定義していますが、パートタイムの方だけ を抽出したものです。同じく 869 円のところをご覧いただきますと 2 万 7,217 名ということになります。その上の数字、868 円のところが 1 万 3,851 となっています。従いましてここまでの方が最低賃金未満、全体の 1.6%という数字でございます。 ちなみに 870 円のところをご覧いただきますと、カッコ内の数字が 3.2 から 15.7 ということで、数字が一気に増えています。つまりこれは 870 円に、ここにある 13 万 3,282-2 万 7,217、この 10 万余りの方が 870 円 の支払いを受けていることを示したものがこの表ということになります。 同じく金額に従いまして右側にいきますと、さらに年齢別に分けて調 査した結果がこの表です。以下同じような表がありまして、最終的にこ の内容をグラフにしたものが 35 ページです。35 ページはパートの方の 1 円刻みということです。35 ページの一番下の横軸は時間額になります。 縦軸は復元をした場合の労働者数ということです。先ほど申し上げまし たように、870 のところに非常に集中しています。870 円台を払われてい る方が非常に多いというのがこのグラフからお分かりいただけると思い ます。 36 ページ以降ですが今度は全体です。先ほどはパートの方に絞った形 ですが、36 ページのところは同じく横軸に時間額、縦軸に復元した数、 労働者数を入れています。同じように 870 のところに 1 つ大きな集中が あります。その後 900、さらに 921 円以上というような形の分布です。 続いて 37 ページは 10 円刻みということで、刻み方を 1 円単位から 10 円単位に刻んでスパンを広く取ったものがこちらの表にあります。以上 示しましたのが今年の 6 月について、私ども東京労働局が実施した賃金 調査の結果です。 続いて 39 ページ以降について説明します。こちらは 26 年の賃金改定 状況調査結果です。その対象はそこにある全国調査ということになります。先ほど説明した実態調査は、6 月分の賃金の調査になりますが、こち らの改定状況調査は今年の 6 月と去年の 6 月の両方について調査をした ということで、調査の内容が若干異なっています。これは資料 No.4 とし て 39 ページ以降に添付しています。時間の関係もありますので、この中 で説明をするのは、44 ぺージのところをご覧いただければと思います。 先ほど来、第 4 表ということがありましたが、43 ページになります。失 礼しました。いわゆるこれが第 4 表ということで、説明しますと一番上 の欄に男女計がありまして、その横にランクがあります。東京は A ラン クということです。25 年 6 月、これは昨年の 6 月に支払われた賃金の時 間額に換算したものです。これが 1,499 円、それに対して今年の 6 月に 払われた賃金が 1,521 円、従って賃金上昇率が 1.5%ということで、これ が A ランクの今年度の第 4 表の数字ということです。以下 A、B、C、D ということで、トータルで申し上げますと賃金上昇率は 1.1 ということで す。以下右に従ってご覧いただきますと、業種別等に分けてそれぞれの 賃金引き上げ率を示している表です。こちらのほうが賃金改定状況調査 です。以上です。 

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察6(最賃法20条~26条)を終了します。

 

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賃金、賃金制度に関する考察 5(最賃法15条~19条)

2015年07月03日 13:17

最低賃金法

第15条(特定最低賃金の決定等

 労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働省令で定めるところにより、

生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される一定の事業

若しくは職業に係る最低賃金(以下「特定最低賃金」という。)の決定又は当該労働者若しくは

使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ること

ができる。

2 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による申出があつた場合において必要

があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、当該申出に係

る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をすること

ができる。

3 第十条第二項及び第十一条の規定は、前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出があ

つた場合について準用する。この場合において、同条第二項中「地域」とあるのは、「事業若

しくは職業」と読み替えるものとする。

4 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、第二項の決定をする場合において、前項において

準用する第十一条第二項の規定による申出があつたときは、前項において準用する同条第三項

の規定による最低賃金審議会の意見に基づき、当該特定最低賃金において、一定の範囲の事業

について、その適用を一定の期間を限つて猶予し、又は最低賃金額について別段の定めをする

ことができる。

5 第十条第二項の規定は、前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出があつた場合につ

いて準用する。

 

第16条

 

 前条第二項の規定により決定され、又は改正される特定最低賃金において定める最低賃金額は、当該特定最低賃金の適用を受ける使用者の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければならない。

 

第17条

 

 第十五条第一項及び第二項の規定にかかわらず、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、同

項の規定により決定され、又は改正された特定最低賃金が著しく不適当となつたと認めるとき

は、その決定の例により、その廃止の決定をすることができる。

 

第18条(派遣中の労働者の特定最低賃金

 

 派遣中の労働者については、その派遣先の事業と同種の事業又はその派遣先の事業の事業場

で使用される同種の労働者の職業について特定最低賃金が適用されている場合にあつては、当

該特定最低賃金において定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。

 

第19条(特定最低賃金の公示及び発効

 

 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、特定最低賃金に関する決定をしたときは、厚生労働

省令で定めるところにより、決定した事項を公示しなければならない。

2 第十五条第二項の規定による特定最低賃金の決定及び特定最低賃金の改正の決定は、前項

の規定による公示の日から起算して三十日を経過した日(公示の日から起算して三十日を経過し

た日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日)から、同条第二項及

び第十七条の規定による特定最低賃金の廃止の決定は、前項の規定による公示の日(公示の日後

の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日)から、その効力を生ずる。

 

最低賃金法

則第9条

 法第十四条第一項及び第十九条第一項の規定による公示は、官報に掲載することによつて行うものとする。

 

則第10条

 法第十五条第一項の規定による申出は、次の各号に掲げる事項を記載した申出書を提出する

ことによつて行なわなければならない。

一 申出をする者が代表する労働者又は使用者の範囲

二 特定最低賃金の決定に関する申出にあつては、当該特定最低賃金の適用を受けるべき

    労働者又は使用者の範囲

三 特定最低賃金の改正又は廃止の決定に関する申出にあつては、当該特定最低賃金の件名

四 前二号に掲げるもののほか、申出の内容

五 申出の理由

2 前項の申出書には、申出をする者が同項第一号に掲げる範囲の労働者又は使用者を代表する者で

あることを明らかにすることができる書類を添えなければならない。

3 第一項の申出は、当該事案が二以上の都道府県労働局の管轄区域にわたるものである場合は厚生労働大臣に、当該事案が一の都道府県労働局の管轄区域内のみに係るものである場合は当該都道府県労働局長にしなければならない。この場合において、厚生労働大臣に対する申出は、関係都道府県労働局長を経由してすることができる。

 

通達による確認

1.平成19年通達

 3 特定最低賃金

(1) 特定最低賃金の決定等

① 労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される一定の事業若しくは職業に係る最低賃金(以下「特定最低賃金」という。)の決定又は当該労働者若しくは使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができるものとしたこと。(第15条第1項関係)

② 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、①の申出があった場合において必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、当該申出に係る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をすることができるものとしたこと。(第15条第2項関係)

(2) 派遣中の労働者の特定最低賃金

派遣中の労働者については、その派遣先の事業と同種の事業又はその派遣先の事業の事業場で使用される同種の労働者の職業について特定最低賃金が適用されている場合にあっては、当該特定最低賃金において定める最低賃金額を当該派遣中の労働者に適用される最低賃金額とするものとしたこと。(第18条関係)

 

2.平成20年通達

 第7 特定最低賃金(新法第15条から第17条まで及び第19条関係)

1 特定最低賃金の趣旨

地域別最低賃金がすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として全国に展開することを前提に、産業別最低賃金が企業内における賃金水準を設定する際の労使の取組みを補完し、公正な賃金決定にも資する面があったことを評価し、安全網とは別の役割を果たすものとして、関係労使の申出を受けた行政機関は、最低賃金審議会の意見を聴いて、特定最低賃金の決定を行うことができることとしたものであること。

2 特定最低賃金の決定手続(新法第15条及び第19条関係)

労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される特定最低賃金の決定又は当該労働者若しくは使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができるものであること。

この申出があった場合において、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、当該申出に係る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をすることができるものであること。

また、一定の事業に対する適用猶予については、特定最低賃金が関係労使の申出を受けて厚生労働大臣又は都道府県労働局長が決定するものであり、その決定に当たっては、十分に関係者の意見を反映させることが必要であるため、新法第15条第4項及び第5項において、旧法同様に規定したものであること。

なお、「今後の最低賃金制度の在り方について」(平成18年12月27日労働政策審議会答申)において、「産業別最低賃金の運用については、これまでの中央最低賃金審議会の答申及び全員協議会報告を踏襲するものとする」とされているものであること。

 特定最低賃金と地域別最低賃金の関係(新法第16条関係)

特定最低賃金において定める最低賃金額は、当該特定最低賃金の適用を受ける使用者の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければならないことを明確化したものであること。

4 特定最低賃金の職権による廃止(新法第17条関係)

特定最低賃金が著しく不適当となった場合には、労使からの申出を待つことなく、当該最低賃金の決定権者である厚生労働大臣又は都道府県労働局長自らが職権で廃止できるものであること。「著しく不適当となった場合」とは、例えば、特定最低賃金の対象となる労働者が存在しなくなったにもかかわらず廃止がなされていない場合が考えられるところであるが、特定最低賃金が関係労使のイニシアティブにより決定されるものであることに留意し、慎重な検討を行うこと。

また、特定最低賃金が関係労使のイニシアティブにより決定されるものであることに留意し、職権による改正については規定しないこととしたものであること。

第8 派遣労働者に係る最低賃金の適用(新法第13条及び第18条関係)

従来、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)第44条第1項に規定する派遣中の労働者(以下「派遣労働者」という。)に係る最低賃金については、派遣元の事業場に適用される最低賃金を適用していたところである。しかしながら、派遣労働者については、現に指揮命令を受けて業務に従事しているのが派遣先であり、賃金の決定に際しては、どこでどういう仕事をしているかを重視すべきであることから、派遣労働者については、派遣先の事業場に適用される最低賃金を適用することとしたものであること。

 第9 労働協約に基づく地域的最低賃金の廃止(旧法第11条から第13条まで、第15条及び第18条並びに旧則第8条から第11条まで関係)

労働協約に基づく地域的最低賃金を廃止したものであること。

 

逐条の考察

1.第15条(特定最低賃金が定められ改廃される手続)

 産業別最低賃金が企業内における賃金水準を設定する際の労使の取組みを補完し、公正な

金決定にも資する面があったことを評価し、安全網とは別の役割を果たすものとして、関係労

使の申出を受けた行政機関は、最低賃金審議会の意見を聴いて、特定最低賃金の決定を行うこ

とができるとしたもの。

 具体的には、労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働大臣又は都道府

労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される特定最低賃金の決定又は現行の特定

最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができ、その申し出を受けて都道

府県労働局長は、必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を

聴いて、当該申出に係る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは

廃止の決定をすることができるものであること。

 

2.第16条(特定最低賃金と地域別最低賃金の関係)

 特定最低賃金は、地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければならな

いことを明確化した規定である。

 

3.第17条(特定最低賃金の職権による廃止)

 特定最低賃金が著しく不適当となった場合には、厚生労働大臣又は都道府県労働局長自らが

職権で廃止できるものであること。

 

4.第18条(派遣労働者の特定最低賃金の適用)

 特定最低賃金が適用される派遣労働者については、その派遣先事業所の所在地の特定最低賃

金が適用される規定である。

 

5.第19条(特定最低賃金の公示及び発行)

 地域別最低賃金と同様に特定最低賃金についても、その決定・変更・廃止があった場合に

は、官報に掲載することにより公示することとされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察(最賃法15条~19条)を終了します。

 

 

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賃金、賃金制度に関する考察 4(最賃法9条~14条)

2015年07月03日 09:13

最低賃金法

第9条(地域別最低賃金の原則

 賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障するため、地域別最低賃金(一定の地域ご

との最低賃金をいう。以下同じ。)は、あまねく全国各地域について決定されなければならな

い。

2 地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能

力を考慮して定められなければならない。

3 前項の労働者の生計費を考慮するに当たつては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活

を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする。

 

第10条(地域別最低賃金の決定

 

 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最

低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域

別最低賃金の決定をしなければならない。

2 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出が

あつた場合において、その意見により難いと認めるときは、理由を付して、最低賃金審議会に

再審議を求めなければならない。

 

第11条(最低賃金審議会の意見に関する異議の申出

 

 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前条第一項の規定による最低賃金審議会の意見の提

出があつたときは、厚生労働省令で定めるところにより、その意見の要旨を公示しなければな

らない。

2 前条第一項の規定による最低賃金審議会の意見に係る地域の労働者又はこれを使用する使

用者は、前項の規定による公示があつた日から十五日以内に、厚生労働大臣又は都道府県労働

局長に、異議を申し出ることができる。

3 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による申出があつたときは、その申出

について、最低賃金審議会に意見を求めなければならない。

4 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、第一項の規定による公示の日から十五日を経過す

るまでは、前条第一項の決定をすることができない。第二項の規定による申出があつた場合に

おいて、前項の規定による最低賃金審議会の意見が提出されるまでも、同様とする。

 

第12条(地域別最低賃金の改正等

 

 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して必要があると認めるときは、その決定の例により、その改正又は廃止の決定をしなければならない。

 

第13条(派遣中の労働者の地域別最低賃金

 

 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第

八十八号)第四十四条第一項に規定する派遣中の労働者(第十八条において「派遣中の労働者」

という。)については、その派遣先の事業(同項に規定する派遣先の事業をいう。第十八条におい

て同じ。)の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低

賃金額により第四条の規定を適用する。

 

第14条(地域別最低賃金の公示及び発効

 

 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金に関する決定をしたときは、厚生労

働省令で定めるところにより、決定した事項を公示しなければならない。

2 第十条第一項の規定による地域別最低賃金の決定及び第十二条の規定による地域別最低賃

金の改正の決定は、前項の規定による公示の日から起算して三十日を経過した日(公示の日から

起算して三十日を経過した日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、そ

の日)から、同条の規定による地域別最低賃金の廃止の決定は、同項の規定による公示の日(公

示の日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日)から、その効力を

生ずる。

 

最低賃金法施行規則

則第7条(最低賃金審議会の意見の要旨の公示

 法第十一条第一項(法第十五条第三項において準用する場合を含む。)の規定による公示は、

厚生労働大臣の職権に係る事案については厚生労働大臣が官報に掲載することにより、都道府

県労働局長の職権に係る事案については当該都道府県労働局長が当該都道府県労働局の掲示場

に掲示することにより行うものとする。

 

則第8条(最低賃金審議会の意見に関する異議の申出

 法第十一条第二項(法第十五条第三項において準用する場合を含む。)の規定による異議の申

は、異議の内容及び理由を記載した異議申出書を、当該事案について前条の公示を行つた厚

生労働大臣又は都道府県労働局長に提出することによつて行わなければならない。この場合に

おいて、厚生労働大臣に対する異議の申出は、関係都道府県労働局長を経由してしなければな

らない。

 

則第9条(最低賃金に関する決定の公示

 法第十四条第一項及び第十九条第一項の規定による公示は、官報に掲載することによつて行

うものとする。

 

通達による整理

1.平成19年通達

2 地域別最低賃金

(1) 地域別最低賃金の原則

① 地域別最低賃金は、あまねく全国各地域について決定されなければならないものとしたこと。(第9条第1項関係)

② 地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならないものとしたこと。(第9条第2項関係)

③ ②の労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとしたこと。(第9条第3項関係)

(2) 地域別最低賃金の決定

厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金の決定をしなければならないものとしたこと。(第10条第1項関係)

(3) 地域別最低賃金の改正等

厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、必要があると認めるときは、その決定の例により、その改正又は廃止の決定をしなければならないものとしたこと。(第12条関係)

(4) 派遣中の労働者の地域別最低賃金

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)に規定する派遣中の労働者(3(2)において「派遣中の労働者」という。)については、その派遣先の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を当該派遣中の労働者に適用される最低賃金額とするものとしたこと。(第13条関係)

 

2.平成20年通達

第6 地域別最低賃金

1 地域別最低賃金の原則(新法第9条関係)

(1) 地域別最低賃金の理念(新法第9条第1項関係)

最低賃金制度が今後とも賃金の低廉な労働者の労働条件の下支えとして十全に機能するようにする必要があることから、地域別最低賃金をすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として位置付けることとしたため、地域別最低賃金があまねく全国各地域について決定されるべきであるという理念を明確化したものであること。

(2) 地域別最低賃金の考慮要素(新法第9条第2項及び第3項関係)

新法第9条第2項においては、地域別最低賃金に係る決定基準の3つの要素は、いずれも当該地域におけるものであることを明確化したものであること。

新法第9条第3項においては、最低賃金と生活保護との関係について、生活保護が健康で文化的な最低限度の生活を保障するものであるという趣旨から考えると、最低賃金の水準が生活保護の水準より低い場合には、最低生計費の保障という観点から問題であるとともに、就労に対するインセンティブの低下及びモラルハザードの観点からも問題があることから、同条第2項の労働者の生計費を考慮する際の1つの要素として生活保護に係る施策があることを、法律上明確化したものであること。

なお、生活保護に係る施策との整合性は、各地方最低賃金審議会における審議に当たって考慮すべき3つの決定基準のうち生計費に係るものであるから、条文上は、生活保護に係る施策との整合性に配慮すると規定しているところであるが、法律上、特に生活保護に係る施策との整合性だけが明確化された点にかんがみれば、これは、最低賃金は生活保護を下回らない水準となるよう配慮するという趣旨であると解されるものであること。

2 地域別最低賃金の決定の義務付け等(新法第10条から第12条まで関係)

(1) 厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対する地域別最低賃金の決定の義務付け(新法第10条第1項関係)

厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、地域別最低賃金の決定を義務付けるものであること。

(2) 地域別最低賃金の決定手続等(新法第10条第2項、第11条及び第12条関係)

① 決定手続(新法第10条第2項及び第11条関係)

中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の意見の提示があった場合の公示等、最低賃金の具体的な決定手続については、従来と変わるものではないこと。

なお、旧法第16条の2第4項に規定する、一定の事業に対する適用猶予については、地域別最低賃金をすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網と位置づけたことから、削除したものであること。

② 地域別最低賃金の改正又は廃止(新法第12条関係)

地域別最低賃金の決定が行政機関に対して義務付けられたことから、地域別最低賃金については、決定後も常に検討を加え、その決定基準についての事情の変更が認められる場合には、その改正又は廃止を決定権者に対して義務付けるものであること。

 

地域別最低賃金の逐条考察

1.第9条(地域別最低賃金の原則)

① (第9条第1項関係)

  地域別最低賃金は、あまねく全国各地域について決定されなければならないものとしたこと。 

② (第9条第2項関係)

  地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならないものとしたこと。 

③ (第9条第3項関係)

  労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとしたこと。 

参考:生活保護法

第一条(この法律の目的)この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

第三条 (最低生活)この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準

を維持することができるものでなければならない。

参考:日本国憲法

〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕
第25条すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

最低賃金の水準が生活保護の水準より低い場合には、最低生計費の保障という観点から問題であるとともに、就労に対するインセンティブの低下及びモラルハザードの観点からも問題がある

 

2.第10条(地域別最低賃金の決定)

 厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、地域別最低賃金の決定を義務付ていること。

 また、都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議

会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金

の決定をしなければならないとされていること。

 

3.第11条、第12条(最低賃金審議会) 

 平成26年度中央最低賃金審議会答申「地域別最低賃金額改定の目安について」

今日開催された第42回中央最低賃金審議会で、今年度の地域別最低賃金額改定の目安について答申が取りまとめられましたので、公表いたします。

 

【答申のポイント】
(ランク(注1)ごとの目安)
各都道府県の目安については、下記(1)の金額とする。 
(1) ランクごとの引上げ額は、Aランク19円、Bランク15円、Cランク14円、Dランク13円(昨年はAランク19円、Bランク12円、C・Dランク10円)。
(2) 生活保護水準(注2)と最低賃金との乖離額については、参考2のとおりであり、今後の最低賃金と生活保護水準の比較についても、引き続き比較時点における最新のデータに基づいて行うことが適当。 

注1.都道府県の経済実態に応じ、全都道府県をABCDの4ランクに分けて、引上げ額の目安を提示している。現在、Aランクで5都府県、Bランクで11府県、Cランクで14道県、Dランクで17県となっている。参考1参照
注2.平成20年度の答申別紙1の公益委員見解に基づき、対象地域の生活扶助基準(1類費+2類費+期末一時扶助費)の人口加重平均に住宅扶助の実績値を加えた額

 

(参考1)各都道府県に適用される目安のランク

ランク

都 道 府 県

千葉、東京、神奈川、愛知、大阪

茨城、栃木、埼玉、富山、長野、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、広島

北海道、宮城、群馬、新潟、石川、福井、山梨、岐阜、奈良、和歌山、岡山、山口、香川、福岡

青森、岩手、秋田、山形、福島、鳥取、島根、徳島、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、        宮崎、鹿児島、沖縄

 この答申は、今年の7月1日に開催された第41回中央最低賃金審議会で、厚生労働大臣から今年度の目安についての諮問を受け、同日に「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会」を設置し、5回にわたる審議を重ねて取りまとめた「目安に関する公益委員見解」等を、地方最低賃金審議会にお示しするものです。

 今後は、各地方最低賃金審議会で、この答申を参考にしつつ、地域における賃金実態調査や参考人の意見等も踏まえた調査審議の上、答申を行い、 各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定 することとなります。

 なお、 今年度の目安が示した引上げ額の全国加重平均は16円(昨年度は14円) となり、目安額どおりに最低賃金が決定されれば、 生活保護水準と最低賃金との乖離額は全都道府県で解消 されます。

(参考2)最低賃金額が生活保護水準を下回っている地域の乖離額(C欄)

都道府県

平成24年度データ

に基づく乖離額

(A)

平成25年度地域別

最低賃金引上げ額

(B)

残された乖離額

(C)

( =A-B)

北海道

26円

15円

11円

宮城

12円

11円

 1円

東京

20円

19円

 1円

兵庫

13円

12円

 1円

広島

18円

14円

 4円

 

1 平成 26 年度地域別最低賃金額改定の目安については、その金額に関し意見の一致をみるに至らなかった

2 地方最低賃金審議会における審議に資するため、上記目安に関する公益委員見解 (別紙1)及び中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告(別紙2)を地方最低 賃金審議会に提示するものとする。 

3 地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることとし、同審議会に おいて、別紙1の2に示されている公益委員の見解を十分参酌され、自主性を発揮され ることを強く期待するものである。 

4 政府において「経済財政運営と改革の基本方針 、 2014」(平成 26 年6月 24 日閣議決定)及び「『日本再興戦略』改訂 2014」(同日閣議決定)に掲げられた好循環を生み出す経 済運営のためにも、中小企業・小規模事業者の生産性向上をはじめとする中小企業・小 規模事業者に対する支援等に引き続き取り組むことを強く要望する。 

5 行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金額改定によ って当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注 時における特段の配慮を要望する。

 

参考:東京都最低賃金審議会答申(平成26年8月6日)

  東京地方最低賃金審議会は、東京労働局長に対し、東京都最低賃金を19円引上げて、時間額888円に改正するのが適当であるとの答申を行った。

1 東京都最低賃金(地域別最低賃金)の改正については、本年7月2日、東京労働局長(西岸 正人)から東京地方最低賃金審議会(会長 笹島 芳雄)に対し諮問を行った。同審議会は審議の結果、8月5日、現行の最低賃金の時間額869円を19円引上げ(引上率2.19%)て、888円に改正することが適当である旨の答申を行った。これを受けて東京労働局長は、答申内容の公示等所要の手続きを経て、本年度の東京都最低賃金の改正を決定する予定である。

2 今回の答申は、平成26年7月30日に中央最低賃金審議会から示された目安答申を参考にしつつ、諸般の事情を総合的に勘案して慎重に審議を行い、答申として取りまとめたられたものである。

3 東京都最低賃金は、都内で労働者を使用するすべての事業場及び同事業場で働くすべての労働者に適用され、同最低賃金額以上の賃金を支払わない使用者は最低賃金法第4条違反として罰則の対象となる。

4 最低賃金の引上げで影響を受ける中小企業を支援する事業として、さまざまな経営・労務管理に関する課題に対してワン・ストップで無料相談に応じる「東京都最低賃金総合相談支援センター」(電話03-5678-6488)を設けている。

 

3.第13条(派遣労働者に対する地域別最低賃金の適用)

 その派遣先の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において

定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。

 

4.第14条(地域別最低賃金の公示及び発効)

 都道府県労働局長は、地域別最低賃金に関する決定をしたときは、厚生労働省令で定めると

ころにより、決定した事項を公示しなければならないこと。

 また、改定した最低賃金額の効力発生日を明示し、その日から効力が発生するものとされて

います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上で賃金に関する考察(最賃法9条~14条)を終了します。

 

 

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賃金、賃金制度に関する考察 3 (最賃法5条~8条)

2015年07月02日 11:07

最低賃金法

第5条(現物給与等の評価

 賃金が通貨以外のもので支払われる場合又は使用者が労働者に提供した食事その他のものの代金を賃金から控除する場合においては、最低賃金の適用について、これらのものは、適正に評価されなければならない。

 

第6条(最低賃金の競合

 

 労働者が二以上の最低賃金の適用を受ける場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものにより第四条の規定を適用する。

2 前項の場合においても、第九条第一項に規定する地域別最低賃金において定める最低賃金額については、第四条第一項及び第四十条の規定の適用があるものとする。

 

第7条(最低賃金の減額の特例

 

 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。

 一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者

 二 試の使用期間中の者

 三 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの

 四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者

 

第8条(周知義務

 

 最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。

 

最低賃金法施行規則

則第3条(最低賃金の減額の特例

 法第七条第三号の厚生労働省令で定める者は、職業能力開発促進法施行規則(昭和四十四年労

働省令第二十四号)第九条に定める普通課程若しくは短期課程(職業に必要な基礎的な技能及びこ

れに関する知識を習得させるためのものに限る。)の普通職業訓練又は同条に定める専門課程の

高度職業訓練を受ける者であつて、職業を転換するために当該職業訓練を受けるもの以外のも

のとする。

2 法第七条第四号の厚生労働省令で定める者は、軽易な業務に従事する者及び断続的労働に従事する者とする。ただし、軽易な業務に従事する者についての同条の許可は、当該労働者の従事する業務が当該最低賃金の適用を受ける他の労働者の従事する業務と比較して特に軽易な場合に限り、行うことができるものとする。

 

則第4条(減額許可)

 法第七条の許可を受けようとする使用者は、許可申請書を当該事業場の所在地を管轄する労

働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出しなければならない。

2 前項の許可申請書は、法第七条第一号の労働者については様式第一号、同条第二号の労働

者については様式第二号、同条第三号の労働者については様式第三号、前条第二項の軽易な業

務に従事する者については様式第四号、同項の断続的労働に従事する者については様式第五号

によるものとする。

 

則第5条(最低賃金の減額の率

 法第七条の厚生労働省令で定める率は、次の表の上欄に掲げる者の区分に応じ、それぞれ同

表の下欄に定める率以下の率であつて、当該者の職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等

を勘案して定めるものとする。

法第七条第一号に掲げる者

当該掲げる者と同一又は類似の業務に従事する労働者であつて、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、最低位の能力を有するものの労働能率の程度に対する当該掲げる者の労働能率の程度に応じた率を百分の百から控除して得た率

法第七条第二号に掲げる者

百分の二十

法第七条第三号に掲げる者

当該者の所定労働時間のうち、職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練の時間(使用者が一定の利益を受けることとなる業務の遂行の過程内において行う職業訓練の時間を除く。)の一日当たりの平均時間数を当該者の一日当たりの所定労働時間数で除して得た率

第三条第二項の軽易な業務に従事する者

当該軽易な業務に従事する者と異なる業務に従事する労働者であつて、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なものの当該負担の程度に対する当該軽易な業務に従事する者の業務の負担の程度に応じた率を百分の百から控除して得た率

第三条第二項の断続的労働に従事する者

当該者の一日当たりの所定労働時間数から一日当たりの実作業時間数を控除して得た時間数に百分の四十を乗じて得た時間数を当該所定労働時間数で除して得た率

則第6条(周知義務)

 法第八条の規定により使用者が労働者に周知させなければならない最低賃金の概要は、次のとおりとする。

 一 適用を受ける労働者の範囲及びこれらの労働者に係る最低賃金額

 二 法第四条第三項第三号の賃金

 三 効力発生年月日

 

○最低賃金法関連通達

1.昭和34年通達

・法第六条関係

※労働協約締結が現物給付の前提条件となること。従って、労働組合がない事業所及び非組合員については、金銭に換えて現物給付(現物給与)を行うことはできない。(労働基準法第24条第1項)

 本条は、最低賃金が決定された場合に、使用者が労働者に提供する食事その他の現物給与等を不適正に評価することにより最低賃金の脱法を図ることを防止する趣旨であること。

 適正な評価とは、当該現物給与等を労働者に支給するために要した実際費用をこえないものとすること。

・法第八条(即第四条及び第五条)関係

 本条は、第一号から第四号までに掲げる労働者が当該最低賃金の主たる適用対象として予定されておらず、かつ、これを適用することが著しく実情に即さない場合の規定であるから、許可は必要な限度に止めるよう慎重に配慮すること。

 試の使用期間中の労働者であるかどうかは、当該事業場で使用されている名称のみによつて判断することなく、試の使用期間の実態を備えているか否かによつて判断すること。

 軽易な業務に従事する者とは、決定した最低賃金の適用を受ける一般の労働者の従事する業務と比較して特に軽易な業務に従事する労働者という相対的概念であつて、作業それ自体として軽易である場合に適用除外を認めようとする趣旨ではないこと。

 別段の定がある場合とは、法第八条各号の労働者について他の労働者に適用する最低賃金額と異る最低賃金額を定めている場合、当該最低賃金がこれらの労働者のみに適用されるものである場合及びこれらの労働者について適用除外を許さない旨の明文の定がある場合をいうこと。

 本条の許可は、最低賃金が改正された場合等当該許可に係る事情に著しい変更があつたときは、必要に応じ、これを取り消し、あらためて申請をさせて、あらたな事情に即するものについて許可を与えるべきこと。

 

2.平成19年通達

最低賃金の減額の特例

使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額を当該労働者に適用される最低賃金額とするものとしたこと。(第7条関係)

① 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者

② 試の使用期間中の者

  ③ 職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第24条第1項の認定を受けて行われる職業

 訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であって厚生労働省令で定めるもの

④ 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者

 

3.平成20年通達

第4 最低賃金の競合規定の改正(新法第6条関係)

2以上の最低賃金が競合する場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものにより新法第4条第1項を適用するものであり、こうした優先関係は従来と変わるものではないが、この場合においても、地域別最低賃金については、新法第4条第1項(最低賃金の効力)及び第40条(罰則)の規定の適用があることとしたものであること。したがって、特定最低賃金が適用される場合においても、地域別最低賃金において定める最低賃金額未満の賃金しか支払わなかった使用者については、新法第4条第1項違反として処罰することが可能であること。

第5 最低賃金の適用除外規定の廃止及び減額の特例規定の新設(新法第7条及び新則第3条から第5条まで関係)

1 趣旨

旧法第8条においては、その雇用に悪影響を及ぼすおそれがあることから、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、同条各号に掲げる者について、最低賃金の適用を除外することができることとしていたが、従来、同条の許可に際しては、附款を付して支払下限額を定め、その支払いを求めるという運用をしてきたところである。しかしながら、今般、最低賃金の安全網としての機能を強化する観点から、最低賃金の適用対象をなるべく広範囲とすることが望ましく、労働者保護にも資することから、同条の適用除外規定を廃止し、新法第7条において、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により新法第4条の規定を適用することとしたものであること。したがって、新法第7条の許可による減額後の最低賃金額(地域別最低賃金額に係るものに限る。)未満の賃金の支払いについては、新法第40条の罰則の適用があるものであること。

また、旧法第8条第4号に規定していた「所定労働時間の特に短い者」については、日額、週額又は月額によって定められた最低賃金額の適用を前提としたものであったことから、最低賃金額の表示単位期間を時間に一本化したことに伴い、削除することとしたものであるが、その他の対象労働者の範囲については従来と変わるものではないこと。

2 減額率(新則第5条関係)

 新法第7条の厚生労働省令で定める率については、新則第5条において、対象労働者の区分に応じ、それぞれ次の率以下の率であって、当該対象労働者の職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等を勘案して定めることとしたものであること。

(1) 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者(新法第7条第1号関係)

対象労働者と「同一又は類似の業務に従事する労働者であつて、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、最低位の能力を有するもの」の労働能率の程度に対する当該対象労働者の労働能率の程度に応じた率を100分の100から控除して得た率

(2) 試の使用期間中の者(新法第7条第2号関係)

100分の20

(3) 基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者(新法第7条第3号及び新則第3条第1項関係)

対象労働者の所定労働時間のうち、職業訓練の1日当たりの平均時間数を当該対象労働者の1日当たりの所定労働時間数で除して得た率

(4) 軽易な業務に従事する者(新法第7条第4号及び新則第3条第2項関係)

対象労働者と「異なる業務に従事する労働者であつて、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なもの」の当該負担の程度に対する当該対象労働者の業務の負担の程度に応じた率を100分の100から控除して得た率

(5) 断続的労働に従事する者(新法第7条第4号及び新則第3条第2項関係)

対象労働者の1日当たりの所定労働時間数から1日当たりの実作業時間数を控除して得た時間数に100分の40を乗じて得た時間数を当該所定労働時間で除して得た率

 

4.法第7条の許可基準

第2 法第7条の許可基準(昭和34年10月28日)(基発第747号)
法第7条の許可に当たっては、同条各号の者についてそれぞれ次の基準によること。
1 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者(法第7条第1号関係)
(1) 精神又は身体の障害がある労働者であっても、その障害が当該労働者に従事させようとする業務の遂行に直接支障を与えることが明白である場合のほかは許可しないこと。
(2) 当該業務の遂行に直接支障を与える障害がある場合にも、その支障の程度が著しい場合にのみ許可すること。この場合に、支障の程度が著しいとは、当該労働者の労働能率の程度が当該労働者と同一又は類似の業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、最低位の能力を有するものの労働能率の程度にも達しないものであること。
2 試の使用期間中の者(法第7条第2号関係)
(1) 試の使用期間とは、当該期間中又は当該期間の後に本採用をするか否かの判断を行うための試験的な使用期間であって、労働協約、就業規則又は労働契約において定められているものをいうこと。したがって、その名称の如何を問わず、実態によって本号の適用をするものであること。
(2) 当該業種、職種等の実情に照らし必要と認められる期間に限定して許可すること。この場合、その期間は最長6か月を限度とすること。
3 職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第24条第1項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であって厚生労働省令で定めるもの(法第7条第3号及び最低賃金法施行規則(昭和34年労働省令第16号。以下「則」という。)第3条第1項関係)
職業訓練中であっても、訓練期間を通じて1日平均の生産活動に従事する時間(所定労働時間から認定を受けて行われる職業訓練の時間(使用者が一定の利益を受けることとなる業務の遂行の過程内において行う職業訓練の時間を除く。)を除いた時間)が、所定労働時間の3分の2程度以上である訓練年度については、許可しないこと。
なお、訓練期間が2年又は3年であるものの最終年度については、原則として許可しないこと。
4 軽易な業務に従事する者(法第7条第4号及び則第3条第2項関係)
軽易な業務に従事する者として法第7条の許可申請の対象となる労働者は、その従事する業務の負担の程度が当該労働者と異なる業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なものの当該負担の程度と比較してもなお軽易である者に限られること。
なお、常態として身体又は精神の緊張の少ない監視の業務に従事する者は、軽易な業務に従事する者に該当すること。
5 断続的労働に従事する者(法第7条第4号及び則第3条第2項関係)
断続的労働に従事する者として法第7条の許可申請の対象となる労働者は、常態として作業が間欠的であるため労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ない者であること。
6 最低賃金法の一部を改正する法律(平成19年法律第129号。以下「改正法」という。)の施行に伴う経過措置
(1) 改正法の施行の日(平成20年7月1日)(以下「施行日」という。)以後最初に改正法による改正後の法第15条第2項の規定による改正又は廃止の決定が効力を生ずるまでの間における改正法附則第5条第2項に規定する最低賃金の適用を受ける労働者に対する4の適用については、当該労働者について最低賃金額が時間によって定められている場合は、許可の対象として差し支えないものの、最低賃金額が日、週又は月によって定められている場合において、当該労働者の所定労働時間が、当該最低賃金の適用を受ける他の労働者に比して相当長いときは、この限りではないこととする。
(2) 施行日以後最初に改正法による改正後の法第15条第2項の規定による改正又は廃止の決定が効力を生ずるまでの間における改正法附則第5条第2項に規定する最低賃金の適用を受ける労働者に対する5の適用については、最低賃金の時間額が適用される場合を除き、当該労働者の実作業時間数が当該最低賃金の適用を受ける他の労働者の実作業時間数の2分の1程度以上であるときは許可しないこととする。

 

条文ごとの整理

1.第5条(最低賃金の競合)

 労働協約に基づく現物供与の場合の適正評価を規定しており、この場合の適正評価とは「適正な評価とは、当該現物給与等を労働者に支給するために要した実際費用をこえないものとすること。」とされている様に、最低賃金割れの給与とする目的で、価値の低い物を賃金の代替として支給することを禁止している。

 具体的な許可基準は次のとおり。

 ① 物品を支給し、又は利益を供与するに要した実際費用を超えないこと

 ② 労働協約又は労使控除協定で現物給与等の評価額を定めているときは、原則としてこれによる(不適当である場合には、都道府県労働局長が判断する。)

 

2.第6条(最低賃金の競合)

 最低賃金の競合の場合には、もっとも高い最低賃金の適用を受けることとなる。最低賃金が時間給に統一変更されたため、この問題はあまり起きないと考えられる。ただし、例えば労働者派遣業において、派遣元事業所がA県に所在し他方で派遣先の事業所がB県に所在する場合に、どちらの県の地域別最低賃金を適用するか注意が必要である。この場合は、、もちろん実際に就労する派遣先の事業所の所在地の地域別最低賃金が適用される。

 また、一般に地域別最低賃金と特定最低賃金を比較すると特定最低賃金の方が高い価額となっているため、特定最低賃金が適用される業務については、特定最低賃金の適用除外者を除き特定最低賃金が適用される。

 

3.第7条(最低賃金の減額)

 最低賃金の減額特例の規定であり、心神障害者等(第1号)、試用期間中の労働者(第2号)、最賃則で定める職業訓練中の者(第3号)、最賃則で定める監視断続労働等(第4号)については、都道府県労働局長の許可を得て、本来の最低賃金額から最賃則で定める減額率を乗じて得た額を控除した価額を最低賃金として適用する旨規定されている。

 従来の適用除外制度では、事業主が独自の判断で適用除外に該当の判断をおこない、法の趣旨を拡大解釈する恐れがあった。そのため、平成20年改正法施行により許可・減額制に変更された。

(ⅰ)第1号

  具体的な運営基準(一般的な許可基準は通達されている)が公開されていないため、「精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」に該当するか否かの具体的・詳細な基準は不明。また、具体的な減額率も不明。

 許可基準は次のとおり。

  ① その障害が当該労働者に従事させようとする業務の遂行に直接支障を与えることが明白である場合に限られる。

  ② 業務の遂行に直接支障を与える障害がある場合にも、その支障の程度が著しい場合に限られる。すなわち、労働者の労働能率の程度が当該労働者と同一又は類似の業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、最低位の能力を有するものの労働能率の程度にも達しないものに限られること。

(ⅱ)第2号

  試用期間中の者とは、「試の使用期間中の労働者であるかどうかは、当該事業場で使用されている名称のみによつて判断することなく、試の使用期間の実態を備えているか否かによつて判断する」とされている。また、減額率は20%(最低賃金額の80%を適用)とされている。

 許可基準によれば、「労働協約、就業規則又は労働契約において定められているものをいう」とされ、最低賃金の減額適用期間は最長6ヶ月とされる。

(ⅲ)第3号

  職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第24条第1項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするもの(職業能力開発促進法施行規則(昭和四十四年労働省令第二十四号)第九条に定める普通課程若しくは短期課程(職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させるためのものに限る。)の普通職業訓練又は同条に定める専門課程の高度職業訓練を受ける者であつて、職業を転換するために当該職業訓練を受けるもの以外のもの)とされていること。

 また、減額率は具体的には不明。

 職業訓練の時間が、所定労働時間の3分の2程度以上である訓練年度については、許可しないとされる。

(ⅳ)第4号(軽易な作業)

  「その労働者の従事する業務が他の労働者の従事する業務と比較して特に軽易な場合のみ」に許可されるとしている。また、同様に具体的な減額率は不明。

  従事する業務の負担の程度が当該労働者と異なる業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なものの当該負担の程度と比較してもなお軽易である者に限られる。

(ⅴ)第4号(断続的労働に従事する者)

  常態として作業が間欠的であるため労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ない者に限られる。なお、減額率は実態に即して定められる。

 

4.第8条(最低賃金額等の周知)

 最低賃金に関し、周知すべき項目は次のとおり。(最賃則第6条)

  一 適用を受ける労働者の範囲及びこれらの労働者に係る最低賃金額

 二 法第四条第三項第三号の賃金

   ※最低賃金の換算に算入しない次の賃金

   ① 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの

   ② 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの 

    ③ 三当該最低賃金において算入しないことを定める賃金

 三 効力発生年月日

   ※地域別最低賃金及び特定最低賃金は、都道府県別に定められるため、適用開始の日がそれぞれ異なる。

 また、都道府県労働局は、地域別最低賃金及び特定最低賃金の改定時ごとに、掲示用のパンフレット他を作成し配布しているため、それらを目立つ場所に掲示することで、法第8条の周知が可能である。(HPからダウンローも可能。)



 

以上で、賃金に関する考察3(最賃法5条~8条)を修了します。 

  

 

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賃金、賃金制度に関する考察 2(最賃法1条~4条)

2015年07月01日 12:53

最低賃金法

第1条(目的)

 この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 

第2条(定義)

 

 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 労働者 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。

二 使用者 労働基準法第十条に規定する使用者をいう。

三 賃金 労働基準法第十一条に規定する賃金をいう。

 

第3条(最低賃金額)

 

 最低賃金額(最低賃金において定める賃金の額をいう。以下同じ。)は、時間によつて定めるものとする。

 

第4条(最低賃金の効力)

 

 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。

3 次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。

一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの

二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの

三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金

4 第一項及び第二項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかつた場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労働日の労働をさせなかつた場合において、労働しなかつた時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものではない。

 

施行規則 第一条 (算入しない賃金)

 最低賃金法(以下「法」という。)第四条第三項第一号の厚生労働省令で定める賃金は、臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金とする。

2 法第四条第三項第二号の厚生労働省令で定める賃金は、次のとおりとする。

一 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金

二 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金

三 午後十時から午前五時まで(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十七条第四項の規定により厚生労働大臣が定める地域又は期間については、午後十一時から午前六時まで)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分

 

第二条(法第四条の規定の適用についての換算)

 賃金が時間以外の期間又は出来高払制その他の請負制によつて定められている場合は、当該賃金が支払われる労働者については、次の各号に定めるところにより、当該賃金を時間についての金額に換算して、法第四条の規定を適用するものとする。

一 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異なる場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

二 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異なる場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

三 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

四 時間、日、週又は月以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前三号に準じて算定した金額

五 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、当該賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間。以下この号において同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて労働した総労働時間数で除した金額

2 前項の場合において、休日手当その他同項各号の賃金以外の賃金(時間によつて定められた賃金を除く。)は、月によつて定められた賃金とみなす。

 

○最低賃金法関連通達

法第一条関係

 本件は、本法の目的及び本法における最低賃金制度の基本的なあり方について定めたものであること。

最低賃金法は、労働者保護法として賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障することによつて、その労働条件を改善し、もつて労働者の生活の安定に資するとともに、労働力の質的向上及び事業の公正な競争を確保し、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものである。

今回施行されることとなつた最低賃金法は、わが国経済の複雑な構成、就中、中小零細企業の実情に鑑み、最低賃金は業種別、職種別、地域別にそれぞれの実態に即して決定することとし、その決定の方法についても四方式を採用し、もつて最低賃金の円滑にして有効な実施の確保を期するとともに、最低賃金の実施に関連して家内労働に関して最低工賃を決定できることとしているのであるが、これらの決定は労働大臣又は都道府県労働基準局長が最低賃金審議会に諮つて行い、またその実施の監督については労働基準監督機関が当ることとなつている。

 

法第二条(法附則第九条)関係

1 本法の適用を受ける使用者及び労働者は、原則として労働基準法又は船員法の適用を受ける者であること。ただし、一般職に属する地方公務員のうち、地方公営企業(地方公営企業労働関係法第三条第一項に規定するものをいう。)の職員及び地方公営企業労働関係法附則第四項によりこれに準ずる取扱を受ける単純労務職員を除く者については、労働基準法は一部の規定を除き適用があるが、給与が条例で定められているので本法については適用を除外しているものであること。

2 本法において「委託」の対象となる業務は、おおむね労働基準法第八条第一号に掲げるものと同一範囲の業務に限定されているものであること。

3 「委託者」とは、問屋、製造業者、仲介人等をいうものであること。「委託者」には、委託契約の当事者である委託者のみならず、その者の代理人、使用人その他の従業者であつて、委託者のために家内労働者との委託契約に関して行為をする者を含むものであること。

 

法第四条(最低賃金法施行規則(以下「則」という。)第一条)関係

1 最低賃金額は、原則として時間、日、週又は月を単位として定めるものであること。(改正後新法で時間単位に統一された)

2 賃金が出来高払制その他の請負制で定められている場合であつても、労働時間の把握ができる場合は、特別の事情のない限り、最低賃金額は、時間、日、週又は月を単位として定めるべきものであること。

最低賃金額の表示単位の改正(新法第3条関係)

旧法第4条及び改正省令による改正前の最低賃金法施行規則(以下「旧則」という。)第1条においては、最低賃金額の表示単位について、時間、日、週又は月のほか、出来高又は業績の一定の単位によることとしていたが、賃金支払形態、所定労働時間等の異なる労働者間の公平の観点や就業形態の多様化への対応の観点、さらにはわかりやすさの観点から、最低賃金額の表示単位を時間に一本化したものであること。

 

 

○最低賃金法の条文別の整理

1.第1条

 賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障することによつて、労働者の生活の安定に資するとともに、労働力の質的向上及び事業の公正な競争を確保し、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする

 

2.第2条

 本法の適用を受ける使用者及び労働者は、原則として労働基準法又は船員法の適用を受ける者及び一部の地方公務員であること

 

3.第3条

 最低賃金額は、時間によつて定める 

 (このほかに特定最低賃金(特定の製造業等)が定められている。)

 参考:全国地域別最低賃金額 ( 括弧書きは、平成25年度地域別最低賃金額)

北海道 748 (734) 平成26年10月8日
青森 679 (665) 平成26年10月24日 
岩手 678 (665) 平成26年10月4日
宮城 710 (696) 平成26年10月16日
秋田 679 (665) 平成26年10月5日
山形 680 (665) 平成26年10月17日
福島 689 (675) 平成26年10月4日
茨城 729 (713) 平成26年10月4日
栃木 733 (718) 平成26年10月1日
群馬 721 (707) 平成26年10月5日
埼玉 802 (785) 平成26年10月1日
千葉 798 (777) 平成26年10月1日
東京 888 (869) 平成26年10月1日
神奈川  887 (868) 平成26年10月1日
新潟 715 (701) 平成26年10月4日
富山 728 (712) 平成26年10月1日
石川 718 (704) 平成26年10月5日
福井 716 (701) 平成26年10月4日
山梨 721 (706) 平成26年10月1日
長野 728 (713) 平成26年10月1日
岐阜 738 (724) 平成26年10月1日
静岡 765 (749) 平成26年10月5日
愛知 800 (780) 平成26年10月1日
三重 753 (737) 平成26年10月1日
滋賀 746 (730) 平成26年10月9日
京都 789 (773) 平成26年10月22日
大阪 838 (819) 平成26年10月5日
兵庫 776 (761) 平成26年10月1日
奈良 724 (710) 平成26年10月3日
和歌山 715 (701) 平成26年10月17日
鳥取 677 (664) 平成26年10月8日
島根 679 (664) 平成26年10月5日
岡山 719 (703) 平成26年10月5日
広島 750 (733) 平成26年10月1日
山口 715 (701) 平成26年10月1日
徳島 679 (666) 平成26年10月1日
香川 702 (686) 平成26年10月1日
愛媛 680 (666) 平成26年10月12日
高知 677 (664) 平成26年10月26日
福岡 727 (712) 平成26年10月5日
佐賀 678 (664) 平成26年10月4日
長崎 677 (664) 平成26年10月1日
熊本 677 (664) 平成26年10月1日
大分 677 (664) 平成26年10月4日
宮崎 677 (664) 平成26年10月16日
鹿児島 678 (665) 平成26年10月19日
沖縄 677 (664) 平成26年10月24日
全国加重平均額 780 (764)
 

 

4.第4条

2以上の最低賃金が競合する場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものにより新法第4条第1項を適用するものであり、こうした優先関係は従来と変わるものではないが、この場合においても、地域別最低賃金については、新法第4条第1項(最低賃金の効力)及び第40条(罰則)の規定の適用があることとしたものであること。したがって、特定最低賃金が適用される場合においても、地域別最低賃金において定める最低賃金額未満の賃金しか支払わなかった使用者については、新法第4条第1項違反として処罰することが可能であること。

 

ア 第4条第1項

 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対して、最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。この場合の労働者とは、労働基準法第9条で定められる労働者をいい、かつ、労働基準法の適用を受けない家事使用人等は除外されます。

 

イ 第4条第2項

 最低賃金額に達しない賃金支払条件を定める労働条件は、その部分については本法により無効となり、最低賃金額を支払うものと定められたものとみなすこととされています。そのため、労働契約に定められた額にその差額を加算して支払う義務がありますし、かりに支払わなかった場合には、民事上でその差額の支払義務があり、かつ刑事上では「第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。」(本法第40条)とされています。

 

ウ 第4条第3項

 一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの

   臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金(則第1条第1項)

二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの

 a 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金(所定時間外労働賃金)

 b  所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(所定休日労働部分の賃金) 

三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金

  c  深夜労働の間の労働に対して支払われる賃金のうち割り増し賃金部分

エ 出来高払い制等における最低賃金の換算方法

 賃金が時間以外の期間又は出来高払制その他の請負制によつて定められている場合は、次の方法に

より賃金を時間の金額に換算して、最低賃金額に達しているか否かを判断する。

一 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異なる場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

二 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異なる場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

三 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

四 時間、日、週又は月以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前三号に準じて算定した金額

五 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、当該賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間。以下この号において同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて労働した総労働時間数で除した金額

2 前項の場合において、休日手当その他同項各号の賃金以外の賃金(時間によつて定められた賃金を除く。)は、月によつて定められた賃金とみなす。

 

オ 第4条第4項

 ノーワーク・ノーペイの原則の規定です。遅刻や早退及び欠勤により、労働者が予定された労働時

間(所定労働時間)を就労しなかった場合には、その就労しなかった時間分の賃金を控除することが

可能です。この場合、不合理に不就労部分の賃金額を超えて、賃金を減額することはできません。

 例えば、1時間遅刻をした場合に、就業規則の懲罰の規定(法令の範囲内に限る)がないにも拘わ

らず、半日分の賃金を控除することは、労働基準法第24条違反に該当します。また、早退して4時間

のみ勤務した労働者のその日の賃金をすべて無給とすることはできません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上で、最低賃金法第1条~第4条を終了します。

 

 

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賃金、賃金制度に関する考察 1(賃金の定義)

2015年06月29日 10:19

賃金とは何か?

○労働基準法の賃金の定義

労働基準法第11条  この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

参考:賃金統制令(昭和15年改正勅令第675号) 第3条 本令ニ於テ賃金ト称スルハ賃金、給料、手当、賞与其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ労働者ヲ雇傭スル者ガ労働ノ対償トシテ支給セル金銭、物其ノ他ノ利益ヲ謂フ

参考2:所得税法第28条
給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
2 給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。給与所得の解釈:給与所得には、通常の給与、賞与等の他に、各種の手当や現物支給も含まれ、それらに対して、原則的に所得税が課せられる。しかし、従業員や役員に支給される金品のうち、一定のものは課税されないことになっており、旅費や通勤手当、学資金などのうち一定のものは非課税として取り扱われること。
 
1.賃金の解釈

①賃金の意義(通達 昭和22年 基発17号)
(一)労働者に支給される物又は利益にして、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなすこと。
 1)所定貨幣賃金の代わりに支給するもの、即ち、その支給により貨幣賃金の減額を伴うもの
 2)労働契約において、予めその支給が約束されているもの
(二)右に掲げるものであっても、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなさないこと。
 1)代金を徴収するもの。但しその代金が甚だしく低額なものはこの限りではない。
 2)労働者の厚生福利施設とみなされるもの
(三)労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件が明確である場合の退職手当は法第11条の賃金であり、法第24条第2項の「臨時の賃金等」に当たる。
(四)結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさないこと。ただし、結婚手当等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものはこの限りでないこと。

※賃金に該当するかどうかの判断は、基本的にこの通達に沿って行われるものと思われます。

②実物給与(現物支給)

○実物給与(通達 昭和22年 基発452号)第11条

(一)実物給与に関する法第24条の趣旨は、実物給与制度の沿革に鑑み、かつ稍〈やや〉もすれば基本を不当に低位に据え置く原因となる恐れがあるので、原則として実物給与を禁止したものである。従ってあらゆる種類の実物給与を禁止せんとするものではなく、労働協約に別段の定めをなさしめることによって、労働者に不利益となるような実物給与から労働者を保護せんとするものであること。
(二)労働者に対して、それを賃金とみるか否かについては、実物給与に関する法の趣旨及び実情を考慮し、慎重に判定すること。

(三)臨時に支給される物、その他の利益は原則として賃金とみなさないこと。なお、祝祭日、会社の創立記念日又は、労働者の個人的吉凶禍福に対して支給されるものは賃金ではない。然し次の場合における実物給与については、賃金として取り扱うこと。
 イ)支給されるものが労働者の自家消費を目的とせず、明らかに転売による金銭の取得を目的とするもの。
 ロ)労働協約によっていないが、前例若しくは慣習として、その支給が期待されている貨幣賃金の代りに支給されるもの。
(四)福利厚生の範囲は、なるべくこれを広く解釈すること。
(五)施行規則第二条第三項による評価額の判定基準は左によること。実物給与のために使用者が支出した実際費用を超え又はその三分の一を下つてはならない。但し公定小売価格その他これに準ずる統制額の定めがあるものについては、実際費用の如何にかかわらずその額を超えてはならない。
(六)労働者より代金を徴収するものは、原則として賃金ではないが、その徴収金額が実際費用の三分の一以下であるときは、徴収金額と実際費用の三分の一との差額部分については、これを賃金とみなすこと。

○実物給与の具体例

1)ストック・オプション
「(前略)この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対象ではなく、労働基準法第11条の賃金には当らないものである。」と通達されています。

2)栄養食品又は保健薬品の支給
「栄養食品又は保健薬品の現物補給は労働協約に基づき、特定作業に従事する労働者に対してその稼働日数に応じ、一定額の範囲内で支給するものであるから、賃金であって、労働者の福利厚生のために支給するものとは認められない。」とされています。

3)通勤定期券
「(前略)定期乗車券は法第11条の賃金であり、従って、これを賃金台帳に記入し又六ヶ月定期乗車券であっても、これは各月分の前払いとして認められるから平均賃金の基礎に加えなければならない。」と通達されています。

4)スト妥結の一時金
「スト妥結の際締結された新賃金協定により一人5千円の一時金の支給をみたが、この一時金は臨時の賃金である。」とされています。

5)法定の額を超える休業補償費
「(前略)休業補償は休業手当と法的根拠を異にしているから平均賃金の百分の六十以上と規定せず敢えて百分の六十と限定しているので、(就業規則等の規定により支給される)百分の六十を上廻る部分は予め支給条件の明確な恩恵的給付として賃金とみるべきである。」とされています。

6)栄養食品又は保健薬品の支給
「(前略)当該現物補給は労働協約に基づき、特定作業に従事する労働者に対してその稼働日数に従事する労働者に対してその稼働日数に応じ、一定額の範囲内で支給するものであるから、賃金であって、労働者の福利厚生のために支給するものとは認められない。」とされています。

7)通勤定期券
「(前略)当該定期乗車券は法第11条の賃金であり、従って、これを賃金台帳に記入し又六ヶ月定期乗車券であっても、これは各月分の賃金の前払として認められるから平均賃金算定の基礎に加えなければならない。」として、通勤定期券の現物支給も賃金とされています。

8)スト妥結の一時金
「スト妥結の際締結された新賃金協定により一人平均5千円の一時金の支給をみた。この一時金も臨時の賃金である。」とされます。

9)チップ
「チップは、旅館従業員等が客から受け取るものであって賃金ではない。なお、無償あるいは極めて低廉な価格で食事の給与を受け、又は当該旅館等に宿泊を許されている場合には、かかる実物給与及び利益は賃金とみなすべきである。」とされています。

10)休業補償費
「休業補償は法で平均賃金の百分の六十と限定されているが、これは法第1条の規定により最低の基準と考えるべきで、事業場で休業補償として平均賃金の百分の六十を上廻る制度を設けている場合は、その全額を休業補償とみるべきである。」として、業務災害の場合の休業補償はすべて賃金に該当しないとしています。
 この取り扱いは、当然ながら労働保険料の算定の際も同様であって、賃金総額に算入しません。

12)自家用自動車を業務に使用する場合の経費
 12-1.私有自動車維持費として支給される定額金額は実費弁償と解される。(賃金では無い)
 12-2.自己の通勤に併用する者に対して加算支給される通勤定期乗車券代金月額の二分の一相当額は賃金と解される。(賃金である)
 12-3.社用提供者に対して自動車重量税及び自動車税の一部を支給することとしているが、これは自動車の使用貸借契約における必要経費の負担とみられ、賃金ではない。(賃金ではない)
 12-4.社用に用いた走行距離に応じて支給されるガソリン代は実費弁済であり賃金ではない。(賃金では無い)

13)役職員交際費
「役付職員は職掌柄外部との接触が多く従っていろいろと失費がかさむが、飲食代、交通費、あるいは進物代等些細な金額は請求し難いこともあり、また処理上煩雑でもあるので、一定期間統計をとり、これを基準にして部長職1,500円、課長職1,200円というふうに一定額の役職員交際費を毎月支給することとしている。この役職員交際費は賃金では無い。」として、厳密に領収書がない場合でも、実費弁済扱いを認めています。

14)食事の供与
「食事の供与(労働者が使用者の定める施設に住み込み一日に二食以上支給を受けるような特殊の場合のものを除く)は、その支給のための代金を徴収すると否とを問わず、次の各号の条件を満たす限り、原則として、これを賃金として取り扱わず福利厚生として取扱うこと。
一)食事の供与のために賃金の減額を伴わないこと。
二)食事の供与が就業規則、労働協約等に定められ、明確な労働条件の内容となっている場合でないこと。
三)食事の供与による利益の客観的評価額が、社会通念上、僅少なものと認められるものであること。

15)昼食料補助等
 15-1.昼食料補助
 「業務の性質上郡内(市内)及び隣接地出張が頻繁で、以前は事業所所在の市地域隣接地並びに特定地に出張して正午を過ぎたときに旅費規定に基づき日当の4割を昼食料として支給していたが取扱い上煩雑なので、組合と協議の上出勤一日につき50円の昼食補助として支給することとした。当該、昼食補助は法第11条の賃金である。」としています。これは、組合との協議の上の支給であり、また日当の4割を昼食料として支給していたことを考えると、額が僅少ではないため、恩恵的なものではないと判断されたようです。
 15-2.居残弁当料、早出弁当料
 「次の時刻(午後7時過ぎ、午前6時を過ぎ、午前7時過ぎ)に仕事をさせた場合、特地70円、甲地60円、乙地50円を居残弁当料、早出弁当料として支給しているが賃金か。当該、居残弁当料及び早出弁当料は、賃金である。」とされています。

16)所得税等の事業主負担
一)「労働者が法令により負担すべき所得税等(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等を含む。)を事業主が労働者に代わって負担する場合は、これらの労働者が法律上当然負担する義務を免れるのであるから、この事業主が労働者に代わって負担する部分は賃金とみなされる。」としています。ある意味当然かと思います。
二)「これに対し、労働者が自己を被保険者として生命保険料等と任意に保険契約を締結したときに企業が保険料の補助を行う場合、その保険料補助金は、労働者の福利厚生のために使用者は負担するものであるから、賃金とは認められない。」としています。

17)育児休業中の賃金等
「育児休業法上育児休業期間中の賃金支払いは任意の話し合いに委ねられていること。
 また、社会保険料の被保険者負担分については、育児休業期間中にても労働者が負担すべきものとされているが、事業主が被保険者負担分を肩代わりする場合には、当該負担分は法第11条の賃金として取り扱われること。(中略)したがって、育児休業が終了した後一定限労働しなければ当該賃金額分を労働者に支払わせるとの取扱いは、法第16条に抵触するものと解されること。」

参考:労働基準法第16条
(賠償予定の禁止)第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
参考:健康保険法
第百五十九条  育児休業等をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。 
参考:厚生年金保険法
(育児休業期間中の保険料の徴収の特例)第81条の2 育児休業等をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令の定めるところにより厚生労働大臣に申出をしたときは、前条第2項の規定にかかわらず、当該被保険者に係る保険料であつてその育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間に係るものの徴収は行わない。

※育児休業中の雇用保険料については、賃金の支払いがなければ保険料も発生しません。また、健康保険と厚生年金は上記のとおりです。さらに、労災はそもそも労働者負担分の保険料はありませんから、上記の通達は現在は該当する事例がないこととなります。

18)制服その他
「交通従業員の制服、工員の作業衣服等業務上必要な被服は作業備品とみて賃金より除外してよい。」として、賃金ではないとされています。

19)作業用心代
「(前略)作業用品代は職員、従業員全部に一律に適用されるもので実入坑1工あたり6円を支給することになっているが、これは損失のあった場合に支給されるものでなく、損失の有無に拘わらず、実入坑一工当りについて与えられている作業労働の対象であり、いわば、職務作業手当、即ち賃金の一つと解せられるが、当該作業用品は作業遂行に必要な道具であって通常使用者が支給しているものであるから、その作業の用品代は損料又は実費弁済と認められ、賃金ではない・」とされます。

20)乗務日当
「(前略)旅費規程及び乗務日当支給細則に基づき、乗務日当を支給しているが、この乗務日当は、旅費日当に準ずるものとして取扱われており、税法上も非課税とされているので、労働基準法において賃金とは認められないと思料するが如何。(以下略)
答】設問の乗務日当は、航空機乗務員が、通常の業務として、航空機に一定区間乗務する場合に支給されるものであり、会社提出の資料によれば、その支給目的は主として航空機に乗務することによって生ずる疲労の防止及び回復を図ることにある。従って、その性格は一種の特殊作業手当とみるべきものであり、労働基準法第1条に規定する賃金と認められる。」としています。

21)チェーンソーの損料
「賃金額は損料として区別して定められなければならないものであり、チェーンソー自己所有労働者についても、労働契約関係にある限り、賃金と損料とは区別して定められるべきものである。
 なお、損料を含むものを定める場合には労働契約でなく請負契約とみられる場合が多いことに留意されたい。」としています。
※この通達では、自己所有のチェーンソーを会社等の業務に使用している場合には、チェーンソーの損料(メンテナンスや減価償却費相当と思われる)を含む労働契約上の賃金支払い内容とする場合があり、この場合には「請負契約」と判断されることが多いと述べています。しかし、今日の解釈では労働契約と同時に請負契約等の典型契約の性質を有するいわゆる「混合契約」の場合であっても、労働契約法上の労働者との解釈は排除されないと解されています。

使用者が労働者に支払うすべてのもの

「本法では単に金銭にのみならず、物又は利益をも賃金としているのであるから、「支払い」の語も金銭の現実の授受に限定せず、広く債務の弁済行為ないしは利益の供与を指すものと解すべきである。」とする見解があります。後に判例で確認したいとおもいます。

○労働の対償の意味とはなにか?
 賃金は、「労働契約上の使用者に使用されて労務の提供を行った」ことに対する反対給付ですから、使用者(事業主)からの金銭の支給のうち、労務の提供に相当する金銭等及びそのようにみなされる金銭等以外は「賃金」とはならないわけです。
 通達でも、「臨時に支給される物、その他の利益は原則として賃金とみなさないこと。なお、祝祭日、会社の創立記念日又は、労働者の個人的吉凶禍福に対して支給されるものは賃金ではない。」としており、使用者が支給する福利厚生上の「任意的」「恩恵的」なものは、賃金とならないとされています。
 さらに、例えば食事の供与については先に記述した通りですが、「食事代金相当として、労働者から代金を徴収するものは、原則として賃金ではないが、その徴収金額が実際費用の三分の一以下であるときは、徴収金額と実際費用の三分の一との差額部分については、これは賃金とみなされます。」

○名称の如何を問わずとは?
 賃金は、名称の如何を問わないから、家族手当、物価手当等、一見労働とは直接関係ないような名称であっても労働の対償として使用者が労働者に支払うものである以上、すべて本条にいう賃金であるとされます。

 

 

以上で賃金に関する考察1を終了します。

 

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労働者派遣法 重要事項のまとめ2

2015年06月27日 14:42

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律

[3]性・年齢による差別的な取扱いの禁止等 
(1) 派遣労働者の性別の労働者派遣契約への記載の禁止等
 職業安定法第3条の規定は労働者派遣事業にも適用があるものであること(職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)第2条の1参照)。
 このため、派遣元事業主は、派遣先との間で労働者派遣契約を締結するに当たっては、職業安定法第3条の規定を遵守し、派遣労働者の性別を労働者派遣契約に記載し、これに基づき当該派遣労働者を当該派遣先に派遣してはならず、また、性別による不合理な差別的労働者派遣を行ってはならないので、その旨の周知、指導に努めること(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の11の(2)(第8の23参照))。
 なお、職業安定法第3条による差別的取扱いの禁止の対象には、障害者であることも含まれるものであり、障害者であることを理由として差別的労働者派遣を行ってはならないものであることに留意すること。
(2) 年齢による不合理な差別的派遣に対する指導等
 派遣元事業主は雇用対策法(昭和41年法律第132号)第10条及び職業安定法第3条の趣旨に鑑み、年齢による不合理な差別的労働者派遣を行うことは不適当である旨、周知、指導に努めること。
(3) 派遣労働者の募集及び採用に係る年齢制限の禁止に向けた取組
 法に規定する労働者派遣に関し、派遣元事業主が行う派遣労働者の募集及び採用についても、原則として雇用対策法第10条及び雇用対策法施行規則(昭和41年労働省令第23号)第1条の3の規定は適用されること。なお、以下の点について留意すること。
  いわゆる登録型派遣の場合における募集及び採用について
 派遣元事業主が登録された者の中から派遣労働者の募集及び採用を行うに当たっても、雇用対策法第10条及び雇用対策法施行規則第1条の3の規定は当然に適用されること。
   いわゆる登録型派遣の場合における「登録」の取扱い
 ① 具体的な雇用契約の締結を前提とした「登録」の場合
 具体的な雇用契約の締結を前提とし、派遣労働者になろうとする者に「登録」を呼びかける行為は、労働者の募集に該当するものであり、雇用対策法第10条及び雇用対策法施行規則第1条の3の規定が適用され、年齢の制限を行うことができるのは雇用対策法施行規則第1条の3第1項各号に掲げる例外事由(以下「例外事由」という。)に該当するときに限られるものであること。
 ② 具体的な雇用契約の締結を前提としない「登録」の場合
 具体的な雇用契約の締結を前提とせず派遣労働者になろうとする者に呼びかけて「登録」をさせる場合において、当該「登録」をした者から派遣労働者を募集又は採用するときには、雇用対策法第10条及び雇用対策法施行規則第1条の3の規定が適用され、年齢の制限を行うことができるのは例外事由に該当するときに限られるものであること。
 したがって、上記①及び②のいずれの「登録」であっても、例外事由に該当する条件の下で派遣労働者を募集又は採用することを最終的な目的とする「登録」でなければ、個人の年齢に関する情報を収集し、保管し、又は使用することは法第24条の3に基づき許容される「業務の目的の達成に必要な範囲内」を超えて個人情報を収集することに該当して同条の規定に違反することとなり、例外事由に該当する条件の下で派遣労働者を募集又は採用することを最終的な目的とするものでなければ派遣労働者の雇用に結びつけることはできないものであること。また、例外事由に該当することとなる条件の下で年齢制限をして派遣労働者を募集又は採用することを最終的な目的とする「登録」を行うときには、年齢情報を含む登録者の情報を収集し、保管し、又は使用するに当たり、当該年齢制限をした事由ごとに明確に区分して登録情報を取り扱わなければならないものであること。
(4) 紹介予定派遣における派遣労働者の特定に当たっての年齢、性別等による差別防止に係る措置
 上記の措置と関連して、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の18の(3)及び(4)において、派遣先は、紹介予定派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為又は派遣労働者の特定(以下「特定等」という。)を行うに当たっては、直接採用する場合と同様に、雇用対策法第10条及び雇用対策法施行規則第1条の3並びに男女雇用機会均等法に基づく「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)」の内容と同様の内容の措置を適切に講ずるものとすることとされている(第9の14の(3)参照)ことに十分に留意すること。
 
[2]紹介予定派遣
1.紹介派遣の定義
 紹介予定派遣とは、労働者派遣のうち、法第5条第1項の許可を受けた一般派遣元事業主又は法第16 条第1項の規定により届出書を提出した特定派遣元事業主が、労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者及び派遣先に対して、職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして、職業紹介を行い、又は行うことを予定してするものをいい、当該職業紹介により、当該派遣労働者が当該派遣先に雇用される旨が、当該労働者派遣の役務の提供の終了前に当該派遣労働者と当該派遣先との間で約されるものを含む(法第2条第6号)。
(2) 紹介予定派遣については、派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止に係る規定を適用しない(法第26 条第7項)。
 紹介予定派遣を行う場合の取扱いについては、第1の4及び第7の2(1)によるほか、派遣元事業主は次の(1)から(6)に留意すること。
2.紹介派遣の留意点
(1) 紹介予定派遣の期間
 派遣元事業主は、紹介予定派遣を行うに当たっては、6か月を超えて、同一の派遣労働者の労働者派遣を行わないものとすること(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の12の(1)、第8の23参照)。
(2) 派遣先が職業紹介を希望しない場合又は派遣労働者を雇用しない場合の理由の明示
   派遣元事業主は、紹介予定派遣を行った派遣先が職業紹介を受けることを希望しなかった場合又は職業紹介を受けた派遣労働者を雇用しなかった場合には、派遣労働者の求めに応じ、派遣先に対して、それぞれその理由について、書面、ファクシミリ又は電子メールにより明示するよう求めるものとすること。また、派遣先から明示された理由を、派遣労働者に対して書面、ファクシミリ又は電子メール(ファクシミリ又は電子メールによる場合にあっては、当該派遣労働者が希望した場合に限る。)により明示するものとすること(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の12の(2)、第8の23参照)。なお、この場合の派遣労働者に対するファクシミリ又は電子メールによる明示に関しては、9の(6)のイからハまでに掲げる留意点に十分留意する必要があること。
   イに関連して、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の18の(2)において、派遣先は、紹介予定派遣を受け入れた場合において、職業紹介を受けることを希望しなかった場合又は職業紹介を受けた派遣労働者を雇用しなかった場合には、派遣元事業主の求めに応じ、それぞれのその理由を、派遣元事業主に対して書面、ファクシミリ又は電子メールにより明示することとされているので、十分留意すること。
(3) 派遣就業期間の短縮
   当初予定していた紹介予定派遣の派遣期間については、三者(派遣労働者、派遣先、派遣元事業主)の合意の下これを短縮し、派遣先と派遣労働者との間で雇用契約を締結することが、可能であること。
 ロ  早期の職業紹介による派遣先の直接雇用を実現できるようにする観点から、三者の合意に基づき、当初の契約において、派遣就業期間の短縮(派遣契約の終了)がある旨及びその短縮される期間に対応する形で紹介手数料の設定を行うことが認められる旨を定めることは可能であり、この場合において派遣就業期間が短縮されたときには、当該契約に基づき派遣元事業主(職業紹介事業者)がこれに対応した手数料を徴収しても差し支えないこと。
   イ及びロの特約による派遣就業期間の短縮(派遣契約の終了)は、あくまで職業紹介による派
 遣先の直接雇用の早期実現を可能とするために認められるものであり、派遣先の責に帰すべき事由により派遣契約の中途解除が行われるような目的で行ってはならない旨派遣先に周知すること。
(4) 求人・求職の意思確認を行う時期、及び職業紹介を行う時期の早期化
   当初予定していた紹介予定派遣の求人・求職の意思確認を行う時期、及び職業紹介を行う時期については、三者(派遣労働者、派遣先及び派遣元事業主)の合意の下、これを早期化することが可能であること。
   早期の派遣先の直接雇用を実現できるようにする観点から、三者の合意に基づき、当初の契約において、求人・求職の意思確認及び職業紹介の早期化がある旨を定めることは可能であること。
   イ及びロの特約による求人・求職の意思確認及び職業紹介の早期化は、あくまで派遣先の直接雇用の早期実現を可能とするために認められるものであり、派遣先の責に帰すべき事由により派遣契約の中途解除が行われるような目的で行ってはならない旨派遣先に周知すること。
(5) 紹介予定派遣における派遣労働者を特定することを目的とする行為
  年齢・性別による差別の禁止
 紹介予定派遣については、派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為が可能であるが、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の18の(3)及び(4)において、派遣先は、紹介予定派遣に係る特定等を行うに当たっては、直接採用する場合と同様に、雇用対策法第10条及び雇用対策法施行規則第1条の3並びに男女雇用機会均等法に基づく「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」の内容と同様の内容の措置を適切に講ずるものとすることとされている(第9の14の(3)参照)こと
に派遣元事業主としても十分に留意すること。
   派遣労働者の特定
 紹介予定派遣について派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為が認められるのは、あくまで円滑な直接雇用を図るためであることに鑑み、派遣先が、試験、面接、履歴書の送付等により派遣労働者を特定する場合は、業務遂行能力に係る試験の実施や資格の有無等、社会通念上、公正と認められる客観的な基準によって行われることが必要であることに、派遣元事業主としても十分に留意すること。
(6) その他
   紹介予定派遣においては、派遣先及び派遣労働者の求人・求職の意思等を確認して職業紹介が行われるものであり、当該意思等のいかんによっては職業紹介が行われないこともあることを派遣労働者及び派遣先に明示すること。
  派遣受入期間の制限を免れる目的で紹介予定派遣を行うものではないこと。
   紹介予定派遣の場合に派遣元事業主が行う職業紹介についても、当然に職業安定法第3条(均等待遇)、第5条の4(求職者等の個人情報の取扱い)等の職業紹介に係る関係法令が適用されるものであり、その旨派遣元事業主に対して十分周知すること。
 
[3]労働関係法の派遣元・派遣先での適用関係
 労働基準法等の労働者保護法規の労働者派遣事業に対する適用については、原則として派遣中の労働者と労働契約関係にある派遣元の事業主が責任を負う立場にある。しかしながら、派遣中の労働者に関しては、その者と労働契約関係にない派遣先の事業主が業務遂行上の具体的指揮命令を行い、また実際の労働の提供の場における設備、機械等の設置・管理も行っているため、派遣中の労働者について、その保護に欠けることのないようにする観点から、派遣先における具体的な就業に伴う事項であって、労働者派遣の実態から派遣元の事業主に責任を問うことの困難な事項、派遣労働者保護の実効を期すうえから派遣先の事業主に責任を負わせることが適当な事項については、派遣先の事業主に責任を負わせることとし、労働基準法、労働安全衛生法、じん肺法、作業環境測定法及び雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律につき適用の特例等に関する規定を設けている(法第44条から第47条の2まで)。
 
・法律別の派遣元・派遣先の責任分担表
1.労働基準法
    派遣元                 派遣先
均等待遇                    均等待遇              
男女同一賃金の原則               強制労働の禁止
強制労働の禁止                 公民権行使の保障               
労働契約                    労働時間、休憩、休日
賃金                     
1か月単位の変形労働時間制、フレックスタイム  労働時間及び休日(年少者)
制、1年単位の変形労働時間制の協定の締結・届  深夜業(年少者)
出、時間外・休日労働の協定の締結・届出、事業  危険有害業務の就業制限
場外労働に関する協定の締結・届出、専門業務型   (年少者及び妊産婦等)
裁量労働制に関する協定の締結・届出       坑内労働の禁止(年少者)
時間外・休日、深夜の割増賃金          坑内業務の就業制限(妊産婦等)
年次有給休暇                  産前産後の時間外、休日、深夜業
最低年齢                    育児時間
年少者の証明書                 生理日の就業が著しく困難な
帰郷旅費(年少者)                女性に対する措置
産前産後の休業                 徒弟の弊害の排除
徒弟の弊害の排除                申告を理由とする不利益取扱禁止
職業訓練に関する特例              国の援助義務
災害補償                    法令規則の周知義務
就業規則                      (就業規則を除く)
寄宿舎                     
申告を理由とする不利益取扱禁止
国の援助義務
法令規則の周知義務
労働者名簿
賃金台帳
記録の保存                   記録の保存
報告の義務                   報告の義務
 
2.労働安全衛生法
    派遣元                 派遣先 
職場における安全衛生を確保する事業者の責務   職場における安全衛生を確保する事業者の責務
事業者等の実施する労働災害の防止に関する措   事業者等の実施する労働災害の防止に関す  
置に協力する労働者の責務             置に協力する労働者の責務
労働災害防止計画の実施に係る厚生労働大臣の   労働災害防止計画の実施に係る厚生労働大臣の
勧告等                      勧告等
総括安全衛生管理者の選任等           総括安全衛生管理者の選任等
衛生管理者の選任等               安全管理者の選任等
安全衛生推進者の選任等             衛生管理者の選任等
産業医の選任等                 安全衛生推進者の選任等
衛生委員会                   産業医の選任等
安全管理者等に対する教育等           作業主任者の選任等
安全衛生教育(雇入れ時、作業内容変更時)    統括安全衛生責任者の選任等
危険有害業務従事者に対する教育         元方安全衛生管理者の選任等
中高年齢者等についての配慮           店社安全衛生管理者の選任等
事業者が行う安全衛生教育に対する国の援助    安全委員会
健康診断(一般健康診断等、当該健康診断結果に  衛生委員会
ついての意見聴取)               安全管理者等に対する教育等
健康診断(健康診断実施後の作業転換等の措置)  労働者の危険又は健康障害を防止
健康診断の結果通知                するための措置
医師等による保健指導               ・事業者の講ずべき措置
医師による面接指導等               ・労働者の遵守すべき事項
健康教育等                    ・事業者の行うべき調査等
体育活動等についての便宜供与等          ・元方事業者の講ずべき措置
申告を理由とする不利益取扱禁止          ・特定元方事業者の講ずべき措置
報告等                     定期自主検査
法令の周知                   化学物質の有害性の調査
書類の保存等                  安全衛生教育(作業内容変更時、
事業者が行う安全衛生施設の整備等に対す      危険有害業務就業時)
る国の援助                   職長教育
疫学的調査等                  危険有害業務従事者に対する教育
                        就業制限
                        中高年齢者等についての配慮
                        事業者が行う安全衛生教育に対する国の援助
                        作業環境測定
                        作業環境測定の結果の評価等
                        作業の管理
                        作業時間の制限
                        健康診断(有害な業務に係る健康診断等、
                        当該健康診断結果についての意見聴取)
                        健康診断(健康診断実施後の作業転換等
                         の措置)
                        病者の就業禁止
                        健康教育等
                        体育活動等についての便宜供与等
                        快適な職場環境の形成のための措置
                        安全衛生改善計画等
                        機械等の設置、移転に係る計画の届出、審査等
                        申告を理由とする不利益取扱禁止
                        使用停止命令等
3.じん肺法
    派遣元                 派遣先 
じん肺健康診断の結果に基づく事業者の責務    事業者及び労働者のじん肺の予防に関する
粉じんにさらされる程度を軽減させるため      適切な措置を講ずる責務
 の措置                    じん肺の予防及び健康管   
作業の転換                    に関する教育     
転換手当                    じん肺健康診断の実施
作業転換のための教育訓練            じん肺管理区分の決定等
政府の技術的援助等               じん肺健康診断の結果に
申告を理由とする不利益取扱禁止          基づく事業者の責務
報告                      粉じんにさらされる程度を
                         軽減させるための措
                        作業の転換
                        作業転換のための教育訓練
                        政府の技術的援助等
                        法令の周知
                        申告を理由とする不利益取扱禁止
                        報告
 
4.作業環境測定法
    派遣元                 派遣先 
    なし                  作業環境測定士又は作業環境測定
                         機関による作業環境測定の実施
 
5.雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
    派遣元                 派遣先 
妊娠・出産等を理由とする解雇その他       妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
 不利益取扱いの禁止              職場における性的な言動に起因する
職場における性的な言動に起因する問題に関す    問題に関する雇用管理上の措置
 る雇用管理上の措置              妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
 
 
 
 
以上で労働者派遣法「重要事項のまとめ2」
 および労働者派遣法の考察を終了します。
ご高覧ありがとうございました。
 
 
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労働者派遣法 重要事項のまとめ1

2015年06月27日 14:15

派遣労働者の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

[1] 企業名の勧告、公表

法第4条第3項、第24条の2、第40条の2第1項、第40条の4、第40条の5又は第40条の6第1項の規定に違反している者に対する勧告、公表
(1) 概要
 労働者派遣事業を行う事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者において、法第4条第3項、第24条の2、第40条の2第1項、第40条の4、第40条の5又は第40条の6第1項の規定に違反する行為があった場合、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者は、勧告(法第49条の2第1項及び第2項)及び公表(法第49条の2第3項)の措置の対象となる。
(2) 法第4条第3項、第24条の2、第40条の2第1項の規定、第40条の4、第40条の5又は第40条の6第1項の規定に違反している者に対する勧告
   概要
 厚生労働大臣は、労働者派遣の役務の提供を受ける者がその指揮命令の下に派遣労働者を適用除外業務に従事させている場合(法第4条第3項の規定違反)、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けている場合(法第24条の2の規定違反)若しくは派遣先を離職して1年以内の者(60歳以上の定年退職者を除く。)について、当該派遣先が当該者を派遣労働者として受け入れ、労働者派遣の役務の提供を受けていた場合(法第40条の6第1項違反)又は当該者に法の規定による指導又は助言(第12の4参照)をした場合において、当該者がなお、違法行為を行っており又は違法行為を行うおそれがあると認めるときは、当該者に対し、これらの規定に違反する派遣就業を是正するために必要な措置又はこれらの派遣就業が行われることを防止するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる(法第49条の2第1項)。
 また、厚生労働大臣は、派遣先の事業所その他の派遣就業の場所ごとの同一の業務(第9の4の(3) のイの①から⑤までに掲げる業務を除く。)について、派遣元事業主から派遣受入期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けている場合(法第40条の2第1項の規定違反)又は当該派遣先に法の規定による指導又は助言(第12の4参照)をした場合において、当該派遣先がなお、違法行為を行っており又は行うおそれがあると認めるときは、当該派遣先に対し、この規定に違反する派遣就業を是正するために必要な措置又は当該派遣就業が行われることを防止するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる(法第49条の2第1項)(法第49条の2第2項の規定に基づく、厚生労働大臣による派遣先への派遣労働者の雇入れ勧告制度については、第9の4の(7)参照)。
 厚生労働大臣は、派遣先が派遣停止の通知を受けながら派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の前日までに労働契約の申込みをせず、派遣受入期間に抵触することとなる最初の日以降継続して派遣労働者を使用した場合(法第40条の4違反)又は当該派遣先に法の規定による指導又は助言(第12の4参照)をしたにもかかわらず、当該派遣先がなお法第40条の4の規定に違反しており又は違反するおそれがあると認めるときは、当該派遣先に対し、法第40条の4の規定による労働契約の申込みをすべきことを勧告することができる(法第49条の2第1項、第9の5の(1)のホ参照)。
 また、厚生労働大臣は、第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務について、派遣元事業主から3年を超える期間継続して同一の派遣労働者(期間を定めないで雇用する派遣労働者である旨の通知を受けている場合を除く。)に係る労働者派遣の役務の提供を受けている派遣先が労働契約の申込み義務を果たさなかった場合(法第40条の5違反)又は当該派遣先に法の規定による指導又は助言(第12の4参照)をしたにもかかわらず、当該派遣先がなお法第40条の5の規定に違反しており、又は違反するおそれがあると認めるときは、当該派遣先に対し、法第40条の5の規定による労働契約の申込みをすべきことを勧告することができる(法第49条の2第1項、第9の5の(2)のニ参照)。
   意義
 (イ) 勧告は、法益侵害性の高い行為、又は指導若しくは助言によっても、なお違法行為を是正しない、若しくは違法行為を行う可能性がある悪質な場合に行う。
 (ロ) 「派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主」とは、許可を受けず又は届出を行わずに違法に労働者派遣事業を行う事業主のことである。
 (ハ) 「違法行為を行うおそれがあると認めるとき」とは、現時点では法違反の状態にはないが、例えば、これまでに不適正な派遣就業を行わせたことのある者であって、その者における業務の処理状況、派遣先責任者等の業務の遂行状況、労働者派遣契約の締結状況等から、今後、再び法違反を犯すおそれがあると判断される場合をいうものである。
 (ニ) 「是正するために必要な措置」とは、当該違法な派遣就業を行わせることを中止することである。
 (ホ) 「防止するために必要な措置」とは、具体的には、例えば、派遣労働者が従事していた業務の処理体制の改善、派遣先責任者等による適正な派遣就業を図るための業務遂行体制の確立等のことである。
   権限の委任
 勧告に関する厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長が行うものとする。ただし、厚生労働大臣が自らその権限を行うことは妨げられない。
   勧告実施の手続等
 (イ) 厚生労働大臣は勧告を行うことを決定したときは、ただちに労働者派遣受入適正実施勧告書(第15 様式集参照)又は第9の5の(1)のホ及び(2)のニの様式による労働契約申込勧告書を作成し、管轄都道府県労働局を経由して当該勧告の対象となる者に対して交付する。
 都道府県労働局長は勧告を行うことを決定したときは、ただちに労働者派遣受入適正実施勧告書(第15 様式集参照)又は第9の5の(1)のホ及び(2)のニの様式による労働契約申込勧告書を作成し、当該勧告の対象となる者に対して交付する。
 (ロ) 労働者派遣受入適正実施勧告書及び雇用契約申込勧告書には、当該勧告に従わない場合は、その旨を公表することがある旨を記載する。
(3) 法第4条第3項、第24条の2、第40条の2第1項、第40条の4、第40条の5又は第40条の6第1項の規定に違反している者に対する公表
   概要
 厚生労働大臣は、(2)の勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる(法第49条の2第3項)。
 ロ  意義
 公表は、公表される者に対する制裁効果に加え、派遣元事業主及び派遣労働者に対する情報提供
・注意喚起及び他の労働者派遣事業主より労働者派遣の役務の提供を受ける者に対する違法行為の抑止といった効果を期待することができる。
   公表を行う場合
 「勧告を受けた者がこれに従わなかったとき」とは、勧告された必要な措置を講じていない場合であって、指導によってもこれを改めようとしない場合をいう。
   公表の決定
 公表の決定は厚生労働大臣が行う。
 
[2] JV、派遣店員
○JVと労働者派遣 ジョイント・ベンチャー(JV)との関係
  JVの請負契約の形式による業務の処理
(イ) JVは、数社が共同して業務を処理するために結成された民法上の組合(民法第667 条)の一種であり、JV自身がJV参加の各社(以下「構成員」という。)の労働者を雇用するという評価はできないが、JVが民法上の組合である以上、構成員が自己の雇用する労働者をJV参加の他社の労働者等の指揮命令の下に従事させたとしても、通常、それは自己のために行われるものとなり、当該法律関係は、構成員の雇用する労働者を他人の指揮命令を受けて、「自己のために」労働に従事させるものであり、法第2条第1号の「労働者派遣」には該当しない。
 しかしながら、このようなJVは構成員の労働者の就業が労働者派遣に該当することを免れるための偽装の手段に利用されるおそれがあり、その法的評価を厳格に行う必要がある。
 (ロ) JVが民法上の組合に該当し、構成員が自己の雇用する労働者をJV参加の他社の労働者等の指揮命令の下に労働に従事させることが労働者派遣に該当しないためには、次のいずれにも該当することが必要である。
  JVが注文主との間で締結した請負契約に基づく業務の処理について全ての構成員が連帯して責任を負うこと。
  JVの業務処理に際し、不法行為により他人に損害を与えた場合の損害賠償義務について全ての構成員が連帯して責任を負うこと。
  全ての構成員が、JVの業務処理に関与する権利を有すること。
  全ての構成員が、JVの業務処理につき利害関係を有し、利益分配を受けること。
  JVの結成は、全ての構成員の間において合同的に行わなければならず、その際、当該JVの目的及び全ての構成員による共同の業務処理の2点について合意が成立しなければならないこと。
  全ての構成員が、JVに対し出資義務を負うこと。
  業務の遂行に当たり、各構成員の労働者間において行われる次に掲げる指示その他の管理が常に特定の構成員の労働者等から特定の構成員の労働者に対し一方的に行われるものではなく、各構成員の労働者が、各構成員間において対等の資格に基づき共同で業務を遂行している実態にあること。
 ① 業務の遂行に関する指示その他の管理(業務の遂行方法に関する指示その他の管理、業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理)
 ② 労働時間等に関する指示その他の管理(出退勤、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)、時間外労働、休日労働における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。))
 ③ 企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理(労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理、労働者の配置等の決定及び変更)
  請負契約により請け負った業務を処理するJVに参加するものとして、a、b及びfに加えて次のいずれにも該当する実態にあること。
 ① 全ての構成員が、業務の処理に要する資金につき、調達、支弁すること。
 ② 全ての構成員が、業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としての責任を負うこと。
 ③ 全ての構成員が次のいずれかに該当し、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと。
  業務の処理に要する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材を、自己の責任と負担で相互に準備し、調達すること。
  業務の処理に要する企画又は専門的な技術若しくは経験を、自ら相互に提供すること。
 (ハ) JVが(ロ)のいずれの要件をも満たす場合については、JVと注文主との間で締結した請負契約に基づき、構成員が業務を処理し、また、JVが代表者を決めて、当該代表者がJVを代表して、注文主に請負代金の請求、受領及び財産管理等を行っても、法において特段の問題は生じないと考えられる。
  JVによる労働者派遣事業の実施
 (イ) JVは、数社が共同して業務を処理するために結成された民法上の組合(民法第667 条)であるが、法人格を取得するものではなく、JV自身が構成員の労働者を雇用するという評価はできないため(イの(イ)参照)、JVの構成員の労働者を他人の指揮命令を受けて当該他人のための労働に従事させ、これに伴い派遣労働者の就業条件の整備等に関する措置を講ずるような労働者派遣事業を行う主体となることは不可能である。したがって、JVがイに述べた請負契約の当事者となることはあっても、法第26 条に規定する労働者派遣契約の当事者となることはない。
 (ロ)このため、数社が共同で労働者派遣事業を行う場合にも、必ず個々の派遣元と派遣先との間でそれぞれ別個の労働者派遣契約が締結される必要があるが、この場合であっても、派遣元がその中から代表者を決めて、当該代表者が代表して派遣先に派遣料金の請求、受領及び財産管理等を行うことは、法において特段の問題は生じないものと考えられる。
 (ハ) この場合、派遣先において、派遣元の各社が自己の雇用する労働者を派遣元の他社の労働者の指揮命令の下に労働に従事させる場合、例えば特定の派遣元(A)の労働者が特定の派遣元(B、C)の労働者に対し一方的に指揮命令を行うものであっても、派遣元(A)の労働者は派遣先のために派遣先の業務の遂行として派遣元(B、C)の労働者に対して指揮命令を行っており、派遣元(B、C)の労働者は、派遣先の指揮命令を受けて、派遣先のために労働に従事するものとなるから、ともに法第2条第1号の「労働者派遣」に該当し、法において特段の問題は生じない。
  その他
 JVの行う労働者派遣事業に類するものとして、次の点に留意すること。
 (イ) 派遣元に対して派遣先を、派遣先に対して派遣元をそれぞれあっせんし、両者間での労働者派遣契約の結成を促し、援助する行為は法上禁止されていないこと(5)のニ、第1-4図参照)。
 (ロ)また、派遣元のために、当該派遣元が締結した労働者派遣契約の履行について派遣先との間で保証その他その履行を担保するための種々の契約の締結等を行うことも、同様に法上禁止されていないこと(第1-4図参照)。
 
○派遣店員との関係
  デパートやスーパー・マーケットのケース貸し等に伴ってみられるいわゆる派遣店員は、派遣元に雇用され、派遣元の業務命令により就業するが、就業の場所が派遣先事業所であるものである。
  この場合において、就業に当たって、派遣元の指揮命令を受け、通常派遣先の指揮命令は受けないものは、請負等の事業と同様((3)参照)「他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させる」ものではなく、労働者派遣には該当しないが、派遣先が当該派遣店員を自己の指揮命令の下に労働に従事させる場合は労働者派遣に該当することとなる(第1-5図参照)。
   現実にも、派遣店員に関する出退勤や休憩時間に係る時間の把握等については、派遣先の事業主や従業者等に委任される場合があるが、このことを通じて、実質的に労働者派遣に該当するような行為(例えば、派遣先の事業主や従業者から派遣元の事業とは無関係の業務の応援を要請される等)が行われることのないよう、関係事業主に対し、派遣店員に係る法律関係についての周知徹底等を行っていく必要がある。
(8) その他
 老人、身体障害者等に対する家庭奉仕員派遣事業、母子家庭等介護人派遣事業、盲人ガイドヘルパー派遣事業、手話奉仕員派遣事業、脳性マヒ者等ガイドヘルパー派遣事業その他これらに準ずる社会福祉関係の個人を派遣先とする派遣事業については、法施行前は職業安定法第44 条で禁止する労働者供給事業に該当しないものとして判断されてきたが、これらの事業が、今後従来と同様法第2条第1号の「労働者派遣」に該当しない態様により行われる限りにおいて、「派遣」という名称とは関わりなく、①派遣元が国、地方公共団体、民間のいずれであるかを問わず、また、②派遣先が不特定多数の個人であるか、特定の会員等であるかを問わず、労働者派遣事業とはならないものであること。

 

以上で労働者派遣法「重要事項のまとめ1」を終了します。

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労働者派遣法第58条、第59条、第60条、第61条、第62条

2015年06月27日 13:17

労働者亜派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第58条(罰則)

 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は、一年以上

十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。

 

第59条

 

 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

一 第四条第一項又は第十五条の規定に違反した者

二 第五条第一項の許可を受けないで一般労働者派遣事業を行つた者

三 偽りその他不正の行為により第五条第一項の許可又は第十条第二項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者

四 第十四条第二項又は第二十一条の規定による処分に違反した者

 

第60条

 

 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

第61条

 

 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

一 第五条第二項(第十条第五項において準用する場合を含む。)に規定する申請書、第五条第三項(第十条第五項において準用する場合を含む。)に規定する書類、第十六条第一項に規定する届出書又は同条第二項に規定する書類に虚偽の記載をして提出した者

二 第十一条第一項、第十三条第一項、第十九条第一項、第二十条若しくは第二十三条第四項の規定による届出をせず、若しくは虚偽の届出をし、又は第十一条第一項若しくは第十九条第一項に規定する書類に虚偽の記載をして提出した者

三 第三十四条、第三十五条の二第一項、第三十六条、第三十七条、第四十一条又は第四十二条の規定に違反した者

四 第三十五条の規定による通知をせず、又は虚偽の通知をした者

五 第五十条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

六 第五十一条第一項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした者

 

第62条(両罰規定)

 

 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人

の業務に関して、第五十八条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほ

か、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

 

 

業務取扱要領(罰則)

1.概要
 労働者派遣事業の適正な運用を確保し労働力需給の適正な調整を図るとともに、派遣労働者の適正な就業条件を確保することにより、その保護及び雇用の安定を図るため、派遣労働者等からの相談に対する適切な対応や、派遣元事業主、派遣先等に対する労働者派遣事業制度の周知徹底、指導、助言及び指示を通じて違法行為の防止を行うとともに法違反を確認した場合には、所要の指導、助言、指示、行政処分又は告発を行うこととする。

 

2.罰則該当行為等

 ア 不利益取扱いの禁止(法第49条の3)

 労働者派遣を行う事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者が、法又は法に基づく命令の規定に違反していた場合については、派遣労働者は、その事実を厚生労働大臣に申告することができるが、当該申告を行ったことを理由として、労働者派遣を行う事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者が当該派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととされている(法第49 条の3)。
 なお、不利益取扱いの禁止の規定に違反した場合は、法第60 条第2号に該当し、6か月以下の懲役又は30 万円以下の罰金に処せられる場合がある。
 イ 報告義務(法第50条)
 当該報告は、定期報告(法第23 条第1項及び第3項。第6の1及び2参照)とは異なり、当該定期報告だけでは、事業運営の状況及び派遣労働者の就業状況を十分把握できない場合であって、違法行為の行われているおそれのある場合等特に必要がある場合について個別的に必要な事項を報告させるものである。
 この報告をせず、又は虚偽の報告をした場合は、法第61 条第5号に該当し、30 万円以下の罰
金に処せられる場合がある。
 ウ 立ち入り検査(法第51条第1項)
 厚生労働大臣は、法(第3章第4節の規定は除く。)を施行するために必要な限度において、職業安定機関の職員に、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所その他の施設に立ち入り、関係者に質問させ、又は帳簿、書類その他の物件を検査させることができる(法第51 条第1項)。
 この立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした場合は、法第61 条第6号に該当し、30 万円以下の罰金に処せられる場合がある。
 
3.罰則のまとめ
①罰則内容(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
 条文           違反行為         
第4条第1項    適用除外業務について、労働者派遣事業を行った者
第5条第1項  厚生労働大臣の許可を受けないで一般労働者派遣事業を行った者
   又は   偽りその他不正の行為により一般労働者派遣事業の許可を受けた者
 
②罰則内容(30万円以下の罰金)
 条文           違反行為
第5条第2項  一般労働者派遣事業の許可又は許可の有効期間の更新の申請書、事業計画書
又は第3項   等の書類に虚偽の記載をして提出した者
(第10条第5
項において準
用する場合を
含む。)
第11条第1項  一般労働者派遣事業の氏名等の変更の届出をせず、又は虚偽の届出を
        した
第13条第1項  一般労働者派遣事業の廃止の届出をせず、又は虚偽の届出をした者
第16条第1項  特定労働者派遣事業の届出書に虚偽の記載をして提出した者
第16条第2項  特定労働者派遣事業の事業計画書等の書類に虚偽の記載をして提出
        した者
第19条第1項  特定労働者派遣事業の届出書の記載事項の変更の届出をせず、又は虚偽の
        届出をした者
第20条     特定労働者派遣事業の廃止の届出をせず、又は虚偽の届出をした者
第23条第4項  海外派遣の届出をせず、又は虚偽の届出をした者
第34条     労働者派遣をしようとする場合に、あらかじめ、当該派遣労働者に就業条件
        等の明示を行わなかった者
第35条     労働者派遣をするとき、派遣労働者の氏名等を派遣先に通知をせず、又は虚
        偽の通知をした者
第35条の2   労働者派遣の役務の提供を受ける期の制限に抵触することとなる最初の日
第1項     以降継続して労働者派遣を行った者
第36条     派遣元責任者を選任しなかった者
第37条     派遣元管理台帳を作成若しくは記載せず、又はそれを3年間保存しな
        かった
第41条     派遣先責任者を選任しなかった者       
第42条     派遣先管理台帳を作成若しくは記載せず、それを3年間保存せず、又はその
        記載事項(派遣元事業主の氏名及び名称は除く。)を派遣元事業主に通知し
        なかった者
第50条     必要な報告をせず、又は虚偽の報告をした者
第51条第1項  関係職員の立入検査に際し、立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌
        避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の陳述をした者
③罰則内容(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
 条文           違反行為
第10条第2項  偽りその他不正の行為により一般労働者派遣事業の許可の有効期間の更新を
         受けた者
第14条第2項  期間を定めた一般労働者派遣事業の全部又は一部の停止についての厚生労働
        大臣の命令に違反した者
第15条     一般派遣元事業主の名義をもって、他人に一般労働者派遣事業を行わせた者
第21条     特定労働者派遣事業の廃止又は期間を定めた事業の全部又は一部の停止につ
        いての厚生労働大臣の命令に違反した者
④罰則内容(6月以下の懲役又は30万円以下の罰金)
 条文           違反行為
第16条第1項  厚生労働大臣に届出書を提出しないで特定労働者派遣事業を行った者
  又は    特定労働者派遣事業を行う事業所の新設に係る変更届出の際、事業計画書
        等の添付書類に虚偽の記載をして提出した者
第22条     特定派遣元事業主の名義をもって、他人に特定労働者派遣事業を行わ
        せた者    
第49条第1項  派遣労働者に係る雇用管理の方法の改善その他当該労働者派遣事業の運営を
        改善するために必要な措置を講ずべき旨の厚生労働大臣の命令(改善命令)
        に違反した者
第49条第2項  継続させることが著しく不適当であると認められる派遣就業に係る労働者派
        遣契約による労働者派遣を停止する旨の厚生労働大臣の命令に違反した者
第49条の3   法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合において、派遣労
第2項     働者がその事実を厚生労働大臣に申告したことを理由として、当該派遣労働
        者に対して解雇その他不利益な取扱いをした者
⑤その他の罰則(1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金)
有害派遣    公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者
 
4.両罰規定(法第62条)
 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の義務に関して、上記の違反行為をしたときは、その法人又は人に対しても、各々の罰金刑を科す
 
 
 
 
以上で第58条・第59条・第60条・第61条・第62条を終了します。
 
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労働者派遣法第53条、第54条、第55条、第56条、第57条

2015年06月27日 12:08

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律

第53条(労働者派遣事業適正運営協力員)

 厚生労働大臣は、社会的信望があり、かつ、労働者派遣事業の運営及び派

遣就業について専門的な知識経験を有する者のうちから、労働者派遣事業適

正運営協力員を委嘱することができる。

2労働者派遣事業適正運営協力員は、労働者派遣事業の適正な運営及び適正な派遣

就業の確保に関する施策に協力して、労働者派遣をする事業主、労働者派遣の役務

の提供を受ける者、労働者等の相談に応じ、及びこれらの者に対する専門的な助言

を行う。

3労働者派遣事業適正運営協力員は、正当な理由がある場合でなければ、その職務

に関して知り得た秘密を他に漏らしてはならない。労働者派遣事業適正運営協力員

でなくなつた後においても、同様とする。

4労働者派遣事業適正運営協力員は、その職務に関して、国から報酬を受けない。

5労働者派遣事業適正運営協力員は、予算の範囲内において、その職務を遂行するために要する費用の支給を受けることができる。

 

第54条(手数料)

 

 次に掲げる者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない。

一 第五条第一項の許可を受けようとする者

二 第八条第三項の規定による許可証の再交付を受けようとする者

三 第十条第二項の規定による許可の有効期間の更新を受けようとする者

四 第十一条第四項の規定による許可証の書換えを受けようとする者

 

令第10条(手数料の額)

 法第五十四条の政令で定める額は、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号

に定める額とする。

一 法第五十四条第一号に掲げる者 十二万円(一般労働者派遣事業を行う事業所の数が二以上の場合にあつては、五万五千円に当該事業所数から一を減じた数を乗じて得た額に十二万円を加えた額)

二 法第五十四条第二号に掲げる者 再交付を受けようとする許可証一枚につき千五百円

三 法第五十四条第三号に掲げる者 五万五千円に一般労働者派遣事業を行う事業所の数を乗じて得た額

四 法第五十四条第四号に掲げる者 書換えを受けようとする許可証一枚につき三千円

 

則第54条(手数料の納付方法等)

 法第五十四条の規定による手数料は、申請書に当該手数料の額に相当する額の収入印紙をはつて、納付しなければならない。

前項の手数料は、これを納付した後においては、返還しない。

 

第55条(経過措置の命令への委任)

 

 この法律の規定に基づき政令又は厚生労働省令を制定し、又は改廃する場合においては、それぞれ政令又は厚生労働省令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。

 

 

第56条(権限の委任)

 

 この法律に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

 

則第55条(権限の委任)

 次に掲げる厚生労働大臣の権限は、労働者派遣事業を行う者の主たる事務所及び

当該事業を行う事業所の所在地並びに労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所

その他派遣就業の場所の所在地を管轄する都道府県労働局長に委任する。ただし、

厚生労働大臣が自らその権限を行うことを妨げない。

一 法第十四条第二項の規定による命令

二 法第二十一条第二項の規定による命令

三 法第四十八条第一項の規定による指導及び助言、同条第二項の規定による勧告並びに同条第三項の規定による指示

四 法第四十九条第一項及び第二項の規定による命令

五 法第四十九条の二第一項及び第二項の規定による勧告

六 法第五十条の規定による報告徴収

七 法第五十一条の規定による立入検査

 

第57条(厚生労働省令への委任)

 

 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な手続その他の事項は、厚生労働省令で定める。

 

 

業務取扱要領による確認

1.労働者派遣事業運営協力員(長野労働局HPより)

 労働者派遣事業適正運営協力員制度は、労働者派遣事業の適正な運営及び適正な派遣・就業の確保に関する施策に協力して、派遣元事業主、派遣先、派遣労働者等の相談に応じて、専門的な助言を行うこと等を目的とする制度です。

  労働者派遣法の施行に当たっては,行政機関による違法行為の防止、摘発に加え、民間の自主的な活動によって労働者派遣事業の適正な運営及び派遣労働者の保護を図っていくことが必要不可欠です。このため、行政機関の違法行為の防止、摘発を補完するものとして派遣先、派遣労働者等に対する相談援助等を行う労働者派遣事業適正運営協力員を民間から選任しています。 

 厚生労働大臣は、社会的信望があり、かつ、労働者派遣事業の運営及び派遣就業について専門的な知識経験を有する者のうちから、労働者派遣事業適正運営協力員を委嘱することができることとなっています。委嘱された労働者派遣事業適正運営協力員は、労働者派遣事業の適正な運営及び派遣就業の確保に関する施策に協力して、派遣元事業主、派遣先、派遣労働者等の相談に応じ、専門的な助言を行います。 

 各公共職業安定所には、地域の労働者派遣事業適正運営協力員の氏名、連絡先を記載した名簿を掲示し、又は備え付けており、派遣労働者や派遣元事業主等からの問い合わせに応じているほか、自由に閲覧できるようになっています。 

 なお、長野県では、労働者側・使用者側各々10名の労働者派遣事業運営協力員が選任されていま

す。お住まいの各都道府県労働局HPにてご確認ください。

 

2.第54条、第55条

 第54条及び第56条は省略します。

 

3.厚生労働大臣の権限委任

 則第55条の規定により次に掲げる厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長に委任することがで

きます。ただし、大臣みずから権限行使を行ってもよいこととされています。

① 法第十四条第二項の規定による命令

  厚生労働大臣は、一般派遣元事業主が前項第二号又は第三号に該当するときは、期間を定め

  て当該一般労働者派遣事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。 

② 法第二十一条第二項の規定による命令

  厚生労働大臣は、特定派遣元事業主がこの法律(次章第四節の規定を除く。)若しくは職

  業安定法の規定又はこれらの規定に基づく命令若しくは処分に違反したときは、期間

  を定めて当該定労働者派遣事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。 

③ 法第四十八条第一項の規定による指導及び助言、同条第二項の規定による勧告

  並びに同条第三項の規定による指示

 1厚生労働大臣は、この法律(前章第四節の規定を除く。第四十九条の三第一項、第五十条及び

  第五十一条第一項において同じ。)の施行に関し必要があると認めるときは、労働者派遣をす

  る事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、労働者派遣事業の適正な運営又は

  適正な派遣就業を確保するために必要な指導及び助言をすることができる。

 2厚生労働大臣は、労働力需給の適正な調整を図るため、労働者派遣事業が専ら労働者派遣の役

  務を特定の者に提供することを目的として行われている場合(第七条第一項第一号の厚生労働省

  令で定める場合を除く。)において必要があると認めるときは、当該派遣元事業主に対し、当該

  労働者派遣事業の目的及び内容を変更するように勧告することができる。

 3厚生労働大臣は、第二十三条第三項又は第二十三条の二の規定に違反した派遣元事業主に対

  し、第一項の規定による指導又は助言をした場合において、当該派遣元事業主がなお第二十三

  条第三項又は第二十三条の二の規定に違反したときは、当該派遣元事業主に対し、必要な措置

  をとるべきことを指示することができる。

④ 法第四十九条第一項及び第二項の規定による命令

 1厚生労働大臣は、派遣元事業主が当該労働者派遣事業に関しこの法律(第二十三条第三項及び第

  二十三条の二の規定を除く。)その他労働に関する法律の規定(これらの規定に基づく命令の規

  定を含む。)に違反した場合において、適正な派遣就業を確保するため必要があると認めるとき

  は、当該派遣元事業主に対し、派遣労働者に係る雇用管理の方法の改善その他当該労働者派遣

  事業の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。  

 2厚生労働大臣は、派遣先が第四条第三項の規定に違反している場合において、同項の規定に違

  反している派遣就業を継続させることが著しく不適当であると認めるときは、当該派遣先に労

  働者派遣をする派遣元事業主に対し、当該派遣就業に係る労働者派遣契約による労働者派遣の

  停止を命ずることができる。  

⑤ 法第四十九条の二第一項及び第二項の規定による勧告

 1厚生労働大臣は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、第四条第三項、第二十四条の二、第

  四十条の二第一項、第四十条の四、第四十条の五若しくは第四十条の六第一項の規定に違反し

  ているとき、又はこれらの規定に違反して第四十八条第一項の規定による指導若しくは助言を

  受けたにもかかわらずなおこれらの規定に違反するおそれがあると認めるときは、当該労働者

  派遣の役務の提供を受ける者に対し、第四条第三項、第二十四条の二、第四十条の二第一項若

  しくは第四十条の六第一項の規定に違反する派遣就業を是正するために必要な措置若しくは当

  該派遣就業が行われることを防止するために必要な措置をとるべきこと又は第四十条の四若し

  くは第四十条の五の規定による労働契約の申込みをすべきことを勧告することができる。    

 2厚生労働大臣は、派遣先が第四十条の二第一項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受

  けており、かつ、当該労働者派遣の役務の提供に係る派遣労働者が当該派遣先に雇用されるこ

  とを希望している場合において、当該派遣先に対し、第四十八条第一項の規定により当該派遣

  労働者を雇い入れるように指導又は助言をしたにもかかわらず、当該派遣先がこれに従わなか

  つたときは、当該派遣先に対し、当該派遣労働者を雇い入れるように勧告することができる。  

⑥ 法第五十条の規定による報告徴収

  厚生労働大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、厚生労働省令で定めるとこ

  ろにより、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける

  者に対し、必要な事項を報告させることができる。    

⑦ 法第五十一条の規定による立入検査

   厚生労働大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、所属の職員に、労働者派遣

   事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所その他の施

   設に立入り、関係者に質問させ、又は帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

   

   

 

 

以上で第53条・第54条・第55条・第57条を終了します。

 

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労働者派遣法第49条の3、第50条、第51条、第52条

2015年06月27日 10:54

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第49条の3(厚生労働大臣に対する申告

 労働者派遣をする事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者がこの法律又は

これに基づく命令の規定に違反する事実がある場合においては、派遣労働者は、そ

の事実を厚生労働大臣に申告することができる。

2 労働者派遣をする事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者は、前項の申

告をしたことを理由として、派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをして

はならない。

 

第50条(報告)

 

 厚生労働大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、厚生労働省令

で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派

遣の役務の提供を受ける者に対し、必要な事項を報告させることができる。

 

則第47条(報告等)

 厚生労働大臣は、法第五十条の規定により、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し必要な事項を報告させるときは、当該報告すべき事項及び当該報告をさせる理由を書面により通知するものとする。

 

則第48条(立入検査のための証明書

 法第五十一条第二項の証明書は、様式第十四号による。

 

第51条(立入検査)

 

 厚生労働大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、所属の職員に、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所その他の施設に立ち入り、関係者に質問させ、又は帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に

提示しなければならない。

3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解

釈してはならない。

 

第52条(相談及び援助)

 

 公共職業安定所は、派遣就業に関する事項について、労働者等の相談に応じ、及び必要な助言その他の援助を行うことができる。

 

業務取扱要領による確認

1.不利益取扱の禁止

 労働者派遣を行う事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者が、法又は法に基づく命令の規定に違反していた場合については、派遣労働者は、その事実を厚生労働大臣に申告することができるが、当該申告を行ったことを理由として、労働者派遣を行う事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者が当該派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととされている(法第49 条の3)。
 なお、不利益取扱いの禁止の規定に違反した場合は、法第60 条第2号に該当し、6か月以下の懲役又は30 万円以下の罰金に処せられる場合がある。
 また、派遣元事業主については、許可の取消し(法第14 条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21 条第2項)、改善命令(法第49 条第1項)の対象となり、不利益取扱いの禁止の規定違反による司法処分を受けた場合は、許可取消し、事業廃止命令(法第21 条第1項)の対象となる。

 

2.報告

(1) 概要
 厚生労働大臣は、法(第3章第4節の規定は除く。)を施行するために必要な限度において、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、必要な事項を報告させることができる(法第50 条)。
(2) 意義
  当該報告は、定期報告(法第23 条第1項及び第3項。第6の1及び2参照)とは異なり、当該定期報告だけでは、事業運営の状況及び派遣労働者の就業状況を十分把握できない場合であって、違法行為の行われているおそれのある場合等特に必要がある場合について個別的に必要な事項を報告させるものである。
  「労働者派遣事業を行う事業主」とは、許可を受け又は届出をした派遣元事業主のほか違法に労働者派遣事業を行っている事業主も含むものであり、「当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者」とは、派遣元事業主に限らず許可を受け又は届出をせず違法に労働者派遣事業を行う事業主から労働者派遣の役務の提供を受けている者も含むものである。
   「必要な事項」とは、労働者派遣事業の運営に関する事項及び派遣労働者の就業に関する事項であり、具体的には、例えば、個々の労働者の就業条件、派遣期間、派遣先における具体的就業の状況等である。
(3) 報告の徴収の手続
 必要な事項を報告させるときは、当該報告すべき事項及び理由並びに報告期日を書面により通知するものとする(則第47 条)。
(4) 権限の委任
 報告に関する厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長が行うものとする。ただし、厚生労働大臣が自らその権限を行うことは妨げられない。
(5) 違反の場合の効果
  この報告をせず、又は虚偽の報告をした場合は、法第61 条第5号に該当し、30 万円以下の罰金に処せられる場合がある。
   また、許可の取消し(法第14 条第1項)、事業停止命令(法第14 条第2項、第21 条第2項)、改善命令(法第49 条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21 条第1項)の対象となる。

 

3.立ち入り検査

(1) 立入検査の実施
  概要
 厚生労働大臣は、法(第3章第4節の規定は除く。)を施行するために必要な限度において、職業安定機関の職員に、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所その他の施設に立ち入り、関係者に質問させ、又は帳簿、書類その他の物件を検査させることができる(法第51 条第1項)。
  意義
 (イ) 当該立入検査は、違法行為の申告があり、許可の取消し、事業停止命令等の行政処分をするに当たって、その是非を判断する上で必要な場合等5の報告のみでは、事業運営の内容や派遣労働者の就業の状況を十分に把握できないような場合に、限定的に、必要最小限の範囲において行われるものである。
 立入検査の対象となるのは、当該立入検査の目的を達成するため必要な事業所及び帳簿、書類その他の物件に限定されるものである。
 (ロ) 「労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者」は、5の(2)のロと同様である。
 (ハ) 「事業所その他の施設」とは、労働者派遣事業を行う事業主の事業所及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所その他の施設のほか、派遣労働者の就業を管理する施設等に限られる。
 (ホ) 「関係者」とは、労働者派遣事業運営の状況や派遣労働者の就業の状況について質問するのに適当な者をいうものであり、具体的には、派遣労働者、労働者派遣事業を行う事業主、その雇用する一般の労働者、労働者派遣の役務の提供を受ける者、その雇用する労働者等である。
 (ヘ) 「帳簿、書類その他の物件」とは、派遣元管理台帳、派遣先管理台帳、労働者派遣契約等はもちろん、その他労働者派遣事業の運営及び派遣労働者の就業に係る労働関係に関する重要な書類が含まれるものである。
(2) 証明書
  立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を必ず携帯し、関係者に提示しなければならない(法第51 条第2項)。
   立入検査のための証明書は、労働者派遣事業立入検査証(様式第14 号)によるものとする(則第48 条)。
 なお、貼付する写真には、厚生労働省若しくは都道府県労働局の刻印又は厚生労働大臣若しくは都道府県労働局長の印により割印する。
(3) 立入検査の権限
  概要
 当該立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない(法第51 条第3項)。
  意義
 職業安定機関は、司法警察員の権限を有せず、当該立入検査の権限は行政による検査のために認められたものであり、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないものである。
(4) 権限の委任
 立入検査に関する厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長が行うものとする。ただし、厚生労働大臣が自らその権限を行うことは妨げられない。
(5) 違反の場合の効果
  この立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした場合は、法第61 条第6号に該当し、30 万円以下の罰金に処せられる場合がある。
   また、許可の取消し(法第14 条第1項)、事業停止命令(法第14 条第2項、法第21 条第2項)、改善命令(法第49 条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21 条第1項)の対象となる。

 

4.公共職業安定所の相談対応

(1) 概要
 公共職業安定所は、派遣就業に関する事項について、労働者等の相談に応じ、及び必要な助言その他の援助を行うことができる(法第52 条)。
(2) 意義
   派遣就業に関し、適切な就業条件が確保されていない、あるいは違法行為があるといった相談が派遣労働者等から公共職業安定所に対して行われた場合には、公共職業安定所は当該問題事案を解消するための助言を行う。
 なお、派遣就業に関する労働者等からの相談については、公共職業安定所で受け付け、助言を行うものであるが、労働者派遣をする事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者に対する事実確認、所要の指導及び助言、行政処分等の措置については、原則として都道府県労働局が講ずるものである(則第55 条)。
 そのため、違法性の疑いのある事業主に対する指導等に関する相談については、都道府県労働局で受け付け、公共職業安定所で受け付けた場合には、都道府県労働局の需給調整事業担当の相談窓口へ誘導する。
  「労働者等」とは、派遣労働者のほか、派遣労働者として雇用されることを予定する者、以前に派遣労働者として雇用されていた者も含むものである。
(3) 不利益取扱いの禁止
 労働者派遣を行う事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者が、法又は法に基づく命令の規定に違反していた場合については、派遣労働者は、その事実を厚生労働大臣に申告することができるが、当該申告を行ったことを理由として、労働者派遣を行う事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者が当該派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととされている(法第49 条の3)。
 なお、不利益取扱いの禁止の規定に違反した場合は、法第60 条第2号に該当し、6か月以下の懲役又は30 万円以下の罰金に処せられる場合がある。
 また、派遣元事業主については、許可の取消し(法第14 条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21 条第2項)、改善命令(法第49 条第1項)の対象となり、不利益取扱いの禁止の規定違反による司法処分を受けた場合は、許可取消し、事業廃止命令(法第21 条第1項)の対象となる。

 

 

 

 

 

49条の3~52条については、特にまとめの必要がないと思います。

以上で第49条の3・第50条・第51条・第52条を終了します。

 

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労働者派遣法第40条の2

2015年06月25日 13:43

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律

第40条の2(労働者派遣の役務の提供を受ける期間

 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(次に掲げる業務を除く。第三項において同じ。)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

 一 次のイ又はロに該当する業務であつて、当該業務に係る労働者派遣が労働者

     の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資す

     ると認められる雇用慣行を損なわないと認められるものとして政令で定める業

      務 

イ その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務

ロ その業務に従事する労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務

二 前号に掲げるもののほか、次のイ又はロに該当する業務

イ 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であつて一定の期間内に完了することが予定されているもの

ロ その業務が一箇月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の労働者の一箇月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、厚生労働大臣の定める日数以下である業務

三 当該派遣先に雇用される労働者が労働基準法第六十五条第一項及び第二項の規定により休業し、並びに育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業をする場合における当該労働者の業務その他これに準ずる場合として厚生労働省令で定める場合における当該労働者の業務

四 当該派遣先に雇用される労働者が育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第二号に規定する介護休業をし、及びこれに準ずる休業として厚生労働省令で定める休業をする場合における当該労働者の業務

2 前項の派遣可能期間は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める期間とする。

一 次項の規定により労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間が定められている場合 その定められている期間

二 前号に掲げる場合以外の場合 一年

3 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から一年を超え三年以内の期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けようとするときは、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を定めなければならない

4 派遣先は、前項の期間を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、当該派遣先の事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合に対し、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に対し、当該期間を通知し、その意見を聴くものとする。

5 派遣先は、労働者派遣契約の締結後に当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る業務について第三項の期間を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、当該労働者派遣をする派遣元事業主に対し、当該業務について第一項の規定に抵触することとなる最初の日を通知しなければならない。

6 厚生労働大臣は、第一項第一号の政令の制定若しくは改正の立案をし、又は同項第三号若しくは第四号の厚生労働省令の制定若しくは改正をしようとするときは、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴かなければならない。

 

令第5条(法第四十条の二第一項第一号の政令で定める業務)

 法第四十条の二第一項第一号の政令で定める業務は、前条第一項各号に掲げる業務及び次に掲げる業務とする。

一 映像機器、音声機器等の機器であつて、放送番組等(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第一号に規定する放送の放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成される作品であつて録画され、又は録音されているものをいう。以下同じ。)の制作のために使用されるものの操作の業務

二 放送番組等の制作における演出の業務(一の放送番組等の全体的形成に係るものを除く。)

三 建築物における清掃の業務

四 建築設備(建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二条第三号に規定する建築設備をいう。次号において同じ。)の運転、点検又は整備の業務(法令に基づき行う点検及び整備の業務を除く。)

五 建築物に設けられ、又はこれに附属する駐車場の管理の業務その他建築物に出入りし、勤務し、又は居住する者の便宜を図るために当該建築物に設けられた設備(建築設備を除く。)であつて当該建築物の使用が効率的に行われることを目的とするものの維持管理の業務(第三号に掲げる業務を除く。)

六 建築物内における照明器具、家具等のデザイン又は配置に関する相談又は考案若しくは表現の業務(法第四条第一項第二号に規定する建設業務を除く。)

七 放送番組等における高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする原稿の朗読、取材と併せて行う音声による表現又は司会の業務(これらの業務に付随して行う業務であつて、放送番組等の制作における編集への参画又は資料の収集、整理若しくは分析の業務を含む。)

八 電話その他の電気通信を利用して行う商品、権利若しくは役務に関する説明若しくは相談又は商品若しくは権利の売買契約若しくは役務を有償で提供する契約についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくはこれらの契約の申込み若しくは締結の勧誘の業務

九 放送番組等の制作のために使用される舞台背景、建具等の大道具又は調度品、身辺装飾用品等の小道具の調達、製作、設置、配置、操作、搬入又は搬出の業務(法第四条第一項第二号に規定する建設業務を除く。)

十 水道法(昭和三十二年法律第百七十七号)第三条第八項に規定する水道施設の消毒設備その他の設備、下水道法(昭和三十三年法律第七十九号)第二条第三号に規定する公共下水道、同条第四号に規定する流域下水道若しくは同条第五号に規定する都市下水路の消化設備その他の設備若しくは廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)第八条第一項に規定する一般廃棄物処理施設(同項に規定するごみ処理施設にあつては、一日当たりの処理能力が十トン以上のものに限る。)の焼却設備その他の設備の運転、点検若しくは整備の業務(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする運転、点検又は整備の業務に限る。)又は非破壊検査用の機器の運転、点検若しくは整備の業務

 


則第33条(法第四十条の二第一項第三号の厚生労働省令で定める場合)

 法第四十条の二第一項第三号の厚生労働省令で定める場合は、労働基準法第六十

五条第一項の規定による休業に先行し、又は同条第二項の規定による休業若しくは

育児休業に後続する休業であつて、母性保護又は子の養育をするためのものをする

場合とする。

 

第33条の2(法第四十条の二第一項第四号の厚生労働省令で定める休業)

 法第四十条の二第一項第四号の厚生労働省令で定める休業は、介護休業に後続す

る休業であつて育児・介護休業法第二条第四号に規定する対象家族を介護するため

にする休業とする。

 

第33条の3(労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間に関する事項)

 法第四十条の二第三項の規定により労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を定めるに当たつては、次に掲げる事項を書面に記載し、当該労働者派遣の終了の日から三年間保存しなければならない。

一 意見を聴いた法第四十条の二第四項に規定する労働者の過半数で組織する労働組合(以下この条及び次条において「過半数組合」という。)の名称又は労働者の過半数を代表する者(以下この条及び次条において「過半数代表者」という。)の氏名

二 次条第四項の規定により過半数組合又は過半数代表者に通知した事項及び通知した日

三 過半数組合又は過半数代表者から意見を聴いた日及び当該意見の内容

四 意見を聴いて、次条第四項第二号の労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間又は変更しようとする期間を変更したときは、その変更した期間

 

第33条の4

 過半数代表者は、次の各号のいずれにも該当する者とする。

一 労働基準法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。

二 法第四十条の二第四項の規定により意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。

2 前項第一号に該当する者がいない事業所にあつては、過半数代表者は前項第二

号に該当する者とする。

3 派遣先は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうと

したこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱

いをしないようにしなければならない。

4 法第四十条の二第四項の規定により過半数組合又は過半数代表者に対し意見を

聴く場合は、当該過半数組合又は過半数代表者に、次に掲げる事項を書面により通

知しなければならない。

一 労働者派遣の役務の提供を受けようとする業務

二 労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を新たに定める場合にあつては当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間及び開始予定時期、労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を変更しようとする場合にあつては当該変更しようとする期間

5 法第四十条の二第五項の規定による通知は、同項の規定により通知すべき事項

に係る書面の交付等により行わなければならない。

 

派遣受け入れ期間

(いわゆる26業務を除き、1年又は1年~3年の期間内で派遣契約で定める期間、期限がある業務は3年以内のその期間、産休・育休・介護休の代替期間等)

1.派遣受入期間の制限の適切な運用
(1) 概要
 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(一部の業務を除く。)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない(法第40 条の2)。
(2) 意義
 「臨時的・一時的」な労働力の適正・迅速な需給調整のために行う労働者派遣について、派遣先における常用雇用労働者の派遣労働者による代替の防止の確保を図るためである。
(3) 派遣受入期間の制限を受ける業務の範囲
  派遣先は、次の①から⑤までの場合を除いて、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から派遣可能期間((5)により意見聴取を経て3年以内の派遣受入期間が定められている場合は当該定められた期間、それ以外の場合は1年)を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。
 ① 次の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当する業務であって、当該業務に係る労働者派遣が労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわないと認められるものとしてニに掲げる業務
 (ⅰ) その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要と
       する業務
 (ⅱ) その業務に従事する労働者について、雇用形態の特殊性により、特別の雇用管理を行う
      必要があると認められる業務
 ② 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了する
     ことが予定されているもの(「有期プロジェクト業務」)
 ③ その業務が1か月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の労働者の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、月10 日以下である業務(「日数限定業務」)
 (ⅰ)「通常の労働者」の所定労働日数とは、原則として、派遣先のいわゆる正規の従業員(常用雇用的な長期勤続を前提として雇用される者)の所定労働日数が「通常の労働者」の所定労働日数に該当する。
 ただし、当該派遣先の正規の従業員の方が少数である場合には、労働者派遣を受け入れようとする業務が属する事業場その他派遣就業の場所に、主として従事する労働者の所定労働日数を、「通常の労働者」の所定労働日数とする。
 したがって、例えば、正規の従業員が約2割の場外馬券売場の事業場で、所定労働日数が月8日の有期雇用の労働者が主として従事する馬券販売の担当部門において、日数限定業務として派遣受入期間の制限なしに労働者派遣を受けようとする場合には、「通常の労働者」の所定労働日数は、月8日となる。
 (ⅱ)「相当程度少なく」とは半分以下である場合をいう。したがって、例えば、通常の労働者
       の所定労働日数が月20 日の場合には、月10 日以下しか行われない業務が対象となる。
 (ⅲ)日数限定業務に該当するためには、その業務が、通常の労働者の1か月間の所定労働日数
       の半分以下、かつ、月10 日以下しか行われない業務であることが必要である。
 したがって、「通常の労働者の1か月間の所定労働日数の半分以下、かつ、月10 日以下」を超える日数行われている業務を分割又は集約し、その一部を「通常の労働者の1か月間の所定労働日数の半分以下、かつ、月10 日以下」となる範囲において派遣労働者に従事させ、他の日は派遣先に雇用されている従業員のみで対応するような場合は、日数限定業務には該当せず、派遣受入期間の制限を受けることとなる。(例えば月15 日発生する業務について分割し、月10 日間を派遣労働者に従事させ、残りの月5日間を派遣先に雇用されている従業員に行わせるような場合は、その業務は月15 日間行われていることから、日数限定業務に当たらない。)また、「通常の労働者の1か月間の所定労働日数の半分以下、かつ、月10 日以下」を超える日数行われている業務について、繁忙対策として、業務量の多い日のみ派遣先に雇用されている従業員に加え派遣労働者にも従事させるような場合も、日数限定業務には該当せず、派遣受入期間の制限を受けることとなる。
 (ⅳ)なお、日数限定業務に該当する業務としては、例えば、書店の棚卸し業務や、土日のみに
      行われる住宅展示場のコンパニオンの業務が想定される。
 ④ 産前産後休業及び育児休業、並びに産前休業に先行し、又は産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって、母性保護又は子の養育をするための休業をする場合における当該労働者の業務(則第33 条)
 ⑤ 介護休業及び介護休業に後続する休業であって、育児・介護休業法第2条第4号に規定する対象家族を介護するためにする休業をする場合における当該労働者の業務(則第33 条の2)
 なお、④及び⑤の業務については、休業に入る労働者が従事していた業務を、休業に入る前に派遣労働者に対して引継ぎを行う場合及び当該業務に従事していた派遣労働者が、休業を終えて当該業務に復帰する労働者に対して引継ぎを行う場合は、当該時間が必要最小限のものである限り、④及び⑤の業務に含めて差し支えない。
   イの①に該当する業務であっても、イの①から⑤までに掲げる業務以外の業務を併せて行う労働者派遣の場合は、派遣受入期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。
 ただし、イの①から⑤の派遣受入期間の制限がない業務の実施に伴い、付随的にイの①から⑤以外の派遣受入期間の制限のある業務を併せて行う場合であって、かつ、派遣受入期間の制限がある業務の割合が通常の場合の1日当たり又は1週間当たりの就業時間数で1割以下の場合には、全体として派遣受入期間の制限を受けない業務として取り扱って差し支えない。
 なお、この場合には、労働者派遣契約において、それぞれの業務の内容及びそれぞれの業務の通常の場合の1日当たり又は1週間当たりの就業時間数又はその割合を定めることが必要である(第7の2の(1)のイの(ハ)の①及び⑤参照)。
 また、派遣先は上記の制限を遵守するため就業時間の管理を的確に行う必要がある。
   イの②の「一定の期間内」とは、3年以内とする。
   イの①に該当する業務は、次に掲げる業務である。
(4) 派遣受入期間の制限の適切な運用
 派遣先は、法第40 条の2の規定に基づき常用雇用労働者の派遣労働者による代替の防止の確保を図るため、次に掲げる基準に従い、事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない(法第40 条の2、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の14(第9の16 参照))。
   事業所その他派遣就業の場所については、課、部、事業所全体等、場所的に他の部署と独立していること、経営の単位として人事、経理、指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること、一定期間継続し、施設としての持続性を有すること等の観点から実態に即して判断する。
   同一の業務については、労働者派遣契約を更新して引き続き当該労働者派遣契約に定める業務に従事する場合は同一の業務に当たるものとする。
 上記のほか、派遣先における組織の最小単位において行われる業務は、同一の業務であるとみなす。なお、この場合における最小単位の組織としては、業務の内容について指示を行う権限を有する者とその者の指揮を受けて業務を遂行する者とのまとまりのうち最小単位のものをいい、係又は班のほか、課、グループ等が該当する場合もあり、名称にとらわれることなく実態により判断すべきものとする。
 ただし、派遣労働者の受入れに伴い係、班等を形式的に分ける場合、労働者数の多いこと等に伴う管理上の理由により係、班等を分けている場合、係、班等の部署を設けていない場合であっても就業の実態等からこれらに該当すると認められる組織において行われる業務については、同一の業務であるとみなすものとする。
 偽りその他不正の行為により労働者派遣の役務の提供を受けている又は受けていた係、班等の名称を変更し、又は組織変更を行うなど、従来の係、班等とは異なる係、班等に新たに労働者派遣の役務の提供を受け、又は受けようとする場合には、同一の業務について労働者派遣の役務の提供を受け、又は受けようとしているものと判断する。
 その他法第40 条の2の規定に照らし、就業の実態等に即して同一の業務であるか否かを判断する。
  「同一の業務」に係る判断の具体例は次のとおりである。(略)
 なお、「同一の業務」については、更新された労働者派遣契約に基づき従前と同じ業務に就く場合のように紛れなく「同一の業務」に該当すると判断できる場合もあるが、我が国の企業組織においては、一般に個々の労働者の業務が細分化されて定義されておらず、上司の日々の指揮命令により所属組織の所掌事務の範囲内で柔軟に業務を遂行している実態からすると、個々人の業務はめまぐるしく変わっていくため、いかなる範囲を「同一の業務」ととらえるか判断が難しい場合が多い。このため、業務の内容についての最小の指揮命令単位(指揮命令権者は通常何らかの役職者であるから、最小の指揮命令単位は最末端の役職者(「係長」、「班長」、「グループ・リーダー」等)及びその指揮命令を受ける労働者のまとまり=組織の最小単位となる。)における業務を「同一の業務」とみなすことを判断基準とするものである。
  労働者派遣の役務の提供を受けていた派遣先が新たに労働者派遣の役務の提供を受ける場合に、当該新たな労働者派遣と当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣との間の期間が3か月を超えないときは、当該派遣先は、当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣から継続して労働者派遣の役務の提供を受けているものとみなす。
 派遣受入期間の判断は第7の2の(2)のホの(ハ)とは異なり、継続していると判断される最初の契約の始期から最後の契約の終期までの期間により行う。
  なお、ここでいう事業所とは、雇用保険法等雇用関係法令における概念と同様のものであり、出張所、支所等で、規模が小さく、その上部機関等との組織的関連ないし事務能力からみて一の事業所という程度の独立性がないものについては、直近上位の組織に包括して全体を一の事業所として取り扱う。
(5) 派遣受入期間の設定方法等
   (3)のイの①から⑤以外の業務の派遣受入期間の制限は、次のとおりである(法第40 条の2第2項)。
 (イ) ロにより労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間が定められている場合
  ・・・ その定められている期間
 (ロ) (イ)以外の場合 ・・・ 1年
   派遣先は当該派遣先の事業所その他の派遣就業の場所ごとの同一の業務((3)のイの①から⑤まで以外の業務)について、派遣元事業主から1年を超え3年以内の期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けようとするときは、あらかじめ、ハにより、当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を定めなければならない(法第40 条の2第3項)。
  派遣先はロの期間を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、当該派遣先の事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合(以下「過半数組合」という。)、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者(以下「過半数代表者」という。)に対し、当該期間を通知し、その意見を聴くものとする(法第40 条の2第4項)。
 派遣先が過半数組合又は過半数代表者(以下「過半数組合等」という。)の意見を聴くこととする趣旨は、臨時的・一時的な業務の処理にどの程度の期間が必要かは、派遣先が判断すべき事項であるが、この判断をより的確に行うため、派遣先が臨時的・一時的な業務の処理に必要な期間であると判断したものが適当であるかについて、現場の実状等をよく把握している派遣先の労働者の意見を聴くこととするものである。
 こうした趣旨や以下に掲げる内容を十分に踏まえ、意見聴取が確実に行われるよう、また意見が尊重されるよう、関係者に対する十分な周知及び指導を行うこと。
 なお、当該手続は、次によるものとする。
 (イ) 意見聴取の際に、過半数組合等に次に掲げる事項を書面により通知すること(則第33 条の4第4項)。
 ① 労働者派遣の役務の提供を受けようとする業務
 ② 労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を新たに定める場合にあっては、当該業務に労働者派遣を受けようとする期間及び開始予定時期(労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を変更する場合は、変更しようとする期間)
 なお、①及び②以外の項目、例えば労働者派遣を受けようとする人数等を通知することとについては、法令で求めるものではないが、関係労使間で通知するか否かを決定すべきものであること。
 (ロ) また、派遣先は、当該派遣受入期間を定めるに当たっては、次に掲げる事項を書面に記載し、当該労働者派遣の終了の日から3年間保存しなければならない(則第33 条の3)。
 ① (イ)により、意見を聴取した過半数組合の名称又は過半数代表者の氏名
 ② (イ)により過半数組合等に通知した事項及び通知した日
 ③ 過半数組合等から意見を聴いた日及び当該意見の内容
 ④ 意見を聴いて、(イ)の②の労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間又は変更しようとする期間を変更したときは、その変更した期間
 電磁的記録により当該書面の作成を行う場合は、電子計算機に備えられたファイルに記録する方法又は磁気ディスク等をもって調製する方法により作成を行わなければならない。
 また、電磁的記録により当該書面の保存を行う場合は、次のいずれかの方法によって行った上で、必要に応じ電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにしなければならない。
 a 作成された電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
 b 書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
 (ハ) 過半数代表者は、以下のいずれにも該当する者とすること(則第33 条の4)。
 ① 労働基準法第41 条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
 ② 労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間に係る意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。
 なお、①に該当する者がいない事業所にあっては、②に該当する者とすること。
 また、派遣先は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
 なお、「投票、挙手等」の方法としては、「投票、挙手」のほか、労働者の話合い、持ち回り決議等労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続が該当する。
  労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間に係る意見聴取の適切かつ確実な実施(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の15(第9の16 参照))
 (イ) 派遣先は、法第40 条の2第4項の規定に基づき、当該派遣先の事業所の過半数組合等に対し、労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間について意見を聴くに当たっては、当該期間等を過半数組合等に通知してから意見を聴くまでに、十分な考慮期間を設けるものとすること。
 (ロ) 派遣先は、過半数組合等から、労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間が適当でない旨の意見を受けた場合には、当該意見に対する派遣先の考え方を過半数組合等に説明すること、当該意見を勘案して労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間について再検討を加えること等により、過半数組合等の意見を十分に尊重するよう努めるものとすること。
  その他
 (イ) 意見聴取は、派遣を受け入れようとする業務ごとに行う必要があるが、一時に複数の業務についてまとめて意見聴取を行うことは可能である。
 (ロ) 意見聴取を行う時期については、1年を超える派遣を受け入れようとする業務の発生が事前に見込まれる場合には、派遣の受入れ日に近接した時点でなくとも、事前に意見聴取を行っておくことができる。
 (ハ) 1年以内の派遣受入期間の予定で派遣の受入れを開始した後に、過半数労働組合等からの意見聴取を行い、1年を超える派遣期間を定めることも可能である。
 (ニ) なお、意見聴取に当たっては、派遣先は、十分な考慮期間を設けた上であれば、過半数組合等の意見の提出に際して期限を付することが可能である。また、当該期限までに意見がない場合には意見がないものとみなす旨、過半数組合等に事前に通知した場合には、そのように取り扱って差し支えない。
(6) 派遣受入期間の制限の適切な運用のための留意点
  労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について派遣元事業主から新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとするときは、第7の労働者派遣契約の締結に当たり、あらかじめ、当該派遣元事業主に対し、当該労働者派遣の役務の提供が開始される日以後当該業務について派遣受入期間の制限に抵触する最初の日を通知しなければならない。また、派遣元事業主は、当該通知がないときは、当該者との間で、労働者派遣契約を締結してはならない(第7の2の(3)参照)。
   また、派遣先は、労働者派遣契約の締結後に当該派遣労働者に基づく労働者派遣に係る業務について、(5)のロの期間を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、当該労働者派遣をする派遣元事業主に対し、当該業務について派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を通知しなければならない(法第40 条の2第5項)。
   なお、イ及びロの通知については、労働者派遣の役務の提供を受けようとする者又は派遣先から派遣元事業主に対して、通知すべき事項に係る書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすることにより行わなければならない(則第24 条の2、則第33条の4第5項)が、イ又はロの通知である旨が明確になっていれば、他の連絡等と併せて一葉の書面等で通知することとしても差し支えない。
   これらの規定は、労働者派遣契約に基づき労働者派遣を行う派遣元事業主及び当該労働者派遣の役務の提供を受ける者の双方が、派遣受入期間の制限の規定を遵守できるようにすることを目的としているものである。
(7) 派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けた場合の取扱い
  概要
 厚生労働大臣は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けている場合及び法第48 条第1項の規定による指導又は助言をしたにもかかわらず、その者がなお当該期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けている場合には、当該者に対し、当該派遣就業を是正するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる(法第49 条の2第1項)。
 また、厚生労働大臣は、派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けており、かつ、当該労働者派遣の役務の提供に係る派遣労働者が当該派遣先に雇用されることを希望している場合において、当該派遣先に対し、法第48 条第1項の規定により指導又は助言をしたにもかかわらず、当該派遣先がこれに従わなかったときは、当該派遣先に対し、当該派遣労働者を雇い入れるよう勧告することができる(法第49 条の2第2項)。
 厚生労働大臣はこれらの勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる(法第49 条の2第3項、第13 の3参照)。
  雇入れの指導又は助言、勧告、公表の内容
 (イ) 法の規定により派遣先に対し派遣労働者を雇い入れるように指導又は助言、勧告する際には、当該派遣労働者の希望による場合を除き、期間の定めなき雇用によるよう指導又は助言、勧告する。
 (ロ) 勧告に従わなかったときの公表の際には、企業名及び所在地、事業所名及び所在地並びに指導、助言、勧告及び公表の経緯について公表する。
   権限の委任
 勧告に関する厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長が行うものとする。ただし、厚生労働大臣が自らその権限を行うことは妨げられない。
   雇入れの指導又は助言、勧告、公表の手続
 (イ) 勧告の対象となる事案を把握してから原則として1か月以内に、指導又は助言を経て勧告すべく手続をとる。指導又は助言、勧告の決定は厚生労働大臣又は都道府県労働局長が行う。
 公表の決定は厚生労働大臣が行う。
 なお、最終的に勧告の前提となる段階における指導及び助言並びに勧告については、文書により期限を設けて行う。
 雇入勧告書には、当該勧告に従わない場合は、その旨を公表することがある旨を記載する。
 また、併せて公表方法を示すものとする。
 (ロ) 雇入勧告を行うことを決定した場合には、次の様式による雇入勧告書を作成し、当該雇入勧告の対象となる者に対して交付する。
 (ハ) また、勧告から原則として1か月以内に公表すべく手続をとる。公表の方法は、ロの(ロ)の内容からなる資料を作成し、新聞発表することによる。
 (ニ) なお、上記の目的はあくまで派遣労働者の雇用の安定を図ることであることに鑑み、個別の事案に即して弾力的な対応を図ること。
   雇入れ勧告の対象となった派遣先と派遣労働者の法的関係
 雇入れ勧告を行うケースは、派遣元事業主と派遣先との間で、派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について労働者派遣契約が派遣受入期間を超えて締結されることが想定し難い中では、既に労働者派遣契約の根拠なく、また、派遣元事業主と派遣労働者の間の労働契約の根拠なく、事実上派遣先において就業を継続している状態であって、更に勧告の実施要件を満たしている場合と考えられる。
 このため、派遣先が、労働者派遣契約による授権がない中で、派遣労働者の指揮命令を継続している状態を前提として、以下のような法解釈が行えると考えられる。
 (イ) 派遣労働者が派遣元事業主との労働契約を解除したり、労働契約期間が満了する等派遣元事業主との雇用関係が既に終了している場合には、派遣先との雇用関係が成立していると推定でき、訴訟において、派遣労働者は、勧告の内容に従った雇用関係の確認や損害賠償請求を行うことが可能である。
 (ロ) 派遣元事業主との雇用関係が終了していない場合であっても、勧告の実施後派遣労働者が派遣元事業主との雇用関係を終了させれば、(イ)と同様の請求が可能である。
(注)
 派遣元事業主は、法律上派遣先の「同一の業務」について派遣受入期間を超えて労働者派遣を行ってはならない義務を課せられており(法第35 条の2)、違反に対しては、許可の取消し等の行政処分のみでなく、直接罰則も付されることから、派遣受入期間を超える労働者派遣の締結は想定し難い。

 

2.派遣労働者への労働契約の申込み義務

(1) 派遣受入期間の制限のある業務に係る労働契約の申込み義務
  概要
 派遣先は、第8の13 による派遣停止の通知を受けた場合において、当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば、4の(3)の派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日以降継続して派遣停止の通知を受けた派遣労働者を使用しようとするときは、当該抵触することとなる最初の日の前日までに、当該派遣労働者であって当該派遣先に雇用されることを希望するものに対し、労働契約の申込みをしなければならない(法第40 条の4)。
   趣旨
 派遣受入期間の制限に抵触する前に、イの行為をすることを義務付けることにより、派遣受入期間の制限に違反して労働者派遣が行われることを未然に防止し、労働者派遣から派遣先の直接雇用へと移行させるためである。
   派遣労働者の希望の把握方法
 派遣労働者が当該派遣先に雇用されることを希望しているかどうかは、派遣労働者が希望を申し出ている場合は明らかであるが、申し出ていない場合には、ロの趣旨に鑑み、労働契約の申込み義務が課せられている派遣先が、その義務を果たすために、自ら派遣労働者に希望の有無を確認することにより把握しなければならない。
  労働契約の申込みの時期及び方法
 労働契約の申込みは、4の(3)の派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の前日までに、任意の方法により行うことが必要である。
 なお、申込み義務に係る派遣労働者の労働条件は、当事者間で決定されるべきものであるが、派遣先と派遣労働者との間で、派遣就業中の労働条件や、その業務に従事している派遣先の労働者の労働条件等を総合的に勘案して決定されることが求められる。
   労働契約の申込み義務を果たさない場合の取扱い
 (イ) 厚生労働大臣は、派遣先が派遣停止の通知を受けながら派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の前日までに労働契約の申込みをせず、派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日以降継続して派遣労働者を使用した場合又は法第48 条第1項の規定による指導又は助言をしたにもかかわらず、その者がなお当該規定に違反している場合には、当該者に対し、法第40 条の4の規定のよる労働契約の申込みをすべきことを勧告することができる(法第49 条の2第1項)。
 また、厚生労働大臣はこの勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる(法第49 条の2第3項)(第13 の3参照)。
 (ロ) 勧告に関する厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長が行うものとする。ただし、厚生労働大臣が自らその権限を行うことは妨げられない。
 (ハ) 指導、助言又は勧告の決定は厚生労働大臣又は都道府県労働局長が行う。公表の決定は厚生労働大臣が行う。
 なお、最終的に勧告の前提となる段階における指導及び助言並びに勧告については、文書により期限を設けて行う。
 労働契約申込勧告書には、当該勧告に従わない場合は、その旨を公表することがある旨を記載する。また、併せて公表方法を示すものとする。
 (ニ) 勧告を行うことを決定した場合には、労働契約申込勧告書(第15 様式集参照)を作成し、当該勧告の対象となる者に対して交付する。
 (ホ) また、勧告から原則として1か月以内に公表すべく手続をとる。勧告に従わなかったときの公表の際には、企業名及び所在地、事業所名及び所在地並びに指導、助言、勧告及び公表の経緯について公表する。公表はこれらの内容からなる資料を作成し、新聞発表することによる。
 (ヘ) なお、上記の目的はあくまで派遣労働者の雇用の安定を図ることであることに鑑み、個別の事案に即して弾力的な対応を図ること。
   派遣停止の通知がされなかった場合の取扱い
 派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の一月前の日から当該抵触することとなる最初の日の前日までの間に、派遣元事業主から派遣停止の通知がなされなかった場合については、派遣先は雇用申込みの義務の対象とはしないものである。
 なお、派遣停止の通知がなされずに、派遣受入期間の制限に抵触する日以後も労働者派遣が行われている場合には、派遣元事業主は法第35 条の2第1項違反に該当し(第8の12 参照)、派遣先は法第40 条の2第1項違反に該当しているものであり(4の(7)参照)、直ちに労働者派遣が中止されなければならない。
(2) 派遣受入期間の制限のない業務に係る労働契約の申込み義務
   概要
 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所(以下「事業所等」という。)ごとの同一の業務(4の(3)のイの①から⑤に掲げる業務に限る。)について、派遣元事業主から3年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けている場合において、当該同一の業務に労働者を従事させるため、当該3年が経過した日以後労働者を雇い入れようとするときは、当該同一の派遣労働者に対し、労働契約の申込みをしなければならない。ただし、当該同一の派遣労働者について法第35 条の規定による期間を定めないで雇用する労働者である旨の通知を受けている場合は、この限りでない(法第40 条の5)。
 ① 「派遣先の事業所その他派遣就業の場所」とは、課、部、事業所全体等、場所的に他の部署と独立していること、経営の単位として人事、経理、指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること、一定期間継続し、施設としての持続性を有すること等の観点から実態に即して判断する。
 ② 「同一の業務(4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務に限る。)」とは、事業所等における4の(3)のイの①から⑤までに相当する業務のうち同種のものをいう。
 例えば、機械設計の業務(4の(3)のイの①の業務)に、3年を超えて同一の派遣労働者を受け入れている派遣先については、当該派遣先において機械設計に主として従事する業務に新たに労働者を雇い入れようとするときは、当該派遣労働者に対して労働契約の申込みを行わなければならない。
 ③ 「3年を超える期間継続して」とは、当該3年を超える期間中に、労働者派遣の受入れを停止していた期間があった場合であっても、当該停止期間が3か月を超えない場合には、「3年を超える期間継続して」労働者派遣の役務の提供を受けている場合として取り扱う。
 ④ 「当該3年を経過した日以後労働者を雇い入れようとするとき」とは、派遣労働者の受入れが3年を超える日以後に雇用関係が開始される場合をいう。
 例えば、平成20 年4月1日に同一の派遣労働者の受入れが3年を超えることとなる業務があり、当該業務と同一の業務に平成20 年4月1日から労働者を雇用する場合には、当該労働者の募集・採用行為を平成19 年度中に行う場合であっても、当該派遣労働者に対して労働契約の申込みを行うことが必要である。
 ⑤ 「労働者を雇入れ」るとは、雇入れの形態は特に問わないものであり、常用雇用に限らないものである。
 なお、いわゆる在籍型出向の受入れについては、形式としては派遣先と出向労働者との間で雇用関係が生じるものであるが、一定期間経過後に出向元企業へ復職することが前提となっていること等から、労働者の「雇入れ」には該当しないものとする。
   趣旨
 派遣労働者の雇用の安定を図るため、派遣労働者の希望を踏まえて派遣先に直接雇用される機会をより多く確保するためである。
  労働契約の申込みの方法等
 ① 新たに労働者を雇い入れようとする業務について、3年を超えて受け入れている派遣労働者が、雇い入れようとする人数を超えて複数名いる場合については、3年を超えて受け入れている派遣労働者全員に対し、労働契約の申込みを受ける地位に対する応募の機会を与えた上で、試験等の公平な方法により、労働契約の申込みを受ける派遣労働者を選考することで足りる。
 ② 申込み義務に係る派遣労働者の労働条件は、当事者間で決定されるべきものであるが、派遣先と派遣労働者との間で、派遣就業中の労働条件や、その業務に従事している派遣先の労働者の労働条件等総合的に勘案して決定されることが求められる。
 ③ 派遣労働者が法第40 条の5に基づく派遣先からの労働契約の申込みを断った場合において、当該申込みを断った時点から1か月以内に、当該派遣先が同一条件で再度労働者を雇い入れようとするときは、再度の申込みをしなくても差し支えない。
  労働契約の申込み義務を果たさない場合の取扱い
 (イ) 厚生労働大臣は、3年を超えて派遣労働者を受け入れている派遣先が労働契約の申込み義務を果たさなかった場合又は法第48 条第1項の規定による指導又は助言をしたにもかかわらず、その者がなお当該規定に違反している場合には、当該者に対し、法第40 条の5の規定による労働契約の申込みをすべきことを勧告することができる(法第49 条の2第1項)。
 また、厚生労働大臣はこの勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる(法第49 条の2第3項)(第13 の3参照)。
 (ロ) 勧告に関する厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長が行うものとする。ただし、厚生労働大臣が自らその権限を行うことは妨げられない。
 (ハ) 指導、助言又は勧告の決定は厚生労働大臣又は都道府県労働局長が行う。公表の決定は厚生労働大臣が行う。
なお、最終的に勧告の前提となる段階における指導及び助言並びに勧告については、文書により期限を設けて行う。
労働契約申込勧告書には、当該勧告に従わない場合は、その旨を公表することがある旨を記載する。また、併せて公表方法を示すものとする。
 (ニ) 勧告を行うことを決定した場合には、労働契約申込勧告書(第15 様式集参照)を作成し、当該勧告の対象となる者に対して交付する。
 (ホ) また、勧告から原則として1か月以内に公表すべく手続をとる。勧告に従わなかったときの公表の際には、企業名及び所在地、事業所名及び所在地並びに指導、助言、勧告及び公表の経緯について公表する。公表の方法はこれらの内容からなる資料を作成し、新聞発表することによる。
 (ヘ) なお、上記の目的はあくまで派遣労働者の雇用の安定を図ることであることに鑑み、個別の事案に即して弾力的な対応を図ること。
(3) その他留意点
 常用型の派遣労働者の場合であっても、登録型の派遣労働者と同様に、派遣先による労働契約の申込み義務の対象となるものである。
 
3.派遣労働者の雇用の努力義務
(1) 概要
 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務を除く。6において同じ。)について派遣元事業主から継続して1年以上派遣受入期間以内の期間労働者派遣の役務の提供を受けた場合において、引き続き当該同一の業務に労働者を従事させるため、当該労働者派遣の役務の提供を受けた期間(以下「派遣実施期間」という。)が経過した日以後労働者を雇い入れようとするときは、当該同一の業務に派遣実施期間継続して従事した派遣労働者を遅滞なく雇い入れるよう努めなければならない(法第40 条の3)。
(2) 目的
 派遣先における常用雇用労働者の派遣労働者による代替の防止を確保するとともに、常用雇用を希望する派遣労働者の常用雇用への移行を促進するためのものである。
(3) 雇用の努力義務が発生する要件
 イ 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について派遣元事業主から継続して1年以上派遣受入期間以内の期間労働者派遣の役務の提供を受けた場合において、引き続き当該同一の業務に労働者を従事させるため、派遣実施期間が経過した日以後労働者を雇い入れようとするときは、当該同一の業務に派遣実施期間継続して従事した派遣労働者であって次の(イ)及び(ロ)を満たす者を、遅滞なく、雇い入れるよう努めなければならない。言い換えれば、労働者を雇用する場合には、当該業務について労働者派遣を受けていた労働者を優先的に雇い入れることを促進するための優先雇用の努力義務である。
 (イ) 派遣実施期間が経過した日までに、当該派遣先に雇用されて当該同一の業務に従事することを希望する旨を当該派遣先に申し出たこと。
 (ロ) 派遣実施期間が経過した日から起算して7日以内に派遣元事業主との雇用関係が終了したこと。
 ロ  雇用の努力義務が発生するのは、同一の業務について継続して1年以上派遣受入期間以内の期間労働者派遣の役務の提供を受けた場合であって、かつ、当該同一の業務に派遣実施期間継続して従事した派遣労働者についてであることから、たとえば、同一の業務であっても、派遣労働者が派遣実施期間の途中で代わった場合や、同一の派遣労働者であっても、業務が変わった場合には、努力義務は発生するものではない。
   また、同一の業務について、たとえば午前と午後に分けて異なる派遣労働者が従事していた場合であって、いずれも派遣実施期間継続して従事していた場合は、両者について雇用の努力義務が発生する。この場合、いずれの派遣労働者に対しても派遣実施期間従事していた就業時間に対し、発生するものであるから、たとえば、派遣先が派遣実施期間を経過した日以後、午前のみ労働者を雇い入れる必要があるのであれば、午前に従事していた派遣労働者を雇い入れるよう努めなければならないこととなる。

 

4.離職した労働者についての労働者派遣の役務の提供の受入れの禁止

(1) 概要
  派遣先は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする場合において、当該労働者派遣に係る派遣労働者が当該派遣先を離職した者であるときは、当該離職の日から起算して1年を経過する日までの間は、当該派遣労働者(60 歳以上の定年退職者を除く。)に係る労働者派遣の役務の提供を受け入れてはならない(法第40 条の6第1項、則第33 条の5 第1項)。
   派遣先は、当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば、イに抵触することとなるときは、速やかに、その旨を当該労働者派遣をしようとする派遣元事業主に通知しなければならない(法第40 条の6第2項)。
(2) 目的
 第8の15 を参照のこと。
(3) 通知の方法
 通知は、書面の交付、ファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信により行わなければならない(則第33 条の5 第2 項)。
(4) 離職して1 年を経過していない労働者を派遣労働者として受け入れた場合の取扱い
 厚生労働大臣は、離職して1 年を経過していない労働者を派遣労働者として受け入れた場合及び法第48 条第1 項の規定による指導又は助言をしたにもかかわらず、なお当該規定に違反している場合には、当該派遣先に対し、当該派遣就業を是正するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる(法第49 条の2 第1 項)
 また、厚生労働大臣は、当該勧告を行った場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかった場合には、その旨を公表することができる(法第49 条の2 第2 項)。

 

労働者派遣期間の制限

1.派遣期間の制限がない業務(26業務)

 1 ソフトウエア開発業務

・情報処理システム開発関係(令第4条第1項第1号)

  電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守(これらに先行し、後続し、その他これらに関連して行う分析を含む。)又はプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。(17)及び(18)において同じ。)の設計、作成若しくは保守の業務

  情報処理システムの開発に係る次の業務をいう。
 ① 情報処理システム開発の可否を決定するための、又は既存のシステムのメンテナンス
      のための調査、分析、システム化計画書の作成
 ② 情報処理システムの設計(システム基本設計、システム詳細設計)
 ③ プログラムの設計、作成又は保守
 ④ ①から③までに付随して行われるプログラムテスト又はシステムテスト
 ⑤ 情報処理システム又はプログラムの使用マニュアルの作成の業務
 ⑥ 本稼働と同じ、又はそれに近い環境で、ユーザーの用いる条件下において運用できるか
     否かを検証、評価する運用テスト
  この場合において、電子計算機とは「演算、判別、照合などのデータ処理を高速で行う
     電子機器でプログラムの実行に最低限必要な機能を有しているもの」であり、データ入力
    機を含むものである((3)、(10)及び(17)において同じ。)。
 

 2 機械設計業務

・機械設計関係(令第4条第1項第2号)

  機械、装置若しくは器具(これらの部品を含む。以下この(2)及び(18)において「機械等」という。)又は機械等により構成される設備の設計又は製図(現図製作を含む。)の業務

  建築又は土木に係る設計・製図の分野以外の次のような機械等の設計又は製図(現図製作を含む。)の業務をいう。
 ① 電気、電子機器、加工機械、輸送用機械(車両、船舶)、クレーン、ボイラ-、労働
     安全衛生法施行令上の急停止措置、安全装置、タンク、タワ-、ベッセル(槽)、玩具、
    家具等の機械、装置、器具又はこれらの部品(IC、LSI、電線、プリント基板等を
    含む。)
 ② 原子力発電配管プラント、化学プラント等各種プラント
 ③ ①、②に係る配管、配線
  「設計」とは、機械等の製作に当たり、その目的に即して費用、材料及び構造上の諸点についての計画を立て、図面その他の方式で明示することをいい、必ずしも図面を用いるものに限らず、数表等を用いるものあるいはコンピュータを用いるもの(いわゆるCAD)も含む。
 また、自らの設計に基づき製作された機械等の機能、構造等が製作の目的に適合しない場合にその原因を検討し必要な設計の変更を行う等の作業を的確に遂行するために、当該機械等の①仕様、構造、能力等の検査、②据え着け、及び③他の装置、部品等との組立、に立合う業務は設計の業務に含まれるものである。
   「製図」とは、設計に基づき、製図機器(コンピュータを含む。)を使って機械等を図面を用いて紙面等に書き表すことをいう。
  建築設計・製図とは、建築基準法(昭和25年法律第201号)第2条第1号に規定される「建築物」(建築設備そのものを除く。)に係る設計・製図である。このため、建築士法の一級、二級建築士はこの業務に含まれない。また、原子力プラント等における建屋の設計は含まれない。
  土木設計・製図とは、建設業法(昭和24年法律第100号)別表第一「土木工事業」に係るもので、道路、河川、鉄道、橋りょう、港湾、空港、都市計画等の設計、製図をいう。
 

 3 放送機器等操作業務

・放送機器操作関係(令第5条第1号)

  映像機器、音声機器等の機器であって、放送番組等(放送法(昭和25年法律第132号)第2条第1号に規定する放送の放送番組その他映像又は音声その他の音響により構成される作品であって録画され、又は録音されているものをいう。以下同じ。)の制作のために使用されるものの操作の業務
  「放送番組等」とは、無線、有線のテレビ、ラジオの放送番組の他、映像若しくは音声その他の音響により構成される作品であって、録画又は録音されているものであり、具体的には、次のようなものをいう((2)、(7)及び(9)において同じ。)。
 ① テレビ、ラジオ番組
 ② 演劇、コンサート等を録画、録音したレコード、ビデオ、映画等の作品
 ③ 教育、宣伝用ビデオ、映画
 なお、テレビ、ラジオ番組以外で録画、録音しない作品(例えば録画、録音しない演劇)はここには含まれない。
  「制作」には、狭義の「制作」のみではなく、「中継」、「送出」(コントロールルームから送信施設、他局へ送り出す業務)も該当するが、送信所における送信の業務は含まれない((2)において同じ。)。
  「機器」とは、次のものをいう。
 ① 制作機器(狭義)- 照明機器(ライト、調光機器等)、映像機器(カメラ、カメラ制御器、VTR、フィルム送像装置、スィッチャー、効果機器等)、音声機器(マイク、ミキサー、効果機器、テープレコーダー、レコードプレーヤー等)
 ② 中継機器- 中継用無線機器(マイクロ波送信機等)その他中継用の制作機器
 ③ 送出機器 - コントロールルームの主調整卓の映像、音声のスィッチャー、ミキサー等、VTR、フィルム送像装置、テープレコーダー、APC(番組自動送出装置)、ネットワーク送出用卓のネットワークマスター、ネットワークスィッチャー、フィルム編集機等その他送出及び送出準備用の制作機器
   「操作」とは、機器の準備から撤収までの一連の行為(カメラのケーブルさばきのように機器の操作と密接不可分かつ、一体的に行われるものを含む。)をいうが、機器の保守、管理は含まれない。
 なお、中継車の運転は中継機器の操作には含まれない。

 

 4 放送番組等演出業務

・放送番組等の制作関係(令第5条第2号)

  放送番組等の制作における演出の業務(一の放送番組等の全体的形成に係るものを除く。)
  「演出」とは、ドラマ、ニュース番組、報道番組等の放送番組等における企画、計画、取材、技術指導、演技指導、編集、制作進行等をいう。具体的には次のような者の行う業務である。
 ① ディレクター(番組の演出担当責任者であるプログラムディレクター)
 ② アシスタントディレクター(ディレクターの補助を行う者、フロアディレクターともい
  う。)
 ③ テクニカルディレクター(技術スタッフを指揮し、ディレクターと協力して番組制作に
    当たる技術部門の責任者)
 ④ ライティングディレクター(照明の計画設計、照明関係の担当責任者)
 ⑤ オーディオディレクター(音声担当責任者)
 ⑥ アートディレクター(番組制作の美術部門全般の責任者)
  なお、大道具、小道具、衣裳、美術、結髪、メーク等の業務は含まれない。
  この場合において、「一の放送番組等の全体的形成に係るもの」とは、NHKのプロデューサー、ディレクター、民放のプロデューサー等の一つのまとまった番組全体の責任者と判断される者の行う業務をいい、いわゆる「コーナー」の制作責任者に係るものをいうものではない。

 

 5 事務用機器操作業務

・機器操作関係(令第4条第1項第3号)

  電子計算機、タイプライター又はこれらに準ずる事務用機器((17)において「事務用機器」という。)の操作の業務

   (1)のロに掲げる電子計算機、タイプライターほか、これらに準ずるワードプロセッサー、テレタイプ等の事務用機器についての操作の業務及びその過程において一体的に行われる準備及び整理の業務をいう。
  当該機器は、法第40条の2第1項第1号イの趣旨から迅速かつ的確な操作に習熟を必要とするものに限られるものであり、ファクシミリ、シュレッダー、コピー、電話機、バーコード読取器等迅速かつ的確な操作に習熟を必要としない機器は含まれない。
  機器の保守管理、中継車の運転等は、当該機器の操作でもなく機器の操作の「過程において一体的に行われる準備及び整理」とも解することができないので留意すること。
   電子計算機の操作を行う者が行う処理結果が印字された連続紙の切離し、仕分けの業務は、機器の操作の「過程において一体的に行われる準備及び整理」の業務に含まれる。ただし、当該連続紙を梱包し又は発送する業務はこれに含まれない。
 

 6 通訳、翻訳、速記業務

・通訳、翻訳、速記関係(令第4条第1項第4号)

 次のいずれかの業務をいう。
  通訳 一の言語を他の言語に訳して相手方に伝達する業務又は通訳案内士法(昭和24年法律第210号)第2条の通訳案内業務
  翻訳 一の言語を他の言語に訳す業務
  ロの翻訳業務の一環として行われる次の業務で主として、外国語の文書について行われるもの。
 ① 高度な技術により製作された機器の使用、操作、保守のためのマニュアル等の文書を使用
     目的に応じて的確かつ理解しやすく作成する業務(テクニカルライター業務)
 ② 翻訳文書を使用目的に応じて編集、修正する業務(エディター業務)
 ③ 翻訳文書を使用目的に応じて翻訳言語の発想に従って書き直す業務(リライター業務)
 ④ 翻訳文書の文法、表記上等の誤りを訂正する業務(チェッカー業務)
   速記 人の話を速記符号で書き取り、一般の人々に読めるよう書き直す業務
 

 7 秘書

・秘書関係(令第4条第1項第5号)

  法人の代表者その他の事業運営上の重要な決定を行い、又はその決定に参画する管理的地位にある者の秘書の業務

  取締役又はこれに準ずる者の秘書として文書の作成、受発信管理、資料・情報の整理及び管理、関係部門との連絡調整、スケジュール表の作成、来客の応対等を行う業務をいう。
 ロ  単に来客に対するお茶の接待、会議室の準備、文書の受発信等のみを行う庶務的な補助業務は含まれない。
 

 8 ファイリング(事務)

・ファイリング関係(令第4条第1項第6号)

  文書、磁気テープ等のファイリング(能率的な事務処理を図るために総合的かつ系統的な分類に従ってする文書、磁気テープ等の整理(保管を含む。)をいう。以下この(6)において同じ。)に係る分類の作成又はファイリング(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る。)の業務

  文書、図書、新聞、雑誌、帳簿、伝票、カード、ディスク、カタログ、地図、図面、フィルム、磁気テ-プ、写真、カルテ等についてファイリングの分類の作成又はファイリングを行う業務をいう。
 この場合において、「ファイリング」とは、事務の能率化を図るために、文書等の分類基準を作成した上で当該分類基準に従って文書等の整理保管を行う、文書等の整理、保管の組織化、能率化の意であり、例えば、全社的に統一された文書整理規定を作成し、キャビネット等の整理用の器具を配置し、この文書整理規定に基づいて文書等の整理、保管を行うことをいう。
 また、「高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る。」とは、文書等の整理のために当該文書等の内容又は整理の方法等について相当程度の知識、技術又は経験を必要とするものに限られ、単に機械的な仕分けを行うものではないことをいう。
   個人の机の周囲の片付けや文書等の番号順の並べ換えの業務はもとより、郵便物を発信元あるいは受信先別に仕分けする業務や売上、経理伝票等を取引先別に仕分けする業務等文書等の内容や整理の方法等について専門的な知識等を用いることのない業務は含まれない。
 

 9 調査業務

・調査関係(令第4条第1項第7号)

  新商品の開発、販売計画の作成等に必要な基礎資料を得るためにする市場等に関する調査又は当該調査の結果の整理若しくは分析の業務市場調査等の調査を企画若しくは実施し(電話又は面接による聴き取り調査を含む。)、又はその結果を集計若しくは分析し、最終的に統計表の作成を行う業務をいう(特定個人を対象として行われるものは含まれない。)。

 

 10 財務処理業務

・財務関係(令第4条第1項第8号)

  貸借対照表、損益計算書等の財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務

   次のような財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務をいう。
 ① 仕訳、仕入帳・売上帳・勘定科目別台帳等の会計帳簿の作成
 ② 保険証券の作成
 ③ 社会保険料・税金の計算及び納付手続
 ④ 医療保険の事務のうち財務の処理の業務
 ⑤ 原価計算
 ⑥ 試算表、棚卸表、貸借対照表、損益計算書等の決算書類の作成
 ⑦ 資産管理、予算編成のための資料の作成
 ⑧ 株式事務
  当該財務の処理、特に①から④まで及び⑧については、法第40条の2第1項第1号イの趣旨から専門的な業務、すなわち、その迅速かつ的確な実施に習熟を必要とする業務に限られるものであり、単なる現金、手形等の授受、計算や書き写しのみを行うようなその業務の処理について特に習熟していなくても、平均的な処理をし得るような業務は含まれないものである。
   なお、店頭における商品(有価証券を含む。)売買に伴う現金又はこれに準ずるものの授受の行為及びセールスマンの行う商品の勧誘の行為は財務の処理には当たらず、これらの行為を伴う業務は含まれない。
 また、銀行の貸金庫、セーフティケースの管理や社会保険の得喪手続も財務の処理とは解すことができないので留意すること。

 

 11 取引文書作成業務

・貿易関係(令第4条第1項第9号)

  外国貿易その他の対外取引に関する文書又は商品の売買その他の国内取引に係る契約書、貨物引換証、船荷証券若しくはこれらに準ずる国内取引に関する文書の作成(港湾運送事業法第2条第1項第1号に掲げる行為に附帯して行うもの及び通関業法(昭和42年法律第122号)第2条第1号に規定する通関業務として行われる同号ロに規定する通関書類の作成を除く。)の業務

  次の書類の作成及びそのために必要な資料の収集、電話照会等の業務をいう。
 ① 貿易、海外調達等対外取引に際しての商品又はサービスの受発注契約書又はインボイス、パッキング・リスト、船積指図書等船積・通関業務に必要な書類
 ② 国内取引に際しての商品又はサービスの受発注契約書又は船積等輸送に必要な書類
  なお、取引とは関係のない官庁等への申請、届出をするための書類の作成は含まれない。また、商品(有価証券を含む。)売買に伴う現金又はこれに準ずるものの授受の行為及びセールスマンの行う商品の勧誘の行為は、文書の作成には該当せず、これらの行為を伴う業務は含まれない。
  「港湾運送事業法第2条第1項第1号に掲げる行為に附帯して行うもの」とは、同法上の一般港湾運送事業を行う者が行うイの文書の作成のことであり、一般港湾運送事業を行う者に労働者を派遣し、当該文書を作成する業務は、令第4条第1項第9号の業務には含まれないものであるので留意すること。
  「通関業法第2条第1号に規定する通関業務として行われる同号ロに規定する通関書類の作成」とは、関税法等の規定に基づき税関官署又は財務大臣に対して提出する通関業法第2条第1号イの(1)に規定する通関手続又は同号イの(2)の不服申立てに係る申告書、申請書、不服申立書等の通関業法第2条第1号ロに規定する通関書類の作成をいい、通関業者に通関業務の従事者として労働者を派遣し、通関書類を作成する業務は、令第4条第1項第9号の業務には含まれないものであるので留意すること。

 

 12 デモンストレーション業務

・デモンストレーション関係(令第4条第1項第10号)

  電子計算機、自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする機械の性能、操作方法等に関する紹介及び説明の業務

  電子計算機、各種産業用機械(ワードプロセッサー、タイプライター等の事務用機器を含む。)又は自動車について紹介及び説明を行う業務(実演を含む。)をいう。これらは、通常は商品の販売促進のためのキャンペーン等におけるいわゆるデモンストレーション業務に対応する。
  当該機械は、用途に応じた的確な操作をするためには、高度の専門的知識、技術又は経験を必要とするものであり、ファクシミリ等の機器は、当然これには含まれず、また、民生用商品について紹介及び説明を行う業務は、パーソナルコンピューター等の例外を除き通常これには含まれない((2)参照)。
 また、家具、衣料品、食料品等機械に該当しないものは当然含まれるものではない。

 

 13 添乗業務

・添乗関係(令第4条第1項第11号)

  旅行業法(昭和27年法律第239号)第12条の11第1項に規定する旅程管理業務(旅行者に同行して行うものに限る。)若しくは同法第4条第1項第4号に規定する企画旅行(参加する旅行者の募集をすることにより実施するものに限る。)以外の旅行の旅行者に同行して行う旅程管理業務に相当する業務(以下(11)において「旅程管理業務等」という。)、旅程管理業務等に付随して行う旅行者の便宜となるサービスの提供の業務(車両、船舶又は航空機内において行う案内の業務を除く。)又は車両の停車場若しくは船舶若しくは航空機の発着場に設けられた旅客の乗降若しくは待合いの用に供する建築物内において行う旅行者に対する送迎サービスの提供の業務

   次のいずれかの業務をいう。
 ① 添乗員の行う旅行業法第12条の11第1項に規定される旅程管理業務若しくは同法第4条第1項第4号に規定する企画旅行(参加する旅行者の募集をすることにより実施するものに限る。)以外の旅行における旅程管理業務に相当する業務又はそれらに付随する旅行者のパスポートの紛失等の事故処理、旅行者の苦情処理等の業務
 この場合において、「旅程管理業務」とは、旅行者に対する運送又は宿泊のサービスの確実な提供、旅行に関する計画の変更を必要とする事由が生じた場合における代替サービスの手配その他の企画旅行を円滑に実施するための次の措置を講ずるために必要な業務を意味する(旅行業法施行規則第32条)。
   旅行に関する計画に定めるサービスの旅行者への確実な提供を確保するために旅行の開始前に必要な予約その他の措置
  旅行地において旅行に関する計画に定めるサービスの提供を受けるために必要な手続の実施その他の措置(本邦内の旅行であって、契約の締結の前に旅行者にこれらの措置を講じない旨を説明し、かつ、当該旅行に関する計画に定めるサービスの提供を受ける権利を表示した書面を交付した場合を除く。)
  旅行に関する計画に定めるサービスの内容の変更を必要とする事由が生じた場合における代替サービスの手配及び当該サービスの提供を受けるために必要な手続の実施その他の措置(本邦内の旅行であって、契約の締結の前に旅行者にこれらの措置を講じない旨を説明し、かつ、当該旅行に関する計画に定めるサービスの提供を受ける権利を表示した書面を交付した場合を除く。)
  旅行に関する計画における2人以上の旅行者が同一の日程により行動することを要する区間における円滑な旅行の実施を確保するために必要な集合時刻、集合場所その他の事項に関する指示
 ② 空港、港湾、鉄道駅、バスターミナルに設けられた旅客の乗降又は待合いの用に供する建築物内(ロビー、待合室等)における送迎並びに送迎に付随する案内及び接遇の業務空港等の施設内において行う旅行者の集合の確認、乗車券等必要な書類の手渡し、海外渡航事務手続等必要な手続の実施、旅行日程及び注意事項についての説明、利用する交通機関の確認及び当該交通機関への案内、旅行に関する計画の変更を必要とする事由が生じた場合における代替サービスの手配等の業務を含む。
   なお、バスガイド、スチュワーデス等が業務として行う車両、船舶又は航空機内における案内の業務、旅行者に同行するのではない海外渡航事務手続、空港、港湾等とそれ以外の施設との間の送迎はイの業務の一部として行われる場合を除き含まれない。

 

 14 建築物清掃業務

・建築物清掃関係(令第5条第3号)

  建築物における清掃の業務

  次のいずれかの業務をいう。
 ① 床、天井、壁面、トイレ、洗面湯沸所、照明器具、窓ガラス、エレベーター、エスカレー
     ター等の建築物の内部の清掃
 ② 外壁、窓ガラス、屋上、建築物に付随するプール等の建築物の外部の清掃
 ③ ①又は②に付随するゴミの収集、焼却
 ④ 宿泊施設の客室整備(ベッドメーキング、備品の整備補充等)
   害虫、ねずみ等の防除(イの清掃に付随して行われるものは除く。)、各種の槽の清掃、下水処理場の清掃及び輸送機器(車両、船舶又は航空機)の清掃は、「建築物における清掃」には該当しないものである。

 

 15 建築設備、運転、点検、整備業務

(1)建築設備運転等関係(令第5条第4号)

  建築設備(建築基準法第2条第3号に規定する建築設備をいう。(5)において同じ。)の運転、点検又は整備の業務(法令に基づき行う点検及び整備の業務を除く。)

   建築基準法第2条第3号に規定する建築設備の運転、点検又は整備の業務をいう。
 この場合において、「建築設備」とは、建築物に設ける電気、ガス、給水、排水、換気、暖房、冷房、消火、排煙若しくは汚物処理の設備又は煙突、昇降機若しくは避雷針をいう(建築基準法第2条第3号)。
  機械警備に用いられる機械の運転等や、下水処理場の設備の点検等は含まれない。
  なお、点検及び整備の中でも、建築基準法第12条の建築設備の調査又は検査の業務、浄化槽法(昭和58年法律第43号)第10条の浄化槽の保守点検、清掃の業務、消防法(昭和23年法律第186号)第17条の3の3の防火対象物の点検等の法令に基づき定期に行う点検及び整備の業務は除かれる。
 また、高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号)、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(昭和42年法律第149号)及び特定ガス消費機器の設置工事の監督に関する法律(昭和54年法律第33号)並びにこれらに基づく命令の定めるところにより選任する者が行うべき職務等に係る業務は含まれない。

(2)水道施設等の設備運転等関係(令第5条第10号)

 水道法(昭和32年法律第177号)第3条第8項に規定する水道施設の消毒設備その他の設備、下水道法(昭和33年法律第79号)第2条第3号に規定する公共下水道、同条第4号に規定する流域下水道若しくは同条第5号に規定する都市下水路の消化設備その他の設備若しくは廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第8条第1項に規定する一般廃棄物処理施設(同項に規定するごみ処理施設にあっては、1日当たりの処理能力が10トン以上のものに限る。)の焼却設備その他の設備の運転、点検若しくは整備の業務(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする運転、点検又は整備の業務に限る。)又は非破壊検査用の機器の運転、点検若しくは整備の業務
 次のいずれかの業務をいう。
   水道施設の設備運転等の業務
 具体的には、水道法第3条第8項に規定する水道施設における消毒設備、取水設備、沈砂池、着水井、沈殿池、ろ過池、配水池、ポンプ設備等の設備の運転、点検又は整備の業務が該当する。
   下水道の設備運転等の業務
 具体的には、下水道法第2条第3号に規定する公共下水道、同条第4号に規定する流域下水道又は同条第5号に規定する都市下水路における消化設備、水処理設備、焼却炉設備、汚泥処理設備等の設備の運転、点検又は整備の業務が該当する。
   一般廃棄物処理施設の設備運転等の業務
 具体的には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第8条第1項に規定する一般廃棄物処理施設における焼却設備、排ガス処理設備、生物処理設備、凝集沈殿処理設備等の廃棄物の設備の運転、点検又は整備の業務が該当する。
 この場合において、「一般廃棄物処理施設」とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第8条

 

 16 案内受付駐車場管理業務

・受付、案内関係(令第4条第1項第12号)

(1)建築物又は博覧会場における来訪者の受付又は案内の業務

   次のいずれかの業務をいう。
 ① 建築物の入り口又は建築物内の事業所の入り口等における受付又は案内
 ② 博覧会場の入退場口又は博覧会場内に設けられた案内所における受付又は案内
  この場合において「博覧会場」とは、国、地方公共団体又はそれらの設立した公益法人等
     が主催する博覧会のために設けられた展示等のための建築物、施設又は広場等からなる会
    場をいい、具体的には国際博覧会又は地方博覧会の会場をいう。

   イの①には、中高層分譲住宅等の建築物の管理業務は含まれない。 

(2)駐車場管理等関係(令第5条第5号) 

  建築物に設けられ、又はこれに附属する駐車場の管理の業務その他建築物に出入りし、勤務し、又は居住する者の便宜を図るために当該建築物に設けられた設備(建築設備を除く。)であって当該建築物の使用が効率的に行われることを目的とするものの維持管理の業務((3)に掲げる業務を除く。)

  次のいずれかの業務をいう。
 ① 駐車料金の徴収、機械式操作盤の操作、出入車両の記録等の駐車場(建築物及び専ら当該
     建築物の利用の用に供するために設けられているものに限る。)の管理
 ② 電話交換機、館内放送設備等の設備(建築設備であるものを除く。)の操作、点検、整備
  イの①には、中高層分譲住宅等の建築物の管理業務は含まれない。
   イの①には、車両の誘導は含まれない。
  イの②には、一般廃棄物及び産業廃棄物の処理の用に供される施設、設備は含まれない。
 

 17 研究開発業務

・研究開発関係(令第4条第1項第13号)

  科学に関する研究又は科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する新製品若しくは科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する製品の新たな製造方法の開発の業務((1)及び(2)に掲げる業務を除く。)

   研究又は開発に係る次のような業務をいう。
 ① 研究課題の探索及び設定
 ② 文献、資料、類例、研究動向等関連情報の収集、解析、分析、処理等
 ③ 開発すべき新製品又は製品の新たな製造方法の考案
 ④ 実験、計測、解析及び分析、実験等に使用する機器、装置及び対象物の製作又は作成、標
     本の 製作等
 ⑤ 新製品又は製品の新たな製造方法の開発に必要な設計及び試作品の製作等
 ⑥ 研究課題に関する考察、研究結果のとりまとめ、試作品等の評価、研究報告書の作成
 ⑦ 前記の業務に関して必要なデータベースの構築及び運用
   次の業務は含まれない。
 ① 専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務でないものを専ら行うもの
 ② 製品の製造工程に携わる業務を専ら行うもの
  科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する新製品の開発又は科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する製品の新たな製造方法の開発を目的とした試作品の製作の業務はロの②に該当しない。
 

 18 事業の実施体制の企画立案

・事業の実施体制の企画、立案関係(令第4条第1項第14号)

  企業等がその事業を実施するために必要な体制又はその運営方法の整備に関する調査、企画又は立案の業務(労働条件その他の労働に関する事項の設定又は変更を目的として行う業務を除く。)
   企業等における事業の実施体制又は運営方法の整備に関する次の業務をいう。

 ① 自企業・ユーザー企業に対するアンケート、ヒアリング等、自企業・他の企業の現場視察

     及び事業内容の分析等を通じての実態把握並びに改善が必要と思料される事項に関する問題

    意識の提起

 ② 各種統計データ、他社の事例等資料の収集
 ③ 統計的手法を用いての調査結果の分析並びに自企業における事業の実施上の問題点の分析
     及び摘出
 ④ 事業の実施体制の改善策の策定
 ⑤ 実施すべき内容のとりまとめ及び提案
  「労働条件その他の労働に関する事項の設定又は変更を目的として行う業務」とは、①賃金、労働時間、福利厚生、安全衛生等の労働条件管理、②募集、採用、配置、昇進、能力開発等の人事管理、③人事相談その他の人間管理、④団体交渉、苦情処理等の労使関係管理等のいわゆる人事労務管理に係わる業務をいい、例えば、就業規則の作成又は変更に関する検討、個別の労働者に係わる具体的な配置の提案、労働組合及び個々の労働者に対する説明・説得等をいう。
 一方、例えば、新規事業等を開始するに当たり、業務量及びそれに必要な人員数についての試算を行う業務等は「労働条件その他の労働に関する事項の設定又は変更を目的として行う業務」には含まれない。
 ハ なお、アンケート、ヒアリングの実施又はその結果を集計する業務、統計データ、事例等の資料収集を専ら行う等の補助的な業務は含まれない。
 

 19 書類等の制作、編集

・書籍等の制作・編集関係(令第4条第1項第15号)

  書籍、雑誌その他の文章、写真、図表等により構成される作品の制作における編集の業務

  書籍等の制作における編集に係わる次の業務をいう。
 ① 書籍等の内容、読者層、価格、発売時期、発行部数等の企画及び決定
 ② 企画に沿った執筆者等の選定並びに執筆者等に対する執筆等の依頼及び交渉
 ③ 執筆者等(執筆者、写真家、画家、イラストレーター等のうち、編集者と交渉を行い、編
      集者から業務委託を受ける者)の補助(資料収集及び取材並びにそれらの補助)
 ④ 編集者自身が行う取材、資料収集及び執筆
 ⑤ 原稿等の点検及び原稿等の内容の調整並びに執筆者等との交渉及び調整
 ⑥ 書籍等の用紙、装丁、割付け等の考案及び決定
 ⑦ 上記に付随する校正及び校閲
   この場合において、「書籍、雑誌その他の文章、写真、図表等により構成される作品」とは、文章、写真、図表等により構成され、紙等(CD-ROM、マイクロフィルム等を含む。)に記録されるものをいう。
  なお、校正等を専ら行うような補助的な業務は含まれない。

 

 20 広告デザイン業務

・広告デザイン関係(令第4条第1項第16号)

  商品若しくはその包装のデザイン、商品の陳列又は商品若しくは企業等の広告のために使用することを目的として作成するデザインの考案、設計又は表現の業務(2の(6)に掲げる業務を除く。)

   商品若しくはその包装のデザイン又は商品若しくは企業等の広告のために使用することを目的とするデザインについての考案、設計、試作品の作成又はデザイン自体の作成の業務、ショールーム等における商品の陳列を考案し、設計し又は実施する業務をいう。
   「企業等」には、私企業、公企業の他、企業団体、一般社団法人又は一般財団法人、個人事業主が含まれる。
  この場合において、「広告」の媒体としては、テレビ、新聞、雑誌、パンフレット、カタログ、ポスター、看板等が想定される。
   また、この場合において、「設計」とは、あくまでデザインの設計及び作図のことをいい、(2)における設計とは異なる((2)のロ参照)。
  なお、次の業務は含まれない。
 ① 2の(6)に該当する業務
 ② デザイン作成に当たって、印刷又は決定されたデザインのとおりに彩色等を専ら行う業務
 ③ 決定された方法のとおりに商品の陳列を専ら行う業務

 

 21 インテリアコーディネーター

・インテリアコーディネータ関係(令第5条第6号)

  建築物内における照明器具、家具等のデザイン又は配置に関する相談又は考案若しくは表現の業務(法第4条第1項第2号に規定する建設業務を除く。)

   建築物内における照明器具、家具等(以下「インテリア」という。)のデザイン又は配置に関する次の業務をいう。

 ① インテリアに関する相談、説明又はインテリアの選定に係る助言

 ② インテリアのデザイン、配置等の考案
 ③ 提案書の作成(イメージの考案及び表現)及び模型の作成並びにそれらの提示
 ④ インテリアの販売業者との交渉、家具等の配置の際の立会い等
   この場合において、「建築物内における照明器具、家具等」には、照明器具、家具の他、建具、建装品(ブラインド、びょうぶ、額縁等)、じゅうたん・カーテン等繊維製品等が含まれる。
   なお、次の業務は含まれない。
 ① 法第4条第1項第2号に規定する建設業務に該当するもの(内装等の施工を含む。(第2
     の1の②、第2の2の(3)参照))
 ② 清書、模型の作成等を専ら行う業務
 

 22 アナウンサー

・アナウンサー関係(令第5条第7号)

  放送番組等における高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする原稿の朗読、取材と併せて行う音声による表現又は司会の業務(これらの業務に付随して行う業務であって、放送番組等の制作における編集への参画又は資料の収集、整理若しくは分析の業務を含む。)
   放送番組等における次の業務をいう。
 ① ニュース番組その他の報道番組等におけるニュース等の原稿の朗読及びいわゆるナレーシ
     ョン
 ② ニュース番組、スポーツ番組、事件があった場合等の特別番組等における実況中継又は
     インタビュー
 ③ 報道番組の司会及び進行
 ④ 上記の業務に付随して行う編集会議への出席等編集への参画、資料収集、打合せ等の業務
 ⑤ 映画、ビデオ、CD等において前記の業務に該当するものを行う業務

 

 23 OAインストラクション業務

・OAインストラクション関係(令第4条第1項第17号)

  事務用機器の操作方法、電子計算機を使用することにより機能するシステムの使用方法又はプログラムの使用方法を習得させるための教授又は指導の業務

  (3)のイの事務用機器の操作方法の教授又は指導の業務又は(1)のロに掲げる電子計算機を使用することにより機能するシステム又はプログラムの使用方法の教授又は指導の業務並びにそれらに付随して行う指導方針等に係るユーザー企業との打合せ及びこれに基づくテキストの作成の業務をいう。
   この場合において、「事務用機器」は(3)における「事務用機器」と同一であり、ファクシミリ、シュレッダー、コピー、電話機、バーコード読取機等迅速かつ的確な操作に習熟を必要としない機器は含まない((3)参照)。
  なお、事務用機器の操作方法等に関するテキスト等の作成を専ら行う業務及びVTR、OHPその他教授のための教材の操作を専ら行う業務は含まれない。

 

 24 テレマーケティング業務

・テレマーケティングの営業関係(令第5条第8号)

  電話その他の電気通信を利用して行う商品、権利若しくは役務に関する説明若しくは相談又は商品若しくは権利の売買契約若しくは役務を有償で提供する契約についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくはこれらの契約の申込み若しくは締結の勧誘の業務

   電話その他の電気通信を利用して行う次の業務をいう。
 ① 顧客に架電する等により行う、商品等に対する関心の有無の確認、商品等の説明、売買契
      約等についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくはこれらの契約の申込み若しく
     は締結の勧誘の業務
 ② 顧客からの架電等に応対して行う、商品等の説明、商品等に関する相談、売買契約等につ
    いての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくはこれらの契約の申込み若しくは締結の勧
    誘の業務(購入後の商品等に関する問い合わせ、苦情への対応等を含む。) 
 ロ  イの①又は②の業務に付随して行われる予約内容に係る伝票作成、コンピュータ入力等の業務は含まれる。
  「その他の電気通信」には、ファクシミリ、パソコン通信等が含まれる。
   この場合において、商品とは売買契約の対象となる物品のことを、権利とは、例えば保養のための施設やスポーツ施設を利用する権利など役務を受ける等の権利を、役務とは、例えば保養のための施設やスポーツ施設を利用させることをいう。
   なお、次の業務は含まれない。
 ① 1の(7)に該当する業務
 ② 1の(12)に該当する業務
 ③ アポイント取りを行う業務(商品等の説明等を行っている際に直接面接して商品等に
      関する説明等を行う必要が生じた場合等を除く。)
 ④ 予め録音した音声により顧客からの架電への応対を行う業務
 ⑤ 放送番組において行うもの等不特定多数の者に向けての商品等の説明の業務
 ⑥ 予約内容の伝票作成、コンピュータ入力等を専ら行う業務
 

 25 セールスエンジニアの営業、金融商品の営業

・セールスエンジニアの営業、金融商品の営業関係(令第4条第1項第18号)

  顧客の要求に応じて設計(構造を変更する設計を含む。)を行う機械等若しくは機械等により構成される設備若しくはプログラム又は顧客に対して専門的知識に基づく助言を行うことが必要である金融商品(金融商品の販売等に関する法律(平成12年法律第101号)第2条第1項に規定する金融商品の販売の対象となるものをいう。)に係る当該顧客に対して行う説明若しくは相談又は売買契約(これに類する契約で同項に規定する金融商品の販売に係るものを含む。以下この号において同じ。)についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくは売買契約の申込み若しくは締結の勧誘の業務

   次のいずれかの業務をいう。
 ① 顧客の要求に応じて設計(構造を変更する設計を含む。)を行う機械等若しくは機械等に
     より構成される設備若しくはプログラムに係る次の業務
  顧客の要求の把握並びに顧客に対する説明又は相談及びそれらに必要な説明資料の作成
  顧客との交渉又は見積書作成
  売買契約の締結等売買契約についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくは売買
     契約の申込み若しくは締結の勧誘
  上記に付随する納入(運送業務を含む。)及びその管理
 ② 顧客に対して専門的知識に基づく助言を行うことが必要である金融商品に係る次の業務
  金融商品の特性、リスク等に関する説明(情報提供)又は相談及びそれらに必要な説明資
  料の作成
 顧客との交渉又は見積書作成
  ニーズの的確な把握等を踏まえ選定された金融商品についての売買契約の締結等売買契約
  についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくは売買契約の申込み若しくは締結
  の勧誘
   イの①には、既製品や既製品に既成の付属物を付加するものの営業に係わる業務は含まれないことに留意すること。
   イの①において、「機械等若しくは機械等により構成される設備」には、電気・電子機器、加工機器、輸送用機器、産業用機器(クレーン、ボイラー、タンク、タワー等)、原子力プラント、化学プラント等が該当する。
ニ イの①において、「プログラム」には、IT関連商品としてのシステム、ソフトウェア、ネットワーク等が該当する。
   イの②のiには、①企業調査、産業調査に基づき行う個別証券の分析、評価、②顧客のライフプラン等を踏まえたポートフォリオ(運用資産のもっとも有利な分散投資の選択)の作成等も含む。
 ヘ  イの②とは、具体的には、次のような資格を有する者(これに相当すると認められる者を含む。)の行う専門的知識を要する業務をいう。
 ① デリバティブに係る業務まで行い得る一種外務員資格を有する証券外務員
 ② 損害保険のほぼ全種目につき必要な知識を持ち、十分に自立して取り扱う能力があると
    認められていた従前の特級又は上級資格を有する損害保険外務員
 ③ ファイナンシャル・プランニング・サービスに必要な知識の習得を目的とする応用課程試
    験合格者である生命保険外務員
 ④ 日本ファイナンシャル・プランナーズ協会のAFP(Affiliated Financial Planner)資格審
    査試験に合格し同協会に個人正会員として入会している者(AFP認定者。)
 ⑤ (社)日本証券アナリスト協会の試験に合格し同協会の会員として登録している証券アナ
    リスト
   なお、次の業務は含まれない。
 ① 機械等の設計若しくは製造又はその管理の業務及びプログラムの設計若しくは作成又は
    その管理の業務
 ② 建築設計の業務((2)のニ参照)
 ③ 機械等又はプログラムの納入及びそれに付随する輸送を専ら行う業務
 ④ 機械等又はプログラムの保守及びアフターサービスの業務
 

 26 放送番組等の大道具、小道具業務

・放送番組等における大道具・小道具関係(令第5条第9号)

  放送番組等の制作のために使用される舞台背景、建具等の大道具又は調度品、身辺装飾用品等の小道具の調達、製作、設置、配置、操作、搬入又は搬出の業務(法第4条第1項第2号に規定する建設業務を除く。)

   次のいずれかの業務をいう。
 ① 放送番組等の制作のために使用される舞台背景、建具等の大道具の調達、製作、設置、操
  作、搬入又は搬出の業務(法第4条第1項第2号に規定する建設業務(第2の1の②、第
     2の2の(3)参照)に該当するものを除く。)
 ② 放送番組等の制作のために使用される調度品、身辺用装飾品等の小道具(衣装を除く。)
     の調達、製作、配置、搬入、搬出又は保管の業務
  ここで、①及び②においては、放送番組等のディレクター等の指示の下に、予め設定され
     た企画に基づいて行う次の業務が含まれる。
  大道具若しくは小道具の調達若しくは製作に関する計画の作成又は大道具若しくは小道具
     の調達
  大道具のデザイン又は設計
  大道具又は小道具の原材料の調達、製作(彩色を含む。)又は改造
 大道具又は小道具の搬入
  大道具の組立若しくは設置又は小道具の配置(放送番組等の本番中において行うものを含
  む。)
  放送番組等の本番中における、大道具の操作若しくは手直し又は小道具の手直し
  放送番組等の終了後における、大道具の解体若しくは搬出又は小道具の搬出若しくは保管
   この場合において、「放送番組等」とは、(1)及び(2)における「放送番組等」と同一である。
 また、「制作」には、(1)に掲げる「制作」のうち「中継」及び「送出」を除いたものが該当する((1)参照)。
   この場合において、「大道具」には、建具、背景、壁、窓、扉、植込み等が含まれ、「大道具」の製作には、建築物その他の工作物に該当するものの製作は含まれない。
   また、「小道具」には、①室内の調度品、家具、飾り物、日用品等、②出演者が持ってでるもの、はきもの、(いわゆる「持道具」と呼ばれるもの)等が含まれるが、衣装、かつら等は含まれない。
 また、小道具の業務には、メーク、結髪等は含まれない。
  なお、大道具又は小道具の搬入、搬出又は保管を専ら行う業務は含まれない。

 

2.派遣期間が1年~3年の制限業務

 派遣就業の場所ごとの同一の業務について、意見聴取を経て3年以内の派遣受入期間が定められている場合はその定められた期間、それ以外の場合は1年)を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

 以下は、上記から除外される業務

(1)いわゆる26業務

(2)有期プロジェクト業務(3年以内に限る。)

 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているもの

(3)日数限定業務

 その業務の1か月間に行われる日数が、派遣先の通常の労働者の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、月10 日以下である業務

(4)休暇の代替業務

 産前産後休業・育児休業、並びに産前休業に先行し、又は産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって、母性保護又は子の養育をするための休業をする際の代替業務(則第33 条)

 介護休業及び介護休業に後続する休業であって、育児・介護休業法第2条第4号に規定する対象家族を介護するためにする休業をする場合の代替業務(則第33 条の2)

 

3.派遣労働者を受け入れてはならない同一の業務

 事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

(1)事業所その他派遣就業の場所

 事業所その他派遣就業の場所については、課、部、事業所全体等、場所的に他の部署と独立していること、経営の単位として人事、経理、指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること、一定期間継続し、施設としての持続性を有すること等の観点から実態に即して判断すること。

(2)同一の業務

 同一の業務については、労働者派遣契約を更新して引き続き当該労働者派遣契約に定める業務に従事する場合は同一の業務に当たるものとする。
 上記のほか、派遣先における組織の最小単位において行われる業務は、同一の業務であるとみなす
 なお、この場合における最小単位の組織としては、業務の内容について指示を行う権限を有する者とその者の指揮を受けて業務を遂行する者とのまとまりのうち最小単位のものをいい、係又は班のほか、課、グループ等が該当する場合もあり、名称にとらわれることなく実態により判断すべきものとする。

 

4.派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けた場合の取扱い

(1)派遣期間を超えて労働者派遣を行った場合の大臣の勧告

  厚生労働大臣は、派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けている場合及び法第48 条第1項の規定による指導又は助言をしたにもかかわらず、それらが改善されない場合には、派遣就業を是正するために必要な措置をとるべきことを勧告できる。

 派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けており、かつ、労働者派遣の役務の提供に係る派遣労働者が当該派遣先に雇用されることを希望している場合において、派遣先に対し、法第48 条第1項の規定により指導又は助言をしたにもかかわらず改善されない場合には、当該派遣先に対し、その派遣労働者を雇い入れるよう勧告することができる。※勧告は都道府県労働局長が行うこととなる。

 厚生労働大臣は上記の勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

(2)勧告に従わなかった場合

 雇入れ勧告を行うケースは、派遣元事業主と派遣先との間で、派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について労働者派遣契約が派遣受入期間を超えて締結されることが想定し難い中では、既に労働者派遣契約の根拠なく、また、派遣元事業主と派遣労働者の間の労働契約の根拠なく、事実上派遣先において就業を継続している状態であって、更に勧告の実施要件を満たしている場合と考えられる

 派遣労働者が派遣元事業主との労働契約を解除したり、労働契約期間が満了する等派遣元事業主との雇用関係が既に終了している場合には、派遣先との雇用関係が成立していると推定でき訴訟において、派遣労働者は、勧告の内容に従った雇用関係の確認や損害賠償請求を行うことが可能である

 

裁判例

・福岡高等裁判所 平成8年(ネ)555(労働者派遣事業の本質)

 右労働者派遣法の規定は、労働者の派遣が労働者供給事業の性質を有 し、強制労働や中間搾取等の問題を惹き起こす可能性があることに着目し、労働者 の自由意思を確保するために設けられた規定であり、営利目的はもとより事業とし て行われたものでもない本件出向をこれと同列に論ずることはできない。

 

・伊予銀行雇用関係確認事件 平成12年(ワ)757

 派遣法は,派遣労働者の雇用の安定だけでなく,常用代替防 止,すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも立法目的とし,派遣期間の制限 規定をおくなどして両目的の調和を図っているところ,同一労働者の同一事業所へ の派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは,常用 代替防止の観点から同法の予定するところではないといわなければならない(な お,本件で原告が行っていた事務用機器の操作業務に関しては,3年を超える同一 人の同一場所,同一業務への派遣を行わないよう行政指導がなされている。

 そうすると,仮に原告と被告ISS(いよぎんスタッフサービス株式会社)との雇用契約が期間の定めのない契 約と実質的に異ならない状態で存在しているということができ,あるいは上記の原告の雇用継続に対する期待になお合理性を認める余地があるとしても,当該雇用契 約の前提たる被告ISSと被告伊予銀行との派遣契約が期間満了により終了したと いう事情は,当該雇用契約が終了となってもやむを得ないといえる合理的な理由に 当たるというほかない。

 もっとも,労働契約といえども,黙示の意思の合致によっても成立しうる ものであり,これは,本件のように,別途派遣法に基づく明示の派遣契約が締結さ れている場合でも変わるところはない。すなわち,派遣元の存在が形式的名目的な ものに過ぎず,実際には派遣先において派遣労働者の採用,賃金額その他の就業条 件を決定しており,派遣労働者の業務の分野・期間が派遣法で定める範囲を超え, 派遣先の正規職員の作業と区別し難い状況となっており,また,派遣先において, 派遣労働者に対して作業上の指揮命令,その出退勤等の管理を行うだけでなく,そ の配置や懲戒等に関する権限を行使するなど実質的にみて,派遣先が派遣労働者 に対して労務給付請求権を有し,かつ賃金を支払っていると認められる事情がある 場合には,前記明示の派遣契約は有名無実のものに過ぎないというべきであり,派 遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が締結されたと認める余地があるという べきである。

 本来,派遣対象業務以外の業務を行うことは派遣法の予定しないとこ ろである。もちろん,当該業務と密接に関連し、その遂行のため不可欠又は必要な 業務,あるいは当該業務に密接に関連するとはいえなくとも,業務の円滑な遂行の ため,職場での人間関係の維持を含めて必要な関連性のある業務などは,派遣労働 者において行うことが必要な業務というべきであり,原告が行ってきた業務のう ち,メール便処理業務の一部(取立手形や振込書類通知書の発送,文書為替や雑為 替の送付など),コピーやファックス操作,来客接待等は,これらに含まれるもの というべきである。       

 これに対し,端末操作に直接関わらない郵便物の発受,公務員給与の 袋入れ作業,大口集金先への同行,顧客獲得のためのセールス業務などは,上記に より許される範囲を超えているもので,派遣労働者が行うことは本来予定されてい ない対象外業務であるというべきである。

 以上によれば,(前述の)とおり,被告らによる原告の雇用及び派遣体 制には,派遣法の規定及び趣旨に照らして,少なからず問題があることは否めない というべきであるが,他方,(別に)示したところによれば,被告ISSは形式 のみでなく,社会的実体を有する企業であり,原告の就業条件,採用の決定,さら には原告に対する賃金(慰労金を含む)の支払いは,すべて被告ISSにおいて行 っているのであるから,原告と被告ISSとの雇用契約が有名無実のものであると はいい難い。     

 したがって,被告伊予銀行と原告との間で黙示の労働契約が成立したとは 認められない

 

・三都企画建設事件(平成18年1月6日大阪地裁判決)

  「原告の勤務状況が、被告と派遣先との間の派遣契約に照らして、債務不履行(不完全履 行)といえない場合は、派遣先は、被告に対して、原告の交代を要求したり、被告がこれに 応じないことを理由に、派遣契約を解除することはできない。この場合、派遣先が原告の交代を求め、原告の就労を拒否したとしても、債務不履行でない限り、被告が派遣先に対する 派遣代金の請求権を失うことはないと解する。もっとも、原告の勤務状況が、債務不履行といえない場合であっても、派遣先が原告の就労を拒絶する場合、原告の被告に対する賃金請 求権の帰趨については、別に検討する必要がある(また、被告が派遣先の要請に応じて、原 告を交代させた場合などについても同様の問題が生じる。)。」 

 「被告としては、派遣先から、原告の勤務状況が、被告と派遣先との労働者派遣契約上の 債務不履行事由に該当すると主張して、原告の就労を拒絶し、その交代を要請されたとして も、原告の勤務状況について、これをよく知る立場になく(その情報は、派遣先企業と原告 が有していることになる。)、派遣先の主張を争うことは極めて困難というべきである(派 遣先や原告から、被告にとって有利な情報を得ることは極めて困難と思われる。)。このような状況下において、派遣先から原告の就労を拒絶された場合、被告としては、乏しい資料 しかないにもかかわらず、派遣先による原告の交代要請を拒絶し、債務不履行事由の存在を 争って、派遣代金の請求をするか否かを判断することもまた困難というべきである。そうす ると、被告が、派遣先との間で、債務不履行事由の存否を争わず、原告の交代要請に応じた ことによって、原告の就労が履行不能となった場合、特段の事情がない限り、原告の被告に 対する賃金請求権(中略)は消滅すべきというべきである(中略)。 

 一方、被告の判断により、派遣先との紛争を回避し、派遣先からの原告の就労拒絶を受け 入れたことにより、派遣先における原告の就労が不可能となった場合は、原告の勤務状況か ら、被告と派遣先との労働派遣契約上の債務不履行事由が存在するといえる場合を除き、労働基準法26条にいう「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、原告は、被告に対し、休業手当の支給を求めることができると考える。」

 

労働者派遣期間のまとめのまとめ

(出典:厚生労働省作成 労働者派遣、許可・更新手続マニュアル)

 派遣期間の制限の整理

1.派遣期間の制限かつ日雇い派遣の制限の双方がない業務(施行令第4条第1項各号に掲げる業務)

 ・情報処理システム開発関係(令第4条第1項第1号)

 ・機械設計関係(令第4条第1項第2号)

 ・機器操作関係(令第4条第1項第3号)

 ・通訳、翻訳、速記関係(令第4条第1項第4号)

 ・秘書関係(令第4条第1項第5号)

 ・ファイリング関係(令第4条第1項第6号)

 ・調査関係(令第4条第1項第7号)

 ・財務関係(令第4条第1項第8 号)

 ・貿易関係(令第4条第1項第9号)

 ・デモンストレーション関係(令第4条第1 項第10 号)

 ・添乗関係(令第4条第1 項第11 号)

 ・受付・案内関係(令第4条第1項第12 号)

 ・研究開発関係(令第4条第1項第13 号)

 ・事業の実施体制の企画、立案関係(令第4条第1 項第14 号)

 ・書籍等の制作・編集関係(令第4条第1 項第15 号) 

 ・広告デザイン関係(令第4条第1 項第16 号)

 ・OAインストラクション関係(令第4条第1 項第17 号)

 ・セールスエンジニアの営業、金融商品の営業関係(令第4条第1 項第18 号)

 

2.派遣期間の制限はないが日雇い派遣はできない業務(施行令第5条各号に掲げる業務)

 ・放送機器操作関係(令第5条第1号)

 ・放送番組等の制作関係(令第5条第2号) 

 ・建築物清掃関係(令第5条第3号)

 ・建築設備運転等関係(令第5条第4号)

 ・駐車場管理等関係(令第5条第5号)

 ・インテリアコーディネータ関係(令第5条第6号)

 ・アナウンサー関係(令第5条第7号)

 ・テレマーケティングの営業関係(令第5条第8号)

 ・放送番組等における大道具・小道具関係(令第5条第9号)

 ・水道施設等の設備運転等関係(令第5条第10 号)

 

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第40条の2を終了します。

 

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労働者派遣法第38条、第39条、第40条

2015年06月24日 17:41

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第38条(準用)

 第三十三条及び第三十四条第一項(第三号を除く。)の規定は、派遣元事業主以外の労働者派遣をする事業主について準用する。この場合において、第三十三条中「派遣先」とあるのは、「労働者派遣の役務の提供を受ける者」と読み替えるものとする。

 

第39条(労働者派遣契約に関する措置)

 

 派遣先は、第二十六条第一項各号に掲げる事項その他厚生労働省令で定める事項に関す

る労働者派遣契約の定めに反することのないように適切な措置を講じなければならない。

 

第40条(適正な派遣就業の確保等)

 

 派遣先は、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者から当該派遣就業に関し、苦情の

申出を受けたときは、当該苦情の内容を当該派遣元事業主に通知するとともに、当該派遣

元事業主との密接な連携の下に、誠意をもつて、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処

理を図らなければならない。

2 前項に定めるもののほか、派遣先は、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者につ

いて、当該派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、適切な就業環境の維持、

診療所、給食施設等の施設であつて現に当該派遣先に雇用される労働者が通常利用してい

るものの利用に関する便宜の供与等必要な措置を講ずるように努めなければならない。

3 派遣先は、第三十条の二の規定による措置が適切に講じられるようにするため、派遣

元事業主の求めに応じ、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者が従事する業務と同種

の業務に従事する当該派遣先に雇用される労働者に関する情報であつて当該措置に必要な

ものを提供する等必要な協力をするように努めなければならない。

 

法第38条の考察

 第三十三条及び第三十四条第一項(第三号を除く。)の規定は、派遣元事業主以外の労働者派遣をする事業主について準用する。

法第33条

 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であつた者を含む。次項において同じ。)は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

法第34条

 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明示しなければならない。

 一 当該労働者派遣をしようとする旨

 二 第二十六条第一項各号に掲げる事項その他厚生労働省令で定める事項であつて当該派遣労働者に係るもの

 

※派遣労働者に係る雇用制限の禁止は、派遣元事業主以外の事業主が労働者派遣をする場合も適 用されるとされています。この派遣元事業主以外の事業主が労働者派遣をする場合の具体例が今のところ把握できません。

 

法第39条、第40条(派遣先の措置)

 派遣先事業主が講ずべき措置等

 労働者派遣事業は、派遣労働者がその雇用されている派遣元事業主ではなく、派遣先から指揮命令を受けて労働に従事するという形態で事業が行われる。
 このため、派遣労働者の保護を図るためには、現実の就業場所である派遣先において派遣労働者の適正な就業が確保され、派遣労働者が派遣先で指揮命令を受けることに伴い生じた苦情等が適切かつ迅速に処理されることが必要である。
 以上の観点から、一般労働者派遣事業であると特定労働者派遣事業であるとを問わず、派遣元事業主から労働者派遣を受けた派遣先は、次のような措置等を講じなければならない。
 ① 労働者派遣契約に関する措置(法第39 条)
 ② 適正な派遣就業の確保等のための措置(法第40 条)
 ③ 派遣受入期間の制限の適切な運用(法第40 条の2)
 ④ 派遣労働者の雇用の努力義務(法第40 条の3)
 ⑤ 派遣労働者への労働契約の申込み義務(法第40 条の4、法第40 条の5)
 ⑥ 離職した労働者についての労働者派遣の役務の提供の受入れの禁止(法第40 条の6)
 ⑦ 派遣先責任者の選任(法第41 条)
 ⑧ 派遣先管理台帳の作成、記載、保存及び記載事項の通知(法第42 条)

 

1.労働者派遣契約に関する措置(法第39 条)

(1) 概要
 派遣先は、労働者派遣契約の定め(第7の2の(1)のイにおける定め)に反することのないように適切な措置を講じなければならない(法第39 条)。
(2) 労働者派遣契約に定める就業条件の確保
 派遣先は、労働者派遣契約を円滑かつ的確に履行するため、次に掲げる措置その他派遣先の実態に即した適切な措置を講ずるものとする(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の2(第9の16 参照))。
   就業条件の周知徹底
 労働者派遣契約で定められた就業条件について、当該派遣労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者その他の関係者に当該就業条件を記載した書面を交付し、又は就業場所に掲示する等により、周知の徹底を図ること。
  就業場所の巡回
 定期的に派遣労働者の就業場所を巡回し、当該派遣労働者の就業の状況が労働者派遣契約に反していないことを確認すること。
   就業状況の報告
 派遣労働者を直接指揮命令する者から、定期的に当該派遣労働者の就業の状況について報告を求めること。
   労働者派遣契約の内容の遵守に係る指導
 派遣労働者を直接指揮命令する者に対し、労働者派遣契約の内容に違反することとなる業務上の指示を行わないようにすること等の指導を徹底すること。
(3) 労働者派遣契約の定めに違反する事実を知った場合の是正措置等
 派遣先は、労働者派遣契約の定めに反する事実を知った場合には、これを早急に是正するとともに、労働者派遣契約の定めに反する行為を行った者及び派遣先責任者に対し労働者派遣契約を遵守させるために必要な措置を講ずること、派遣元事業主と十分に協議した上で損害賠償等の善後処理方策を講ずること等の適切な措置を講ずるものとする(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の5(第9の16 参照))。
(4) 法第43 条による準用
 労働者派遣契約に関する措置は、派遣元事業主以外の事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける場合も適用される。

 

2.適正な派遣就業の確保等のための措置(法第40 条)

(1) 概要
  派遣先は、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者から当該派遣就業に関し、苦情の申出を受けたときは、当該苦情の内容を当該派遣元事業主に通知するとともに、当該派遣元事業主との密接な連携の下に、誠意をもって、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処理を図らなければならない(法第40 条第1項)。
   その他、派遣先は、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者について、当該派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、適切な就業環境の維持、診療所、給食施設等の施設であって現に当該派遣先に雇用される労働者が通常利用しているものの利用に関する便宜の供与等必要な措置を講ずるよう努めなければならない(法第40 条第2項)。
   派遣先は、第8の3の規定による措置が適切に講じられるようにするため、派遣元事業主の求めに応じ、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する当該派遣先に雇用される労働者に関する情報であって当該措置に必要なものを提供する等必要な協力をするように努めなければならない(法第40 条第3項)。
(2) 苦情の適切な処理
  苦情の申出
 派遣労働者から出される派遣先における苦情の申出(例えば、指揮命令の方法の改善等)は、派遣先事業主、派遣労働者を直接指揮命令する者、派遣先責任者に限らず派遣先や派遣先に代わって派遣労働者を管理する職務上の地位にある者が認識し得るものであれば申出としての効果を持つものであり、その方法は、書面によると口頭によるとを問うものではない。
  苦情の内容の派遣元事業主への通知
 苦情の申出を受けた場合は、当該苦情の内容を、遅滞なく、派遣元事業主に通知しなければならない。ただし、派遣先において、申出を受けた苦情の解決が容易であり、現実的にその苦情を即時に処理してしまったような場合は、あえて派遣元事業主に通知するまでの必要はない。
   苦情の処理の方法
 (イ) 派遣労働者の苦情が、派遣先の派遣労働者への対処方法のみに起因する場合は派遣先のみで解決が可能であるが、その原因が派遣元事業主にもある場合は、単独では解決を図ることが困難であり、派遣元事業主と密接に連絡調整を行いつつ、その解決を図っていくことが必要である。いずれの場合においても、中心となってその処理を行うのは派遣先責任者であり、後者の場合にあっては、派遣先責任者が派遣元責任者と連絡調整を行いつつ、その解決を図らなければならない。
 (ロ) 派遣先は、派遣労働者の受入れに際し、説明会等を実施して、派遣労働者の苦情の申出を受ける者、派遣先において苦情の処理をする方法、派遣元事業主と派遣先との連携を図るための体制等労働者派遣契約の内容について派遣労働者に説明するものとする(「派遣先の講ずべき措置に関する指針」第2の7(第9の16 参照))。
   苦情の申出を理由とする不利益取扱いの禁止
 派遣労働者から苦情の申出を受けたことを理由として、当該派遣労働者に対して不利益な取扱いをすることは禁じられている(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の7(第9の16参照))。この禁止される「不利益な取扱い」には、苦情の申出を理由として当該派遣労働者が処理すべき業務量を増加させる等のような派遣労働者に対して直接行う不利益取扱いのほか、苦情の申出を理由として派遣元事業主に対して派遣労働者の交代を求めたり、労働者派遣契約の更新を行わない等の間接的に派遣労働者の不利益につながる行為も含まれるものである。
 また、派遣労働者から苦情の申出を受けたことを理由とする労働者派遣契約の解除は、法第27 条に違反するものでもある(第7の3の(3)のハ参照)ので、これらについて十分に周知指導を行うこと。
(3) 適正な就業環境の確保
   適正な就業環境の確保
 (イ) 適切な就業環境の維持、福利厚生等
 派遣先は、その指揮命令の下に労働させている派遣労働者について、派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、セクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持、その雇用する労働者が通常利用している診療所、給食施設等の施設の利用に関する便宜を図るように努めなければならない。(「派遣先の講ずべき措置に関する指針」第2の9の(1)(第9の16 参照))
 (ロ)均衡を考慮した待遇の確保に必要な派遣先の協力
 派遣先は、労働者派遣法第40 条第3項の規定に基づき、派遣元事業主の求めに応じ、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事している労働者等の賃金水準、教育訓練、福利厚生等の実状を把握するために必要な情報を派遣元事業主に提供するとともに、派遣元事業主が当該派遣労働者の職務の成果等に応じた適切な賃金を決定できるよう、派遣元事業主からの求めに応じ、当該派遣労働者の職務の評価等に協力するよう努めなければならないこと(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9の(1)(第9の16 参照))
 (ハ)教育訓練、能力開発
 派遣先は、派遣元事業主が行う教育訓練や派遣労働者の自主的な能力開発等の派遣労働者の教育訓練・能力開発について、可能な限り協力するほか、必要に応じた教育訓練に係る便宜を図るよう努めなければならないこと(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9の(2)(第9の16 参照))。
   派遣労働者に対する説明会等の実施
 派遣先は、派遣労働者の受入れに際し、説明会等を実施し、派遣労働者が利用できる派遣先の各種の福利厚生に関する措置の内容についての説明、派遣労働者が円滑かつ的確に就業するために必要な派遣労働者を直接指揮命令する者以外の派遣先の労働者との業務上の関係についての説明及び職場生活上留意を要する事項についての助言等を行うこと(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の12(第9の16 参照))。
  派遣元事業主との連絡体制の確立
 派遣先は、派遣元事業主の事業場で締結される労働基準法第36 条第1項の時間外及び休日の労働に関する協定の内容等派遣労働者の労働時間の枠組みについて派遣元事業主に情報提供を求める等により、派遣元事業主との連絡調整を的確に行うこと(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の11(第9の16 参照))。
(4) 雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストへの労働者派遣の受け入れ
 派遣先は、雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストに、当該解雇後3か月以内に派遣労働者を受け入れる場合には、必要最小限度の労働者派遣の期間を定めるとともに、当該派遣先に雇用される労働者に対し労働者派遣の役務の提供を受ける理由を説明する等、適切な措置を講じ、派遣先の労働者の理解が得られるよう努めること(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の16(第9の15 参照))。
 この趣旨は、安易な雇用調整の結果、派遣を受け入れるということは許されるものでなく、雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストへの派遣の受入れについては、特に慎重に判断すべきことにある。なお、労働者派遣の「臨時的・一時的」な労働力の適正・迅速な需給調整としての位置づけを踏まえると、雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストへの派遣の受入れについては、解雇後3か月以内かどうかにかかわりなく、慎重に対応することが適当であること。
(5) 安全衛生に係る措置
 派遣先は、派遣元事業主が雇入れ時の安全衛生教育を適切に行えるよう、派遣労働者が従事する業務に係る情報提供を派遣元事業主に対し積極的に提供するとともに、派遣元事業主から雇入れ時の安全衛生教育の委託の申入れがあった場合には可能な限りこれに応じるよう努める等、派遣労働者の安全衛生に係る措置を実施するために必要な協力や配慮を行うこと(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の17(第9の16 参照))。
 なお、「派遣労働者が従事する業務に係る情報提供」の内容としては、例えば、派遣労働者が派遣先で使用する機械・設備の種類・型式の詳細、作業内容の詳細、派遣先の事業場における労働者に対する雇入れ時の安全衛生教育を行う際に使用している教材、資料等が考えられる。

 

第39条、第40条まとめ

労働者派遣契約に定める就業条件の確保

 イ 就業条件の周知徹底

 ロ 就業場所の巡回

 ハ 就業状況の報告

 ニ 労働者派遣契約の内容の遵守に係る指導

派遣先は、労働者派遣契約の定めに反する事実を知った場合には、これを早急に是正するとともに、労働者派遣契約の定めに反する行為を行った者及び派遣先責任者に対し労働者派遣契約を遵守させるために必要な措置を講ずる

 

適正な派遣就業の確保等のための措置(法第40 条)

 ア 苦情の適切な処理

  苦情の申出を受けた場合は、当該苦情の内容を、遅滞なく、派遣元事業主に通知しなければならない。ただし、派遣先において、申出を受けた苦情の解決が容易であり、現実的にその苦情を即時に処理してしまったような場合は、あえて派遣元事業主に通知するまでの必要はない。

 イ 苦情の処理の方法

  中心となって苦情処理を行うのは派遣先責任者であり、派遣元にも原因がある場合にあっては、派遣先責任者が派遣元責任者と連絡調整を行いつつ、その解決を図らなければならない。

  派遣先は、派遣労働者の受入れに際し、苦情の処理をする方法、派遣元事業主と派遣先との連携を図るための体制等労働者派遣契約の内容について派遣労働者に説明すること。

  派遣先は、苦情の申出を理由とする派遣労働者の不利益取扱いが禁止されている。

 

適正な就業環境の確保

 ア 福利厚生

  派遣先事業所は、派遣先が雇用する労働者が通常利用している診療所、給食施設等の施設の利用に関する便宜を図るように努めなければならない。

 イ 均衡考慮

  賃金水準、教育訓練、福利厚生等の実状を把握するために必要な情報を派遣元事業主に提供するとともに、派遣元事業主が当該派遣労働者の職務の成果等に応じた適切な賃金を決定できるよう、派遣元事業主からの求めに応じ、当該派遣労働者の職務の評価等に協力するよう努めなければならない。

 ウ 教育訓練、能力開発

  教育訓練や派遣労働者の自主的な能力開発等の派遣労働者の教育訓練・能力開発について、可能な限り協力するほか、必要に応じた教育訓練に係る便宜を図るよう努めなければならない。

 エ 派遣労働者に対する説明会等の実施

  派遣先は、説明会等を実施し、福利厚生に関する措置の内容及び派遣労働者を直接指揮命令する者以外の派遣先の労働者との業務上の関係の説明、職場生活上留意を要する事項についての助言等を行うこと。

 オ 派遣元事業主との連絡体制の確立

  36協定の内容等派遣労働者の労働時間の枠組みについて派遣元事業主に情報提供を求める等により、派遣元事業主との連絡調整を的確に行うこと。

 

・雇用調整により解雇したポストへの労働者派遣の受け入れ

  派遣先は、雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストに、当該解雇後3か月以内に派遣労働者を受け入れる場合には、派遣先の労働者の理解が得られるよう努める。

 

安全衛生に係る措置

  派遣先は、派遣元事業主が雇入れ時の安全衛生教育を適切に行えるよう、派遣労働者が従事する業務に係る情報提供を派遣元事業主に対し積極的に提供するとともに、派遣元事業主から雇入れ時の安全衛生教育の委託の申入れがあった場合には可能な限りこれに応じるよう努める等、派遣労働者の安全衛生に係る措置を実施するために必要な協力や配慮を行うこと。

 

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第38条・第39条・第40条を終了します。

 

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労働者派遣法第35条の2、第35条の3、第35条の4、第36条、第37条

2015年06月22日 11:04

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第35条の2(労働者派遣の期間)

 派遣元事業主は、派遣先が当該派遣元事業主から労働者派遣の役務の提供を受けたならば第四十条の二第一項の規定に抵触することとなる場合には、当該抵触することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行つてはならない。

2 派遣元事業主は、前項の当該抵触することとなる最初の日の一月前の日から当該抵触

することとなる最初の日の前日までの間に、厚生労働省令で定める方法により、当該抵触

することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行わない旨を当該派遣先及び当該労働

者派遣に係る派遣労働者に通知しなければならない。

 

第35条の3(日雇労働者についての労働者派遣の禁止)

 

 派遣元事業主は、その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務のうち、労働者派遣により日雇労働者(日々又は三十日以内の期間を定めて雇用する労働者をいう。以下この項において同じ。)を従事させても当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務として政令で定める業務について労働者派遣をする場合又は雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合を除き、その雇用する日雇労働者について労働者派遣を行つてはならない。

2 厚生労働大臣は、前項の政令の制定又は改正の立案をしようとするときは、あらかじ

め、労働政策審議会の意見を聴かなければならない。

 

令第4条(法第三十五条の三第一項の政令で定める業務等)

 法第三十五条の三第一項の政令で定める業務は、次のとおりとする。

一 電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守(これらに先行し、後続し、その他これらに関連して行う分析を含む。)又はプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。第十七号及び第十八号において同じ。)の設計、作成若しくは保守の業務

二 機械、装置若しくは器具(これらの部品を含む。以下この号及び第十八号において「機械等」という。)又は機械等により構成される設備の設計又は製図(現図製作を含む。)の業務

三 電子計算機、タイプライター又はこれらに準ずる事務用機器(第十七号において「事務用機器」という。)の操作の業務

四 通訳、翻訳又は速記の業務

五 法人の代表者その他の事業運営上の重要な決定を行い、又はその決定に参画する管理的地位にある者の秘書の業務

六 文書、磁気テープ等のファイリング(能率的な事務処理を図るために総合的かつ系統的な分類に従つてする文書、磁気テープ等の整理(保管を含む。)をいう。以下この号において同じ。)に係る分類の作成又はファイリング(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る。)の業務

七 新商品の開発、販売計画の作成等に必要な基礎資料を得るためにする市場等に関する調査又は当該調査の結果の整理若しくは分析の業務

八 貸借対照表、損益計算書等の財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務

九 外国貿易その他の対外取引に関する文書又は商品の売買その他の国内取引に係る契約書、貨物引換証、船荷証券若しくはこれらに準ずる国内取引に関する文書の作成(港湾運送事業法第二条第一項第一号に掲げる行為に附帯して行うもの及び通関業法(昭和四十二年法律第百二十二号)第二条第一号に規定する通関業務として行われる同号ロに規定する通関書類の作成を除く。)の業務

十 電子計算機、自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする機械の性能、操作方法等に関する紹介及び説明の業務

十一 旅行業法(昭和二十七年法律第二百三十九号)第十二条の十一第一項に規定する旅程管理業務(旅行者に同行して行うものに限る。)若しくは同法第四条第一項第四号に規定する企画旅行以外の旅行の旅行者に同行して行う旅程管理業務に相当する業務(以下この号において「旅程管理業務等」という。)、旅程管理業務等に付随して行う旅行者の便宜となるサービスの提供の業務(車両、船舶又は航空機内において行う案内の業務を除く。)又は車両の停車場若しくは船舶若しくは航空機の発着場に設けられた旅客の乗降若しくは待合いの用に供する建築物内において行う旅行者に対する送迎サービスの提供の業務

十二 建築物又は博覧会場における来訪者の受付又は案内の業務

十三 科学に関する研究又は科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する新製品若しくは科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する製品の新たな製造方法の開発の業務(第一号及び第二号に掲げる業務を除く。)

十四 企業等がその事業を実施するために必要な体制又はその運営方法の整備に関する調査、企画又は立案の業務(労働条件その他の労働に関する事項の設定又は変更を目的として行う業務を除く。)

十五 書籍、雑誌その他の文章、写真、図表等により構成される作品の制作における編集の業務

十六 商品若しくはその包装のデザイン、商品の陳列又は商品若しくは企業等の広告のために使用することを目的として作成するデザインの考案、設計又は表現の業務(次条第六号に掲げる業務を除く。)

十七 事務用機器の操作方法、電子計算機を使用することにより機能するシステムの使用方法又はプログラムの使用方法を習得させるための教授又は指導の業務

十八 顧客の要求に応じて設計(構造を変更する設計を含む。)を行う機械等若しくは機械等により構成される設備若しくはプログラム又は顧客に対して専門的知識に基づく助言を行うことが必要である金融商品(金融商品の販売等に関する法律(平成十二年法律第百一号)第二条第一項に規定する金融商品の販売の対象となるものをいう。)に係る当該顧客に対して行う説明若しくは相談又は売買契約(これに類する契約で同項に規定する金融商品の販売に係るものを含む。以下この号において同じ。)についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくは売買契約の申込み若しくは締結の勧誘の業務

2 法第三十五条の三第一項の政令で定める場合は、法第二十三条第一項に規定する派遣元事業主が労働者派遣に係る法第三十五条の三第一項に規定する日雇労働者(以下この項において「日雇労働者」という。)の安全又は衛生を確保するため必要な措置その他の雇用管理上必要な措置を講じている場合であつて次の各号のいずれかに該当するときとする。

一 当該日雇労働者が六十歳以上の者である場合

二 当該日雇労働者が学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条、第百二十四条又は第百三十四条第一項の学校の学生又は生徒(同法第四条第一項に規定する定時制の課程に在学する者その他厚生労働省令で定める者を除く。)である場合

三 当該日雇労働者及びその属する世帯の他の世帯員について厚生労働省令で定めるところにより算定した収入の額が厚生労働省令で定める額以上である場合

 

則第28条の2(令第四条第二項第二号の厚生労働省令で定める者)

 令第四条第二項第二号の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者とする。

一 卒業を予定している者であつて、雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第五条第一項に規定する適用事業に雇用され、卒業した後も引き続き当該事業に雇用されることになつているもの

二 休学中の者

三 前二号に掲げる者に準ずる者

 

則第28条の3(令第四条第二項第三号の厚生労働省令で定めるところにより算定した収入の額等)

 令第四条第二項第三号の厚生労働省令で定めるところにより算定した収入の額は、次に掲げる額とする。

一 日雇労働者の一年分の賃金その他の収入の額

二 日雇労働者(主として生計を一にする配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)その他の親族(以下この号において「配偶者等」という。)の収入により生計を維持する者に限る。)及び当該日雇労働者と生計を一にする配偶者等の一年分の賃金その他の収入の額を合算した額

2 令第四条第二項第三号の厚生労働省令で定める額は、五百万円とする。

 

第35条の4(離職した労働者についての労働者派遣の禁止)

 

 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとする場合において、派遣先が当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第四十条の六第一項の規定に抵触することとなるときは、当該労働者派遣を行つてはならない。

 

第36条(派遣元責任者)

 

 派遣元事業主は、派遣就業に関し次に掲げる事項を行わせるため、厚生労働省令で定めるところにより、第六条第一号から第八号までに該当しない者(未成年者を除く。)のうちから派遣元責任者を選任しなければならない。

一 第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十五条の二第二項及び次条に定める事項に関すること。

二 当該派遣労働者に対し、必要な助言及び指導を行うこと。

三 当該派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に当たること。

四 当該派遣労働者等の個人情報の管理に関すること。

五 当該派遣労働者の安全及び衛生に関し、当該事業所の労働者の安全及び衛生に関する業務を統括管理する者及び当該派遣先との連絡調整を行うこと。

 六 前号に掲げるもののほか、当該派遣先との連絡調整に関すること。

 

則第29条(派遣元責任者の選任)

 法第三十六条の規定による派遣元責任者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。

一 派遣元事業主の事業所(以下この条において単に「事業所」という。)ごとに当該事業所に専属の派遣元責任者として自己の雇用する労働者の中から選任すること。ただし、派遣元事業主(法人である場合は、その役員)を派遣元責任者とすることを妨げない。

二 当該事業所の派遣労働者の数が百人以下のときは一人以上の者を、百人を超え二百人以下のときは二人以上の者を、二百人を超えるときは、当該派遣労働者の数が百人を超える百人ごとに一人を二人に加えた数以上の者を選任すること。

 三 法附則第四項に規定する物の製造の業務(以下「製造業務」という。)に労働者派遣

  をする事業所にあつては、当該事業所の派遣元責任者のうち、製造業務に従事する派

  遣労働者の数が百人以下のときは一人以上の者を、百人を超え二百人以下のときは二

  人以上の者を、二百人を超えるときは、当該派遣労働者の数が百人を超える百人ごと

  に一人を二人に加えた数以上の者を当該派遣労働者を専門に担当する者(以下「製造

  業務専門派遣元責任者」という。)とすること。ただし、製造業務専門派遣元責任者の

  うち一人は、製造業務に従事しない派遣労働者を併せて担当することができる。

 

第37条(派遣元管理台帳)

 

 派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、派遣就業に関し、派遣元管理台帳を作成し、当該台帳に派遣労働者ごとに次に掲げる事項を記載しなければならない。

一 派遣先の氏名又は名称

二 事業所の所在地その他派遣就業の場所

三 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日

四 始業及び終業の時刻

五 従事する業務の種類

六 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項

七 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項

 八 その他厚生労働省令で定める事項

2 派遣元事業主は、前項の派遣元管理台帳を三年間保存しなければならない。

 

則第30条(派遣元管理台帳の作成及び記載)

 法第三十七条第一項の規定による派遣元管理台帳の作成は、派遣元事業主の事業所ごとに、行わなければならない。

2 法第三十七条第一項の規定による派遣元管理台帳の記載は、労働者派遣をするに際し、行わなければならない。

3 前項に定めるもののほか、法第四十二条第三項の規定による通知が行われる場合にお

いて、当該通知に係る事項が法第三十七条第一項各号に掲げる事項に該当する場合であつ

て当該通知に係る事項の内容が前項の記載と異なるときは、当該通知が行われた都度、当

該通知に係る事項の内容を記載しなければならない。

 

則第31条(法第三十七条第一項第八号の厚生労働省令で定める事項)

 法第三十七条第一項第八号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 派遣労働者の氏名

二 事業所の名称

三 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項

四 法第四十条の二第一項第一号の業務について労働者派遣をするときは、第二十一条第二項の規定により付することとされる条番号及び号番号

五 法第四十条の二第一項第二号イの業務について労働者派遣をするときは、第二十二条の二第二号の事項

六 法第四十条の二第一項第二号ロの業務について労働者派遣をするときは、第二十二条の二第三号の事項

七 法第四十条の二第一項第三号の業務について労働者派遣をするときは、第二十二条の二第四号の事項

八 法第四十条の二第一項第四号の業務について労働者派遣をするときは、第二十二条の二第五号の事項

九 第二十七条の二の規定による通知の内容

 

則第32条(保存期間の起算日)

 法第三十七条第二項の規定による派遣元管理台帳を保存すべき期間の計算についての起

算日は、労働者派遣の終了の日とする。

 

業務取扱要領の内容確認(派遣元事業主の講ずべき措置等)

1.派遣元事業主が構図べき措置等(再掲)

 一般労働者派遣事業であると特定労働者派遣事業であるとを問わず、派遣元事業主は、次の措置等を講じなければならない。
 ① 有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(法第30条)
 ② 均衡を考慮した待遇の確保のための措置(法第30条の2)
 ③ 派遣労働者等の福祉の増進のための措置(法第30条の3)
 ④ 適正な派遣就業の確保のための措置(法第31条)
 ⑤ 待遇に関する事項等の説明(法第31条の2)
 ⑥ 派遣労働者であることの明示等(法第32条)
 ⑦ 派遣労働者に係る雇用制限の禁止(法第33条)
 ⑧ 就業条件の明示(法第34条)
 ⑨ 労働者派遣に関する料金の額の明示(法第34条の2)
 ⑩ 派遣先への通知(法第35条)
 ⑪ 派遣受入期間の制限の適切な運用(法第35条の2)
 ⑫ 派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知(法第35条の2)
 ⑬ 日雇労働者についての労働者派遣の原則禁止(法第35条の3)
 ⑭ 離職した労働者についての労働者派遣の禁止(法第35条の4)
 ⑮ 派遣元責任者の選任(法第36条)
 ⑯ 派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(法第37条)


2.法第35条の2(派遣受入期間の制限の適切な運用)

(1) 概要
 派遣元事業主は、派遣先が当該派遣元事業主から労働者派遣の役務の提供を受けたならば、第9の4の派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行ってはならない(法第35条の2、第9の4参照)。
(2) 意義
 派遣先における常用雇用労働者の派遣労働者による代替の防止の確保を図るためである。
(3) 派遣受入期間の制限の適切な運用のための留意点
   派遣先は、事業所その他就業の場所ごとの同一の業務(第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務を除く。)について、派遣元事業主から派遣受入期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けることはできないため、当該派遣受入期間の制限を超えて派遣元事業主が労働者派遣を行うことを禁止しているものである。
   しかしながら、新たな労働者派遣を行うに際し、当該新たな労働者派遣を行う前に異なる派遣元事業主から労働者派遣の役務の提供が行われていたか否かについて、当該派遣元事業主は把握することができず、派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の提供を行ってしまうおそれがある。したがって、第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について派遣元事業主から新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、第7の労働者派遣契約の締結に当たり、あらかじめ、当該派遣元事業主に対し、当該労働者派遣の役務の提供が開始される日以後当該業務について派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を通知しなければならず、また、派遣元事業主は、当該通知がないときは、当該者との間で、労働者派遣契約を締結してはならないものである(第7の2の(3)参照)。
   派遣元事業主は、ロにより通知された派遣受入期間の制限に抵触する日以降継続して労働者派遣を行ってはならないものである。
(4) 違反の場合の効果
   派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣を行った場合は、法第61条第3号に該当し、30万円以下の罰金に処せられる場合がある。
   また、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可取消し、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

3.法第35条の2(派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知)

(1) 概要
 派遣元事業主は、派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の一月前の日から当該抵触することとなる最初の日の前日までの間に、当該抵触することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行わない旨を当該派遣先及び当該労働者派遣に係る派遣労働者に通知しなければならない(法第35条の2第2項)。
(2) 意義
 この通知は派遣受入期間の制限を徹底させるためのものであり、派遣受入期間の制限に抵触する日に近接したタイミングで、派遣元事業主から、派遣先及び派遣労働者に対し、当該抵触日以降継続して労働者派遣を行わない旨を通知させることにより、当事者間で派遣受入期間の制限を再確認し、派遣受入期間の制限違反の発生を未然に防止するためのものである。
 なお、この通知は、派遣先による派遣労働者への労働契約の申込み義務の要件ともなっており、非常に重要な通知であることから、通知の義務に違反する派遣元事業主に対しては、十分に指導を行い、指導に従わない場合には、許可の取消しを含め、厳しく対応すること。
(3) 通知の方法
 通知は、次の方法により行わなければならない(則第27条第5項)。
 ① 派遣労働者に対する通知の場合は、派遣受入期間の制限への抵触日を明示した上で当該日以降継続して労働者派遣を行わない旨を書面、ファクシミリ又は電子メール(ファクシミリ又は電子メールによる場合にあっては、当該派遣労働者が希望した場合に限る。)により通知することによる。
 なお、この場合のファクシミリ又は電子メールによる通知に関しては、9の(6)のイからハまでに掲げる留意点に十分留意する必要がある。
 ② 派遣先に対する通知の場合は、派遣受入期間の制限への抵触日を明示した上で当該日以降継続して労働者派遣を行わない旨を記載した書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすることによる。

 

4.法第35条の3(日雇労働者についての労働者派遣の原則禁止)

(1) 概要
 派遣元事業主は、その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務のうち、労働者派遣により日雇労働者(日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者をいう。以下同じ。)を従事させても当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務について労働者派遣をする場合又は雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合等を除き、その雇用する日雇労働者について労働者派遣を行ってはならない(法第35条の3)。
(2) 意義
 日雇派遣(日雇労働者についての労働者派遣をいう。以下同じ。)については、必要な雇用管理がなされず、労働者保護が果たされない等といった課題が指摘されている。そのため、適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務について労働者派遣をする場合又は雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合等を除き、日雇派遣を原則禁止するものである。
(3) 禁止の範囲
 禁止される日雇派遣の範囲は、日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者の派遣である。そのため、労働契約の期間が31日以上であれば、労働者派遣契約の期間が30日以内であったとしても、日雇派遣の禁止に違反するものではない。
 ただし、例えば、労働者派遣の期間が1日しかないにもかかわらず31日以上の労働契約を締結する、労働契約の初日と最終日しか労働者派遣の予定がないにもかかわらず当該期間を通じて労働契約を締結するなど、社会通念上明らかに適当とはいえない労働契約については、日雇派遣の禁止の適用を免れることを目的とした行為であると解される。
(4) 禁止の例外
 日雇派遣の禁止の例外として認められるものは、次のとおりである。
   労働者派遣の対象となる日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務
 令第4条第1項各号に掲げる業務(17.5業務)が該当する(第9の4の(3)のニの「令第5条の業務」の1令第4条第1項各号に掲げる業務参照)。
   雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合等
 労働者派遣の対象となる日雇労働者が次の①から④までのいずれかに該当する場合
 (令第4条第2項、則第28条の2、則第28条の3)。
 ① 労働者派遣の対象となる日雇労働者が60歳以上である場合
 ② 労働者派遣の対象となる日雇労働者が学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条、第124条又は第134条第1項の学校の学生又は生徒である場合雇用保険の適用を受けない昼間学生の範囲と同一であるが、次のいずれかに該当する場合には、日雇派遣の例外となる学生又は生徒に含まれない。
 ・ 定時制の課程に在学する者(大学の夜間学部、高等学校の夜間等)
 ・ 通信制の課程に在学する者
 ・ 卒業見込証明書を有する者であって、卒業前に雇用保険法第5条第1項に規定する適用事業に就職し、卒業後も引き続き当該事業に勤務する予定のもの
 ・ 休学中の者
 ・ 事業主の命により(雇用関係を存続したまま)、大学院等に在学する者(社会人大学生等)
 ・ その他一定の出席日数を課程終了の要件としない学校に在学する者であって、当該事業において同種の業務に従事する他の労働者と同様に勤務し得ると認められるもの
 ③ 労働者派遣の対象となる日雇労働者の生業収入の額が500万円以上である場合(副業として日雇派遣に従事させる場合)
 ・ 「生業収入」とは、主たる業務の収入のことをいい、例えば、労働者派遣の対象となる日雇労働者が複数の業務を兼務している場合には、その収入額が最も高い業務が主たる業務となること。また、使用者から労働の対価として支払われるものに限られるものではなく、例えば、不動産の運用収入やトレーディング収入(株式売買、投資信託、外国為替及び先物取引等による収入)等も「生業収入」に含まれること。
 ④ 労働者派遣の対象となる日雇労働者が主として生計を一にする配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)その他の親族(以下「配偶者等」という。)の収入により生計を維持している場合であって、世帯収入が500万円以上である場合(主たる生計者以外の者を日雇派遣に従事させる場合)
 ・ 「主として生計を一にする配偶者等の収入により生計を維持している」とは、世帯全体の収入に占める労働者派遣の対象となる日雇労働者の収入の割合が50%未満であることをいうこと。
 ・ 「生計を一にする」か否かの判断は、実態として、労働者派遣の対象となる日雇労働者が配偶者等の収入により生計を維持しているかどうかにより確認するものとし、必ずしも配偶者等と同居している必要はないこと。したがって、例えば、両親の収入により生計を維持している子供が単身で生活をしている場合であっても、世帯収入が500万円以上であれば対象となること。
 ・ 「世帯収入」には、労働者派遣の対象となる日雇労働者の収入も含まれること。また、「収入」とは、使用者から労働の対価として支払われるものに限られるものではなく、例えば、不動産の運用収入やトレーディング収入(株式売買、投資信託、外国為替及び先物取引等による収入)等も含まれること。
(5) 要件の確認方法
   (4)のロの①、②又は④に該当するか否かの確認は、年齢が確認できる公的書類(住民票、健康保険証、運転免許証等)、学生証、配偶者等と生計を一にしているかどうかを確認できる公的書類(住民票、健康保険証)等によることを基本とする。ただし、合理的な理由によりこれらの書類等が用意できない場合、これらの書類等のみでは判断できない場合(昼間学生に該当するか否か等)等には、やむを得ない措置として日雇労働者本人からの申告(誓約書の提出)によることとしても差し支えない。
 ロ  (4)のロの③又は④の収入要件を満たしているか否かの確認は、労働者派遣の対象となる日雇労働者本人やその配偶者等の所得証明書、源泉徴収票の写し等によることを基本とする。ただし、合理的な理由によりこれらの書類等が用意できない場合等には、やむを得ない措置として労働者派遣の対象となる日雇労働者本人からの申告(誓約書の提出)によることとしても差し支えない。
   (4)のロの③又は④の収入要件は前年の収入により確認することとするが、前年の収入が500万円以上である場合であっても、当年の収入が500万円を下回ることが明らかとなった場合には、日雇派遣の禁止の例外として認められない。
   労働者派遣の対象となる日雇労働者の従事する業務が(4)のイに該当するかどうか、又は労働者派遣の対象となる日雇労働者が(4)のロに該当するかどうかの確認は、労働契約の締結ごとに行う必要がある。また、(4)のロに該当するかどうかについて、労働契約の締結時には書類等による確認ができなかったが、その後、書類等による確認ができるようになった場合には、事後的であっても書類等により確認することを基本とする。
  派遣元事業主は、要件の確認に用いた書類等を保存しておく必要はないが、例えば、派遣元管理台帳に記録を残しておくなど、どのような種類の書類等により要件の確認を行ったかが分かるようにしておく必要がある。ただし、要件の確認を誓約書の提出により行った場合には、事後のトラブル等を未然に防止するためにも、当該誓約書を派遣元管理台帳と合わせて管理しておくことが望ましい。その際、書類等による確認ではなく誓約書によることとなった理由についても分かるようにしておくことが望ましい。
(6) 違反の場合の効果
 (1)に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

5.法第35条の4(離職した労働者についての労働者派遣の禁止)

(1) 概要
 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとする場合において、派遣先が当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば法第40条の6第1項の規定に抵触することとなるときは、当該労働者派遣を行ってはならない(法第35条の4)(第9の7参照)。
(2) 意義
 労働者派遣事業は、常用雇用の代替防止を前提として制度化されているものであり、ある企業を離職した労働者を当該企業において派遣労働者として受け入れ、当該企業の業務に従事させることは、法の趣旨に鑑みても適当ではない。そのため、派遣元事業主に対し、派遣先を離職した後1年を経過しない労働者(60歳以上の定年退職者を除く。)を派遣労働者として当該派遣先へ労働者派遣することを禁止するものである。
(3) 離職した労働者についての労働者派遣の禁止の留意点
   離職した労働者についての労働者派遣の禁止の例外となる「60歳以上の定年退職者」の取扱いは、第6の2の(3)のロ及びハと同様である。
  「派遣先」とは、事業者単位で捉えられるものであり、例えば、ある会社のA事業所を離職した労働者を同じ会社のB事業所へ派遣することは、離職後1年を経過しない場合は認められないこと。なお、グループ企業への派遣に関しては、同一の事業者には該当しないため、離職した労働者についての労働者派遣の禁止対象になるものではないこと。
  「労働者」とは、正社員に限定されるものではなく、非正規労働者も含まれる。
(4) 違反の場合の効果
 (1)に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

6.法第36条(派遣元責任者の選任)

(1) 概要
 派遣元事業主は、(4)に掲げる事項を行わせるため、派遣元責任者を選任しなければならない(法第36条)。
(2) 意義
 派遣先で就業することとなる派遣労働者に係る派遣元事業主の雇用管理上の責任を一元的に負う派遣元責任者を選任させ、派遣元事業主による適正な雇用管理を確保するためのものである。
(3) 派遣元責任者の選任の方法等
   派遣元責任者となる者の要件
 派遣元責任者は、次の①から⑧までのいずれにも該当しない者のうちから選任しなくてはならない(法第36条)。
 ① 禁錮以上の刑に処せられ、又は第4の1の(5)「許可の欠格事由」の1の(1)のイからハまで及びトからヲまでの規定に違反し又はニ、ホ及びヘの罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
 ② 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
 ③ 一般労働者派遣事業の許可を取り消され、又は特定労働者派遣事業の廃止を命じられ、当該取消し又は命令の日から起算して5年を経過しない者
 ④ 一般労働者派遣事業の許可を取り消され、又は特定労働者派遣事業の廃止を命じられた者が法人である場合において、当該取消し又は命令の処分を受ける原因となった事項が発生した当時に当該法人の役員であった者で、当該取消し又は命令の日から起算して5年を経過しないもの
 ⑤ 一般労働者派遣事業の許可の取消し又は特定労働者派遣事業の廃止の命令の処分に係る聴聞の通知があった日から当該処分をする日又は処分をしないことを決定する日までの間に一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業の廃止の届出をした者で、当該届出の日から起算して5年を経過しないもの
 ⑥ ⑤の期間内に廃止の届出をした者が法人である場合において、聴聞の通知の日前60日以内に当該法人の役員であった者で、当該届出の日から起算して5年を経過しないもの
 ⑦ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
 ⑧ 未成年者
 この場合において、一般労働者派遣事業においては、許可について派遣元責任者に雇用管理能力に係る一定の基準を満たすこと及び派遣元責任者講習を受講していることを選任の要件としている(第4の1の(5)参照)。特定労働者派遣事業については、法令上一定の資格能力は要求されていないが、同様に派遣元責任者が労働関係法令に関する知識を有し、雇用管理に関し専門的知識又は相当期間の経験を有する者を選任することが適当であるのでその旨周知徹底を図ること。
  派遣元責任者の選任方法
 派遣元責任者は、次の方法により選任しなければならない(則第29条)。
 (イ) 派遣元事業主の事業所ごとに当該事業所に専属の派遣元責任者として自己の雇用する労働者の中から選任すること。ただし、派遣元事業主(法人の場合は、その役員)を派遣元責任者とすることを妨げない。
 この場合において専属とは当該派遣元責任者に係る業務のみを行うということではなく、他の事業所の派遣元責任者と兼任しないという意味である。なお、会社法等の規定により、法人の会計参与は同一の法人又はその子会社の取締役、監査役、執行役又は従業員を兼ねることはできず、監査役は同一の法人又はその子会社の取締役若しくは従業員又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることはできないため、これらの者については派遣元責任者として選任できないので、留意すること。
 (ロ) 当該事業所の労働に従事する派遣労働者の数について1人以上100人以下を1単位とし、1単位につき1人以上ずつ選任しなければならない。
   派遣元責任者講習の受講
 派遣元責任者として選任された後においても、労働者派遣事業に関する知識、理解を一定の水準に保つため、一般労働者派遣事業において選任された派遣元責任者については、派遣元責任者として在任中は3年ごとに「派遣元責任者講習」を受講するよう指導を行うこと。また、特定労働者派遣事業において選任された派遣元責任者についても、可能な限り受講するよう指導を行うこと。
   製造業務専門派遣元責任者の選任
 (イ) 物の製造の業務に労働者派遣をする事業所等にあっては、物の製造の業務に従事させる派遣労働者の数について1人以上100人以下を1単位とし、1単位につき1人以上ずつ、物の製造の業務に従事させる派遣労働者を専門に担当する者(以下、「製造業務専門派遣元責任者」という。)を、選任しなければならない(則第29条第3号)。
 (ロ) ただし、製造業務専門派遣元責任者のうち1人は、物の製造の業務に労働者派遣をしない派遣労働者(それ以外の業務へ労働者派遣された派遣労働者)を併せて担当することができる。
 (ハ) 物の製造業務に労働者派遣をする場合には、製造現場での就業の実情を考慮し、派遣労働者の適正な就業を確保するため、派遣労働者の雇用管理体制の一層の充実を図る必要があることから、物の製造業務へ派遣された派遣労働者を担当する派遣元責任者と、それ以外の業務へ派遣された派遣労働者を担当する派遣元責任者とを区分して選任するものである。
 (ニ) 例えば、労働者派遣事業を行う事業所における全派遣労働者300人のうち、物の製造の業務へ派遣されている派遣労働者が150人、物の製造の業務以外の業務へ派遣されている派遣労働者が150人である場合、製造業務専門派遣元責任者を2人(うち1人は物の製造の業務以外の業務へ派遣されている派遣労働者を併せて担当することができる。)を選任することが必要である。
 (ホ) また、例えば、労働者派遣事業を行う事業所における全派遣労働者50人のうち、物の製造の業務へ派遣されている派遣労働者が20人、物の製造の業務以外の業務へ派遣されている派遣労働者が30人である場合、製造業務専門派遣元責任者を1人(この1人については物の製造の業務以外の業務へ派遣されている派遣労働者を併せて担当することができる。)を選任する必要がある。
(4) 派遣元責任者の職務
 派遣元責任者は、次に掲げる職務を行わなければならない。
 ① 派遣労働者であることの明示等(7参照)
 ② 就業条件等の明示(9参照)
 ③ 派遣先への通知(11参照)
 ④ 派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知(13参照)
 ⑤ 派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(17参照)
 ⑥ 派遣労働者に対する必要な助言及び指導の実施
 具体的には、例えば、法に沿って、労働者派遣事業制度の趣旨、内容、労働者派遣契約の趣旨、派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置、労働基準法等の適用に関すること、苦情等の申出方法等につき必要な助言及び指導を行うことである。
 ⑦ 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理
 具体的には、例えば、派遣労働者から直接申出を受けた苦情及び法第40条第1項の規定により派遣先から通知のあった苦情に、適切な処理を行うことである。
 なお、派遣元責任者が苦情処理を適切に処理し得るためには、本人が派遣先に直接出向いて処理する必要性も高いことから、派遣先の対象地域については派遣元責任者が日帰りで苦情処理を行い得る地域とされていることが必要であることに留意すること。
 ⑧ 派遣先との連絡・調整
 具体的には、例えば、派遣先の連絡調整の当事者となる派遣先責任者との間において⑦のほか派遣就業に伴い生じた問題の解決を図っていくことである。
 ⑨ 派遣労働者の個人情報の管理に関すること
 具体的には、例えば、派遣労働者等の個人情報が目的に応じ正確かつ最新のものに保たれているか、個人情報が紛失、破壊、改ざんされていないか、個人情報を取り扱う事業所内の職員以外の者が当該個人情報にアクセスしていないかについての管理を行うこと、また、目的に照らして必要がなくなった個人情報の破棄又は削除を行うこと等である。
 ⑩ 安全衛生に関すること
 派遣労働者の安全衛生に関し、当該派遣元事業所において労働者の安全衛生に関する業務を統括する者及び派遣先と必要な連絡調整を行うこと。
 具体的には、派遣労働者の安全衛生が的確に確保されるよう、例えば、以下の内容に係る連絡調整を行うことである。
 ・ 健康診断(一般定期健康診断、有害業務従事者に対する特別な健康診断等)の実施に関する事項(時期、内容、有所見の場合の就業場所の変更等の措置)
 ・ 安全衛生教育(雇入れ時の安全衛生教育、作業内容変更時の安全衛生教育、特別教育、職長等教育等)に関する事項(時期、内容、実施責任者等)
 ・ 労働者派遣契約で定めた安全衛生に関する事項の実施状況の確認
 ・ 事故等が発生した場合の内容・対応状況の確認
 なお、労働者の安全・衛生に関する業務を統括する者とは、労働安全衛生法における安全管理者、衛生管理者等が選任されているときは、その者をいい、統括安全衛生管理者が選任されているときは、その者をいうものである。また、小規模事業場で、これらの者が選任されていないときは、事業主自身をいうものである。
(5) 違反の場合の効果
   派遣元責任者を選任しなかった場合又は派遣元責任者の選任が所定の要件を満たさず、若しくは所定の方法により行われていなかった場合は、法第61条第3号に該当し、30万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13の1参照)。
   また、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

7.法第37条(派遣元管理台帳の作成、記載及び保存)

(1) 派遣元管理台帳の作成、記載
   概要
 派遣元事業主は、派遣就業に関し、派遣元管理台帳を作成し、当該台帳に派遣労働者ごとにホに掲げる事項を記載しなければならない(法第37条第1項)。
   意義
 派遣元管理台帳は、派遣元事業主が派遣先において派遣就業する派遣労働者の雇用主として適正な雇用管理を行うためのものである。
   派遣元管理台帳の作成の方法
 (イ) 派遣元管理台帳は、派遣元事業主の事業所(第4の1の(2)参照)ごとに作成しなければならない(則第30条第1項)。
 (ロ) 一般派遣元事業主は、派遣労働者の雇用管理が円滑に行われるよう派遣労働者を当該事業所に常時雇用される者とそれ以外の者に分けて作成しなければならない。
 (ハ) 派遣元事業主は、労働基準法第107条第1項の労働者名簿や同法第108条の賃金台帳と派遣元管理台帳とをあわせて調製することができる。
  派遣元管理台帳の記載方法
 (イ) 派遣元管理台帳の記載は、労働者派遣をするに際し、行われなければならない(則第30条第2項)。これは、ホの事項の確定する都度記載していくという意味であり、事項の内容により記載時期は、異なるものである(ホの⑧を除くすべての事項は、労働者派遣をする際には、あらかじめ記載されている必要があるが、⑧の事項については、苦情の申出を受け、及び苦情の処理に当たった都度記載することとなる)。また、派遣先からの派遣就業の実績に関する通知(第9の9の(4)参照)を受けた場合に当該派遣就業の実績があらかじめ予定していた就業の時間等と異なるときは、当該通知を受けた都度当該異なった派遣就業の実績内容を記載しなければならない(則第30条第3項)。
 (ロ) 記載については、所要の事項が記載されておれば足りるものである。
 なお、書面によらず電磁的記録により派遣元管理台帳の作成を行う場合は、電子計算機に備えられたファイルに記録する方法又は磁気ディスク等をもって調製する方法により作成を行わなければならない。
 また、書面によらず電磁的記録により派遣元管理台帳の保存を行う場合は、次のいずれかの方法によって行った上で、必要に応じ電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにしなければならない。
  作成された電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
  書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
  派遣元管理台帳の記載事項
 派遣元管理台帳には、次の事項を記載しなければならない(法第37条第1項、則第31条)(第7の2の(1)のイの(ハ)参照)。
 ① 派遣労働者の氏名
 ② 派遣先の氏名又は名称
 ・ 個人の場合は氏名を、法人の場合は名称を記載する。
 ③ 派遣先の事業所の名称
 ④ 派遣先の事業所の所在地その他派遣就業の場所
 第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について労働者派遣を行うときは、派遣先の事業所において当該派遣労働者が就業する最小単位の組織(第9の4の(4)参照)を記載すること。
 ⑤ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
 ⑥ 始業及び終業の時刻
 ⑦ 従事する業務の種類
 ・ 従事する業務については可能な限り詳細に記載すること。
 ⑧ 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
 ・ 苦情の申出を受けた年月日、苦情の内容及び苦情の処理状況について、苦情の申出を受け、及び苦情の処理に当たった都度、記載すること(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の3(第8の23参照))。
 ・ 派遣労働者から苦情の申出を受けたことを理由として、当該派遣労働者に対して不利益な取扱いをしてはならない(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の3(第8の23参照)。
 ・ なお、苦情の処理に関する事項を派遣労働者ごとに管理している趣旨は、派遣元事業主が派遣労働者の過去の苦情に応じた的確な対応を行うためのものであることに留意すること。
 ⑨ 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項
 ・ 紹介予定派遣である旨
 ・ 求人・求職の意思確認等の職業紹介の時期及び内容
 ・ 採否結果
 ・ 紹介予定派遣を受けた派遣先が、職業紹介を受けることを希望しなかった場合又は職業紹介を受けた者を雇用しなかった場合に、派遣先から明示された理由
 ⑩ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
 ⑪ 労働者派遣契約において、派遣先が法第37条第1項第3号に掲げる派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は同項第4号に掲げる始業の時刻から終業の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合には、当該派遣就業させることができる日または延長することのできる時間数
 ⑫ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
 ・ 第9の4の(3)のイの①に掲げる業務について労働者派遣を行うときは、当該業務の条番号及び号番号
 ・ 第9の4の(3)のイの②に掲げる有期プロジェクトの業務について労働者派遣を行うときは、法第40条の2第1項第2号イに該当する業務である旨
 ・ 第9の4の(3)のイの③に掲げる日数限定業務について労働者派遣を行うときは、①法第40条の2第1項第2号ロに該当する旨、②当該派遣先において、同号ロに該当する業務が1か月間に行われる日数、③当該派遣先の通常の労働者の1か月間の所定労働日数
 ・第9の4の(3)のイの④に掲げる育児休業等の代替要員としての業務について労働者派遣を行うときは、派遣先において休業する労働者の氏名及び業務並びに当該休業の開始及び終了予定の日
 ・第9の4の(3)のイの⑤に掲げる介護休業等の代替要員としての業務について労働者派遣を行うときは、派遣先において休業する労働者の氏名及び業務並びに当該休業の開始及び終了予定の日
 ⑬ 派遣労働者に係る健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無(「無」の場合はその理由を具体的に付すこと。また、手続終了後は「有」に書き換えること。)
(2) 派遣元管理台帳の保存
  概要
 派遣元事業主は、派遣元管理台帳を3年間保存しなければならない(法第37条第2項)。
  意義
 (イ) 派遣元管理台帳の保存は、派遣労働者の派遣就業に関する紛争の解決を図り、行政による監督の用に供するために行うためのものである。
 (ロ) 派遣元管理台帳を保存すべき期間の計算の起算日は、労働者派遣の終了の日とする(則第32条)。
 (ハ) 「労働者派遣の終了」とは、労働者派遣に際し定められた当該派遣労働者に係る派遣期間の終了であり、労働者派遣契約が更新された場合には、当該更新に伴い定められた当該派遣労働者に係る派遣期間の終了とする。ただし、同一の派遣労働者(期間の定めなく雇用されている者を除く。)を同一の就業の場所及び従事する業務の種類において就業させる労働者派遣については、当該労働者派遣契約が更新されていない場合であっても当該派遣就業の終了の日から次の同一の派遣就業の開始の日までの期間が3か月以下のときは労働者派遣の終了とは取り扱わない。
 (ニ) 保存は、当該事業所ごとに行わなければならない。
 (ホ) 紹介予定派遣とそれ以外の派遣については、派遣元管理台帳は別々に管理することが適当である。
(3) 違反の場合の効果
  派遣元管理台帳を所定の方法により作成、記載又は保存しなかった場合は、法第61条第3号に該当し、30万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13の1参照)。
  また、許可の取消し(法第14条1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

○逐条まとめ

1.法第35条の2第1項(派遣受入期間の制限の適切な運用)

 派遣元事業主は、第四十条の二第一項の規定に違反する最初の日以降継続して労働者派遣を行つてはならない。

法第40条の2第1項

 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(次に掲げる業務を除く。第三項において同じ。)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

(1)趣旨

 派遣先は、事業所その他就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から派遣受入期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けることはできないため、受入期間の制限を超えて派遣元事業主が労働者派遣を行うことを禁止しているものである。

 したがって、一定の業務以外の業務について派遣元事業主から新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、あらかじめ、派遣元事業主に対し、労働者派遣の役務の提供が開始される日以後当該業務について派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を通知しなければならず、また、派遣元事業主は、当該通知がないときは、労働者派遣契約を締結してはならないものである。

 この規定に抵触した場合には、30万円以下の罰金に処せられると規定されている。

 また、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となり、許可取消し、事業廃止命令の対象となる。
 

2.法第35条の2第2項(派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知)

 派遣元事業主は、法第35条の2第1項に抵触する日以降労働者派遣を行わない旨を派遣先及び労働者

派遣に係る派遣労働者に通知しなければならない。

(1)趣旨

 派遣元事業主から、派遣期間終了間近に派遣先及び派遣労働者に対し、抵触日以降継続して労働者

派遣を行わない旨を通知させる。それにより、当事者間で派遣受入期間の制限を再確認し、派遣受入

期間の制限違反の発生を未然に防止するためのものである。

 また、この通知は派遣労働者への労働契約の申込み義務の要件ともなっており、非常に重要な通知

であることから、通知の義務に違反する派遣元事業主に対しては、十分に指導を行い、指導に従わな

い場合には、許可の取消しを含め、厳しく対応すること

(2)通知の方法

 ⅰ 労働者への通知

 派遣受入期間の制限への抵触日を明示した上で、書面、派遣労働者が希望した場合はファクシミリ又は電子メールにより通知すること

 ⅱ 派遣先への通知

 派遣受入期間の制限への抵触日を明示した上で書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をする方法による

 

3.法第35条の3(日雇労働者についての労働者派遣の原則禁止)

(1)趣旨

 派遣元は、一定の場合を除きその雇用する日雇労働者について労働者派遣を行つてはならない。

 ※日雇い労働者とは、日々又は三十日以内の期間を定めて雇用する労働者をいう。従って、労働契約の期間が31日以上であれば、労働者派遣契約の期間が30日以内であったとしても、日雇派遣の禁止に違反するものではない。

(2)例外

 労働者派遣の対象となる日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務(令第4条)

 ア プログラマー

 イ 機械の設計の業務

 ウ 事務機器の操作の業務

 エ 通訳、翻訳、速記

 オ 重役秘書

 カ 文書磁気テープ等のファイリングの業務

 キ 新商品のマーケティング

 ケ 財務諸表の作成等の業務

 コ 貿易に付随する事務

 サ 高度な機械、機器の操作説明の業務

 シ 旅行業の一定の業務

 ス 催事の受付、コンパニオンの業務

 セ 新製品等の研究

 ソ 調査、企画、立案

 タ 作家、雑誌等の編集

 チ デザイナー

 ツ ソフトの操作の説明

 テ 金融商品のトレーダー等

雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合等

 ア 労働者派遣の対象となる日雇労働者が60歳以上である場合

 イ 学校の学生又は生徒である場合雇用保険の適用を受けない昼間学生の範囲と同一である者

 ウ 日雇労働者の生業収入の額が500万円以上である場合

 エ 日雇労働者が主として生計を一にする配偶者の収入により生計を維持している場合

  であって、世帯収入が500万円以上である場合

(3)違反の場合

 派遣元事業主が違反した場合、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となる。

 

4.法第35条の4(離職した労働者についての労働者派遣の禁止)

 派遣元事業主は、第四十条の六第一項の規定に抵触することとなるときは、当該労働者派遣を行つてはならない。

(1)趣旨

 派遣先を離職した後1年を経過しない労働者(60歳以上の定年退職者を除く。)を派遣労働者として当該派遣先へ労働者派遣することを禁止するもの。

 また、「派遣先」とは、事業者単位で捉えられるものであり、例えば、ある会社のA事業所を離職した労働者を同じ会社のB事業所へ派遣することは、離職後1年を経過しない場合は認められないこと。なお、グループ企業への派遣に関しては、同一の事業者には該当しないため、離職した労働者についての労働者派遣の禁止対象になるものではないこと。

 

5.法第36条(派遣元責任者の選任)

(1)派遣元責任者の欠格事由

 ① 禁錮以上の刑に処せられ、「許可の欠格事由」の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、
  その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
 ② 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
 ③ 一般労働者派遣事業の許可を取り消され、又は特定労働者派遣事業の廃止を命じられ、
  当該取消し又は命令の日から起算して5年を経過しない者
 ④法人である場合において、当該取消し又は命令の処分を受ける原因となった事項が発生した
 当時に当該法人の役員であった者で、当該取消し又は命令の日から起算して5年を経過しないもの
 ⑤ 許可の取消し又は特定労働者派遣事業の廃止の命令の処分の通知があった日から処分をする日
 又は処分をしないことを決定する日までの間に一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業の廃止
 の届出をした者で、その届出の日から起算して5年を経過しないもの
 ⑥ ⑤の期間内に廃止の届出をした者が法人である場合において、聴聞の通知の日前60日以内にその
 法人の役員であった者で、当該届出の日から起算して5年を経過しないもの
 ⑦ 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
 ⑧ 未成年者
(2)派遣元責任者の選任方法

 イ  派遣元事業主の事業所ごとに、専属の派遣元責任者として自己の雇用する労働者の中から選任すること。

  ただし、派遣元事業主(法人の場合は、その役員)を派遣元責任者とすることを妨げない。

 ロ 従事する派遣労働者の数について1人以上100人以下を1単位とし、1単位につき1人以上

  ずつ選任しなければならない。

(3) 派遣元責任者講習の受講

 一般労働者派遣事業の派遣元責任者については、派遣元責任者として在任中は3年ごとに「派遣元責任者講習」を受講するよう指導を行うこと。

 また、特定労働者派遣事業の派遣元責任者についても、可能な限り受講するよう指導を行うこと。  

(3)製造業務専門派遣元責任者の選任

 ア 物の製造の業務に従事させる派遣労働者の数について1人以上100人以下を1単位とし、1単位につき1人以上ずつ、物の製造の業務に従事させる派遣労働者を専門に担当する者(以下、「製造業務専門派遣元責任者」という。)を選任しなければならない。※うち一人は兼任可

 イ 物の製造業務へ派遣された派遣労働者を担当する派遣元責任者と、それ以外の業務へ派遣された派遣労働者を担当する派遣元責任者とを区分して選任するものである。

(4) 派遣元責任者の職務

 ① 派遣労働者であることの明示等(7参照)
 ② 就業条件等の明示(9参照)
 ③ 派遣先への通知(11参照)
 ④ 派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知(13参照)
 ⑤ 派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(17参照)
 ⑥ 派遣労働者に対する必要な助言及び指導の実施

 ⑦ 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理
 ⑧ 派遣先との連絡・調整
 ⑨ 派遣労働者の個人情報の管理に関すること

 ⑩ 安全衛生に関すること

 ※健康診断、安全衛生に関する事項の実施状況の確認、事故等が発生した場合の

  内容・対応状況の確認 

(5)違反した場合

 違反した場合は、、30万円以下の罰金に処せられる旨の規定がある。

 また、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となり、司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令の対象となる。

 

6.法第37条(派遣元管理台帳の作成、記載及び保存)

 派遣元事業主は、派遣元の事業所ごとに派遣元管理台帳を作成し、その台帳に派遣労働者ごとに次に掲げる事項を記載しなければならない。

 この場合、派遣労働者を当該事業所に常時雇用される者とそれ以外の者に分けて作成しなければならない。

 また、労働基準法の規定による賃金台帳と派遣元管理台帳とをあわせて調製することができる。

(1)記載内容

 ① 派遣労働者の氏名
 ② 派遣先の氏名(個人)又は名称(法人)
 ③ 派遣先の事業所の名称
 ④ 派遣先の事業所の所在地その他派遣就業の場所
 ⑤ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
 ⑥ 始業及び終業の時刻
 ⑦ 従事する業務の種類(可能な限り詳細に記載)
 ⑧ 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
 ⑨ 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項
 ・ 紹介予定派遣である旨
 ・ 求人・求職の意思確認等の職業紹介の時期及び内容
 ・ 採否結果
 ・ 紹介予定派遣を受けた派遣先が、職業紹介を受けることを希望しなかった場合又は
  職業紹介を受けた者を雇用しなかった場合に、派遣先から明示された理由
 ⑩ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
 ⑪ 労働者派遣契約において、休日労働又は時間外労働ができる旨、時間外労働の時間数
 ⑫ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
 ⑬ 派遣労働者に係る健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無

(2)派遣元管理台帳の記載方法

 ア 派遣元管理台帳の記載は、労働者派遣をするに際し、行われなければならない

 イ 記載については、所要の事項が記載されておれば足りる

 ウ 電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより

   保存する方法  

 エ スキャナ等により読み取ってできた電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は

   磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法

(3)派遣元管理台帳の保存

 派遣元事業主は、派遣元管理台帳を3年間保存しなければならない。また、保存は、当該事業所ごとに行わなければならない。さらに、紹介予定派遣とそれ以外の派遣については、派遣元管理台帳は別々に管理することが適当である。

(4)違反の場合

 違反の場合、30万円以下の罰金に処せられる旨の規定がある。

 また、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となり、司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令の対象となる。

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第35条の2・第35条の3・第35条の4・第36条・第37条を終了します。

 

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労働者派遣法第33条、第34条、第34条の2、第35条

2015年06月20日 16:41

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第33条(派遣労働者に係る雇用制限の禁止)

 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であつた者を含む。次項において同じ。)又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先と

なろうする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣

元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならな

い。

 

第34条(就業条件等の明示)

 

 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明示しなければならない。

一 当該労働者派遣をしようとする旨

二 第二十六条第一項各号に掲げる事項その他厚生労働省令で定める事項であつ

  て当該派遣労働者に係るもの

 三 第四十条の二第一項各号に掲げる業務以外の業務について労働者派遣をする

    場合につては、当該派遣労働者が従事する業務について派遣先が同項の規定に

    抵触することとなる最初の日

2 派遣元事業主は、派遣先から第四十条の二第五項の規定による通知を受けたと

きは、遅滞なく、当該通知に係る業務に従事する派遣労働者に対し、厚生労働省で

定めるところにより、当該業務について派遣先が同条第一項の規定に抵触すること

となる最初の日を明示しなければならない。

 

則第26条(就業条件の明示の方法等)

 法第三十四条第一項及び第二項の規定による明示は、当該規定により明示すべき事項を次のいずれかの方法により明示することにより行わなければならない。ただし、同条第一項の規定による明示にあつては、労働者派遣の実施について緊急の必要があるためあらかじめこれらの方法によることができない場合において、当該明示すべき事項をあらかじめこれらの方法以外の方法により明示したときは、この限りでない。

一 書面の交付の方法

二 次のいずれかの方法によることを当該派遣労働者が希望した場合における当

  該方法

イ ファクシミリを利用してする送信の方法

  ロ 電子メールの送信の方法 

2 前項ただし書の場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、当該労

働者派遣の開始の後遅滞なく、当該事項を前項各号に掲げるいずれかの方法により

当該派遣労働者に明示しなければならない。

 

第34条の2(労働者派遣に関する料金の額の明示)

 

 派遣元事業主は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める労働者に対し、

厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者に係る労働者派遣に関する料金の

額として厚生労働省令で定める額を明示しなければならない。

一 労働者を派遣労働者として雇い入れようとする場合 当該労働者

二 労働者派遣をしようとする場合及び労働者派遣に関する料金の額を変更する場合 当該労働者派遣に係る派遣労働者

 

則第26条の2(労働者派遣に関する料金の額の明示の方法等

 法第三十四条の二の規定による明示は、第三項の規定による額を書面の交付等の方法により行わなければならない。

2 派遣元事業主が労働者派遣をしようとする場合における次項の規定による額が労働者を派遣労働者として雇い入れようとする場合における法第三十四条の二の規定により明示した額と同一である場合には、同条の規定による明示を要しない。

3 法第三十四条の二の厚生労働省令で定める額は、次のいずれかに掲げる

額とする。

一 当該労働者に係る労働者派遣に関する料金の額

 二 当該労働者に係る労働者派遣を行う事業所における第十八条の二第二項に規

      定する労働者派遣に関する料金の額の平均額

 

第35条(派遣先への通知)

 

 派遣元事業主は、労働者派遣をするときは、厚生労働省令で定めるところによ

り、次に掲げる事項を派遣先に通知しなければならない。

一 当該労働者派遣に係る派遣労働者の氏名

二 当該労働者派遣に係る派遣労働者が期間を定めないで雇用する労働者であるか否かの別

三 当該労働者派遣に係る派遣労働者に関する健康保険法第三十九条第一項の規定による被保険者の資格の取得の確認、厚生年金保険法第十八条第一項の規定による被保険者の資格の取得の確認及び雇用保険法第九条第一項の規定による被保険者となつたことの確認の有無に関する事項であつて厚生労働省令で定めるもの

四 その他厚生労働省令で定める事項

2 派遣元事業主は、前項の規定による通知をした後に同項第二号に掲げる事項に

変更があつたときは、遅滞なく、その旨を当該派遣先に通知しなければならない。

 

則第27条(派遣先への通知の方法等)

 法第三十五条第一項の規定による通知は、法第二十六条第一項各号に掲げる事項

の内容の組合せが一であるときは当該組合せに係る派遣労働者の氏名及び次条第一

項各号に掲げる事項を、当該組合せが二以上であるときは当該組合せごとに派遣労

働者の氏名及び同条第一項各号に掲げる事項を通知することにより行わなければな

らない。

2 法第三十五条第一項の規定による通知は、労働者派遣に際し、あらかじめ、同項により通知すべき事項に係る書面の交付等により行わなければならない。ただし、労働者派遣の実施について緊急の必要があるためあらかじめ書面の交付等ができない場合において、当該通知すべき事項をあらかじめ書面の交付等以外の方法により通知したときは、この限りでない。

3 前項ただし書の場合であつて、当該労働者派遣の期間が二週間を超えるとき(法第二十六条第一項各号に掲げる事項の内容の組合せが二以上である場合に限る。)は、当該労働者派遣の開始の後遅滞なく、当該事項に係る書面の交付等をしなければならない。

4 法第三十五条第二項の規定による通知は、書面の交付等により行わなければならない。

5 法第三十五条の二第二項の規定による通知は、派遣先への通知にあつては同項により通知すべき事項に係る書面の交付等により、派遣労働者への通知にあつては同項により通知すべき事項を次のいずれかの方法により通知することにより行わなければならない。

一 書面の交付の方法

二 次のいずれかの方法によることを当該派遣労働者が希望した場合における当該方法

イ ファクシミリを利用してする送信の方法

ロ 電子メールの送信の方法

 

則第27条の2(法第三十五条第一項第三号の厚生労働省令で定める事項)

 法第三十五条第一項第三号の厚生労働省令で定める事項は、当該労働者派遣に係る派遣労働者に関して、次の各号に掲げる書類がそれぞれ当該各号に掲げる省令により当該書類を届け出るべきこととされている行政機関に提出されていることの有無とする。

一 健康保険法施行規則(大正十五年内務省令第三十六号)第二十四条第一項に規定する健康保険被保険者資格取得届

二 厚生年金保険法施行規則(昭和二十九年厚生省令第三十七号)第十五条に規定する厚生年金保険被保険者資格取得届

三 雇用保険法施行規則(昭和五十年労働省令第三号)第六条に規定する雇用保険被保険者資格取得届

2 派遣元事業主は、前項の規定により同項各号に掲げる書類が提出されていないことを派遣先に通知するときは、当該書類が提出されていない具体的な理由を付さなければならない。

 

則第28条(法第三十五条第一項第四号の厚生労働省令で定める事項)

 法第三十五条第一項第四号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 派遣労働者の性別(派遣労働者が四十五歳以上である場合にあつてはその旨及び当該派遣労働者の性別、派遣労働者が十八歳未満である場合にあつては当該派遣労働者の年齢及び性別)

二 派遣労働者に係る法第二十六条第一項第四号、第五号又は第十号に掲げる事項の内容が、同項の規定により労働者派遣契約に定めた当該派遣労働者に係る組合せにおけるそれぞれの事項の内容と異なる場合における当該内容

 

業務取扱要領の記載事項

1.派遣元事業主が構図べき措置等(再掲)

 一般労働者派遣事業であると特定労働者派遣事業であるとを問わず、派遣元事業主は、次の措置等を講じなければならない。
 ① 有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(法第30条)
 ② 均衡を考慮した待遇の確保のための措置(法第30条の2)
 ③ 派遣労働者等の福祉の増進のための措置(法第30条の3)
 ④ 適正な派遣就業の確保のための措置(法第31条)
 ⑤ 待遇に関する事項等の説明(法第31条の2)
 ⑥ 派遣労働者であることの明示等(法第32条)
 ⑦ 派遣労働者に係る雇用制限の禁止(法第33条)
 ⑧ 就業条件の明示(法第34条)
 ⑨ 労働者派遣に関する料金の額の明示(法第34条の2)
 ⑩ 派遣先への通知(法第35条)
 ⑪ 派遣受入期間の制限の適切な運用(法第35条の2)
 ⑫ 派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知(法第35条の2)
 ⑬ 日雇労働者についての労働者派遣の原則禁止(法第35条の3)
 ⑭ 離職した労働者についての労働者派遣の禁止(法第35条の4)
 ⑮ 派遣元責任者の選任(法第36条)
 ⑯ 派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(法第37条)

 

2.派遣労働者に係る雇用制限の禁止(法第33条)

(1) 概要
  派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者(第8の4の(2)のイ参照)との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先若しくは派遣先であった者又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない(法第33条第1項)。
 例えば、「退職後6か月間は派遣先に雇用されないこと」等を定める契約は原則として締結できない。
  派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない(法第33条第2項)。
 例えば、「派遣先が労働者派遣を受けた派遣労働者について、当該労働者派遣の終了後、1年間は雇用しないこと」等を定める契約は原則として締結できない。
(2) 派遣労働者に係る雇用制限の禁止の意義
   派遣労働者に係る雇用を制限する契約の定めは、憲法第22条により保障されている労働者の職業選択の自由を実質的に制約し、労働者の就業機会を制限し、労働権を侵害するものであり、派遣元事業主と派遣労働者間における派遣先に雇用されない旨の定め、あるいは、派遣元事業主と派遣先間における派遣先が派遣労働者を雇用しない旨の定めをすることは禁止される。
  このような契約の定めは、一般の雇用関係の下にある労働者についても、公序に反し、民法第90条により無効とされており、仮に契約上そのような定めがあっても、契約の相手方である派遣労働者又は派遣先はこれに従う必要はない。
   なお、禁止されるのは雇用関係の終了後、雇用し、又は雇用されることを禁ずる旨の契約であって、雇用契約の終了以前(特に期間の定めのある雇用契約においては当該期間内)について、派遣労働者を雇用し、又は雇用されることを禁ずる旨の契約を締結すること自体は、許容することができるものである。
(3) 「正当な理由」の意義
 「正当な理由」は、競業避止義務との関係で問題となるが、雇用契約の終了後特定の職業に就くことを禁ずる定めについては、次のように考えられる。
   労働者が雇用関係継続中に習得した知識、技術、経験が普遍的なものではなく、特珠なものであり、他の使用者の下にあっては、習得できないものである場合には、当該知識、技術、経験は使用者の客体的財産となり、これを保護するために、当該使用者の客体的財産について知り得る立場にある者(例えば、技術の中枢部に接する職員)に秘密保持義務を負わせ、かつ、当該秘密保持義務を実質的に担保するため雇用契約終了後の競業避止義務を負わせることが必要である場合については、正当な理由が存在するといえる。
   具体的には、制限の時間、場所的範囲、制限の対象となる機種の範囲、代償の有無について、使用者の利益(企業秘密の保護)、労働者の不利益(職業選択の自由の制限)、社会的利害(独占集中のおそれ等)を総合的に勘案して正当な理由の存否を決定する。
   しかしながら、派遣労働者が、もともと他社に派遣され就業するという性格を有することからすると、このような正当な理由が存在すると認められる場合は非常に少ないと解される。
(4) 違反の場合の効果
 (1)に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
(5) 法第38条による準用
 派遣労働者に係る雇用制限の禁止は、派遣元事業主以外の事業主が労働者派遣をする場合も適
用される。

 

3.就業条件の明示(法第34条)

(1) 概要
 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、労働者派遣をする旨及び当該派遣労働者に係る就業条件並びに派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を明示しなければならない(法第34条)。
(2) 意義
 派遣労働者に対する就業条件等の明示は、労働者派遣契約の締結に際しての手続等(第7の2の(1)参照)及び派遣先への通知(第8の11参照)と相まって派遣元事業主、派遣先、派遣労働者の三者間において就業条件等を明確化し、トラブルの発生を防止するとともに、派遣労働者が派遣先における派遣受入期間の制限を認識できるようにすることは派遣労働者のためにも望ましく、また、派遣受入期間の制限の規定を遵守させるためにも有用であると考えられるためのものである。
(3) 明示すべき就業条件等
   明示すべき具体的就業条件等
 具体的には、労働者派遣契約で定めた次に掲げる事項のうち当該契約により労働者派遣される個々の派遣労働者に係るものを明示しなければならない(法第34条)。
 ① 派遣労働者が従事する業務の内容
 ② 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所
 ③ 派遣先のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
 ④ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
 ⑤ 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
 ⑥ 安全及び衛生に関する事項
 ・ 派遣労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関する事項(危険有害業務の内容)等の労働者派遣契約において定めた安全及び衛生に関する事項(第7の2の(1)のイの(ハ)の⑥参照)
 ⑦ 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
 ⑧ 派遣労働者の新たな就業機会の確保、派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担に関する措置その他の労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
 ⑨ 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあっては、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項として以下の事項・ 紹介予定派遣である旨
 ・ 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に予定される労働条件
 【例】
 Ⅰ 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項
 Ⅱ 労働契約の期間に関する事項
 Ⅲ 就業の場所に関する事項
 Ⅳ 始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
 Ⅴ 賃金の額に関する事項
 Ⅵ 健康保険法による健康保険、厚生年金保険法による厚生年金、労働者災害補償保険法によ
  る労働者災害保険及び雇用保険法による雇用保険の適用に関する事項
 ・ 紹介予定派遣を受けた派遣先が、職業紹介を受けることを希望しなかった場合又は職業紹介を受けた者を雇用しなかった場合には、それぞれのその理由を、派遣労働者の求めに応じ、書面、ファクシミリ又は電子メール(ファクシミリ又は電子メールによる場合にあっては、当該派遣労働者が希望した場合に限る。)により、派遣労働者に対して明示する旨
 ・ 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に、年次有給休暇及び退職金の取扱いについて、労働者派遣の期間を勤務期間に含めて算入する場合はその旨
 ⑩ 派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日((4)のイ参照)
 ⑪ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
 ⑫ 派遣先が④の派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は⑤の派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めを労働者派遣契約において行った場合には、当該派遣就業させることができる日又は当該延長することができる時間数
 ⑬ 派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与に関する事項派遣元事業主及び派遣先との間で、派遣先が当該派遣労働者に対し、診療所、給食施設等の施設であって現に派遣先に雇用される労働者が通常利用しているものの利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与、教育訓練その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合には、当該便宜の供与に関する事項についても記載すること。
 ⑭ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
 ・ 第9の4の(3)のイの①に掲げる業務について労働者派遣を行う場合は、併せて当該業務の条番号及び号番号を必ず付す必要がある。
 ・ 第9の4の(3)のイの②に掲げる有期プロジェクトの業務について労働者派遣を行うときは、法第40条の2第1項第2号イに該当する旨を記載すること。
 ・ 第9の4の(3)のイの③に掲げる日数限定業務について労働者派遣を行うときは、①法第40条の2第1項第2号ロに該当する旨、②当該派遣先において、同号ロに該当する業務が1- 165 -か月間に行われる日数、③当該派遣先の通常の労働者の1か月間の所定労働日数を記載すること。
 ・第9の4の(3)のイの④に掲げる育児休業等の代替要員としての業務について労働者派遣を行うときは、派遣先において休業する労働者の氏名及び業務並びに当該休業の開始及び終了予定の日を記載すること。
 ・第9の4の(3)のイの⑤に掲げる介護休業等の代替要員としての業務について労働者派遣を行うときは、派遣先において休業する労働者の氏名及び業務並びに当該休業の開始及び終了予定の日を記載すること。
 (以上については、第7の2の(1)のイの(ハ)参照)
  就業条件の明示に関する留意点
 (イ) 労働者派遣契約においては、①から⑬までの内容の組合せごとに派遣労働者の人数を定めることとされているが、この就業条件の明示は個々の派遣労働者に係るこれらの事項であるため、労働者派遣契約に定めた派遣期間内等において派遣労働者を入れ替える等の場合には、労働者派遣契約に定めるこれらの事項の内容とこの就業条件の明示の内容が相違するものである。
 (ロ) 個々の派遣労働者に明示される就業条件は、労働者派遣契約の定めた就業条件の範囲内でなければならない。
(4) 派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の明示
 イ  派遣元事業主は、第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、派遣労働者に対して、当該派遣労働者が従事する業務について派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を明示しなければならない(法第34条第1項第3号)。
 派遣先が派遣受入期間の制限に抵触する日は、派遣労働者にとっても、当該抵触日が当該派遣先で就業することのできる上限であるため、当該抵触日をあらかじめ通知しておくことによって、派遣受入期間の制限の到来により労働者派遣が終了したことによる雇用契約の更新をめぐるトラブルを未然に防ぐことができる。こうしたことから、派遣元事業主に対し、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、期間制限抵触日を派遣労働者に明示する義務を課すものである。
   派遣先は、労働者派遣契約の締結後に当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る業務について1年を超える派遣受入期間を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、当該労働者派遣をする派遣元事業主に対し、当該業務について派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を通知しなければならないこととされている(第9の4の(6)参照)が、派遣元事業主は派遣先から当該通知を受けたときは、遅滞なく、当該通知に係る業務に従事する派遣労働者に対し、当該業務について派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を明示しなければならない(法第34条第2項)。
(5) 明示の方法
 就業条件等の明示は次により行うこととする(則第26条)。
   就業条件等の明示は、労働者派遣に際し、あらかじめ、明示すべき事項を書面、ファクシミリ又は電子メール(ファクシミリ又は電子メールによる場合にあっては、当該派遣労働者が希望した場合に限る。)により個々の派遣労働者に明示することにより行わなければならない。
 また、(4)のロの明示については、派遣先から当該通知を受けた後、遅滞なく、明示すべき事項を書面、ファクシミリ又は電子メール(ファクシミリ又は電子メールによる場合にあっては、当該派遣労働者が希望した場合に限る。)により個々の派遣労働者に明示することにより行わなければならない。
  ただし、就業条件等の明示については、当該労働者派遣の実施について緊急の必要があるため、あらかじめ、イのいずれかの方法によることができない場合は、明示すべき事項を、あらかじめ、イのいずれかの方法以外の方法で明示すればよいこととする。「緊急の必要があるため、あらかじめ、イのいずれかの方法によることができない」とは、社会通念上、イのいずれかの方法によるための時間的余裕がないことを意味するものであり、この取扱いはあくまで例外的な取扱いであることに十分留意すること。
   ロの場合でも、派遣労働者から労働者派遣の開始より前に個別の請求(その方法は問わない。)があったとき、又は当該請求がなくても当該労働者派遣の期間が一週間を超えるときは、当該労働者派遣の開始後、遅滞なく、当該明示すべき事項をイのいずれかの方法により個々の派遣労働者に明示しなければならない。
(6) 明示に関する留意点
   就業条件等の明示及び(4)の明示をファクシミリ又は電子メールにより行うことについては、当該派遣労働者が当該方法によることを希望することが条件となっている。派遣元事業主による派遣労働者の希望の確認は、事後のトラブルを防止する観点から、口頭により行うのではなく、派遣労働者が希望したことを事後的に確認できる方法(例えば、労働契約書等に記載欄を設け、ファクシミリ又は電子メールによる明示を希望する派遣労働者はその旨を同欄に記載することとする等)により行うことが望ましい。また、派遣元事業主がファクシミリ又は電子メールによる明示を希望するよう派遣労働者に強いてはならないことは、当然である。
   また、就業条件等の明示及び(4)の明示をファクシミリ又は電子メールにより行う場合にあっては、到達の有無に関して事後のトラブルが起きることを防止する観点から、派遣元事業主はファクシミリ又は電子メールの到達の有無について確認を行う(例えば、到達した旨の返信を派遣労働者に求め、当該返信がない場合は、再送することとする等)ことが望ましい。
   さらに、派遣元事業主は、派遣労働者のメールアドレスを取得した場合は、法第24条の3により、労働者の個人情報の適正な取扱いが求められていることに留意する必要がある。
   就業条件及び(4)の明示は個々の派遣労働者に就業条件等を明確にするためのものであり、就業条件の一部を変更して(例えば、派遣期間のみを変更して)再度労働者派遣をしようとする場合は、就業条件等のうち当該変更される事項及び変更内容が明確にされ、他の就業条件等は同一であることが明確にされていれば足りるものである。
   (5)のハの「当該労働者派遣の期間」とは、実際に派遣される期間であり、労働者派遣契約の派遣期間が一週間以内とされているものであっても、契約の更新等により、実質的に一週間を超えることとなる場合には(5)のイのいずれかの方法による明示が必要である。
  派遣労働者の請求がなく、かつ、労働者派遣の期間が一週間以内の場合であっても、派遣労働者の就業条件等の明確化のためには、可能な限り労働者派遣の開始の後、遅滞なく、(5)のイのいずれかの方法により就業条件等を明らかにすることが適当であり、その旨周知徹底、指導を図ること。特に、個々の派遣期間が一週間以内の就業であってもそれが継続的に続く場合は必ず(5)のイのいずれかの方法により就業条件等の明示を行わせるよう指導することとする。
  労働基準法第15条では、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないこととされているが、労働契約の締結の際と労働者派遣を行おうとする際が一致するような場合(いわゆる、登録型の場合に発生しやすい。)において、就業条件等の明示を書面の交付により行うときは、明示する事項が一致する範囲内で両方の明示を兼ねて行って差し支えないものである。
   派遣労働者の就業条件等の明確化を図るため、許可、届出書の受理の機会等をとらえて、労働者派遣を行う際にモデル就業条件明示書の様式(第15 様式集参照)により当該派遣労働者に係る就業条件の内容を明示するよう(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の6(第8の23)参照)、様式の利用を勧奨すること。
(7) 違反の場合の効果
   労働者派遣をしようとする場合に、あらかじめ、当該派遣労働者に就業条件等の明示を行わなかったときは、法第61条第3号に該当し、30万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13の1参照)。
   また、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
   就業条件等の明示義務違反は、イ及びロのように司法、行政処分の対象となるが、労働者派遣契約自体は有効に成立、存続するものである。
(8) 法第38条による準用
 就業条件(ただし、(4)のイ及びロを除く。)の明示は派遣元事業主以外の事業主が労働者派遣をする場合にも行わなければならない。
 
4.労働者派遣に関する料金の額の明示(法第34条の2)
(1) 概要
 派遣元事業主は、イ及びロに掲げる場合には、当該イ及びロに定める労働者に対し、当該労働者に係る労働者派遣に関する料金の額を明示しなければならない(法第34条の2)。
  労働者を派遣労働者として雇い入れようとする場合 当該労働者
   労働者派遣をしようとする場合及び労働者派遣に関する料金の額を変更する場合 当該労働者派遣に係る派遣労働者
(2) 意義
 派遣労働者による派遣元事業主の選択に資するよう、派遣元事業主に対し、派遣労働者の雇入れ時(労働契約を締結する場合)、派遣開始時(実際に派遣する場合)及び労働者派遣に関する料金の額の変更時に、当該労働者に係る労働者派遣に関する料金の額の明示義務を課すものである。
(3) 明示すべき労働者派遣に関する料金の額
   明示すべき労働者派遣に関する料金の額は、次のいずれかとする(則第26条の2第3項)。
 ① 当該労働者に係る労働者派遣に関する料金の額
 ② 当該労働者に係る労働者派遣を行う事業所における労働者派遣に関する料金の額の平均額
 ・ 具体的には、事業所ごとの情報提供を行う場合に用いる前事業年度における派遣労働者一人一日当たりの労働者派遣に関する料金の額の平均額をいう(第6の4の(2)参照)。なお、料金の額の単位についてはロを参照のこと。
 また、事業年度期間中に派遣料金の平均額が大きく変わる見込みがある場合には、再明示することが望ましい。
 ・ なお、法第23条第5項の規定による情報の提供を行うに当たり、当該事業所が労働者派遣事業を行う他の事業所と一体的な経営を行っている場合において、その範囲内で労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合(いわゆるマージン率)を算出している場合には、当該マージン率の算定に用いた労働者派遣に関する料金の額の平均額を明示することとして差し支えない(第6の4参照)。
   明示すべき労働者派遣に関する料金の額について、時間額・日額・月額・年額等は問わないが、その料金額の単位(時間額・日額・月額・年額等)がわかるように明示する必要がある。
(4) 明示の方法
  労働者派遣に関する料金の明示は、書面の交付、ファクシミリを利用してする送信、又は電子メールの送信の方法により行わなければならない(則第26条の2第1項)。
   派遣元事業主が労働者派遣をしようとする場合における当該労働者に係る労働者派遣に関する料金が、労働者を派遣労働者として雇い入れようとする場合に明示した額(法第34条の2第1号)と同一である場合には、再度の明示は要しない(則第26条の2第2項)
(5) 違反の場合の効果
 (1)に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
 
5.法第35条(派遣先への通知
(1) 概要
 派遣元事業主は、労働者派遣をするときは、当該労働者派遣に係る派遣労働者の氏名、当該労働者派遣に係る派遣労働者が期間を定めないで雇用する労働者であるか否かの別、当該派遣労働者の労働・社会保険への加入状況等を派遣先に通知しなければならない(法第35条第1項)。
 また、通知した後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者が期間を定めないで雇用する労働者であるか否かの別について変更があったときは、遅滞なく、その旨を当該派遣先に通知しなければならない(法第35条第2項)。
(2) 通知の趣旨
  派遣労働者を派遣先にいつ、どのように派遣するかは派遣元事業主が決定し、派遣先は、当該派遣元事業主が定めた派遣労働者を当該派遣労働者に係る派遣就業の条件に従って就業させることとなる。
  しかしながら、派遣元事業主と派遣先との間で締結された労働者派遣契約においては、当該労働者派遣に係る全体としての就業条件と派遣労働者の人数は定められるものの、実際の派遣就業に当たって、どのような派遣労働者が労働者派遣され、かつ、どのような就業条件で当該派遣労働者を就業させることができるのかは定められていない。
  このため、労働者派遣契約の適正な履行を確保する観点から、派遣元事業主から派遣先に対して、労働者派遣する派遣労働者の氏名のほか、当該派遣労働者の派遣就業に係る就業条件と当該労働者派遣契約に定めた就業条件の関係を明確にする等派遣先における適正な派遣労働者の雇用管理を確保するために必要な情報を通知させるものである。
   さらに、法第40条の5の規定により、派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(派遣可能期間の制限を受けない業務(第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務)に限る。)について、派遣元事業主から3年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けている場合において、当該同一の業務に労働者を従事させるため、当該3年が経過した日以降労働者を雇い入れようとするときは、当該同一の派遣労働者に対し、労働契約の申込をしなければならないこととされているが、期間を定めないで雇用される派遣労働者である場合には、当該規定の適用を受けない。
 そのため、派遣先は、派遣労働者が期間を定めないで雇用される労働者であるか否かを事前に把握できるよう、当該情報を派遣元事業主から派遣先に対して通知させるとともに、通知後に当該事項に変更があったときは、遅滞なく、その旨を派遣先に通知させるものである。
(3) 通知すべき事項
 派遣先に通知しなければならない事項は、次に掲げるものである(法第35条、則第27条の2、則第28条)。
 ① 派遣労働者の氏名及び性別(派遣労働者が45歳以上である場合にあってはその旨並びに当該派遣労働者の氏名及び性別、派遣労働者が18歳未満である場合にあっては当該派遣労働者の年齢並びに氏名及び性別)
 労働者派遣をする際に、性別等を派遣先に通知する趣旨は、派遣先における労働関係法令の遵守を担保することにあることに留意すること。
 ② 労働者派遣に係る派遣労働者が期間を定めないで雇用する労働者であるか否かの別
 通知をした後に当該事項に変更があったときは、遅滞なく、その旨を派遣先に通知しなければならない(法第35条第2項)。
 ③ 派遣労働者に係る健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無
(「無」の場合は、当該書類が提出されていない具体的な理由を付して派遣先へ通知しなければならない(則第27条の2))。
 具体的な理由としては、健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の適用基準を満たしていない場合にあっては、単に「適用基準を満たしていないため」、「被保険者に該当しないため」等と記載するのでは足りず、「1週間の所定労働時間が15時間であるため」等、適用基準を満たしていないことが具体的にわかるものであることが必要である。
 また、被保険者資格の取得届の手続中である場合にあっては、単に「手続中であるため」等と記載するのでは足らず、「現在、必要書類の準備中であり、今月の○日には届出予定」等と、手続の具体的な状況を記載することが必要である。
 なお、当該通知により、派遣先は当該労働者派遣に係る派遣労働者が派遣元において労働・社会保険に加入するか否かについての明確な認識を持った上で、当該労働者派遣の受入れを行う効果が期待できるものであることに留意すること。
 ④ 当該派遣労働者の派遣就業の就業条件の内容が当該労働者派遣に係る労働者派遣契約の就業条件(第7の2の(1)のイの(ハ)の④、⑤、⑩、⑪、⑫に係る就業条件に限られる。)の内容と異なる場合における当該派遣労働者の就業条件の内容
(4) 通知の方法
 通知は次の方法により行わなければならない(則第27条第1項)。
  労働者派遣契約に定める派遣労働者の就業条件の内容の組合せが一つである場合は、当該組合せに係る(3)の事項を通知すること。
   労働者派遣契約に定める派遣労働者の就業条件の内容の組合せが複数である場合には、当該組合せごとに当該組合せに係る(3)の事項を通知すること。
(5) 通知の手続
 通知は、次の手続により行わなければならない(則第27条第2項及び第3項)。
   通知は、労働者派遣に際し、あらかじめ、(3)の通知すべき事項に係る書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすることにより行うこと。
  ただし、労働者派遣の実施について緊急の必要があるため、書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信ができない場合は、通知すべき事項を、あらかじめ、書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信以外の方法で通知すればよいこととする。
   この場合、労働者派遣契約に係る就業条件の組合せが複数ある場合であって当該労働者派遣の期間が2週間を超えるときは、当該労働者派遣の開始後、遅滞なく、当該事項に係る書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をしなければならない。
   (3)の③の事項については、派遣労働者に係る次の各書類が関係行政機関に提出されていること(労働者派遣に当たって派遣労働者を新たに雇用する場合には、当該労働者派遣の開始の後速やかに提出すること)の有無とする(則第27条の2第1項)。ただし、「無」の場合は、その理由を具体的に記載することとする(則第27条の2第2項)。
 (イ) 健康保険法施行規則第24条第1項に規定する健康保険被保険者資格取得届
 (ロ) 厚生年金保険法施行規則第15条に規定する厚生年金保険被保険者資格取得届
 (ハ) 雇用保険法施行規則第6条に規定する雇用保険被保険者資格取得届
 「無」の場合の具体的理由としては、(3)の③のとおり、「一週間の所定労働時間が15時間であるため」「現在、必要書類の準備中であり、今月の○日には届出予定」等、適用基準を満たしていない具体的理由又は手続の具体的状況が明らかであることが必要である。また、具体的理由が適正でない場合には、13に従い派遣元事業主に対し、労働・社会保険に加入するよう所要の指導を行うこと。
 なお、この措置に関連して、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の4の(2)により、派遣元事業主は、労働・社会保険に加入していない派遣労働者については、派遣先に対して通知した当該派遣労働者が労働・社会保険に加入していない具体的な理由を、当該派遣労働者に対しても通知することが必要である(13の(2)参照)。
 また、派遣先は第9の10の考え方に従い対処する必要があり、適正でないと考えられる理由の通知を受けた場合には、派遣元事業主に対して、労働・社会保険に加入させてから派遣するよう求めることとされていることに留意すること。
 なお、労働者派遣の開始の後、加入手続中の派遣労働者について被保険者資格取得届が提出されたときは、派遣元事業主はその旨を派遣先に通知するものとすること。
  派遣元事業主は、第35条第1項第2号の通知(期間を定めないで雇用する労働者であるか否かの別)をした後に当該事項に変更があったときには、遅滞なくその旨を書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信により派遣先に通知する必要がある(則第27条第4項)。
(6) 通知に際しての留意点
  労働者派遣契約において就業条件の内容の組合せごとに派遣労働者の人数を定めなければならないため、同一の組合せの範囲内で派遣労働者が交代する場合を除き、派遣労働者の就業条件は、当該派遣労働者の属する組合せと同一となる。このため、同一の組合せの範囲内で派遣労働者が交代しない場合は、それぞれの組合せごとに(3)の①から③までを通知し、派遣労働者が交代する場合は、それぞれの組合せごとの(3)の①から③並びに当該交代することとなる派遣労働者の氏名及び当該交代により労働者派遣契約と異なることとなる就業条件の内容を明確にして通知すれば足りるものであり、全ての派遣労働者ごとにその就業条件を併せて通知する必要はない。
  (5)のハの「当該労働者派遣の期間」の意義は9の(6)のホと同様である。
   当該派遣先で就業することとなる業務の遂行について当該業務を行う労働者に免許、資格等を有することが法令により義務付けられている場合には、派遣元事業主は当該免許、資格等を有する者を派遣する必要があるので留意すること。
(7) 違反の場合の効果
   派遣先への通知を行わなかった又は通知を所定の方法で行わなかった場合又は虚偽の通知をした場合は、法第61条第4号に該当し30万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13の1参照)。
   また、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
   派遣先への通知義務違反は、イ及びロのように司法、行政処分の対象となるが、労働者派遣契約自体は有効に成立、存続するものである。
 
○逐条のまとめ
1.法第33条第1項(派遣労働者に係る雇用制限の禁止)
 派遣元事業主は、派遣としての雇用が終了した後に派遣先に雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならないこと。例えば、「派遣先が労働者派遣を受けた派遣労働者について、当該労働者派遣の終了後、1年間は雇用しないこと」等を定める契約は原則として締結できない。
 ※派遣元と派遣労働者の間の上記契約の禁止
 なお、雇用契約の終了以前(特に期間の定めのある雇用契約においては当該期間内)については、派遣先に雇用されることを禁ずる旨の契約を締結すること自体は可能である。
 
2.法第33条第2項(派遣先への通知)

 派遣元事業主は、正当な理由がなく派遣労働者を派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用すること

を禁ずる旨の契約を締結してはならない。※派遣先と派遣元との前記契約の禁止

 
3.法第34条(派遣労働者への就業条件の明示)
 派遣元事業主が労働者派遣するときは、あらかじめ派遣労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明示しなければならない。
   明示すべき具体的就業条件等
 ① 派遣労働者が従事する業務の内容
 ② 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所
 ③ 派遣先のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
 ④ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
 ⑤ 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
 ⑥ 安全及び衛生に関する事項
 ⑦ 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
 ⑧ 派遣労働者の新たな就業機会の確保、派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を
  確保するための当該費用の負担に関する措置その他の労働者派遣契約の解除に当たって講ずる
  派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
 ⑨ 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあっては、当該職業紹介により従事
  すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項として以下の事項・ 
  紹介予定派遣である旨
 ⑩ 派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日((4)のイ参照)
 ⑪ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
 ⑫ 派遣先が④の派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は⑤の派遣就業
  の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めを労働者派遣契約に
  おいて行った場合には、当該派遣就業させることができる日又は当該延長することができる
  時間数
 ⑬ 派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与に関する事項派遣元事業主及び派遣先との間で、
  派遣先が当該派遣労働者に対し、診療所、給食施設等の施設であって現に派遣先に雇用される
  労働者が通常利用しているものの利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服
  の貸与、教育訓練その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合
  には、当該便宜の供与に関する事項についても記載すること。
 ⑭ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
※派遣労働者を雇用するときに明示する事項
 イ  労働者を派遣労働者として雇用した場合における当該労働者の賃金の額の見込み

   その他の当該労働者の待遇に関する事項

 ロ 事業運営に関する事項

 ハ  労働者派遣に関する制度の概要

※参考:労働基準法による明示事項(労働基準法第15条)

 一 労働契約の期間に関する事項

 一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

 一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

 二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに

   労働者を二組以上に分けて終業させる場合における就業転換に関する事項

 三 賃金(退職手当及び第5号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、

   計算及び支払いの方法、賃金の締切及び支払いの時期並びに昇給に関する事項

 四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定。計算及び支払の方法並びに

  支払いの時期に関する事項

 五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃

  金額に関する事項

 六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

 七 安全及び衛生に関する事項 

 八 職業訓練に関する事項

 九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

 十 表彰及び制裁に関する事項

 十一 休職に関する事項

 

4.法第34条の2(労働者派遣に関する料金の額の明示

(1)派遣元事業主は、次のイ及びロ派遣労働者に対し労働者派遣に関する料金の額を明示しなければならない。

 イ  労働者を派遣労働者として雇い入れようとする場合 
   当該労働者
   労働者派遣をしようとする場合及び労働者派遣に関する料金の額を変更する場合 
   当該労働者派遣に係る派遣労働者

(2)明示すべき労働者派遣に関する料金の額は、次のいずれかとする(則第26条の2第3項)。

 ① 当該労働者に係る労働者派遣に関する料金の額
 ② 当該労働者に係る労働者派遣を行う事業所における労働者派遣に関する料金の額の平均額

※尚、明示すべき労働者派遣に関する料金の額について、時間額・日額・月額・年額等は問わないが、その料金額の単位(時間額・日額・月額・年額等)がわかるように明示する必要がある。

(3)明示の方法
 イ  労働者派遣に関する料金の明示は、書面の交付、ファクシミリを利用してする送信、
   又は電子メールの送信の方法によること(義務)。
   派遣元事業主が労働者派遣をしようとする場合の料金が、労働者を派遣労働者として雇い入れ
   ようとする場合に明示した額と同一である場合には、再度の明示は要しない。
   (則第26条の2第2項)
(5) 違反の場合の効果
 明示義務に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となる。


5.法第35条(派遣先への通知)

(1)派遣先への派遣労働者への通知

 派遣元事業主は、労働者派遣をするときは、当派遣労働者の氏名、派遣労働者が有期雇用か無期雇用かの別、労働・社会保険への加入状況等を派遣先に通知しなければならない(第1項)。

 また、通知した後に、労働者派遣労働者の有期・無期の雇用状況に変更があったときは、遅滞なく、派遣先に通知しなければならない(第2項)。

(2)通知すべき事項

 ① 派遣労働者の氏名及び性別

 ②派遣労働者が有期雇用か無期雇用かの別

 ③派遣労働者の健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無

 ④派遣労働者の派遣就業の就業条件の内容が労働者派遣に係る労働者派遣契約の就業条件の一部

  の内容と異なる場合における派遣労働者の就業条件の内容

(3)通知の方法

 通知は、次の手続により行わなければならない。

 ア 書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすること

 イ 緊急の必要があるため、書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メール

   の送信ができない場合は、通知すべき事項を、あらかじめ、書面の交付若しくはファクシミリ

   を利用してする送信又は電子メールの送信以外の方法で通知すればよいこと

(4)その他

 当該派遣先で就業することとなる業務の遂行について、業務を行う労働者に免許、資格等を有することが法令により義務付けられている場合には、派遣元事業主はその免許、資格等を有する者を派遣する必要があるので留意すること。

(5)違反の場合

 派遣先への通知を行わなかった又は通知を所定の方法で行わなかった場合又は虚偽の通知をした場合は、法第61条第4号に該当し30万円以下の罰金に処せられる旨の規定がある。

 また、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となり、上記の司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令の対象となること。

 

 

 

以上で労働者派遣法第33条・第34条・第34条の2・第35条を終了します。

 

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労働者派遣法第31条、第31条の2、第32条

2015年06月20日 15:21

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第31条(適正な派遣就業の確保

 派遣元事業主は、派遣先がその指揮命令の下に派遣労働者に労働させるに当たつて当該派遣就業に関しこの法律又は第四節の規定により適用される法律の規定に違反することがないようにその他当該派遣就業が適正に行われるように、必要な措置を講ずる等適切な配慮をしなければならない。

 

第31条の2(待遇に関する事項等の説明

 

 派遣元事業主は、派遣労働者として雇用しようとする労働者に対し、厚生労働省令で定

めるところにより、当該労働者を派遣労働者として雇用した場合における当該労働者の賃

金の額の見込みその他の当該労働者の待遇に関する事項その他の厚生労働省令で定める事

項を説明しなければならない。

 

則第25条の2(待遇に関する事項等の説明)

 法第三十一条の二の規定による説明は、書面の交付等その他の適切な方法により行わなければならない。ただし、次項第一号に規定する労働者の賃金の額の見込みに関する事項の説明は、書面の交付等の方法により行わなければならない。

2 法第三十一条の二の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 労働者を派遣労働者として雇用した場合における当該労働者の賃金の額の見込みその他の当該労働者の待遇に関する事項

二 事業運営に関する事項

三 労働者派遣に関する制度の概要

 

第32条(派遣労働者であることの明示等)

 

 派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、あらかじめ、当該労働者にその旨(紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れようとする場合にあつては、その旨を含む。)を明示しなければならない。

2 派遣元事業主は、その雇用する労働者であつて、派遣労働者として雇い入れた労働者以外のものを新たに労働者派遣の対象としようとするときは、あらかじめ、当該労働者にその旨(新たに紹介予定派遣の対象としようとする場合にあつては、その旨を含む。)を明示し、その同意を得なければならない。

 

 

業務取扱要領による確認

1.派遣元事業主が構図べき措置等(再掲)

 一般労働者派遣事業であると特定労働者派遣事業であるとを問わず、派遣元事業主は、次の措置等を講じなければならない。
 ① 有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(法第30条)
 ② 均衡を考慮した待遇の確保のための措置(法第30条の2)
 ③ 派遣労働者等の福祉の増進のための措置(法第30条の3)
 ④ 適正な派遣就業の確保のための措置(法第31条)
 ⑤ 待遇に関する事項等の説明(法第31条の2)
 ⑥ 派遣労働者であることの明示等(法第32条)
 ⑦ 派遣労働者に係る雇用制限の禁止(法第33条)
 ⑧ 就業条件の明示(法第34条)
 ⑨ 労働者派遣に関する料金の額の明示(法第34条の2)
 ⑩ 派遣先への通知(法第35条)
 ⑪ 派遣受入期間の制限の適切な運用(法第35条の2)
 ⑫ 派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知(法第35条の2)
 ⑬ 日雇労働者についての労働者派遣の原則禁止(法第35条の3)
 ⑭ 離職した労働者についての労働者派遣の禁止(法第35条の4)
 ⑮ 派遣元責任者の選任(法第36条)
 ⑯ 派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(法第37条)


5.適正な派遣就業の確保(法第31条)

(1) 概要

 派遣元事業主は、派遣先がその指揮命令の下に当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者を労働させるに当たって当該派遣就業に関し法又は法第3章第4節の規定により適用される法律の規定(これらの規定に基づく命令の規定を含む。)に違反することがないよう、その他当該派遣就業が適正に行われるように、必要な措置を講じる等適切な配慮をしなければならない(法第31条)。
 なお、この措置に関連して、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(第8の23参照)において、①派遣先との連絡体制の確立、②関係法令の関係者への周知に関し次のような内容が盛り込まれているので十分留意すること。
 「派遣先との連絡調整」には、派遣労働者の適正な派遣就業の確保のために必要となる連絡調整が広く含まれるものであり、例えば、派遣労働者に対する年次有給休暇、産前産後休業、育児休業又は介護休業の付与は、派遣元事業主の義務となっているところであるが、派遣労働者が派遣先における業務遂行に気兼ねして休業の申出を行いにくいことがないよう、これらの休業の取得に関して十分な連絡調整を行うこと等、派遣労働者の適正な派遣就業の確保のために必要となる連絡調整が広く含まれるものである。
 「関係者」とは、派遣労働者(登録中のものを含む。)、派遣先等がこれに該当するものである。
(2) 意義
 「法又は法第3章第4節の規定により適用される法律の規定(これらの規定に基づく命令の規定を含む。)」は、第7の4の(3)と同じ規定である。
(3) 具体的配慮の内容
 「適切な配慮」の内容は、具体的には、例えば、次のようなものである。
 ① 法違反の是正を派遣先に要請すること。
 ② 法違反を行う派遣先に対する労働者派遣を停止し、又はその派遣先との間の労働者派遣契約
 を解除すること(第7の4参照)。
 ③ 派遣先に適用される法令の規定を習得すること。
 ④ 派遣元責任者に派遣先の事業所を巡回させ、法違反がないよう事前にチェックすること。
 ⑤ 派遣先との密接な連携の下に、派遣先において発生した派遣就業に関する問題について迅速
 かつ的確に解決を図ること。

 

6.待遇に関する事項等の説明(法第31条の2)
(1) 概要
 派遣元事業主は、派遣労働者として雇用しようとする労働者に対し、当該労働者を派遣労働者として雇用した場合における当該労働者の賃金の額の見込みその他の当該労働者の待遇に関する事項等を説明しなければならない(法第31条の2)。
(2) 意義
 派遣労働者として就労しようとする労働者が、実際の就労時の賃金の額の見込み等を事前に把握し、安心・納得して働くことができるよう、派遣元事業主に対し、待遇に関する事項等の説明義務を課すものである。
(3) 説明すべき待遇に関する事項等
 説明すべき事項は、次のとおりである(則第25条の2第2項)。
   労働者を派遣労働者として雇用した場合における当該労働者の賃金の額の見込みその他の当該労働者の待遇に関する事項
 ・ 「賃金の額の見込み」とは、当該労働者の能力・経験・職歴・保有資格等を考慮し、当該労働者を派遣労働者として雇用した場合の現時点における賃金額の見込みであり、一定の幅があっても差し支えないこと。
 ・ 「その他の当該労働者の待遇に関する事項」とは、想定される就業時間や就業日・就業場所・派遣期間、社会保険・労働保険の適用の有無、教育訓練、福利厚生等が該当するが、当該時点において説明可能な事項について労働者に説明することで差し支えないこと。
  事業運営に関する事項
 具体的には、派遣元事業主の会社の概要(事業内容、事業規模等)を指しており、例えば、既存のパンフレット等がある場合には、それを活用して説明することで差し支えないこと。
  労働者派遣に関する制度の概要
 「労働者派遣に関する概要」の説明については、労働者派遣制度の大まかな概要が分かれば足りるものであり、例えば、派遣元事業主で作成している既存の資料や厚生労働省で作成している派遣労働者向けのパンフレットを活用して説明することで差し支えないこと。
(4) 説明の方法
   待遇に関する事項等の説明は、書面の交付、ファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信その他の適切な方法により行わなければならない。ただし、賃金の額の見込みを説明する場合には、書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信により行わなければならない。(則第25条の2第1項)。
   「その他の適切な方法」としては、例えば、口頭やインターネットによる説明が考えられること。なお、インターネットにより説明する場合には、派遣元事業主のホームページのリンク先を明示するなど、労働者が確認すべき画面が分かるようにする必要があること。
  賃金の額の見込みを電子メールの送信により説明する場合には、電子メールの本文の中で賃金の額の見込みを明示する必要があり、派遣元事業主のホームページのリンク先を明示することによって説明に代えることは原則として認められない。
   「派遣労働者として雇用しようとする労働者」とは、例えば、いわゆる登録型で労働者派遣事業が行われる場合における登録状態にある労働者等が該当すること。
(5) 違反の場合の効果
 (1)に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

7. 派遣労働者であることの明示等(法第32条)
(1) 雇入れの際の明示
 イ 概要
 派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、あらかじめ、当該労働者にその旨(紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れる場合にあっては、その旨を含む。)を明示しなければならない(法第32条第1項)。
 また、派遣労働者の労働条件の明確化を図るため、モデル労働条件通知書により労働契約内容が明示されるようにする。
  雇入れの際の明示の意義
 (イ) 雇入れの際の明示は、労働者が派遣労働者という地位(第1の2参照)を取得して雇用されること(紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れる場合にあっては、その旨を含む。)を個々に明確にするために行うものである。このため、派遣労働者となるのかどうか(紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れる場合にあっては、紹介予定派遣に係る派遣労働者となるのかどうか)が不明確なものであってはならない。
 (ロ) 明示は、労働契約の締結に際し、事前に行われなければならない。
 (ハ) 労働者を派遣労働者として雇い入れようとする際に、あらかじめ、その旨(紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れる場合にあっては、その旨を含む。)を明示し、それを承知で当該労働者が雇い入れられた場合は、派遣労働者となることについて同意が得られたものと解され、それが労働契約の内容となっていると解される。
  モデル労働条件通知書の普及
 派遣労働者の労働条件の明確化を図るため、許可、届出書の受理の機会等をとらえて、派遣労働者の雇入れの際にモデル労働条件通知書(第15 様式集参照)により当該派遣労働者との労働契約内容を明示するよう、様式の利用を勧奨すること。
   登録型については、労働条件の通知と就業条件等の明示(第8の9参照)が同時に行われ、また、短期の雇用契約を繰り返し行う派遣労働者については、その都度行われるものであるが、労働条件通知書の雇用・社会保険の加入状況は派遣労働者と新たな雇用契約を締結して雇い入れ、労働条件通知書を明示する際に加入又は適用されていなくても、繰り返し雇用契約を締結し、被保険者資格を取得した際に加入又は適用とすればよく、その旨の徹底を図ることにより、この加入又は適用状況の明示ができないことを理由に通知、明示が遅れることのないよう努めること。
(2) 雇入れ後、派遣労働者とする場合の明示及び同意
  概要
 派遣元事業主は、その雇用する労働者であって、派遣労働者として雇い入れた労働者以外のものを新たに労働者派遣の対象としようとするときは、あらかじめ、当該労働者にその旨(新たに紹介予定派遣の対象としようとする場合にあっては、その旨を含む。)明示し、その同意を得なければならない(法第32条第2項)。
   意義
 (イ) 「新たに労働者派遣の対象としようとする」とは、派遣労働者としての地位を取得していない労働者に対し新たに当該地位を取得させようとすることをいい、既に当該地位を取得している派遣労働者については労働者派遣を行うごとに同意を要するものではない。
 ただし、派遣労働者として雇い入れた労働者を、新たに紹介予定派遣の対象としようとする場合には、明示及び同意を要するものである。
 (ロ) 明示及び同意は、労働者派遣の実施に際し、事前に行われなければならない。
(3) 派遣労働者であることの明示等に関する留意点
   雇入れの際の明示に当たって、労働協約又は就業規則に「労働者派遣の対象となる」旨(紹介予定派遣の対象となる場合にはその旨)の定めがある場合に当該労働協約等を明示し当該労働者が当該労働協約又は就業規則の適用対象であることが明確である場合は、当該労働協約等の明示をすれば雇入れの際の明示と解し得るものであること。
  雇入れ後、派遣労働者とする場合の明示及び同意については、当該労働者を採用した後に、新たに労働協約又は就業規則に「労働者派遣の対象となる」旨の定めを設けた場合であっても、それだけでは、明示及び同意があったとは解されず新たに労働者派遣の対象とする際に個々の労働者について、あらかじめ、行わなければならないものである。
   労働者を新たに派遣労働者とするに当たっての不利益取扱いの禁止
 派遣元事業主は、労働者を新たに派遣労働者としようとする場合であって、当該労働者がその旨(新たに紹介予定派遣の対象としようとする場合にあっては、その旨を含む。)同意をしないときにおいて、当該労働者に対し解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の7(第8の23参照))。
   労働者を派遣労働者として転籍させる場合の取扱い
 事業主が自ら雇用する労働者を転籍させる場合における一般的な取扱いと同じく、事業主は雇用する労働者を当該事業主以外の派遣元事業主に雇用される派遣労働者として転籍させようとするときについても、あらかじめ労働者にその旨(新たに紹介予定派遣の対象としようとする場合にあっては、その旨を含む。)を明示し、その同意を得なければならないものであり、その旨の周知、指導の徹底を図る。
  紹介予定派遣の対象者として登録を行う場合の取扱い
 派遣元事業主は紹介予定派遣の対象として登録しようとするときは、あらかじめその旨を当該労働者に明示しなければならないものであり、その旨の周知、指導の徹底を図ること(既に労働者派遣の登録を行い、又は求職の申込みをしている者を紹介予定派遣の対象とする場合も同様の取扱いとする。)。
(4) 違反の場合の効果
 (1)及び(2)に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
 なお、(1)及び(2)は、派遣労働者という地位を取得する場合に労働者保護の観点から加えられた公法的な規制であり、これに反して明示又は明示及び同意を経ない労働者を労働者派遣した場合における労働契約又は労働者派遣契約の効果を直接規律するものではない。

 

逐条まとめ

1.適正な派遣就業の確保(法第31条)

 派遣元事業主は、派遣就業が適正に行われるように必要な措置を講ずる等適切な配慮をしなければならない。

「適切な配慮」の内容は、具体的には、例えば、次のようなものである。
 ① 法違反の是正を派遣先に要請すること。
 ② 法違反を行う派遣先に対する労働者派遣を停止し、又はその派遣先との間の労働者派遣契約
 を解除すること。
 ③ 派遣先に適用される法令の規定を習得すること。
 ④ 派遣元責任者に派遣先の事業所を巡回させ、法違反がないよう事前にチェックすること。
 ⑤ 派遣先との密接な連携の下に、派遣先において発生した派遣就業に関する問題について迅速
 かつ的確に解決を図ること。

 

2.待遇に関する事項等の説明(法第31条の2)

 派遣元事業主は、派遣労働者の待遇に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない。

 またこの説明は、書面の交付等(賃金の額の見込みに関する事項は必ず書面の交付等のよること。)その他の適切な方法により行わなければならない。

 (ⅰ) 説明すべき事項は、次のとおり。

 イ  労働者を派遣労働者として雇用した場合における当該労働者の賃金の額の見込み

   その他の当該労働者の待遇に関する事項

  事業運営に関する事項

 ハ  労働者派遣に関する制度の概要

 (ⅱ) 説明の方法は次のとおり。

 イ 書面の交付、ファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信その他の適切な方法

   ただし、賃金の額の見込みを説明する場合には、書面の交付若しくはファクシミリを利用

   してする送信又は電子メールの送信により行わなければならない

   また、派遣元事業主のホームページのリンク先を明示することによって説明に代えることは

   原則として認められない

 ロ その他の適切な方法」としては、例えば、口頭やインターネットによる説明が考えられること

   なお、インターネットにより説明する場合には、派遣元事業主のホームページのリンク先

   を明示するなど  

 (ⅲ)その他

 ア 派遣労働者として雇用しようとする労働者とは、例えば登録状態にある労働者等が

   該当すること

 イ 違反した場合、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となること

 

7. 派遣労働者であることの明示等(法第32条)

(1)雇い入れ時の明示

 派遣元事業主は、派遣労働者にその旨(紹介予定派遣の場合はその旨。)を明示しなければならない。

 また、明示は、労働契約の締結に際し、事前に行われなければならない。

(2)雇い入れ後の明示

 「新たに労働者派遣の対象としようとする」とは、新たに当該地位を取得させようとすることをいい、既に当該地位を取得している派遣労働者については除外される。また、労働者派遣を行うごとに同意を要するものではない。

 ただし、派遣労働者として雇い入れた労働者を、新たに紹介予定派遣の対象としようとする場合には、明示及び同意を要する。

 紹介予定派遣の対象として労働者を登録しようとするときは、あらかじめその旨を労働者に明示しなければならない(既に労働者派遣の登録を行い又は求職の申込みをしている者を紹介予定派遣の対象とする場合も同様の取扱いとすること。)。

(3)違反の場合の措置

 違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となる。

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第31条・第31条の2・第32条を終了します。

 

 

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労働者派遣法第29条の2、第30条、第30条の2、第30条の3

2015年06月19日 15:20

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第29条の2(労働者派遣契約の解除に当たつて講ずべき措置

 労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たつては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。

 

第30条(有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等

 派遣元事業主は、その期間を定めて雇用する派遣労働者又は派遣労働者として期間を定めて雇用しようとする労働者(相当期間にわたり期間を定めて雇用する派遣労働者であつた者その他の期間を定めないで雇用される労働者への転換を推進することが適当である者として厚生労働省令で定める者に限る。以下この条において「有期雇用派遣労働者等」という。)の希望に応じ、次の各号のいずれかの措置を講ずるように努めなければならない。

一 期間を定めないで雇用する派遣労働者として就業させることができるように就業の機会を確保し、又は派遣労働者以外の労働者として期間を定めないで雇用することができるように雇用の機会を確保するとともに、これらの機会を有期雇用派遣労働者等に提供すること。

二 当該派遣元事業主が職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして職業紹介を行うことができる場合にあつては、有期雇用派遣労働者等を紹介予定派遣の対象とし、又は紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れること。

三 前二号に掲げるもののほか、有期雇用派遣労働者等を対象とした期間を定めないで雇用される労働者への転換のための教育訓練その他の期間を定めないで雇用される労働者への転換を推進するための措置を講ずること。

 

則第25条

 法第三十条の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者とする。

一 当該派遣元事業主に雇用された期間が通算して一年以上である期間を定めて雇用する派遣労働者

二 当該派遣元事業主に雇用された期間が通算して一年以上である派遣労働者として期間を定めて雇用しようとする労働者

 

第30条の2(均衡を考慮した待遇の確保

 

 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先(当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者をいう。第四節を除き、以下同じ。)に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準又は当該派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力若しくは経験等を勘案し、当該派遣労働者の賃金を決定するように配慮しなければならない。

2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派

遣先に雇用される労働者との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者について、教育訓練及び

福利厚生の実施その他当該派遣労働者の円滑な派遣就業の確保のために必要な措置を講ず

るように配慮しなければならない。

 

第30条の3(派遣労働者等の福祉の増進)

 

 前二条に規定するもののほか、派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働

者として雇用しようとする労働者について、各人の希望、能力及び経験に応じた就業の機

会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置

を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図るように努めなければならない。

 

第31条(適正な派遣就業の確保)

 

 派遣元事業主は、派遣先がその指揮命令の下に派遣労働者に労働させるに当たつて当該

派遣就業に関しこの法律又は第四節の規定により適用される法律の規定に違反することが

ないようにその他当該派遣就業が適正に行われるように、必要な措置を講ずる等適切な配

慮をしなければならない。

 

業務取扱事項(派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置)

1.労働者派遣契約を解除した場合の派遣元労働者の措置(法第29条の2)

(1) 概要
 短期間の労働者派遣契約の反復更新に伴い、短期間の労働契約を反復更新することは、派遣労働者の雇用が不安定になる面があり、望ましくないため、派遣労働者の雇用の安定が図られるように、派遣元事業主及び派遣先は、労働契約及び労働者派遣契約の締結に当たり必要な配慮をするよう努めるとともに、労働者派遣契約の解除に際して、当該労働者派遣契約の当事者である派遣元事業主及び派遣先が協議して必要な措置を具体的に定めることとしている。
 また、労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たっては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならないこととしている(法第26条第1項第8号、法第29条の2、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の2(第8の23参照)及び「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の6(第9の16参照))。
(2) 派遣先の講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
  労働者派遣契約の締結に当たって講ずべき措置
 派遣先は、労働者派遣契約の締結に当たって、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣先は派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること及びこれができないときには少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされることにより生ずる損害である休業手当、解雇予告手当等に相当する額以上の額について損害の賠償を行うことを定めなければならないこと。また、労働者派遣の期間を定めるに当たっては、派遣元事業主と協力しつつ、当該派遣先において労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を勘案して可能な限り長く定める等、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めること。
   労働者派遣契約の解除の事前の申入れ
 派遣先は、専ら派遣先に起因する事由により、労働者派遣契約の契約期間が満了する前の解除を行おうとする場合には、派遣元事業主の合意を得ることはもとより、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと。
  派遣先における就業機会の確保
 派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。
  損害賠償等に係る適切な措置
 派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし、これができないときには、少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければならないこと。例えば、当該派遣元事業主が当該派遣労働者を休業させる場合は休業手当に相当する額以上の額について、当該派遣元事業主がやむを得ない事由により当該派遣労働者を解雇する場合は、派遣先による解除の申入れが相当の猶予期間をもって行われなかったことにより当該派遣元事業主が解雇の予告をしないときは30日分以上、当該予告をした日から解雇の日までの期間が30日に満たないときは当該解雇の日の30日前の日から当該予告の日までの日数分以上の賃金に相当する額以上の額について、損害賠償を行わなければならない。その他派遣先は派遣元事業主と十分に協議した上で適切な善後処理方策を講ずること。また、派遣元事業主及び派遣先の双方に責に帰すべき事由がある場合には、派遣元事業主及び派遣先のそれぞれの責に帰すべき部分の割合についても十分に考慮すること。
 なお、派遣元事業主が派遣労働者を休業させる場合における休業手当に相当する額、又は派遣元事業主がやむを得ない事由により派遣労働者を解雇する場合における解雇予告手当に相当する額(=派遣先による労働者派遣契約の解除の申入れが相当の猶予期間をもって行われなかったことにより当該派遣元事業主が解雇の予告をしないときは30日分以上、当該予告をした日から解雇の日までの期間が30日に満たないときは当該解雇の日の30日前の日から当該予告の日までの日数分以上の賃金に相当する額)については、派遣元事業主に生ずる損害の例示であり、休業手当及び解雇予告手当以外のものについても、それが派遣先の責に帰すべき事由により派遣元事業主に実際に生じた損害であれば、賠償を行わなければならない。
  労働者派遣契約の解除の理由の明示
 派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合であって、派遣元事業主から請求があったときは、労働者派遣契約の解除を行った理由を当該派遣元事業主に対し明らかにすること。

 

2.派遣元事業主の講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置

   労働契約の締結に際して配慮すべき事項
 派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、当該労働者の希望及び労働者派遣契約における労働者派遣の期間を勘案して、労働契約の期間を、当該労働者派遣契約における労働者派遣の期間と合わせる等、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めること。
   労働者派遣契約の締結に当たって講ずべき措置
 派遣元事業主は、労働者派遣契約の締結に当たって、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除が行われる場合には、派遣先は派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること及びこれができないときには少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされることにより生ずる損害である休業手当、解雇予告手当等に相当する額以上の額について損害の賠償を行うことを定めるよう求めること。
   労働者派遣契約の解除に当たって講ずべき措置
 派遣元事業主は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該労働者派遣契約に係る派遣先と連携して、当該派遣先からその関連会社での就業のあっせんを受けること、当該派遣元事業主において他の派遣先を確保すること等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。また、当該派遣元事業主は、当該労働者派遣契約の解除に当たって、新たな就業機会の確保ができない場合は、まず休業等を行い、当該派遣労働者の雇用の維持を図るようにするとともに、休業手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすこと。さらに、やむを得ない事由によりこれができない場合において、当該派遣労働者を解雇しようとするときであっても、労働契約法の規定を遵守することはもとより、当該派遣労働者に対する解雇予告、解雇予告手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすこと。
(4) その他
   労働者派遣契約の契約期間が満了する前に当該労働者派遣契約に基づく派遣就業をしている派遣労働者を交替させる場合は、当該派遣労働者について6(2)のロ、ハ及びホ並びに(3)のロに準じた取扱いをすること。
   労働者派遣契約の解除があった場合に、派遣元事業主が、当該労働者派遣をしていた派遣労働者との労働契約書を派遣労働者の同意なく差し換え、又はその同意を強要することは適切ではない旨指導すること。

 

業務取扱要領(派遣元事業主の講ずべき措置等)

1.派遣元事業主が構図べき措置等

 一般労働者派遣事業であると特定労働者派遣事業であるとを問わず、派遣元事業主は、次の措置等を講じなければならない。
 ① 有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(法第30条)
 ② 均衡を考慮した待遇の確保のための措置(法第30条の2)
 ③ 派遣労働者等の福祉の増進のための措置(法第30条の3)
 ④ 適正な派遣就業の確保のための措置(法第31条)
 ⑤ 待遇に関する事項等の説明(法第31条の2)
 ⑥ 派遣労働者であることの明示等(法第32条)
 ⑦ 派遣労働者に係る雇用制限の禁止(法第33条)
 ⑧ 就業条件の明示(法第34条)
 ⑨ 労働者派遣に関する料金の額の明示(法第34条の2)
 ⑩ 派遣先への通知(法第35条)
 ⑪ 派遣受入期間の制限の適切な運用(法第35条の2)
 ⑫ 派遣先及び派遣労働者に対する派遣停止の通知(法第35条の2)
 ⑬ 日雇労働者についての労働者派遣の原則禁止(法第35条の3)
 ⑭ 離職した労働者についての労働者派遣の禁止(法第35条の4)
 ⑮ 派遣元責任者の選任(法第36条)
 ⑯ 派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(法第37条)

 

2.有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(法第30条)

(1) 概要
 派遣元事業主は、その期間を定めて雇用する派遣労働者又は派遣労働者として期間を定めて雇用しようとする労働者(相当期間にわたり期間を定めて雇用する派遣労働者であった者その他の期間を定めないで雇用される労働者への転換を推進することが適当である者に限る。以下「有期雇用派遣労働者等」という。)の希望に応じ、次のイからハまでのいずれかの措置を講ずるように努めなければならない(法第30条)。
 この「有期雇用派遣労働者等」とは、次に掲げる者をいう(則第25条)。
 ① 当該派遣元事業主に雇用された期間が通算して1年以上である、期間を定めて雇用する派遣
 労働者
 ② 当該派遣元事業主に雇用された期間が通算して1年以上である、派遣労働者として期間を定
 めて雇用しようとする労働者
(派遣元事業主が講ずべき措置)
  期間を定めないで雇用する派遣労働者として就業させることができるように就業の機会を確保し、又は派遣労働者以外の労働者として期間を定めないで雇用することができるように雇用の機会を確保するとともに、これらの機会を有期雇用派遣労働者等に提供すること。
   当該派遣元事業主が職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして職業紹介を行うことができる場合にあっては、有期雇用派遣労働者等を紹介予定派遣の対象とし、又は紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れること。
   イ又はロに掲げるもののほか、有期雇用派遣労働者等を対象とした期間を定めないで雇用される労働者への転換のための教育訓練その他の期間を定めないで雇用される労働者への転換を推進するための措置を講ずること。
 なお、この措置に関連して、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(第8の23参照)において、有期雇用派遣労働者等の希望の把握に関し次のような内容が盛り込まれているので十分留意すること。
(2) 意義
 本人が希望しないにもかかわらず、有期契約による派遣という働き方を選択している派遣労働者について、その希望に応じ、できる限り無期の労働契約で雇用されるようにしていくことは、派遣労働者の雇用の安定を図る上で重要である。そのため、派遣元事業主に対し、有期雇用派遣労働者等の希望に応じ、期間を定めないで雇用する労働者への転換推進措置を講ずるよう努力義務を課すものである。
(3) 有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置に関する留意点
  「派遣労働者として期間を定めて雇用しようとする労働者」とは、労働者派遣の対象となるものとして将来期間を定めて雇用しようとする労働者をいうこと。具体的には、いわゆる登録型で労働者派遣事業が行われる場合における登録状態にある労働者であって、派遣労働者として実際
に雇用しようとするものが該当すること。
   当該転換推進措置は、(1)のイ、ロ又はハのいずれかの事項について、講ずることが求められるものであること。
 「その他の期間を定めないで雇用される労働者への転換を推進するための措置」としては、例えば、期間を定めないで雇用される労働者への転換に資する各種講習・セミナー、キャリアコンサルティング等の実施や、これらの受講支援に資する措置の導入等が考えられること。
   「派遣元事業主に雇用された期間が通算して1年以上」とは、派遣元事業主に最初に雇用されてからその時点までの雇用期間が通算して1年以上であるかどうかで判断すること(派遣労働者が複数の事業所に所属していた場合であっても、契約の相手方である派遣元事業主が同一である場合には、その期間を通算する。)。
 ただし、労働基準法等の規定により関係書類の保存が義務付けられている期間を超える部分については、派遣元事業主の人事記録等により雇用関係の有無が実際に確認できる範囲で判断することとして差し支えない。
 なお、労働者が当該派遣元事業主から給与が支払われた事実が確認できる書類(給与明細等)を持参してきた場合には、当該給与の支払対象となった期間については、雇用関係があったものとして取り扱う。
   有期雇用派遣労働者等の無期雇用への転換に係る希望の把握については、派遣元事業主は対象者全員に希望の有無を聞くことが望ましいが、雇入時に無期雇用への転換推進措置の制度を説明し、無期雇用への転換を希望する場合の当該派遣元事業主における相談窓口等を紹介することでも差し支えない。
 
3.均衡を考慮した待遇の確保のための措置(法第30条の2)
(1) 概要
 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準又は当該派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力若しくは経験等を勘案し、当該派遣労働者の賃金を決定するように配慮しなければならない(法第30条の2第1項)。
 また、派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者について、教育訓練及び福利厚生の実施その他当該派遣労働者の円滑な派遣就業の確保のために必要な措置を講ずるように配慮しなければならない(法第30条の2第2項)。
 なお、この措置に関連して、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(第8の23参照)において、均衡を考慮した待遇の確保に関し次のような内容が盛り込まれているので十分留意するこ
(2) 意義
   派遣労働者の待遇については、実態として正社員との間で格差が存在すること等が指摘されている。このため、派遣元事業主に対し、派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準、当該派遣労働者の職務内容等を勘案し、当該派遣労働者の賃金を決定するよう配慮義務を課すものである。
   また、派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者との均衡を考慮しつつ、教育訓練・福利厚生の実施等の措置を講ずるよう配慮義務を課すものである。
  なお、均衡を考慮した待遇の確保のための措置が適切に講じられるよう、派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じて、派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する派遣先の労働者に関する情報であって、当該措置に必要なものを提供するなど、必要な協力をするように努めなければならないものである(法第40条第3項)。
   この規定に関連して、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9の(1)(第9の16参照)において、派遣先は、労働者派遣法第40条第3項の規定に基づき、派遣元事業主の求めに応じ、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事している労働者等の賃金水準、教育訓練、福利厚生等の実状を把握するために必要な情報を派遣元事業主に提供するとともに、派遣元事業主が当該派遣労働者の成果等に応じた適切な賃金を決定できるよう、派遣元事業主からの求めに応じ、当該派遣労働者の職務の評価等に協力をするよう努めなければならないものとしていることにも十分留意すること。
(3) 均衡を考慮した待遇の確保のための措置に関する留意点
  「派遣労働者の従事する業務と同種の業務」に該当するか否かについては、業務内容等を勘案しつつ、個々の実態に即して判断する必要があるが、例えば、複数の労働者がチームを組んで作業する場合に、そのチームメンバーの一員として派遣労働者も参画し、かつ、派遣先に雇用される労働者と同様の業務に従事している場合等には、基本的には「同種の業務」に従事しているものとして取扱うことが考えられる。また、厚生労働省編職業分類の細分類項目を参考にすることも考えられる。一般の労働者との比較に際しても、このような取扱いを参考にすることが考えられる。
  均衡を考慮する必要がある「賃金」の範囲は、労働基準法の賃金に含まれるかどうかにより判断すること。
  「派遣労働者の円滑な派遣就業の確保のために必要な措置」とは、例えば、福利厚生施設の利用、職場内研修への参加等が考えられること。
   また、各種手当等の取扱いについても、派遣先に雇用される労働者等との均衡等を踏まえた措置を講ずることが望ましい。
  なお、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮した結果のみをもって、当該派遣労働者の賃金を従前より引き下げるような取扱いは、法第30条の2第1項の趣旨を踏まえた対応とはいえず、労働契約の一方的な不利益変更との関係でも問題が生じうる。
  「労働者派遣に係る業務を円滑に遂行する上で有用な物品の貸与や教育訓練の実施等」とは、例えばOA機器操作を円滑に行うための周辺機器の貸与や、着衣への汚れを防止するための衣服、手袋等の支給、業務を迅速に進めるための研修の受講等、様々なものが考えられ、派遣元事業主は、派遣先に対し、派遣労働者と同種の業務に従事している労働者等の福利厚生等の実状について情報提供を求める、派遣労働者に要望を聴取する等を通じて実状を把握し、必要な措置を講ずるよう努めなければならないものである。
 
4.派遣労働者等の福祉の増進(法第30条の3)
(1) 概要
 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者について、各人の希望、能力及び経験に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図るように努めなければならない(法第30条の3)。
 なお、この措置に関連して、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(第8の23参照)において、派遣労働者等の福祉の増進に関し次のような内容が盛り込まれているので十分留意すること。
(2) 意義
  「派遣労働者として雇用しようとする労働者」とは、労働者派遣の対象となるものとして将来雇用しようとする労働者をいう。具体的には、いわゆる登録型で労働者派遣事業が行われる場合における登録状態にある労働者が主に想定される。
 したがって、派遣元事業主は、現に雇用している労働者だけではなく、登録中の労働者等、派遣労働者として雇用しようとする労働者についても、以下ロからホまでの福祉の増進を図るよう努めなければならない。
  「各人の希望、能力及び経験に応じた就業の機会の確保」とは、個々の労働者の適正、能力及び経験を勘案してこれに最も適合し、かつ、当該労働者の就業ニーズ、就業する期間、日、1日における就業時間、就業場所、派遣先の職場環境についてその希望に適合するような就業機会の確保のことである。
   「教育訓練の機会の確保」とは、職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第4条第1項の規定を満たすだけではなく、労働者の就業機会を確保するのに適した教育訓練の機会を確保することであり、具体的には、例えば、派遣元事業主が許可を受けようとする際に提出する事業計画書中の教育訓練に関する計画に基づいて、適切に教育訓練を実施することである。
   「労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置」とは、賃金、労働時間、安全衛生、災害補償等労働者の職場における待遇である労働条件について、よりよい条件の下における労働者の就業機会の確保、社会保険、労働保険の適用の促進、福利厚生施設の充実等に努めることである。
 
派遣労働者への配慮措置等逐条まとめ
1.労働者派遣契約を解除した場合の派遣先事業所等の措置(法第29条の2)
 ① 派遣先の派遣契約解除の際の措置
 派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により契約の途中で労働者派遣契約の解除を行う場合には、派遣労働者の休業手当、解雇予告手当等に相当する額以上の額について損害の賠償を行うことを派遣契約に定めなければない。  
 また、派遣期間は、可能な限り長く定める等、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めること。
 ② 派遣契約解除の通告
 派遣元事業主の合意を得ることはもとより、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと。
 ③ 派遣先による派遣労働者の就業の確保
 派遣先は、派遣先の都合により派遣契約の途中解除が行われた場合には、派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。
 ④ 派遣先の損害賠償
 派遣先は、派遣先の都合により労働者派遣契約を解除した場合には、休業手当に相当する額以上の額、解雇予告手当等の相当額の途中契約解除にともなう損害の賠償を行わなければならないこと。
 ⑤ 労働者派遣契約の解除の理由の明示
 派遣先は、労働者派遣契約の途中解除を行う場合は、派遣元事業主から請求があったときは、労働者派遣契約の解除の理由を派遣元事業主に対し明らかにすること
 ※派遣労働者の休業手当(労働基準法第26条)及び解雇予告手当(同法第20条)等の規定による措置義務は、派遣元事業主に課されています。労働者派遣法においては、労働者派遣契約に途中解除の際の派遣先による派遣労働者の雇用の安定に関する措置に関する規定を設けるように義務付けています。
 そして、労働者派遣契約中に派遣先の都合による契約解除の際の派遣先が行うべき「派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置」の規定が無い場合であっても、法第29条の2の規定により、派遣労働者の責任による場合を除き派遣先事業主は、派遣労働者に対する措置を行う義務があります。
 
2.派遣元事業主の講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置(法第29条の2関連)
 ① 派遣労働者を採用時
 派遣元事業主は、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めること。
 ② 労働者派遣契約の締結時
 派遣元事業主は、派遣先の都合により労働者派遣契約の途中解除を行う場合は、少なくとも派遣労働者の休業手当、解雇予告手当等に相当する額以上について損害の賠償を行うことを定めるよう求めること
 ③ 派遣元事業主が労働者派遣契約の解除にともない行う措置 
 派遣元事業主は、派遣先と連携して同派遣先からその関連会社での就業のあっせんを受けること、同派遣先での派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること、就業先がない場合には休業手当の支払・解雇予告手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすこと
 
3.派遣元による有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(法第30条)
 派遣元事業主が派遣労働者の雇用の安定等のために行う措置(努力義務)
 ① 無期雇用への転換
 無期雇用の派遣労働者としての就業の機会を確保し、又は派遣労働者以外の無期雇用労働者としての雇用の機会を確保するとともに、これらの機会を有期雇用派遣労働者等に提供すること。
 ※有期雇用派遣労働者とは、雇用された期間が通算して1年以上である者又は通算して1年以上である派遣労働者として期間を定めて雇用しようとする者
 ② 職業紹介を行う事業主の場合
 有期雇用派遣労働者につき、紹介予定派遣の対象とし又は紹介予定派遣対象の派遣労働者として雇用すること
 ③ 教育訓練等
 教育訓練その他の無期雇用労働者への転換を推進するための措置
 
4.均衡を考慮した待遇の確保のための措置(法第30条の2)
 ① 同一労働同一賃金の均衡配慮
 派遣元事業主は、同種の業務の労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、一般の労働者の賃金水準又は当該派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力若しくは経験等を勘案し、当該派遣労働者の賃金を決定するように配慮しなければならない。
 また、教育訓練及び福利厚生の実施その他派遣労働者の円滑な派遣就業の確保のために必要な措置を講ずるように配慮しなければならない。具体的には、次の通り。
 ア 賃金
 派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準、当該派遣労働者の職務内容等を勘案し、当該派遣労働者の賃金を決定するよう配慮義務を課すもの 
 イ 教育訓練等
 教育訓練・福利厚生の実施等の措置を講ずるよう配慮義務課が課されること
 ウ 派遣先の協力
 派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じて、均衡考慮に必要な協力をするように努めなければならない
 
5.派遣労働者等の福祉の増進(法第30条の3)
 派遣元事業主は、派遣労働者の福祉の増進を図るように努めなければならない。
 ① 各人の希望、能力及び経験に応じた就業の機会の確保
 個々の労働者の適正、能力及び経験を勘案してこれに最も適合し、かつ、当該労働者の就業ニーズ、就業する期間、日、1日における就業時間、就業場所、派遣先の職場環境についてその希望に適合するような就業機会の確保 
 ② 教育訓練の機会の確保
 例えば、派遣元事業主が許可を受けようとする際に提出する事業計画書中の教育訓練に関する計画に基づいて、適切に教育訓練を実施すること
 
 
 
以上で労働者派遣法第29条の2・第30条・第30条の2・第30条の3を終了します。
 
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労働者派遣法第27条、第28条、第29条

2015年06月19日 13:26

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第27条(契約の解除等

 労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない。

 

第28条

 

 労働者派遣をする事業主は、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該派遣就業に関し、この法律又は第四節の規定により適用される法律の規定(これらの規定に基づく命令の規定を含む。第三十一条において同じ。)に違反した場合においては、当該労働者派遣を停止し、又は当該労働者派遣契約を解除することができる。

 

第29条

 

 労働者派遣契約の解除は、将来に向かつてのみその効力を生ずる。

 

業務取扱要領(労働者派遣契約の解除)

1.労働者派遣契約解除の制限(法第27条)

(1) 概要
 労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない(法第27条)。
(2) 解除の禁止の意義
   禁止されるのは、労働者派遣契約について、業として行われる労働者派遣であると否とを問わず、また、当該労働者派遣契約の一部であるか全部であるかを問わず、これを解除する行為である。
 なお、労働者派遣の役務の提供を受ける者が労働者派遣をする者と合意の上、労働者派遣契約を解除する場合であっても、(3)の事由を理由とする限り、当該解除は、労働者派遣の役務の提供を受ける者について禁止されるものである。
   法第27条に違反して、労働者派遣契約を解除した場合には、当該解除は公序良俗に反するものとして無効となる。したがって、労働者派遣の役務の提供を受ける者が当該解除を主張したとしても、労働者派遣をする者は解除の無効を主張して契約の履行を求めることができ、さらに、損害を被った場合には、損害賠償の請求をすることができる。
(3) 労働者派遣契約の解除が禁止される事由
   「国籍」とは、国民たる資格で、「信条」とは特定の宗教的又は政治的信念を、「社会的身分」とは生来的な地位をそれぞれいうものである。
   「労働組合の正当な行為」とは、労働組合法上の労働組合員が行う行為であって、労働組合の社会的相当行為として許容されるものであるが、具体的には、団体交渉、正当な争議行為はもちろん、労働組合の会議に出席し、決議に参加し、又は組合用務のために出張する等の行為も含まれるものである。
 これに該当しない行為としては、例えば、いわゆる政治ストや山猫ストがある。
 なお、「労働組合の正当な行為」に該当するか否かは、主として派遣労働者が組合員となっている組合と労働者派遣をする事業主との間の問題として決定することとなると考えられる。
   労働者派遣契約の解除が禁止される不当な事由は、労働関係において形成されている公序に反するものであり、その他には人種、門地、女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産したこと、心身障害者であること、労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、又はこれを結成しようとしたこと、法第40条第1項の規定により派遣先へ苦情を申し出たこと、労働者派遣の役務の提供を受ける者が法に違反したことを関係行政機関に申告したこと等も含まれるものである。
   「理由として」とは、国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等の事由が労働者派遣契約の解除の決定的原因となっていると判断される場合をいう。この場合、当該事由が決定的原因であるものか否かについては、個々具体的事実に即して判断する。
 
2.派遣労働者の保護等のための労働者派遣契約の解除等(第28条)
(1) 概要
 労働者派遣をする事業主は、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該派遣就業に関し、法又は法第3章第4節の規定により適用される法律の規定(これらの規定に基づく命令の規定を含む。)に違反した場合においては、当該労働者派遣を停止し、又は当該労働者派遣契約を解除することができる(法第28条)。
(2) 労働者派遣契約の解除の意義
  法第31条の規定による派遣元事業主の適正な派遣就業の確保を実質的に担保するためのものである。
   解除を行うことができるのは、業として行われると否とを問わず、労働者派遣をする事業主であり、派遣元事業主以外の事業主であっても労働者派遣をする場合には、当該解除を行える。
   当該労働者派遣の停止又は労働者派遣契約の解除は、直ちに行うことができるものであり、当該労働者派遣契約において解除制限事由又は解除予告期間が定められていたとしても当該定めは無効となるものである。
   一般に、契約は、解除事由につき別段の定めがあり、また、契約の当事者の合意がある場合を除き、法定の解除事由である債務不履行がある場合以外一方的に解除することはできず、一方的に解除した場合には、債務不履行で損害賠償の責を負うこととなるが、法第28条の規定により、当該労働者派遣の停止又は労働者派遣契約の解除により当該労働者派遣の役務の提供を受ける者が損害を被っても、解除又は停止を行った労働者派遣を行う事業主は債務不履行による損害賠償の責を負うことはない。
(3) 労働者派遣契約の解除等を行える具体的事由
 労働者派遣の役務の提供を受ける者が次の規定に違反した場合である。
 ① 法第39条から第42条まで、第45条第10項及び第46条第7項
 ② 労働基準法、労働安全衛生法、じん肺法及び作業環境測定法の規定であって法第3章
  第4節の規定により労働者派遣の役務の提供を受ける者に適用される規定(第10参照)
 
3.労働者派遣契約の解除の非遡及(法第29条)
(1) 概要
 労働者派遣契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる(法第29条)。
(2) 意義
   労働者派遣契約は、労働契約と同様に継続的給付の実施を内容とするものであるため、契約の解除がなされた場合にその効果を遡及すると当該契約の当事者間に著しい不均衡が生じ、給付の返還を行うことが不可能となる等適当ではないことから、当該労働者派遣契約の解除の意思表示がなされたとき以後についてのみ解除の効果が生ずることとされたものである。
   法第29条は、強制法規であり、当事者間において、労働者派遣契約においてこれに反する定めをしても無効となる。
 
労働者派遣契約の解除のまとめ
1.労働者派遣契約を解除できない理由(法第27条)
 一定の理由による労働者派遣契約を解除してはならないとされていること。
その理由としては、
 ①派遣労働者の『国民たる資格である「国籍」、特定の宗教的又は政治的信念である「信条」、生来的な地位である「社会的身分」』を理由とする労働者派遣契約の解除が禁止される。
 ②派遣労働者が行った、『団体交渉、正当な争議行為はもちろん、労働組合の会議に出席し、決議に参加し、又は組合用務のために出張する等の行為たる「労働組合の正当な行為」を理由とする解雇を行ってはならないこと。
 なお、法第27条に違反して、労働者派遣契約を解除した場合には、当該解除は公序良俗に反するものとして無効となる。
 
2.労働者派遣契約の解除事由(法第28条)
 一般に、契約は、解除事由につき別段の定めがあり、また、契約の当事者の合意がある場合を除き、法定の解除事由である債務不履行がある場合以外一方的に解除することはできず、一方的に解除した場合には、債務不履行で損害賠償の責を負うこととなるが、法第28条の規定により、当該労働者派遣の停止又は労働者派遣契約の解除により当該労働者派遣の役務の提供を受ける者が損害を被っても、解除又は停止を行った労働者派遣を行う事業主は債務不履行による損害賠償の責を負うことはない。
 そして、労働者派遣契約においては原則的には、派遣先はあらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行う必要があること。また、解除に当たり、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図るか、これができない時は派遣労働者の休業等により生じた派遣元事業主の損害(休業手当、解雇予告手当等)の賠償を行う必要があり、このことを労働者派遣契約に定めておく必要がある。
 労働者派遣契約を停止又は解除するのは、労働者派遣をする事業主であり、派遣元事業主以外の事業主であっても労働者派遣をする場合には、当該解除を行えること。 ※この文章の意味が定かではありません。
 法違反の具体的内容は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が次の規定に違反した場合である。
 ① 法第39条から第42条まで、第45条第10項及び第46条第7項
 ② 労働基準法、労働安全衛生法、じん肺法及び作業環境測定法の規定であって法第3章
  第4節の規定により労働者派遣の役務の提供を受ける者に適用される規定。
 
3.労働者派遣契約解除の非遡及(法第29条)
 一般に、契約の取り消しや無効とは、契約の締結時点に遡って、その契約が無かったこととなります。しかし、労働契約と同様に、派遣労働者が提供した労務の返還やそれに伴って派遣労働者が受け取った賃金等を返還して、契約前の時点に原状回復することは困難であり、かつ不合理でもある。
 そこで、本条により労働者派遣契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる、すなわち解除前の双方の労働者派遣契約に基づく既存の債務履行は、契約解除によっても無効とはならないとされています。また、労働者派遣契約中に契約締結時点に遡及してその契約の効力が失われる特約を規定しても、その特約は本条により無効となります。
 
 
 
 
 
 
以上で労働者派遣法第27条・第28条・第29条を終了します。
 
 
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労働者派遣法第26条

2015年06月18日 12:31

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

26条(契約の内容等

 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。

一 派遣労働者が従事する業務の内容

二 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所

三 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項

四 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日

五 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間

六 安全及び衛生に関する事項

七 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項

八 派遣労働者の新たな就業の機会の確保、派遣労働者に対する休業手当(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二十六条の規定により使用者が支払うべき手当をいう。第二十九条の二において同じ。)等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担に関する措置その他の労働者派遣契約の解除に当たつて講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項

九 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあつては、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項

十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

2 派遣元事業主は、前項第四号に掲げる労働者派遣の期間(第四十条の二第一項第

び第四号に掲げる業務に係る労働者派遣の期間を除く。)については、厚生労

働大臣が当該労働力の需給の適正な調整を図るため必要があると認める場合におい

て業務の種類に応じ当該労働力の需給の状況、当該業務の処理の実情等を考慮して

定める期間を超える定めをしてはならない。

3 前二項に定めるもののほか、派遣元事業主は、労働者派遣契約であつて海外派

遣に係るものの締結に際しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該海外派

遣に係る役務の提供を受ける者が次に掲げる措置を講ずべき旨を定めなければなら

ない。

一 第四十一条の派遣先責任者の選任

二 第四十二条第一項の派遣先管理台帳の作成、同項各号に掲げる事項の当該台帳への記載及び同条第三項の厚生労働省令で定める条件に従つた通知

三 その他厚生労働省令で定める当該派遣就業が適正に行われるため必要な措置

4 派遣元事業主は、第一項の規定により労働者派遣契約を締結するに当たつて

は、あらかじめ、当該契約の相手方に対し、第五条第一項の許可を受け、又は第

十六条第一項の規定により届出書を提出している旨を明示しなければならない。

5 第四十条の二第一項各号に掲げる業務以外の業務について派遣元事業主から新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、第一項の規定により当該労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ、当該派遣元事業主に対し、当該労働者派遣の役務の提供が開始される日以後当該業務について同条第一項の規定に抵触することとなる最初の日を通知しなければならない。

6 派遣元事業主は、第四十条の二第一項各号に掲げる業務以外の業務について新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとする者から前項の規定による通知がないときは、当該者との間で、当該業務に係る労働者派遣契約を締結してはならない。

7 労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。

 

則第21条(労働者派遣契約における定めの方法等)

 法第二十六条第一項の規定による定めは、同項各号に掲げる事項の内容の組合せ

が一であるときは当該組合せに係る派遣労働者の数を、当該組合せが二以上である

ときは当該それぞれの組合せの内容及び当該組合せごとの派遣労働者の数を定める

ことにより行わなければならない。

2 法第二十六条第一項第一号の業務の内容に令第五条の業務が含まれるときは、

当該業務が該当する令第四条第一項各号に掲げる業務又は令第五条各号に掲げる業

務の条番号及び号番号を付するものとする。

3 労働者派遣契約の当事者は、当該労働者派遣契約の締結に際し法第二十六条第

一項の規定により定めた事項を、書面に記載しておかなければならない。

4 派遣元事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働者派遣契約

の締結に当たり法第二十六条第四の規定により明示された内容を、前項の書面に

併せて記載しておかなければならない。

 

則第22条(法第二十六条第一項第十号の厚生労働省令で定める事項)

 法第二十六条第一項第十号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項

二 労働者派遣の役務の提供を受ける者が法第二十六条第一項第四号に掲げる派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は同項第五号に掲げる派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合における当該派遣就業をさせることができる日又は延長することができる時間数

三 派遣元事業主が、法第三十条の二第一項に規定する派遣先(以下単に「派遣先」という。)である者又は派遣先となろうとする者との間で、これらの者が当該派遣労働者に対し、診療所、給食施設等の施設であつて現に当該派遣先である者又は派遣先になろうとする者に雇用される労働者が通常利用しているものの利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における当該便宜供与の内容及び方法

 

則第22条の2(契約に係る書面の記載事項)

 第二十一条第三項に規定する書面には、同項及び同条第四項に規定する事項のほか、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める事項を記載しなければならない。

一 紹介予定派遣の場合 当該派遣先が職業紹介を受けることを希望しない場合又は職業紹介を受けた者を雇用しない場合には、派遣元事業主の求めに応じ、その理由を、書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信(以下「書面の交付等」という。)により、派遣元事業主に対して明示する旨

二 法第四十条の二第一項第二号イの業務について行われる労働者派遣の場合 同号イに該当する旨

三 法第四十条の二第一項第二号ロの業務について行われる労働者派遣の場合 次のイからハまでに掲げる事項

イ 法第四十条の二第一項第二号ロに該当する旨

ロ 当該派遣先において当該業務が一箇月間に行われる日数

ハ 当該派遣先に雇用される通常の労働者の一箇月間の所定労働日数

四 法第四十条の二第一項第三号の業務について行われる労働者派遣の場合 次のイ及びロに掲げる事項

イ 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項若しくは第二項の規定による休業(以下「産前産後休業」という。)、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号。以下「育児・介護休業法」という。)第二条第一号に規定する育児休業(以下「育児休業」という。)又は第三十三条に規定する場合における休業をする労働者の氏名及び業務

ロ イの労働者がする産前産後休業、育児休業又は第三十三条に規定する場合における休業の開始及び終了予定の日

五 法第四十条の二第一項第四号の業務について行われる労働者派遣の場合 次のイ及びロに掲げる事項

イ 育児・介護休業法第二条第二号に規定する介護休業(以下「介護休業」という。)又は第三十三条の二に規定する休業をする労働者の氏名及び業務

ロ イの労働者がする介護休業又は第三十三条の二に規定する休業の開始及び終了予定の日

 

則第23条(海外派遣に係る労働者派遣契約における定めの方法)

 派遣元事業主は、海外派遣に係る労働者派遣契約の締結に際し、法第二十六条第三項の規定により定めた事項を書面に記載して、当該海外派遣に係る役務の提供を受ける者に当該書面の交付等をしなければならない。

 

則第24条(法第二十六条第三項第三号の厚生労働省令で定める措置)

 法第二十六条第三項第三号の厚生労働省令で定める措置は、次のとおりとする。

一 法第二十六条第五項に規定する法第四十条の二第一項の規定に抵触することとなる最初の日の通知

二 法第三十九条の労働者派遣契約に関する措置

三 法第四十条第一項の苦情の内容の通知及び当該苦情の処理

四 法第四十条の三から第四十条の五までに規定する派遣労働者の雇用に関する事項に関する措置

五 法第四十条の六第二項に規定する通知

六 疾病、負傷等の場合における療養の実施その他派遣労働者の福祉の増進に係る必要な援助

七 前各号に掲げるもののほか、派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため必要な措置

 

則第24条の2

(法第二十六条第五項に規定する法第四十条の二第一項の規定に抵触することとなる最初の日の通知の方法)

 法第二十六条第五項に規定する法第四十条の二第一項の規定に抵触することとなる最初の日の通知は、労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ、法第二十六条第五項の規定により通知すべき事項に係る書面の交付等により行わなければならない。

 

業務取扱要領(労働者派遣契約)

1.労働者派遣契約の趣旨
(1) 法第26条にいう「労働者派遣契約」は、「契約の当事者の一方が、相手方に対し労働者派遣することを約する契約」であり、当事者の一方が労働者派遣を行う旨の意思表示を行いそれに対してもう一方の当事者が同意をすること又は当事者の一方が労働者派遣を受ける旨の意思表示を行いそれに対してもう一方の当事者が同意をすることにより成立する契約であり、その形式については、文書であるか否か、又有償であるか無償であるかを問うものではない。
(2) 労働者派遣に関する契約については、恒常的に取引先との間に労働者派遣をする旨の基本契約を締結し、個々具体的に労働者派遣をする場合に個別に就業条件をその内容に含む個別契約を締結するという場合があるが、この場合、法第26条の意味における労働者派遣契約とは、後者の個別契約をいうものである。
(3) 「労働者派遣契約の当事者」とは、業として行うものであるか否かを問わず、当事者の一方が労働者派遣を行い、相手方がその役務の提供を受ける場合を全て含むものであり、労働者派遣をする者及び労働者派遣の役務の提供を受ける者の全てを指すものである。
 
2.労働者派遣契約の契約内容等
(1) 契約内容
   契約事項の定め
 (イ) 概要
 労働者派遣契約の締結に当たっては、(ハ)の事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない(法第26条第1項、則第22条)。
 (ロ) 意義
 法で定める契約事項の定めは、労働者派遣を行うに当たっての必要最低限のものであり、それ以外の派遣料金、債務不履行の場合の賠償責任等の定めについては当事者の自由に委ねられる。
 (ハ) 契約事項
 労働者派遣契約には、次の事項を定めなければならない。
 ① 派遣労働者が従事する業務の内容
 ・ 業務の内容は、その業務に必要とされる能力、行う業務等が具体的に記述され、当該記載により当該労働者派遣に適格な派遣労働者を派遣元事業主が決定できる程度のものであることが必要であり、できる限り詳細であることが適当である。
 ・ 適用除外業務(第2の1参照)以外の業務に限られるものである。
 ・ 従事する業務の内容については可能な限り詳細に記載すること。
 (例 環境関連機器の顧客への販売、折衝、相談及び新規顧客の開拓並びにそれらに付帯する業務)
 ・ 同一の派遣労働者が複数の業務に従事する場合については、それぞれの業務の内容について記載すること。
 ② 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所
 ・ 派遣労働者が実際に派遣就業する事業所その他の施設の名称、所在地だけではなく具体的な派遣就業の場所も含むものであり、原則として、派遣労働者の所属する部署、電話番号等必要な場合に派遣元事業主が当該派遣労働者と連絡がとれる程度の内容であること。
 ・ また、第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について労働者派遣を行うときは、派遣先の事業所において当該派遣労働者が就業する最小単位の組織(第9の4の(4)参照)を記載すること。
 ③ 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
 ・ 派遣労働者を具体的に指揮命令する者の部署、役職及び氏名である。
 ④ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
 ・ 当該労働者派遣契約に基づき、派遣労働者が労働者派遣される期間及び派遣労働者が具体的に派遣就業をする日であり、期間については、具体的な労働者派遣の開始の年月日及び終了の年月日、就業する日については、具体的な曜日又は日を指定しているものであること。
 ・ 第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について労働者派遣を行うときは、派遣労働者が労働者派遣される期間は、(3)により通知を受けた日以降とすることはできない。
 ⑤ 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
 ・ 派遣就業すべき日の派遣労働者の日々の始業、終業の時刻並びに休憩時間(法律上は時間数のみであるが、一般的には休憩の開始及び終了の時刻を特定して記載することが適当)である。
 ・ この定めの内容は、労働基準法で定める労働時間、休憩時間に関する規定に反しておらず、かつ、派遣元事業主と派遣労働者との間の労働契約の枠内でなければならない。
 ・ また、いわゆる「複合業務」である場合(令第5条の業務と、それ以外の業務とを併せて行う場合)等、第9の4の(3)のイの①から⑤に掲げる派遣受入期間の制限がない業務と、それ以外の派遣受入期間の制限のある業務とを併せて行う場合であって、第9の4の(3)のロにより、全体として派遣受入期間の制限を受けない業務として取り扱う場合については、それぞれの業務の通常の場合の1日当たり又は1週間当たりの就業時間数又はその割合を記載すること。
 ⑥ 安全及び衛生に関する事項
 次に掲げる事項のうち、派遣労働者が派遣先において①の業務を遂行するに当たって、当該派遣労働者の安全、衛生を確保するために必要な事項に関し就業条件を記載する必要がある。
 ( i )派遣労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関する事項
 (例えば、危険有害業務に従事させる場合には、当該危険有害業務の内容、当該業務による危険又は健康障害を防止する措置の内容等)
 (ⅱ) 健康診断の実施等健康管理に関する事項
 (例えば、有害業務従事者に対する特別な健康診断が必要な業務に就かせる場合には、当該健康診断の実施に関する事項等)
 (ⅲ) 換気、採光、照明等作業環境管理に関する事項
 (ⅳ) 安全衛生教育に関する事項
 (例えば、派遣元及び派遣先で実施する安全衛生教育の内容等)
 ( v ) 免許の取得、技能講習の修了の有無等就業制限に関する事項
 (例えば、就業制限業務を行わせる場合には、当該業務を行うための免許や技能講習の種類等)
 (ⅵ) 安全衛生管理体制に関する事項
 (ⅶ) その他派遣労働者の安全及び衛生を確保するために必要な事項
 ⑦ 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
 ・ 派遣元事業主及び派遣先は、派遣労働者の苦情の申出を受ける者、派遣元事業主及び派遣先において苦情処理をする方法、派遣元事業主と派遣先との連携のための体制等を記載すること(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の3(第8の23参照)及び「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の7(第9の16参照))。
 ・ 派遣労働者の苦情の申出を受ける者については、その者の氏名の他、部署、役職、電話番号についても記載すること。
 ⑧ 派遣労働者の新たな就業の機会の確保、派遣労働者に対する休業手当(労働基準法第26条の規定により使用者が支払うべき手当をいう。以下同じ。)等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担に関する措置その他の労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
 ・ 労働者派遣契約の解除に際して、派遣労働者の雇用の安定を図る観点から、当該労働者派遣契約の当事者である派遣元事業主及び派遣先が協議して次の事項等に係る必要な措置を具体的に定めること(法第29条の2、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の2の(2)(第8の23参照)及び「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の6の(1)(第9の16参照))。
 (ⅰ) 労働者派遣契約の解除の事前の申入れ
 派遣先は、専ら派遣先に起因する事由により、労働者派遣契約の契約期間が満了する前の解除を行おうとする場合には、派遣元事業主の合意を得ることはもとより、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うものとすること。
 (ⅱ) 派遣先における就業機会の確保
 派遣元事業主及び派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図るものとすること。
 (ⅲ) 損害賠償等に係る適切な措置
 派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし、これができないときには、少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければならないものとすること。例えば、当該派遣元事業主が当該派遣労働者を休業させる場合は休業手当に相当する額以上の額について、当該派遣元事業主がやむを得ない事由により当該派遣労働者を解雇する場合は、派遣先による解除の申入れが相当の猶予期間をもって行われなかったことにより当該派遣元事業主が解雇の予告をしないときは30日分以上、当該予告をした日から解雇の日までの期間が30日に満たないときは当該解雇の日の30日前の日から当該予告の日までの日数分以上の賃金に相当する額以上の額について、損害賠償を行わなければならないものとすること。その他派遣先は派遣元事業主と十分に協議した上で適切な善後処理方策を講ずるものとすること。また、派遣元事業主及び派遣先の双方の責に帰すべき事由がある場合には、派遣元事業主及び派遣先のそれぞれの責に帰すべき部分の割合についても十分に考慮するものとすること。
 (ⅳ) 労働者派遣契約の解除の理由の明示
 派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合であって、派遣元事業主から請求があったときは、労働者派遣契約の解除を行った理由を当該派遣元事業主に対し明らかにするものとすること。
 ⑨ 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあっては、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合は、次に掲げる当該紹介予定派遣に関する事項を記載すること(第1の4参照)。
 ・ 紹介予定派遣である旨
 ・ 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に予定される従事すべき業務の内容及び労働条件等
 【例】
 Ⅰ 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項
 Ⅱ 労働契約の期間に関する事項
 Ⅲ 就業の場所に関する事項
 Ⅳ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
 Ⅴ 賃金の額に関する事項
 Ⅵ 健康保険法による健康保険、厚生年金保険法による厚生年金、労働者災害補償保険法による労働者災害補償保険及び雇用保険法による雇用保険の適用に関する事項
 ・ 紹介予定派遣を受けた派遣先が、職業紹介を受けることを希望しなかった場合又は職業紹介を受けた者を雇用しなかった場合には、派遣元事業主の求めに応じ、それぞれのその理由を、書面の交付、ファクシミリを利用してする送信、又は電子メールの送信の方法により、派遣元事業主に対して明示する旨
 ・ 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に、年次有給休暇及び退職金の取扱いについて、労働者派遣の期間を勤務期間に含めて算入する場合はその旨
 ⑩ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
 ・ 派遣元責任者及び派遣先責任者の役職、氏名及び連絡方法である。また、①(派遣労働者が従事する業務の内容)が製造業務である場合には、当該派遣元責任者及び派遣先責任者が、それぞれ製造業務専門派遣元責任者(則第29条第3号)又は製造業務専門派遣先責任者(則第34条第3号)である旨を記載すること。
 ・ 派遣元責任者及び派遣先責任者の選任義務規定の適用を受けない場合は、当該事項の記載は要しない。ただし、派遣元責任者又は派遣先責任者を選任している場合には、記載を要するものである。
 ⑪ 労働者派遣の役務の提供を受ける者が④の派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は⑤の派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合には、当該派遣就業をさせることができる日又は延長することができる時間数
 ・ この定めをする場合には、当該定めの内容が派遣元事業主と派遣労働者との間の労働契約又は派遣元事業場における36協定により定められている内容の範囲内でなければならない。
 ⑫ 派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与に関する事項
 派遣元事業主及び派遣先との間で、派遣先が当該派遣労働者に対し、診療所、給食施設等の施設であって現に派遣先に雇用される労働者が通常利用しているものの利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与、教育訓練その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合には、当該便宜の供与に関する事項についても記載すること。
 ⑬ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
 ・ 第9の4の(3)のイの①に掲げる業務について労働者派遣を行う場合は、併せて当該業務の条番号及び号番号を必ず付す必要がある(則第21条第2項)。
 ・ 第9の4の(3)のイの②に掲げる有期プロジェクトの業務について労働者派遣を行うときは、法第40条の2第1項第2号イに該当する旨を記載すること(則第22条の2第2号)。
 ・ 第9の4の(3)のイの③に掲げる業務(日数限定業務)について労働者派遣を行うときは、ⅰ)法第40条の2第1項第2号ロに該当する旨、ⅱ)当該派遣先において、同号ロに該当する業務が1か月間に行われる日数、ⅲ)当該派遣先の通常の労働者の1か月間の所定労働日数を記載すること(則第22条の2第3号)。
 ・ 第9の4の(3)のイの④に掲げる育児休業等の代替要員としての業務について労働者派遣を行うときは、派遣先において休業する労働者の氏名及び業務並びに当該休業の開始及び終了予定の日を記載すること(則第22条の2第4号)。
 ・ 第9の4の(3)のイの⑤に掲げる介護休業等の代替要員としての業務について労働者派遣を行うときは、派遣先において休業する労働者の氏名及び業務並びに当該休業の開始及び終了予定の日を記載すること(則第22条の2第5号)。
 (ニ) 派遣労働者の人数の定め
 a 派遣労働者の人数の定めは次により行わなければならない(則第21条第1項)。
 ① (ハ)の①から⑫に掲げる就業条件の組合せが1つの場合は、当該労働者派遣に係る派遣労働者の人数
 ② (ハ)の①から⑫に掲げる就業条件の組合せが複数の場合は、当該組合せごとの派遣労働者の人数
 b 派遣労働者の人数とは、当該就業条件の組合せで常時いることとなる人数であり、複数の者が交替して行うこととなる場合であってもその複数の者分の人数を定めるものではない。例えば、午前と午後で1人ずつ就業することとなる場合は1人となる。
 (ホ) 労働者派遣契約の定めに関する留意事項
 a (ハ)の①から⑫の契約事項の内容を一部(④の労働者派遣の期間については必ず変更される。)変更し、再度労働者派遣契約を締結するに際しては、一部変更することとなる以前締結した契約を指定し、当該一部変更事項を定めることで足りるものとし、再度すべての契約内容の定めを行うことは要しないものとする。また、(ニ)における派遣労働者の人数についても変更する場合は、併せて、人数を定める(就業条件の組合せが複数であるときには、組合せごとに人数を定める。)ことで足りるものとする。
 b 派遣労働者が複数の業務を兼任して行う旨の労働者派遣契約を定めることができること。
 c 就業条件の組合せについては、次のような就業条件は複数とはならないものであり、当該就業条件をもって、就業条件の組合せが複数あることとはならないこと。
 ・ 派遣労働者が令第5条の業務のうち二以上の業務を兼任する場合
 ・ 派遣労働者を直接指揮命令する者が時間制により交替する場合
 ・ 派遣元責任者及び派遣先責任者が時間制により交替する場合
 d 第9の4の(3)のイの③に掲げる業務(日数限定業務)について労働者派遣を行う場合は、当該派遣先において、(ハ)の⑬のⅱ(当該派遣先において、法第40条の2第1項第2号ロに該当する業務が1か月間に行われる日数)に記載した日数に係る日以外には当該業務が行われないものであることを、労働者派遣契約の当事者において十分確認すること。
   労働者派遣契約の締結に際しての手続
 (イ) 労働者派遣契約締結の際の手続
 a 契約の当事者は、契約の締結に際し上記イの(ハ)及び(ニ)の契約の内容を書面に記載しておかなければならない(則第21条第3項)。
 b 派遣先は、当該労働者派遣契約の締結に当たり、法第26条第4項の規定により派遣元事業主からなされる、許可を受け、又は届出を行っている旨の明示の内容(具体的には許可番号又は届出受理番号)を上記aの書面に記載しておかなければならない(則第21条第4項)。
 (ロ) 労働者派遣契約の締結の際の手続に関する留意点
  イの(ホ)のaにより、以前締結した契約の一部を変更した契約を締結する際に行う書面への記載は、当該以前締結した契約の内容により労働者派遣を行い、又は受ける旨の記載並びに変更される契約事項について、その契約事項及びその変更内容を記載すれば足りるものとする。
 例えば、「平成○年○月○日付け労働者派遣契約と同内容で○○○○株式会社は、□□□□株式会社に対し、労働者派遣を行うものとする。ただし、派遣期間については平成○年○月○日から平成○年○月○日まで、派遣人員は3人とする。」という記載となる。
  派遣元事業主は、派遣先との間で労働者派遣契約を締結するに際しては、派遣先が求める業務の内容、当該業務を遂行するために必要とされる知識、技術又は経験の水準、労働者派遣の期間その他労働者派遣契約の締結に際し定めるべき就業条件を事前にきめ細かに把握すること(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の1(第8の23参照)。
 特に、労働者派遣の期間について1年を超える期間を定める場合は、派遣先はあらかじめ派遣先の労働者の過半数で組織する労働組合等に対して意見聴取を行う必要がある(法第40条の2第4項)ことから、派遣元事業主は派遣先に対し、当該意見聴取が実施されているか確認してから労働者派遣契約を締結すること。
  派遣先は、労働者派遣契約の締結の申込みを行うに際しては、就業中の派遣労働者を直接指揮命令することが見込まれる者から、業務の内容、当該業務を遂行するために必要とされる知識、技術又は経験の水準その他労働者派遣契約の締結に際し定めるべき就業条件の内容を十分に確認すること(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の1(第9の16参照))。
  違反の場合の効果
 労働者派遣契約の締結に当たり、所定の事項を定めず又は所用の手続きを行わなかった場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
(2) 派遣契約期間の制限
  概要
 派遣元事業主は、労働者派遣契約を締結する際に定めなければならない労働者派遣の期間については、厚生労働大臣が期間を定めた業務に関しては、当該期間を超える定めをしてはならない(法第26条第2項)。
 なお、派遣契約期間の制限のほか、派遣受入期間の制限(第9の4)にも十分に留意すること。
   派遣契約期間の制限の趣旨
 (イ) 派遣先が安易に派遣労働者を利用する事態を防止し、派遣先の労働者の雇用の安定を図るためのものである。
 (ロ) 禁止されるのは、派遣元事業主が厚生労働大臣の定める期間を超えた労働者派遣の期間を労働者派遣契約において定めることであり、契約の更新を全て禁止するものではない。ただし、この場合も第9の4の派遣受入期間の制限を超えて、派遣先が労働者派遣の役務の提供を受けることはできない(法第40条の2第1項)。
 ハ  厚生労働大臣の定める期間
 厚生労働大臣が定める期間は、当該労働力の需給の適正な調整を図るため必要があると認められる場合に定められ、業務の種類に応じ当該労働力の需給の状況、当該業務の処理の実情等を考慮し、併せて常用雇用労働者の代替への影響、日本的雇用慣行との調和、派遣労働者の雇用の安定等についても勘案して定める。
 具体的には次のとおりとする(平成2年労働省告示第83号)。
 (イ) 第9の4の(3)のニの「令第5条の業務」のうち、1に掲げる業務及び2の(1)、(2)、(6)、
  (7)、(9)、(10)の業務 ……………………………………………… 3年
 (ロ)上記以外の業務 ……………………………………………… なし
 なお、同一の派遣労働者が複数の業務に従事した場合についての派遣契約期間としては、第9の4の(3)のイの①に掲げる業務のみ行う場合については、その主として従事する業務に係る期間を適用することとする。なお、第9の4の(3)のイに掲げる業務以外の業務と併せて行う場合については、派遣契約期間の制限とは別に、派遣受入期間の制限(第9の4参照)があるため、派遣受入期間の制限を超えない範囲内において、派遣契約期間を定める必要がある(第9の4の(3)のロ参照)。
   労働者派遣契約の更新
 (イ) 「契約の更新」とは、「一定の期間を定めた契約において、その期間の満了に際して、当事者の約定によりその契約の同一性を存続させつつ、その存続期間のみを延長すること」又は「従来の契約期間の満了に際して、従前の契約に代えてこれと同一内容の別個な契約を新しく締結すること」をいう。
 (ロ) 労働者派遣の期間が定められ、当該契約の更新が行われるにしても、当該更新が自動的に行われる定めとなっている場合(いわゆる自動更新条項がある場合)は、労働者派遣の期間を設定していると評価できないものであり、当該定めをしている場合は法第26条第2項に違反することとなる。
 ただし、有期的事業の遂行のために臨時的に設けられた組織において就業させる労働者派遣については、当該更新された労働者派遣の期間を通算した期間が3年を超えないものについては当該更新が自動的に行われる旨を労働者派遣契約に定めることができるものとする。この場合において、
 「更新が自動的に行われる定め」とは、具体的には、例えば、「特段の事情(例えば、契約当事者の契約解除の意思表示)がない限り労働者派遣契約を自動的に更新する」旨の定めが該当する。
 「有期的事業」とは、当該事業の始期及び終期が明確に定められているなど当該事業が一定の期間で完了することが客観的に明確であるものをいうものであり、例えば完成期日が契約により定められている情報処理システムの開発や各種プラント工事等をいうものである。
 「臨時的に設けられた組織」とは、当該事業を行うために、新たに設けられた事業所及び部、課、室等の部署をいうものであり、かつ、当該事業の終了後は当該組織が解散又は消滅することが客観的に明確であるものをいうものである。なお、いわゆるプロジェクトチームについては、当該プロジェクトチームに専属の労働者が相当数存在し、かつ、業務上の指揮命令系統が明確に他の部門と区別されているものについてはこれに該当するものである。
 (ハ) 労働者派遣契約において、「契約当事者の合意により労働者派遣契約を更新する」旨の定めをすることは許容されるものである。
 (ニ) 契約上は自動更新を行うものとはなっていない場合であっても、実態として自動更新となっているものは、法第26条第2項の趣旨に反するものであるので留意すること。
 (ホ) なお、派遣契約期間の制限の限度を超える労働者派遣契約であっても、その超える部分が民事上当然無効となるものとは評価できないものであるので留意すること。
 ホ  その他
 (イ) 派遣契約期間の制限の趣旨は、ロの(イ)に掲げるように、派遣先に常用雇用される労働者の派遣労働者による代替を防止することにあることから、3年を超えて引き続き同一の業務に継続して派遣労働者を従事させるような場合は、本来は直接雇用にすることが望ましい旨派遣元責任者講習及び定期指導はもとより、求人説明会、関係事業主団体等の会議の機会をとらえて周知を行うこと。
(ロ) なお、派遣先に直接雇用されることを希望する派遣労働者に対し派遣先による直接雇用の機会をより多く確保する目的から、第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務について3年を超えて同一業務に同一派遣労働者を受け入れている派遣先が、当該業務と同一の業務に従事させるために労働者を雇い入れようとするときは、当該派遣労働者に対し労働契約の申込みをしなければならないものであるので留意すること(法第40条の5、第9の5の(2)参照)。
 (ハ) 「継続して」の判断については、当該派遣労働者に係る派遣就業の終了の日から次の派遣就業の開始の日までの期間が3か月以下の場合は当該労働者派遣を継続して行っているものとする。
 この場合において、継続して行われる労働者派遣の期間の算定については、それぞれ派遣契約に係る当該派遣労働者の労働者派遣の開始の日から終了の日までの期間を合計するものとする。
  違反の場合の効果
 派遣契約期間の制限に違反した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる。
(3) 派遣受入期間の制限に抵触する日の通知
   概要
 第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ、派遣元事業主に対し、当該労働者派遣の開始の日以後、第9の4の派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を通知しなければならない(法第26条第5項)。
 また、派遣元事業主は当該通知がないときは、当該者との間で、労働者派遣契約を締結してはならない(法第26条第6項)。
 なお、当該抵触する日の判断は第9の4の(4)により行う。
   通知の趣旨
 新たな労働者派遣契約を締結する派遣元事業主に対し、自らの行う労働者派遣について派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を把握させ、派遣元事業主及び派遣先の双方に派遣受入期間の制限の規定を遵守させることを目的とする。
   通知の方法等
 (イ) 派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の通知については、労働者派遣契約の締結に際し、あらかじめ、労働者派遣の役務の提供を受けようとする者から派遣元事業主に対して、通知すべき事項に係る書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすることにより行わなければならない(則第24条の2)。
 (ロ) 通知すべき事項は、締結しようとする労働者派遣契約に係る労働者派遣の役務の提供が、当該労働者派遣の開始の日以後、派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日とする。
 (ハ) 同一の労働者派遣契約において、派遣就業の場所ごとの同一の業務の範囲を超える複数の業務に係る労働者派遣が組み合わされている場合は、当該業務ごとの派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日をすべて通知することとする。
 (ニ)派遣元事業主は、当該通知がないときは、当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする者との間で、労働者派遣契約を締結してはならない。
   派遣労働者への明示
 (イ) 派遣元事業主は、第9の4の(3)のイの①から⑤までに掲げる業務以外の業務について労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、派遣労働者に対して、当該派遣労働者が従事する業務について派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を明示しなければならない(法第34条第1項第3号)。なお、派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の明示は、派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を書面、ファクシミリ又は電子メール(ファクシミリ又は電子メールによる場合にあっては、当該派遣労働者が希望した場合に限る。)を交付することにより行わなければならない(則第26条、第8の9の(4)及び(5)参照)。
 (ロ) 当該通知については、派遣労働者が派遣先における派遣就業に係る期間の制限を認識できることが派遣労働者のために望ましく、また、派遣先に対して派遣受入期間の制限の規定を遵守させるためにも有用であることから、行われるものである。
  その他
 派遣先は、労働者派遣契約の締結後に当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る業務について派遣受入期間を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、当該労働者派遣をする派遣元事業主に対し、当該業務について派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日を通知しなければならない(法第40条の2第5項)。
 なお、当該通知については、派遣先から派遣元事業主に対して、通知すべき事項に係る書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすることにより行わなければならない(則第27条第2項、第9の4の(6)参照)。
  違反の場合の効果
 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者から、派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の通知を受けず、当該者との間で新たな労働者派遣契約を締結した場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
(4) 海外派遣の場合の労働者派遣契約
   概要
 派遣元事業主は海外派遣(第6の3の(2)参照)に係る労働者派遣契約の締結に際しては、上記(1)及び(2)で定めるもののほか、ハの派遣先が講ずべき措置等を定めた事項を書面に記載して、当該海外派遣に係る役務の提供を受ける者に対し、当該定めた事項に係る書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすることにより通知しなければならない
(法第26条第3項、則第23条、則第24条)。
 ロ  意義
 海外派遣の場合の労働者派遣契約の定めに関する措置は、当該海外派遣が行われる場合、法が派遣先に適用されないことから、特に労働者派遣契約において派遣先の講ずべき措置を定めさせることにより、民事的にその履行を確保させようとするものである。
 ハ  派遣先の講ずべき措置の定め
 海外派遣の場合には、特に派遣先の講ずべき措置として次に掲げる事項を定めなくてはならない(則第24条)。
 ① 派遣先責任者を選任すること。
 ・ 法第41条の規定による派遣先責任者の選任と同様の方法とすること(第9の8参照)
 ② 派遣先管理台帳の作成、記載及び通知を行うこと。
 ・ 法第42条第1項及び第3項の規定による派遣先管理台帳の作成、記載及び通知と同様の方法とすること(第9の9参照)。
 ③ 派遣労働者に関する労働者派遣契約の定めに反することのないように適切な措置を講ずること。
 ・ 法第39条の規定による措置と同様のものとすること(第9の2参照)。
 ④ 派遣労働者の派遣先における就業に伴って生ずる苦情等について、派遣元事業主に通知し、その適切かつ迅速な処理を図ること。
 ・ 法第40条第1項と同様のものとすること(第9の3参照)。
 ⑤ 疾病、負傷等の場合における療養の実施その他派遣労働者の福祉の増進に係る必要な援助を行うこと。
 ・ 海外への派遣であるために、特に求められる派遣労働者の福祉の増進のための援助である。
 ・ 「その他派遣労働者の福祉の増進のための援助」とは、例えば、派遣労働者の帰国に対する援助である。
 ⑥ その他派遣就業が適正に行われるため必要な措置を行うこと。
 ・ 法第40条第2項と同様のものであること(第9の3参照)。
 ⑦ 派遣受入期間の制限に抵触することとなる最初の日の通知及び離職した労働者についての労働者派遣の役務の受入れの禁止に関する通知を行うこと。
 ・ 法第26条第5項及び第40条の6第2項と同様のものとすること((3)及び第9の7参照)。
 ⑧ 第9の4の(3)のイの①から⑤に掲げる業務以外の業務について労働者派遣を行う場合には、同一の業務について継続して1年以上、第9の4の派遣受入期間以内の期間、労働者派遣の役務の提供を受けた場合において、引き続き同一の業務に労働者を従事させるため、労働者を雇い入れようとするときの、当該派遣労働者の雇用に関する措置
 ・ 法第40条の3と同様のものとすること(第9の6参照)。
 ⑨ 第9の4の(3)のイの①から⑤に掲げる業務以外の業務について労働者派遣を行う場合には、同一の業務について第9の4の派遣受入期間を超えて、引き続き当該派遣労働者を使用しようとするときの、当該派遣労働者に対する労働契約の申込みに関する措置
 ・ 法第40条の4と同様のものとすること(第9の5の(1)参照)。
 ⑩ 第9の4の(3)のイの①から⑤に掲げる業務について労働者派遣を行う場合には、同一の業務について3年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けた場合において、当該業務に労働者を雇い入れようとするときの当該派遣労働者に対する労働契約の申込みに関する措置
 ・ 法第40条の5と同様のものとすること(第9の5の(2)参照)。
  海外派遣に係る労働者派遣契約の締結の際の手続等
 派遣元事業主は、海外派遣に係る労働者派遣契約の締結に際し、上記ハの契約内容を当該海外派遣に係る派遣先に対して、書面の交付若しくはファクシミリを利用してする送信又は電子メールの送信をすることにより通知しなければならない。(則第23条)。
  派遣先が当該労働者派遣契約の定めに反した場合
 (イ) 派遣先が当該海外派遣に係る労働者派遣契約の定めに反した場合、当該契約について債務不履行となり、派遣元事業主は、その履行を派遣先に求めることができ、また、それを理由に労働者派遣契約を解除することができる。
 (ロ) したがって、海外派遣については、派遣元事業主を通じて、派遣先における一定の措置の履行を確保するものである。
   違反の場合の効果
 海外派遣に係る労働者派遣契約の締結に際し、所定の方法により派遣先の講ずべき措置等を定めなかった場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。
(5) 派遣元事業主であることの明示
  概要
 派遣元事業主は、労働者派遣契約を締結するに当たっては、あらかじめ、当該契約の相手方に対し、当該事業所について一般労働者派遣事業の許可を受け、又は特定労働者派遣事業の届出書を提出している旨を明示しなければならない(法第26条第4項)。
  具体的な明示の方法
 具体的な明示の方法は次により行うこと。
 ① 一般労働者派遣事業を行う事業主は、許可証に記載される許可番号により明示すること。
 ② 特定労働者派遣事業を行う事業主は、届出受理通知書に記載される届出受理番号により明示すること。
 
労働者派遣契約の逐条考察
1.法第26条第1項(労働者派遣契約の内容)
 労働者派遣契約の締結当事者は、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。
 ①従事する業務の内容、(第1号)
 ②労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所、(第2号)
 ③就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項、(第3号)
 ④労働者派遣の期間及び派遣就業をする日、(第4号)
 ⑤派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間、(第5号)
 ⑥安全及び衛生に関する事項、(第6号)
 ⑦派遣労働者からの苦情の処理に関する事項、(第7号)
 ⑧派遣労働者の新たな就業の機会の確保、休業手当の等の支払に要する費用の負担に関する措置等その他の労働者派遣契約の解除に当たつて講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置、(第8号)
 ⑨紹介予定派遣は、職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の事項、(第9号)
 労働者派遣契約が紹介予定派遣の場合は、職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合は、次に掲げる当該紹介予定派遣に関する事項を記載すること。
 ・ 紹介予定派遣である旨
 ・ 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に予定される従事すべき業務の内容及び労働条件等
◇紹介予定派遣の派遣契約書に記載する項目の例
 Ⅰ 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項
 Ⅱ 労働契約の期間に関する事項
 Ⅲ 就業の場所に関する事項
 Ⅳ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
 Ⅴ 賃金の額に関する事項
 Ⅵ 健康保険法による健康保険、厚生年金保険法による厚生年金、労働者災害補償保険法
  による労働者災害補償保険及び雇用保険法による雇用保険の適用に関する事項
 ・ 紹介予定派遣を受けた派遣先が、職業紹介を受けることを希望しなかった場合又は職業紹介を受けた者を雇用しなかった場合には、派遣元事業主の求めに応じ、それぞれのその理由を、書面の交付、ファクシミリを利用してする送信、又は電子メールの送信の方法により、派遣元事業主に対して明示する旨
 ・ 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に、年次有給休暇及び退職金の取扱いについて、労働者派遣の期間を勤務期間に含めて算入する場合はその旨
  ※年次有給休暇の取扱は、派遣元事業所について判断されます。従って、予定に従って派遣先に雇用された場合には、法律上は、派遣元で発生した年次有給休暇はすべて消滅することとなります。
 ⑩その他政令で定める事項(第10号)、(則第22条) 

(ⅰ)派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項

(ⅱ)派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合における、当該派遣就業をさせることができる日又は延長することができる時間数

 ※派遣契約上時間外労働や休日労働を行う場合がある旨の規定をあらかじめ設けて置くという趣旨です。

  なお、労働基準法の36協定は派遣元事業所にて締結・届出を行います。

(ⅲ)派遣元事業主が、診療所、給食施設等の施設であつて現に派遣先の労働者が通常利用しているものの利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における当該便宜供与の内容及び方法

 

2.法第26条第2項(労働者派遣の期間)
 労働者派遣契約の期間は、厚生労働大臣が定める期間内とすること。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第二十六条第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める期間(平成二年十月一日)(労働省告示第八十三号)
 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第二十六条第二項の厚生労働大臣が定める期間は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令(昭和六十一年政令第九十五号)第四条第一項各号に掲げる業務並びに同令第五条第一号、第二号、第六号、第七号、第九号及び第十号の業務にあっては、三年とする
令第4条第1項 法第三十五条の三第一項の政令で定める業務は、次のとおりとする。

一 電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守(これらに先行し、後続し、その他これらに関連して行う分析を含む。)又はプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。第十七号及び第十八号において同じ。)の設計、作成若しくは保守の業務

二 機械、装置若しくは器具(これらの部品を含む。以下この号及び第十八号において「機械等」という。)又は機械等により構成される設備の設計又は製図(現図製作を含む。)の業務

三 電子計算機、タイプライター又はこれらに準ずる事務用機器(第十七号において「事務用機器」という。)の操作の業務

四 通訳、翻訳又は速記の業務

五 法人の代表者その他の事業運営上の重要な決定を行い、又はその決定に参画する管理的地位にある者の秘書の業務

六 文書、磁気テープ等のファイリング(能率的な事務処理を図るために総合的かつ系統的な分類に従つてする文書、磁気テープ等の整理(保管を含む。)をいう。以下この号において同じ。)に係る分類の作成又はファイリング(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る。)の業務

七 新商品の開発、販売計画の作成等に必要な基礎資料を得るためにする市場等に関する調査又は当該調査の結果の整理若しくは分析の業務

八 貸借対照表、損益計算書等の財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務

九 外国貿易その他の対外取引に関する文書又は商品の売買その他の国内取引に係る契約書、貨物引換証、船荷証券若しくはこれらに準ずる国内取引に関する文書の作成(港湾運送事業法第二条第一項第一号に掲げる行為に附帯して行うもの及び通関業法(昭和四十二年法律第百二十二号)第二条第一号に規定する通関業務として行われる同号ロに規定する通関書類の作成を除く。)の業務

十 電子計算機、自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする機械の性能、操作方法等に関する紹介及び説明の業務

十一 旅行業法(昭和二十七年法律第二百三十九号)第十二条の十一第一項に規定する旅程管理業務(旅行者に同行して行うものに限る。)若しくは同法第四条第一項第四号に規定する企画旅行以外の旅行の旅行者に同行して行う旅程管理業務に相当する業務(以下この号において「旅程管理業務等」という。)、旅程管理業務等に付随して行う旅行者の便宜となるサービスの提供の業務(車両、船舶又は航空機内において行う案内の業務を除く。)又は車両の停車場若しくは船舶若しくは航空機の発着場に設けられた旅客の乗降若しくは待合いの用に供する建築物内において行う旅行者に対する送迎サービスの提供の業務

十二 建築物又は博覧会場における来訪者の受付又は案内の業務

十三 科学に関する研究又は科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する新製品若しくは科学に関する知識若しくは科学を応用した技術を用いて製造する製品の新たな製造方法の開発の業務(第一号及び第二号に掲げる業務を除く。)

十四 企業等がその事業を実施するために必要な体制又はその運営方法の整備に関する調査、企画又は立案の業務(労働条件その他の労働に関する事項の設定又は変更を目的として行う業務を除く。)

十五 書籍、雑誌その他の文章、写真、図表等により構成される作品の制作における編集の業務

十六 商品若しくはその包装のデザイン、商品の陳列又は商品若しくは企業等の広告のために使用することを目的として作成するデザインの考案、設計又は表現の業務(次条第六号に掲げる業務を除く。)

十七 事務用機器の操作方法、電子計算機を使用することにより機能するシステムの使用方法又はプログラムの使用方法を習得させるための教授又は指導の業務

十八 顧客の要求に応じて設計(構造を変更する設計を含む。)を行う機械等若しくは機械等により構成される設備若しくはプログラム又は顧客に対して専門的知識に基づく助言を行うことが必要である金融商品(金融商品の販売等に関する法律(平成十二年法律第百一号)第二条第一項に規定する金融商品の販売の対象となるものをいう。)に係る当該顧客に対して行う説明若しくは相談又は売買契約(これに類する契約で同項に規定する金融商品の販売に係るものを含む。以下この号において同じ。)についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくは売買契約の申込み若しくは締結の勧誘の業務

  (以下略)
令第5条第1項 抜粋(1号,2号,6号,7号,9号,10号)

一 映像機器、音声機器等の機器であつて、放送番組等(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第一号に規定する放送の放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成される作品であつて録画され、又は録音されているものをいう。以下同じ。)の制作のために使用されるものの操作の業務

二 放送番組等の制作における演出の業務(一の放送番組等の全体的形成に係るものを除く。)

六 建築物内における照明器具、家具等のデザイン又は配置に関する相談又は考案若しくは表現の業務(法第四条第一項第二号に規定する建設業務を除く。)

七 放送番組等における高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする原稿の朗読、取材と併せて行う音声による表現又は司会の業務(これらの業務に付随して行う業務であつて、放送番組等の制作における編集への参画又は資料の収集、整理若しくは分析の業務を含む。)

九 放送番組等の制作のために使用される舞台背景、建具等の大道具又は調度品、身辺装飾用品等の小道具の調達、製作、設置、配置、操作、搬入又は搬出の業務(法第四条第一項第二号に規定する建設業務を除く。)

十 水道法(昭和三十二年法律第百七十七号)第三条第八項に規定する水道施設の消毒設備その他の設備、下水道法(昭和三十三年法律第七十九号)第二条第三号に規定する公共下水道、同条第四号に規定する流域下水道若しくは同条第五号に規定する都市下水路の消化設備その他の設備若しくは廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)第八条第一項に規定する一般廃棄物処理施設(同項に規定するごみ処理施設にあつては、一日当たりの処理能力が十トン以上のものに限る。)の焼却設備その他の設備の運転、点検若しくは整備の業務(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする運転、点検又は整備の業務に限る。)又は非破壊検査用の機器の運転、点検若しくは整備の業務

 
3.法第26条第3項(海外労働者派遣の場合の労働契約の内容)

 海外派遣に係るものの締結に際しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該海外派遣に係る

役務の提供を受ける者が次に掲げる措置を講ずべき旨を定めなければならない。(則第23条)

①派遣先責任者の選任、(第1号)

②第四十二条第一項の派遣先管理台帳の作成、同項各号に掲げる事項の当該台帳への記載及び同条第三項の厚生労働省令で定める条件に従つた通知、(第2号)

③その他厚生労働省令で定める当該派遣就業が適正に行われるため必要な措置、(第3号)

 派遣元事業主は、法第二十六条第三項の規定により定めた事項を書面に記載して、海外派遣に係る役務の提供を受ける者に当該書面の交付等をしなければならない。(則第23条)
 ※法定された項目を具備した契約書を二通作成し、派遣先事業主に交付しなければならない。(則第23条)

4.法第26条第4項(労働者派遣契約時の許可証、届出受理番号の明示)
 労働者派遣契約を締結するに当たつては、許可証又は届出受理番号を明示しなければならない。
 
5.法第26条第5項(派遣可能期間を超える日の通知)
 第四十条の二第一項各号に掲げる業務以外の業務派遣先は、同条第一項の規定に抵触することとなる最初の日を通知しなければならない。
 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(次に掲げる業務を除く。)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない
 一 次のイ又はロに該当する業務であつて、当該業務に係る労働者派遣が労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわないと認められるものとして政令で定める業務(派遣可能期間を超えて派遣できる業務)

イ その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務

ロ その業務に従事する労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務

令第5条

一 映像機器、音声機器等の機器であつて、放送番組等(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第一号に規定する放送の放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成される作品であつて録画され、又は録音されているものをいう。以下同じ。)の制作のために使用されるものの操作の業務

二 放送番組等の制作における演出の業務(一の放送番組等の全体的形成に係るものを除く。)

三 建築物における清掃の業務

四 建築設備(建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二条第三号に規定する建築設備をいう。次号において同じ。)の運転、点検又は整備の業務(法令に基づき行う点検及び整備の業務を除く。)

五 建築物に設けられ、又はこれに附属する駐車場の管理の業務その他建築物に出入りし、勤務し、又は居住する者の便宜を図るために当該建築物に設けられた設備(建築設備を除く。)であつて当該建築物の使用が効率的に行われることを目的とするものの維持管理の業務(第三号に掲げる業務を除く。)

六 建築物内における照明器具、家具等のデザイン又は配置に関する相談又は考案若しくは表現の業務(法第四条第一項第二号に規定する建設業務を除く。)

七 放送番組等における高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする原稿の朗読、取材と併せて行う音声による表現又は司会の業務(これらの業務に付随して行う業務であつて、放送番組等の制作における編集への参画又は資料の収集、整理若しくは分析の業務を含む。)

八 電話その他の電気通信を利用して行う商品、権利若しくは役務に関する説明若しくは相談又は商品若しくは権利の売買契約若しくは役務を有償で提供する契約についての申込み、申込みの受付若しくは締結若しくはこれらの契約の申込み若しくは締結の勧誘の業務

九 放送番組等の制作のために使用される舞台背景、建具等の大道具又は調度品、身辺装飾用品等の小道具の調達、製作、設置、配置、操作、搬入又は搬出の業務(法第四条第一項第二号に規定する建設業務を除く。)

十 水道法(昭和三十二年法律第百七十七号)第三条第八項に規定する水道施設の消毒設備その他の設備、下水道法(昭和三十三年法律第七十九号)第二条第三号に規定する公共下水道、同条第四号に規定する流域下水道若しくは同条第五号に規定する都市下水路の消化設備その他の設備若しくは廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)第八条第一項に規定する一般廃棄物処理施設(同項に規定するごみ処理施設にあつては、一日当たりの処理能力が十トン以上のものに限る。)の焼却設備その他の設備の運転、点検若しくは整備の業務(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とする運転、点検又は整備の業務に限る。)又は非破壊検査用の機器の運転、点検若しくは整備の業務

 

二 前号に掲げるもののほか、次のイ又はロに該当する業務(派遣可能期間を超えて派遣できる業務)

イ 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であつて一定の期間内に完了することが予定されているもの

ロ その業務が一箇月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の労働者の一箇月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、厚生労働大臣の定める日数以下である業務

 
6.法第26条第6項(労働者派遣契約の制限)
 (1) 派遣先は、労働者派遣契約の締結に当たり、あらかじめ、派遣元事業主に対し、労働者派遣の受入れ開始の日以後、派遣受入期間の制限に抵触する最初の日(抵触日)を通知しなければならないこと。
 (2) 派遣先から抵触日の通知がない場合は、派遣元事業主は新たに労働者派遣契約を締結してはならないこと。
 
7.法第26条第7項(派遣労働者の特定)
 派遣先事業所は、労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない(紹介予定派遣を除く。)とされていること。
 
労働者派遣契約書の例
 PDF https://keiyaku.selfemployed.jp/hakenkihon.pdf#search='%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%80%85%E6%B4%BE%E9%81%A3%E5%A5%91%E7%B4%84%E6%9B%B8%E3%81%AE%E9%9B%9B%E5%BD%A2'
 
 
 
以上で労働者派遣法第26条を終了します。
 
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労働者派遣法第24条の3、第24条の4、第25条

2015年06月17日 14:51

労働者派遣事業の適正な運用の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第24条の3(個人情報の取扱い

 派遣元事業主は、労働者派遣に関し、労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務(紹介予定派遣をする場合における職業紹介を含む。次条において同じ。)の目的の達成に必要な範囲内で労働者の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

2 派遣元事業主は、労働者の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

 

第24条の4(秘密を守る義務

 

 派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合

でなければ、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らしてはな

らない。派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者でなくなつた後にお

いても、同様とする。

 

第25条(運用上の配慮)

 

 厚生労働大臣は、労働者派遣事業に係るこの法律の規定の運用に当たつては、労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を考慮するとともに、労働者派遣事業による労働力の需給の調整が職業安定法に定める他の労働力の需給の調整に関する制度に基づくものとの調和の下に行われるように配慮しなければならない。

 

業務取扱要領(個人情報の取扱)

(1) 概要
  派遣元事業主は、労働者派遣に関し、その業務(紹介予定派遣をする場合における職業紹介を含む。)の目的の達成に必要な範囲内で労働者の個人情報を収集、保管及び使用し(法第24条の3第1項)、当該個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない(法第24条の3第2項)。また、派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上知り得た秘密を他に漏らしてはならない(法第24条の4)。
 なお、紹介予定派遣をする場合において職業紹介を行う段階では、職業紹介事業主として、個人情報の保護等について職業安定法その他の法律の規定が適用となることに留意し、紹介予定派遣の各段階に応じ、派遣元事業所及び職業紹介事業所としてそれぞれ必要な個人情報保護措置を講じること(職業紹介事業関係業務取扱要領第11の3参照)。
(2) 個人情報の収集、保管及び使用
 派遣元事業主は、労働者派遣に関し、その業務の目的の達成に必要な範囲内で労働者の個人情報を収集、保管及び使用するに際し、以下の点に留意しなければならない。
   派遣元事業主は、派遣労働者となろうとする者を登録する際には当該労働者の希望及び能力に応じた就業の機会の確保を図る目的の範囲内で、派遣労働者として雇用し労働者派遣を行う際には当該派遣労働者の適正な雇用管理を行う目的の範囲内で、派遣労働者となろうとする者及び派遣労働者(以下「派遣労働者等」という。)の個人情報((2)及び(3)において単に「個人情報」という。)を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならない。ただし、特別な業務上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りではない。
 (イ) 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
 (ロ) 思想及び信条
 (ハ) 労働組合への加入状況
 ・ (イ)から(ハ)については、具体的には、例えば次に掲げる事項等が該当する。
 (イ)関係
 ① 家族の職業、収入、本人の資産等の情報(税金、社会保険の取扱い等労務管理を適切に実施するために必要なもの及び日雇派遣の禁止の例外として認められる場合の収入要件を確認するために必要なものを除く。)
 ② 容姿、スリーサイズ等差別的評価に繋がる情報
 (ロ)関係 人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書
 (ハ)関係 労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報
 ・ 「業務の目的の達成に必要な範囲」については、雇用することを予定する者を登録する段階と、現に雇用する段階では、異なることに留意する必要がある。前者においては、例えば労働者の希望職種、希望勤務地、希望賃金、有する能力・資格など適切な派遣先を選定する上で必要な情報がこれに当たり、後者においては、給与事務や労働・社会保険の手続上必要な情報がこれに当たるものである。
 ・ なお、一部に労働者の銀行口座の暗証番号を派遣元事業主が確認する事例がみられるが、これは通常、「業務の目的の達成に必要な範囲」に含まれるとは解されない。
   派遣元事業主は、個人情報を収集する際には、本人から直接収集し、又は本人の同意の下で本人以外の者から収集する等適法かつ公正な手段によらなければならない。
 ・ 「等」には本人が不特定多数に公表している情報から収集する場合が含まれる。
 なお、これ以外の場合で、問題が生じた場合には、本省あて相談すること。
   派遣元事業主は、高等学校若しくは中等教育学校又は中学校の新規卒業予定者であって派遣労働者となろうとする者から応募書類の提出を求めるときは、職業安定局長の定める書類(全国高等学校統一応募用紙又は職業相談票(乙))により提出を求めることが必要であること。
 なお、当該応募書類は、新規卒業予定者だけでなく、卒業後1年以内の者についてもこれを利用することが望ましいこと。
   個人情報の保管又は使用は、収集目的の範囲に限られること。
 なお、派遣労働者として雇用し労働者派遣を行う際には、労働者派遣事業制度の性質上、派遣元事業主が派遣先に提供することができる派遣労働者の個人情報は、法第35条第1項の規定により派遣先に通知すべき事項のほか、当該派遣労働者の業務遂行能力に関する情報に限られるものである。ただし、他の保管又は使用の目的を示して本人の同意を得た場合又は他の法律に定めのある場合は、この限りではない。
(3) 個人情報の適正管理
  派遣元事業主は、その保管又は使用に係る個人情報に関し、次に掲げる措置を適切に講ずるとともに、派遣労働者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明しなければならない。
 (イ) 個人情報を目的に応じ必要な範囲において正確かつ最新のものに保つための措置
 (ロ) 個人情報の紛失、破壊及び改ざんを防止するための措置
 (ハ) 正当な権限を有しない者による個人情報へのアクセスを防止するための措置
 (ニ) 収集目的に照らして保管する必要がなくなった(本人からの破棄や削除の要望があった場合を含む。)個人情報を破棄又は削除するための措置
   派遣元事業主等が、派遣労働者等の秘密に該当する個人情報を知り得た場合には、当該個人情報が正当な理由なく他人に知られることのないよう、厳重な管理を行わなければならない。
 「個人情報」とは、個人を識別できるあらゆる情報をいうが、このうち「秘密」とは、一般に知られていない事実であって(非公知性)、他人に知られないことにつき本人が相当の利益を有すると客観的に認められる事実(要保護性)をいうものである。具体的には、本籍地、出身地、支持・加入政党、政治運動歴、借入金額、保証人となっている事実等が秘密に当たりうる。
   派遣元事業主は、次に掲げる事項を含む個人情報適正管理規程を作成するとともに、自らこれを遵守し、かつ、その従業者にこれを遵守させなければならない。
 (イ) 個人情報を取り扱うことができる者の範囲に関する事項
 (ロ) 個人情報を取り扱う者に対する研修等教育訓練に関する事項
 (ハ) 本人から求められた場合の個人情報の開示又は訂正(削除を含む。以下同じ)の取扱いに
  関する事項
 (ニ) 個人情報の取扱いに関する苦情の処理に関する事項
 なお、(ハ)において開示しないこととする個人情報とは、当該個人に対する評価に関する情報が考えられる。
 また、(ニ)に関して苦情処理の担当者等取扱責任者を定めることが必要である。
   派遣元事業主は、本人が個人情報の開示又は訂正の求めをしたことを理由として、当該本人に対して不利益な取扱いをしてはならない。
 「不利益な取扱い」とは、具体的には、例えば、以後、派遣就業の機会を与えないこと等をいう。
(4) 個人情報の保護に関する法律の遵守等
 (1)から(3)までに定めるもののほか、派遣元事業主は、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号、以下「個人情報保護法」という。)第2条第3項に規定する個人情報取扱事業者(以下「個人情報取扱事業者」という。)に該当する場合には、個人情報保護法第4章第1節に規定する義務を遵守しなければならない。また、個人情報取扱事業者に該当しない場合であっても、個人情報取扱事業者に準じて、個人情報の適正な取扱いの確保に努めなければならない(第8の23及び第11参照)。
(5) 秘密を守る義務
 派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。また、派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者でなくなった後においても、同様とする。
 なお、「正当な理由がある場合」とは、本人の同意がある場合、他の法益との均衡上許される場合等をいう。
 また、「秘密」とは、個々の派遣労働者(雇用することを予定する者を含む。)及び派遣先に関する個人情報をいい、私生活に関するものに限られない。職務を執行する機会に知り得た個人情報を含むものである。
 さらに、「他に」とは、当該秘密を知り得た事業所内の使用人その他の従業員以外の者をいうものである。
(6) 違反の場合の効果
 個人情報の保護に関する規定に違反した場合、派遣元事業主は、許可取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

個人情報保護に関するまとめ

 企業は、開発段階の申請前特許など様々な企業秘密を保持しています。従って、多くの派遣先企業としては受け入れた派遣労働者が重要な企業の秘密を漏洩した事件が起きた場合には、一般に、その後は派遣労働者を受け入れる企業が殆ど無くなってしまうことが予想されます。

 従って、事実上派遣先の労働者と類似の身分で業務を行う派遣労働者は、企業の機微や個人情報に触れる機会も多く、守秘義務は派遣労働者に課される最も重要な義務といえます。

 

 そこで、守秘義務に関する業務取扱要領の内容をまとめます。

・派遣元事業主は、業務の目的の達成に必要な範囲内で労働者の個人情報を収集、保管及び使用し個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

 派遣元事業主及びその代理人・使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上知り得た秘密を他に漏らしてはならない。

 ・派遣元事業主等が、収集してはならない個人情報。

 (イ) 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
 (ロ) 思想及び信条
 (ハ) 労働組合への加入状況

また、収集が禁止される具体的情報としては、
 ① 家族の職業、収入、本人の資産等の情報

 ② 容姿、スリーサイズ等差別的評価に繋がる情報

・派遣元事業主は、個人情報に関し、次に掲げる措置を適切に講ずるとともに、派遣労働者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明しなければならない。

 (イ) 個人情報を目的に応じ必要な範囲において正確かつ最新のものに保つための措置
 (ロ) 個人情報の紛失、破壊及び改ざんを防止するための措置
 (ハ) 正当な権限を有しない者による個人情報へのアクセスを防止するための措置
 (ニ) 収集目的に照らして保管する必要がなくなった(本人からの破棄や削除の要望があった場合を含む。)個人情報を破棄又は削除するための措置

派遣元事業主は、次に掲げる事項を含む個人情報適正管理規程を作成するとともに、自らこれを遵守し、かつ、その従業者にこれを遵守させなければならない。

 

          個人情報適正管理規程の例
1 個人情報の取扱担当
 個人情報を取り扱う事業所内の職員の範囲は、営業課派遣事業係及び総務課総務係とする。
 個人情報取扱責任者は派遣事業係長○○○○とする。
2 教育、指導
 派遣元責任者は、個人情報を取り扱う1に記載する事業所内の職員に対し、個人情報の取
 扱いに関する教育・指導を年1回実施する。
 また、派遣元責任者は少なくとも3年に1回は、派遣元責任者講習を受講する。
3  情報の開示
 1の個人情報取扱責任者は、派遣労働者等から本人の個人情報について開示の請求があっ
 た場合は、その請求に基づき本人が有する資格や職業経験等客観的事実に基づく情報の開示
 を遅滞なく行う。
 更にこれに基づく訂正(削除を含む。以下同じ。)の請求があった場合は、当該請求の内容が
 客観的事実に合致するときは、遅滞なく訂正を行う。
 また、個人情報の開示又は訂正に係る取扱いについて、派遣元責任者は派遣労働者等への
 周知を随時おこなう。
4  苦情への対応
 派遣労働者等の個人情報に関して、当該情報に係る本人からの苦情の申出があった場合には、
 苦情処理担当者及び派遣元責任者は誠意を持って適切な処理をすることとする。
 なお、個人情報に係る苦情処理担当者は派遣元責任者◇◇◇◇とする。
 (イ) 個人情報を取り扱うことができる者の範囲に関する事項
 (ロ) 個人情報を取り扱う者に対する研修等教育訓練に関する事項
 (ハ) 本人から求められた場合の個人情報の開示又は訂正(削除を含む。以下同じ)
  の取扱いに関する事項
 (ニ) 個人情報の取扱いに関する苦情の処理に関する事項
                                  以 上

個人情報の保護に関する法律の遵守等
 派遣元事業主は、個人情報保護法第4章第1節に規定する義務を遵守しなければならない。
 派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。
 ・個人情報の取扱違反の場合の処分

 個人情報の保護に関する規定に違反した場合、派遣元事業主は、許可取消し事業停止命令改善命令の対象となる。

 ※秘密情報が漏洩した場合には、民事・刑事の観点からいえば、民事上の損害賠償の対象となります。また、公務員以外は守秘義務違反の際に、刑事罰の対象となることはないと思われます。しかし、民事的には不法行為(民法第709条)に該当しますから、派遣元事業主及び派遣労働者等による秘密の不正取得や漏洩により派遣先企業から多額の損害賠償を求められることが想定されます。

参考 地方公務員法

 第34条 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、

  同様とする。

  2 法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表する場合においては、任命権者(退職者については、その退職した職又はこれに相当する職に係る任命権者)の許可を受けなければならない。

  3 前項の許可は、法律に特別の定がある場合を除く外、拒むことができない。

 第60条 左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。

  一 第十三条の規定に違反して差別をした者
  二 第三十四条第一項又は第二項の規定(第九条の二第十二項において準用する場合を含む。)に違反して秘密を漏らした者
  三 第五十条第三項の規定による人事委員会又は公平委員会の指示に故意に従わなかつた者
 
 国家公務員法

 第100条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。 

 2 法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表するには、所轄庁の長(退職者については、その退職した官職又はこれに相当する官職の所轄庁の長)の許可を要する。 

 3 前項の許可は、法律又は政令の定める条件及び手続に係る場合を除いては、これを拒むことができない。

 4 前三項の規定は、人事院で扱われる調査又は審理の際人事院から求められる情報に関しては、これを適用しない。何人も、人事院の権限によつて行われる調査又は審理に際して、秘密の又は公表を制限された情報を陳述し又は証言することを人事院から求められた場合には、何人からも許可を受ける必要がない。人事院が正式に要求した情報について、人事院に対して、陳述及び証言を行わなかつた者は、この法律の罰則の適用を受けなければならない

 5 前項の規定は、第十八条の四の規定により権限の委任を受けた再就職等監視委員会が行う調査について準用する。この場合において、同項中「人事院」とあるのは「再就職等監視委員会」と、「調査又は審理」とあるのは「調査」と読み替えるものとする。

 第109条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(略)

 ※12号 第百条第一項若しくは第二項又は第百六条の十二第一項の規定に違反して秘密を漏らした者

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第24条の3、第24条の4、第25条を終了します。

 

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労働者派遣法第23条、第23条の2、第24条、第24条の2

2015年06月17日 09:39

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第23条(事業報告等)

 一般派遣元事業主及び特定派遣元事業主(以下「派遣元事業主」という。)は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業報告書及び収支決算書を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならない。

2 前項の事業報告書には、厚生労働省令で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額その他労働者派遣に関する事項を記載しなければならない。

3 派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、次条に規定する関係派遣先への派遣割合を厚生労働大臣に報告しなければならない。

4 派遣元事業主は、派遣労働者をこの法律の施行地外の地域に所在する事業所その他の施設において就業させるための労働者派遣(以下「海外派遣」という。)をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。

5 派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合として厚生労働省令で定めるところにより算定した割合、教育訓練に関する事項その他当該労働者派遣事業の業務に関しあらかじめ関係者に対して知らせることが適当であるものとして厚生労働省令で定める事項に関し情報の提供を行わなければならない。

 

則第17条(事業報告書及び収支決算書)

 法第二十三条第一項に規定する派遣元事業主(以下単に「派遣元事業主」という。)は、毎事業年度に係る労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業報告書及び収支決算書を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならない。ただし、派遣元事業主が当該事業年度に係る貸借対照表及び損益計算書を提出したときは、収支決算書を提出することを要しない。

2 前項の事業報告書及び収支決算書は、それぞれ労働者派遣事業報告書(様式第十一号及び様式第十一号の二)及び労働者派遣事業収支決算書(様式第十二号)のとおりとする。

3 第一項の事業報告書及び収支決算書の提出期限は、次の各号に掲げる区分に応

じ、それぞれ当該各号に定める期限とする。

一 労働者派遣事業報告書(様式第十一号) 毎事業年度経過後一月が経過する日

二 労働者派遣事業報告書(様式第十一号の二) 毎年六月三十日

三 労働者派遣事業収支決算書(様式第十二号) 毎事業年度経過後三月が経過する日

 

則第17条の2(関係派遣先への派遣割合の報告

 法第二十三条第三項の規定による報告は、毎事業年度経過後三月が経過する日までに、当該事業年度に係る関係派遣先派遣割合報告書(様式第十二号の二)を厚生労働大臣に提出することにより行わなければならない。

 

則第18条(海外派遣の届出)

 派遣元事業主は、法第二十三条第四項の規定による海外派遣(以下単に「海外派遣」という。)をしようとするときは、海外派遣届出書(様式第十三号)に第二十三条の規定による書面の写しを添えて厚生労働大臣に提出しなければならない。


則第18条の2(情報提供の方法等)

 法第二十三条第五項の規定による情報の提供は、事業所への書類の備付け、インターネットの利用その他の適切な方法により行わなければならない。

2 法第二十三条第五項の厚生労働省令で定めるところにより算定した割合は、前事業年度に係る労働者派遣事業を行う事業所(以下この項において「一の事業所」という。)ごとの当該事業に係る労働者派遣に関する料金の額の平均額(当該事業年度における派遣労働者一人一日当たりの労働者派遣に関する料金の額の平均額をいう。以下この条において同じ。)から派遣労働者の賃金の額の平均額(当該事業年度における派遣労働者一人一日当たりの賃金の額の平均額をいう。次項において同じ。)を控除した額を労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合(当該割合に小数点以下一位未満の端数があるときは、これを四捨五入する。)する。ただし、一の事業所が当該派遣元事業主の労働者派遣事業を行う他の事業所と一体的な経営を行つている場合には、その範囲内において同様の方法により当該割合を算定することを妨げない。

3 法第二十三条第五項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 労働者派遣に関する料金の額の平均額

二 派遣労働者の賃金の額の平均額

三 その他労働者派遣事業の業務に関し参考となると認められる事項

 

第23条の2(派遣元事業主の関係派遣先に対する労働者派遣の制限)

 

 派遣元事業主は、当該派遣元事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある者その他の当該派遣元事業主と特殊の関係のある者として厚生労働省令で定める者(以下この条において「関係派遣先」という。)に労働者派遣をするときは、関係派遣先への派遣割合(一の事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者の関係派遣先に係る派遣就業(労働者派遣に係る派遣労働者の就業をいう。以下同じ。)係る総労働時間を、その事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者のすべての派遣就業に係る総労働時間で除して得た割合として厚生労働省令で定めるところにより算定した割合をいう。)が百分の八十以下となるようにしなければならない。

 

則第18条の3(法第二十三条の二の厚生労働省令で定める者等)

 法第二十三条の二の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者とする。

一 派遣元事業主を連結子会社(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和五十一年大蔵省令第二十八号)第二条第四号に規定する連結子会社をいう。以下この号において同じ。)とする者及び当該者の連結子会社

二 派遣元事業主の親会社等又は派遣元事業主の親会社等の子会社等(前号に掲げる者を除く。)

2 前項第二号の派遣元事業主の親会社等は、次に掲げる者とする。

一 派遣元事業主(株式会社である場合に限る。)の議決権の過半数を所有している者

二 派遣元事業主(持分会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第五百七十五条第一項に規定する持分会社をいう。次項において同じ。)である場合に限る。)の資本金の過半数を出資している者

三 派遣元事業主の事業の方針の決定に関して、前二号に掲げる者と同等以上の支配力を有すると認められる者

3 第一項第二号の派遣元事業主の親会社等の子会社等は、次に掲げる者とする。

一 派遣元事業主の親会社等が議決権の過半数を所有している者(株式会社である場合に限る。)

二 派遣元事業主の親会社等が資本金の過半数を出資している者(持分会社である場合に限る。)

三 事業の方針の決定に関する派遣元事業主の親会社等の支配力が前二号に掲げる者と同等以上と認められる者

4 法第二十三条の二の厚生労働省令で定めるところにより算定した割合は、一の事業年度における派遣元事業主が雇用する派遣労働者(六十歳以上の定年に達したことにより退職した者であつて当該派遣元事業主に雇用されているものを除く。)の関係派遣先(同条に規定する関係派遣先をいう。)に係る同条に規定する派遣就業(以下単に「派遣就業」という。)に係る総労働時間を、その事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者の全ての派遣就業に係る総労働時間で除して得た割合(当該割合に小数点以下一位未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)とする。

 

第24条(職業安定法第二十条の準用)

 

 職業安定法第二十条の規定は、労働者派遣事業について準用する。この場合において、同条第一項中「公共職業安定所」とあるのは「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)第二十三条第一項に規定する派遣元事業主(以下単に「派遣元事業主」という。)と、「事業所に、求職者を紹介してはならない」とあるのは「事業所に関し、労働者派遣法第二条第一号に規定する労働者派遣(以下単に「労働者派遣」という。)(当該同盟罷業又は作業所閉鎖の行われる際現に当該事業所に関し労働者派遣をしている場合にあつては、当該労働者派遣及びこれに相当するものを除く。)をしてはならない」と、同条第二項中「求職者を無制限に紹介する」とあるのは「無制限に労働者派遣がされる」と、「公共職業安定所は当該事業所に対し、求職者を紹介してはならない」とあるのは「公共職業安定所は、その旨を派遣元事業主に通報するものとし、当該通報を受けた派遣元事業主は、当該事業所に関し、労働者派遣(当該通報の際現に当該事業所に関し労働者派遣をしている場合にあつては、当該労働者派遣及びこれに相当するものを除く。)をしてはならない」と、「使用されていた労働者」とあるのは「使用されていた労働者(労働者派遣に係る労働に従事していた労働者を含む。)」と、「労働者を紹介する」とあるのは「労働者派遣をする」と読み替えるものとする。

 

第24条の2(派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主からの労働者派遣の受入れの禁止)

 

 労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

 

則第19条(書類の提出の経由 

 法第二章又はこの章の規定により厚生労働大臣に提出する書類は、派遣元事業主の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長を経由して提出するものとする。ただし、法第八条第三項、法第十一条第一項若しくは第四項、法第十九条第一項又は第四条第一項の規定により厚生労働大臣に提出する書類(許可証を含む。)のうち、法第五条第二項第一号及び第二号に規定する事項以外の事項に係るものについては、当該事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長を経由して提出することができる。

 

則第20条(提出すべき書類の部数

 法第二章又はこの章の規定により厚生労働大臣に提出する書類(許可証を除く。)は、正本にその写し二通(第一条の二第二項、第五条第二項、第八条第二項若しくは第三項、第十一条第二項又は第十四条に規定する書類にあつては、一通)を添えて提出しなければならない。

 

業務取扱要領(事業報告)

1.事業報告

(1) 事業報告書、収支決算書の提出の意義
 事業報告書及び収支決算書は、労働者派遣事業の労働力需給調整機能や当該事業の派遣労働者の就業実態等、事業運営の状況を的確に把握するためのものであり、派遣労働者の保護及び雇用の安定を図り、労働力需給調整システムとして適正に機能させていくために必要な行政措置を講じていく上での前提となるものである。
(2) 提出の方法
 派遣元事業主は、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る労働者派遣事業報告書(様式第11号及び様式第11号-2)及び労働者派遣事業収支決算書(様式第12号)を作成し、事業主管轄労働局を経て厚生労働大臣に提出しなければならない(法第23条第1項及び第2項、則第17条、則第19条)(第3の2の(1)参照)。
  事業報告書
 派遣元事業主は、労働者派遣事業を行う事業所ごとにこれを記載して正本一通及びその写し二通を提出しなければならない(則第20条)。
   収支決算書
 (イ) 派遣元事業主が法人である場合及び個人が青色申告をしている場合(記載事項の簡易な損益計算書を作成する場合を除く。)には、労働者派遣事業収支決算書に代えて、当該事業年度に係る貸借対照表及び損益計算書(税務署に提出したもの。青色申告をしている場合には、所得税青色申告決算書(一般用)中に貸借対照表及び損益計算書が記載されている。)を正本一通及びその写し二通を提出することとして差し支えない。
 (ロ) (イ)に該当する者以外の者は、労働者派遣事業収支決算書に記載して正本一通及びその写し二通を提出すること。
 (ハ) 当該派遣元事業主が兼業する場合等において、(イ)の貸借対照表及び損益計算書並びに(ロ)の労働者派遣事業収支決算書には、労働者派遣事業のみの収支の状況や当該事業所のみの収支の状況を抜き出して記載する必要はなく、当該事業主の行う事業全体の収支の状況を記載することとして差し支えない。
(3) 提出期限
 (2)のイの事業報告書及びロの収支決算書の提出期限は、それぞれ次のとおりである(則第17条第3項)。
   労働者派遣事業報告書
 ① 労働者派遣事業報告書(様式第11号) 当該事業主の事業の毎事業年度経過後1か月以内
 ② 労働者派遣事業報告書(様式第11号-2) 毎年6月30日
   収支決算書(貸借対照表及び損益計算書又は労働者派遣事業収支決算書(様式第12号))
(4) 事業報告書、収支決算書の受理
 事業報告書及び収支決算書を受理したときは、労働者派遣事業報告書(様式第11号及び様式第11号-2)並びに労働者派遣事業収支決算書(様式第12号)又は貸借対照表及び損益計算書の写しそれぞれ一通を提出者に控えとして交付する(第3の2の(2)参照)。
(5) 違反の場合の効果
  事業報告書及び収支決算書が(3)の提出期限までに提出されなかった場合には、法第50条の規定に基づき必要な事項の報告を求める(第12の5参照)場合があり、これに従わず報告せず、又は虚偽の報告をした場合は、法第61条第5号に該当し、30万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13の1参照)。
  また、当該違反をした派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

2.関係派遣先に対する労働者派遣の制限等(派遣割合等)

(1) 概要
 グループ企業内での派遣は、これが全て否定されるものではないが、グループ企業内の派遣会社がグループ企業内派遣ばかりを行うとすれば、派遣会社がグループ企業内の第二人事部的なものとして位置付けられていると評価され、労働力需給調整システムとして位置付けられた労働者派遣制度の趣旨に鑑みて適切ではない。
 そのため、派遣元事業主が労働者派遣をするときは、関係派遣先への派遣割合が100分の80以下となるようにしなければならない(法第23条の2)。
(2) 「関係派遣先」の範囲
 関係派遣先の範囲は、次のとおりである(則第18条の3第1項から第3項まで)。
   派遣元事業主が連結財務諸表を作成しているグループ企業に属している場合
 ① 派遣元事業主を連結子会社とする者(いわゆる親会社)
 ② 派遣元事業主を連結子会社とする者の連結子会社(いわゆる親会社の連結子会社)
 (イ)連結子会社とは、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和51年大蔵省令第28号)第2条第4号に規定する連結子会社をいうこと。
 (ロ)連結子会社の範囲は、当該派遣元事業主が属しているグループ企業が選択している会計基準により判断されるものであり、例えば、連結財務諸表に関する会計基準(企業会計基準委員会が作成している企業会計基準第22号)を選択している場合において、親会社と子会社が一体となって他の会社を支配している場合、子会社一社で他の会社を支配している場合等(連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針(企業会計基準適用指針第22号)を参照)には、当該他の会社は親会社の子会社とみなされること。
  派遣元事業主が連結財務諸表を作成していないグループ企業に属している場合
 ① 派遣元事業主の親会社等
 (イ)「親会社等」とは、派遣元事業主(株式会社である場合に限る。)の議決権の過半数を所有している者、派遣元事業主(会社法(平成17年法律第86号)第575条第1項に規定する持分会社(以下「持分会社」という。)である場合に限る。)の資本金の過半数を出資している者又は派遣元事業主の事業の方針の決定に関してこれらと同等以上の支配力を有すると認められる者をいうこと。
 (ロ)「派遣元事業主の事業の方針の決定に関してこれらと同等以上の支配力を有すると認められる者」とは、一般社団法人や事業協同組合等のように、議決権や出資金という概念では支配関係の有無を判断できない者のことを指しており、連結範囲の決定に用いる実質支配力基準を指しているものではないこと。例えば、派遣元事業主が一般社団法人であり、当該一般社団法人の社員が各一個の議決権を有する場合であって、当該社員の過半数の議決権の行使に関する意思決定を実質的に支配している者が存在する場合、当該支配している者が「派遣元事業主の事業の方針の決定に関してこれらと同等以上の支配力を有すると認められる者」に該当すること。
 ② 派遣元事業主の親会社等の子会社等
 (イ)「子会社等」とは、派遣元事業主の親会社等が議決権の過半数を所有している者(株式会社である場合に限る。)、派遣元事業主の親会社等が資本金の過半数を出資している者(持分会社である場合に限る。)又は事業の方針の決定に関する派遣元事業主の親会社等の支配力がこれらと同等以上と認められる者をいうこと。
 (ロ)「事業の方針の決定に関する派遣元事業主の親会社等の支配力がこれらと同等以上と認められる者」の考え方は、①の(ロ)と同様であること。
(3) 「派遣割合」の算出方法
   関係派遣先への派遣割合は、一の事業年度における派遣元事業主が雇用する派遣労働者(60歳以上の定年退職者を除く。)の関係派遣先での派遣就業に係る総労働時間を、当該事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者の全ての派遣就業に係る総労働時間で除すことにより算出すること。なお、百分率(%)表記にした場合に、小数点以下一位未満の端数が生じた場合には、これを切り捨てること(則第18条の3第4項)。
  「60歳以上の定年退職者」とは、60歳以上の定年年齢に達した者のことをいい、継続雇用(勤務延長・再雇用)の終了の後に離職した者(再雇用による労働契約期間満了前に離職した者等を含む。)や、継続雇用中の者のような60歳以上の定年退職者と同等の者も含まれること。また、グループ企業内の退職者に限られるものではないこと。
  「60歳以上の定年退職者」であることの確認は、労働基準法第22条第1項の退職証明、雇用保険法施行規則第16条の離職証明書等により行うが、書類による確認が困難である場合には労働者本人からの申告によることでも差し支えない。
  事業年度中に関係派遣先の範囲に変更があった場合には、当該変更があった時点から起算して関係派遣先への派遣割合を計算することを基本とするが、決算書類に基づき前々事業年度末(前事業年度開始時点)又は前事業年度末(当事業年度開始時点)におけるグループ企業の範囲を前事業年度における関係派遣先の範囲とした上で、関係派遣先への派遣割合を計算することも可能とすること。ただし、その場合には、関係派遣先派遣割合報告書(様式第12号-2)(表面)の余白に、「前々事業年度末(又は前事業年度末)のグループ企業の範囲を前事業年度における関係派遣先の範囲とした」旨を記載すること。
(4) 報告の方法
   派遣元事業主は、関係派遣先派遣割合報告書(様式第12号-2)を作成し、当該事業主の事業の毎事業年度経過後3か月以内に、事業主管轄労働局を経て、正本一通及びその写し二通を厚生労働大臣に提出しなければならない(法第23条第3項、則第17条の2)。
   なお、この報告は、派遣元事業主全体での関係派遣先への派遣割合の報告を求めるものであり、事業所ごとの関係派遣先への派遣割合の報告を求めるものではないこと。
(5) 関係派遣先への派遣割合の報告の受理
 関係派遣先への派遣割合の報告を受理したときは、関係派遣先派遣割合報告書(様式第12号-2)の写し一通を提出者に控えとして交付する(第3の2の(2)参照)。
(6) 違反の場合の効果
  関係派遣先派遣割合報告書が(4)の提出期限までに提出されなかった場合(法第23条第3項)又は法第23条の2に規定する関係派遣先への派遣割合が遵守されていない場合であって、法第48条第1項の規定による指導又は助言をしてもなお関係派遣先派遣割合報告書が提出されない又は法第23条の2の規定に違反している場合には、厚生労働大臣は、法第48条第3項の規定に基づき、必要な措置をとるべきことを指示する場合がある。
 ロ  さらに、イの指示を受けたにもかかわらず、なお関係派遣先派遣割合報告書が提出されない又は法第23条の2の規定に違反している場合には、許可の取消し(法第14条第1項)、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

3.海外派遣の届出

(1) 海外派遣の届出の意義
 海外派遣については、派遣先に対しては国内法が適用されず、法の規定のみによっては、派遣労働者の適正な就業の確保が困難であるため、派遣元事業主には事前に届出をすることとさせ(法第23条第4項)法第26条第3項の規定(第7の2の(4)参照)と相まって海外派遣に係る派遣労働者の保護を図ることとしている。
(2) 「海外派遣」の意義
 法第23条第4項に規定する海外派遣は「この法律の施行地外の地域に所在する事業所その他の施設において就業させるための労働者派遣」をいうものであり、したがって海外の事業所その他の施設において指揮命令を受け派遣労働者を就業させることを目的とする限り、海外に所在する法人又は個人である場合はもとより、派遣先が国内に所在する法人又は個人である場合において、当該派遣先の海外支店等において就業させるときもこれに該当する。
 なお、派遣就業の場所が一時的に国外となる場合であったとしても出張等の形態により業務が遂行される場合、すなわち、主として指揮命令を行う者が日本国内におり、その業務が国内に所在する事業所の責任により当該事業所に帰属して行われている場合は、法の派遣先の講ずべき措置等の規定が直接当該派遣先に適用され、ここにおける「海外派遣」には該当しないものであるので特に留意すること。
(3) 届出の方法
  海外派遣の届出は、海外派遣をしようとするときに、あらかじめ、海外派遣届出書(様式第13号)を事業主管轄労働局を経て厚生労働大臣に提出することにより行う(則第18条、則第19条)(第3の2の(1)参照)。
  この場合、則第23条の規定による書面(第7の2の(4)参照)の写しを添付させること(則第18条)。
  海外派遣届出書(様式第13号)及び則第23条の規定による書面は、それぞれ正本一通及びその写し二通を提出しなければならない(則第20条)。
  なお、海外派遣に該当するか否かの判断には極めて微妙な要素もあることから派遣先が国内に所在する法人又は個人である場合における当該派遣先の海外の事業所その他の施設において就業する労働者派遣であって、当該労働者派遣の期間がおおむね1か月を超えないものについては、「海外派遣」には該当せず、当該届出を要しないものとして取り扱って差し支えない(第7の2の(4)においても同様である。)。
(4) 海外派遣の届出の受理
 海外派遣の届出を受理したときは、海外派遣届出書(様式第13号)及び則第23条の規定による書面の写しそれぞれ一通を届出者に控えとして交付する(第3の2の(2)参照)。
 海外派遣の届出を受理した事業主管轄労働局は、当該事業所に係る事業所管轄労働局へ海外派遣届出書の複写及び関係書類を送付するものとする。
(5) 違反の場合の効果
   海外派遣の届出を所定の方法により行わなかった場合は、法第61条第2号に該当し、30万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13の1参照)。
   また、法に違反するものとして、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、許可の取消し、事業廃止命令(法第21条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

4.事業所ごとの情報の提供

(1) 意義
   派遣元事業主は、労働者派遣事業を行う事業所ごとの派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合、教育訓練に関する事項など、あらかじめ関係者に対して知らせることが適当である事項について情報の提供を行わなければならない(法第23条第5項)。
   派遣元事業主の透明性を確保することにより、派遣労働者による派遣元事業主の適切な選択や派遣労働者の待遇改善等に資することが期待される。
(2) 情報提供すべき事項
 派遣元事業主が事業所ごとに情報提供すべき事項は、次のとおりである(法第23条第5項、則第18条の2第3項)。
 ① 派遣労働者の数
 ・ 直近の数が望ましいが、前事業年度に係る労働者派遣を行う事業所ごとの派遣労働者の数で差し支えない。例えば労働者派遣事業報告書(年度報告)に記載する数と同じ数とする場合は「1日平均」と記載する等、単位がわかるようにすること。
 ② 労働者派遣の役務の提供を受けた者の数
 ・ 直近の数が望ましいが、前事業年度に係る労働者派遣を行う事業所ごとの労働者派遣の役務の提供を受けた者(派遣先)の数で差し支えない。例えば労働者派遣事業報告書(年度報告)に記載する数と同じ数とする場合は「事業年度あたりの事業所数」と記載する等、単位がわかるようにすること。
 ③ 労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合(以下「マージン率」という。)
 ・ 前事業年度に係る労働者派遣事業を行う事業所ごとの労働者派遣に関する料金の額の平均額(当該事業年度における派遣労働者一人一日(八時間)当たりの労働者派遣に関する料金の平均額。端数処理の方法は⑤を参照。)から派遣労働者の賃金の額の平均額(当該事業年度における派遣労働者一人一日(八時間)当たりの派遣労働者の賃金の額の平均額。端数処理の方法は⑥を参照。)を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の平均額で除すことにより算出すること。なお、百分率(%)表記にした場合に、小数点以下一位未満の端数が生じた場合には、これを四捨五入すること(則第18条の2第2項)。
 ・ 労働者派遣に関する料金の額の平均額及び派遣労働者の賃金の額の平均額については、加重平均によるものとすること。具体的には、例えば、三名の派遣労働者を雇用している場合であって、労働者派遣に関する料金の額が一万円・一万円・三万円であるときは、一万円と三万円の単純平均とするのではなく、一万円の派遣労働者が二名いることを加味した加重平均の計算の考えによること(労働者派遣事業報告書(様式第11号)における「2 労働者派遣等実績」の「③ 労働者派遣の料金」欄及び「④ 派遣期間中の派遣労働者の賃金」欄の算出方法と同様のものである。)。
 ・ なお、マージン率の算定は事業所単位が基本であるが、当該事業所が労働者派遣事業を行う他の事業所と一体的な経営を行っている場合には、その範囲内で算定することも妨げないこと(則第18条の2第2項)。
 「一体的な経営」とは、例えば、一定の地域に所在する複数の事業所で共通経費の処理を行っており、事業所ごとに経費が按分されていないような場合などが該当すること。
 ④ 教育訓練に関する事項
 ・ 例えば、教育訓練の種類、対象者、方法(OJT又はOff-JT)、実施期間、賃金支給の有無、派遣労働者の費用負担の有無等の労働者派遣事業報告書(様式第11号)に記載すべき事項と同様の事項を公表することが考えられるが、それ以外の事項についても、積極的に公表すべき事項があれば、公表することが望ましい。
 ⑤ 労働者派遣に関する料金の額の平均額
 ・ 労働者派遣に関する料金の額の平均額の算出方法は、③のとおりであること。なお、計算の結果、小数点以下の端数が生じた場合には、これを四捨五入し、整数表記すること。
 ⑥ 派遣労働者の賃金の額の平均額
 ・ 派遣労働者の賃金の額の平均額の算出方法は、③のとおりであること。なお、計算の結果、小数点以下の端数が生じた場合には、これを四捨五入し、整数表記すること。
 ⑦ その他労働者派遣事業の業務に関し参考となると認められる事項
 ・ 積極的な情報提供を行うことで実態をより正確に表すことが可能となり、派遣労働者による派遣元事業主の適切な選択等に資すると考えられる事項をいう。その内容は、各派遣元事業主において判断すべきものであるが、例えば、福利厚生に関する事項や派遣労働者の希望や適性等に応じた派遣先とのマッチング状況等が考えられる。
(3) 情報提供の方法等
  情報提供の方法は、事業所への書類の備付け、インターネットの利用その他の適切な方法により行うこととする(則第18条の2第1項)。
 「その他の適切な方法」としては、例えば、パンフレットの作成や人材サービス総合サイトの活用等が考えられるが、情報提供の趣旨に鑑みて適切な方法によることが必要である。なお、人材サービス総合サイトについては、積極的に活用することが望ましい。
   情報提供は、少なくとも、毎事業年度終了後可能な限り速やかに前年度分の実績を公表することが必要であるが、情報公開を積極的に進める観点から、派遣元事業主の判断により、当年度分の実績を追加的に情報提供することとしても差し支えない。
   マージン率は、当該事業所が行っている労働者派遣の全業務・全派遣労働者の平均値を計算すればよいが、情報公開を積極的に進める観点から、派遣元事業主の判断により、詳細な計算結果を追加的に情報提供することとしても差し支えない。
   情報提供は、派遣労働者による派遣元事業主の適切な選択等に資するよう、マージン率だけではなく、教育訓練に関する事項やその他労働者派遣事業の業務に関し参考となると認められる事項等も含めて総合的に判断できるような形で行うことが重要である。
   派遣元事業主は、関係者からの情報提供の求めがあった場合には、これに応じる義務があるのは当然である。
(4) 違反の場合の効果
 情報提供を行わなかった場合、派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

業務取扱要領(職業安定法第20条の準用)

職業安定法(労働争議に対する不介入)

第20条 公共職業安定所は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業又は作業所閉鎖の行われている事業所に、求職者を紹介してはならない。

 2 前項に規定する場合の外、労働委員会が公共職業安定所に対し、事業所において、同盟罷業又は作業所閉鎖に至る虞の多い争議が発生していること及び求職者を無制限に紹介することによつて、当該争議の解決が妨げられることを通報した場合においては、公共職業安定所は当該事業所に対し、求職者を紹介してはならない。但し、当該争議の発生前、通常使用されていた労働者の員数を維持するため必要な限度まで労働者を紹介する場合は、この限りでない。

 

(1) 概要
  派遣元事業主は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業又は事業所閉鎖の行われている事業所に関し、労働者派遣(当該同盟罷業又は作業所閉鎖の行われる際現に当該事業所に関し労働者派遣をしている場合にあっては、当該労働者派遣及びこれに相当するものを除く。)をしてはならない(法第24条、職業安定法第20条第1項)。
   イのほか、労働委員会が公共職業安定所に対し、事業所において、同盟罷業又は作業所閉鎖に至るおそれの多い争議が発生していること及び無制限に労働者派遣が行われることによって、当該争議の解決が妨げられることを通報した場合においては、公共職業安定所は都道府県労働局に連絡し、都道府県労働局はその旨を派遣元事業主に通報するものとし、当該通報を受けた派遣元事業主は、当該事業所に関し、労働者派遣(当該通報の際現に当該事業所に関し労働者派遣をしている場合にあっては、当該労働者派遣及びこれに相当するものを除く。)をしてはならない。
 ただし、当該争議の発生前、通常使用されていた労働者(労働者派遣に係る労働に従事していた労働者を含む。)の員数を維持するため必要な限度まで労働者派遣をする場合はこの限りでない(法第24条、職業安定法第20条第2項)。
(2) 労働争議に対する不介入の趣旨
 労働争議は、労使対等の立場で行われその解決も自主的に行われるべきものである。ところが労働者派遣事業等の労働力需給調整システムが争議が行われている事業所に対し労働力の提供を行うことは、争議の自主的解決を妨げることとなり、適当ではない。
 そのための民営職業紹介事業、労働者募集及び労働組合の行う労働者供給事業について準用されている職業安定法第20条をこれらと同様に準用することにより労働者派遣事業も労働争議に対して中立的立場に立ち、労働争議の自主的な解決を妨げないこととしたものである。
(3) 現に同盟罷業又は作業所閉鎖の行われているときの規制
   労働争議のうち同盟罷業(ストライキ)又は作業所閉鎖(ロックアウト)の行われている事業所に労働者派遣をすることが禁止される。
  「同盟罷業」とは、労働者が団結して労働力の提供を拒否し、労働力を使用者に利用させない行為をいい、一部スト、部分スト、波状スト等ストライキ一般が含まれる。また、「作業所閉鎖」とは、労働者に対して作業所を閉鎖して労働者を就業不能の状態におき、労働者の提供する労務の受領を拒否することをいい、いわゆるロックアウトがこれに当たる。
  イの趣旨は、公正な労働関係を維持するためであるから、法律により争議行為が禁止された国、地方公共団体又は公共企業体において、争議行為が行われる等違法な争議行為が行われている場合に、労働者派遣をすることはイの趣旨に反するものではない。
   禁止されるのは、同盟罷業又は作業所閉鎖が行われて以後、新たに労働者派遣をすることであり、その際現に、労働者派遣をしている場合には、その範囲内で引き続き労働者派遣をすることまで禁止するものではない(同盟罷業又は作業所閉鎖中に同一内容の契約の更新、更改を行うことも許容される)。ただし、従来から労働者派遣はしていても派遣労働者を増加させるような行為は許されない。
 同盟罷業又は作業所閉鎖が予定されている場合に、その直前に、新たに労働者派遣をすることは法の趣旨に反するものであり、同様に許されないものと考えられる。
(4) 争議行為が発生しており、同盟罷業や作業所閉鎖に至るおそれの多いときの規制
  労働委員会から公共職業安定所に対し、無制限に労働者派遣をすることによって、当該争議の解決が妨げられることが通報された場合、公共職業安定所は都道府県労働局に連絡し、都道府県労働局は派遣元事業主に対しその旨を通報する。
 この場合、当該派遣元事業主が労働者派遣をすることが一定の範囲において禁止される。
  禁止される労働者派遣の範囲は、(3)と同様新たに労働者派遣をすることであり、通報の際に、現に労働者派遣をしている場合に、引き続き労働者派遣をすることまで禁止する趣旨ではない。
  また、当該労働争議の発生前に、通常使用されていた労働者の員数を維持するため必要な限度まで新たに労働者派遣をし、又は派遣労働者を増加させることは禁止されない。ここにいう通常使用されていた労働者の員数とは、派遣労働者を含めた数であり、一応労働争議発生前3か月の平均をもって判断するが、季節や時期によって事情が異なる場合もあり、このような場合には、例年のその時期の労働者数を考慮して判断する。
(5) 違反の場合の効果
 (3)及び(4)に違反して労働者派遣を行った派遣元事業主は、許可の取消し(法第14条第1項)、事業停止命令(法第14条第2項、法第21条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13の2参照)。

 

第23条、第23条の2、第24条、第24条の2の項目別まとめ

1.事業報告書及び収支決算書の提出 

ア 事業報告書

 労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る労働者派遣事業報告書(様式第11号及び様式第11号-2)を作成し、事業主管轄労働局を経て厚生労働大臣に提出しなければならないこと。

 労働者派遣事業報告書

 ① 労働者派遣事業報告書(様式第11号) 当該事業主の事業の毎事業年度経過後1か月以内
 ② 労働者派遣事業報告書(様式第11号-2) 毎年6月30日
 参考:事業報告書の記入方法(例) URL(下記) https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/hakenshoukai04.pdf#search='%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%80%85%E6%B4%BE%E9%81%A3%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%EF%BC%88%E6%A7%98%E5%BC%8F%E7%AC%AC11%E5%8F%B7%EF%BC%89'
 収支報告書
 派遣元事業主は、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る労働者派遣事業収支決算書(様式第12号)を作成し、事業主管轄労働局を経て厚生労働大臣に提出しなければならない。
 提出期限は、毎事業年度経過後3ヶ月以内。
 様式第12号 URL
 https://ibaraki-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0110/3233/2012102112730.pdf
 
2.関係派遣先への派遣割合
ア 関係派遣先
・関係派遣先」の範囲
 関係派遣先の範囲は、次のとおり。
 (ア)派遣元事業主が連結財務諸表を作成しているグループ企業に属している場合
 ① 派遣元事業主を連結子会社とする者(いわゆる親会社)
 ② 派遣元事業主を連結子会社とする者の連結子会社(いわゆる親会社の連結子会社)
 (イ)派遣元事業主が連結財務諸表を作成していないグループ企業に属している場合
 ① 派遣元事業主の親会社等
 ② 派遣元事業主の親会社等の子会社等
イ 「派遣割合」の算出方法
 ・関係派遣先への派遣割合は、一の事業年度における派遣元事業主が雇用する派遣労働者(60歳以上の定年退職者を除く。)の関係派遣先での派遣就業に係る総労働時間を、当該事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者の全ての派遣就業に係る総労働時間で除すことにより算出すること。
 そこで、60歳以上の定年退職者とは、継続雇用(勤務延長・再雇用)の終了の後に離職した者(再雇用による労働契約期間満了前に離職した者等を含む。)や、継続雇用中の者のような60歳以上の定年退職者と同等の者も含まれる。また、グループ企業内の退職者に限られるものではないこと。
ウ 派遣割合の報告の方法 
 関係派遣先派遣割合報告書(様式第12号-2)を作成し、毎事業年度経過後3か月以内に、事業主管轄労働局を経て、正本一通及びその写し二通を厚生労働大臣に提出しなければならない。
 派遣割合の報告は、派遣元事業主全体での関係派遣先への派遣割合の報告を求めるものであり、事業所ごとの関係派遣先への派遣割合の報告を求めるものではない。
 
3.海外派遣の届出
 派遣先が国内に所在する法人又は個人である場合において、当該派遣先の海外支店等において就業させるときには、派遣元事業主には事前に届出をさせ海外派遣に係る派遣労働者の保護を図ることとしている。 
 海外派遣の届出は、海外派遣をしようとするときに、あらかじめ、海外派遣届出書(様式第13号)を事業主管轄労働局を経て厚生労働大臣に提出することにより行う。
 
4.事業所ごとの情報の提供
(1)派遣元事業主が事業所ごとに情報提供すべき事項は、次のとおりである。
 ① 派遣労働者の数
 ② 労働者派遣の役務の提供を受けた者の数
 ③ 労働者派遣に関する料金の額の平均額(補足1)から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合(以下「マージン率」という。)
 (補足1):当該事業年度における派遣労働者一人一日(八時間)当たりの労働者派遣に関する料金の平均額(加重平均)=分母 
 (補足2):派遣労働者一人一日(八時間)当たりの派遣労働者の賃金の額の平均額(加重平均)=分子
※マージン率:マージン率の算定は事業所単位が基本であるが、当該事業所が労働者派遣事業を行う他の事業所と一体的な経営を行っている場合には、その範囲内で算定することも妨げない。
 このマージン率は、売り上げ(労働者派遣契約に基づく派遣労働者の8時間当たりの契約料金収入の平均額)に対する派遣労働者の賃金(派遣労働者の8時間当たりの平均賃金額)の割合を示すもの。 
 ④ 教育訓練に関する事項
 ⑤ 労働者派遣に関する料金の額の平均額
 ⑥ 派遣労働者の賃金の額の平均額
 ⑦ その他労働者派遣事業の業務に関し参考となると認められる事項
 ※例えば、福利厚生に関する事項や派遣労働者の希望や適性等に応じた派遣先とのマッチング状況等
(2)情報提供の方法等
 情報提供の方法は、事業所への書類の備付け、インターネットの利用その他の適切な方法により行い、情報提供は、少なくとも、毎事業年度終了後可能な限り速やかに前年度分の実績を公表することが必要である。
 派遣元事業主は、関係者からの情報提供の求めがあった場合には、これに応じる義務がある。
(3)処分
 情報提供を行わなかった場合、派遣元事業主は、許可の取消し、事業停止命令、改善命令の対象となる。
 
○業務取扱要領(労働者派遣の制限)
(1)労働者派遣の派遣割合の制限
 派遣元事業主が労働者派遣をするときは、関係派遣先への派遣割合が100分の80以下となるようにしなければならない。
(2)「関係派遣先」の範囲
 ・派遣先事業主が、グループ企業に属している場合
 ① 派遣元事業主を連結子会社とする者(いわゆる親会社)
 ② 派遣元事業主を連結子会社とする者の連結子会社(いわゆる親会社の連結子会社)
 ・連結財務諸表を作成していないグループ企業に属している場合
 ① 派遣元事業主の親会社等
 ② 派遣元事業主の親会社等の子会社等
(3)「派遣割合」の算出方法
 一の事業年度における派遣元事業主が雇用する派遣労働者(60歳以上の定年退職者を除く。)の関係派遣先での派遣就業に係る総労働時間を、当該事業年度における当該派遣元事業主が雇用する派遣労働者の全ての派遣就業に係る総労働時間で除すことにより算出する。
(4)報告の方法
 関係派遣先派遣割合報告書(様式第12号-2)を作成し、当該事業主の事業の毎事業年度経過後3か月以内に、事業主管轄労働局を経て、正本一通及びその写し二通を厚生労働大臣に提出しなければならない。
 参考:様式第12号の2 URL
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/hakenshoukai04.pdf#search='%E9%96%A2%E4%BF%82%E6%B4%BE%E9%81%A3%E5%85%88%E6%B4%BE%E9%81%A3%E5%89%B2%E5%90%88%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%EF%BC%88%E6%A7%98%E5%BC%8F%E7%AC%AC12%E5%8F%B7%EF%BC%8D2%EF%BC%89' 
(5)処分
 指示を受けたにもかかわらず、なお関係派遣先派遣割合報告書が提出されない又は法第23条の2の規定に違反している場合には、許可の取消し、事業廃止命令の対象となる。
 
労働者派遣法第24条の2違反の意味
 労働者派遣を受ける者が、「無許可・無届の業者からの派遣受入れ(法第24 条の2)」「の規定に違反した場合には、指導・助言、勧告、企業名公表 などの行政処分の対象となります。(法第49 条の2)
 なお、法第24条の2違反の罰則規定は設けられていません。
 
労働者派遣と在籍出向の相違点
 労働者派遣事業は、派遣元(派遣会社)が自ら雇用する労働者(派遣労働者)を派遣先に赴かせ、派遣先事業所の指揮命令の下に労務の提供を行わせるものです。この場合、外形上は派遣先事業主との雇用関係が存在するようにみえます。
 他方、在籍出向は、自らが雇用する労働者を出向契約に基づき出向先とも雇用契約関係を結ばせ、結果的に二重の雇用関係の下に労務の提供をさせるものです。また、事実上出向元との雇用関係は休止(出向休職等)することとなります。
 
 
 

以上で労働者派遣法第23条・第23条の2・第24条・第24条の2を終了します。     

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労働者派遣法第20条、第21条、第22条

2015年06月16日 15:44

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第20条(事業の廃止

 特定派遣元事業主は、当該特定労働者派遣事業を廃止したときは、遅滞なく、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。

 

則第15条(廃止の届出

 法第二十条の規定による届出をしようとする者は、当該廃止の日の翌日から起算して十日以内に、特定労働者派遣事業廃止届出書(様式第八号)を厚生労働大臣に提出しなければならない。

 

第21条(事業廃止命令等

 

 厚生労働大臣は、特定派遣元事業主が第六条各号(第四号から第七号までを除く。)のいずれかに該当するとき又は第四十八条第三項の規定による指示を受けたにもかかわらず、なお第二十三条第三項若しくは第二十三条の二の規定に違反したときは当該特定労働者派遣事業の廃止を、当該特定労働者派遣事業(二以上の事業所を設けて特定労働者派遣事業を行う場合にあつては、各事業所ごとの特定労働者派遣事業。以下この項において同じ。)の開始の当時第六条第四号から第七号までのいずれかに該当するときは当該特定労働者派遣事業の廃止を、命ずることができる。

 

2 厚生労働大臣は、特定派遣元事業主がこの法律(次章第四節の規定を除く。)若しくは職業安定法の規定又はこれらの規定に基づく命令若しくは処分に違反したときは、期間を定めて当該特定労働者派遣事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。

 

第22条(名義貸しの禁止

 

 特定派遣元事業主は、自己の名義をもつて、他人に特定労働者派遣事業を行わせてはならない。

 

業務取扱要領(事業の廃止)

(1) 特定労働者派遣事業の廃止の届出
  特定派遣元事業主は、特定労働者派遣事業を廃止したときは、当該廃止の日の翌日から起算して10 日以内に、事業主管轄労働局を経て、特定労働者派遣事業廃止届出書(様式第8号)を厚生労働大臣に提出しなければならない(法第20 条、則第15 条、則第19 条)(第4の5の(1)参照)。
   特定労働者派遣事業廃止届出書(様式第8号)は、正本一通及びその写し二通を提出しなければならない(則第20 条)。
  「廃止」の概念については、第4の5の(1)のハ参照。
(2) 事業廃止の届出の受理
 特定労働者派遣事業の廃止の届出を受理したときは、特定労働者派遣事業廃止届出書(様式第8号)の写し一通を届出者に控えとして交付する(第3の2の(2)参照)。
(3) 届出の効力
 (1)の届出により、特定労働者派遣事業は行えなくなるので、当該廃止の届出の後、再び特定労働者派遣事業を行おうとするときは、新たに特定労働者派遣事業の届出書を提出し直す必要がある。

 

事業廃止又は停止命令

1.事業廃止命令

 ア 厚生労働大臣は、特定労働者派遣事業の欠格事由(法第6条第1条~第3号、第8号~第12号)に該当する場合には、特定労働者派遣事業の廃止を命ずることができる。

 イ 厚生労働大臣は、四十八条第三項の規定による指示(第二十三条第三項又は第二十三条の二の規定に違反したときは、当該派遣元事業主に対し、必要な措置をとるべきことの指示)を受けたにもかかわらず、なお第二十三条第三項若しくは第二十三条の二の規定に違反したときは当該特定労働者派遣事業の廃止を命ずることができる。

 ウ 厚生労働大臣は、特定労働者派遣事開始の当時欠格事由の一部(第六条第四号から第七号までのいずれか)に該当するときは当該特定労働者派遣事業の廃止を命ずることができる。

2.特定労働者派遣事業の停止命令

 厚生労働大臣は、特定派遣元事業主がこの法律(次章第四節の規定を除く。)若しくは職業安定法の規定又はこれらの規定に基づく命令若しくは処分に違反したときは、期間を定めて当該特定労働者派遣事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。

 

業務取扱要領(名義貸しの禁止)

(1) 名義貸し禁止の意義
 特定労働者派遣事業につき、名義貸しが行われることとなれば欠格事由に該当する者が特定労働者派遣事業を行う等、本法における届出制度自体の維持が困難となるため、自分の名義を他人に貸して、当該他人に特定労働者派遣事業を行わせることが禁止される(法第22 条)。
(2) 違反の場合の効果
   特定労働者派遣事業につき名義貸しを行った者は、法第60 条第2号に該当し、6か月以下の懲役又は30 万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13 の1参照)。
  また、法に違反するものとして、事業停止命令(法第21 条第2項)、改善命令(法第49 条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、事業廃止命令(法第21 条第1項)の対象となる(第13 の2参照)。

※なお、名義貸しの異議等については、一般労働者派遣事業の名義貸しの記述の箇所をご参照ください。

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第20条・第21条・第22条を終了します。

 

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労働者派遣法第16条、第17条、第18条、第19条

2015年06月16日 10:11

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第16条(特定労働者派遣事業の届出)

 定労働者派遣事業を行おうとする者は、第五条第二項各号に掲げる事項を記載した届出書を厚生労働大臣に提出しなければならない。この場合において、同項第三号中「一般労働者派遣事業」とあるのは、「特定労働者派遣事業」とする。

2 前項の届出書には、特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業計画書その他厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。

3 前項の事業計画書には、厚生労働省令で定めるところにより、特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数、労働者派遣に関する料金の額その他労働者派遣に関する事項を記載しなければならない。

 

則第11条(届出書の提出手続)

 法第十六条第一項の届出書は、特定労働者派遣事業届出書(様式第九号)のとおりと

2 法第十六条第二項の厚生労働省令で定める書類は、次のとおりとする。

一 届出者が法人である場合にあつては、次に掲げる書類

イ 第一条の二第二項第一号イからハまでに掲げる書類

ロ 役員が未成年者で特定労働者派遣事業に関し営業の許可を受けていない場合にあつては、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める書類

(1) 当該役員の法定代理人が個人である場合 当該法定代理人の住民票の写し及び履歴書

(2) 当該役員の法定代理人が法人である場合 当該法定代理人に係る第一条の二第二項第一号イからハまでに掲げる書類(法定代理人の役員が未成年者で特定労働者派遣事業に関し営業の許可を受けていない場合にあつては、当該役員の法定代理人(法人に限る。)に係る同号イからハまでに掲げる書類又は当該役員の法定代理人(個人に限る。)の住民票の写し及び履歴書を含む。)

ハ 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの個人情報適正管理規程

ニ 特定労働者派遣事業を行う事業所に係る権利関係を証する書類

ホ 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとに選任する派遣元責任者の住民票の写し及び履歴書

二 届出者が個人である場合にあつては、次に掲げる書類

イ 第一条の二第二項第二号イに掲げる書類

ロ 届出者が未成年者で特定労働者派遣事業に関し営業の許可を受けていない場合にあつては、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める書類

(1) 当該届出者の法定代理人が個人である場合 当該法定代理人の住民票の写し及び履歴書

(2) 当該届出者の法定代理人が法人である場合 当該法定代理人に係る第一条の二第二項第一号イからハまでに掲げる書類(法定代理人の役員が未成年者で特定労働者派遣事業に関し営業の許可を受けていない場合にあつては、当該役員の法定代理人(法人に限る。)に係る同号イからハまでに掲げる書類又は当該役員の法定代理人(個人に限る。)の住民票の写し及び履歴書を含む。)

ハ 前号ハ、ニ及びホに掲げる書類

3 法第十六条第二項の規定により添付すべき事業計画書は、特定労働者派遣事業計画書(様式第三号)のとおりとする。

4 一般派遣元事業主又は法第五条第一項の規定による一般労働者派遣事業の許可の申請をしている者が法第十六条第一項の規定による特定労働者派遣事業の届出をするときは、法人にあつては第二項第一号イに掲げる書類を、個人にあつては同項第二号イに掲げる書類を添付することを要しない。

5 届出者が一般労働者派遣事業を行つている場合において、当該届出者が一般労働者派遣事業を行つている他の事業所の派遣元責任者を当該届出に係る事業所の派遣元責任者として引き続き選任するときは、法人にあつては第二項第一号ホに掲げる書類のうち履歴書(選任する派遣元責任者の住所に変更がないときは、住民票の写し及び履歴書。以下この項において同じ。)を、個人にあつては同項第二号ハの書類のうち履歴書を添付することを要しない。

 

第17条(事業開始の欠格事由)

 第六条各号のいずれかに該当する者は、新たに特定労働者派遣事業の事業所を設

けて当該特定労働者派遣事業を行つてはならない。

 

則第12条(法第十八条の厚生労働省令で定める事項)

 法第十八条の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 氏名又は名称及び法人にあつては、その代表者の氏名

二 事業所の名称及び所在地

 

第18条(書類の備付け等)

 特定派遣元事業主は、第十六条第一項の届出書を提出した旨その他厚生労働省令

で定める事項を記載した書類を、特定労働者派遣事業を行う事業所ごとに備え付け

るとともに、関係者から請求があつたときは提示しなければならない。

 

第19条(変更の届出)

 特定派遣元事業主は、第十六条第一項の届出書に記載すべき事項に変更があつた

ときは、遅滞なく、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。この場合に

おいて、当該変更に係る事項が特定労働者派遣事業を行う事業所の新設に係るもの

であるときは、当該事業所に係る事業計画書その他厚生労働省令で定める書類を添

付しなければならない。

2 第十六条第三項の規定は、前項の事業計画書について準用する。

 

則第14条(変更の届出)

 法第十九条の規定による届出をしようとする者は、法第五条第二項第四号に掲げる事項の変更の届出にあつては当該変更に係る事実のあつた日の翌日から起算して三十日以内に、同号に掲げる事項以外の事項の変更の届出にあつては当該変更に係る事実のあつた日の翌日から起算して十日以内に、第十一条第二項に規定する書類のうち当該変更事項に係る書類を添えて、特定労働者派遣事業変更届出書(様式第十号)を厚生労働大臣に提出しなければならない。ただし、届出者が当該変更に係る法第十一条第一項の規定による届出をした際に、法人にあつては第一条の二第二項第一号イからハまでに掲げる書類のうち当該変更事項に係る書類、個人にあつては同項第二号イに掲げる書類のうち当該変更事項に係る書類を添付したときは、当該書類を添付することを要しない。

2 法第十九条第一項の厚生労働省令で定める書類は、法人にあつては当該新設する事業所に係る第十一条第二項第一号ハ、ニ及びホに、個人にあつては当該新設する事業所に係る同項第二号ハに掲げる書類とする。ただし、当該特定派遣元事業主が一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業を行つている他の事業所の派遣元責任者を当該新設する事業所の派遣元責任者として引き続き選任したときは、法人にあつては同項第一号ホに掲げる書類のうち履歴書(選任した派遣元責任者の住所に変更がないときは、住民票の写し及び履歴書。以下この条において同じ。)を、個人にあつては同項第二号ハに掲げる書類のうち履歴書を添付することを要しない。

3 法第五条第二項第四号に掲げる事項のうち派遣元責任者の氏名に変更があつた場合において、当該特定派遣元事業主が一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業を行つている他の事業所の派遣元責任者を当該変更に係る事業所の変更後の派遣元責任者として引き続き選任したときは、法人にあつては第十一条第二項第一号ホに掲げる書類のうち履歴書を、個人にあつては同項第二号ハの書類のうち履歴書を添付することを要しない。

 

今国会に提出されている法律案による改正点

 今国会に提出されている労働者派遣法の改正案によれば、改正後「一般労働者派遣事業及び特定労働者派遣事業」の区分を廃止し、労働者派遣事業として一元化し、かつ、他法に規定される場合を除き、経過措置を設けて全て許可制に変更することとなっています。これは、労働契約法の改正により、いわゆる有期労働契約の労働者が激減することが見込まれるためです。

 

 ところで、特定労働者派遣事業における「常時雇用される派遣労働者」の解釈は次のようになっています。

◇「常時雇用される」とは、雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者のことをいう。
 ・具体的には、次のいずれかに該当する場合に限り「常時雇用される」に該当する。
 ① 期間の定めなく雇用されている者
 ② 一定の期間(例えば、2か月、6か月等)を定めて雇用されている者であって、その雇用期間が反復継続されて事実上①と同等と認められる者。すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者
 ③ 日日雇用される者であって、雇用契約が日日更新されて事実上①と同等と認められる者。すなわち、②の場合と同じく、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者
 なお、雇用保険の被保険者とは判断されないパートタイム労働者であっても、①から③までのいずれかに該当すれば「常時雇用される」と判断するものであるので留意すること。
◇一般労働者派遣事業
 派遣労働を希望する労働者を登録しておき、労働者派遣をするに際し、当該登録されている者の中から期間の定めのある労働者派遣をするいわゆる登録型の労働者派遣事業は、一般労働者派遣事業の典型的な形態であり、当該登録型の事業が当該事業所において行われる事業に含まれている場合は、一般労働者派遣事業である。
◇ 「常時雇用される」労働者以外の者が派遣労働者(業として行われる労働者派遣の対象となるものに限る。)の中に存在する場合は、一般労働者派遣事業となる。しかしながら、通常は常時雇用される労働者を労働者派遣することを業として行っている者については、臨時的な理由により、たまたま一時的に常時雇用される労働者以外の労働者を労働者派遣する場合であっても、今後とも、常時雇用される労働者以外の者を、反復して労働者派遣する意図が客観的に認められないときは特定労働者派遣事業としての取扱いを変える必要はないものであるので留意すること。

 

業務取扱要領(特定労働者派遣事業の届出等)

(1) 特定労働者派遣事業の届出
   特定労働者派遣事業を行おうとする者は、厚生労働大臣に対して届出書を提出しなければならない(法第16 条第1項)。
   イの届出書の提出は、(3)に掲げる届出関係書類を事業主管轄労働局に提出することにより行う(法第16 条、則第11 条第1項から第3項まで、則第19 条)。
 なお、届出は「事業主」ごとに行うものであるが、事業主の届出に際しては特定労働者派遣事業を行おうとする事業所について届出書に記載するとともに、事業所ごとに事業計画書等の書類を提出することが必要である(法第16 条第2項及び第3項)。
   届出書の提出を受けた事業主管轄労働局においては、速やかに(5)の欠格事由について、(3)に掲げる届出関係書類等により確認し、その結果を本省に報告する(5の(2)参照)。
   なお、事業主としては、一般労働者派遣事業を行う事業所と特定労働者派遣事業を行う事業所の双方を持ちうるが、同一の事業所において一般労働者派遣事業と特定労働者派遣事業の双方を行いうるものではない(第1の3の(4)参照)。
   届出に際し、特定製造業務を行う場合には、その旨を記載した届出書を提出しなければならない。
(2) 「事業所」の意義
 一般労働者派遣事業の場合と同様である(第4の1の(2)参照)。
(3) 届出関係書類
 特定労働者派遣事業の届出関係書類は法人及び個人の区分に応じ次のイ及びロのとおりとする(法第16 条、則第11 条第1項から第3項まで。なお、特定労働者派遣事業関係手続に要する書類の総括については6参照)。
  法人の場合
 (イ) 特定労働者派遣事業届出書(様式第9号)
 (ロ) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業計画書(様式第3号)
 (ハ) 定款又は寄附行為
 (ニ) 登記事項証明書
 (ホ) 役員の住民票の写し及び履歴書
 (ヘ) 役員が未成年者の場合は、第4の1の(3)のイの(ヘ)に定める書類
 (ト) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの個人情報適正管理規程(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の10 の(2)のハの(イ)から(ニ)までの内容が含まれていることが必要(第8の23 参照)。)
 (チ) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの事業所の使用権を証する書類(不動産の登記事項証明書又は不動産賃貸借(使用貸借)契約書の写し)
 (リ) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの派遣元責任者の住民票の写し及び履歴書(派遣元責任者と役員が同一である場合においては、提出を要しない。また、届出者が一般労働者派遣事業を行っている場合において、当該届出者が一般労働者派遣事業を行っている他の事業所の派遣元責任者を移動させ、届出に係る事業所の派遣元責任者として引き続き選任するときは、履歴書(選任する派遣元責任者の住所に変更がないときは、住民票の写し及び履歴書)を添付することを要しない。)
 ロ  個人の場合
 (イ) 特定労働者派遣事業届出書(様式第9号)
 (ロ) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの特定労働者派遣事業計画書(様式第3号)
 (ハ) 住民票の写し及び履歴書
 (ニ) 届出者が未成年者の場合は、第4の1の(3)のロの(ニ)に定める書類
 (ホ) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの個人情報適正管理規程(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の10 の(2)のハの(イ)から(ニ)までの内容が含まれていることが必要(第8の23 参照)。)
 (ヘ) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの事業所の使用権を証する書類(不動産の登記事項証明書又は不動産賃貸借(使用貸借)契約書の写し)
 (ト) 特定労働者派遣事業を行う事業所ごとの派遣元責任者の住民票の写し及び履歴書(派遣元責任者と届出者が同一である場合においては、提出を要しない。また、届出者が一般労働者派遣事業を行っている場合において、当該届出者が一般労働者派遣事業を行っている他の事業所の派遣元責任者を移動させ、届出に係る事業所の派遣元責任者として引き続き選任するときは、履歴書(選任する派遣元責任者の住所に変更がないときは、住民票の写し及び履歴書)を添付することを要しない。)
 ハ 一般派遣元事業主又は法第5条第1項による一般労働者派遣事業の許可の申請をしている者が、特定労働者派遣事業の届出をするに際しては、イの(ハ)及び(ニ)、(ホ)のうち役員の住民票の写し及び履歴書(法人の場合)又はロの(ハ)のうち住民票の写し及び履歴書(個人の場合)を添付することを要しない(則第11 条第4項)。
   イ及びロに掲げる書類のうち、イの(イ)及び(ロ)並びにロの(イ)及び(ロ)に掲げる書類は、正本一通及びその写し二通を提出することを要するが、それ以外の書類については、正本一通及びその写し一通で足りる(則第20 条)(第3の2の(2)参照)。
(4) 法人の「役員」の意義等
 一般労働者派遣事業の場合と同様である(第4の1の(4)参照)。
(5) 事業開始の欠格事由
  概要
 事業開始の欠格事由に該当する者は、新たに特定労働者派遣事業の事業所を設けて当該特定労働者派遣事業を行ってはならない(法第17 条)。
 ロ 意義
 (イ) 特定労働者派遣事業は届出書を厚生労働大臣に提出すれば行えるものである。
 (ロ) しかしながら、一般労働者派遣事業と同様欠格事由に該当する場合は法を遵守し、派遣労働者の保護と雇用の安定及び労働力需給調整システムとしての当該事業の適正な運営が期待し得ず、欠格事由に該当する者の特定労働者派遣事業が行えないものとしたものである。
 (ハ) 「新たに特定労働者派遣事業の事業所を設けて当該特定労働者派遣事業を行ってはならない」とは、届出書を提出して特定労働者派遣事業を開始することを禁止するものであり、従来から一定の事業所で何らかの事業を行っていた者が欠格事由に該当するにもかかわらず事業所を新設せず、当該一定の事業所で特定労働者派遣事業を開始することを許容するものではないので留意すること。
 (ニ) また、特定労働者派遣事業の届出書が提出されても、当該届出者が事業開始の欠格事由に該当し、かつ、当該届出の誓約に係る記載が法第61 条第1号の虚偽の記載に該当することが、既に明らかになっている場合、当該届出は必要な内容を備えていないものであるため受理できないものである。
  事業開始の欠格事由
 事業開始の欠格事由は、一般労働者派遣事業の許可の欠格事由と同様である(第4の1の(5)の「許可の欠格事由」参照)。
   特定労働者派遣事業の届出を行った者が、事業開始の欠格事由に該当するときは、当該労働者派遣事業の廃止を命ずることとなる(法第21 条第1項。第13 の2の(3)のイ参照)。
(6) 届出の受理
   届出書を受理したときは、特定労働者派遣事業届出書(様式第9号)の写しに(7)により付与された届出受理番号及び届出受理年月日を記載するとともに、当該写しに次の記載例により特定労働者派遣事業届出書が受理された旨を記載し、当該写し及び特定労働者派遣事業計画書(様式第3号)の写しそれぞれ一通を届出者に対して控えとして交付する(第3の2の(2)参照)。
 ロ (5)ロ(ニ)に該当していることにより、届出者に係る届出書を受理できない場合は次の様式により、特定労働者派遣事業の届出が受理できない旨の書面を作成し、当該届出者に対して交付する。 
(7) 届出受理番号の付与
    届出受理事業主については、次の特定労働者派遣事業届出受理番号設定要領に従い、当該事業主固有の届出受理番号を付与すること。この場合、当該届出受理番号はその後、事業主の住所の変更等により事業主管轄労働局が変更される場合を除き、変更されることのないこと。
   特定労働者派遣事業の届出を受理した旨を記載した通知書((6)のイ参照)には、当該届出受理番号を必ず記載すること。
(9) 違反の場合の効果
   (1)のイに違反して、届出書を提出しないで特定労働者派遣事業を行った者は、法第60 条第1号に該当し、6か月以下の懲役又は30 万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13 の1参照)。
 なお、適用除外業務については、そもそも労働者派遣事業の許可、届出ということが想定されないものであり、適用除外業務について、無許可で、又は届出をせず労働者派遣事業を行った者は、適用除外業務について労働者派遣事業を行った者として、法第59 条第1号に該当し、処罰の対象となるものである(第2の2の(6)、第13 の1参照)。
   (1)のイ又はロの届出書又は届出関係書類に虚偽の記載をして提出した者は、法第61 条第1号に該当し、30 万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13 の1参照)。
   また、上記イ又はロの場合、法に違反するものとして、事業停止命令(法第21 条第2項)、改善命令(法第49 条第1項)の対象となり、イ又はロの司法処分を受けた場合は事業廃止命令(法第21 条第1項)の対象となる(第13 の2参照)。
(10) 書類の備付け等
  概要
 特定派遣元事業主は、当該届出書を提出した旨その他の事項を記載した書類を、特定労働者派遣事業を行う事業所ごとに備え付けるとともに、関係者から請求があったときは提示しなければならない(法第18 条)。
   意義
 (イ) 当該書類の備付け及び提示は、一般労働者派遣事業の許可証と同様(第4の4の(1)のハ参照)に、特定労働者派遣事業を行う者が適法に事業活動を行っていることを関係者に知らせるための措置である。
 (ロ) 「関係者」とは、一般労働者派遣事業における関係者と同様である(第4の4の(1)のロ参照)。
   届出書を提出した旨その他の事項を記載した書類
 (イ) 「届出書を提出した旨」は、届出書を提出した場合に交付される届出受理番号を記載させることにより確実に示すこととする。
 (ロ) 「その他の事項」は次に掲げるものとする(則第12 条)。
 ① 氏名又は名称及び法人にあっては、その代表者の氏名
 ② 事業所の名称及び所在地
 (ハ) 当該書類については新たに所定の事項を記載、作成したものであることを要件としているわけではなく、所定の事項が記載されていればいかなる様式によっても、また複数の書類によってもその要件を満たすものであれば足りるものである。このため、当該書類の備付け及び提示について、特定労働者派遣事業届出書の写し(1の(6)参照)及び法第 19 条の規定による変更の届出を行った場合には、当該届出により交付される書類(2の(3)参照)の複写によって行っても差し支えない。
 (ニ) 書面によらず電磁的記録により当該書類の作成を行う場合は、電子計算機に備えられたファイルに記録する方法又は磁気ディスク、シーディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物(以下「磁気ディスク等」という。)をもって調製する方法により作成を行わなければならない。
 また、書面によらず電磁的記録により当該書類の備付けを行う場合は、次のいずれかの方法によって行った上で、必要に応じ電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにしなければならない。
 a  作成された電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
 b  書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
 さらに、電磁的記録により当該書類の備付けをしている場合において、当該書類の提示を行うときは、当該事業所に備え置く電子計算機の映像面における表示又は当該電磁的記録に記録された事項を出力した書類により行わなければならない。
  違反の場合の効果
 イに違反して当該書類を事業所に備え付けず、又は関係者からの請求があったときにこれを提示しなかった場合、特定派遣元事業主は事業停止命令(法第21 条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13 の2参照)。
(11) 労働者派遣事業制度に係る周知
 事業主管轄労働局においては、(6)イにより届出を受理した後、当該事業主に対して第4の1
(12)イ~ハの内容により適正な労働者派遣事業の運営に係る講習を実施するものとする。
 なお、当該講習については、労働基準行政、雇用均等行政、職業安定行政内の公正採用選考担当部門等との必要な連携を図りつつ実施すること。

 

業務取扱要領(特定労働者派遣事業の変更届)

1) 特定労働者派遣事業の変更の届出
  特定派遣元事業主が次に掲げる事項を変更したときは、事業主管轄労働局を経て、厚生労働大臣に対して、変更の届出をしなければならない。ただし、事業所における次の⑥から⑫までに掲げる事項の変更のみを届け出るときは、当該変更後の事業所管轄労働局へ届出を行うことも差し支えない(法第19 条、則第19 条)。
 ① 氏名又は名称、② 住所、③ 代表者の氏名、④ 役員(代表者を除く。)の氏名、⑤ 役員の住所、⑥ 特定労働者派遣事業を行う事業所の名称、⑦ 特定労働者派遣事業を行う事業所の所在地、⑧ 特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者の氏名、⑨ 特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者の住所、⑩ 特定労働者派遣事業を行う事業所における特定製造業務(第4の1の(1)のホ参照)への労働者派遣の開始・終了、⑪ 特定労働者派遣事業を行う事業所の新設(事業所における特定労働者派遣事業の開始)、⑫ 特定労働者派遣事業を行う事業所の廃止(事業所における特定労働者派遣事業の終了)
   イの①から⑫まで((⑧及び⑨を除く。)の変更の届出は、当該変更に係る事項のあった日の翌日から起算して10 日以内に、イの⑧及び⑨の変更の届出は、当該変更に係る事項のあった日の翌日から起算して30 日以内に、(2)に掲げるイからヲまでの区分に応じた変更届出関係書類を事業主管轄労働局又は事業所管轄労働局に提出することにより行う(則第14 条第1項)。なお、イの②及び⑦の変更(同一労働局の管轄区域内の変更を除く。)の場合は、事業主管轄労働局又は事業所管轄労働局とは、変更後のものを言うものである。
 なお、⑪の届出に関しては、届出に不備のないよう、当該事業所において特定労働者派遣事業を開始する前に事業主管轄労働局又は事業所管轄労働局へ、事業計画の概要、派遣元責任者となる予定の者等についてあらかじめ説明するよう指導するものとすること(当該説明については、事前に届け出ようとする変更届出関係書類を提出することで足りる)。
   イの変更の届出については、イの①から⑫までの事項のうち複数の事項の変更を1枚の届出書により行うことができる(この場合(2)に掲げる変更届出関係書類のうち重複するものにつき省略することができる。)。
  イの②、⑤、⑦及び⑨の事項について、単に市町村合併や住居番号の変更により住所又は所在地に変更が生じた場合には、当該変更に係る変更届出書を提出することを要しない。
(2) 変更届出関係書類
 特定労働者派遣事業の変更届出関係書類は、(1)のイの①から⑫までに掲げる変更された事項の区分に応じ、当該事項に係る次のイからヲまでに掲げる書類とする(則第14 条第1項。また、特定労働者派遣事業関係手続に要する書類の総括については6参照)。
   氏名又は名称の変更
 (イ) 法人の場合(名称の変更)
   a  特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  b  定款又は寄附行為
  c  登記事項証明書
 (ロ) 個人の場合(氏名の変更)
  a 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  b 住民票の写し及び履歴書
  住所
 (イ) 法人の場合
  a 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  b 定款又は寄附行為(ただし、法人の所在地に変更が加えられた場合に限る。)
  c 登記事項証明書
 (ロ) 個人の場合
  a 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  b 住民票の写し及び履歴書
   代表者の氏名(法人の場合のみ)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
 (ロ) 登記事項証明書
 (ハ) 代表者の住民票の写し及び履歴書(氏名のみの変更の場合は不要。)
 (ニ) 代表者が未成年の場合は、1の(3)のイの(ヘ)に定める書類
  役員(代表者を除く。)の氏名(法人の場合のみ)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
 (ロ) 登記事項証明書
 (ハ) 役員の住民票の写し及び履歴書(氏名のみの変更の場合は不要。)
 (ニ) 役員が未成年者の場合は、1の(3)のイの(ヘ)に定める書類
  役員の住所(法人の場合のみ)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
 (ロ) 登記事項証明書(代表者を除く役員の変更の場合、不要)
 (ハ) 役員の住民票の写し
  特定労働者派遣事業を行う事業所の名称
 (イ) 法人の場合
  a 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  b 定款又は寄附行為(事業所の名称の変更に伴い変更が加えられる場合に限る。)
  c 登記事項証明書(事業所の名称の変更に伴い変更が加えられた場合に限る。)
 (ロ) 個人の場合
 ・ 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  特定労働者派遣事業を行う事業所の所在地
 (イ) 法人の場合
  a 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  b 定款又は寄附行為(事業所の所在地の変更に伴い変更が加えられた場合に限る。)
  c 登記事項証明書(事業所の所在地の変更に伴い変更が加えられた場合に限る。)
  d 事業所の使用権を証する書類(不動産の登記事項証明書又は不動産賃貸借
  (使用貸借)契約書の写し)
 (ロ) 個人の場合
  a 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  b 事業所の使用権を証する書類(不動産の登記事項証明書又は不動産賃貸借
  (使用貸借)契約書の写し)
  特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者の氏名(法人・個人の場合共通)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
 (ロ) 派遣元責任者の住民票の写し及び履歴書(氏名のみの変更の場合、不要。また当該特定派遣元事業主が複数の事業所において一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業を行っている場合において、他の一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者を移動させ、変更の届出に係る事業所の派遣元責任者として引き続き選任するときは、履歴書(選任した派遣元責任者の住所に変更がないときは、住民票の写し及び履歴書)を添付することを要しない。)
  特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者の住所(法人・個人の場合共通)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
 (ロ) 派遣元責任者の住民票の写し
   特定労働者派遣事業を行う事業所における特定製造業務への労働者派遣の開始・終了
 (法人・個人の場合共通)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  特定労働者派遣事業を行う事業所の新設(法人・個人の場合共通)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
 (ロ) 新設する事業所ごとの特定労働者派遣事業計画書(様式第3号)
 (ハ) 新設する事業所ごとの個人情報適正管理規程(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の10 の(2)のハの(イ)から(ニ)までの内容が含まれていることが必要(第8の23 参照)。)
 (ニ) 新設する事業所ごとの事業所の使用権を証する書類(不動産の登記事項証明書又は不動産賃貸借(使用貸借)契約書の写し)
 (ホ) 新設する事業所ごとの派遣元責任者の住民票の写し及び履歴書(派遣元責任者と役員が同一である場合においては、提出を要しない。また、特定派遣元事業主が複数の事業所において一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業を行っている場合において、他の一般労働者派遣事業又は特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者を移動させ、当該新設する事業所の派遣元責任者として引き続き選任するときは、履歴書(選任した派遣元責任者の住所に変更がないときは、住民票の写し及び履歴書)を添付することを要しない。)
  特定労働者派遣事業を行う事業所の廃止(事業所における特定労働者派遣事業の終了)(法人・個人の場合共通)
 (イ) 特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)
  ただし、届出者が、一般労働者派遣事業を行う事業所を有しており、法第11 条第1項の規定による変更の届出(第4の3参照)において、当該変更に係る書類として、以下の書類を添付したときは、特定労働者派遣事業に係る当該変更の届出についてはこれらの書類を添付することを要しない(則第14 条第1項)。
 (イ) 届出者が法人である場合
 ・ 定款又は寄附行為
 ・ 登記事項証明書
 ・ 役員の住民票の写し及び履歴書
 (ロ) 届出者が個人である場合
 ・ 住民票の写し及び履歴書
  イからヲまでに掲げる書類のうち特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)については、正本一通及びその写し二通を提出することを要するが、それ以外の書類については、正本一通及びその写し一通を提出することで足りる(則第20 条)(第3の2の(2)参照)。
(3) 変更の届出の受理
 (1)の特定労働者派遣事業の変更の届出を受理したときは、特定労働者派遣事業変更届出書(様式第10 号)の写し一通を届出者に控えとして交付する(第3の2の(2)参照)。
(5) 違反の場合の効果
   特定労働者派遣事業の変更の届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、法第61 条第2号に該当し、30 万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13 の1参照)。
   また、法に違反するものとして、事業停止命令(法第21 条第2項)、改善命令(法第49 条第1項)の対象となり、イの司法処分を受けた場合は、事業廃止命令(法第21 条第1項)の対象となる(第13 の2参照)。

 

逐条考察

1.第16条 特定労働者派遣事業の届出

 特定労働者派遣事業を行おうとするものは、特定労働者派遣事業届出書(様式第九号)を管轄労働局を

経由して厚生労働大臣に提出します。

 なお、届出は「事業主」ごとに行うものであるが、事業主の届出に際しては特定労働者派遣事業を

行おうとする事業所について届出書に記載するとともに、事業所ごとに事業計画書等の書類を提出す

ることが必要となっています。

 また、同一の事業所において一般労働者派遣事業と特定労働者派遣事業の双方を行いうるものでは

ないとされ、いわゆる登録型労働者派遣を行う場合には、その事業所は一般労働者派遣事業としての

許可を得る必要があります。

 従って、特定労働者派遣事業の届出を行った事業所に所属する派遣労働者は、すべて常時雇用され

る労働者ということになります。

(1)特定労働者派遣事業届出書の様式及び添付書類(法人の場合、個人事業の場合省略)

 (イ) 特定労働者派遣事業届出書(様式第9号)
 (ロ) 事業計画書(様式第3号)
 (ハ) 定款又は寄附行為
 (ニ) 登記事項証明書
 (ホ) 役員の住民票の写し及び履歴書
 (ヘ) 役員が未成年者の場合は、役員甲の法定代理人の定款又は寄附行為、登記事項証明書
  並びに役員の住民票の写し及び履歴書
 (ト)事業所ごとの個人情報適正管理規程
 (チ) 事業所ごとの事業所の使用権を証する書類
 (リ) 事業所ごとの派遣元責任者の住民票の写し及び履歴書

   ※他の事業所で一般労働者派遣事業の派遣元責任者として書類を提出済みの場合は不要
ただし、一般労働者派遣事業の許可の申請をしている者が、特定労働者派遣事業の届出を行う場合は、(ハ)及び(ニ)、(ホ)のうち役員の住民票の写し及び履歴書を添付することを要しないこと。

 

2.特定労働者派遣事業の届出事業者の欠格事由

 事業開始の欠格事由は、一般労働者派遣事業の許可の欠格事由と同様であるとされています。

項目のみをまとめると次のような内容となります。

・法人の欠格事由の概要は次の通りです。(法人の欠格事由のみ。個人の欠格事由は省略)

(1)次のイからハまで及びトからヲまでの規定に違反し又はニ、ホ及びへの罪を犯したことにより、

罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を

経過していない場合

 イ 労働者派遣法の規定に違反した場合

 ロ 労働関係法の一部の規定に違反した場合

   ①労働基準法の一部(第117 条、第118 条第1項ほか)

   ②職業安定法の一部(第63 条、第64 条ほか)

   ③最低賃金法の一部(第40 条他)

   ④建設労働者の雇用の改善等に関する法律の一部(第49条、第50条、第51条ほか)

   ⑤賃金の支払の確保等に関する法律の一部(第18条ほか)

   ⑥港湾労働法の一部(第48 条、第49 条)

   ⑦中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の

    改善の促進に関する法律の一部(第19 条、第20 条)

   ⑧育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の一部
   (第62 条、第63 条)
   ⑨林業労働力の確保の促進に関する法律の一部(第32 条、第33 条ほか)
   ⑩労働安全衛生法の一部(第119 条及び第122 条)

 ハ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部に違反した場合

 ニ 刑法の一部に違反した場合(第204 条、第206 条、第208 条ほか)

 ホ 暴力行為等処罰に関する法律に違反した場合

 ヘ 出入国管理及び難民認定法の一部に違反した場合

 ト 健康保険法の一部に違反した場合(第208 条、第213 条ほか)

 チ 船員保険法の一部(第156 条、第159 条ほか)

 リ 労働者災害補償保険法の一部

 ヌ 厚生年金保険法の一部(第102 条第1項、第103 条の2ほか)

 ル 労働保険の保険料の徴収等に関する法律の一部

 ヲ 雇用保険法の一部

※執行猶予の取扱は、猶予期間を無事経過することによって直ちに欠格事由を離脱する(不該当となる)とされています。

※法人の両罰規定に関しては、法人については、罰金刑しか存在しないので、処罰の根拠となる法規

 定は、上記イ及びロ並びにヘからヲに該当した場合のみ欠格となります。

(2)当該法人が破産者で復権していない場合

(3)一般労働者派遣事業の許可を取り消され、又特定労働者派遣事業の廃止を命じられ、当該取消し又は命令の日から起算して5年を経過していない場合

(4)一般労働者派遣事業の許可の取消し又は特定労働者派遣事業の廃止の命令の処分に係る行政手続

法)第15 条の規定による通知があった日から当該処分をする日又は処分をしないことを決定する日ま

での間に一般労働者派遣事業の廃止の届出又は特定労働者派遣事業の廃止の届出をした場合で、当該

届出の日から起算して5年を経過しない場合に欠格事由に該当する

(5)暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者にその事業活動を支配されている場合

(6)暴力団員等をその業務に従事させ、又はその業務の補助者として使用するおそれのある場合

(7)役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他

いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこ

れらに準ずる者と同等以上の支配力を有するもの))が次のいずれかに該当する者がある場合

 ア 禁固以上の刑に処せられ、又は前記のイからハまで及びトからヲまでの規定に違反し又はニ、ホ及びヘの罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過していない者

 イ 成年被後見人、被保佐人又は破産者で復権していない者

 ウ 取消し又は命令の処分を受ける原因となった事項が発生した当時現に当該法人の役員であった

 者で、当該取消し又は命令の日から起算して5年を経過しないもの

 エ 一般労働者派遣事業の廃止の届出又は特定労働者派遣事業の廃止の届出をした者が法人である場合において、当該法人の役員であった者で、当該届出の日から起算して5年を経過しないもの

 オ 暴力団員等

 カ 一般労働者派遣事業について法定代理人から営業の許可を受けていない未成年者であって、その法定代理人(当該法人の役員)が上記イからカまでのいずれかに該当する者又はその法定代理人が上記(1)から(4)までのいずれかに該当する者

 

3.特定労働者派遣事業の届出に係る届出事業者の書類の具備

・書類の備付け等
 当該書類の備付け及び提示は、一般労働者派遣事業の許可証と同様に、特定労働者派遣事業を行う者が適法に事業活動を行っていることを関係者に知らせるための措置である。
※「関係者」とは、一般労働者派遣事業における関係者と同様である。
 特定労働者派遣事業所の事業所における書類の備付け及び提示について、特定労働者派遣事業届出書の写し及び変更の届出により交付される書類の複写によって行っても差し支えない。
 (ニ) 書面によらず電磁的記録により当該書類の作成を行う場合は、電子計算機に備えられたファイルに記録する方法又は磁気ディスク、シーディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物(以下「磁気ディスク等」という。)をもって調製する方法により作成を行わなければならない。
 また、書面によらず電磁的記録により当該書類の備付けを行う場合は、次のいずれかの方法によって行った上で、必要に応じ電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにしなければならない。
 a  作成された電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
 b  書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
 さらに、電磁的記録により当該書類の備付けをしている場合において、当該書類の提示を行うときは、当該事業所に備え置く電子計算機の映像面における表示又は当該電磁的記録に記録された事項を出力した書類により行わなければならない。
 法第18条に違反して当該書類を事業所に備え付けず、又は関係者からの請求があったときにこれを提示しなかった場合、特定派遣元事業主は事業停止命令、改善命令の対象となる。

 

4.特定労働者派遣事業者の届出事項の変更届

 特定派遣元事業主が次に掲げる事項を変更したときは、管轄労働局を経て、厚生労働大臣に対し

て、変更の届出をしなければならない。

  ① 氏名又は名称、

  ② 住所、③ 代表者の氏名、(変更の翌日から10日以内)

  ④ 役員(代表者を除く。)の氏名、(変更の翌日から10日以内)

  ⑤ 役員の住所、(変更の翌日から10日以内)

  ⑥ 特定労働者派遣事業を行う事業所の名称、(変更の翌日から10日以内)

  ⑦ 特定労働者派遣事業を行う事業所の所在地、(変更の翌日から10日以内)

  ⑧ 特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者の氏名、(変更の翌日から30日以内)

  ⑨ 特定労働者派遣事業を行う事業所の派遣元責任者の住所、(変更の翌日から30日以内)

  ⑩ 特定労働者派遣事業を行う事業所における特定製造業務 

  (第4の1の(1)のホ参照)への労働者派遣の開始・終了、(変更の翌日から10日以内)

  ⑪ 特定労働者派遣事業を行う事業所の新設

  (事業所における特定労働者派遣事業の開始)、(変更の翌日から10日以内)

  ⑫ 特定労働者派遣事業を行う事業所の廃止

  (事業所における特定労働者派遣事業の終了)(変更の翌日から10日以内)

ただし、事業所における次の⑥から⑫までに掲げる事項の変更のみを届け出るときは、当該変更後の事業所管轄労働局へ届出を行うことも差し支えないこと

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第16条・第17条・第18条・第19条を終了します。

 

追記

今般の改正で、原則的に全ての労働者派遣事業を許可制に変更する理由としては、事業者の誤解や恣

意により、専ら常用派遣労働者を使用している(若干登録型派遣労働者は所属しているが・・・)事

業者が、登録みので事業を行っている恐れがあるものと推定します。届出と許可の書類はほぼ同一で

あり、行政側からみても、事実上同一の運用を行っているのではないかと思います。全て許可(他法

の規定で届出となっている場合を除きます。)とすることは、一定の合理性を持つはずですから、一

般・特定の一元化についての改正は行うべきものと思料いたします。

 

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労働者派遣法第13条、第14条、第15条

2015年06月15日 14:36

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

第13条(事業の廃止

 一般派遣元事業主は、当該一般労働者派遣事業を廃止したときは、遅滞なく、厚生労働省令で定めるところにより、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。

2 前項の規定による届出があつたときは、第五条第一項の許可は、その効力を失う。

 

則第10条(廃止の届出)

 法第十三条第一項の規定による届出をしようとする者は、当該一般労働者派遣事業を廃止した日の翌日から起算して十日以内に、一般労働者派遣事業を行うすべての事業所に係る許可証を添えて、一般労働者派遣事業廃止届出書(様式第八号)を厚生労働大臣に提出しなければならない。

 

第14条(許可の取消し等

 

 厚生労働大臣は、一般派遣元事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、第五条第

一項の許可を取り消すことができる。

一 第六条各号(第四号から第七号までを除く。)のいずれかに該当しているとき。

二 この法律(第二十三条第三項、第二十三条の二及び次章第四節の規定を除く。)若しくは職業安定法の規定又はこれらの規定に基づく命令若しくは処分に違反したとき。

三 第九条第一項の規定により付された許可の条件に違反したとき。

四 第四十八条第三項の規定による指示を受けたにもかかわらず、なお第二十三条第三項又は第二十三条の二の規定に違反したとき。

2 厚生労働大臣は、一般派遣元事業主が前項第二号又は第三号に該当するときは、期間を定めて当該一般労働者派遣事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。

 

第15条(名義貸しの禁止

 一般派遣元事業主は、自己の名義をもつて、他人に一般労働者派遣事業を行わせてはならない。

 

業務取扱要領(事業廃止届出手続

(1) 一般労働者派遣事業の廃止の届出
   一般派遣元事業主は、一般労働者派遣事業を廃止したときは、当該廃止の日の翌日から起算して10 日以内に、一般労働者派遣事業を行う全ての事業所に係る許可証を添えて事業主管轄労働局を経て、一般労働者派遣事業廃止届出書(様式第8号)を厚生労働大臣に提出しなければならない(法第13 条第1項、則第9条)。
  一般労働者派遣事業廃止届出書(様式第8号)は、正本一通及びその写し二通を提出しなければならない(則第20 条)。
   なお、「廃止」とは「休止」とは異なる概念であり、今後事業を行わないことを一般派遣元事業主が決定し、現実に行わないこととなったことが必要である。
(2) 事業廃止の届出の受理
 一般労働者派遣事業の廃止の届出を受理したときは、一般労働者派遣事業廃止届出書(様式第8号)の写し一通を届出者に控えとして交付する(第3の2の(2)参照)。
(3) 許可の効力
 (1)の届出により、一般労働者派遣事業の許可はその効力を失う(法第13 条第2項)ので、たとえ許可の有効期間が残っていたとしても、当該廃止の届出の後、再び一般労働者派遣事業を行おうとするときは、新たに許可を受け直す必要がある。
(4) 事業所台帳の整備等
   一般労働者派遣事業廃止届を受理したときは、事業主管轄労働局は、当該事業主に係る全ての事業所管轄労働局へ、届出書の複写を送付する等により連絡するものとする。事業所台帳等については当該廃止を行った旨の記載を行う。
   一般労働者派遣事業の廃止後においても、労働者の権利関係、労働関係に関する紛争の解決、監督上の必要から当該台帳を別途保存しておくこと(第3の5の(3)参照)。

 

業務取扱要領(名義貸しの禁止)

(1) 名義貸し禁止の意義
 一般労働者派遣事業は、欠格事由に該当せず、事業遂行能力、雇用管理能力等について許可基準に照らして審査を受けた事業主が自ら行うものでなければ許可制度自体の維持が困難となるため、一般派遣元事業主について許可を受けた自分の名義を他人に貸して一般労働者派遣事業を行わせることが禁止される(法第15 条)。
(2) 違反の場合の効果
 一般労働者派遣事業につき名義貸しを行った者は、法第59 条第1号に該当し、1年以下の懲役又は100 万円以下の罰金に処せられる場合がある(第13 の1参照)。また法に違反するものとして、許可の取消し(法第14 条第1項)、事業停止命令(法第14 条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となる(第13 の2参照)。
 
事業所廃止に類する場合の取扱い
(1) 個人事業主が死亡した場合の取扱い
 個人事業主が死亡した場合であって、その同居の親族又は法定代理人からその旨が届け出られた場合には、当該届出者の責任において、当該事実のあった日現在有効な労働者派遣契約に基づく労働者派遣に限り、当該事実のあった日から30 日間継続しても差し支えないものとする。また、当該期間内に当該事業を継続しようとする者から一般労働者派遣事業の許可申請がなされた場合には、その時点で明らかに当該許可申請を許可できないと判断される場合を除き、許可が決定されるまでの間も当該労働者派遣契約に係る労働者派遣を継続実施することを認めて差し支えないものとする。なお、この場合、4の(3)のロ、ハの取扱いは行わないものとする。
(2) 法人の合併等に際しての取扱い
 法人の合併等に際し、消滅する法人(以下「消滅法人」という。)が一般労働者派遣事業の許可(以下(2)において単に「許可」という。)を有しており、当該消滅法人の事業所において、合併後存続する法人(以下「存続法人」という。)又は合併により新たに設立される法人(以下「新設法人」という。)が引き続き一般労働者派遣事業を行おうとする場合等には、通常の許可又は変更の手続では当該事業の継続的な実施に支障が生じ、派遣労働者の保護に欠けるおそれがあること等から、次のとおり取り扱うこととし、許可申請等必要な手続を行うよう指導するものとする。
  吸収合併の場合の取扱い
 (イ) 合併前に存続法人が許可を受けておらず、かつ、消滅法人が許可を受けている場合であって、合併後に存続法人が一般労働者派遣事業を行うときは、新規許可申請が必要となる。
  この場合、一般労働者派遣事業の許可の期間に空白が生じることを避けるため、許可申請に当たっては、例えば合併を議決した株主総会議事録等により合併が確実に行われることを確認することにより、合併の日付と同日付けで許可することが可能となるよう、存続法人において事前に許可申請を行わせることとする。
 その際、合併により、事業開始予定日まで又は事業開始予定日付けで、法人の名称、住所、代表者、役員、派遣元責任者が変更するときであって、これらについて、許可申請時に合併を議決した株主総会議事録等により当該変更が確認できるときは、一般労働者派遣事業許可申請書(様式第1号)においては、変更後のものを記載させ、変更後直ちに、その内容に違いがなかった旨を報告させるものとする。
 (ロ) 合併前に存続法人が許可を受けている場合であって、合併後に存続法人が一般労働者派遣事業を行うときは、新規許可申請を行う必要はないが、合併により法人の名称等に変更がある場合には、変更の届出を行わせることが必要である。この場合において、合併後の存続法人の事業所数が、合併前の存続法人の事業所数を超えることとなるときは、事業所の新設に係る届出を行わせることが必要である。
 (ハ) (ロ)の場合において、存続法人及び消滅法人が合併前に許可を受けており、かつ、当該消滅法人の事業所において、合併後に存続法人が引き続き一般労働者派遣事業を行うときは、次のとおりとする。
 a 当該合併により、合併後の存続法人の事業所数が、合併前の存続法人及び消滅法人の事業所数を合算した数以下であるときは、許可基準の特例として、3の(5)のホにかかわらず、当該事業所の新設をすることができるものとする。
 b 当該合併により、合併後の存続法人の事業所数が、合併前の存続法人及び消滅法人の事業所数を合算した数を超えることとなるときは、3の(5)のホのとおり取り扱う。
  新設合併の場合の取扱い
 (イ) 新設合併の場合(合併する法人がすべて解散し、それと同時に新設法人が成立する場合)には、合併後に新設法人が一般労働者派遣事業を行うときは、新規許可申請が必要となる。
  この場合、イの(イ)と同様の手続により事前に許可申請を行わせることとするが、申請時には新設法人の主体はないため、特例的に合併後の予定に基づいて申請書等を記載させるものとし、新設法人の成立後直ちに、その内容に違いがなかった旨を報告させるものとする。
 (ロ) なお、全ての消滅法人が合併前に許可を受けており、かつ、当該消滅法人の事業所において、合併後に新設法人が引き続き一般労働者派遣事業を行うときであっても、財産的基礎に関する判断に係る許可基準については、通常どおり取り扱うこととする。
  吸収分割の場合の取扱い
  既に存在する他の法人に、分割する法人の営業を継承させる吸収分割の場合には、イに準じて取り扱うものとする。
  なお、分割する法人について事業所数等が変更したときは、変更の届出又は事業の廃止の届出を行わせることが必要である。
   新設分割の場合
  分割により新たに創設した法人(以下「分割新設法人」という。)に、分割する法人の営業を承継させる新設分割(会社法第2条第30 号)の場合には、分割する法人が一般労働者派遣事業の許可を有している場合であっても、分割新設法人が一般労働者派遣事業を行う場合は新規許可申請が必要となり、ロの(イ)及び(ロ)に準じて取り扱うものとする。
  なお、分割する法人について事業所数等が変更したときは、変更の届出又は事業の廃止の届出を行わせることが必要である。
   営業譲渡、譲受の場合の取扱い
    に準じて取り扱うものとする。
  民営職業紹介事業を行う法人と合併する場合の取扱い
  一般労働者派遣事業の許可を有する法人と民営職業紹介事業の許可を有する法人が合併するときであって、一般労働者派遣事業の許可を有する法人が消滅する場合は、合併後、当該法人において一般労働者派遣事業の新規許可申請が必要となる。一般労働者派遣事業の許可を有する法人が存続する場合は、合併後、当該事業所において新規許可申請を行う必要はないが、合併により法人の名称等が変更したときは、変更の届出を行わせることが必要である。

 

労働者派遣法逐条まとめ

1.第13条第1項(事業の廃止)

 一般労働者派遣事業を廃止(補足1)したときは、廃止の日の翌日から起算して10 日以内に、一般労働者派遣事業を行う全ての事業所に係る許可証を添えて本社所在地の労働局を経て、一般労働者派遣事業廃止届出書(様式第8号)を厚生労働大臣に提出しなければならないこと。

 補足1:廃止

  「廃止」とは「休止」とは異なる概念であり、今後事業を行わないことを一般派遣元事業主が決定し、現実に行わないこととなったことが必要であること

 一般労働者派遣事業の廃止の届出を受理したときは、一般労働者派遣事業廃止届出書(様式第8

号)の写し一通を届出者に控えとして交付すること。

 

2.法法第13条第2項(廃止届けの効力)

 一般労働者派遣事業の廃止届により、一般労働者派遣事業の許可はその効力を失う(法第13 条第2項)ので、たとえ許可の有効期間が残っていたとしても、当該廃止の届出の後、再び一般労働者派遣事業を行おうとするときは、新たに許可を受け直す必要がある。

 

3.法第14条(許可の取り消し)

 厚生労働大臣は、一般派遣元事業主が次のいずれかに該当するときは、第五条第一項の許可を取り

消すことができるとされています。

 ① 欠格事由に該当した場合

  一般労働者派遣事業の許可後に法第6条の欠格事由に該当する場合は、許可の取消ができるとされていること。

 ② 法令に基づく命令に違反したとき

  職業安定法及び労働者派遣法の規定に基づく命令若しくは処分に違反したとき。

 ③ 許可条件違反に該当したとき

  一般労働者派遣法の許可後、許可条件に違反する状況に至ったとき。

 ④ 法の規定による指示違反があったとき

  第四十八条第三項の規定(補足1)による指示を受けたにもかかわらず、なお第二十三条第三項(補足2)又は第二十三条の二の規定(補足3)に違反したとき。

  補足1:厚生労働大臣は、第二十三条第三項又は第二十三条の二の規定に違反した派遣元事業主に対し、第一項の規定による指導又は助言をした場合において、当該派遣元事業主がなお第二十三条第三項又は第二十三条の二の規定に違反したときは、当該派遣元事業主に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができる。

  補足2:派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、次条に規定する関係派遣先への派遣割合を厚生労働大臣に報告しなければならない。

  補足3:派遣元事業主は、当該派遣元事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある者その他の当該派遣元事業主と特殊の関係のある者として厚生労働省令で定める者に労働者派遣をするときは、関係派遣先への派遣割合が百分の八十以下となるようにしなければならない。

 

4.法第14条第2項(許可の項欲の停止処分)

 次のア又はイのいずれかに該当する場合には、一般労働者派遣事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。

 ※許可取り消し事由の②又は③

 ア 法令に基づく命令に違反したとき

  職業安定法及び労働者派遣法の規定に基づく命令若しくは処分に違反したとき。

 イ 許可条件違反に該当したとき

  一般労働者派遣法の許可後、許可条件に違反する状況に至ったとき。

 

5.法第15条(名義貸しの禁止)

 一般派遣元事業主について許可を受けた自分の名義を他人に貸して一般労働者派遣事業を行わせることが禁止される。

 ※名義貸し(一般解釈):他者の取引に際し、自分の氏名や商号を貸して契約させること。また、資格や国の許可が必要な業務をしている人や事業者が、その資格のない人や会社に申請や登録などの際に名前だけを貸す行為。

 ※罰則:一般労働者派遣事業につき名義貸しを行った者は、法第59 条第1号に該当し、1年以下の懲役又は100 万円以下の罰金に処せられると規定されている。また法に違反するものとして、許可の取消し(法第14 条第1項)、事業停止命令(法第14 条第2項)、改善命令(法第49条第1項)の対象となること。

 

6.一般労働者派遣事業所廃止に類する場合の取扱

(1) 個人事業主が死亡した場合の取扱い

 個人事業主が死亡した場合であって、その同居の親族又は法定代理人からその旨が届け出られた場合には、当該届出者の責任において、当該事実のあった日現在有効な労働者派遣契約に基づく労働者派遣に限り、当該事実のあった日から30 日間継続しても差し支えないものとする。

(2) 法人の合併等に際しての取扱い

 イ 吸収合併の場合の取扱い

 (イ) 合併前に存続法人が許可を受けておらず、かつ、消滅法人が許可を受けている場合であって、合併後に存続法人が一般労働者派遣事業を行うときは、新規許可申請が必要となる。

 (ロ) 合併前に存続法人が許可を受けている場合であって、合併後に存続法人が一般労働者派遣事業を行うときは、新規許可申請を行う必要はないが、合併により法人の名称等に変更がある場合には、変更の届出を行わせることが必要である。(以下略)

  新設合併の場合の取扱い

 (イ) 新設合併の場合(合併する法人がすべて解散し、それと同時に新設法人が成立する場合)には、合併後に新設法人が一般労働者派遣事業を行うときは、新規許可申請が必要となる。

  吸収分割の場合の取扱い

  吸収分割の場合には、イに準じて取り扱うものとする。 

   新設分割の場合

  新設分割(会社法第2条第30 号)の場合には、分割する法人が一般労働者派遣事業の許可を有している場合であっても、分割新設法人が一般労働者派遣事業を行う場合は新規許可申請が必要となる。

   営業譲渡、譲受の場合の取扱い

   に準じて取り扱うものとする。

   民営職業紹介事業を行う法人と合併する場合の取扱い

  合併後、当該法人において一般労働者派遣事業の新規許可申請が必要となる。

 

 

 

 

以上で労働者派遣法第13条・第14条・第15条を終了します。

 

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